H16. 9.13 大阪地裁 平成15(ワ)8501 不正競争 民事訴訟事件

平成15年(ワ)第8501号の2 不正競争防止法に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年7月20日
            判       決
      原      告     ゴールドフラッグ株式会社
      訴訟代理人弁護士     松本司
      同            緒方雅子
      補佐人弁理士       森義明
      被      告        株式会社セラヴィ
      訴訟代理人弁護士     岩原武司
      同            津田和彦
      同            大山健児

      同            村西大作
      同            星千絵
      同            澤田行助
                       主       文
1 被告は、原告に対し、金2670万5061円及びこれに対する平成15年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
                       事       実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
   (1) 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成15年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
   (3) 仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
   (1) 原告の請求を棄却する。
   (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求原因
   (1) 原告商品
     ア 別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)は、商品名を「ヌーブラ(NuBra)」といい、米国カリフォルニア州法人であるブラジェル社(Bragel International Inc.)(以下「ブラジェル社」という。)が考案し、平成14年10月から米国及び台湾において販売され、大好評を博した。
     イ 原告商品は、次のような形態を有している。
       @ 使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり
       A 肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等身体に装着する部材がなく
       B 各カップの内側には粘着層を備えている

   (2) 独占的販売権
       原告は、平成15年1月30日、ブラジェル社との間で、原告に原告商品の日本国内における独占的販売権を与える旨の契約を締結し、同年2月1日から、日本における原告商品の輸入及び販売を開始した。
   (3) ロ号製品の輸入、販売
       被告は、平成15年6月ころから、別紙ロ号製品目録記載の商品(以下「ロ号製品」という。)を輸入し、日本国内で、「パス ブラ(Pas Bra)」、「アン ブラ(Un Bra)」、「シリコンブラジャー」という商品名で販売している。
   (4) 形態模倣
     ア ロ号製品は、原告商品と同じく、前記(1)イ@ないしB記載の形態を有している。
     イ 原告商品は、ストラップ及び横ベルトがなく、また、何らの部品を使用することなく乳房に直接粘着させる、従来存在しなかった構造、形態のブラジャーである。

     ウ 原告商品は、平成14年末から平成15年初めにかけて、米国及び台湾で爆発的にヒットし、日本国内での販売が待ち望まれていたが、原告が日本国内で販売を開始するや、女性の間で大変な好評を博し、インターネット、テレビ、雑誌等で頻繁に紹介され、全国のデパートや下着店で供給が追いつかず、入手困難な状況になっていた。
     エ 上記のような、原告商品とロ号製品の形態の同一性(前記ア)、原告商品の形態が特異であったこと(前記イ)、原告商品が著名になっていたこと(前記ウ)などからして、ロ号製品は、原告商品の形態を模倣した商品である。
   (5) 周知、著名商品等表示
     ア 商品の形態は、本来は、商標、商号、標章等のように出所表示機能を有するものではないが、その形態が特殊であるような場合は、商品の形態自体が出所表示機能を獲得し、不正競争防止法2条1項1号又は2号の「商品等表示」に該当する場合がある。

     イ 原告商品は、平成14年10月から米国及び台湾で販売されるや大好評を博し、平成15年2月1日に日本国内で販売が開始された後も大ヒットし、全国のデパートや下着店で話題の商品として売り場の最前列に陳列され、テレビの情報番組で「大ブームの商品」として取り上げられ、また、女性誌のみならず、「AERA」、「日経トレンディ」などの雑誌、新聞等でも頻繁に紹介され、平成15年のヒット商品として取り上げられた。これらのマスコミでの紹介は、商品の大ヒットより少し遅れることから、原告商品の形態が、出所表示機能を獲得し、原告の商品等表示として周知又は著名となった時期は、遅くとも平成15年3月である。
   (6) 類似、混同
     ア 原告商品とロ号製品の形態は、前記(4)ア記載のとおり同一である。また、ロ号製品は、原告商品と同様に、「ストラップも横ベルトもなく乳房に直接粘着し、自然な形で乳房を大きく形良く見せることのできるブラジャー」であることを宣伝文句とし、「話題のブラジャー」として販売されている。

