◆H15. 4.22 大阪地裁 平成14(ワ)3309 商標権 民事訴訟事件
平成14年(ワ)第3309号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年2月5日
判 決
原 告 サプロン建材工業株式会社
訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
同 中 道 徹
補佐人弁理士 山 口 栄 一
被 告 西日本金網工業株式会社
訴訟代理人弁護士 宮 崎 誠
同 平 野 惠 稔
同 浅 田 和 之
同 林 依利子
補佐人弁理士 吉 村 勝 俊
主 文
1 被告は、原告に対し、金7273万1868円及びこれに対する平成14年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した鉄筋組立ユニットに関する広告、定価表、取引書類を展示し、頒布してはならない。
3 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した鉄筋組立ユニットに関する広告、定価表、取引書類を廃棄せよ。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
6 この判決は、第1項ないし第3項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 元金部分を「金1億5000万円」とするほか、主文第1項と同じ(附帯請求の起算日は訴状送達日の翌日であり、不法行為のあった日の後である。)
2 主文第2項と同じ。
3 主文第3項と同じ。
4 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した鉄筋組立ユニットを生産し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
5 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した鉄筋組立ユニットから、別紙標章目録記載の標章を抹消せよ。
第2 事案の概要
本件は、原告の有する商標権を被告が侵害しているとして、原告が、被告に対し、民法709条、商標法38条1項に基づき、損害賠償を請求するとともに、商標法36条1項2項に基づき、その侵害行為の差止等を請求した事案である。
(基本的事実)(当事者間に争いがないか、後掲各証拠又は弁論の全趣旨により認められる。)
1(1) 原告は、各種住宅建材の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 株式会社テザック(以下「テザック」という。変更前の商号「帝国産業株式会社」)は、土木建築材料の製造、加工及び売買並びに土木建築工事の設計及び施工等を目的とする株式会社である(テザックは、本件訴訟の相被告であったが、訴訟手続を中断している。)。
(3) 被告は、鉄筋の加工及び販売等を目的とする株式会社である。
2(1) 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」という。)を有している。
登録番号 第2713755号
出願年月日 昭和58年12月7日(昭58−116014)
出願公告年月日 平成7年5月15日(平7−57003)
登録年月日 平成8年5月31日
商品の区分 第7類
指定商品 建築又は構築専用材料、セメント、木材、石材、ガラス。ただし、「建築基礎用組立鉄筋、その他の金属製建築又は構築専用材料」以外の建築又は構築専用材料、セメント、木材、石材、ガラスを除く。
登録商標 別紙標章目録記載のとおり(以下「本件標章」という。)。
(2) 原告と代表者が同一である林精工株式会社(以下「林精工」という。)は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。なお、その考案を「本件考案」という。)を有していた(乙8、13、14)。
登録番号 第1634239号
出願年月日 昭和57年8月2日(昭57−118015)
出願公告年月日 昭和60年10月3日(昭60−33158)
登録年月日 昭和61年4月8日
考案の名称 木造住宅基礎構築用筋枠
実用新案登録請求の範囲
一対の平行に延びる両側筋に複数個の横筋の両端部を所望間隔毎に溶接部により溶接し、これら横筋の中央部には上記両側筋と平行な軸筋を回動すべく支持し、この軸筋には縦筋の下端を所望間隔毎に溶接部により溶接し、これらの縦筋の端部及び中央部にも上記両側筋と平行に延びる筋を夫々溶接部により溶接してなる木造住宅基礎構築用筋枠。
3(1) 林精工は、昭和59年3月30日、テザックとの間で、当時、実用新案登録出願中であった本件考案について、次の内容のノウハウ実施契約を締結した(乙1。なお、同契約書記載の出願番号「11801」は、乙13、14に照らし、「118015」の誤記と認める。)。
ア 林精工は、テザックが本件考案を使用して基礎鉄筋ユニットの製造及び販売をすることを許諾する。
イ テザックに許諾された基礎鉄筋ユニットの製造販売地域は、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県及び滋賀県に限る。
ウ テザックは、本件考案実施の対価として、林精工に対し、約定の実施料を支払う。
エ 本契約の有効期間は、契約締結日から10年とする。ただし、期間満了3か月前までに、林精工又はテザックから書面による変更若しくは解約申入れのない場合には期間1年毎に自動更新される。
(2) 林精工及びテザックは、昭和59年7月7日、本件考案の実施品である基礎鉄筋組立ユニットの販売に関し、第1回スーパーベース懇談会に参加し、同懇談会において、日本スーパーベース協会の設立が決定された(乙3)。被告も、平成8年に同協会に加入した(丙2)。
(3) 林精工は、昭和60年2月13日、テザックとの間で、スーパーベース(ただし、本件考案に係る基礎鉄筋ユニットで、林精工が日本建築センターに評定申込をして取得した商品名「スーパーベース」の評定の中の組立鉄筋の部分をいう。)について、次の内容の契約を締結した(乙5)。
ア 林精工は、テザックがスーパーベースの製造及び販売をすることを許諾する。
イ 本契約は、上記(1)のノウハウ実施契約に対し、効力を及ぼすものではない。
ウ 本契約の有効期間は、上記(1)のノウハウ実施契約の期間満了までとする。
(4) 林精工は、昭和61年12月25日、テザックとの間で、本件実用新案権について、次の内容の専用実施権設定契約を締結し(乙6)、同62年2月23日、その登録がされた(乙13)。
地 域 大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県及び滋賀県
期 間 本件実用新案権の存続期間満了まで
内 容 全部
4(1) テザックは遅くとも平成8年5月31日以降、被告は遅くとも平成9年1月1日以降、いずれも本件標章を付した鉄筋組立ユニットを生産し、これを譲渡していた(甲3〜6)。
