2018.10. 9
平成29(行ケ)10229 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月3日 知的財産高等裁判所
異議で取消決定されました。知財高裁は、引用文献の認定には誤りがあるが結論に影響しないとして、審決を維持しました。阻害要因の主張も認められませんでした。
上記認定事実及び甲1の【0034】ないし【0036】の記載事項に
よれば,甲1記載のゴルフシャフト設計装置における「スイング応答曲面」
は,ゴルファーが,シャフトの3つの設計因子である曲げ剛性,ねじれ剛
性及び曲げ剛性分布が異なる複数のゴルフクラブを使用して試打した時の
計測データから算出された移動軌跡(3次元座標データ),軸回転データ
と,シャフトの設計因子(ねじり剛性,曲げ剛性及び曲げ剛性分布)の関
係式であって,「スイング応答曲面」を算出するには,シャフトの設計因
子の異なる複数のゴルフクラブを使用することが必要であるものと認めら
れる。なお,甲1の【0026】の「ゴルファーは,スイングを行う際に
使用したクラブの曲げ剛性やねじれ剛性などを考慮に入れ,そのクラブ特
性にあわせたスイングを行うため,所定の特性を有する1本のゴルフクラ
ブを使用してスイングの計測データを取得して,スイングの解析を行って
も妥当な解析結果を得ることができない場合がある。」との記載は,ゴル
フクラブが1本の場合にはシャフトの設計因子が一定のものであるためス
イングの計測データから適切な「スイング応答曲面」を算出することがで
きない結果,妥当な解析結果を得ることができないことを示唆するものと
認められる。
しかるところ,本件決定が認定した引用発明1においては,試打に使用
されるゴルフクラブがシャフトの設計因子の異なる複数のゴルフクラブで
あることが特定されていないため,ゴルフクラブが1本のみの場合も含ま
れることになるから,甲1に記載された発明の認定としては不適切であり,
この点において,本件決定には誤りがあるといえる。
そして,前記アの記載事項を総合すると,甲1には,原告主張の原告引
用発明1(前記第3の1(1)ア(イ))が記載されているものと認めるのが相
当である。
しかしながら,本件発明1と原告引用発明1との一致点及び相違点は,
本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点と同様で
あり(争いがない。),本件決定は相違点の容易想到性について判断を示
しているから,本件決定における上記認定の誤りは,本件決定の結論に直
ちに影響を及ぼすものではない。
・・・
これに対し原告は,原告引用発明1においてセンサーユニットをグリッ
エンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とした場合,1)試打に用いら
れるゴルフクラブの総重量や重心が変わるため,原告引用発明1が意図す
る本来のスイング((試打用ではない)通常のゴルフクラブを使用してス
イングした際のスイング)の計測データが得られなくなる(阻害要因1)),
2)ゴルフクラブ全体の外観が変化し,試打者の視界も悪化するため,原告
引用発明1が意図する本来のスイングの計測データが得られなくなる(阻
害要因2)),3)ゴルフクラブと6軸センサとの対応関係が乱される結果,
原告引用発明1の課題を解決できなくなるおそれがある(阻害要因3))と
いった重大な弊害が生じるため,原告引用発明1に相違点2に係る本件発
明1の構成を適用することに阻害要因がある旨主張する。\nしかしながら,甲1には,「ゴルフシャフトの最適設計を行う際にはゴ
ルフクラブを使用するゴルファーのスイング特性を考慮に入れて,ゴルフ
ァーの技量や癖を確実に把握して,技量や癖に合致したゴルフシャフトの
設計を行う必要がある。」(【0008】),「9本のゴルフクラブ1は,
6軸センサ11,送信部12等をシャフト内に挿入することによりゴルフ
クラブ1の総重量が重くならないように,6軸センサ11,送信部12及
びこれらを動作させるために必要な機器全体の重量を20gに抑えている。
これにより,市販の軽量グリップを用いることで総重量の増加を抑えるこ
とができるためクラブの重量増加によるスイングへの悪影響を与えないよ
うにしている。」(【0029】)との記載があることに照らすと,甲1
に接した当業者であれば,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部(セン
サーユニット)をグリップエンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とす
る場合,ゴルフクラブの総重量や重心の変化によりスイングへの悪影響を
与えないようにしたり,試打者の視界を妨げないようにすることは,ゴル
ファーの技量や癖を確実に把握するために当然に配慮し,通常期待される
創作活動を通じて実現できるものと認められるから,原告主張の阻害要因
1)及び2)は採用することができない。
次に,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部をグリップエンドに対し
て着脱可能に取り付ける構\成とする場合,ゴルフクラブと6軸センサとの
対応関係が乱される結果がないように設計することも,上記と同様に,当
業者が通常期待される創作活動を通じて実現できる事柄であり,また,試
打者が,複数のゴルフクラブを使用して試打を行う場合であっても,実際
に試打を行う際に使用するゴルフクラブは特定の1本であることからする
と,システムの使用時に6軸センサ及び送信部の取り付けの誤りによって
上記対応関係が乱されるおそれがあるものとは考え難いし,仮にそのよう
なおそれがあるとしても,それを回避する措置を適宜とることも可能であ\nるものと認められるから,原告主張の阻害要因3)も採用することができな
い。
したがって,原告引用発明1に相違点2に係る本件発明1の構成を適用\nすることに阻害要因があるとの原告の上記主張は,理由がない。
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2018.09.26
平成29(行ケ)10045 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月18日 知的財産高等裁判所
