H14. 6.25 東京地裁 平成12(ワ)3563 特許権 民事訴訟事件

平成12年(ワ)第3563号 特許権に基づく損害賠償請求事件
平成14年3月12日口頭弁論終結
                         判         決
               原      告       アルゼ株式会社
               訴訟代理人弁護士          升  永  英  俊
               同                        松  本     司
               同                        大  島  崇  志
               同                        岩  坪     哲
               同                        森  末  尚  孝
               同                     戸  田     泉
               訴訟復代理人弁護士        江 口 雄一郎
               同                        荒  井  裕  樹
               同                        上  山     浩
               補佐人弁理士              廣  瀬  邦  夫
               被      告      サミー株式会社
               訴訟代理人弁護士       牧     義  行
               同                        近  藤  義  徳
               同                        飯  田  秀  郷
               同                        栗  宇  一  樹
               同                        秋  野  卓  生
               同                        早稲本 和 徳
               同                        久保田   伸
               同                        七  字  賢  彦
               同                        和  田  聖  仁
               補佐人弁理士              米  山  淑  幸
               同                        黒  田  博  道
               被告補助参加人        日本電動式遊技機特許株式会社
               訴訟代理人弁護士       島  田  康  男
               補佐人弁理士              紺  野  正  幸
                         主         文

     1 原告の請求を棄却する。
     2 訴訟費用は,原告の負担とする。
                         事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,原告に対し,15億円及びこれに対する平成11年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は,被告の負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,後記特許権を有する原告が,被告に対し,被告の製造・販売する製品は原告の特許権の技術的範囲に属し,同特許権を侵害すると主張して,損害賠償の支払を求めている事案である。
 1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
  (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。なお,本件特許権は,株式会社ユニバーサルがもと保有していたが,同社はユニバーサル販売株式会社に吸収合併され,同社は,原告に吸収合併された(甲1,2の1,2の2,弁論の全趣旨)。

     ア  特許番号      第1905552号
         発明の名称      スロットマシン
         出願年月日    昭和58年4月8日
         出願公告年月日     平成3年11月18日
         登録年月日      平成7年2月24日
     イ  上記特許権に係る願書に添付した明細書(ただし,平成5年1月11日付け補正書による補正後のもの。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
     「スタート手段のスイッチ検出により回転駆動され少なくとも1つのシンボルマークが複数箇所に設けられている複数のシンボルマークが付されたリールを複数設け,これらのリールを停止させるリールストップ手段を有し,リールストップ時に各リールに設けられたシンボルマークの入賞ライン上の組み合わせで決まる入賞ランクに応じた遊戯価値を付与するスロットマシンにおいて,乱数発生手段から順次発生される乱数から1つの乱数値を特定するサンプリング手段と,前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中前記入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する入賞確率テーブルと,前記特定された乱数値が属する入賞ランクを前記入賞確率テーブルと照合し,属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段と,前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」

  (2) 上記発明の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」のようにいう。)。
     A 次のスロットマシンにおいて,
       @ スタート手段のスイッチ検出により回転駆動され少なくとも1つのシンボルマークが複数箇所に設けられている複数のシンボルマークが付されたリールを複数設け,
       A これらのリールを停止させるリールストップ手段を有し,
       B リールストップ時に各リールに設けられたシンボルマークの入賞ライン上の組み合わせで決まる入賞ランクに応じた遊戯価値を付与する
     B 乱数発生手段から順次発生される乱数から1つの乱数値を特定するサンプリング手段と,
     C 前記乱数発生手段から発生する乱数値がとる全領域中前記入賞ランク毎に任意に設定された領域を記憶する入賞確率テーブルと,

     D 前記特定された乱数値が属する入賞ランクを前記入賞確率テーブルと照合し,属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段と,
     E 前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段
     F 以上を備えたことを特徴とするスロットマシン
   (3) 被告は,別紙物件目録記載のパチンコ型スロットマシン(以下「イ号物件」という。)を,業として製造・販売していた。イ号物件の構成は,別紙イ号物件説明書記載のとおりである(ただし,別紙「イ号物件の構成に関する原告の主張」に記載した限度において,争いがある。以下,争いのある部分を「イ号物件非合意部分」ということがある。)。

   (4) 被告補助参加人は,パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」という。)製造業界において,パチスロ機等に関する特許権等の知的財産権(以下「特許権等」という。)につき,これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得て,同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾して,その実施料を特許権者等に還元することを主たる業務としている。原告は,パチスロ機の製造のほか,特許権等の取得,管理,使用許諾等を業とする会社であり,パチスロ機関連の特許権等を多数保有している。
       被告補助参加人は,パチスロ機をめぐる特許権等の管理について,いわゆるパテントプール方式による管理を行っていた。これは,特許権等の保有者が保有する特許権等を被告補助参加人に集積し,保有者が,被告補助参加人に対し,多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで,実施許諾するというものである。そして,再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は,被告補助参加人により発行された証紙を,パチスロ機製造業者が製造台数分購入して,パチスロ機に貼付するという方法によりされていた(以下,この方法を「本件パテントプール」という。)。

     特許権等の保有者と被告補助参加人との間では,保有者が特許権等につき被告補助参加人に対して再実施許諾権付与の特約付きで実施許諾をする旨の実施許諾契約が締結されている(特許権等の保有者と被告補助参加人との間の契約を「本件実施契約」,被告補助参加人と再実施許諾を受けた業者との間の契約を「本件再実施契約」ということがある。)。原告は,本件パテントプールにおいて,同じくパチスロ機製造業者である高砂電器産業株式会社(以下「高砂電器」という。)と並んで,多くの特許権等を保有している会社であり,原告も,その保有する特許権等の少なくとも一部について,被告補助参加人との間で再実施権付与特約付きの実施許諾契約を締結していた。この契約は,平成6年から,毎年4月1日から翌年3月31日まで期間を1年間として締結されているが,契約書所定の解除事由その他契約を継続し難い特段の事由のない限り契約の更新を拒否できないとの条項が置かれており,平成7年4月及び同8年4月にそれぞれ更新された。この契約の契約書は,平成6年から平成8年まで作成され(以下各年の契約を,「平成6年度契約」,「平成7年度契約」,「平成8年度契約」という。),契約書には,特許権等の番号や名称が記載された目録及び再実施許諾の対象者を記載した目録が添付されている。平成9年度以降は,原告と被告補助参加人及び本件パテントプールの他の参加者とが契約の継続の当否をめぐって対立し,原告と被告補助参加人との間で契約更新の成否につき争いが生じたことから,契約書は作成されていない。
       本件特許権は,原告と被告補助参加人との間で最後に作成された契約書である平成8年度契約の契約書の目録に記載されているもので,同契約においては,被告補助参加人に対して再実施許諾権付与の特約付きで実施許諾されていた。
       被告補助参加人と再実施許諾の対象者であるパチスロ機製造業者との間では契約書は作成されず,製造業者が被告補助参加人から証紙を購入して,これを対象パチスロ機に貼付することによって,再実施許諾がされたものとして取り扱われる。平成8年度契約で被告補助参加人から再実施許諾を受けているパチスロ機製造業者20社は,いずれも,パチスロ機製造業者の団体である日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)の当時の組合員である。

   (5) 平成8年度契約には,次の条項が置かれている(甲8)。
     「第1条(実施許諾)
            甲(判決注:原告。以下同じ)は乙(判決注:被告補助参加人。以下同じ)に対して,別紙目録記載の工業所有権等について,本契約の条項に従い通常実施権を許諾する(本件実施権という。)。
         A 甲は甲の保有する電動式遊技機の分野に関する公開された工業所有権等を本契約締結後速やかに乙に報告し,これに変更(出願手続中のものが登録された場合を含む。)を生じた場合も乙に報告する。」
     「第3条(再実施許諾等)
            甲は,別に定める会社又は個人(以下,再実施対象会社という。)に対してのみ,乙が本件実施権に基づき再実施権を許諾することを認める。
         A 甲は,本件実施権の対象たる工業所有権等を,電動式遊技機の分野において自ら実施する場合には,乙から再実施許諾を受けなければならない。乙は甲から要求があれば再実施権を甲に許諾する。

         B 甲及び乙は,第1項の再実施権者が本件実施権に基づき再々実施権を許諾することにつき,乙がその取締役会の決議を経て再々実施許諾を承諾した会社に限り,これを承諾する(以下,再々実施権の許諾を受けた者を再々実施権者という。)。
         C 乙は本件実施権を第三者に譲渡してはならない。」
       「第4条(第三者許諾)
          甲は,本件実施権の対象たる工業所有権等について,譲渡,担保設定,その他の処分をしてはならない。また,独占的あるいは専用実施権を他に付与してはならない。」
       「第8条(契約の更新)
          甲は,第10条第1項所定の事由,その他本契約を継続し難い特段の事由がない限り当該契約の更新を拒絶できないものとする。」
       「第10条(解除)
           乙において,次の各号の一に該当する事由が生じたとき,甲は本契約を直ちに解除することができる。

           (イ) 第5条所定の実施料の支払いを3ケ月間怠ったとき。
           (ロ) 第6条第2項における証紙の数量を故意に偽ったとき。
           (ハ) 手形不渡り,その他銀行取引停止処分を受けたとき。
           (ニ) 破産,和議,会社整理,会社更生,特別清算等の申立てを受け,又は自らその申立てをしたとき。
           (ホ) その他本契約条項に関して重大な違反があったとき。
         A 本契約が解除により終了したときは,乙は本契約に基づく甲の一切の債務についての期限の利益を失い,全債務を直ちに甲に弁済しなければならない。」
       「第13条(信義則)
          甲及び乙は,信義を守り誠実に本契約を履行する。
        A 本契約に定めない事項あるいは疑義が生じた事項については,法令その他の商慣習に従うほか,甲及び乙が協議して決定する。

        B 甲及び乙は,前項の決定事項で重要であると認めたものについては,協定書又は覚書を作成することができる。」
       同契約には,別紙として,「目録」及び「実施許諾契約第3条に基づく再実施許諾対象者一覧表」が添付され,前者には本件特許権を始めとする合計11件の特許権ないし実用新案権が記載され,後者には被告を始めとするパチスロ機製造業者合計20社が記載されている。
   (6) なお,本件訴訟の関連事件が,次のとおり提起され,審理されている。
     原告は,平成8年度契約が合意解除により終了したとの前提の下に,平成12年に,被告補助参加人に対して,パチスロ機製造業者から徴収した再実施許諾の対価を不当利得としてその返還を求める内容の別件訴訟(当庁平成12年(ワ)第3701号事件)を提起した。同訴訟において,原告は,被告補助参加人の平成9年6月18日の株主総会において平成8年度契約が合意解除されたなどの理由により,同契約は平成9年3月末日をもって終了したと主張したが,東京地方裁判所(民事第47部)は,平成12年10月31日,原告主張の合意解除は認められないとして,原告の請求を棄却する判決(丙4)を言い渡した。原告が控訴したところ(東京高等裁判所平成12年(ネ)第5707号事件),控訴審裁判所(同裁判所第6民事部)は,平成13年7月19日,控訴審における原告のその余の解除原因についての追加主張をも排斥して,平成8年度契約の解除を認めず,同契約は効力を有するとの見解の下で原告の控訴を棄却する判決(丙26)をした。控訴審判決は,理由中で,本件実施契約及び本件再実施契約が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)3条に違反するとの原告の主張に対しては,独禁法違反に該当するかどうかはパテントプール方式の運用方針によるのであるから,従前からの運用方針を再検討し,今後新規参入希望者を合理的理由なく拒否するなどしないとの方針でこれを運用することにより,独禁法違反となる事態を避けることは十分可能であると判示して,原告の主張を排斥している。
 2 争点
   (1) イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか。なかでも,
     ア イ号物件が構成要件Bを充足するかどうか。すなわち,イ号物件が乱数発生手段を備えているかどうか。(争点1)
     イ イ号物件が構成要件D及びEを充足するかどうか。すなわち,イ号物件がリクエスト信号発生手段を備えているかどうか(争点2)。
   (2) 本件特許権についての実施許諾契約は終了したか(争点3)。

