H17. 3.22 東京高裁 平成16(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件

平成16年(行ケ)第99号 審決取消請求事件(平成17年3月8日口頭弁論終結)
          判           決
      原      告      松下電器産業株式会社
      訴訟代理人弁護士      森崎博之
           同             根本浩
      同             安藤誠悟
      同    弁理士      稲葉良幸
           同             岩橋文雄
      同             大貫敏史
      同             藤井兼太郎

      同             土屋徹雄
      同             深澤拓司
      被      告      特許庁長官 小川洋
      指定代理人         山下弘綱
      同             久保田健
      同             須原宏光
      同             小曳満昭
      同             伊藤三男
          主           文
      特許庁が不服2001−13110号事件について平成16年2月2日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。

          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,平成9年4月10日,名称を「可搬型メディアとネットワークの連携装置と連携方法」とする発明(請求項の数36)につき特許出願(国内優先権主張平成8年4月19日)をしたが,平成13年6月14日に拒絶査定を受けたので,同年7月26日,これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は,同請求を不服2001−13110号事件として審理した上,平成16年2月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。
 2 平成11年10月12日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨

    可搬型メディアを駆動するための第1の電子計算機と,
   前記可搬型メディアの内容に関連するメディア関連情報と前記可搬型メディアの内容の表示・出力の方法とを提供する第2の電子計算機とから少なくとも構成され,
   前記第1と第2の電子計算機は,ネットワーク等を経由してそれぞれ通信することが可能であり,
   前記可搬型メディアは,
  当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含むメディア活用情報を,当該メディアの本来の記憶領域とは異なる専用の箇所に電子的に記録している媒体であり,
   前記第1の電子計算機は,
  前記可搬型メディアを駆動するメディア駆動手段と,情報を表示・出力する情報表示・出力手段と,ネットワークに対する入出力を行なう第1の情報送受信手段とを備え,

   前記第2の電子計算機は,
  ネットワークに対する入出力を行なう第2の情報送受信手段と,
  前記第1の電子計算機上での前記メディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を前記メディア識別情報をもとに生成する対象・方法情報生成手段とを備え,
   前記情報表示・出力手段が,前記対象・方法情報に規定された方法に従って前記可搬型メディア内のデータを表示・出力することを特徴とする,可搬型メディアとネットワークの連携装置。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平5−298338号公報(甲4,以下「引用例1」という。),特開平8−37508号公報(甲5,以下「引用例2」という。)に記載された各発明(以下,それぞれ「引用例1発明」,「引用例2発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

   なお,審決は,本願発明と引用例1発明とを対比し,両者は,「可搬型メディアを駆動するための第1の電子計算機と,第2の電子計算機とから少なくとも構成され,前記第1と第2の電子計算機は,ネットワーク等を経由してそれぞれ通信することが可能であり,前記可搬型メディアには,当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報が付され,前記第1の電子計算機は,前記可搬型メディアを駆動するメディア駆動手段と,情報を表示・出力する情報表示・出力手段と,ネットワークに対する入出力を行なう第1の情報送受信手段とを備え,前記第2の電子計算機は,ネットワークに対する入出力を行なう第2の情報送受信手段とを有する可搬型メディアとネットワークの連携装置」(審決謄本8頁最終段落〜9頁第1段落)の点で一致すると認定した上,相違点として,@「本願発明では,第2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算機上でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)には対象・方法情報生成手段は記載されていない点。また,本願発明では,第2電子計算機は,可搬型メディアの内容に関連するメディア関連情報を提供しているが,引用例1に記載の発明にはこの点は記載されていない」(同9頁第2〜第3段落,以下「相違点1」という。),A「本願発明では,メディア活用情報は当該メディアに電子的に記録されているが,引用例1に記載の発明では発行元会社コード,発行年月日情報,顧客管理番号等のIDコードはCD−ROMに付されていると記載されているのみであり,電子的に記録させているかどうかは不明な点」(同頁第4段落),及びB「本願発明では,メディア活用情報は当該メディアの本来の記憶領域とは異なる専用の箇所に記録させているが,引用例1に記載の発明ではこの構成は記載されていない点」(同頁第5段落)を認定している。
第3 原告主張の審決取消事由

