H15. 5.29 東京高裁 平成14(行ケ)205 特許権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第205号 審決取消請求事件
平成15年5月29日判決言渡、平成15年5月22日口頭弁論終結
         判    決
   原   告     サミー株式会社

   訴訟代理人弁護士  飯田秀郷、栗宇一樹、早稲本和徳、七字賢彦、鈴木英之
   同復代理人弁護士  隅部泰正、大友良浩
   訴訟代理人弁理士  黒田博道、米山淑幸
   被   告     アルゼ株式会社                    

     訴訟代理人弁護士  松本司、岩坪哲
   同    弁理士  廣瀬邦夫
 
         主    文
  原告の請求を棄却する。

  訴訟費用は原告の負担とする。

         事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が無効2000−35635号事件について平成14年3月19日にした審決を取り消す、との判決。


第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 本件は、スロットマシンの発明に関する下記アの特許(本件特許)についての無効審判請求を不成立とした審決に対する審決取消請求事件であり、被告は本件特許の特許権者で、原告は下記イの無効審判の請求人である。
 ア 本件特許
   特許第1905552号
   発明の名称   「スロットマシン」
   出願      昭和58年4月8日(特願昭58−61592号)
   設定登録    平成7年2月24日
 イ 無効審判
   無効2000−35635号
   審判請求      平成12年11月22日
   審決           平成14年3月19日
           「本件審判の請求は、成り立たない。」
           (平成14年3月29日原告に審決謄本送達)


 2 本件発明の要旨
 本件発明は、平成7年10月11日発行の特許法64条の規定による補正の掲載公報(甲第2号証の2)の特許請求の範囲によれば、次のとおりである(以下、請求項1のものを「本件発明」という。)。
  1 スタート手段のスイッチ検出により回転駆動され少なくとも一つのシンボルマークが複数箇所に設けられている複数のシンボルマークが付されたリールを複数設け、これらのリールを停止させるリールストップ手段を有し、リールストップ時に各リールに設けられたシンボルマークの入賞ライン上の組み合わせで決まる入賞ランクに応じた遊技価値を付与するスロットマシンにおいて、乱数発生手段から順次発生される乱数から一つの乱数値を特定するサンプリング手段と、前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中前記入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する入賞確率テーブルと、前記特定された乱数値が属する入賞ランクを前記入賞確率テーブルと照合し、属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段と、前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。

  (請求項2以下の記載省略)

 3 審決の理由の要点
 (1)審決は、請求人(原告)の主張した無効理由1(特許法29条の2該当)及び無効理由2(請求項2に記載の発明の特許法36条5項違反)について、(1)本件発明は、本件発明の出願日前に出願され、出願日後に公開された特願昭57−152033号(特開昭59−40883号公報、甲第3号証)の明細書(「先願明細書」という。)に記載された発明(「先願発明」という。)と同一発明ということはできない、(2)請求項2以下の特許請求の範囲の記載は本件出願時においては実施態様項の記載であり、発明の構成に欠くことができない事項を記載する項ではないから、無効理由2を検討する必要性を認めない、と認定判断し、請求人(原告)の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできないとした。

 (2)無効理由1についての審決の判断の要旨は、以下のとおりである(無効理由2についての判断は本訴で争われていない。)。

(1) 甲第3号証記載の発明
 ア 甲第3号証には、
 a.「1(A)ハンドルの引き倒しにより生ずる信号を検出するハンドル信号検出部、
  (B)該ハンドル信号検出部からの信号により乱数情報を決定する乱数発生回路、
  (C)回転しているリールの絵柄位置情報を作成する絵柄位置検出部、
  (D)前記乱数情報に基づき配当テーブルメモリの乱数情報により指定されたアドレスから絵柄の組合せおよび配当を読み取り、かつこれらと絵柄位置情報とを比較演算してリール停止位置情報を出力する比較演算部、および
  (E)リール停止位置情報に基づき前記決定された絵柄の組合せでリールを停止せしめるリール停止部
  からなるスロットマシンのリール停止機構。」(1頁左欄5行〜右欄1行)、
 b.「スロットマシンは通常第1図に示すような外観を有しており、ハンドル(1)を引き3個のリール(2a)、(2b)、(2c)を回転せしめ、自動的または停止ボタン(3a)、(3b)、(3c)の押圧により3個のリールを順次停止せしめて絵柄の組合せにより所定の数のメダルを排出する。」(同2頁左上欄末行〜右上欄5行)、

 c.「タイマ(6)の出力信号は乱数発生回路(8)のラッチ(9)にデータラッチ信号として入力される。一方ラッチ(9)には、発振器(10)のフリーランにより常にフリーランの状態になっているカウンタ(11)からの高速で更新されているデータ信号が入力されている。このようにフリーランの状態のデータが常に入力されているラッチ(9)に前記タイマ(6)からのハンドル信号が入力すると、ハンドル信号の入力時のデータに基づく乱数情報(配当テーブルメモリ(13)のアドレス情報)がラッチ(9)から比較演算部(12)に送られる。比較演算部(12)は、絵柄の組合せおよびそれに対応する配当のテーブルがストアされている配当テーブルメモリ(13)から、乱数情報に基づくアドレスのストアされている絵柄の組合せおよび配当を読み取る。」(同2頁右上欄14行〜左下欄9行)、
 d.「比較演算部(12)では前記乱数によりランダムに決定された絵柄の組合せ情報と絵柄位置検出部(20)からの現在位置情報とを比較演算し、リール停止位置情報をリール停止部(24)のダウンカウンタ(25)に出力する。リール停止位置情報は、リールを所定回数回転させたのち絵柄表示位置から所定のコマ数以内に目的とする絵柄が入ったときに出力される。」(同2頁右下欄下から2行〜3頁左上欄6行)、
 e.「以上のように、本発明においては絵柄の組合せを乱数によって決定するので、完全に確率に基づく絵柄の組合せをうることができ、しかもその組合せで正確にリールを停止することができる。したがって長期的にみれば確率に応じた配当がえられ、短期的にみれば大きな配当が連続してえられる可能性があり、公正でかつ遊戯者の楽しみを増大せしめることができる。」(同3頁右上欄7〜15行)、

