◆H14. 9.26 東京高裁 平成13(ネ)6316等 商標権 民事訴訟事件
平成13年(ネ)第6316号、平成14年(ネ)第1980号 商標権侵害に基づく損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成12年(ワ)第15912号) 平成14年7月16日口頭弁論終結
判 決
控訴人(附帯被控訴人・一審原告) 田辺インターナショナル株式会社
(以下「一審原告」と表示)
訴訟代理人弁護士 島 田 康 男
被控訴人(附帯控訴人・一審被告) 株式会社ジェイティービー トラベランドトレーディング
(以下「一審被告」と表示)
訴訟代理人弁護士 三 浦 雅 生
同 山 本 厚
同 古 笛 伴 雄
一審被告補助参加人 株式会社ムース
(以下「補助参加人」と表示)
訴訟代理人弁護士 池 末 彰 郎
主 文
1 一審原告の本件控訴を棄却する。
2 一審被告の本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は一審原告に対し、金25万2162円及びこれに対する平成12年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 一審原告のその余の請求を棄却する。
3 一審被告のその余の附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、第2審を通じてこれを10分し、その9を一審原告の、その余を一審被告の負担とし、補助参加によって生じた費用は一審原告の負担とする。
5 この判決は、2項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 一審原告
(1) 原判決中1、2項部分を次のとおり変更する。
「一審被告は一審原告に対し、金10,216,800円及びこれに対する平成12年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
(2) 訴訟費用は、第1、第2審とも一審被告の負担とする。
(3) この判決は仮に執行することができる。
2 一審被告及び補助参加人
(1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、第2審とも一審原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 一審原告は、一審被告が別紙被告標章目録記載の標章(被告標章)を付したカナダ産メープルシロップ(被告商品)を一審被告の通信販売用カタログ(本件カタログ)に掲載し、販売した行為が原告の有する登録第2377063号商標(本件商標)の商標権(本件商標権)を侵害すると主張し、一審被告に対して商標権侵害による損害賠償を求めた。原判決は、商標権侵害を認め一審原告の損害賠償請求の一部を認容した。
本件商標は、別紙原告商標目録のとおり、円形の背景の中にデザイン化された楓の葉の図形(本件図形)を描き、その下に「Canadian
Maple
Syrup」、「カナディアン メープル シロップ」の文字を横書き上下2段に配した構成であり、被告商品に使用された被告標章は、円形の背景の中に本件図形を描き、本件図形の中央部やや下寄りに「Canadian
Maple
Syrup」の文字を表した構成である。被告商品は、一審原告と以前取引関係にあったカナダのターキーヒルシュガーブッシュ社(以下「ターキー社」という。)が製造したもので、これを、補助参加人又は訴外有限会社ア(以下「ア社」という。)が輸入して一審被告に販売し、一審被告が「海外宅配便・おみやげおまかせ」と称するカタログ通信販売の方法により顧客に販売している(平成8年度中の販売分は補助参加人から、平成11年度中の販売分はア社から納品された。)。
2
本件において前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により明らかに認められる事実)並びに争点及び主張は、当審における当事者の主張を次の3のとおり補充、付加するほか、原判決事実及び理由欄の「第2 事案の概要」の1及び2(原判決2頁11行〜10頁10行)記載のとおりである。
なお、原判決中の「被告標章」、「被告商品」の語は本判決でもそのまま用いる。
3 当審における当事者の主張の要点
【一審原告】
(1) 被告標章を付した被告商品の販売数量について
ア 被告商品の平成11年度における取扱数量
