◆H15. 6.18 東京高裁 平成13(行ケ)537 特許権 行政訴訟事件
平成13年(行ケ)第537号 審決取消請求事件(平成15年6月4日口頭弁論終結)
判 決
原 告 日本ゲームカード株式会社
訴訟代理人弁理士 河 野 登 夫
同 中 尾 真 一
同 河 野 英 仁
原 告 日本レジャーカードシステム株式会社
訴訟代理人弁護士 堤 義 成
同 田 宮 武 文
同 依 田 修 一
同 中 村 しん吾
同 柳 澤 泰
被 告 クリエイションカード情報システム株式会社
訴訟代理人弁護士 山 上 和 則
同 尾 崎 英 男
同 弁理士 稲 岡 耕 作
同 鈴 木 由 充
主 文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2000−35520号事件について平成13年10月18日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは,名称を「記憶媒体式遊技設備」とする特許第2663243号発明(昭和62年7月20日に株式会社ソフィアがした特許出願〔特願昭62−180666号,以下「本件原出願」という。〕の一部につき新たな特許出願として平成6年7月20日に特許出願〔特願平6−168223号,以下「本件出願」という。〕,平成9年6月20日権利者を株式会社ソフィアとして設定登録,平成11年10月19日権利譲渡に伴い原告らに移転登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成12年9月26日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をした。
特許庁は,同請求を無効2000−35520号事件として審理した上,平成13年10月18日,「特許第2663243号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月30日,原告らに送達された。
2 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(審決に従い,分説して記載する。)
(A)カード状記憶媒体の有する有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるように構成された複数の遊技装置および少なくともこれらの遊技装置を管理する管理装置を備えた記憶媒体式遊技設備において,
(B)上記各遊技装置の所定部位には,上記記憶媒体の有する有価データを読み取る記憶媒体読取手段と,上記記憶媒体読取手段によって読み取った有価データに基づき,上記記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を遊技球あるいは遊技球情報に変換可能な変換操作手段と,上記有価データとしての少なくとも金額情報を表示可能な有価データ表示手段と,を備えて,
(C)上記記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶するとともに,上記管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して,上記記憶媒体のデータ記憶部および上記管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにしたことを特徴とする記憶媒体式遊技設備。
(以下,この発明を「本件発明」という。)
3 審決の理由
審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明の構成要件(C)は,本件原出願の願書に最初に添付した明細書(注,「明細書又は図面」の趣旨と解される。以下同じ。以下,この明細書及び図面を併せて「原出願当初明細書」という。)に記載されていない事項を含むから,本件出願は,特許法44条2項の適用がなく,その出願日は実際の出願日である平成6年7月20日に繰り下がるところ,本件発明は,特開昭64−22274号公報(本訴甲4,審判甲1,本件原出願の公開特許公報),特開昭62−170279号公報(本訴甲5,審判甲2)及び特公平6−51072号公報(本訴甲6,審判甲3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであるとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由
1 審決は,特許法44条1項で規定する分割出願の要件についての認定判断を誤り,本件出願について出願日は遡及しないとした(取消事由)結果,本件発明の上記各刊行物記載の発明に基づく容易想到性を肯定したものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(分割出願の要件についての認定判断の誤り)
