2020.11. 4
令和1(行ケ)10137 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月28日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が支持されました。争点は進歩性違反、記載不備、手続き違背です。手続き違反について裁量の範囲を逸脱してないと判断しました。
原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と
して「シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤としてヒトに経口投与される,3
00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当
事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい
なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一
切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定
について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と
の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性
欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は,
原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ
るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の
内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者
対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見
を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委\nねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ
て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。
また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点
は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1−1及び1−
2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引
用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと
が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し
たということはできない。
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2020.08.12
平成31(行ケ)10047 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月22日 知的財産高等裁判所
進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。相違点4の容易相当性(1)の判断に誤りはあるが,容易相当性(2)の判断について誤りはないから,進歩性違反なし、と判断されました。
相違点4の容易想到性の判断(1)の誤りの有無について
原告は,1)甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は,
予め一体とされた後,一体となった状態のまま,ベース2に取り付けられ,\n「回路遮断器の取り付け構造」における「回路遮断器」として用いられるも\nのであり,本件訂正発明の「回路遮断器」とその機能及び用途において相違\nするものではないから,本件審決における相違点2の認定には誤りがある,
2)本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)は,本件訂正発明と甲1
発明との間に相違点2が存在することを前提とするから,その前提において
誤りがある旨主張する。
ア(ア) そこで検討するに,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線
とねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグ
インタイプの回路遮断器」,「取付用板」と「回路遮断機の取付構造」\nとの文言からすると,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線と
ねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグイ
ンタイプの回路遮断器」における「回路遮断器」は,取付用板に取り付
けられる取付機構を有するものと理解できる。\nそして,「回路遮断器」の構成の一部である取付機構\は,回路遮断機
能を有する機器そのものと予\め一体不可分に作製する場合のほかに,回
路遮断機能を有する機器と別部材の取り付け部材とを一体化して作製す\nる場合などが考えられる。
しかるところ,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)には,「回
路遮断器」の取り付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのも
のと予め一体不可分に作製されたものに限定する記載はない。また,本\n件明細書においても,そのような限定をする趣旨の記載はない。
そうすると,別部材の取付部材を有する回路遮断器は,本件訂正発明
の「回路遮断器」に含まれるものと解すべきである。
(イ) これに対し被告は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)に
は,「回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付ける
ための前記回路遮断器と取付板の構造」,「前記回路遮断器の前記母線\nとは反対側の負荷側には…ロックレバーを設け」,「前記取付板と前記
回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部」との記載が
あること,本件訂正明細書には,本件発明の実施形態として,凹部やロ
ックレバーを含む1つの部材として回路遮断器が構成されている実施形\n態のみが記載されていることからすると,本件訂正発明は,回路遮断器
を取付板に直接取り付けることを前提にした発明であるといえる旨主張
する。
しかしながら,前記(ア)認定のとおり,本件発明1の「回路遮断器」
は,取付板に取り付けられる取付機構を有するものであるところ,本件\n訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「回路遮断器」の取り
付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのものと予め一体不可\n分に作製されたものに限定する記載はなく,また,本件訂正明細書にお
いても,そのような限定をする趣旨の記載はないから,被告の上記主張
は採用することができない。
イ(ア) 次に,甲1には,取り付け部材5に関し,「各分岐開閉器4の下に
は夫々取り付け部材5を配置してあり,この取り付け部材5を介して分
岐開閉器4をベース2を取り付けるようになっている。取り付け部材5
は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成され
ている。取り付け部材5の長手方向の両端には上記引っ掛け凹所8に引
っ掛け係止する引っ掛け爪9を設けてある。両端の引っ掛け爪9のうち
導電バー3側の引っ掛け爪9は変位可能な形状にした係脱用引っ掛け爪\n9aとなっており,他方の引っ掛け爪9は略剛体になっている。取り付
け部材5の上には分岐開閉器4が配置され,両端の引っ掛け爪9を分岐
開閉器4の引っ掛け凹所8に引っ掛け係止することで取り付け部材5の
上に分岐開閉器4を取り付けてある。」(【0013】),「そして分
岐開閉器4を取り付け部材5に取り付けた状態で取り付け部材5と一緒
に分岐開閉器4が次のように装着される。取り付け部材5をベース2の
上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され,分岐開閉器4と一緒に
取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4
と取り付け部材5をスライドさせると,接続端子16が導電バー3に差
し込まれて電気的に接続される。…このとき板ばね25の先端部25a
が係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。
