◆H16. 6.30 東京高裁 平成16(行ケ)67 商標権 行政訴訟事件
平成16年(行ケ)第67号 審決取消請求事件 (平成16年5月31日口頭弁論終結)
判 決
原 告 A
訴訟代理人弁護士 宮 寺 利 幸
同 弁理士 千 葉 剛 宏
被 告 かいづかインテリア株式会社
訴訟代理人弁理士 中 村 政 美
主 文
特許庁が取消2002−30417号事件について平成16年1月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,「玄庵」と「GEN AN」の文字を横書き上下2段に書してなり,指定役務を第42類「飲食物の提供」とする登録第4104006号商標(平成8年1月29日登録出願,平成10年1月16日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,本件商標について,平成14年4月16日,商標法50条の規定による商標登録の取消しの審判(以下「本件審判」という。)の請求をし,その予告登録が同年5月15日(以下「予告登録日」という。)にされた。
特許庁は,同請求を取消2002−30417号事件として審理した結果,平成16年1月9日,「登録第4104006号商標の商標登録は取り消す。」との審決をし,その謄本は同月21日原告に送達された。
2 審決の理由
審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標は,予告登録日前3年以内に日本国内において指定役務について使用された事実を認めることができないから,商標法50条の規定により,その登録を取り消すべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決は,本件商標が予告登録日前3年以内に日本国内において指定役務「飲食物の提供」に使用された事実がないとする誤った認定をした(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 有限会社壇(以下「壇」という。)は,本件商標について商標権者から使用許諾を受けた通常使用権者として,昭和59年8月ころから平成14年11月まで,東京都新宿区(以下省略)において,「玄庵」(注,称呼は「げんあん」)の屋号で,ステーキ店を営業し,顧客に配布する案内状,看板等に「玄庵」と表示してきた。したがって,本件商標は,予告登録日前3年以内に,商標権者(原告)から使用許諾を受けた通常使用権者(壇)が指定役務について使用していたものであり,その使用の事実が認められないとした審決の認定判断は誤りである。
第4 被告の反論
1 審決の認定判断に誤りはない。
2 原告は,本訴に至って提出した新たな証拠(甲15〜27)により本件商標の使用の事実を証明しようとしているが,本件審判で十分な主張立証活動をしなかったのに,審決取消訴訟で何らの制限もなしに本件商標の使用に関する事実の立証をすることが無制限に許されるとすることは妥当ではない(最高裁平成3年4月23日第三小法廷判決・民集45巻4号538頁〔以下「平成3年最判」という。〕における裁判官坂上壽夫の反対意見)。
本件商標の商標登録原簿には通常使用権の設定登録はされておらず,しかも,予告登録日前3年以内における本件商標の使用を裏付けるものとして原告が提出した証拠は,上記期間外に発行された書籍等の記事,作成日不明の案内状,上記期間外に撮影された店舗の写真,原告が選択作成した証明事項についての役所の回答書,原告本人や原告側元従業員の陳述書など,いずれも証明力に欠けるものばかりであるから,本件商標について通常使用権者による使用の事実を認めることはできない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について
(1) 商標登録の不使用取消審判の審決の取消訴訟における当該登録商標の使用の事実の立証が,取消訴訟の事実審口頭弁論終結時に至るまで許されることは,平成3年最判の判示するとおりであるから,本訴において新たに提出されたものも含め,証拠を検討すると,「玄庵」なる屋号の店舗及び壇に関して,以下の事実が認められる。
ア 平成10年11月20日文藝春秋発行「東京いい店うまい店」(1999〜2000年版)(甲15)には,読者アンケートと食情報通からの推奨店リストをもとに選び出されたという飲食店578店の中に,新宿区(以下省略)に所在する「玄庵」(読み仮名「げんあん」)が,「ステーキと旬の味」を提供するカウンター割烹として紹介されている。また,平成14年7月1日日経ホーム出版社発行の「日経おとなのOFF」同年7月号(甲19)には,同所に所在する「玄庵」(読み仮名「げんあん」)が「ノスタルジックな隠れ家で季節の品とステーキを存分に味わう」との見出しの下に,写真入りで紹介されている。
