知財高裁は、「サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能\・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解する」というものです。
なお、1審では、特許の技術的範囲には属するが、一部の構成要件が日本国外に存在するので、非侵害と認定されてました。\n
ア ネットワーク型システムの「生産」の意義
本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備え
るコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、そ
の実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に
属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。
そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サー
バと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワー\nク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件\nを充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有
機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能\を有する
ようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解され
る。
イ 被告サービス1に係るシステム(被告システム1)を「新たに作り出す行為」
被告サービス1のFLASH版においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラ
ウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指\n定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及
びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイ
ルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、
ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上\n記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信
用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応
じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末
に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおい
て動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能\となる。このように、ユ
ーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバ
とユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、
ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが\n可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全\nての構成要件を充足する機能\を備えた被告システム1が新たに作り出されたものと
いうことができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産
1の1」という。)。
ウ 被告システム1を「新たに作り出す行為」(本件生産1の1)の特許法2条3項
1 号所定の「生産」該当性
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効
力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内にお
いてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法において
も、上記原則が妥当するものと解される。
本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユー
ザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまた
がって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国
と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生
産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題と
なる。
ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されるこ
とは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネ
ットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵
害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたと\nしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを\n用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者\nが当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るも
のである。
そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格
に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在するこ\nとを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解するこ
とは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該
システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととな\nって、妥当ではない。他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、\nこれも妥当ではない。
これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保
護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条
3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素\nの一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、
当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果\nたす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、\nその利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該
行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3
項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。
これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国
に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ
端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信
(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信すること
によって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われ
たものと観念することができる。
次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在
するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ\n端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表\示されるコメント同士が重な
らない位置に表示されるようにするために必要とされる構\成要件1Fの判定部の
機能と構\成要件1Gの表示位置制御部の機能\を果たしている。
さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが
できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の
向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利
用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影
響を及ぼし得るものである。
以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われた
ものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生
産」に該当するものと認められる。
これに対し、被控訴人らは、1)属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国
の領域においてのみ認められる」のであるから、国外で作り出された行為が特許
法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の
原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施す\nることをいうことからすると、一部であっても国外で作り出されたものがある場
合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、2)特許
回避が可能であることが問題であるからといって、構\成要件を満たす物の一部さ
え、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍
があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、\n我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、3)我が国の裁判
例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(最高裁平成12年(受)第5
80号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)等によ
り属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響
が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは\n立法によってされるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵
害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」
に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバ\nが国外に存在する場合であっても、前記 に説示した事情を総合考慮して、当該
行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3
項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、1)の主張は採用することが
できない。
2)については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、
構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の\n効力を及ぼすというものではないから、2)の主張は、その前提を欠くものである。
3)については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その
成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該
国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとお
り当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2
条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しな
いというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁
判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特
許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内に\nおいて完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、ま
た、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則
の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物\nを新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要である
ことを示した規定は存在しないことに照らすと、3)の主張は採用することができ
ない。したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
エ 被告システム1の「生産」の主体
被告システム1は、前記イのプロセスを経て新たに作り出されたものであるとこ
ろ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及び
コメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファ
イル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送
信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介するこ
となく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動
的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、
被控訴人Y1であるというべきである。
オ まとめ
以上によれば、被控訴人Y1は、本件生産1の1により、被告システム1を「生
産」(特許法2条3項1号)し、本件特許権を侵害したものと認められる。
◆判決要旨
1審はこちら。
◆令和元年(ワ)25152
関連事件はこちら
◆平成30(ネ)10077
1審です。
◆平成28(ワ)38565