異議申立について応答せずに取消決定がなされました。これに対する取消訴訟です。\n知財高裁は、実施可能要件違反、サポート要件違反として異議決定を維持しました。なお、審決書に理由が記載されていなかったことは、取消理由通知に対する応答がなかったという特殊性もあり、実質問題なしと判断されました。\n
ア 実施可能要件適合性について
(ア) 原告は,「当業者が,エピトープについて具体的に特定する記載がな
い本件明細書の記載に基づいて,エピトープを決定してLRP6結合分
子を得るためには,過剰な実験を行う必要がある。」との本件異議申立\n書記載の主張に対し,本件明細書には,LRP6に関連するエピトープ
が示されており,当業者であれば,本件特許の優先日当時に利用可能な\n技術を用いることにより,インビトロで,エピトープを含む特定のペプ
チド(すなわち,プロペラ1領域又はプロペラ3領域のアミノ酸配列)
に結合する本件発明の候補となるLRP6抗体を十分な数で特定するこ\nとができ,また,本件明細書の記載及び本件特許の優先日当時の周知技
術を用いることにより,製造された結合分子の結合性及び活性を調べ,
その有用性を確認することができたと主張する。
(イ) 検討
a 物の発明について,明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要\n件に適合するというためには,当業者が,明細書及び図面の記載並び
に出願時の技術常識に基づいて,その物を生産でき,かつ,使用する
ことができるように具体的に記載されていることが必要であると解す
るのが相当である。
b 本件明細書の記載について
上記1(2)において認定したとおり,本件明細書には,本件発明に係
るLRP6結合分子のLRP6上の結合部分や結合によるWntリガ
ンドの結合阻害についての説明(【0015】,【0033】等)と
ともに,実施例1には,優先的にWnt1又はWnt3a誘導Wnt
シグナル伝達を阻害する抗LRP6アンタゴニストFabs(実験時
のプライベートネームであるFab003,Fab004,Fab0
15など7つのFabで記載)が同定された旨が記載されている(【0
226】〜【0228】)。
しかし,本件明細書には,上記各Fabがいかなる抗原結合部分を
含んでいるのか,すなわち,抗原結合部分やそれが認識するエピトー
プがいかなるアミノ酸配列等によって特定されるのかについて,これ
を具体的に示す記載はなく,その手掛かりとなる記載も見当たらない。
また,実験結果が記載されていたと推測される図は,全て欠落してい
る。
c 本件発明1〜22,31〜33は特定のアミノ酸配列の抗原結合部
分を含むLRP6結合分子,すなわち化学物質の発明である。そして,
上記bにおいて説示したとおり,本件明細書の記載から,実施例で得
られた各Fabのアミノ酸配列等の化学構造や認識するエピトープを\n把握することはできない。また,本件明細書には,Wnt1特異的等
の機能的な限定に対応する具体的な化学構\造等に関する技術情報も記
載されていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明におけ
る他の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても,特許請求
の範囲に規定されている300程度のアミノ酸の配列に基づき,Wn
t1に特異的である等の機能を有するLRP6結合分子を得るために\nは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があると認
めるのが相当である。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明に
係る物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載
されているとはいえない。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,特定のエピトープに対応する抗原結合部分を有する抗体は,
汎用のファージディスプレイ法により取得することができるから,本
件発明に係る結合分子を得るために,当業者が期待し得る程度を超え
る試行錯誤は要しないし,本件明細書記載の機能アッセイにより得ら\nれた抗体の機能(Wnt特異性)についても,当業者は容易に確認す\nることができると主張する。
確かに,原告が主張する技術は,いずれも本件発明が属する技術分
野における一般的な技術である,抗体類の製造方法やリガンド・受容
体の結合アッセイ法であって,例えば,抗原又はエピトープが特定さ
れている場合に,ファージディスプレイ法等の周知の技術を適用する
ことによって,それに対応する抗体が得られることは技術常識である
といえる(この点,当事者間に争いはない)。しかし,本件発明に係
る「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特異的であり,優
先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,Wnt3a誘導
シグナル伝達経路を阻害しない」「LRP6結合分子」を生産するた
めには,まず,本件発明に係るLRP6の第1又は第3プロペラに相
当するそれぞれ300程度のアミノ酸の配列から,本件発明に係る特
異性を満たすエピトープになり得ると予想される特定の塩基配列を選\n定した上で,ファージディスプレイ法などの周知の手法によってそれ
らに対応する化学構造(アミノ酸配列)を有するペプチド(すなわち\nFab)を取得し,得られた多数のFabの中から,「Wnt1特異
的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,W
nt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」との機能を有するFa\nbを特定することが必要である。
これに対し,本件明細書には,本件発明に係る特異性を満たすエピ
トープとなり得ると予想される特定の塩基配列の具体的な選定方法に\nついて何ら記載がないから,本件明細書に基づいて本件発明のLRP
6結合分子を得ようとする当業者は,結局,発明者が本件発明を発明
した際に行ったのと同程度の試行錯誤をしなければならないところ,
