H14. 9.12 東京高裁 平成12(行ケ)392 特許権 行政訴訟事件

平成12年(行ケ)第392号 審決取消請求事件
     判    決
  原   告     アッセ株式会社
  訴訟代理人弁理士  田辺恵基、弁護士 池原毅和
  被   告     マイクロソフト コーポレイション
  訴訟代理人弁理士  谷義一、新開正史、南条雅裕、弁護士 升永英俊、大島崇志、大岩直子、復代理人弁護士 上山浩


     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。


     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成11年審判第35415号事件について平成12年8月24日にした審決を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「版下デザイン装置」とする特許第2613766号発明(昭和61年12月30日特許出願、平成9年2月27日に設定登録。本件発明)の特許権者であるが、被告は、平成11年8月10日、本件発明について無効審判請求をし、平成11年審判第35415号事件として審理されたが、平成12年8月24日、「特許第2613766号発明の特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年9月13日原告に送達された。


 2 本件発明の要旨(「キヤラクタ」は「キャラクタ」と表記した。)
 描画すべきキャラクタ列の各キャラクタデータを入力する手段と、
上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
 上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段と、
 上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
 上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、

 間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置。

 3 審決の理由
 別紙審決の理由のとおりであるが、その要点は次のとおりである。
 本件発明は、審判甲第1号証(特開昭61−95952号公報)に記載の事項から当業者が容易に発明することができたか、又は審判甲第1号証、審判甲第2号証(実願昭46−101253号〈実開昭48−57033号〉のマイクロフイルム)及び審判甲第3号証(特開昭59−54560号公報)に記載の事項から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許を無効とすべきである。


第3 原告主張の審決取消事由
 1 本件発明の構成
 (1) 本件発明は、次のように(1−1)ないし(1−6)の構成を有する。
「(1−1)描画すべきキャラクタ列の各キャラクタデータを入力する手段と、
 (1−2)上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
 (1−3)上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段と、
 (1−4)上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、

 (1−5)上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
 (1−6)間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置」
 (2) 本件発明の特徴は、第1に、「描画始点を表す第1点から、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点を通って、描画終点を表す第2点までの間に、円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を求め」、第2に、「キャラクタ配列軌跡上にキャラクタ列を構成する各キャラクタを割り付けると共に、各キャラクタの大きさ及び回転角を決定し」、第3に、「1つのキャラクタと次のキャラクタとの関係で間隔を変更する必要があるとき、当該次のキャラクタを所定量だけ移動させる」点にある。

 その結果、本件発明によれば、「容易にデザイナのデザイン感覚に合うような弓型キャラクタ列の版下をデザインできる」といった格別な効果を得ることができる。

 2 取消事由1(認定の誤り)
 (1) 審決は、別紙審決の理由367〜372行において、審判甲第1号証8頁左上欄10行〜左下欄2行について、「オペレータによってセツトされた曲率によって定義された円弧のセグメントSの長さを、テキスト長さ(L)に等しくセツトし、円弧長Sを半径Rにより割算することにより円弧の張る角度θを決定する」旨の記載があることからみて、本件発明の「上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、何らかのデータを入力する手段」が審判甲第1号証に開示されていると認定している。
 しかしながら、本件発明において入力されるキャラクタ列のキャラクタデータは、描画始点から描画終点の間に求めたキャラクタ配列軌跡上に配列されるものであり、審判甲第1号証のように、単に曲率によって定義された円弧(すなわち、描画始点も描画終点も特定されていない円弧)上に配列されるものではない。

 すなわち、次頁【図1】に示すように、審判甲第1号証の場合のデータの入力の仕方は、キャラクタを入力することによりキャラクタ列の長さLを決め、半径R(点Q1及びQ2間の長さ(記載上の便宜のため、極端に短く表現している))を入力して求めた円弧上に、その中央位置(点Q2の位置)を中心にして左右にL/2ずつ分けて表示する。
 したがって、円弧の両端の位置については、位置データの入力をしない。
 これに対して、本件発明の場合は、次頁【図2】のように、描画始点P1、描画終点P2及び高さ点P3の位置を入力する(入力データを黒丸で表す)もので、データの入力の仕方は審判甲第1号証の場合とは相違している。すなわち、審判甲第1号証では、曲率を決めるために半径Rを入力するもので、実際上、点Q1及びQ2の表示位置は常に中央位置に決められており、オペレータが直接に位置を指定するように入力するものではない。


  【図1】審判甲第1号証記載の発明の処理(※ 省略)

  【図2】本件発明の処理(※ 省略)

 このように、描画始点及び描画終点が決められた範囲に配列するためのキャラクタを入力する構成を持たない審判甲第1号証の構成を、本件発明と一致すると認定した点において、審決は事実の認定を誤っている。そもそも、「何らかのデータ」という概念は、本件明細書において使用していないものであるばかりではなく、審判甲第1号証にも存在しないもので、審決において自ら創作したものであるにすぎない。
 (2) 審決は、別紙審決の理由373〜393行において、審判甲第1号証に、@半径の位を入力することにより円弧の曲率を選択し、Aキャラクタサイズを決定するため位置データを修正し、Bキャラクタを接線方向に回転し、C割り当てられたスペースの中心にキャラクタを配置する、ことの記載があるところからみて、本件発明の「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が開示されていると認定している。しかしながら、上記@〜Cの記載から、何故に、本件発明と同じように「キャラクタの大きさ」を決定することができるといえるのか、不明である。

 例えば、上記@の記載について、審判甲第1号証には、「オペレータの所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。」(審判甲第1号証5頁右上欄5〜8行)のように、「半径の位を入力する」と記載されているが、その意味は不明である。また上記Aについて、審判甲第1号証には、「ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキャラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。」(審判甲第1号証10頁右上欄9〜13行)のような記載があるが、この文章によって何をいおうとしているか、不明である。
 これに対し本件発明では、第1点P1及び第2点P2の位置を指定することにより初めて描画範囲が決まるもので、当該描画範囲が決まらない限りキャラクタの大きさを決めることはできない(換言すれば、キャラクタの大きさは描画範囲及びキャラクタ数によって決まる。)のに対して、審判甲第1号証では、キャラクタの大きさはオペレータの入力操作によってあらかじめ決められている点において、両者は相違する。このことは、審判甲第1号証に、「つまり、キャラクタの記憶されている字体の高さの標準は1インチであり、これは記憶されているデータ全部が1インチ高さのキャラクタを含んでいることを意味する。半分字体特性が選択された時には、記憶されているデータはキャラクタの上半分あるいは下半分にある各ポイントにおける高さ情報が二倍にされるように変換される。例えばNインチで描かれた標準高さストロークは半分字体特性が選択された時には1インチで描かれる。」(審判甲第1号証5頁左下欄4〜13行)のように、「標準で1インチ、又は標準以外で各ポイントの2倍の大きさを指定する」ものであることが明記されていることからみて、明確である。

 (3) 審決は、別紙審決の理由393〜396行において、「f、の記載からみて、本件発明の「上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段」が開示され、」と認定している。しかしながら、審判甲第1号証のスペースの決め方は、「第11図に示されたテキスト長さアルゴリズムは簡単な加算計算であり、指定されたキャラクタの幅(W)と、各中間にあるキャラクタの前及び後に位置するスペース(2S)と、最初のキャラクタの後のスペース(Sa)と、最後のキャラクタの前のスペース(Sk)との全体の和により決定される。」(審判甲第1号証7頁右下欄11〜17行)のように、「単にキャラクタのそれぞれについてその前後にスペースを付けただけにすぎない」もので、本件発明の間隔の変更の仕方とは相違する。すなわち、審判甲第1号証においては、その第11図に示されているように、キャラクタの長さLが、キャラクタ幅Wa、Wb……Wkと、スペースSa、2Sb、2Sc ……Skとの和で決まる。
 この審判甲第1号証の記載から、そのキャラクタの配列の仕方を描いてみれば、キャラクタ列の長さLの内容は、(最初のキャラクタのキャラクタ幅Wa)+(最初のキャラクタのスペースSa(片側にしかない))+(2番目のキャラクタの前側のスペースSb)+(2番目のキャラクタのキャラクタ幅Wb)+(2番目のキャラクタの後側のスペースSb)+……+(最後のキャラクタのスペースSk(片側にしかない))+(最後のキャラクタのキャラクタ幅)であり、単純に、あらかじめ決められた各キャラクタのキャラクタ幅とスペースとを加算したものである。したがって、審判甲第1号証では、キャラクタ間のスペースは、前のキャラクタの後側のスペースと、後のキャラクタの前側のスペースとの和になり、当該前及び後のキャラクタの関係で、各キャラクタのスペースを自動的に変更するようにはなっていない。
 このように、審判甲第1号証は、「次のキャラクタとの関係で、間隔の変更をするか否かの判断をして、自動的に変更するような手段」を持っておらず、この点において、本件発明とは明確に相違する。
 (4) 被告は、乙第1号証(社団法人日本印刷学会編「増補版印刷事典」昭和62年6月30日財団法人印刷局朝陽会発行)の記載を参酌すれば、本件発明の「上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段」が審判甲第1号証に開示されているとした審決の認定は正しいと主張している。しかし、本件発明は、「入力された第1点から第3点を通って第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡上に、キャラクタ列の各キャラクタを割り付けたときに、各キャラクタ間の間隔を決定する」点に特徴があり、このような構成を開示する記載や、示唆する記載は、審判甲第1号証にも、乙第1号証にもない。

