2019.12.23
令和1(ネ)10053 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年12月18日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
共同研究契約書の「条件」が法的効果を伴うのかが争われました。知財高裁は、1審と同じく、契約等の締結を停止条件とする条件付契約であり契約の効力は発生していない、これと反する主張は、自白の撤回であると判断しました。
控訴人は,当審において,本件契約第25条にいう「条件」が法的効果を伴う
ものであることを争い,仮に,法的効果を伴うとしても,解除条件を定めたものと
みるべきであると主張して,それが契約の効力の発生に係る停止条件であることを
争い,さらに,停止条件を定めたものであるとしても,本件においては,その条件が
成就していると主張する。
これに対し,被控訴人は,原審における経緯を踏まえると控訴人が上記のように
主張することは,自白の撤回に当たり,許されず,民訴法2条所定の信義誠実義務
にも反するとして,その適否を争う。
(2) 本件記録によれば,本件の審理の経過について,以下の事実が認められる。
ア 控訴人は,平成29年3月17日,弁護士Aに委任して,ハリマ化成グルー
プ及び被控訴人を被告として,本件訴えを提起した。
イ 訴状における請求原因は,(1)ハリマ化成グループの役員が,本件契約の契約
当事者がハリマ化成グループであると控訴人を誤信させて,被控訴人との間の本件
契約を締結させ,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するから,ハリマ化成\nグループは,会社法350条により6000万円の損害を賠償すべき責任を負う(主
位的請求1),(2)ハリマ化成グループ及び被控訴人の従業員らが,前記役員と共謀し
て,控訴人の特許技術を詐取し,この行為が控訴人に対する不法行為を構成するか\nら,ハリマ化成グループ及び被控訴人は,民法715条により6000万円の損害
を賠償すべき責任を負う(主位的請求2),(3)被控訴人は,本件契約に基づき,約定
の一時金4500万円を支払う義務がある(予備的請求),というものであった。\n
ウ 控訴人は,平成29年8月28日の第1回弁論準備手続期日において,訴状
を陳述した後,上記イの主位的請求1及び同請求に係る主張を全て撤回した。
被控訴人及びハリマ化成グループは,同期日において,第1準備書面(平成29
年8月4日付)を陳述し,被控訴人において本件一時金の支払を拒絶する理由が,
(1)本件契約には本件契約第25条所定の「条件」が付され,当該「条件」は停止条件
であり,これが成就していないとする停止条件の未成就,(2)本件契約第21条に基
づく「本件特許権等の実施にあたる事業の中止」を理由とする本件契約の中途解約
及び(3)本件契約第22条第1項に基づく本件契約の解除であることを主張した。
エ 控訴人は,平成29年10月3日付「訴えの取下書」をもって,ハリマ化成グ
ループに対する訴えを取り下げ,ハリマ化成グループは,同月16日の第2回弁論
準備手続期日においてその取下げに同意した。また,控訴人は,同期日において,請
求原因の構成を検討する旨陳述した。\n
オ 控訴人は,第4回弁論準備手続期日(平成30年2月1日)において,準備書
面3(平成29年12月7日付)を陳述し,請求原因を,(1)控訴人と被控訴人との間
で本件契約が成立していることを理由とする本件契約所定の本件一時金4500万
円の支払請求(主位的請求),(2)本件特許権の核心的ノウハウを控訴人に提供させて
被控訴人が当該ノウハウを詐取したことが不法行為であるとする4500万円の損
害賠償請求(予備的請求)に変更した。\n
カ 原審裁判所は,第6回弁論準備手続期日(平成30年5月15日)において,
これまでにおける当事者双方の主張を踏まえ,主張と争点を書面で整理するとした
上,同年6月19日に「主張の骨子レベルの整理案」と題する書面を当事者双方に
提示した。
同書面では,「(明示的には主張のない内容も含むが,当事者の言わんとするとこ
ろを忖度すると,大きな構成として以下のように整理することで争点が明確になる\nのではないか。検討されたい。大きな構成としてこれで良ければ,行為,対象等を特\n定すると共に,争点ごとの主張・反論の詳細な内容の整理に進む。)」との前置きを
した上,当事者双方の主張が整理されており,このうち控訴人の主位的請求原因,
これに対する被控訴人の反論及び争点については,別紙「主張の骨子レベルの整理
案(抜粋)」のとおりとされた。
キ その後に開かれた弁論準備手続期日と口頭弁論期日において,控訴人は,最
終準備書面(平成31年3月19日付)を含む3通の準備書面を陳述し,口頭弁論
は終結された。
各準備書面での主位的請求原因についての主張の内容は,本件契約第25条所定
の「条件」は停止条件であるところ,本件共同研究契約等が締結されなかったのは
被控訴人が本件一時金の支払を免れるために恣意的に本件共同研究契約等を締結し
なかったものであるから,停止条件である本件契約第25条所定の「条件」は成就
したものとして本件共同研究契約等は締結されたものとみなされるべきであるとい
うものだけであり,前記「主張の骨子レベルの整理案」の内容に沿っている。
ク 控訴人は,原審裁判所が「主張の骨子レベルの整理案」を提示する前には,本
件契約第25条所定の「条件」は,その条件が単に債務者の意思のみに係る純粋随
意条件である旨主張していたが,法的効果を伴うものではない,当該「条件」が停止
条件でない,あるいは解除条件であるといった主張は一切しておらず,原審裁判所
から「主張の骨子レベルの整理案」を提示された後は,専ら前記キの主張をするに
至っている。
ケ 原判決は,「第4 当裁判所の判断」「1 争点1(被告が故意に本件契約第
25条の停止条件の成就を妨げたか等)について」(1)の冒頭において,次のとおり
摘示している。
「原告が主位的請求において請求しているのは,本件契約に基づく一時金の支払
であるところ,本件契約において,契約が成立してから60日以内に,被告が原告
に一時金4500万円を支払うと定められていること(第4条),本件契約では,共
同研究契約等の締結を条件とする旨規定されており(第25条),これは停止条件を
定めたものであること,及び現在に至るまで共同研究契約等が締結されていないこ
とは,当事者間に争いがない。」
(3)上記(2)の原審審理経過を踏まえれば,控訴人が当審において本件契約第25
条にいう「条件」が法的効果を伴う停止条件であることを争い,また,仮に停止条件
を定めたものであるとしても,本件ではその条件が成就していると主張することは,
成立した自白の撤回に当たり,控訴人において自白をしたことにつき錯誤があった
とも認められないから,その撤回は許されないというべきである。
(4)なお,念のため付言すると,本件契約は,法人を当事者とし,書面において双
方の意思表示がされている契約であるところ,本件契約第25条の見出しとその文\n言からすれば,これが法的効果を伴わないとか,解除条件であると解する余地はな
く,本件契約の効力の発生について停止条件を付すものであると解するほかないも
のである。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)3973
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2019.11.18
平成30(行ケ)10178 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月24日 知的財産高等裁判所
インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n
前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に
インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ
「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ
グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」,
ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の
各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20
11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー
ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と
の記載があること(画像4)が認められる。
上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分)
に更新され,保存されたことが認められる。
したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27
日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公
衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は,
本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願
後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい
ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項
目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ
レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25
日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同
日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ
グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス
ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報
の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと
(甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の
項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ
グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契
約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。
また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項
目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ
り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書
き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
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2019.08.13
平成30(ワ)28391 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月12日 東京地方裁判所
後発医薬品について構成要件Eについて、技術的範囲に属しないと判断されました。興味深いのは、インカメラで該当性が判断されている点です。原告の書類提出命令申立てはインカメラで訂正の範囲外となっていると判断されました。\n
原告は,平成31年2月21日,被告コーアイセイを相手方として,本件各
製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため,本件製剤
1に関する平成30年2月15日付け医薬品製造販売承認書に記載されてい
る「成分及び分量又は本質」に係る部分について,特許法105条1項に基づ
く書類提出命令の申立てをした。\n当裁判所は,同年4月11日,同条2項に基づくインカメラ手続を行い被告
コーアイセイから対象書類の提示を受けた上,同書類には本件製剤1にクロス
ポビドンが含まれるかどうかや,クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に
関する情報が記載されているが,本件製剤1の組成物又は含有率は本件訂正発
明に規定するものと異なっている一方,同情報は被告コーアイセイにとって秘
密性の高い重要な技術的情報であると認められるから,被告コーアイセイには
書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して,同申立てを\n却下した。
・・・・
本件訂正発明の構成要件Cは,「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記\nクロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であり,但し,崩
壊剤がGRANFILLER−D(登録商標)から成る錠剤は除く,」というも
のであるところ,原告は,本件各製剤が構成要件Cを充足すると主張する。\n しかし,本件各製剤が,1)崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること,2)そ
の医薬組成物中の含有率が5.6〜12質量%であること,3)同崩壊剤がGRA
NFILLER−D(登録商標)から成る錠剤でないことについては,これを認
めるに足りる証拠がない。
原告は,本件各製剤は原告製剤の後発医薬品であることや,原告による本件製
剤1の分析によっても,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは
得られていないことなども指摘するが,本件各製剤が原告製剤の後発医薬品であ
るとしても,そのことから直ちに本件各製剤が構成要件Cを充足するということ\nはできず,また,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られ
