H15. 6. 4 東京高裁 平成14(行ケ)596 商標権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第596号 審決取消請求事件(平成15年4月21日口頭弁論終結)
                   判    決
    原       告      株式会社サザビー
    同訴訟代理人弁護士      熊 倉 禎 男
    同              吉 田 和 彦
    同     弁理士      加 藤 ちあき
    被        告       特許庁長官 太田信一郎
    同指定代理人          柳 原 雪 身
    同              涌 井 幸 一

                 主    文
   1 特許庁が不服2002−2346号事件について平成14年10月15日にした審決を取り消す。
   2 訴訟費用は被告の負担とする。
                 事実及び理由
第1  原告の請求
   主文同旨
第2  前提となる事実(争いのない事実)
 1  特許庁における手続の経緯
 原告は、平成12年12月27日、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)の後記「本願商標」のとおり、レタリングされた「Afternoon Tea」の欧文字からなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を区分第32類の「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」(以下「本願商品」という。)として、商標登録出願(商願2000−140265号)をしたところ、特許庁は、平成13年12月4日に拒絶査定をした。

 そこで、原告は、平成14年2月13日、拒絶査定不服審判の請求をした(不服2002−2346号事件)ところ、特許庁は、平成14年10月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は平成14年10月28日に原告に送達された。
 2 本件審決の理由 
 審決書に記載のとおり、本件審決は、「本願商標は、その構成中の「Tea」の文字が「茶」を意味する親しまれた英語であるから、これをその指定商品に使用したときは、商品「茶」であるかのごとく、需要者をして商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ず、商標法4条1項16号に該当するものであり、これを理由とする原査定は取り消すべきではない」旨認定、判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点

 本件審決は、@本願商標を本願商品に使用したときに、商品「茶」であるかのごとく、需要者をして商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると誤って認定し(取消事由1)、また、A店舗名としての著名性をもって、上記認定を覆すほどに、商品の品質の誤認に影響を及ぼすとするには証左が足りないと誤って認定したものである(取消事由2)。
 本件審決は、これらの結果、本願商標が商標法4条1項16号に該当すると誤って判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。        
 1 取消事由1(本願商標の意義についての認定誤り)
  (1) 本件審決は、「本願商標は、ややレタリングしてなるとしても、これが格別特異な形状であるということはできない。」と述べた上、「構成中の『Tea』の文字は、『茶』を意味する親しまれた英語であるから、これをその指定商品について使用したときは、あたかも、商品『茶』であるかのごとく、需要者をして、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。」としているが、誤りである。

 まず、本願商標を構成するロゴタイプは、著名なグラフィックデザイナーに依頼して作成されたものであり、極めて特徴的な構成から成り立っている。すなわち、全体が白抜きの二重線で描かれ、語頭の「A」と続く「f」の文字の下部が連結して表されているのみならず、本来は二つの単語である「Afternoon」と「Tea」とが、まとまりよく一連に読めるように工夫して表示されており、標章全体の識別性が高い。本願商標に対して、商標法3条1項3号(識別力)の拒絶理由が発せられず、同法4条1項16号の拒絶理由のみが発せられたのは、本願商標自体の高い識別力が認められたことの証左である。このように印象的なデザインが施されたことにより、本願商標は、看者に対し、常に、全体で一つの単語として認識され称呼される。そして、そこからは、後述するような、原告の周知なブランド名としての観念のみが抽出されることになる。
 つまり、本願商標は、常に、単一の識別標識として機能するものであり、そこからは、原告の周知なブランド名としての観念しか生じない。原告が本願商標を使用して販売する商品は、原告の経営する店舗でしか購入することができないから、そのような商品に、原告のブランド名が表示されているのは当然のことであって、商標とその使用商品との間に不実関係が生じることはない。言い換えれば、本願商標に「Tea」の文字が含まれているからといって、取引者・需要者が「Tea」の文字部分から「茶」を観念することはあり得ない。
 したがって、本願商標をその指定商品「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」について使用しても、需要者をして、あたかも、商品が「茶」であるかのごとく、商品の品質について誤認を生じさせるおそれはない。

  (2) そもそも、商標法4条1項16号は、明治32年商標法及び同42年商標法の2条3号に規定された「世人ヲ欺瞞スルノ虞アル商標」に由来するものであり、商標とその使用商品との不実関係、すなわち、商標が表す観念と使用商品とが符合しないことが原因で、需要者が誤った商品を購入することがないようにとの配慮から設けられた公益的な規定である。
 したがって、本願商標のように「Tea」や「茶」といった語を含む商標であっても、商標全体の構成からみてその使用商品との間に不実関係がなければ、登録されてしかるべきである。事実、本願商標と同じ第32類(旧第29類)を指定商品とする他の登録例の中には、「Tea」や「茶」、「COFFEE」や「コーヒー」といった語を含む商標の登録が多数見受けられる(甲28ないし33)。これらの各登録商標は、いずれも「Tea」や「茶」、「COFFEE」や「コーヒー」といった語を顕著に含んでいるにもかかわらず、指定商品を「茶」や「コーヒー」、又は「茶」や「コーヒー」を主成分とするものに限定されていない。一方、本願商標を構成する「Afternoon」と「 Tea」という2つの語を結合させた英単語「Afternoon Tea」が有する本来の意味は、「午後のお茶会」「昼半ば過ぎの軽い食事」であって「茶」ではないにもかかわらず、本願商標から「Tea」の部分のみを取り出して、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとする認定は、合理性を欠くものである。

