漏れていたので、アップします。国際裁判管轄、差止請求等に係る訴えの利益、技術的範囲の属否、間接侵害、無効理由など、争点は満載なので、判決文が200頁以上あります。認められた損害額も40億円を超えています。
(1) 特許法102条2項の適用の有無(争点11−1)
原告は,被告らが特許権侵害行為により利益を受けているとして,特許法
102条2項の適用があると主張するのに対し,被告らは,原告が本件発明
1を実施していないこと,また,本件発明1は被告製品の販売に何ら寄与し
ていないことから,被告製品の販売と原告の損害との間には因果関係がなく,
特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が存在しないから,特許法102条2項の適用がないと
主張する。
そこで検討するに,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかった
ならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法10
2条2項の適用が認められると解すべきであり,特許法102条2項の適用
に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とす
るものではないというべきである(知財高裁平成24年(ネ)第10015
号同平成25年2月1日判決参照)。
そうすると,原告が本件発明1を実施していないことは,特許法102条
2項の適用を妨げる事情とはいえない。また,原告は,被告製品と同様にL
TO−7規格に準拠する原告製品を販売しており(弁論の全趣旨),原告製
品と被告製品の市場が共通していることからすれば,特許権者である原告に,
侵害者である被告らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた
であろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法
102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。被告らが主
張する,被告製品の販売における本件特許1の寄与の程度については,推定
覆滅の一事情として考慮すべきである(後記(4)参照)。
以上のとおり,被告らの主張は採用することができず,原告の損害額の算
定については,特許法102条2項の適用による推定が及ぶ。
(2) 輸出を伴う取引形態における利益の範囲(争点11−2)
被告OEM製品の取引形態のうち,取引形態2(被告OEM製品の製造業
者である被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出し,海外において被告
SSMM自身の在庫として保有しているものを,被告ソニー又は被告SSM\nSを介して海外の顧客に販売する取引形態)によって被告らが得た利益につ
いて,特許法102条2項の推定が及ぶか否かについて検討する。この点,
被告らは,取引形態2によって得られた利益は,全て海外での販売行為によ
り発生したものであるから,属地主義の原則から,これには上記推定が及ば
ないと主張する。
弁論の全趣旨(被告準備書面(7))によれば,被告OEM製品の取引形態
2は,具体的には,(1)平成27年12月から平成29年3月までは,被告S
SMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告
ソニーに対して販売し,さらに,被告ソ\ニーが,これを顧客に対して販売し
ており,(2)平成29年4月から同年9月までは,被告SSMMが,被告OE
M製品を日本国内で製造して海外に輸出した後に,被告SSMSに対して販
売し,さらに,被告SSMSが,これを被告ソニーに対して販売し,その後,\n被告ソニーが,これを顧客に対して販売しており,(3)平成29年10月以降
は,被告SSMMが,被告OEM製品を日本国内で製造して海外に輸出した
後に,被告SSMSに対して販売し,さらに,被告SSMSが,これを顧客
に対して販売したことが認められる。
上記事実に照らせば,被告OEM製品の取引形態2における販売行為は,
形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われ
ているものである。しかしながら,被告OEM製品は,その性質上,被告ら
(本件期間(1)においては被告ソニー及び被告SSMM)が,本件OEM供給\n先(HPE及びQuantum)の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対し
てのみ販売することが予定されていたものであるから,被告SSMMが被告\nOEM製品を日本国内で製造して海外に輸出し,被告ソニーや被告SSMS\nに販売し,さらに被告ソニーや被告SSMSがこれを顧客(本件OEM供給\n先)に販売するという一連の行為が行われた際には,その前提として,当然,
当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意
思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造
と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認するこ
とができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM
製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には
被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価する
ことができる。被告らは,被告SSMMが本件OEM供給先から提供を受け
たフォーキャストと,実際の被告OEM製品の受注は必ずしも一致しないこ
とから,被告SSMMの製造・輸出と,その後の販売行為は独立した別々の
行為である旨主張するが,被告SSMMは本件OEM供給先から提供される
フォーキャストで示された予想される発注量に基づいて被告OEM製品を製\n造し,被告らはこれを販売していたものであるから,月々のフォーキャスト
と受注が必ずしも一致しないことをもって,被告らの行為ないしその意思決
定の一連性が否定されるものではない。また,被告らは,本件OEM供給先
からの被告OEM製品の受注,被告OEM製品の海外倉庫からの出庫(海外
倉庫の管理を含む)及びOEM顧客への発送,並びにOEM顧客に対する請
求を,各国に本拠地を有する各現地協力会社に委託しており,これらの業務
は全て,日本国内ではなく海外において行われたものであるとも主張するが,
単に事実行為の一部を海外の協力会社に委託していたと主張するにすぎない
ものであって,上記一連の行為の意思決定が実質的に日本国内で行われてい
たと評価することができるという上記結論を何ら左右するものではない。
加えて,少なくとも,本件特許権1の侵害行為である被告OEM製品の国
内での製造及び輸出が被告らによる共同不法行為であると認められる(前記
7参照)以上,被告らによる販売行為が,全て被告SSMMが被告OEM製
品を海外に輸出した後に行われたものであるとしても,被告らの販売行為に
よる利益は,被告らによる国内における上記共同不法行為(被告OEM製品
の国内での製造及び輸出)と相当因果関係のある利益(原告にとっての損害)
ということができ,侵害行為により受けた利益といえる。
したがって,取引形態2によって被告らが得た利益についても,特許法1
02条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の
特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義
の原則とは整合するというべきである。これに反する被告らの主張は採用で
きない。
・・・
(4) 推定覆滅事由の存否及びその割合(争点11−4)
ア 被告製品が本件発明1の作用効果を奏していないとの主張について
被告らは,被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成している\nことにより,裏写りを十分に抑制することができていること,また,本件\n発明1の構成要件1Cを充足する製品としない製品の保存試験(乙204,\n206)の結果などから,被告製品が本件発明1の作用効果を奏していな
いと主張する。
しかしながら,前記5(4),(5)説示のとおり,本件明細書1・表1の記\n載からは,磁性層表面及びバックコート層表\面の10μmピッチにおける
スペクトル密度,磁性層の中心面平均表面粗さ,六方晶フェライト粉末の\n平均板径のそれぞれが本件発明1−1に規定された範囲内である実施例は,
比較例よりも保存前後のSNRの変化が小さいことを読み取ることができ,
そこから,本件発明1により発明の課題を解決することができるものと理
解できるから,そうである以上,本件発明1の技術的範囲に属する被告製
品は本件発明1の作用効果を奏していると認められ,これを覆すに足りる
証拠はない。
これに対し,被告らは,被告製品が本件明細書1の実施例に記載されて
いる磁気テープとは材質・組成等が異なるものであり,構成要件を充足す\nるからといって当然に明細書に記載されている発明の効果を奏すると認め
られるものではないと主張するが,本件明細書1の実施例に記載されてい
る磁気テープと被告製品とは材質・組成等が異なるとしても,そのことに
よって被告製品が本件発明1の発明の効果を奏していないものと認めるに
足りる証拠はない。被告らはその他るる主張するが,いずれも上記結論を
左右しない(なお,原告の製品が本件発明1の実施品でないとする主張に
ついては,その主張の根拠である測定結果(乙116,117)が前記4
(2)イ(ア)の説示に照らして信用できないから,採用できない。)。
なお,被告らが主張する,被告製品が硬度の高い磁性層表面を形成して\nいる点について検討するに,確かに,証拠(乙197ないし199)によ
れば,磁性層表面が硬いほど裏写りが生じにくいことが認められ,また,\n本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した被告製品において,\n高温保存の前後でエラーレートに有意な変化は生じなかったこと(乙20
4)からすれば,本件発明1の構成要件1Cを充足しないように調整した\n被告製品においては,硬度の高い磁性層表面を形成していること(原告は\n特に争っていない)によって,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑えら
れているものと認められる。
(なお,原告は,甲96の実験を根拠に,磁性層の硬度を高めたとして
も裏写りは防止できないと主張するが,同実験においては,磁気テープの