     イ ロ号製品は、「パス ブラ(Pas Bra)」、「アン ブラ(Un Bra)」、「シリコンブラジャー」という商品名で販売されており、原告商品とは、商品名も包装箱の記載も相違するが、原告の元に、ロ号製品などの模倣品を購入したにもかかわらず原告商品を購入したと誤信した需要者から苦情が殺到したことがあり、商品形態の同一性が上記相違点を凌駕し、需要者において、ロ号製品について、原告商品と出所の誤認混同を生じていた。
   (7) 不正競争
       これまで述べたところによれば、被告によるロ号製品の輸入、販売は、不正競争防止法2条1項1号、2号又は3号の不正競争に該当する。
   (8) 営業上の利益の侵害
       被告の不正競争により、原告の営業上の利益が侵害された。
   (9) 故意又は重過失
       被告には、不正競争を行うにつき故意又は少なくとも重過失があった。

   (10) 損害額
     ア 被告の利益
       (ア) 第一次的主張
           被告のロ号製品の売上は7500万円であり、利益率は40%であって、被告は、ロ号製品の販売により、少なくとも3000万円の利益を得た。
       (イ) 被告提出資料に基づく主張
         a 販売個数、販売額
           (a) 被告がロ号製品を販売する際には、ロ号製品1個当たりの利益を算出するために販売額から差し引くべき経費単価よりも低い価格で販売する場合(廉価販売)、いったん販売したものについて従前の販売価格よりも高額に評価して返品を受ける場合(高額返品)などがあった。被告がロ号製品の販売により得た利益を算出するに当たり、廉価販売の販売価格をそのまま販売価格と扱い、高額返品の返品額をそのまま販売額から差し引くと、在庫品を廃棄する場合よりも算出される利益額が減少してしまうから、利益の算出に当たっては、廉価販売、高額返品の分を修正した上で、販売個数、販売額を算出する必要がある。

           (b) 被告は、ロ号製品を、有限会社A、B株式会社、株式会社C、株式会社D、E株式会社、F、株式会社G、H株式会社、I株式会社、J、株式会社K、株式会社Lに販売した。その販売個数、単価、売上は、別表1、2記載のとおりである。青色で表示した部分が廉価販売であり、赤色で表示した部分が高額返品である。
               別表1、2について、廉価販売、高額返品の分を修正すると、別表1、2各修正記載のとおりとなる。
           (c) 被告は、自社店舗において、ロ号製品を、1個2900円で413個、1900円で2126個販売した。
           (d) 上記(b)、(c)記載のロ号製品の販売について、販売個数及び売上(上記(b)記載の修正後のもの)をまとめると、別紙利益計算表記載のとおりとなる。
         b 経費
             ロ号製品の販売により得た利益を算出するために売上から差し引かれる経費は、1個当たり1669円を超えることはない(以下、ロ号製品の販売により得た利益を算出するために売上から差し引かれる1個当たりの経費を「経費単価」という。)。

         c 利益
             売上から経費を差し引いた利益は、別紙利益計算表記載のとおりであり、その合計は、2670万5061円である。この金額が、不正競争防止法5条2項により、原告の受けた損害の額と推定される。
     イ  使用料相当額
         上記アの主張が認められないとしても、被告は、ロ号製品の売上の合計が8127万7540円であると主張しており、原告商品の形態の使用料率は5%とするのが相当であるから、使用料相当額は406万3877円であり、この金額が、不正競争防止法5条3項1号又は2号により、原告が受けた損害の額とされる。
   (11) 結論
       よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号、2号若しくは3号、4条、5条2項に基づき、被告がロ号製品の販売により得た利益額3000万円及びこれに対する最後の不正競争の行われた日である平成15年12月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、又は同法5条3項1号若しくは2号に基づき、使用料相当額406万3877円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 2 請求原因に対する認否
   (1)ア 請求原因(1)(原告商品)アの事実は不知。
     イ 請求原因(1)イの事実は認める。
   (2) 請求原因(2)(独占的販売権)の事実は不知。
   (3) 請求原因(3)(ロ号製品の輸入、販売)の事実は認める。
   (4)ア 請求原因(4)(形態模倣)アないしエは争う。
     イ 原告商品は、肌に悪影響を与えることなく繰り返し使用できる接着部をパッドの中に用いたことが大きな特徴であり、そのような接着部を用いたことによりデザイン的には自由度が増し、肩ひも及び背中のホックがないデザインが実現した。しかし、肩ひものないブラジャーは従前から存在しており、それに加えて背中のホックがないことはそれ程の新規性はない。原告商品の形態は、ブラジャーの一般的な形態の域を出るものではなく、形態の模倣を主張できる程の新規性、独自性はない。