ていないことは,むしろ,同製剤が構成要件Cに規定された含有率のクロスポビ\nドンを含有すると認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことを示すもので
ある。
したがって,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めること
はできない。
◆判決本文
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2019.07.12
平成31(ネ)10001等 特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和元年6月26日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
知財高裁(3部)は、確定した無効審決と実質同じ証拠であるとして、104条の3の無効抗弁を認めませんでした。
(2)本件において乙17の1及び乙18の1を主引例として無効を主張でき
るか。(当審における追加主張)
ア 特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に
基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者
間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,
その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは
ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴
訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間
の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法
104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段
の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2
条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
控訴人は,無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれ
ている立場の質的相違等から,特許法167条の趣旨は,侵害訴訟に適
用されないと主張するが,上記説示したところに照らし採用できない。
また,控訴人は,第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべ
き場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であ
るという趣旨の主張もしているが,控訴人自身は,無効審判手続におい
て無効主張をする機会を十分に与えられ,かつ無効不成立審判に対して\n審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから,審決取消
訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果,もはや当該審判手
続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったと
しても,その結果を不当ということはできない。
イ 認定事実
(ア) 本件無効審判請求1において,控訴人は,本件発明1は,1)乙1
7の1に記載された発明(乙17発明)に,乙18の1に記載された
発明(乙18発明),乙19又は23,42ないし45,33,34
に記載された技術事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が
容易に発明することができたものである,2)乙18発明に,乙17発
明,乙19又は23,42ないし45,33,34に記載された技術
事項及び従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明するこ
とができたものである,とそれぞれ主張した。(甲14)(本件審決
1における甲1,2,3,7ないし13は,順に本件訴訟における乙
17,18,19,23,42ないし45,33,34に対応する。)
このほか,控訴人は,乙20ないし22も証拠として提出していた。
(イ) しかしながら,本件審決1は,主引例である乙17の1及び乙1
8の1には,ローラの直交2方向への移動(及び移動に伴う肌の摘み
上げと押圧)という技術思想が存在せず,また,控訴人が提出した各
種証拠から認められる技術事項及び周知技術を考慮しても,この点を
容易に想到することができるとはいえないとして,上記無効理由のい
ずれも認めず,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものとはいえないと判断した。(甲14)
ウ 乙17の1又は乙18の1を主引例とする進歩性欠如の無効主張の可
否
本件訴訟において,控訴人は,乙17の1,乙18の1をそれぞれ主
引例とした上,これに,乙17発明(乙18の1を主引例とする場合)
又は乙18発明(乙17の1を主引例とする場合),及び乙19ないし
23,33ないし35,42ないし45,101及び104に記載の副
引例又は周知技術を併せれば,本件発明1は容易想到であると主張して
いる。
しかしながら,乙17の1及び乙18の1は,本件審判請求1におい
ても主引例とされていたもの,乙19,23,33,34及び42ない
し45は,副引例又は周知技術を認定する証拠として提出されていたも
のであり,乙20ないし22も,明示的には主張されていないものの,
周知技術を認定する証拠等として提出されていたものと認められるから,
結局,本件審決1と本件訴訟における控訴人の主張立証との間では,主
引例は全く共通である上,副引例又は周知技術,証拠もほとんど共通し,
両者で共通していないのは,副引例ないし周知技術の証拠である乙35,
101及び104のみである(しかも,乙101は,乙35から分割出
願された発明であるから,両者は極めて類似している。)ことになる。
そして,乙35,101及び104は,いずれも4個のローラの直交2
方向への移動ということはおよそ想定していないものであるから,本件
審決1が認定した本件発明1と乙17発明及び乙18発明との相違点を
埋めるものであるとはおよそいい難いものである。
このように,本件訴訟独自の証拠である乙35,101及び104は
価値の乏しいものであるから,結局,本件訴訟における控訴人の主張は,
本件審判1と実質的に「同一の事実及び同一の証拠」(特許法167条)
に基づくものと評価されるべきものである。
そして,本件審決1は,控訴人による審決取消訴訟が提起されること
なく確定している上,本件において,前記アの特段の事情も窺われない。
したがって,本件訴訟において,控訴人が,乙17の1又は乙18の
1を主引例とする進歩性欠如の無効を主張することは,信義則に反し,
許されないといわざるを得ない。
(3) 結論
よって,控訴人の乙17の1又は乙18の1を主引例とする無効の抗弁
の主張はいずれも許されず,乙104発明を主引例とする無効の抗弁には
理由がない。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成28(ワ)4356
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2019.05.13
平成30(ネ)10082 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年4月24日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
控訴審でも、訂正後の発明について進歩性ナシとして、差止請求などが棄却されました。控訴審で代理人が変更されています。一審後の訂正の再抗弁が時機に後れているかについて、該当するかはともかくとして,訴訟の完結を遅延させることとなるとまでは認められないと判断されています。
(3) 相違点1−2’に係る容易想到性の判断について
ア 公然実施品1のサッシュは,断面形状が複雑であるため,製造コストが
掛かること,サッシュ自体の体積に比べて余分なスペースを大きく取るた
めに保管や輸送の際に保管コストや輸送コストも掛かることは,当業者に
とって自明なことであり,これらのコスト(製造コスト等)を削減するた
めに,公然実施品1のサッシュを複数の部品で構成し,公然実施品1の製\n造時に,当該複数の部品を接合してサッシュとすることは,当業者の通常
の創作能力の発揮にすぎない。\nそして,乙13公報に開示されている「誘導加熱調理器において,サッ
シュ(枠体2)とは別部材により構成され,かつサッシュ(枠体2)に当\n接させてねじで接合した,金属板からなる補強板(L字金具9)」(以下
「乙13技術事項」という。)は,公然実施品1のサッシュに相当する部
材を複数の部材で構成する技術であり,乙13技術事項の補強板(L字金\n具9)とサッシュ(枠体2)とを接合したものの方が公然実施品1のサッ
シュよりも製造コスト等がかからないのは,当業者にとって自明の事項で
あるから,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1と
乙13技術事項に接した当業者であれば,製造コスト等を削減する目的で
公然実施品1に乙13技術事項を適用することに格別の困難性があるとは
認められない。
したがって,公然実施品1に乙13技術事項を適用して,相違点1−2’
に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで\nあるといえる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,1)乙13公報における「断面凸形状9a」の実質は,調理器
本体ケース5内への浸水を防止するためだけの役割を担った「浸水防止部
材」であるから,かかる「断面凸形状9a」は本件発明(構成要件D)の\n「補強板」には当たらないし,乙13公報に記載の構成によれば,「断面\n凸形状9a」は調理プレート1から離れる方向に相当強い力で引っ張られ
るのであり,実質的に見ても「断面凸形状9a」が調理プレート1を補強
しておらず「補強板」とはいえないから,公然実施品1及び乙13公報に,
本件発明の構成要件Dに係る構\成は開示されていない,2)公然実施品1と
乙13公報に記載の技術とは,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,
技術分野の関連性及び課題や作用・機能の共通性が認められないから,公\n然実施品1に乙13公報に記載の技術を適用する動機付けもない,などと
主張する。
しかしながら,乙13公報において,本件発明の「補強板」に相当する
ものは「断面凸形状9a」ではなく「L字金具9」全体であって,あたか
もそれが「断面凸形状9a」に限定されるかのような控訴人の主張は,そ
もそもその前提において誤解がある。また,たとえ乙13公報における課
題そのものは調理器本体内部の浸水防止を図る点にあったとしても,「L
字金具9」全体の形状を見れば,それが本件発明の「補強板」に相当する
機能を果たし得ることは,当業者であれば容易に想起できるものと認めら\nれる(この点は,「断面凸形状9a」が調理プレート1から離れる方向に
相当強い力で引っ張られるとしても変わりがない。「断面凸形状9a」に
どのような方向の力が掛かっているかと,それが補強材としての機能を有\nしているかどうかとは関わりのない事柄だからである。)から,前記1)の
指摘は当を得ているとはいえない。
また,前記アのとおり,公然実施品1のサッシュは,製造コスト等が掛
かるものであるということは,当業者にとって自明のことといえるから,
公然実施品1には,かかる製造コスト等を削減するという自明の課題があ
る。そして,誘導加熱調理器という同一の技術分野に属する公然実施品1
と乙13技術事項に接した当業者であれば,公然実施品1に乙13技術事
項を適用すると製造コスト等を削減できるのは明らかであるから,公然実
施品1に乙13技術事項を適用する動機付けはあるといえる。したがって,
前記2)の指摘も当を得ているとはいえない。
(4) 以上によれば,原判決がした,本件発明と公然実施品1との対比(一致点
及び相違点の認定)と認定した相違点(相違点1−2’)に係る容易想到性
の判断はいずれも正当であり,これによれば,本件特許について無効の抗弁
が成立する。
したがって,無効の抗弁の成立を争う控訴人の主張は採用できない。
被控訴人は,本件訂正の再抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法に当たる
として,民事訴訟法157条1項に基づく却下を求めている。
しかしながら,本件訴訟の経過に鑑みると,控訴人による本件訂正の再抗弁
の提出が,時機に後れているか否かはともかくとして,訴訟の完結を遅延させ
ることとなるとまでは認められないから,同条項に基づきこれを却下するのは
相当でない。
そこで,以下,本件訂正の再抗弁の成否について判断する。
(1) 控訴人は,平成30年12月14日,本件特許の明細書及び特許請求の範
囲を訂正することについて訂正審判を請求した(本件訂正,甲40)。
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(構成\n要件の分説は控訴人に従う。下線部は訂正箇所を示す。)。
A 誘導加熱をする第1及び第2の加熱器を左右に内設した本体ケースと,
この本体ケースの上面に設けられたトッププレートと,
前記トッププレートの周囲に設けられたサッシュとを具備し,
被組込家具に組み込まれる加熱調理器において,
B’ 前記トッププレートの幅を前記本体ケースの幅より大きくし(ただし,トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じものを除く),
C 前記第1及び第2の加熱器の各中心部を,前記本体ケースの左右に等分した両側部の各中心部より外側であって,前記トッププレートの左右に等分した両側部の各中心部より中央側に配置すると共に,
D 前記トッププレートの本体ケース外方に位置する部分の下方であって直下に前記被組込家具が位置する箇所に,前記サッシュとは別部材に構成され,かつ前記サッシュに当接させた,金属板から成る補強板を設け,
E この補強板と前記トッププレートとの間,又は補強板の下方に断熱層を形成したこと
F を特徴とする加熱調理器。
(3) 進歩性の判断
事案に鑑み,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(本件訂正