このように分岐開閉器4を取り付けたとき,係脱用引っ掛け爪9aが導
電バー3側に位置するため,導電バー3と接続端子16の係止にて係脱
用引っ掛け爪9aと引っ掛け凹所8との係止が外れにくくなり,分岐開
閉器4が外れにくいように取り付けることができる。また板ばね25の
先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉
器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(【0014】)
との記載がある。この記載によれば,甲1発明の取り付け部材5と分岐
開閉器4は,別部材ではあるが,分岐開閉器4を取り付け部材5に取り
付けた状態で,ベース2の上に配置し,取り付け部材5と一緒に分岐開
閉器4を導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接
続端子16に差し込まれていき,ベース2に分岐開閉器4を取り付けた
取り付け部材5が取り付けられること,板ばね25の先端部25aの係
止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り
付け部材5を取り外すことができることからすると,「分岐開閉器4を
取り付けた取り付け部材5」は,予め一体とされた後一体となった状態\nのまま,ベース2に取り付けられ,また,一体となった状態のままベー
スから取り外されるのであるから,「分岐開閉器4を取り付けた取り付
け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と一体化された分
岐開閉器4の取付機構としての機能\を有するものと認められる。
そうすると,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線とねじ無しで接続を
行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグインタイプの回路遮
断器」における「回路遮断器」に相当するものと認められる。
したがって,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものでないとした本件審決の
認定は誤りであるから,本件審決における相違点4の容易想到性の判断
(1)も誤りである。
(イ) これに対し被告は,1)甲1の記載によれば,甲1発明は,取り付け
部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り付ける場合に生じる問題
(【0003】)を課題とし,取り付け部材を介在させて分岐開閉器を
ベースに取り付けることを前提にした発明である,2)甲1には分岐開閉
器が同じ構成で取り付け部材の高さが違う実施形態が記載されており,\n取り付け部材は,分岐開閉器をベースに取り付けるためのスペーサとし
て機能する別部材であるから,取り付け部材は,回路遮断器の一部を構\
成するものではない,3)甲1発明において,分岐開閉器は協約形ブレー
カであり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であるから,「分
岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」を本件発明の回路遮断器とみ
なすことはできないなどとして,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付け
た取り付け部材5」は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものとい
えない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定の甲1の開示事項によれば,甲1には,
「本発明」は,差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく,しかも
取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供することを課題と
し,本件審決認定の甲1発明は,「請求項4の分電盤」に係る構成を採\n用することにより,分岐開閉器の接続端子が導電バーから外れる方向に
取り付け部材が移動するのを抑えることができ,分岐開閉器を強固に固
定できるという効果を奏するとともに,「請求項5の分電盤」に係る構\n成を採用することにより,弾性体を変形させることにより取り付け部材
をベースから外すことができ,分岐開閉器の交換作業が容易にできると
いう効果を奏することが開示されているものと認められることに照らす
と,甲1発明は,取り付け部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り
付ける場合に生じる問題のみを課題としたものとはいえない。
次に,甲1には,分岐開閉器の一定の寸法に限定することを示す記載
や導電バーを分岐開閉器の寸法に合わせた位置に配置することができな
いことを示す記載はなく,取り付け部材が,所定形状の分岐開閉器を導
電バーの異なる高さに合わせるためのスペーサとして機能することを示\nす記載はない。また,前記(ア)認定のとおり,「分岐開閉器4を取り付
けた取り付け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と別部
材であるが,分岐開閉器4と一体化された分岐開閉器4の取付機構とし\nての機能を有するものであるから,取り付け部材5が別部材であること\nは,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」が本件発明の「回路
遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
さらに,甲1には,甲1発明において分岐開閉器は協約形ブレーカで
あり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であることについて
の記載はないし,また,仮に分岐開閉器と取り付け部材がそのような関
係にあるからといって,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
が本件発明の「回路遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)には誤
りがある。
(4) 相違点4の容易想到性の判断(2)の誤りの有無について
原告は,1)甲1及び2に接した当業者においては,甲1発明及び甲2発明
は技術分野,課題及び作用・機能において共通すること,甲1発明において\nは,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際
においては,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロッ
クを外した状態に維持)させなければならないという課題があることを認識
するといえるから,甲1発明において,この課題を解決し,分岐開閉器の取
り外しを容易にするために,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の\n係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用\nすることを試みる動機付けがあるといえる,2)甲1発明に甲2発明を適用す
るに当たっては,甲2に記載された機器の底面から突出することによって機
器のスライドを防止するための部材を,突出する状態と突出しない状態のそ
れぞれにおいて択一的に選択「保持」可能な構\成とするという技術的思想を
甲1発明に適用すれば足りるものであり,例えば,別紙原告主張書面記載の
図1ないし図5に示した構成が考えられ,甲2に記載された選択保持可能\と
いう技術的思想を甲1発明に適用することは可能であり,かつ,その適用に\nおいて特段の技術的困難はない,3)そうすると,甲1及び甲2に接した当業
者は,甲1発明において,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉
器をスライドさせる際に,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態
に維持(ロックを外した状態に維持)させなければならないという課題があ
ることを認識し,この課題を解決し,分岐開閉器の取り外しを容易にするた
めに,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の係止アーム及び操作用\n取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用し,相違点4に係る本\n件訂正発明の構成(本件訂正発明におけるレバーは,「前記突出部が回路遮\n断器の取付面から突出しない状態で保持されるように構成され」る構\成)と
することを容易に想到することができたものである旨主張する。
ア しかしながら,甲1には,甲1発明の板ばねの係止が解除された状態(上
方に撓んだ状態)で保持されることについての記載や示唆はない。また,
甲1の【0014】の記載によれば,甲1発明においては,取り付け部材
5の側片5bの下面から板ばね25が自動的に突出してベース2の係止
孔24に係止することにより取り外し方向の規制が行われるから,取り外