原判決は、一審被告が販売した被告標章を付した被告製品の数量を、平成8年4月から翌年3月までの期間について7821セット(単価2800円、売上高2189万8800円)、平成11年4月以降の期間について873セット(販売期間平成11年4月から5月まで。単価3800円、売上高331万7400円)と認定し、これに基づいて損害額を算定したが、平成11年度(平成11年4月から翌年3月末まで)については、6746セットが損害算定の基礎とされるべきである。すなわち、被告標章を付した被告製品を掲載したカタログ(本件カタログ)は、平成12年3月まで完全に回収されることなく一審被告の代理店の店頭に置かれて、通信販売に使用されており、上記6746セットは、その期間における取扱い数量である。一審被告は、平成11年6月以降に販売された被告商品については被告標章を除去したと主張するが、通信販売においては購入者はカタログを見て商品を購入するのであるから、購入者に送付される商品から本件商標を付したラベルが除去されても、そのことによって商標権侵害による責任に消長をきたすものではない。
イ ア社との共同不法行為に基づく損害賠償責任
ア社は、一審被告との間の契約に基づき、被告標章を付した被告商品をカナダから輸入し、その全量(少なくとも6746セット)を平成11年度中に一審被告に納品した。ア社の輸入行為は商標権侵害に当たる。一審被告は、ア社をして被告商品を輸入せしめ、これを販売したのであるから、ア社と共同して本件商標権を侵害したものとして、上記輸入数量(6476セット)について商標権侵害による損害賠償義務がある。
(2) 商標法38条1項の解釈適用について
原判決の説示「諸般の事情を総合的に勘案すると、一審被告の本件商標権侵害がなければ一審原告が自己の商品を販売することができたという関係はそもそも存在しないというべきであるから、商標法38条1項によって一審原告の損害を算定することとは相当とはいえない。」は、実質上、損害賠償における因果関係の立証を権利者に要求しているに等しく、商標法38条1項の解釈適用を誤ったものである。本件においては、侵害品の「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情」は存在しない。したがって、侵害品の全数量(平成8年4月から同9年3月までの販売数量7,821セット及び平成11年4月から同12年3月末までの取扱数量6,747セット)について、商標法38条1項による損害の算定をすべきである。
【一審被告】
(1) 権利濫用
一審原告は、自身が日本で本件商標の登録手続を進めていること(昭和63年3月4日出願)を秘して、ターキー社が日本及び他の国に輸出する全商品について本件図形標章を使用することをターキー社に提案した。一審原告は、ターキー社が上記提案を受けて、本件図形標章をターキー社の商標として使用すべく、カナダにおいて商標登録も試みることを了承していた。一審原告は、本件図形標章の使用をターキー社に提案した後である平成4年2月28日に本件商標が一審原告の商標として日本で登録されたにもかかわらず、これをターキー社に通知しなかった。また、ターキー社との取引が平成11年に終了した際にも、ターキー社の商標として使用させてきた本件図形標章の取扱いについて、ターキー社と何ら協議せず、本件商標が日本で商標登録されている事実をターキー社に知らせることもしなかった。一審原告は、ターキー社が本件図形標章を付した商品を補助参加人や一審被告を通じて販売していることを認識しながら、これに対して何らの警告も発することなく、むしろ意図的に放置して侵害実績を拡大させた。
以上のような事情の下での一審原告の請求は、権利行使に当たっての信義・誠実義務に反するものであり、権利濫用というべきである。
(2) 無過失
商標権侵害について一審被告に予見可能性がなかったとする特段の事情があるとはいえないとした原判決は、流通の実態を全く無視したものである。一審被告のように膨大な数の商品を取り扱う末端の小売業者にとって、取扱商品全品の権利抵触関係を調査することなどは現実には不可能である。本件商標権の侵害について、一審被告には過失がない。
(3) 商標法38条3項の使用料相当額
本件商標は、全く市場認知度を有していない。本件商標は、カナダの国旗の楓の葉に似せたデザインであり、同種製品にも同じような楓の葉のラベルデザインが使用されているから、他との識別機能は無に等しい。一審被告が被告商品から被告標章を除去した後も売上状況には何ら変化がない。被告商品の販売は、専ら海外土産品を予め購入するという特徴的な販売コンセプト、JTBのブランド力、全国3000店舗を擁する販売力によって支えられている。一審被告の販売は全てカタログ販売であり、しかもそのカタログ上、被告標章はほとんど視認することができない。つまり、被告標章が付されていることは被告商品の販売に何ら貢献していないのであり、これらの事情を考え合わせると、原審認定の使用料相当額(売上高の5%)は高すぎる。
第3
当裁判所の判断