   (5) 請求原因(5)ないし(9)は争う。
   (6)ア(ア) 請求原因(10)(損害額)ア(被告の利益)(ア)(第一次的主張)は争う。
       (イ)a(a) 請求原因(10)ア(イ)(被告提出資料に基づく主張)a(販売個数、販売額)(a)は争う。
           (b)  請求原因(10)ア(イ)a(b)のうち、被告がロ号製品を有限会社A、B株式会社、株式会社C、株式会社D、E株式会社、F、株式会社G、H株式会社、I株式会社、J、株式会社K、株式会社Lに販売したことは認め、その余は争う。
           (c)  請求原因(10)ア(イ)a(c)の事実は認める。
           (d) 請求原因(10)ア(イ)a(d)について、別紙利益計算表記載の販売個数及び売上のうち、株式会社Gに対する販売個数が1547個、売上が433万1600円であること、H株式会社に対する販売個数が422個であること、I株式会社に対する販売個数が771個、売上が215万8800円であること、株式会社Dに対する販売個数が346個、売上が96万8800円であること、被告が自社店舗において、ロ号製品を1個2900円で413個、1900円で2126個販売したことは認め、その余は争う。

         b 請求原因(10)ア(イ)b(経費)のうち、経費単価が1669円であることは認める。
         c 請求原因(10)ア(イ)c(利益)は争う。
     イ 請求原因(10)イ(使用料相当額)は争う。
     ウa 被告は、ロ号製品を5万1728個仕入れた。そのうち販売したものは4万2991個、不良品として処理したものは7895個、不良品取替用として在庫するものは842個である。
           仕入額は8631万3220円、販売額は8127万7540円であり、503万5680円の赤字である。被告はロ号製品の販売によって利益を得ていないから、原告に損害は生じておらず、被告に損害賠償義務はない。
       b 販売先、販売数量、売上は、別紙販売先別売上高記載のとおりである。
       c マーケットの動向に応じて在庫商品を廉価販売することは、どのような商品にもあり、特に衣料品についてはその傾向が強く、本件における廉価販売もその一例であり、異常、不審な価格での販売ではない。E株式会社からの平成15年7月25日の高額返品(乙第6号証の3)は、被告とE株式会社との間で、返品については卸値ではなく売値で引き取り、運搬費用も被告が負担するという約定があるため、その約定に従ったものである。

       d 被告の得た利益を算出するためには、現実の販売価格や経費に基づくほかなく、種々の仮定を基にした原告主張の算出方法は無意味である。
                       理       由
1 請求原因(1)(原告商品)について検討する。
 (1) 甲第1号証、検甲第1号証によれば、原告商品は、商品名を「ヌーブラ(NuBra)」といい、米国カリフォルニア州法人であるブラジェル社が考案し、平成14年10月から米国及び台湾において販売され、好評を博したことが認められる。
 (2) 原告商品が次のような形態を有していることは、当事者間に争いがない。
   @ 使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり
   A 肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等身体に装着する部材がなく
   B 各カップの内側には粘着層を備えている