(2) 日本スーパーベース協会の会員4社(三栄商事株式会社、新光産業株式会社、株式会社タツミ及びテザック)により、本件商標の登録を無効とする旨の無効審判請求がされたが、同審判請求は成り立たない旨の審決がされ、その審決取消訴訟(東京高等裁判所平成12年(行ケ)第212号、甲9)においても、平成13年10月31日、請求棄却判決がされた。
(争点)
1 本件商標権の共有
(被告の主張)
本件商標権は被告を含む日本スーパーベース協会会員の共有に属するものである(その根拠としては、@原告による本件商標登録出願は、日本スーパーベース協会という団体設立準備行為としてなされたものである、又は原告の本件商標登録出願の地位が、日本スーパーベース協会の設立により、同協会に移転した。A本件標章は、そもそも商標たり得ないものであったところ、日本スーパーベース協会会員の共同使用により初めて自他識別機能を有するに至った。Bテザックらによる無効審判請求及びこれに続く審決取消請求訴訟の提起も、紛争解決手続として選択したものにすぎない。)。
したがって、被告は、本件商標権の共有者として本件標章を使用することができるから、本件商標権の侵害はない。
(原告の主張)
被告の主張は否認する。本件商標権を日本スーパーベース協会会員の共有とする旨の合意はないし、これを共有とした登録もない。
2 本件商標権の非侵害
(被告の主張)
次の点に照らすと、被告による本件標章の使用は、商標としての機能(商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能)を果たさない使用にすぎなかったから、本件商標権の侵害はない。
(1) 被告が「スーパーベース」という鉄筋組立ユニットをハウスメーカーに販売するに際し、同商品自体には本件標章は付されておらず、わずかにその取引書類において本件標章が使用されているにすぎない。すなわち、需要者であるハウスメーカーとしては、日本スーパーベース協会会員が製造した各メーカーの指定する仕様どおりの商品ということに着目するのであって、本件標章に着目して取引をするわけではないから、その出所を混同する可能性は全くなかった。
(2) 本件標章が記載された被告商品カタログの配布対象は、既にその購入を決定していた者(各ハウスメーカーの下請現場施工業者)であって、新たな取引を誘引するものではなかった。
(原告の主張)
被告による本件標章の使用があることは明らかである。「日本スーパーベース協会会員が製造した商品である。」という被告の主張(1)は、むしろ本件標章に商品識別機能があることを自認するに等しい。また、商品識別機能がある以上、積算資料や被告作成のカタログに本件標章を使用すれば、宣伝広告機能等の機能も有することになるから、商標的な使用であることは明らかである。被告の主張(2)は否認する。
3 本件標章の使用についての明示又は黙示の許諾
(被告の主張)
次の点に照らすと、原告は、遅くとも昭和59年7月7日(日本スーパーベース協会の設立決定時)までに、日本スーパーベース協会の会員が、同会員である限り、本件標章を統一的かつ各社自由に使用することを少なくとも黙示に許諾した。
(1) 代表者が原告と同一である林精工は、テザックとの間の昭和59年3月30日付けノウハウ実施契約及び昭和61年12月25日付け専用実施権設定契約の各締結に際し、本件標章につき商標登録出願中である旨を説明することもなく、これを秘匿し、本件標章について何らかの要求等をすることも全くなかった。原告の主張(1)について、特定の商品名の宣伝広告が商標出願に当然に結びつくものではないから、被告が本件商標出願を知り得ることにはならない。
(2) 日本スーパーベース協会は、本件標章を付した商品の普及を目的として設立されたものであり、これを主宰していたのは実質的には原告であって、自らも同協会に所属して中心的役割を果たしていた(原告と代表者が同一である林精工は、日本スーパーベース協会の設立決定に際し、本件標章の使用を前提とした宣伝広告活動費等の費用負担や各地域毎の製造販売活動の分担等を取り決め、テザックを含む同協会会員に本件標章を付した商品の普及に努めさせていた。)ところ、同協会の名称から考えても、同協会の会員が本件標章を使用することは当然に予定されていた。
(3) 原告による本件標章の使用許諾は、本件考案に関する昭和59年3月30日付けノウハウ実施契約の有効期間とは無関係である。すなわち、仮に本件標章の使用期間が上記ノウハウ実施契約の有効期間に限られるとすれば、日本スーパーベース協会の会員としては、本件標章を使用する必然性がなかったにもかかわらず、当初から使用期間が限定されており、将来は他社が独占的に使用することになる標章を、宣伝広告費等の費用を負担してまで、長年にわたり、その販売拡張に向けて営業努力を続けることなどあり得ない。原告の主張(3)について、同協会会員は、本件標章について何らの努力をしてこなかった原告がこれを独占することを阻止するための法的手段として、無効審判請求を選択したにすぎないから、使用許諾があったことを否定する根拠とはならない。
(4) 被告の関係では、被告が平成8年(本件考案に関する実施契約の終了後)に日本スーパーベース協会に加入し、本件標章を付した商品を製造販売するについて、原告が被告の本件標章の使用につき何ら異議を述べたことはなかった。むしろ、平成10年ころまでは、原告の営業担当者は、被告の営業担当者に同行して顧客回りをするなど被告の援助を得ていたし、平成12年6月ころまでは、原告仕様の商品を欲するハウスメーカーから、その指定業者であった被告が、原告からその商品を仕入れるという協力関係にあったほどである。
(原告の主張)
原告が、昭和59年7月7日(日本スーパーベース協会の設立決定時)までに日本スーパーベース協会会員に本件標章の使用を許諾したことは否認する。
(1) 被告の主張(1)について反論すると、一般に、メーカーが特定の商品名を使用して宣伝広告を行う以上、その商品名について商標登録出願をするのは常識であるところ、原告は、昭和59年7月7日以前から、本件標章を基礎鉄筋ユニットの商品名として新聞(甲7の1ないし5)等により大々的に宣伝していたのであるから、日本スーパーベース協会の会員も、本件標章について商標登録出願されていたことは当然に知り得た。また、日本スーパーベース協会の設立決定時である昭和59年7月7日の時点では、本件商標登録出願は未だ登録されておらず、商標権自体が存在しなかった以上、その権利主張をしないことは当然である。これに対し、原告は、本件商標登録出願の登録後は、速やかに本件商標権に基づく警告を発し、権利主張(乙8、9)を行っている。
(2) 被告の主張(2)については、協会にいかなる名称を使用するかということと、商標登録された本件標章の使用を許諾するかということとは、全く別個の問題である。