1 商標権侵害の成否、権利濫用の有無、真正商品の並行輸入の主張の可否及び一審被告の過失の有無
当裁判所の判断も原判決と同一であるから、原判決事実及び理由欄「第3 当裁判所の判断」の「1 本件商標と被告標章との類否及び商標権侵害の成否について」、「2 権利濫用の有無について」、「3 真正商品の並行輸入の主張の可否について」及び「4 被告の過失の有無について」の項(10頁12行から14頁16行)の記載を引用する。
なお、ターキー社が被告標章を使用してきた経緯等について、原判決摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決事実及び理由欄「第3 当裁判所の判断」の「2 権利濫用の有無について」の(1)イ及びウ(12頁14行から13頁5行)に記載のとおりの事実を認めることができる。これらの事実は、商標法38条3項により本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額を算定するに当たって、考慮するのが相当である。
2 損害額
(1) 商標法38条1項及び2項による損害算定の可否
当裁判所も原判決と同様に、本件においては、商標法38条1項により一審原告の損害を算定することも、同条2項により一審被告の利益を一審原告の損害と推定することも、相当ではないと判断するものである。
ア 商標法38条1項は、侵害者の譲渡した商品の数量に、商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた商品の単位当たり利益の額を乗じて得た額を、商標権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、商標権者の受けた損害の額とすることができる旨規定している。この規定は、平成10年の商標法改正(平成11年1月1日施行)により新設されたもので、その趣旨は、商標権を侵害する商品が販売されることによって商標権者の商品の販売が減少するという関係(侵害商標を付した商品が販売されていなければ、需要が商標権利者の商品に向けられたであろうという、市場における代替関係)を認め得る事情が存在する場合であっても、商標権を侵害する商品の販売によって減少した商標権者の販売数量を立証することが実際には困難であることに鑑み、その立証の困難を救済することにあると解される。このような規定の趣旨からすれば、商標法38条1項による損害の算定をするためには、侵害商標を付した商品と商標権に係る商標を付した商標権者の商品との間において、市場における代替関係が存在することが前提となるというべきであり、「その侵害行為がなければ商標権者が自己の商品を販売することができた」という関係が存在しない場合にまで同条1項による損害算定をすることは相当ではない。
ところで、商標権は、商標それ自体に当然に商品価値が存在するのではなく、商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付くことによってはじめて一定の価値が生ずるという性質を有する。「その侵害行為がなければ商標権者が自己の商品を販売することができた」という関係は、商標権者の商標に何らかの顧客吸引力があることを前提としてはじめて成り立つことといわねばならず、この点を抜きにして侵害商標を付した商品と商標権者の商品との間に当然に代替関係が成立するということはできない。また、侵害商標を付した商品と商標権者の商品とでは、商品自体の性能や効用等が異なる場合もあり得るのであり、そのような場合にも侵害商標を付した製品が販売されていなければ需要が商標権者の商品に向けられ、商標権者の商品が購入されたという関係が当然に成り立つということはできない。
そうすると、商標法38条1項所定の「商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた」か否かについては、商標権者が侵害商標を付した商品と同一の商品を販売(第三者に実施させる場合を含む。以下同じ。)しているか否か、販売している場合、その販売の態様はどのようなものであったか、当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
イ そこで、上記観点から検討するに、一審原告の営業状況及び一審被告による被告商品の販売状況は、原判決摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決事実及び理由欄の第3の5、(1)イ(原判決15頁17行から16頁末行)のとおりと認められる。これらの状況に照らすと、原判決説示のとおり(同ウ、原判決17頁1行から21行)、一審被告の本件商標権侵害がなければ、一審原告が自己の商品を販売することができたという関係はそもそも存在しないというべきである。
