2018.12. 6
平成29(ネ)10055 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審で新規性違反の証拠が提出されて、原審の判断が取り消されました。なお、証拠の提出が遅れたことについては、時機に後れた攻撃防御には該当するが、訴訟の完結を遅延させるとはいえないと判断されました。
争点2−3−1(時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て)について
ア 証拠(甲4,乙69の4・5)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らは,
被控訴人外1名を原告,控訴人ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件に
おいて,当該事件の原告訴訟代理人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東
京地方裁判所に証拠として提出した乙69の4及び証拠説明書として提出した乙6
9の5を,その頃受領していること,乙69の5には,乙69の4の説明として,
「被告シンワのチラシ(2006年用)(写し)」,作成日「2006(平成18)
年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業
した事実を立証する。」旨記載されていることが認められる。
したがって,控訴人らは,平成19年5月22日頃には,乙69の4・5の存在
を知っていたものと認められる。
イ 控訴人らは,控訴人シンワ代表者Aが,平成21年1月13日〜19日,\n控訴人シンワが平成17年7月6日〜8日頃に噴火湾の漁民らにサンプルを示して
本件明細書等の図8(a)と同一形状の製品を販売していたことにつき,陳述書(乙
38の1〜13)を集め,控訴人進和化学工業の代表者であった故Eに送付したと\n主張している。
上記主張によると,控訴人らは,平成21年1月頃には,上記陳述書の存在を
知っていたものと認められる。
ウ 本件は,平成28年6月24日に東京地方裁判所に提訴され,平成29
年1月26日に口頭弁論が終結され,その後和解協議が行われたところ,上記ア,
イの事実によると,控訴人らは,無効理由3(新規性欠如)に係る抗弁を,遅くと
も平成29年1月26日までに提出することは可能であったといえるから,これは\n「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当する
ことが認められる。
しかし,控訴人らは,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成29年8月3日)
において,控訴人シンワは,本件特許が出願されたとみなされる日より前に,本件
各発明の構成要件を充足する製品を販売したので,本件特許は新規性を欠く旨の主\n張をしたものであって,上記期日において,次回期日が指定され,更なる主張,立
証が予定されたことからすると,この時点における上記主張により,訴訟の完結を\n遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとは認められない。
エ したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認められない。\n
(3) 争点2−3−2(新規性欠如)について
ア(ア) 前記(2)アのとおり,控訴人らは,被控訴人外1名を原告,控訴人ら
外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,当該事件の原告訴訟代理
人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出し
た乙69の4及び証拠説明書として提出した乙69の5を,その頃受領しているこ
と,乙69の5には,乙69の4の説明として,「被告シンワのチラシ(2006
年用)(写し)」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載され
ていることが認められるところ,乙69の4には,「2006年販売促進キャン
ペーン」,「キャンペーン期間 ・予約5月末まで ・納品5月20日〜9月末」,
「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色 抜落防止対策品」,「サンプル価格」,
「早期出荷用グリーンピン 特別感謝価格48000円」などの記載があり,複数
の種類の「つりピン」が添付されており,その中には,5本のピンが中央付近にお
いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を
2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色
と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。
上記「つりピン」の形状は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月
22日に,乙69の4とともに,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地
方裁判所に証拠として提出した乙69の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止
対策品」として記載されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致してい
ると認められる。乙69の3は,乙69の4と同じ証拠説明書による説明を付して,
提出されたものであり,「2006年度 取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シ
ンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。
また,乙69の4は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日
に,乙69の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)(写し)」,作成日
「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原
告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付し
て,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出した乙69の
1と,レイアウトが類似しているところ,乙69の1には,「2005年開業キャ
ンペーン 下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会
社シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造
いたします。」などの記載がある。
以上によると,乙69の3及び4は,いずれも,控訴人シンワが,被控訴人の顧
客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被控訴人が入手し,
控訴人シンワらが,被控訴人の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして,
上記事件において,提出したものであると認められる。
そして,乙69の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月
20日〜」と記載されていることからすると,乙69の4と同じ書面が,平成18
年5月20日以前に,控訴人シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客
に配布されていたことを推認することができる。
(イ) また,前記(ア)の認定事実及び弁論の全趣旨によると,乙69の4に
記載されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対
の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通す
る形で連結された形状のものは,控訴人シンワにより見込み客に配布されていた前
記(ア)の乙69の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。
(ウ) 前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の
1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連
通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部
の形状が,乙69の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し,