(3) 仮に、被告の主張(3)のように、対価を無償とし、その契約期間を無限定とする使用許諾があったとすれば、テザックらが本件商標権について無効審判請求をすることなどはあり得なかったはずである。テザックらは、審決取消請求訴訟における主張(甲9)において、本件標章の使用に関して特別な許諾契約はなく、許諾されているという意識もなかったことを認めていた。
(4) 被告の主張(4)について反論すると、被告が日本スーパーベース協会に加入した当時は、本件商標の有効性が争われており、権利の有効性が浮動的な状態であったから、原告が、その権利主張をしなかったからといって、使用許諾を与えていたことにはならない。また、原告から購入した純正品に本件標章を使用することができることは当然のことにすぎないから、被告主張の使用許諾があったことにはならない。
4 原告の信義則違反又は権利の濫用
(被告の主張)
(1) 争点3の被告の主張(1)と同じ。また、林精工に代わって日本スーパーベース協会の会員となった原告も、本件商標登録出願の事実を秘匿したまま、同協会の活動を続けていた。
(2) 原告は、日本スーパーベース協会の諸活動により本件標章が一般に普及し、本件実用新案権に関するノウハウ実施契約が終了した後になって、突然、本件商標権に基づく権利行使を行った。
(3) 林精工及び原告が日本スーパーベース協会を脱会するに至った次のような経緯に照らすと、原告はむしろ本件標章を付した商品の販売拡大を阻害するような行動に出ていたのであるから、原告の本件商標権に基づく権利行使は許されない。
ア 林精工は、平成元年ころ、本件考案の改良品について実用新案を出願し(実願平1−51758号)、関東地区でこれを販売していた。林精工のかかる行為は、本件考案のノウハウ実施契約6条(本件考案に関する改善案について実用新案等を出願するときは、その実用新案権等は各会員の共有とする。)に違反する。ところが、林精工が、これを争ったため、日本スーパーベース協会会員が、林精工の上記実用新案を受ける権利を1000万円で買い取らざるを得なかった等の問題を生じさせた。また、林精工は、平成元年ころ、本件考案の実施品又はその類似品を日本スーパーベース協会会員でない第三者に販売しようとした。これは本件考案のノウハウ実施契約3条6項に違反する。さらに、平成3年7月ころには、林精工の関与によると思われる本件考案の改良品が製造販売されていた。
イ 林精工及び原告は、日本スーパーベース協会会員として、大手ハウスメーカー指定の仕様商品を製造してその販路を拡大すべき義務を負っていたにもかかわらず、自社規格商品しか製造しなかった。
ウ 林精工及び原告は、平成4年ころから、日本スーパーベース協会の会費や広告費を納入しなくなり、同協会の会合に参加しないようになっていった。
(4) 争点3の被告の主張(4)と同じ。原告は、四国地区における自社商品又は被告商品の販売活動を通じて、原告及び被告が一体として相互に販売力を補完していったことを知悉しており、実際にも、原告は、被告の販売活動と自己の販売活動とを関連づけることにより、営業上の利益を上げていた。
(原告の主張)
(1) 争点3の原告の主張(1)と同じ。被告の主張(1)については、本件商標権が登録された時点では、日本スーパーベース協会は、原告とは無関係に運営されていたから、信義則違反や権利の濫用を基礎づけるものではない。
(2) 被告の主張(2)は否認する。本件標章の普及に努めたからといって、商標登録された本件標章を無断で使用してよい理由とはならない。本件訴訟の提起も、本件商標権の有効性がテザックらにより争われていたため、この紛争解決を待って行われたものであり、何ら不当ではない。
(3) 被告の主張(3)は否認する。
(4) 争点3の原告の主張(4)と同じ。被告の主張(4)について、被告の販売活動により、原告が営業上の利益を上げたことはなく、かえって原告商品の売上げは減少している。
5 差止め等の必要性
(原告の主張)
(1) 被告は、本件標章を付した鉄筋組立ユニットを生産し、譲渡し、譲渡のために展示している。すなわち、日本スーパーベース協会の会員であるテザックが、本件標章を付した鉄筋組立ユニットを生産し、譲渡し、譲渡のために展示していたことを認めており、テザックを窓口として自社商品を販売していた被告も、テザックと同じ営業方法を採っていると推認される。
(2) 被告は、平成9年1月1日以降、本件標章を付した鉄筋組立ユニットに関する広告、定価表、取引書類を展示し、頒布している。すなわち、被告は、平成13年6月1日発行「積算資料ポケット版2001年後期編」(甲3、8)のみならず、同年12月1日発行「積算資料ポケット版2002年前期編」(甲6)において、本件標章を未だ使用している。被告の主張(2)について、その掲載料を日本スーパーベース協会が支払っている以上、記事ではなく、広告であることは明らかである。
(被告の主張)
(1) 被告は、その生産譲渡等に係る鉄筋組立ユニットそれ自体に本件標章を付したことはない。
(2) 被告が、平成9年1月1日以降、鉄筋組立ユニットに関する定価表や取引書類の展示について本件標章を付したことは認めるが、平成13年11月ころまでには、本件標章の使用をすべて中止した。すなわち、平成13年10月31日、テザックらによる審決取消訴訟の請求棄却判決がされたことを踏まえ、被告は、本件標章に代えて「ミレニアムベース」という標章を使用するようになり、日本スーパーベース協会の名称も「日本ミレニアムベース協会」に変更したから、差止め等の必要性はない。原告主張(2)の掲載部分は、記事であって、広告ではない(この掲載料は日本スーパーベース協会から支払われた。)し、情報の基準時も平成13年10月時点までのものにすぎない。「積算資料ポケット版2002年前期編」の広告欄には本件標章は使用されていない(乙11)。
6 原告の損害
(原告の主張)
(1) 「侵害の行為を組成した商品」(商標法38条1項本文)は、T字型の鉄筋組立ユニットに限られるものではなく、それ以外の鉄筋組立ユニット(L字型、I字型、その他)も含まれる。また、鉄筋組立ユニット以外の鉄筋も含まれる。
(2) 被告の平成9年1月1日から同13年12月31日までの間における本件標章を付した上記(1)の商品の「譲渡数量」(原告商品と被告商品の個々の販売価格はほぼ同一であるから、譲渡数量は売上高(単位数量である1s当たり100円)として金額的に把握できる。)は5億4000万円であり、少なくとも被告作成の売上一覧表(丙5の1)のとおり、4億8313万4681円を下らない。
原告の利益率は、30.73%(100−66.9(売上原価)−2.26(旅費交通費及び燃料費)−0.11(広告宣伝費)=30.73)である(単位数量1s当たり30.73円)。したがって、原告の総損害額は次のとおりであり、原告は内金1億5000万円を請求する。
商標権者が受けた損害 4億8313万4681円×0.3073=1億4846万7287円
弁護士費用 1400万円
(3) 「侵害の行為がなければ販売することができた」(商標法38条1項本文)について