(1) 本件発明の特許請求の範囲に,その構成要件(C)として,記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶する点(以下「構成要件(C1)」という。),管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して,記憶媒体のデータ記憶部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにした点(以下「構成要件(C2)」という。),が記載されており,記憶媒体には少なくとも有価データとしての金額情報を記憶すること,すなわち金額情報が必須に記憶されるものであることは認める。しかし,審決は,「この点(注,『記憶媒体には少なくとも有価データとしての金額情報を記憶すること,即ち金額情報が必須に記憶されるものであること』〔審決謄本6頁第3段落〕)に関して被請求人も本件発明の原出願に記載がないことを前提として」(同頁第4段落)と説示するとおり,原出願当初明細書(甲4)には記憶媒体に有価データとしての金額情報を記憶することの記載がないと認定している趣旨と解されるが,誤りである。
(2) 原出願当初明細書(甲4)の記憶媒体(カード)に設けられた磁気記録部MGの記録内容について記載している箇所(3頁左下欄〜右下欄)では,磁気記録部MGの記録内容を列挙し,加えて,「力一ド番号NO.と補助データETXとの間には,上記以外の情報を入れることができるように予備エリアRSVが設けられている。例えばここに持玉数を記録してもよい」,「このように,この実施例のカードの磁気面に記録される情報は・・・チェックコードのみであり,購入金額や持玉数は記録されないようになっている」(3頁右下欄〜4頁左上欄)との記載があるが,両記載は相互に矛盾するものではなく,複数の実施例を示唆するものである。すなわち,一つの実施例では,カードCDに設けられた磁気記録部MGの記録内容には「購入金額や持玉数は記録されない」が,そのほかに,カードCDに設けられた磁気記録部MGの「予備」エリアに持玉数を記憶する他の実施例を示唆しているのである。そして,他の実施例では,磁気記録部MGの「予備」エリアに記憶する例示として持玉数を挙げているにすぎない。さらに,原出願当初明細書の特許請求の範囲に「金額もしくは玉数と実質的に等価な有価データ」(1頁左欄)と記載されているように,「金額」と「玉数」はこの種のパチンコ遊技システムで取り扱われる代表的なデータであることを考慮すると,他の実施例においては,カードCDに設けられた磁気記録部MGの「予備」エリアには「金額」と実質的に等価な有価データを記憶するという事項は,直接的な記載こそないが,開示されているものということができる。
(3) 記憶媒体(カード)に金額情報を記憶することは,原出願当初明細書に明記されていなくても, 特開昭53−93937号公報(本訴甲7,審判乙1),特開昭53−125141号公報(本訴甲8,審判乙2),特開昭60−116386号公報(本訴甲9,審判乙3),実願昭59−74412号(実開昭60−2581号)のマイクロフィルム(本訴甲10,審判乙5),特開昭62−170279号公報(本訴甲11,審判乙6),特開昭62−233181号公報(本訴甲12,審判乙7),特開昭63−51882号公報(本訴甲13,審判乙8),特開昭63−102783号(本訴甲14,審判乙9),特開昭63−122482号(本訴甲15,審判乙10),特開昭63−229084号(本訴甲16,審判乙11),実願昭62−98149号(実開昭64−3685号)のマイクロフィルム(本訴甲17,審判乙12),実願昭62−98150号(実開昭64−3686号)のマイクロフィルム(本訴甲18,審判乙13)及び実願昭62−100443号(実開昭64−7381号)のマイクロフィルム(本訴甲19,審判乙14)(以下,上記「本訴甲7,審判乙1」〜「本訴甲19,審判乙14」の公報,マイクロフィルムを「甲7公報」〜「甲19公報」という。)によれば,本件原出願時において,本件発明が属する技術分野の技術水準となっているものであり,当業者に自明な事項であると認められるから,原出願当初明細書の技術的事項の範囲内である。したがって,原出願当初明細書が,上記のとおりカードCDに設けられた磁気記録部MGの記録内容には「購入金額や持玉数は記録されない」が,そのほかに,カードCDに設けられた磁気記録部MGの「予備」エリアに持玉数を記憶する他の実施例を示唆していること,及び「金額」と「玉数」はこの種のパチンコ遊技システムで取り扱われる代表的なデータであることを考慮すると,当業者は,記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させるという技術の存在を意識して原出願明細書を読むはずであり,この意味において,記憶媒体(カード)に有価データとしての金額情報を記憶するとの技術は,実質的には当初明細書に開示されているものということができる。