 f.「リールの駆動機構としては、ハンドル(2)を引き倒すことによってリールを機械的に回転せしめる機構や電動モータによって回転せしめる機構など、従来公知の駆動機構を採用することができる。」(同3頁右上欄16〜20行)、
  と記載されており、
 イ これらの記載および第1〜3図の記載によれば、先願である甲第3号証には、
  「ハンドルを引くことにより電動モータを駆動し、絵柄を有する3個のリールを回転させ、3個のリールを順次停止せしめて、絵柄の組合せにより所定の数のメダルを排出するスロットマシンにおいて、
   カウンタから高速で更新されるデータ信号が入力されるとともに、ハンドル信号の入力時のデータに基づく乱数情報(配当テーブルメモリのアドレス情報)を比較演算部に送る乱数発生回路のラッチと、絵柄の組合せおよびそれに対応する配当がストアされている配当テーブルと、乱数情報に基づき配当テーブルにストアされている絵柄の組合せおよび配当を読み取り、リール停止位置情報を出力する比較演算部と、該リール停止位置情報に基づき、決定された絵柄の組合せでリールを停止させるリール停止部を備えているスロットマシン。」

 が記載されている(以下、「先願発明」という。)。

(2) 対比・判断
  本件発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「ハンドル」、「絵柄」、「所定の数のメダル」、「カウンタ」、「ラッチ」、「リール停止部」は、各々本件発明の「スタート手段」、「シンボルマーク」、「遊戯価値」、「乱数発生手段」、「サンプリング手段」、「リールストップ手段」に相当するものと認められる。そして、先願発明において「リール停止部」が「リール停止位置情報に基づき、決定された絵柄の組合せでリールを停止させる」ということは、先願発明が「リールストップ制御手段」を備えているものと認められ、本件発明における「入賞確率テーブル」も、先願発明における「配当テーブル」も乱数によって入賞などの当たりを特定する「テーブル」である点で共通しているものと認められる。また、先願発明において、ハンドルを引くことによりリールを「電動モータによって回転せしめる」ためにはハンドル操作を何らかのスイッチにより検出することは当然のことと認められる。


  してみると、本件発明と先願発明とは、
 【一致点】「スタート手段のスイッチ検出により回転駆動され複数のシンボルマークが付されたリールを複数設け、これらのリールを停止させるリールストップ手段を有し、リールストップ時に各リールに設けられたシンボルマークの入賞ライン上の組み合わせで決まる遊戯価値を付与するスロットマシンにおいて、乱数発生手段から順次発生される乱数から一つの乱数値を特定するサンプリング手段と、前記乱数発生手段から発生する乱数値によって入賞などの当たりを特定するテーブルと照合すると共に、リールストップ制御手段を備えたスロットマシン」である点で一致し、
 【相違点】
  ア.本件発明のリールが、少なくとも一つのシンボルマークが複数箇所に設けられている複数のシンボルマークが付されたリールであるのに対し、先願発明のリールはそのような構成を備えていない点、

  イ.本件発明のテーブルが、乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する入賞確率テーブルであるのに対し、先願発明のテーブルが、絵柄の組合せおよびそれに対応する配当がストアされている配当テーブルである点、
  ウ.本件発明が、特定された乱数値が属する入賞ランクを前記入賞確率テーブルと照合し、属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段と、前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えているのに対し、先願発明は、乱数情報に基づき配当テーブルにストアされている絵柄の組合せおよび配当を読み取り、リール停止位置情報を出力する比較演算部と、該リール停止位置情報に基づき、決定された絵柄の組合せでリールを停止させるリール停止部を備えている点、

 で相違しているものと認められる。

  上記相違点イ.ウ.について検討する、
  上記相違点イ.でみたように、乱数発生手段から発生する乱数値によって入賞などの当たりを特定するテーブルは、本件発明が、乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶するものであるのに対し、先願発明は、配当と共にそれに対応する絵柄の組合せも記憶されているものである点で相違している。この相違に基づき本件発明は、上記相違点ウ.に示されるように属する入賞ランクのリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段、及びリールストップ制御手段を備えている。
  本件発明における上記「属する入賞ランクのリクエスト信号」について本件特許明細書を参照すると、
  「スタートレバー操作により、3つのリールが回転され、所定時間の経過後、後述するヒットリクエストの設定(入賞の有無の照合)を行ってリールストップのためのストップボタンの操作の有効化およびその表示のためのストップランプ(第1図中27に対応)を点灯させる。」(本件公告公報第3頁28〜34行)、

  「ヒットリクエストの発生は、前述のようにゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROM上の入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果えられることになる。」(同第4頁38〜42行)、
  「サンプリングされた乱数値が100未満であれば大ヒット、100以上600未満であると中ヒット、600以上1600未満なら小ヒットの各リクエストが発生され、1600以上ではヒットリクエスト無しとなるものである。」(同第5頁17〜21行)、
  「さらにペイアウト率を一定にする意味でリクエストカウンタを設けておいてもよい。即ち、前述したヒットリクエストが発生すると、各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され、RAM上にストアされる。そして、ヒットした際に、そのリクエストカウンタは−1の減算処理が行われる。」(同第5頁27〜33行)、