発明)の進歩性から検討する。
ア 本件訂正発明と公然実施品1との対比
(ア) 「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義
本件訂正事項は,構成要件Bの「前記トッププレートの幅を前記本体\nケースの幅より大きくし,」との構成から「トッププレートの幅と本体\nケースの幅がほぼ同じもの」を除外する,というものである。
控訴人は,本件明細書等の記載や出願時の技術常識等(キッチン設備
のJIS規格等)を踏まえると,本件訂正事項により除外される「トッ
ププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義は,本件特許
の出願当時における従来製品の加熱調理器のことと理解すべきであって,
具体的には,トッププレートの幅が約600mm,本体ケースの幅が5
50mm前後の加熱調理器を指していることは,本件明細書等の記載に
接した当業者にとって明らかである,と主張する。
しかしながら,控訴人が主張するトッププレートの幅が約600mm,
本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器やJIS規格(甲25)
について,本件明細書等には何ら記載されておらず,示唆もない(本件
明細書等には,例えば,【背景技術】や【発明を実施するための最良の
形態】の欄においても,加熱調理器の寸法について具体的な数値は一切
記載されておらず,JIS規格等の引用もない。)。また,控訴人が主
張するJIS規格(甲25)も,機器を落とし込んで組み込む場合の「ワ
ークトップの開口の呼び寸法」と「ワークトップの開口部の開口寸法」
について一定の数式を示しているだけで,「トッププレートの幅と本体
ケースの幅がほぼ同じもの」といえば,当然にトッププレートの幅が約
600mm,本体ケースの幅が550mm前後の加熱調理器を指すとい
うことを認めるに足る具体的な記載はない。控訴人は,主要各社の製品
カタログや刊行物等を示して,従来製品の加熱調理器はトッププレート
の幅が約600mm,本体ケースの幅が550mm前後のものであった
とも主張するが,たとえ本件特許の出願時においてかかる寸法のものが
主流であったとしても,加熱器の配置との関係でトッププレートの幅と
本体ケースの幅の大小の関係を規定する本件訂正発明において,その技
術的範囲から除外される「トッププレートの幅と本体ケースの幅がほぼ
同じもの」が当然にトッププレートの幅が約600mm,本体ケースの
幅が550mm前後の加熱調理器に限定されると解すべき理由はないと
いうべきであるから,控訴人の主張は失当である。
そこで,本件明細書等の【0002】を見ると,「…図7は,そのも
のを平面図で具体的に示しており,第1及び第2の加熱器1,2を左右
に内設した本体ケース3と,これの上面に設けたトッププレート4とは,
その各幅W3,W4がほゞ同じで,第1及び第2の加熱器1,2の各中
心部O1,O2は,本体ケース3の左右に等分(W3/2)した両側部
の各中心部RO3,LO3(W3/4)とほゞ合致し,且つ,トッププ
レート4の左右に等分(W4/2)した両側部の各中心部RO4,LO
4(W4/4)とも合致している。」と記載されている。この記載は,
前段の「…本体ケース3と,…トッププレート4とは,その各幅W3,
W4がほゞ同じで,」に続く後段の部分で,「トッププレートの幅と本
体ケースの幅がほぼ同じもの」の意義を規定しており,同部分(後段の
部分)は,第1及び第2の加熱器1,2の各中心部が,それぞれ,「ト
ッププレート4の両側部の中心部に合致する」状態で,なおかつ,「本
体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致する」状態であることを表すも\nのと認められる。ここで,本体ケース3の両側部の中心部と第1及び第
2の加熱器1,2の中心部との距離をDとすると,D=W4/4−W3
/4となり,トッププレート4の幅W4と本体ケース3の幅W3との差
は,W4−W3=4Dとなる。
このDがどの程度の距離であるかについて,本件明細書等には明示的
な記載がないが,1)第1及び第2の加熱器1,2の中心部は,それぞれ,
本体ケース3の両側部の中心部とほぼ合致するものとする【0002】
の記載や図7の記載からは,O1とRO3やO2とLO3が隣接してい
ると理解し得ること,2)従来技術の課題を解決する手段の一部として,
トッププレートの幅と本体ケースの幅については,単に,(トッププレ
ートの幅)>(本体ケースの幅)としていること等の事情を勘案すると,
D≒0であり,Dは,製造上や計測上の誤差程度と解するのが相当であ
る。そして,加熱調理器に関するJIS規格(甲25)には,公差とし
て,2〜5mmとする例が記載されていることを勘案すれば,Dについ
ては,0<D≦5(mm),すなわち,大きく見積もっても5mmを超
えない程度のものと解することができる。
そうすると,トッププレートの幅と本体ケースの幅との差4Dは,0
<4D≦20(mm)となり,構成要件B’の「トッププレートの幅と\n本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本体ケース
の幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものとなる。
(イ) 本件訂正発明と公然実施品1との対比
以上のとおり,本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレー\nトの幅と本体ケースの幅がほぼ同じもの」は,トッププレートの幅と本
体ケースの幅との差が,大きく見積もっても20mmを超えないものを
指すと認められる。
これを踏まえると,トッププレートの幅が599mm,本体ケースの
幅が550mmであって,それらの差が49mmである公然実施品1は,
本件訂正発明における構成要件B’の「トッププレートの幅と本体ケー\nスの幅がほぼ同じもの」とはいえないから,構成要件B’は,本件訂正\n発明と公然実施品1との相違点とはならない。
そうすると,本件訂正発明と公然実施品1との一致点及び相違点は,
以下のとおりになると認められる。
(一致点)
本件訂正発明と公然実施品1とは,構成要件A,B’,C,E及びF\nについて一致する。
(相違点)
本件訂正発明は,サッシュとは別部材に構成され,かつサッシュに当\n接させた,金属板から成る補強板を有するのに対し,公然実施品1はサ
ッシュ自体が補強板となっており,サッシュとは別部材に構成され,か\nつサッシュに当接させた,金属板から成る補強板は有しない点。
イ 上記相違点についての判断
上記相違点は,本件訂正前の本件発明と公然実施品1との相違点(相違
点1−2’)と実質的に同じであるから,前記1(3)のとおり,本件発明と
同様に,本件訂正発明についても,公然実施品1及び乙13技術事項に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 以上によれば,本件訂正発明は,そもそも特許を受けることができないも
のである(特許法29条2項)から,本件訂正は独立特許要件(特許法12
6条7項)を満たすものではなく,また,本件訂正によって本件特許に係る
無効理由が解消するものでもない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正の再抗弁
は理由がない。
◆判決本文
一審はこちらです。
◆平成29(ワ)22884
こちらは関連事件の控訴審判決です。
「構成要件Eを充足しない」として非侵害です。\n原告被告は同じで、対象特許が異なります。
◆平成30(ネ)10078
構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義につい\nて検討する。
上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,\n文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細
書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴にお
いてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】,
【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0
032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効\nに加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リン
グ状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであるこ\nと(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠
であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の
意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,\nまた,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するもの
であると解するのが一般的かつ自然である。
この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,\n前記認定に照らし採用することができない。
(2) 被告製品関連製品の構成\n
ア 原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IH
ヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である
直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容\n器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を
除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。\nイ しかしながら,前記(1)において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最
大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域\nの領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11,
12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されてい\nるものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であ
るとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱
部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認めら\nれず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」
及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。
原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品におい
て鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告
各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら,
被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底\nを示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記(1)において認定し
たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠
及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表\示さ
れていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
(3) 小括
以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最
大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められな\nいから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張\nは採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く
被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。\nしたがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構\n成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできな
い。
一審はこちらです。
◆平成29(ワ)10742
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2019.03.29
平成30(ネ)10060 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年3月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
UI関連の発明について、1審では、新規性無しの無効理由ありとして請求棄却されました。1審では、訂正審判がなされ審決が確定しましたが、時期に後れた主張であるして、口頭弁論は再開しませんでした。知財高裁は、構成要件Fが不明瞭のため要件を具備しないと判断されました。被告はAppleです。
まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
(ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。\n他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用され
ているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直