審決は,「提出された乙号証(乙4〔注,特開昭61−33690号公報,以下「審判乙4公報」という。〕,6〜14号証〔注,甲11〜19公報〕)の中で本件出願前に公知のものは乙第4号証のみ(乙第6〜14号証は先願)であり,この提出された証拠のみでは本件出願前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったということはできない」(審決謄本8頁第1段落)とした。しかし,原告らが審判で提出した上記証拠によって立証しようとしたのは,本件原出願時前の公知発明ではなく,本件原出願当時の技術水準(周知技術を含む。)であり,出願後に頒布された刊行物によって出願当時の技術水準を証明することが許容されることは,判例(最高裁第二小法廷昭和51年4月30日判決・判例タイムズ360号148頁)に照らしても明らかである。したがって,審決には,本件原出願日より後に頒布されたことを理由として甲11〜19公報について審理判断せず,また,甲7〜10公報について審理判断しなかった審理不尽の違法がある。
(4) 審決は,「原出願の当初明細書(注,原出願当初明細書)には・・・本件発明のような,金額情報の管理は記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる,ものに関する記載がない」(審決謄本7頁第2段落)と認定した。
しかし,原出願当初明細書(甲4)には,「表21にカードファイルFL3の構成例を示す。カードファイルFL3には,各カードごとの情報が入る。同表において,カード番号は発行通し番号nから関数f(n)を用いて,得られる番号であり,持玉数と金額,カード状態は発行通し番号nとカード番号で特定されるカードの現在状態を示す情報で,この実施例では以下カードテキストと称する」(19頁左下欄〜右下欄)と記載され,表21に記載されたカードファイル構成には,「金額」欄及び各「iカウンタ」欄中の「金額」欄が設けられ,「管理装置によるカード番号の鑑定の手続きについて第23図を用いて説明する。カードリーダ180のコントローラ188は,第22図のデータ鑑定処理中のルーチンR59で所定のエリアに記憶したカード番号No.を制御ユニット160のユニットコントローラ190に転送する(ステップS1)。すると,そのデータ(カード番号)はユニットメモリ170内の送信エリアSDAに格納され,カードリーダにカードが挿入されたことを知らせる“カードイン”パケットに入れられてネットワーク500を介して制御ユニット160から管理装置400に送信される(ステップS2)。管理装置400では,カード番号を受け取ると・・・肯定応答たる“ACK”にカードテキスト(カード情報)を入れて送信する(ステップS9)。“カードイン”パケットを送信した制御ユニット160は,管理装置400から応答があると,その応答が“NAK”か“ACK”か判定し(ステップS11),“ACK”を受信したときは,制御ユニット前面の表示器162,163に管理装置から送られて来たカードテキストを参照して未使用金額と持玉数を表示させる(ステップS12)」(25頁左上欄〜左下欄)と記載されている。上記「制御ユニット160」は,遊技装置の制御ユニットであり,「管理装置400」が「制御ユニット160」に送信する「カードテキスト」には,記憶媒体ごとに付与された識別符号を用いて記憶された金額情報が含まれる。そして,原出願当初明細書には,管理装置から端末機に送られたカードテキストを参照して未使用金額と持玉数を表示させる「ステップS12」では,管理装置から送信されたカードテキストを参照する旨は明確に記載されているが,「未使用金額と持玉数を表示させる」との記載があるのみで,これらの未使用金額と持玉数が何に基づいて表示されるかは明示されていないが,文脈からは,カードテキスト中の未使用金額と持玉数に基づいて表示されるとも解されるし,また,実施例の記載を考慮すれば,カードの予備エリアに記録された未使用金額と持玉数に基づいて表示されるとも解されるのである。したがって,原出願当初明細書には,「金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる」ことは開示されているというべきである。さらに,管理装置の記憶手段に金額情報を記憶させるという技術は,本件発明の出願時において自明な事項である。
