2017.07.10
平成28(受)632 特許権侵害差止等請求事件 平成29年7月10日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所
最高裁(第2小法廷)判決です。特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことはできないと判断されました。本件については、別途無効審判が継続(審取中を含む)しており、法上、訂正審判の請求ができなかったという特殊事情があります。この点については、訂正審判を請求しなくても、訂正の抗弁まで禁止されていたわけではないと判断されました。
特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の
口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂
正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対
する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と
同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえ
る。
そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張し
なかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判
断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえ
るだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させ
るものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許
されないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の
口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再
抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の
抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請
求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新
たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に
対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったた
めであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁
を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,
これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張
することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張し
なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。
◆判決本文
◆1審はこちら。平成25(ワ)32665
◆2審はこちら。平成26(ネ)10124
◆無効審判の取消訴訟はこちら。平成26(行ケ)10198
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2017.07. 5
平成29(ラ)10002 文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告事件 不正競争 平成29年6月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
知財高裁(4部)は、文書提出命令の申立てに係る文書について「識別することができる事項」を明らかにしていないとして、提出命令を認めることができないとした原決定を維持しました。\n
文書提出命令の申立ては,申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにしてしな\nければならない(民訴法221条1項)。
本件申立てに係る文書は,別紙文書目録記載のとおりであり,高性能\ALPSの
設計書のほかは,高性能ALPSの設計のための試験の内容を記載した文書,高性\n能ALPSで使用されている放射能\廃棄物量削減,核種除去性能に関する技術情報\nが記載されている文書,その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成さ\nれた文書というものであって,これらの表示は,文書の記載内容を類型的に示すも\nのではない。本件各文書は,個人名や組織名などで,その作成名義者は特定されて
いるものではなく,作成日付や作成期間も特定されておらず,相手方における管理
態様などでも特定されていない。
また,抗告人は,本件申立てに係る文書の趣旨について,設計書には,抗告人が\n相手方に開示した抗告人の営業秘密を用いて,それ以前には相手方が有しなかった
核種除去性能に関する知見,放射能\廃棄物量削減に関する知見を前提とした設計が
