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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

審判手続

平成24(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が、手続き違反があったとして取り消されました。
 以上の記載によれば,引用例2に記載された発明は,インバータ装置によって巻き上げ制御装置等の電動機を駆動する自走式のジブクレーン装置において,従来,ディーゼルエンジンにより交流発電機を駆動し,コンバータ装置で交流電源から直流電源に変換するものが知られていたところ,コンバータ装置で交流から直流へ変換する際に高調波電流が発生するといった問題点を解決すべき課題とし,交流発電機の代わりにコンバータ装置が不要な直流発電機を用い,直流発電機の直流出力をインバータ装置に直接入力することによって,上記問題点を解決するものであり,本件審決が引用発明2として認定したとおりのものである。ウ 本願発明は,「電源」(交流電源)と「電源に接続されるコンバータ」とを発明特定事項とするのに対し,引用発明2では,直流発電機からの直流出力がインバータにそのまま供給され,コンバータは存在しない。よって,引用例2を主引用例とした場合,「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」は,本願発明との相違点となる。エ また,引用発明2は,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として発明されたものであることから,その直流発電機(直流電源)を交流発電機(交流電源)に再び戻すことには,一定の阻害要因があるものと認められる。そうすると,引用発明2を主引用例として,引用発明2の直流発電機(直流電源)を本願発明に係る「電源」及び「電源に接続されるコンバータ」に変更することが容易想到であるか否かの判断にあたっては,引用発明2の上記解決課題が判断材料の一つとして考慮されるべきである。
(4) 主引用例の差替えについて
ア 一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。
イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。拒絶査定の備考には,「第1及び第2のインバータを,電源に接続されるコンバータに接続することは,周知の事項であって(必要があれば,特開平7−213094号公報を参照。)…」と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。ウ そして,前記(3)エのとおり,引用発明2を主引用例とする場合には,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し,引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には,引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上,上記解決課題を考慮する余地はない。そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。
エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い。よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
オ 被告は,審判請求書において原告が引用例1を詳細に検討済みであると主張 する。しかし,一般に,引用発明と周知の事項との組合せを検討する場合,周知の事項として例示された文献の記載事項との相違点を検討することはあり得るのであり,したがって,審判請求書において,引用例1の記載事項との相違点を指摘していることをもって,これを主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決が,出願人に意見書提出の機会を与えることなく主引用例を差し替えて本願発明が容易に発明できると判断したことは,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず,「特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない」とする法159条2項により準用される法50条に違反するといわざるを得ない。そして,本願発明の容易想到性の判断に係る上記手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10315 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が手続違背ありとして取り消されました。
 審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることは,以下に示すように本件出願前から普通に行われている技術事項である。例えば」,として,甲13の記載を技術常識であるかのように挙げているが,その技術事項を示す単一の文献として示しており,甲13自体をみても,回路部材の接続構\造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることが普通に行われている技術事項であることを示す記載もない。すなわち,甲13の特許請求の範囲の請求項1には,「平均粒径が1〜20μmの球状芯材粒子表面上に無電解めっき法によりニッケル又はニッケル合金皮膜を形成した導電性無電解めっき粉体において,該皮膜最表\層に0.05〜4μmの微小突起を有し,且つ該皮膜と該微小突起とは実質的に連続皮膜であることを特徴とする導電性無電解めっき粉体。」が記載され,実施例には製造されたいくつかの導電性粒子の突起の大きさが表2に示されている。しかし,表\2に記載されているのは,甲13に記載された発明の実施例であって,これらの例が周知の導電性粒子として記載されているわけではない。しかも,表2に記載されているものには,実施例4(0.51μm),実施例5(0.63μm)のように,突起の大きさが500nmを超えるものある。したがって甲13の記載から「回路部材の接続構\造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすること」や,「回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすること」が周知の技術的事項であるとはいえない。してみると,審決は,新たな公知文献として甲13を引用し,これに基づき仮定による計算を行って,相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。すなわち,甲10を主引用発明とし,相違点3について甲13を副引用発明としたものであって,審決がしたような方法で粒子の突起部間の距離を算出して容易想到とする内容の拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべきであった。しかるに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。そうすると,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。
(6) 相違点4に関する判断について 審決では,上記(4)のとおり,突起部の高さについても甲13の記載を挙げ,突起部の高さを50〜500nmとすることが本件出願前に周知の技術事項である,と判示している。審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすることも,本件出願前に周知の技術事項である(例えば」,として甲13を挙げるけれども,甲13自体をみても,回路部材の接続構\造の技術分野において,突起部の高さを50〜500nmとすることが,本件出願前に周知の技術事項であることを示す記載がないことからすると,相違点3についてと同様,審決は,甲13を副引用発明として用いて,相違点4の容易想到性を判断したものである。甲10を主引用発明とし,相違点4について甲13を副引用発明として容易想到とする拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階の拒絶理由通知でその旨示すべきであったのに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。そうすると,相違点4について甲13の記載を挙げて検討し,これを理由として拒絶審決をしたことについては,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。