全国の色々な業者による販売であっても、日本スーパーベース協会の各会員が地域割りの販売を行うことができるのは、「スーパーベース」という統一ブランドの信用力が確立されており、ハウスメーカーを始めとする顧客は、「スーパーベース」というブランドの付された商品さえ購入すれば、同一の商品を購入できるという信頼があるためである。また、原告は、被告と同様に、四国地方を商圏としている。したがって、市場における代替関係もあるから、被告の「侵害の行為がなければ販売することができた」ことは明らかである。
(4) 「商標権者の使用の能力」(商標法38条1項本文)について
原告主張の「譲渡数量」は1年間当たり108万s(540万s/5年)であり、原告の平成12年売上高(約2億5600万円。1s当たり100円で換算すれば、約256万s)を基準としても、約42%(108万s/256万s)の増産をすれば足りるから、原告に上記の使用能力があることは明らかである。
(5) 「商標権者が販売することができないとする事情」(商標法38条1項ただし書)について
日本スーパーベース協会との関係で、原告の販売地域を徳島県内に限る旨の定めはなかったし、実際上も、原告は、香川県内に存する被告を含め、徳島県以外の四国地方にも鉄筋組立ユニットを多数出荷していたから、上記事情は何ら存しない。
(被告の主張)
(1) 「侵害の行為を組成した商品」(商標法38条1項本文)は、T字型の鉄筋組立ユニットに限られる。すなわち、被告は、鉄筋組立ユニットそれ自体には本件標章を付しておらず、カタログ(甲4、5)や積算資料(甲3、6)に本件標章を付したにとどまる。そして、被告のカタログ中、本件標章の上部には「住宅基礎鉄筋ワンタッチユニット」と、その商品説明においてもセールスポイントとして「ベース筋、立上筋を一つのユニットとして製作」する旨が記載され、表紙及び内側に掲載された写真や図に示されているのも、T字型の鉄筋組立ユニットのみであるから、同カタログが対象とする商品は、鉄筋組立ユニットのうち、ベース筋と立上筋を一つのユニットとしてワンタッチで使用できる性能を有するT字型のものに限られる。上記積算資料においても、「ベース筋と立上り筋を一体化した新しいタイプ」、「ワンタッチで組み立てできる」旨が記載されており、このような特徴を有するものは、同様に、T字型の鉄筋組立ユニットに限られる。このことは、テザックと林精工との間で締結されたノウハウ実施契約書(乙1)上、「スーパーベース」という商品名が、林精工の有する実用新案権(実用新案登録第1634239号)の実施品についてのものであることからも明らかである。ただし、被告は、その生産販売に係る鉄筋組立ユニットのうち、本件当時、本件標章以外の商品表示を使用したことはない。
(2) 被告の「譲渡数量」(売上高)について
被告作成の売上一覧表(丙5の1)記載の合計5億3243万5825円は、原告主張期間における鉄筋関連全体の売上高であり、鉄筋組立ユニット以外の部品や副資材が含まれている。鉄筋組立ユニットの売上高は次のとおりである(合計2億6452万7475円)。原告の利益率及び原告の総損害額は知らない。
T字型 7781万8957円
L字型 9095万7187円
I字型 2642万1353円
その他 6932万9978円
(3) 「侵害の行為がなければ販売することができた」(商標法38条1項本文)について
大手ハウスメーカーが全国規模で高品質の商品調達を要請しているのに対し、個々の企業では全国的な対応が不可能であったことから、各地域別に各会員が大手ハウスメーカーの要望に応じた商品を供給することを目的として設立されたのが日本スーパーベース協会であり、同会員は、大手ハウスメーカーの指定に応じて、各会員間の地域割りの販売を行ってきた。つまり、被告の取引は、大手ハウスメーカーの指定によるものであって、本件標章により顧客が誘引されたものではない。また、原告は徳島県以外には営業能力を有さず、被告の紹介に係る取次店を通じて香川県内の販売を行ってきたにすぎないのに対し、被告は、徳島県の取引先に対する販売は行っていない。したがって、市場における代替関係は認められないから、「侵害の行為がなければ販売することができた」とはいえない。
(4) 「商標権者の使用の能力」(商標法38条1項本文)について
原告は、建築基礎鉄筋の販売のみを行っているのではなく、住宅建材の仕入販売も行っているほか、原告の工場設備(平成8年当時は、切断機2台、溶接機3台であり、いずれも自動制御された量産型のものではなかった。また、完成品をストックするための工場内面積は1200uにとどまっていた。したがって、せいぜい1年当たり150万s程度が限界である。)に照らしても、原告にその主張の前提とする1年当たり256万sもの製造能力はなかったから、原告に「使用の能力」はない。
(5) 「商標権者が販売することができないとする事情」(商標法38条1項ただし書)について
原告は、大手ハウスメーカーの要望に応えることなく、自社規格に基づく商品しか生産しようとしなかったため、日本スーパーベース協会の四国地方の販売エリアに空白が生ずることとなった。そこで、日本スーパーベース協会の要請を受けて同協会に所属することとなった被告が、上記販売エリアの空白を埋めるため、原告の販売地域(徳島県)以外の地域における販売を担当してきた。したがって、被告の販売していた地域においては、原告が「販売することができないとする事情」があった。
第3 判断
1 争点1(本件商標権の共有)について
被告は、本件商標権が日本スーパーベース協会会員の共有に属する旨を主張する。しかし、本件商標権につき原告単独の商標権者として設定登録されていることは、上記第2(基本的事実)2(1)のとおりであるところ、被告の主張を認めるに足りる証拠はない。したがって、この点に関する被告の主張は、およそ採用の限りではない。
2 争点2(本件商標権の非侵害)について
被告は、自らの本件標章の使用が商標としての機能を果たさない使用であったことを根拠に本件商標権の非侵害を主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲3〜6、8)によれば、被告は、本件標章を鉄筋組立ユニットという商品の商品名として使用しており、商標としての機能を果たし得る使用であることは明らかである。したがって、この点に関する被告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。
3 争点3(本件標章の使用についての明示又は黙示の許諾)について
(1) 被告は、原告による本件標章の使用許諾があった旨を主張するところ、上記基本的事実と証拠(後掲各書証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告と林精工は、その代表者や本店所在地(乙1)が同一であり、共同して基礎鉄筋ユニットの新聞広告を行う(甲7の1)など、緊密な関係にあった。
イ 林精工は、テザックとの間の昭和59年3月30日付けノウハウ実施契約(乙1)の締結に際して作成された契約書には、本件考案の実施品に対応するものとして「商品名スーパーベース」という文言が記載されていた。
