周知商標に類似する(4条1項10号違反)として無効とした審決を取り消しました。また、あわせて、審判手続の違法性についても判断しました。
「本件商標は,「Shoop」の文字を構成とするものであるから,最も自然な「シュープ」の称呼を生ずるものと認められる。他方,引用商標は,前記2(1)のとおり,「シュープ」の文字を併記し,また「シュープ」の音声を用いた広告宣伝活動の結果,引用商標から「シュープ」の称呼が生じ得ることが認定できる(なお,「choop」,「CHOOP」の文字を含む被告の登録商標について,特許庁は,もともと「チュープ」,「チョープ」などを参考称呼としており〔甲67〜69,71,73〜78,80〕,「シュープ」は平成15年9月5日設定登録に係る登録商標の商標公報〔甲70,79〕で初めて挙げられている。)。しかし,引用商標は,「CHOOP」の文字を構成とするものであり,自然な称呼は,「チュープ」あるいは「チョープ」であることに照らすならば,確かに,被告が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層に対しては,「シュープ」の称呼を想起させるものといえるが,それ以外の一般消費者に対して,「シュープ」の称呼を想起させるものとはいえないというべきである。したがって,引用商標において,「シュープ」の称呼が,あらゆる需要者層において,広く認識されていたとまで認めることはできない。・・・・商標登録に係る指定商品等が二以上の商標登録について,二以上の指定商品等について無効審判を請求したときは,その請求は指定商品等ごとに取り下げることができること(法56条2項により準用される特許法155条3項),指定商品等が二以上の商標登録又は商標権については,商標権の消滅後の無効審判請求(法46条2項)や商標登録を無効にすべき審決の確定及びその効果(法46条の2)などにつき,指定商品等ごとに商標登録がされ,又は商標権があるものとみなされること(法69条)を併せ考えれば,商標登録に係る指定商品等が二以上のものに係る無効審判請求においては,無効理由の存否は指定商品等ごとに独立して判断されるべきことになる。そして,無効審判請求における「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・範囲を画し,被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,無効審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品等の範囲を決定するものであるから,その記載は,客観的かつ明確なものであることを要するというべきである。したがって,「請求の趣旨」に,登録を無効とすることを求める指定商品等として,「・・・類似商品」,「・・・類似役務」など,その範囲が不明確な記載をすることは,請求として特定を欠くものであって,許されないというべきである。」
◆平成19(行ケ)10172 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年11月28日 知的財産高等裁判所
無効審判の対象となっていなかった従属請求項について、多数項従属形式から一方を削除した上、これを独立形式にのみ訂正したについて、減縮にあたるので独立特許要件をみずに訂正を認めたのは違法として審決を取り消しました。
「上記イの検討によると,本件訂正の訂正事項4,5,7及び8については「特許請求の範囲の減縮」に該当するところ,審決は,前記のとおり「明りょうでない記載の釈明」に当たるとして,独立特許要件の判断をしないで本件訂正を認容したものであるから,違法というほかない。エ もっとも,訂正に係る新請求項5ないし11について独立特許要件が具備されていると判断されるのであれば,上記判断の遺脱は審決の結論に影響を及ぼさないと解する余地がある。しかし,新請求項5ないし11が引用するのが新請求項1(訂正発明)であれば後記のとおり独立特許要件を具備していると解されるものの,前記のとおり新請求項5ないし11が引用しているのは実質的には旧請求項1であって,同請求項は,第1次審決(甲11)が指摘するように,特許要件を欠くと解されるから,結局,上記判断の遺脱は審決の結論に影響を及ぼすというべきである。」
◆平成18(行ケ)10485 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月10日 知的財産高等裁判所
事情は、以下の通りです。
1)請求項1,2,4について第1次無効審判請求
2)特許権者は請求項4のみ訂正請求
3)訂正は認める、請求項4は無効理由無し、請求項1,2は無効とするとの第1次審決
4)特許権者は、請求項1,2を無効とする部分のみ不服として、審決取消訴訟提起
5)特許権者は、訂正審判を請求
6)無効審判請求人は、請求項4についての判断は争わず、請求項4について別途、第2次無効審判を請求
5)を理由に知財高裁が、決定による差し戻しをした場合(181条2項)に、5)の訂正審判はその内容でよければ訂正請求として無効審判における組み込まれます。この場合、134条の2第4項の規定により、後で訂正請求があった場合、先の訂正請求は取り下げ擬製されます。一方、第1次無効審判における請求項4に関する判断は不服申し立てがなされていないため、既に確定しているとも判断できます。
この点について、裁判所は今回については請求項4に関する審決は確定していると判断しましたが、下記のように付言しました。
「本件に関する判断は以上のとおりであるが,この機会に,特許法134条の2第4項の規定によるみなし取下げの効果は,請求項ごとに生じると解すべきことについて,当裁判所の見解を示しておく。(1) 特許法は,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制を導入するとともに,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに無効審判請求をすることができることとしたが(特許法123条1項柱書),その後,平成5年法律第26号による改正により,無効審判の手続において訂正請求をすることができることとし,さらに,平成11年法律第41号による改正(以下「平成11年改正」という。)により,訂正請求の当否に関し,訂正後の請求項に係る発明(ただし,無効審判請求がされていない請求項に係る発明を除く。)について,いわゆる独立特許要件の判断を行わないこととした。なお,2以上の請求項に係る発明についての特許を無効にすることを求める特許無効審判において,特許権者による訂正請求を認めた上で,一部の請求項に係る発明についての特許を無効とし,残りの請求項に係る発明についての特許の無効請求を不成立とする審決は,平成11年改正において,上記のとおり,訂正請求の当否に関し独立特許要件の判断を行わないこととされたことに伴い,現れるに至ったものである(平成11年改正前の特許法の下では,このような場合,独立特許要件を欠くとして訂正請求が全体として認められず,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて,各請求項の無効理由の存否が判断されていた。)