H16. 3.30 東京高裁 平成14(行ケ)453 特許権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第453号 審決取消請求事件
平成16年3月9日口頭弁論終結
                   判           決
     原      告     有限会社オーエムクリエイティブ
     訴訟代理人弁理士     中 野 収 二
     被      告     特許庁長官 今井康夫
     指定代理人        鈴 木 公 子
     同            杉 原   進
     同            一 色 由美子
     同            松 縄 正 登
     同            涌 井 幸 一

                   主          文
           原告の請求を棄却する。
           訴訟費用は,原告の負担とする。
                   事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
     特許庁が訂正2002−39069号事件について平成14年7月26日にした審決を取り消す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
     主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
     原告は,発明の名称を「下着用金属構成物及びその製造方法」とする特許第3020046号(平成6年5月19日出願。平成12年1月14日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。
     本件特許について,すべての請求権につき異議申立てがなされた。特許庁は,これを異議2000−73467号事件として審理した。その審理の過程で,原告は,本件特許に係る出願の願書に添付された明細書の訂正を請求した。特許庁は,審理の結果,平成13年8月22日,「訂正を認める。特許第3020046号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定をした。原告は,同年6月14日,同決定の取消しを請求する訴訟を提起した(当庁平成13年(行ケ)第439号)。

     原告は,平成14年3月8日,特許庁に対し,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書(以下,同願書添付の図面も併せて「本件明細書」という。)を訂正することについて審判を請求した(以下,上記訂正を「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を上記図面と併せて「訂正明細書」という。)。特許庁は,これを訂正2002−39069号事件として審理し,その結果,平成14年7月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年8月7日にその謄本を原告に送達した。
 2 特許請求の範囲
   (1) 本件訂正前
     「【請求項1】オーステナイト系ステンレス鋼であり,全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたことを特徴とする下着用金属構成物。
     【請求項2】オーステナイト系ステンレス鋼であり,化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたことを特徴とする下着用金属構成物。

     【請求項3】Nを0.1%以上含有することにより特に非磁性化され且つCuを含有することにより冷間加工容易化されたオーステナイト系ステンレス鋼を出発物質とし,該出発物質を冷間加工することにより冷間加工後も非磁性とされた下着用の金属構成物を得ることを特徴とする下着用金属構成物の製造方法。」
   (2) 本件訂正後(下線部が訂正個所である。)
     「【請求項1】
コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーの帯端に付設されるホックとカップ周部に挿入される保形用ワイヤーを構成する金属構成物において,オーステナイト系ステンレス鋼であり,全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされると共にホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成され,保形用ワイヤーの全体の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。
     【請求項2】「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーの帯端に付設されるホックを構成する金属構成物において,オーステナイト系ステンレス鋼であり,化学成分がNを0.1%以上含有することにより特に非磁性化されたステンレス鋼の丸線を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされると共に,ホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。」
 3 審決の理由
     別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正のうち,請求項1の訂正(以下,審決と同じく,「訂正ア」という。)及び請求項2の訂正(以下,審決と同じく,「訂正イ」という。)及びこれらと同旨の訂正事項を含む発明の詳細な説明の訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものではない,として本件訂正を認めなかったものである。

第3 原告主張の審決取消事由の要点
     審決は,訂正ア及び訂正イが本件明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであるにもかかわらず,誤って,上記各訂正が上記範囲内においてなされたものではないとして,本件訂正を認めなかったものであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
 1 訂正アについて
     審決は,訂正アについて,
     「特許明細書又は本件特許の願書に添付した図面(以下併せて「特許明細書等」という。)には,要件C,つまり,(i)「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられる1着のブラジャーの帯端に付設されるホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成し,これと同じブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーの全体の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成すること」