し方向の規制を行う際に,規制部材を突出した位置に保持する必要もない。
そうすると,甲1発明において,甲2発明の構造を適用して,機器の底\n面から突出して機器のスライドを防止するための部材を,操作用取手を用
いることで突出する状態と突出しない状態のそれぞれにおいて択一的に
選択保持可能な構\成とするという動機付けがあるものと認めることはで
きない。
イ また,仮に原告が主張するように甲1発明において,プラグコネクタの
接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際においては,板ばね
の先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロックを外した状態に
維持)させなければならないという課題があることを認識し,当業者が,
甲1発明において,甲2発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外し
た状態を維持できる構造)の構\成を適用することを検討しようとしたとし
ても,具体的にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできない
というべきであるから,結局,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する\n動機付けがあるものと認めることはできない。
この点に関し,原告は,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する具体\n例として,別紙原告主張図面の図1ないし5で示した構成が考えられる旨\n主張するが,板ばねや分岐開閉器のような小さな部材にさらに操作用取手
や突起等を設け,その精度を保つ構造とすることを想起することが容易で\nあったものとは考え難い。
ウ 以上によれば,甲1発明における板ばねに係る構成部分に,甲2に記載\nされた発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持でき
る構造)を適用する動機付けがあるものと認めることはできないから,本\n件審決における相違点3の容易想到性(2)の判断に誤りはない。
したがって,原告の前記主張は理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性(1)の判断に誤りは
あるが,相違点4の容易相当性(2)の判断について誤りはないから,その余の
点について判断するまでもなく,本件訂正発明は,甲1発明及び甲2発明に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはでき
ない。
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2020.06.26
令和1(行ケ)10077 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月11日 知的財産高等裁判所(1部)
進歩性判断における相違点の認定については、「まとまりのある構成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない」と判断されました。ただ、結論に影響なしとして取り消しはされませんでした。なお、一事不再理の「同一証拠」についても言及しています。\n
もっとも,発明の進歩性の判断に際し,本件発明と対比すべき主引用発明は,
当業者が,出願時の技術水準に基づいて本件発明を容易に発明をすることができた
かどうかを判断する基礎となるべき具体的な技術的思想でなければならない。そし
て,本件発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり,主引用発
明に副引用発明を適用することにより本件発明を容易に発明をすることができたか
どうかを判断する場合には,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野
の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用\n発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用
を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断する\nこととなる。
このような進歩性の判断構造からすれば,本件発明と主引用発明との間の相違点\nを認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構\n成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点
をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,
進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。
ウ 前記アのとおり,本件発明1と引用発明の一致点及び相違点が本件審決の認
定したとおりのものであることについては,当事者間に争いがない。
しかし,前記イで述べたところに照らせば,本件審決が認定した相違点のうち,
少なくとも相違点4ないし6に係る構成は,グラブバケット自体の水中での抵抗を\n減少させて降下時間を短縮し,グラブバケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ
場合でも該グラブバケットの内圧上昇に起因する変形,破損を引き起こすことがな
いようにするという技術的課題の解決に向けられたまとまりのある構成であるから,\n本件において,相違点4ないし6は,本来,次のとおりに認定すべきものであった。
(相違点A)
本件発明1においては,シェルカバーの一部に形成された空気抜き孔に取り付け
られた「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」が,「シェルを左右に広げたまま水中を降下
する際には上方に開いて水が上方に抜け」るとともに,「シェルが掴み物を所定容
量以上に掴んだ場合にも,内圧の上昇に伴って上方に開」き,「グラブバケットの水
中での移動時には,外圧によって閉じられる」ものであるのに対し,引用発明にお
いては,掩蓋の一部に形成された空気抜きのための開口に取り付けられた「開閉式
の逆止弁」が,「シエルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて空
気が上方に抜けるとともに,バケットを海上に引き上げる場合に閉じられる」が,
「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開」
くか否かは明らかでない点。
エ 本件発明1と引用発明との相違点は,本来,前記ウのとおりに認定すべきも
のであった。しかしながら,この点を措き,本件審決の認定したところ及び当事者
の主張に従い,相違点6の判断の当否として検討してみても,後記(3)のとおり,本
件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
・・・
3 特許法167条又は信義則の違反をいう被告の主張について
(1) 被告は,本件無効審判における事実及び証拠は,別件無効審判のそれと実質
的に同一であるから,本件無効審判の請求は,特許法167条の規定に違反し,「紛
争の蒸し返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請に反し,許されない旨主張す
るので,事案に鑑み,以下,判断する。
(2) 別件無効審判の経緯は,前記第2の1(2)認定のとおりであり,本件特許につ
いて,平成22年12月14日付け別件無効審判の請求以来,約7年4月間の長期
間にわたり,4回の審決と3回の判決,1回の決定がされたことが認められる。
現行特許法が,同一の請求人についても,同法167条の場合を除いて,何回で
も,かつ,時期的制限もなく(同法123条3項),無効審判を請求することのでき
る制度を採用していることについては,特許権の安定や紛争の一回的解決の見地か
ら再検討の余地があるが,特許法167条は,「特許無効審判‥の審決が確定したと
きは,当事者‥は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること
ができない。」と規定している。そして,同条の趣旨は,(1)同一争点による紛争の蒸
し返しを許さないことにより無効審判請求等の濫用を防止すること,(2)権利者の被
る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(3)紛争の一回的な解決を図る
こと等にあると解され,無効審判請求において,「同一の事実」とは,同一の無効理
由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実
質的に同一の証拠を指すものと解される。
ところで,無効理由として進歩性の欠如が主張される場合において,特許発明が
出願時における公知技術から容易に想到できたというためには,(1)当該特許発明と,
引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比して,当該特許発明と
