2022.12.16
令和4(ネ)10008 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年11月29日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明の侵害訴訟の控訴審判断です。1審は技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断しました。知財高裁も同じです。なお、二審第1回口頭弁論期日においてした訂正の再抗弁は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下されました。
(4) 控訴人らによる訂正の再抗弁の主張について
当裁判所は、令和4年9月22日の当審第1回口頭弁論期日において、控訴人らが同月5日付け控訴人ら第4準備書面に基づいて提出した訂正の再抗弁の主張について、被控訴人の申立てにより、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが、その理由は、以下のとおりである。\n
ア 一件記録によれば、1)被控訴人は、令和元年12月19日の原審第1回弁論準備手続期日において、本件発明5に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点4−1及び4−3)等が存在するとして無効の抗弁を主張し、令和3年7月20日の原審第3回弁論準備手続期日において、本件発明1に係る本件特許に乙8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由が存在するとして無効の抗弁を追加して主張したこと、2)その上で、控訴人らが、同年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述した後、同日、原審が、口頭弁論を終結し、同年12月9日、被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めて控訴人らの請求を棄却する原判決を言い渡したこと、3)その後、控訴人らは、当審において、令和4年7月21日に書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったことが認められる。
イ 以上を前提に検討するに、本件特許権の侵害論に関する抗弁の主張は、本来、原審において適時に行うべきものであるところ、控訴人らは、原審において、令和3年9月29日の原審第4回弁論準備手続期日において、他に主張、立証はない旨陳述するまでの間に、当審で主張する訂正の再抗弁の主張をしなかったものである。加えて、控訴人らは、原審が原判決において被控訴人が主張する上記無効の抗弁を認めた判断をしたにもかかわらず、当審における争点整理手続においても、書面による準備手続が終結するまで、訂正の再抗弁の主張をしなかったものであることからすると、当審における上記訂正の再抗弁の主張は、控訴人らの少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるというべきである。そして、当審において、控訴人らに訂正の再抗弁の主張を許すことは、被控訴人に対し、上記主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ、これに対する控訴人らの再反論等も想定し得ることから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで、当審は、民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき、控訴人らの訂正の再抗弁の主張を却下したものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)25121
本件特許の審決取消訴訟です。
◆令和3(行ケ)10027
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2022.10.20
令和3(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特102条2項の覆滅90%は1審と同じです。控訴審の第1回口頭弁論においてした無効主張が時機に後れた抗弁と判断されました。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加\nし,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。
これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。\n
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2)前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権\n利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
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2022.09. 5
令和3(行ケ)10137 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年8月23日 知的財産高等裁判所
先の審取で、実施可能要件違反はないと判断され、再度、実施可能\要件要件の無効を主張しましたが、「一次審決取消訴訟において行った主張と同じ」と判断されました。
(1) 審決取消訴訟の拘束力
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件につい
て更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟
法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定
により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が
導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審
判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ
判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰
り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを
許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限
りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすること
ができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号2
45頁)。
(2)ア 一次審決取消訴訟の判断
(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能\n要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の
記載は、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加す
る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構\成要件G)を
当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かという\nことが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係
る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件
明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業
機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能\であること
は明らかであると主張した(甲47〔20頁〕)。
(イ) この点について、一次判決は、特許発明が実施可能であるか否かは、\n実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否か
によって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が
本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否か
は、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体
を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙
14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能\であるこ
とが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判
断した(甲47〔51〜52頁〕)。
イ 本件審決の判断
原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件
審決第4の3(4)カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記
ア(イ))をし、そのような判断によれば、「一次審決は、図7のグラフを得た
という作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していな
いが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証
拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能\である。」と
いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能\であるとの判断が左右さ
れるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2(5)イ(イ)
c〔本件審決111頁〕)。
(3) 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G\nの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角
度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能\で
あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るた
めの実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が
実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件\nGの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す
