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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

裁判管轄

令和4(ネ)1273  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年9月30日  大阪高等裁判所

大阪高裁は、特許権に関係する事件について、神戸地裁が判断したことは管轄違いとして、原判決を取り消しました。

ところで、民訴法6条1項は、「特許権」「に関する訴え」については、東 京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属する旨規定し、同条3項本文は、 東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が第1審として審理した「特許権」「に関 する訴え」についての終局判決についての控訴は東京高等裁判所の管轄に専属 する旨規定し、さらに知的財産高等裁判所設置法2条が、上記訴えは、同法に 基づき東京高等裁判所に特別の支部として設置された知的財産高等裁判所が取 り扱う旨規定している。上記各規定の趣旨は、「特許権」「に関する訴え」の 審理には、知的財産関係訴訟の中でも特に高度の専門技術的事項についての理 解が不可欠であり、その審理において特殊なノウハウが必要となることから、 その審理の充実及び迅速化のためには、第1審については、技術の専門家であ る調査官を配置し、知的財産権専門部を設けて専門的処理態勢を整備している 東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の管轄に専属させることが適当であり、控 訴審については、同じく技術の専門家である調査官を配置して専門的処理態勢 を整備して特別の支部として設置した知的財産高等裁判所の管轄に専属させる ことが適当と解されたことにあると考えられる。 そして、このような趣旨に加え、民訴法6条1項が「特許権」「に基づく訴 え」とせず「特許権」「に関する訴え」として、広い解釈を許容する規定ぶり にしていることも考慮すると、「特許権」「に関する訴え」には、特許権その ものでなくとも特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に 関する訴えも含んで解されるべきであり、また、その訴えには、前記権利が訴 訟物の内容をなす場合はもちろん、そうでなくとも、訴訟物又は請求原因に関 係し、その審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽 象的に想定される場合も含まれるものと解すべきである。 なお、専属管轄の有無が訴え提起時を標準として画一的に決せられるべきこ と(民訴法15条)からすると、「特許権」「に関する訴え」該当性の判断は、 訴状の記載に基づく類型的抽象的な判断によってせざるを得ず、その場合には、 実際には専門技術的事項が審理対象とならない訴訟までが「特許権」「に関す る訴え」に含まれる可能性が生じるが、民訴法20条の2第1項は、「特許権」\n「に関する訴え」の中には、その審理に専門技術性を要しないものがあること を考慮して、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所において、当該訴訟が同法6 条1項の規定によりその管轄に専属する場合においても、当該訴訟において審 理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を 避けるため必要があると認めるときは、管轄の一般原則により管轄が認められ る他の地方裁判所に移送をすることができる旨規定しているのであるから、こ の点からも、上記「特許権」「に関する訴え」についての解釈を採用するのが 相当である。
3 そこで、以上に基づき本件についてみると、本件訴状の記載によれば、本件 が、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償の訴えとして提起されたものであ ることは明らかであるが、訴状によって控訴人が主張する債務不履行に基づく 損害賠償請求は、本件発明が、本件契約に基づく研究(本件受託研究)により 得られた成果物であるのに、被控訴人がこれを本件研究者個人の発明であり控 訴人と共同出願することは出来ないとして、本件研究者単独で特許出願した行 為が、本件契約14条1項に規定する「被控訴人は、本件研究の実施に伴い発 明等が生じたとき・・・は、控訴人に通知の上、当該発明等に係る知的財産権 の取扱いについて控訴人及び被控訴人が協議し決定するものとする。」との協 議義務に違反し、また、控訴人が権利の承継について希望していたにもかかわ らず、被控訴人が控訴人と協議を行うことなく本件研究者による特許出願を強 行した行為が、本件契約14条2項に規定する「被控訴人は、前項の知的財産 権を控訴人が承継を希望した場合には、控訴人に対して相当の対価と引き換え にその全部を譲渡するものとする。」との義務にも違反し、その結果、控訴人 が本件発明に係る特許権を取得できなくなったことで余儀なくされた出捐をも って損害と主張するものである。
ところで、前者の本件契約14条1項の規定は「知的財産権」について規定 しているが、本件では、未だ特許がされていない特許出願された段階の本件発 明の取り扱いについて争われているから、本件発明に係る「特許を受ける権利」 が同項にいう「知的財産権」に含まれることを前提に同項違反が主張されてい るものと解されるし、また、後者の本件契約14条2項の規定関係についても、 ここで控訴人が主張している権利は、上記同様、本件発明に係る特許を受ける 権利と解されるから、ここでも同権利が同項にいう「知的財産権」に含まれる ことを前提に同項違反が主張されているものと解されるのであって、いずれも、 特許を受ける権利が本件の請求原因に関係しているといえる。 そして、控訴人は、本件発明に係る特許権を取得できなくなったことで余儀 なくされた出捐をもって、上記各条項違反を理由とする債務不履行により生じ た損害と主張し、その賠償を被控訴人に求めているのであるが、本件訴状の記 載によれば、被控訴人は、本件発明に係る特許を受ける権利が本件受託研究に より得られた成果物でないことを理由として、本件研究者のした特許出願が本 件契約14条1項、2項の債務に違反しないと争っていることが認められるか ら、本件訴状からうかがえる債務不履行に基づく損害賠償請求の成否は、本件 発明が本件受託研究により得られた成果物であるか否かが争点として判断され るべきことが見込まれ、その判断のためには、本件発明が本件受託研究の成果 物に含まれるかという専門技術的事項に及ぶ判断をすることが避けられないも のと考えられる。
したがって、本件は、債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟として訴訟提起 された事件であるが、その訴状の記載からは、その争点が、特許を受ける権利 に関する契約条項違反ということで特許を受ける権利が請求原因に関係してい るといえるし、その判断のためには専門技術的な事項の理解が必要となること が類型的抽象的に想定されることから、本件は「特許権」「に関する訴え」に 含まれると解するのが相当である(なお、前記1(3)のとおり、原審は、控訴人 主張に係る債務不履行の成否を判断する前提問題として、本件発明が、被控訴 人が本件契約に基づき協議義務を負うべき本件受託研究の成果物に含まれるか 否かの争点に関して、本件受託研究が、2ステップ(1)ヒトの血液を用いず、 培養細胞を用いて不活性型Gc−Proteinを合成、2)これを構成する二\nつの糖鎖(Gal(ガラクトース)及びSA(シアル酸))を、酵素の作用に より切断)を経る方法によって活性型GcMAFを生成する方法を研究すると いうものか、又は、本件発明のように、特定の細胞を特殊な培養条件下で合成 し、酵素処理を要することなく1ステップで活性型GcMAFを生成する方法 に関する研究をも含むものか、といった専門技術的事項にわたると考えられる 事項ついて審理判断をしている。)。
4 そうすると、大阪府内に主たる事務所を有する控訴人と神戸市内に主たる事 務所を有する被控訴人との間における、控訴人の被控訴人に対する債務不履行 の損害賠償請求である本件は、管轄の一般原則によれば債務の義務履行地であ る控訴人の主たる事務所の所在地を管轄する大阪地方裁判所又は被控訴人の主 たる事務所の所在地を管轄する神戸地方裁判所が管轄権を有すべき場合である から、本件訴訟は、民訴法6条1項2号により大阪地方裁判所の管轄に専属す るというべきであって、神戸地方裁判所において言い渡された原判決は管轄違 いの判決であって、取消しを免れない。