主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,(2)当業者が主引用発明に他の公
知技術又は周知技術とを組み合わせることによって,主引用発明と相違点に係る他
の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが当業者において容易に想到で\nきたことを示す必要がある。そうすると,主引用発明が異なれば,特許発明との一
致点及び相違点の認定が異なり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容
も異なってくるから,無効理由としても異なることになる。
したがって,進歩性の欠如という無効理由について,主引用発明が異なるときは,
「同一の事実」に当たらないことになる。
(3) これを本件についてみると,別件無効審判において,主引用発明とされたの
は,甲8及び甲9に記載された各発明であり,本件の主引用例(甲7)は,別件無効
審判では提出されていない。主引用例から認定される発明(主引用発明)が別件無
効審判で主張された主引用発明と異ならなければ,無効理由としても同一と評価で
きるが,本件審決は,別件無効審判のそれとは異なる発明(掩蓋に逆止弁が取り付
けられた構成を含むもの)を甲7の記載から認定している。浚渫用グラブバケット\nにおいて逆止弁に技術的意義があることは明らかであるから,本件無効審判の主引
用発明が別件無効審判のそれと異ならないということはできない。
したがって,現行法下の無効審判請求及び審決取消訴訟においても,「紛争の蒸し
返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請を満たすような主張立証がされるべ
きことは,被告の主張するとおりであるものの,本件においては,理由がない。
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2020.02. 6
平成30(行ケ)10157 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月30日 知的財産高等裁判所
第1次審決は,個別の効果しか認定をしていないとして審理不尽の違法があるとして,取り消されました。第2次審決は進歩性違反無しとの審決がなされました。知財高裁3部は、特段の効果無しとして、審決を取り消しました。
特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念と
して包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に
開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕
著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏さ
れる効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を
奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
したがって,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,
甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果
を奏する場合を除き,特許性を有しないところ,甲1には,本件発明1に
該当する態様が具体的に開示されていることは認められない。
そこで,本件発明1が甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する
ものであるかについて,以下検討する。
・・・
前記(イ)のとおり,甲1発明Aは,(1)広い温度範囲において析出する
ことがない,(2)高速応答に対応した低い粘度である,(3)表示不良を生じ\nない,という効果を同時に奏する液晶組成物であることから,本件発明
1と甲1発明Aは,上記三つの特性を備えた液晶組成物であるという点
において,共通するものである。
そこで,本件発明1に特許性が認められるためには,上記三つの特性
において,本件発明1が,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏
することを要する。
a 効果(1)(低温保存性の向上)について
・・・
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,甲1の実施例1〜52及び比較
例1の「下限温度」は,−40度及び−30度のいずれでも(ただ
し,実施例21は「−40度では」)10日以内に結晶又はスメク
チック相に変化したものと理解できるのに対し,本件明細書の実施
例1〜4は,−25度及び−40度で2週間又は3週間ネマチック
状態を維持したと記載されているから,甲1に記載された実験結果
より低い温度でより長い期間に渡り安定性が維持されるものと解す
ることができ,本件発明1の低温保存性は,甲1に記載されていな
い有利な効果である旨判断した。
しかしながら,そもそも,本件明細書に記載された低温保存試験
は,具体的な測定方法,測定条件について記載されていないため,
甲1に記載された低温保存試験と同じ測定方法,測定条件で実施さ
れたものであるかについて,本件明細書の記載からは明らかでない。
また,液晶組成物の低温保存試験は,液晶組成物のその他の物性
値である粘度,光学異方性値,誘電率異方性値等と異なり,確立さ
れた標準的な手法は存在しないところ(弁論の全趣旨),甲32(原
告従業員による平成30年7月12日付けの試験成績証明書)にお
いては,試験管(P−12M)を用いた場合とクリーンバイアル瓶
(A−No.3)を用いた場合という容器の形状等の違いで実験結
果に差異が生じ,甲1の実施例20と甲82(株式会社UKCシス
テムエンジニアリングによる平成31年4月17日付け試験報告
書)の実験結果の間でも,低温保存試験の条件によって実験結果が
異なることからすると,液晶組成物の低温保存試験においては,試
験方法や試験条件が異なることで過冷却の状態が生じることを否
定できず(甲40),試験結果に著しい差異が生じる可能性がある\nものと認められる。
加えて,甲1の低温保存試験においては,化合物(1)ないし(3)
の組合せやその配合量が顕著に異なる液晶組成物であっても,実施
例21(「Tc≦−30度」)を除いて,「Tc≦−20度」とい
う同じ結果となっているのに対し,本件明細書の実施例1〜4と比
較例1は,フッ素原子を有する重合性化合物又はフッ素原子を有し
ない重合性化合物という配合成分の差異のみで,−25度及び−4
0度におけるネマチック状態の維持期間が顕著に異なる結果とな
っている。
(c) 以上の事情に照らすと,低温保存試験に関する甲1の実験と本件
明細書の実験が,同じ配合組成(配合成分及び配合量)の液晶組成
物を試験した場合に同様の試験結果が得られるような,共通の試験
方法,試験条件において実施されたものとは,にわかに考え難いと
いうべきである。
さらに,本件明細書において,実施例1〜4と対比されたのは,
重合性化合物にフッ素原子を有しない構造を有するというほかは,\n実施例1〜4と同様の配合組成を有する比較例1であって,その配
合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるものである。
そして,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ
る旨主張する乙14についても同様であることから,本件明細書及
び乙14の実験結果のみから,本件発明1の効果と甲1発明Aの効
果を比較することは困難である。
したがって,本件明細書に記載された実施例1〜4の下限温度と,
甲1に記載された実施例及び比較例の下限温度とを単純に比較す
るだけで,低温保存に係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの効果
よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
b 効果(2)(低粘度)について
前記(イ)のとおり,甲1発明Aの具体例である実施例の液晶組成物
は,いずれも高速応答に対応した低い粘度のものであることが認めら
れるところ,液晶組成物の粘度について,本件発明1が甲1発明Aと
比較して顕著な特有の効果を奏するものであることを認めるに足りる
証拠はない。
したがって,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,低粘度に係る
有利な効果を奏するものとは認められない。
c 効果(3)(焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)につ\nいて
(a) 本件発明1に関し,本件明細書には,実施例1〜6の液晶組成物,
及びフッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II
−A)及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2の液\n晶組成物において,重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力
