H17. 3. 3 東京高裁 平成15(行ケ)530 特許権 行政訴訟事件

平成15年(行ケ)第530号 審決取消請求承継参加事件
平成17年3月3日判決言渡,平成17年2月3日口頭弁論終結
(被参加事件・平成15年(行ケ)第145号 審決取消請求事件)


     判    決
 参加人         ルーセント テクノロジーズ インコーポレーテッド
 訴訟代理人弁理士    岡部正夫,加藤伸晃,朝日伸光
 被参加事件原告(脱退) エイ ティ アンド ティ コーポレーション
 被 告         特許庁長官 小川洋
 指定代理人       吉村宅衛,片岡栄一,治田義孝,小曳満昭,林栄二,大橋信彦,井出英一郎


     主    文
 参加人の請求を棄却する。
 訴訟費用は参加人の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。


     事実及び理由
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。


第1 参加人の求めた裁判
 「特許庁が不服2000−11431号事件について平成14年12月5日にした審決を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 被参加事件原告は,後記本願発明の特許出願人であった。被参加事件原告は,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めて訴えを提起した(被参加事件)。なお,本件特許を受ける権利は,平成13年7月6日,被参加事件原告から参加人に譲渡されたが,被参加事件の訴え提起後である平成15年8月6日に上記権利の承継について特許庁長官に届出がされた。そこで,参加人は,本訴(審決取消請求承継参加事件)を提起し,被参加事件原告は,被告の承諾を得て,訴訟から脱退した。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本願発明
 出願人:上記のとおり,被参加事件原告が出願した後,特許を受ける権利が参加人に承継された。
 発明の名称:「ディスプレイを有するコンピュータに使用する装置」

 出願番号:特願平7−6271号
 出願日:昭和62年12月11日(優先権主張昭和61年12月11日米国)に出願された特願昭62−312448号の一部を平成7年1月19日に新たな特許出願としたもの。
 手続補正日:平成7年1月25日,平成8年4月18日,平成11年5月11日
 (2) 本件手続
 拒絶査定日:平成12年4月18日
 審判請求日:平成12年7月25日(不服2000−11431号)
 手続補正日:平成12年8月24日(甲2)
 審決日:平成14年12月5日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成14年12月16日(被参加事件原告に対し)
 2 本願発明の要旨(上記甲2による手続補正後の請求項1に記載されたもの。請求項2〜9の記載は省略。)
 【請求項1】 協働するディスプレイを有するコンピュータに使用する装置において,

 前記ディスプレイがタッチ式スクリーンを備えており,a)複数の情報フィールドを提供し,b)前記各情報フィールドに対して前記情報フィールドに挿入されるべき情報の複数の種類のうちの1つを識別するパターンを,前記ディスプレイ上に表示する手段と,
 情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段であって,前記所定のツールが前記1つのフィールドに対して識別された種類の情報を提供するように動作し,前記ツールが,選択メニューから個々の入力を供給するように構成された少なくとも1つのツールと,前記ユーザが前記情報を構成することを許容するように構成された少なくとも1つのツールとを含む所定のツール群から選択されるようになっている手段と,

 前記ユーザが前記タッチ式スクリーン上の1以上の選択された位置を触わり,
前記表示されたツールを動作させた結果得られたデータを前記特定の情報フィールドに挿入する手段とを具備することを特徴とする装置。
 3 審決の理由の要点
 (1) 審決は,引用例として,特開昭60−50589号公報(甲4)を援用した(引用例に記載された発明を「引用発明」という。)。
 (2) 審決は,本願発明と引用発明との一致点について,次のとおり認定した。
 「引用発明における「CRT」が本願発明における「ディスプレイ」に相当し,「スクリーン」を備えていることは明らかである。引用発明において,別画面がキーボードを含む電卓の図形パターンの場合の作成中の文書における「項目欄」,及び別画面が組織図である場合の「宛名欄」は,それぞれが本願発明における情報が入力されるべき「情報フィールド」に相当する。引用発明においては,別画面としてキーボードを含む電卓の図形パターンと組織図の少なくとも2通りの場合があり,別画面がキーボードを含む電卓の図形パターンのときは項目欄(情報フィールド)に挿入されるべき情報は数字であり,別画面が組織図のときは宛名欄(情報フィールド)に挿入されるべき情報は文字であることから,項目欄,宛名欄(情報フィールド)に挿入されるべき情報が数字であるか文字であるか(情報の種類)がCRT(ディスプレイ)上に表示される別画面の図形パターンによって識別されるものである。引用発明は,情報が入力されるべき項目欄,宛名欄(情報フィールド)を指示し,この項目欄,宛名欄(情報フィールド)に関する電卓の図形パターン,組織図を表示するものであるから,この電卓の図形パターン,組織図は,本願発明における「所定のツール」に相当するものである。そして,引用発明においては,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)は,項目欄,宛名欄(情報フィールド)に対して識別して挿入されるべき数字,文字を提供するものである。ここで「組織図」(1つのツール)は,表示された組織名から特定の組織名を選択指示して宛名欄に入力するものであり,その場合,表示された組織名は一種の選択肢(選択メニュー)と考えられるから,本願発明における「選択メニューから個々の入力を供給するように構成された少なくとも1つのツール」に相当し,また,「電卓の図形パターン」(1つのツール)は,ユーザが項目欄に挿入されるべき数字(情報)を構成するものであるから,本願発明における「ユーザが前記情報を構成することを許容するように構成された少なくとも1つのツール」に相当する。