 との記載が認められる。

  上記各記載によれば、入賞ランクとは、「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」のそれぞれであり、この各入賞ランクが各々乱数の領域を持っているものと認められる。また、属する入賞ランクのリクエスト信号とは、入賞の有無を入賞テーブルの乱数値と照合して、各入賞を特定する信号であることが認められる。(実施例では、各入賞ランクに対して複数のシンボルマークを有している。)
  これに対して、先願発明においては、比較演算部12は乱数情報に基づいて配当テーブルから配当と共に絵柄の組合せを読み取り、リールを所定回数回転させたのち絵柄表示位置から所定のコマ数以内に目的とする絵柄が入ったときに出力されるリール位置検出情報を出力するものであり(上記先願明細書の記載a、c、d参照)、本件発明におけるような属する入賞ランクのリクエスト信号に相当するものは発生されない。

  本件発明では該リクエスト信号に基づいて上記相違点ウ.のように入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定しリールストップ手段を制御するリールストップ制御手段をリクエスト発生手段と共に設けており、この本件発明と先願発明の相違は、本件発明の入賞確率テーブルではシンボルマーク(絵柄)と入賞(配当)の特定ではなく、入賞ランクの特定を行っている点に基づいている。
  しかも、本件発明は上記相違点により、「乱数の全領域が入賞ランク毎に任意の領域に設定されることによって、入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができ、その結果、ペイアウト率の変更も極めて容易になる。しかも、乱数発生手段から発生する乱数値の発生幅(領域)を大きくとることができる」という明細書記載の効果(公告公報9頁左欄下から2行〜同右欄4行)を奏するものである。

  したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明を先願発明と同一とするこ とはできない。

 (3) 請求人(原告)の主張について
  請求人は上記相違点イ.ウ.について、「両発明における相違点は、「入賞ランク」と「入賞絵柄」との差のみである。・・・「入賞ランク」とは「複数種類の入賞絵柄」と解釈できる。「入賞ランク」を、発明の詳細な説明に記載されたように3つのランクに分けず、より細かく分類すると、結局は「入賞絵柄」と同一となってしまうことは明らかである。・・・引用文献のような単一の「入賞絵柄」にするか、あるいは本件発明のように「複数の入賞絵柄」にするかということは、例えば古くから用いられている「福引き」において、同一の入賞であっても、商品が単一の場合のみならず、複数の商品の中から選択できるようにしている場合もある。このように当選時の扱いが単一の場合と複数から選択する場合があることは慣用手段である。すると、前記したように、引用文献の「入賞絵柄」を「複数の入賞絵柄」に置き換えることは、ことさら引例をあげるまでもなく慣用技術であり、設計事項である。」(審判請求書11頁下から2行〜12頁20行)と主張しているが、本件発明と、先願発明とは単に「入賞ランク」と「入賞絵柄」との差のみではなく、上記で検討したような相違点があるのであるから、このような主張は採用することができない。
  また、請求人は、審判請求書13頁において表(以下、「13頁表」という。)を提示し、本件発明の効果は先願発明と全く同一である旨主張し、13頁表における並び、即ち絵柄の並びがある乱数範囲を持つかのように記載(たとえば、AAAが0〜33)しているが、先願発明の配当テーブルにおける各絵柄がこのような乱数範囲を備えるものか否かは、その配当テーブルの詳細が先願明細書に開示されていないことから不明であるといわざるをえず、したがって、本件発明の効果が先願発明の効果と同一であるということはできない。


第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
 審決は、(1)本件発明の内容を誤って認定し、(2)先願発明の内容を誤って認定し、(3)その結果、相違点でないものを相違点と認定して、両発明が同一でないとする誤った判断に至ったものであり、特許法29条の2の適用を誤った違法が存するから、取り消されるべきである。


 1 本件発明の認定の誤り(主張1)
 (1)「入賞ランク」
 本件明細書及び図面(甲第2号証の1)を参照すると、本件発明における「入賞ランク」とは、例えば「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」「ヒットなし」といった遊戯価値(=払出枚数の多少)を有するもので、それぞれ所定のシンボル(絵柄)の組合せが与えられているものである。
 そして、いずれかのシンボル(絵柄)の組合せが実現されたときに入賞となり、そのシンボルの組合せが属する入賞ランクが特定され、その特定された入賞シンボルに与えられた遊戯価値(=払出枚数)分のコインが払い出される。
 したがって、「入賞ランク」をもって、「入賞役・当選役」と称することができる。
 (2)「入賞判定」
 本件発明の「入賞判定」(第22図)とは、停止した全リールの窓のシンボルの組合せが、入賞ライン上において「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」又は「ヒットなし」に属するシンボルの組合せとして成立しているか否か、換言すると、「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」、「ヒットなし」という「入賞役・当選役」の成立があるか否かを判定しているものである。
 (3)「リクエスト信号」
 本件特許請求の範囲に記載された「リクエスト信号」は、明細書中で使用されている「ヒットリクエスト」と同義であり、「リクエスト信号」(ヒットリクエスト)とは、実施例におけるような「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」、「ヒットなし」という「入賞役・当選役」のうちどの「入賞役・当選役」が乱数による抽選で選択されたかという状態を指している。
 (4)審決の誤り
 審決は、「属する入賞ランクのリクエスト信号とは、入賞の有無を
入賞テーブルの乱数値と照合して、各入賞を特定する信号であることが認められる。」と認定するが、誤りである。正しくは、「入賞確率テーブル」、「各入賞ランクを特定する」信号である。
 本件明細書中には「入賞テーブル」との語は使用されておらず、明細書には「入賞確率テーブル」(第10図)、「入賞シンボルテーブル」(第15図)があるだけである。このうち、乱数値と照合できるのは入賞確率テーブルだけである。そして、本件発明では、入賞の有無は、乱数値と入賞確率テーブルの領域との照合によっては判定しておらず、停止した第1、第2、第3リールのシンボルナンバーの数列(シンボルの組合せに等しい)と入賞シンボルテーブルとを照合することによって行っているのである。

