H15.10.16 東京高裁 平成13(行ケ)356 特許権 行政訴訟事件

平成13年(行ケ)第356号 審決取消請求事件
平成15年10月16日判決言渡,平成15年10月2日口頭弁論終結


     判    決
 当事者の表示  別紙当事者目録記載のとおり


     主    文
 特許庁が平成10年審判第35199号事件について平成13年6月28日にした審決のうち,被告有限会社オプトピア大越の無効審判請求に係る部分を取り消す。
 原告らのその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は,原告らに生じた費用の16分の1と被告有限会社オプトピア大越に生じた費用を同被告の負担とし,原告らに生じたその余の費用とその余の被告らに生じた費用を原告らの負担とする。


     事実及び理由
第1 原告らの求めた裁判
 「特許庁が平成10年審判第35199号事件について平成13年6月28日にした審決を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告らが,無効審判において,本件特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
 1 前提となる事実等
 (1) 手続の経緯
 (1-1) 本件特許
 特許権者:原告ら(原告株式会社長井の旧商号は「株式会社長井芯張工業所」)
 発明の名称:「メガネフレーム用モダンの製造方法」
 特許出願日:平成元年7月8日(特願平1−176706号)
 設定登録日:平成10年1月9日
 特許番号:第2733538号
 (1-2) 第1次無効審判(平成10年審判第35199号事件)
 無効審判請求人:別紙当事者目録において〔No1〕ないし〔No16〕と付記した16名の被告。
 無効審判請求日:平成10年5月8日(平成10年審判第35199号)
 審決日:平成11年7月7日

 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成11年8月20日(請求人ら)
 (1-3) 第1次審決取消訴訟(東京高裁平成11年(行ケ)第300号事件)
 原告:上記請求人16名のうち,有限会社オプトピア大越〔No16〕(以下「オプトピア大越」という。)を除く15名。
 被告:特許権者(本件原告ら)
 判決日:平成12年10月23日
 主文:「特許庁が平成10年審判第35199号事件について平成11年7月7日にした審決を取り消す。」
 上告及び上告受理申立て:平成12年11月10日
 結果:上告棄却,不受理(平成13年3月23日書留郵便に付する送達の方法により告知)
 (1-4) 本件無効審判手続(再開後の平成10年審判第35199号事件)
 審決日:平成13年6月28日
 審決で請求人と表示された者:上記〔No1〕ないし〔No16〕の16名。

 審決の結論:「特許第2733538号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」
 審決謄本送達日:平成13年7月10日(特許権者,本件原告ら)
 (1-5) 本訴係属中に下記のとおり訂正審判手続がされた。
 訂正審判請求人:本件原告ら
 審判請求日:平成13年10月26日(訂正2001−39195号)
 審決日:平成14年3月26日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成14年4月5日(本件原告ら)
 審決取消訴訟提起:平成14年4月18日(東京高裁平成14年(行ケ)第186号事件)
 判決期日:平成15年10月16日(本判決と同日)
 (2) 本件発明の要旨
【請求項1】メガネフレームのツル先端に挿着されるモダンの製造方法において,所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットし,該金型の開口から加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜き,ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形することを特徴とするメガネフレーム用モダンの製造方法。

 (3) 審決の理由
 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。要するに,本件発明は,引用例1(特開昭49−122352号公報,審判甲1,本訴甲5−1),引用例2(特公昭50−28181号公報,審判甲2,本訴甲5−2)及び周知技術に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。


 2 原告らの主張(審決取消事由)の要点(被告オプトピア大越を除く被告らに対して)
 (1) 取消事由1(「金型の開口」と「通孔2b」が相違することの看過)
 審決は,本件発明の「金型の開口」が引用例1記載の発明(引用発明1)の「通孔2b」に相当するとした。しかし,「通孔2b」は,分割される湯口型2と下方に動く摺合せ弁3の総合的な動きによって得られるものであるのに対し,本件発明の「金型の開口」は,単純な金型の開口部である点が相違する。
 (2) 取消事由2(「モダン」と「蔓先片T」が相違することの看過)
 審決は,本件発明の「モダン」が引用発明1の「蔓先片T」に相当するとした。しかし,刊行物1記載の製造方法では,蔓先片の根本部分に湯道(2a)の型が瘤のように残り,金型1を開いても完成品は得られず,「斯く成型された半製品の根本不要部分を切断及び切断部研磨を行うことで」完成品の「蔓先片T」となるものであるのに対し,本件発明では,金型を開けば直ちに完成したモダン(蔓先片T)が得られる点で相違する。

 (3) 取消事由3(相違点Aに関する推考容易性判断の誤り)
 審決は,相違点Aとして,「本件請求項1に係る発明では,所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットしたのに対して,引用例1に記載された発明では,湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入した点」と認定した上,その判断として,「引用例2には,あらかじめ加熱されたプラスチック・テンプル7を固定下型8と可動上型9との間に載置する旨の記載があり,プラスチック・テンプル7は,何等かの手段で製作されるから,相違点Aの構成は,引用例2に開示されている。そして,引用例1及び引用例2は,同一技術分野に属するものであるから,引用例1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型孔(1a)内の充填物に換えて,引用例2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは,当業者なら容易に推考できたものと認められる。」と説示した。