(5) 以上のとおり,記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させることは,原出願当初明細書に記載されていると認められ,たとえ明記されていないとしても,当業者に自明な事項であり,原出願の当初明細書の技術的事項の範囲内であるということができるし,また,金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる点についても,原出願当初明細書に記載された範囲内の事項である。したがって,審決の上記認定は誤りである。
第4 被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について
(1) 原出願当初明細書(甲4)記載の発明は,カードのコピーによる不正を防止するために,カードに金額情報を記憶させることを積極的に排除したパチンコ遊技システム,すなわち,カード番号によって金額情報を管理装置のデータファイルからリアルタイムで引き出し可能なパチンコ遊技システムの発明であり,カードに金額情報を記憶させないことが,その発明にとって重要な事項となっている。したがって,原出願当初明細書では,カードに金額情報を記憶させることが積極的に排除されているのであるから,「例えばここに持玉数を記録してもよい」(3頁右下欄)との記載をもって,カードに金額情報を記憶させる技術が記載されていると理解することはできない。
(2) 審決は,原告らが審判で提出した上記証拠のうち,「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術が記載されている公知のものは審判乙4公報のみであるとの判断を示し,この審判乙4公報のみでは本件特許の出願前に当業者にとって上記技術が技術常識又は自明なことであつたということはできないと判断したものであり,甲7〜19公報のすべてについても必要な判断をしている。
(3) 記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる技術は,出願当初明細書(甲4)に開示されていないから,金額情報の管理を記録媒体のデータ記憶部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行うという技術が当初明細書に開示されていないということは明らかである。原出願当初明細書には,管理装置より送られてきた持玉数及び金額とカードに記憶されている持玉数及び金額とを比較照合するという記載,金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われるという記載は存在しない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について
(1) 原告らは,原出願当初明細書(甲4)の記憶媒体(カード)に設けられた磁気記録部MGの記録内容について記載している箇所(3頁左下欄〜右下欄)の「力一ド番号NO.と補助データETXとの間には,上記以外の情報を入れることができるように予備エリアRSVが設けられている。例えばここに持玉数を記録してもよい」,「このように,この実施例のカードの磁気面に記録される情報は・・・チェックコードのみであり,購入金額や持玉数は記録されないようになっている」(3頁右下欄〜4頁左上欄)との記載,「金額」と「玉数」はこの種のパチンコ遊技システムで取り扱われる代表的なデータであることを考慮すると,実施例においては,カードCDに設けられた磁気記録部MGの「予備」エリアには「金額」と実質的に等価な有価データを記憶するという事項は,直接的な記載こそないが,開示されているものということができると主張する。
そこで,原出願当初明細書(甲4)の記載内容を検討すると,原出願当初明細書には,@「特許請求の範囲(1)金額もしくは玉数と実質的に等価な有価データを,記憶媒体に対して与えられた識別符号毎に管理装置において管理し,パチンコ遊技機においては上記記憶媒体より読み出した識別符号に基づいて上記管理装置から得られた有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるようにされパチンコ遊技システムにおいて,上記記憶媒体の一部には正規のカードか否か区別するための真偽鑑別物理層および上記識別符号を記憶するための磁気記録部を設けるとともに,端末機には上記記憶媒体の真偽鑑別物理層を検査してその鑑定を行う真偽鑑定手段と,上記磁気記録部に記録されたデータの読取りを行う磁気データ読取手段と,上記記憶媒体の所定箇所に穿孔されたパンチ穴を検出するための穿孔検出手段とを設け,上記真偽鑑