   (3) 原告の損害(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張の概要
 1 争点1(イ号物件が構成要件Bを充足するかどうか。すなわち,イ号物件が乱数発生手段を備えているかどうか)について
   (1) 原告の主張
     ア 本件特許発明の技術分野(パチスロ機)での「乱数」とは,スタートレバーの操作という任意性のあるタイミングで読み出された結果,毎回,その数値の間に何らの関連性もないものを「乱数」と呼んでいるのである。被告もイ号物件説明書第5図の説明中で自認するとおり,「スタートレバーの操作という任意性のあるタイミングで読み出され,極めて高速に+1ずつ計数していくカウンタ」は,本件特許発明における「乱数発生手段」に相当することは明白である。
     イ 被告は,回転円板状の数字の並び方自体が乱数か否かという議論をしているが,失当である。本件特許発明の実施例では,重複のない0〜32767の各数字(乱数)を並べた回転円板が,8m秒に1コマ回転するので,この回転円板が1回転するには4分22秒かかる。1ゲームの時間は最短4秒ほどであり,1ゲーム時間よりも回転時間が長いこの実施例の回転円板の数字の並びを,0,1,2,3……と1ずつ増加するようにした場合,遊技者に,当選範囲の数字の固まり(例えば0〜99,100〜599といった)を狙い打ちされる恐れがある。それで,実施例では,当選範囲の数字の固まりを分散させ,この恐れをなくしたのである。

         イ号物件の場合は,コンピューター処理の高速化に伴い,回転円板を狙い打ちされる恐れがないほど高速で回転するので(約0.147μ秒に1コマ回転),単純に数字を順次1つずつ増加させる配列であっても,遊技者に,当選範囲の数字の固まりを狙い打ちされるおそれがない。したがって,回転円板上の数字の並び方に意味があるのでなく,上記のような回転円板,すなわち「スタートレバーの操作という任意性のあるタイミングで特定の数字が読まれるところの,全範囲の数字が一巡するまで重複することなく現われ,一巡することを繰り返すイ号物件のカウンタ9」は,本件特許発明のRAM80と実質的に同一であるといえる。そして,イ号物件のカウンタ9からスタートレバーの操作という任意性のあるタイミングで読み出された数値は,毎回,何らの関連性もないものとなるから,イ号物件のカウンタ9は,本件特許発明にいう乱数発生手段にほかならない。
   (2) 被告の主張
     ア 「乱数」について
         乱数の定義については,「0〜9までの数字から無作為復元抽出を繰り返して得られる数の列。完全に無秩序で,かつ全体としては出現の頻度が等しい。」(広辞苑),「再現性もなくいかなるアルゴリズムも満たさない数の列。」(マグローヒル科学技術用語大辞典)とあるように,一般的に又は技術用語として,無秩序であること,あるいは何のアルゴリズムも満たさないということが「乱数」の定義であるといえる。したがって,一定の数を加算するような,秩序を持っている数字群あるいは同一のアルゴリズムに従って出現する数字群はこの定義に該当しない。
     イ イ号物件について
         イ号物件のカウンタ9は,+1ずつの加算を順に繰り返すことによって,0〜16383の範囲の数値を順に発生させ,これを順次記憶手段に記憶して計数値としている。

         イ号物件の計数発生装置は,
       @ 加算される計数値をn(0≦n≦16382)とすると,
         次の計数値=n+1
       A  加算される計数値nが16383のとき(n=16383),
         次の計数値=0
       で与えられる計数値を発生している。
         このような,0から順次1ずつ増加する数列は,単純なアルゴリズムで得ることが可能であり,これをもって一般的な技術用語としての「乱数」に該当するということはできない。これと同時に,本件特許発明で特に定義された「乱数」(すなわち,前回の乱数値に10進数の769という素数を加えてゆくことで得られるような数値。本件特許権に係る特許公報(甲2−1。以下「本件公報」という。)8欄16〜25行)に該当しないことも明白である。なお,本件明細書の上記箇所では,769という数字である必要はなく,原理的には素数であればよいとしている。しかし,素数とは,「1およびその数自身の他に約数を有しない正の整数。ふつうは1を除いた2,3,5,7,11など」と定義されている(広辞苑)。したがって,1を加えるイ号物件の計数発生装置が,本件特許発明の乱数発生装置に該当しないことは明白であり,イ号物件は他に乱数発生装置を有しないから,構成要件Bを充足しない。

 2 争点2(イ号物件が構成要件D及びEを充足するかどうか。すなわち,イ号物件がリクエスト信号発生手段を備えているかどうか)について
   (1) 原告の主張
       イ号物件説明書第7図の当選データは,本件特許発明のリクエスト信号に基づくリール停止制御データにほかならない。そして,同第10図のフローにより明らかなとおり,「RAM8064H〜8067Hに記憶」された「当選番号に対応した停止制御用図柄データ」が,「リクエスト信号」にほかならない。
   (2) 被告の主張
       当選判定処理によって生成された当選役ごとの,イ号物件説明書第7図のデータは,それぞれ4バイトのデータであって,「信号」ではない。
       停止制御用図柄データの生成は,当選判定という処理フローの結果に基づき予め上記第7図のような各当選役に対応した4バイトのデータを選択する処理を行うのであり,一連のプログラムによってこのデータを生成するのである。「リクエスト信号」のような何らかの「信号」によって停止制御用図柄データを生成していない。イ号物件においては,「リクエスト信号」のような何らかの「信号」によってリールのストップ位置を決定しているわけでない。

       イ号物件説明書の処理手順においては,プログラムの処理はされているが,何らかの信号が,何らかの作動をしたり,関与したりすることは全くない。
 3 争点3(本件特許権についての実施許諾契約は終了したか)について
   (1) 原告の主張
       イ号物件が製造された平成10年7月1日から同年12月31日までに,原告と被告補助参加人の間の実施許諾契約は終了していたので,被告による本件特許権の利用は適法な実施とならない。以下,その終了の原因について主張する。
     ア 更新申出の不存在
         平成8年度契約には,契約が自動更新されることを定めた条項はないので,被告補助参加人が平成8年度契約の更新の申出をしていない以上,同契約は平成9年3月31日で期間満了により終了する。しかるところ,被告補助参加人は,更新の申出をしていない(このことは,被告及び被告補助参加人も争っていない。)。したがって,更新の申出を前提とする同契約8条を検討するまでもなく,同契約は平成9年3月31日で期間満了により終了しているというべきである。

     イ 被告補助参加人における決定ないし決議等
       (ア) 取締役会における決定
           被告補助参加人は,後記ウに述べるように,本件パテントプールが独禁法に違反するおそれがあることから,平成9年3月28日の取締役会において,平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させて,以後は原告ら特許権等の保有者と本件パテントプールに参加している各社との間で直接の実施権設定契約を締結するように切り換えることを決定するとともに,これを甲田(原告代表者。以下「甲田」という。)が本件パテントプールに参加している各社(再実施許諾の対象者)に説明することを決定した。このことは,原告従業員乙木の作成に係る発言録取メモ(甲12のa46),及び,被告補助参加人の5人の取締役の1人であった丙野(高砂電器の代表者)の陳述書(甲21)から,明らかである。

       (イ) 株主総会における決定
           上記取締役会の決定を受けて,平成9年6月18日の被告補助参加人の株主総会において,平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させることが決定された。
          その際の決定された内容は,@本件パテントプールを平成9年3月31日をもって終了すること,A原告ら特許権等の保有者は,本件パテントプールに参加している各社との間で,直接の実施権設定契約を締結すること(ただし,上記直接の実施権設定契約における実施料単価は,平成12年3月末日までの3年間は従前と同額とし,同年4月以降は各当事者の協議による。),B被告補助参加人は上記直接の実施権設定契約の仲介及び権利者の証紙の発行業務の代行をすること,である。  
     ウ 独禁法違反又はそのおそれ