 そうすると,本願発明と引用発明とは,次の点で一致する。
<一致点> 
 協働するディスプレイを有するコンピュータに使用する装置において,
 前記ディスプレイがスクリーンを備えており,a)複数の情報フィールドを提供し,b)前記各情報フィールドに対して前記情報フィールドに挿入されるべき情報の種類を識別するパターンを,前記ディスプレイ上に表示する手段と,
 情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを表示する手段であって,前記所定のツールが前記1つのフィールドに対して識別された種類の情報を提供するように動作し,前記ツールが,選択メニューから個々の入力を供給するように構成された少なくとも1つのツールと,前記ユーザが前記情報を構成することを許容するように構成された少なくとも1つのツールとを含む所定のツール群から選択されるようになっている手段と,

 前記ユーザが前記スクリーン上の1以上の選択された位置を指示し,前記表示されたツールを動作させた結果得られたデータを前記特定の情報フィールドに挿入する手段とを具備する装置。」
 (3) 審決は,本願発明と引用発明との相違点について,次のとおり認定した。
 「次の各点で相違する。
<相違点>
 (a)ディスプレイに関し,本願発明においては,タッチ式スクリーンを備えるものであり,スクリーン上の選択された位置を触ることにより表示されたツールを動作させるものであるのに対し,引用発明においては,CRTを用い,スクリーン上の選択された位置をマウスあるいはライトペン等の位置指示装置で指示することにより電卓の図形パターン,組織図等のツールを動作させている点(以下「相違点a」という。)。
 (b)情報フィールドに挿入されるべき情報の種類を識別するパターンをディスプレイ上に表示する手段に関し,本願発明においては,前記情報の複数の種類のうちの1つを識別するパターンを表示するものであるのに対し,引用発明は,このことが特に言及されていない点(以下「相違点b」という。)。

 (c)特定の情報フィールドの1つに係わる所定のツールを表示する手段に関し,本願発明においては,該所定のツールを特定の情報フィールドを指示すると同時に表示するものであるのに対し,引用発明においては,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)は項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)と共に表示されるものではあるが,項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)を指示すると同時に表示するものであるかどうかは言及されていない点(以下「相違点c」という。)。」
 (4) 審決は,上記各相違点について,次のとおり判断した。
 (a)「相違点aについて
 位置指示装置としてタッチ式スクリーンを備えたディスプレイを用いて,スクリーン上の選択された位置を触ることにより当該位置を指定して表示データ等を入力することは本願出願前に周知の技術であり,タッチ式スクリーンを用いるかマウスやライトペンを用いるかは当業者が適宜に定め得る設計上の事項であるから,引用発明においても,ディスプレイとしてのCRTに上記周知の技術であるタッチ式スクリーンを備えてスクリーン上の選択された位置を触ることにより表示データ等を入力するように構成することは当業者が容易に想到できたものである。」

 (b)「相違点bについて
 引用発明も,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)は,項目欄,宛名欄(情報フィールド)に挿入されるのが数字であるか,文字であるか(情報の種類)が識別されるものであって,各情報フィールドにはこの挿入されるべき情報の種類を識別するものとして表示されているのであるから,これら電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)はパターンとして複数の種類のうちの1つとして識別されており,本願発明のように複数の種類のうちの1つを識別するパターンを表示するものとして構成することは当業者が容易に想到できたものである。」
 (c)「相違点cについて
 通常,ツールを表示して使用する際,当該ツールの使用により特定のフィールドの情報(情報フィールド)が指示されて処理されるのであり,引用発明においても,所定のツールに相当するものである電卓の図形パターン,組織図は項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)と共に表示されるものであるから,特定の情報フィールドが表示された後に所定のツールを表示するか,あるいは同時に表示するかは,当業者が適宜選定し得る設計的事項にすぎず,本願発明のように同時に表示することは当業者が容易になし得ることと認められる。