接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」と
の意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示し
た図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味
など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用
されている。
なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【006
2】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に\n記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに
保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構\成要件Fの「入力」
は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえ
る。
(イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表\示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。
しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもか\nかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。\n
また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表\示対象以外の表\示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,こ
の場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自
然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態,
資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として・・・記憶させる」との文言が\n意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として・・・記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結\n果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断\nは控訴人の上記主張と整合するとも主張する。
しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与え
ること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。\n
(エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。\n
イ 仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構\成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
(ア) 構成要件Fの「当該表\示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表\示対象」をいうと解される。本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表\示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。
しかし,表示画面にアイコン等を表\示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表\示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表\示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション)
とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細
書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。\n
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表\示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表\示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。\n そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表\示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。
そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
(ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び
【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表\示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。\n また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ 以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。そして,構\成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。\n
◆判決本文
1審はこちらです。
◆平成29(ワ)14142
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2019.03.14
平成30(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年3月6日 知的財産高等裁判所
一次判決の拘束力について「新証拠に基づく判断は拘束されない」と争いましたが、知財高裁は、新たな証拠による新たな主張をするこは、取消判決の拘束力に反するとして、これを認めませんでした。争点は、発明者は誰か?という点です。一次判決では請求項1,3の発明者は、本件被告であると判断されていました。一次判決と本件で原告被告が入れ替わってますのでややこしいです。
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確
定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい
て更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法
の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ
り,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出
されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取
消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがっ
て,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ
判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り
返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべ
きではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。
このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文の
よって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従って
された再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定
した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決
の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
2 これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定
したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告で
あると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及
び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は,
一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告
であると認めることはできないものと判断した。
したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次
審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は,
当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないという
べきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,平成4年最高裁判決は,「拘束力は,判決主文が導き出されるの
に必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているから,一次判決の
拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消
すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事
実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事
実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件
発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反
する本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要
な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者として
は,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがっ
て,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに
基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって
許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度
の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には
裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違
法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。
そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象と
なっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123
条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものである
にもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し,
本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次
判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の
主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次
判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が
許されないことは明らかである。
(2)ア もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定
の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消さ
れるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する
余地がある。
そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述
(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者
尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に
該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立
証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由
がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみ
ても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
イ すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり,