       (ア) 平成8年度契約3条が独禁法違反であること。
           平成8年度契約は,3条及びこれを受けた別紙「実施許諾契約第3条に基づく再実施許諾対象者一覧表」により,再実施許諾先を20社に制限しているものであり,同条は,この20社の利益に反する新規参入を阻止するための条項である。現に,平成6年度契約における再実施許諾先は21社,平成7年度契約及び平成8年度契約における再実施許諾先は20社で,平成6年4月1日から平成9年3月31日までの3年間,被告補助参加人から再実施許諾を受けるパチスロ機製造業者は全く増加しておらず,1社たりとも新規参入者が被告補助参加人の参加者として認められていないのである。これから分かるように,平成8年度契約3条はパテントプールを閉鎖的・制限的に行う目的の下に設けられた条項である。また,本件パテントプールにおける実施料率は,0.2%(同契約における原告への実施料配分額509円をパチスロ機の販売価格で除したもの)と異常に低いが,このような低率の実施料は,本件パテントプールが新規参入を阻止するための競争制限的なものであるからこそ,成り立っているのである。そうであれば,平成8年度契約を更新することは,独禁法3条違反の実行行為を行うことになる。このようなことを原告に強いることはできないから,このような場合,平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきである。
       (イ) 平成9年3月31日までの同契約の運用の実績
           平成9年3月31日までの,本件パテントプールの運用の実績は,以下に述べるように,独禁法3条違反のものであった。すなわち,@本件パテントプールは,パチスロ機の製造販売に必須の特許等を含んでいたにもかかわらず,A平成9年3月31日までに13社の新規参入希望者がありながら再実施許諾を拒絶し,B現実に,本件パテントプールの参加者によるパチスロ機の販売シェアは,本件パテントプールが存在した平成6年4月1日から平成9年3月31日までほぼ100%であった。なお,平成6年11月30日ころ,日電協組合員以外のパチスロ機製造業者(以下「非参加者」という。)である日本回胴式遊技機株式会社は,パチスロ機の検定を行う財団法人保安電子通信技術協会(以下「保通協」という。)の検定を通過し販売することが可能となったが,被告補助参加人が本件パテントプールの参加者でないメーカーから購入しないよう通告したことから,被告補助参加人の意向に逆らうパチンコホールはおらず,結局300台しか販売できなかった。また,統計によれば,平成8年10月から平成9年9月までに,非参加者であるマツヤ商会が7000台を販売しているが,平成8年度契約の契約満了期間後の販売台数を含んでおり,さらに,7000台のうち2759台は,本件パテントプールの参加者であるバルテック社から特許権侵害訴訟を提起されこれに敗訴したため,実際に販売されたのは4241台で,全メーカーの総販売台数の0.8%にすぎず,競争に影響しない。これらの事実は,本件パテントプールの参加者による排除行為があったことを示している。
           さらに,現在までの被告補助参加人の運用も閉鎖的なもので全く変わっていない。平成5年の被告補助参加人設立後,日電協に新たに加入した外国企業は,アイジーティージャパン社(平成7年10月加入),ロデオ社(旧バークレスト社,平成7年10月加入),アリストクラートテクノロジー社(平成11年4月加入),の3社であるが,これはいわゆる外圧に屈したにすぎない。被告補助参加人設立後,日電協に新たに加入した日本企業は,@マックスアライド社(平成5年6月加入),Aベルコ社(平成8年4月加入),Bオーイズミ社(平成7年10月加入),Cニイガタ電子社(平成13年9月加入)の4社しかない。そして,この4社の加入が認められたのは,以下のような理由によるのであり,組合員数が増加する形で新規参入者の加入が認められた例(実質的な意味の新規参入)は,現在まで1つもない。すなわち,@マックスアライド社は,以前日電協の組合員であったのが脱税をしたため脱退したところ,再加入を許されたにすぎない。Aベルコ社は,代表者が日電協の組合員である興進産業の関係者として以前日電協の理事をしていたことと,アークテクニコ社が除名されて空席が生じたため,加入を許されたにすぎない。Bニイガタ電子社は,以前日電協の組合員であったのが,不正遊技機問題に関連して脱退したところ,再加入を許されたにすぎない。Cオーイズミ社は,平成2年以前から協力会員であり,平成4年から約9年間申込みをしていたことに加え,エレクトロコインジャパン社と瑞穂製作所が除名されて空席が生じたため,加入を許されたにすぎない。しかもこれら4社は,以上の事由に加え,既に再実施許諾を受けていた業者の競争相手とならない弱小企業であったので,新たに再実施許諾を受けることができたものである。このように,平成8年度契約及び本件パテントプールの運用はきわめて閉鎖的で,独禁法3条違反である。
           したがって,平成8年度契約を更新することは,独禁法3条違反の実行行為(又はそのおそれある行為)を行うことにほかならないから,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきである。

           なお,原告ほかと被告補助参加人との間の実施料返還請求事件の控訴審判決である前記東京高判平成13年7月19日は,「運用による」独禁法違反の回避が可能だから,平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在せず,同契約は更新された旨を判示している。しかしながら,既に述べたように,平成8年度契約は,新規参入防止のためのシステムであり,同契約3条の再実施許諾先を20社に限定することは,異常に低い0.2%の実施料と並んで同契約の2本柱の1つであり,「運用による」独禁法違反の回避は不可能である。
       (ウ) 社会通念上の履行不能による契約終了
           前記のとおり,前掲東京高判平成13年7月19日は,平成8年度契約の終了を認めなかったが,運用により独禁法違反を回避することが可能である旨を判示している。しかしながら,本件実施契約のそのままの維持が認められないことは,同東京高判に照らしても明らかであり,運用を変更して,第三者に実施許諾しなければならない。しかし,本件パテントプールは,日電協の組合員が新規参入者を排除して自らの利益を確保することを目的としたもので,新規参入希望者に実施許諾する目的で形成されたものではない。であれば,同契約の目的到達は不可能だから,社会通念上の履行不能ということができ,平成8年度契約は更新されずに終了したというべきである。

       (エ) 公正取引委員会(以下「公取委」という。)による立入調査のおそれ
         平成9年3月31日当時,平成8年度契約を更新すると,パチンコ機業界同様,パチスロ機業界も公取委に立入調査されるおそれが大きかった。当時原告は,平成10年9月に株式店頭公開の準備に入っていた。また,平成9年当時,原告のグループ企業であるUDN社が米国ネバダ州ゲーミング委員会からスロットマシンの製造販売の免許を得て事業を行っていた。原告が独禁法3条違反で公取委から摘発されれば,原告は,店頭公開を中止せざるを得ず,かつUDN社の株式取得を禁じられ,米国ネバダ州でスロットマシンの製造販売を行うことができなくなることが明らかだったのであり,原告としては,このような危険を甘受することはできなかった。したがって,原告としては,平成8年度契約から脱退する必要があったのであり,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきである。

       (オ) 運用による独禁法違反の回避が可能との上記東京高判の見解が机上の空論であること
           更新された平成8年度契約を,新規参入者を自由に受け入れるように運用することにより,独禁法違反の回避が可能との上記東京高判の見解は,机上の空論である。すなわち,本件パテントプールの参加者においては,特許権等を有しない業者が多数派を占めているが,これらの者は,中小企業なので競争制限の継続を望んでおり,他方,これらの者は再実施許諾を受ける者にすぎないので公取委審決の名宛人になる可能性がなく,公取委の立入調査を恐れない。これらの者は,新規参入自由化に賛成するはずがなく,本件パテントプールから独禁法違反の要素を除くことに協力しないので,原告が独禁法違反の回避をするには,自ら契約から脱退するしか方法がない。したがって,平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきである。

       (カ) 市場からの退場の強制
           運用により独禁法違反を回避するために,本件パテントプールの利用を広く新規参入者にも認めると,特許権等の開発に多額の投資の負担を負っている原告は,資本力のある新規参入者(例えば,ソニー,セガなど)との競争に耐えられず,0.2%という低率の実施料を強いられている下では,市場から退場せざるを得ない。このようなことは,「特許権を誰に実施許諾するかを決定できる特許権者の権利」を不当に侵害し,財産権を保障した憲法29条に違反する。また,新規参入者に対してのみ,自由市場で成立する通常の実施料率(例えば5%)で許諾することは,独禁法19条,2条9項1号,不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)3号所定の「差別的対価の禁止」に該当し,許されない。したがって,仮に百歩譲って,平成8年度契約3条があるにもかかわらず,新規参入者に再実施許諾する運用を行うとしても,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきであり,原告の更新拒絶は有効で,同契約は終了した。

       (キ) 被告補助参加人の法令遵守義務違反による信頼関係破壊に基づく契約終了
          平成8年度契約13条には「法令に従う」旨の記載がある。原告は,同契約を更新することは独禁法3条に違反すると考えていたため,独禁法違反の回避を目指して真摯に対案を示して提案したが,被告補助参加人は誠意なくこれを拒否した。これは,被告補助参加人の法令遵守義務違反の債務不履行だから,原告は信頼関係破壊に基づき契約を更新拒絶できるというべきである。
       (ク) 違法集団と信じた者の集団からの脱退の自由
           「ある集団の目的が違法である」と裏付資料に基づいて信じた者は,直ちにその集団から脱退する自由を有する。なぜならば,仮に裁判所が,違法集団であることが裁判上確定するまで当該参加者のその集団からの脱退を認めないとすると,違法集団であることが裁判上確定するには数年を要するので,数年後にその集団が違法であることが裁判上確定した場合には,当該参加者は,裁判確定までの数年間,違法集団にかかわる契約の履行を既に強要されており,その違法な契約の履行に係わる刑事上・民事上の責任を100%負担させられることになり,不当だからである。本件において,原告は,被告補助参加人が独禁法違反の集団であると相当の根拠に基づいて信じたものであるから,被告補助参加人との平成8年度契約からの脱退の自由を有するというべきである。

     エ 継続的契約関係の終了に関する主張(民法・商法上の一般理論)
       (ア) やむを得ない事由は不要であるか又は程度の低いもので足りること
           知的財産権は,特許権が20年,実用新案権が6年ときわめて存続期間が短いうえ,技術革新の進展により短期間で陳腐化することも多く,きわめて短命な権利というべきであるので,特許権者等の実施許諾契約を継続的供給契約の範ちゅうに含めて考えるのは誤りである。
           しかし,仮に継続的供給契約の範ちゅうに含めるとしても,継続的契約の解消において,「契約を継続し難いやむを得ない事由」は不要というべきである。このことは,最高裁平成6年(オ)第2415号同10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号1866頁(資生堂東京販売事件上告審判決)及び最高裁平成9年(オ)第2156号同10年12月18日第三小法廷判決・裁判集民事190号1017頁〔判例タイムズ992号98頁〕(花王化粧品販売事件上告審判決)の判示するところである。このことからすれば,原告と被告補助参加人間の平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」も,程度の低いもので足りるというべきである。

           平成8年度契約は,原告が,@自由市場で成立する通常のロイヤルティよりもはるかに低い,0.2%のロイヤルティを実施料とされ,A原告自らが実施する場合にも自ら受け取る実施料よりも高い2000円を再実施許諾の対価として支払わねばならず,B原告の下請企業に実施させる場合にも被告補助参加人の取締役会決議を経ねばならず,C自己の有する特許権等を処分できず,D被告補助参加人は自由に更新拒絶できるにもかかわらず,原告は「契約を継続し難い特段の事由」がなければ更新拒絶できない,という,原告にとって一方的に著しく不利益な契約である。
           このような契約において,原告の唯一の権利は「契約を継続し難い特段の事由」が存する場合に更新拒絶できることである。このような,いわば原告の唯一の保険ともいうべき「契約を継続し難い特段の事由」を著しくハードルの高いものと解し,実質的に具備し得ないものとするような解釈をとることは許されない。

           前記のとおり,平成8年度契約は独禁法に違反するものであるが,この点をおくとしても,原告は,相当の根拠をもって,同契約が独禁法違反のおそれありと信じたのであるから,これをもって既に「契約を継続し難い特段の事由」の要件は満たされていたというべきである。
       (イ) 少数派組合員の脱退の自由
           集団において,多数派と利害の対立する少数派は,集団から脱退する自由を有する。このことは,大判昭和18年7月20日民集22巻16号681頁(別府湯ノ花組合事件),最高裁平成7年(オ)第1747号同11年2月23日第三小法廷判決・民集53巻2号193頁(ヨット共同購入クラブ事件)の判示するところである。
           本件パテントプールの参加者であるパチスロ機製造業者の間では,有力工業所有権の約50%を有する少数派(原告等)と多数派(工業所有権を全く有しないか,有していてもわずかである業者)との間に,根本的な利害の対立が存在する。少数派の欲するところは,パチスロ機の販売額のわずか約0.2%という異常に低い本件パテントプールにおける実施料率を市場価格並の率に高めることであり,他方,多数派の利益は,現在の異常に低率の実施料を維持することにある。被告補助参加人の株主総会では,参加者たる各製造業者が平等に議決権を有しているので,議決権の圧倒的多数を有する多数派が,常に少数派の利益を無視して議決権を行使することになり,原告の利益が被告補助参加人の株主総会に反映されることは永久にあり得ない。上記2つの判例に照らし,かような少数派と多数派の根本的な利害の対立がある場合,少数派は常に集団の中で自らの利益を実現できず,永久に犠牲のみ強いられるので,当該集団から脱退する自由を有するというべきである。