る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用
いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そ\nのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能\であると主
張する(前記第3の9〔原告の主張〕)。
しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の
グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するも
のの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成\n要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能\要件との関係に
おいては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機
の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ\nて、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記(2)ア(ア))と同じ内容
の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした
主張は(前記(2)ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断
され(前記(2)ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生
じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原
告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。
したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした
判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事
由3の主張は理由がない。
◆判決本文
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2022.07.22
令和3(ネ)10094 特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年7月6日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審で訂正主張が時期に後れたと判断されましたが、控訴理由書での主張も同じく却下されました。判決文を読む限り、訂正の抗弁は却下対象とされそうです(4部)。
なお、控訴人は、控訴理由書で、本件発明について訂正する(訂正の再抗弁)
旨主張するが、当裁判所は、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものと
して却下した。その理由は、一件記録によると、当該訂正の再抗弁は、原審裁
判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、
原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されたものであると
ころ、適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないか
ら、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのこと
について控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張
を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかであるためである。
◆判決本文
原審はこちら(東京地裁40部)
◆令和2(ワ)8506
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2022.04.13
令和3(ネ)1005 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月10日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
空調服の特許について、1審は侵害を認めました。1審被告は控訴しましたが控訴は棄却されました。1審(東京地裁29部)は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。控訴審も覆滅割合は同じです。また、1審は、侵害論が終わってからの無効主張について、時期に後れたと判断しましたが、控訴審も同様です。
前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分
にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において,
他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定
の覆滅事由に該当するものと認められる。
そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,1)前記アで説示した
とおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される
開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに\n置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数あ
る取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首
後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したもの\nであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の
延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボ
タン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で
調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発
明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従
来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品にお
いて本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえない
こと,2)電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及
び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),3)一審被告における被告
各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮する
と,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は1
0%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については
被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因
果関係がないものと認められる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められる
から,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品
の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565
万2147円と認められる。
・・・
当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審
被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁
(同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりで\nある。
(1) 一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。
ア 一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。
一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日におい
て,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明
(請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件
の争点2−1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の
抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3
回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に
基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性
欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2−2及び2−3)を追加
して主張した。
一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備
手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。
その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日
から,損害論の審理に入った。
イ 株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項
3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒
認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タ
イプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3),
乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の