     はおろか,要件Cのうちの,
     (ii)「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーの帯端に付設されるホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成すること」
     も,
     (iii)「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーの全体の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成すること」
     も記載されていないし,これら(i)〜(iii)のいずれの事項も,特許明細書等の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものとは認められないから,訂正明細書の請求項1の要件Cの加入は,特許明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものではない。」(審決書5頁20行〜36行)
     とし,請求項1の訂正は,本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものではないと判断した。しかし,この判断は誤りである。

 (1) 本件明細書の段落【0014】には,
   「高感度検針による第一の検針の際には,縫製行程でミシン付けされた小型環類やホック等のような比較的小さな金属構成物が,確実に検針器の前記A感度をクリアできる鉄球換算1.1mmφ以下の非磁性になるように構成すれば,前記問題を解決できることを知見した。また,低感度検針による第二の検針の際にはD環やワイヤー芯等のような比較的大きな金属構成物が,確実に検針器の前記B感度をクリアできる鉄球換算2.4mmφ以下の非磁性になるように構成すれば,前記問題を解決できることを知見した。」との記載がある。
     段落【0014】の上記記載をみた当業者は,ブラジャーにおいて,「A感度」をクリアすべき金属構成物が帯端に縫い付けられるホックであり,「B感度」をクリアすべき金属構成物がカップ周部に挿入される保形用ワイヤーであると認識することは明らかである。しかも,その目的は,あくまでも検針器をクリアすることにあるから,当業者は,ホックと保形用ワイヤーのそれぞれが「全体」として段落【0014】に説明されるような非磁性でなければならないことを,自明のこととして理解することが明らかである。

 (2) 本件明細書の段落【0014】には,「小型環類やホック等のような比較的小さな金属構成物」,「D環やワイヤー芯等のような比較的大きな金属構成物」と記載されている。前者の「比較的小さな金属構成物」には小型環類とホックその他が並立的に含まれ,後者の「比較的大きな金属構成物」にはD環とワイヤー芯その他が並立的に含まれていることが明らかである。
     本件明細書には,「図1(A)は,下着の1例として,ブラジャー1を示している。ブラジャー1のカップ周部には,保形用のワイヤー2,2が挿入されており」(段落【0025】),「ブラジャー1の肩紐には,図1(B)に示すような金属製の長さ調節環3が付設されており,更に,ブラジャー1の帯端には,図1(C)に示すような着脱自在な雄金具4及び雌金具5から成るホック6が付設されている」(段落【0026】)と記載されている。これらの記載によれば,ブラジャー1のカップ周部に保形用ワイヤー2,2が挿入され,かつ,同じブラジャー1の帯端にホック6が付設されていることが明らかである。

     段落【0025】により明らかにされたブラジャーのホック6と保形用ワイヤー2,2に関する構成を段落【0014】に戻って見ると,本件明細書は,「比較的小さな金属構成物」(ブラジャーにおいてはホック6)を「鉄球換算1.1mmφ以下の非磁性になるように構成」すること,「比較的大きな金属構成物」(ブラジャーにおいては保形用ワイヤー2,2)を「鉄球換算2.4mmφ以下の非磁性になるように構成」することを「課題を解決するための手段」として説明していることが明らかである。そうすると,訂正アに係るすべての事項が本件明細書に記載されていることは明らかである。
 2 訂正イについて
     審決は,訂正イについて,本件明細書には,「「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーの帯端に付設されるホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成すること」〔前記(ii)の事項と同じ。〕は記載されていないし,この事項が本件特許明細書等の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものとも認められないから,訂正明細書の請求項2の要件Gの加入は,特許明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものではない。」(審決書8頁11行〜16行)と判断した。しかし,この判断は,上記訂正アについての判断の誤りと同じ理由により誤りである。