 しかし,上記判断は,引用発明1に係る「成形」技術と引用例2に記載の発明(引用発明2)に係る「加工」技術とを混同するものである。引用発明1及び2が仮に同一技術分野に属するとしても,両者の技術内容は全く別異である。プラスチック成形技術における「成形」とは,「合成樹脂成形材料に熱及び圧力を加えて軟化あるいは溶融流動化させ,金型やダイなどによって,所望の形状にする操作。通常,金型を用いる圧縮成形,トランスファ成形,射出成形,ブロー成形などの成形を言う」と定義される(甲3,「図解プラスチック用語辞典」第2版,日刊工業新聞社発行)。つまり,「成形」とは,樹脂製品としての「形」を整えること,樹脂製品としてそれ自体完成された状態を生み出すことといえる。本件発明の特徴は,「挿着孔の内面の成形」に存する。そして,こうした「成形」に基づかない塑性変形,機械加工等は,プラスチック技術における「加工」と呼ばれる。このことは,当業者間において周知のところである。こうした加工の一例として,引用例2ないし4に係る芯金を挿入するシューティング加工(塑性変形を利用した樹脂製品の形の成形に関係のない加工)がある。このような加工技術は,樹脂成形における製品の「成形」とは全く別異の技術であり,「成形技術」ではない。
 引用発明2に係るシューティング加工は,芯金の埋め込みを目的としている(引き抜きを予定していない)ものであって,あくまでも「加工」である。ここには,金型にセットされる「プラスチック製材料」に対して,所定温度による塑性変形に基づく「孔の内面成形」を行うとの技術認識は全く存在しない。
 引用発明1の「射出成形」の金型内に,引用発明2の「シューティング加工によるプラスチック製材料をセットする」との審決の仮定は,プラスチック成形技術においては,「孔の内面を成形するとの究極目的」に照らしてみると,当業者であれば「発想し得ない」仮定といえる。つまり,「射出成形」の金型内に,「プラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施したもの」すなわち既に形を成している成形済みの材料をセットする意味は全くないからである。

 そうすると,「引用例1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型穴内の充填物に換えて,引用例2に開示されたプラスチック・テンプルを適用することは,当業者なら容易に推考できたものと認められる」との認定判断は,誤っている。
 (4) 取消事由4(相違点Bに関する推考容易性判断の誤り)
 審決は,相違点Bとして,「本件請求項1に係る発明では,該金型の開口から,加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き(注:引き抜きの誤記),ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形するのに対して,引用例1に記載された発明では通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く点」と認定した上,その判断として,「加熱された工具は,従来周知(例えば,上記引用例2,上記引用例3,上記引用例4等を参照)の技術手段に過ぎない。」と説示した。

 しかし,引用発明1の「射出成形」は,熱可塑性の熔融樹脂を金型に注入するものであるから,既に柔らかい樹脂素材に,圧入する工具を加熱する技術を付加転用することは,必要のない技術手段を敢えて転用しようとするもので,論理的に矛盾をきたすものである。
 引用発明1におけるように「熱可塑性熔融樹脂を注入して形成した型穴内の充填樹脂」に工具を圧入し,その後これを引き抜くことによって挿着孔を形成する場合も,本件発明におけるように「プラスチック製板材又は棒材を切断等して形成したモダン」を一定温度に加熱して金型にセットし,このモダンに対して工具を圧入し,その後これを引き抜くことによって挿着孔を形成する場合も,工具の挿入によって樹脂組織が破壊される。
 射出成形法による場合は,圧入によって樹脂組織がいったん破壊されるも,型穴内の充填樹脂が熔融状態にあるため,工具が加熱されていなくても,工具に接する挿着孔の内面の樹脂組織が元の状態に戻る傾向がある。そのため,形成された挿着孔の内面は荒れた状態とはならない。これに対して,プラスチック製板材又は棒材を切断等して形成されたモダンは,これを一定温度に加熱して金型にセットするため,そのセット作業が可能であるためには,モダンの形態が保持されなければならないので,射出成形法におけるような熔融状態ではセットできないことになる。仮に,金型にセットされた後にモダンの温度を熔融状態にしたとすれば,プラスチック製板材又は棒材を用いるからこそ得られている材質特有の色彩や模様が崩れてしまい,目的とする孔あきモダンを製造できないことになる。また,熔融状態にまで温度を上げると,熔融により,モダンがアワを吹いた状態になってしまい,モダンが変質してしまう。このようなことから,破壊された樹脂組織を元に戻す目的で,金型にセットされるモダンの温度を,射出成形法におけるような熔融温度にまで上げることは全く禁止なのであり,それよりも低い温度に設定せざるを得ない。
 本件発明の構成上のポイントは,「このような,温度の低い金型内のモダンに対しても,工具の圧入によりいったんは破壊された樹脂組織をいかにして元の状態に戻すか」にある。そこで,本件発明は,金型にセットされるモダンの温度を極端に上げることなく,「工具の圧入によって破壊された挿着孔内面の樹脂組織を元の状態に戻して,該挿着孔の内周面を仕上げる」手段として,「加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜き,ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形する」構成を採用しているのである。
 以上のように,引用発明2の工具加熱の技術手段を引用発明1の「射出成形」に転用できるとすることは,論理的に矛盾をきたすものである。
 したがって,本件発明が引用例1,引用例2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に推考できたものであるとした判断には,誤りがある。