   審決は,本願発明と引用例1発明との一致点の認定を誤るとともに相違点を看過し(取消事由1),相違点の判断を誤り(取消事由2),その結果,本願発明を容易想到とする誤った判断に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)
 (1) 「メディア識別情報」
    審決は,本願発明と引用例1発明との一致点の認定において,「引用例1に記載された発明のCD−ROMに付される『IDコード』は当該CD−ROMの識別機能を有する情報も含むものであるから本願発明の『メディア活用情報』に相当する」(審決謄本8頁「4.対比」の第1段落)とした上,両者は,「前記可搬型メディアには,当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報が付され」ている点で一致すると認定(同頁最終段落)しているが,誤りである。すなわち,引用例1発明において,可搬型メディア(CD−ROM)に付されたIDコードは,「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」ではなく,この点は相違点と認定されるべきものである。

   ア 本願発明の「メディア識別情報」
         本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,以下に述べるとおり,メディア1枚1枚を区別するものである。
    (ア) 本件明細書(甲2)には,「【発明の属する技術分野】本発明は,・・・ネットワーク上のアプリケーションからの指示によりメディア1枚毎の利用方法を変化させたりといった,可搬型メディアとネットワークを連携させたサービスの提供法に関する」(段落【0001】),「702はタイトル情報701に応じて設定されるDVD1枚ごとの通し番号である発行番号情報」(段落【0048】),「【発明の効果】以上述べたように,大量に作成され,配布される可搬型のメディア1枚1枚に対して,当該メディアにそれぞれ固有なメディア活用情報を設け,その一部を利用者のネットワークアプリケーション利用履歴管理に転用することで,メディアの配布後に利用者番号をあらためて設ける手間をかけずに,個別の利用者それぞれに対するサービスの内容を向上させることができる,という効果を奏する」(段落【0177】)と記載されており,これらの記載から,本願発明における「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,メディア1枚1枚を区別するものであることが明らかである。

    (イ) なお,本願発明は,本件明細書に実施の形態1〜5として開示されたもののうち,実施の形態2及び3に係るものであり,実施の形態1に係るものは本願発明ではないから,実施の形態1を説明する記載(例えば,段落【0029】)は,本願発明における「メディア識別情報」の解釈を左右するものではない。
      また,本件明細書の請求項15は,「メディア識別情報が,その可搬型メディアのタイトルや発行者,発行年,内容などを一意に特定できるタイトル情報と,そのタイトル情報ごとに付与される発行番号情報とからなることを特徴とする,請求項1又は2に記載の可搬型メディアとネットワークの連携装置」を発明としているが,請求項15の「発行番号情報」は,「203はメディア識別情報201のうちタイトル情報202ごとに付与できる発行番号情報」(段落【0023】)と記載されているように,メディア識別情報を構成する情報を特定するものであるから,本願発明に係る請求項1の「メディア識別情報」がメディア1枚1枚を区別するものであることと矛盾するものではない。

   イ 引用例1発明の「IDコード」
     引用例1(甲4)には,「CD−ROM及び利用するユーザーを識別するためのIDコード」の一例として,発行会社コード,発行年月日情報,顧客管理番号が記載されている(段落【0020】,図5(b))が,これらは複数のCD−ROMに共通に付され得る情報であるから,CD−ROM1枚1枚を区別すること,すなわち,「当該メディアと他のメディアとを区別」することはできない。したがって,引用例1に記載されるIDコードは,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」を含んでおらず,それゆえ,本願発明の「メディア活用情報」には当たらない。
      また,引用例1には,IDコードの利用の仕方として,「IDコードの確認」(段落【0023】),「自社の発行したCD−ROM情報であるかどうかを判定する」こと及び「ユーザーを特定する」こと(段落【0024】)は記載されているが,IDコードを用いてCD−ROM1枚1枚を識別すること,すなわち,IDコードを用いて「当該メディアと他のメディアとを区別する」ことについては,記載も示唆もない。したがって,引用例1のIDコードの利用の仕方に基づいて技術的思想を判断しても,引用例1のIDコードは,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含むメディア活用情報」を含んでおらず,本願発明の「メディア活用情報」には相当しない。