第4 被告の反論の要旨
     審決の認定判断は正当であり,取消理由となるべき誤りはない。
 1 訂正アについて
   (1) 本件明細書の段落【0014】には,下着用金属構成物であるホックの磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成することが示されている。しかし,ブラジャーが下着の1種であるとしても,ブラジャーのホックが必ずしもその帯端に付設されるとは限らない(いわゆる前ホックタイプのものもある。)から,このことは,ブラジャーの帯端に付設されるホックの磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成することと同一ではない。
       同段落には,ワイヤー芯の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成することが示されている。しかし,「ワイヤー芯」が必ずしもブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーを指すとは限らない(用語が相違するばかりでなく,ワイヤー芯は,コルセットのスパイラルボーンやその他各種下着を含む種々様々な衣服のワイヤー状芯材をも指す。)から,このことは,ブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーの磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成することと同一ではない。

   (2) 本件明細書の段落【0024】ないし【0028】,【0035】ないし【0048】には,1着のブラジャーにおいて,金属構成物として,@ホックと保形用ワイヤーと長さ調節環とが共に装着される場合と,A保形用ワイヤーのみが装着される場合とについて,金属構成物全体の磁性を,ある数値に規制することは,示されている。
       しかし,本件明細書には,1着のブラジャーに共に同時に装着すべき金属構成物としてのホックの磁性と保形用ワイヤーの磁性とをそれぞれ個別に定めて一定の数値範囲を同時に満たすように規制することや,1着のブラジャーにそれだけを装着すべき金属構成物としてのホックの磁性を一定の数値範囲を満たすように規制することは,示されていない。
   (3) 特許明細書の段落【0014】の記載は,下着用金属構成物であるホックの磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成することを示している。しかし,これは,一般に,下着に装着すべき個々のホックについて,その磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成することを示しているにすぎない。同記載は,「1着のブラジャーの帯端に付設されるホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成すること」も,「1着の下着に装着すべきホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成すること」も示していないというべきである。

       衣服用金属構成物であるワイヤー芯についても同様である。
       「全体の磁性」を規制するということは,1着の下着(下着の下位概念としてブラジャーについても同じ)に装着すべき金属構成物の全体量に対するものならば,本件明細書の記載から導き出されるといい得るであろう。しかし,1着のブラジャーに装着すべき金属構成物としての(帯端に付設される)ホック又は(カップ周部に挿入される)保形用ワイヤーについて,その「全体の磁性」を所定のように規制するということは,本件明細書の記載から到底導き出されるものではない。
 2 訂正イについて
     請求項2についての原告の主張に理由がないことは,1で述べたところと同様である。
第5 当裁判所の判断
 1 訂正アについて
   (1) 本件明細書には,次の記載がある(甲第5号証。別紙図面参照)。

     ア「【請求項1】オーステナイト系ステンレス鋼であり,全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされたことを特徴とする下着用金属構成物。」(特許請求の範囲)
     イ「被服の分野においては,近年,磁気誘導方式や電磁誘導方式の検針器が提供され,出荷前に被服を検針器に通過せしめ,ミシン折針や,まち針等の金属小片の抜き忘れがないかどうか,事前チェックを行っている。
         このような検針は,一般的に,二度にわけて行われている。即ち,第一の検針は,縫製工程でミシン付けされるファスナーや,前環や,スナップ等のような比較的小さな服飾付属品を装着した後,ミシン折針が残存していないかどうかを探査する(便宜上,高感度検針という)。第二の検針は,金属ボタン等のような比較的大きな服飾付属品を装着した後,まち針の抜き忘れがないかどうかを探査する(便宜上,低感度検針という)。」(甲第5号証段落【0005】〜【0006】)

     ウ「コンベヤタイプ検針器によれば,感度レベル(探知能力)は,前記高感度検針のためのA感度と,前記低感度検針のためのB感度の二つが備えられている。
         ミシン折針を探知するために,前記A感度は,鉄球換算1.2mmφ相当の探知能力を有する。従って,A感度での探査を受ける被服に装着されたファスナーや,前環や,スナップ等がA感度をクリアするためには,鉄球換算1.1mmφ以下でなければならない。
         まち針を探知するために,前記B感度は,鉄球換算2.5mmφ相当の探知能力を有する。従って,B感度での探査を受ける被服に装着された金属ボタン等がB感度をクリアするためには,鉄球換算2.4mmφ以下でなければならない。」(同号証段落【0007】〜【0009】)
     エ「ところが,下着,例えば,ブラジャーの場合,カップ周部には保形用のワイヤーが挿入され,肩紐には長さ調節環が付設され,帯端には着脱自在なホックが付設されている。