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平成23(行ケ)10333 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月25日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決が維持されました。1つの争点が、先の判決の拘束力です。
 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返しあるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
イ これを本件についてみると,前判決は,前審決が認定した引用例1に記載された発明(本件審決が認定した引用発明と同じものである。)を前提として,前審決が認定した相違点5(本件審決が認定した相違点5と同じものである。)に係る本件発明1の構成のうち,切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),又は,7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)とする構成についても,X=de×L0.14/fh0.18としたときに,相当円直径de及び切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,粒子状物質がインナーフィンに堆積することを抑制するために,1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構\\成についても,引用発明との間に相違はないと判断して,引用発明に基づいて容易に発明することはできないとした前審決を取り消したものであるから,少なくとも,引用発明の認定及び相違点5に係る判断について,再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。また,前判決は,引用発明から算出した関数Xは,本件発明2のXの数値範囲(1.2≦X≦3.9)及び本件発明3のXの数値範囲(1.3≦X≦3.5)についても充足することを示した上で,本件発明2及び3についても,これを容易に発明することができないとした前審決を取り消したものであるから,前判決は,本件審決が認定した相違点6に係る本件発明2の構成についても,相違点7に係る本件発明3の構\\成についても,本件発明1と同様に,引用発明との間に相違はないと判断したものということができる。したがって,前判決のこれらの判断についても再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。以上によれば,本件審決による引用発明の認定並びに相違点5ないし7に係る判断は,いずれも前判決の拘束力に従ってしたものであり,本件審決は,その限りにおいて適法であり,本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。

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平成23(行ケ)10318 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月31日 知的財産高等裁判所

 拒絶査定が維持されました。原告主張の取消理由の一つが「審判官が原告代理人に対し,復代理人を定めるよう指示する越権行為をした」ですが、これについては当然、否定されました。
 審判手続きにて下記のように審判廷から言及されてます。
 「甲7の4(弁論の全趣旨から,本件の審判手続を担当する審判官ないし審判合議体が,原告代理人に宛てて送付した書面であると推認される。)には次の記載がある。「15日に再度お送りいただいた補正案ですが,依然として全く不明瞭であるため,・・・先生には特許のクレームを書くノウハウがないものと判断して,当方の独断で,補正案を基礎としながら,当方が理解したとおりの発明を表現するように,書き改めてみました。本来,クレームは請求人が取得しようとする権利を請求人側が特定すべきであって,庁側が決定するものではありませんので,この案を採用するよう要請することはありません。あくまでも,参考として,こんな書き方もあるのではないか,ということです。請求人とも相談して,お望みの権利内容となるように必要なら手を加えた上で,補正してください。庁側が,請求人側に代わってサービスでクレームを作成する,または押し付ける,などという悪い先例とならぬよう,願いたいものです。今後は,クレームを書ける方に複代理人(判決注 復代理人の誤記と認められる。)になってもらう,等の対応をお願いします。」

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平成23(行ケ)10406 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月08日 知的財産高等裁判所 

