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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

審判手続

平成27(行ケ)10157  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年11月11日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした理由が記載されていないとして、審決が取り消されました。
 商標登録の不使用取消審判においては,審判請求の登録前3年以内に日 本国内において商標権者等がその請求に係る指定商品・役務のいずれかについての 登録商標の使用をしていることを証明しない限り,商標権者はその指定商品・役務 に係る商標登録の取消しを免れないとされ(商標法50条2項),使用についての 立証責任は被請求人が負うものとされている。したがって,商標登録の不使用取消 審判での審理の中心となるのは,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事 実の存否であり,審判体が,商標登録の取消しという「結論」を導き出すための 「理由」としては,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実を特定した 上で,同主張に係る使用の事実が認められるか否かについての判断(同主張に係る 使用が商標法50条2項の「使用」に該当するかについての法的判断を含む。)及 びその根拠を,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解するのが相 当である。
・・・
2 証拠(文中掲記)によれば,原告は,審判手続において,平成27年2月13日付けで,口頭審理陳述要領書(乙6)を提出し,同書面においては,「本件審 判請求の登録前3年以内の商標の使用」との見出しの下,「使用行為1)」ないし 「使用行為3)」として,本件各使用行為を詳細に主張するとともに,これらの本件 各使用行為が商標法2条3項の「使用」に該当する旨を主張し,これらの本件各使 用行為を裏付ける書証として,A,B及びCの各陳述書を含む審判乙4号証ないし 同乙15号証(甲4ないし甲15)を提出したこと,これに対する反論として,被 告は,平成27年2月27日付けで口頭審理陳述要領書(乙7)を提出したことが 認められる。 しかし,審決の理由においては,「被請求人の主張」として,本件各使用行為の 主張が摘示されているにもかかわらず,「当審の判断」においては,前記第2の3 のとおりの判断が記載されているのみである。同記載のうち,前記第2の3の2)の 記載部分は,平成26年2月28日付け納品書が実態を反映したものではない旨を 原告が自認していることを根拠として,無償譲渡も含めて,「同時期に使用商品が 同納品書の名宛人である龍IMPROVEに譲渡されたものということはできない」 との判断をしたものと一応理解することもできるから,そのような根拠が無償譲渡 の事実をも否定する理由として合理的なものといえるかどうかは別として,使用行 為3についての判断を記載したものと理解する余地もないではない。しかし,それ 以外には,審決には,使用行為1及び2の事実が認められるかどうかについての判 断は一切記載されておらず(なお,前記第2の3の3)は,平成25年11月5日に エッセンシャルオイルを提供したという使用事実について判断したものであり,同 年10月19日にBにMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種 類及び価格表を交付したという使用行為2についての判断を示したものではな\nい。),判断を示さないことについての特段の事由も認められない。
そうすると,審決が,法が要求する「理由」を記載したものと解することはでき ないから,審決は違法であり,取り消すのが相当である。

◆判決本文

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平成26(行ケ)10235  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月26日  知的財産高等裁判所