 また,本願発明のように構成することによる作用効果も格別のものとは認められない。」
 (5) 審決は,次のとおり結論付けた。
 「本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」


第3 参加人の主張(審決取消事由)の要点
 1 取消事由1(相違点の看過による相違点cの認定の誤り)
 (1) 審決は,情報フィールドと所定のツールが共に表示される点で本願発明と引用発明は一致するが,その共に表示されるそれぞれの表示のタイミングについて,本願発明は同時とし,一方,引用発明は同時にとは言及していないことを相違点cとしている。
 しかしながら,相違点とされるべきは,「本願発明にあって該所定のツールを特定の情報フィールドを指示すると同時に表示するということは,所定のツールが特定の情報フィールドの指示と連動して表示されるものであるのに対し,引用発明では,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)と項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)とが共に表示されているが,ツールは特定の情報フィールドの指示の前に既に表示され,指示される特定の情報フィールドに適切なツールが選択的に連動して表示されるものではないという点」である。

 (2) 本願発明の「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」(判決注:参加人は「フィールドの1つに係る」と主張するが,手続補正書(甲2)等の記載に照らし誤記と認め,以下「係わる」と訂正して記載するが,この訂正により技術的意義が変わるものとは解されない。)という特徴事項から,「同時に」という文言を分離,取り除いて解釈すれば,情報フィールドの指示とツールの表示は,それぞれ別個独立した動作とも解釈され得るから,審決のような一致点の認定になるであろう。その限りにおいて審決の一致点の認定に争いはない(その意味で,参加人は,一致点の認定は争わない。)。
 一方,この「同時に」ということは,特定の情報フィールドの指示と同時に(すなわち指示に連動して)あらかじめその特定の情報フィールドにリンクされている所定のツールを表示するということなのであり,審決が相違点cとしたような単なる表示のタイミングの問題というものではなく,情報フィールドの指示と所定のツールの表示の動作上の連動性を規定するものとして特徴事項となっているのである。この意味において,審決の相違点cの認定は誤りである。

 (3) 本願発明では,書式内の種類(性質)の異なる複数の情報フィールドの1つが現在記入すべき情報フィールドとして強調指示され,その指示された情報フィールドに記入すべき情報(データ)の種類に適合した所定のツールを情報フィールドの強調表示と同時に表示する手段を有する。このように,書式とツールはリンクされ,一体的なソフト(プログラム)として実現されている。つまり,書式は単なるテキストファイルでなく,ある特定の書式内の情報フィールドがそれに適合するツールにあらかじめ対応付けられるようプログラムされている。これにより,複数の種類の異なる情報フィールドの各々の入力に対し,適切な入力ツールが自動的に表示される。
 (4) 特許請求の範囲は,「…を指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」,すなわちそのような機能をする1つの手段を機械的構成として含んでいるのであるから,機械自体が指示と同時表示の機能をするのであって,機械である以上,当然に指示と同時表示は,自動的であるし連動的である。

 (5) 用語「同時」は,「連動」とか「自動的」と全く一致する文言でないことはもちろんであるが,文脈中にあって一致する意味となる場合もあると,参加人は,主張するものである。すなわち,同時とは,情報フィールドの指示と所定ツールの表示開始がタイミングとして一致している場合,指示と表示の開始のタイミングは一致しなくともある時刻で共に指示と表示がされている場合,又は指示と表示の開始との連動性をいう場合もあろう。
 (6) 書式設計のプログラムについては,本願明細書(甲3)の段落【0045】〜【0061】に説明されている。この説明にあるように,強調指示された情報フィールドに対し表示されるべきツールは,あらかじめ書式設計プログラム内で決められており,そのプログラムの走行により情報フィールドの指定とその指定に連動してあらかじめ定められている所定のツール(情報フィールドの1つに係わる所定のツール)が自動的に表示されるのである。このような明細書の開示内容からして,本願発明の特徴事項である「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」にあって,前記フィールドの1つに係わる所定のツールは,上述のようにプログラムにおいてフィールドに関連づけられたツールを意味し,そして「同時に」とは,情報フィールドの指定と同時にその指定に連動して該所定のツールを表示するという意味であることは明らかである。