       (ウ) 更新拒否の時点から一定期間後の契約終了
           平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」に該当する事情が仮に存在せず,契約が期間満了後も更新されたとしても,更新拒否の時点から一定の期限を経過すれば,契約を終了させることができるとするのが裁判例である。その期限として,大阪高判平成9年3月28日判例時報1612号62頁(アロインス化粧品事件)は5か月を,札幌高判昭和62年9月30日判例時報1258号76頁(北海道フォードトラクター事件)は1年を判示する。
           したがって,本件においても,原告による更新許否から5か月,長くとも1年の経過により,平成8年度契約は終了したというべきである。
       (エ) 協議不調による契約終了
           事情変更の原則が適用されるほどでない事情の変更があった場合であっても,事情変更による不利益を負担する当事者は,不利益軽減のため相手方と交渉し,交渉が不調となったときは,契約を解消できる。水戸地判昭和58年9月5日判例時報1107号120頁(クロレラライト事件)及び東京地判昭和63年10月18日判例タイムズ703号172頁(ドン・ドラキュラ放映中止事件)はこの旨を判示する。

           本件において,原告は,公取委が平成8年3月28日,パチンコ機業界のパテントプールに立入調査したことなどから,合理的な裏付けをもって本件パテントプールにも独禁法違反の疑いがあると考え,これを解消して,権利者が各製造業者に直接許諾する個別契約締結方式とするよう被告補助参加人と協議成立に向けて努力を重ねたが,上記(イ)のように工業所有権保有者でない者が多数派を占める被告補助参加人はこれに応ぜず,協議不成立となった。上記2つの裁判例に照らせば,平成8年度契約は,原告の真摯な努力にもかかわらず協議不調となったことにより,その満了日である平成9年3月31日に終了したというべきである。
       (オ) 協議不調による信頼関係破壊に基づく契約終了
           また,一方の当事者が協議成立に向けて真摯な努力をしたのに協議が不調になった場合には,信頼関係を維持していくことができなくなったのであるから,将来に向かって契約を終了させることができるというべきである。上記(エ)記載の水戸地判昭和58年9月5日等はこの旨を判示する。本件においては,原告が対案を示して,真摯に契約改訂の協議をしたのに,被告補助参加人及び多数派組合員は対案も示さずただ拒否したものであって,これは「契約を継続し難いやむを得ない事由」に該当し,原告は契約を終了させることができるというべきである。

       (カ) 平成8年度契約8条は,原告の更新拒絶のみを著しく困難にするもので,公序良俗違反により無効であること
           平成8年度契約は,前記(ア)に記載したように,超低率の実施料を原告に強要し,かつ,原告もこの実施料を超える再実施料を支払わねばならず,特許権等を原告の下請企業に実施させるにも被告補助参加人の取締役会決議を経ることを要し,自らの特許権等も処分できず,被告補助参加人は自由に更新拒絶できるにもかかわらず,原告は「契約を継続し難い特段の事由」がないと更新拒絶できない。このように,平成8年度契約は,原告の更新拒絶のみを片面的に著しく困難にさせるものであるから,同契約全体又は同契約8条は,公序良俗違反として無効なものというべきである。
       (キ) 商法84条1,2項の類推適用
           合名会社の社員は,定款をもって存続期間を定めなかったとき又は社員の終身間会社の存続すべきことを定めたときは,理由の存否を問わず,6か月前に予告をすることにより,営業年度の終わりに退社することができ(商法84条1項),やむを得ない事由があるときは,会社の存続期間を定めたと否とを問わず,各社員はいつでも退社することができる(商法84条2項)。

           本件においては,既に述べたように,原告にはやむを得ない事由があり,かつ原告は被告補助参加人に対して,平成8年度契約を終了させ,個別契約を締結する旨の意思表示をしているので,商法84条2項の類推適用により,平成8年度契約の満了日である平成9年3月31日に,原告の脱退が認められるべきである。
           なお,仮にやむを得ない事由が存しないとしても,原告は,平成9年1月に平成8年度契約の終了の意思表示をしているので,上記商法84条1項の類推適用により,平成9年度の営業年度の末日(平成10年3月31日)に,本件パテントプールから離脱する。したがって,仮に平成10年3月31日より前に原告が契約から離脱したとの主張が認められないときには,上記理由により,同日,原告が契約から離脱した旨を主張する。

       (ク) 契約終了の意思表示
         原告が本件パテントプールの参加者すべてに契約終了の意思表示をしなければならないとした場合には,原告は,第1に被告補助参加人の全体会議又は株主総会が開催された平成9年6月18日に,第2に更新された平成8年度契約の満了日である平成10年3月31日に,第3に書面で本件パテントプールの参加者(再実施許諾の対象者)に暫定個別契約案を送付した日である平成10年10月30日に,本件パテントプールから脱退した旨を主張する。
           仮に上記各主張が認められないとしても,原告は,平成11年1月4日及び平成12年11月21日に,それぞれ契約解消の意思表示をした。
   (2) 被告及び被告補助参加人の主張
       以下に述べるとおり,本件における集団的契約関係が終了したとの原告の主張はすべて理由がない。

     ア 更新申出の不存在の主張について
         平成8年度契約が更新のために契約当事者からの申出を要するとの主張は否認する。同契約は,平成6年度契約同様,自動更新されるものである。
     イ 被告補助参加人における決定や決議等の存否にかかる主張について
         原告と被告補助参加人間の本件実施契約及び被告補助参加人と各パチスロ機製造業者間の本件再実施契約についての,平成9年3月31日付け合意解約の事実は否認する。原告の主張する被告補助参加人の決定や決議等の事実が存在しないことは,原告ほかと被告補助参加人との間の実施料返還請求事件の控訴審判決である東京高判平成13年7月19日が判示するとおりである。
         また,原告が平成8年度契約の終了前に更新拒絶の意思表示をしたとの主張は否認する。原告が被告補助参加人に更新拒絶の意思表示をしたことはない。

     ウ 独禁法違反による契約終了の主張について
       (ア) 本件パテントプールに含まれる特許権等について
           実施許諾の対象となる特許権等は,原告と被告補助参加人間の平成6年度ないし8年度の契約書の別紙目録に記載のものに限られるものでなく,出願中のもの及び将来登録されるものも含め,特許権等の保有者が有するすべての知的財産権である。権利者が自由にその権利を手元に留め置くことができるようなものは,そもそもパテントプールとはいわない。このように,本件パテントプールが,特許権等の保有者が有するすべての知的財産権を対象とするものであるが,独禁法違反とはならない。
           原告が独禁法違反の根拠として主張する,パチスロ機に関するほとんどすべての特許権等をプールしているという点がそもそも事実と異なる。平成8年度契約の契約書の別紙目録に記載された11件の特許権等は,必ずしもパチスロ機製造に必須のものではない。

           有力な特許権等の保有者といわれる原告と高砂電器は,被告補助参加人設立以前の,特許権等管理会社3社が鼎立していた時代において,それぞれ別の管理会社に所属していたが,各パチスロ機製造業者は,自己の所属する陣営と異なる他の陣営の特許権等を侵害することなくパチスロ機を製造販売してきたものであって,このことは,上記両社の保有する特許権等の全部が,それらを実施しなくても,パチスロ機を製造販売できるということを示している。これら権利が被告補助参加人に実施許諾され,パテントプールの対象の特許権等として取り扱われた後も同様である。また,被告補助参加人に参加していない会社(例えばパチンコ機業界の大手である三共やソフィア社など)なども,多数のパチスロ機に関する特許権等を保有していたのであり,被告補助参加人に参加する業者のみがパチスロ機に関する特許権等を独占していたのではない。
       (イ) 被告補助参加人の運用について
           被告補助参加人においては,参加していない業者に対して,証紙の販売において販売数量の制限や販売価格の統制等を行った事実はなく,新規参入を排除するなど,独禁法に違反するような運用は行われていなかった。この点,パチンコ機業界についての審決において公取委が認定した事実状況とは,全く異なる。新規参入希望者に対し,パチスロ機業界が慎重であったのは,業界健全化のため不正機(違法パチスロ機)を製造・販売するような業者を排除する必要があり,被告補助参加人としても加入申込業者に対し審査を慎重にしたにすぎない。被告補助参加人を中心とする集団的契約関係の取扱いとは関係のない次元の話である。
       (ウ) 本件パテントプールが独禁法違反でないこと
           平成6年度ないし平成8年度契約の契約書においては,再実施許諾の対象者を契約書に添付された別紙に列挙された者に限定しているが,これは,実施権の許諾が特許権等の行使の一態様であることから当然に合意されるべき内容だからである。すなわち,再実施権を無制限に認めては,権利者が,権利の行使によって得られるべき利益を確実に得ることができなくなるおそれがあることから,再実施許諾権付き実施許諾を行う場合には,再実施許諾先を予め権利者と実施権者との間で決めておくのが通常である。契約締結時に再実施許諾の対象者が限定列挙されているとの一事をもって,本件パテントプールが独禁法違反であるということはできない。また,以下のように,独禁法に違反しないことを裏付ける事情もある。

         @ 再実施許諾の対象者が限定列挙されていても,契約期間の途中で新規加入者を加える覚書を締結したり,1年ごとの契約期間満了時に,再実施権者を追加することはいつでも可能である。
         A 本件パテントプールの当事者間には,新規参入者を排除するとの合意はなく,かえって,本件パテントプールを独禁法違反にならないように運用しなければならないとの考えを当事者が持っており,新規参入には慎重に対応してきた。ひとり原告代表者甲田のみが独禁法違反を回避しようと考えていたのではない。
         B 当初は販売会社であった企業であっても,パチスロ機の製造を認めているところもある。また,いわゆるOEMについても,参加企業でこれを行っているところもあるが,格別問題とされていない。
         C 新規参入については,エレクトロコインジャパン株式会社が平成6年3月11日に被告補助参加人の株式を取得して株主となって,本件パテントプールに参加している。平成8年にはベルコ株式会社及びバークレスト株式会社が本件パテントプールに参加を認められ,それぞれ平成9年の1月と3月から証紙の交付を受けている。

             逆に,本件パテントプールの参加者であっても,違法改造機問題を起こしたり,倒産した場合には本件パテントプールから脱退させられており,この場合には,契約の解除という形を取っている。平成7年5月22日にはアークテクニコ株式会社が,平成8年5月23日には株式会社パル工業が脱退している。契約の解除という形で参加者を脱退させたのは,この2者だけであり,パチンコ機業界のパテントプールのように再実施許諾の対象者たる企業における役員変更等の理由で脱退させた例はない。
           以上のような事情に照らしても,本件パテントプールは,パチンコ機業界におけるそれと同視することができず,独禁法に違反するものではない。
       (エ) 本件紛争の実体
           原告は,パテントプール方式が独禁法に違反すると考えて,パテントプール方式を解消してクロスライセンス方式の個別契約に変更すべきであるとし,関係者の合意でクロスライセンス方式の個別契約にした旨を主張する。しかし,クロスライセンス方式であっても,運用によっては独禁法に違反するとされている。したがって,パテントプール方式,クロスライセンス方式のいずれであっても,運用によって独禁法に違反する状況にならなければよいのである。被告補助参加人は,契約方式の問題ではなく,運用の問題であることを原告に説いているのであるが,原告代表者らはかたくなにこれを受け入れない。結局のところ,本件紛争は,証紙1枚2000円の再実施許諾料及び案分実施料の配分に不満を持った原告が,自己の利益を図るために,本件パテントプールを解消したいと考え,パチンコ機業界におけるそれが独禁法違反の勧告を受けたことに乗じて,本件パテントプールを独禁法に違反すると強弁しているにすぎない。