 さらに、過去の審決例をみても、指定商品との関係において、品質の誤認を生じさせるおそれはないとして登録が認められている(甲34ないし36)。
 以上のとおり、商標法4条1項16号の規定の趣旨に鑑みても、本願商標は、「世人ヲ欺瞞スルノ虞アル商標」ではないから、同号に該当しないことは明白であり、前掲の登録例と同様に登録されるべきである。
 2 取消事由2(原告店舗名の著名性についての判断誤り)
  (1) 本件審決は、「店舗名としての著名性をもって、上記認定を覆すほどに、商品の品質の誤認に影響を及ぼすとするには証左が足りないし、また、本願指定商品は、その需要者が当該店舗に関心を寄せる若い女性に限られるものではないから、かかる主張は、採用することができない。」としているが、誤りである。

 本願商標は、以下に述べるとおり、ティールームや生活雑貨を取り扱う店舗名としてだけでなく、被服、家具、文房具、タオル、布製品、本格的なパン屋、ピザハウス、花屋、美容業からマンションの企画・立案に至るまで、幅広い事業を表象する標識として周知性を獲得している。
 さらに、原告が本願商標を使用して販売する商品は、原告の経営する店舗でしか購入することができないから、主たる需要者と呼べる者は、基本的には当該店舗に関心を寄せる若い女性に限られる。したがって、仮に本願商標が若い女性だけに周知であるとしても、本願商標が実際に使用される商品の需要者に周知である以上、商品の品質について誤認が発生する余地はない。
  (2) 原告は、今から約20年前の昭和56年9月、東京都渋谷区内に、飲食店(ティールーム)と生活雑貨の販売を合体させた新しいタイプの店を開き、その店名として「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」を採択した。そこでは、当時の日本で未だ食器として使用されていなかった「カフェオレボウル」という小どんぶりのような入れ物に「カフェオレ」が入れられ、隣接する雑貨屋スペースでその「カフェオレボウル」が販売されるという画期的な試みが話題となった。もちろん、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」商標の下で「カフェオレ」が提供されても、来店客の間で商品の品質について誤認が生じたことは一度もなかった。

  他方、原告は、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」商標を付した「コーヒー」や「ココア」なども販売してきた実績があるが、品質の誤認を生じたことはなかった。
 この「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」は、これまでの日本にはなかった新しいタイプの店として、若い女性を中心に評判を呼び、雑誌や新聞等のマスメディアにも頻繁に取り上げられた。例えば、上記渋谷区内の第1号店オープンからわずか4年後の昭和57年9月には、全国的に人気のある女性誌「オリーブ」の記事の中で、「AfternoonTea/アフタヌーンティー」自由が丘店が紹介され、昭和61年4月号でも、同店に関し「もうすっかり有名でしょう?」との記載がある(甲10、11)。したがって、若い女性たちの間では、今から約15年前に既に一定の周知性を獲得していたことが認められる。なお、原告は、昭和62年から本願商標を原告店舗名等に採択使用している。

 このような「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドの圧倒的人気に鑑み、原告は、ふさわしい媒体を選んだ効果的な宣伝広告活動に多額の費用を投入してきた。その結果、雑誌におけるアンケート結果でも、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドは、常に上位に位置するようになった(甲17、18)。
 また、本願商標の周知性は、他の審決取消請求事件(東京高裁平成9年(行ケ)153号、平成10年6月30日判決)においても、「平成5年3月時点においても、原告が『アフタヌーンティー店舗』の商号として及びそこで販売される生活雑貨の商標として使用する『AFTERNOON TEA』が、その主たる顧客層である若い女性層に周知であり、請求人使用商標(注:本願商標と同一の構成からなる商標)も、同様に、『アフタヌーンティー店舗』で販売される生活雑貨の商標として若い女性層を中心に周知であったことが認められる。」と認定されている。

 東京都渋谷区内の第1号店開店から20年の間に、原告は、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の店舗を日本全国に展開し、現在では、北海道から沖縄県に至るまで全140店舗を超えるまでになり、現在では、ティールームや生活雑貨だけでなく、洋服、家具、本格的なパン屋やピザハウスからマンションの企画・立案に至るまで、幅広い事業の標章として使用されている。この「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」標章が持つブランド力への世間の注目は高まり、女性誌や情報誌のみならず、経済紙や一般紙にも多数取り上げられるようになった。
 さらに、原告は、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドのほか、服飾の「アニエスベー」、コーヒーショップの「スターバックス」、レストラン「キハチ」などの親会社でもあるが、とりわけ、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドの売上高は大きい。喫茶店部門(アフタヌーンティーティールーム)の売上げは、急成長を続けており、平成元年に15億2600万円だった売上げが、平成5年には44億5300万円に伸びており、現在公開されている数字のみを合算しても、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の喫茶部門(124億4000万円)と雑貨部門(107億3000万円)の売上げだけで、実に年間230億円を上回る。