 本願発明と本願明細書(甲3)に記載の実施例との関係を以下に示す。
 「前記ディスプレイがタッチ式スクリーンを備えており」は,図1のタッチ式スクリーン16を意味する(段落【0008】)。「『a』複数の情報フィールドを提供するパターン」は,図2に示されている注文書式30における欄41,51,61,71のパターンである(段落【0011】,【0013】)。「『b』前記各情報フィールドに対して前記情報フィールドに挿入されるべき情報の複数の種類のうちの1つを識別するパターン」は,図に示されている注文書式30におけるラベル形式(Model),年(Year),量(Qty,quantities)のパターンである(段落【0011】)。「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,」は,図3に示されている注文書式30においてフィールド41を強調することである(段落【0015】)。「前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する」は,図3に示されている注文書式30上のオーバレイ(窓)として指示されている情報フィールドに係わるあらかじめ定められたツール40を同時表示することである(段落【0015】)。ここで同時とは,特定の情報フィールドの指示(強調表示)と同時にすなわち連動してという意味であり,上述したように単なる動作上のタイミ

ングではない。「選択メニューから個々の入力を供給するよう構成された少なくとも1つのツール」は,例えば図3に示されたツール40であって,メニュー内のエントリ42〜46の1つを指示することでフィールド41にそのエントリ内容が記入される(段落【0015】〜【0017】)。「前記ユーザが前記情報を構成することを許容するように構成された少なくとも1つのツール」は,図5に示されている標準用計算器と同様に動作する数量エントリツール60であって,ツール60のボタンを押すことにより一連の数値を構成している(段落【0019】〜【0020】)。「前記ユーザが前記タッチ式スクリーン上の1以上の選択された位置に触り前記表示されたツールを動作させた結果得られたデータを前記特定の情報フィールドに挿入する」は,例えば図3に示されているようにタッチスクリーン上に表示されているツール40のエントリー42〜46のいずれかにユーザが触り,触れたエントリ内容が注文書式30の情報フィールド内の強調されているフィールド41に挿入されることである(段落【0005】,【0009】,【0012】及び【0015】)。
 (7) 審決は,情報の種類の識別について言及しているが(4頁),複数の種類の情報のフィールドの存在自体の認定を欠いている。参加人は,複数の種類の情報フィールドの存在自体に特許性を主張するつもりはないので,これを争点とはしないが,1つの文書に複数の種類の情報フィールドの存在という点の看過が,情報フィールドの指示とツールの表示についての審決の解釈に誤りをもたらした一因である。
 2 取消事由2(相違点cについての判断の誤り)
 (1) 引用発明では,1つの文書の多種の情報フィールドに異なるツールを用いてデータ入力したい場合に,特定の情報ツールを指示してからユーザが適切なツールを,例えばスクロールにより,選択し直さなければならない。すなわち,本願発明の特定の情報フィールドの指示と同時に所定のツールを表示するということは,その指示された情報フィールドへの入力に適切な所定のツールを連動的に表示するということであって,単なる表示のタイミングを規定しているわけではない。

 引用発明においては,項目欄を指定(指示)する前に,入力ツール自体は既に表示されているのであるから,本願発明のように項目欄の指定(指示)に応答し連動してあらかじめ決められた入力ツールを表示しているのではない。1つの文書内の異なる種類の項目欄に異なる入力ツールを選択する手法についての具体的な教示はなく,推測としてはユーザの判断で適宜にウィンドウ・スクロールで選択すると思われる。
 本願発明と引用発明とを対比したとき,文書内の空白欄(情報フィールド)へウィンドウによるオーバラップ表示された入力ツールからデータを記入するために,空白欄(情報フィールド)と入力ツールとが共に表示されているという点では共通であるが,空白欄の指示と入力ツールを表示することについて,それをどのように連動して具体的に行うかの手順については相違しているのである。この連動性が本願発明と引用発明の相違点なのである。

 引用発明は,親睦会旅行費用の表の上に重ねて電卓図形パターンが表示され,その後マウスで交通費の項目欄を指定しているとあるのだから(甲4の4頁左上欄5〜18行),引用発明についての参加人の解釈に誤りはない。実際,引用発明では,いずれの項目(フィールド)にも同一のツール(電卓図形パターン)ですべて入力するのだから,個々の項目を指示してそれから入力用ツールを表示するとは考えられない。
 なお,乙8(特開昭61−187024号公報)では,表(第1画面)の項目の指示と連動して,その項目に入力させるデータを含む入力頁(第2画面)を開くものである。つまり,列車名の項目の指示に連動して列車名の頁が開かれる。しかしながら,第2画面に示されるものは,1つのツールであって本願発明のような異なるタイプのツールではない。