特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」ではないと判断されました。
 本件審判の請求書における上記記載によれば,原告は,本件審判の無効理由とし て,甲1文献に記載された従来技術と甲3公報に記載された「OS1」との組合せ による容易想到性(特許法29条2項)を主張していること,すなわち,甲1文献 に記載された従来技術である「ガラス瓶,金属表面の洗浄において2%以上のNa\nOH(水酸化ナトリウム)水溶液が,キレート剤としてコンプレクサン型であるE DTAを添加して常用されていたこと」を主引用発明とし,生分解が低いという問 題があるEDTAを,それと同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート 剤に変更するという技術思想が甲2公報に記載されていることを動機付けとして, 甲3公報に記載された,同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート剤で ある「OS1」を,主引用発明におけるEDTAに代えて用いて,「2%以上のN aOH水溶液に,キレート剤として「OS1」を添加して,ガラス瓶,金属表面の\n洗浄に用いる」ことにより,本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到す\nることができたと主張しているものと解される。 イ 本件審判の請求書には,上記の記載のほかにも「甲第3号証には,グルタミ ン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムとの相乗作用について記載が ない。しかし,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムを含 有する「OS1」をそのまま甲第1号証のEDTAの代わりに用いるという構成が\n容易に想到される以上,グリコール酸ナトリウムによる効果を見出したことは単な る効果の発見である。ここで留意すべきは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩と グリコール酸ナトリウムが夫々別の2つの刊行物に記載されていて,2つの刊行物 の記載を組み合わせることが容易である,と言うのではないことである。一つの刊 行物にひとつの組成物OS1として既に組み合わされているのである。」などとの 記載がある(甲8)。これは,甲1文献記載の主引用発明におけるEDTAの代わ りに甲3公報記載のグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウム を含有する「OS1」を用いる構成が容易に想到されることを前提とした記載であ\nり,第2判決が,本件発明1における,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二 酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並 びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物が,それぞれの相乗 効果により優れた洗浄性能を有し,この点は当業者が予\測し得ない効果である,と 判断したことに対する反論として述べた部分であると解される。第2判決は,第2 審判における無効理由(主引用発明を甲3公報ないし甲4公報におけるOS1とし た無効理由)について判断した第2審決の判断を是認したものであり,第2審判と は異なる無効理由による無効審判を求めている本件審判について,法律上の拘束力 があるものではないものの,当事者が予測し得ない効果と判断した上記部分は,本\n 件審判における無効理由の判断にも事実上の影響力があり得るため,原告は,本件 審判における請求書に上記のとおり記載したものと考えるのが合理的であり,この 記載は,本件審判において原告が主張する無効理由が前記認定のものであることに 何ら影響を与えるものではない。 また,本件審判の請求書には,「甲第1号証は,そのタイトル「入門キレート化 学」とあるように,学生レベルの参考書であり,1988年当時の技術常識を示す ものである。甲第3号証のOS1を技術常識に従って使用することを,数年遅れて 出願された特許で禁じるのは,不合理である。」とか「甲第1および2号証から周 知のように,コンプレクサン型キレート剤をアルカリ条件下にするための典型的な アルカリ物質として本件発明は水酸化ナトリウムを挙げたにすぎない。」とかの記 載もあるが,これらの記載も本件審判における無効理由が前記認定のとおりである ことと何ら矛盾するものではない。 なお,原告は,本件審判の請求書において,主引用例とか主引用発明とかの用語 を使用せず,本件発明と主引用発明との一致点,相違点も主張しておらず,この点 でどの発明が主引用発明であるかについてやや主張の明確性を欠いており,本来は, 審判請求書としてはこの点をより明確に記載すべきであった。しかし,本件審判の 請求書全体を慎重に検討すれば,その主引用発明を甲1文献記載の発明と解するほ かないことは前記認定のとおりである。 ウ これに対し,本件審決は,前記認定のとおり,本件審判において原告が主張 する無効理由における主引用発明は,第2審判における主引用発明である,甲3公 報ないし甲4公報に記載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物(引用発明 1bないし引用発明2b)であると認定したのであり,本件審決のこの認定は誤り である。
(2) 特許発明が出願時における公知技術から容易想到であったというためには, 当該特許発明と,対比する対象である引用例(主引用例)に記載された発明(主引 用発明)とを対比して,当該特許発明と主引用発明との一致点及び相違点を認定し た上で,当業者が主引用発明に他の公知技術又は周知技術とを組み合わせることに よって,主引用発明と,相違点に係る他の公知技術又は周知技術の構成を組み合わ\nせることが,当業者において容易に想到することができたことを示すことが必要で ある。そして,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が 異なれば,特許発明との一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づ いて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになるのであるから,主引用発 明が異なれば,無効理由も異なることは当然である。 これを本件についてみれば,本件発明1は,「水酸化ナトリウム,アスパラギン 酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを 含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1〜40重量%であることを特 徴とする洗浄剤組成物」であるのに対し,甲1文献に記載された主引用発明は, 「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガ ラス瓶の洗浄剤組成物」であるから,水酸化ナトリウム水溶液とキレート剤を含む 洗浄剤組成物の点で本件発明1と一致し(水酸化ナトリウムの含有量も重複してい る。),キレート剤として,本件発明1が「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/また はグルタミン酸二酢酸及びグリコール酸ナトリウムを含有」するのに対し,甲1文 献に記載された主引用発明は,EDTA等であり,キレート剤の組成において相違 するものと認められる。これに対し,本件発明1と第2審判における主引用発明と の一致点及び相違点1’ないし相違点4’又は相違点5’ないし相違点8’は,前 記認定のとおりであり,これとは明らかに異なるものである。 また,主引用例は,特許発明の出願時における公知技術を示すものであればよい のであるから,甲1文献のように出願時における周知技術を示す文献であっても, 主引用例になり得ることも明らかであり,これを主引用例たり得ないとする理由は ない。さらに,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合わせる公 知技術又は周知技術が実質的に異なれば,発明の容易想到性の判断における具体的 な論理構成が異なることとなるのであるから,これによっても無効理由は異なるも\n のとなる。 よって,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異な る場合も,主引用発明が同一で,これに組み合わせる公知技術あるいは周知技術が 異なる場合も,いずれも異なる無効理由となるというべきであり,これらは,特許 法167条にいう「同一の事実及び同一の証拠」に基づく審判請求ということはで きない。