 そして、原告は、平成14年8月31日、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランド設立20周年を記念して、東京都中央区銀座に「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドだけのデパート「Afternoon Tea The General Store/アフタヌーンティー ザ ジェネラルストア」(以下「ジェネラルストア」という。)を開店させ、開店時の様子は、新聞・雑誌等のマスコミで大きく報じられ、その後の宣伝広告活動も、活発に展開している。
 以上のとおり、本願商標は、あらゆる商品・役務について永年使用されてきており、衣・食・住にわたる幅広い分野において、既に周知な商標として社会的に認知されている。本願商品のうち、例えば、「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料」といった商品は、20年前から「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の店舗において提供されてきたものであるが、これまで、需要者の間で、これらの商品があたかも「茶」であるかのごとく誤認されたり、これらの飲料に、茶(又は茶の成分)が入っていると誤認された事実は一度もない。すなわち、本願商標は、原告のハウスマークとして、常に全体で一つの標識としてとらえられてきたものであり、本願商標がその指定商品に使用されても、商品の品質について誤認を生じさせることはあり得ない。

 したがって、本願商標は、商標法4条1項16号には該当しないものである。
第4 被告の反論の要点
 本件審決の認定・判断は、正当であり、本件審決に原告主張の違法はない。
 1 取消事由1について
  (1) 本願商標の欧文字のレタリングは、古くから商業上一般的に使用される籠文字の範疇に属するものであり、格別特異なものということはできない。なぜなら、文字のみからなる商標が、商標の観察上格別特異というためには、看者をして、格別特異な印象を与え、その特異な形状において、構成された各文字の役割から離れ、商標としての機能すなわち自他商品、役務の識別標識としての機能を有するほどに変容されていなければならないからである。
 また、構成中の「Afternoon」の文字は、「午後」を意味する親しまれた英語であり、「Tea」の文字もまた「茶」を意味する親しまれた英語であるから、これらを本願商標のように「Afternoon Tea」と一連に表示してみても、「飲料」である本願商品との関係において、特定の観念を生じるような強い結び付きを有する一体的な関係のものともいい難い。

  (2) 本願商品は、いずれも「飲料」であり、本願商標の構成中の「Tea」すなわち「茶」も「飲料」であるから、両者は密接な関連を有するものであり、本願商標を本願商品について使用した場合、品質についての誤認を生じるおそれがある。
 そして、「Tea」すなわち「茶」は、本願商標と密接な関係を有する商品であるから、本願商標と本願商品とは、一般的に不実の関係にあるばかりでなく、本願商品には、アルコール飲料である「ビール」が含まれているものであるから、本願商品等の一般的需要者である運転者等が「ビール」を「茶」と誤認して使用した場合に、混乱や悲惨な事態が生じることは容易に想起できるものである。
 2 取消事由2について
  (1) 原告の主張によれば、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称において展開してきた原告の事業(商業活動)は、「飲食物の提供」や「商品の品揃え」といい得る役務を主たる内容とするものであって、商品といい得るものは、該店舗で販売される生活雑貨のほか、わずかに、該店舗で付随的に販売される持帰り用のパンや清涼飲料であり、これにしても、当該店舗でしか購入できないという周知性には自ずと限界のある特殊な商品の販売形態である。

 他方、本願商品は、そこへ行かなければ提供を受けることがない上記役務や購入することのできない上記商品と異なり、「ビール」を除いて、その需要者を限定されるものでなく、また、「ビール」を含めて、その販売地域を限定されるものでない商品であって、その取引形態も、問屋、小売店、自動販売機等を介し、上記程度の店舗の拡大による「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の周知性は、本願商品の取引の実情に照らして、一般的に周知であるとまではいい得ないものである。
 さらに、本願商標に関する記事又は広告が掲載されたのは、一部の若い女性を対象にする雑誌及び一般の目に触れるところのない極限られた特殊な購読者にしか購読されない新聞であり、一般的な新聞及び雑誌にはせいぜい1又は2回しか掲載されず、その掲載された記事又は広告の内容も、原告店舗の「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」に関するものであるから、本願商標の商品の品質の誤認を生ずるおそれを排除する程度に周知に至っているとはいい得ない。