 審決は、入賞ランクの決定の際に何と何が照合されるのか、入賞の有無を判定する際に、何と何が照合されるのか、そして入賞ランクのリクエスト信号はどの照合に基づき発せられるのか、という重要な点で認定を誤っている。

 2 先願発明の認定の誤り(主張2)
 (1)乱数情報
 先願発明においては、ハンドルの引き倒しにより生じるハンドル信号が入力された時点で、フリーランしていた数値のデータ信号中そのタイミングで発せられた数値が乱数情報として決定される。こうして得られた乱数情報は、本件発明における「特定された乱数値」に相当する。
 (2)アドレステーブル、配当テーブル(入賞確率テーブル)
 乱数情報を管理する上で、アドレス情報を付することは慣用技術(甲第12ないし第15号証)であるから、この乱数情報に所定の演算をして、配当テーブルメモリのアドレス情報を得ることはきわめて容易である。例えば、次の【表1】のようなアドレステーブルを利用すればよい。



 【表1】                   【表2】
 (アドレステーブル)  │   (配当テーブルメモリ)                    
乱数情報  アドレス情報│ メモリアドレス 絵柄の組合せ    配当枚数  
  0〜99      A番地   │ A番地      コード01(7−7−7)       15
 100〜599     B番地   │ B番地     コード02(△−△−△)      10
 600〜1599    C番地   │ C番地      コード03(○−ALL−ALL)     2    
 1600〜N    D番地   │ D番地      コード04 はずれ        0  


 乱数値がとる領域中にアドレス情報を持たないように表を作成することは、そのプログラムの効率性や目的からあり得ない。
 配当テーブルメモリ(13)には、例えば前記【表2】のような、絵柄の組合せ及びそれに対応する配当のテーブルがストアされているから、あるメモリアドレスを乱数情報により選択することは、絵柄の組合せ情報が抽選されたことに等しい。
 ここで、アドレステーブルのアドレス情報と配当テーブルメモリのメモリアドレスとは、一対一で対応するから、アドレステーブルと配当テーブルメモリは、一体化したものとして扱うことができ、【表1】と【表2】を合わせたものは、次の【表3】と等価である。
【表3】
 乱数情報  アドレス情報   絵柄の組合せ       配当
  0〜99      A番地   コード01(7−7−7)       15

 100〜599     B番地    コード02(△−△−△)      10
 600〜1599    C番地   コード03(○−ALL−ALL)     2
 1600〜N    D番地    コード04 はずれ        0


そうすると、乱数情報がとる全領域について、格納された絵柄の組合せの種類毎に任意に設定された領域を記憶していることに等しいから、配当テーブルメモリ(13)は、本件発明の「乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する配当確率テーブル」に相当する。
 (3)読み取られた絵柄の組合せ及び配当データの格納手段(リクエスト信号発生手段)
 先願発明の「読み取られた絵柄の組合せ及び配当データの格納手段」は、本件発明の「リクエスト信号の発生手段」に相当する。
 すなわち、先願発明の特許請求の範囲には、「これら(読み取られた絵柄の組合せ及び配当)と絵柄位置情報とを比較演算してリール停止位置情報を出力する比較演算部」と記載されており、絵柄位置情報と比較演算される「読み取られた絵柄の組合せ」データは、配当テーブルの絵柄の組合せ中、どの組合せが乱数情報による抽選で選択されたかという状態を表している。この抽選で選択された絵柄の組合せ(入賞役・当選役)のデータは、本件発明における「特定された乱数値が配当テーブルと照合されることによって、その乱数値が属する入賞役・当選役を特定する信号(=状態)」、すなわち、リクエスト信号に相当する。先願発明が、この絵柄位置情報と比較演算される読み取られた絵柄の組合せを読み取って一時的に格納し、また、比較演算のためにこれを読み出す手段を有していることは明らかであり、当該手段は、本件発明におけるリクエスト信号発生手段に相当するものである。

 (4)審決の誤り
 審決は、「先願発明においては、比較演算部12は乱数情報に基づいて配当テーブルから配当と共に絵柄の組合せを読み取り、リールを所定回数回転させたのち絵柄表示位置から所定のコマ数以内に目的とする絵柄が入ったときに出力される
リール位置検出情報を出力するものであり(上記先願明細書の記載a,c,d参照)、本件発明におけるような属する入賞ランクのリクエスト信号に相当するものは発生されない。」(6頁27〜32行)と認定したが、先願発明でも、上記(3)のとおり、「属する入賞ランクのリクエスト信号」に相当するものが発生されるから、審決の認定は誤りである。
 比較演算部(12)がダウンカウンタ(25)に出力するものは
リール位置検出情報ではなく、リール停止位置情報であり、審決は、この点でまず、誤っている。
 また、先願発明では、抽選された(ランダムに決定された)絵柄の組合せ情報と絵柄位置情報(=絵柄の現在位置情報)とが比較演算され、比較演算部はリール停止位置情報を出力する。リール停止位置情報は1コマごとのカウント信号によりカウントダウンされ、その値が零になったときに停止信号を発して、目的とする絵柄が表示される位置でリールを停止せしめるから、リール停止位置情報は絵柄の組合せ情報、すなわち本件発明におけるヒットリクエスト信号に基づいて発せられるものであり、抽選の結果である絵柄の組合せ情報(=ヒットリクエスト信号)に基づき、入賞ライン上に抽選された絵柄が表示されるようにリールを停止させるものである。