 (2) 本願発明では,前記相違点によって多種の情報フィールドへの複雑なデータの記入をユーザに誤りなく行わせることが実現されるという作用効果を得ており,本願明細書の段落【0004】に記載の目的を達成しているのである。前記相違点の認定は,本願発明の特許性の判断に欠くことができなかったものである。それにもかかわらず,審決は,前記相違点の認定及び判断を欠き,本願発明の作用効果を格別なものとしなかったことにより,特許性の判断を誤ったものであるから,違法なものとして取り消されるべきである。

第4 被告の主張の要点
 1 取消事由1(相違点の看過による相違点cの認定の誤り)に対して
 (1) 参加人が主張する本願発明は,実施例として記載するものであって,特許請求の範囲に基づくものではない。本願発明は,特許請求の範囲(請求項1)に「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」と規定し,これ自体で明確なものであって,これからさらに「強調表示と同時に表示する」及び「自動的に表示」する旨規定するものではなく,ましてや「情報フィールドの指定と同時にその指定に連動して該所定のツールを表示する」との限定された構成のみを意味するものではない。そして,本願明細書においても,「同時に表示する」の用語については何ら定義等することなく用いているのであるから,通常の意味に解すべきである。

 また,本願発明は,「書式とツールはリンクされ,一体的なソフト(プログラム)として実現されている」か否かにかかわりがなく,「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」であればよいのであるから,「所定のツールを同時に表示する」ことが自動的であろうと手動的であろうと構わない発明であって,「所定のツール」が一体的なソフト(プログラム)でなければ成り立たないような発明ではない。
 (2) 本願発明の請求項の記載は,「…情報の複数の種類のうちの1つを識別するパターンを,前記ディスプレイ上に表示する手段」というものであり,ディスプレイ上に「複数の情報フィールド」と「1つを識別するパターン」を表示する旨を規定するものであるから,この記載から「複数の種類の情報フィールド」を規定しているとはいえない。なお,請求項の他の箇所の記載を見ても,「複数の情報フィールド」に関しては,「所定のツールが前記1つのフィールドに対して識別された種類の情報を提供する」と規定し,「ツールを動作させた結果得られたデータを前記特定の情報フィールドに挿入する」と規定するのみであるから,「識別された種類の情報」が「複数の情報フィールド」(前記特定の情報フィールド)に挿入されるにとどまるものである。したがって,この「複数の情報フィールド」の記載からは,「同時に表示する」ことが「自動的」あるいは「連動的」であると限定して解することはできない。

 (3) 参加人は,第3,1(4)のとおり主張し,本願発明においては,「指示と表示の開始とが連動している」ものと解すべきであるとするが,「特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示」が「1つの手段」により達成されるべきことが規定されているからといって,上記の意味に解すべきであるとの理由にはならない。
 本願の請求項1の文言や,後記(4)の事情に照らせば,上記「特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示」との意味は,参加人主張中の3つの場合のうち,「指示と表示の開始のタイミングは一致しなくともある時刻で共に指示と表示がされている」との意味に解するのが妥当である。この解釈によれば,相違点cは,実際には相違点ではなかったということになるが,審決の結論を左右するものではない。

 (4) 参加人の主張は,当初の出願人である被参加事件原告がとった行動と相容れないものであり,失当である。
 すなわち,被参加事件原告は,審査段階において,「同時に」とされていた特許請求の範囲の記載(乙1)を,拒絶理由通知(乙2)を受けていったんは「自動的に」に補正した(乙3,4)にもかかわらず,再度の拒絶理由通知(乙5)を受け(乙5に引用された特開昭61ー187024号公報(乙8)には,「自動的に表示する」に相当する構成が開示されている。),タッチ式スクリーンに関する限定を付加したことに伴い,元の「同時に」に戻した(乙6,7)のであり,本訴で参加人が主張するような意味を有する文言(「同時に」よりも限定的な意味を有する「自動的に」の文言)を使用することを,あえて避けたものである。

 2 取消事由2(相違点cについての判断の誤り)に対して
 参加人の主張は,引用例の記載事実に反する。引用例には,項目欄を指定(指示)する前に,入力ツール自体が既に表示されていることは何も記載されていない。引用発明は,項目欄を指定(指示)する前に,入力ツールが表示されるものに限定されるものではない。
 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行われるべきであり,その前提に立てば,審決が認定した相違点cに誤りはなく,その克服が容易であるとした判断にも誤りはない。
 本願発明は,項目欄を指定(指示)する前に,入力ツール自体が既に表示されているものを排除していないのであり,たとえ,引用発明が参加人主張どおりのものであるとしても,本願発明の進歩性は否定される。