◆判決本文

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平成26(行ケ)10262  審判請求書却下決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月15日  知的財産高等裁判所

 無効審判請求書の却下について、知財高裁は、無効理由としては失当又は不十分であり,一事不再理違反に当たるとしても、その理由での請求書却下は認められないと判断しました。
 法131条2項にいう「特許を無効にする根拠となる事実」とは,無効理由を基 礎付ける主要事実をいうものと解されるから,同項は,請求人が主張する無効理由 を基礎付ける主要事実を具体的に特定し,かつ,そのうち立証を要する事実につい ては,当該事実ごとに証拠との関係を記載することを記載要件とするものと解され る。しかし,同記載要件を欠くことを理由とする法133条3項に基づく却下決定 は,合議体による主張内容自体についての判断(請求が不適法であるかどうかの判 断を含む。)ではなく,審判長による単独の決定として,形式的な事項のみを審査し て,審理を行うことが可能な程度に主張が特定されているかどうかを判断して行う\nものであるから,無効理由を基礎づける主要事実が具体的に特定されていないこと を理由とする審判請求書の却下は,審判請求書の無効理由の記載(補正を含む。)を, その記載全体及び提出された書証により容易に理解できる内容を併せ考慮して合理 的な解釈をしても特定を欠くことが明らかな場合にされるべきであるし,請求人が 主張する無効理由が証拠上認められないということをもって同項の特定を欠くとは いえないことはもちろんのこと,請求人が主張する無効理由が,法定された無効原 因についての独自の見解ないし法解釈に基づくものであるため,審判体において無 効理由としては失当又は不十分な事実の記載であると思料する場合であったり,ま\nた,請求人が主張する無効原因が一事不再理違反に当たるなどの理由により,請求 が不適法である場合であっても,このことのみをもって同項の特定を欠くというこ とはできないというべきである。
・・・
。そして,引 用公報は,全6頁と比較的短いものであり,基本的な発明の実施の形態としては一 つしか記載されていない上(乙5の5),原告は,本件補正の際に,別紙2−2(乙 6の4)を提出し,引用公報記載の発明の要約として,その実施形態の要約を「解 決手段」として記載している。 そうすると,原告の上記主張は,引用公報記載の発明を具体的に特定した上で, 本件特許発明は,出願前に公然知られていた引用公報記載の発明と同一の発明であ り,したがって,本件特許に係る出願は法29条1項1号に反し,無効であるとの 主張をするものであると理解することができ,これらの事実を立証する証拠として 引用公報を提出したものであるから,法131条2項の「特許を無効とする根拠と なる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載し たもの」との記載要件を満たすものといえる。 (イ) なお,無効理由1の1についての本件審判請求書の記載には,「本件特許出 願は,・・引用公報記載の発明から容易に発明することができた特許発明と解すべき である」という部分があり,原告は,本件補正指令においてこの点についての釈明 を求められたにもかかわらず,同記載を補正していないことからすると,同主張部 分は,法29条2項による無効をも主張するかのように解する余地はある。しかし, 原告(代理人弁理士)が,明確に同条1項1号を根拠条文として挙げ,本件特許発 明は,「いわゆる公知の発明である」と主張しているという無効理由1の1の記載全 体からみれば,同記載部分は,単なる誤記であると解するのが相当であり,同記載 部分があることをもって,法29条1項1号違反の主張が特定されていないという ことはできない。