◆判決本文

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平成30(ネ)10077  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年7月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 海外サーバからのサービス提供が特許発明の技術的範囲に属する場合に、1審は属地主義の原則からこれを認めませんでしたが、知財高裁2部は、日本特許の効力を認めました。

我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表\示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。\n
ウ 被控訴人ら各装置の生産
被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
エ 被控訴人ら各装置の使用
上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるし、被控訴人ら各装置を本件発明1の作用効果を奏する態様で用いるのは、動画やコメントを視聴するユーザであるから、被控訴人ら各装置の使用の主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人が主張するように被控訴人ら各装置の使用の主体が被控訴人らであると認めることはできない。
オ 被控訴人ら各プログラムの生産(端末装置における複製)
控訴人は、本件配信によりユーザの端末装置上に被控訴人ら各プログラムが複製され、これをもって、被控訴人らは被控訴人ら各プログラムを生産していると主張する。しかしながら、上記ウのとおり、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものであるから、ユーザの端末装置上において被控訴人ら各プログラムを複製している主体は、ユーザであると認めるのが相当である。控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 被控訴人ら各プログラムの生産(開発)
前記(1)カ及び(2)のとおり、被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。他方、前記(1)ケ及びサのとおり、被控訴人FC2は、被控訴人らサービス2及び3を第三者から譲り受け、ユーザに対する提供を開始したものと認められ、その他、被控訴人らが被控訴人らプログラム2又は3を開発したものと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らプログラム2及び3については、被控訴人らがこれを生産したということはできない。この点に関し、控訴人は、証拠(甲29の1及び2、30、36、37)を根拠に、被控訴人らは被控訴人らサービス2及び3につき各種機能の追加をしているのであるから、被控訴人らが被控訴人らプログラム2及び3の開発をしていることは明らかである旨主張する。しかしながら、これらの証拠により認められる被控訴人らサービス2及び3のアップデートの内容が本件発明1−9又は1−10の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないから、これらのアップデートをもって、被控訴人らが本件特許権1を侵害する態様で被控訴人らプログラム2又は3を開発したと認めることはできない。\n
キ 被控訴人ら各プログラムの生産(アップデートの際の複製)
控訴人は、被控訴人らは上記カのとおりの各種機能の追加を行う際、被控訴人ら各プログラムを複製して生産したと主張するが、被控訴人らがこれらのアップデートの際に本件特許権1を侵害する態様で被控訴人ら各プログラムを複製したものと認めるに足りる証拠はない。\n
ク 被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)\n
前記(1)によると、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、前記(2)のとおり、被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。なお、前記(1)ケ及びサのとおりであるから、被控訴人HPSが被控訴人FC2 に対し被控訴人らプログラム2又は3を納品した事実を認めることはできない。
(5) 小括
以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。\n
15 争点7(差止請求及び抹消請求の可否)について
(1) 前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。 もっとも、前記14(4)のとおり、被控訴人らは、被控訴人ら装置1の生産又は使用をしている者ではなく、そのような行為に及ぶおそれがある者でもないと認められるから、この点については、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置1の生産又は使用の差止請求は理由がない。 そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。\n
(2)ア 前記14(1)トのとおり、被控訴人FC2は、SN社に対し、令和2年9月25日、被控訴人らサービス2及び3に係る事業を譲渡したものである。そうすると、現時点においては、被控訴人らがユーザに対し被控訴人らサービス2及び3の提供をするおそれはなくなったというべきであるから、被控訴人らサービス2及び3について、被控訴人らが本件特許権1を侵害する者又は侵害するおそれがある者に該当するということはできず、被控訴人ら装置2及び3の生産又は使用並びに被控訴人らプログラム2及び3の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止請求は理由がない。もっとも、前記14(1)の事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らが現時点においても被控訴人らプログラム2及び3を所持している蓋然性は高いと認められるから、侵害の予防のため、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム2及び3の抹消を命じるのが相当である。\n
イ 控訴人は、被控訴人らサービス2及び3の事業譲渡に係る契約書に多数の不備があることを根拠に、当該事業譲渡はされていない旨主張する。確かに、乙99の1の契約書には英文表記等の観点から幾つかの不備が認められるが、そのことのみをもって、当該事業譲渡の事実を否定することはできない。また、控訴人は、SN社が被控訴人らに対し被控訴人らサービス2及び3の再譲渡をする可能\性があるとも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人のこれらの主張を採用することはできない。
(3) 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する差止請求及び抹消請求は、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人ら各プログラムの抹消の限度で認容するのが相当である。\n
なお、被控訴人らは、本件において認容される損害賠償請求の額に照らすと、控訴人が差止め及び抹消を求めることは権利の濫用に該当する旨主張する。しかしながら、当裁判所が認容する損害賠償請求の額(1億円及びこれに対する遅延損害金)に加え、被控訴人らによる本件特許権1の侵害の態様、現在における侵害の危険等にも照らすと、控訴人において差止め及び抹消を求めることが権利の濫用に該当すると評価することはできない。 また、被控訴人らは、被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものについては、公開が停止されたため、これに係る差止め及び抹消を求めることはできない旨主張する。しかしながら、仮に、被控訴人らが被控訴人らサービス1のうちFLASH版に係るものの公開を停止したとしても、被控訴人らサービス1に関し、当裁判所が差止めを命じるのは、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出であり、また、当裁判所が抹消を命じるのは、被控訴人らプログラム1であり、被控訴人らプログラム1は、別紙被控訴人らプログラム目録記載1のとおりに特定されるものであるところ、当該特定に当たり、FLASH版であるか否かは問題とされていないのであるから、差止め及び抹消を命じる主文1項(1)及び(2)の対象たる被控訴人らプログラム1からFLASH版に係るものを除外する必要はない。

◆判決本文

1審はこちらです。1審では、第1,第2の表示欄の大きさを特定した構\成が非充足と判断されています。

◆平成28(ワ)38565
以上のとおり,「第1の表示欄」は動画を表\示するために確保された領域(動画表示可能\領域),「第2の表示欄」はコメントを表\示するために確保された領域(コメント表示可能\領域)であり,「第2の表示欄」は「第1の表\示欄」よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ,被告ら各装置においては,動画表示可能\領域(被告ら装置1における「StageオブジェクトA」,被告ら装置2及び3における<iflame>要素又は<video>要素)とコメント表示可能\領域(被告ら装置1における「CommentDisplayオブジェクトD」,被告ら装置2及び3における<canvas>要素)は同一のサイズであるから,被告ら各装置は,「第1の表示欄」及び「第2の表\示欄」に相当する構成を有するとは認められない。\n 今回侵害となった特許4734471 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4734471/9085C128B7ED7D57F6C2F09D9BE4FCB496E638331DB9EC7ADE1E3A44999A3878/15/ja 1審と同じく侵害とはならなかった特許4695583 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4695583/7294651F33633E1EBF3DEC66FAE0ECAD878D19E1829C378FC81D26BBD0A4263B/15/ja

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令和1(ワ)25152  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年3月24日  東京地方裁判所