争点2−3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異な
る。)を無効理由として特許無効審判(無効2020−800103号
事件。以下「別件無効審判」という。乙104)を請求した。
ウ 一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日に
おいて,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明
に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由
が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一
審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。\n原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備
手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において
口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原
判決を言い渡した。
エ 一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同
年6月3日,本件附帯控訴を提起した。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年
7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に「無
効理由5」(別件無効審判の無効理由2と同じ),「無効理由6」(別
件無効審判の無効理由3と同じ),「無効理由7」(別件無効審判の無
効理由4と同じ),「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理
由9」(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。\nこれに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一
審被告の「無効理由5ないし9」に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の
抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。
オ なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8
日)において,特許庁に係属中である。
(2) 前記(1)の事実関係によれば,1)一審被告は,原審において,平成31年
3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許
に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進
歩性欠如の無効理由(本件の争点2−1ないし2−3)が存在するとして無
効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手
続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年
7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に
入ったこと,2)その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回
弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無
効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の
主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日にお
いて,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこ
と,3)一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,
控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理
由2ないし4と同じ無効理由である「無効理由5ないし7」,原審で主張し
なかった「無効理由8」(サポート要件違反)及び「無効理由9」(実施可
能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,4)別件無効審判は,当審の本件口頭弁論
終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審に
おいて適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和
元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証
は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する「無効理由5ないし9」
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,
やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審におけ
る上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべき
である。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗
弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の
機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得るこ
とから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。
そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1
項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下
したものである。
◆判決本文
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2022.01. 6
令和3(ネ)10026 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年9月30日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。1審の判断が維持されました。
(2) 控訴人の当審における補充主張に対する判断
控訴人は,請求1−1に関し,前記第2の3(1)アのとおり,別件評決ない
し別件米国判決は,被控訴人の元従業員であるAの認識や記憶に基づかない
意図的な偽証に基づきされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識し
たはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架
空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には,
民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の
基礎をなす公序,適正手続という観点に照らして到底容認されるべきもので
はなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があると主張する。
しかし,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳述が
判決の証拠となった場合でなければならず,同号を理由に再審を求める場合
には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならないところ
(同条2項),本件においてはこのような事情は認められない。したがって,
Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められるとする控訴
人の主張は失当というほかない。証人の供述の信用性等は,本来,別件米国
訴訟の中で攻撃防御を尽くした上,誤った判断がされたのであれば,最終的
には上告や再審といった手続の中で是正されるべきものであるところ,別件
米国訴訟においては,そのような機会を経た上で,控訴人の敗訴が確定し,
現在に至っているのであるから,請求1−1に係る控訴人の訴えは,別件米
国訴訟の蒸し返しに当たるといわざるを得ない。
なお,念のために付言すれば,Aは,2015年(平成27年)2月15
日付けの宣誓供述書(甲32)で,参加人が宇部興産に本件発明の実施品を
販売するために本件特許のライセンスを被控訴人に要求し,被控訴人は宇部
興産が非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述してい
るものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンス
の交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売で
きなくなり参加人としては困るとの話があったので購買部門に話をつないだ
こと,参加人が販売対象として考えているのが非競合他社であるかどうかに
ついては明確な議論はなく,ただ,その後上級管理者からは,非競合他社で
ある宇部興産に販売しようとしているので問題はないだろうと言われたこと
を証言し(甲35),別件関連訴訟における陳述書(甲50)では,Cから
ライセンスの打診は受けたが上司に話をつないだだけであるとし,別件関連
訴訟の証人尋問では,Cから本件特許が製品の販売に支障をきたすので何と
かならないかという話があったので,上司に話をつないだこと,宇部興産と
いう具体名は出なかったが,被控訴人の競合相手ではない同社のことだろう
と推測したものであることを証言している(甲51)。このような経緯に照
らせば,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めるこ
とは困難であり,また,その偽証に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行し
ていたともいい難い。
その他,控訴人がるる主張する点を考慮しても,日本の裁判所が審理及び
裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9)
があるとの判断を覆すに足りるものではない。
2 確認の利益の有無(請求1−2について。争点3)
確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険又は不
安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権