 本願商標の周知性が認められたとする判決も、若い女性を対象とする商品についての若い女性の間での周知性の判断であり、しかも、商標法51条1項の他人の不正使用の取消しに関する判断であるから、本件に影響を及ぼすものではない。
  (2) 原告の主張は、結局、本願商標と同一の構成よりなる「Afternoon Tea」標章を生活雑貨の販売とティールームを複合した店舗の名称として採択し、盛大に使用した結果、該標章に一体としてみるべき信用(私有財産)が蓄積されたというものである。
 しかし、本件審決は、本願商標が、その構成中の「Tea」の文字より、該商品の一般的需要者である大多数があたかも「茶」であるかのように取り違えるおそれがあり、その蓋然性は上述したとおりであるから、これが一部の若い女性の間での店舗名における著名性をもって、該商品の品質の誤認が生じないとするには至っていないと結論付けたものであり、その判断は正当である。

第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本願商標の意義の認定誤り)について
  (1) 本願商標は、審決書の後記の「本願商標」のとおり、レタリングされた「Afternoon Tea」の欧文字からなるものであり、その指定商品を「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」とするものである(当事者間に争いがない。)。
 本願商標の構成において、「Afternoon Tea」の欧文字は、ギャラモンドの書体を基礎にデザイナーがデザインしたもの(甲69)であって、各欧文字の大部分が白抜きの二重線(二重線の一部は右側が幾分太い。)というやや特徴的な字体で描かれ、語頭の「A」と続く「f」の文字の下部が連結して表されているほか、「Afternoon」と「Tea」との2つの単語の間に空白部分がわずかに設けられているため、通常の2単語の各別の商標と比較すると、まとまりのよい一連のものと認識されやすい。そして、本願商標からは、「アフターヌーンティー」との一連の称呼のみが生じるものと認められる。

 また、「Afternoon」及び「Tea」のいずれの英単語も、我が国において親しまれたものであり、「午後」及び「茶」「紅茶」を意味することは、本願商品の取引者、需要者において容易に認識し得るところである。したがって、本願商標から「茶」「紅茶」の観念が生じることは明らかであり、「Afternoon Tea」の一連の文字部分から、「午後の紅茶」という英語の直訳的意味が認識できるとともに、「飲み物に通例紅茶を用いる昼過ぎの軽い食事」「午後の招待」「お茶の会」という意味(甲303)も認識されるものと解され、本願商標からは、これらに対応する観念が生じるものと認められる。
  (2) 原告は、本願商標に印象的なデザインが施され、全体で一つの単語として認識され称呼されることから、原告の周知なブランド名としての観念のみが抽出されると主張する。

 しかし、前記認定のとおり、本願商標の欧文字は、やや特徴的ではあるが、格別変化に富んだ識別力の高い字体、書体を採用するものではなく、標章全体として独創的なデザインを有するものでもない。また、「Afternoon」と「Tea」との2つの単語の間には、空白部分が設けられており、全く一連のものとして表記されているわけではない。しかも、「Afternoon」及び「Tea」のいずれの英単語も、「午後」及び「茶」「紅茶」を意味する親しまれたものであるから、本願商標から、「茶」「紅茶」「午後の紅茶」の観念が生じることは当然であり、「飲み物に通例紅茶を用いる昼過ぎの軽い食事」「午後の茶の会」といった観念も生じるものと認められる。したがって、後述する原告店舗名である「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の周知性及び本願商標の称呼の一連性を併せ考慮しても、本願商標から原告の周知なブランド名としての観念のみが抽出されるものとは到底認めることができず、原告の主張は採用できない。
 2 取消事由2(原告店舗名の著名性の判断誤り)について
  (1) 後記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
     ア 原告は、昭和47年4月、家具の輸入販売を目的として設立され(商業登記簿上の会社設立の年月日は、昭和49年2月2日)、後にバッグ袋物や被服などの企画製造販売にも進出したが、昭和56年9月、オリジナルブランド「アフタヌーンティー」を使用して生活雑貨の販売を開始し、それとともに、東京都渋谷区の渋谷パルコ内に、喫茶店(ティールーム)と生活雑貨の販売店を合体させた店舗を開設し、その店名として「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」を採択した(以下この名称で開設された同様の店舗を、「アフタヌーンティー店舗」という。)。同店舗内の喫茶スペースでは、「カフェオレボウル」という小型の丼様の入れ物に「カフェオレ」(ミルク入りコーヒー)を入れて提供し、隣接する雑貨スペースでその「カフェオレボウル」が販売されるという形態が試みられていた。また、同店舗及びその後に開設されたアフタヌーンティー店舗では、紅茶(ティー)のみならず各種コーヒーやジュース、乳清飲料、ビールなども提供され、「Afternoon Tea」の名称が付されたメニューにおいて、上記各種飲み物が掲示されていた。そして、原告は、昭和62年から本願商標と同一形態の標章をアフタヌーンティー店舗の名称及びこれに関連する事業等に採択し、継続して使用している。(甲7ないし10、16、26、27、69、73ないし82)
 その後、アフタヌーンティー店舗は、増加の一途をたどり、北海道から沖縄県まで全国的に展開され、平成13年3月末現在で、直営店舗数は140店に及んでおり、このうち、軽飲食物提供店は76店、生活雑貨販売店は57店、ピザキッチンは1店、パン製造販売店は3店、パン製造販売と飲食物提供店は3店、生活雑貨販売大型店は6店である。この結果、鞄の「サザビー」、服飾の「アニエスベー」、コーヒーショップの「スターバックス」、レストランの「キハチ」などのブランドを抱える原告(関連会社を含む。)において、アフタヌーンティー店舗における売上高は大きな部分を占めており、アフタヌーンティー店舗の喫茶部門の売上げ(飲食代金だけでなくパンなどテイクアウト商品の売上げを含む。)は、平成元年に15億2600万円であったが、平成5年には44億5300万円に増加した。そして、平成13年3月期において、アフタヌーンティー店舗の喫茶部門の売上げは、124億4000万円、雑貨部門の売上げが107億3000万円に至っている。(甲13ないし15、24ないし27)