 (5) 審決は、別紙審決の理由396〜406行において、審判甲第1号証の場合も、本件発明の「版下デザイン装置」が開示されているから、@キャラクタデータを入力する手段、A(何らかの)データを入力する手段、Bキャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段、Cキャラクタ間隔について変更の要否の判断及び移動をする手段、の点で両者は一致すると認定している。しかしながら、審判甲第1号証のAないしCの構成は、上記のとおり、本件発明とは、構成及び作用が明確に相違するものであるから、両者がたとえ「版下デザイン装置」を対象としている点において一致するからといって、各構成が一致するものではない。この点についての審決の認定は誤りである。

 3 取消事由2(判断の誤り)
 (1) 審決は、別紙審決の理由407〜410行、414〜434行において、本件発明の「描画始点を表す第1点、描画終点を表す第2点及び弓型配列の高さを表す第3点を入力する」構成と、審判甲第1号証の「円弧の半径及びセグメントSの長さを入力する」構成とが相違する(相違点A)と認定した上で、本件第8図の実施例の点P1、P2、P3を通る円弧は、「円弧の半径」と、「セグメントの長さ」とを有するから、数学的手法に差異があるものの、いずれの手法を選択するかは設計的な事項であり、審判甲第1号証には本件発明の上記構成が示されていると判断している。
 この判断は、本件発明が、「第1点ないし第3点の入力の仕方」を特定したことにより、デザインツールとして有効な作用効果を得ているのに対して、審判甲第1号証の構成によってはかかる効果を得ることができない点を看過したものである。

 本件発明において指定する第1点は「最初のキャラクタの描画始点」を位置データとして入力したもの(実際上この位置データはメモリエリアに記憶される。以下この項において同じ。)であり、また第2点は「最後のキャラクタ描画終点」を位置データとして入力したものであり、さらに第3点は、「弓型配列の高さ」を位置データとして入力したものである。この本件発明の入力の仕方は、実際上表示画面上にデザイナが自ら決めた位置に、弓型キャラクタ配列の書き出し、書き終り及び高さを決めることができるので、デザイナのイメージどおりに、任意に、弓型キャラクタ列の大きさ、アークの高さ、画面の表示場所を特定できる、実効的な効果が得られる。
 審判甲第1号証の場合は、単に、「円弧の半径」及び「セグメントの長さ」を指定できるにすぎず、当該セグメントを、表示画面上の任意の位置に、任意の大きさで描画することはできない。実際上、審判甲第1号証では、別紙審決の理由421〜424行において認定しているとおり、「当該円弧をディスプレイ32上に表示しようとすると、例えば、FIG.10のように、ディスプレイ32の中央に、当該円弧の中心が左右の中心となるように配置されるように表示する。」のように、「ディスプレイ32の中央の場所に円弧の中心があり、かつ円弧が左右対称に配置される」ことができるにすぎず、本件発明のように、表示画面上の任意の位置に、任意の大きさで描画することはできない。

 このことは、審決が示す「ディスプレイ32」は、審判甲第1号証第1図において、データキーボード22の狭い部分に横長に設けられている(おそらく、1行分の、しかも直線状の、キャラクタ列しか表示できないと考えられる)もので、それ以外に本件発明のように、ディスプレイ装置の表示画面上において、XY座標を用いて、キャラクタを特定できる(広い平面表示領域において、X座標によって横方向の表示ドット位置を指定し、かつY座標によって縦方向(したがって高さ方向)の表示ドット位置を指定できる)ような構成を、開示も、示唆もしていないことに照らしても、明らかである。
 (2) 被告は、乙第3号証(特開昭60−79476号公報)及び乙第4号証(特開昭61−248162号公報)によって円弧を特定することは本件出願時において技術常識であったから、審判甲第1号証の相違点A及びBが開示されているとした審決の判断は正しいと主張している。

 しかしながら、乙第3、4号証の作画処理技術は各線部分の接続に厳密さが必要で、接続点において喰い違いがあるような作画をしたのでは使いものにはならない。このことは、乙第3、4号証の作画処理技術が本件発明が目的とする「バランスの良い弓型文字列をデザインする」こととは異なる目的を持っていることを意味する。このように目的を異にする乙第3、4号証の作画処理技術が直ちに本件発明の弓型文字列のデザインに適用できるものではなく、何らかの動機付けがなければならないことは当業者であれば明らかである。
 被告は審判において、「上記第1点から第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段」は周知のものではない、と明言していたのに対して、本訴においてこれを覆して、円弧上の3点を入力することにより円弧を演算することは周知技術であると主張しており、禁反言法理に反する。

 (3) 審決は、別紙審決の理由411〜413行、435〜439行において、本件発明の「第1点から第3点を通って第2点の位置に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する」手段が審判甲第1号証にはない点において相違する(相違点B)と認定した上で、審判甲第1号証では、「既に、円弧が定まっているから、あらためて、軌跡を演算する必要がないだけで、格別の技術的意義があるわけではない」と判断している。
 この審決における判断は、上述したように、本件発明が、デザインツールとして得ることができた実効的な作用効果を看過してなされたもので誤りである。
 本件発明において上記の演算をするのは、デザイナが弓型キャラクタ列を書き始めたいと考えた描画始点(すなわち第1点)から、デザイナが通って欲しいと考えたアーチの高さ点(すなわち第3点)を通って、デザイナが書き終わりたいと考えた描画終点(すなわち第2点)までの弓型キャラクタ列の描画を実現するための手段を特定したものであって、これにより本件発明においては審判甲第1号証によっては得ることができないようなデザイン作業上の実効的な効果を得ており、このような本件発明の効果を看過している審決の判断は誤りである。

 審決は、本件発明の構成及び効果を否定するために、「審判甲第1号証では軌跡の演算をする必要がない」との見解を根拠としているが、かかる見解は審判甲第1号証の記載に反する。すなわち、審判甲第1号証では、審判甲第1号証10頁左上欄10〜16行において第7図ないし第9図を用いて説明しているように、入力された半径に基づいて求めた円弧の中心が、左右の中心になるようにキャラクタを配列するようなキャラクタ軌跡の演算を実行しており、決して演算をしていないわけではない。

第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1(認定の誤り)に対して
 (1) 取消事由1の(1)の主張に対する反論
 審決は、「キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているときに、(何らかの)データを入力する手段」が審判甲第1号証に開示されていると認定しているのであって、入力されるデータは、本件発明と審判甲第1号証記載の発明との間で異なっていても問題はない。入力されるデータが異なることは、審決において、(相違点A)として認定されている(別紙審決の理由407〜410行)。
 審判甲第1号証記載の発明においては、円弧キー28を押してテキストキャラクタを円弧に沿って配置させる際に、例えばオペレータが円弧の半径を入力しており、この円弧の半径により円弧の曲率がセットされる(審判甲第1号証8頁左上欄2〜9行、さらに必要であれば5頁右上欄4〜8行)。

 したがって、「上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、(何らかの)データを入力する手段」が審判甲第1号証に開示されているとした審決の認定は正しい。
 (2) 取消事由1の(2)の主張に対する反論
 原告は、審決が「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が審判甲第1号証に開示されていると認定した(別紙審決の理由373〜393行)のに対して、本件発明の「キャラクタの大きさを決定する」及び審判甲第1号証の「半径の位を入力する」に注目して主張しているので、反論する。
   ア 本件発明の「キャラクタの大きさを決定する」について
 本件発明の「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」における「キャラクタの大きさを決定する」処理が具体的にどのような処理なのかは、原告の主張からは理解できない。