被告が主張した,1)平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流
量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内に
ゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行\nった,2)その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11
月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決\nに係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音
反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としてい
ることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,「…誰もやってない時に
プライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。」との原告の
発言に対し,被告が「…プライヤーで潰した針金?」,「…あれが,これ
と何が違うんですか。」,「…あれ持って行った時にはすでに僕は…」と
発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続にお
ける被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりと
りの直後に「あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃ
ないですか。」と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物
を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると,
原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は
原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,「そのゲートのそれをやるという,
アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるとい
うアイディア。全部,私じゃん」との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発
明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえ
ると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがう
かがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ
自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者\nであることを認めたとまで認定することは困難である。このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。
ウ 次に,原告は,一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書(甲
76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いず
れも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張する
にとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを
認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びA
が提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張する
が,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたもの
であることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲5
5は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。
(3) さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において
提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。
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◆平成27(行ケ)10230
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2019.02.28
平成30(行ケ)10071 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年2月26日 知的財産高等裁判所
前訴で訂正要件とともに、進歩性も判断しており、これに沿ってなされた審決の取消事件です。本件訴訟において、被告は、確定した前訴判決(取消判決)の拘束力が及ぶと主張しましたが、裁判所は、引用発明1に基づく進歩性違反については、本件被告も反論も尽くされているので,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に属する事柄であると判断しました。
本件は、経緯が複雑です。前訴では、前件審決が本件訂正のうち,請求項9及び10に係る訂正を認めなかった判断に誤りがあるとした上で,更に本件訂正後の請求項9ないし11に係る発明の容易想到性について審理し,これらの容易想到性を認めることはできない旨の判断をし,前件審決のうち,本件特許の請求項9ないし11に係る部分を取り消すとの判決(以下「前訴判決」という。)をしました。その後,前訴判決は,確定しています。
被告は,確定した前訴判決(取消判決)の拘束力に従って認定判断した本件
審決の取消しを求める本件訴訟は,前訴判決による紛争の解決を専ら遅延させ
る目的で提起されたものであり,本件訴えの提起は,訴権の濫用として評価され
るべきものであるから,本件訴えは,不適法であり,却下されるべきである旨主
張する。
そこで検討するに,原告主張の本件審決の取消事由中には,前訴判決が判断し
なかった相違点についての本件審決の判断に誤りがあることを理由とするもの
(前記第3の3(1)ア)が含まれていることに照らすと,本件訴えの提起が,前訴の蒸し返しであるものと直ちにいうことはできず,訴権の濫用に当たるものと認
めることはできない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
2 取消事由1−1(甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩性の判断の誤
り)について
(1) 前訴判決の拘束力等について
確定した前訴判決は,請求項9に係る本件訂正を認めなかった前件審決の
判断に誤りがあるとした上で,1)前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正
による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は「引用
発明1」(本件審決の引用発明5)に基づき容易に想到できる旨主張し,前
訴原告(本件訴訟の被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正
発明9の容易想到性について判断する,2)本件訂正発明9と「引用発明1」
は,前件審決が認定した本件発明9と「引用発明1」との相違点9−2に加
えて,少なくとも相違点9−A及び相違点9−Bの点でさらに相違すること
が認められる,3)相違点9−Aに関し,「引用発明1」の製造方法は,本件
訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生す
る空隙を有する導電性材料を得る方法」とは異なることが明らかであり,甲
5は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示す
るにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって,
銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する
場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではないから,「引用発明1」に基づいて,相違点9−Aに係る構成を想到するこ\nとはできない,4)よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂
正発明9は,当業者が,「引用発明1」に基づき容易に想到できるというこ
とはできない旨判断し,前件審決のうち,本件発明9は甲5に記載された発
明と周知技術に基づいて容易に発明をすることができたことを理由に,本件
特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消した。
前訴において,原告は,平成29年5月29日付け準備書面(1)(甲5
6)に基づいて,甲5には,「銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部
分)でのみ融着している場合」の記載がないから,甲5に記載された発明は,
銀フレークがその端部(銀フレークの周縁部分)でのみ融着している構成の\nものとはいえず,相違点9−Aは,本件訂正発明9と甲5に記載された発明
の相違点ではない旨主張した。これに対し被告は,同年6月29日付け準備
書面(原告その2)(甲53)に基づいて,甲5には,端部(周縁部分)を
有する銀フレークを用い,該銀フレークの端部(周縁部分)のみで,銀フレ
ーク同士を融着させる製造法であり,銀フレークの周縁部分のみ融着した導
電性材料を得られるものであることについて十分にサポートされている旨主\n張し,原告の上記主張を争った。
前訴判決の上記認定判断及び審理経過によれば,前訴判決が前件審決のう
ち,本件特許の請求項9に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消すとの結論を導いた理由は,本件訂正を認めなかった前件審決の判断に誤
りがあること,本件訂正後の請求項9に係る発明(本件訂正発明9)は,当
業者が甲5に記載された発明に基づいて相違点9−Aに係る本件訂正発明9
の構成を容易に想到することができないから,甲5に記載された発明に基づ\nき容易に発明をすることができたとはいえないとしたことの両者にあるもの
と認められ,かかる前訴判決の理由中の判断には取消判決の拘束力(行政事
件訴訟法33条1項)が及ぶものと解するのが相当である。
そして,前訴判決確定後にされた本件審決は,前訴判決と同様の説示をし,
本件訂正発明9は,当業者が甲5に記載された発明(引用発明5)に基づいて相違点9−3(相違点9−Aと同じ)に係る本件訂正発明9の構成を容易\nに想到することができないから,その余の点について判断するまでもなく,
引用発明5に基づき容易に発明をすることができたとはいえないと判断した
ものである。
そうすると,本件審決の上記判断は,確定した前訴判決(取消判決)の拘
束力に従ってされたものと認められるから,誤りはないというべきである。
(2) 原告の主張について
原告は,1)前訴判決は,本来,専門的知識経験を有する審判官の審判手続に
より審理判断をすべき本件訂正発明9の無効理由について,審判官の審判手続に
よる審決を経ずに,技術常識を無視した認定判断をしたものであり,最高裁昭和
51年3月10日大法廷判決の趣旨に反するものであるから,前訴判決の上記
認定判断に拘束力を認めるべきではなく,前訴判決の拘束力に従った本件審決
の相違点9−3の認定及び判断は誤りである,2)甲5の図3,甲40の【0
033】ないし【0035】及び図5の記載事項に照らすと,甲5記載の銀
粒子融着構造は,本件訂正発明9の銀粒子融着構\\\造と一致するから,本件審
決における引用発明5の認定に誤りがあり,その結果,本件審決は,相違点
9−3の認定及び判断を誤ったものである旨で主張する。
しかしながら,上記最高裁大法廷判決は,特許無効の抗告審判で審理判断さ
れなかった公知事実との対比における特許無効原因を審決取消訴訟において新たに主張することは許されない旨を判断したものであるところ,前訴判決
は,前件審決で審理判断された甲5を主引用例として,甲5に記載された発
明と本件訂正発明9とを対比し,本件訂正発明9の進歩性について判断した
ものであり,上記最高裁大法廷判決は,前訴判決と事案を異にするから,本件
に適切ではない。
次に,前訴判決が,前記(1)のとおり,前訴被告(本件訴訟の原告)は,本件訂正による請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は
「引用発明1」に基づき容易に想到できる旨主張し,前訴原告(本件訴訟の
被告)の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正発明9の容易想到性
について判断するとした上で,甲5を主引用例とする本件訂正発明9の進歩
性について判断したことは,裁判所に委ねられている訴訟指揮権の範囲内に
属する事柄であるといえるから,相当である。
さらに,原告は,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りが
あることの根拠として,前訴判決と同一の引用例である甲5とともに,甲4
0を挙げるが,甲40は,甲5の記載事項の認定に関する原告の主張を補強
する趣旨で提出されたものであって,新たな公知事実(引用例)を追加する
ものではないから,前訴判決の拘束力を揺るがすものとはいえない。
したがって,本件審決における相違点9−3の認定及び判断に誤りがある
との原告の上記主張は,理由がない。
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◆平成29(行ケ)10032
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2019.02.20
平成30(ネ)10066 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成31年1月31日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