したがって、本件において、商標法38条1項によって一審原告の損害を算定することは相当とはいえない。また、同様の理由から、侵害の行為により侵害者が得た利益の額を、侵害によって権利者が商品を販売し得なかったことによって蒙った損害(喪失利益)の額と推定する旨定めた同法38条2項によって、一審原告の損害を算定することも相当とはいえない。
(2) 商標法38条3項による損害の算定
商法法38条3項の規定により、本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額(使用料相当額)を算定する。
ア 被告標章を付した被告商品の売上高
被告標章を付した被告商品の売上高が、平成8年4月から同9年3月までの期間については2189万8800円(7821セット、1セット当たり2800円)、平成11年4月から5月の期間については331万7400円(873セット、1セット当たり3800円)であり、その合計が2521万6200円であるとした原判決の認定は、証拠に照らして正当と認められる。
一審原告は、平成11年度については、平成11年4月から同12年3月末までの取扱数量6746セットに1セット当たり3800円を乗じた2563万8600円が使用料相当額の算定基礎とされるべき売上高であると主張するが、平成11年6月以降に被告標章を付した被告商品が販売されたことを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は採用することができない。
なお、証拠(甲53の1ないし18、54の1ないし18)によれば、被告標章を付した被告商品を掲載した一審被告の本件カタログの一部が、回収されないまま一部の代理店で平成12年3月ころまで使用されていたことがうかがわれるが、カタログに被告標章を付した被告商品の写真(当該写真からは本件図形標章の特徴をほとんど看取することができない。)が掲載されていたというだけでは、使用料相当額の損害が発生したということはできない。
また、一審原告は、ア社の輸入行為について一審被告は共同不法行為者として損害賠償責任を負うと主張するが、上記輸入行為自体から損害が発生したと認めることはできないから、この点に関する一審原告の主張は採用することができない。
イ 使用料相当額について
(ア) 本件商標は、円形の背景の中にデザイン化した楓の葉を描いた図形部
分と、その下にアルファベットの「Canadian
Maple Syrup
」及び片仮名の「カナディアン メープル シロップ」の文字を横書き上下2段に配した文字部分とから構成されており、その要部ないし特徴的部分は、楓の葉の図形(本件図形)であると認められる。本件図形は、一般によく知られたカナダ国旗の「メープルリーフ」をやや変形して葉先や葉柄部分にわずかな丸みをつけ、葉の中心に向かって斜方向に順次交互に直交する直線を表したものであって、そこにデザイン的な工夫の跡は見られるものの、全体としてみると、カナダ国旗の「メープルリーフ」との印象を強く与えるものである。そして、カナダ産からの輸入品であることを宣伝してなされる商品の販売や催し物について、しばしば「メープルリーフ」又はこれをイメージさせる図形が使用されることは当裁判所に顕著な事実である。そうすると、本件商標は、カナダ産のメープルシロップであることを示す文字部分と相俟って、特定の商品主体の商品であることを需要者に認識させるものというよりは、むしろカナダの産品であることを強く印象づけるものにすぎず、メープルシロップがカナダの一般的な特産品であることも合わせ考えると、商標自体の自他商品識別力(出所識別力)は低いものといわざるを得ない。
(イ) 一審原告がその商品に本件図形からなる標章(本件図形標章)を使用した状況は、原判決摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決事実及び理由欄欄の第3の5(1)イ(ア)に摘示のとおりと認められる。
すなわち、一審原告は、本件図形標章を一審原告のパンフレットや価格表に用いたことがあるものの、雑誌等の広告媒体やカタログには、単に本件図形標章を付した容器に入ったメープルシロップ類の商品写真が掲載されているだけで、本件図形標章と原告の名称とを関連付けて掲げた例は少ないことが認められ、これらのことから判断するに、需要者及び取引者の間における本件図形標章の認知度は、さほど高いものではなかったことが推認される。
(ウ) 一審被告による被告標章の使用状況等
