知財高裁は、無効審判における訂正手続きについても、請求項毎に判断すべきとして、無効審決を取り消しました。
「昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた。このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである。特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である。以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない。そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない。本件においては,請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項2及びその他の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。」
関連判決はこちらです
◆平成20(行ケ)10093
◆平成20(行ケ)10095
◆平成20(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年11月27日 知的財産高等裁判所
仮処分後に特許庁無効審判で無効とされた特許についての、販売禁止等の仮処分に関する判断です。
裁判所は、無効理由は存在しないとして、販売禁止等の仮処分を維持しました。
経緯:
仮処分事件について
本件特許に基づく仮処分について、販売等を禁止する旨の仮処分決定がなされた後、
特許庁が本件特許を無効とする旨の審決をしたので、民事保全法にいう事情変更、特別事情に当たるとして,上記仮処分決定の取消し(平
成19年(モ)第59003号)を申し立てました。大阪地裁は,平成19年7月26日,保全の必要性について事情変更が生じたとして,\n相手方に500万円の担保を立てさせた上,上記仮処分決定を取り消す旨の決定をしました。
特許権者は、本件保全抗告を申し立てました。
無効審判事件について
上記無効審決には審決取消訴訟が提起され、90日以内の訂正審判請求がなされたので、
上記無効審決は決定により取り消されました。特許庁において再審理され、再度無効審決がなされました。
特許権者は、これについて審決取消訴訟(平成20年(行ケ)10066)を提起したところ、平成20年9月29日に取り消されました。
◆平成19(ラ)10008 特許権侵害差止等仮処分決定取消決定に対する保全抗告事件 特許権民事仮処分 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所
2008.11. 3
裁判所が、原告の訴訟活動について、一言述べました。
「本件取消訴訟をみると,原告は,本件発明1に限っても,審決のした本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点(6個)の認定及び相違点(6個)に関する容易想到性の判断,並びに審判手続のすべてに誤りがあると主張して,審決を取り消すべきであるとしている(原告第1,第2準備書面,合計59頁)。しかし,?@およそ,当事者の主張,立証を尽くした審判手続を経由した審決について,その理由において述べられた認定及び判断のすべての事項があまねく誤りであるということは,特段の事情のない限り,想定しがたい。また,?A本件において,本件発明と引用発明との間の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとの原告の主張は,実質的には,相違点についての容易想到性の判断に誤りがあるとの主張と共通するものと解される。そのような点を考慮するならば,本件において,原告が,争点を整理し,絞り込みをすることなく,漫然と,審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して,取消訴訟における争点としたことは,民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない。」
◆平成19(行ケ)10331 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月28日 知的財産高等裁判所
侵害訴訟で無効主張が認められず、侵害とされた侵害訴訟判決について、その後、無効審決が確定したことを理由に再審請求ができると知財高裁は認めました。
「原判決は,無効理由の存在の明白性という権利濫用の抗弁について判断した上で本案請求を認容した一審判決を維持したのであるから,たとえ同抗弁で主張したものとは別個の無効理由であっても,原判決の確定後にこれを主張し,本案に係る訴訟物の存否を争うことができるとすることは,確定判決に求められる紛争解決機能を損ない,法的安定性を害するとともに,確定判決に対する当事者の信頼をも損なうこととなるから,再審被告の前記?@,?Aの主張もそのような趣旨のものとして理解する余地はある。