 3 相違点に関する認定の誤り(主張3)
 以上1、2に述べたことから、審決のした相違点の認定が誤りであることがわかる。
 (1)相違点アについて
 先願発明のリールは複数のシンボルマークが付されたリールであることは、甲第3号証の第1図から明らかである。
 先願発明を特定する事項と対比される発明を特定する事項との間に差異があっても、それが課題解決のための具体的手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)である場合(実質同一)は同一とすべきである。
 (2)相違点イについて
 前記2に述べたとおり、先願発明における「配当テーブルメモリ」は、乱数情報がとる全領域について、配当テーブルメモリに格納された絵柄の組合せの種類毎に任意に設定された領域を記憶していることに等しいから、配当テーブルメモリ(13)は、本件特許発明の「乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する配当確率テーブル」に相当するのである。 このようなテーブルを使用することでメモリを節約することは、甲第9号証ないし甲第11号証に記載されるように、周知慣用技術である。また、乱数の範囲をもとう乱数情報とアドレス情報の関連づけについてアドレステーブルを利用することも甲第12号証ないし甲第15号証に示されるように周知慣用技術である。

 (3)相違点ウについて
 先願発明は、特定された乱数情報に基づく演算によって配当テーブルメモリ(13)の特定のアドレスが指定され、当該アドレスにストアされている「入賞役・当選役」を照合することにより、当該乱数によって抽選され特定された絵柄の組合せ(入賞役・当選役)の種類が何であるかという状態を表す情報(リクエスト信号)を一時的に格納し、比較演算のために読み出す手段(リクエスト信号の発生するリクエスト発生手段)と、前記入賞役・当選役が何であるかを示す情報(リクエスト信号)に基づいて入賞ライン上にその目的の絵柄の組合せになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えているから、両者は一致している。

4 むすび
 以上のとおりであるから、本件発明と先願発明との間に相違点(実質的相違)は存在しない。両者を同一でないとした審決は誤りである。


第4 被告の反論の要点
 1 主張1(本件発明の認定の誤り)に対して
 原告は、審決の本件発明の認定に誤りがあると主張する。
 しかし、原告の指摘する審決の認定部分は、結局、「入賞
確率テーブル(実施例では第10図)の数値(例えば100、500、1000等)と照合して、各入賞ランクを特定する」(審決6頁24行)の意であることが文脈から明らかであり、原告自身もそのように理解しているのであるから、原告の主張は失当である。原告の指摘部分に、審決の結論に影響を及ぼす誤りは存在しない。

 2 主張2(先願発明の認定の誤り)に対して
 原告は、0〜99のような乱数の範囲をもつ乱数情報とアドレス情報とを対応づけた表を、あたかも先願発明の開示事項から把握できるかのように主張するが、誤りである。
 先願発明は、乱数の
範囲を区分するものでもなければ、乱数の範囲とアドレス情報とを対応づけるものでも全くない。
 先願発明は、「絵柄の組合せおよびそれに対応する配当のテーブルがストアされている配当テーブルメモリ(13)から、乱数情報に基づくアドレスにストアされている絵柄の組合せおよび配当を読み取る」(甲第3号証2頁左下欄5〜9行)、「乱数情報に基づき配当テーブルメモリの乱数情報により指定されたアドレスから絵柄の組合せおよび配当を読み取り」(同左上欄8〜10行)というものにすぎず、乱数情報に基づくアドレスから単に絵柄の組合せおよび配当を読み取るものでしかない。

 すなわち、先願発明のものは、本件第10図のような乱数値がとる全領域中入賞ランク(単に入賞と解釈しても可)毎に任意に設定された領域を記憶する入賞確率テーブルはなく、本件発明のように「入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができ、その結果、ペイアウト率の変更も極めて容易になる」(本件明細書:甲第2号証17欄43行〜18欄2行)という作用効果を奏するものではない。

 3 主張3(相違点に関する認定の誤り)に対して
 原告の誤った解釈を前提とした表記載は誤りであるし、これらに基づく主張もまた、ことごとく誤りである。
 原告の主張はいずれも失当であり、審決の結論に誤りはない。


第5 当裁判所の判断
 審決は、本件発明と先願発明とを対比し、相違点としてア.ないしウ.を認定したうえ、相違点イ.及びウ.について検討を加え、本件発明と先願発明は同一とはいえない、と判断した。当裁判所もその判断を正当と認めるものである。理由は、以下のとおりである。


 1 本件発明について
 (1)本件特許明細書(甲第2号証の1)には、以下の記載がある(「記載@」などという。)。
   ア 一般説明
    (従来技術、本件発明の課題に関して)
    @ 「スロットマシンは・・・例えば3個のリールを高速回転させ、これらが停止された時点で所定の窓位置に現れた各リールのシンボルマークがいかなる組み合わせになっているかで入賞が決定される。・・・スロットマシンの入賞確率は、リールの外周に描かれているシンボルマークの数及び配列によって決めることができるが、遊技者の技量によってこの確率は変化する。そこで、予め最大ペイアウト率を決めておき、・・・ペイアウト率が最大ペイアウト率を越えた時には、リールの停止時期を遅らせて入賞しないように、あるいは故意的な遅れが目立つような場合には払い戻し数(配当)が少ない入賞配列となるように、リールを制御すれば、常に設定されたペイアウト率を維持することが可能になる。・・・このような制御では、入賞するかしないかが極端に現れてしまい、ゲーム意欲を失わせることになる。また、・・・個々のスロットマシンのかたよった特性がそのまま現れてしまうことになる。