ウ 昭和59年7月7日開催の第1回スーパーベース懇談会は、林精工が主宰したものであり、林精工の進行により、@協会名は(日本)スーパーベース協会とする、Aその正式設立は、スーパーベースについての日本建築センターの評定後とする、BスーパーベースのPRは会員全員が参加する費用分担を前提とする、C月刊誌「住まいの設計」にスーパーベースのPR記事を掲載することなどが合意された(乙3)。
エ 実際上も、上記合意に基づき、月刊誌「住まいの設計」の昭和59年10月号、12月号、同60年2月号、4月号、6月号、8月号(乙4の1〜6)において、(日本)スーパーベース協会により、基礎鉄筋ユニット「スーパーベース」のPR記事が掲載され、そこには同協会の構成員の1人として原告の名も併せて掲載されていた。
オ 基礎鉄筋ユニット「スーパーベース」が日本建築センターの評定商品となったことを受け、林精工は、テザックとの間で、昭和60年2月13日付けで日本建築センターの評定に関する契約を締結することとなった(乙5)。同契約書においても、「商品名スーパーベース」という文言が明記されていたほか、昭和59年3月30日付けノウハウ実施契約(乙1)の効力に影響しないことまで記載されていた。
カ 「積算資料ポケット版'91年前期編」における鉄筋組立ユニットの「スーパーベース」の頁には、日本スーパーベース協会の一員として原告の名が他の会員とともに掲載されていた(丙1)。
キ これらの間、林精工及び原告のいずれからも、テザックを含む日本スーパーベース協会の会員に対し、本件商標登録出願の事実はもとより、同出願が登録された場合の処理等についての説明は全くなく、本件商標権に基づく権利主張がされるようになったのは、上記アのノウハウ実施契約や上記オの日本建築センターの評定に関する契約が終了した後のことであった。
(2) しかし、他方で、上記基本的事実及び証拠(後掲各書証)によれば、次の事実も認められる。
ア 原告は、本件商標登録出願以前から、「スーパーベース」の商品名を付した基礎鉄筋ユニットを製造販売しており、日刊工業新聞(甲7の1、4、5)等の業界新聞にもその宣伝広告を掲載するなどしていた。また、原告によるスーパーベースの開発販売の事実は、昭和58年11月11、12日、日本工業新聞等(甲7の2、3)において記事として採り上げられたこともあった。
イ 昭和59年3月30日付けノウハウ実施契約(乙1)、昭和60年2月13日付け日本建築センターの評定に関する契約(乙5)、昭和61年12月25日付け専用実施権設定契約(乙6)の締結時には、本件商標権は、未だ登録出願中であり、その拒絶理由を発見しないとして出願公告がされたのも、平成7年5月15日になってのことであった。
上記ノウハウ実施契約(乙1)における実施料については、新規の個別契約を重ねる毎に、林精工が受領する金額は逓減されていくものであった。
ウ 林精工は、テザック作成の通知書(乙7。本件実用新案権の存続期間満了による消滅に伴い、テザックとのノウハウ実施契約は終了した旨が記載されていた。)に対し、平成8年7月29日付け回答書(乙8)をもって、テザックに対し、上記ノウハウ実施契約の終了を理解した旨を通知し、上記日本建築センターの評定に関する契約(乙5)も終了した旨を指摘した上、本件標章(スーパーベース)を使用しないように要求した。また、同年12月27日付け通知書(乙9)においては、原告と連名の上で、再度、同様の要求をしていた。
エ これに対し、日本スーパーベース協会の会員4社(上記基本的事実4(2))は、原告に対し、本件標章使用について原告の許諾があったことを前提とする法的手続を選択することなく、平成9年1月22日、本件商標の登録を無効とする旨の無効審判請求を行うこととした。平成12年5月1日、同審判請求は成り立たない旨の審決がされた(甲1及び弁論の全趣旨)後も、上記4社は、原告に対し、上記使用許諾があったことを主張することもないまま、上記審決について審決取消請求訴訟を提起するに至った。同訴訟において、テザックらは、「商標あるいは商品名としての「スーパーベース」の使用に関しては、特別な許諾契約はないし、当然許諾されている意識もなく」と主張していたほどであった(甲9の17頁)。
オ 原告が本件訴訟を提起するに至った(平成14年2月25日)のは、上記エの審決取消請求訴訟の請求棄却判決が言い渡された(平成13年10月31日)後のことであった。
(3) 確かに、上記(1)認定の事実によれば、林精工は、日本スーパーベース協会の会員による本件考案の実施を許諾するに際し、上記ノウハウ実施契約等に基づき製造販売される実施品について「スーパーベース」という標章を使用することを予定していたということはできる。
しかし、上記(2)認定の事実によれば、「スーパーベース」という標章は、テザックらによる本件考案の実施に関連して初めて発案されたものではなく、もともと原告又は林精工が自ら製造する商品の商品名として、以前から使用されてきたものであって、原告又は林精工としては、テザックとの上記実施契約締結よりも前に、わざわざ自己の商品に係る標章を商標登録出願することにより、その権利保全を意図していたのであるから、被告の主張するような、対価を無償とし、契約期間を無限定とするに等しい使用許諾の意思があったと推認するには足りない(本件考案に関するノウハウ実施契約(乙1)に約された実施料の中に、本件標章の使用の対価が含まれていると評価することもできない。)。
もとより、原告又は林精工から、テザックに対し、本件標章につき商標登録出願中である旨の説明や本件標章の使用に対する要求がなかったことは認められるが、テザックとの本件考案に関する各契約(乙1、5、6)締結時点では、本件商標登録出願は、未だ出願公告にも至っておらず、商標登録される客観的な蓋然性が高い状況にあったとまではいえないのであるから、原告又は林精工が、遠い将来における商標権の権利主張の可能性を考慮して行動すべきであったとはいえず、原告又は林精工からの説明や要求がなかったことをもって、被告主張の、原告の使用許諾の事実を推認するには足りないというべきである。
さらに、本件の事後的な経過に照らしても、原告又は林精工は、本件考案に関するノウハウ実施契約が存続していると認識していた時点では、テザックらによる本件標章の使用について特に異議を唱える等の行動に出ていなかったのに対し、テザックから上記ノウハウ実施契約(乙1)の終了を指摘されるや、テザックとの間における本件考案に関するすべての契約が終了したとの認識を示した上で、直ちに本件商標権の権利主張を行っている。本件訴訟の提起も、本件商標の有効性に関する紛争が解決した後に、速やかに行われているのであるから、本件考案に関する契約を離れても本件標章の使用を許諾する意思が原告にあったということはできない。テザックらとしても、原告又は林精工から本件商標権の権利行使を受けるや、原告による使用許諾を前提とする法的手続ではなく、専ら本件商標の有効性を否定する法的手続に終始していたのであって、自己の従前の主張が否定された後に、従前の態度を翻して、原告による使用許諾の主張を初めて行うようになったにすぎないのであるから、テザックら自身においても、その主張に係るような無限定の使用許諾があったと信じていたとは考えられない。