 なお,乙8のものにおいては,列車名の項目入力エリアが選択,指示された場合には,第2画面に列車名の選択項目が表示されるが,乗車駅の項目入力エリアが選択,指示された場合には,第2画面には駅名の選択項目が表示されるようになっているのであり,「様式画面の項目入力エリアの種別により自動的に選択項目が表示され」るようになっている。

第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点の看過による相違点cの認定の誤り)について
 (a) 参加人は,前記第3,1(1)ないし(5)において,大要次のように主張する。
 すなわち,(1)審決は,相違点の看過をした結果,相違点cの認定を誤っており,正確には,相違点cとして,「本願発明にあって該所定のツールを特定の情報フィールドを指示すると同時に表示するということは,所定のツールが特定の情報フィールドの指示と連動して表示されるものであるのに対し,引用発明では,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)と項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)とが共に表示されているが,ツールは特定の情報フィールドの指示の前に既に表示され,指示される特定の情報フィールドに適切なツールが選択的に連動して表示されるものではないという点」と認定されるべきである,(2)本願発明における「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」という特徴事項において,「同時に」ということは,特定の情報フィールドの指示と同時に(すなわち指示に連動して)あらかじめその特定の情報フィールドにリンクされている所定のツールを表示するということ,すなわち,情報フィールドの指示と所定のツールの表示の動作上の連動性を規定するものであり,審決が相違点cとしたような単なる表示のタイミングの問題というものではない,(3)本願発明では,書式は単なるテキストファイルでなく,ある特定の書式内の情報フィールドがそれに適合するツールにあらかじめ対応付けられるようプログラムされているので,複数の種類の異なる情報フィールドの各々の入力に対し,適切な入力ツールが自動的に表示される,(4) 特許請求の範囲は,「…を指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段」,すなわちそのような機能をする1つの手段を機械的構成として含んでいるのであるから,機械自体が指示と同時表示の機能をするのであって,機械である以上,当然に指示と同時表示は,自動的であるし連動的である,(5)「同時」という用語は,「連動」とか「自動的」と全く一致する文言でないが,文脈中にあって一致する意味となる場合もある,というものである。

 結局,本願発明の要旨認定の問題に帰するものと解され,本願発明の特許請求の範囲に記載された「同時に」という構成要件を「特定の情報フィールドの指示に『連動してないし自動的に』,あらかじめその特定の情報フィールドにリンクされている所定のツールを表示するということ」を意味するものと解し得るか否かということが争点である。
 (b) 特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものと解すべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。

 そこで,本願発明の特許請求の範囲の記載を検討すると,前記第2,2のとおりであって(該当部分を抜粋すると,「情報が挿入されるべき前記情報フィールドのうちの特定の情報フィールドを指示し,前記フィールドの1つに係わる所定のツールを同時に表示する手段であって,」というものである。),「同時に」との用語について,特段の定義付けがされているわけではない。ところで,「同時に」という日本語は,「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。」(広辞苑第5版)という意味を有するものであることは明らかであるところ,特許請求の範囲の記載において,「同時に」という用語が,上記日本語の通常の意義と異なる意味に使われていることをうかがわせる記載は存在しない。そうすると,本願発明の特許請求の範囲の記載において,「同時に」との用語は,日本語の通常の意義である「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。」との意味で記載されているものというべきである。このように解することで,本願発明の特許請求の範囲の記載の技術的意義は,一義的に明確に理解することができるのであり,その他,前記の特段の事情があるとは認められないので,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されないものというべきである。
 参加人は,「同時に」という用語を,「特定の情報フィールドの指示に『連動してないし自動的に』,あらかじめその特定の情報フィールドにリンクされている所定のツールを表示するということ」を意味するものと主張するが,「同時に」との日本語の意義は,「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま」であれば,様々な態様を広く含む意味を有するのであって,「一方のことが他方のことに『連動して』いるとか,一方のことから『自動的に』他方のことが生じる」などという意味ないしニュアンスを含むものではない。参加人主張の意義をもたせるには,特許請求の範囲の記載においてしかるべき表記をすべきところ,本件においては,単に「同時に」とされて,特段の定義付けがされているわけではなく(明細書においても定義は見当たらない。),また,特許請求の範囲の記載全体を精査しても,上記日本語の通常の意義と異なる意味に使われていることをうかがわせる記載は存在しない。