 ドワンゴvsFC2のコンピュータ関連発明の特許権侵害事件です。東京地裁29部は、海外サーバからの提供について、準拠法は認めたものの、被告システムは本件発明の技術的範囲に属するが、「生産」に該当しないとして、請求を棄却しました。 なお、国際裁判管轄については、被告FC2が争うことなく弁論をしてとして、日本の裁判所に管轄権を認めています。

2 争点1(準拠法)について
(1) 差止め及び除却等の請求について
特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された 国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同 14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止 め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日 本法が準拠法となる。
(2) 損害賠償請求について
特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題では なく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律 関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷 判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきである から、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末 に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権 を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、 権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠 償請求に係る準拠法は日本法である。
・・・
前記(1)のとおり、被告システム1は、構成要件1Bないし1F及び1Hを\n充足し、前記前提事実(6)アのとおり、被告システム1が構成要件1A、1G\n及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。 そして、前記(2)のとおり、被告システム2及び3は、構成要件1Aないし\n1F及び1Hを充足し、前記前提事実(6)イのとおり、被告システム2及び3 が構成要件1G及び1Iを充足することは、当事者間に争いがない。\nしたがって、被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認め られる。
(2) 被告FC2による被告システムの「生産」の有無について
ア 本件発明1の関係での被告システム1(被告サービス1のFLASH版) の「生産」について
本件発明1の「実施」として被告FC2による被告システム1の「生産」 があるといえるかを、まず、被告サービス1のFLASH版について検討 する。
(ア) 物の発明の「実施」としての「生産」(特許法2条3項1号)とは、 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解され る。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められること を意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年 7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12 年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに 限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当 たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内にお\nいて新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
(イ) 前記3(1)のとおり、被告システム1は、本件発明1の構成要件を全\nて充足し、その技術的範囲に属するものであって、被告システム1にお ける構成1aないし1iは、本件発明1の構\成要件1Aないし1Iにそ れぞれ相当する。 また、被告サービス1のFLASH版においてコメント付き動画を日 本国内のユーザ端末に表示させる手順は、前記(1)ウ(ア)のとおりであっ て、被告サービス1がその手順どおりに機能することによって、上記の\nとおり本件発明1の構成要件を全て充足するコメント配信システムであ\nる被告システム1が新たに作り出されるということができる。 そして、本件発明1のコメント配信システムは、「サーバ」と「これと ネットワークを介して接続された複数の端末装置」をその構成要素とす\nる物であるところ(構成要件1A)、被告システム1においては、日本国\n内のユーザ端末へのコメント付き動画を表示させる場合、上記の「これ\nとネットワークを介して接続された複数の端末装置」は、日本国内に存 在しているものといえる。
他方で、前記3(2)アによれば、本件発明1における「サーバ」(構成\n要件1A等)とは、視聴中のユーザからのコメントを受信する機能を有\nするとともに(構成要件1B)、端末装置に「動画」及び「コメント情報」\nを送信する機能(構\成要件1C)を有するものであるところ、これに該 当する被告FC2が管理する前記(1)ウ(ア)の動画配信用サーバ及びコメ ント配信用サーバは、前記(1)イ(ア)のとおり、令和元年5月17日以降 の時期において、いずれも米国内に存在しており、日本国内に存在して いるものとは認められない。
そうすると、被告サービス1により日本国内のユーザ端末へのコメン ト付き動画を表示させる場合、被告サービス1が前記(1)ウ(ア)の手順ど おりに機能することによって、本件発明1の構\成要件を全て充足するコ メント配信システムが新たに作り出されるとしても、それは、米国内に 存在する動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバと日本国内に存在 するユーザ端末とを構成要素とするコメント配信システム(被告システ\nム1)が作り出されるものである。