本件明細書等の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,本件明細
書の図8(a)記載の形状と一致している。
そして,本件明細書等の図8(a)は,本件各発明に係るロール状連続貝係止具
の実施の形態として記載されたものである。
(エ) そうすると,前記(ア)及び(イ)の5本の「つりピン」が中央付近にお
いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を
2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1
の構成要件1A〜Hにある形状をすべて充足する。そして,証拠(乙69の1〜5)\n及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされ
ていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に
巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,乙\n69の4に記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件1A〜Hを,す\nべて充足すると認められる。
また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接
した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープ
との関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの
直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件である2Aも充足すると認められ\nる。
さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上
記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件である3A\n及び3Bも充足すると認められる。
(オ) そうすると,本件発明1〜3は,本件特許が出願されたとみなされ
る日である平成18年5月24日よりも前に日本国内において公然知られた発明で
あったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。
イ 被控訴人は,乙69の4につき,平成19年5月22日に手元にあった
ことを認めつつ,誰が,いつ,どこで入手したのかは記憶がなく,控訴人ら提出の
証拠によって,本件特許が出願されたとみなされる日前にこれが配布されていたこ
とが立証されたとはいえないと主張する。
しかし,乙69の5に記載された立証趣旨に鑑みると,平成19年5月22日当
時,被控訴人は,乙69の4が控訴人シンワにより被控訴人の得意先への営業に用
いられたと認識していたことが認められるのであって,被控訴人がそれ以前にその
顧客から原本又は写しを入手したものと認められる。
乙69の4の記載内容に,販売の申出のためのチラシとして不自然なところはな\nく,上記のとおり,その記載内容によって,平成18年5月20日以前にこれが控
訴人シンワにより見込み客に配布されたことが推認される。
被控訴人は,平成18年5月24日以前に乙69の4のピンと同様の形状のピン
が見込み客に配布されたことを裏付けるものとして控訴人らが提出した陳述書等の
書証の成立及び信用性について主張するが,乙69の4が上記の東京地方裁判所に
おける事件において平成19年5月22日に上記のとおり被控訴人から提出された
ことは動かし難い事実であり,被控訴人がその成立又は信用性を争うその他の書証
が存在しなくとも,前記アのとおりの認定をすることができる。また,被控訴人が
その成立又は信用性を争う書証は,前記アの認定と矛盾するものではなく,むしろ,
間接的にこれを裏付けるものということができる。そして,これらに記載された供
述内容について,矛盾や曖昧な点があるとしても,それらは記憶の希薄化等により
起こり得ることであって,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し得る前記
アの事実の認定を左右するに足りるものではない。さらに,特許庁における控訴人
シンワ代表者A,証人C,証人Iの各供述(乙146)についても,同様に,矛盾\nや曖昧な点や変遷があるとしても,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し
得る前記アの事実の認定を左右するに足りるものではない。
◆判決本文
原審はこちらです。
◆平成28(ワ)20818
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2018.10. 4
平成30(ネ)10044 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年9月26日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審の第1回準備書面における訂正の再抗弁が、時機に後れた攻撃防御と判断されました。
当裁判所は,平成30年8月8日の当審の第1回口頭弁論期日において,
控訴人が同月3日付け準備書面(1)に基づいて提出した,特許請求の範囲の訂
正により無効理由が解消されることを理由とする訂正の再抗弁の主張につ
いて,被控訴人の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものと\nして却下したが,その理由は,以下のとおりである。
ア 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
(ア) 本件特許に係る侵害訴訟と特許無効審判
控訴人は,平成28年8月12日,被控訴人に対し,本件特許権に基
づき,被告製品の販売の差止め等及び損害賠償を求める本件訴訟を提起
した後,カシオ計算機株式会社(以下「カシオ計算機」という。)に対
し,本件特許権に基づき,2次元コードリーダの販売の差止め等及び損
害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成28年(ワ)第32038号。
以下「別件侵害訴訟」という。)を提起した。
その後,米国法人のハネウェル・インターナショナル・インク(以下
「ハネウェル社」という。)は,平成29年8月3日,本件特許につい
て,「IT4400(公然実施コードリーダ)」の発明などを主引用例
とする進歩性欠如の無効理由(特許法29条2項,123条1項2号)
が存在することを理由として,特許無効審判(無効2017−8001
03号。以下「別件無効審判」という。)を請求した。
(イ) 本件訴訟の経緯
a 原審における経緯
被控訴人は,平成28年12月26日の原審第2回弁論準備手続期
日において,同月20日付け準備書面(3)に基づいて,乙5を主引用例
とする進歩性欠如,サポート要件違反,明確性要件違反及び実施可能\n要件違反の無効理由が存在するとして,特許法104条の3第1項の
規定に基づく無効の抗弁(以下「無効の抗弁」という。)を主張した。
その後,被控訴人は,平成29年7月25日の原審第6回弁論準備
手続期日において,同月7日付け準備書面(8)に基づいて,IT440
0に係る発明を主引用例とする進歩性欠如の無効理由が存在するとし
て,新たな無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)を主張し
た。
原審は,合計11回の弁論準備手続期日を経て,平成30年2月1
4日の第2回口頭弁論期日において口頭弁論を終結した。控訴人は,
原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に対し,訂正の再抗弁
を主張しなかった。なお,控訴人は,原審の口頭弁論終結前に,本件
訴訟のうち,被告製品の販売の差止め等請求に係る部分について訴え
の取下げをし,被控訴人は,これに同意した。
原審は,平成30年4月13日,本件無効の抗弁は理由があるもの
と認め,控訴人の請求を棄却する旨の原判決を言い渡した。
b 当審における経緯
控訴人は,平成30年4月19日,本件控訴を提起した。当審の第
1回口頭弁論期日は同年8月8日と指定され,控訴理由書の提出期限
は同年6月8日(控訴提起日から50日後の応当日)と定められた。
控訴状等の送達後,控訴理由書に対する被控訴人の準備書面の提出期
限は同年7月26日と定められた。
控訴人は,同年6月8日,控訴理由書を提出し,被控訴人は,同年
7月26日,控訴答弁書及び同日付け準備書面(1)を提出した。なお,
控訴人は,控訴理由書において,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗
弁を主張しなかった。
その後,控訴人は,同年8月4日,同月3日付け準備書面(1)を提出
した。上記準備書面(1)には,被控訴人作成の上記準備書面(1)に対する
反論のほか,1)控訴人が,別件無効審判において,「IT4400(公
