2014.04. 1
契約書に、フランスの裁判管轄についての規定があっても、それは、「付加的合意管轄についての定めである」として、我が国の裁判管轄を認めました。また、損害額について、過去の判例に基づき、「外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権について,最終口頭弁論期日の外国為替相場によって日本の通貨に換算した額とする」と判断されました。
本件契約における裁判管轄の合意は,解除による契約終了後においても効力を失わない,いわゆる訴訟契約として有効であることにつき,当事者間に争いがない。その上で,被告は,本件契約第14条における管轄合意は,国際的専属管轄の合意である旨主張する。国際的裁判管轄の合意の訴訟法上の効力については,法廷地である我が国の法律における解釈を前提とすべきであり,その合意は特定国の裁判所を管轄裁判所として明示的に指定する少なくとも当事者の一方が作成した書面に基づいて締結されれば足りるところ,ある訴訟事件について我が国の裁判権を排除し特定の外国の裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は,当該事件が我が国の裁判権に専属的に服するものではなく,かつ,指定された外国の裁判所がその外国法上当該事件につき管轄権を有する場合には,原則として有効であると解される(最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決・昭和45年(オ)第297号・民集29巻10号1554頁参照)。これを本件についてみると,本件契約における管轄合意条項は,「本契約に関する紛争又は本契約から生じる紛争は,本契約の当事者において友好的に解決するものとする。かかる解決が出来なかったときは,両当事者間の紛争は,フランス国パリの商事裁判所に提起するものとする。」とするものであり,本件訴訟における未払ロイヤルティの支払を含む債務不履行責任に関する紛争は我が国の裁判所が専属管轄を有するものではなく,かつ上記管轄合意条項により指定された裁判所が当該事件につき管轄権を有していると認めることができるから,本件契約における上記管轄合意条項は,裁判管轄の合意として有効であると解される。しかし,上記管轄合意条項が国際的専属管轄の合意であるか否かに関しては,上記管轄合意条項の規定は,文言上,フランス国パリの商事裁判所のみを残して,これを専属管轄裁判所とするものとも,また,我が国の裁判権を排除するなど他の裁判所の管轄権を排除するものともなっていないこと,原告は個人であるものの,商人間のフランチャイズ契約と認められる本件契約に関する紛争について,フランス国パリの商事裁判所は法定管轄を有する裁判所の一つであると解されるところ,フランス国においては,通常裁判所として我が国の地方裁判所に相当する大審裁判所のほかに,我が国に存しない商事紛争を管轄する特別の裁判所である商事裁判所が存することもあって,法定管轄裁判所の一つであるパリの商事裁判所にあえて付加的な裁判管轄の合意をしたものと解しても,当事者の合理的意思解釈として不相当とはいえないこと,さらに,本件契約の準拠法であるフランス法においても,フランス民事訴訟法48条は,「直接的又は間接的に土地管轄に関する定めに抵触するすべての条項は,記載なきものと見なす。ただし,その条項が商人の資格で契約したものの間で合意されており,かつ,それをもって対抗される当事者の契約書において非常に明白に特記されているときは,このかぎりではない。」と規定しており,本件契約の管轄合意について付加的合意管轄の定めであると解しても,特段問題は生じない。以上の点を総合考慮すると,本件契約における管轄合意は,我が国の裁判管轄を排除するものではなく,付加的合意管轄についての定めであると解するのが相当である。以上の検討によれば,原告の主張する管轄利益の放棄の点について判断するまでもなく,本件は,被告の普通裁判籍所在地を管轄する東京地方裁判所に提起されたものであるから,適法であるということができる。
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以上のとおり,被告は,原告に対し,まず,平成22年1月分までの未払ロイヤルティとして17万4680.91ユーロの支払義務を負うが,外国の通貨をもって債権額が指定された金銭債権については,債権者は債務者に対して外国の通貨又は日本の通貨のいずれによってもこれを請求することができるところ,外国の通貨をもつて債権額が指定された金銭債権について日本の通貨により裁判上の請求がされた場合,その債権額は,事実審の最終口頭弁論期日の外国為替相場によって外国の通貨を日本の通貨に換算した額とするのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和50年7月15日判決・昭和48年(オ)第305号・民集29巻6号1029頁参照)。これを本件において検討すると,本件においては,上記のとおり債権はユーロ建てであり,本件口頭弁論終結時の円の対ユーロレートは約142円であると認められる(甲42,平成26年1月15日のレート)から,原告が平成22年1月分までの未払ロイヤルティとして請求する額である2240万6320円を下回ることはない。よって,上記金額を認容することとし,遅延損害金の起算点については,催告後相当期間を経過した,原告の請求する平成22年4月23日とすべきである。
◆判決本文