利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。
被控訴人は,令和3年7月20日の当審第1回口頭弁論期日において,仮に,
本件日本特許権の侵害に基づく被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が存
在するとしても,請求権自体放棄すると陳述した。
そうすると,請求1−2の対象となる権利については,被控訴人による権利
行使の意思がないことはもちろん,本件口頭弁論終結時におけるその存在自体
が認められないことになり,権利の存否を巡る法律上の紛争は解決されたとい
えるから,現に控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去する
ため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であると認めることは
できない。
したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求1−2に係る訴
えには確認の利益が認められないから,不適法というべきである。
3 訴訟物の特定の有無(請求2について。争点4)
当裁判所も,請求2に係る訴訟物の特定に欠けるところはないものと判断す
る。その理由は,原判決の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用す
る。
4 請求2−1に係る訴えの準拠法(争点2)並びに別件米国訴訟の提起及び追
行の違法性等(争点6)
(1) 日本法に基づく不法行為の成否
ア 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の
結果発生地の法による(通則法17条本文)。もっとも,不法行為につい
て外国法によるべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法
によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処
分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求2
−1に係る訴えの準拠法をいずれの地の法と考えるとしても,被控訴人に
よる別件米国訴訟の提起及び追行につき日本法により不法行為といえる
必要があることになる。そこで,以下,この点につきまず検討する。
イ 別件米国訴訟は,被控訴人が勝訴して確定するに至っており,このよう
な場合に,訴えの提起や追行が不法行為となるためには,確定判決の騙取
が不法行為となる要件,すなわち判決の成立過程において,被控訴人が控
訴人の権利を害する意図のもとに,作為又は不作為によって控訴人の訴訟
手続に対する関与を妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔す\nる等の不正な行為を行い,その結果,本来あり得べからざる内容の確定判
決を取得したこと(最高裁判所昭和43年(オ)第906号同44年7月
8日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁),ないしはこれに準ず
る特段の事情を要すると考えるのが相当である。そもそも,法的紛争の当
事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹
に関わる重要な事柄であるから,訴えの提起や追行が不法行為を構成する\nか否かを判断するに当たっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果と
ならないような慎重な配慮が必要とされるのであり,民事訴訟を提起した
者が敗訴の確定判決を受けた場合ですら,当該訴えの提起が相手方に対す
る違法な行為となるには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法
律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを
知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに
あえて訴えを提起し,又はそれを維持したなど,訴えの提起・追行が裁判
制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められることを要す
ると理解されている(63年判決)のであるから,民事訴訟を提起した者
が勝訴の確定判決を受けている場合には,前示のとおり,より高次の特段
の事情を要するというべきである。
これを前提にして本件を見れば,引用に係る原判決第2の1(補正後の
もの)及び第3の1(2)イで認定された事実関係に照らせば,本件が,確定
判決の騙取が不法行為となる要件ないしはこれに準ずる特段の事情どこ
ろか,民事訴訟を提起した者が敗訴した場合の要件すら満たし得ないもの
であることは明らかというべきである(なお,別件米国訴訟においてAが
意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証
に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行していたともいい難いことは,前
記1(2)において判示したとおりである。)。
以上のとおりであるから,被控訴人による別件米国訴訟の提起・追行が
不法行為となるとはいえない。
(2) 小括
以上によれば,請求2−1に係る訴えの準拠法をいずれの地とした場合
でも,日本法によれば,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につ
き,控訴人に対する不法行為は成立しない以上,損害賠償その他の処分の
請求をすることはできない。
したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2−1は理
由がない。
5 請求2−2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴
人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(争点7)につい
て
(1)準拠法について
本件許諾契約には,その成立及び効力に係る準拠法を明示的に定めた規定
はない。もっとも,本件許諾契約により参加人に対する独占的通常実施権の
許諾を行う被控訴人は,日本に主たる事務所を有する日本法人であること等
を踏まえれば,本件許諾契約の効力の準拠法は,その最密接関係地である日
本法とするのが相当である(通則法8条2項,1項)。
(2) 債務不履行の有無について
控訴人は,前記第2の3(4)アのとおり,参加人と被控訴人との間で締結さ
れた第三者のためにする契約の効果又は参加人が本件各特許発明について再
実施許諾する権限に基づき控訴人に本件各特許権の再実施を許諾したことに
より,控訴人は本件各発明について実施権を有し,被控訴人は控訴人に対し
本件各特許権を行使しない義務を負っているところ,これに反して被控訴人
が別件米国訴訟を提起したことが控訴人に対する債務不履行となると主張す
る(なお,控訴人のこの点に係る請求は,被控訴人が別件米国訴訟を提起,
追行したことにより生じた弁護士費用相当額の損害賠償である。)。
しかし,控訴人の特許権者の実施権者に対する提訴が債務不履行となると
すれば,それは実質的には訴権の放棄に等しい効果をもたらすものであるか
ら,特許権者が実施権者に不提訴義務を負うことが前提となるというべきで
ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件
各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであ
るとしても,そのことは,被控訴人が購入者に対し差止請求権や損害賠償請
求権を行使して訴えを提起しても,抗弁が成立して請求が棄却されることを
意味するだけで,当然に被控訴人に参加人からの機械装置の購入者に対する
訴えの提起をしない義務を負わせるものとはいえない。
本件許諾契約には,参加人から機械装置を購入して本件各特許発明(製法
特許)を実施した者に対する不提訴義務が規定されていないことはもちろん,
参加人に対する不提訴義務についても規定されていない。事情が変更する可
能性があり,様々な形態をとり得る特許権者と実施権者ないし実施権者から\nの機械装置の購入者の将来の紛争について,明文の規定もなく不提訴の合意
があったと軽々に認めることはできない。控訴人は本件許諾契約の当事者で
はなく,当時存在もしていなかったのであるから(控訴人の成立は,原判決
第2の1(1)アのとおり,2008年〔平成20年〕4月頃である。),なお
さら,本件許諾契約が控訴人に対する不提訴義務を定めていると認めること
はできない。その他に,本件において,不提訴の合意があったことを裏付け
るに足りる事情は見当たらない。
したがって,その他の点について判断するまでもなく,本件において被控
訴人の控訴人に対する不提訴義務は認められず,被控訴人が別件米国訴訟の
提起をしたことについて,債務不履行が成立する余地はないというべきであ
る。
(3) 小括
以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履
行は認められず,請求2−2は理由がない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)5041
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2022.01. 3
令和3(ネ)10043 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年11月11日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審と同じく、知財高裁は、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断しました。
以上からすると,当業者によって,当初明細書等の全ての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項とは,低地球温暖化係数の化合物である
HFO−1234yfを調整する際に,不純物や副反応物が追加の化合物
として少量存在し得るという点にとどまるものというほかない。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,沸点の近い化合物を組み合せて共沸組成物とすることが本件
発明の技術的思想であることや,低コストで有益な組成物を提供すること
ができること等を主張するが,当初明細書中には,沸点の近い化合物を組
み合せて共沸組成物とすることや低コストで有益な組成物を提供できる
ことについては,記載も示唆もされていないから,その主張は前提を欠く
し,このような当初明細書に記載のない観点から本件補正をしたというの
であれば,それは新たな技術的事項を導入するものであり,まさしく新規
事項の追加にほかならない。
◆判決本文
1審はこちら
◆令和1(ワ)30991
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