然実施コードリーダ)」の発明を主引用例とする進歩性欠如の無効理
由は理由があるから,本件発明についての本件特許を無効とする旨の
同年7月9日付けの審決の予告(以下「別件審決の予\告」という。)
を受けた旨,2)控訴人が,別件無効審判において,同月31日付けで,
本件特許の特許請求の範囲(請求項1及び2)の訂正を求める訂正請
求(以下「別件訂正請求」という。訂正後の請求項1は,別紙3のと
おり。)をした旨,3)当審において,別件訂正請求と同内容の訂正に
よる本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁(以下「本件訂正の再抗弁」
という。)を主張する旨の記載がある。
同年8月8日の当審第1回口頭弁論期日において,控訴人は,上記
の同月3日付け準備書面(1)に基づいて,本件訂正の再抗弁を主張し,
これに対し被控訴人は,同月7日付け準備書面(2)に基づいて,控訴人
の本件訂正の再抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるも
のであるから,却下を求める旨の申立てをするとともに,本件訂正の\n再抗弁の主張が却下されない場合には,追って追加反論する予定であ\nる旨を述べた。
(ウ) 別件侵害訴訟における経緯
東京地方裁判所は,平成29年11月9日,別件侵害訴訟の口頭弁論
を終結し,平成30年1月30日,控訴人のカシオ計算機に対する請求
をいずれも棄却する旨の判決(乙80)を言い渡した。
上記判決の理由は,カシオ計算機が主張したIT4400により実施
(公然実施)された発明を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁(本
件無効の抗弁と同じ抗弁)は理由があると判断したものである。なお,
控訴人は,別件侵害訴訟の口頭弁論終結時までに,上記無効の抗弁に対
し,訂正の再抗弁を主張しなかった。
その後,控訴人は,別件侵害訴訟の上記判決を不服として,控訴を提
起した。
(エ) 別件無効審判における経緯
控訴人は,平成29年11月3日,別件無効審判において,ハネウェ
ル社主張の無効理由に対する答弁書を提出した。
その後,特許庁は,平成30年4月23日に口頭審理を行った後,同
年7月9日付けで,「IT4400(公然実施コードリーダ)」の発明
を主引用例とする進歩性欠如の無効理由は理由があるから,本件発明に
ついての本件特許を無効とする旨の別件審決の予告(甲24)をした。\nこれに対し控訴人は,同月31日付けで,別件訂正請求(甲25の1
及び2)をした。
イ 前記アの事実関係によれば,1)控訴人は,原審において,平成29年7
月25日の原審弁論準備手続期日において被控訴人から本件無効の抗弁
が主張され,別件侵害訴訟及び別件無効審判においても,本件無効の抗弁
と同じ無効の抗弁又は無効理由が主張され,さらに,平成30年1月30
日に別件侵害訴訟において上記無効の抗弁を容れた請求棄却判決の言渡
しがされたが,同年2月14日の原審口頭弁論終結時までに本件無効の抗
弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったこと,2)その後,同年4月13
日に本件無効の抗弁を容れた原判決がされたが,控訴人は,控訴理由書提
出期限の同年6月8日に提出した控訴理由書においては本件無効の抗弁
に対する訂正の再抗弁を主張せず,その後同年7月26日に被控訴人から
控訴理由書に対する反論の準備書面が提出された後,当審第1回口頭弁論
期日(同年8月8日)の4日前の同月4日になって初めて,本件訂正の再
抗弁の主張を記載した準備書面(準備書面(1))を提出したことが認められ
る。
一方で,控訴人において,当審第1回口頭弁論期日の4日前になるまで,
本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったことについて,や
むを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。
もっとも,控訴人は,別件無効審判において,平成29年11月3日に
本件無効の抗弁と同じ無効理由を含むハネウェル社主張の無効理由に対す
る答弁書を提出した後,平成30年7月9日付けの別件審決の予告を受け\nるまでは,特許法126条2項,134条の2第1項の規定により,本件
無効の抗弁と同じ無効理由を解消するための訂正審判の請求又は別件無効
審判における訂正の請求をすることが法律上できなかったものである。し
かしながら,このような事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再
抗弁を主張するために,現にこれらの請求をしている必要はないというべ
きであるから(最高裁平成28年(受)第632号平成29年7月10日
第二小法廷判決・民集71巻6号861頁参照),当該事情は,特段の事
情に該当しないというべきである。
そして,無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の主張は,本来,原審におい
て適時に行うべきものであり,しかも,控訴人は,当審において,遅くと
も控訴理由書の提出期限までに訂正の再抗弁の主張をすることができたに
もかかわらず,これを行わず,第1回口頭弁論期日の4日前になって初め
て,本件訂正の再抗弁の主張を記載した準備書面を提出したのであるから,
本件訂正の再抗弁の主張は,控訴人の少なくとも重大な過失により時機に
後れて提出された攻撃防御方法であるものというべきである。
また,当審において,控訴人に本件訂正の再抗弁を主張することを許す
ことは,被控訴人に対し,訂正の再抗弁に対する更なる反論の機会を与え
る必要が生じ,これに対する控訴人の再反論等も想定し得ることから,こ
れにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,控訴人の本件訂正の再抗弁の主張は,民事訴訟法297条にお
いて準用する157条1項に基づき,これを却下したものである。
◆判決本文
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2018.07.24
平成29(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年7月19日 知的財産高等裁判所
ゲームに関する特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。審決では、公知技術+周知で無効と主張していたのを、公知技術+公知で無効と主張変更することは認められませんでした。
原告は,本件審決が甲8発明に相違点1に係る構成が記載されていると認\n定しながら,公知発明(主引用発明)と甲8発明の組合せによる本件発明1
及び8の容易想到性の有無を判断していない点において,判断遺漏の違法が
ある,と主張する。
しかしながら,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合
わせる技術が公知発明における一部の構成か,あるいは,周知技術であるか\nによって,通常,論理付けを含む発明の容易想到性の判断における具体的な
論理構成が異なることとなるから,たとえ公知技術や周知技術認定の根拠と\nなる文献が重複するとしても,上記二つの組合せは,それぞれ異なる無効理
由を構成するものと解するのが相当である。\n
しかるところ,本件審判手続において,原告は,「本件発明1及び8は,
公知発明及び周知技術Y1に基づいて,当業者が容易に発明できた」という
無効理由1−2の主張に関連して,「キャラクタの置かれている状況に応じ
て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が「周知技術」である
と主張し,その根拠の一つとして甲8発明の内容を主張立証するにとどまっ
ており,更に進んで,動機付けを含む公知発明と甲8発明それ自体との組合
せによる容易想到性については一切主張していない。
そうすると,原告が本件訴訟において主張する無効理由(公知発明と甲8
発明の組合せによる容易想到性)は,本件審判手続において主張した無効理
由1−2(公知発明と甲8発明を含む周知技術Y1の組合せによる容易想到
性)とは異なる別個独立の無効理由に当たるというべきである。
したがって,本件審決が,公知発明と甲8発明との組合せによる容易想到
性について判断していないとしても,本件審決の判断に遺漏があったとは認
められない。
(2) これに対し,原告は,審判において審理された公知事実に関する限り,複
数の公知事実が審理判断されている場合に,その組合せにつき審決と異なる
主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対
比の枠を超えるということはできず(知財高裁平成28年(行ケ)第100
87号同29年1月17日判決),甲8発明の内容については本件審決にお
いて具体的に審理されていることから,被告による防御という観点からも問
題はなく,また,紛争の一回的解決の観点からも,公知発明と甲8発明の組
合せによる容易想到性を本件訴訟において判断することは許される,と主張