されており,その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成された文書等\nには,上記の各知見を前提とした記載がされているとする。しかし,核種除去性能\nに関する知見,放射能廃棄物量削減に関する知見の内容は,極めて広範囲に及ぶ抽\n象的なものである。各知見を,抗告人の営業秘密であって,相手方に開示した知見
と限定したり,相手方が有しなかった知見と限定したりするだけでは,各知見の内
容が客観的に具体化されるものではない。したがって,本件各文書に上記の記載等
があるとするだけでは,本件申立てに係る文書に記載されている内容の概略や要点\nは明らかではない。
さらに,後記で検討するとおり,本件申立てに係る文書を識別することができ\nる事項も明らかではない。
よって,本件申立ては,本件申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにしてな\nされたものということはできない。
(2)識別性について
ア 文書提出命令の申立ては,申\立てに係る文書の表示及び趣旨を明らかにして\nなされなくても,これらの事項に代えて,文書の所持者がその申立てに係る文書を\n「識別することができる事項」を明らかにしてなされれば,当該申立ては適法にな\nり得る(民訴法222条1項)。
そして,「識別することができる事項」とは,文書の所持者において,その事項
が明らかにされていれば,不相当な時間や労力を要しないで当該申立てに係る文書\nあるいはそれを含む文書グループを他の文書あるいは他の文書グループから区別す
ることができるような事項を意味し,申立人側の具体的な事情と所持者側の具体的\nな事情を総合的に考慮して判断されるべきものである。
イ 相手方の事情
(ア) 高性能ALPSは,損傷した福島第一原発から発生する放射能\汚染水を処
理するための設備であって,既存ALPSよりも高性能な多核種除去設備であり,\n国が巨額を投じて行う高性能多核種除去設備整備実証事業において採用されたもの\nである。(前記1(2)キ)
また,同事業の補助事業者は相手方のほか,東京電力及び東芝であり,相手方だ
けでも,高性能ALPSの技術開発を推進するに当たり,設計・施工・材料の納入\n等を行う業者として,少なくとも延べ25社を採択し,相手方の多数の内部部署が,
高性能ALPSに関する業務に関わっている。(前記1(2)キ,(3)ウ)
さらに,高性能多核種除去設備タスクフォースに報告された前記各報告内容(前\n記1(3)ア,イ)によれば,高性能ALPSは,フィルタ処理装置及び核種吸着装置\nのほか,様々な装置を統合した設備であって,高性能ALPSの設置・稼働に当た\nっては,吸着材の選定,吸着塔の構成,pH調整などに関して,ラボ試験,検証試\n験,実証試験が並行して行われ,課題に応じて多数の変更が加えられていったこと
が認められる。
加えて,これらの事実によれば,相手方は,東京電力及び東芝とともに,高性能\n多核種除去設備整備実証事業において高性能ALPSを共同提案するに際し,多数\nの試験を繰り返し,複数の業者と事前に共同提案内容を協議したことも認められる。
(イ) 本件各文書は,1)高性能ALPSの設計書,2)高性能ALPS設計のため\nの疑似水試験,模擬液試験や実液試験の内容を記載した文書,3)高性能ALPSで\n使用されている放射能廃棄物量削減に関する技術情報が記載されている文書,4)高
性能ALPSで使用されている核種除去性能\に関する技術情報が記載されている文
書,5)その他高性能ALPSの設計・製造・運用に関して作成された文書の5つに\n区分することができる。
そして,前記1)の文書については,その対象とする高性能ALPSが最先端の技\n術が用いられた大規模な設備であること,高性能ALPSを構\成する様々な装置の
設計書を含んでいること,高性能ALPSの設計書の作成に多数の業者及び相手方\nの内部部署が関与していること,高性能ALPSの提案・設置・稼働に当たって複\n数の変更が加えられていること,管理態様も様々であることからすれば,相手方に
おいて,1)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべきであ
る。
前記2)の文書については,そもそも,文書の表示を,「試験の内容を記載した文\n書」とするところ,試験の内容には,実際に行われた試験方法や試験結果のほか,
当該試験方法を設定するに至った経緯,当該試験結果に対する考察など多様なもの
が含まれる。また,高性能ALPSの設置・稼働に当たっては,吸着材の選定,吸\n着塔の構成,pH調整などに関して,ラボ試験,検証試験,実証試験が並行して行\nわれており,さらに,各試験の前後には,多数の業者及び相手方の内部部署が関与
したものと認められる。そうすると,相手方において,2)の文書を区別するに当た
り,相当な時間と労力を要するというべきである。
前記3)及び4)の文書については,文書の表示を,「高性能\ALPSで使用されて
いる放射能廃棄物量削減,核種除去性能\に関する技術情報が記載されている文書」
とするところ,高性能ALPSの開発コンセプトは,フィルタ・吸着材を主体とし\nた除去プロセスの採用により,廃棄物発生量を約95%削減するとともに,フィル
タ・吸着材処理技術の開発により処理対象とする62核種に対して,高い除去性能\n(NDレベル)を達成するなどというものである。そうすると,前記3)及び4)の文
書は,高性能ALPSで使用されている技術情報が記載されている文書というもの\nでしかなく,おおよそ高性能ALPSに関する文書が全て含まれるから,相手方に\nおいて,3)及び4)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべ
きである。
前記5)の文書についても,おおよそ高性能ALPSに関する文書が全て含まれる\nから,相手方において,5)の文書を区別するに当たり,相当な時間と労力を要する
というべきである。
また,そもそも,本件各文書の相互の関係は明らかではなく,抗告人は,相手方
からの示唆があるにもかかわらず,それを明らかにしていない。本件各文書の中に
は,本件仕様書にいう「重要情報」に当たる情報が記載され,相手方において厳格
に管理されている文書が含まれると認められるものの,本件各文書は,このような
文書に限定されているものでもない。
よって,相手方において,本件各文書を,相手方が所持する他の文書あるいは文
書グループから区別するに当たり,相当な時間と労力を要するというべきである。
・・・
以上のとおり,相手方は,本件各文書を,相手方が所持する他の文書あるいは文
書グループから区別するに当たり,相当な時間と労力を要する。一方,抗告人は,
申立てに係る文書の種別,作成期間,内容の概略や要点等をさらに特定することや,\n申立てに係る文書のおおよその作成部署や管理態様等をさらに特定することは困難\nではない。また,抗告人は,相手方が申立てに係る文書を区別するに当たり,不相\n当な時間や労力を要しないよう,申立てに係る文書群を特定する努力をしていない\nといわざるを得ない。
そうすると,本件申立てにおいて,相手方が,不相当な時間や労力を要しないで\n本件申立てに係る文書あるいはそれを含む文書グループを他の文書あるいは他の文\n書グループから区別することができるような事項は明らかではないというべきであ
る。
よって,本件申立ては,相手方がその申\立てに係る文書を「識別することができ
る事項」を明らかにしてなされたものということはできない。
◆判決本文
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2017.06. 9
平成29(行ケ)10103 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年6月6日 知的財産高等裁判所(4部)
出訴期間を経過後の提起として訴えが却下されました。出訴期間の起算日は4/4で、そこから30日だと、5/3が出訴期間の末日です。ただ、その日は、裁判所は休みなので、休み明けの5/8まで延長されます。ただ、裁判所は特許庁と違い、到達主義なので、郵送の場合でも、5/8までに到着しないと、出訴期間経過後として却下されます。
1 本件記録によれば,本件審決の謄本が原告に送達された日は,平成29年4月
3日であり,原告が本件審決取消訴訟の訴状を当裁判所に宛てて郵送し,これが当裁
判所に到達した日は,同年5月9日であることが明らかである。
2 審決取消しの訴えは,審決の謄本の送達があった日から30日を経過した後は
提起することができない(特許法178条3項)ところ,上記1認定の事実によれば,
本件訴えは,本件審決の謄本が原告に送達された平成29年4月3日から既に30日
を経過した同年5月9日(上記期間の満了日は同月8日)に提起されたものと認めら
れるから,出訴期間を経過して提起されたものといわざるを得ない。
3 以上によれば,本件訴えは不適法であり,その不備を補正することができない
ものであるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法140条を適用して,却下するこ
ととし,主文のとおり判決する。
◆判決本文
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2017.03.16
平成28(ネ)10100 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年3月14日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審における訂正の対抗主張について、「時機に後れた」とは判断されませんでした。ただ、最終的には無効は解消されていないと判断されているので、控訴審における訂正の対抗主張が「時機に後れた」と判断されるおそれもありますね。
被控訴人は,控訴人が,当審において,訂正の対抗主張を追加したのに対し,上
記主張は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として,民訴法157条1項に基づき
却下されるべきである旨主張する。
控訴人は,原審において,弁論準備手続が終結されるまでの間,訂正の対抗主張
を提出することはなかったが,弁論準備手続終結後に提出された準備書面において
初めてこれを主張するに至ったため,原審裁判所により時機に後れたものとして却
下された(なお,原審において主張した訂正の内容は,「片手で」との文言の有無
の点を除き,当審における訂正の内容と同一である。)。控訴人は,平成28年9
月8日に原判決が言い渡されると,同月21日控訴を提起した。他方,同月30日
には,本件特許1ないし3に係る各特許無効審判において,審決の予告がされた。\nそこで,控訴人は,同年11月10日提出に係る控訴理由書において,訂正の対抗
主張を記載した。
上記の原審及び当審における審理の経過に照らすと,より早期に訂正の対抗主張
を行うことが望ましかったということはできるものの,控訴人が原判決や審決の予\n告がされたのを受けて,控訴理由書において訂正の対抗主張を詳細に記載し,当審
において速やかに上記主張を提出していることに照らすと,控訴人による訂正の対