   ウ 以上のとおり,本願発明と引用例1発明とは,本願発明においては可搬型メディアに「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含むメディア活用情報」が付されているのに対し,引用例1発明においては可搬型メディアにIDコードが付されているが,このIDコードは当該メディアと他のメディアとを区別するものではない点で,相違している(以下「相違点A」という。)。審決は,相違点Aを看過している。
 (2) 情報表示・出力手段
    本願発明は,第2電子計算機において対象・方法情報生成手段がメディア識別情報をもとに対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,第1電子計算機に設けられた情報表示・出力手段が可搬型メディア内のデータを表示・出力するが,引用例1には,そのような手段は記載されておらず,この点で,本願発明と引用例1発明は相違する(以下「相違点B」という。)。審決は,相違点Bを看過している。

  (3) 以上のとおり,審決は,一致点を誤認し,相違点A及びBを看過した誤りがあり,相違点A,Bを含めて検討したならば,本願発明は引用例1及び2から容易に想到し得ないとの結論に達したはずであるから,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
 (1) 審決は,本願発明と引用例1発明との相違点1,すなわち,「本願発明では,第2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算機上でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)には対象・方法情報生成手段は記載されていない点。また,本願発明では,第2電子計算機は,可搬型メディアの内容に関連するメディア関連情報を提供しているが,引用例1に記載の発明にはこの点は記載されていない」(審決謄本9頁第2〜第3段落)について,「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載されており,また,引用例1には当該CD−ROMを特定する情報(IDコード)によりアクセス情報を得ることも記載されているのであるから,引用例1に記載の発明においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD−ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられること」(同頁最終段落〜10頁第1段落)であると判断した。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りである。
  (2) 引用例2
    引用例2(甲5)には,引用例2発明に係る情報提供システムの実施例として,段落【0021】〜【0043】に記載される態様(以下「第1実施例」という。)と,段落【0044】〜【0058】に記載される態様(以下「第2実施例」とい。)の二つが開示されている。このうち,審決にいう「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変える」という態様を開示しているのは,第2実施例のみである。
    しかしながら,第2実施例は,複数の利用者に対して,情報提供者システム1の情報記憶装置51内の情報を提供するものであり,第2実施例における「アクセス頻度」は,複数の利用者からのアクセスを集計して得られる頻度情報である。複数の利用者からのアクセスを集計して得られる「アクセス頻度」(頻度情報)は,当然,それら複数の利用者に共通の値となるから,各利用者が個々に保有する可搬型メディアを他の可搬型メディアから区別する情報とはなり得ない。

    このように,引用例2には,当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報という概念がそもそも開示されていないのであり,当然,情報提供者システム1(ホストコンピュータ)の対象・方法情報生成手段において,当該メディアのメディア識別情報に基づいて当該メディアに対応した表示の仕方を規定する対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報により,当該メディアに特有の形態で情報の提供を行うという構成も開示されていない。
    また,引用例2は,利用者端末装置2の表示装置65に表示される「目次情報」について,情報提供者システム1の情報記憶装置51内の情報に対するアクセス頻度(頻度情報)等に基づいて表示パラメータを算出することを記載しているにすぎず,アクセス対象の情報(マルチメディアショッピング情報そのもの)について,表示対象・方法を変更するものではない。

  (3) 引用例1と引用例2の組合せの困難性
   ア 上記(2)のとおり,引用例1発明における「IDコード」と,引用例2における情報提供者システム1の記憶装置51内の情報に対するアクセスの回数(頻度)を示す「アクセス頻度情報」とは,全く性質の異なる情報である。
     また,引用例1発明においては,アクセス対象となる商品データは,ユーザ側端末のCD−ROM内に存在しているのに対し,引用例2の第2実施例においては,アクセス対象となるショッピング情報は,情報提供者システム1の情報記憶装置51内に存在しており,その情報へのアクセス頻度(頻度情報)等に基づいて,目次情報の表示パラメータを算出するものである。
     以上のように,引用例1と引用例2との間には,「IDコード」と「アクセス頻度」という,情報自体の違いがあることに加えて,両者はアクセス対象となる情報がユーザ側端末にあるのか,情報提供者システム(ホストコンピュータ)側にあるのかという点で,情報の所在場所が全く異なるから,引用例1発明において引用例2の手段を採用することは,当業者が容易に想到し得ることではない。

