◆H16.12. 1 東京地裁 平成16(ワ)12137 商標権 民事訴訟事件
平成16年(ワ)第12137号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年10月6日
判 決
原 告 株式会社イレブン
同訴訟代理人弁護士 會 田 恒 司
被 告 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
同訴訟代理人弁護士 大 野 聖二
同 市 橋 智 峰
同補佐人弁理士 中 村 仁
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告標章目録記載の標章,「eサイト」の文字を書して成る標章及び「esite」の文字を書して成る標章を,電磁的方法により行う映像面を介した商品の販売に関する情報の提供の役務の提供に当たり,その映像面に表示してはならない。
2 被告は,前項記載の各標章を,印刷物,パンフレット等の広告物に付して,展示し又は頒布してはならない。
3 被告は,原告に対し,5500万円及びこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,登録商標「e−sight」を用いて長崎県内の情報を提供するサービスを行っている原告が,ホームページを開設し,「(ドコモ)eサイト」等の標章を使用して携帯電話に関連する商品に関する情報の提供等を行っている被告に対し,商標権侵害を理由として使用の差止め,並びに損害賠償又は不当利得の返還を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 原告の商標権
原告は,次の商標権(以下「本件商標権」といい,本件商標権の登録商標を「本件商標」という。)を有している。
登録番号 第4485800号
登録商標 e−sight(標準文字)
商品及び役務の区分 第35類
指定役務 経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理
登録日 平成13年6月29日
出願日 平成12年3月27日
(争いのない事実)
(2) 原告の営む事業
ア 原告は,「ナガサキタイムス」という情報誌の発行及び専門情報誌の発行のほか,インターネット上のホームページによる主に長崎県及びその周辺における情報の提供を主たる業務とする会社である。
イ すなわち,原告は,平成12年8月から平成15年12月まで,本件商標を使用したホームページをインターネット上に開設し,このホームページにおいて,長崎県内における観光,イベント,飲食店,宿泊施設等に関する情報のほか,同県内において販売されている商品の販売に関する情報を提供していた。
ウ また,原告は,平成12年9月から同年11月までの間,このホームページについてのテレビコマーシャルを行った。
エ 原告は,平成15年12月から,別のホームページにおいて,ブライダル関連のサービス及び商品の販売に関する情報の提供を行っているが,このホームページにおいても本件商標が使用されている。
オ さらに,原告は,平成12年12月20日付けで本件商標を題号とする長崎の飲食店やホテルの情報を登載した小冊子を発行し,翌年3月にも同様の小冊子を発行した。
(甲3ないし10,21)
(3) 被告標章の使用
ア 被告は,平成13年9月10日から,URLを「http:/-www.esite.nttdocomo.co.jp/」(編注:URLの表記を一部変更,以下同じ。)とするホームページ(以下「被告ホームページ」という。)を開設した(以下,上記URL中の「esite」部分を「被告esite標章」という。)。
イ 被告ホームページのトップページの左上部分には,別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告ドコモ標章」という。)が使用され,中央には,「NTTDoCoMo」と被告ドコモ標章よりも大きく記載されている。
トップページに続く「ご確認事項」等の各ページにおいては,左上部分に被告ドコモ標章が使用され,右上部分に「NTTDoCoMo」との表示が被告ドコモ標章とほぼ同じ大きさで記載されている。
ウ 「ご確認事項」のページには,「ドコモeサイトでは,クイックキャストの新規お申込み,モバイル商品・各種オプション等のご購入が行えます。・・・ドコモeサイトは,「お申込完了画面」をもちまして,ご注文の承りとさせていただきます。・・・「リミットプラス」をご契約されているお客様につきましては,eサイトをご利用いただけませんのでご注意願います。」等と記載され,多くの場合は,「ドコモeサイト」との表現が採用されているが,「ドコモeサイト」を意味することが明らかな文脈では,「eサイト」(以下「被告eサイト標章」という。また,これら3つの被告標章をあわせて「本件被告3標章」という。)との表現が採用されている。
エ エヌティティドコモの携帯電話の契約者は,被告ホームページから,料金プラン変更,住所変更,商品購入等を行い,また,エヌティティドコモの携帯電話を新規に契約したい者も,被告ホームページから,新規契約の申込みを行うことができる。したがって,被告ホームページにアクセスする者の大部分は,エヌティティドコモの携帯電話について料金プランの変更等や新規申込みを行うために被告ホームページにアクセスするものであり,しかも,トップページやそれに続くページに「NTTDoCoMo」との記載があるため,被告が被告ホームページを開設したことを認識している。