これは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものという
べきである。
すなわち,エピトープを特定すれば,それに対応する抗体は周知の
手法により得ることができるとはいえるものの,本件明細書には,そ
のエピトープについて,具体的なアミノ酸配列等のその構造に関する\n技術的特徴が実施例として開示されておらず,また,本件明細書にお
ける他の記載及び出願時の技術常識に基づいても,エピトープ又はそ
れに対応する抗体結合部分の具体的構造等を特定することができない\n以上,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本
件発明に係る結合分子を容易に生産することができるとはいえない。
・・・
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請
求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範
囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも
当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解する
のが相当である。
b これを本件についてみると,本件発明1の技術的特徴は,原告が主
張するとおり,特定のWntとLRP6におけるその特定の結合部位
との関係(例えば,Wnt1の結合部位はプロペラ1の領域であるこ
と等)を有し,具体的な抗原結合部分(Fab)を備える「Wnt1
アンタゴニスト抗体」及び「Wnt3aアンタゴニスト抗体」にある
と認められる。そして,特許請求の範囲に記載されているとおり,「抗
原結合部分が,配列番号:1のアミノ酸20−326;または…のい
ずれかに含まれるか,またはいずれかと重複しているヒトLRP6(配
列番号:1)のエピトープに結合し」,「モノクローナル抗体の抗原
結合部分がWnt1特異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝
達経路を阻害するが,Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」
等の主として機能によって特定される広範な化学物質の発明について\n特許を受けようとするものである。
一方,上記ア(イ)bにおいて説示したとおり,本件明細書には,具
体的な抗体の抗原結合断片Fabを得たことをうかがわせるプライベ
ート番号(Fab003,Fab015など)が記載されているもの
の,それらの具体的なFabの構造(アミノ酸配列)も,当該抗原結\n合断片が認識するエピトープ(LRP6中の数個のアミノ酸配列)も
記載されていない(なお,上記のとおり,実験結果が記載されていた
と推測される図が全て欠落しているため,これらのFabが有する詳
細な機能・特性の検証自体が事実上不可能\である。)。そして,特許
請求の範囲には,「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特
異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,
Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」という機能的な特徴\nを有することが記載されているものの,これらの機能と得られたFa\nbの構造上の特徴等を関連づける情報も何ら記載されていない。\n
そうすると,本件発明1について,特許請求の範囲に記載された発
明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記
載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも
のであるとも,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の
課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
このことは,本件発明2〜22,31〜33についても同様である。
・・・
そこで検討するに,特許異議の申立てについての決定には,決定の結論及\nび理由を記載しなければならない(特許法120条の6第1項4号)。
この点に関連して,特許法157条2項4号は,審決をする場合には審決
書に理由を記載しなければならないと定めている。この趣旨は,審判官の判
断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,
当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与
えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあ
るというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,当該
発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は
技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示
す場合であるなど特段の事由がない限り,前示のような審判における最終的
な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示
することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和59年3月13
日第三小法廷判決・集民141号339頁)ところ,このことは特許異議の
申立てに係る決定についても同様と解される。\n
(3) 本件についてみると,上記第2の5において認定したとおり,本件取消決
定に係る決定書そのものには,結論に至った具体的な判断過程も,その根拠
となるべき証拠による認定事実も何ら記載されていない。
しかし,当該決定書には,「平成28年5月13日付けで取消理由を通知
し」,「上記の取消理由は妥当なものと認められる」との記載がされており,
本件取消理由通知書には,取消理由の要旨と,詳細については本件異議申立\n書を参照のこととの記載がされ,本件異議申立書には,本件特許が取り消さ\nれるべきであることについての理由が,証拠を具体的に摘示して,詳細に記