抗主張の提出が,時機に後れたものであるとまでいうことはできない。また,本件
における訂正の対抗主張の内容に照らすと,訂正の対抗主張の提出により訴訟の完
結を遅延させることになるとも認められない。
よって,控訴人の訂正の対抗主張を時機に後れたものとして却下することはしな
い。
・・・・
1)乙18公報には,小型化された魚釣用電動リールにおいて,リール本体を保持
した手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体の配置を変更するこ
とについての示唆があるということができること,並びに,2)魚釣用電動リールは,
手のひらにのる程度に小型化,軽量化が図られていたところ,このように小型化,
軽量化した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持
した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向される
こと及び釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することを予定した位置\nに駆動モータの出力を制御する操作部を配設することが,原出願の出願日前に当業
者に周知であったことは,前記2 ウ のとおりである。そうすると,乙18発明
において,操作部材を釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親
指が届く位置に配設することは,当業者が容易に想到できたことである。
また,乙18発明において,周知技術を適用して,相違点1−1に係る本件発明
1の構成とすることは当業者が容易に想到できたものであるところ,上記構\成を備
えた場合,操作部材の前後方向への回転操作は,親指で押え付けるようにして行わ
れ得るものであることは明らかである。
そうすると,乙18発明において,相違点1−3に係る本件訂正発明1の構成と\nすることは,当業者が容易に想到できたことである。
・・・
エ 以上のとおり,本件各訂正発明は,乙18発明に基づき容易に発明をするこ
とができたものであって,本件各訂正によっても,本件各発明の無効理由(乙18
発明に基づく進歩性欠如の無効理由)は解消しない。
◆判決本文
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2017.03. 1
平成27(受)1876 不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴事件 平成29年2月28日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 福岡高等裁判所
商標権に関する部分が興味深いです。周知商標に基づく無効審判請求(4条1項10号)は、5年の除斥期間があります(商47条)。よって、侵害訴訟において5年経過すると、無効抗弁(特104条の3)ができないかが論点となります。
最高裁は、原則、無効主張できないが、周知にした本人は除かれると判断しました。ただ、本件の場合、不正競争防止法における周知認定を誤っていると判断されていますので、そもそも、周知でないとの判断となるかもしれません。
そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。
そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
・・・・
そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。
したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求
されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登
録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相
手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登\n録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標
であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利
の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当であ
る。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に
係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識さ\nれている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当す
ることを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいう
ものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。
◆判決本文
原審はアップされていません。
◆関連判決(商標登録無効審判の取消訴訟)はこちらです。平成27年(行ケ)第10083号
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2017.02.17