オ 被告ホームページ中の商品購入のコーナーにおいては,携帯電話に関連する電池パック,イヤホンセット等の携帯電話端末の付属機器類が紹介されており,契約者は,同コーナーから,その購入の申込みをすることができる。
カ 被告のグループ会社として,株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ北海道,同東北,同北陸,同東海,同関西,同中国,同四国,同九州の8社(以下「関連8社」という。)がある。関連8社は,被告の地域担当の営業部門としての性格を有する被告の完全子会社であり,被告の下で一体となって経済活動を行っている。
商品購入のコーナーを通じての契約者への付属機器類の販売に当たり,被告は,関東甲信越地域の契約者について契約当事者となるが,その他の地域の顧客については,関連8社のいずれかが契約当事者となる。
(ア〜カにつき,争いのない事実,甲11,乙1,10,11,弁論の全趣旨)
キ 被告は,被告のサービスや携帯電話端末を紹介するパンフレット等の広告物上に,被告ドコモ標章及び被告eサイト標章を使用しているが,上記パンフレット等に「NTTDoCoMo」と大きく表示され,かつ,被告のサービス等が紹介されているため,上記パンフレット等に接する需要者等は,被告が上記パンフレット等を作成したことを認識している。
(甲15,16,20,弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 商標の類似性
(2) 役務該当性及び役務の類似性
(3) 商標的使用該当性
(4) 普通名称・記述的表示
(5) 原告の損害
3 争点に関する当事者の主張
(1) 商標の類似性
ア 原告の主張
(ア) 本件商標
a 本件商標から,「イーサイト」との称呼が生じる。
b 本件商標から,「eの光景」との観念が生じる。
(イ) 被告ドコモ標章
a 称呼
(a) 被告ドコモ標章において,「ドコモ」の文字は,右上部分に極めて小さく表されている。
(b) また,被告は,被告ホームページで,「ドコモeサイト」と表示している場合があるほか,「eサイト」とも表示している。
(c) 以上によると,被告ドコモ標章から,「イーサイト」との称呼が生じる。
b 観念
(a) 英単語「sight」は,英語教育の初期段階で学習される言葉であるから,「eサイト」は「e−sight」の意味でも観念される。
(b) よって,被告ドコモ標章から,「eの光景」との観念も生じる。
(c) 後記被告の主張(イ)b(b)〜(e)は否認する。インターネット上のサイトは,「webサイト」又は「サイト」と表されることはあるが,「eサイト」と表されることは通常ない。
c 外観
後記被告の主張(イ)cは,明らかに争わない。
d 取引の実情
被告が本件被告3標章の使用を開始して以降,一般需要者及び取引者から,「原告が被告の商標権を侵害している。」「原告は被告の傘下に入った。」などという誤解を受けることになった。
e まとめ
よって,本件商標と被告ドコモ標章とは,称呼及び観念において類似し,被告ドコモ標章は,本件商標に類似する。
(ウ) 被告eサイト標章
a 称呼
被告eサイト標章から,「イーサイト」との称呼が生じる。
b 観念
また,前記(イ)bと同様に,被告eサイト標章から,「eの光景」との観念も生じる。
c 外観
後記被告の主張(ウ)cは,明らかに争わない。
d まとめ
よって,本件商標と被告eサイト標章とは,称呼及び観念において類似し,被告eサイト標章は,本件商標に類似する。
(エ) 被告esite標章
a 称呼
被告esite標章から,「イーサイト」との称呼が生じる。
b 観念
後記被告の主張(エ)bは,明らかに争わない。
c 外観
後記被告の主張(エ)cは,明らかに争わない。
d まとめ
よって,本件商標と被告esite標章とは,称呼において類似し,被告esite標章は,本件商標に類似する。
イ 被告の主張
(ア) 本件商標
a 称呼
原告の主張(ア)aは認める。
b 観念
同bは否認する。本件商標は,「インターネットの」との意味を有する「e−」と,「景色,光景,名所」の意味を有する「sight」とが組み合わされたものであり,「インターネットの(で見る)景色,光景,名所」といった観念が生じる。
(イ) 被告ドコモ標章
a 称呼
同(イ)aのうち,(a)は否認し,(b)は認め,(c)は否認する。
b 観念
(a) 同(イ)b(a)及び(b)は否認する。
(b) 被告は,携帯電話事業において国内トップのシェアを有していることから,「ドコモ」は,被告の商号の略称として,携帯電話使用者のみならず一般人の間に広く知られている。
(c) 被告は,平成4年以来,「ドコモ○○」のように「ドコモ」の語を付した語をその名称とするサービス等を市場に提供し続けているが,上記(b)の理由により,「ドコモ」という語は,「ドコモ○○」のように他の語と結合した標章として用いられるときは,被告又はその関連会社が提供するものであることを表す語として需要者等の注意を強く引くとともに,それに続く語と一体となって,被告又はその関連会社の提供に係るものであることが一般に認識されることになる。