をプレチルト角の測定により確認した旨が記載されている(前記(1)
イ(エ)c)。
一方,甲1発明Aに関し,甲1には,第三成分の好ましい割合は,
表示不良を防ぐために,第三成分を除いた液晶組成物100重量部\nに対して10重量部以下であり,さらに好ましい割合は,0.1重
量部から2重量部の範囲である旨が記載されている(前記(2)イ
(エ))。
(b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,本件明細書には,実施例1〜4
が,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないという効果(効果(3))\nを奏することは具体的に記載されていないが,実施例1〜4におい
ては,「環構造と重合性官能\基のみを持つ1,4−フェニレン基等
の構造を有する重合性化合物」に相当する重合性化合物(I−11)\nが用いられ,かつ,当該重合性化合物が添加された液晶組成物は,
いずれも「アルケニル基や塩素原子を含む液晶化合物を使用」して
いないから,従来から公知の技術的事項に照らして,焼き付きや表\n示ムラ等が少ないか全くないものである蓋然性が高いといえる旨判
断した。
しかしながら,前記(a)のとおり,本件明細書には,実施例1〜6
及び比較例2に関し,「重合性化合物の液晶化合物に対する配向規
制力をプレチルト角の測定により確認した」旨が記載されているに
過ぎず,本件明細書及び被告の提出する実験報告書(甲46〜48)
を参照しても,焼き付き等の表示不良の有無や程度についての評価\nが可能な,プレチルト角の経時変化及び安定性に関する実験結果は\n記載されておらず,VHR(電圧保持率)についても,いかなる条
件で得られた数値が,この評価の対象とされ,どの程度の数値を示
せば,焼き付き等の表示不良を生じないと評価できるのか等の詳細\nについて,何ら具体的な説明はされていない。
したがって,仮に,焼き付き等の表示不良とプレチルト角の経時\n変化及び安定性又はVHRとの間に一定の相関関係があったとし
ても,本件明細書及び甲46〜48に示された実験結果に基づいて,
本件発明1が達成している焼き付き等の表示不良抑制の程度を評\n価することはできないというべきである。
(C)また,本件明細書には,式(I−1)ないし(I−4)の重合性
化合物を用いることにより,表示ムラが抑制されるか,又は全く発\n生しないこと,また,焼き付きや表示ムラ等の表\示不良を抑制する
ため,又は全く発生させないためには,塩素原子で置換される液晶
化合物を含有することは好ましくないことが記載されているとこ
ろ(前記(1)イ(イ)),甲1の実施例の半数以上(実施例5,7,1
1,13,26〜27,29〜52 )が,本件発明1の重合性化合
物(I−1)〜(I−4)のいずれかに相当する重合性液晶化合物
(化合物(3−3−1),(3−4−1),(3−7−1),(3
−8−1))を含有し,また,甲1の実施例の7割以上(実施例2
〜8,11〜16,19,21〜24,28〜30,35〜52)
が,塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない。
さらに,本件明細書において,実施例1〜6と対比されたのは,
フッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II−A)
及び(II−B)で表される化合物を含まない比較例2であって,\nその配合組成は,甲1の実施例(1〜52)とは顕著に異なるもの
であり,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験であ
る旨主張する甲46〜48についても同様であるから,仮に本件発
明1の実施例が比較例よりも有利な結果を示したとしても,甲1の
実施例に対しても同様に有利な結果を示すとは限らない。
(d) 以上の事情に照らすと,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くな\nいことに係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの表示不良が生じな\nい効果よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。
d 小括
以上によると,本件発明1は,甲1の実施例で示された液晶組成物
では到底得られないような効果(低温保存性の向上,低粘度及び焼き
付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)を示すものとは認められ\nないので,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,格別顕著な効果を
奏するものとは認められない。
◆判決本文
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2020.01.24
平成31(行ケ)10042 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月21日 知的財産高等裁判所
マッサージ機の特許について、無効理由無しとした審決が取り消されました。
争点は補正要件(新規事項)、記載要件などです。裁判所は、明確性について構成要件Fについて実質判断していないとして審決を取り消しました。
本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの\nみで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記\n載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。
したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及
ぼす違法であるということができる。
(3) 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について
ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成\n要件Fについての明示的な記載はない。
しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として
判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は,
本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす
ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた
としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。
また,構成要件Fで規定する「開口」は,構\成要件H(「前記一対の保持部は,各々
の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」)
の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本\n件審決においても,実質的に判断されているということができる。
そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】,【0038】,【図2】には,断
面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され,「開口部」とは,
「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕
部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ\nとが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され\nていた事項であることは明らかである。
イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規
性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。
ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記\n載はない。
しかし,サポート要件の適合性は,後記4(1)のとおり判断すべきものであり,上
記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由
について判断の遺脱があったということはできない。
また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構\成要件Hの前提とな
る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。\nそして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構\n成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に