 本件明細書の発明の詳細な説明における唯一の実施例(本件特許公報2頁4欄27行〜7頁14欄22行、特に第7図(A)及び(B)並びに7頁13欄12行〜14欄10行)を見ると、ステップSP24でキャラクタ列(キャラクタの数=N)が入力され、このキャラクタ列を、ループ(SP26〜SP48)中でカウンタN1を1ずつ増やしながら(SP27)、1キャラクタずつ処理している。「弓文字モード」が指定されている場合には、1キャラクタを処理するごとに、SP34で範囲の入力(第2点の入力)及び第3点の入力を行い、SP35でキャラクタの大きさ及び回転角を決定し、SP42でそのキャラクタを赤色表示し、SP47〜SP48で次のキャラクタの原点の位置、すなわち次のキャラクタとの間隔を決定している。ここで、SP35の「キャラクタの大きさを決定する」処理が、特許請求の範囲の「キャラクタの大きさを決定する」処理に該当すると思われるが、実施例の記載においては、「文字(キャラクタ)の大きさを演算により決定する」以上の詳しい説明はなく(本件特許公報6頁11欄15〜18行及び31〜32行)、処理の具体的な内容は不明である。
 実施例においては、SP35の「キャラクタの大きさを決定する」処理は、1キャラクタを処理するごとに行われている(本件特許公報7頁13欄12行〜14欄10行並びに第7図(A)及び(B))。これに対し、キャラクタ間隔(本件特許公報第4図)は、1キャラクタを処理するごとに次のキャラクタとの間隔が決まるため(本件特許公報7頁13欄21行〜14欄7行並びに第7図(B)のSP47〜SP48)、すべてのキャラクタの処理が終わらなければ、すべてのキャラクタ間隔は決まらない。
 してみれば、すべてのキャラクタ間隔が決まる前に、すなわち1キャラクタを処理するごとに行われるSP35の「キャラクタの大きさを決定する」処理とはいったいどのような処理なのであろうか。その処理内容は、原告の主張からは理解することができない。

 このように、本件発明における「キャラクタの大きさを決定する」処理は、その具体的な内容が不明であり、審判甲第1号証の記載「キャラクタのサイズを決定(scale)する」(審判甲第1号証10頁右上欄12〜13行)と区別できるものではない。本件発明における「キャラクタの大きさを決定する」処理が広すぎるのであって、「キャラクタの大きさを決定する何らかの処理」としかいいようがなく、審判甲第1号証の上記記載「キャラクタのサイズを決定(scale)する」と同じことをいっているにすぎない。
 したがって、本件発明の「キャラクタの大きさを決定する」処理(手段)が審判甲第1号証に開示されているとした審決の認定に誤りはない。
   イ 審判甲第1号証の「半径の位を入力する」について
 「半径の位を入力する」が「半径を入力する」と同義と考えられることは、例えば、審判甲第1号証の直後の記載「オペレータは、正の符号を有する半径を入力することにより上向き円弧を、そして負の符号を有する半径を入力することにより下向き円弧を選択できる」(審判甲第1号証5頁右上欄16〜19行)から明らかである。このように、「半径の位を入力する」の記載の意味は明らかである。

 (3) 取消事由1の(3)の主張に対する反論
 原告は、「審判甲第1号証では、キャラクタ間のスペースは、前のキャラクタの後側のスペースと、後のキャラクタの前側のスペースとの和になり、当該前及び後のキャラクタの関係で、各キャラクタのスペースを自動的に変更するようになっていない。」と主張する。
 審判甲第1号証には、「カーニング」について以下のような記載がある。「インデックス部50がヘッダ部48に続く。インデックス部50は字体データ中に備えられている標準スペーシングを調整するためにケルン(Kern)を含んでいる。ケルンはテキストラインを形成するデータにおいて別個のキャラクタを構成し、そして機能的には増分バックスペースと同じである。異なった長さの幾つかのケルンが各字体中に含まれている。」(6頁右上欄20行〜左下欄7行)

 ここで、「ケルン(Kern)」とは、「カーニング(kerning)」を意味する。一方、審判甲第1号証の頒布時における技術常識を認定する資料として、乙第1号証(社団法人日本印刷学会編「増補版印刷事典」昭和62年6月30日財団法人印刷局朝陽会発行)がある。乙第1号証は、審判甲第1号証の頒布時の約1年後(本件出願時の約半年後)に発行された文献であるが、「事典」であって、新規の技術を開示するものではなく、その記載内容は発行時のかなり前から定着している内容と考えられ、審判甲第1号証の頒布時における技術常識を認定するのに用いて差し支えない。
 乙第1号証には、「カーニング」について「そこでそのような特定な文字の組合せについては、レターフェースの内側にまでくい込む形で詰め組みする処理が行われるようになり、これをカーニングと呼ぶ。」(88頁右欄6〜10行)との記載がある。したがって、審判甲第1号証の頒布時において、カーニングの方法として、文字の組合せによって詰め量を定めることは当業者の技術常識だったものと考えられる。このことは、審判甲第1号証の頒布時よりも前に出願及び公開された審判甲第2号証及び審判甲第3号証に、文字の組合せによって詰め量を定めることが記載されていることからも推認できる。

 この技術常識を参酌して、審判甲第1号証のカーニングについての上記記載を読めば、「1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断し、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、次のキャラクタを所定量だけ移動させる」ことが導き出せるものと考えられる。
 (4) 取消事由1の(5)の主張に対する反論
 上述のように、本件発明と、審判甲第1号証記載の発明とは、A「上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、(何らかの)データを入力する手段」と、B「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」とを具える点で一致する。


 2 取消事由2(判断の誤り)に対して
 (1) 取消事由2の(1)の主張に対する反論
 特許請求の範囲をみると、本件発明たる版下デザイン装置の構成要件に、データ(弓型キャラクタ列)を表示する手段は含まれておらず、データを入力する手段(下記の構成要件a及びb)とデータに対して演算を行う手段(下記の構成要件c〜f)とが含まれるのみである。
「a 描画すべきキャラクタ列の各キャラクタデータを入力する手段と、
 b 上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、
 上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
 c 上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段と、

 d 上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
 e 上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
 f 間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段と
 を具えることを特徴とする版下デザイン装置。」
 ここで、本件発明の構成要件には「d.上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタを割り付けると共に、・・・決定する手段」が含まれているが、実施例を見ると、キャラクタ配列軌跡上にキャラクタを割り付ける処理(本件特許公報6頁11欄29〜32行及び第7図(B)のSP35)と、キャラクタを表示する処理(本件特許公報6頁12欄7〜10行及び第7図(B)のSP42)とは別のものとして記載されており、「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタを割り付けると共に、・・・決定する手段」は、データに対して演算を行う手段であって、データを表示する手段ではないと考えられる。

 なお、作成された弓型キャラクタ列を含む版下画像(データ)は、版下デザイン装置のディスプレイ装置等に表示する必要はなく、例えば、遠隔地にある受信装置に送信することが考えられる。このことは、実施例において、版下デザイン装置1が、版下画像データを遠隔地にある受信装置に送信するためのモデム10を具備することから容易に考えられる(本件特許公報3頁5欄11〜13行及び第1図)。
 したがって、弓型キャラクタ列を表示する手段を必須の構成要件としていない本件発明の作用効果として、表示画面上の任意の位置に任意の大きさで弓型キャラクタ列を表示できることを主張するのは不合理である。
 原告は、本件発明の入力の仕方は、実際上表示画面上にデザイナが自ら決めた位置に、弓型キャラクタ配列の書き出し、書き終わり及び高さを決めることができると主張している。しかしながら、特許請求の範囲を見ると、「b.上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段」における第1点〜第3点の位置が表示画面上の絶対的位置とは記載されていない。すなわち、第1点〜第3点の相対的位置を指定するデータが入力される場合も考えられ、第1点〜第3点の表示画面上における絶対的位置を指定するデータが入力されるとは限らない。

 したがって、上記第1点〜第3点の位置が表示画面上の絶対的位置とは限らない本件発明の作用効果として、表示画面上の任意の位置に弓型キャラクタ列を表示できることを主張するのは不合理である。
 原告は、本件発明によれば、弓型キャラクタ列をデザイナのイメージどおりに任意の大きさで表示することができると主張しているが、弓型キャラクタ列の大きさは、デザイナが入力できるものではなく、「d.上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」によって勝手に決められてしまうものである。
 したがって、本件発明によって弓型キャラクタ列をデザイナのイメージどおりに任意の大きさで表示することはできない。
 また、円弧の始点、終点及び中間点を指定することにより円弧を特定することは、本件出願時において技術常識であった(例えば、乙第3号証(特開昭60−79476号公報)及び乙第4号証(特開昭61−248162号公報))。