硬度の指標として引張り強度が用いられているところ,裏写りによる磁気
テープの電磁変換特性の悪化を防止するための磁性層の硬度の指標として
は,押込み強度が用いられるべきである(乙197・段落【0024】,
【0026】,乙205)から,同実験によっても,磁性層の硬度(押込
み強度)を高めた場合に裏写りが防止できないものと認めることはできな
い。また,原告は,エラーレートの検証がなぜ本件発明1の作用効果の検
証につながるのか説明がないなどと主張するが,磁気テープにおいて電磁
変換特性が悪化した場合,エラーレートが上昇すること(乙204)から
すれば,エラーレートの変化を検証することで電磁変換特性の変化も検証
できるものと考えられる。)。
しかしながら,一方,証拠(乙206)によれば,本件発明1の構成要\n件1Cを充足する被告製品においても,高温保存の前後でエラーレートに
有意な変化は生じず,高温保存後の電磁変換特性の悪化が抑制されている
ものと認められるが,上記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被
告製品は本件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製
品において,硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明\n1の作用効果を超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足り
る証拠はない。
イ 本件発明1の作用効果が被告製品の購入動機となっていないとの主張に
ついて
被告らは,被告製品の顧客は,本件発明1の作用効果に着目して被告製
品を選択しているわけではなく,本件発明1の作用効果が被告製品の購入
動機となっていないと主張する。
そこで検討するに,特許法102条2項の趣旨からすれば,同条項の推
定を覆滅させる事由として認められるためには,特許権侵害がなかったと
しても,被告製品の販売等による利益(の一部)は原告に向かわなかった
であろう事由の存在が必要である。したがって,被告製品の顧客の購入動
機が単に本件発明1の作用効果に着目していなかったというのでは足りず
(ゆえに,被告製品のパンフレットに本件発明1の作用効果がセールスポ
イントとして記載されていないのみでは推定覆滅事由足りえない。),被
告製品の顧客の購入動機が,被告製品の独自の技術や性能に着目したもの\nであったことを具体的に主張立証する必要がある。
そして,被告らは,被告製品の顧客の主要な購入動機として,被告製品
が大記録容量及び高速データ転送速度を実現した製品である点,記録媒体
としての磁気テープの利点(保存時に通電が不要である点等),単一ドラ
イブを用いて時期テープカートリッジへのデータ記録を行った場合におけ
る,記録容量,転送レート及び記録速度の安定性(原告製品と比較してよ
り優れた性能を有すること)を挙げるが,これらの点が被告製品独自のも\nのであることや,仮に独自のものであったとしても,それが原告製品と比
較して異なる程度,及び,これらの点が被告製品の顧客の主要な購入動機
となっていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に本件特許権1の
侵害がなかったとしても,これらの点のために,被告製品の販売等による
利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めるには足りない。
なお,前記アのとおり,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品は本
件発明1の作用効果を奏していると認められるところ,被告製品において,
硬度の高い磁性層表面を形成していることにより,本件発明1の作用効果\nを超えて,独自の作用効果を奏していることを認めるに足りる証拠はない
し,仮に,被告製品において,磁性層の素材の硬度を高めることにより本
件発明1と同様な独自の作用効果を一部奏しているとしても,そのような
被告製品独自の作用効果がどの程度生じているのかは不明である上,その
点が被告製品独自の購入動機となっていたとも認められない(被告自身が
本件発明1の作用効果は購入動機となっていない旨主張している。また,
被告製品の広告(甲97)では,データの長期保存について記載されてい
るところ,本件発明1の作用効果である長期保存後の裏写りの防止は,デ
ータの長期保存に資するものであるから,被告製品が本件発明1の作用効
果を有していることは,間接的には購入の動機の一因になっているものと
考えられるが,上記のとおり,そのような作用効果ひいては購入の動機が
被告製品独自の構成によって生じたり,高められたりしたものと認めるこ\nとはできない。)。したがって,仮に,被告製品が磁性層の素材の硬度を
高めることで本件発明1の作用効果を一部奏しているとしても,そのこと
によって,仮に本件特許権1の侵害がなかった場合に,被告製品の販売等
による利益(の一部)は原告に向かわなかったであろうと認めることはで
きない。
ウ 以上のほか,被告らは,本件発明1の技術的範囲に属さない代替製品を
製造・販売することできたことも主張するが,現にそのような代替製品を
製造・販売していたものではなく,その可能性にとどまるものであるから,\n推定覆滅事由として認めることはできない。
したがって,特許法102条2項の推定を覆滅させる事由を認めること
はできない。
◆判決本文