する。
しかしながら,この主張が,本件審決の手続上の違法(判断の遺漏)を主
張するものではなく,実体判断上の違法(進歩性の判断の誤り)を主張する
ものであるとしても,本件審判手続において,甲8発明の内容を個別に取り
上げて公知発明に適用する動機付けの有無やその他公知発明と甲8発明の組
合せの容易想到性を検討することは何ら行われていない。したがって,かか
る組合せによる容易想到性の主張は,専ら当該審判手続において現実に争わ
れ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するものとはいえないから,
本件審決の取消事由(違法事由)としては主張し得ないものである(最高裁
昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2
号79頁〔メリヤス編機事件〕参照)。
なお,原告が指摘する上記知財高裁判決は,審判手続で主張されていない
引用例の組合せについて,審決取消訴訟において審理判断することを当事者
双方が認め,なおかつ,その主張立証が尽くされている事案であるから,本
件訴訟とは事案を異にするというべきである。
また,原告は,特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」の意義に
ついて,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して広
く解釈されてしまうと,本件審決が確定した後に公知発明と甲8発明の組合
せによる容易想到性を争うことが同条により許されないと解釈されるおそれ
があり(知財高裁平成27年(行ケ)第10260号同28年9月28日判
決),その場合,原告による本件特許の無効を争う機会を奪うことになり不
当であるから,本件訴訟で公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性に
関する本件審決の判断の遺漏及び違法を争うことは許される,とも主張する。
しかしながら,本件審判手続においても,本件訴訟手続においても,公知
発明と甲8発明の組合せによる容易想到性という無効理由の有無については
何ら審理判断されていないのであるから,特許法167条の「同一の事実及
び同一の証拠」に当たるということはないというべきである。
(3) 以上によれば,本件訴訟手続において,公知発明と甲8発明の組合せによ
る本件発明1及び8の容易想到性を判断することは許されないというべきで
ある。
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2018.07.19
平成29(ワ)14142 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月28日 東京地方裁判所(47部)
Appleに対する特許侵害訴訟です。裁判所は新規性違反の無効理由ありとして、請求棄却しました。また、口頭弁論の再開申し出も、原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったとして認めませんでした。
乙8文献の段落【0053】「検知器32は,感圧方式,電磁誘導方式,
静電容量方式等のセンサにより,ユーザが検知器32に触れたこと,及び,
離れたことを検知することができる。」及び【0056】「ユーザ側に板状
の検知器32が配置され,ユーザが指で触れた操作をその位置と共に検知す
ることができるようになっている。」との記載によれば,乙8文献には,構\n成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直\n接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」及び構成要件B「前記オ\nブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,」の\n各構成が開示されているといえる。\nまた,乙8文献の段落【0061】の「オンルートスクロールというのは,
経路上を移動する点(移動点)を表示面上の基準点に一致させた地図をスク\nロールさせるものである」,段落【0073】の「ユーザから見れば「指で
触れている自車位置マークCが移動(スクロール)を開始し,経路関連情報
の存在する地点に自車位置マークCが到達したため,自車位置マークCが振
動する」というように感じることができ」との各記載に併せて図7の記載も
考慮すれば,乙8文献記載の発明(図7から認定される発明)は,「地図」
(本件発明の「表示対象以外」に相当)が移動すること(本件発明の「表\示
態様を変更」に相当)で,あたかも「自車位置マーク」(本件発明の「表示\n対象」に相当)が移動しているように見えるよう制御されているといえる。
したがって,乙8文献には,構成要件C「前記位置入力手段にて検出された\n位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,」,構\成要件D「前記力入力検出
手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表\示態様を
変更することにより,」及び構成要件E「当該表\示対象を相対的に変更さ
せ,」の各構成が開示されているというべきである。\nさらに,乙8文献の段落【0065】には,「検知器32は未検知状態に
あると判定した場合に進むS140では,オンルートスクロールを一旦停止
し,上述したS105に処理を戻す」と記載されていることから,乙8文献
記載の発明においても,「自車位置マーク」に対する「地図」の変更結果を
記憶部に記憶していることは自明のことというべきである。したがって,乙
8文献には,構成要件F「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として
記憶部に記憶させる変更手段と,」の構成が開示されているといえる。\nまた,乙8が情報処理装置(構成要件G)を開示していることは明らかで\nある。
以上によれば,乙8文献に記載された発明と本件発明とは同一であると認
められる。
原告の主張について
ア これに対し,原告は,本件明細書の段落【0039】には,表示画面へ\nの接触による力の有無を検出する手段が記載されているが,当該手段は,
表示画面に加えられた力の有無を間接的に検出する手段であって,乙8文\n献に開示されている単なる接触の有無を検出する手段とは異なるから,乙
8文献には,本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触した
オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段
と,」(ひいては構成要件D及びFも)の構\成が開示されていない旨主張
する。
イ 本件明細書の段落【0039】には,次の記載がある。
「なお,上記のように検出装置112が機械的に直接,摩擦力または押
下力を検出することに限られず,間接的に摩擦力または押下力が検出され
てもよい。例えば,後述する制御部102が,タッチパネルへの接触によ
る入力位置の占める領域が,所定の形状から変化した場合に,所定の摩擦
力を検出してもよい。(判決注:中略)また,検出装置112は,表示画\n面への接触による力の強さを検出することに限られず,表示画面への接触\nによる力の有無を検出してもよい。この場合,表示画面に対して非接触の\n場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,表示画面に\n対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとし
て検出してもよい。」
ウ 原告が主張するように,上記段落【0039】の記載が,「力の強さ又
は有無を間接的に検出する手段」について述べたものであるとしても,該
「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例として,「表示画面\nに対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないもの
とし,表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力\nがあったものとして検出」する手段が記載されていることは明らかである。
エ そして,本件発明の構成要件Aは「表\示画面にスライドせずに接触した
オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段
と,」というものであるところ,そこにおいては,「力入力」の「検出」
に関し,それ以上に具体的な規定は何らされておらず,また,上記「力の
強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例である,「表示画面に対し\nて非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,
表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があっ\nたものとして検出」する手段を排除する格別な理由も見当たらないことか