したがって、完成した被告システム1のうち日本国内の構成要素であ\nるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことに\nなるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント 配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることが できない。
(ウ) 原告は、被告システム1では、多数のユーザ端末は日本国内に存在し ているから、被告システム1の大部分は日本国内に存在している、被告 FC2が管理するサーバが国外に存在するとしても、「生産」行為が国外 の行為により開始されるということを意味するだけで、「生産」行為の大 部分は日本国内で行われている、本件発明1において重要な構成要件1\nHに対応する被告システム1の構成1hは国内で実現されている、被告\nシステム1については「生産」という実施行為が全体として見て日本国 内で行われているのと同視し得るにもかかわらず、被告らが単にサーバ を国外に設置することで日本の特許権侵害を免れられるという結論とな るのは著しく妥当性を欠くなどとして、被告システム1は、量的に見て も、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、 被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価すること ができると主張する。
しかしながら、前記(ア)のとおり、特許法2条3項1号の「生産」に該 当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内におい\nて作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止 権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、 明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出され\nるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲 を画するのは相当とはいえない。そうすると、被告システム1の構成要\n素の大部分が日本国内にあることを根拠として、直ちに被告システム1 が日本国内で生産されていると認めることはできないというべきである。 また、前記(1)ウ(ア)の2)−2及び5)からすれば、被告システム1にお いては、被告FC2のウェブサーバがユーザ端末に配信するSWFファ イルによって規定される条件に基づいて、2つのコメントが重複するか 否かを判定する計算式及び重複すると判定された場合の重ならない表示\n位置の指定が行われており、構成要件1Fの「判定部」及び構\成要件1 Gの「表示位置制御部」に相当する構\成1f及び1gの動作の実現は、 日本国内に存在するユーザ端末において行われるものであるということ ができ、これらのユーザ端末における動作からは、原告が指摘する構成\n要件1Hに対応する構成1hのうち「前記ユーザ端末のディスプレイに\nは、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間におい て、前記動画上に、右から左方向に移動する前記コメント1及び前記コ メント2とが、追いついて重複しないように表示される、」という部分に\n相当する動作は、日本国内に存在するユーザ端末において実現されるも のということができるものの、構成要件1Hに対応する構\成1hのうち 「前記サーバが、前記動画ファイルと、前記コメントファイルとを前記 ユーザ端末に配信することにより、」という部分に相当する動作は、米国 内に存在するコメント配信用サーバ及び動画配信用サーバによって実現 されるものであり、構成1hが日本国内に存在するユーザ端末のみによ\nって実現されているとはいえない。前記1(2)イで検討したところからす れば、本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構\成 要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構\成等を備える端末装置を提 供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメン トを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システ ムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件\n1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメ ント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、\nこの目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。\nこの点からしても、本件発明1に関しては、ユーザ端末のみが日本に存 在することをもって、「生産」の対象となる被告システム1の構成要素の\n大部分が日本国内に存在するものと認めることはできないというべきで ある。 さらに、前記(1)アのとおり、被告サービスにおいては、日本語が使用 可能であり、日本在住のユーザに向けたサービスが提供されていたと考\nえられ、同オのとおり、平成26年当時、日本法人である被告HPSが、 被告FC2の委託を受けて、被告サービスを含む同被告の運営するサー ビスに関する業務を行っていたという事情は認められるものの、本件全 証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以 降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責 任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本 国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論と して著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められな い。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば、被告サービス1のFLASH版については、本件発明 1の関係で、被告FC2による被告システム1の日本国内での「生産」 を認めることができないというべきである。
・・・
オ 小活
以上のとおり、本件発明1の関係でも、本件発明2の関係でも、被告サ ービス(FLASH版及びHTML5版)において、被告FC2による被 告システムの日本国内での「生産」を認めることはできない。