 (2) 取消事由2の(3)の主張に対する反論
 原告が主張する「デザインツールとして得ることができた実効的な作用効果」及び「デザイン作業上の実効的な効果」は、上述の(1)における主張の効果と同じと考えられ、本件発明によれば、表示画面上の任意の位置に任意の大きさで弓型キャラクタ列を表示できるという効果のことと思われる。しかしながら、上述のように、弓型キャラクタ列を表示する手段を必須の構成要件としていない本件発明の作用効果として、表示画面上の任意の位置に任意の大きさで弓型キャラクタ列を表示できることを主張するのは不合理である。また、本件発明によって、弓型キャラクタ列をデザイナのイメージどおりに任意の大きさで表示することはできない。


第5 当裁判所の判断
 原告主張の審決取消事由は、審判甲第1号証記載の事項から容易に推考することができたとする審決の認定判断部分の誤りをいうものであり、これについて、以下判断を加える。
 1 取消事由1(認定の誤り)について
 (1) 原告は、審決が審判甲第1号証について、「本件発明の「上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、何らかのデータを入力する手段」が開示され」(別紙審決の理由371〜372行)と認定した点につき、描画始点及び描画終点が決められた範囲に配列するためのキャラクタを入力する構成を持たない審判甲第1号証の構成を本件発明と一致すると認定したのは誤りであると主張する。
 審決は、上記のように、審判甲第1号証に「何らかのデータを入力する手段」が開示されていると認定しており、描画始点及び描画終点が決められた範囲に配列するためのキャラクタを入力する構成については、「本件発明では、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力するのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力する点、・・・で相違する。」(別紙審決の理由407〜413行)と、相違点Aとして挙げているところである。また、審決が、審判甲第1号証に「円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによって定義される。円弧のセグメントSの長さは第11図に図示されたテキスト長さアルゴリズムにより決定されるテキスト長さ(L)に等しくセツトされる。円弧の張る角度シータ(θ)は円弧長Sを半径Rにより割算することにより決定される。」ことが記載されていると認定した点(別紙審決の理由128〜132行)

については、当事者双方とも特に争っていない。
 そうすると、審判甲第1号証記載の発明においてはオペレータが曲率等をセットしているのであるから、審決が審判甲第1号証について「本件発明の「上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、何らかのデータを入力する手段」が開示され」と認定した点に誤りがあるということはできず、「何らかのデータ」との認定に不明瞭な点があるということもできない。
 (2) 原告は、審決が審判甲第1号証について「本件発明の「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が開示され」(別紙審決の理由391〜393行)と認定した点につき、「キャラクタの大きさ」を決定することができるとしたのは誤りであると主張する。

 まず、審判甲第1号証の記載についてした審決の認定中、「テキストキャラクタが回転、円弧あるいは半分字体コマンドに基づいて修正された場合には、絶対データはスケーリングアルゴリズム88によって処理される。ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキャラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。」との部分(別紙審決の理由170〜174行)については、当事者双方とも特に争っていない。これによれば、審判甲第1号証には、スケーリングアルゴリズム88により処理され、キャラクタのサイズを決定することが示されているということができる。
 原告は、審判甲第1号証の場合はキャラクタの大きさはオペレータの入力操作によってあらかじめ決められていると主張するが、オペーレータの入力操作があるとしても、審判甲第1号証記載の発明においては、スケーリングアルゴリズム88によりキャラクタのサイズを決定しているのであって、審判甲第1号証記載の発明はキャラクタの大きさを決定する手段を有しているということができる。原告は、審判甲第1号証の上記文章の意味は不明であると主張するが、スケーリングアルゴリズム88における処理が具体的に示されていないとしても、少なくとも審判甲第1号証記載の発明においてスケーリングアルゴリズム88によりキャラクタのサイズを決定していることは明らかである。

 そうすると、審決が審判甲第1号証記載の発明について、「本件発明の「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が開示され」(別紙審決の理由391〜393行)と認定した点に誤りがあるということはできない。
 (3) 原告は、本件発明では、キャラクタの大きさは描画範囲及びキャラクタ数によって決まるとも主張する。しかし、本件特許請求の範囲には「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」との記載はあるが、キャラクタの大きさが描画範囲及びキャラクタ数によって決まるとの記載はなく、原告の主張は、本件発明の特許請求の範囲の記載に基づかないものとして理由がない。

 原告は、審判甲第1号証の記載について審決がした認定、すなわち「円弧キー28はオペレータにより入力されたテキストキャラクタを円弧に沿って配置させる。オペレータは所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。」(別紙審決の理由92〜94行)中の「半径の位を入力する」の意味が不明であると主張する。この記載はキャラクタの大きさに関するものではなく、円弧の曲率に関するものであるが、審判甲第1号証中の「円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによって定義される。」との記載(別紙審決の理由128〜129行)を参照すれば、曲率半径を入力するとの意味と理解することができ、原告の主張は理由がない。
 (4) 原告は、審決が審判甲第1号証について「本件発明の「上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段」が開示され」(別紙審決の理由393〜396行)と認定した点につき、審判甲第1号証記載の発明は、「次のキャラクタとの関係で、間隔の変更をするか否かの判断をして、自動的に変更するような手段」を持っておらず、審決の認定は誤りであると主張する。

 ここで、審判甲第1号証の記載について審決がした認定中、「インデックス部50は字体データ中に備えられている標準スペーシングを調整するためにケルン(Kern)を含んでいる。ケルンはテキストラインを形成するデータにおいて別個のキャラクタを構成し、機能的には増分バックスペースと同じである。異なった長さのいくつかのケルンが各字体中に含まれている。」との部分(別紙審決の理由101〜105行)、及び「第11図に示されたテキスト長さアルゴリズムは簡単な加算計算であり、指定されたキャラクタの幅(W)と、各中間にあるキャラクタの前及び後に位置するスペース(2S)と、最初のキャラクタの後のスペース(Sa)と、最後のキャラクタの前のスペース(Sk)との全体の和により決定される。この和は、ラインが特定のライン長さに強制されていないものと仮定して印刷されたラインテキストの全体の長さ(L)を表わしている。後者の場合に、圧縮されたあるいは拡張された長さが標準の長さよりも使用される。」との部分(別紙審決の理由122〜128行)については、当事者双方とも争うものではない。
 これによれば、標準スペーシングを調整すること、及びテキスト長さについて標準の長さより圧縮された又は拡張された長さを使用することは、審判甲第1号証に示されているものということができる。そうすると、審決が、審判甲第1号証について「本件発明の「上記キャラクタ列の上記割り付けられた1つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段」が開示され」と認定した点をもって誤りであるとすることはできない。
 (5) 以上のとおりであり、取消事由1は理由がない。


 2 取消事由2(判断の誤り)について
 (1) 原告は、相違点A(本件発明では、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力するのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力する点)に関して、審決が「審判甲第1号証記載の発明と、本件発明の円形の場合とでは、数学的な手法に差異はあるものの、いずれの手法を選択するかは、当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎないから、実質的な差異は認められず、審判甲第1号証には、相違点Aが開示されていると言える。」(別紙審決の理由431〜434行)と判断した点につき、本件発明の入力の仕方は、実際上表示画面上にデザイナが自ら決めた位置に弓型キャラクタ配列の書き出し、書き終り及び高さを決めることができるので、デザイナのイメージどおりに、任意に弓型キャラクタ列の大きさ、アークの高さ、画面の表示場所を特定できる実効的な効果が得られるのに対して、審判甲第1号証の構成によってはかかる効果を得ることができない点を看過してなされており、判断を誤っていると主張する。
 しかしながら、本件発明の特許請求の範囲には表示画面に関する記載はないので、表示画面上にデザイナが自ら決めた位置に弓型キャラクタ配列の書き出し等を決めることができ、画面の表示場所を特定できるとする原告の主張は理由がない。
 (2) 審決が「本件発明の円形の場合についてみると、第8図の実施例のP1、P3、P2を通る円弧は、唯一つ特定でき、当該円弧は、当然円弧の半径とセグメントの長さとを有する。」(別紙審決の理由428〜430行)と認定しているように、3点を指定することにより円弧を特定できることは明らかである。そして、乙第3号証によれば、特開昭60−79476号公報に「作画する円弧の指定方式としては次の2種類がある。・・・第2の方式は、両端の2点及び通過点の各々のX座標とY座標の6個のデータで指定する方式である。」(1頁右下欄下から4行〜2頁左上欄3行)と記載されていることが認められ、また乙第4号証によれば、特開昭61−248162号公報に「円弧発生処理部4は、3つの点データが入力されるとそれらを始点、円弧上の点、終点として認識し、円弧を発生させる処理を行うものである。」(2頁右下欄5〜8行)と記載されていることが認められる。このことからすると、3点を指定することにより円弧を特定することは周知であるということができ、原告主張の効果はこのような円弧の指定によって奏するものというべきであって、格別のものと認めることはできない。