 3 被告ら(被告オプトピア大越を除く。)の主張の要点
 (1) 取消事由1(「金型の開口」と「通孔2b」が相違することの看過)に対して
 原告らのいう引用例1記載の金型本体(1)における通孔(2a)外端面に摺動自在に設けられた摺合せ弁(3)は,湯道(2a)から注入された熔融樹脂が注入時に通孔(2)から流出しないように一時的に当該通孔を塞いでおくためのものであって,半熔融樹脂の状態になったとき「摺合せ弁(3)を逆に摺動させて通孔(2b)を開口し次に開口を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引く抜くようにする」のであり,この引用例1記載の公知技術における通孔(2b)は本件発明における「金型の開口12」と機能的に変わりがない。ちなみに,本件発明の金型5における開口12の構成は,当該技術分野において周知慣用の技術である。

 (2) 取消事由2(「モダン」と「蔓先片T」が相違することの看過)に対して
 本件発明の方法による場合でも,得られるモダン1には上型9と下型10との合せ面に沿って必然的に線状のバリ(flash)が生ずる。モダン外形形状に製作されたモダン素型を金型(9,10)のキャビティ内にセットする際に加熱されるから当然のことであり,本件発明の方法により得られたモダンも半製品であって,金型(9,10)から取り出した後に,バリ取り,バフ研磨,バレル研磨等の仕上げ加工は必要である。
 射出成形法でモダン外形形状の製品を成形する際にゲート(湯道)部分に瘤状のバリができることは常識であり,審決は,射出成形法を利用した引用例1の公知技術と本件発明との当然の差異を前提とした上で認定したものであって,結論に影響を及ぼすような重大な事実の見落としはなく,原告らの主張は失当である。

 (3) 取消事由3(相違点Aに関する推考容易性判断の誤り)に対して
 本件発明の明細書(甲1)において,「成形」という用語と「加工」という用語は,厳密に使い分けられておらず,本件発明の構成を解釈する際に「成形」と「加工」とを区別して論ずる必要は全くない。
 審決の相違点Aに関する判断は,前記第1次審決取消訴訟の東京高裁判決の趣旨に忠実に従ったものであり,適法である。
 (4) 取消事由4(相違点Bに関する推考容易性判断の誤り)に対して
 審決は,相違点Bに関して,引用発明1が加熱した芯型(4)を型穴(1a)内に挿入しているとは認定しておらず,単に,「通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く」と認定しているのにすぎないのであって,原告らの主張は的外れである。

 審決は,本件発明と引用発明1との間に,相違点Bがあることを認めた上で,相違点Bがあっても,加熱された工具を使用することは,例えば引用例2,引用例3,引用例4等にも記載があるとおり,周知技術であることから,当業者が容易に推考できたものであると判断したのである。
 審決の相違点Bに関する判断は,前記第1次審決取消訴訟の東京高裁判決の趣旨に適合したものであり,適法である。


 4 被告オプトピア大越の申立てと主張
 同被告は,弁論準備手続期日と口頭弁論期日のいずれにも出頭しなかったが,その提出に係る,陳述したものとみなされた答弁書において,同被告は,請求棄却の申立てをし,かつ,原告ら主張の主要部分(審決の法令適用の誤りの存在)を争うとともに,原告らと同被告との間に和解が成立しているとして,本訴は失当である旨主張した。


第3 当裁判所の判断
 1 被告オプトピア大越に関する審決の手続上の問題について
 職権により判断するに,以下の理由により,審決のうち,被告オプトピア大越の無効審判請求に係る部分は,取消しを免れない。
 本件に関する手続の経緯は,前記第2,1(1)に判示したとおりである。すなわち,第1次無効審判(平成10年審判第35199号事件)は,別紙当事者目録において〔No1〕ないし〔No16〕と付記した16名が共同して請求したものであり,これに対して,無効審判請求不成立の審決がされた。この審決に対し,審決取消訴訟(第1次)を提起したのは,上記請求人16名のうち,オプトピア大越〔No16〕を除く15名のみであり,オプトピア大越〔No16〕が審決取消訴訟を提起していないことは,関係記録上明らかである。
 以上の事実によれば,オプトピア大越〔No16〕との関係では,上記不成立の審決が確定したものというべきである。