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平成31(ワ)8969  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月22日  東京地方裁判所

 ゲーム画面が著作権侵害か否か争われました。前提として裁判管轄についても争われました。後者の裁判管轄は「あり」としましたが、被告は、リンク設定行為をしただけなので、複製及び公衆送信には該当しないと、請求棄却されました。

証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び被告は、いずれも中国 に住所を置く法人であり、日本に事務所等の拠点を有しないこと、被告ゲー ムの開発や配信に関する主要な作業は中国において行われたことが認められ る。これらの事情によれば、本件訴訟に関する証拠が中国に存在することが うかがわれるから、本件を日本の裁判所で審理した場合には、被告が、本件 訴訟の争点に関する主張立証をする際に、中国語で記載された書類を日本語 に翻訳したり、中国語を話す関係者のために通訳を手配したりするなどの一 定の負担を被り得ることは、否定し難い。
しかし、本件訴訟における原告の請求は、日本国内向けに配信された被告 ゲーム及びそれに関連する画像の複製を差し止め、被告ゲーム等のデータを 削除し、被告ゲームの売上げに基づき著作権法114条2項によって推定さ れる額の損害を賠償すること等を求めるというものである。そうすると、本 件訴訟における請求の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告 が主張する上記損害は日本において発生したものと解されるから、本件は、 事案の性質上、日本とも強い関連性を有するというべきである。 また、本件訴訟の争点は、前記第2の3及び前記第3のとおり、原告各画 像と被告各画像の表現の同一性ないし類似性(争点2−1)、被告による原\n告画像1に係る著作権侵害の成否(争点2−2)、被告が原告各画像に依拠 して被告各画像を作成したと認められるか否か(争点2−3)、差止め及び 削除請求の必要性(争点3)並びに損害額(争点4)である。この点、上記 争点2−1については、原告各画像と被告各画像の対比や同一性ないし類似 性が認められる部分が創作的な表現であるか否かに関する検討を要するとこ\nろ、それらの点に係る主張立証は、主として原告各画像及び被告各画像自体 に基づいて行うことになる。これに加えて、他の画像に基づき、上記同一性 ないし類似性の認められる部分がありふれた表現であることの主張立証を行\nうことも考えられるが、当該他の画像に関する証拠が中国に存在するとして も、その性質上、翻訳等の作業は必要とされないであろうから、被告に過大 な負担が生じるとは認め難い。上記争点2−2は、本件リンク設定行為が原 告画像1に係る原告の著作権を侵害するかどうかを、主として日本の著作権 法の解釈、適用によって判断するというものであるから、証拠の所在地が当 該争点の判断において重要な意味を持つものとはいえない。上記争点2−3 に関する証拠としては、原告ゲーム及び被告ゲーム以外のゲーム等の画像及 び公表時期に関する資料、ゲーム制作者の陳述書等が想定されるが、それら\nの全てが中国にのみ所在するとはうかがわれず、立証に際して被告に過大な 負担が生じるとまでは認め難い。上記争点3については、前記第3の3のと おり、被告ゲームの配信が中止された事実が重要な評価障害事実として主張 立証され得るところ、被告ゲームが日本国内向けに配信されたオンラインゲ ームであることを踏まえると、上記事実に関する主要な証拠は日本に所在す るものと認められる。上記争点4についても、上記のとおり、原告が主張す る損害は日本において発生したものと解されるから、損害額の算定の基礎と なる主要な証拠は日本に所在するものと考えられる。したがって、本件が日 本で審理されるとしても、本件の重要な争点に係る主張立証に当たり、被告 に過大な負担が生じるとまでは認められない。
(2) これに対し、被告は、1)本件訴訟と当事者、事案及び争点において密接な 関連性が存在する別件中国訴訟が中国の裁判所において係属していること、 2)原告と被告は、当然に、本件訴訟を中国の裁判所に提起することが最も適 切であり、本件が中国の裁判所での解決が図られると想定していたこと、3) 本件訴訟に関する客観的な事実関係は全て中国において発生したこと、4)本 件訴訟の証拠は全て中国国内に存在すること、5)本件を日本の裁判所で審理 する場合には被告に過大な負担を課すること等を根拠として挙げ、本件訴訟 には民事訴訟法3条の9所定の「特別の事情」があると主張する。 しかし、まず、上記1)についてみるに、本件訴訟と別件中国訴訟は、いず れも原告が当事者であるという点において共通するものの、被告は別件中国 訴訟の当事者の地位にはないから、当事者が完全に一致するものではない。 しかも、別件中国訴訟においては、原告ゲームの中国語版の表現と「C」と\n称するゲームの表現の類否等が争点とされているのであって、被告ゲームの\n表現との類否は争点とされていないばかりか、証拠(甲10)によれば、別\n件中国訴訟において争点とされている原告ゲームの表現はいずれも原告各画\n像とは異なる画像等に係るものであると認められる。そうすると、本件訴訟 と別件中国訴訟の事案及び争点はいずれも大きく相違するものといえるから、 本件訴訟と別件中国訴訟との間に強い関連性があるとまでは認められない。 次に、上記2)についてみるに、上記のとおり、本件訴訟と別件中国訴訟と の関連性は強くない上、原告ゲームと被告ゲームがいずれも日本国内向けに 配信されたスマートフォン向けのオンラインゲームであることに照らすと、 別件中国訴訟が本件訴訟に先立って中国国内の裁判所に係属していたとして も、原告ゲームと被告ゲームに関する著作権侵害に関する紛争の解決が中国 の裁判所で図られることが想定されていたとまでは認められない。 さらに、上記3)ないし5)についてみるに、前記(1)のとおり、本件の請求 の内容は日本と密接に関連するものであり、かつ、原告が主張する上記損害 は日本において発生したものと解されることから、本件に関する客観的な事 実関係が全て中国において発生したということはできない。また、前記(1) のとおり、本件の証拠が専ら中国に存在するとは認められないし、本件を日 本の裁判所が審理するとしても、立証に関して被告に過大な負担を生じさせ るものとまでは認められない。 したがって、被告の上記1)ないし5)の主張はいずれも理由がない。