   イ さらに,引用例1には,アクセス対象の情報について,その表示内容を変える点については一切記載がなく,また,引用例2においても,表示内容を変えているのは,目次情報であって,アクセス対象の情報(マルチメディアショッピング情報そのもの)ではないから,引用例1と引用例2をどのように組み合わせても,相違点1に係る本願発明の構成には想到し得ない。  
     この点について,審決は,「情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載され」(審決謄本9頁最終段落)ているとし,これを根拠に,相違点1に係る本願発明の構成は容易に想到し得る旨判断しているが,これは,引用例1と引用例2の上記のような相違点を考慮することなく,引用例2に開示された構成を抽象化して引用例1に採用しようとするものであって,不当な認定である。

   ウ また,審決は,相違点1について,「引用例1には当該CD−ROMを特定する情報(IDコード)によりアクセス情報を得ることも記載されているのであるから,・・・それ(注,得たアクセス情報)によって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられる」(同頁最終段落〜10頁第1段落)と判断しているが,引用例1において「アクセス情報を得る」とは,自社で販売されたCD−ROMであるかが判断できるような「IDコード」,すなわち,メディア1枚1枚を区別することができないような情報を取得することにすぎないから,そのようなメディア1枚1枚を区別することができない情報である「IDコード」をどのように利用しても,IDコードによって可搬型メディアごとに可搬型メディア内のデータの表示内容を変えることは不可能である。
第4 被告の反論
   審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
 (1) 「メディア識別情報」について
   ア  本願発明の「メディア識別情報」
     本願発明が実施の形態1をも含む発明であることは,本件明細書の記載に照らして自明のことである。また,本件明細書(甲2)は,実施の形態1〜3のそれぞれの効果に関して,同じように,「個々のメディア(・・・)を識別することのできる識別情報・・・に基づいて」(段落【0044】,【0082】,【0120】)と記載しているから,実施の形態1に係る「メディア識別情報」と,実施の形態2,3における「メディア識別情報」とが区別されているわけでもない。
     以上のとおり,本願発明は,実施の形態1も含むものであるから,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,実施の形態1に係るメディア識別情報が意味する,「同じタイトル情報(同じ内容)を有するメディアを他のタイトル情報(他の内容)を有するメディアと区別する」情報も含んでいるものである。

   イ 引用例1発明の「IDコード」
     引用例1(甲4)のCD−ROMのIDコードは,「CD−ROM及び利用するユーザを識別するためのもの」(段落【0020】)であるから,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別するメディア識別情報」に相当することは明らかである。引用例1のCD−ROMのIDコードの一例として,発行会社コード,発行年月日情報,顧客情報(顧客管理番号)等が示されている。ここで,「CD−ROMを識別」するためのIDコードとは,当該CD−ROMを他のCD−ROMから区別する能力があるものであり,その識別の形態は,1枚1枚を区別する場合のものと,同じ内容のCD−ROMを他の内容のCD−ROMから区別する場合のもののいずれもが含まれる。また,顧客管理番号は,各顧客によって異なるものであるから,これをCD−ROMを識別する情報として利用すれば,CD−ROM1枚1枚を区別する情報ともなるものである。

   ウ したがって,審決が「メディア識別情報」を一致点として認定したことに誤りはなく,相違点Aの看過がある旨の原告の主張は,失当である。
 (2) 情報表示・出力手段について
    審決は,引用例1の「表示部」が本願発明の「情報表示・出力手段」に相当することは一致点として認定している。また,本願発明においては,第2電子計算機において対象・方法情報生成手段がメディア識別情報をもとに対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,第1電子計算機に設けられた情報表示・出力手段が可搬型メディア内のデータを表示・出力しているが,引用例1にそのような手段が記載されていないという原告主張の相違点Bは,審決が認定した相違点1に包含される。したがって,審決に原告主張の相違点の看過はない。 