 その後,オプトピア大越〔No16〕を除く上記15名が原告となった審決取消訴訟(第1次)において,上記審決を取り消す旨の判決がされて確定し,本件無効審判手続(平成10年審判第35199号事件)が再開されることとなった。
 しかし,以上の経緯に照らせば,既に確定しているオプトピア大越〔No16〕の無効審判請求の審理が再開されるものではなく,上記審決取消訴訟で原告となった上記15名の無効審判請求のみが再開されるものと解すべきである。
 そうすると,再開後の本件審決において,オプトピア大越〔No16〕を請求人とし,その無効審判請求について判断することはできず,これをした審決には結論に影響する手続上の違法があるというべきである。
 よって,審決のうち,オプトピア大越を請求人とする無効審判請求について判断した部分は,取消しを免れない(本判決による取消部分に関するオプトピア大越の無効審判請求は,もはや特許庁において審理判断すべき対象でないのであるから,本判決後において,特許庁が上記取消部分についてなすべき審判手続は存在しない。)。なお,被告オプトピア大越の前掲主張は,上記のように,本件紛争は解決済みであるとの趣旨であると解されるものであるが,本訴を棄却すべきものとする主張は採用の限りではない。


 2 原告ら主張の審決取消事由(被告オプトピア大越を除く15名の被告らとの関係におけるもの)について
 (1) 前記第1次審決取消訴訟(東京高裁平成11年(行ケ)第300号事件)における平成12年10月23日に言い渡された判決の概要は,以下のとおりである。
 すなわち,判決は,本件発明と引用発明1(特開昭49−122353号公報に記載の発明)とを対比した場合の相違点が@「本件発明が『所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセット』するのに対し,引用発明1が『1対の金型のキャビティ内に湯道を通して溶融した樹脂を注入してモダン外形を成形』する点」,及びA「本件発明が『金型の開口から加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜き,モダンに挿着孔を成形する』のに対し,引用発明1が『注入された溶融樹脂が冷却硬化する前に金型の開口から加熱していない工具を圧入し,金型内の樹脂が冷却硬化した後,工具を引き抜き,モダンに挿着孔を成形する』点」であることを前提として,相違点@については,引用発明1の相違点@に係る構成に代えて,引用例2(特公昭50−28181号公報)の構成を適用することは,当業者にとって容易であり,その適用した結果が,相違点@に係る本件発明の構成となること,相違点Aについては,引用発明1に周知技術(引用例2,3,5等に記載)を適用することにより,当業者が容易になし得たものであるとして,これに反する認定判断をした審決を取り消したものである。
 そして,本件における本件発明の要旨並びに引用例1及び2を含む各引用例は,上記判決におけるものと同一であること,判断の前提とされた相違点の内容についても,表現に若干の違いはあるものの,実質的に同じものであること,さらに,再開後の審決(本訴における判断対象)は,上記判決の拘束力に従って認定判断したものであることが認められる(甲2,5−1ないし5,乙1)。
 したがって,本訴において,第1次審決取消訴訟の判決と全く同じ引用例に基づく容易推考性の判断を争う原告らの主張は,原則として,失当であるというべきである(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。

 もっとも,原告らの本件主張中には,相違点の認定自体に関するものなど,第1次審決取消訴訟の判決で明示的に認定判断が示されなかった点に関する主張もあるので,以下,念のため,当裁判所の判断を示しておく。
 (2) 取消事由1(「金型の開口」と「通孔2b」が相違することの看過)について
 審決は,本件発明の「金型の開口」が引用発明1の「通孔2b」に相当すると認定したものである。
 原告らの指摘するように,引用発明1の摺合せ弁(3)は,湯道(2a)から注入された熔融樹脂が注入時に通孔(2)から流出しないように一時的に当該通孔を塞いでおくためのものであるとしても,引用発明1においては,半熔融樹脂の状態になった時以降において,摺合せ弁(3)を逆に摺動させて通孔(2b)を開口し,次に,通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し,冷却硬化させた後引き抜くようにするものであるから(甲5−1),本件発明において,「金型の開口」が,加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後に,該工具を引き抜くために用いられている点において,「通孔2b」と「金型の開口」とを機能的に同じものと認識することは妥当である。

 よって,本件発明の「金型の開口」が引用発明1の「通孔2b」に相当すると認め,両者を相違点として認定しなかった審決に誤りがあるとはいえない。
 (3) 取消事由2(「モダン」と「蔓先片T」が相違することの看過)について
 審決は,「請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明とを対比すると,前者の…『モダン』…は,夫々後者の…『蔓先片T』…に相当するから,両者は,メガネフレームのツルの先端に挿着されるモダンの製造方法で一致し,」と説示しているように,「メガネフレームの蔓(ツル)の先端に挿着されるモダン」として,本件発明の「モダン」が引用発明1の「蔓先片T」に相当するものであると認定した趣旨であることが明らかである。審決は,その上で,本件発明においては,あらかじめ製作されたモダンを用いるのに対して,引用発明1では,モダンを成形する際に挿着孔を形成するものであるとの点における差異は,相違点Aとして認定し,推考容易性を判断しているものと解される。これらに照らせば,本件発明の「モダン」が引用発明1の「蔓先片T」に相当するとした審決の認定に誤りがあるとはいえない。