 さらに、原告は、平成14年8月31日、アフタヌーンティー店舗の設立20周年を記念して、東京都中央区銀座に「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドだけを扱う大型の旗艦店舗(地下1階地上4階)として、ジェネラルストアを開店した。ジェネラルストアでは、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドを付して食器、文房具、家具、被服、バッグ、タオル、雑貨等の日用品が販売されるほか、ベイカーショップではパンやケーキが販売され、英国の有名シェフが企画するレストラン、日本茶やハーブ茶を扱う和風茶寮、著名な英国女性がプロデュースするフラワーショップやフラワーアレンジメントスクール、ネイルサロンなども設けられている。(甲44ないし68。ただし、甲58ないし68は、本件審決の原告への送達後のものである。以下同じ。)
    イ 原告は、「Afternoon Tea」の商標を付した上で、「コーヒー」及び「ココア」などの紅茶とは異なる飲料も商品として販売してきた。例えば、平成7年10月には、コーヒー粉・砂糖・シナモンスティックとカフェオレボウルとをセットにして販売し(製造数量1200)、コーヒー袋の裏面には「AFTERNOON TEA COFFEE FOR CAFE AU LAIT」の表示が付されていた(甲38)。また、平成8年11月には、エスプレッソコーヒー及びカフェオレを販売し、商品の包装袋には「AFTERNOON TEA’S ESPRESSO」及び「AFTERNOON TEA’S CAFE AU LAIT」の表示が付されていた(甲39)。さらに、平成9年10月には、ミニウイスク(泡立て器)付きのフレーバーココアを販売し(製造数量3000)、商品の包装袋には、本願商標が付されていた(甲40)。同様に、平成10年10月及び同11年9月にも、フレーバーココアを販売し(製造数量1万4000以上)、商品の包装袋には、本願商標が付されていた(甲41、42)。加えて、平成11年11月には、クリスマス用のコーヒー及びココアを販売し、商品の包装には、本願商標が付されていた(甲43)。
 また、原告が本願商標を付して販売しようとする商品は、飲食物及び生活雑貨のいずれについても、アフタヌーンティー店舗などの直営店において各個人に対してのみ販売され、他社への卸売りや業務用の販売は行われていない(甲71、72)。そして、このようなアフタヌーンティー店舗におけるテイクアウト(持帰り)商品の売上げ(日商)は、当初、1店当たり3000円程度であったが、平成6年当時には、30万円程度に達している(甲15)。
    ウ 昭和56年9月の渋谷区におけるアフタヌーンティー店舗の開設後、同年11月には、著名な女性誌「non‐no」(株式会社集英社発行)及び「anan」(平凡出版株式会社発行)の中で、喫茶店と生活雑貨の販売店を合体させた同店舗の開設状況が紹介され、昭和56年10月及び同57年1月にも、同様の女性誌「SAISON de non‐no」(株式会社集英社発行)の中で、喫茶店と生活雑貨の販売店を合体させた同店舗が紹介された(甲8、9、83、84)。昭和60年9月には、女性誌「オリーブ」(株式会社マガジンハウス発行)の中で、東京都目黒区自由が丘に開設されたアフタヌーンティー店舗が、「自由が丘の散歩には欠かせない」と紹介され、その後も同店舗に関して、同誌の昭和61年4月号では、「もうすっかり有名でしょう?」との記事が、(「横浜そごう」のアフタヌーンティー店舗の紹介とともに)掲載され、昭和60年11月には、十代の女性を対象とした雑誌「ティーンの部屋」(学習研究社発行)でも同店舗が紹介された(甲10、11、85)。したがって、若い女性たちの間では、このころからアフタヌーンティー店舗の名称が、一定の周知性を獲得していたものと認められる。
 さらに、原告が本願商標と同一形態の標章をアフタヌーンティー店舗名等に広く採択した昭和62年以降も、上記「non‐no」、「anan」、「SAISON de non‐no」及び「オリーブ」並びにこれ以外の主に女性を対象にした「ChouChou」(株式会社角川書店発行)、「Hanako」(株式会社マガジンハウス発行)、「GINZA」(株式会社マガジンハウス発行)、「LEE」(株式会社集英社発行)、「ELLE ジャポン」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「MORE」(株式会社集英社発行)、「メイプル」(株式会社集英社発行)、「SPUR」(株式会社集英社発行)、「ミセス」(文化出版局発行)、「mc Sister」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「LUCi」(株式会社扶桑社発行)、「新潟こまち」(株式会社ニューズライン発行)、「saitaリビング」(株式会社芝パーク出版発行)、「装苑」(文化出版局発行)、「Leaf」(株式会社リーフパブリケーションズ発行)、「TANTO」(株式会社集英社発行)、「Grand Magazine」(日之出出版株式会社発行)、「dish」(株式会社ライベッカ発行)、「Domani」(株式会社小学館発行)、「VITA」、「CLUB」、「SEDA」(日之出出版株式会社発行)、「Spy's Girl」(株式会社ワークスジャパン発行)、「HAPPY GIRLS」、「CUTiE」(株式会社宝島社発行)、「OZ magazine」(スターツ出版株式会社発行)、「Caz」(株式会社扶桑社発行)、「KIREI」(株式会社オレンジページ発行)、「non‐no ウエディング」(株式会社集英社発行)、「MUTTS」(株式会社マガジンハウス発行)、「Oggi」(株式会社小学館発行)、「poroco」(株式会コスモメディア発行)、「ELLE donichef」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「saita」(株式会社芝パーク出版発行)、「Sweet」(株式会社宝島社発行)、「九州ゼクシィ」(株式会社リクルート発行)、「MOE」(株式会社集英社発行)、「La Vie de 30ans」(キッコーマン株式会社発行)、「女性セブン」(株式会社小学館発行)、「OZ magazine Wedding」(スターツ出版株式会社発行)、「ELLE a table」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「クロワッサン」(株式会社マガジンハウス発行)、「ヴァンテーヌ」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「VERY」(株式会社光文社発行)、「BAILA」(株式会社集英社発行)、「HAO」(有限会社エイチエイオー発行)、「ハイファッション」(文化出版局発行)、「ELLE DECO」(株式会社アシェット婦人画報社発行)、「Look!s」(スタイライフ株式会社発行)、「FRau Gorgeous」(株式会社講談社発行)、「Kelly」(株式会社ゲイン発行)などの多数の雑誌において、アフタヌーンティー店舗が頻繁に取り上げられ、該店舗の内容及び提供される飲食物が紹介されるほか、販売される生活雑貨や持帰り用のパン等が紹介されており、記事の中には本願商標をアフタヌーンティー店舗を示す標章として掲載するものもあるから、本件審決当時において、比較的若い女性の間では、原告の経営する店舗として「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称が周知であったものと認められる(甲19、20、52、54、57ないし62、64、66、86ないし88、92、96、99、100、108ないし110、113、117、118ないし120、127、128、131ないし135、141、142、148、149、155ないし157、167、168、170、171、173、176、183、185ないし187、191、192、196、199、200、202、204、206、207、209、213ないし216、218、221ないし225、231ないし234、237、243、244、247、248、251、253、256ないし258、262、265、267、268、271、273、279ないし283、285、286、288ないし290、293ないし295。ただし、甲267以降は、本件審決の原告への送達後のものである。以下同じ。)。
 また、一般の情報誌や地域のタウン誌である「CanDoぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「シティリビング」(サンケイリビング新聞社シティ事業本部発行)、「Tokyo Walker」(株式会社角川書店発行)、「クリスマス計画書」(ぴあ株式会社発行)、「cafe sweets」(株式会社柴田書店発行)、「UNION SQUARE」、「シティ情報ふくおか」(株式会社プランニング秀巧社発行)、「ザ・テレビジョン(首都圏関東版)」(株式会社日経BP社発行)、「the 自由が丘」、「道新トゥデー」(株式会社北海道新聞社発行)、「Tokyo Santa」(株式会社婦人画報社発行)、「ala!」(株式会社扶桑社発行)、「Chibaぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「Yokohamaぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「冬ぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「じゃらんDE東京」(株式会社リクルート発行)、「TJカゴシマ」(斯文堂株式会社発行)、「YOKOHAMA Walker」(株式会社角川書店発行)、「SUPERランチBOOK100」、「東京エンターテインメントMAP2000」(株式会社角川書店発行)、「NICE TOWN」(ナイスタウン出版株式会社発行)、「Kansai Walker ChouChou」(株式会社角川書店発行)、「熊本ハイカラ」(熊本ハイカラ株式会社発行)、「Chiba Walker」(株式会社角川書店発行)、「北九州マガジンおいらの街」(株式会社オーパス発行)、「Kyusyu Walker」(株式会社角川書店発行)、「SUKI・TAN」(株式会社アクセス情報発行)、「Kansai Walker」(株式会社角川書店発行)、「にいがたタウン情報」(ジョイフルタウン発行)、「タウン情報まつやま」(株式会社エスピーシー発行)、「タウン情報おかやま」(株式会社アス発行)、「Kobe Walker」(株式会社角川書店発行)、「日々上質通信」(株式会社宝塚阪急発行)、「すぱいす」(熊本日日新聞社発行)、「タウンボイス」(城西朝日会発行)、「デートぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「グルメ東海版(ぴあMAPシリーズ)」(ぴあ株式会社発行)、「KANSAI1週間」(株式会社講談社発行)、「ぴあ」(ぴあ株式会社発行)、「Hokkaido Walker」(株式会社角川書店発行)、「TJKagawa」(株式会社ホットカプセル発行)、「関西版ぴあ」(ぴあ株式会社発行)