。このように,2以上の請求項に係る無効審判請求においては,無効理由の存否は請求項ごとに独立して判断されるのであり,個々の請求項ごとの審判が同時に進行しているものとして考えるのが,無効審判制度の趣旨に沿うものである。そうすると,無効審判の審決において認められた訂正の効力についても,個々の請求項ごとに生ずると解するのが相当である。そして,特許法134条の2第4項のいわゆるみなし取下げの規定は,平成15年法律第47号による改正により導入されたものであるが,上記のような無効審判制度を前提としていることは明らかであるから,その効果も請求項ごとに生じると解するのが相当である。(2) なお,いわゆる改善多項制が導入され,請求項ごとに無効審判請求についての判断を行う制度が採用されたため,上記のとおり,2以上の請求項に係る発明についての特許に関して,一部の請求項につき無効審判請求の審決が確定し,あるいは特許請求の範囲等の記載が訂正されることが生ずるが,このような結果が,必ずしも特許登録原簿の記載に反映されていないようにも見受けられる。仮に,特許庁において,無効審決による特許無効ないし訂正の効力が請求項ごとに生ずるとの実務運用がされていないとするならば,それは法の趣旨に反するものといわざるを得ない。」
◆平成19(行ケ)10081 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年06月20日 知的財産高等裁判所
2007.05. 4
CS関連発明について、進歩性なしとした審決を取り消しました。理由は、”審査及び審判手続で挙示されなかった文献を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いることは、手続違反である”というものです。
「以上検討したように,審決が認定した「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すこと」は,たとえ周知技術であると認められるとしても,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いているのであるから,刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示されるべきであったものである。しかも,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成は,本願発明の出願時から一貫して最も重要な構\成の一つとされてきたのであり,出願人である原告が,審査及び審判で慎重な審理判断を求めたものであるのに,審決は,この構成についての容易想到性を肯認するについて,審査及び審判手続で挙示されたことのない特定の技術事項を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いたものであるから,審判手続には,審決の結論に明らかに影響のある違法があるものと断じざるを得ない。したがって,拒絶通知をした理由と異なる理由に基づいてされた措置が原告の防御の機会を与えなかったなどとして違法であるとする取消事由2は,上記の趣旨を主張するものとして理由があるものというべきである。」
◆平成18(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所
2007.04. 3
「お医者さんのひざベルト」が品質を表すとした審決が維持されました。
また、審判段階においては全く主張しなかった商標法3条2項の適用について、審決取消訴訟で新たに主張することも認められると判断されました。
「以上のイ〜エを総合すると,本願商標は「お医者さん」が開発・考案し
た「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められるところ,「お医者さん」が開発・考案したことによって,その「ひざベルト」が,高品質の信頼性が高いものという認識が生ずるということができるから,誰が製造したかが商品の品質と密接に関連しており,本願商標を本願の指定商品である「保温用サポーター」に使用した場合は,商品の「品質」を表したものと理解されるにとどまるものというべきである。・・・商標法3条2項は上記のとおり商標法3条1項3号を前提としてこれに対する例外を規定したものであるから,審判手続段階において商標法3条2項のいわゆる特別顕著性に該当する事実について主張立証がなされていなかったとしても,その後の審決取消訴訟段階において,原告は,商標法3条1項3号によって本願が拒絶されるべきでないことについての主張立証として,商標法3条2項に該当することを主張立証することができると解するのが相当である。」
◆平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権行政訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
2007.01. 4
拒絶理由通知の段階では指摘されていなかった引用例を審決で追加し、これを主引例として拒絶査定を維持した審決が取り消されました。
「上記認定事実によれば,原告は,平成6年3月21日になした本願の明細書の発明の詳細な説明の冒頭において,刊行物1について言及し,同刊行物に記載された内容が公知である旨述べているが,その後平成13年6月12日付けでなされた特許庁審査官からの拒絶理由通知書(甲7)には刊行物1についての言及は一切なく,これに対して原告が提出した平成13年11月26日付けの意見書(乙1)にも刊行物1について触れる記載はなく,平成14年1月7日付けでなされた拒絶査定(甲8)も,前記拒絶理由通知を引用したものであったこと,そして,平成18年1月30日になされた本件審決において刊行物1が主引用例とされ,前記拒絶理由通知書(甲7)及び原告の意見書(乙1)で取り上げられた刊行物2は周知技術を示す一例とされたことが,それぞれ認められる。・・・前記認定のとおり,平成18年1月30日付けでなされた本件審決は,刊行物1を主引用例とし,刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものであるが,主引用例に当たる刊行物1(西ドイツ特許・・・・)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまでの審査・審判において,原告に示されたことがなかったものであることが認められる。そうすると,審判官は,特許法159条2項が準用する同法50条により,審決において上記判断をするに当たっては,出願人たる原告に対し,前記内容の拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって,原告に意見を述べる機会を与えることなくされた審決の上記判断は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものというべきである。」
◆平成18(行ケ)10262 審決取消請求事件 裁判年月日 平成18年12月27日 裁判所名 知的財産高等裁判所