 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
 (1) 本願発明について
    本願発明には,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メディアの利用の履歴情報とを用いて対象・方法情報を生成すること」も含まれる。すなわち,本願発明(請求項1)を引用する本件明細書の特許請求の範囲の請求項5には,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メディアの利用の履歴情報とを用いて対象・方法情報を生成する」と記載されているから,請求項5の上位概念の発明である本願発明には,当然,「可搬型メディアのメディア識別情報と可搬型メディアの利用の履歴情報とを用いて対象・方法情報を生成する」ことも含まれている。
 (2) 引用例2について
      引用例2(甲5)には,アクセス頻度に応じて表示内容を変化させることが記載されているが,この場合,利用者からの所望の情報に対する要求信号が必要である(段落【0053】参照)。そして,所望の情報に対する要求信号に所望の情報を特定する情報が含まれることは自明である。したがって,引用例2は,アクセス頻度と所望の情報を特定する情報とを用いて表示内容を変更しているものであり,この点は,本願発明が可搬型メディアの利用の履歴情報と可搬型メディアのメディア識別情報とを用いて対象・方法情報を生成することに相当する。なお,引用例2の場合は,アクセス頻度は複数の利用者のアクセスに基づくものであるが,この点は,本願発明の概念に含まれるものである。

  (3) 引用例1,2の組合せの容易性について 
    上記(2)のとおり,引用例2は,アクセス頻度と所望の情報を特定する情報とを用いて表示内容を変更することを開示しており,この点は,本願発明が可搬型メディアの利用の履歴情報と可搬型メディアのメディア識別情報とを用いて対象・方法情報を生成することに相当するものである。そして,この場合の所望の情報を特定する情報は,引用例1のように情報源がCD−ROMの場合にはCD−ROMを特定する情報(引用例1の場合にはCD−ROMのIDコード)に相当するものである。
    引用例2の第1実施例について段落【0033】に記載されているとおり,CD−ROMを用いる場合も,衛星から情報を得る場合も,利用者端末装置2にCD−ROMをセットした以降と,利用者端末装置2の情報記憶装置51に情報提供者システムからの情報を記憶した以降は,同じ動作であり,それゆえ,引用例2に記載の手段を,CD−ROMを用いた場合と衛星から情報を得る場合の相互に適用することに格別の困難性はなく,相互に適用するのは当然のことである。

    そして,引用例2の第2実施例に記載された手段を,CD−ROMを利用したカタログショッピングである引用例1発明に応用することには,格別な阻害要因がなく,それゆえ,引用例2の第2実施例に記載された手段を引用例1発明に応用することは,当業者が容易に想到し得るものである。
    原告は,引用例2では,アクセス頻度情報に基づいて目次情報が変わっているにすぎないと指摘するが,目次情報もアクセス対象の情報の一部であることに変わりはない。審決は,引用例1発明において,引用例2に記載された手段を採用することの容易性を判断しているのであるから,引用例1発明がアクセス対象の情報の表示対象の内容を変えるか否かは,判断に影響しない。したがって,引用例1発明に引用例2記載の手段を採用し,アクセス対象の情報の表示内容を変える構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 