平成26(ネ)10032 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成29年1月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
提出した証拠について、時機に後れて提出された攻撃防御方法に該当すると判断されました。
以上の審理の経過に照らすと,被控訴人によりEPMA分析等に関する報告書(乙
73,74)が提出され,これに基づき主張がされたのは平成27年12月21日
の第4回口頭弁論期日であり,その後は,被控訴人による分析結果の内容等を中心
とする控訴人各製品において2種類の蛍光体を使用しているか否か(構成要件E及\nびF’)が重要な争点の一つとして審理が進められ,控訴人及び被控訴人の双方とも,
この点に関し,準備書面を提出し,主張と反論を続けてきたこと,また,技術説明
会の実施については,第7回口頭弁論期日までにされた主張,立証とそれに付随す
る反論の範囲内で実施することが確認されていたものであり,これに対し,第4回
口頭弁論期日からほぼ1年が経過した平成28年12月6日の第8回口頭弁論期日
の直前に提出された,控訴人の本件追加主張及びこれに関連する証拠(甲177な
いし187)は,争点及び証拠の整理を終了し,技術説明会を実施した上で口頭弁
論を終結することを予定していた期日の直前において初めて提出されたものである\nから,その審理経過などからみても,時機に後れて提出された攻撃防御方法に当た
るものであることは明らかである。
そして,以上の経過に照らせば,争点の専門性を考慮しても,控訴人及び控訴人
訴訟代理人において,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出をよ
り早期に行うことが困難であったとは考えられないから,本件追加主張及び証拠は,
少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものと認められる。
これに対し,控訴人は,被控訴人が,平成28年11月4日付け被控訴人準備書
面(11)において,1)Raman分析(乙32,33)では,蛍光体1粒子のみを測
定しているため他の組成の蛍光体が含まれる可能性は排除されない,2)EPMAの
X−ray mapping分析(乙73,74)に関し「定量分析(濃度換算)」
はしていない,などの新たな事実が初めて開示されたことを理由として,控訴人第
14準備書面において総合的な反論を主張するに至った旨主張する。しかし,乙3
2号証及び乙33号証は,原審において被控訴人から提出された分析結果報告書で
あり,また,乙73号証及び乙74号証は,平成27年12月21日の口頭弁論期
日において提出された分析結果報告書であることに加え,上記各書証の内容等を考
慮すれば,控訴人が主張する各事実について控訴人が確信するに至らなかったとし
ても,より早期の段階で,本件追加主張及び証拠(控訴人177ないし187)の
提出をすることができたものと認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用
することができない。
そして,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)について審理をするこ
とになれば,被控訴人の反論を要するとともに,EPMA分析等に関し,さらなる
分析をするなどの追加の書証提出等が必要となり,審理を継続する必要があること
は容易に推測することができ,このような手続を行わないままに本件の審理を終結
することはできないといわざるを得ないから,本件追加主張及び証拠(甲177な
いし187)の提出は,本件訴訟の完結を遅延させることも明らかである。
したがって,控訴人の本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出は,
時機に後れて提出された攻撃防御方法として却下することが相当である。
◆判決本文
◆関連事件です。平成27(行ケ)10163
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2017.02.10
平成28(行ケ)10088 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年2月8日 知的財産高等裁判所
知財高裁(3部)は、第1次判決の拘束力が及ばない、新規事項であるとした審決は妥当と判断しました。
事情が複雑です。本件特許出願について、第1次審決で補正要件違反(新規事項)と判断され、知財高裁にて、それが取り消されました(第1次判決 平成26年(行ケ)第10242号)。審理が再開されましたが、審判官は、再度補正要件違反(新規事項)として判断しました。理由は、現出願である実案出願に開示がなかった技術的事項を導入しているというものです。
以上を前提に,本件実用新案登録の当初明細書等と本願明細書等の記載事
項を比較すると,次のとおり,本願明細書等には,本件実用新案登録の当初
明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係に
おいて,明らかに新たな技術的事項を導入するものというべき記載が認めら
れる。
ア 本願明細書等の請求項1の(3)ないし(15)に関する事項
本願明細書等に記載がある,シュレッダー補助器について,材質がプラ
スチック製であること(請求項1の(3)及び(9)),色が透明である
こと(同(11)),横幅が約35cmであること(同(8))の各事項
について,本件実用新案登録の当初明細書等には明示の記載がなく,また,
本件実用新案登録の出願時において,これらの記載事項が技術常識であっ