(d) 他方,「eサイト」の語は,接頭語として「電子の,インターネットの」との意味を有する「e」と「ウェブサイト,ホームページ」と互換的に用いられる「サイト」といういずれも平易な語を組み合わせたものであり,需要者等によって,「インターネットのサイト」すなわち「ウェブサイト」を意味するものと理解され,特定の出所との関連を想起させる用語ではない。
(e) 以上によれば,被告ドコモ標章は,一連一体の標章として理解され,「ドコモイーサイト」との称呼及び「ドコモのウェブサイト」との観念が生じ,「イーサイト」との称呼や「eの光景」との観念が生じることはない。
c 外観
本件商標と被告ドコモ標章とは,外観が異なる上に,「ドコモ」を除く部分を比べても,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあり,外観において異なる。
d 取引の実情
(a) 同(イ)d(混同の実例)は不知。
(b) 前提事実(3)のとおり,被告ホームページにアクセスする者の大部分は,エヌティティドコモの携帯電話について料金プランの変更等や新規申込みを行うために被告ホームページにアクセスするものであり,しかも,トップページやそれに続くページに「NTTDoCoMo」との記載があるため,被告が被告ホームページを開設したことを認識している。また,被告作成のパンフレット等に接する需要者等は,そのパンフレットが被告のサービスや製品を紹介するために被告によって作成されたことを認識している。
e まとめ
同(イ)eは否認する。称呼及び観念が異なるし,さらに,外観の相違及び上記d(b)の取引の実情を併せ考慮すると,商標の類似は認められない。
(ウ) 被告eサイト標章
a 称呼
原告の主張(ウ)aは認める。
b 観念
同(ウ)bは否認する。前記(イ)b(d)のとおり,被告eサイト標章から,「ウェブサイト」との観念のみが生じる。
c 外観
本件商標と被告eサイト標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあり,外観において異なる。
d 取引の実情
前記(イ)d(b)のとおり,被告ホームページやパンフレット等に接する需要者等は,それらが被告の開設又は作成によるものであることを認識している。
e まとめ
同(ウ)dは否認する。観念が異なるし,さらに,外観の相違及び上記dの取引の実情を併せ考慮すると,商標の類似は認められない。
(エ) 被告esite標章
a 称呼
原告の主張(エ)aは認める。
b 観念
被告esite標章から,「ウェブサイト」との観念が生じる。
c 外観
本件商標と被告esite標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+sight」と「site」の違いがあり,外観において異なる。
d 取引の実情
前提事実(3)アのとおり,被告esite標章は,被告ホームページのURL「http:/-www.esite.nttdocomo.co.jp/」の一部として,「nttdocomo」とともに表示されて使用されている。
e まとめ
同(エ)dは否認する。観念及び外観の相違並びに上記dの取引の実情を併せ考慮すると,商標の類似は認められない。
(2) 役務該当性及び役務の類似性
ア 原告の主張
(ア) 被告が契約当事者となる場合
a 被告が携帯電話端末の付属機器類の販売等において契約の一方当事者となる場合,本件被告3標章は,商品の販売に関する情報の提供等の役務についての商標として使用されている。
b 被告は,「商品の販売に関する情報の提供」とは,複数の他社の商品同士を比較して紹介するという役務を意味する旨主張するが,上記情報の提供を被告主張のように限定すべき理由はなく,どこの会社でどのような商品を販売しているかの情報を提供する場合であっても,この役務に該当する。
c 被告が販売等において契約の一方当事者となるからといって,被告が提供するサービスが付随的なものとなるわけではない。例えば,有名百貨店が買主が購入した商品を全国へ配送するサービスを提供し,同百貨店の配送部門が他社の商標(例えば,黒猫マーク)を商標として使用し,配達伝票や車両に同マークを付して配送業務を行った場合,車両による輸送の役務についての他社の商標権を侵害することとなることは明らかである。
(イ) 関連8社のための情報の提供
a(a) 被告は,被告ホームページ等において,本件被告3標章を使用して,自分が販売する商品だけでなく,関連8社が販売する商品に関する情報を提供し,需要者からの商品購入の申込みを関連8社に取り次いでいる。
(b) よって,被告が「商品の販売に関する情報の提供」の役務を行っていることは,明らかである。
b 被告は,関連8社は他人ではなく,被告と一体とみなすべきである旨主張するが,グループ会社であっても,別人格であることに変わりはなく,被告の上記主張は理由がない。
(ウ) まとめ
よって,本件商標権の指定役務である「商品の販売に関する情報の提供」と被告が行っている情報の提供の役務とは,類似する。
イ 被告の主張
(ア) 被告が契約当事者となる場合
a 原告の主張(ア)aは否認する。
b(a) 商標法にいう役務とは,他人のためにする労務又は便益であって,付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものと解すべきである。
