2008.11. 3
最高裁第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号)を受けた知財高裁の判断です。
「平成6年法律第116号附則6条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成6年改正前」という。)の特許法126条3項は「第一項ただし書第一号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と規定し,同条1項ただし書第1号は「特許請求の範囲の減縮」を掲記するところ,同条3項の上記「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構\成される発明」とは,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であって,「減縮されていない発明」を含むものではないというべきである。もっとも,上記文言は,文理上,「訂正後における特許請求の範囲に記載されている全ての事項により構成される全ての発明」と解釈する余地があるが,特許法における訂正の審判の位置付けに照らすと,このように解釈することはできないというべきである。すなわち,平成6年改正前の特許法126条が定める訂正の審判は,主として特許の一部に瑕疵がある場合に,その瑕疵のあることを理由に全部について無効審判請求されるおそれがあるので,そうした攻撃に対して備える意味において瑕疵のある部分を自発的に事前に取り除いておくための制度である。他方,特許法153条3項は「審判においては,請求人が申\し立てない請求の趣旨については,審理することができない。」と規定しており,訂正の審判においては,訂正を許すべきか否かが判断の対象となり,(その限度で同条1項及び2項に基づいて職権で広範囲に審理できるものの,)求められた訂正の可否を超えて判断することは許されないのである。仮に,特許権者が,複数の請求項の一部の請求項について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を求めて訂正審判を請求した場合において,その訂正の可否を,一旦査定・登録された,訂正を求めていない他の請求項に係る発明についての独立特許要件の具備の有無にも係らしめるというのであれば,訂正審判請求がされるたびに,特許庁は,全請求項について審査を繰り返すことになってしまうほか,特許権者が権利行使の準備等のために必要と考えている訂正について,適時に判断を得ることができない結果ともなり得るし,制度についてのこのような理解は,ひいては,特許権者が訂正したいと考えている請求項のみについて,第三者をして形式的な無効審判を請求させた上,当該審判手続において訂正請求をすることによって実質的に必要な訂正の効果を確保しようとするなど,制度の不健全な利用を招来するおそれすらある。したがって,平成6年改正前の特許法126条3項において,独立特許要件の存在が求められる発明は,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であるというべきであり,審決の判断中,本件訂正において訂正の対象とされていない請求項3,4に記載された発明について独立特許要件の有無を検討した部分は,審決の結論を導くために必要なものではなく,そもそも本訴における審理の対象となり得ないものであったというべきである。
なお,平成20年7月10日最高裁第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号)は「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申\立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。」と判断したものであるが,その前提として,特許査定及び訂正審判請求と訂正請求の法的性質が異なることを示すために,「訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」と説示するほか,「訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申\立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。」と判示している。しかしながら,上記判示中において「一体不可分」とされているのは,あくまでも「複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求」であり,「新規出願に準ずる実質を有する」との判示も,訂正が求められている請求項については,訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく新たな特許出願があったのと同様に考えることができることを述べていると理解すべきものであって,訂正が求められていない請求項を含む全ての請求項について特許性の有無を再審査することまで求められるものでないことは明らかである。」
取り消された判決はこちらです
◆平成18(行ケ)10314 特許取消決定取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年06月29日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、「願書に添付した明細書又は図面の記載を複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判の請求又は訂正請求において,その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合(すなわち訂正が単なる誤記の訂正であるような形式的なものでない場合)には,請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく,かつ,一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても,その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である(前記最高裁昭和55年判決参照)。そしてこの理は,原告のいう改善多項制の下でも同様に妥当するというべきである。」と判断しました。
◆平成19(行ケ)10283 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月29日 知的財産高等裁判所
最高裁は、訂正請求の一部が訂正要件を満たさないという理由で、当該訂正全体を認めなかった審決を取り消しました。
「特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は,特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは,特許法上の位置付けを異にするものである。訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申\立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。そして,特許異議の申\立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。以上の諸点にかんがみると,特許異議の申\立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申\立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。」