 原告は、目的を異にする乙第3、第4号証の特許公開公報における作画処理技術は、直ちに本件発明の弓型文字列のデザインに適用できるものではないと主張する。しかしながら、乙第3号証の公報に記載の技術は「円弧の作画データ処理方式」(1頁左下欄の発明の名称)に関するものであり、乙第4号証の公報に記載の技術は「円弧含み点つなぎ線発生表示方式」(1頁左下欄の発明の名称)に関するものであって、いずれも一般的な円弧の処理に関するものであるから、このような一般的な周知の技術を審判甲第1号証の円弧の処理に適用することを阻害すべき理由を認めることはできない。
 原告は、被告が審判において「上記第1点から第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段」は周知のものではないと明言したのに対して、本訴でこれを覆して周知技術であると主張することは許されない旨主張する。しかしながら、被告の審判における上記主張は、円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段が周知でないとの点に関するものであり、円形についての演算する手段が周知でないと主張するものではないので、原告の主張は理由がない。

 (3) 原告は、相違点B(本件発明が第1点から第3点を通って第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段を有するのに対して、審判甲第1号証記載の発明ではそのような記載が無い点)に関して、審決が「審判甲第1号証の発明では、既に、円弧が定まっているから、あらためて、軌跡を演算する必要が無いに過ぎず、格別の技術的意義があるわけではない。」(別紙審決の理由435〜437行)と判断したのは、本件発明が、デザインツールとして得ることができた実効的な作用効果を看過してなされたものであると主張する。しかしながら、本件発明の特許請求の範囲には表示画面に関する記載はなく、また原告主張の効果が格別のものであると認めることもできない。
 原告は、審判甲第1号証の場合は、審判甲第1号証10頁左上欄10〜16行において第7図ないし第9図を用いて説明しているように、入力された半径に基づいて求めた円弧の中心が左右の中心になるようにキャラクタを配列するようなキャラクタ軌跡の演算を実行しており、演算をしていないわけではないのであるから、審決の判断は誤りであるとも主張する。

 甲第3号証によれば、審判甲第1号証の原告指摘箇所には「円弧テキスト発生器86は・・・テキストキャラクタラインを受信する。適当なアルゴリズムは・・・円弧に沿ってキャラクタを配置するために、テキストキャラクタラインの上に実行される。」との記載のあることが認められるが、キャラクタ軌跡の演算を実行するとの記載はそこにはないことが認められる。上記箇所には「キャラクタを配置」との記載がされているが、本件発明の特許請求の範囲によれば、キャラクタの割り付けを行うのは、相違点Bに関する「上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段」ではなく、「上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」であることが、その文言から明らかである。したがって、原告の上記主張は、本件発明の特許請求の範囲の記載に沿わないものであって、前提において理由がない。
 (4) よって、取消事由2も理由がない。

第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、本件発明は審判甲第1号証記載の事項に基づいて容易に推考し得たとした審決の認定判断に誤りは認められない。よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年7月11日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部


     裁判長裁判官       永  井  紀  昭


        裁判官       塩  月  秀  平


               裁判官       田  中  昌  利           



平成12年(行ケ)第392号 平成11年審判第35415号
    審決の理由


I手続の経緯
 (略)
II.本件特許発明
 本件特許に係る発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段と、
上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段と、
上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、

上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置。」
III.審判請求人の無効理由の概要
 i)本件特許の請求項1に係る発明の特許は、審判甲第1号証乃至審判甲第4号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
 ii)本件特許の請求項1に係る発明の特許は、記載不備があるから特許法第36条第3、4項の規定により特許を受けることができないものである。
 iii)それゆえ、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第1号又は第3号に該当し、無効とされるべきである。

IV.被請求人の答弁の理由の概要
 一方、被請求人は、「本件特許発明は審判甲第1号証ないし審判甲第4号証に対して進歩性があるものであり、また本件特許明細書について記載不備はないものであるから、特許法第123条第1項第1号及び同条第1項第3号により無効とすべき理由はない。」と主張している。
V.審判甲号証に記載された事実
 成立に争いのない審判甲第1号証、審判甲第2号証、審判甲第3号証及び審判甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
審判甲第1号証(特開昭61−95952号公報)
a、コンピュータ及び関連のメモリーデバイスの使用によってキヤラクタのテキストラインを発生する装置における円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置において、所与のサイズのキヤラクタの字体を記述しかつそのキヤラクタの各々についてキヤラクタの形状を決定する第1のデータセットとキヤラクタの幅を決定する第2のデータセットとを含んでいるデータを記憶するメモリー手段(46、50、52)、前記円弧に沿ってテキストラインとして発生されるべき選択したキヤラクタのシーケンスについてのデータを前記メモリ手段(46、50、52)から読み取る手段(38、74、76)、前記テキストラインの長さを決定するために所与のプログラムに基づいて前記シーケンスにおいて前記キヤラクタの各々を決定する前記データを前記コンピュータ中で処理する手段(40、44、60、66)、及び前記テキストラインの長さに等しい前記円弧の長さを設定する手段(44、60、66)、前記円弧に沿って発生されるべき前記キヤラクタの各々について前記円弧の長さを割り当てるために、前記シーケンスにおける前記キヤラクタの各々を決定する前記データと所与のプログラムに基づいて前記円弧を決定する前記データとを前記コンピュータ中で処理する手段(44、66)、及び円弧の長さに割り当てられた前記キヤラクタの各々の中心を決定する手段(44、60)、前記円弧に沿って各キヤラクタについての中心点において前記キヤラクタの各々に関連した接線方向の回転角を決定する手段(40、64、84、86)、接線方向の回転角において前記キヤラクタの各々を決定する回転データを発生するために、所与のプログラムに基づいて、前記シーケンスにおけるキヤラクタの各々を決定する前記データとキヤラクタに関連した前記接線方向の回転角データとを前記コンピュータ中で処理する手段(40、44、60、66、86)、及び各キヤラクタの発生の際に、前記各キヤラクタを決定する前記データと前記円弧を決定する前記データとの前記処理から得られた前記キヤラクタの各々についての前記接線方向の回転データを用いて円弧に沿ってキヤラクタを発生する手段(44、82、86)、から成ることを特徴とする円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置。(特許請求の範囲第2項)

b、特許請求の範囲第2項において、前記円弧に関して張る角度の値を決定する手段(82、84、86)及び前記張る角度を半分に分割する手段(86)、前記円弧の始めを決定する第1のベクトルに関する角度に前記張る角度の前記半分の値を90度まで加算する手段(86)、前記円弧に沿って発生されるべき前記キヤラクタの各々についてキヤラクタの絶対角度を決定するために、前記割り当て手段(40、60、66)を用いて前記張る角度を分割する手段(86)、前記第1のキヤラクタの中心点を決定する第2のベクトルの絶対角度の値を決定するために、前記第1のベクトルの前記角度の値から前記シーケンスにおける第1のキヤラクタに関連した絶対角度の値の1/2を減算する手段(60、86)、前記第2のベクトルの前記絶対値の補角の角度値を決定する手段(60、66、86)、及び前記第1の文字に対する接線方向の回転角度を発生するために90度から前記補角の角度値を減算する手段(60、66、86)、から成ることを特徴とする円弧に沿ってキヤラクタを位置決めする装置。(特許請求の範囲第3項)
c、テキストラインに含まれるべきキヤラクタはキーによって選択されまた他の情報がキーによって制御装置に入力される。機能キーとして参照される別の列のキー24がキーボード22の後ろにあり、データの入力及び装置の動作を制御する。本発明にあっては、キーの列24が「回転(rotate)」キー26、「円弧(arc)」キー28及び「半分字体(half−font)」キー30を有していることがわかれば十分である。データキーボード22は、標準のタイプライタのキーボードと同じであり、装置のオペレータが符号テキストキヤラクタを特定しかつキヤラクタの選択した字体からテキストの符号を構成することを可能にする。キヤラクタの字体は、マイクロプロセツサに接続されたランダムアクセスメモリ(RAM)にドライブユニツトによつて読み出されるメモリデイスクあるいは他のデバイス中の各種のストロークによつて記憶される。あるいは複数の字体は発生器の一連のリードオンリーメモリ(ROM)中に組み込まれる。テキスト入力モード中には、入力されたキヤラクタはキーが押されると可視デイスプレイ32中に現われる。テキストの長さがデイスプレイの容量を超えるとスクロール処理によつて最も新しく入力されたキヤラクタが表示されて残される。テキストが入力されている間は、ツールヘツド16及びキヤリア14を送るスプロケツトは非動作にある。(第4頁右下欄第11行〜第5頁左上欄第17行)
d、円弧キー28はオペレータにより入力されたテキストキヤラクタを円弧に沿って配置させる。オペレータは所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。円弧の曲率は円弧に沿って印刷されるべきテキストキヤラクタの上側及び下側縁に関して設定される。上向き円弧は、キヤラクタの下側縁がその円弧に沿って配置され、キヤラクタがこの円弧から半径方向に外向きに広がる円弧として定義される。下向き円弧は、キヤラクタの上側縁がその円弧に沿って配置され、キヤラクタがこの円弧から半径方向に外向きに広がる円弧として定義される。オペレータは、正の符号を有する半径を入力することにより上向き円弧を、そして負の符号を有する半径を入力することにより下向き円弧を選択できる。(第5頁右上欄第4〜19行)