載されているのであるから,本件異議申立書,本件取消理由通知書及び本件\n取消決定に係る決定書の全体をみれば,当該決定書の記載が,審決の公正を
保障し,当事者が決定に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに
便宜を与え,決定の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にするという趣
旨に反するものとはいえない。また,本件異議申立手続において,被告が本\n件取消理由通知をしたのに対し,原告が応答をしなかったという経緯も踏ま
えれば,本件取消決定に係る決定書そのものに,結論に至った具体的な判断
過程や,その根拠となるべき証拠による認定事実が何ら記載されていないと
しても,上記の結論に変わりはないものというべきである。
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2018.06. 4
平成29(行ケ)10197 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年5月30日 知的財産高等裁判所
代理人を追加選任し、もとの代理人を解任した場合、すでに元の代理人宛に送られていた拒絶査定の送達の有効性が争われました。知財高裁(2部)は、条文に基づいて有効であると判断しました。
原告は,特許出願手続においては,代理人の追加選任がされた場合には,
新たな代理人(新たな代理人が複数の場合は,その筆頭代理人)に対し,書類の送
付を行う実務運用がされてきたのであって,その実務運用には法規範性が認められ,
特許庁長官が,その実務運用に反する名宛人及び場所に送達をした場合,当該送達
には方式の瑕疵があり,適法な送達と認められない旨主張する。
日本弁理士会の対庁協議事項集(甲12)には,特許庁が,昭和54年4月1日
以前において,特許出願につき,「代理人が追加受任された場合は,新たな代理人を
筆頭の代理人とし,特許庁からの手続は,新たな代理人に対して行うが,筆頭代理
人の変更を希望しない旨の申出があったときは,この限りでない。」との取扱いを行\nっていた旨記載されており,日本弁理士会の対庁協議事項集(甲13)には,平成
28年3月17日においても,同様の取扱いを行っていたことが記載されている。
しかし,特許法12条は,前記のとおり,代理人の個別代理を定めているから,
特許庁が上記のような取扱いをしており,それが対庁協議事項集に記載されている
からといって,新たな代理人以外の代理人に対する送達の効力を否定することはで
きないものと解される。特許庁の上記取扱いに法規範性を認めることはできず,原
告の上記主張を採用することはできない。
そして,上記の結論は,A弁理士に任務懈怠があったとしても,左右されるもの
ではない。
(5) なお,本件においては,前記1のとおり,特許庁は,本件拒絶査定の謄本
を,平成27年2月17日,発送し,当該謄本は,A弁理士に対して送達されたと
ころ,同月25日には,A弁理士の代理人解任届が提出されている。原告の代理人
であった米国の法律事務所のパートナーは,平成26年10月頃以降,それより前
には定期的に連絡してきていたA弁理士から,連絡がなくなり,同年11月,A弁
理士が出願を行った別件の日本特許出願につき,拒絶査定があり,A弁理士がこれ
に対して応答しなかったため,当該特許出願が失効していたことが判明したことを
契機に,A弁理士を解任し,別の代理人に業務を引き継がせることにしたというの
であるから(甲3),原告は,遅くとも代理人解任届が提出された平成27年2月2
5日には,上記特許出願以外の特許出願(本願を含む。)についても,A弁理士に対
し,拒絶査定が送達され,同弁理士が応答していない可能性があることを認識し得\nたといえる。しかし,原告は,平成27年2月25日当時は,拒絶査定不服審判請
求が可能である期間中であったにもかかわらず,当該請求を行わず,当該期間を徒\n過したのであるから,実質的にみても,前記の結論を覆すに足りる事情はない。
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2018.03.16
平成29(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年2月27日 知的財産高等裁判所
審判請求書の補正の要旨の変更の可否を争う機会を実質的に失わせる手続き違背があったが、結論に影響しないとして、取消理由にはなりませんでした。
特許法131条の2第1項本文は,請求書の補正は,その要旨を変更し
てはならない旨規定するのに対し,同条2項は,審判長は,請求書に係る請求の理
由の補正がその要旨を変更するものであっても,当該補正が審理を不当に遅延させ
るおそれがないことが明らかなものであり,かつ,被請求人も同意したことその他
の同項各号のいずれかに該当する事由があるときは,決定をもって,当該補正を許
可することができる旨を規定し,同条4項は,同条2項の決定に対しては,不服を
申し立てることができない旨を規定する。\n上記各規定は,請求の理由の要旨を変更する補正については,審理対象を変動さ
せるものであるから,審理の遅延を防止する観点から,これを許可することができ
ないとする一方,要旨を変更する補正であったとしても,審理の遅延という観点か
ら不当なものではなく,被請求人も同意するなど特段の事情が認められる場合には,
審判長の裁量的判断として当該補正を許可することができるものとし,このような
場合において,仮に不許可の決定がされたとしても,審判請求人はいつでも別途の
無効審判請求をすることが可能であるから,審判請求人は,当該不許可決定に対し\nては不服を申し立てることができないとしたものである。\nそうすると,審判請求人が,請求書の補正が要旨を変更するものではない旨争っている場合において,審判合議体において当該補正が要旨を変更するものであるこ
とを前提として,これを許可することができないと判断するときは,審判合議体は,
同条1項に基づき,当該補正を許可しない旨の判断を示すのが相当である。それに
もかかわらず,審判長が,同条1項に基づく不許可の判断を示さず,同条2項に基
づき,裁量的判断として補正の不許可決定をする場合には,審判請求人は,同条4
