台湾のプロバイダーが日本国内でサービスを提供している場合に、裁判管轄が争われました。原審は「管轄があるとはいえない」と判断しましたが、知財高裁(4部)はこれを取り消しました。
プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命
令の申立てについて管轄権を有する場合として、同項1号及び 2 号に掲げるも
ののほか、日本において事業を行う者を相手方とする場合において、申立てが\n当該相手方の日本における業務に関するものであるときを定めている。
ところで、近年における情報流通の国際化の現状を考えると、インターネッ
ト上の国境を越えた著作権侵害に対する司法的救済に支障が生じないよう適切
な対応が求められている。地域的・国際的にオープンな性格を有するインター
ネット接続サービスの特性を踏まえると、当該サービスを提供する事業者の業
務が「日本における」ものか否かを形式的・硬直的に判断することは適切でな
く、その利用の実情等に即した柔軟な解釈・適用が必要になると解される。
こうした点を踏まえて、以下具体的に検討する。
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
一件記録によれば、相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるも
のの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサー
ビスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIM
カードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、「日本におい
て事業を行う者」に当たるということができる。
3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか\n一件記録によれば、本件各投稿がされたサイトである「BOOTH」は、日
本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインタ
ーネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各
投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿(甲4の1)には、「お初の
オリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」、「追加支援のお方ありがと
うございます。今後もよろしくお願いします。」との流ちょうな日本語による記
載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIM
カードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高い\nといえる。
そして、上記のとおり、当裁判所は、相手方に対して反論等の提出を求めた
ものの、期限を過ぎても相手方からの応答はなかったのであり、本件において、
上記判断を覆すに足りる証拠もない。
以上によると、本件各投稿は、実質的に見て日本に居住する日本人向けとし
か考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえ
る。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に
業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本に
おける」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。
本件申立ては、「申\立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当た
るというべきである。
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当該相手方の日本における事業に関する訴えであると認められるから、プロバイダ責任制限法9条1項3号により、日本の裁判所に国際裁判管轄があるというのが相当である。そうすると、国際裁判管轄がないことを理由に抗告人の本件申\立てを却下した原決定は相当ではなく、本件抗告は理由がある。よって、原決定を取り消し、原審において更に審理を尽くさせるため本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
◆判決本文