実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。
(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7
月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23
年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日
頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし
て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し,
平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。
そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月
2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。
したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に
ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認
められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し,
平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した
ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料
率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで
きる。
本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,
業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率
〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ
のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場
等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許
諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する
標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位
での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その
うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン
ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2
2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規
格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当
たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5
「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出
した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。
なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ
センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ
スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,
クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ
るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク
ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に
とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに
よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原
告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での
実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針
としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約
の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発
明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.
01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売
状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実
施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。
◆判決本文
別件訴訟はこちらです(請求棄却)。
◆平成24年(ワ)237
被告会社は原告に事業譲渡をしました。原告は競業避止義務違反を理由に事業の中止を求めました。裁判所はこれを認めました。争点は問題の事業が譲渡対象であったか否かでした。
(1) 本件事業譲渡の対象について
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者
及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス
の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の
対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品,
資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。
ア 本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す
る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11,
12)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年11月,海外メ
ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関
東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,2)その後,関東産機
事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所
沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい
た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ\nうになったこと,3)平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予\n定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予\
定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況\n等が記載されていること,の各事実が認められる。
上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実
上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと
んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第
1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた
事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け
の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的
に含むものと解するのが相当である。
イ また,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には,
関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ
って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置,
器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務
所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する
営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を
譲渡すると規定されている。
被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと
主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに
ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機
事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい
て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被
告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし
かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一
部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。
そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し,
被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,
製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包
括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウ さらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1
2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲\n渡を考えています。・・・関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円
くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買
う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録
には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ
いての記載は存在しない。
このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお
ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販
売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ
る。
◆判決本文