項の規定により,審判手続において,当該決定に対しては不服を申し立てることが\nできず,審決取消訴訟においても,上記決定が裁量権の範囲を逸脱又は濫用するも
のでない限り,上記決定を争うことができなくなるものと解される。このような結
果は,審判請求人に対し,要旨の変更の可否を争う機会を実質的に失わせることに
なり,手続保障の観点から是認することができない。
イ これを本件についてみると,証拠(甲26,甲27及び甲30)及び弁
論の全趣旨によれば,原告は,平成27年12月24日付け上申書及び平成28年\n2月25日付け審判事件弁駁書を提出したこと,原告は,これらの書面において,
請求の理由を補正して,結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状況を制御
できなければ,同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能\nであり,また,同一結晶方位領域を解析する際に,粉末充填密度をどのような値に
設定するのかが何ら記載されていないため,本件明細書における発明の詳細な説明
の記載は,実施可能要件を充足するものではないと主張したこと,原告は,審判手\n続においても,当該補正は,無効理由1における間接事実をいうものであり,要旨
を変更するものではないと主張したものの,審判長は,平成28年5月20日付け
で,格別理由を付することなく,上記補正については許可しない旨の決定をしたこ
と,審決は,上記主張について,平成28年5月20日付け補正許否の決定により,
無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから,本件の審理範囲内の
主張ではないと判断したこと(審決50頁),原告は,本件訴訟においても,上記決
定の違法を主張するに当たり,上記補正が要旨を変更するものではないことを一貫
して主張していること,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,原告は,審判手続において,上記補正が要旨を変更する
ものではない旨争っていたにもかかわらず,審判長は,当該補正が要旨を変更する
ものであることを前提として,特許法131条の2第1項ではなく,同条2項に基
づき,格別理由を付することなく,上記補正を許可することができないと決定した
ものと認められる。
そうすると,審決には,同条についての法令の解釈適用を誤った結果,要旨変更
の存否についての審理不尽の違法があるといわざるを得ない。原告の主張は,上記
の趣旨をいうものとして理由がある。
ウ もっとも,審決は,無効理由1’’の主張が請求書に記載されていたと仮
定した場合であっても,本件発明1の空気極材料及び本件発明2の固体酸化物型燃
料電池は,無効理由1と同旨の理由により,本件明細書及び図面の記載並びに本件
出願当時の技術常識に基づき,当業者が製造することができるといえるから,当該
主張は,合理性が認められず,採用することができないとしている。
そこで検討するに,無効理由1’’に係る主張は,結晶方位差が所定角以内の結晶
子どうしの配置状態の制御及び同一結晶方位領域の解析時の粉体充填密度の不明を
いうものであって,前者については,本件発明に係る「同一結晶方位領域」の定義
に関する事項をいうものであり,既に審理の対象とされている事項につき補充主張
するものにすぎず,後者については,無効理由1において主張した6つの不明な製
造方法に係る制御因子のほかに,製造方法に密接に関連する解析条件に係る問題点
を補充的に指摘するものにすぎないから,要旨を変更するものではないと解するの
が相当である。
そして,無効理由1’’に係る主張の内容を検討するに,前者については,本件発
明にいう「同一結晶方位領域」は,「結晶方位差が5度以上の境界によって規定され
る領域」と一義的に定義されているのであるから,当該定義を前提とすれば,原告
の主張にかかわらず,EBSD法によって「同一結晶方位領域」を計測することが
できることは明らかである。また,後者については,前記(1)のとおり,粉体充填密
度が同一結晶方位領域の大きさを左右することを立証し得る証拠及び技術常識を認
めることができない。
したがって,原告の主張は,いずれも実施可能要件に係る前記3の判断を左右す\nるものとはいえない。
エ 以上によれば,審決の判断は,結論において取り消すべき違法はなく,
原告の主張は,審決の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにす
ぎず,採用することができない。
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2018.02.17
平成28(行ケ)10218 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年1月30日 知的財産高等裁判所
実施可能要件、サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。なお、意見を述べる機会を与えなかった点について、手続違背もありと認定されています。
本願明細書の上記記載によれば,同配列アンタゴニスト化合物は,
アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分に化学修飾を導入し
て同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,アンタゴニスト作用を示すに至
ったことが認められる(以下,当該作用変化を「本件反転作用」という。)。
このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じさせた原因となる部分は,
その他の配列が同一である以上,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在す
るものと理解するのが自然である。のみならず,本願明細書の前記a(c)の記載に接
した当業者は,細菌性及び合成DNAの塩基配列には様々なものがあるにもかかわ
らず,TLR9がそれらに存在する非メチル化CpGモチーフを認識するのである
から,IMOの「GACG」部分にある非メチル化CpGモチーフがTLR9に結
合するものと理解するといえる。そのため,本件反転作用の原因は,TLR9に結