       (オ) 違法集団と信じた者の集団からの脱退の自由等の主張について
           本件パテントプールの集団的契約関係は,むしろ特許権等の排他的効力を減ずる方向で締結されており,その意味で競争促進的である。したがって,独禁法違反とはならず,原告がこれを独禁法違反と主張しているのは全く独自の見解にすぎない。したがって,仮に原告が独禁法違反と信じたとしても,これにより契約関係を終了させることはできない。同様に,被告補助参加人の法令遵守義務違反による信頼関係破壊の主張,社会通念上の履行不能との主張等はいずれも理由がない。
       (カ) 公取委による立入調査のおそれの主張について
           上記のような本件パテントプールの性質から,これが独禁法違反に当たるとの原告の主張は全く独自の見解にすぎない。したがって,公取委がパチスロ機業界に対して立入調査を行うような可能性は全くなく,そのようなおそれも存在しなかった。

       (キ) 市場からの退場の強制との主張について
           新規参入を認めることが,原告の主張するように原告が市場から退場することに結びつく論拠は全くなく,仮に原告が市場から退場することを強制されることになるとすれば,それは原告の製品に競争力がないからにすぎない。
     エ 継続的契約関係の終了に関する主張について
       (ア) 契約からの脱退について
           本件パテントプールは,双務的な債権債務関係から成り立つものである。本件パテントプールの形成に当たり,原告は中心的な役割を果たしたものであり,その意思表示に瑕疵があったわけではない。有効に成立した債権債務関係においては,一方当事者の意思で契約を解消することは許されない。本件パテントプールに基づいて実施料を収受しておきながら,都合が悪くなったからといって,一方的に契約関係から脱退しようとすることは,単なる債務不履行にすぎず,許されない。

       (イ) 契約を継続し難い特段の事由等について
           前記(2)被告の主張ウ(オ)において述べたように,本件パテントプールの集団的契約関係は,むしろ特許権等の排他的効力を減ずる方向で締結されており,その意味で競争促進的である。したがって,独禁法違反とはならず,原告がこれを独禁法違反と主張しているのは全く独自の見解にすぎない。したがって,「契約を継続し難い特段の事由」が備わっているはずもない。同様に,本件パテントプールが公序良俗違反であるということもできない。
       (ウ) 平成8年度契約が原告の更新拒絶のみを著しく困難にするもので,公序良俗違反であるとの主張について
           原告は,被告補助参加人の設立に当たり中心的な役割を果たし,それ以前から存在していた他の特許権等管理会社における集団的契約関係と同様の集団的契約関係を形成した。原告は,自らの意思に基づきその利益を考慮してこのような形態を選択したのであって,こうして契約関係に入った以上,当該契約関係に拘束されるのは当然である。

       (エ) 商法84条1,2項の類推適用の主張について
           商法84条1,2項が,本件のような契約関係に類推適用される余地は全くない。
 4 争点4(原告の損害)について
   (1) 原告の主張
       被告は,平成10年7月1日より同年12月31日までの間に,イ号物件を少なくとも単価30万円で2万5000台,合計75億円製造販売した。被告は,このイ号物件の製造販売により少なくとも15億円の利益を得た。
       よって,原告は,上記15億円の損害賠償及びこれに対するイ号物件販売終了後の日である平成11年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
   (2) 被告の主張
       原告主張の損害は,争う。
第4 争点に対する判断
 1 争点1(イ号物件が構成要件Bを充足するかどうか。すなわち,イ号物件が乱数発生手段を備えているかどうか)について

   イ号物件の構成については,その一部(イ号物件非合意部分)に争いがあるので,別紙イ号物件説明書記載の構成のうち争いのある部分(イ号物件非合意部分)を除いた構成を前提として,イ号物件が本件特許発明の構成要件を充足するかどうか(争点1,2)についての判断を行う。
   (1) イ号物件説明書(二 イ号物件の構造bB)によれば,イ号物件は,「一般遊技用カウンタ9A,JACゲーム用カウンタ9Bは,『+1』ずつの加算を順に繰り返すことにより,『0』〜『16383』の範囲の数値を順に発生させ,これを順次記憶手段に記憶して計数値としている。」という構成を有することが認められる。ところで,「乱数」とは,「0〜9までの数字から無作為復元抽出を繰り返して得られる数の列。完全に無秩序で,かつ全体としては出現の頻度が等しい。」(広辞苑。乙1)ものということができる。乱数の定義をこのようなものと考えれば,イ号物件において発生される数値は,「+1」ずつの加算を順に繰り返すもので,無秩序といえず,イ号物件は,一般的な技術用語としての「乱数」に該当することは,疑問の余地がないとはいえない。

   (2) しかしながら,本件明細書には,「乱数発生手段」の実施例として,前回の乱数値に10進数の769という素数を加えていくという手段(すなわち,初期値を0とすると,0→769→1538→2307→3076‥‥という,0〜32764までの計数値を発生させる。)が記載されている(本件公報7欄42行〜8欄25行)。このような実施例の記載を考慮すると,前回の乱数値に所定の数を加えていくような手段も,本件特許発明の「乱数発生手段」に含まれると解するのが相当である。
       さらに,上記実施例には,「更新時の更新幅は第7図の処理フローに示す"+1","+3"あるいは"+4"による素数769として決められるが,必ずしもこの数値でなくてもよく,原理的には素数であればよい。」との記載がある(同8欄21行〜25行)。1は素数でないから,この記載は一部矛盾する点があるが,要するに,上記「乱数」の定義も併せ考えると,本件特許発明においては,サンプリングした結果が,関連性がなく無秩序であって,予測できないものであればよいと解される。イ号物件においては,第5図の説明にあるように,「一般遊技用カウンタ9Aの計数する計数値は,きわめて高速(1秒間に約700万回転)に,『+1』ずつ順に規則的に増加していく数値である。‥‥一般遊技用カウンタ9Aから出力される『+1』ずつ順に増加していくスピードに対応して,計数値から特定の計数値を読み出すことは物理的に不可能であるし,前回読み出した計数値とつぎに読み出した計数値との関連性も見いだすことができない。」ものであるから,サンプリングした結果が,関連性がなく無秩序であって,予測できないとの要件を満たすというべきである。そして,このようにサンプリングした結果が,関連性がなく無秩序であって,予測できないものである以上,乱数発生手段とサンプリング手段が分かれている必要はないというべきである。
       以上によれば,イ号物件は,構成要件Bを充足すると認められる。
 2 争点2(イ号物件が構成要件D及びEを充足するかどうか。すなわち,イ号物件がリクエスト信号発生手段を備えているかどうか)について
   (1) 構成要件Dは,「前記特定された乱数値が属する入賞ランクを前記入賞確率テーブルと照合し,属する入賞ランクのリクエスト信号の発生するリクエスト発生手段と,」というものであり,構成要件Eは,「前記リクエスト信号に基づいて入賞ライン上に入賞ランクのシンボルマークの組み合わせになる位置に各リールのストップ位置を決定し前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段」というものである。これらに照らせば,リクエスト発生手段が発生する「リクエスト信号」とは,当選した入賞ランクを示す信号を意味するものと認められる。

   (2) イ号物件は,「読み出した計数値に,遊技状態に応じ選択した当選判定テーブル13上の各当選範囲を足し込む演算によりオーバーフローが生じるか否かで役の当否を決める判定を行い,該当する当選役(当選番号)に対応した停止制御用図柄データをRAM8064H〜8067Hに記憶する。」(イ号物件説明書三2A)という構成を有し,リールの停止制御処理において,当選図柄に対応したリール停止制御テーブルに基づいて停止指定図柄検索を行い停止指定図柄を決定し,停止制御を行っている。イ号物件説明書第10図の当選判定処理フローにおいても,「該当する当選番号を記憶」あるいは「はずれ時の当選番号を記憶」し,その後に「当選番号に対応した停止制御用図柄データをRAMに記憶」することが記載されている。
       そうすると,イ号物件の「停止制御用図柄データ」(同第7図の停止制御用図柄データ(各当選役に対応した4バイトデータ))は,当選番号(当選役)に基づくものであるから,「当選番号(当選役)」は当選した入賞ランクを示す信号と認められる。

   (3) 被告は,イ号物件は,一連のプログラムによって停止制御用図柄データを生成するもので,「リクエスト信号」のような何らかの「信号」によって生成するものでない旨を述べ,プログラムによって生成されるデータなどは,「信号」に当たらないと主張する。しかしながら,本件明細書の実施例の記載においても,マイクロコンピュータを用い,この上で動くプログラムによって生成されるデータを「ヒットリクエスト」あるいは「ヒットリクエスト信号」としているから,プログラムによって生成されるデータなども,「信号」に当たるものと認められる。
       以上によれば,イ号物件の「当選番号(当選役)」は「リクエスト信号」に当たるということができるから,イ号物件は構成要件D及びEを充足する。
   (4) イ号物件が構成要件A,C及びFを充足することは明らかである(被告においても,この点は,特に争っていない。)。よって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件をすべて充足し,本件特許発明の技術的範囲に属する。

 3 争点3(本件特許権についての実施許諾契約は終了したか)について
     本件特許権は,平成8年度契約別紙「目録」に記載されているものであり,平成8年度契約において,原告から被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾され,被告を含む本件パテントプールの参加者であるパチスロ機製造業者に対して再実施許諾されていたことは,当事者間に争いがない。そこで,この平成8年度契約が更新されることなく終了したかどうかについて検討する。
   (1)  前提となる事実関係
       前記の争いのない事実等(第2,1(1)ないし(6))に証拠(甲6ないし8,甲12の1ないし14,甲12の16ないし29,甲12のa1,a9,a10の1及び2,a18,a19,乙5ないし乙27,丙1,丙5ないし丙11,丙12の2ないし丙19,丙22ないし丙24,丙26ないし丙37,丙43,証人丁山。甲12以外の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認定することができる。

     ア 被告補助参加人は,パチスロ機業界において,パチスロ機等に関する特許権等につき,これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得て,同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾して,その実施料を特許権者等に還元することを主たる業務としている。原告は,パチスロ機製造業者のなかで,高砂電器と並んで,パチスロ機関連の多数の特許権等を保有している。
         パチスロ機には,多数の特許権等が用いられており,現在のようなパチスロ機が登場して以来,特許権等の侵害の問題をどのように解決するかがパチスロ機業界における大きな課題であった。そのため,被告補助参加人のような業種の会社が早くから登場し,特許権等の紛争の解決に当たってきた。そして,一時はこの種の会社3社が鼎立したこともあったが(そのうち1社は,甲田が代表者を務める電動式特許株式会社であった。),三社間で主導権争いを演じるのみで,問題の適切な解決に至らなかった。被告補助参加人は,このような状態を解決して特許権等の管理会社を一元化する目的で,平成5年に設立されたものである。被告補助参加人には,当時の日電協組合員21社が40株ずつ均等出資して株主となり,原告も40株を出資して株主となった。