(b) また,本件商標権の指定役務である「商品の販売に関する情報の提供」とは,複数の他社の商品同士を比較して紹介するという役務を意味する。
(c) 被告が被告ホームページにおいて提供しているサービスは,被告又は被告の完全子会社である関連8社が販売する商品を宣伝・広告するものであり,他人のために宣伝・広告の場を提供したりするものではなく,複数の他社商品を比較して紹介しているものでもない。
(d) よって,被告が被告ホームページ等において提供しているサービスは,商標法にいう役務に当たらない。
(イ) 関連8社のための情報の提供
同(イ)a(a)は認め,(b)は否認する。
(ウ) まとめ
同(ウ)は否認する。
(3) 商標的使用該当性
ア 原告の主張
(ア) 被告eサイト標章
a 被告は,被告eサイト標章を一般的な意味のウェブサイトの意味ではなく,商品の販売に関する情報の提供等を行っている被告ホームページを表示するものとして使用している。
b よって,被告は,被告eサイト標章を商標として使用している。
(イ) 被告esite標章
a 被告は,被告esite標章を一般的な意味でのウェブサイトの意味ではなく,商品の販売に関する情報の提供等を行っている被告ホームページを選出するためのアドレスとして使用している。
b よって,被告は,被告esite標章を商標として使用している。
イ 被告の主張
(ア) 被告eサイト標章について
a 原告の主張(ア)は否認する。
b 被告eサイト標章は,被告ホームページやパンフレットにおいて,「ドコモeサイト」を指すことが明らかな文脈においてのみ,単に「ドコモeサイト」を示す用語として用いられており,自他を識別する態様において使用されておらず,商標として使用されていない。
(イ) 被告esite標章について
a 同(イ)は否認する。
b 被告esite標章は,そのURL「http:/-www.esite.nttdocomo.co.jp/」中で,その一部としてのみ使用されており,商標として使用されていない。
(4) 普通名称・記述的表示
ア 被告の主張
(ア) 普通名称
a 「eサイト」の語は,インターネット上のサイト,すなわちウェブサイトを意味する。
b 「esite」は,「eサイト」の「サイト」の部分を英語表記したものである。
c 「eサイト」及び「esite」の語は,ウェブサイトを意味する普通名称として広く一般に使用されている(乙12〜16)。
d 被告は,被告eサイト標章及び被告esite標章を普通に用いられる方法で表示している。
e よって,被告による被告eサイト標章及び被告esite標章の使用は,普通名称を普通に用いられる方法で表示するものであり,商標法26条1項3号により,本件商標権の効力は及ばない。
(イ) 記述的表示
a 仮に(ア)が認められないとしても,被告は,被告eサイト標章及び被告esite標章を被告のサービスを提供する方法又は場所であるウェブサイトを表示する記述的表示として使用している。
b 被告は,被告eサイト標章及び被告esite標章を普通に用いられる方法で表示している。
c よって,被告による被告eサイト標章及び被告esite標章の使用は,被告のサービス提供の方法又は場所を普通に用いられる方法で表示するものであり,商標法26条1項3号により,本件商標権の効力は及ばない。
イ 原告の主張
(ア) 普通名称
a 被告の主張(ア)は否認する。
b 「esite」及びその意味で理解されるところの「eサイト」も,一般的な意味でのウェブサイトの意味で使用されていない。
c 被告の指摘する使用例(乙12〜16)は,一般的なものではない。また,やまがたワン(乙15)における「eサイト」は,良いサイトとの意味で使用されている。
(イ) 記述的表示
a 被告の主張(イ)は否認する。
b 「 eサイト」は「e−sight」の意味も有するから,被告eサイト標章が記述的に使用されているとはいえない。
(5) 原告の損害
ア 原告の主張
(ア) 信用毀損
a 前記(1)ア(イ)d(a)のとおり,被告が本件被告3標章の使用を開始して以降,原告は,一般需要者及び取引者から,「原告が被告の商標権を侵害している。」「原告は被告の傘下に入った。」などという誤解を受けることになり,原告の信用が毀損された。
b この信用毀損による損害賠償として500万円を請求する。
(イ) 逸失利益(商標法38条2項)
a 被告が本件侵害行為により平成13年9月16日から平成16年4月15日までの間に受けた利益の額は,5000万円を下らない。
b よって,原告は,商標法38条2項に基づき,5000万円を請求する。
(ウ) 不当利得
a 原告が被告に対し本件商標について使用許諾を行うとした場合,平成13年9月16日から平成16年4月15日までの期間において,4000万円以上の許諾料の支払がなければ使用許諾をしなかった。
b よって,被告は,原告の損失において,少なくとも4000万円を不当に利得している。
イ 被告の主張
原告の主張(ア)(信用毀損)のうち,aは不知,bは否認する。
同(イ)(逸失利益)及び(ウ)(不当利得)は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 商標の類似性について