合する「GACG」部分に化学修飾を導入し,これをN2N1CGモチーフとするこ
とによって,上記の結合部分に何らかの変化が生じたことによるものと理解するの
が自然である。
そうすると,12種類化合物の配列は,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接
するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「5’末端側隣接配列」という。)が全て「C
TATCT」という一つの配列のみであり,かつ,N2N1CGモチーフの3’末端
側に隣接するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「3’末端側隣接配列」という。)
が「TTCTCTGT」又は「TTCTCUGU」という類似する二つの配列のみ
であるものの,当業者は,本件反転作用を生じさせた部分は,N2N1CGモチーフ
自体であって,5’末端側隣接配列又は3’末端側隣接配列ではないと理解するの
であるから,N2N1CGモチーフを有する本願IRO化合物も,12種類化合物と
同様に,アンタゴニスト作用を奏する蓋然性が高いものと論理的に理解するのが自
然である。そして,当業者は,TLR9のアンタゴニストとして作用し得る本願I
RO化合物が,少なくともTLR9のアゴニスト作用が原因となる癌,自己免疫疾
患,気道炎症,炎症性疾患,感染症,皮膚疾患,アレルギー,ぜんそく又は病原体
により引き起こされる疾患を有する脊椎動物を治療的に処置し得ることを十分に理\n解することができるといえる。
したがって,本願明細書に接した当業者は,本願IRO化合物が高い蓋然性をも
ってTLR9のアンタゴニスト作用を奏し,かつ,TLR9のアンタゴニストとし
て作用し得る本願IRO化合物がTLR9のアゴニスト作用を原因とする上記各疾
患を治療的に処置し得ることを理解することができるのであるから,本願明細書中
の発明の詳細な説明の記載は,当業者によって本願出願当時に通常有する技術常識
に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であると認めるのが相当で
ある。
以上によれば,本願明細書の記載により,本願IRO化合物が全て,TLR9の
アンタゴニスト作用を有するものであることを当業者が認識できるとはいえないな
どとして,本願発明が実施可能要件に適合するものではないとした審決の判断には\n誤りがあり,TLR9についての原告の取消事由3は,理由がある。
c これに対し,被告は,実施例11に示されている同配列アンタゴニス
ト化合物につき,5’末端側隣接配列が「CTATCT」であり,かつ,「N1N2N
3−Nm」が「TTCTCTGT」である化合物が示されるのみであって,それ以外
の本願IRO化合物は示されていないことからすると,アンタゴニスト作用が「C
pGジヌクレオチド」に結合した結果であるのか,あるいは,それ以外の共通する
部分に結合した結果であるのかは定かでなく,また,本願明細書の発明の詳細な説
明には,本願IRO化合物のうち,実施例11に示された化合物以外のものが,実
施例11に示された化合物と同様にアンタゴニスト作用を有することを示唆する記
載もなく,この点が技術常識であるともいえないなどと主張する。
しかしながら,同配列アンタゴニスト化合物は,上記bにおいて説示するとおり,
アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分についてのみ化学修
飾を導入して同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,本件反転作用を奏す
るに至ったのであるから,このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じ
させた部分は,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在するものと論理的に
理解するのが自然であるといえる。そうすると,当業者は,実施例11に示された
化合物以外のものであっても,少なくともTLR9については,N2N1CGモチー
フが存在すれば,高い蓋然性をもってアンタゴニスト作用を示すものと理解すると
認めるのが相当である。
したがって,被告の主張は,その他の主張を含め,本件反転作用の技術的意義を
正解しないものに帰し,採用することができない。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に
出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消さ
れている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由につい
て,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的に
これを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発
明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充\n足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れ
る機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときに
は,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の
違法があるというべきである。
イ これを本件についてみると,前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全
趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 原告は,本件拒絶査定不服審判において,平成27年9月16日付け
の拒絶理由通知(甲16)を受けた(以下,当該拒絶理由通知を「本件拒絶理由通
知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を「本件拒絶理由」という。)。請求