原審はこちらです
◆平成18(行ケ)10314 特許取消決定取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年06月29日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、「願書に添付した明細書又は図面の記載を複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判の請求又は訂正請求において,その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合(すなわち訂正が単なる誤記の訂正であるような形式的なものでない場合)には,請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく,かつ,一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても,その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である(前記最高裁昭和55年判決参照)。そしてこの理は,原告のいう改善多項制の下でも同様に妥当するというべきである。」と判断しました。
◆平成19(行ヒ)318 特許取消決定取消請求事件 平成20年07月10日 最高裁判所第一小法廷
審判手続きにおいて、拒絶理由通知がなされなかったことを理由に拒絶審決を取り消しました。
「特許法50条が拒絶の理由を通知すべきものと定めている趣旨は,通
知後に特許出願人に意見書提出の機会を保障していることをも併せ鑑みると,拒絶
理由を明確化するとともに,これに対する特許出願人の意見を聴取して拒絶理由の
当否を再検証することにより判断の慎重と客観性の確保を図ることを目的としたも
のと解するのが相当であり,このような趣旨からすると,通知すべき理由の程度は,
原則として,特許出願人において,出願に係る発明に即して,拒絶の理由を具体的
に認識することができる程度に記載することが必要というべきである。これを特許
法29条2項の場合についてみると,拒絶理由通知があったものと同視し得る特段
の事情がない限り,原則として,出願に係る発明と対比する引用発明の内容,対比
判断の結果である一致点及び相違点,相違点に係る出願発明の構成が容易に想到し得るとする根拠について具体的に記載することが要請されているものというべきで\nある。
これを本件についてみると,前記のとおり,本件においては,引用例の指摘こそ
あるものの,一致点及び相違点の指摘並びに相違点に係る本願発明の構成の容易想到性についての具体的言及は全くないのであるから,拒絶理由通知があったものと\n同視し得る特段の事情がない限り,拒絶理由の通知として要請されている記載の程
度を満たしているものとは到底いえないものといわざるを得ない。
イ 進んで,上記特段の事情の存否について検討するに,被告は,原告は引用例
を熟知していたのであるから,本件拒絶理由通知を受けた原告としては,当然,本
願当初発明と引用発明との間に相違する事項が存在すること及びその内容を正確に
理解し,また,『本願当初発明には,引用発明と相違する事項はあるが,その相違
点は容易である』と審査官が判断していることを理解していたといえる。」,「原
告は,審査官及び審判合議体が,理由4により本願を拒絶すべきものとしているこ
とを十分に理解し,認識していたといえる。」などと主張する。確かに,上記(1)ウ及びオの本件意見書及び審判請求の理由の各記載によれば,
原告は,引用例の技術内容を熟知しており,本願当初発明又は本願発明と引用発明
との間に審決が認定したのと同一の相違点が存在することを認識していたものと認
められるし,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定に拒絶の理由として理由4(進
歩性の欠如)が記載されていたのであるから,その具体的理由は不明であるものの,
審査官が,当該相違点に係る構成について当業者が容易に想到し得るものと判断したこと自体は理解することができたものと推認することができ,そうであるとすれ\nば,この限度で拒絶理由通知を不要とする特段の事情があったものと一応いうこと
ができる。
しかしながら,上記のとおり,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定には,当業
者が,引用発明との相違点に係る本願当初発明又は本願発明の構成を容易に想到し得たとする具体的理由については,それが周知技術を根拠とする点も含めて全く述\nべられていない上,当該容易想到性の存在が当業者にとって根拠を示すまでもなく
自明であるものと認めるに足りる証拠もないから,原告において,本願当初発明又
は本願発明と引用発明との間に相違点が存在することを認識し,かつ,審査官が当
該相違点の構成について当業者が容易に想到し得るものと判断していることを理解することができたからといって,そのことをもって,原告が,本願当初発明又は本\n願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知
を受けたものと評価することはできない。」
◆平成19(行ケ)10244 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年06月16日 知的財産高等裁判所
訂正審判について、一部の請求項の削除を行う補正をしたところ、審判官は、このような補正は、審判請求書の要旨変更に当たるから許されないとし、その削除しようとした請求項についてだけ独立特許要件の有無を判断して訂正を否定しました。知財高裁は、この審決を取り消しました。
「上記(1)及び(2)によれば,原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1〜7を新請求項1〜7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(「本発明の異なる形態」,「実施例2」)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられるというべきである。そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。」
◆平成19(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年05月28日 知的財産高等裁判所
拒絶査定不服審判における手続きおよび条文適用の判断に誤りがあるとして拒絶審決が取り消されました。
経緯としては少し複雑です。出願人は、拒絶査定不服審判時に一部の請求項(請求項1,2)についてのみ限定的減縮の補正をしました。審判官は、補正が行われなかった請求項4について、拒絶理由では示されていた引例ではありますが、主引例を変更し審査における理由とは異なる理由で、独立特許要件を満たさないという理由で補正却下をした。このため、補正後の請求項1,2については判断することなく、補正前の特許請求の範囲に基づき、進歩性がないので拒絶審決がなされました。裁判所は、独立特許要件は補正した請求項についてのみ適用されるものであり、補正がされなかった請求項4について進歩性無しとして、補正却下したことは条文の解釈を誤っていると判断しました。