2 請求原因(2)(独占的販売権)について検討する。
   甲第1、第2号証によれば、原告が、平成15年1月30日、ブラジェル社との間で、原告に原告商品の日本国内における独占的販売権を与える旨の契約を締結したこと、原告が同年2月1日から、日本における原告商品の輸入及び販売を開始したことが認められる。
3(1) 上記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権を与えられた独占的販売権者であるところ、独占的販売権者が、不正競争防止法2条1項3号(以下、単に「3号」ということがある。)による保護の主体となり得るかについて検討する。
     まず、3号の趣旨をみると、他人が市場において商品化するために資金、労力を投下した成果の模倣が行われるならば、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットは著しく減少し、模倣者と先行者の間に競争上著しい不公正が生じ、個性的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害され、このような状況を放置すると、公正な競業秩序を崩壊させることになりかねない。そこで、3号は、他人が商品化のために資金、労力を投下した成果を、他に選択肢があるにもかかわらず殊更完全に模倣して何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為をもって、不正競争としたものである。

     このような3号の趣旨を前提として、3号による保護の主体の範囲を考えると、自ら資金、労力を投下して商品化した先行者は保護の主体となり得るが、そのような者のみならず、先行者から独占的な販売権を与えられている者(独占的販売権者)のように、自己の利益を守るために、模倣による不正競争を阻止して先行者の商品形態の独占を維持することが必要であり、商品形態の独占について強い利害関係を有する者も、3号による保護の主体となり得ると解するのが相当である。このような解釈は、公正な競争秩序の維持を目的とする前記の3号の趣旨にもかなうものである。他方、先行者が商品化した形態の商品を単に販売する者のように、商品の販売数が増加することについて利害関係を有するとしても、先行者の商品形態の独占について必ずしも強い利害関係を有するとはいえない者は、保護の主体となり得ないと解すべきである。
     不正競争防止法は、2条1項において「不正競争」を定義し、同項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、差止請求の主体について、3条1項において、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」としており、損害賠償請求の主体については、4条において、不正競争により「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され、例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としているのとは異なった規定の仕方をしている。独占的販売権者は、3号所定の不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当するから、独占的販売権者を3号の保護主体と解し、その差止請求及び損害賠償請求を認めることは、不正競争防止法上の文言にも合致するというべきである。
     3号は、その主要な要件が、「形態の模倣」という比較的簡易な要件であり、安易に適用を拡大すると、かえって自由な市場活動が妨げられるおそれがあるとも考えられる。しかし、商品化を行った先行者のほかに、独占的販売権者のように商品形態の独占について強い利害関係を有する者に限定した範囲で3号の保護の主体を考えるならば、そのような弊害を生ずることはないというべきである。また、独占的販売権者も3号の保護主体となると解したとしても、独占的販売権者が訴訟上3号に基づく権利を行使するためには、先行者が商品化したこと、及びそのような先行者から独占的販売権を与えられたことを主張立証しなければならず、先行者が訴訟上3号に基づく権利を行使する場合に比べて、商品化の点について主張立証責任が軽減されるわけではないから、この点からも、3号の適用範囲が安易に拡大されることはないといえる。
     さらに、実際上、独占的販売権者が商品の製造販売を専ら担当しており、商品化した先行者が3号に基づく権利行使をする状況にない場合も考え得るところであるから、上記の解釈は、そのような場合においても、模倣を阻止し、公正な競争秩序の維持を図るという点からしても、妥当なものということができる。
     他方、独占的販売権者は、独占権を得るために、商品化した先行者に相応の対価を支払っているのが常であり、先行者は商品化のための資金、労力を、商品の独占の対価の形で回収していることになるから、独占的販売権者を保護の主体として、これに独占を維持させることは、商品化するための資金、労力を投下した成果を保護するという点でも、3号の立法趣旨に適合するものである。
     以上によれば、独占的販売権者は、3号による保護の主体となり得るというべきである。

 (2) 前記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権者であるから、不正競争防止法2条1項3号による保護の主体となるものと認められる。
4 請求原因(3)(ロ号製品の輸入、販売)について検討する。
   被告が、平成15年6月ころからロ号製品を輸入し、日本国内で、「パス ブラ(Pas Bra)」、「アン ブラ(Un
Bra)」、「シリコンブラジャー」という商品名で販売していることは、当事者間に争いがない。
   乙第4号証の1ないし10、第5号証の1ないし13、第6号証の1ないし9、第7号証の1、2、第8号証の1ないし3、第9号証の1ないし7、第10号証の1ないし5、第11号証の1ないし9、第12号証の1、2、第13号証の1ないし4、第14号証の1ないし4、第15号証の1、2(以下、これらを包括して「乙第4ないし第15号証」という。)及び弁論の全趣旨によれば、被告によるロ号製品の販売は、平成15年12月8日まで行われていたことが認められる。