     本発明は、かかる事情を考慮してなされたもので、所定のペイアウト率を保ちながら、全ての入賞配列が所定の割合で出現するように改良したスロットマシンを提供することを目的とするものである。
     本発明の別の目的は、個々のスロットマシンが持っているかたよった特性が現れないように改良したスロットマシンを提供することを目的とするものである。」(3欄2行〜4欄4行)
    (課題解決手段に関して)
    A 「本発明スロットマシンでは、ゲーム毎にサンプリングされる乱数値を予め設定記録された入賞確率テーブル中の数値と照合してその入賞を決定するようにしてある。そして、こうして決定された入賞に見合うシンボルマークの組み合わせが得られるように、あるいは得られ易いように、各リールをリールストップボタンが操作されてから停止させるまでの間に監視制御するものである。なお、入賞確率テーブル中の入賞に対応する数値の個数は予定する入賞確率に応じて設定されることになる。また、ストップボタンのあるスロットマシンにおいては、ストップボタンの操作タイミングとリールの停止タイミングとが極端にずれると不自然な感じを遊技者に与えてしまうことになるが、本発明の望ましい実施例によればこのような点についても十分な対処ができるようになる。」(4欄5行〜22行)

   (効果に関して)
    B  「本発明によれば、まずスタートレバーの操作タイミングという任意性のある時点で、乱数値をサンプリングし、このサンプリングされた値を入賞確率テーブルと照合してヒットリクエストを発生させる。そして、このヒットリクエストに応じた入賞が得られるように各リールを制御する・・・そして本発明は、入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができ、その結果、ペイアウト率の変更も極めて容易になる。しかも、乱数発生手段から発生する乱数値の発生幅(領域)を大きくとることができるので、入賞ランクの発生確率の変更単位も極めて小さな単位で変更でき、ペアウト率(「ペイアウト」の誤記と認められる。)が約同一で大ヒット、中ヒット、小ヒット等の入賞ランクの組み合わせを自由に設定変更でき、ペイアウト率がほぼ同一でも各入賞ランクの発生度合いが異なるスロットマシンなど、スロットマシン1台1台毎異なるタイプのスロットマシンを簡単に得ることができる。」(17欄33行〜18欄12行)

    イ 実施例に即した説明
     C 「ROM51には前述したシンボルマークとシンボルマークコード対応表、入賞に相当するシンボルマークコードおよび入賞メダル支払い枚数表の他、実行されたゲームに関して入賞させるか否かを決定し、入賞させる場合にその入賞の高低に応じたヒットリクエストを発生させる入賞確率テーブルなどがストアされている。」(6欄24行〜31行)
   D 「本発明の特徴であるヒットリクエストの発生に関して詳述する。ヒットリクエストの発生は、前述のようにゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROM上の入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果得られることになる。」(7欄37行〜42行)
   E 「こうして決定された乱数値は・・・入賞確率テーブルと照合され、大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生、または中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断、処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチェックされることになる。」(8欄35行〜44行)

   F 「第10図は入賞確率テーブルの概念図である(判決注:投入メダル数1〜3のときに、大ヒットに数値B1〜3、中ヒットに数値M1〜3、小ヒットに数値S1〜3を設定することを示す表が掲載されている。)。・・・例えば第7図により発生される乱数値が0〜Nの範囲の値であると、・・・大ヒットの確率はB1/N・・・となり、B1、M1、S1それぞれの値がB1=100、M1=500、S1=1000であるとすると、サンプリングされた乱数値が100未満であれば大ヒット、100以上600未満であると中ヒット、600以上1600未満なら小ヒットの各リクエストが発生され、1600以上ではヒットリクエストなしとなるものである。従ってこの入賞確率テーブルはいわば入賞の確率を決定する機能をもつと言える。」(9欄4行〜23行)
 (2)上記(1)の各記載によれば、本件発明は、従来のスロットマシンのようなリールの停止時に窓位置に現れたシンボルマークの組合せによって入賞を決める構成では、所定のペイアウト率を維持しようとしたときに種々の難点があることにかんがみ、この難点を解消すべく、ゲーム開始時にサンプリング手段によって特定された乱数値を入賞確率テーブルと照合し、当該乱数値が属する入賞ランクのリクエスト信号を発生させ、このリクエスト信号に基づいて、その入賞ランクのシンボルマーク(絵柄)の組合せが表示されるように各リールの停止位置を制御するようにした構成のものであると認められる。そして、この構成により、「入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができ」、「ペイアウト率の変更も極めて容易になる。」、「ペイアウト率が約同一で大ヒット、中ヒット、小ヒット等の入賞ランクの組合せを自由に設定変更でき、・・・一台一台毎異なるタイプのスロットマシンを簡単に得ることができる。」等の効果を奏するものである。
 (3)審決は、先願発明には、本件発明の「(乱数値の)入賞ランク毎に設定された領域を記憶する入賞確率テーブル」、「特定された乱数値が属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段」に相当するものが存在しないとし、その当否が本件の争点となっている。そこで、これを判断する前提として、本件発明の「入賞ランク」、「入賞確率テーブル」、「リクエスト信号」について検討すると、次のとおりである。
   ア 「入賞ランク」 
 「入賞ランク」とは、本件明細書中に定義はないが、発明の詳細な説明欄の記載によれば、例えば「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」等の入賞の等級(ランク)ないし種類を意味するものと認められる。この点に争いはない。
   イ 「入賞確率テーブル」
 「入賞確率テーブル」は、本件特許請求の範囲に、「乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中前記入賞ランク毎に設定された領域を記憶する入賞確率テーブル」と記載されており、発明の詳細な説明を参酌すると、例えば入賞ランク「大ヒット」については0〜99、入賞ランク「中ヒット」については100〜599というように、入賞ランクと区分された乱数の領域(乱数値の範囲)とを対応させているものである。そして、特定された乱数値が「入賞確率テーブル」と照合されることにより、当該乱数値がどの「入賞ランク」に属するかが特定され、「属する入賞ランクのリクエスト信号」が発生される。このことについても争いはない。