第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
  (1) 「メディア識別情報」について
    原告は,本願発明の「メディア識別情報」は,メディアの1枚1枚を識別することのできる情報であるのに対し,引用例1に開示された「IDコード」は,複数のCD−ROMに共通に付され得る情報であって,メディアの1枚1枚を識別するものではないから,審決が「メディア識別情報」を本願発明と引用例1発明の一致点として認定した点は,誤りである旨主張する。
   ア そこで,まず,本件明細書を検討する。
    (ア) 本願発明の特許請求の範囲の記載は上記第2の2のとおりであり,その記載中の,「前記可搬型メディアは,当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報をその一部に含むメディア活用情報を,・・・電子的に記録している媒体であり,前記第1の電子計算機は,前記可搬型メディアを駆動するメディア駆動手段と,・・・を備え,前記第2の電子計算機は,・・・前記第1の電子計算機上での前記メディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を前記メディア識別情報をもとに生成する対象・方法情報生成手段とを備え」との文言によれば,「他のメディア」から区別されるべき「当該メディア」と,第1の電子計算機上で駆動され,その表示出力用のデータを出力している「前記メディア」とは,同じものを指しており,「区別」は,電子計算機上での表示出力用のデータを出力しているメディア(「前記メディア」)と「他のメディア」との間で行われるのものであることが文理上明らかである。そうすると,「当該メディアと他のメディアを区別」するとは,特定の1枚のメディアを他のメディアから区別すること,すなわち,メディアの1枚1枚を区別することであると解するのが,特許請求の範囲の自然な解釈というべきである。
    (イ) 上記(ア)の解釈は,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の検討によっても裏付けられる。すなわち,本件明細書(甲2)には,【発明が解決しようとする課題】として,「従来の技術においては,CD−ROMはすべての利用者に対して同じものが配布されるために,利用者の過去の利用履歴をアプリケーションの動作に対して反映させるためには,サービス提供側でCD−ROMの配布後にあらためて利用者に番号付けを行ない,管理を行なう必要があり,利用者は・・・自身の利用者番号をアプリケーションに伝える必要がある」(段落【0005】)との指摘がされ,「本発明の目的は,可搬型メディアと利用者との対応関係を管理するための情報を,事前に可搬型メディアに設定するメディア活用情報で代用できるようにすることで,・・・利用者に特別の作業を強いることなく利用者ごとのカスタマイズが自動的に行なわれるようなサービスを提供することである」(段落【0007】)と記載されている。そして,本件明細書には,実施の形態1〜5として,五つの実施の形態が開示され(段落【0025】〜【0176】),【発明の効果】として,「大量に作成され,配布される可搬型のメディア1枚1枚に対して,当該メディアにそれぞれ固有なメディア活用情報を設け,その一部を利用者のネットワークアプリケーション利用履歴管理に転用することで,メディアの配布後に利用者番号をあらためて設ける手間をかけずに,個別の利用者それぞれに対するサービスの内容を向上させることができる,という効果を奏する」(段落【0177】)と記載されており,これらの記載に照らすと,本願発明における「メディア識別情報」とは,可搬型メディアそれぞれの利用者を識別することを可能にする情報,すなわち,メディアの1枚1枚を識別することのできる識別情報を意味するものと解される。
   (ウ) これに対し,被告は,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」は,メディアの1枚1枚を識別することのできる情報に限られるものではなく,「同じタイトル情報(同じ内容)を有するメディアを他のタイトル情報(他の内容)を有するメディアと区別する」情報も含むと主張する。確かに,本件明細書には,実施の形態1(DVDを可搬型メディアとするレストランガイドシステム)に関して,「401はメディア活用情報400のうちこのDVDのタイトルや発行年,内容などを一意に特定可能な,書籍で使われているISBN番号に相当するDVD識別情報であり」(段落【0029】),「DVD識別情報401を受信し,その識別情報をもとに・・・タイトル情報や出版年度などを得」(段落【0035】),「受信されたDVD識別情報401から得られるタイトル情報とその出版年度をもとに,・・・現在処理対象中のタイトルが古い版のものか新しい版のものかを調べる」(【0037】)などとして,DVD識別情報がDVDのタイトル,発行年,内容などを識別する,書籍でいえばISBN番号に相当するものであることを示す記載がある。しかしながら,これらの記載をDVD識別情報がタイトル,発行年,内容等を識別すれば足りるという趣旨に理解すべき理由はなく,むしろ,上記(イ)に摘示した発明の課題及び効果の記載に照らすと,実施の形態1においても,DVD1枚ごとの識別が行われることは,当然の前提として含まれていると解されるものである。したがって,実施の形態1が本願発明に含まれるか否かにかかわらず,本願発明の「メディア識別情報」は,メディアの1枚1枚を識別することのできる情報と解するのが相当であり,この点に関する被告の主張は採用することができない。
   イ 次に,引用例1発明の「IDコード」について検討する。
     引用例1(甲4)は,CD−ROM等の電子出版媒体をカタログとして利用するカタログショッピングシステム(段落【0001】)に係る発明の公開公報であり,その発明の詳細な説明には,販売店側のホストコンピュータ,利用者端末,CD−ROM等からなるカタログショッピングシステムが説明されるとともに,「図5(B)は,CD−ROM及び利用するユーザを識別するためのIDコードの一例である。IDコードには,発行会社コード,発行年月日情報,顧客情報等がある」(段落【0020】),「図6はユーザ側端末のカタログショッピング手順を示すフローチャートの例である。販売会社は,前もって商品のカタログをCD−ROMに記憶させ,各利用者にダイレクトメールで送付する。この場合,各CD−ROMには図5(B)に示したようなIDコードが付されている。・・・発注動作をスタートさせると,CD−ROM装置112から制御部100のデータ記憶部に目次データが読み取られ,これが処理されてテレビジョンモニタ140に表示される(ステップS61〜S63)。ユーザは,目次を見ながら見たい項目の番号を入力部111のテンキーを操作して入力する(ステップS64)。すると端末は,選択された項目に登録されている商品データをCD−ROMより読み込みそのデータをテレビジョンモニタ140に表示する(ステップS65)。ユーザは商品群の中から購入を希望する商品を入力部111から入力する(ステップS66)。選択された商品群の詳細データがテレビジョンモニタ140に表示される(ステップS67)。・・・購入を希望する場合には,販売店への電話連絡が取られる。この連絡は,例えば,CD−ROMの固有データを用いて自動的に回線接続が行われる。回線がつながると,購入を希望する商品の商品コードとユーザのIDコード(図5(B))が販売店のホストコンピュータ側へ伝送される。さらにクレジットカードのデータが読み込まれ販売店のホストコンピュータ側へ伝送される(ステップS71,S72)。・・・ホストコンピュータ側では,IDコードの確認,クレジットカードの照合を行い,販売手続きが成立可能であるかどうかを判定する」(段落【0021】〜【0023】),「図7は,販売店側のホストコンピュータによる処理手続きの例である。ユーザ側の端末と電話回線がつながると,IDコードの読み取りが行われる(S80)。このIDコードから販売店は,自社が発行したCD−ROM情報であるかどうかを判定できる(S82,S83)。・・・次に伝送されてきた顧客管理番号と自社の所有する管理番号との照合を行い,ユーザを特定する(S84)」(段落【0024】)として,CD−ROMに付されたIDコードに含まれる顧客管理番号によって,販売店側のホストコンピュータにおいてユーザを特定すること等が記載されている。
     上記顧客管理番号は,CD−ROMを送付する各ユーザごとに付す番号であると考られるから,CD−ROMの1枚1枚に対応しており,顧客管理番号によってユーザを特定することは,すなわち,「CD−ROMを識別」することにほかならない。したがって,引用例1における「CD−ROM及び利用するユーザを識別するためのIDコード」(段落【0020】)は,本願発明の「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」に相当するものというべきである。