定手段による記憶媒体上の真偽鑑別物理層の鑑定と,磁気データ読取手段により読み取った磁気データのチェックおよび上記管理装置における上記識別符号に基づく有価データの存在の確認とからなる階層的鑑定手法により上記記憶媒体の真偽を鑑定して運用を可能ならしめるようにしたことを特徴とするパチンコ遊技システム」(1頁左下欄〜右下欄),A「[発明が解決しようとする問題点]・・・この発明は・・・その目的とするところは,パチンコ遊技用のカードのコピーによる不正を確実に防止し,遊技店が不利益を被ることがないようにするとともに,真偽鑑別物理層および穿孔されたパンチ穴によって不正を検出できるので,磁気記録部のデータを読取らないと検出できない方法と違い不正カードの検出をすばやく行え,しかもカードの状態に対応した処理を決定するのに要する端末機の制御装置や管理装置の負担を軽減できるようにすることにある」(2頁左下欄〜右下欄),B「[実施例]・・・この実施例のパチンコ遊技システムは,遊技機としてのパチンコ機100と,各パチンコ機における遊技を開始させるためローカルな有価価値を有する記憶媒体としてのカードCDを発行する記憶媒体発行装置としての発行機200と,遊技の結果得られた賞品球および遊技に使用せずに残った購入金を精算するための記憶媒体精算装置としての精算機300と,上記各種端末機を集中的に管理し,制御する管理装置400と,この管理装置400と各端末機を有機的に結合するデータ伝送路500とからなり,これらによって,有機的結合体が構成される」(3頁左上欄〜右上欄),C「カードCDの表面下部には,磁性材が塗布された磁気記録部MGが設けられており・・・磁気記録部MGには左側から順に,有効データ部を保護するためのダミーデータたる8ビットのタイミングコードTMS,データの始まりを示す4ビットの補助データSTX,遊技店のコードを示す16ビットの識別コードDSC,カード発行年月日を表示する16ビットの年月日データDATE,発行通し番号nに基づいて変換された16ビットのカード番号No.,データの終了を示す4ビットの補助データEXT,上記データSTXからETXまでの各データのビット列ごとにパリティチェック用のチェックビットLRC,有効データ部を保護するためのダミーデータたる8ビットのタイミングコードTMEが記録されるようになっている。なお,カード番号No.と補助データETXとの間には,上記以外の情報を入れることができるように予備エリアRSVが設けられている。例えばここに持玉数を記録してもよい。このように,この実施例のカードの磁気面に記録される情報は,カードの使用可能空間を特定するための識別コードと,カードの有効期間を示すための発行年月日と,発行通し番号nから適当な関数もしくは変換方式を使って得られる識別符号としてのカード番号と,エラー検出用のチェックコードのみであり,購入金額や持玉数は記録されないようになっている。これらは,上記カード番号によって管理装置400のデータファイルからリアルタイムで引出し可能な構成にしてある。これによって,カードのコピーによる不正を防止し,かつ不正による被害を最小限にとどめることができる」(3頁左下欄〜4頁左上欄),D「この実施例のパチンコ機100は,遊技機本体110と,遊技機と1対1で対応されて遊技機本体上方の島設備等に装着され,主としてカードに関する処理と遊技中の稼動データの収集を司る制御ユニット160とにより構成される。制御ユニット160は,遊技機本体110と別個に構成され,カード挿排口161と,カードの有する金額を表示する金額表示器162,遊技者の持玉数をディジタル数字で表示する持玉表示器163,複数個のランプが一列に整列されてなるアナログ表示器164,係員呼出し用の呼出しスイッチ165等を前面に有している」(7頁右上欄〜左下欄),E「制御ユニット160の内部には,上記カード挿排口161に対応してカードリーダ180が,また台番号の銘板172の後方に台番号設定スイッチ173が,さらにこの制御ユニット160全体の制御を司るユニットコントローラ190が各々設けられている。ユニットコントローラ190は,光ファイバもしくは同軸ケーブルのような伝送路191によって,遊技機本体110の制御装置150に,また後述の伝送コントローラおよびローカルネットワーク(伝送ケーブル)を介して管理装置400に接続される」(7頁右下欄),F「穿孔装置807の近傍には磁気ヘッド808が設けられており,カードの磁気記録部MGに記録されている識別コード等のデータを読み取る」(8頁右上欄),G「遊技機本体110の下部には・・・購入スイッチ113・・・が設けられている。・・・購入スイッチ113は,カード挿排口161へのカードの挿入を前提としてカードの有する金額の範囲内で,200円等の単位でこれを遊技球に変換するための指示スイッチで,変換された遊技球が持玉数となる」(8頁左下欄),H「表21にカードファイルFL3の構成例を示す。カードファイルFL3には,各カードごとの情報が入る。同表において,カード番号は発行通し番号nから関数f(n)を用いて,