 審査において、延長申請をしこれが受け入れられたにも係わらず、期間満了前に査定をしたことについて、手続き違背があったとして、審決が取り消されました。
 本件においては,平成23年3月23日付けの拒絶理由通知に対する意見書の提出期限は,当初同年6月30日とされたが,原告からの合計3か月の期間延長申請に対して許可がされたことにより,同年9月30日まで延長された。しかるに,本件審判においては,上記提出期限より約2か月前である平成23年7月25日付けで審理終結通知がされ,同年8月9日付けで上記拒絶理由を理由として本件審決がされた。したがって,本件審決は,実質的に意見書提出の機会を付与することなくされたものであり,手続違背の違法があるといえる。この点,被告は,本件審決の審決書が送達される約1か月前である同年7月25日に,審理終結通知書が原告に対して発送されているから,原告に,意見書提出の意思があったのであれば,審理終結通知書が発送された時点で,特許庁に対して,確認,上申\書提出などの行為をなし得たはずであると主張する。しかし,被告の主張は,意見書提出の機会を付与すべきと定めた特許法の上記の趣旨に反する主張であり,採用の余地はない。

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平成23(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月08日 知的財産高等裁判所

 一致点及び相違点の認定に誤りがあるものの,結論に影響を及ぼさないとして、進歩性なしとした審決を維持しました。
 以上のとおり,本件審決は,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあり,この点において,原告の上記主張には理由があるといわざるを得ない。しかしながら,特許無効審判を請求する場合における請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定しなければならないところ(特許法131条2項),同法29条2項の規定に違反して特許されたことがその理由とされる場合に審判及び審決の対象となるのは,同条1項各号に掲げる特定の発明に基づいて容易に発明することができたか否かである。よって,審決に対する訴えにおいても,審判請求の理由(職権により審理した理由を含む。)における特定の引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたか否かに関する審決の判断の違法性が,審理及び判断の対象となると解するべきである。また,そう解することにより,審決の取消しによる特許庁と裁判所における事件の往復を避け,特許の有効性に関する紛争の一回的解決にも資するものと解されるのである。したがって,対象となる発明と特定の引用例に記載された発明との一致点及び相違点についての審決の認定に誤りがある場合であっても,それが審決の結論に影響を及ぼさないときは,直ちにこれを取り消すべき違法があるとはいえない。これを本件についてみると,本件審決において,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあることは,上記のとおりであるが,前記のとおり,本件発明は,引用発明1に基づいては容易に発明することができないものであり,上記認定の誤りは,結局審決の結論に影響を及ぼさないものであって,本件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。

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平成23(行ケ)10143 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月18日 知的財産高等裁判所

 拒絶審決は維持されましたが、審決に一部誤記があっても、この程度ではそれだけを理由には審決を取り消せないと判断しました。
 なお,この点について,原告は,本件審決において,本件とは無関係な事項が記載されていることをもって,本件審決の引用発明の認定が誤りである旨主張するところ,確かに,当該記載は,原告が指摘するとおり,本件とは無関係な事項に係る記載であるものというほかなく,このような事項が3行にもわたって記載されたまま本件審決がされたことは,理解し難いところである。被告も,本件とは無関係な記載が錯誤によって紛れ込んだ誤記であるなどと主張して,これを自認している。しかしながら,それが誤記であったとしても,当事者にとっては,審判合議体の審理判断に疑義をはさませるのに十分であって,そのような誤記が抹消されないまま,審判合議体の最終判断として本件審決が告知されていることに,審理判断の杜撰さを指摘されても止むを得ないのであって,本件とは無関係な記載が錯誤により紛れ込んでしまったなどという主張が許されるものではない。もっとも,本件においては,当該記載が本件審決の引用発明の認定それ自体に用いられなかったことは,本件審決の判断内容からしても明らかである。本件訴訟において,本件審決を取り消した上で,改めて引用例に記載された発明の認定から審判をやり直すまでの必要はなく,原告の主張は,これを採用するには至らないというべきである。\n

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