     イ 被告補助参加人の紛争調整方法である本件パテントプールにおいては,被告補助参加人に参加している特許権等の保有者は,少なくとも一定数の特許権等を拠出し,被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾をする(本件実施契約)。この契約は書面で行われており,毎年4月1日から翌年3月31日まで期間を1年間として締結されており,平成6年度契約から平成8年度契約まで(契約期間は,平成6年度契約は平成6年4月1日から平成7年3月31日まで,平成7年度契約は平成7年4月1日から平成8年3月31日まで,平成8年度契約は平成8年4月1日から平成9年3月31日までとされている。),契約が更新され,契約書がそれぞれ作成されているが,それ以降は,原告と被告補助参加人及び被告補助参加人に参加する他のパチスロ機製造業者との間に対立が生じたため,契約書は作成されていない。
         被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者は,被告補助参加人が上記のような契約により保有者から実施許諾を受けている特許権等につき,被告補助参加人から再実施許諾を得て,これを実施する(本件再実施契約)。具体的には,パチスロ機製造業者は,被告補助参加人から1枚2000円で証紙を購入し,これをその製造に係るパチスロ機に貼付するものであるが,パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは,主としてパチスロ機製造業者の申告によっており,被告補助参加人は,この申告に基づき,特許権等の使用実績により,上記2000円の半分の1000円を財源として,個別の特許権等の保有者に対する配分額を決定する。パチスロ機製造業者は,被告補助参加人から証紙を購入して貼付している限り,特許権等の問題は一応解決済みのものとして行動していた。被告も,その製造するイ号物件に,被告補助参加人の印紙を貼付していた。
     ウ 原告と被告補助参加人との間の契約書の平成6年度契約,平成7年度契約及び平成8年度契約は,いずれも1条1項に,「甲(判決注:原告)は乙(判決注:被告補助参加人)に対して,別紙目録記載の工業所有権等について,本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定められ,別紙目録には特許権ないし実用新案権が記載されている(平成6年契約では5件,平成7年契約及び平成8年契約ではいずれも11件)。これ以外に,原告と被告補助参加人との間で,実施許諾の対象となる特許権等について記載した契約書,覚書等の書類は,一切作成されていない。被告補助参加人から原告に支払われる実施料については,平成8年度契約においては,再実施許諾ないし再々実施許諾の対象者が製造した製品1台当たり509円の割合の実施料を支払うものとされている(5条1項)。本件パテントプールにおける特許権等の保有者に対する実施料の支払については,毎年前年度分について,特許権者等から実施予想の申告を,再実施許諾の対象者であるパチスロ機製造業者から利用状況の報告をそれぞれ受けたうえ,その相違点について被告補助参加人と特許権者等の代表者からなる権利評価委員会を開催したうえ調整して,当該年度の実施料の支払額を決定していた。
     エ 原告は,被告補助参加人に実施許諾している特許権等につき,実施料率が市場におけるものに比べて低率であることに加えて,特許権等の多くが原告の保有するものであるにもかかわらず,原告に対する実施料の支払額が低いと考え,これに不満を抱いていた。また,パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかが,パチスロ機製造業者の自己申告によっているため,特許権等の保有者の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても,製造業者からの申告がされない限り被告補助参加人が実施料の支払をしないことにも不満を抱いていた。そのような中で,公取委が,パチンコ機製造業者の間で行われていたパテントプール制度につき,平成8年3月に,パチンコ機製造業者10社及び特許権等を管理委託されていた株式会社日本遊技機特許運営連盟(以下「日特連」という。)に対し立入調査を行い,平成9年6月に,独禁法違反と認め,違反行為を排除するよう勧告を行った。このことから,原告は,平成9年初めころから,受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して,被告補助参加人のパテントプール方式によるのでなく,個々の特許権等保有者がパチスロ機製造業者との間で個別に実施許諾契約を直接締結する方法に切り換えるべきであるとの持論を展開するようになった。
     オ 原告は,被告補助参加人との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が平成9年3月31日をもって合意解除により終了したと主張するようになり,その結果,原告の保有する特許権等については,もはや被告補助参加人に実施許諾していないとの見解を表明している。
   (2) 更新申出の不存在の主張について
     証拠(甲6ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,契約の更新に関して,平成6年度ないし平成8年度の各契約においては,次のような条項が置かれている。
     平成6年度契約においては,「本契約期間の満了の5ヶ月前までに甲(判決注:原告。以下,同じ)又は乙(判決注:被告補助参加人。以下,同じ)から文書による申出がない場合には,本契約は同一条件で期間満了の日から1年間更新されるものとし,爾後も同様とする。但し,甲は,第10条第1項所定の事由その他本契約を継続し難い特段の事由がない限り当該契約の更新を拒絶できないものとする。」(8条)とされている。

    平成7年度契約においては,「乙は甲に対して申し出ることにより本契約を同一条件で期間満了の日から1年間更新することができる。但し,甲,乙は契約の更新に当たって実施許諾の対象となる工業所有権等及び実施料について協議することができる。」(8条)とされている。
    平成8年度契約においては,「甲は,第10条第1項所定の事由その他本契約を継続し難い特段の事由がない限り当該契約の更新を拒絶できないものとする。」(8条)とされている。
     たしかに,これによれば,平成8年度契約においては,平成6年度契約におけるような自動更新条項が置かれていないことが指摘できる。
     しかしながら,前記認定の事実関係によれば,本件実施許諾契約及び本件再実施許諾契約は,本件パテントプールに参加するパチスロ機製造業者がパチスロ機の製造販売を行うための特許権等についての再実施許諾権付きの実施許諾契約であって,これに基づいて再実施許諾を受けたパチスロ機製造業者は,パチスロ機の製造・販売のために設備を備え,人員を雇用するなどするのであるから,このような本件実施許諾契約は,その性質上,1年限りで終了することを予定した契約ではなく,重大な契約違反又は契約を継続し難い特段の事情がない限り,原則として継続することを前提とした契約と解するのが相当である。

     このような点にかんがみれば,平成8年度契約においては,上記のとおり,「甲は,第10条第1項所定の事由その他本契約を継続し難い特段の事情がない限り当該契約の更新を拒絶できないものとする。」との条項が置かれているものであるが,これは平成6年度契約が明文の条項を置いているのと同様に契約が自動更新されることを当然の前提としたうえで,平成6年度契約における条項のただし書きのみを記載したものと解するのが相当である。
     上記のとおり,平成8年度契約においても,特段の手続を要することなく,契約は更新されるものと解すべきものであるから,平成8年度契約について原告及び被告補助参加人のいずれからも契約更新の申出がなかったとしても,同契約は更新されたものと認められる。したがって,契約更新の申出のなかったことを理由として同契約が更新されずに終了した旨をいう原告の主張は採用できない。

   (3) 被告補助参加人における決定ないし決議等に関する主張について
     ア 上記(1)認定の事実に証拠(甲9,甲12のa5及び前記(1)掲記の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
       (ア) 前記(1)エに認定したとおり,原告は,被告補助参加人に実施許諾している特許権等につき,実施料率が市場におけるものに比べて低率であること,特許権等の多くが原告の保有するものであるにもかかわらず,原告に対する実施料の支払額が低いことや,原告の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても,製造業者からの申告がない限り被告補助参加人が実施料の支払をしないことなどに不満を抱いていた。そのような中で,パチンコ機業界のパテントプールにつき,平成8年3月に立入調査が行われ,平成9年6月に独禁法違反行為についての排除勧告があったことを契機に,原告は,平成9年初めころから,受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して,本件パテントプールを解消して,個々の特許権等保有者がパチスロ機製造業者との間で個別に直接契約を締結する方法に切り換えるべきであるとの持論を展開するようになった。原告代表者甲田は,この旨を,このころから被告補助参加人代表者丁山や,被告補助参加人の取締役を務める他のパチスロ機製造業者の代表者に,再三訴えた。しかし,原告案だと,他のパチスロ機製造業者は,再実施料の支払の負担が増加するし,被告補助参加人は,再実施許諾権者の立場から単なる証紙発行等の事務代行者の地位に転落することから,原告と並んで多数の特許権等を保有する高砂電器の代表者などを除いて,容易にこれに賛同しなかった。
       (イ) 平成9年3月28日に,被告補助参加人の取締役会が開かれた。前記のように,被告補助参加人の取締役は,代表取締役である丁山を除き,被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者の代表者から構成されているが,代表取締役丁山のほか,当時の取締役の全員である甲田(原告代表者),丙野(高砂電器代表者),戊口(株式会社パイオニア代表者)及び己野(山佐株式会社代表者)が出席した。この時にも,甲田は,本件パテントプールを解消して個別契約に切り換えるべきであるとの持論を述べたが,特段の結論を得るに至らなかった。その他にも,同年2月12日,同年4月16日,同年5月22日と取締役会が開催されたが,同様であった。同年6月11日に開催された取締役会では,甲田から同様に通常実施権設定暫定契約案の説明があったが,重大な案件であるから全体会議(被告補助参加人の株主全員に加え,株主でない再実施許諾対象者2社を含む。)で同意を得るべきであるとの意見が出て,取締役会としては意見を決することができず,株主総会の後に全体会議を開き,そこに結論を委ねることとなった。

       (ウ) 平成9年6月18日,被告補助参加人の株主総会が開催された。席上,議案として,決算報告が承認されたほか,定款の一部変更の件が提案され,被告補助参加人の事業目的と実際の業務とが齟齬を来したことを理由に,定款の目的の第2項に,「2,前項の工業所有権及び著作権の権利擁護並びに管理に関する事業」とあるのを,「2,遊技機に関する工業所有権及び著作権の調査,研究に関する事業」と変更するものと説明された。これらはいずれも提案どおり可決された。
           これに引き続いて,甲田は,本件パテントプールを解消して新たに特許権等の保有者との間で個別に実施契約をすることが同年6月11日の取締役会で決議されたので,そのことを確認してもらいたい旨を発言した。これに対して,同取締役会に出席していた前記己野(山佐代表者)から,取締役会では本件実施契約及び再実施契約の問題は全体会議で話し合うことになったはずである旨の発言がされた。続いて,各出席者から,本件実施許諾契約及び再実施許諾契約の継続の当否や本件パテントプールが独禁法違反となるかどうかという点などについての発言がされ,結論が出なかった。甲田は,「議論しても仕方がない。」と述べて退席した。そのため,株主総会後に予定されていた全体会議は開催されなかった。