ウェブサイトにおいて,書籍を他人の著作物である旨を表示されたことが,氏名表\示権の侵害に当たるかが争われました。原判決は,「氏名表示権は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表\示するか否か,表示するとすれば実名を表\示するか変名を表示するかを決定する権利であるところ,被控訴人のホームページにおいて,本件各書籍の公衆への提供,提示がされているとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求には理由がない」と判断しました。なお、時期に後れた攻撃防御であるとの申\立ては認められませんでした。
1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
本件は,平成29年12月20日に東京簡易裁判所に訴えが提起され,平成30
年2月9日に東京地方裁判所に移送され,3回の弁論準備手続期日を経て,同年6
月21日の口頭弁論期日において弁論が終結されたところ,弁論の全趣旨によると,
東京地方裁判所は,同年3月30日,控訴人(一審原告)訴訟代理人に対し,被侵
害利益が公表権(著作権法18条),氏名表\示権(著作権法19条),同一性保持
権(同法20条)又は著作権法に定めのない権利利益であるのか,具体的に明らか
にすることなどを求めるファックス文書を送付したこと,控訴人(一審原告)訴訟
代理人は,同年4月25日,被侵害利益は「氏名表示権(著作権法19条)」であ\nる旨を記載した同日付け原告第1準備書面を東京地方裁判所に提出し,同書面は同
日の第1回弁論準備手続期日において陳述されたことが認められる。そうすると,
控訴人は,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の
著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張を,
遅くとも原審の口頭弁論終結日である平成30年6月21日までにすることが可能であったといえるから,これを当審において初めて主張することは「時機に後れて\n提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められ
る。
しかし,控訴人は,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成30年11月21
日)において,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三
者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張
をしたものであって,本件は,第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたこと
からすると,上記の時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることと
なると認めるに足りる事情があったとはいえない。
したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認め\nられない。
・・・
証拠(甲1,甲1の2)及び弁論の全趣旨によると,本件書籍1は,D
VD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が
掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍1の奥付に
は,控訴人以外の多くの個人又は団体の名が,様々な立場から本件書籍1の成立に
関与したものとして記載されていること,「監修」が「書籍の著述や編集を監督す
ること」(広辞苑第7版)を意味することからすると,本件書籍1が編集著作物で
あるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が,控訴人であると推
定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であるとは認められない。
また,その他に,控訴人が,本件書籍1につき,素材の選択又は配列によって創
作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。
この点について,控訴人は,株式会社ビックスとの間における作業過程に照らし
てみても,控訴人が実態として編集著作物の著作者となる旨主張する。
しかし,控訴人が主張する本件書籍1への控訴人の関与については,控訴人の陳
述書(甲8)以外の証拠はなく,また,上記陳述書によっても,「明確に覚えてい
ない」というのであって,控訴人が,「監修」,すなわち,書籍の著述や編集を監
督することを超えて編集著作物の著作者と評価し得る作業を行ったことを認めるこ
とはできないから,控訴人の上記主張は,採用できない。
したがって,控訴人が本件書籍1の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍1については,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠
を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害
利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽ら
れない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。
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2019.02.14
平成30(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成31年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
大阪高裁は無効理由ありとして、1審の判断を取り消しました。1審では時期に後れた主張とされた無効主張も却下されませんでした。
1 争点3−4(乙64の1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由の有無)に
ついて
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて\n
被控訴人は,控訴人が当審において追加主張した乙64の1を主引用例と
する進歩性欠如(争点3−4)を無効理由とする特許法104条の3第1項
の規定に基づく無効の抗弁(以下「本件無効の抗弁」という。)について,
民事訴訟法157条1項に基づき,時機に後れた攻撃防御方法に当たるもの
として却下することを求める申立てをしたので,以下において判断する。\n
ア 前記第2の1(前提事実等)の(6)及び一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,平成27年4月17日の原審第4回弁論準備手続期日に
おいて,被告準備書面(2)に基づき,実施可能要件違反の無効理由(争点\n3−1)による無効の抗弁の主張をし,同年9月14日の原審第7回弁
論準備手続期日において,被告準備書面(5)に基づき,明確性要件違反(争
点3−2)の無効理由による無効の抗弁の主張をした。
その後,原審の受命裁判官は,同年10月27日の第8回弁論準備手
続期日において,本件の侵害論の審理を終了し,損害論の審理を進める
と述べた上で,控訴人に対し,被控訴人の損害主張に対し具体的に認否
反論し,必要な書面を提出するよう求めた。
(イ) 控訴人は,平成28年5月19日,本件発明1,2,6及び8につ
いての本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求した。
同年12月13日の原審第12回弁論準備手続期日において,控訴人
は,被告準備書面(10)に基づき,別件無効審判と同一の無効理由(サポー
ト要件違反(争点3−3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理
由を含む。)による無効の抗弁を追加して主張したのに対し,被控訴人
は,同期日において,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下
することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記\n申立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。\n
(ウ) 特許庁は,平成29年12月15日,本件訂正後の請求項1,6及
び8に係る発明についての本件特許には,サポート要件違反(争点3−
3)の無効理由及び本件無効の抗弁に係る無効理由が存在するとして,
上記特許を無効とする別件審決をした。
同月20日の原審第18回弁論準備手続期日において,控訴人は,被
告準備書面(15)に基づき,別件審決が認めたサポート要件違反の無効理
由及び本件無効の抗弁に係る無効理由による無効の抗弁を再度追加して
主張したのに対し,被控訴人は,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法
として却下することを求める申立てをした。原審の受命裁判官は,被控訴人の上記申\立てを容れて,控訴人の上記無効の抗弁に係る主張及び証拠を却下した。
原審は,同日,原審第2回口頭弁論期日において,本件訴訟の口頭弁
論を終結した後,平成30年3月22日,被控訴人の請求を一部認容す
る原判決を言い渡した。
この間の同年1月20日,被控訴人は,別件審決の取消しを求める別
件審決取消訴訟を提起した。
(エ) 控訴人は,平成30年4月9日,本件控訴を提起した。控訴人は,
同年6月5日付けの控訴理由書において,被告準備書面(10)及び(15)を
引用して,サポート要件違反(争点3−3)の無効理由による無効の抗弁
及び本件無効の抗弁を記載した。
同年7月24日の当審第1回弁論準備手続期日において,控訴人は,
控訴理由書に基づき,本件無効の抗弁を主張し,被控訴人は,控訴答弁
書に基づき,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下すること
を求める申立てをした。\n同年10月15日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴人は,
同年8月31日付けの控訴人準備書面(1)及び同年9月14日付けの控
訴人準備書面(2)に基づき,本件無効の抗弁の主張を補足し,被控訴人は,
同年10月1日付けの被控訴人第1準備書面に基づき,本件無効の抗弁に対する反論及び訂正の再抗弁を主張した。
その後,当裁判所は,同年12月10日の第1回口頭弁論期日におい
て,本件口頭弁論を終結した。
イ 前記アの認定事実によれば,控訴人の当審における本件無効の抗弁の主
張は,原審において侵害論の審理を終了し,損害論の審理に入った段階で
提出されたため,時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張と同旨
のものであるが,控訴人は,原審口頭弁論終結前に本件無効の抗弁に係る
無効理由の存在等を認めて本件特許を無効とする旨の別件審決がされた
のを受けて,当審において再度提出したものであること,控訴人は,控訴
理由書に本件無効の抗弁を記載し,当審の審理の当初から本件無効の抗弁
を主張していたことが認められるから,当審における控訴人による本件無
効の抗弁の主張の提出が時機に後れたものということはできない。また,当審の審理の経過に照らすと,控訴人による本件無効の抗弁の主張の提出
により,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。
したがって,当審における控訴人による本件無効の抗弁の主張を時機に
後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
(2) 本件明細書の記載事項等について
ア 本件発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)の記載
は,前記第2の1(前提事実等)の(2)のとおりである。
・・・
前記aの記載事項によれば,乙64の2には,押しボタン式バルブ
の下側で不燃性液体の上側の位置に,通気性を有する「連続気泡状パ
ッキング」を挿入した,不燃性液化ガスを充填した噴射口を有する「噴
気式清掃機」の記載があり,その「連続気泡状パッキング」は,缶体
を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れて液体
のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があるこ
とが認められる。
そして,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」は,連続気泡
を有する多孔質体であり,図2(別紙3)から円筒状の缶体内に挿入
された円板状の形状であることを理解できるから,「円板状多孔質
体」として,本件発明1の「通気性蓋状部材」に該当するものと認め
るのが相当である。
(イ) 乙64の1には,スプレー缶を倒立状態で使用した場合や缶を倒立
状態で保管する場合に液漏れの原因となり,可燃性液化ガスの液漏れに
より火炎が発生するおそれがあるため,吸収性能・保液性に優れた吸収\n体を提供することが課題であること(【0004】,【0054】)の
記載がある。
一方で,乙64の2には,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」
は,缶体を逆さまにして使用しても不燃性液体がバルブ側の空間に漏れ
て液体のまま噴出することを防止するためのものであることの記載があ
ることは,前記(ア)bのとおりである。
そうすると,乙64の1及び乙64の2に接した当業者は,乙64の
1の第1発明において,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸収体
に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にするために,乙6
4の1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」の構成\nを適用する動機付けがあるものと認められる。
また,乙64の1の「具体的には,スプレー缶形状に合わせて,その
内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると,充填が容易にできる上,