これに対し、被告は、当初から使用期間が限定されており、将来は他社が独占的に使用することになる標章を、宣伝広告費等の費用を負担してまで、長年にわたり、その販売拡張に向けて営業努力を続けることなどあり得ないとも主張する。しかし、ライセンス契約の締結に当たっては、必要となるコストに見合う経済的利益がその約定の契約期間内に上げられることを前提とするのが一般であり、契約終了後の実施にまで投下資本の回収を期待することは必ずしも通常の経済活動とまでは評価することはできない。本件の被告においても、そのような期待を基礎づける事情は窺われない。なお、被告は、原告との間の個別事情(争点3被告の主張(4))を縷々主張するが、仮にこれらの事情が認められることを前提としても、同じ日本スーパーベース協会会員であった被告とそれ以外の者との間で、使用許諾の有無を異にするほどの事情であるとはいえないから、上記認定を覆すには足りない。
(4) 以上のような点を総合すれば、原告としては、せいぜい本件考案に関する実施契約が存続する限度において、本件標章の使用を許諾する意思があったと推認し得るにすぎず、被告主張のような、同実施契約を離れた無限定な本件標章の使用許諾があったと推認するには足りないというべきである。したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。
4 争点4(原告の信義則違反又は権利の濫用)について
(1) 被告は、信義則違反又は権利の濫用を基礎づける事情として、@原告又は林精工は、本件商標登録出願中である旨を秘匿し、本件標章使用についての要求がないまま、日本スーパーベース協会の活動を続けた、A原告は、日本スーパーベース協会の諸活動により本件標章が一般に普及し、本件実用新案権に関するノウハウ実施契約が終了した後になって、突然、本件商標権に基づく権利行使を行った、B原告は、日本スーパーベース協会脱会に至るまで、本件標章を付した商品の販売拡大を阻害するような行動に出ていた、C原告は、四国地方における自社商品又は被告商品の販売活動を通じて、原告及び被告が一体として相互に販売力を補完していったことを知悉し、実際上も、原告は、被告の販売活動と自己の販売活動とを関連づけることにより、営業上の利益を上げていたことを主張する。
(2) しかし、上記@については、未だ登録されておらず、登録の客観的蓋然性も判然としない時点で、原告に対し、将来における商標権の権利主張の可能性を考慮して行動すべきであったというのは酷にすぎることは、争点3で判示したとおりである。確かに、この点についても、原告が説明することが、事後の紛争を回避するという意味では望ましいことであったという余地もなくはないが、逆に、テザックを含む日本スーパーベース協会の会員側から、原告に対し、各契約(乙1、5、6)終了後における本件標章の使用の当否についての質問等があったとも窺われないから、原告の本件商標権の権利行使を一切否定するほどの事情として評価することはできない。
上記Aについても、確かに、日本スーパーベース協会の諸活動により本件標章が一般に広く普及したことは否定できない。しかし、争点3で判示したとおり、本件考案に関する実施契約が継続する限りにおける使用許諾があったことを前提とする以上、原告による権利行使が意外なものであったと評価することはできない。むしろ、例えば、テザックは、平成8年7月29日付け回答書(乙8)及び同年12月27日付け通知書(乙9)により、本件商標権侵害についての警告を受けた後も、本件標章の使用を続けていたのであって、原告がテザックに損害賠償を求める具体的な期間が平成8年5月31日(本件商標権登録日)以降という点も加味すると、本件で問題とされるテザックの本件商標権侵害の大半は故意に基づくものといわざるを得ない。つまり、テザックは、商標権侵害の危険を認識しながら、かつ、商品名の変更を極めて容易に行い得るもの(乙11、12)でありながら、敢えて本件標章の使用を継続したのであるから、本件は、テザック自ら選択したリスクが顕在化した結果であると評価せざるを得ず、そのような故意の商標権侵害を前提としても、なお信義則違反又は権利の濫用を基礎づけるほどの事情を原告側に見い出すことはできない。被告については、テザックに対するような原告又は林精工からの警告を直接受けたとは認めるに足りないとはいえ、日本スーパーベース協会への加入は、その主張するところによれば、本件考案に関する実施契約の終了後というのであるから、上記加入に際し、テザックを含む日本スーパーベース協会の既存会員を通じて、原告又は林精工との従前の権利関係に関する情報を入手し得たものと推認され(実際は被告がこのような情報を入手していなかったとしても、日本スーパーベース協会会員間の内部的な事情にすぎない。)、原告が被告に損害賠償を求める具体的な期間がテザックよりも更に遅れた平成9年1月1日以降という点も加味すると、少なくとも同時点以降における被告の本件商標権侵害について、テザックと異なる取り扱いをすべき事情はないものというべきである。したがって、被告についても、テザックと同様に解するのが相当である。
なお、上記Bについては、仮に被告主張事実が認められるとしても、例えば、林精工にノウハウ実施契約上の債務不履行を理由とする損害賠償を別途負担させれば足りるのであって、直ちに原告の本件商標権行使を許さないという根拠となるものではない。上記Cについても、被告は、せいぜい原告の純正品の売上げに協力したり、原告に新たな取引先を紹介したりする限度で協力関係にあったにとどまり、本件商標権の侵害を伴う被告の営業活動により原告が営業上の利益を上げていたものではないから、原告の信義則違反又は権利の濫用を基礎づける事情とはいえない。
(3) そして、上記@ないしCの個別事情を総合しても、原告の信義則違反又は権利の濫用を基礎づける事情があるとはいえないから、この点に関する被告の主張は採用することができない。
5 争点5(差止め等の必要性)について
(1) 原告は、被告がその生産譲渡等に係る鉄筋組立ユニットそれ自体に本件標章を付しているから、この差止等の必要性がある旨を主張する。