 よって,「同時に」の解釈に関する参加人の主張は採用し得ず,これを前提とする主張も採用することができない。
 また,参加人は,上記(4)のように機械的構成からの主張もするが,本願発明は,コンピュータに関する技術であり,動作の部分が機械的構成として含んでいるとはいえない。また,仮に機械的構成であるとしても,自動的制御と手動的制御があることは技術常識であるから,「機械である以上,当然に指示と同時表示は,自動的であるし連動的である」などといえないことは明らかである。
 参加人が上記(1)ないし(5)として主張するところは,採用し得ないというほかない。
 (c) 「同時に」との用語を以上のように解すべきことは,本件出願過程の事情に照らしても明らかである。
 証拠(乙1〜7)によれば,被参加事件原告は,当初,特許請求の範囲において,「所定のツールを同時に表示する手段」と記載していたところ,引用例(甲4)が「所定のツールを同時に表示する手段」を有することなどを理由として拒絶理由通知がされたこと,これを受けて被参加事件原告は,「所定のツールを自動的に表示する手段」と補正したこと,しかし,これに対して,新たな引用文献が示され,装置側が入力対象の項目(フィールド)を自動的に指定する多項目データ入力装置が記載されているとして,拒絶理由通知がされたこと,被参加事件原告は,これを受けて,上記拒絶理由通知で引用された引用文献は,「タッチスクリーンを用いた書式入力」を開示するものではないとの意見を付して,タッチスクリーンに関する構成を追加した上,「自動的」との用語を「同時に」に戻して,「所定のツールを同時に表示する手段」と補正したことが認められる。

 以上の経緯に照らせば,被参加事件原告は,「同時に」と「自動的に」とでは技術的意義が異なることを前提に補正をしたものであり,しかも,最終的には,あえて「自動的に」との記載をやめて「同時に」との記載をしたものと認められる。本願発明に関する特許を受ける権利の承継人である参加人は,被参加事件原告の上記経緯から免れることはできないというべきである。そうすると,参加人の本訴における前記主張は,上記の経緯と矛盾することが明らかである。
 (d) 参加人は,前記第3,1(6)において,本願明細書の記載を援用して主張する。
 しかし,本願発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないことは,前判示のとおりであるから,参加人の上記主張は,失当である。また,そもそも,本願発明が明細書に記載された実施例のものに限定されるものではないことも明らかであるから,この意味においても,参加人の上記主張は,採用することができない。

 (e) 参加人は,前記第3,1(7)のようにも主張する。
 しかし,そもそも,本願発明の特許請求の範囲には,参加人の主張する「1つの文書に」という記載は存在しない。そして,審決では,「a)複数の情報フィールドを提供し,b)前記各情報フィールドに対して前記情報フィールドに挿入されるべき情報の種類を識別するパターンを,前記ディスプレイ上に表示する手段と」という事項を,一致点として認定しており,参加人も一致点の認定は争わないところである。したがって,審決に「1つの文書に複数の種類の情報フィールドの存在という点の看過」があるという参加人の主張は,採用することができない。
 (f) 以上によれば,審決に参加人主張のような相違点の看過はなく,審決の相違点cの認定にも誤りはないというべきであって,参加人主張の取消事由1は,理由がない。

 2 取消事由2(相違点cについての判断の誤り)について
 (a) 参加人は,前記第3,2(1)のとおり主張するが,基本的に,本願発明と引用発明との相違点の看過ないし認定に関する主張を前提とするものであって,この点については,取消事由1に関して判示したとおりであるから,参加人の主張は,採用することができない。
 (b) 参加人は,上記主張において,引用発明の構成について主張する部分もあるので,この点をふまえつつ,本願発明の進歩性について,検討しておく。
 (b-1) 引用例(甲4)には,次のような記載がある。
 「特許請求の範囲
 1.作成中の文書に図形パターンを含む別画面を重ねて表示し,前記重ねて表示された図形パターンを指示することにより前記作成中の文書に対して特定の処理を実行せしめるように成したことを特徴とする文書作成方式。