 (4) 取消事由3(相違点Aに関する推考容易性判断の誤り)について
 (4-1) 引用例2(甲5−2)においては,「このような状態で芯金がプラスチック・テンプルに入る圧力に伴ってテンプルの表面には幾分はみ出したふくらみが生じるので,プラスチック・テンプルに完全に芯金を挿入し終ると新たに第二段シリンダーの強い力で押さえ上記ふくらみを直して,再整形することができるようにする。」(3欄19〜25行)と記載されている。これによれば,プラスチック・テンプルは,いったん成形された後に用いられていることが前提となっているものと解される。したがって,刊行物2においては,プラスチック・テンプル7に芯金1を挿着する目的で,固定下型8と可動上型9の間に形成された空間に,あらかじめ「成形」されたプラスチック・テンプル7をセットしていることが明らかである。

 そして,引用発明1のモダンを挿着した蔓(ツル)と引用発明2のプラスチック・テンプルとは,いずれも眼鏡用の耳掛部である点で共通し,引用発明1と引用発明2とは,いずれもプラスチックを材料として用いた眼鏡フレームの耳掛部の製造方法として,同一の技術分野に属するものといえる。したがって,引用発明1の製造方法に引用発明2の製造方法を適用することに阻害要因があるとはいえないので,相違点Aに関する審決の判断に誤りがあるとはいえない。
 (4-2) 原告らは,成形技術と加工技術の違いから審決の判断を非難するが,上記判示に照らし,採用することができない。
 (4-3) 原告らは,また,引用発明2では,芯金の埋め込みが目的で,引き抜きを予定していないとも主張する。
 しかし,審決は,モダンの製造方法として本件発明と一致していると認定した引用発明1が,圧入した工具を引き抜くことで挿着孔を成形するという構成自体を既に備えていることを前提とした上で,本件発明の「所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットした」点を相違点Aとして抽出したものであると解される。このように認定された相違点A(原告らもその認定内容を認めて争わない。)には,工具の圧入,引き抜きについての構成に関するものは含まれていない。そして,相違点Aに関する審決の判断は,引用発明2の芯金を圧入する構成を引用発明1に適用するというものではない。すなわち,審決は,上記のように,工具の圧入,引き抜きによって挿着孔を成形する構成は,既に引用発明1が具備しているとの趣旨であると解される。以上の審決の認定判断は,是認し得るものであり,原告ら主張の点をもって審決が誤りであるということはできない。なお,引用発明1の製造方法に引用発明2の製造方法を適用することに阻害要因があるとはいえないことは,前判示のとおりである。

 (4-4) さらに,原告らは,引用発明1の射出成形の金型内に,引用発明2の既に成形済みの材料をセットする意味はないなどとも主張する。
 しかしながら,原告らは,本件発明における「1対の金型」が引用発明1における「金型本体1」に相当するとの審決の認定を認める旨を主張しており,これによれば,本件発明及び引用発明2のような成形済みの材料をセットする金型と,引用発明1の射出成形の金型とが相当関係に立つはずであって,審決の「引用例1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型孔(1a)内の充填物に換えて,引用例2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは,当業者なら容易に推考できたものと認められる。」との説示も,上記相当関係を前提として理解し得るところであり,審決の認定判断に誤りがあるとはいえない。

 仮に,上記の相当関係をしばらくおくとしても,審決は,上記説示の前に「引用例2には,あらかじめ加熱されたプラスチック・テンプル7を固定下型8と可動上型9との間に載置する旨の記載があり,プラスチック・テンプル7は,何等かの手段で製作されるから,相違点Aの構成は,引用例2に開示されている。」と説示しており,この記載によれば,製作済みであらかじめ加熱されたプラスチック・テンプルだけでなく,金型に相当する固定下型及び可動上型の構成をも含めた上記引用発明2の構成を,引用発明1に適用する趣旨であるとも解し得るのであって,いずれにしても,審決の判断に誤りはない(ちなみに,前記第1次審決取消訴訟の判決では,引用発明1の前記相違点@に係る構成に代えて,引用発明2の構成を適用することが当業者にとって容易であると判示し,相違点@に係る構成全体をとらえた判示となっている。)。
 (5) 取消事由4(相違点Bに関する推考容易性判断の誤り)について
 (5-1) 証拠(甲5−2ないし4〔引用例2ないし4〕)によれば,眼鏡の蔓(ツル)の芯金挿入方法として,あらかじめ加熱(予熱)された芯金を用いることは従来周知の技術であることが認められ,「相違点Bについて検討するに,加熱された工具は,従来周知の技術手段にすぎない。」とした審決の認定判断に誤りはない。
 なお,引用例2ないし4に記載される技術は,シューティング法によるものであり,引用発明1とは異なる技術であるとしても,いずれも眼鏡フレーム用の蔓(ツル)に関する製造方法であって,用いられている技術思想を転用することに阻害要因はないものというべきである。審決もこのことを前提に上記のように判断しているものと解される。
 (5-2) 原告らは,引用発明1の「射出成形」は,熱可塑性の熔融樹脂を金型に注入するものであるから,既に柔らかい樹脂素材に,圧入する工具を加熱する技術を付加転用することは,必要のない技術手段を敢えて転用しようとするもので,論理的に矛盾をきたすと主張し,モダンの温度の高低に関して前掲のとおり主張している。