 入賞ランクと乱数の領域(乱数値の範囲)との対応関係は、「入賞テーブルの各入賞ランクの領域幅を変える」ことにより簡単に変更可能なものとされている(記載A、B、F)。
   ウ 「リクエスト信号」
 「リクエスト信号」は、特許請求の範囲に、「属する入賞ランクのリクエスト信号」と記載され、発明の詳細な説明に、「(入賞確率テーブルと照合された乱数値が)大ヒットに該当する値であれば大ヒットリクエスト信号の発生」と記載されているように、各「入賞ランク」に対応する信号(例えば、入賞ランクが「大ヒット」なら「大ヒットリクエスト信号」等)である。
 このリクエスト信号に基づいて、リールストップ制御手段は、当該乱数値の属する入賞ランクのシンボルマーク(絵柄)の組合せが現れるように、各リールのストップ位置を決定し、制御する。

 なお、実施例には、各入賞ランクについてそれぞれ複数のシンボルマークの組合せが存在するもの(第15図の入賞シンボルテーブル)が示されている。
 (4)以上(1)ないし(3)で検討したところによれば、本件発明の「入賞確率テーブル」は、ゲーム開始時のサンプリングにより特定された乱数値がどの「入賞ランク」に属するかという「入賞ランク」の特定をするためのものであって、個々の乱数値を、直接、「シンボルマーク(絵柄)の組合せ」及びこれによって決まる配当に対応付けるものではない。本件発明において、ある乱数値が特定されたときにどのシンボルマークを表示するかは、特許請求の範囲に「前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段」と記載されているように、「入賞ランク」につき予め定められた「入賞ランクのシンボルマークの組合せ」(例えば実施例における第15図の入賞シンボルテーブル)に基づいて、リールストップ制御手段が制御しているものである。

 このように、本件発明では、得られた乱数値を、シンボルマークの組合せ(及びこれによって決まる配当)と対応させるのではなく、「入賞ランク」に対応させることによって、乱数値と表示すべきシンボルマークの組合せとを分離した取り扱いをしており、このことが本件発明の1つの特徴であると認められる。そして、本件発明の効果とされる「入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができ」(記載B)という可変性は、表示すべきシンボルマークの組合せとは切り離して「入賞ランク」だけを決める「入賞確率テーブル」を介在させることによってもたらされているということができる。

 2 先願発明について(本件発明との対比)
 以上1に認定したところを前提にして、先願発明を検討する。
 (1)甲第3号証(特開昭59−40883号公報)によれば、先願発明は、その特許請求の範囲に、
  「1(A) ハンドルの引き倒しにより生ずる信号を検出するハンドル信号検出部、
    (B) 該ハンドル信号検出部からの信号により乱数情報を決定する乱数発生回路、
    (C) 回転しているリールの絵柄位置情報を作成する絵柄位置検出部、
    (D) 前記乱数情報に基づき配当テーブルメモリの乱数情報により指定されたアドレスから絵柄の組合せおよび配当を読み取り、かつこれらと絵柄位置情報とを比較演算してリール停止位置情報を出力する比較演算部、および
    (E) リール停止位置情報に基づき前記決定された絵柄の組合せでリールを停止せしめるリール停止部

    からなるスロットマシンのリール停止機構。」
と記載されるとともに、発明の詳細な説明欄において以下のとおり説明されている(以下の記載を「記載(a)」などという。)。
   (a)「ハンドル(2)が引かれると、スイッチ(4)がONとなり信号を発するが、この信号はチャタリングやノイズを含んでいるため波形成形部(5)で波形を成形したのちタイマ(6)に送られる。スイッチ(4)と波形成形部(5)とタイマ(6)とはハンドル信号検出部(7)を構成している。」(甲第3号証2頁右上欄8〜13行)
   (b)「タイマ(6)の出力信号は乱数発生回路(8)のラッチ(9)にデータラッチ信号として入力される。・・・フリーランの状態のデータが常に入力されているラッチ(9)に前記タイマ(6)からのハンドル信号が入力すると、ハンドル信号の入力時のデータに基づく乱数情報(配当テーブルメモリ(13)のアドレス情報)がラッチ(9)から比較演算部(12)に送られる。」(同2頁右上欄14行〜左下欄4行)

   (c)「比較演算部(12)では、絵柄の組合せおよびそれに対応する配当のテーブルがストアされている配当テーブルメモリ(13)から、乱数情報に基づくアドレスにストアされている絵柄の組合せおよび配当を読み取る。」(同2頁左下欄5行〜9行)
   (d)「比較演算部(12)では前記乱数によりランダムに決定された絵柄の組合せ情報と絵柄位置検出部(20)からの現在位置情報とを比較演算し、リール停止位置情報をリール停止部(24)のダウンカウンタ(25)に出力する。」(同2頁右下欄19行〜左上欄3行)
   (e) 「以上のように、本発明においては絵柄の組合せを乱数によって決定するので、完全に確率に基づく絵柄の組合せをうることができ、しかもその組合せで正確にリールを停止することができる。」(同3頁右上欄7〜11行)
 (2)先願明細書の上記特許請求の範囲の記載及び記載(a)〜(e)によれば、先願発明では、乱数情報(乱数値)を配当テーブルメモリ(13)のアドレス情報として用いている。したがって、乱数情報に基づいて配当テーブルメモリ(13)から読み出されるもの(具体的には、乱数値により指定されたアドレスから読み出されるもの)は、「絵柄の組合せ及び配当」の情報であることが明らかである。