イ 壇は,昭和55年11月17日に設立され,平成6年7月22日,東京都新宿区(以下省略)に本店を移転し,平成16年4月13日時点において,同所が本店所在地である(甲6,25)。
壇は,新宿区保健所から,新宿区(以下省略)を営業所所在地とし,屋号を「玄庵」とする飲食店の営業につき,平成11年9月1日から平成18年8月31日までを許可期間として,飲食店営業の営業許可を受けていたが,平成14年11月25日,上記飲食店の廃業届を同保健所に提出し(甲23−1,2),同じころ,同店の料理長であったBが,同人自身の名義で,同一場所,同一屋号の飲食店につき平成14年11月11日から平成21年11月30日までを許可期間とする飲食店営業の許可を受けている(甲22−1,2,甲24)。
ウ 平成15年10月2日撮影と認められる写真(甲12)には,Oビルの入口横の外壁に取り付けた袖看板が写っており,同袖看板には,「ステーキと旬の味」との小振りの横書き文字の下に「玄庵」と横書きで大書されている。また,撮影日不詳の写真(甲5)には,バス通りに面したOビルの外観が写っており,2階店舗の窓に横書きで大きく「ステーキと旬の味 玄庵」との表示がされている。
(2) 上記の認定事実によれば,少なくとも平成10年から平成14年11月にかけての期間,新宿区(以下省略)に,書籍,雑誌等に紹介されている「玄庵」の屋号のステーキ店が存在し,その営業主体は,壇であったことを認めることができるから,予告登録日である平成14年5月15日より前3年以内の時期において,壇が,「げんあん」と称呼される「玄庵」の屋号を使用して,上記の場所で飲食物を提供する営業を行っていたことは明らかである。さらに,上記事実に照らせば,上記飲食店の看板及びバス通りに面した窓に付された「玄庵」の表示は,予告登録日前から存在したものと推認するのが相当である。
そうすると,予告登録日前3年以内の期間内に,壇が,その経営するステーキ店の広告に「玄庵」の標章を付して展示していたことは,明らかというべきである。
ところで,本件商標は,上記第2の1のとおり,「玄庵」と「GEN AN」の文字を横書き上下2段に書してなるものであるところ,本件商標の構成文字の「GEN AN」が,「玄庵」の称呼である「げんあん」をローマ字でそのまま表したものであることは明らかであるから,新宿区(以下省略)に所在するステーキ店の営業を表示するものとして壇が使用していた「玄庵」の商標は,本件商標と社会通念上同一の商標ということができる。
(3) さらに,履歴事項全部証明書(甲25)及び原告作成の陳述書(甲27,以下「原告陳述書」という。)によれば,原告は,平成13年9月28日まで壇の取締役の地位にあって実質的に壇の経営に携わっており,壇が新宿区(以下省略)でステーキ店「玄庵」を開店するに当たり,口頭で,本件商標の使用を許諾したことを認めることができる。
被告は,本件商標の商標登録原簿には通常使用権の設定登録がないことを指摘し,原告陳述書の信用性に疑問を提起する。しかし,原告が平成13年9月まで壇の取締役の地位にあったことや,商標登録原簿上の原告の住所が平成13年6月12日まで上記Oビルとされていたこと(甲17)に照らせば,特に書面は作成しなかったものの,原告が壇の経営するステーキ店に対し本件商標の使用を認めてきたという原告陳述書の内容は,十分に信用し得るものであり,また,商標権についての通常使用権の設定は,登録をその効力要件とするものではない(商標法31条4項において準用する特許法99条1項)から,登録の有無により通常使用権の存否に消長を来すものではない。したがって,被告の上記主張は採用の限りではない。
(4) 以上のとおり,本件商標は,予告登録日前3年以内に,日本国内において,原告から商標使用の許諾を受けた通常使用権者である壇が,指定役務である「飲食物の提供」について使用していたものと認められるから,原告の取消事由の主張は理由があり,本件商標を指定役務に使用した事実について証明がないとした審決は,事実の認定を誤ったものとして,取消しを免れない。
2 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第2部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 古 城 春 実
裁判官 岡 本 岳