得られる番号であり,持玉数と金額,カード状態は発行通し番号nとカード番号で特定されるカードの現在状態を示す情報で,この実施例では以下カードテキストと称する」(19頁左下欄〜右下欄),I「上記カードリーダコントローラ188によるパチンコ機のカードリーダの制御手順の一例を第21図〜第25図を用いて説明する。・・・ルーチンR26では,センサ5からのパルス数に基づいて磁気データの読取位置に来たか否か判定し,ノオ(否)ならばルーチンR29へ進み,イエスならばルーチンR27へ進んで磁気記録部MGに記録されているデータ(第2図(B)参照)を磁気ヘッド808で読み取った後,そのデータをコントローラ188内のレジスタもしくはRAM内に一時的に記憶して(ルーチンR28)からルーチンR29へ進む。・・・第22図に示すデータ鑑定処理においては,先ずルーチンR50で排出フラグが『1』にセットされているか判定し,『1』でないときにのみ本来のデータ鑑定処理R51〜R65へ進み,・・・ルーチンR51へ進むと,第21図の処理ルーチンR28で記憶しておいた磁気データを,例えば4ビット単位で記憶した順序で読み出す。記憶した磁気データの先頭にはダミーデータが入っているので,読み出したデータが最初の有効データである補助データSTXに一致しているか判定し(ルーチンR52)・・・ルーチンR56では,次の磁気データを読み出して来て,ルーチンR57でそれが予め設定された年月日と一致するか否か判定する。年月日が一致するとルーチンR58へ進み,一致しないとルーチンR71のカード排出処理へ移行する。ルーチンR58では,次の磁気データであるカード番号No.を読み出して,ルーチンR59でそのカード番号を他の記憶エリアに記憶する。それから,ルーチンR60で次の記憶磁気データの読み出しを行うが,それは予備コードであるのでルーチンR61でスキップして破棄し,ルーチンR62へ進む。ここで,次の磁気データを読み出し,そのルーチンR63でそのデータが補助データETXと一致するか否か判定し,一致するとルーチンR64へ進み,・・・ルーチンR64では,これまでに読み出したデータSTXからETXまでの各ビット列ごとのチェックコード計算を行ってからルーチンR65へ進み,次の磁気データたるチェックコードLRCを読み出す。そして,ルーチンR66でその読出データLRCがルーチンR64で計算したチェックコードと一致するか判定を行い,一致すると,第23図の番号鑑定処理へ移行し,・・・このようにして,第22図のフローでは磁気データにより正規のカードであるか否かの鑑定を行っている」(23頁右上欄〜25頁左上欄),J「管理装置によるカード番号の鑑定の手続きについて第23図を用いて説明する。カードリーダ180のコントローラ188は,第22図のデータ鑑定処理中のルーチンR59で所定のエリアに記憶したカード番号No.を制御ユニット160のユニットコントローラ190に転送する(ステップS1)。すると,そのデータ(カード番号)はユニットメモリ170内の送信エリアSDAに格納され,カードリーダにカードが挿入されたことを知らせる“カードイン”パケットに入れられてネットワーク500を介して制御ユニット160から管理装置400に送信される(ステップS2)。管理装置400では,カード番号を受け取ると発行通し番号nを算出し(ステップS3),その発行通し番号nを使ってカードファイルFL3(表21)を検索する(ステップS4,S5)。そして,対応するファイルが見つかるとそのファイルを読み込んで(ステップS6),カード状態が『フリー』になっているか判定する(ステップS7)。カード状態が『フリー』以外のときおよびステップS5でファイルが見つからなかったときは,ステップS10で応答拒否たる“NAK”を送信し,カードファイルがありその中のカード状態が『フリー』のときは,カードファイルを更新してカード状態を『遊技中』に変更するとともに,カード番号No.を送って来たパチンコ機の端末番号を所定の欄に書き込む(ステップS8)。それから,肯定応答たる“ACK”にカードテキスト(カード情報)を入れて送信する(ステップS9)。“カードイン”パケットを送信した制御ユニット160は,管理装置400から応答があると,その応答が“NAK”か“ACK”か判定し(ステップS11),“ACK”を受信したときは,制御ユニット前面の表示器162,163に管理装置から送られて来たカードテキストを参照して未使用金額と持玉数を表示させる(ステップS12)。それから,アナログ表示器164のランプを持玉数に比例した数だけ点灯させてから(ステップS13),打球発射装置111を駆動させる(ステップS14)。また,ユニットメモリ170の送信エリアSDA内のパチンコ機稼動情報を『遊技中』に変更してから(ステップS15),出玉数や回収球数の演算等の遊技処理ルーチンへ移行する(ステップS16)。一方ステップS11で“NAK”受信と判定すると,カードリーダ180のコントローラ188に対して排出指令を与える(ステップS17)」(25頁左上欄〜右下欄)。