しかし、被告の納品時における鉄筋組立ユニットそれ自体には、わずかに取引先又は納品先や工事現場が記載された荷札が付されているにとどまり、梱包された状態(ブルーシート掛け(例えば、丙12の1参照))を含め、本件標章は何ら付されておらず(丙4の枝番号すべて)、被告作成のカタログ(甲4、5)や積算資料(甲3、6、8)に掲載された写真や図にも、鉄筋組立ユニットそれ自体に本件標章を付したことを窺わせるものは存しない。また、建築の基礎として使用された後は、その外観が全く眼に触れることのなくなる鉄筋組立ユニットに、費用を投じてまで標章を付すことが当業界の取引の常態であると認めるに足りる証拠もない(甲7の3〜5、乙4の1〜6、乙12、丙1参照)。テザックにおいて同社の鉄筋組立ユニットについて本件標章の使用を認めていた点も、原告の差止等請求権の存否という点については、テザックも、被告と同様に、これを争っており(顕著事実)、重きをなす攻撃防御方法の選択の相違にすぎないとも考えられるのであるから、この点をもって、被告についてまで、その生産譲渡等に係る鉄筋組立ユニットに本件標章が付されていたと推認するのは相当でない。原告の上記主張は、その前提を欠き(被告が、今後、その鉄筋組立ユニットに本件標章を付すおそれがあることも認めるに足りない。)、採用することができない。
したがって、この点に関する原告の差止等請求権(請求の第4項、第5項)は、理由がない。
(2) 他方、被告は、平成9年1月1日以降、鉄筋組立ユニットに関する定価表や取引書類の展示について本件標章を付したことを認めつつ(争点1ないし4について判示したところからすれば、被告の上記行為は、本件商標権を侵害することになる。)、平成13年11月ころまでに、本件標章の使用を一切中止したとして、この点に関する差止等の必要性もない旨を主張する。
確かに、テザックらによる本件商標の登録を無効とする旨の無効審判請求について、同審判請求は成り立たない旨の審決がされ、その審決取消訴訟において、平成13年10月31日、請求棄却判決がされたため、本件標章の使用に代えて「ミレニアムベース」という標章を新たに使用するようになり、日本スーパーベース協会の名称も「日本ミレニアムベース協会」に変更した(乙11)ことは認められる。
しかし、平成13年6月1日発行「積算資料ポケット版2001年後期編」(甲3、8)はもとより、平成13年12月1日発行「積算資料ポケット版2002年前期編」(甲6)においても、未だに本件標章の使用や「日本スーパーベース協会」の名称が続けて使用されており、本件標章が使用されたまま市場に流通しているこれらの書籍等を被告において回収しようとした等の事情も窺われないのであるから、被告の上記主張事実を踏まえても、この点に関する差止等の必要性は依然存するというべきである。被告の上記主張は採用することができない(なお、被告は、これらの積算資料への掲載を広告ではなく、記事である旨を主張するが、「住宅・店舗の設計と見積り」という表題や日本スーパーベース協会会員の各連絡先の記載は、取引の誘引も目的としたものであることが明らかであり、その掲載料を同協会が負担している旨を被告が自認する本件においては、およそ採用の限りではない。)。
したがって、この点に関する原告の差止等請求権(請求の第2項、第3項)は、理由がある。
6 争点6(原告の損害)について
(1) 「侵害の行為を組成した商品」(商標法38条1項本文)について、被告はT字型の鉄筋組立ユニットに限られる旨を主張する。
確かに、日本スーパーベース協会設立に先立つ林精工とテザックとの間の本件考案のノウハウ実施契約書(乙1)上、本件考案の実施品に対応する商品名として本件標章が掲げられていたほか、被告作成のカタログ(甲4、5)にも、「ベース筋、立上筋を一つのユニット」という本件考案の作用効果(乙14)を踏まえた商品説明や、これを強く印象づけるような図やイラストが多用されており、このことは積算資料(甲3、6、8)についても同様に認められるところではある。
しかし、被告作成のカタログ(甲4)表紙には、T字型に限らない鉄筋組立ユニットの写真が大きく掲載されており、その配筋図も布基礎のほかベタコンクリート基礎の記載もあるばかりか、「布基礎以外の基礎鉄筋も製造可能ですのでお問合せ下さい」という文言まで付されている。同様に、積算資料(甲3、6)においても、特段の限定もない「鉄筋組立ユニット」として掲載されており、「個別仕様品についても製作可能」である旨までわざわざ明記されている。本件考案のノウハウ実施契約書(乙1)の記載も、被告が日本スーパーベース協会に所属するかなり以前の取引の初期段階のものにすぎないほか、本件標章を付した商品の普及を目指し、基礎鉄筋ユニットの生産規模の拡大を図るという日本スーパーベース協会の発足経緯(丙2)や、本件標章を同協会名の一部として使用していたことに照らすと、T字型に比し決して取引量の少なくないその余の鉄筋組立ユニット(丙14)を、販路の拡大に逆行するように、本件標章の使用から除外していたとは到底考えられない。このことは、本件当時の被告販売に係る鉄筋組立ユニット一般につき、本件標章以外の商品表示を使用したことがない旨を被告が自認するところに照らしても明らかである(なお、本件標章を付した原告商品についても、T字型に相当すると思われる「立上がりユニット」とは別の住宅用基礎鉄筋ユニットがもともと多数あったことが窺われる(甲7の2)。)。
したがって、鉄筋組立ユニットであれば、T字型に限らず、その余のものも広く「侵害の行為を組成した商品」に含まれると解するのが相当である(被告の上記主張は採用することができない。)。
他方、原告は、鉄筋組立ユニット以外の鉄筋も含まれる旨を主張し、確かに、被告作成のカタログや積算資料には、各ユニットの結束方法が図示され(甲3〜6)、特に同カタログの一部には継ぎ手鉄筋やコーナー添筋等も掲載されている(甲5)ところではある。しかし、積算資料(甲3、6)の掲載を全体的に観察すれば、「鉄筋組立ユニット」は、「鉄筋材料・結束線」とは明確に異なる商品として対置されており、被告作成のカタログ(甲4、5)上も、「ユニットどうしを結束する」とあるように、鉄筋組立ユニットとこれを結束するものとは別の商品であるようにも記載されているほか、「異形鉄筋SD295A JIS3112(乙12に照らし、「JIS3112」は「SD345」と同義と認める。)の使用により」とあるように、鉄筋材料の一つ(甲3、6の異形棒鋼欄参照)として別商品である旨が明記されていることから、鉄筋組立ユニット以外の鉄筋も被告の別商品として取り扱うことを便宜的に一括記載したものとも解されるのであって、原告の主張を直ちに根拠づけるものとはいえない。他に原告の主張事実を認めるに足りる証拠もないから、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 被告の鉄筋組立ユニットの売上高について、被告作成の売上一覧表(丙5の1)記載の金額(5億3243万5825円)は、広く鉄筋関連の取引金額であって、鉄筋組立ユニット以外の部品や副資材を含むものであり(丙14)、他に原告主張の金額(5億4000万円又は4億8313万4681円)を認めるに足りる証拠はないから、結局、被告の自認する売上高2億6452万7475円(丙14も、被告自認額を超えるものではない。)を認めるにとどめるほかない。