         このため,このような金属構成物を含む下着を検針器に通すと,残存針を含んでいないにも拘わらず,異常信号を発してしまうことになる。」(同号証段落【0011】〜【0012】)
     オ「本発明者らは,下着用の金属構成物が,鉄やステンレス等と同等の剛性及び強靱性を有する金属製のままでありながら,高感度検針による第一の検針の際には,縫製工程でミシン付けされた小型環類やホック等のような比較的小さな金属構成物が,確実に検針器の前記A感度をクリアできる鉄球換算1.1mmφ以下の非磁性になるように構成すれば,前記問題を解決できることを知見した。また,低感度検針による第二の検針の際には,D環やワイヤー芯等のような比較的大きな金属構成物が,確実に検針器の前記B感度をクリアできる鉄球換算2.4mmφ以下の非磁性になるように構成すれば,前記問題を解決できることを知見した。」(同号証段落【0014】)

     カ「図1(A)は,下着の1例として,ブラジャー1を示している。ブラジャー1のカップ周部には,保形用のワイヤー2,2が挿入されており,該ワイヤー2は,金属製の丸線を冷間加工により所定の円弧状に湾曲成形することにより形成され,強靭な弾発復元力を有する。
         また,ブラジャー1の肩紐には,図1(B)に示すような金属製の長さ調節環3が付設されており,更に,ブラジャー1の帯端には,図1(C)に示すような着脱自在な雄金具4及び雌金具5から成るホック6が付設されている。」(同段落【0025】から【0026】)
     キ「図示実施例の場合,ブラジャー1に含まれる金属構成物は,ワイヤー2,調節環3,ホック6等により構成されるが,特に高い剛性及び強靭性を要求されない調節環3やホック6等は,合成樹脂製とすることが可能であり,ワイヤー2のみが金属構成物とされる場合もある。従って,ブラジャー1の場合,本発明の金属構成物は,ワイヤー2,調節環3,ホック6により構成される場合と,ワイヤー2のみにより構成される場合とがある。」(同号証段落【0028】)

     ク「本発明者らの知識によれば,通常,オーステナイト系ステンレス鋼は,常温での組織はオーステナイト相であるが,冷間加工すると,オーステナイトの一部又はほとんどがマルテンサイトに変態し磁性を帯びることになる。ところが,オーステナイト生成元素と考えられるNを含有せしめると,マルテンサイトに変態する傾向が弱くなり,図示実施例のようなワイヤー2本,調節環2個,ホック2組から成る金属構成物の磁性を検針器のB感度(鉄球換算2.5mmφ)を下回るまで非磁性化するためには,Nを0.1%以上含有せしめることにより,良好な結果が得られた。」(同号証段落【0032】)
     ケ「実施例1のワイヤーは,検針器機能試験に供した結果,鉄球換算0.6mmφ相当と認定された。従って,ワイヤー2本を1組として検針器(株式会社サンコウ電子研究所製)のB感度を問題なくクリアできた。」(同号証段落【0036】)

     コ「実施例2のワイヤーは,検針器機能試験に供した結果,鉄球換算0.5mmφ相当と認定された。従って,ワイヤー2本を1組として検針器(株式会社サンコウ電子研究所製)のB感度を問題なくクリアできた。」(同号証段落【0040】)
     サ「(実施例3)前記実施例2と同様の範囲内の化学成分としたオーステナイト系ステンレス鋼の細い丸線を冷間加工することにより,図1(B)に示すような調節環3と,図1(C)に示すようなホック6を試作した。そこで,調節環の2個とホックの2組をセットにして,検針器機能試験に供した結果,全体として,鉄球換算0.4mmφ以下と認定された。」(同号証段落【0043】)
     シ「上記実施例の通り,検針器機能試験の結果によれば,ワイヤー2は,2本で鉄球換算1.3mmφ以下であり,調節環3とホック6は,前記個数のセット状態で鉄球換算0.4mmφ以下である。