5 請求原因(4)(形態模倣)について検討する。
 (1) 検甲第1、第3号証及び弁論の全趣旨によれば、ロ号製品は、原告商品と同じく、@使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり、A肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等身体に装着する部材がなく、B各カップの内側には粘着層を備えているという形態を有していること、ロ号製品は、原告商品と、寸法、形状、色彩が極めてよく似ていることが認められる。
 (2) 甲第1号証、第3号証の6、7、8、12、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品は、ストラップ及び横ベルトがなく、また、何らの部品を使用することなく乳房に直接粘着させ、中央のフックで左右のカップを結合するという、従来存在しなかった構造、形態のブラジャーであることが認められる。

     原告商品の形態は、このように従来存在しなかった形態であることが認められ、同種の商品であるブラジャーが通常有する形態であるとは認められない。
 (3)ア 前記1(1)認定のとおり、原告商品は、平成14年10月から米国及び台湾において販売され、好評を博した。甲第1号証、第3号証の1、6、7、10によれば、原告商品は、平成15年2月に日本で販売が開始された後、好評を博し、販売個数は、同年2月の販売個数を基準とすると、同年3月には2倍、同年4月には5倍、同年5月には20倍となって輸入限界に達し、同年6月、7月、8月の販売個数も5月と同様であったこと、販売個数は同年6月に月間5万個に達していたこと、遅くとも同年7月の段階で、需要が多くなりすぎて小売店等では入手が困難になり、購入には予約が必要な状態であったこと、同年6月以降、雑誌や新聞において、原告商品の特徴や急激な需要の増加、品薄の状態などが紹介されたことが認められる。

   イ 前記4記載のとおり、被告は、平成15年6月ころからロ号製品を輸入し、日本国内で販売していた。前記アの認定事実によれば、被告が同月ころにロ号製品の輸入、販売を開始した時点において、原告商品は、平成14年10月の米国及び台湾での発売から相当の期間が経過しており、日本においても、平成15年2月の発売以来、既に販売数が多数に上り、更に需要が増大していたものと認められる。
 (4) 上記(1)ないし(3)の認定事実によれば、ロ号製品は、原告商品の形態を模倣した商品であると認めるのが相当である。
6 請求原因(7)(不正競争)について検討する。
   これまで述べたところによれば、被告によるロ号製品の輸入、販売は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当する。
7 請求原因(8)(営業上の利益の侵害)について検討する。

   甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の不正競争により、原告の営業上の利益が侵害されたことが認められる。
8 請求原因(9)(故意又は重過失)について検討する。
   弁論の全趣旨によれば、被告は、衣料品、日用品雑貨、装身具などの輸出入及び販売を業とする株式会社であることが認められ、前記5(3)イ認定のとおり、被告が平成15年6月ころにロ号製品の輸入、販売を開始した時点において、原告商品は、平成14年10月の米国及び台湾での発売から相当の期間が経過しており、日本においても、平成15年2月の発売以来、既に販売数が多数に上り、更に需要が増大していたものであるから、被告には、不正競争を行うにつき、故意又は少なくとも重過失があったものと推認される。
9 請求原因(10)(損害額)ア(被告の利益)について検討する。

