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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特許庁手続

令和5(行ウ)5002  特許料納付書却下処分取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年2月16日  東京地方裁判所

 旧特許法112条の2第1項の「正当な理由」があったとはいえないとして、 特許庁による追納期間徒過後の納付書の却下処分に違法性無しと判断しました。

2 原告が本件追納期間を徒過したことについて、旧特許法112条の2第1項の 「正当な理由」があったか(争点2)について
旧特許法112条の2第1項所定の「正当な理由があるとき」とは、特許権者 (代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的 にみて追納期間内に特許料を納付することができなかったときをいうものと解 するのが相当である。
甲11号証によれば、原告の専務取締役であるBは、遅くとも令和4年2月9 日までに、原告への出資を検討していた会社から、原告が保有している多くの特 許について特許料の不払いによって登録が抹消されているとの連絡を受け、同日、 特許料の支払も含めて原告が原告の保有する特許の管理を委任していた本件弁 理士に連絡をとったところ、本件弁理士から、うつ病等を理由に業務をすること が難しい状況にあると告げられたことが認められる。
そうすると、原告は、遅くとも令和4年2月9日には、原告が保有し、本件弁 理士がその特許料等の納付を管理していた特許権について本件弁理士において 適切な管理をしていないものがあること、そのため、当時原告が多数保有してい る特許権について特許料の納付期限が到来しているものについては特許料の納 付が滞っている可能性が高いこと、所定の期間に特許料が納付されなければ特許\n権が消滅することを認識したと認められる。そうすると、原告は、遅くとも同日 の時点で、保有している特許権を今後も維持したいというのであれば、即座に、 原告が保有している特許の特許料の納付状況等について確認すべきであること や、仮に納付されていない場合にはその対処について速やかに検討すべきである ことを認識したか、少なくともこれらを極めて容易に認識できる状況にあったと いえる。そして、本件特許についてこれらの点について検討し、必要な相談(今 後の長期的な特許関係の事務の委任ではなく、このような緊急事態への対処のみ を委任するのであれば、同日に近い時期に原告が弁理士に相談することは難しく なかったといえる。)等をしていれば、本件特許について、本件追納期間満了まで に特許料等を納付すべきことについて容易に知り得て、これを納付することがで きたといえる。そうであるにもかかわらず、原告は、上記の認識をした令和4年 2月9日から本件追納期間の満了まで1か月以上の期間があったにもかかわら ず、同期間満了までに特許料等を納付しなかったのであるから、当時、新型コロ ナウイルスによる感染症が問題になっていたことを考慮しても、その余を判断す るまでもなく、原告は、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみ て追納期間内に特許料を納付することができなかったとはいえない。よって、原 告が本件追納期間を徒過したことについて旧特許法112条の2第1項の「正当 な理由」があったとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和5(行ウ)5005

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

◆判決本文

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