e、インデツクス部50がヘツダ部48に続く。インデツクス部50は字体データ中に備えられている標準スペーシングを調整するためにケルン(Kern)を含んでいる。ケルンはテキストラインを形成するデータにおいて別個のキヤラクタを構成し、そして機能的には増分バツクスペースと同じである。異なった長さの幾つかのケルンが各字体中に含まれている。インデツクス部50の主要部は、文字に関する幾何学情報と共に字体の各キヤラクタのリステイングと、文字のプロフィールを完全に定義するストロークあるいはベクトルが配置されている記憶装置のバルクデータファイル52のアドレスを特定するポインタとから成つている。各文字は、一体に接続された時に文字のアウトラインを示すカツテイングあるいはプロツテイングラインを示す増分ベクトルによりバルクデータファイル内で定義される。インデツクス部50では、各文字あるいは他のキヤラクタがASCII数字コードにより識別され、キーボード22からオペレータインタフェース36を介してアクセスを可能にする。ヘツダ部48の高さ標準と同じスケールでの文字の寸法幅がコードに含まれており、文字のほとんどの組合せ間で適当なスペースを与えるために各文字の前及び後に付加されるスペース寸法も含まれている。(第6頁右上欄第20行〜右下欄第5行)
f、円弧サブルーチン60内で処理される円弧コマンドは、符号プロツテイングあるいはカツテイング動作の実行の前に、字体インデツクスから取られたスペース及び幅データと、パラメータデータ記憶メモリ40内に記憶されている字体データから取られたストロークデータとを必要とする。円弧コマンドはテキストラインが上向きあるいは下向き円弧に沿ってレタリングされることを可能にする。円弧サブルーチン60内で実行される円弧関数アルゴリズムは、所望の円弧に適合されるべきテキスト長さを決定するために第11図に図示されたアルゴリズムを使用する。第11図に示されたテキスト長さアルゴリズムは簡単な加算計算であり、指定されたキヤラクタの幅(W)と、各中間にあるキヤラクタの前及び後に位置するスペース(2S)と、最初のキヤラクタの後のスペース(Sa)と、最後のキヤラクタの前のスペース(Sk)との全体の和により決定される。この和は、ラインが特定のライン長さに強制されていないものと仮定して印刷されたラインテキストの全体の長さ(L)を表わしている。後者の場合に、圧縮されたあるいは拡張された長さが標準の長さよりも使用される。円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによつて定義される。円弧のセグメントSの長さは第11図に図示されたテキスト長さアルゴリズムにより決定されるテキスト長さ(L)に等しくセツトされる。円弧の張る角度シータ(θ)は円弧長Sを半径Rにより割算することにより決定される。(第7頁左下欄第20行〜第8頁左上欄第9行)
g、円弧に沿って配置されたテキストキヤラクタについての接線方向の回転角度はサブルーチン60内の円弧関数アルゴリズムにより決定される。円弧Sの長さはキヤラクタの幅及びスペースデータを用いて、テキストキヤラクタの各々に要求されるスペースにより割り算される。サブルーチン60内の割り当てアルゴリズムはキヤラクタの各々に対して円弧に沿ってスペースを割り当てるために使用され、またキヤラクタの各々の始めと終りを定義する。各キヤラクタについての回転の接線方向の角度はキヤラクタの始端よりもむしろキヤラクタの中心点で決定され、その結果キヤラクタが回転された時にキヤラクタのベースが歪なしに円弧上にある。この回転アルゴリズムは円弧機能アルゴリズムにより計算された接線方向の回転角度にキヤラクタを回転するようにX及びY座標を決定すべく使用される。下向き円弧に沿ってレタリングされたテキストキヤラクタに対する接線方向の回転角度は、キヤラクタの底部よりもキヤラクタの頂部がテキストキヤラクタのクラミング(cramming)を防止するために円弧に沿って接線方向に配置されるように一定のオフセットがキヤラクタストロークデータに加算されることを除いて、

上向き円弧に使用されたものと同じアルゴリズムによつて決定される。下向き円弧に沿ってのレタリングの場合には、サブルーチン60は字体インデツクスからの高さデータをオフセツトデータによつて修正する。このオフセツトデータは円弧機能アルゴリズムにより計算され、高さデータと結合され、計算されたオフセツトでキヤラクタを決定する新しいベクトル情報を発生し、その結果キヤラクタ及びオフセツトが等しく回転される。(第8頁左上欄第10行〜左下欄第2行)
h、円弧コマンドがオペレータにより指図された時に、このコマンドは円弧テキスト発生器86により順次に処理される。円弧テキスト発生器86は所望の円弧に沿って各テキストキヤラクタを配置するための接線方向の回転角度を決定する情報を発生するために多数のアルゴリズムを実行する。円弧テキスト発生器は円弧に沿ってレタリングされるべきテキストラインの各キヤラクタに対する接線方向回転角度を自動的に決定し、かつ回転アルゴリズム82により使用されるサインα及びコサインα情報の計算のためにセツト回転情報セツト84にそのキヤラクタについての角度αを与える。各テキストキヤラクタは円弧に沿ってその割当てられたスペースの中心において接線方向に配置される。回転アルゴリズム82は、それぞれ上向きあるいは下向き円弧に対して前述されたように、そのベースラインの上及び下で反時計方向あるいは時計方向のどちらかでキヤラクタを回転する。円弧テキスト発生器86は例えば第7図に図示されたようなテキストキヤラクタラインを受信する。適当なアルゴリズムは、第8図に図示されたような上向き円弧に沿って、あるいは第9図に図示されたような下向き円弧に沿ってキヤラクタを配置するために、テキストキヤラクタラインの上に実行される。接線方向の回転角度の発生のためのアルゴリズムに含まれているのは、円弧に沿って配置されるべき各テキストキヤラクタについて張る角の割り当て部分を決定するアルゴリズムである。このアルゴリズムは第7図のテキストキヤラクタに対して第12図に示されたものと同様である。第10図は第8図のテキストキヤラクタの幾つかに対して円弧テキスト発生器86内に含まれているアルゴリズムにより決定されるような接線方向の回転角度を示している。テキストキヤラクタが回転、円弧あるいは半分字体コマンドに基づいて修正された場合には、絶対データはスケーリングアルゴリズム88によって処理される。ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキヤラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。(第9頁右下欄第11行〜第10頁右上欄第13行)

審判甲第2号証(実願昭46−101253号<実開昭48−57033号>のマイクロフイルム)
a、次に第2字目の文字“て”(50)を印字するための採字を行ない文字枠を固定すると、パターン検出(21)は文字“て”(50)のコードを検出してパターン記憶(26a)に記憶する。“て”(50)の形状は第6図の(51)欄に示した通りであり、コードは第10図で決められて(53)のようになる。パターン記憶(26a)に記憶された内容のうち上側用のものは制御部(27)に向い、その内容が解読されてUIVが判別される。このUIV信号と先のパターン記憶(26b)からのDIII信号が比較されて、その結果第7図によりDIIIとUIVは一致するから、張出し処理必要として送り装置(29b)に信号を送り、感光物(39)などを所定量だけ逆送りする。次いでシヤツター(40)を動作させ送り装置(29a)を動かせ感光物(39)などを順方向へ移動させる。(第10頁第10行〜第11頁第4行)