 (1) 請求原因(10)ア(ア)(第一次的主張)について
     原告は、被告のロ号製品の売上が7500万円であり、利益率が40%であると主張する。
     しかし、原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
 (2) 請求原因(10)ア(イ)(被告提出資料に基づく主張)について
   ア 請求原因(10)ア(イ)a(販売個数、販売額)(b)のうち、被告がロ号製品を有限会社A、B株式会社、株式会社C、株式会社D、E株式会社、F、株式会社G、H株式会社、I株式会社、J、株式会社K、株式会社Lに販売したことは、当事者間に争いがない。
       請求原因(10)ア(イ)a(c)の事実(被告が、自社店舗において、ロ号製品を、1個2900円で413個、1900円で2126個販売したこと。)は、当事者間に争いがない。
       請求原因(10)ア(イ)a(d)について、別紙利益計算表記載の販売個数及び売上のうち、株式会社Gに対する販売個数が1547個、売上が433万1600円であること、H株式会社に対する販売個数が422個であること、I株式会社に対する販売個数が771個、売上が215万8800円であること、株式会社Dに対する販売個数が346個、売上が96万8800円であること、被告が自社店舗において、ロ号製品を1個2900円で413個、1900円で2126個販売したことは、当事者間に争いがない。

       請求原因(10)ア(イ)b(経費)のうち、経費単価が1669円であることは、当事者間に争いがない。
   イ ロ号製品の販売個数、販売額について検討する。
     (ア) 乙第4ないし第15号証によれば、ロ号製品の販売先、販売年月日、販売個数、単価は、別表1、2記載のとおりであることが認められる。
     (イ) 前記ア記載のとおり、経費単価が1669円であることは当事者間に争いのないところ、乙第4ないし第15号証によれば、被告がロ号製品を販売する際に、経費単価よりも低い価格で販売する場合(廉価販売)、いったん販売したものについて販売価格よりも高額に評価して返品を受ける場合(高額返品)などがあったことが認められる(別表1、2のうち青で表示したものが廉価販売であり、赤で表示したものが高額返品である。)。

         ところで、不正競争防止法3条2項は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、営業上の利益の侵害の停止又は予防を請求する(同法3条1項)に際し、侵害の行為を組成した物(以下「侵害組成物」という。)の廃棄など、侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる旨定めており、他人の商品の形態を模倣した商品の輸入、販売が不正競争(同法2条1項3号)とされる場合は、他人の商品の形態を模倣した商品が、侵害組成物として廃棄請求の対象となるものと解される。また、同法5条2項は、不正競争によって他人の営業上の利益を侵害したが侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額をもって、損害の額と推定する旨定めている。
         不正競争を行った者が侵害組成物を任意に廃棄した場合、又は差止めの仮処分若しくは本案判決による不正競争防止法3条2項に基づく廃棄請求が執行されて侵害組成物が廃棄された場合、同法5条2項所定の利益を算出するに当たり、廃棄された侵害組成物は、算定の対象に含まれず、その購入経費も、同利益の算出のために売上から経費として差し引かれることはない。これに対し、廉価販売の場合に、それによる赤字分を、同法5条2項に基づく利益の算出に当たり計算に入れるとすると、その購入経費を経費として差し引くこととなり、廉価販売の対象物を廃棄した場合に比べて、不正競争を行った者が実際に得る売上は多くなるにもかかわらず、算出される利益の額は減少することとなる。侵害組成物は、本来廃棄の対象となるべきものであることに鑑みると、廉価販売の場合に、それによる赤字分を計算に入れて、廃棄した場合より同法5条2項所定の利益額が減少することは、相当でないというべきである。

         また、侵害組成物は、本来廃棄の対象となるべきものであり、廃棄された場合には同法5条2項所定の利益の算定の対象に含まれないから、返品は、同利益の算出に当たり、販売価格と同額に評価するのが相当であるところ、高額返品の場合は、返品を高額に評価することにより、評価額と販売価格の差額だけ利益が減少することとなるから、これについては、同法5条2項の利益の算出に当たり、評価額を販売価格と同額とすべきである。
         本件において、別表1、2によれば、廉価販売、高額返品は、本件訴状が被告に送達された平成15年9月3日の後に行われたものが少なくないことが認められ、これらの廉価販売が廃棄を免れるために行われ、高額返品が被告の受けた利益を減少させるために行われた可能性も考えられるから、この点からしても、廉価販売、高額返品による利益の減少をそのままにして同法5条2項の利益を算出するのは相当でないというべきである。