 そして、乱数値と配当テーブルメモリ(13)のアドレスとが対応し、配当テーブルメモリ(13)の各アドレスには特定の「絵柄の組合せ及び配当」がストア(格納)されているから、結局、先願発明においては、乱数値と「絵柄の組合せ及び配当」とが対応しており、乱数値が定まれば、これに対応する「絵柄の組合せ及び配当」が一義的に決まる関係にあるということができる。このことは、先願明細書の「本発明においては絵柄の組合せを乱数によって決定するので、完全に確率に基づく絵柄の組合せをうることができ」との記載(e)に端的に表現されているところである。
 そうすると、先願発明には、「乱数値がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶」し、各入賞ランクの領域幅(各入賞ランクについて設定する乱数値の範囲)を変えることにより入賞確率の変更を可能とするような、本件発明の「入賞確率テーブル」に相当するものは存在しないというべきである。

 (3)原告は、先願発明のアドレステーブルのアドレス情報と配当テーブルメモリのメモリアドレスとは一対一で対応するから、アドレステーブルと配当テーブルメモリとは一体化したものとして扱うことができる旨主張し、乱数値のある領域をまとめて1つのアドレスに対応させることは慣用技術であるから、慣用技術を前提にすると、先願発明においても「乱数情報がとる全領域について、配当テーブルメモリに格納された絵柄の組み合わせの種類毎に任意に設定された領域を記憶」しているということができると主張する。
 しかし、既に検討したとおり、先願明細書には、乱数情報に基づく配当テーブルのアドレスから「絵柄の組合せ及び配当」を読み取り、読み取った情報に基づいてリールの停止位置を制御することしか記載されておらず、また、作用効果についても、「以上のように、本発明においては絵柄の組合せを乱数によって決定するので、完全に確率に基づく絵柄の組合せをうることができ、しかもその組合せで正確にリールを停止することができる。」(3頁右上欄7〜11行)と記載されるのみである。そうすると、仮に、先願明細書に記載された事項から原告の主張する【表3】のようなテーブルを想定することができたとしても、そのテーブルは、ある範囲の乱数情報を一括して特定のアドレスに対応させることによって、乱数情報と当該アドレスに対応する特定の「絵柄の組み合わ及び配当」とを対応させているものでしかない。つまり、この場合も、乱数情報によって決まるものが、特定の「絵柄の組合せ及び配当」であることに変わりはなく、先願明細書には、本件発明のように、乱数情報(値)と「絵柄の組合わせ及び配当」との間に「入賞ランク」を決定するための「入賞確率テーブル」を介在させることにより両者の対応関係を可変なものとする技術思想は、何ら開示されていないというべきである。
 なお、原告が慣用技術を示すものとして提出した証拠を念のため検討すると、甲第9号証(特開昭54−124645号公報)、甲第10号証(特開昭57−53800号公報)、甲第11号証(特開昭57−182244号公報)、甲第12号証(「Basic Computer Games マイクロコンピュータ・ゲーム集 日本語版」アスキー出版1979年)、甲第13号証(「マイコン」1978年2月号)、甲第14号証(「パソコンBASIC入門」朝日新聞社1982年)、及び甲第15号証(「PC−8001 BASICゲームブック」アスキー出版1979)には、テーブルを用いることによりメモリを節約する技術や、乱数の範囲をもつ乱数情報とアドレス情報とを関連付ける技術が記載されている。しかし、いずれのものも、スロットマシンの技術分野に関するものではないうえ、乱数の範囲をもつ乱数情報と、アドレス情報や絵柄・配当あるいは入賞ランクを対応付けたテーブルを使用するものでもなく、これらの証拠を考慮しても、乱数情報の領域とメモリアドレス及び絵柄の組合せを対応付けて【表3】のようなテーブルとすることが先願明細書の記載から自明ないし当業者が当然読み取ることのできる事項であるということはできない。
 したがって、先願明細書に「入賞ランク毎に設定された領域を記憶する入賞確率テーブル」に相当するものが記載されている旨の原告の主張は採用することができない。
 (4)原告は、配当テーブルメモリから読み出された絵柄の組合せ及び配当のデータを一時的に格納し、リール停止位置情報を出力するための比較演算を行う手段は、本件発明のヒットリクエスト信号の発生手段に相当する旨主張し、このことに関連して、審決は、「リール位置検出情報」が出力されるという誤った認定を行ったと主張する。
 しかし、先願発明は、入賞確率テーブルの「入賞ランク毎に任意に設定された(乱数値)の領域」と照合することによって「特定された乱数値が属する入賞ランク」を決めるものではないから、本件発明の「属する入賞ランク」に応じた「リクエスト信号」に相当するものも存在し得ないことは明らかである。本件審決が「リール位置検出情報」が出力されるとする認定は誤りであるとしても、先願発明に本件発明の「リクエスト信号」に相当するものがない以上、原告の指摘する誤りが審決の結論に影響を与えるものとはいえない。


 3 結論
 以上検討したところによれば、審決が、先願発明は配当テーブルに「配当と共にそれに対応する絵柄の組合せも記憶されている」点で、本件発明が入賞確率テーブルに「乱数がとる全領域中入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する」のと異なり、この相違に基づき先願発明では、本件発明のような「属する入賞ランクのリクエスト信号」は発生されず、また、本件発明のように「入賞確率テーブルの各入賞ランクの領域幅を変えるだけで、各入賞ランクの発生する確率を簡単に変えることができる」等の効果を奏することもない、との理由により、本件発明と先願発明とが同一ではないと判断したことに誤りはない。
 審決の誤りをいう原告主張の審決取消事由は理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
     東京高等裁判所第18民事部


       裁判長裁判官   塚   原   朋   一


                   裁判官   古   城   春   実


          裁判官   田   中   昌   利