、「ひろしまっぷ」(株式会社ひろしまタウン情報発行)、「モンタン」(株式会社ヒューマンエナジー研究所発行)、「Hiroshima Walker」(株式会社角川書店発行)、「札幌cafe本」(株式会社コスモメディア発行)、「TOKYO BROS」(株式会社東京ニュース通信社発行)、「TOKYO1週間」(株式会社講談社発行)でも、全国に展開されたアフタヌーンティー店舗の関連記事が頻繁に掲載されている(甲18、49、53、67、68、89、93、95、98、104、106、111、121ないし126、130、136ないし140、143ないし147、150ないし152、154、158ないし166、169、174、175、177ないし179、181、182、184、189、193ないし195、197、198、201、203、211、212、217、219、220、226ないし229、235、236、238ないし242、249、250、252、255、259、260、287、291)。
 さらに、女性を直接の対象としていない一般的な雑誌、経済誌及び新聞紙並びに飲食業界及び流通業界等の業界雑誌である「H2O」(日本放送出版協会発行)、「北海道新聞」(株式会社北海道新聞社発行)、「日経マーケット女性版」(日経BP社発行)、「フードビジネス」(株式会社フードビジネス発行)、「週刊スパ」(株式会社扶桑社発行)、「繊研新聞」(繊研新聞社発行)、「日本繊維新聞」(繊研新聞社発行)、「日本経済新聞」(株式会社日本経済新聞社発行)、「POPEYE」(株式会社マガジン発行)、「dining」(株式会社柴田書店発行)、「ファッション販売」(株式会社商業界発行)、「紅茶カタログ」(株式会社東西社発行)、「パンニュース」(株式会社パンニュース発行)、「THE SPOON(キューピー株式会社発行)、「月刊食堂」(株式会社柴田書店発行)、「大分合同新聞」(有限会社大分合同新聞社発行)、「週刊文春」(株式会社文藝春秋発行)、「西日本スポーツ」(株式会社西日本新聞社発行)、「毎日新聞」(株式会社毎日新聞社発行)、「日刊スポーツ」(株式会社日刊スポーツ新聞社発行)、「近代食堂」(株式会社旭屋出版発行)、「MdN」(株式会社エムディエヌコーポレーション発行)、「ケイコとマナブ(首都圏版)」(株式会社リクルート発行)、「an」(株式会社学生援護会発行)、「レタスクラブ」(株式会社SSコミュニケーションズ発行)、「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社発行)、「Begin」(株式会社世界文化社発行)、「朝日新聞」(株式会社朝日新聞社発行)、「自由民主」(自由民主党発行)、「産経新聞」(株式会社産経新聞社発行)、「FIGARO japon」(TBSブリタニカ発行)、「BUZZ」(株式会社ロッキング・オン発行)、「Cut」(株式会社ロッキング・オン発行)、「読売新聞」(株式会社読売新聞社発行)、「Gainer」(株式会社光文社発行)、「Delicious」(株式会社世界文化社発行)、「Casa BRUTUS」(株式会社マガジンハウス発行)、「グルメジャーナル」(飛鳥出版株式会社発行)、「日経レストラン」(株式会社日経BP社発行)、「日経トレンディ」(株式会社日経BP社発行)、「Zakka」(株式会社主婦の友社発行)、「パン店菓子店」(株式会社旭屋出版発行)、「ENGINE」(株式会社新潮社発行)、「KellyグルメDX」(株式会社ゲイン発行)、「Welcome to HAIKARA cafe」や、ホームページ上でも、アフタヌーンティー店舗の経営の内容や店舗の様子、平成14年に開店したジェネラルストアなどが頻繁に紹介されている(甲13ないし17、44ないし47、50、55、56、63、65、90、91、94、97、101ないし103、112、114ないし116、128、153、172、180、188、190、205、208、210、230、245、254、261、263、264、266、269、270、272、274ないし278、284、292、296ないし301)。
 これらの各種新聞雑誌等による紹介記事とは別に、原告は、本願商標をアフタヌーンティー店舗の標章として明示して活発な宣伝広告活動を行っており、例えば、平成7年3月には、前記「anan」、「non‐no」などの7種類の雑誌における広告掲載費として合計5906万円を支出し、広告制作費として1289万円を支出している(甲12、21、22、105)。