・・・・
本件審判請求書の記載によれば,原告は,無効理由1の2についても,法2 9条1項1号を根拠条文として挙げ,本件特許発明はいわゆる公知の発明であると 主張しているところ,その具体的な理由として,乙5の8文書のうち広告宣伝用の 冊子の「自動検卵機」の「装置概要」に「特開2004−101204」と明記さ れている発明が,本件特許発明(ただし,本件公開公報記載の発明)と同一の発明 であるとの主張をしている。そして,乙5の8文書の広告宣伝用の文書の「装置概 要」と題する部分には,「特開2004−101204(2004年4月2日公開)」 「本装置は,インフルエンザワクチン用有精卵を良卵と死卵に選別する装置です。 専用トレイ(36個詰)に乗せられた卵を装置に供給すると,トレイ毎に画像判定 を行い死卵を抜き取り,良卵をトレイに残して排出します。排出したトレイは死卵 のところが空席になっています。手詰めで36個詰めに直します。死卵は,回収用 の空トレイに乗せて排出します。」と記載されていることが認められる(乙5の8)。 本件審判請求書の記載自体からは,原告が本件特許発明と同一であると主張する 発明が,「特開2004−101204」(本件公開公報)記載の発明自体をいうの か,乙5の8文書の広告宣伝用の文書に記載されている上記装置をいうのかが一見 して明らかではないが,本件公開公報(乙5の3)記載の発明は,有精卵内部のカ ラー画像を撮像し,その情報に基づいて正常卵を判定する有精卵の検査法及びその ような検査法を実現するための検査装置に関するものであることからすれば,原告 が本件特許発明と同一であると主張する発明は,乙5の8文書の広告宣伝用の文書 に記載されている上記装置が本件公開公報記載の発明を備えるものであるとして, これと本件特許発明との同一性を主張しているものと善解することができる。そう すると,原告の上記主張は,乙5の8文書記載の発明の内容を具体的に特定した上 で,同発明と本件特許発明は,同一の発明であり,したがって,本件特許発明は, 特許法29条1項1号に反し,無効であるとの主張をするものと理解することがで き,これらの事実を立証する証拠として乙5の8文書及び本件公開公報を提出した ものであるから,法131条2項の「特許を無効とする根拠となる事実を具体的に 特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したもの」との記載要 件を満たすものといえる。
・・・
なお,原告は,本件審判請求書において,特許庁作成の審判請求書の様式見本で 定められている「請求の理由の要約」欄については記載をしておらず,却下決定は, 本件補正指令において同欄を正しく記載するように命じられたにもかかわらず,原 告がこれを補正しなかったことも摘示している。しかし,そもそも「請求の理由の 要約」欄自体を記載することは,法131条2項の記載要件ではないから,この点 をもって本件審判請求書が同項の記載要件を欠くということもできない。 また,却下決定は,本件補正指令においては,証拠方法についても正しく記載す るように命じたにもかかわらず,原告がこれを補正しなかったことも摘示している。 しかし,証拠の提出方法(一括して提出するか,別文書として区別して提出するか) や証拠説明書の記載内容(文書作成日や公開日等を記載する,証拠の標目を正しく 記載するか)は,これらが適切な審理を行う上で有用であり,これらを欠くことに より証拠の内容が不明となり,立証が足りないものとして,原告が主張する無効理 由が認められない不利益を被ることはあるとしても,これらに不備があることをも って審判請求書の必要的記載事項を欠くということはできない。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年2月5日  知的財産高等裁判所