たとも認められない。
また,シュレッダー補助器に埋め込まれた金属製爪部分及びこれに関す
る記載事項(同(4)ないし(7),(10),(12)ないし(15))
については,本件実用新案登録の当初明細書等において,そのような爪部
分の存在自体が明らかでない。
したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て
の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら
かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
イ 本願明細書等の図1及び図2並びに段落【0010】の図1及び図2に
関する事項
本願明細書等の図1(シュレッダー補助器の横断面図)及び図2(シュ
レッダー補助器の正面図)並びに段落【0010】の図1及び図2に関す
る寸法については,本件実用新案登録の当初明細書等には記載も示唆も一
切認められない。これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全
ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明
らかに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
ウ 本願明細書等の段落【0010】の図3及び図4に関する事項
本願明細書等の段落【0010】には,図3の寸法に関し,「(ム)シ
ュレッダー補助器の下部外幅は6mm,」と記載され,「(ヤ)シュレッダ
ー補助器が挿入し易いよう,傾斜角を,シュレッダー機本体の水平面から
測って85度とし,」と記載されている。しかしながら,本件実用新案登録
の当初明細書等の対応する図1においては,シュレッダー補助器の下部外
幅は5mmと異なる数値が記載されており,また,傾斜角については記載
も示唆も認められない。
また,本願明細書等の段落【0010】には,図4の寸法に関し,「(
ヨ)シュレッダー補助器の横幅約35cm,」と記載されている。しかし
ながら,本件実用新案登録の当初明細書等には,この点についての記載も
示唆も認められない。
したがって,これらの事項は,本件実用新案登録の当初明細書等の全て
の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,明ら
かに新たな技術的事項を導入するものというべきである。
(5) 以上のとおりであるから,本願明細書等に記載した事項は,本件実用新案
登録の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。
したがって,本願について出願時遡及を認めることはできないから,本願
は,平成18年8月24日(本件実用新案登録に係る実用新案登録出願の時)
に出願したものとみなすことはできないとした本件審決の判断に誤りはなく,
本願出願の時は,本願出願の現実の出願日である平成20年10月10日と
なる。
(6) これに対し,原告は,本件実用新案登録は,出願時と同一のものであると
認められたからこそ,登録になったのであり,原告は,本願において,その
登録になったものと同一のものを,そのまま(変更せずに)特許出願したに
すぎないから,出願時遡及を認めないのは誤りであると主張する。
しかしながら,実用新案登録制度は,考案の早期権利保護を図るため実体
審査を行わずに実用新案権の設定の登録を行うものであるため,補正により
新規事項が追加され,無効理由を胚胎した出願であっても,実用新案権の設
定の登録はされ得る。そして,このような新規事項が追加されて実用新案登
録になった明細書等と同一のものに基づいて特許出願をした場合,特許出願
の当初明細書等も実用新案登録出願の当初明細書等に対して新規事項が追加
されたものになるから,その後の補正により新規事項が解消されない限り,
出願時遡及は認められないことになる。すなわち,実用新案権の設定の登録
は,登録時の明細書等が実用新案登録出願の当初明細書等と同一でなくとも
され得るから,実用新案登録になった明細書等と同一のものをそのまま用い
て特許出願をしたとしても出願時遡及が直ちに認められるものではない。し
たがって,上記原告の主張はその前提を欠くものであって失当である。
また,原告は,本件実用新案登録の出願後,登録になるまでに何度も手続
補正をしているが,それは,いずれも被告側の指示(手続補正指令書)に従
って手続補正書を提出したものであり,被告側の指示に従って手続補正を繰
り返した結果,ようやく登録が認められたにもかかわらず,本件実用新案登
録の出願時のものとは異なるという理由で,出願時遡及を認めないのは理不
尽であるとも主張する。
しかしながら,証拠(甲2の1,4,6,8の1,8の2,11)によれ
ば,手続補正指令書による被告の補正命令は,いずれも実用新案法6条の2
第1号又は第4号に関するものであって,補正後の明細書等の具体的内容を
指示したものではない。また,各手続補正指令書において,その都度,補正
した事項が出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるように十分\n留意する必要がある旨の注意喚起もなされている(更に付け加えれば,出願
手続には専門知識が要求されるので,専門家である弁理士に相談することの
促しもなされている。)。
それにもかかわらず,本件実用新案登録の登録時における明細書等の内容
が,新規事項の追加によって出願時のそれと異なるものとなり,その結果,
特許法46条の2第2項による出願時遡及が認められないこととなったのは,