 検討するに,審決の説示に照らしても明らかなように,相違点Aに関して,引用発明1に引用発明2の構成を適用することに伴って,相違点Bの容易推考性が検討されるべきことになる。そして,引用発明1において熱可塑性の熔融樹脂が金型に注入される点は,相違点Bではなく,相違点Aの一部として認定されていることが明らかである(原告らは,審決の誤記の指摘をするほかは,相違点A,Bの認定自体は争わない。)。相違点Aに関しては,引用発明2の構成が適用される結果(この点が正当であることは前判示のとおりである。),金型内にあるもの,すなわち工具を圧入する対象は,引用発明1の熱可塑性の熔融樹脂(既に柔らかい樹脂素材)ではなく,これに代わった引用発明2の構成に係るものであることが明らかである。したがって,原告らの主張は,いずれも前提を欠くものであり,採用することができない。

 3 結論
 以上のとおり,審決のうち,被告オプトピア大越の無効審判請求に係る部分は,取り消されるべきであり,一方,その余の15名の被告らの無効審判請求に係る部分については,原告ら主張の審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。


  東京高等裁判所第18民事部

      裁判長裁判官   塚  原  朋  一


         裁判官   塩  月  秀  平


         裁判官   田  中  昌  利





【別紙】当事者目録



 原 告 株式会社長井
 原 告 Xb
 上記両名訴訟代理人弁護士 藤井健夫,弁理士 岡本清一郎,平崎彦治



 被 告 Ya 〔No1〕
 被 告 Yb 〔No2〕
 被 告 Yc 〔No3〕
 被 告 Yd 〔No4〕
 被 告 有限会社マスダオプチカル 〔No5〕               

 被 告 有限会社マルモト総業 〔No6〕
 被 告 Yg〔No7〕
 被 告 Yh 〔No8〕
 被 告 Yi 〔No9〕
 被 告 Yj 〔No10〕
 被 告 株式会社松浦眼鏡所 〔No11〕
 被 告 プラス・ジャック株式会社 〔No12〕

 被 告 山崎工業株式会社 〔No13〕
 被 告 有限会社田島プラスチック 〔No14〕
 被 告 Yo 〔No15〕
 上記15名訴訟代理人弁護士 金井和夫,金井亨,弁理士 戸川公二

 被 告 有限会社オプトピア大越 〔No16〕
 


【別紙】 審決の理由

平成10年審判第35199号事件,平成13年6月28付け審決
(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)


理 由
1 手続の経緯・本件発明
 本件特許第2733538号に係る発明(平成1年7月8日出願、平成10年1月9日設定登録。以下「本件特許発明」という。)は、明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲第1項に記載の次のとおりのものである。
「【請求項1】メガネフレームのツル先端に挿着されるモダンの製造方法において、所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビィティ内にセットし、該金型の開口から加熱した工具を圧入し、圧入後一定時間保持した後、該工具を引き抜き、ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形することを特徴とするメガネフレーム用モダンの製造方法。」
2 請求人の主張
 これに対して、請求人は、「特許第2733538号の請求項1に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。

無効理由1:そして、平成10年5月8日付け無効審判請求書において、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべきである。
 そして、請求人は、次の証拠方法を提出している。
甲第1号証:特開昭49−122352号公報
甲第2号証:特公昭50−28181号公報
甲第3号証:特公昭40−5907号公報
甲第4号証:実公昭40−7342号公報
甲第5号証:特開昭59−53810号公報
甲第6号証:特開昭50−133851号公報
甲第7号証:実願昭61−37182号(実開昭62−149017号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフイルム

無効理由2:請求人は、平成10年5月8日付け無効審判請求書及び平成10年12月11日付け審判請求理由補充書において、本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内で公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に違反しており、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべである。
 そして、請求人は、平成10年12月11日付け審判請求理由補充書において、次の証拠方法を提出している。
甲第8号証:Yb発行の株式会社辻めがね宛「請求書」
甲第9号証:株式会社服部セイコー発行の「HATTORI SE1KO Frame Catalogue no.19」
甲第10号証:株式会社晃梅が販売していた「モダン専用穴明け機」の写真
甲第11号証:株式会社晃梅の「商品売買(受注・納品)に関する確認書」

甲第12号証:株式会社晃梅の「得意先元帳(有限会社マスダオプチカルの欄)」
甲第13号証:株式会社晃梅の代表取締役Zの「証明書」
甲第14号証:野尻眼鏡工業株式会社の「商品売買(発注・仕入)に関す.る確認書」
 さらに、平成11年3月4日付け証拠方法提出書において、次の証拠方法を提出している。
甲第16号証:甲第10号証の「モダン専用穴明け機」の写真をより明確にするために有限会社マスダオプチカルの工場の「モダン専用穴明け機」を撮影した写真
甲第17号証:.株式会社晃梅が有限会社マスダオプチカルに納入した「モダン専用穴明け機」に関し、製造元 株式会社サンエー製作所が株式会社晃梅に発行
した請求書
 そして、請求人は、証拠方法として、平成10年12月11日付け証拠調申立書において、当事者Yb、Xa、Yeの当事者尋問と、証人Zの証人尋問を甲立てている。なお、平成11年3月4日に、当事者Xaの尋問申立は取り下げられた。