 審判請求時の補正が独立特許要件を欠く場合には,拒絶理由通知をしなくとも常に補正を却下することができるとする主張は採用できないと判断されました。ただ本件における補正却下は問題なしと判断されました。
 そこで検討するに,平成18年法律第55号による改正前の特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるからである。そこで,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることにより,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される。この適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,拒絶査定不服審判において審判請求時の補正が行われ,補正後の特許請求の範囲の記載について拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも当然妥当するものであって,その後の補正の機会のない審判請求人の手続保障は,同様に重視されるべきものといえる。
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。これに対し,当該補正が他の補正の要件を欠いているような場合は,当然,補正を却下すべきであるし,当該補正が限定的減縮に該当するような場合であっても,当業者にとっての周知の技術や技術常識を適用したような限定である場合には,査定の理由と全く異なる拒絶の理由とはいえず,その周知技術や技術常識に関して改めて意見書の提出及び補正をする機会を与えることなく進歩性を否定して補正を却下しても,当業者である審判請求人に過酷とはいえず,手続保障の面で欠けることはないといえよう。そうすると,審判請求時の補正が独立特許要件を欠く場合には,拒絶理由通知をしなくとも常に補正を却下することができるとする被告の主位的主張は,上記の説示に反する限度で採用することができない。
(2) 以上の点を踏まえて更に検討するに,本件において,拒絶査定の理由は,「補正前発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明に対して,引用文献2に開示された技術及び周知技術を適用して容易に発明をすることができた」というものであるのに対し,審決の補正却下の理由は,「補正発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明に対して周知技術を適用して容易に発明することができた」というものである。そうすると,両者の相違は,引用文献2に開示された技術について,拒絶査定ではこれを公知技術としたのに対し,審決ではこれを周知技術と評価して例示したのであって,審判請求人である原告にとって不意打ちとはいえないから,審判段階の独立特許要件の判断において改めてこの点について意見書の提出及び補正をする機会を与えなくとも,手続保障の面から審決に違背はないといえる。この点について原告は,審決が,拒絶理由通知書及び拒絶査定において引用されなかった参考文献1ないし3を引用しており,これらに対して補正できないことにかんがみれば十分な反論を行うことは困難であり,審理手続を尽くすことができたとはいえないと主張する。しかし,参考文献1ないし3は,審決において周知技術や常套手段を示すものとして引用されたものであり,後記3(2)及び(3)のとおり,いずれも実際に当業者にとっての周知の技術や常套手段を示したものと認められるのであるから,これに対する補正の機会が与えられなくとも(参考文献1及び2は,審判の審尋において示されたものであり,原告からこれらに対する反論として回答書(甲14)が提出されている。),当業者である審査請求人にとって格別の不利益はないものと解され,原告の主張には理由がない。また,原告は,審決が,引用文献1及び2の記載の中から拒絶理由通知書及び拒絶査定で引用した箇所とは異なる箇所を引用しており,審理手続を尽くすことができなかったと主張する。しかし,拒絶理由通知書(甲7)及び拒絶査定(甲10)では,引用文献1の一部を適示して,引用発明の本質的部分である「Internet Explorerのツールバーのボタンからワンクリックで表示中のWebページのサーバのWhois情報を表\\示させるシステム」という技術事項が開示されていることを示したのに対し,審決では,当該摘示箇所を示した上で,引用発明の背景や目的効果等を示すために別途の箇所を摘記したもの認められるから,原告にとって不利益がないことは明らかであり,原告の主張には理由がない。したがって,審決が,補正発明は独立特許要件を満たさないことを理由として,審判段階で改めて拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下したことに誤りはなく,原告の主張する取消事由1は理由がない。