   ウ 以上によれば,本願発明と引用例1発明とは,ともに,「当該メディアと他のメディアとを区別できるメディア識別情報」の構成を有するものであるから,この点を一致点として認定した審決に誤りはなく,原告主張の相違点Aの看過もない。
 (2)  情報表示・出力手段について
    原告は,引用例1には,第2電子計算機において対象・方法情報生成手段がメディア識別情報をもとに対象・方法情報を生成し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,第1電子計算機に設けられた情報表示・出力手段が可搬型メディア内のデータを表示・出力すること(原告主張の相違点Bに係る構成)は記載されていないから,この点について,審決は一致点の認定を誤り,相違点を看過したと主張する。                
    しかしながら,引用例1の「表示部」が本願発明の「情報表示・出力手段」に相当するとした審決の認定(審決謄本8頁「4.対比」の項の第1段落)については当事者間に争いがなく,原告主張の相違点Bについては,審決においても,「本願発明では,第2電子計算機に,メディア識別情報をもとに第1電子計算機上でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する対象・方法情報を生成する対象・方法情報生成手段とを設けているが,引用例1に記載の発明には対象・方法情報生成手段は記載されていない点」(同9頁第2段落)を相違点1として認定することによって,実質的に相違点として評価していると認められるから,審決における一致点の認定に誤りはなく,原告主張の相違点Bの看過があるとはいえない。