           その後の平成9年7月7日,前記株主総会決議に基づいて,被告補助参加人の前記のとおりの定款変更が登記された。
     イ 取締役会における決定について
        原告は,平成平成9年3月28日に開かれた被告補助参加人の取締役会において,平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させて,以後は原告ら特許権等の保有者と本件パテントプールに参加している各社との間で直接の実施権設定契約を締結するように切り換えることを決定したと主張するが,同日開催された被告補助参加人の取締役会の議事録には,そのような決定がされたことを示す記載は全く存在せず,議事録以外にも,そのような明確な決定ないし合意がされたことを記載した覚書,確認書等の文書は一切存在しない。同日の取締役会における決定の内容として原告の主張するところは,従来の本件パテントプールの仕組みを根底から覆し,被告補助参加人とその参加者である各パチスロ機製造業者との関係を根本から変更するものであるから,実際に取締役会においてこのような内容の決定がされたのであれば,そのような決定は当然議事録に記載されているはずである。この議事録は,原告代表者甲田名下に押印もされているものであることに照らしても,当該議事録に記載のない事項が決定されたというのは,にわかに信用できない(なお,原告は,当該議事録は甲田名の三文判を利用して偽造されたものとして争うようであるが,原告主張によれば,このような重要な案件を提案した原告代表者甲田とすれば,議事録の内容に関心を有していたはずであり,議事録の内容に目を通していなかったとは到底考えられない。)。原告従業員乙木の作成に係る発言録取メモ(甲12のa46)及び丙野(高砂電器の代表者)の陳述書(甲21)も,前記のような事情に照らせば,容易に信用することができない。また,原告の挙げる他の証拠を考慮しても,結局のところ,被告補助参加人の取締役会において本件パテントプールを解消する旨の決定がされた旨の原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
     ウ 株主総会における決定の主張について
         上記アに認定したように,平成9年6月18日に開かれた被告補助参加人の定時株主総会においては,甲田の発言に己野が異を唱え,各出席者から本件実施許諾契約及び再実施許諾契約の継続の当否等についての発言がされるなどして,結論の出ないまま終わったものである。原告は,同日の定時株主総会において平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させることが決定されたと主張するが,同日開催された被告補助参加人の定時株主総会の議事録には,そのような決定がされたことを示す記載は全く存在せず,議事録以外にも,そのような明確な決定ないし合意がされたことを記載した覚書,確認書等の文書は一切存在しない。原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

     エ 小括
        以上のとおり,被告補助参加人の取締役会ないし定時株主総会において平成8年度契約を更新することなく,平成9年3月31日の期間満了により終了させる旨が決定されたとの原告の主張については,これを認めるに足りる証拠がなく,採用することができない。
   (4) 独禁法違反又はそのおそれに関する主張について
     ア 平成8年度契約について
        前記の争いのない事実等(第2,1(5))のとおり,平成8年度契約においては,原告は本件特許権を含む特許権等につき被告補助参加人に対して通常実施権を許諾し,被告補助参加人は,所定の本件パテントプールに参加するパチスロ機製造業者に対して再実施許諾することとされている(1条,3条)。そして,原告はこれらの特許権等を自ら実施する場合であっても,被告補助参加人から再実施許諾を受ける必要があるものとされている(3条2項)。

        平成8年度契約においては,契約条項の文言上は,原告は第三者に対して専用実施権を設定し,独占的通常実施権を許諾することは禁じられているものの(4条),第三者に非独占的通常実施権を設定することは禁じられておらず,また,自ら被告補助参加人から再実施許諾を受けた場合に第三者に再々実施許諾をすることも自由であるが(3条3項は,同条1項の再実施権者に対してのみ再々実施権の許諾先についての制限を課しており,同条2項により再実施権の許諾を受ける原告に対しては制限を課していない。),契約当事者双方の認識としては,原告が第三者に対して非独占的通常実施権を許諾し,再々実施権を許諾することも禁じられていると解釈され,そのような運用がされていたものと認められる。
     イ パチンコ機業界のパテントプールとパチスロ機業界のそれとの比較

         上記(1)認定のとおり,パチンコ機業界においては,公取委により,独禁法違反行為について排除勧告がされたものである。原告は,パチスロ機業界のパテントプールも,パチンコ機業界のパテントプールと同様であり,そのため,本件パテントプールも独禁法違反であるか,又はそのおそれがあったと主張する。そこで,まずパチンコ機業界のパテントプールについて検討する。
       (ア) パチンコ機業界のパテントプールについて
           証拠(甲9,甲12のa26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
           パチンコ機業界においては,特許権等を有する製造業者10社が,その保有する特許権等を,日特連に管理委託し,日本遊技機工業組合(以下「日工組」という。)の組合員(19社。国内のパチンコ機製造業者のほとんどすべて)に実施許諾していた。

          日特連が保有又は管理する特許権等はパチンコ機の製造を行う上で重要な権利であり,これらの実施許諾を受けることなしにはパチンコ機の製造を行うことは困難となっていると公取委に認定されている。日工組の組合員はすべて日特連から特許権等の実施許諾を受けてパチンコ機の製造を行っていた。
          日特連は,既存のパチスロ機製造業者である日工組組合員の利益の確保を図るため,かねてから,パチンコ機の製造分野への参入を抑止する方針の下に,自己が所有又は管理する特許権等の実施許諾に当たり,パチンコ機を製造している組合員以外の者に実施許諾を行わず,同分野への参入を抑止していた。
           同業界のパテントプールには,以下のような新規参入防止方策があった。すなわち,他業界からの新規参入防止のため,組合員の資本が買収されることを防ぐよう,実施許諾契約において,実施許諾の相手方の会社が商号,標章,代表者及び役員の構成等に変更があった場合には日特連に届け出て承認を得なければ契約を解除され得るものとされ,また,企業の構成又は営業状態に変更があった場合には,特許権等の保有者に届け出てその承認を得なければ,特許権者が実施許諾を拒否できることとされていた。加えて,昭和60年秋ころまでに,新規参入の希望が増えたところから,上記10社のうち9社は,新たに特許権等を取得して日特連及び上記9社における特許権等の集積に努め,日特連の取締役会などにおいて,新規参入防止のための障壁を強化するとの方針を確認して,この方針に基づいて新規参入を排除してきた。

           次に,同業界のパテントプールにおける競争制限的方策には,以下のようなものがあった。@日特連の,組合員向け実施許諾契約には,原価を割る販売を禁ずる乱売禁止条項があり,パチンコ機に貼付する証紙の販売の際,製造業者と販売の相手方との間の契約書を提出させて価格を監視し,これを根拠に日工組の会合において安売りを行わないよう指導がなされてきた。A他の組合員が開発し,既に検定承認を受けている新機種と同等又は類似のパチンコ機を製造・販売するときには,当該組合員の承認を要することとされていた。Bパチンコ機の販売業者の日工組への登録制がとられていた。Cパチンコ機の検定を代行する保通協への型式試験の申請台数の組合員ごとの上限が設定されていた。
           このような制度に対し,公取委は,パチンコ機製造の分野における競争を実質的に制限しているものと認め,独禁法2条5項の私的独占に該当し,同法3条に違反するとした。そして,上記10社及び日特連に対し,パチンコ機の製造分野への新規参入排除の方針の破棄,同方針に基づいて行った措置の撤回,商号,標章,代表者及び役員の構成等に変更があった場合並びに上記企業の構成又は営業状態に変更があった場合に関する条項の削除等,これらによって,今後,同分野への新規参入排除をしないことなどを勧告した。

       (イ) 本件パテントプールについて
           他方,前記争いのない事実等に前記(1)認定の事実,証拠(甲12のa21ないし28,a50,a53ないし58,甲36ないし甲46,甲58,丙40,丙41,丙44,丙45及び証人丁山。甲12以外の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
           本件パテントプールにおいては,特許権等を有する製造業者5社などが,その保有する特許権等を,被告補助参加人に管理委託し,被告補助参加人が,日電協の組合員20社(平成7年度契約及び平成8年度契約。平成6年度契約では21社であるが,いずれにせよ国内のパチスロ機製造業者のほとんどである。)に実施許諾している。被告補助参加人の設立前,特許権等の管理会社3社が鼎立していた時期には,どの特許権等管理会社にも帰属しないでパチスロ機を製造する会社もあった

           本件パテントプールの参加者(日電協組合員)によるパチスロ機の販売シェアは,本件パテントプールが存在した平成6年4月1日から平成9年3月31日までほぼ100%であった。なお,平成6年11月30日ころ,非参加者である日本回胴式遊技機株式会社は,保通協の検定を通過し販売することが可能となったが,被告補助参加人が,被告補助参加人から再実施許諾を受けていないメーカーから購入しないよう通告したことなどから,300台しか販売できなかった。また,統計によれば,平成8年10月から平成9年9月までに,非参加者であるマツヤ商会が7000台を販売しているが,これは平成8年度契約の契約期間満了後の販売台数を含んでおり,さらに,7000台のうち2759台については,本件パテントプールの参加者であるバークレスト社から特許権侵害訴訟を提起されこれに敗訴したことから,実際に販売されたのは4241台で,全メーカーの総販売台数の0.8%にすぎなかった。
           パチスロ機業界において,平成9年3月31日までに,被告補助参加人に対し13社の新規参入希望者があったが,そのほとんどが被告補助参加人から再実施許諾を受けることができなかった。平成6年度契約から平成8年度契約の契約期間3年間において,被告補助参加人から新たに再実施許諾を受けることができるようになったパチスロ機製造業者は,外国企業2社(アイジーティージャパン社,ロデオ社(旧商号バークレスト社))と日本企業1社(ベルコ社)のみであった。
       (ウ)  両者の比較
           上記を比較すると,本件パテントプールにおいては,競争制限的な制度は格別設けられていない。日電協及び被告補助参加人は,いずれも,組合員が製品を製造販売する上で,その数量や型式を制限するなどの規制を一切設けていない。また,パチスロ機業界においても新規参入が難しい状況にあったことは認められるものの,日電協や被告補助参加人において,新規参入の防止を何らかの方針として掲げ,この方針を確認したようなこともない。