らすれば,構成要件Aは,「表\示画面への接触・非接触による力の有無を
検出」することも含むと解すべきである。
オ したがって,乙8文献に開示されている接触の有無を検出する手段が,
本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触したオブジェクト
の力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」の構成\nと異なることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,
採用できない。
(4)小括
以上のとおり,乙8文献に記載された発明は本件発明と同一であるから,
本件特許には乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由が存すると認められる。
・・・
(なお,原告は,本件特許について訂正審判を請求したとして平成30年6月21日付けで口頭弁論の再開を申し立てたが,当裁判所は,原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったこと等を考慮して,口頭弁論を再開しない。)。
◆判決本文
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2018.06.28
平成29(ネ)10029 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年6月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審における訂正の再抗弁の主張について、時期に後れたとは判断されませんでした。ただ、訂正後のクレームについても進歩性無しと判断されました。
被控訴人は,本件再訂正に係る訂正審判請求等がされていないし,今後,
このような手続が可能であるとはいえないから,本件再訂正がされたこと\nを前提とする本件再訂正発明3に基づく権利主張はできないと主張する。
この点について検討するに,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時まで
に訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が
確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張し
なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,
特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法1
04条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。すな
わち,特許権侵害訴訟において,特許権者は,原則として,事実審の口頭
弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなければならない。(最高裁平成
29年7月10日第二小法廷判決・民集71巻6号861頁参照)。
本件についてみると,被控訴人は,平成29年8月7日の当審第2回口
頭弁論期日において,甲26(参考資料3)発明に周知技術である基板ア
ライナーを直接適用することによっても,相違点4に係る構成が容易に想\n到できるという,新たな組合せに基づく無効の抗弁を主張し,控訴人は,
これを踏まえて,同年10月11日の当審第3回口頭弁論期日において,
本件再訂正に係る訂正の再抗弁の主張をした(裁判所に顕著な事実)。そ
して,本件審決に係る審決取消訴訟は当裁判所に係属しており,控訴人は,
当審の口頭弁論終結時までに,本件再訂正に係る訂正審判請求等を法律上
することができなかった(特許法126条2項,134条の2第1項)。
そうすると,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手
続内で迅速にかつ一回的に解決することを図るという特許法104条の3
及び104条の4の各規定の趣旨に照らすと,本件の事実関係及び審理経
過の下では,被控訴人による新たな無効の抗弁に対する本件再訂正に係る
訂正の再抗弁を主張するために,現に本件再訂正に係る訂正審判請求等を
している必要はないというべきである。
また,仮に,本件審決に係る審決取消訴訟において,本件審決を取り消
す旨の判決がされ,これが確定した場合には,本件無効審判手続が再開さ
れるところ,この再開された審判手続等において,控訴人が本件再訂正に
係る訂正請求をすることができないとは直ちにいえない。
◆判決本文
対応する審取です。
◆平成28(行ケ)10250
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2018.05.16
平成29(ワ)5274 特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年4月26日 東京地方裁判所
不存在確認の訴訟について、訴えの利益無しと請求が却下されました。
原告はAppleです。
確認の訴えは,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が
存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切
な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号
同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。
・・・
本件において,原告らは,CM4社から全ての原告製品の供給を受けて
いるところ,被告クアルコムとCM4社との間にはCMライセンスが存在
し,本件特許権もその対象である(認定事実 )。
被告らは,これらの事実を認めた上で,このことを理由として,本件訴
訟において,一貫して被告らは原告らによる原告製品の生産,譲渡等に
つき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく
実施料請求権を有しないことを表明している。\nそして,上記アないしエのとおり,原告アップルと被告クアルコムとの
従前の交渉において,原告製品が本件特許権を侵害していると被告クア
ルコムが主張したことがあるとは認められないし,他の訴訟等において
も,被告クアルコムにおいて,被告らによる上記表明を矛盾する行動を\nとったことがあるとは認められない。その他,被告クアルコムにおいて,
原告アップルの有する権利又はその法律上の地位に危険,不安を生じさ
せる行動をとったことを認めるに足りる証拠はない。
これらを総合すれば,被告クアルコムとの関係において,原告アップル
の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不安があるとは認められ
ない。
◆判決本文
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2018.04.17
平成28年(行ケ)第10182号 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月13日 知的財産高等裁判所(特別部)
知財高裁大合議の判断です。「無効審判不成立の審決に対する取消の訴えの利益は,特許権消滅後であっても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失なれない。」および「刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定できない。」と判断しました。
本件審判請求が行われたのは平成27年3月31日であるから,審判
請求に関しては同日当時の特許法(平成26年法律第36号による改正前の特許法)
が適用されるところ,当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求
することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判
請求をすることができる旨を規定していた(なお,冒認や共同出願違反に関しては
別個の定めが置かれているが,本件には関係しないので,触れないこととする。こ
の点は,以下の判断においても同様である。)。
このような規定が置かれた趣旨は,特許権が独占権であり,何人に対しても特許
権者の許諾なく特許権に係る技術を使用することを禁ずるものであるところから,
誤って登録された特許を無効にすることは,全ての人の利益となる公益的な行為で
あるという性格を有することに鑑み,その請求権者を,当該特許を無効にすること
について私的な利害関係を有している者に限定せず,広く一般人に広げたところに
あると解される。
そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができる
のであるから(特許法123条3項),特許権の存続期間が満了したからといって,