(3) 以上の次第で、本件の事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の 所在地、原告を当事者とする中国の裁判所に係属中の訴訟の存在その他の事 情を十分に考慮しても、本件訴訟について、民事訴訟法3条の9所定の「特\n別の事情」があると認めることはできない。
・・・
ア 証拠(甲9、乙15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件リン ク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバ\nーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、\n被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブ ページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そう すると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告 画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積 し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であっ て、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再 製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。
イ これに対し、原告は、1)本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける行\n為も、本件リンク設定行為も、本件ウェブページの閲覧者にとっては、何 らの操作を介することなく被告画像1を閲覧できる点で異なるところはな いこと、2)本件リンク設定行為は、被告画像1を閲覧者の端末上に自動表\n示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像1の複製の実現にお ける枢要な行為といえること、3)本件リンク設定行為をすることにより、 被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たことを指 摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められる旨を主 張する。しかし、上記1)についてみると、単に、本件ウェブページに被告画像1 を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをも\nって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性 を直ちに肯定することはできないというべきである。 また、上記2)についてみると、仮に枢要な行為に該当することが侵害主 体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で 既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに 照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為で あるとは認め難いというべきである。なお、本件動画は、本件ウェブペー ジを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTubeの 「D」のページにアクセスすることによっても閲覧することができるから、 本件リンク設定行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為であると も認められない。 さらに、上記3)についてみると、本件全証拠によっても、本件リンク設 定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、 その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であること を根拠付けることはできない。 したがって、上記1)ないし3)の点を考慮しても、被告を原告画像1の複 製及び公衆送信の主体であると認めることはできず、原告の上記主張は採 用することができない。
ウ また、原告は、仮に被告が著作権侵害の主体であると認められない場合 であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により上記著作権侵 害を幇助したものと認められると主張する。 しかし、前記アのとおり、被告による本件リンク設定行為は、被告画像 1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示\nさせるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画 をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状 態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定 行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたと はいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原 告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることは できない。 したがって、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の幇助者であると認 めることはできない。