項1,請求項8及び請求項13に対する本件拒絶理由は,大要次のとおりである。
a 請求項1,3,4及び7ないし17(請求項3を追加する前のもの)
証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知では,実施例にお
いてアンタゴニスト作用を有することが証明された化合物のうち,本願IRO化合
物に含まれるものは,IRO5,10,17,25,26,33,34,37,3
9,41,43及び98であるとして,これらの12種類化合物に限定して検討を
加えていること,12種類化合物は,いずれもTLR9に対してアンタゴニスト作
用を有するものであるが,IRO5に限り,TLR9のほか,TLR7及び8に対
してもアンタゴニスト作用を有するものであること,本件拒絶理由通知では,12
種類化合物を全体として比較して,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接する部分
の塩基配列及びN2N1CGモチーフの3’末端側に隣接する部分の塩基配列が,それ
ぞれ類似の二通りのみであることを根拠として,請求項1,3,4及び7ないし1
7に係る各発明の実施可能要件及びサポート要件違反を示していること,そのため,\n本件拒絶理由通知では,IRO5に固有の問題を検討するものではなく,TLR9
に対するアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討しているこ
と,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト
作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に
対してもアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理
由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示
すものではないと認めるのが相当である。
b 請求項8,13,16及び17(請求項3を追加する前のもの)
証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知は,請求項8に係
る発明につき,「本願明細書ではTLRとして「TLR7」,「TLR8」及び「TL
R9」に対する各種IROのアンタゴニスト作用を確認しただけであって,他のT
LRに対してもアンタゴニスト作用を有することは確認されていない。」,「請求項
8の「TLR媒介免疫反応」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「TLR9」の
媒介免疫反応以外の免疫反応については,本願発明のIRO化合物が阻害効果を示
すことが確認できない。」と記載し,また,請求項13に係る発明につき,「請求項
13の「TLRにより媒介される疾患」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「T
LR9」によって媒介される疾患以外の疾患については,本願発明のIRO化合物
が治療効果を示すことが確認できない。」と,それぞれ記載していることが認められ
る。
上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7な
いし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認され
たことをいうものと理解するのが自然である。
・・・
(オ) その後,特許庁は,原告に対し,改めて拒絶理由を通知することなく,
平成28年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴ
ニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及
び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒
絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由
を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については,
本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が,
TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,T
LR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在す
ることは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していな
いことが認められる。
そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消す
るために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような
経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知され
ていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に
係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。\nのみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明
に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については,
アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと
理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR
7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施
可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところであ\nる。現に,原告は,前記イ(エ)によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び
14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正
をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の
理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもア\nンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実
施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,\n上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるとい
うほかない。
これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定
の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知し
たものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかった
ため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可
能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9\nに係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会
を失ったものと認められる。
したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手
続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響
を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
エ これに対し,被告は,前記イ(ウ)aのとおり,サポート要件違反と実施可能\n要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17
についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異な
る新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断した\nとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。
しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件
拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7
及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発
明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート\n要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができ
ないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ち
となるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法
159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。
かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するも
のと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対
して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明
が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR
7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1
回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTL
R7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なもので
あったとは認められない。
したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2
項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本
件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については
治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服
審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を
示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし
6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由
が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によ
って媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない
と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法
意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由
を通知することが相当であったものと認められる。
◆判決本文
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