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平成16年(ネ)第962号,同第2177号控訴人(附帯被控訴人) 日亜化学工業株式会社
被控訴人(附帯控訴人) 中村修二
控訴人(附帯被控訴人)日亜化学工業株式会社と被控訴人(附帯控訴人)中村修二との間の東京高等裁判所平成16年(ネ)第962号,同第2177号特許権持分確認等請求控訴,同附帯控訴事件について,平成17年1月11日,裁判所が下記の「和解についての当裁判所の考え」に基づき和解勧告をし,和解が成立しました。和解の内容は,日亜化学工業株式会社は,中村修二氏に対し,同人が同社に在職中になしたすべての職務発明についての特許を受ける権利(日本国特許及び実用新案登録を受ける権利並びにこれらに対応する外国特許を受ける権利を含む。)の承継の相当の対価として金6億0857万円及び遅延損害金2億3534万円を支払うというものです。
裁判所が示した「和解についての当裁判所の考え」は,次のとおりです。
和解についての当裁判所の考え
1 和解勧告の趣旨
被控訴人は,控訴人に在職中の平成2年に,本件特許発明(特許番号2628404号「窒素化合物半導体結晶膜の成長方法」。以下「404特許」という。)をし,その後,幾つかの重要な特許発明(特許番号2540791号「p型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法」(アニーリング法),特許番号2141400号「窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法」(バッファ層低温形成法))及びそのほかの多数の有力な特許発明(ダブルヘテロ構造の発光素子,量子井戸構造の発光素子,透明電極付素子,蛍光体と青色LEDの組合せによる発光ダイオードその他に関する発明)をした(ただし,共同発明も含む。以下同じ。)。控訴人は,これらの職務発明に関する特許を受ける権利(実用新案登録を受ける権利を含む。)を譲り受けて多数の特許等(日本国特許及び登録実用新案合計195件並びにこれに対応する外国特許を含む。)を取得し,また,ノウハウを保持している。
しかしながら,本件訴訟は,404特許に関する特許法35条に基づく相当の対価の請求であり,同特許以外の被控訴人の上記の多数の職務発明に関する相当の対価の請求は,本訴の対象に含まれていない。
当裁判所は,本件訴訟において,404特許の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価について判決をする前に,被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価について,和解による全面的な解決を図ることが,当事者双方にとって極めて重要な意義のあることであると考えるものであり,被控訴人の控訴人に在職中のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価に関する将来の紛争も含めた全面的な解決をするため,和解の勧告をする次第である。
2 特許法35条の「相当の対価」について
特許法35条の「相当の対価」は,「発明により使用者等が受けるべき利益」と「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して算定されるものであるが,その金額は,「発明を奨励し」,「産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的に沿ったものであるべきである。すなわち,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は,従業者等の発明へのインセンティブとなるのに十分なものであるべきであると同時に,企業等が厳しい経済情勢及び国際的な競争の中で,これに打ち勝ち,発展していくことを可能とするものであるべきであり,さまざまなリスクを負担する企業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とは自ずから性質の異なるものと考えるのが相当である。
3 被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の「相当の対価」について
当裁判所は,特許法35条の上記の趣旨に照らし,被控訴人の控訴人に在職中のすべての職務発明により使用者等が受けるべき利益及び使用者等の貢献度を別紙のとおり推認した。被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の「相当の対価」についての和解金は,別紙の合計金額6億0857万円(1万円未満切捨て)を基本として算定されるべきである。
これまでの裁判例等において,職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価が1億円を超えた事例は現在までに2例(@東京高裁日立製作所事件判決:相当の対価1億6516万4300円,ただし,使用者の貢献度8割,共同発明者間における原告の寄与度7割,A東京地裁味の素事件判決:相当の対価1億9935万円,ただし,使用者の貢献度95%,共同発明者間における原告の寄与度5割)があり,この2例が,数多い職務発明の中でも極めて貢献度の高い例外的なものであることは明らかである。被控訴人のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡に対する上記の相当の対価は,この2例の金額をさらに大きく超えるものである。当裁判所も,被控訴人の職務発明の全体としての貢献度の大きさをこれまでに前例のない極めて例外的なものとして高く評価するものであり,同時に,それでもなお,その「相当の対価」は,特許法35条の上記の趣旨及び上記2例の裁判例に照らし,上記金額を基本として算定すべきであると判断するものである。
4 別紙の計算表について
控訴人と同業他社とがクロスライセンス契約を締結した平成14年までの期間については,@控訴人の売上金額の約2分の1を被控訴人のすべての職務発明の特許権等の禁止権及びノウハウによるものとし,被控訴人のすべての職務発明の実施料としては,平成8年までを10%とし,平成9年以降については技術の進歩が著しい分野であることを考慮して7%と算定したうえで,「発明により使用者等が受けるべき利益」を算定したものであり,A「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」については,特許法35条の上記立法趣旨,上記2例の裁判例,及び本件が極めて高額の相当の対価になるとの事情を斟酌し,95%を相当としたものである(当然ながら上記3@の裁判例の使用者の貢献度の判断を否定するものではない。)。
控訴人と同業他社とがクロスライセンス契約を締結した平成14年より後の期間については,複数のライセンシーの予想売上げ合計額と被控訴人のすべての職務発明の仮想実施料率を算定することは,本件訴訟資料によっては極めて困難であることから,平成6年から平成14年までの期間について算定した金額の平均値に対し,被控訴人の職務発明中の重要特許の平均残存期間9年と,調整率7割を積算して算定したものである。なお,控訴人の売上は,平成12年ころから14年にかけて急激に伸びているものであるが,技術の進歩が著しい技術分野であり,代替技術の開発及び実施の可能性も高いことから,上記のように算定したものである。