特許無効審判請求を行う利益,したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決
に対する取消しの訴えの利益が消滅するものではないことも明らかである。
イ 被告は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する特許権の存続期
間満了後の取消しの訴えについて,東京高裁平成2年12月26日判決を引用して,
訴えの利益が認められるのは当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具
体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られる旨主張する。
しかし,特許権消滅後に特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの
訴えの利益が認められる場合が,特許権の存続期間が経過したとしても,特許権者
と審判請求人との間に,当該特許の有効か無効かが前提問題となる損害賠償請求等
の紛争が生じていたり,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係があることが認められ,当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が\n具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られるとすると,訴えの利
益は,職権調査事項であることから,裁判所は,特許権消滅後,当該特許の有効・
無効が前提問題となる紛争やそのような紛争に発展する可能性の事実関係の有無を調査・判断しなければならない。そして,そのためには,裁判所は,当事者に対し\nて,例えば,自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき,現に
紛争が生じていることや,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張することを求めることとなるが,このような主張\nには,自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構\成を有していること等,自己に不利益になる可能\性がある事実の主張が含ま\nれ得る。
このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは,相当ではない。
ウ もっとも,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にさ
れた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われた
り,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合,例えば,特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等\nには,もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいな
くなったことになるから,特許を無効にすることは意味がないものというべきであ
る。したがって,このような場合には,特許無効審判請求を不成立とした審決に対す
る取消しの訴えの利益も失われるものと解される。
エ 以上によると,平成26年法律第36号による改正前の特許法の下にお
いて,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許
権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,
損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。\nオ 以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段
の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。
(2) なお,平成26年法律第36号による改正によって,特許無効審判は,「利
害関係人」のみが行うことができるものとされ,代わりに,「何人も」行うことがで
きるところの特許異議申立制度が導入されたことにより,現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関\n係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。
しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な\n利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を
不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから,
訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問
題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損\n害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。\n
・・・
特許法29条1項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる
発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項3号とし
て,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発
明」を挙げている。同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明
に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受
けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受け
ることができないことを定めている。
上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許
出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の
発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には,
当業者が,出願時(又は優先権主張日。以下「3 取消事由1について」において
同じ。)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到するこ
とができたかどうかを判断することとなる。
このような進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明
(以下「主引用発明」といい,後記「副引用発明」と併せて「引用発明」という。)
は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象
とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の「刊行物に記載された
発明」については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明
をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行
物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして,当該刊
行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する
場合には,当業者は,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優
先的に選択すべき事情がない限り,当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る
具体的な技術的思想を抽出することはできない。
したがって,引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であ
って,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選
択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に
選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出す
ることはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当であ
る。
この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する他の同条 1 項3号所
