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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

審判手続

令和6(行ケ)10016  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年8月27日  知的財産高等裁判所

かなり珍しいケースです。出願人は拒絶審決に対して再審請求をしましたが、特許庁はかかる再審請求を審決却下しました。裁判所はかかる審決却下処分は間違っているとして取り消しました。理由は、再審請求の時点では審決が確定していなかったが、その後確定したので、瑕疵は治癒されたというものです。拒絶審決に対して通常は、審決取消訴訟を提起するのですが、代理人無しなので、再審請求をしてしまったのだと思われます。
なお、再審請求の審決却下が取り消されても、再審の審理がなされるだけです。 再審理由には該当しないとの審決がなされると思います。

確定審決に対しては、当事者又は参加人は、再審を請求することができる (特許法171条1項)が、拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審は、 その再審請求が不適法であって、その補正をすることができないものについ ては、審決をもってこれを却下することができる(特許法174条2項、1 35条)とされている。そこで、本件再審請求が、不適法であって、その補 正をすることができないものであるか検討する。
ア 原審決については、原告が原審決の取消しを求める訴えを提起すること なく、原告に対する原審決の謄本の送達があった日(令和5年10月14 日)から30日、すなわち同年11月13日が経過したので、同日の経過 をもって原審決が確定したものと認められる。 原告が本件再審請求をしたのは令和5年11月9日であるから、その時 点では、原審決は確定していなかった。しかし、本件再審請求に対する判 断として本件審決がされたのは令和6年1月23日であり(前記第2の1 (6))、同日の時点では原審決は確定していたものである。そうすると、本件 再審請求については、請求の時点では原審決が確定していなかったという 瑕疵があったが、本件審決がされた時点では原審決が確定していたから、 上記瑕疵は治癒されたというべきであり、上記瑕疵を理由として本件再審 請求を却下することはできないと解するのが相当である。
イ そして、本件再審請求の再審請求書(甲4の8)によれば、原告は、同 請求書において、特許法171条2項が準用する民事訴訟法338条1項 の再審事由を主張していたと認められる。これらの再審事由が認められる か否かは別として、本件再審請求について、再審事由の主張がないという 違法性はない。 その他、本件再審請求について、補正をすることができない違法な点が あるとは認められない。
ウ 以上によれば、本件再審請求は、不適法であって、その補正をすること ができないものには当たらないというべきである。
(2) そうすると、本件再審請求が、不適法であって、その補正をすることがで きないものであるとした本件審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由 は理由がある。

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令和5(行ケ)10109  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年4月24日  知的財産高等裁判所

商標「奇跡のラカンカ」が識別力なしとした審決が維持されました。指定商品は、「ラカンカ」ではなく、30類「ラカンカを加味した菓子等」です。なお、審査官は、3条1項3号違反で拒絶査定にしましたが、審決では拒絶理由通知なしで、同6号違反で拒絶審決としました。手続きとしては違法だが、結果に影響がないのでそれを理由には取り消さないとしています。

本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文と しては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶 の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われてい ない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項 にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要が ある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標 登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法 の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定め\nる具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明 をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみ をもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。 この点、被告は、3条1項は出所表示機能\を欠く商標を列挙するところ、 例示的列挙である1号〜5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶と では、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定 の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条 1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事 由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言か らも明らかなように、同項6号と同項1号〜5号との間に概念上の上下関係、 包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立 法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1 項がこれらと異なることは明らかである。)。 被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な 役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公\n権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づい て行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、 拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異 なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからと いって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで 拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼 ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと 解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考 えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の 『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがっ\nて品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力\nするのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主 張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張\nはしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標 の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理 解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断 をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能\を欠く商標かど うかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき 「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判 請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。 そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内 容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与 する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認 められないというべきである。 なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付 与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理 由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、 手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考 慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するも のではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、 識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの 類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る 商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査 定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1 項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる 場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することに なり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても 防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となってい る3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号 の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被 告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないと いう前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。 以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16 条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新 たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商 標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理 由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項) される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討する ことを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記 (4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条 文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、 かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主\n張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではない と強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、 そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改め て弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、 両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。 そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由 通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ 本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限の ために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があると しても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすよう なものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手 続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりは ない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告 に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機 会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付を もって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の 機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予\n告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。 加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意 見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果 物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章である\nとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張 を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6 号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記 4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意 味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3 条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式 な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容 を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張 又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ\nれたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕 疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな いと解するのが相当である。よって、原告主張の取消事由は採用できない。
4 本願商標の3条1項6号該当性について
念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。 本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成\n中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3〜5) として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片 仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢\n果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の 中で主張しているとおりである。
そして、証拠(乙6〜35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、 「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常 識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使 用されていることが認められる。 そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、 需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業\n務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した\nがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

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