審判甲第3号証(特開昭59−54560号公報)
a、そのため、本発明のツメツメ組版処理装置は、文字の組版処理装置において、文字をその文字の形によって文字パターンに分類し、文字の内部コードに対応して、分類した文字パターンの情報を設定したパターン・テーブルと、該パターン・テーブルから読み出された先行文字の文字パターンと後続文字の文字パターンとに対応して、先行文字と後続文字との字詰めの間隔の情報が設定された字詰めテーブルとをそなえるとともに、文字の内部コードをもとに上記パターン・テーブルから上記文字パターン情報を抽出する文字パターン抽出部と、先行文字および後続文字についての上記文字パターン抽出部による抽出結果にもとづいて、上記字詰めテーブルから字詰め間隔を読み出す字詰め間隔決定部とをそなえ、ツメツメ組みの編集処理を行うようにしたことを特徴としている。(第2頁右上欄第8行〜左下欄第4行)

審判甲第4号証(日本印刷学会機関誌『印刷雑誌JAPAN PRINTER』昭和59年12月号)
a、当社が線画原稿作成機マイクセンサーの実用化開発に着手した際の目標は、熟練した技術を必要とする版下台紙作成の問題の解決であった。一部の熟練した技術者たちの腕に頼っていた版下作成を、それらの人達を含め誰でも容易に行えるシステムを開発することであった。(第19頁左欄第1〜6行)
b、版下作図機(第19頁左欄第20行)
c、フリ−カーソルと異なり入力点の正確な座標値が常時グラフィックディスプレーに表示されることである。(第20頁左欄第17〜19行)
d、英文字などを円弧に沿って配置する作図例(第20頁図4)
e、座標値の入力は専用のキーボードで行う。(第20頁右欄第15〜16行)
f、文字を円弧に沿って配置する文字作成例(第21頁図5)

g、これらの文字を使って、横組み、縦組みなどの納め組みや、ツメ打ちができるとともに、同時にそれらの文字を変形させて描画させることができる。変形方法は、長体、平体、斜体に限定されず、自由な形状にすることができ、さらにミラー、横転などの組合わせも可能である。(第21頁右欄第4〜10行)
h、ADOS−LETTERINGシステムでの文字の変形は、ディジタルで制御されている。したがってオペレータの指示どおりの正確な変形ができ、また文字のサイズを1000分の1にして描画するといったことが可能となっている。さらに、文字を自由に変形させ、その状態をグラフィックディスプレーで表示、確認することで、デザインシミュレーションといったことも可能となる。(第22頁左欄第1〜8行)
VI.当審の判断
<1>明細書の記載不備について

ア、本件特許の特許掲載公報の第6頁第11欄第25行乃至第28行には、「CPU2は、これらのデータを用いて第1点P1から第3点P3を通り第2点P2に至る円形又は楕円形の一部の軌跡を演算し、かくして弓形文字列を描画すべき文字配列軌跡SCR1を求める。」なる記載があるが、かかる「演算」手段の具体的構成は何ら記載されておらず、かかる手段は周知のものでもなく、楕円形を一意的に定めることができない、との主張に対して
 演算手段の具体的構成は何ら記載されていないとの主張は、コンピュータプログラム程度まで開示せよと言うに等しく、権利者にとってあまりにも酷というべきものである。
 楕円の方程式、すなわち、楕円の長軸及び短軸を座標軸とし、その半分をそれぞれa、bとすれば
  x
/a+y/b=1 (a>b)   −−−イ
楕円の弦の方程式、すなわち、楕円上の二点(x、y)、(x、y)を通る弦の方程式は
 (x
+x)x/a+(y+y)y/b=x/a+y/b+1                    −−−ロ
等は、当業者にとって技術常識(泉 信一外3名編『共立 数学公式』昭和53年9月25日 改増20刷、共立出版 株式会社発行、第121〜122頁参照。)というべきものであり、楕円上の二点(x
、y)、(x、y)の場合、二点(x、y)、(x、y)の場合、二点(x、y)、(x、y)の場合をロ式に適用した場合を考えると、変数a、b、x、yからなる3つの式が得られ、これらとイ式とから、解が得られる。
また、楕円の中心が、x方向にc、y方向にdずれている場合でも、この種のコンピュ−タを用いた制御技術において、変数c、dの設定を変えながら適切な解を順次得ていくことは、技術常識であるから、当業者が、これらの技術常識を用いれば、仮に、解が無限に有ったとしても、解を順に得ることができ、従って、楕円の軌跡を順に演算できるものであり、これを不明瞭であるということはできない。

 さらに、楕円形を一意的に定めることができることは、以下のように証明できる。
 先ず、xy座標上に、描画始点となる第1点P1,描画終点となる第2点P2及び高さを表す第3点P3を指定すれば、1つの楕円を特定することができることについて、楕円の標準式及びその変換式を用いて証明する。y軸上に第3点P3(x
、y)を設定すると共に、第1点P1(x、y)及び第2点P2(x、y)を、楕円の長軸半径a及び短軸半径bの端点以外の位置に指定した場合を示している。楕円上の各点(x、y)は、楕円の標準式からの変換式に基づいて、回転角tを用いて
x=acost      −−−(1)
y=bsint −−−(2)
のように、表すことができるから、第1点(x
、y)、第2点(x、y)及び第3点(x、y)についてそれぞれ次式が成り立つ。
=acost      −−−(3)
=bsint −−−(4)
=acost      −−−(5)
=bsint −−−(6)
=acost      −−−(7)
=bsint −−−(8)
ここで、第3点P3(x
、y)は、楕円の高さを表す点として、y軸上に設定するから、
=π/2(=90°) −−−(9)
であり、従って(7)式及び(8)式は、
 =acost  =acosπ/2
  =0           −−−(10)
 =bsint  =bsinπ/2
  =b           −−−(11)
になる。
 また、(4)式から回転角t1を求めると、
=sin−1/b    −−−(12)
になり、(12)式に(11)式を代入すると

=sin−1/y      −−−(13)
になる。
次に、(3)式から長軸半径aを求めると、
a=x
/cost  −−−(14)
になり、(14)式に(13)式を代入すると、
a=x
/cos〔sin−1/y〕−−(15)
になる。このように、指定した点P1、P2及びP3の位置のデータ(x
、y)、(x、y)及び(x、y)を用いて、楕円の長軸半径a((15)式)、短軸半径b((11)式)を求めることができる。そこで、(15)式及び(11)式を、楕円の標準式
/a+y/b =1  −−−(17)
に代入すれば、
/{x/cos(sin−1/y)}+y/y=1 −−−(18)
になる。この(18)式の楕円は、指定された第1点P1の位置データx
及びyと、第3点P3の位置データyとによって表されており、しかも楕円のすべての点(x、y)について、xの値に対応するyの値を演算できることを意味する。
(12)式〜(18)式は、第1点P1(x、y)及び第3点P3(x、y)から描画すべき楕円を表す(18)式を求めたが、同じようにして、第2点P2(x、y)及び第3点P3(x、y)から描画すべき楕円を表す次式、
/{x/cos(sin−1/y)}+y/y=1 −−−(19)
によって求めるようにしても、楕円のすべての点(x、y)を演算することができる。ここで、xy座標の原点を、例えば、第1点P1(x
、y)及び第2点P2(x、y)の中点に決めれば、原点から見た第1点P1(x、y)及び第2点P2(x、y)の位置は互いに対称になるので、(18)式及び(19)式は同じ式になり、結局1つの楕円が演算できることになる。
 このように、1つの座標軸(x軸、y軸)によって定義される座標系において、3つの点P1(x
,y)、P2(x,y)及びP3(x、y)を指定すれば、(18)式又は(19)式によって表される所定の楕円を求めることができ、これに反して、無限に、楕円が発生するというべき条件は、(18)式及び(19)式にはない。
 また、(18)式及び(19)式は、点(x,y)、(x,y)及び(x,y)について、楕円上の位置に関する制限をもたない式であるから、第1点P1(x,y)及び第2点P2(x、y)を、長軸(又は短軸)の両端の位置に設定した場合にも成り立つし、それ以外の位置に設定した場合にも成り立つものである。
イ、本件特許発明中の記載「上記第1点から第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段」について、かかる「演算」手段の具体的構成は何ら記載されておらず、かかる手段は周知のものでもない。従って、「演算」手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えない、との主張に対して

上記ア、で述べたように「演算」手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
ウ、本件特許の明細書第6頁第11欄第29行乃至第32行には、「続いてCPU2は、文字配列軌跡SCR1上に、上述のステップSP24において入力された文字列の各文字を割り付けると共に、割り付けられた各文字の大きさ及び回転角を演算により決定する。」なる記載があるが、かかる「演算」手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもないとの主張に対して
 演算手段の具体的構成は何ら記載されていないとの主張は、コンピュータプログラム程度まで開示せよと言うに等しく、権利者にとってあまりにも酷というべきものである。
 この種のコンピュ−タを用いた制御技術において、割り付け、文字の大きさ及び回転角を順次得ていくことは、技術常識であるから、当業者が、これらの技術常識を用いれば、解を順に得ることができ、従って、各文字の大きさ及び回転角を順に演算できるものであり、これを不明瞭であるということはできない。