「本件補正においては,前記(1)のとおり,限定的減縮に相当する補正がさ
れた請求項は,請求項1及び2のみであり,請求項4は補正の対象になって
いない。したがって,独立特許要件は,補正発明1又は2について判断すべ
きであり,補正発明4について独立特許要件がないと判断した審決には,独
立特許要件の判断を誤った違法があり,本件補正を却下した点は誤りである。
・・・一般に,出願に係る発明と対比する対象である主たる引用例が異なれば,
一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる進歩
性の判断の内容も異なることになる。したがって,審決において,拒絶査定
における主たる引用例と異なる刊行物を主たる引用例として判断しようとす
るときは,原則として,特許法159条2項で準用する50条本文の定めに
従い,拒絶理由を通知して,出願人に対し意見書を提出する機会を与えるべ
きであり,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,
通知を懈怠してされた審決の手続は違法である。・・・ア まず,補正発明4と甲1発明及び甲2発明の属する技術分野が同一であっ
ても,甲1発明と対比するか,甲2発明と対比するかによって一致点及び相
違点は異なり得ることは明らかである。また,主たる引用例は,その性質上,
同一又は類似の技術分野のものであることは当然であり,技術分野が同一で
あることから,直ちに一致点及び相違点の認定が「容易に判断」されるもの
ではない。したがって,被告の主張する?@の事情は,特段の事情となり得る
ものではない。・・・ウ 以上のとおり,本件において,拒絶理由通知の懈怠があっても,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
なお,確かに,被告の引用する東京高等裁判所平成5年(行ケ)第29号事
件・平成8年5月30日判決は,拒絶理由通知の懈怠があっても,出願人の
防御権を奪うものとはいえないときは,審判手続に違法があるとはいえない
ことを判示している。しかし,出願人の防御権を奪うものか否かは,個々具
体の事案において判断されることであり,上記判決が周知技術として引用し
た文献を改めて拒絶理由を通知することなく主たる引用例として用いても出
願人の防御権を害しないと一般的に判示したものではないことは明らかであ
る。」
◆平成19(行ケ)10074 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月26日 知的財産高等裁判所
2008.03. 5
拒絶査定と同じ引例ではあるが、そこから把握する技術内容を変更して拒絶審決した手続違背について裁判所は、審決を取り消すほどの具体的不利益が生じていないと判断しました。
「このように,引用例としては同一であっても,そこから把握する技術内容を変更することは,その限りにおいて,本願発明と対比されるべき公知技術の内容を変更するものであり,出願人である原告には,新たな引用発明を前提として,意見陳述の機会を与えなければならなかったものというべきであるから,拒絶理由通知を行うことなくされた審決は,特段の事情がない限り,特許法159条2項の準用する同法50条の規定に違反するものというべきことになる。(4) そこで,審決の上記違法が本件の具体的な事情の下において審決を取り消すべき場合に該当するか否かを検討する。ア まず,本件拒絶理由通知における拒絶理由は,前記(2)アのとおり,「引用文献1〜4に記載された発明に基づいて容易に発明することができた」ということに尽き,本件拒絶査定でも同趣旨であり,「引用文献3に記載された発明に基づき容易に発明することができた」という趣旨の本件拒絶査定の備考欄の記載は,本件意見書で示された原告の意見にかんがみて,付加されたものにすぎないから,引用文献を限定したとはいえず,本件拒絶査定の理由は本件拒絶理由通知に記載された引用文献を変更したものでも,また,逸脱したものでもないということができる。イ しかしながら,上記(3)で判示したように,本件拒絶査定においては,引用文献2(引用刊行物)について何ら言及することなく,備考欄でも引用文献3(周知例1)を中心として拒絶すべき理由を説明していることなどをみると,審査段階では,引用文献2(引用刊行物)を引用文献として掲げながらも,審査官は,引用文献2(引用刊行物)を実質的には拒絶理由としておらず,このため,引用文献2(引用刊行物)を主引用例とする審決については,出願人である原告に意見・反論等の機会が実質上十分に与えられなかったなど,具体的な不利益を生じている疑念が生じるので,吟味することとする。本願発明の構\成についてみると,・・・・であるところ,拒絶理由通知に掲記された引用文献1〜4も,程度の差こそあれ,いずれも類似した構成の履物であって,各構\成について比較対比するについて,格別の困難があるとは考えられない。しかも,原告は,上記認定判示したように,本件意見書(前記(1)イ)において,引用文献2(引用刊行物)に関して意見・反論をしており,また,審判請求書(前記(1)エ)においても同様であるほか,本願発明と引用文献2(引用刊行物)との比較検討もしており,本件における原告の取消事由2,3に関する主張と比較検討しても,実質的に必要なところは論じ尽くしているとみることができ,原告に具体的な不利益が生じていたとは認められない。のみならず,原告の主張は,本願発明の「衝撃吸収シート」が格別の衝撃吸収機能を有していることなどを根拠とするものであるが,後に判示するように,原告の主張する根拠が認められないことから考えても,拒絶理由通知に記載された拒絶理由と拒絶査定で用いられた拒絶理由とは,基本的に近似した関係にあると認められるから,原告の主張は,この点からも失当である。」
◆平成18(行ケ)10538 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月21日 知的財産高等裁判所
改善多項制下における訂正請求の確定時期について、判断されました。
「イ 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされていない請求項について訂正請求がされ(特許法134条の2第5項後段参照),当該訂正請求につき「訂正を認める」との審決がされた場合は,審決のうち,当該請求項について「訂正を認める」とした部分は,無効審判請求の双方当事者の提起する取消訴訟の対象となるものではないから,審決の送達により効力を生じ,当該請求項は,審決送達時に,当該訂正された内容のものとして確定すると解するのが相当である。特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においては,審判合議体は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が独立特許要件を欠く等の理由により許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,特段の事情のない限り,特許法上許されないというべきである。また,この場合において,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することも,特段の事情のない限り,特許法上許されないものである。」
◆平成18(行ケ)10455 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月12日 知的財産高等裁判所