 さらに、請求人は、平成11年5月20日付け弁駁書(第2回)において、次の証拠方法を提出している。
甲第19号証:証人Yb氏の証言反訳書
甲第20号証:証人Z氏の証言反訳書
甲第21号証:証人Ye氏の証言反訳書
甲第22号証:証人Xa氏の証言反訳書
無効理由3:平成10年12月11日付け弁駁書(第1回)において、本件特許の請求項1に係る発明は、未完成発明であるから、特許法第29条柱書の規定に違反しており、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべきである。
無効理由4:平成10年12月11日付け弁駁書(第1回)において、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないから、その特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し無効にすべきである。

 そして、請求人は、次の証拠方法を提出している。
甲第15号証:「実用プラスチック用語辞典」編纂大阪市立工業研究所プラスチック課、株式会社プラスチック・エージ発行 昭和50年発行 224頁「収縮(shrinkage)」の項
3 被請求人の主張
 一方、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
 そして、被請求人は、平成11年3月4日付け答弁書(第2回)及び平成11年3月4日付け証拠調申立書において、請求人が主張する理由2に対する反論として、次の証拠方法を提出している。
乙第1号証:株式会社晃梅代表取締役Zの「証明書」
 当事者Xaの当事者尋問の申立
 なお、平成11年3月4日付け証拠調申立書は取り下げられた。
4 甲各号証
甲第1号証:特開昭49−122352号公報(以下、「引用例1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

イ、「湯口を製品の根本部にあらしめた成型用金型内に予じめ芯型を挿入することなく先ず熔融樹脂を成型金型の根本部から注入し、注入終了の直後未だ冷却固化しない間に芯孔型を差し込んで芯孔を成型させるようにしたことを特徴とする眼鏡蔓の蔓先片成形方法。」公報第1頁左欄。
ロ、「本発明は第1図に示す如き金縁眼鏡等における蔓片(S)の先端に差込まれる蔓先片(T)を透明合成樹脂材で成形する方法及び装置に関するものである。」第1頁左欄末行〜右欄第2行
ハ、「第2図に示すように先ず金型本体(1)に湯口型(2)を合せて型締めし、次いで摺合せ弁(3)を摺動させて湯口型(2)の通孔(2b)を閉鎖した状態のもとで湯道(2a)を介して型穴(la)内に熱可塑性熔融樹脂を注入したる後摺合せ弁(3)を逆に摺動させて通孔(2b)を開口し次に通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(la)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜くようにするのである。すると芯型(4)は、型穴(la)内に充填され、未だ軟かい半熔融樹脂内に挿入されるのであるから従来の如き噴射熔融樹脂の流れの影響を受けることなく、従って湾曲したり或いは振動したりすることはないのであり成型品に同芯状の中空部が形成されるに於いて空気泡が混入することがなくなるから丈夫で美麗な半製製品が極めて容易且つ確実に得られるようになったのである。」同第2頁左上欄〜第2頁右上欄

 前記イ、〜ハ、の記載事項と図面の記載からみて、引用例1には、蔓片S先端に挿着される蔓先片Tの製造方法において、湯道(2a)を介して型穴(1a)内熱可塑性熔融樹脂を注入したる後、通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く蔓先片Tの製造方法が開示されている。
甲第2号証:特公昭50−28181号公報(以下、「引用例2」という。)には、例えば、次のような記載がある。
ニ、「予め加熱したプラスチック・テンプルを固定下型に載置してのち、上記下型と着脱自在に嵌合する可動上型を上記プラスチック・テンプルの上から押えてのち強弱二段の力で押圧するシリンダーなどの押圧手段の弱い力で上記上型をプラスチック・テンプルに押圧して、プラスチック・テンプルの外周面を上下型で冷却しながらプラスチック・テンプルの一端より中心部へ予め加熱した棒状の芯金をシリンダーなどの挿込手段で挿し込み、つぎに芯金がプラスチック・テンプルの中へ挿し込まれた後は上記押圧手段の強い力で可動上型をプラスチック・テンプルに押圧してプラスチック・テンプルを整形するようにした眼鏡のつるの芯金挿入方法。」公報第5頁左欄特許請求の範囲の第1項。

ホ、「芯金1をプラスチック・テンプル7へ容易に挿入できるように予め適当な温度に加熱するためのヒーター14を設けている。該ヒーターは例えば透明なアセテ−トからなるテンプルに芯金を挿入する場合は芯金を200度Cに、不透明なアテートからなるテンプルに挿入する場合は芯金を120度Cに加熱できるように調節可能なものである。」公報第2頁右欄19〜26行。
ヘ、「例えばテンプルの素材が透明もしくは不透明なアセテートあるいはニトレイトの場合は120〜130度Cにあらかじめ加熱されており」公報第3頁左欄37〜40行。
甲第3号証:特公昭40−5907号公報(以下、「引用例3」という。)には、予熱されたプラスチック或いはセルロイド等の材料を、上型と下型とで加圧すると同時にその表面部を冷却し、予熱された芯を前記材料に押入させる際芯が確実に冷却されない前記材料の中心線の柔かい部分に沿って押入され、しかる後全体を硬くなる迄冷却する事によって一体化する眼鏡つるの芯入方法。