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令和3(ネ)10026  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月30日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。1審の判断が維持されました。

(2) 控訴人の当審における補充主張に対する判断
控訴人は,請求1−1に関し,前記第2の3(1)アのとおり,別件評決ない し別件米国判決は,被控訴人の元従業員であるAの認識や記憶に基づかない 意図的な偽証に基づきされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識し たはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架 空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には, 民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の 基礎をなす公序,適正手続という観点に照らして到底容認されるべきもので はなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があると主張する。 しかし,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳述が 判決の証拠となった場合でなければならず,同号を理由に再審を求める場合 には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならないところ (同条2項),本件においてはこのような事情は認められない。したがって, Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められるとする控訴 人の主張は失当というほかない。証人の供述の信用性等は,本来,別件米国 訴訟の中で攻撃防御を尽くした上,誤った判断がされたのであれば,最終的 には上告や再審といった手続の中で是正されるべきものであるところ,別件 米国訴訟においては,そのような機会を経た上で,控訴人の敗訴が確定し, 現在に至っているのであるから,請求1−1に係る控訴人の訴えは,別件米 国訴訟の蒸し返しに当たるといわざるを得ない。 なお,念のために付言すれば,Aは,2015年(平成27年)2月15 日付けの宣誓供述書(甲32)で,参加人が宇部興産に本件発明の実施品を 販売するために本件特許のライセンスを被控訴人に要求し,被控訴人は宇部 興産が非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述してい るものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンス の交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売で きなくなり参加人としては困るとの話があったので購買部門に話をつないだ こと,参加人が販売対象として考えているのが非競合他社であるかどうかに ついては明確な議論はなく,ただ,その後上級管理者からは,非競合他社で ある宇部興産に販売しようとしているので問題はないだろうと言われたこと を証言し(甲35),別件関連訴訟における陳述書(甲50)では,Cから ライセンスの打診は受けたが上司に話をつないだだけであるとし,別件関連 訴訟の証人尋問では,Cから本件特許が製品の販売に支障をきたすので何と かならないかという話があったので,上司に話をつないだこと,宇部興産と いう具体名は出なかったが,被控訴人の競合相手ではない同社のことだろう と推測したものであることを証言している(甲51)。このような経緯に照 らせば,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めるこ とは困難であり,また,その偽証に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行し ていたともいい難い。 その他,控訴人がるる主張する点を考慮しても,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9) があるとの判断を覆すに足りるものではない。
2 確認の利益の有無(請求1−2について。争点3)
確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険又は不 安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権 利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。 被控訴人は,令和3年7月20日の当審第1回口頭弁論期日において,仮に, 本件日本特許権の侵害に基づく被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が存 在するとしても,請求権自体放棄すると陳述した。 そうすると,請求1−2の対象となる権利については,被控訴人による権利 行使の意思がないことはもちろん,本件口頭弁論終結時におけるその存在自体 が認められないことになり,権利の存否を巡る法律上の紛争は解決されたとい えるから,現に控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去する ため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であると認めることは できない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求1−2に係る訴 えには確認の利益が認められないから,不適法というべきである。
3 訴訟物の特定の有無(請求2について。争点4)
当裁判所も,請求2に係る訴訟物の特定に欠けるところはないものと判断す る。その理由は,原判決の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用す る。
4 請求2−1に係る訴えの準拠法(争点2)並びに別件米国訴訟の提起及び追 行の違法性等(争点6)
(1) 日本法に基づく不法行為の成否
ア 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の 結果発生地の法による(通則法17条本文)。もっとも,不法行為につい て外国法によるべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法 によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処 分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求2 −1に係る訴えの準拠法をいずれの地の法と考えるとしても,被控訴人に よる別件米国訴訟の提起及び追行につき日本法により不法行為といえる 必要があることになる。そこで,以下,この点につきまず検討する。