 2.前記文書はあて名を空白にしたものであり,前記別画面は組織図であり,前記表示された組織図内の特定の組織名を指示することにより前記文書の空白のあて名欄に指示された組織名を入れる処理を実行せしめるように成したことを特徴とする特許請求の範囲の第1項記載の文書作成方式。
 3.別画面がキーボードを含む電卓の図形パターンであり,該キーボードを指示して計算された計算結果を文書中に移動せしめる処理を実行せしめるようにし成したことを特徴とする特許請求の範囲の第1項記載の文書作成方式。」(1頁左下欄4行〜右下欄1行)
 「今,表示画面57上に第6図(a)に示すように親睦会旅行費用の表(ただし各項目欄の数字は空白のもの)を表示し,その表示画面上に上記したマルチウィンドウ表示技術によってフレームメモリ55の領域67に記憶されされた電卓の図形パターンを左側に重ねて優先的に表示しているものとする。」(4頁左上欄5〜10行)

 「また,他の例として組織表を用いて宛名を入力する場合について説明すると,今,表示画面57上に第6図(b)に示すように宛名を空白にした文書を表示し,その表示画面上に上記したマルチウィンドウ表示技術によってフレームメモリ55の領域66に記憶されている組織表の図形パターンを左側に重ねて優先的に表示しているものとする。」(5頁左上欄8〜14行)
 (b-2) 上記のとおり,引用例(甲4)には,文書である表示画面上に組織図,電卓の図形パターンである別画面を重ねて表示することは記載されているが,別画面を表示するタイミングについては記載はなく,マルチウインドウ表示を指示する手段についても記載がない。そうすると,審決が相違点cとして,「引用発明においては,電卓の図形パターン,組織図(所定のツール)は項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)と共に表示されるものではあるが,項目欄,宛名欄(特定の情報フィールド)を指示すると同時に表示するものであるかどうかは言及されていない」と認定した点に誤りはない。

 (b-3) ところで,審決が周知技術として示した甲5(実願昭58−7989号(実開昭59−115382号)のマイクロフィルム)には,「タッチスイッチ35は,第8〜10行に表示されるが,第5図に示されるすべてのタッチスイッチ35が表示されるのではなく,その画面の別及びカーソル38の位置に応じたタッチスイッチ35のみが表示される。」(9頁14〜19行)との記載がある。
 また,乙8(特開昭61−187024号公報)には,「コンピュータで処理する情報を人手で入力する情報入力装置において,情報入力のあらかじめ定められた様式を表示する第1の画面と入力項目を表示する第2の画面を有し,第1の画面上で第1のカーソルを項目入力エリアにセットすることにより,その項目入力エリアに該当する複数の項目及び第2のカーソルを第2の画面に表示する手段と,第2のカーソルで第2の画面の複数の項目の内の1項目を選択することによりその選択された1項目を第1の画面の項目入力エリアへ転送して入力する手段を備えてなる情報入力装置。」(1頁左下欄)との記載がある。

 これらによれば,第1の画面上の特定の項目をカーソルで指示すると同時に入力用のツールである第2の画面を表示することは,本件出願前,コンピュータ技術分野においては技術常識であったものと認められる。
 (b-4) 以上によれば,引用発明の「文書である表示画面上に組織図,電卓の図形パターンである別画面を重ねて表示すること」に,上記技術常識を採用し,特定の情報フィールドの1つに係わる所定のツール(組織図,電卓の図形パターン)を表示する手段に関し,その所定のツールを特定の情報フィールドを指示する(特定の項目をカーソルで指示する)と同時に表示することは,当業者が容易に想到することができたものといえる。
 (c) 参加人は,前記第3,2(2)のとおり主張する。
 しかし,相違点の看過ないし相違点cの認定の誤りがあることを前提とした参加人の主張が採用し得ないことは,前判示のとおりである。

 また,引用例(甲4)には,引用発明の効果として,「以上のように…文書作成を極めて効率的にしかも確実に行うことが出来,オペレータの手間を大幅に減少させることができる。」(5頁右上欄16行〜左下欄3行)と記載されているほか,上記甲5に「設定作業を簡単化することができる」(12頁4〜5行)との,上記乙8にも,「情報入力作業者の操作性の向上に効果がある。」(3頁右下欄7〜8行)との効果に関する記載がある。そうすると,これらの引用発明の作用効果及び上記技術常識が奏する作用効果から本願発明の作用効果を予測することが可能であって,本願発明の作用効果は,格別なものとは認められない。
 (d) 以上によれば,本願発明の進歩性を否定した審決の判断は,是認し得るものであって,参加人主張の取消事由2は,理由がない。

 3 結論
 以上のとおり,参加人主張の取消事由は理由がないので,参加人の請求は棄却されるべきである。

   東京高等裁判所知的財産第4部

          裁判長裁判官     塚   原   朋   一

             裁判官     田   中   昌   利

             裁判官     佐   藤   達   文