エ、本件特許発明中の記載「当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」について、かかる「決定」手段については何ら具体的に記載されておらず、「決定」手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えないとの主張に対して
 上記ウ、で述べたように「演算」手段が不明確であるということはできず、さらに、「決定」手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
オ、本件特許明細書に記載の実施例では弓型に文字列を割り付けた後に、文字間隔補正を行つていることは明確である。しかし、第4図およびそれに対応する明細書第3頁第6欄第22行乃至第29行の記載では、直線的に配列された文字列の文字間隔補正手段についてのみ開示しているが、各文字に回転角が付いた状態である弓形の文字配列軌跡SCR1上に曲線的に割り付けられた文字列についての文字間隔の補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもないとの主張に対して

 本願特許明細書第7頁第13欄第12行〜第14欄第10行に、(d)文字間隔の補正動作として記載されている。
カ、本願特許明細書第7頁第13欄第12行乃至第14欄第10行には、「(d)文字間隔の補正動作・・・にデザインし直されることになる。」と記載されているが、これも同様に、直線上に配列された文字列の文字間隔補正手段についてのみ開示してあり、弓型の文字配列軌跡SCR1上に曲線的に割り付けられた文字列についての文字間隔の補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段は周知のものでもない。よって、上記の本件特許明細書の記載は単なる願望的記載にすぎず、発明の詳細な説明の欄が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成および効果を記載していないとの主張に対して

 第7図は、弓文字列で(SP33)、次の文字が間隔補正必要なとき(SP47)に、次の文字の原点を移動する(SP48)フローチャートであり、第4図を例として文字間隔の補正について述べているものである。してみれば、単に、第4図記載のものを弓文字列に適用しても、文字間隔の補正はできるものであるから、請求人の主張は失当である。
キ、本件特許発明中の記載「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた一つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたときに、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段と」について、弓型に配列された文字列についての間隔補正手段については何ら具体的に記載されておらず、かかる手段が不明確であり、この記載は単なる願望的な記載にすぎず、発明に欠くことのできない事項のみを記載しているとは言えないとの主張に対して

 上記カ、で述べたように弓型に配列された文字列についての間隔補正手段が不明確であるということはできず、したがって、発明に欠くことのできない事項のみを記載していると言える。
<2>特許法第29条第2項の規定により無効であるとの理由について
(審判甲第1号証に記載された発明との対比・判断)
 本件発明と審判甲第1号証に記載された発明とを対比すると、
d、の「テキストラインに含まれるべきキヤラクタはキーによつて選択されまた他の情報がキーによつて制御装置に入力される。」との記載からみて、本件発明の「描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段」が開示され、
g、の「円弧の所望の曲率はデータ入力中にオペレータによりセツトされ、円弧が適合する円を表わす半径の大きさによつて定義される。円弧のセグメントSの長さは第11図に図示されたテキスト長さアルゴリズムにより決定されるテキスト長さ(L)に等しくセツトされる。円弧の張る角度シータ(θ)は円弧長Sを半径Rにより割算することにより決定される。」との記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、何らかのデータを入力する手段」が開示され、

e、の「円弧キー28はオペレータにより入力されたテキストキヤラクタを円弧に沿って配置させる。オペレータは所望の円弧の曲率に関する半径の位を入力することにより所望の円弧の曲率を選択できる。」との記載、j、の「テキストキヤラクタが回転、円弧あるいは半分字体コマンドに基づいて修正された場合には、絶対データはスケーリングアルゴリズム88によって処理される。ここで、コマンドされた高さパラメータ(標準あるいは修正された)及びデータ記憶メモリ40からの他のコマンドされたパラメータは、コマンドに基づいてキヤラクタのサイズを決定(scale)するために位置データを修正する。」との記載、h、の「各キヤラクタについての回転の接線方向の角度はキヤラクタの始端よりもむしろキヤラクタの中心点で決定され、その結果キヤラクタが回転された時にキヤラクタのベースが歪なしに円弧上にある。この回転アルゴリズムは円弧機能アルゴリズムにより計算された接線方向の回転角度にキヤラクタを回転するようにX及びY座標を決定すべく使用される。」との記載、及びj、の「円弧テキスト発生器86は所望の円弧に沿って各テキストキヤラクタを配置するための接線方向の回転角度を決
定する情報を発生するために多数のアルゴリズムを実行する。円弧テキスト発生器は円弧に沿ってレタリングされるべきテキストラインの各キヤラクタに対する接線方向回転角度を自動的に決定し、かつ回転アルゴリズム82により使用されるサインα及びコサインα情報の計算のためにセツト回転情報セツト84にそのキヤラクタについての角度αを与える。各テキストキヤラクタは円弧に沿ってその割当てられたスペースの中心において接線方向に配置される。」との記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段」が開示され、f、の記載からみて、本件発明の「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段」が開示され、c、の記載からみて、本件発明の「版下デザイン装置」が開示されているから、
両者は、描画すべきキヤラクタ列の各キヤラクタデータを入力する手段と、
上記キヤラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、データを入力する手段と、
上記キヤラクタ配列軌跡上に上記キヤラクタ列の各キヤラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キヤラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具えることを特徴とする版下デザイン装置、で一致し、
A本件発明では、上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力するのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力する点、

B本件発明は、上記第1点から上記第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキヤラクタ配列軌跡を演算する手段であるのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、そのような記載が無い点で相違する。
 そこで、相違点Aについて検討すると、本件発明は、クレーム上「上記キヤラクタ列のうち最初のキヤラクタの描画始点を表す第1点の位置と、上記キヤラクタ列のうち最後のキヤラクタの描画終点を表す第2点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力する」と記載されているが、平成8年6月10日付け補正審判審決から、明らかなように、当該部分は、平成7年7月17日付け手続補正書によって、図面第8図の実施例がクレームされたものであるから、この実施例のものが発明に包含されるものである。

 審判甲第1号証記載の発明では、円弧の半径とセグメントSの長さとを入力するから、円弧は特定できる。当該円弧をディスプレイ32上に表示しようとすると、例えば、FIG.10のように、ディスプレイ32の中央に、当該円弧の中心が左右の中心となるように配置されるように表示する。
 このとき、円弧の左端が、本件発明の「第1点の位置」に相当し、円弧の右端が、本件発明の「第2点の位置」に相当し、円弧の中心が、本件発明の「第3点の位置」に相当するものである。
 これに対して、本件発明の円形の場合についてみると、第8図の実施例のP1、P3、P2を通る円弧は、唯一つ特定でき、当該円弧は、当然円弧の半径とセグメントの長さとを有する。
 それゆえ、審判甲第1号証記載の発明と、本件発明の円形の場合とでは、数学的な手法に差異はあるものの、いずれの手法を選択するかは、当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎないから、実質的な差異は認められず、審判甲第1号証には、相違点Aが開示されていると言える。

次に、相違点Bについて検討すると、審判甲第1号証記載の発明では、既に、円弧が定まっているから、あらためて、軌跡を演算する必要が無いに過ぎず、格別の技術的意義があるわけではない。
 したがって、審判甲第1号証記載の事項に基づいて本件発明を推考することは、当業者が容易に為しえたものと認められる。
(審判甲第2、3号証に記載された発明との対比・判断)
 本件発明と審判甲第2、3号証に記載された発明とを対比すると、後者は、被請求人も認めているように、前者の構成の一部である、「上記キヤラクタ列の上記割り付けられた1つのキヤラクタと、次のキヤラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキヤラクタを所定量だけ移動させる手段とを具える」点を有し、その余の構成は有さない。

 そして、審判甲第1〜3号証に記載された発明は、いずれも印刷の分野における文字列を扱う技術に関する点で共通するから、これらに基づいて本件発明を推考することは、当業者が容易に為しえたものと認められる。
(審判甲第4号証に記載された発明との対比・判断)
本件発明と審判甲第4号証に記載された発明とを対比すると、後者は、版下作図機、キーボードによる座標入力、ツメ打ち、文字の円弧配置などが部分的に開示されているだけで、前者の大部分の構成を有さない。
 それゆえ、審判甲第4号証に記載された発明と審判甲第2、3号証に記載された発明とを、どのように組み合わせてみても、本件発明を推考することはできない。
VII.むすび
 以上のとおりであるから、本件特許発明は、審判甲第1号証または審判甲第1〜3号証に記載の事項から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。