  (2) 以上の認定事実によれば、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」が、原告の経営するアフタヌーンティー店舗のいわゆるハウスマークであり、本願商標が、アフタヌーンティー店舗を示す標章として使用されていたことは、比較的若い女性の間では遅くとも本件審決時おいて周知であったことが明らかであると認められる。また、アフタヌーンティー店舗は、若い女性のみを対象としない全国各地の地域の情報紙でも頻繁に取り上げられており、原告によるアフタヌーンティー店舗の経営内容や販売展開の状況は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞等の一般新聞や週刊誌で紹介され、飲食業界や流通業界の業界紙でも多数回にわたり紹介されているから、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称が、アフタヌーンティー店舗のハウスマークであることは、若い女性に限定されず、一般の需要者・消費者にとって、上記時点においてかなりの程度で周知であったものと認められる。
 さらに、アフタヌーンティー店舗では、長年にわたり、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称を付し、本願商標を掲載したメニューを使用して紅茶以外のコーヒー・ジュース等の飲み物を提供してきたものと認められるから、このような飲食物の提供形態をとることにより、注文者が品質を誤認するような混乱を生じることはなかったものと推認するのが相当である。また、同様に、原告では、近年、本願商標を付して紅茶以外のコーヒー・ココアなどの飲み物を販売してきたものと認められるところ、このような飲食物の販売形態をとることにより、需要者が品質を誤認するような混乱も生じることがなかったものと推認される。
 なお、原告の経営方針として、本願商標を付した各種商品は、アフタヌーンティー店舗においてのみ販売されており、一般の需要者・消費者が、他の店舗及び自動販売機等によって本願商標を付した各種商品を購入することは困難な状況にあるものと認められる。