より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え
て,本件明細書にも前記【0037】,【0038】,【図2】と同様の記載があることからすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ\nートされていることも明らかである。
(4) 小括
以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点
の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。
もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので,
以下,当裁判所の判断を示すこととする。
・・・
ア 当初明細書の【0042】,【0044】,【0048】,【図5】,【0066】,
【0072】,【0074】,【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては,\n肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施
療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】)
を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の
双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部
によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受
けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。
そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の
一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に
設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕
部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nの課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。\n
イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形
状を有することの記載があり,【0037】,【0038】及び【図2】には,断面視
において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており,「開口部」と
は,「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人
の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ\nることが記載されている。そして,【0100】には,腕部を保持する保持部は,【図
13】(a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし
てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり,
同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。
以上の記載を踏まえると,【図13】(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向
いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書
には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い
ている保持部が記載されているといえる。
そして,「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる
ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の
腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認
識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当\n初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。
ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部
内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】,【図2】)であることから\nすれば,「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が
座部に座った状態で腕部を「真横」(水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿
入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。
そして,当初明細書には,【図13】(a)及び(c)において,所定角度で傾斜し
たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され,
同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち,「開
口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ,「開
口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部
を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に
設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕
部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題\nを解決できることも容易に理解することができるというべきである。
エ 当初明細書には,【0037】,【0044】,【0046】などにも,前腕部を
挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振
動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上
腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分
とから構成され(【0037】,【図2】),第2保持部分の内面であって被施療者の手首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ\nり,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること(【0044】,【図2】)も記載されている。\nそうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ
って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施
療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持\n部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構\成を有していることは
明らかである。
オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図
5】,【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部
の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上
がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】
には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと,
当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c
は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと
空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より
も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。\nそして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう
に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口\n側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う\n力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に
よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ
とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ\nとも容易に理解することができる。
カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより
導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ
ない。
・・・
4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す
るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請
求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細
な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ
るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当
該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明1について
ア 本件明細書の記載
本件明細書には,(1)椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ
等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで
きないという問題があったことから(【0002】,【0003】),被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】),(2)当
該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上\n半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,「前記座部の両
側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前
記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は,\nその幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて
いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互
いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は,
各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」
ていること(【0010】),(3)本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって
被施療者の腕部を施療することが可能となること(【0028】)が記載されている。\n
そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー
ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構\成やその内面に設けられた空気袋
の構成や作用とともに記載され(【0037】,【0038】,【0042】〜【0045】,【0048】,【図1】,【図2】,【図5】),本件明細書の【0100】,【010\n1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい
て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以
上の記載から,(1)の課題を解決するために(2)の解決手段を備え,(3)の効果を奏する
発明を認識することができる。
そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおりで
あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業
者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること
ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも
のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。
イ 原告の主張について
原告は,(1)構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の\n部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構\成であっても解決でき
る課題につき何らの説明もなく,(2)構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細\n書の【図13】の(a),(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細
書には,他の形状を示す同図(b),(d),(e)との関係で解決される課題につき,何らの説明もないと主張する。
しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも,
対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること
が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として\n十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横\nを向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿
入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー\nジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する
ことができる。
したがって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について
・・・
このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも
に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ
ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示
されているにとどまり,「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が
横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開
示されているとはいえない。
(ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを
適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで\nきたものとはいえない。
◆判決本文
関連事件です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されています。
◆平成31(行ケ)10054
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2020.01. 8
平成31(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年12月19日 知的財産高等裁判所
無効審判を請求しないという和解条項がある場合に、請求人適格があるかが争われました。知財高裁(4部)は、請求人適格なしとした審決を維持しました。
本件和解契約2条は,「乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の
請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただ
し,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟
における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではな
い。」と規定する。
しかるところ,2条の上記文言によれば,同条は,「乙ら」(原告,セ
ンティリオン及びB)は,「甲」(被告)に対し,被告が原告らに対し提
起した本件特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を
主張する場合(同条ただし書の場合)を除き,特許無効審判請求により本