一審被告による被告標章の使用状況及び被告商品の販売態様は、原判決摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決事実及び理由欄の第3、5(1)イ(イ)に認定されたとおりと認められる。すなわち、一審被告は、大手旅行会社(JTB)のグループ企業であり、主として同旅行会社が主催する海外旅行の参加者向けに「海外おみやげ宅配便・おみやげおまかせ」の名称でカタログによる通信販売事業を営んでいる。その通信販売の方法は、一審被告の代理店等に各種土産品を掲載した本件カタログを備え付けておき、海外旅行に出発する旅行者から、予め本件カタログに基づいて土産品の注文を受け、旅行者の帰国と同時に、これを自宅又は指定先に配送するというものである。
本件カタログの平成8年度版及び平成11年度版(ただし、改訂前のもの)には、被告標章を付した被告商品の写真が掲載されているが(甲3の1ないし3、甲4の1ないし3、甲6の1)、それらの写真からは、かろうじて「メープルリーフ」の形を判別することができるものの、楓の葉先や葉柄部分に丸みをつけ、葉の中心に向かって斜方向に順次交互に直交する直線を表した本件図形の特徴は看取することができない。
(エ) 被告標章の使用の経緯、被告商品の売上動向等
被告商品のラベルに本件図形標章が使用されてきた経緯は、原判決摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決事実及び理由欄の第3の2(1)(原判決12頁14行から13頁5行)記載のとおりと認められる。すなわち、ターキー社は、昭和63年にターキー社との間で代理店契約を締結してターキー社製のメープルシロップの輸入販売をするようになった一審原告の要請により、同社が日本に輸出する商品(後には日本以外に販売する商品についても)に本件図形標章を用いたラベルを付するようになったが、一審原告が本件商標について日本で昭和63年3月4日に商標登録出願をし、平成4年2月28日に登録を取得した事実については知らされていなかった。その後、ターキー社と一審原告との間の代理店契約が解除され、平成8年3月の出荷を最後に両社間の取引はなくなった。その際、本件図形標章の使用に関しては、何ら取り決めがされず、ターキー社は、一審原告との取引関係解消後も本件図形標章の使用を継続した。
さらに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、ターキー社は平成11年5月にア社からの照会を受けてはじめて本件図形標章の使用について一審原告が商標権侵害を主張していることを知ったこと、一審被告は商標権侵害侵害のクレームを受けた後直ちに被告商品から被告標章を全て除去し、被告標章の使用を中止したこと、被告商品から被告標章を除去して販売するようになった後も被告商品の売れ行きに変化はないことが認められる。
(オ) 以上認定の事実を総合して判断すると、商品の販売に対する本件図形標章の貢献は僅少なものにとどまるというべきであり、これに相応して本件商標の持つ経済価値も低いと認めるのが相当である。そして、カタログに基づいて注文される被告商品について、被告標章がカタログに掲載された被告商品の写真中に必ずしも判然としない態様で表れているにすぎないこと等の事情を考慮すると、被告商品の販売に対する被告標章の貢献度は、極めて小さいといってよい。さらに、本件においては、本件図形標章の自他商品識別力(出所識別力)及び需要者における認知度から推して、本件商標について使用許諾を求める需要があるとは考え難く(このことは、商標権侵害問題の発生後、ターキー社及び一審被告が直ちに本件図形標章の使用を中止したこと、使用中止後も被告商品の売れ行きに変化がないことからも推認される。)、本件商標についてのライセンス可能性が一審被告の侵害行為によって害されたことを認めるべき事情もない。
以上の諸点と併せて先に認定した商標使用の経緯その他一切の事情を勘案するとき、本件商標についての使用料相当額は、被告商品の販売額の1パーセントと認めるのが相当である。
したがって、一審原告の蒙った使用料相当額の損害は、アで認定した被告商品の売上高合計2521万6200円に1パーセントを乗じて得た額25万2162円ということになる。
3 結語
よって、一審原告の請求は、一審被告に対し25万2162円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月23日から支払済みまでの遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。よって、一審原告の本件控訴についてはこれを棄却し、一審被告の本件附帯控訴は一部理由があるから、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第18民事部
裁判長裁判官 永 井 紀 昭
裁判官 塩 月 秀 平
裁判官 古 城 春 実