 以上の諸事情に加えて、前記説示のとおり、本願商標から「茶」「紅茶」の観念のみが生じるものではなく、「飲み物に通例紅茶を用いる昼過ぎの軽い食事」「午後の茶の会」といった観念も生じるものであり、必ずしも商品の品質のみが想起されるものでないことも併せ考慮すると、本願商標をその指定商品について使用した場合に、商品「茶」であるかのごとく、需要者をして、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないといえる。
 したがって、原告の取消事由2の主張には理由がある。
  (3) 被告は、本願商品は、「ビール」を除いて、その需要者を限定されるものでなく、また、「ビール」を含めて、その販売地域を限定されるものでない商品であって、上記程度の店舗の拡大によっては、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称が、本願商品の取引の実情に照らして、一般的に周知であるとはいえないと主張する。

 確かに、本願商品(ビールを除く。)の需要者は一般的であって、若い女性などに限定されるものではないが、前記認定のとおり、アフタヌーンティー店舗は、北海道から沖縄県まで全国的に展開され、平成13年3月末現在で、直営店舗数は140店に及び、喫茶部門のみの売上げが124億4000万円に達している。そして、若い女性のみを対象としない全国各地の地域の情報紙でも、同店舗が頻繁に取り上げられ、原告によるアフタヌーンティー店舗の経営内容や販売展開の状況は、一般新聞や週刊誌、経済紙、業界紙でも多数回にわたり紹介されているから、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」の名称が、アフタヌーンティー店舗のハウスマークであることは、若い女性に限定されず、一般の需要者・消費者にとって、遅くとも本件審決時においてかなりの程度で周知であったものと認められ、被告の主張は採用できない。
 また、被告は、本願商品には「ビール」が含まれているから、本願商品等の一般的需要者である運転者等が「ビール」を「茶」と誤認して使用した場合に、混乱や悲惨な事態が生じることは容易に想起できると主張する。
 しかし、原告が、アフタヌーンティー店舗の周知なハウスマークとなっている本願商標のみを付して、他にアルコール飲料であること明示せずにビールを販売するものとは想定し難い上、前記認定のとおり、アフタヌーンティー店舗では、長年にわたり、本願商標を掲載したメニューを使用して紅茶以外にコーヒー・ジュースやビール等の飲み物を提供してきた実績があり、本願商標を付してコーヒー・ココアなどの飲み物を販売してきた実績もあるが、これらの飲食物の提供及び販売形態をとることにより、注文者・需要者が品質を誤認するような混乱は生じていないものと推認され、しかも、具体的販売形態として、一般の需要者・消費者が、アフタヌーンティー店舗以外の店舗及び自動販売機等によって本願商標を付した各種商品を購入することは困難な状況にあることを考慮すると、被告の主張するような混乱や悲惨な事態が生じるものとは到底考えられず、上記主張は採用できない。

 4 結論
 以上のとおり、本件審決は、本願商標が品質の誤認を生じると誤った判断をしたものであり、この誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件審決は取消しを免れない。
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第3民事部


       裁判長裁判官   北  山  元  章


            裁判官    青  柳     馨


            裁判官    清  水     節