(1) 本件商標について
ア 称呼
本件商標から,「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間に争いがない。
イ 観念
原告は,本件商標より「eの光景」の観念を生じる旨主張するが,「eの光景」というだけでは,その意味するところは必ずしも明確でなく,更にその意味するところを探求する必要がある。
そして,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,「e」の文字は「電子の,インターネットの」との意味を有するものとして広く使用されているものと認められ,本件商標がこの「e」と「sight」という語から構成されていることからすれば,本件商標からは「インターネット上の光景」との観念が生じるものと認められる。
(2) 被告ドコモ標章について
ア 構成
前記争いのない被告ドコモ標章の構成によれば,同標章は,左側に大きく多少丸みを持たせた「e」の文字を青色で縁取りした黄色で大きく表し,その右側下段に片仮名の「サイト」の文字を青色で縁取りした白色で表し,「サイト」の文字の上段に「サイト」の約2分の1の大きさの「ドコモ」の文字を青地に白抜きで表したものである。
イ 「eサイト」から生じる観念
(ア) 証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年9月当時,「e」の文字は,「電子の,インターネットの」との意味を有するものとして広く使用されていたことが認められる。
証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,同当時,「サイト」の語は,「インターネット上で提供される各種コンテンツが登録されている場所」といった意味で「ウェブサイト,ホームページ」と互換的に用いられている語であったことが認められる。
そして,証拠(乙8の2・4)及び弁論の全趣旨によれば,「e」と「サイト」とが組み合わされた「eサイト」という語は,使用例(乙12〜16)や「eサイト」の商標登録の拒絶(乙8の2・4)を考慮しても,「インターネット上のホームページ」を指称するものとして一般的に普及していたものとまで認めることはできないが,インターネットが広く発達・普及した同当時の社会経済状況にかんがみれば,「インターネット上のサイト」を意味すると需要者等に理解されたものと認められる。そうすると,「eサイト」の部分は,インターネットに関連して使用された場合,識別力が弱いと考えられる。
(イ) 原告は,英単語「sight」は,英語教育の初期段階で学習される言葉であるから,「eサイト」は「e−sight」の意味でも観念される旨主張する。
確かに,弁論の全趣旨によれば,「sight」は,我が国における英語教育上比較的早い段階で学習される単語であることが認められるが,「eサイト」の標章に接した需要者等は,「e」と組み合わされた「eサイト」からウェブサイトを意味する「esite」を自然に観念するのに対し,「インターネット上の光景」を意味する「e−sight」を観念することは極めて困難であると認められる(本件商標が登録された理由も,「e−sight」から「ウェブサイト」の観念が生じると認めることは困難であることにあるものと認められる(乙8の2・4参照)。)。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 外観
本件商標と被告ドコモ標章とは,外観が異なる上に,「ドコモ」を除く部分を比べても,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあり,外観において異なることは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
エ 取引の実情
(ア) 「ドコモ」の著名性
証拠(乙1〜5)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年9月当時,被告は,携帯電話事業において国内トップのシェアを有し,「ドコモ」の語は,被告の略称として日本国内で著名であったこと,被告は,平成4年以降,「ドコモ○○」のように「ドコモ」の語を付した語をその名称とするサービス等を市場に提供し続け,被告の提供する各サービス等も取引市場において浸透し,需要者に広く認識されていたことが認められる。
(イ) 本件ドコモ標章の使用態様
前提事実(3)のとおり,被告ホームページにアクセスする者の大部分は,エヌティティドコモの携帯電話について料金プランの変更等や新規申込みを行うために被告ホームページにアクセスするものであり,しかも,トップページやそれに続くページに「NTTDoCoMo」との記載があるため,被告が被告ホームページを開設したことを認識している。また,被告作成のパンフレット等に接する需要者等は,そのパンフレットが被告のサービスや製品を紹介するために被告によって作成されたことを認識している。
(ウ) 混同の実例
原告は,被告が本件被告3標章の使用を開始して以降,一般需要者及び取引者から,「原告が被告の商標権を侵害している。」「原告は被告の傘下に入った。」などという誤解を受けることになった旨主張するが,原告代表者が陳述書(甲21)で指摘する事例のみからは,原告主張の誤解なるものが散発的なものか,そのような発言をした者が仕事の必要上念のため原告に被告との関係を確認したにすぎないことがうかがわれるにすぎず,他に商標の類否の判断に影響する混同の実例を認めるに足りる証拠はない。