使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。」(【003
2】)との記載から,スプレー缶の使用中に吸収体を安定して保持する
必要性があることを理解できる。
以上によれば,当業者は,スプレー缶を倒立状態で使用した場合の吸
収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防止を確実にし,吸収体を
安定して保持するために,乙64の1の第1発明において,乙64の2
の連続気泡状パッキングを適用する際に,乙64の2記載の連続気泡状
パッキングの構成のものを吸収体の表\面に密接に配置し,相違点2に係
る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認められる。\n
(ウ) これに対し被控訴人は,乙64の2記載の「連続気泡状パッキング4」は,バルブ2の下側に空間を形成するため缶体1に固定されている
必要があるため,肩部からバルブ側に押し込むように固定され(図2),
バルブ2側に十分大きい空間が形成されないので,倒立状態では,比重\nの重い液体が下側(バルブ2側)へ移動し,バルブ側の空間に容易に液
が漏れることになって,倒立状態のまま噴射を継続することができない
こと,乙64の2には,図2以外に,「連続気泡状パッキング4」の充
填状態について具体的に説明する記載はないことからすると,乙64の
1の第1発明に乙64の2記載の「連続気泡状パッキング」を組み合わ
せる動機付けはないし,また,乙64の1の第1発明に乙64の2記載
の「連続気泡状パッキング」を組み合わせたとしても,本件発明1の通
気性蓋状部材の構成に至ることはない旨主張する。\nしかしながら,乙64の1の第1発明において,スプレー缶を倒立状
態で使用した場合の吸収体に充填された可燃性液化ガスの液漏れの防
止を確実にするために,乙64の1の第1発明に乙64の2記載の「連
続気泡状パッキング」の構成を適用する動機付けがあることは,前記\n(イ)のとおりである。
また,乙64の2には,連続気泡状パッキングが図2で示された位置
に配置することが不可欠である旨の記載はなく,連続気泡状パッキング
の具体的な設置方法及び設置場所は,当業者が適宜決定すべき事項であると認められる。
さらに,乙64の2の【0012】の「連続気泡状パッキング4を挿
入し,たとえ缶体1を逆さまにして使用しても不燃性液体3が液体のま
ま噴出することなく,ガスの整流性が良くなる。」との記載に照らすと,
乙64の2の「噴気式清掃機」が連続気泡状パッキングを挿入したため
に倒立状態のまま噴射を継続することができないものと理解すること
はできない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
・・・
(7) まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び6は,乙64の1の第1発明及び乙6
4の2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ものと認められ,進歩性を欠くものであるから,本件特許には,特許法29
条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判
により無効とされるべきものと認められる。
2 争点3−5(訂正の再抗弁の成否)(本件発明1及び6に関し)について
被控訴人は,本件訂正により,訂正前の請求項1及び6(本件発明1及び6)
の無効理由は解消され,かつ,被告製品は,本件訂正発明1及び6の技術的範
囲に属するから,被控訴人は,控訴人に対し,本件特許権を行使することがで
きる旨主張する。
そこで検討するに,本件訂正発明1(本件訂正後の請求項1)は,灰分含有
量を「1重量%以上12重量%未満」とするものであり,本件発明2と同一の
構成であるところ,前記1(5)のとおり,本件発明2は,乙64の1の第1発明
及び乙64の2の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものと認められるから,本件発明1の無効理由は,本件訂正により解消されるものとはいえない。
また,前記1(6)で説示したのと同様の理由により,本件発明6の無効理由は,
本件訂正により,解消されるものとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の上記主張
は理由がない。
3 結論
以上によれば,本件発明1,2及び6は,進歩性を欠くものであり,本件特
許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ
り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,被控訴人は,
同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使する
ことはできない。
◆判決本文
関連の審決取消し訴訟です。
◆平成30(行ケ)10012
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2019.02. 1
平成30(ネ)10027 特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年12月12日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
アップルがクアルコムに対して求めた確認訴訟について、訴えの利益がないとした1審判決が維持されました。1審判決はアップされていません。
イ この点に関し,控訴人らは,1)本件特許権がCMライセンス契約の対象
特許となっていることについて,被控訴人らからこれを裏付ける証拠は提
出されていないこと,2)被控訴人クアルコムは,控訴人アップルと被控訴
人クアルコム間のドイツ訴訟において,2016年(平成28年)第4四
半期以降,CMとの間で,新たな特許や訴訟の対象特許を取り込むための
交渉を一切行っていないことを自認しており,CMライセンス契約の有効
性やその許諾対象特許の範囲について疑義があること,3)被控訴人クアル
コムは,台湾の公平交易委員会(TFTC)が2017年(平成29年)
10月20日にCMを含む携帯通信端末の製造販売業者との間で締結し
ているライセンス契約について,ライセンス条件の再交渉を行うことを命
じる旨の是正命令を受けて,被控訴人クアルコムとCMとの間でCMライ
センス契約の再交渉が開始されており,CMライセンス契約の条件は今後
変更される可能性があること,4)被控訴人クアルコムは,控訴人アップル
に対し,自社が保有する必須宣言特許をほぼ完全に網羅する約2000頁
に及ぶ特許リスト(本件特許を含む。)(甲7)及び自社の保有する必須
宣言特許(本件特許を含む)のクレームチャート(甲14)を提示するこ
とにより,「直接ライセンスなしでは(absent a direct license)」被控訴人クアルコムの必須宣言特許(本件特許を含む。)が控訴人アップルに
よって侵害されているとの認識を示したこと,5)被控訴人クアルコムが,
控訴人アップルの求めに応じて提供した一覧表やクレームチャートに本\n件特許の米国対応特許及び中国対応特許が含まれていたことなどに照ら
せば,本件特許権はCMライセンス契約の対象特許となっているとはいえ
ず,また,控訴人アップルと被控訴人クアルコム間のライセンス交渉の中
で,被控訴人クアルコムが控訴人アップルに対し原告製品が本件特許権を
含む被控訴人クアルコムの保有する数多くの特許権を侵害していると主
張したことは明らかである旨主張する。
(ア) しかしながら,前記1(7)認定のとおり,被控訴人らは,本件弁論を
終結した当審の第1回口頭弁論期日において,被控訴人クアルコムは,
CMに対し,本件特許権を含む特許について,原告製品の生産,譲渡等
に係るライセンスを付与しており,控訴人らは,CMから全ての原告製
品の供給を受けているから,被控訴人らは,控訴人らに対し,現在,本
件特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を行使する意思は
ないし,日本法上行使できるものとも考えていない旨を表明しているこ\nとに照らすと,本件の口頭弁論終結時点において,本件特許権が被控訴
人クアルコムとCM間のCMライセンス契約におけるライセンス対象
とされていることが認められる。
控訴人らが述べるように2016年(平成28年)第4四半期以降,
被控訴人クアルコムとCMとの間で,新たな特許や訴訟の対象特許を取
り込むための交渉を行っていないとしても,そのことは,CMライセン
ス契約の内容が変更されたり,又は契約自体の効力が喪失したことを直
ちに意味するものではない。また,被控訴人クアルコムがTFTCの是正命令(処分)を受けてCMとの間でCMライセンス契約の再交渉を開
始したことを認めるに足りる証拠はない。
他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(イ) 前記1(2)認定のとおり,控訴人アップルと被控訴人クアルコムのラ
イセンス交渉は,CMへの既存のライセンスに依拠することに代えて,
控訴人アップルに直接ライセンスを提供することを目的としていたこ
とに照らすと,控訴人アップルが送付した甲9のレター記載の●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●との文中の「absent a license」の語は,「ラ
イセンスがない場合に」を意味するものであり,CMに対するライセン
スを含め,およそライセンスが存在しない場合を想定したものと認めら
れる。
そして,前記1(2)の認定事実によれば,被控訴人クアルコムは,控
訴人アップルから被控訴人クアルコムに対してライセンスがない場合
に原告製品が侵害していると被控訴人クアルコムが考えている特許権
の特定を求められたことを受けて,控訴人アップルに対し,被控訴人ク
アルコムがETSI(欧州電気通信標準化機構)に開示した特許の一覧\n表(甲7)及びサンプルクレームチャート(甲14)を提供したことが\n認められることに照らすと,上記一覧表及びクレームチャートに本件特\n許の米国対応特許及び中国対応特許が含まれているからといって,控訴
人アップルと被控訴人クアルコム間のライセンス交渉の中で,被控訴人
クアルコムが控訴人アップルに対し原告製品が本件特許権を侵害して
いることを主張したものと認めることはできない。
(ウ) したがって,控訴人らの前記主張は理由がない。
」
(2) 原判決17頁4行目の「(3)」を「(3)ア」と改め,同頁19行目末尾に行
を改めて次のとおり加える。
「イ この点に関し,控訴人らは,被控訴人クアルコムは,本件訴訟では,
CMライセンス契約の存在を理由として,本件特許権に基づく損害賠償
請求権及び実施料請求権を有しない又は行使できない旨主張している
ものの,米国訴訟においては,CMライセンス契約の存在にかかわらず,
携帯通信SEPポートフォリオに含まれる特許につき,FRAND条件
の適合性やFRAND条件でのロイヤルティの確認を求める申立てを\nするなど,控訴人アップルによる被控訴人クアルコムの保有する特許権
の侵害を前提とする主張を行っており,被控訴人クアルコムの両主張が
矛盾することは明らかであり,このような被控訴人クアルコムの米国訴
訟における本件訴訟と矛盾した主張は本件訴えの確認の利益を基礎付
けるものといえる旨主張する。
しかしながら,前記1(6)認定のとおり,被控訴人クアルコムが,米国
訴訟において,反訴として,被控訴人クアルコムのライセンス提案がF
RAND宣言に適合していること及び仮にFRAND宣言に適合しな
い場合はFRAND条件によるロイヤルティの確認の申立てを行っていること,被控訴人クアルコムが,同訴訟において,2018年(平成\n30年)6月19日,控訴人アップルが本件特許の米国対応特許を侵害
している旨の専門家意見書を提出したことは,被控訴人クアルコムが,
本件訴訟において,被控訴人クアルコムからライセンスを受けたCMか
ら原告製品の供給を受けている控訴人らに対し,本件特許権に基づく損
害賠償請求権及び実施料請求権を行使する意思はないし,日本法上行使
できるものとも考えていない旨主張していることと何ら矛盾するもの
ではない。したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。」
◆判決本文
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2019.01. 4
平成30(ネ)10059 特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成30年12月25日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下しました。知財高裁は訴えの利益ありと判断しました。
2 争点(1)
(被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益)について
(1)前提事実(引用に係る原判決第2の1(5))のとおり,被控訴人は,別件米国訴訟において,控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人が本件各製品を製造販売した行為について,本件米国特許権の侵害を理由として損害賠償請求をしているものである。そして,前提事実(引用に係る原判決第2の1(3)及び(4))のとおり,本件各製品の製造のために用いられた本件各機械装置を製造し,これを控訴人補助参加人に販売したのは控訴人である。また,当審第1回口頭弁論期日において,被控訴人が,被控訴人は控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有する旨陳述したことは,当裁判所に顕著である。そうすると,控訴人と被控訴人との間に本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の存否について争いがあり,控訴人は,被控訴人から,上記損害賠償請求権を行使されるおそれが現に存在するというべきである。したがって,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める訴えは,即時確定の利益を有する。
(2)被控訴人の主張について