         したがって、本件において、同法5条2項による利益を算出するに当たっては、販売個数、単価、売上について、廉価販売の分は除外し、高額返品については、返品の評価額を販売価格と同一とするのが相当である。
     (ウ)  別表1、2記載の販売個数、単価、売上について、廉価販売の分を除外し、高額返品の評価額を販売価格と同一とするなどの修正を行うと、ロ号製品の単価、販売個数、売上は、各販売先ごとに、次のとおりとなり、これをまとめると、別表1、2各修正記載のとおりとなる。
       @ 有限会社A(別表1修正)
           平成15年9月1日以降の販売は廉価販売であるから、利益の算出に当たっては除外する。そうすると、同年7月15日までの販売につき、単価は2700円、販売個数は1270個であり、売上は342万9000円である(2700円×1270個=342万9000円)。

       A B株式会社(別表1修正)
           単価は2800円、返品数を除いた販売個数は5070個であり、売上は1419万6000円である(2800個×5070個=1419万6000円)。
       B E株式会社(別表2修正)
           高額返品について、評価額を販売価格と同一とする。また、平成15年9月29日、同年10月21日の返品には、返品の評価額を販売価格より低額としたものがあるが、評価額をそのままとすると、実際よりも利益額が多く算出されることになるので、それについても評価額を販売価格と同一とする。そうすると、単価は2700円、販売個数は2658個であり、売上は717万6600円である(2700円×2658個=717万6600円)。
       C F(別表2修正)
           すべて廉価販売であるから、利益の算出に当たり、すべて除外する。

       D 株式会社G(別表2修正)
           単価は2800円、販売個数は1547個であり、売上は433万1600円である(2800円×1547個=433万1600円)。
       E J(別表2修正)
           廉価販売は除外し、高額返品については、評価額を販売価格と同一とする。平成15年11月4日の返品は800円と評価されているが、これは、乙第9号証の6、7によれば、それ以前の廉価販売の返品と推認されるから、これについては、利益の算出に当たって除外する。そうすると、単価2720円のものの販売個数は4382個、2800円のものの販売個数は456個、2900円のものの販売個数は4個であり、売上は1320万7440円(2720円×4382個+2800個×456個+2900個×4=1320万7440円)である。

       F H株式会社(別表2修正)
           高額返品について、評価額を販売価格と同一とすると、単価3000円のものの販売個数は170個、単価2700円のものの販売個数は252個であり、売上は119万0400円である(3000円×170個+2700円×252個=119万0400円)。
       G 株式会社K(別表2修正)
           単価2700円のものは、返品数を除いた販売個数は4368個であり、単価2800円のものは、返品数を除いた販売個数は1726個であり、売上は1662万6400円である(2700円×4368個+2800円×1726個=1662万6400円)。
       H I株式会社(別表2修正)
           単価は2800円、返品数を除いた販売個数は771個であり、売上は215万8800円である(2800円×771個=215万8800円)。

       I 株式会社L(別表2修正)
           平成15年10月1日、770円の評価額による3個の返品があるが、評価額が販売単価2530円に比べて非常に低額であるから、この返品3個は販売個数の算出に当たって除外することとし、3個分の返品額2310円は、値引きとし、売上から差し引くのが相当である。そうすると、単価は2530円、返品数を除いた販売個数は571個であり、更に上記2310円を差し引くと、売上は144万2320円である(2530円×571個−2310円=144万2320円)。
       J 株式会社C(別表1修正)
           単価は2700円であり、廉価販売を除外すると、返品数を除いた販売個数は341個であり、売上は92万0700円である(2700円×341個=92万0700円)。
       K 株式会社D(別表1修正)

           単価は2800円であり、返品数を除いた販売個数は346個であり、売上は96万8800円である(2800円×346個=96万8800円)。
       L 被告自社店舗
           乙第1号証によれば、被告は、自社店舗において、ロ号製品を単価2900円で413個、単価1900円で2126個販売したことが認められ、その売上は、単価2900円のものにつき119万7700円(2900円×413個=119万7700円)、単価1900円のものにつき403万9400円(1900円×2126個=403万9400円)であり、合計523万7100円(119万7700円+403万9400円=523万7100円)である。
   ウ ロ号製品の経費について検討する。
       前記ア記載のとおり、経費単価が1669円であることは当事者間に争いがないから、上記イ(ウ)記載の各販売先についての経費は、経費単価に販売個数を乗じることにより求めることができ、次のとおりとなる。