しかしながら,そうだとしても,再審被告の前記?@,?Aの主張は,結局,確定判決に認められる既判力に基づく遮断効を主張するものに過ぎないのであって,再審開始決定が確定した後の本案の審理においては,判決の確定力自体が失われているのであるから,再審被告の前記?@,?Aの主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。また,特許権侵害訴訟を審理する裁判所は,キルビー判決後においても,特許が有効であることを前提とした上で,権利濫用の抗弁となる無効理由の存在の明白性を判断するのであり,特許の有効無効それ自体を判断するものではないのであるから,キルビー判決の法理に基づく権利濫用の抗弁と無効審決の確定による権利消滅の抗弁とは別個の法的主張と理解すべきものである。したがって,原判決が再審原告の主張した権利濫用の抗弁について判断したからといって,本件特許の有効性について判断したものとはいえず,また,原判決の確定により本件特許の有効無効問題が決着済みとなったということもできない。加えて,前記(1)のとおり,再審原告が前審控訴審で権利濫用の抗弁として主張した無効理由と本件特許を無効とした無効審決の理由とされた無効理由は異なるものであり,しかも,原判決の当時,無効審決の無効理由とされた公知例の存在を再審原告が認識していなかったことは当事者間に争いがないことからすれば,再審原告が無効審決の確定による権利消滅の抗弁を主張することが無効理由の主張を蒸し返したものであるとは認められないのであり,この点からも再審被告の前記?@の主張は失当である。」
◆平成12(ネ)2147 特許権侵害差止再審請求事件(18(ム)10002,19(ム)10003)平成20年07月14日 知的財産高等裁判所
特許法104条の3の無効主張について、訂正審判により防御するのであれば、事実審口頭弁論終結時までに行うべきとの判断がなされました。
「以上のように,訂正審判の請求をした場合には無効部分を排除することができる
こと,及び,被告製品が減縮後の特許請求の範囲に係る発明の技術的範囲に属する
ことは,被告の権利行使制限の抗弁が成立するか否かを判断するための要素であっ
て,その基礎事実が事実審口頭弁論終結時までに既に存在し,原告においてその時
までにいつでも主張立証することができたものである。原告としては,事実審口頭
弁論終結時までに,上記の主張立証を尽くして権利行使制限の抗弁を排斥すべきで
あり,事実審が,当事者双方の主張立証の程度に応じた訴訟状態に基づく自由心証
の結果として,権利行使制限の抗弁の成立を認めた以上,事実審口頭弁論終結後に
なって,原告が訂正審判を請求し訂正審決が確定したとしても,訂正審決によって
もたらされる法律効果は事実審口頭弁論終結時までに主張することができたもので
あるから,訂正審決が確定したことをもって事実審の上記判断を違法とすることは
できないのである(なお,最高裁昭和55年(オ)第589号同年10月23日第
一小法廷判決・民集34巻5号747頁,最高裁昭和54年(オ)第110号同5
7年3月30日第三小法廷判決・民集36巻3号501頁参照)。」
◆平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 特許権民事訴訟 平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷(判決棄却 大阪高等裁判所)
別件判決の判決書の理由の記載を唯一の根拠とし,他に本件刊行物の頒布時期を証する証拠を何ら示すことなく,本件刊行物が本件特許の優先日前に頒布された事実を認定した無効審決について、裁判所は無効審決を取り消しました。
「本件審判における立証の対象となる事実は,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布されたか否か,本件刊行物の記載内容がどのようなものであったか,そして,本件発明が特許法29条1項3号に該当するか否か等である。本件審判において,上記の立証対象事実が存在するとの認定をするためには,少なくとも直接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料又は間接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料を取り調べた上,審判体自ら,各証拠の信用性を総合的な観点から,吟味検討し,あるいは取捨選択して,立証対象事実の存否に関する心証を形成することを要するというべきであって,そのような審理ないし検討を一切することなく,他者の認定判断に依拠して,事実が存在すると認定することは合理性を欠く。・・・上記(1)イ記載のとおり,本件発明が特許法29条1項3号に該当する事実の存否について,少なくとも,別件訴訟で取り調べられたのと同様の書証,人証を取り調べた上で,それらの証拠の信用性について総合的に検討することを要するというべきであるが,本件審判手続において,その検討はされていない(なお,別件訴訟の終了後に受訴裁判所に保管された書証の写し,証人尋問調書等の訴訟記録は,保存期間経過のため,既に廃棄されている。)。また,原告は,別件判決を不服として控訴し,別件判決のした「本件パンフレット」の頒布時期の事実認定を争っていたこと,別件訴訟は,原告が東京フローメータ研究所に対して提起した本件特許権の侵害に基づく差止め及び損害賠償請求訴訟であり別件訴訟と本件審判とは,当事者が異なること,別件判決は確定していないこと等に照らすならば,別件判決の何らかの効力が本件審判の当事者に及ぶこともない。」
◆平成19(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所