         そこで,前記実施例1又は実施例2のワイヤー2本と,実施例3の調節環3とホック6の前記個数によるセットを合わせて,全体として,株式会社サンコウ電子研究所製の検針器を通過せしめると,10回のテストのうち10回とも同社の検針器におけるB感度(鉄球換算2.5mmφ)をクリアできた。」(同号証段落【0044】〜【0045】)
     ス「前記実施例1又は実施例2のワイヤー2本と,実施例3の調節環3とホック6の前記個数によるセットに対して,ミシン先端の折針を1片加え,これらを全体として株式会社サンコウ電子研究所製の検針器を通過せしめると,B感度において異常信号が発せられ,折針の存在が検知された。まち針の1本を加えてテストした場合も,同様にB感度での異常信号が発せられた。」(同号証段落【0048】)

   (2) 訂正アに係る本件訂正後の請求項1は,前記のとおり,
       「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられるブラジャーの帯端に付設されるホックとカップ周部に挿入される保形用ワイヤーを構成する金属構成物において,オーステナイト系ステンレス鋼であり,全体が特に非磁性化されたステンレス鋼を冷間加工して成り且つ冷間加工後も非磁性とされると共に,ホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成され,保形用ワイヤーの全体の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成されたことを特徴とするブラジャー用金属構成物。」
     というものである。
       上記特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正後の請求項1は,一着のブラジャーに取り付けられた金属構成物であるホック及び保形用ワイヤーの磁性が全体として鉄球換算3.5mmφに構成されたものを含むことが明らかである。このようなブラジャーは,検針器に通過させるブラジャーの置き方によってコンベヤタイプ検針器のB感度をクリア(反応しないで通過すること)する場合としない場合とがあることが認められる(甲第2号証11頁参照)。上記特許請求の範囲においては,ブラジャーを検針器に通過させる方法は何ら限定されていないから,検針器のB感度をクリアしない場合も本件訂正後の請求項1に係る発明に含まれることになることは明らかである。

       上記(1)で認定した本件明細書の記載中には,@A感度での探査を受ける被服に装着されたファスナー等がA感度をクリアするためには,その磁性が鉄球換算1.1mmφ以下でなければならないこと,AB感度での探査を受ける被服に装着された金属ボタン等がB感度をクリアするためには,その磁性が鉄球換算2.4mmφ以下でなければならないこと,B一着のブラジャーに装着されるホック及びワイヤー等の全部が金属構成物である場合には,その金属構成物の全体の磁性がコンベヤタイプ検針器のB感度をクリアする鉄球換算2.4mmφ以下でなければならないこと,についての記述があるにとどまり,一着のブラジャーの金属構成物の全体の磁性がコンベヤタイプの検針器のB感度をクリアしないものが含まれる旨の記述は,一切見当たらない。
       そうである以上,訂正アは,本件明細書に記載されていなかった,一着のブラジャーの金属構成物の全体の磁性がコンベヤタイプの検針器のB感度をクリアしないもの(鉄球換算が合計で2.5mmφ以上のもの)を,新たに加えたものであるというほかない。
   2 審決が,訂正アについて,「コンベヤタイプ検針器に通過せしめられる1着のブラジャーの帯端に付設されるホックの全体の磁性を鉄球換算1.1mmφ以下に構成し,これと同じブラジャーのカップ周部に挿入される保形用ワイヤーの全体の磁性を鉄球換算2.4mmφ以下に構成すること」を加入したのは,特許明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではない,と判断したことに誤りはない。
第6 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張に理由がないことは明らかである。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。


      東京高等裁判所第6民事部
   
            裁判長裁判官      山   下   和   明
        

               裁判官     阿   部   正   幸
                            

                         裁判官    高   瀬   順   久