オ まとめ
(ア) 以上の本件ドコモ標章の構成,ドコモの著名性及び「eサイト」から生じる観念からすると,被告ドコモ標章は,需要者等によって一連一体の標章として認識され,「ドコモイーサイト」との称呼及び「ドコモのウェブサイト」との観念を生じ,「イーサイト」との称呼や「インターネット上の光景」との観念を生じることはないと認められる。
これらの事実に,前記外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると,同一又は類似の役務に使用されたとしても,被告ドコモ標章と本件商標との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,被告ドコモ標章が本件商標に類似するとは認められない。
(イ) 仮に本件ドコモ標章から「イーサイト」との称呼や「ウェブサイト」の観念が生じると認めた場合であっても,前記外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると,同一又は類似の役務に使用されたとしても,やはり被告ドコモ標章の使用により本件商標の付された役務との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,被告ドコモ標章が本件商標と類似するとは認められない。
(3) 被告eサイト標章について
ア 称呼
被告eサイト標章から「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間に争いがない。
イ 観念
被告eサイト標章から「インターネット上のサイト」との観念が生じ,「インターネット上の光景」との観念が生じることはないことは,前記(1)イのとおりである。
ウ 外観
本件商標と被告eサイト標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあり,外観において異なることは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
エ 取引の実情
被告ホームページにアクセスする者の大部分は,エヌティティドコモの携帯電話について料金プランの変更等や新規申込みを行うために被告ホームページにアクセスするものであり,しかも,トップページやそれに続くページに「NTTDoCoMo」との記載があるため,被告が被告ホームページを開設したことを認識しており,また,被告作成のパンフレット等に接する需要者等は,そのパンフレットが被告のサービスや製品を紹介するために被告によって作成されたことを認識していることは,前記(1)エ(イ)のとおりである。
オ まとめ
以上のとおり,本件商標と被告eサイト標章とは,称呼において共通しているが,前記観念の相違,外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると,同一又は類似の役務に使用されたとしても,被告eサイト標章と本件商標との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,被告eサイト標章は本件商標に類似するとは認められない。
(4) 被告esite標章について
ア 称呼
被告esite標章から「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間に争いがない。
イ 観念
被告esite標章から「ウェブサイト」との観念が生じることは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
ウ 外観
本件商標と被告esite標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイフン+sight」と「site」の違いがあり,外観において異なることは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
エ 取引の実情
被告esite標章は,被告ホームページのURL「http:/-www.esite.nttdocomo.co.jp/」の一部として,「nttdocomo」とともに表示されて使用されていることは,当事者間に争いがない。
オ まとめ
以上のとおり,本件商標と被告esite標章とは,称呼において共通しているが,前記観念の相違,外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると,同一又は類似の役務に使用されたとしても,被告esite標章と本件商標との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,被告esite標章は本件商標に類似するとは認められない。
2 結論
以上によれば,本件商標と本件被告3標章との間に商標の類似性が認められないから,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市 川 正 巳
裁判官 杉 浦 正 樹
裁判官 ョ 晋 一