ア 被控訴人は,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しない旨明確にしているから,上記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えは,即時確定の利益を欠くと主張する。しかし,被控訴人が,本件訴訟の提起前に,控訴人に対し,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を主張し,又はこれを行使したことはなく,さらに,原審第4回弁論準備手続期日において,被控訴人は控訴人に対し,上記損害賠償請求権を将来にわたって主張及び行使しない旨の一部和解に応じられる旨述べていたとしても,控訴人と被控訴人の間では,上記損害賠償請求権の存否については争いが存在するものである。また,被控訴人は,上記のとおり述べたとしても,これにより上記損害賠償請求権を行使しないことについて法的義務を負うに至ったものではなく,将来にわたって確実に権利行使をしないことを保証するものとはいえない。したがって,前記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えについて即時確定の利益を欠くとの被控訴人の前記主張は,採用できない。
イ 被控訴人は,控訴人らが,別件大阪訴訟を提起したから,本件訴訟は確認の利益を欠く旨主張する。しかし,別件大阪訴訟は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として別件米国訴訟を提起したことについて,不法行為又は本件実施許諾契約の債務不履行に当たるとして損害賠償金の支払等を求めるものである(乙4,5)。一方,本件訴訟の争点(1)に係る部分は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人による本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めるものである。両訴訟の訴訟物が相違するだけではなく,審理の対象となる不法行為ないし債務不履行行為の内容も,全く異なる。よって,控訴人らが原判決後に別件大阪訴訟を提起したからといって,本件訴訟の確認の利益が失われることはなく,被控訴人の上記主張は,採用できない。
(3)以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は,存するというべきである。
・・・
よって,被控訴人が控訴人及び控訴人補助参加人に対し,本件各特許権の侵害を
理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認するとの訴えに
は,確認の利益があるから,原判決のうち,この訴えを却下した部分を取り消し,
当該部分につき本件を東京地方裁判所に差し戻すこととし,また,本件控訴のうち
その余の部分は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決す
る
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2019.01. 4
平成29(ネ)10086 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成30年12月18日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は無効理由ありとして権利行使を認めませんでした(特104条の3)(口頭弁論終結H29/6/20)。この1審判決の少し前に、併存していた無効審判について請求理由なしとの審決がなされました(H29/4/18)。1審原告は、知財高裁に控訴しました。知財高裁は無効審判での証拠については、一事不再理の証拠なので、採用できないとして、技術的範囲に属するとの判断をしました。
無効理由1は,本件無効審判請求と同じく,乙24公報に記載の主引
例と乙25〜31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進
歩性欠如の主張をしたものであるから,無効理由1は本件無効審判請求
と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして,本件
審決は確定したから,被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許
無効審判を請求することができない(特許法167条)。
特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に
基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者
間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,
その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものでは
ない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴
訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間
の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法
104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段
の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2
条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
そして,本件において上記特段の事情があることはうかがわれないか
ら,被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主
張することは許されない。
イ 被控訴人は,特許法104条の3第1項の適用がないとしても,本件
特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから,本件特許権
の行使は衡平の理念に反するし,いわゆるキルビー判決は,特許権を対
世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現する
というものであるから,控訴人が被控訴人に対し,本件特許権を行使す
ることは権利の濫用として許されないと主張する。
しかし,被控訴人は,本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対
世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い,それに対
する判断としての本件審決が当事者間で確定し,上記アのとおり,無効
理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主
張することが許されないのであるから,本件において,控訴人が被控訴
人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず,
権利の濫用であると解する余地はない。
(3) 無効理由2について
無効理由2は,無効理由1と主引例が共通であり,本件審決にいう相違
点1A及び相違点2Aについて,「生体に印加する直流電源に太陽電池を
用いること」が周知技術である,あるいは,副引例として適用できること
を補充するために,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加した
ものといえる。
本件審決は,相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定\nし,相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから,
被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとし
ても,相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。
そうすると,無効理由2は,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が
追加されたものであるものの,相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に
関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し,その判断を蒸し
返す趣旨のものにほかならず,実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に
基づく無効主張であるというべきである。したがって,本件審決が確定し
た以上,被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することがで
きない。
そうすると,無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところ
が妥当するから,被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無
効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成28(ワ)4167
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2019.01. 4
平成30(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年12月18日 知的財産高等裁判所
無効審判の取消訴訟の請求が却下されました。原告は無効審判で無効理由ありとされた特許権者で、被告は共同で無効審判を請求した一部の請求人です。原告は代理人無しの本人訴訟です。
1 訴えの利益について
(1) 本件審決に係る別紙審決書(写し)の記載及び弁論の全趣旨によれば,本件
審決は,被告及び訴外会社が共同審判請求人となり,原告らを被請求人として請求
された特許無効審判事件に係るものである。また,本件において,原告らは,被告
のみを相手方とし,訴外会社については被告としていないことは,当裁判所に顕著
な事実である。なお,訴外会社との関係では,本件審決の送達日である平成30年
3月29日から30日の出訴期間を既に経過している。
そうすると,本件審決(無効審決)は,訴外会社との関係においては,原告らが
訴外会社に対する審決取消訴訟を提起することのないまま出訴期間を経過したこと
により,既に確定したこととなる。その結果,本件特許の特許権は初めから存在し
なかったものとみなされるから(特許法125条本文),本件訴えは,訴えの利益
を欠く不適法なものとして却下されるべきである。
(2)原告ら及び被告の主張について
ア これに対し,原告らは,特許無効審判の請求人が複数いたとしても,審決取
消訴訟の提起により対象となる審決の確定は遮断されるから,請求人全てをその被
告とする必要はないなどと主張する。
そこで,共同で特許無効審判が請求され,無効審決がされたのに対し,被請求人
が共同審判請求人の一部の者のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合の規律
について検討する。
同一の特許権について特許無効審判を請求する者が二人以上あるときは,これら
の者は,共同して審判を請求することができる(特許法132条1項)。これは,
本来,各請求人は,単独で特許無効審判請求をし得るところ,同一の目的を達成す
るためにこのような共同での審判請求を行い得ることとし,審判手続及び判断の統
一を図ったものである。もっとも,この場合の審決を不服として提起される審決取
消訴訟につき固有必要的共同訴訟であるとする規定はなく,審決の合一的確定を図
るとする規定もない。
また,同一特許について複数人が同時期に特許無効審判請求をしようとする場合
の特許無効審判手続の態様としては,1)上記の共同審判請求の場合のほか,2)別個
独立に請求された審判手続が併合された場合(同法154条1項),3)別個独立に
請求された審判手続が併合されないまま進行する場合の3つが考えられる。しかる
ところ,まず,上記3)の場合において無効審決がされたときは,その取消訴訟をも
って必要的共同訴訟と解する余地がないことに鑑みると,事実及び証拠が同一であ
るか異なるかに関わりなく,複数の特許無効審判請求につき,請求不成立審決と無
効審決とがいずれも確定するという事態は,特許法上当然想定されているものとい
うことができる。また,別個独立に請求された審判手続がたまたま併合された上記
2)の場合において無効審決がされたときも,上記3)の場合と取扱いを異にすべき合
理的理由はない。そうすると,上記1)の場合に,被請求人である特許権者の共同審
判請求人に対する対応が異なった結果として上記と同様の事態が生じることも,特
許法上想定されないこととはいえない。1)及び2)の場合にされた請求不成立審決に
対し,その請求人の一部のみが提起した審決取消訴訟がなお適法とされる(最高裁
平成7年(行ツ)第105号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号
69頁,最高裁平成8年(行ツ)第185号同12年2月18日第二小法廷判決・
判例時報1703号159頁参照)のも,このためと解される。
このように,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは,法文上
の根拠がなく,その必然性も認められないことに鑑みると,その請求人の一部のみ
を被告として審決取消訴訟を提起した場合に,被告とされなかった請求人との関係
で審決の確定が妨げられることもないと解される。
イ なお,この点について,被告は,本案前の答弁として,複数の審判請求人が
いる場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であり,被告のみ
を相手方として提起した原告らの本件訴えは不適法であるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ること
は法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことから,当該審決に対する取
消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。
ウ そうすると,共同での特許無効審判請求に対し無効審決がされたところ,被
請求人である特許権者が,共同審判請求人の一部のみを被告として当該審決の取消
訴訟を提起したにとどまり,被告とされなかった共同審判請求人との関係で出訴期
間を経過した場合には,同人との関係で当該無効審決が確定し,当該特許権は対世
的に遡って無効となることから,上記審決取消訴訟は,訴えの利益を欠く不適法な
ものとして却下されるべきこととなる。
◆判決本文
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