           さらに,本件パテントプールにおいては,その対象となる特許権等は,上記(1)認定の事実に照らせば,原告のような保有者が有するすべての特許権等ではないというべきである。特許権等の保有者は,自己の有するすべての特許権等を当然に被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者に使用させなければならないものではなく,被告補助参加人に対して実施許諾する特許権等を自己の意思で選択することができるのであるから,パチスロ機製造に必要な特許がすべて被告補助参加人により管理されているわけではない。また,被告補助参加人の設立前,特許権等の管理会社3社が鼎立していた時期には,どの特許権等管理会社にも帰属しないでパチスロ機を製造する会社もあったのであり,平成9年当時もこの状況に格別変化があったとは認められないから,被告補助参加人に管理されている特許権等が,パチスロ機の製造において不可欠な特許権等であるということはできない。
     ウ 小括
        以上によれば,平成8年度契約の下における本件パテントプールは,パチンコ業界におけるそれとは相違する点が少なくない。すなわち,被告補助参加人においては,競争制限的な内部の規制は存せず,かつその管理する特許権等は,パチスロ機の製造に不可欠な特許権等を網羅しているとはいえないし,特許権等の保有者もすべての権利を拠出しているわけではない。したがって,これらを全体として見れば,拘束の度合いは弱く,独禁法3条に定める私的独占,あるいは不当な取引制限,19条に定める不公正な取引方法に当たるとまでは認められない。
        ちなみに,平成8年度契約の期間満了後に出されたものであるが,「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月30日公取委事務局)は,次のような内容を定めている(同指針は,一般的に考えられる特許権等と独禁法の関係に関する解釈に格別新しい内容を付け加えているわけでないので,平成9年当時の公取委の考え方を知るうえでも,参考となると思われる。)。

         a パテントプール自体が独禁法に違反するものではない。
         b 構成員に特許製品等の販売価格,製造数量,販売数量,販売先,販売地域等についての制限が相互に課され,これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限として独禁法違反となる。また,構成員に対し研究開発の分野,ライセンスの許諾先,採用する技術などについての制限が相互に課され,これにより一定の製品分野又は技術市場における競争が実質的に制限される場合についても同様である。
         c 例えば,一定の製品分野において競争関係にある複数の権利者が当該製品分野に関連する特許等のパテントプールを組織し,この組織体に特許等を集積するとともに,現在及び将来の改良技術等をすべて当該組織体に集積する結果,当該集積された特許等のライセンスを受けることなくしては当該製品分野等における事業活動が困難となっている場合において,当該パテントプールを利用して,複数の権利者が新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的な理由なく拒絶することなどにより,他の事業者の新規参入を阻害したり,既存事業者の事業活動を困難にさせることは,これらの行為により一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には,私的独占として違法となる。

         この指針に照らしても,被告補助参加人において行われている運用は,ここに掲げられている基準に抵触するものではない。
     エ 原告の主張の検討
         以上検討したところよれば,本件パテントプールが独禁法違反であることを前提とする原告の主張(第3,3(1)イ(ア),(イ),(ウ),(オ))は,いずれもその前提を欠くものであるから,その余の点について検討するまでもなく理由がない。そこで,以下,第3,3(1)イのその余の主張につき検討する。
       (ア) 原告の主張イ(エ)(公取委による立入調査のおそれ)について
           上記イ,ウに認定したとおり,パチンコ機業界のパテントプールと本件パテントプールとは少なからず相違があり,パチンコ機業界に公取委が立入調査をしたからといって,パチスロ機業界にも同様に立入調査をするおそれがあると直ちにいうことはできない。また,平成9年当時,パチスロ機業界に公取委が立入調査をする可能性があったことをうかがわせる具体的な証拠も存しない。

           前記(2)において説示したとおり,本件実施許諾契約が,その性質上,重大な契約違反又は契約を継続し難い特段の事情がない限り,原則として継続することを前提とした契約であることを考慮すると,平成8年度契約8条が,原告において契約の更新を拒絶することができる事由として定める「契約を継続し難い特段の事由」とは,事情変更の原則が適用されるような事情か,あるいはそれに準ずるような重大な事情をいうものと解するのが相当である。
           そうすると,前記のとおり,パチンコ機業界のパテントプールと本件パテントプールとは少なからず相違があり,本件パテントプールをもって直ちに独禁法違反ということができないことを考えると,パチンコ機業界に公取委が立入調査をしたという事情のみをもって「契約を継続し難い特段の事由」が存在するものということはできない。

       (イ) 原告の主張イ(カ)(市場からの退場の強制)について
           原告の主張する内容の当否はおくとしても,「本契約を継続し難い特段の事由」を前記のように解することに照らせば,同事由が存在するというためには,現にこれに該当する具体的な事由が存在していることを要するというべきであって,単なる抽象的な可能性ではこれに当たらないというべきである。原告の主張する内容をもって,同事由が存在すると認めることはできない。
       (ウ) 原告の主張イ(キ)(被告補助参加人の法令遵守義務違反による信頼関係破壊に基づく契約終了)について
           前記の当事者間に争いのない事実等に記載したとおり,平成8年度契約13条2項には,「本契約に定めない事項あるいは疑義が生じた事項については,法令その他の商慣習に従うほか,甲及び乙が協議して決定する。」とあるが,法令を遵守することは当然のことであり,同項は訓示規定であって格別の意味を持つものでなく,その違反自体が直ちに独立して解除事由に結びつくものとして規定されているものとは解されない。また,この点をおくとしても,被告補助参加人の行為が独禁法に違反するとまでは認められないことは既に説示したとおりであるから,被告補助参加人の行為により原告との間の信頼関係が破壊されているということもできない。したがって,原告の主張は採用できない。

       (エ) 原告の主張イ(ク)(違法集団と信じた者の集団からの脱退の自由)について
           前記(ア)に説示したとおり,平成8年度契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」が事情変更の原則が適用されるような事情か,あるいはそれに準ずるような重大な事情をいうものと解すべきことからすれば,仮に原告の主張するように,構成員は,契約上属している集団から,当該集団の目的が違法であることを理由として脱退する自由を有しているとしても,そのためには当該集団の目的が違法であると認めるに足りる具体的な事由が客観的に存在することを要し,単に構成員においてそのように信じたというだけでは足りないというべきである。そうすると,本件においては,被告補助参加人の行為が独禁法に違反するとまでは認められないことは既に説示したとおりである。原告の主張は,採用することができない。

   (5) 継続的契約関係の終了に関する原告の主張について
     ア 原告の主張エ(ア)(やむを得ない事由は不要であるか又は程度の低いもので足りること),同エ(ウ)(更新拒否の時点から一定期間後の契約終了),同ウ(エ)(協議不調による契約終了),同エ(オ)(協議不調による信頼関係破壊に基づく契約終了),同エ(キ)(平成8年度契約8条が公序良俗違反であること)について
       平成8年度契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」が事情変更の原則が適用されるような事情か,あるいはそれに準ずるような重大な事情をいうものと解すべきことは,既に前記(4)エ(ア)において説示したとおりであって,これを程度の低いもので足りるとする原告の主張は,採用できない。
       原告の主張エ(ア)についていえば,本件の事実関係の下において単に原告が平成8年度契約が独禁法に違反しているおそれがあると信じたことだけでは,「契約を継続し難い特段の事由」に当たらない。また,同エ(オ)についていえば,本件の事実関係の下においては,協議不調となり,原告と被告補助参加人との間の信頼関係が既に維持されていないとしても,これをもって「契約を継続し難い特段の事由」があるということもできない。

       また,原告の主張エ(ウ)(エ)(カ)についていえば,既に前記(2)及び(4)エ(ア)において説示したところに照らせば,平成8年度契約8条が公序良俗に違反するものということはできず,同契約自体が公序良俗に違反するものでもない。したがって,単に契約の一方当事者が更新を拒絶すればその後一定期間の経過により契約が終了するとか(原告の主張エ(ウ)),不利益軽減のための交渉が不調となったときには契約を解除できる(同エ(エ))といった主張は,平成8年度契約において定められた契約更新に関する条項(8条)の趣旨を無視するものであって,採用することができない。
     イ 原告の主張エ(イ)(少数派組合員の脱退の自由)及び同エ(キ)(商法84条1,2項の類推適用)について
       平成8年度契約により原告は本件特許権を含む特許権等を被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾するものであるが,それ以上に被告補助参加人やこれに参加する他のパチスロ機製造業者と共同で事業を行う義務を負担するものではないし,新たな債務等を負担する責任を生ずるものでもない。したがって,平成8年度契約において形成される原告と被告補助参加人との間の法的関係は,組合や合名会社とは異なるものであるから,これらに関する規定を類推適用する余地はない。原告の主張は,採用できない。

 4 結論
     上記判示のとおり,原告の主張する平成8年度契約の終了に関する主張はいずれも理由がない。
     前に説示したとおり,平成8年度契約は自動更新されて,現在も原告と被告補助参加人との間では,これと同内容の契約関係が存続していると認められるから,本件特許権は,原告から被告補助参加人に実施許諾され,被告補助参加人から被告に再実施許諾されているものと認められる。
     したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由がない。
     よって,主文のとおり判決する。
      東京地方裁判所民事第46部  


                     裁判長裁判官    三    村    量    一
                   
                   
                           裁判官        村    越    啓    悦
                         
                         
                           裁判官      青    木    孝    之



                                   
(別紙)

物件目録イ号物件説明書第1図第2図第3図第4図第5図第6図第7図第8図第9図第10図第11図

(別紙)
    イ号物件の構成に関する原告の主張


       イ号物件の構成は,別紙イ号物件目録記載のとおりであるが,本判決末尾添附の「原告主張第11図」の1/5ないし5/5の図面を付加するとともに,以下の説明を付加又は訂正すべきである。
     ア (「二 イ号物件の構造,dJ」の次に,次のとおり付加すべきである。)
         「当選役(当選番号)毎に設定された,小役当選図柄=小役フラグ(小役の引込みセット),小役不当選図柄(小役の蹴飛ばしセット),ボーナス当選図柄=ボーナスフラグ(ボーナスの引込みセット),ボーナス不当選図柄(ボーナスの蹴飛ばしセット)の計4バイトからなる当選データテーブル14」
     イ (「三 イ号物件の作動,3 リールの停止制御処理」の説明を,以下のとおりに訂正すべきである。)
       「@ リールの停止制御処理のフローは第11図の1/5〜5/5のとおりである。

         AJ 遊技者がストツプボタン5L・5C・5Rを各押すと,CPUは,リールの現在位置の3コマと4コマ先との計7コマ分の図柄データを取り出してチェックし,入賞図柄がある場合は2Aの当選データの入賞役の引き込みセット及びその他の役の蹴飛ばしセットに基づき,該入賞図柄が表示窓2L・2C・2Rの有効ライン(複数の有効ラインの場合はいずれかの有効ライン。以下同じ。)上に並ぶように制御して各リール3L・3C・3Rを各停止させる。そして該入賞図柄に対応したメダルを払い出す。
           K 例えば「ベル」役に当選している場合は,遊技者がストップボタンスイッチ5L・5C・5Rを各押すと,最短停止図柄から4コマ先までの「ベル」図柄の表示位置をチェックし,該図柄がある場合は「ベル」図柄が表示窓2L・2C・2Rの有効ライン上に並ぶように引き込み制御して各リール3L・3C・3Rを停止させる。

         B いずれの入賞役でもない「はずれ」の場合は,遊技者がストップボタンスイッチ5L・5C・5Rを入賞図柄が表示窓2L・2C・2Rの有効ライン上に並ぶタイミングで各押しても,すべての役の蹴飛ばしセットにより,いかなる入賞役も成立しないように蹴飛ばし制御して各リール3L・3C・3Rを停止させる。
         C なお,いずれの場合も遊技者がストップボタン5L・5C・5Rを各押すと(押す順はどのような順でもよい。)リール3L・3C・3Rは適位置か否かを判別する。
             具体的には,ストップボタン5L・5C・5Rが押された際に,3つの表示窓5L・5C・5Rの各上・中・下の3つの位置に,リール3L・3C・3Rの円周面に描かれている種々の図柄が正確に表示されているか否か(例えば図柄が表示窓の上と中との間や,図柄が表示窓の中と下の間に位置していないか)を判断し,適位置でないと判断した場合には,適位置までリール5L・5C・5Rを回転させる制御を行う。」


第11図 リール停止時制御処理フローチャート