件特許権の効力(有効性)を争ってはならない旨の不争義務を負うことを
定めた条項であって,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求すること
は,およそ許されないことを定めた趣旨の条項であることを自然に理解で
きる。
そして,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯によれば,本件和解契
約2条の文案については,被告の代理人弁護士と原告,センティリオン及
びBの代理人弁護士が,それぞれが修正案を提案するなどして十分な協議を重ね,最終的な合意に至ったものであり,このような交渉経緯に照らし\nても,同条は,その文言どおり,原告が本件特許に対し特許無効審判を請
求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項と解するのが妥
当である。
そうすると,原告による本件特許無効審判の請求は,本件和解契約2条
の不争条項に反するというべきである。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ これに対し原告は,(1)本件和解契約1条,3条及び4条に関する交渉経
緯等の本件和解契約の締結経緯及び各条項に照らすと,本件和解契約2条
は,本件和解契約締結後の「将来の紛争」に備えて,本件特許権の効力を
特許無効審判等によっては争わないことを定めた不争条項であるが,ここ
で想定されている「将来の紛争」とは,3条記載のJANコードで特定さ
れる「本件商品」(過去製品)及び過去製品と同一の構成の製品に係る紛争に限られているというべきであるから,被告が過去製品とは別の構\成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,2条により,原告が
特許無効審判等によって本件特許権の効力を争うことが禁止されるもので
はない,(2)原告は,被告が過去製品と同一の構成ではない,本件特許の権利範囲に属しない類似製品に対して本件特許権を行使する関連訴訟を提起\nしたため,これに対抗して本件特許無効審判を請求するものであるから,
本件特許無効審判の請求については本件和解契約2条の効力は及ばない旨
主張する。
しかしながら,本件和解契約2条には,被告が3条に規定する「本件商
品」(原告主張の「過去製品」)とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,原告が特許無効審判請求によって本件特許権\nの効力を争うことが許される旨を定めた文言は存在せず,1条,3条及び
4条のいずれにおいても,原告の主張に沿う文言は存在しない。
また,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯に照らしても,被告と原
告,センティリオン及びBとの間において原告の主張する上記場合には2
条の効力が及ばないことを確認したり,合意したことをうかがわせる事実
は認められない。
かえって,前記アで説示したように,本件和解契約2条の文言及び本件
和解契約の交渉経緯によれば,2条は,被告が原告らに対し提起した本件
特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を主張するこ
と(同条ただし書の場合)は許されるが,原告が本件特許に対し特許無効
審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項である
と解するのが自然な解釈である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件和解契約2条の不争条項の有効性の判断の誤りについて
原告は,(1)本件和解契約6条の和解金は,特許法102条2項の損害額に
相当するものであって,被告が原告に対して原告の過去の販売行為について
本件特許権を行使しないことの対価として支払われるものであるから,本件
和解契約は,実質的には,原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契
約(ライセンス契約)であることを前提とした上で,独占禁止法上の指
針(第4の4の「(7) 不争義務」)は本件和解契約にも妥当するものであ
り,本件和解契約2条の不争条項の存在により,原告が特許無効審判等を請
求することができないとした場合,原告は,同条ただし書により特許侵害訴
訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるとしても,被
告が原告に対して特許侵害訴訟を提起するまでは本件特許の有効性を争うこ
とができないため,本件特許に無効理由があるにもかかわらず,一度コスト
をかけて製品を販売した後,被告の訴訟提起という原告にとって如何ともし
難い被告の行為を待つことになり,かかる事実状態は,原告の経済活動を不
当に制限するものであり,その結果,本来無効となるべき本件特許により二
重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,まさに独占禁
止法上違法な状態が発生することとなるから,かかる事態は,特許法の制度
趣旨からしても許容されるべきものではない,(2)また,原告以外の利害関係
人が本件特許について特許無効審判を請求することができるとしても,その
ような利害関係人が常に特許無効審判を請求するとは限らないし,原告と同
じ無効理由を主張するとも限らないから,本来特許を受けられない技術が特
許として存続し続けるおそれがあることに変わりなく,公益性が失われる,
(3)さらに,実施許諾契約に不争条項が存在する場合であっても,特許の無効
理由の存在が明らかな場合には,当該特許を維持しつつ技術の利用を促進す
る必要もないため,不争条項は無効と解すべきであるが,本件発明1,2,
4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明(特許法
29条1項2号)に該当し,新規性欠如の無効理由があることは明らかであ
り,本件特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないなどとして,仮
に本件和解契約2条の不争条項が,原告の本件特許件無効審判の請求を制限
するものであるとするならば,本件和解契約2条の不争条項は,公序良俗に
反し,無効である旨主張する。
しかしながら,上記(1)の点については,本件和解契約3条は,原告,セン
ティリオン及びBが本件商品の販売を平成29年8月31日限りで中止する
旨を,4条は,同年9月1日以降,原告,センティリオン及びBが「本件商
品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ
又は本件特許権の侵害品」の製造,譲渡等をしない旨を,6条は,原告,セ
ンティリオン及びBが,被告に対し,連帯して本件商品の販売による利益額
に相当する4500万円の和解金を支払う旨を,8条は,「和解についての
お知らせ」として,被告が本件特許を侵害していることを疑い,特許侵害行
為の中止等を求めて通告し,当事者間の協議の結果,原告及びセンティリオ
ンが上記製品の販売を中止する形で和解が成立したこと,被告の知的財産権
その他の権利を侵害する行為については厳正な措置を講ずる所存であること
を公表することを除き,本件和解契約の内容及び本件和解契約締結に至る経緯について相互に守秘義務を負う旨を定めたものであることに鑑みると,6\n条の和解金は,原告らによる本件特許権の過去の侵害行為に対する被告の損
害を填補する損害賠償金であって,被告が原告に対し本件特許権の実施を許
諾することの対価としての性質を有するものでないことは明らかであるから,
本件和解契約が実質的に原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契
約(ライセンス契約)の性質を有するものと認めることはできない。
そうすると,本件和解契約2条の不争条項により,二重瞼形成用テープに
係る市場における公正な競争が阻害され,独占禁止法上違法な状態が発生す
る旨の上記(1)の点は,その前提を欠くものである。
次に,上記(2)の点については,本件和解契約2条の不争条項によって原告
以外の者が本件特許について特許無効審判の請求をすることが制限されるわ
けではなく,また,私権である特許権について当事者間で不争義務を負う旨
の合意をすることによって直ちに公益性が失われるということはできない。
さらに,上記(3)の点については,上記のとおり,本件和解契約が実質的に
原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)の性
質を有するものと認めることはできないから,その前提を欠くものであり,
また,本件和解契約2条ただし書は,被告が原告に対し本件特許権侵害を理
由とする特許権侵害訴訟を提起した場合には,原告が無効の抗弁を主張して
本件特許の有効性を争うことが許容されていること(現に関連訴訟において
原告は無効の抗弁を主張して争っている。)に照らすと,同条の不争条項に
よって,原告が本件特許無効審判の請求を制限されることが不当であるとは
いえない。
◆判決本文
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