◆判決本文

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平成26(行ケ)10137  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年3月10日  知的財産高等裁判所

 手続き違背ありとして、拒絶審決が取り消されました。
 ア(ア) 被告は,1)本件拒絶理由通知書においては,「理由1」,すなわち,新規性欠如を拒絶理由とする請求項として,当初請求項「1,2,5〜8,11〜16,20〜22,25」が挙げられていること,2)その後,平成24年補正により,当初請求項4及び10が削除されて項番号が振り直されたことから,平成24年補正後請求項「1,2,4〜7,9〜14,18〜20,23」が,「理由1」の対象となったこと,3)本件拒絶理由通知書においては,拒絶理由の対象となる請求項につき,「下記の請求項に係る発明は,」という,「記」以下の記載に委ねる文言が明記されているのに対し,本件拒絶査定においては,そのような文言は記載されておらず,本件拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶したことが記載されていることから,本件拒絶査定により「理由1」に基づいて拒絶された請求項は,第一義的には,上記2)の平成24年補正後請求項「1,2,4〜7,9〜14,18〜20,23」であることが理解できる旨主張する。 (イ)a しかしながら,前述した本件拒絶査定の記載内容によれば,本件拒絶査定の理由となる請求項は,「備考」欄に記載されたものとみるのが自然である。 b そして,前述したとおり,本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1に言及しているのは,「なお書き」における新規事項追加及び明瞭性の問題点の指摘のみであり,それ以外にはない。 加えて,本件拒絶理由通知書において,「理由2」,「引用文献等2」,すなわち,引用文献2に対して進歩性を欠くことを拒絶理由とする請求項として挙げられている当初請求項のうち,「7」及び「11〜14」に対応する平成24年補正後請求項は,「6」及び「9〜12」であるところ,これらの請求項は,本件拒絶査定においても,本件拒絶理由通知書と同じく,「理由2」,「引用文献等2」の対象として明記 されており,「なおも,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることが出来たものである。」と記載されている。これは,上記請求項については,平成24年補正を経てもなお,本件拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されていないことを示すものである。 上記の点に鑑みれば,本件拒絶査定において,「理由1」及び「理由2」のいずれの対象にも記載されていない平成24年補正後請求項1につき,これに対応する当初請求項1について本件拒絶理由通知書に記載されていた拒絶理由が,黙示に維持されているものと解する余地はないものというべきである。
c 以上によれば,被告の前記主張は,失当といわざるを得ない。
イ(ア) また,被告は,本件拒絶査定には,平成24年補正後本願発明1を更に限定した平成24年補正後本願発明24につき,新規性を欠く旨が説明されているのであるから,当業者であれば,平成24年補正後本願発明1が,依然として,新規性を欠くとの拒絶理由を回避できないことは,当然に予測できる旨主張する。\n(イ) しかしながら,前記アのとおり,1)本件拒絶査定中,平成24年補正後請求項1については,「なお書き」において新規事項追加及び明瞭性の問題点を指摘されているほかは,一切,言及されていないこと,2)他方,本件拒絶理由通知書中,「理由2」,「引用文献等2」の対象とされている当初請求項のうち「7」及び「11〜14」については,これらに対応する平成24年補正後請求項の「6」及び「9〜12」が,本件拒絶査定においても,「理由2」,「引用文献等2」の対象として明記されていること鑑みれば,当業者は,当初請求項1について,本件拒絶理由通知書に記載された拒絶理由はすべて平成24年補正により解消し,本件拒絶査定において指摘されている新規事項追加及び明瞭性の問題点を解消すれば,特許査定が得られるものと認識するのが,当然である。 以上に加え,1)平成24年補正後請求項24は,平成24年補正後請求項1を含むほかの請求項を引用することなく,独立の請求項であること,2)クレームの文言上,平成24年補正後請求項24が平成24年補正後請求項1を包含するものとま では,直ちにいい難いことも併せ考えれば,原告を含む当業者が,本件拒絶査定において平成24年補正後本願発明24が新規性を欠く旨が説明されていることをもって,平成24年補正後本願発明1についても同様に新規性を欠くものと認識することは,考え難い。平成24年補正後本願発明1が,新規性を欠いているのであれば,それを拒絶査定で明示すれば足りるのであり,出願人に対し疑義を与えるような記載をすべきではない。

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平成26(行ケ)10068  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年1月28日  知的財産高等裁判所

 第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をしたとして、審決が取り消されました。
 ・・・同審決は,甲1文献の表6中の試料1の記載内容を根拠として,甲1文献において「具体的に示されている発泡剤は,空気,CO2,HFC−245fa,HCFC−141b及びHFC−365mfcの初期体積分率(%)が,それぞれ,1.5,38.5,22.4,16.8及び20.8である混合気体」(以下「甲1混合気体」という。)であるとした上で,「(甲1文献に)具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分として,代替物である「HFC−245fa」及び「HFC−365mfc」とともに「HCFC−141b」を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能\,防火性能に優れる「HCFC−141b」を完全に除去することは,当業者が予\測できるとはいえない。」と結論付けたものである。これに対し,前記(2)イのとおり、第1次取り消し審決は、甲1文献には「オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる」こと,これに対し、「HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される」ことからすると,甲1文献の「HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される」として,「甲1に記載された混合気体から,…発泡剤成分事項1又は…2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決の判断は誤りである」と結論付けたものである。\nそうすると,第1次取消判決は,要するに,第1次審決が,甲1文献に示されているとする甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは,当業者が予測できるとはいえないと判断したのに対し,甲1文献に,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載があること,HCFC−141bを熱的性能\,防火性能を理由に依然として含ませるべきとの見解は示されていないことを理由に,甲1混合気体からHCFC−141bを完全に除去することは当業者が予\測できないとの第1次審決の判断は合理的理由に基づくものではなく,誤りであるとしたものであり,かかる認定判断部分が,同判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を成すものであるということができる。 よって,この認定判断部分が,第1次取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断に当たり,審判官は,再度の審判手続において,この取消判決の拘束力の及ぶ認定判断に抵触する認定判断をすることが許されないというべきである。

◆判決本文

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