定の「刊行物に記載された発明」(以下「副引用発明」という。)があり,主引用発
明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたか
どうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様で
ある。したがって,副引用発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行
物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場
合には,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択す
べき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出すること
はできず,これを副引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。
そして,上記のとおり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明
を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,1)主引用発明又は
副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総\n合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあ
るかどうかを判断するとともに,2)適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著\nな効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる。特許無効審判の審決に対する
取消訴訟においては,上記1)については,特許の無効を主張する者(特許拒絶査定
不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取\n消訴訟においては,特許庁長官)が,上記2)については,特許権者(特許拒絶査定
不服審判の審決に対する取消訴訟においては,特許出願人)が,それぞれそれらが
あることを基礎付ける事実を主張,立証する必要があるものということができる。
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2018.02.14
平成29(ワ)14909 不正競争 民事訴訟 平成30年1月23日 東京地方裁判所
WDSCという権利能力なき社団が原告という珍しいケースです。WDSCについて不競法2条1項1号の周知性は認められませんでした。
前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は昭和54年に発足
したこと(甲1),学研プラスが平成26年6月に発行した平成26年雑誌に
おいて本件原告広告記事と概ね同一内容の原告の広告記事が掲載されたこと,
平成26年雑誌は発行予定部数が10万部であったこと,平成26年12月3\n1日時点での歯科医師の数は10万3972人であること(乙A1),本件雑
誌発行時点における原告の会員は63名であること(甲1)が認められる。
原告は,「WDSC」の表示は原告の商品等表\示であって需要者の間で広く
認識されており,本件雑誌に掲載された本件各記事において被告Aが「WDS
C」の表示を自己の広告に使用したことが原告の商品等表\示を使用した不正競
争行為に該当する旨主張する。
本件雑誌は,「本気で探す 頼りになるいい歯医者さん 2016」という
題名の雑誌であって,表紙には「歯科治療の悩み&不安を解消!」という記載\nもあり,多くの歯科医師の紹介欄があり(甲1),歯科治療を受けることを考え
ている者を主たる読者とするものである。本件各記事は,いずれも歯科医師で
ある被告Aや被告Aが経営する歯科医院を紹介する記事である。これらからす
ると,本件における需要者は,歯科治療を受けることを考えている者といえる。
原告は,平成26年雑誌及び本件雑誌を購読した全国の読者が需要者である旨
主張するが,上記に照らし採用することができない。
そこで,歯科治療を受けることを考えている者の間で「WDSC」の表示が\n周知であったかについて検討すると,原告は,昭和54年の発足後,会員であ
る歯科医師らによる歯科医療に係る自主学習グループとして,定期的に勉強会
等を開催していたことがうかがわれる(甲1)。しかし,原告の会員数は全国の
歯科医師数の約0.06パーセントにすぎず,原告の会員を通じて「WDSC」
の表示が広く認識されていたとは認めることはできない。また,本件証拠上,\n本件雑誌が発行されるまで,原告が全国誌に取り上げられるなどして「WDS
C」の表示が歯科治療を受けることを考えている者に対して広く使用されたの\nは,平成26年雑誌において前記のとおりの記事が掲載されたのみであり(原
告は,「WDSC」の表示の周知性の根拠として本件雑誌のほか平成26年雑\n誌における原告に関する記事の存在のみを主張し,平成29年10月2日の弁
論準備手続期日において「WDSC」の表示の周知性について追加の主張を行\nう予定はない旨述べた。),同雑誌の現実の発行部数も明らかではない。原告は\n平成26年雑誌の発行予定部数10万部が発行されたと主張するが,これを認\nめるに足りる証拠はない。これによれば,平成26年雑誌によって「WDSC」
の表示に接した者は,本件の需要者のうちの限られた者である。\nこれらのことからすると,本件雑誌が発行された平成27年10月29日の
時点までに「WDSC」の表示が,原告の商品等表\示として全国の歯科治療を
受けることを考えている者の間で広く認識されていたと認めることはできな
い。
◆判決本文
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2018.02. 5
平成29(ネ)10072 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年1月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について非侵害であるとした1審判断が維持されました。なお、控訴審の控訴理由書で、均等の主張を追加しましたが、時期に後れた主張として、却下されました。
当裁判所は,当審の第1回口頭弁論期日において,民事訴訟法297条,1
57条1項に従い,上記均等侵害の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たる
ものとして却下した。その理由は次のとおりである。
すなわち,控訴人は,控訴理由書第2の部分(13〜21頁)において,構\n成要件1D,1F及び2Dに関し,原判決の「送信したとき」の文言解釈は明
らかに誤りであるが,仮に原判決のとおりに解釈したとしても,被控訴人サー
バが少なくとも本件各発明と均等なものとして,その技術的範囲に含まれるこ
とを予備的に主張するとして,新たに均等侵害の主張を追加した。\nしかしながら,前記のとおり,原審における争点整理の経過に鑑みれば,「送
信したとき」に関するクレーム解釈や被控訴人サーバの内部処理の態様如何に
よって構成要件充足,非充足の結論が変わり得ることは,控訴人としても当初\nから当然予想できたというべきであり,そうである以上,控訴人は,原審の争\n点整理段階で予備的にでも均等侵害の主張をするかどうか検討し,必要に応じ\nてその主張を行うことは十分可能\であったといえる(特許権侵害訴訟において
計画審理が実施されている実情を踏まえれば,そのように考えるのが相当であ
るし,少なくとも控訴人についてその主張の妨げとなるような客観的事情があ
ったとは認められない。)。
ところが,控訴人は,原審の争点整理段階でその主張をせず,また,第4回
弁論準備手続期日(平成29年2月14日)において乙25陳述書が提出され
た後も,その内容について特に反論することなく,第5回弁論準備手続期日(同
年3月23日)において「侵害論については他に主張・立証なし」と陳述し,
そのまま争点整理手続を終了させたものである。
しかるところ,控訴人が,上記のとおり当審に至り均等侵害の主張を追加す
ることは,たとえ第1回口頭弁論期日前であっても,時機に後れていることは
明らかであるし,そのことに関し控訴人に故意又は重大な過失が認められるこ
とも明らかといえる。
また,予備的にせよ,均等侵害の主張がされれば,均等の各要件についてそ\nれぞれ主張と反論を整理する必要が生じるのであるから,訴訟の完結を遅延さ
せることとなることも明らかである。
したがって,当裁判所は,上記のとおり,当審の第1回口頭弁論期日におい
て,かかる均等侵害の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却
下した次第である。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成28(ワ)14868