原告の利益率について検討するに、原告の売上帳簿の記載上、その販売商品がほぼ「スーパーベース」であることは認められる(甲11)。しかし、原告も、各種住宅建材の製造及び販売等を目的とするものとして、被告と同様に、鉄筋組立ユニットのほか、これに関連する部品や副資材等も併せて販売していたものと強く推認されるところである。原告の売上帳簿(甲11)の記載も、同帳簿を全体的に観察すれば、取引年月日と取引先の区別に主眼があり、むしろ数量欄に「一式」という概括的な記載があることからすれば、その取引の対象は、鉄筋組立ユニットに限られていたものではなく、関連する部品や副資材等も含まれていたものと解される。もっとも、原告の全売上高のうち、鉄筋組立ユニットの占める割合は必ずしも明確でなく(被告における取引数量の商品割合(丙14)も、個々の取引先に応じて、鉄筋組立ユニットの販売割合が大きく変動しており、原告の同販売割合を合理的に推認させるものとはいえない。)、これに対応して控除すべき経費の割合も一義的に明確であるとはいえない。そこで、控除すべき経費につき検討するに、原告は、原告の「スーパーベース」の利益率(単位数量当たりの利益額)として、売上高から売上原価のほかに旅費交通費及び燃料費並びに広告宣伝費を控除して算出している。なるほど、平成12年の損益計算書(甲12の1)によると、売上高が2億5605万9819円、売上原価が1億7408万7440円、旅費交通費が798万4950円、燃料費が271万3827円、広告宣伝費が37万4934円であり、平成13年の損益計算書(甲12の2)によれば、売上高が2億3116万4899円、売上原価が1億5158万3720円、旅費交通費が700万2805円、燃料費が425万0460円、広告宣伝費が14万0953円であるから、売上高から売上原価のほかこれらの費用を控除すると(ただし、旅費交通費及び燃料費については、その50%をスーパーベースの配送費であるとして控除している。)、原告主張の利益率になる。しかし、上記損益計算書によれば、原告が控除の対象とした費目を含む販売費及び一般管理費の売上高に対する比率は、平成12年が29.91%、平成13年が33.51%であり、売上額に対してかなりの比率を占めていることに照らすと、原告が、被告による本件商標権侵害行為がなければ追加的に販売できたであろう商品の経費として、旅費交通費、燃料費及び広告宣伝費以外の販管費は必要でないとすることは相当でなく、販管費についても、相当程度は侵害行為がなければ追加的に販売できたであろう原告商品の販売に必要な経費であるとみるのが相当であり、当業者であり、後記のとおり、販売地域も競合していた被告の利益率を原告が15%程度と主張していた(訴状の5頁参照)点も併せ考慮して、原告の利益率は25%と算定するのが相当である。
したがって、原告が商標法38条1項に基づき請求できる損害額は次式のとおりとなる。
2億6452万7475円×25%=6613万1868円
(3) これに対し、被告は、商品自体の代替性を問題とすることなく、@被告の取引はハウスメーカーの指定によるものであり、本件標章の使用とは無関係である、A原告と被告の販売地域が異なることを根拠として、「侵害の行為がなければ販売することができた」(商標法38条1項本文)とはいえない旨を主張する。
しかし、上記@については、被告の所属していた日本スーパーベース協会の設立経緯に鑑みると、統一的な標章を用いることにより、顧客の要望に全国的に応えようとしたことは明らかであって、被告主張に係るハウスメーカーの指定も、本件標章の使用と無関係であるとはいえない。被告の実施したアンケート結果(丙7、8の1〜67)も、上記認定を覆すに足りるものではない。上記Aについても、原告の取引実績は、徳島県内に限定されるものではなく、被告による取引先の紹介もあって香川県内にも多くみられるところであり(甲11、丙25)、原告の営業能力が徳島県以外に及ぶことは明らかである。他方、被告の販売地域は、確かに徳島県内では、原告から購入した純正品の取引(丙5の2、丙7の別紙2)のほか、若干みられる程度(皆無ではないことにつき、丙18の8、9、丙19の2枚目)とはいえ、四国地方全域に及んでおり、特に香川県内の取引先が多いことが認められ(丙7の別紙2)、積算資料(甲8)に掲載された広告上も、被告の販売担当地域は広く「四国地区」として紹介され、被告のカタログ(甲4、5)上も「四国センター」、被告の注文書兼製作指示書(例えば、丙12の14〜21、23〜32、34〜44、46〜92、94、97、98、111〜118、丙16の1〜6)にも「シコクセンター」という記載がみられるのであって、被告において原告の販売地域との競合を回避しようとした形跡も全く窺われない。したがって、被告のいう「市場における代替関係」も存する本件においては、被告の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
(4) また、被告は、原告の工場設備の当時の状況等を根拠に「使用の能力」(商標法38条1項本文)がない旨を主張する。
既に判示したとおり、原告の全売上高には鉄筋組立ユニットのほか、部品や副資材も含まれているものの、被告の自認するところを前提としても、原告の鉄筋組立ユニットの製造能力は1年当たり80万s〜150万sである(丙25。ただし、被告自認の「80万s」という数量は、工場設備の稼働率を35%とした上でのものにすぎない。)というのであるから、上記認定の譲渡数量(2億6452万7475円/5年=5290万5495円。原告主張の1s当たり100円(乙3の2頁参照)で換算すれば、1年当たり53万s弱となる。)の増産を原告が行うことは(追加の設備投資の必要性につき検討するまでもなく)可能かつ容易であったと考えられる。このことは、被告の全売上高(6億2829万7159円/5年=1年当たり1億2565万9431円。丙5の1)と比較した、原告の全売上高((2億5605万9819円+2億3116万4899円)/2年=1年当たり2億4361万2359円。甲12の1、2)が非常に高額であることからも裏付けられる。したがって、原告に「使用の能力」(商標法38条1項本文)があることは明らかであり、被告の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
(5) さらに、被告は、販売地域の非競合を根拠として、「販売することができないとする事情」(商標法38条1項ただし書)がある旨を主張する。
しかし、この点も、既に判示したとおり、原告と被告との各販売地域が競合することは明らかであるから、被告の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
(6) 弁護士費用は、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、660万円をもって相当と認める。したがって、原告の総損害額は、7273万1868円となる。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、上記の限度で理由がある。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 小 松 一 雄
裁判官 中 平 健
裁判官 田 中 秀 幸