原告自身の責任によるものというほかない。したがって,上記原告の主張も
また失当である。
◆判決本文
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2017.01.25
平成28(行ケ)10087 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年1月17日 知的財産高等裁判所
審判では審理されていない従たる引用例を主たる引用例とし,主たる引用例との組合せによる容易想到性について取消審判で判断することについて、知財高裁(4部)は「当事者双方が,・・・本件訴訟において審理判断することを認め・・・・紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する」のが相当であると判断しました。
ア 引用例2を主たる引用例とする主張の可否について
特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった
公知事実を主張することは許されない(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51
年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。
しかし,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発
明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公
知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合せにつき審決と異なる主張
をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超
えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許
されないとすることはできない。
前記のとおり,本件審決は,1)引用発明1を主たる引用例として引用発明2を組
み合わせること及び2)引用発明3を主たる引用例として引用発明1又は2を組み合
わせることにより,本件特許発明を容易に想到することはできない旨判断し,その
前提として,引用発明2についても認定しているものである。原告は,上記1)及び
2)について本件審決の認定判断を違法であると主張することに加えて,予備的に,\n引用発明2を主たる引用例として引用発明1又は3を組み合わせることにより本件
特許発明を容易に想到することができた旨の主張をするところ,被告らにおいても,
当該主張について,本件訴訟において審理判断することを認めている。
引用発明1ないし3は,本件審判において特許法29条1項3号に掲げる発明に
該当するものとして審理された公知事実であり,当事者双方が,本件審決で従たる
引用例とされた引用発明2を主たる引用例とし,本件審決で主たる引用例とされた
引用発明1又は3との組合せによる容易想到性について,本件訴訟において審理判
断することを認め,特許庁における審理判断を経由することを望んでおらず,その
点についての当事者の主張立証が尽くされている本件においては,原告の前記主張
について審理判断することは,紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する
のが相当である。
なお,本判決が原告の前記主張について判断した結果,請求不成立審決が確定す
る場合は,特許法167条により,当事者である原告において,再度引用発明2を
主たる引用例とし,引用発明1又は3を組み合わせることにより容易に想到するこ
とができた旨の新たな無効審判請求をすることは,許されないことになるし,本件
審決が取り消される場合は,再開された審判においてその拘束力が及ぶことになる。
イ 相違点について
前記(4)イのとおり,引用発明2において,「有色塗装層」は装飾上,必須のもの
である。また,引用発明2において,「有色塗装層」の形成対象は,釣竿又はゴル
フシャフトに特定されている。
したがって,本件特許発明1と引用発明2との相違点は,「本件特許発明1は,
基材を透光性を有する透明又は半透明とし,基材の表裏に金属被膜層を形成すると\nともに,金属被膜層の一部にレーザー光を照射することにより剥離部を表裏面で対\n称形状に設けるのに対して,引用発明2は,釣竿又はゴルフシャフトにおいて,有
色塗装層を形成された基材の片面に金属被膜層を形成する際にマスキング処理を行
って剥離部を設ける」ものと認められる。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 前記(4)イのとおり,引用発明2は有色塗装層を必須の構成とするのである\nから,引用発明2に,全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材を有す
る引用発明1を組み合わせることには阻害要因が認められる。さらに,引用発明2
は,管状の部材の装飾に係るものであって,金属層を管の内側と外側の両面に設け
ることは,相応の困難を伴うというべきである。
(イ) また,引用発明3は,前記(5)イ(イ)のとおり,レーザー光を透過し得るよ
うな基板の表裏を有するのであるから,有色塗装層を必須の構\成とする引用発明2
に対し,引用発明3を組み合わせることには阻害要因があると認められる。
◆判決本文
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