イ 別件米国訴訟は,被控訴人が勝訴して確定するに至っており,このよう な場合に,訴えの提起や追行が不法行為となるためには,確定判決の騙取 が不法行為となる要件,すなわち判決の成立過程において,被控訴人が控 訴人の権利を害する意図のもとに,作為又は不作為によって控訴人の訴訟 手続に対する関与を妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔す\nる等の不正な行為を行い,その結果,本来あり得べからざる内容の確定判 決を取得したこと(最高裁判所昭和43年(オ)第906号同44年7月 8日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁),ないしはこれに準ず る特段の事情を要すると考えるのが相当である。そもそも,法的紛争の当 事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹 に関わる重要な事柄であるから,訴えの提起や追行が不法行為を構成する\nか否かを判断するに当たっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果と ならないような慎重な配慮が必要とされるのであり,民事訴訟を提起した 者が敗訴の確定判決を受けた場合ですら,当該訴えの提起が相手方に対す る違法な行為となるには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法 律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを 知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに あえて訴えを提起し,又はそれを維持したなど,訴えの提起・追行が裁判 制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められることを要す ると理解されている(63年判決)のであるから,民事訴訟を提起した者 が勝訴の確定判決を受けている場合には,前示のとおり,より高次の特段 の事情を要するというべきである。
これを前提にして本件を見れば,引用に係る原判決第2の1(補正後の もの)及び第3の1(2)イで認定された事実関係に照らせば,本件が,確定 判決の騙取が不法行為となる要件ないしはこれに準ずる特段の事情どこ ろか,民事訴訟を提起した者が敗訴した場合の要件すら満たし得ないもの であることは明らかというべきである(なお,別件米国訴訟においてAが 意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証 に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行していたともいい難いことは,前 記1(2)において判示したとおりである。)。 以上のとおりであるから,被控訴人による別件米国訴訟の提起・追行が 不法行為となるとはいえない。
(2) 小括
以上によれば,請求2−1に係る訴えの準拠法をいずれの地とした場合 でも,日本法によれば,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につ き,控訴人に対する不法行為は成立しない以上,損害賠償その他の処分の 請求をすることはできない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2−1は理 由がない。
5 請求2−2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴 人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(争点7)につい て
(1)準拠法について
本件許諾契約には,その成立及び効力に係る準拠法を明示的に定めた規定 はない。もっとも,本件許諾契約により参加人に対する独占的通常実施権の 許諾を行う被控訴人は,日本に主たる事務所を有する日本法人であること等 を踏まえれば,本件許諾契約の効力の準拠法は,その最密接関係地である日 本法とするのが相当である(通則法8条2項,1項)。
(2) 債務不履行の有無について
控訴人は,前記第2の3(4)アのとおり,参加人と被控訴人との間で締結さ れた第三者のためにする契約の効果又は参加人が本件各特許発明について再 実施許諾する権限に基づき控訴人に本件各特許権の再実施を許諾したことに より,控訴人は本件各発明について実施権を有し,被控訴人は控訴人に対し 本件各特許権を行使しない義務を負っているところ,これに反して被控訴人 が別件米国訴訟を提起したことが控訴人に対する債務不履行となると主張す る(なお,控訴人のこの点に係る請求は,被控訴人が別件米国訴訟を提起, 追行したことにより生じた弁護士費用相当額の損害賠償である。)。 しかし,控訴人の特許権者の実施権者に対する提訴が債務不履行となると すれば,それは実質的には訴権の放棄に等しい効果をもたらすものであるか ら,特許権者が実施権者に不提訴義務を負うことが前提となるというべきで ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件 各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであ るとしても,そのことは,被控訴人が購入者に対し差止請求権や損害賠償請 求権を行使して訴えを提起しても,抗弁が成立して請求が棄却されることを 意味するだけで,当然に被控訴人に参加人からの機械装置の購入者に対する 訴えの提起をしない義務を負わせるものとはいえない。 本件許諾契約には,参加人から機械装置を購入して本件各特許発明(製法 特許)を実施した者に対する不提訴義務が規定されていないことはもちろん, 参加人に対する不提訴義務についても規定されていない。事情が変更する可 能性があり,様々な形態をとり得る特許権者と実施権者ないし実施権者から\nの機械装置の購入者の将来の紛争について,明文の規定もなく不提訴の合意 があったと軽々に認めることはできない。控訴人は本件許諾契約の当事者で はなく,当時存在もしていなかったのであるから(控訴人の成立は,原判決 第2の1(1)アのとおり,2008年〔平成20年〕4月頃である。),なお さら,本件許諾契約が控訴人に対する不提訴義務を定めていると認めること はできない。その他に,本件において,不提訴の合意があったことを裏付け るに足りる事情は見当たらない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,本件において被控 訴人の控訴人に対する不提訴義務は認められず,被控訴人が別件米国訴訟の 提起をしたことについて,債務不履行が成立する余地はないというべきであ る。
(3) 小括
以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履 行は認められず,請求2−2は理由がない。

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1審はこちら。

◆平成30(ワ)5041

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