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2018.01.19
平成29(行ケ)10107 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成30年1月15日 知的財産高等裁判所(4部)
不使用による商標取消訴訟について、共有商標権者の一部が提訴しました。被告は固有必要的共同訴訟として訴えは不適切と主張しましたが、裁判所はかかる主張は認めませんでした。ただ、最終的に使用が証明できず、取消審決は維持されました。これは、登録商標を使用しているとはいえないというものです。登録商標は、漢字、かたかな、ひらがな、ローマ字表記を4段で書しており、使用していたのは、漢字のみを書したものでした。
被告は,原告といきいき緑健は,本件商標に係る商標権を共有するところ,原告
は,単独で本件審決の取消しを請求するから,本件訴えは不適法であると主張する。
しかし,いったん登録された商標権について,登録商標の使用をしていないこと
を理由に商標登録の取消審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起するこ
となく出訴期間を経過したときは,商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみ
なされることとなり,登録商標を排他的に使用する権利が消滅するものとされてい
る(商標法54条2項)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防
ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の1人が単独でもすることができるもの
と解される。そして,商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提起すること
ができるとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。
また,商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態
に陥る場合や,訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えら
れるところ,このような場合に,共有に係る商標登録の取消審決に対する取消訴訟
が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の1人が単独で提起した訴えは不適
法であるとすると,出訴期間の満了と同時に取消審決が確定し,商標権は審判請求
の登録日に消滅したものとみなされることとなり,不当な結果となりかねない。
さらに,商標権の共有者の1人が単独で取消審決の取消訴訟を提起することがで
きると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効
力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全
員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法
181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有
者の出訴期間の満了により,取消審決が確定し,商標権は審判請求の登録日に消滅
したものとみなされることになる(商標法54条2項)。いずれの場合にも,合一
確定の要請に反する事態は生じない。なお,各共有者が共同して又は各別に取消訴
訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべき
であるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。
以上によれば,商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の取消審決がされ
たときは,単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当で
ある(最高裁平成13年(行ヒ)第142号同14年2月22日第二小法廷判決・
民集56巻2号348頁参照)。
よって,原告は,単独で本件審決の取消しを請求することができる。被告の本案
前の抗弁は,理由がない。
・・・・
以上のとおり,甲1カタログ,甲2カタログ及び甲3雑誌は,いずれも要証期間
内に頒布されたものとは認められない。また,そもそも,本件商標は,「緑健青汁」,
「りょくけん青汁」,「リョクケン青汁」及び「RYOKUKEN AOJIRU」
の文字を4段に書して成るものであるのに対し,甲1カタログ,甲2カタログ及び
甲3雑誌に記載された商標は,「緑健青汁」の文字のみを書して成るものである。
このような本件商標と使用商標とは,商標法50条1項にいう「平仮名,片仮名及
びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ず\nる商標…その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」であると,直
ちに認めることはできない。
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2018.01.18
平成29(ネ)10027 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年12月21日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所
CS関連発明について、控訴審で差止請求が認められました。無効理由については「時機に後れた」として採用されませんでした。1審は、均等侵害も第1、第2、第3要件を満たさない、分割要件違反、および一部のクレームについてサポート要件違反があると判断していました。
引用発明1は,前記ア(イ)のとおり,「毎度の自動売買では自動売買テーブルでの
約定価より真下の安値の買取り及び約定価より真上の高値の売込みが同時に発注さ
れるよう設定されたものであって,それにより,先に約定した注文と同種の注文を
含む売込み注文と買取り注文を同時に発注することで,株価が最初の売買価の値段
の範囲から上下に変動する場合に,所定の収益を発生させることに加え,口座の残
高及び持ち株の範囲において,株の現在価を無視して株の値段への変動を一向に予\n測することなく,従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買い取り,買
取り値より株価が上がると所定量を売り込むこと」を特徴とするものである。
このように,引用発明1において,従前の株の買取り値より株価が下落すると所
定量を買い取り,買取り値より株価が上がると所定量を売り込む,という,連続し
た買取り又は売込みによる口座の残高又は持ち株の増大をも目的とするものである
から,このような設定に係る構成を,約定価と同じ価格の注文を含む注文を発注対\n象に含めるようにし,それを「繰り返し行わせる」設定に変更することは,「約定価
より真下の安値の買取り」及び「約定価より真上の高値の売込み」を同時に発注す
ることにより,「従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買取り,買取り
値より株価が上がると所定量を売込む」という,引用発明1の特徴を損なわせるこ
とになる。
そうすると,引用発明1を本件発明の構成1Hに係る構\成の如く変更する動機付
けあるといえないから,構成1Hに相当する構\成は,引用発明1から当業者が容易
に想到し得たものとはいえない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件発明1と引用発明1との相違点は,引用発明1が本件発明1の
構成1Fのうち「前記一の注文価格を一の最高価格として設定し」ていない点であ\nり,その余の点では一致していることを前提に,本件発明1は,引用発明1から容
易想到である,と主張する。
しかし,前記イのとおり,本件発明1と引用発明1とは,引用発明1が本件発明
1の構成1Hの構\成を有していない点について相違している。被控訴人の主張は,
その前提を欠き,理由がない。
・・・・
4 なお,被控訴人は,口頭弁論終結後に,本件発明1が無効とされるべきであ
ることが明白である事由があるとして,口頭弁論再開を申し立てるが,無効事由の\n根拠となるべき資料は10年以上前に作成されていたものであり,上記無効事由は,
被控訴人が重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法であって,
これによって訴訟の完結を遅延させることとなるから,却下されるべきものである
から,口頭弁論を再開しない。
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◆1審はこちらです。平成27(ワ)4461
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