甲第4号証:実公昭40−7342号公報(以下、「引用例4」という。)には、予熱されたプラスチック或いはセルロイド等の材料を、上型と下型とで加圧すると同時にその表面部を冷却し、予熱された芯を前記材料に押入させる際芯が確実に冷却されない前記材料の中心部の柔かい部分に沿って押入され、しかる後全体を硬くなる迄冷却する事によって一体化する眼鏡つるの芯入方法。
甲第5号証:特開昭59一53810号公報(以下、「引用例5」という。)には、例えば、次のような記載がある。
ト、「従来より眼鏡のツルの製造方法としては、1)芯貼加工といわれる方法であるが、樹脂シートに芯金が入る部分を切削加工し、これに芯金をはめ込み接着剤を塗布し、熱プレスにて貼り合わせ加工した樹脂シートを切削加工して眼鏡のツルを製造する方法。2)シューテイング加工といわれる方法であるが、あらかじめ樹脂シートをツルの形に切削加工しておき、加熱した芯金を圧力により樹脂シートに差し込む方法。3)まきモダン加工といわれる方法であるが、射出成形機の金型にあらかじめ芯金を置いておき、樹脂を射出成形にて芯金と耳枠部をインサート成形する方法。4)さしモダン加工といわれる方法であるが、樹脂を射出成形して芯金に入る穴(空間)を有する耳枠部を成形しておき、芯金を挿入して眼鏡ツルを得る方法。」公報第1頁左欄〜第1頁右欄。

チ、「眼鏡のツルの製造に際し、その耳枠部材を酢酸繊維素100重量部に対し可塑剤を50重量部以上含有する酢酸繊維素樹脂を用いて成形し、且つ挿入される芯金と寸法が同一又は僅かに大きい穴が予じめ設けられた該耳枠部材の穴に芯金を挿入し、60℃以上の温度雰囲気中に放置し、その後室温まで冷却することを特徴とする眼鏡のツルの製造方法。」公報第1頁左欄。
甲第6号証:特開昭50−133851号公報(以下、「引用例6」という。)には、合成樹脂製耳掛体につる金挿入孔を設け、この挿入孔に合成樹脂表面溶解剤を注入して、孔の表面を溶解し、孔に突起又は凹みを設けたつる金の端部を差込み、耳掛体を外部より加熱すると共にしめつけ、加熱、しめつけ作業後耳掛体を冷却して固化し、耳掛体をつる金に固着することを特徴とする合成樹脂製耳掛体を眼鏡のつる金に装着する方法が記載されている。

甲第7号証:実願昭61−37182号(実開昭62−149017号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、「引用例7」という。)には、例えば、次のような記載がある。
リ、「このプロピオン酸繊維素樹脂は200℃で金型Cのキャビティー内に注入されて成形される。同図中の符号1は異径インサート金型であって、太径部I1とI2との間に細径部I3を有する。しかして、このインサート金型Iは金型C内のプロピオン酸繊維素樹脂1が180℃にまで降温して半流動状態になったときに軸心方向へ打ち込み、110℃の柔軟状態になったとき引き抜かれる。すると、当該柔軟状態のプロピオン酸繊維素樹脂1は、帯有する弾力で上記インサート金型Iの形状に倣って復元し、太径空洞部21・22に挟まれる中間領域に細径空洞部23を有するテンプル芯孔2を作出することになるのである。」明細書第4頁。

5 対比
 請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、前者の「メガネフレームのツル」、「モダン」、「1対の金型」、「金型の開口」、「工具」、「挿着孔」は、夫々後者の「蔓片S」、「蔓先片T」、「金型本体1」、「通孔2b」、「芯型4」、「芯孔」に相当するから、両者は、メガネフレームのツルの先端に挿着されるモダンの製造方法で一致し、
A本件請求項1に係る発明では、所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビィティ内にセットしたのに対して、引用例1に記載された発明では、湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入した点、
B本件請求項1に係る発明では、該金型の開口から、加熱した工具を圧入し、圧入後一定時間保持した後、該工具を引き、ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形するのに対して、引用例1に記載された発明では、通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く点で相違している。

6 当審の判断
 そこで、相違点Aについて検討するに、引用例2には、あらかじめ加熱されたプラスチック・テンプル7を固定下型8と可動上型9との間に載置する旨の記載があり、プラスチック・テンプル7は、何等かの手段で製作されるから、相違点Aの構成は、引用例2に開示されている。
 そして、引用例1及び引用例2は、同一技術分野に属するものであるから、引用例1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型穴(1a)内の充填物に換えて、引用例2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは、当業者なら容易に推考できたものと認められる。
 次に、相違点Bについて検討するに、加熱された工具は、従来周知(例えば、上記引用例2、上記引用例3、上記引用例4等を参照。)の技術手段に過ぎない。
 それゆえ、請求項1に係る発明は引用例1、引用例2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に推考できたものである。

7 むすび
 以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び周知技術に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効理由2〜4に触れるまでもなく無効とすべきものである。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 よって、結論のとおり審決する。
        平成13年 6月28日