上記記載によれば,原出願当初明細書に記載された発明は,金額又は玉数と実質的に等価な有価データを,管理装置において管理し,記憶媒体に対しては識別符号が与えられていること(記載@),具体的には,管理装置においてデータをカードファイルFL3により管理し,当該カードファイルには各カードごとに発行通し番号,カード番号,持玉数,金額,カード状態等の情報が入り,カードテキストと称されていること(記載H),記憶媒体であるカードの磁気面に記録される情報は,カードの使用可能空間を特定するための識別コード,カードの有効期間を示すための発行年月日,発行通し番号nから適当な関数もしくは変換方式を使って得られる識別符号としてのカード番号,エラー検出用のチェックコードのみであり,購入金額や持玉数は記録されないようになっていること(記載C)。一方,カード番号No.と補助データETXとの間には,予備エリアRSVが設けられており,「例えばここに持玉数を記録してもよい」とされていること(記載C),パチンコ機では,カードの磁気面が読み取られ,年月日が一致判定され,カード番号が読み取られ,管理装置へ送られること,そして,予備エリアの記憶磁気データの読み出しも行われるが,それは予備コードであるのでスキップして破棄されること(記載I),管理装置では送られたカード番号で鑑定が行なわれ,テキストファイルがパチンコ機へ送られ,未使用金額と,持玉数を表示すること(記載J)が開示されている。
そうすると,確かに,原出願当初明細書に,予備エリアに持玉数を記録してもよいことが記載されている(記載C)が,このデータは予備コードであるので破棄されるものである上,購入金額や持玉数は記録されないようになっているとの記載とは明らかに矛盾するものである。仮に,原告らが主張するように,「持玉数を記録することが他の実施例を示唆している」としても,他の実施例は,持玉数は予備エリアに記録されるが,このデータはパチンコ機に読み出されても破棄されるものであって,カードに記録された持玉数がどのように利用されているのか,どのような機能を持つものであるのかについて何ら開示しておらず,その構成が明確でない実施例であるのは明らかである。また,記憶媒体のデータ記憶部に金額情報を記憶すること並びに記憶媒体のデータ記録部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより金額情報を管理するようにすることについて原出願当初明細書には記載がないことは上記のとおりであり,「金額」と「玉数」は,共にパチンコ機で取り扱われるデータではあるが,一般に,「金額」については,カード購入時,遊技球に変換する時及び未使用金額として精算で払戻しする時に使用されるが,「玉数」については,カードにより遊技球に変換する時,遊技時(入賞すると増え,打球発射装置により発射するごとに減る。)及び終了時景品と交換する時使用されるものであり,両者は,使用目的によって使い分けられているものであるから,原出願当初明細書においても,両者を,同一視することができないことは明らかであって,「玉数」を記録することが記載されているからといって,「金額」を記録することが記載されているということにはならない。したがって,実施例において,カードCDに設けられた磁気記録部MGの「予備」エリアには「金額」と実質的に等価な有価データを記憶するという事項が開示されているとする原告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 原告らは,記憶媒体(カード)に金額情報を記憶することは,甲7〜19公報により,本件原出願時において,本件発明が属する技術分野の技術水準となっているものであり,当業者に自明な事項であると認められるから,原出願当初明細書(甲4)の技術的事項の範囲内であると主張する。確かに,甲7〜19公報には,原告らが主張するように,記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させることが記載されていると認められるが,上記各公報には,上記技術が,業界に知られていた,あるいは,従来から行われていたことであるとの記載はなく,かえって,これらの記載は,特許請求の範囲及び実施例として,発明又は考案の主要な構成として記載されていることにかんがみると,甲7〜19公報に記載された記憶媒体(カード)に金額情報を記憶するとの技術的思想が,上記各公報が頒布された当時においても,本件発明が属する技術分野の技術水準となっているものであり,当業者に自明な事項であったと認めることはできないというべきである。