     @ 有限会社A
         経費は211万9630円である(1669円×1270個=211万9630円)。
     A B株式会社
         経費は846万1830円である(1669円×5070個=846万1830円)。
     B E株式会社
         経費は443万6202円である(1669円×2658個=443万6202円)。
     C 株式会社G
         経費は258万1943円である(1669円×1547個=258万1943円)。
     D J
         経費は808万1298円である(1669円×(4382個+456個+4個)=808万1298円)。
     E H株式会社
         経費は70万4318円である(1669円×(170個+252個)=70万4318円)。
     F 株式会社K
         経費は1017万0886円である(1669円×(4368個+1726個)=1017万0886円)。

     G I株式会社
         経費は128万6799円である(1669円×771個=128万6799円)。
     H 株式会社L
         経費は95万2999円である(1669円×571個=95万2999円)。
     I 株式会社C
         経費は56万9129円である(1669円×341個=56万9129円)。
     J 株式会社D
         経費は57万7474円である(1669円×346個=57万7474円)。
     K 被告自社店舗
         経費は、単価2900円のものにつき68万9297円(1669円×413個=68万9297円)、単価1900円のものにつき354万8294円(1669円×2126個=354万8294円)であり、合計423万7591円である(68万9297円+354万8294円=423万7591円)。

   エ ロ号製品の販売による利益について検討する。
     (ア) 前記イ(ウ)記載の各販売先についての利益は、売上から経費を差し引くことにより求めることができ、次のとおりとなる。
       @ 有限会社A
           利益は130万9370円である(342万9000円−211万9630円=130万9370円)。
       A B株式会社
           利益は573万4170円である(1419万6000円−846万1830円=573万4170円)。
       B E株式会社
           利益は274万0398円である(717万6600円−443万6202円=274万0398円)。
       C 株式会社G
           利益は174万9657円である(433万1600円−258万1943円=174万9657円)。
       D J
           利益は512万6142円である(1320万7440円−808万1298円=512万6142円)。

       E H株式会社
           利益は48万6082円である(119万0400円−70万4318円=48万6082円)。
       F 株式会社K
           利益は645万5514円である(1662万6400円−1017万0886円=645万5514円)。
       G I株式会社
           利益は87万2001円である(215万8800円−128万6799円=87万2001円)。
       H 株式会社L
           利益は48万9321円である(144万2320円−95万2999円=48万9321円)。
       I 株式会社C
           利益は35万1571円である(92万0700円−56万9129円=35万1571円)。
       J 株式会社D
           利益は39万1326円である(96万8800円−57万7474円=39万1326円)。

       K 被告自社店舗
           利益は、単価2900円のものにつき50万8403円(119万7700円−68万9297円=50万8403円)、単価1900円のものにつき49万1106円(403万9400円−354万8294円=49万1106円)であり、合計99万9509円である(50万8403円+49万1106円=99万9509円)。
       (前記イ(ウ)記載の販売個数、売上、前記ウ記載の経費、上記(ア)記載の利益は、別紙利益計算表記載のとおりとなる。)
     (イ) 上記(ア)記載の利益の合計は2670万5061円である。この金額が、不正競争防止法5条2項により、原告の受けた損害の額と推定され、この推定を覆すに足りる証拠はないから、上記金額をもって原告の受けた損害の額と認めるのが相当である。

10 以上によれば、原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項3号、4条、5条2項に基づき、被告がロ号製品の販売により得た利益額2670万5061円及びこれに対する最後の不正競争が行われた日である平成15年12月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
11 よって、原告の本訴請求は、被告に対し、2670万5061円及びこれに対する平成15年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求する限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。


     大阪地方裁判所第26民事部

                 裁判長裁判官        山  田  知  司


                         裁判官      中  平     健

                         裁判官      守  山  修  生