原告らは,審決には,本件原出願日より後に頒布されたことを理由として甲11〜19公報について審理判断せず,また,甲7〜10公報について審理判断しなかった審理不尽の違法があると主張する。しかし,審決は,「提出された乙号証(乙4〔注,審判乙4公報〕,6〜14号証〔注,甲11〜19公報〕)の中で本件出願前に公知のものは乙第4号証のみ(乙第6〜14号証は先願)であり,この提出された証拠のみでは本件出願前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったということはできない」(審決謄本8頁第1段落)と説示するものであるところ,上記「この提出された証拠」には,甲11〜19公報が含まれることは,その文脈から明らかであり,また,審決は,続く説示で,「この技術が本件出願前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったとしても,本件発明のような,金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる点まで技術常識又は自明なことであったということはできない」(同)とし,仮に,原告ら主張のように記憶媒体(カード)に金額情報を記憶することが甲7〜19公報により本件原出願時前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったとしても,構成要件C2の金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる点まで技術常識又は自明なことであったということはできないとしているのであるから,所要の判断がされていることは明らかであり,審理不尽ということはできない。原告らの上記主張は,審決を正解しないものであり,採用することができない。
(3) 原告らは,原出願当初明細書(甲4)には,管理装置から端末機に送られたカードテキストを参照して未使用金額と持玉数を表示させる「ステップS12」では,管理装置から送信されたカードテキストを参照する旨は明確に記載され,「未使用金額と持玉数を表示させる」との記載があり,同記載は,カードテキスト中の未使用金額と持玉数に基づいて表示されるとも解されるし,また,実施例の記載を考慮すれば,カードの予備エリアに記録された未使用金額と持玉数に基づいて表示されるとも解されるから,「金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる」ことは明示されていると主張する。しかしながら,管理装置においてデータをカードファイルFL3により管理し,当該カードファイルには各カードごとに発行通し番号,カード番号,持玉数,金額,カード状態等の情報が入り,カードテキストと称されているが,記憶媒体(カード)のデータ記憶部に金額情報を記憶すること並びに記憶媒体のデータ記録部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより金額情報を管理するようにすることについては,原出願当初明細書には記載がないことは上記のとおりであるから,上記管理装置から送信されたカードテキストを参照する旨の記載は,未使用金額と持ち玉数が,管理装置から送信されたカードテキストに基づくものであると解すべきことは明らかであり,原告らの上記主張も採用することができない。
(4) 以上検討したところによれば,原出願当初明細書(甲4)には,記憶媒体のデータ記憶部に金額情報を記憶すること並びに記憶媒体のデータ記録部及び管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより金額情報を管理するようにすることについては記載がないから,「本件発明の構成要件(C)は,原出願の当初明細書に記載されていない事項を含む」とした審決に誤りはなく,本件出願は特許法44条1項に規定する適法な分割とは認められず,出願日は遡及しないというべきであり,これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。
2 以上のとおり,原告ら主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 岡 本 岳
裁判官 早 田 尚 貴