 (3) 以上のとおり,本願発明と引用例1発明の対比において,審決がした一致点及び相違点1の認定に誤りがあるということはできないから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
 (1) 原告は,引用例1発明に引用例2を組み合わせることは当業者が容易に想到し得ないことであり,仮に,両者を組み合わせても,相違点1に係る本願発明の構成には至らないとして,審決における「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載されており,また,引用例1には当該CD−ROMを特定する情報(IDコード)によりアクセス情報を得ることも記載されているのであるから,引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD−ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられる」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第1段落)との判断は,誤りであると主張する。

 (2) そこで,まず,引用例2(甲5)の記載内容について検討する。
   ア 引用例2は,映像や音楽さらにビデオショッピング等の情報を提供する情報提供システムの発明(段落【0001】)に係るものであり,発明の課題として,@従来の情報提供システムは,情報の提供を電話回線を使ったデータベースシステムやパソコン通信システムで実現する場合,アクセス時間が長いため回線の使用効率が悪いこと,A放送やCD−ROMを利用した情報提供システムの場合,所望の情報毎のアクセス状況を示すアクセス履歴等のアクセス管理情報を情報提供者が得ることは現実的に不可能である等の問題があることを指摘し(段落【0005】,【0006】),発明の目的を,「情報提供者が利用者に提供した情報毎のアクセス状況を示すアクセス管理情報を効率よく得ることができる情報提供システムを提供すること」(段落【0007】)とするものである。

     そして,引用例2は,上記の目的を達成する情報提供システムとして,第1実施例(段落【0021】〜【0043】)及び第2実施例(段落【0044】〜【0058】)の二つを開示している。
    イ 第1実施例は,利用者が,利用者端末装置2にセットしたCD−ROM内の情報にアクセスし,これを読み出すこと(又は衛星から情報を受信すること)によって,情報を得る態様のものであって,おおむね次のようなステップからなるものである(以下の記述は,CD−ROMを利用する場合についてのものであるが,衛星から情報を受信する場合も,受信した情報を情報記憶装置34に記憶した以後の手順は同じである。)。
     @利用者がショッピング情報等を記録したCD−ROMを利用者端末装置2にセットすると,利用者端末装置2のCPU36は,CD−ROMに記録されているすべての内容を管理している情報管理情報(ディレクトリ)を情報記憶装置34に複写する(段落【0030】),A利用者が所望の情報のアクセスを指示すると,CPU36はディレクトリを読み出し,検索を行い,さらに,情報記憶装置34に記憶されているアクセス状況を示すアクセス履歴情報としてのアクセス管理情報に含まれる所望の情報の情報識別IDを読み出す(段落【0031】,B読み出された情報識別IDは,アクセスした日時とともにアクセス管理情報に加えられ,情報記憶装置34に記憶されているアクセス管理情報が更新され,所望の情報のアクセスが行われ,終了すると,アクセス情報の送出処理がされるとともに,所望の情報が表示装置33に表示される(段落【0032】),C利用者端末装置2から情報提供者システム1へのアクセス管理情報の送出以後の手順は,(a)利用者IDを利用者端末装置2のROM38から読み出し(段落【0035】),送出する(段落【0036】),(b)情報提供者側のCPU13は,受信した利用者IDに基づいて情報記憶装置12に記憶されている利用者管理情報を検索し,利用者IDが正規の利用者のものであった場合には,アクセス管理情報を利用者端末装置2から送出するように指示する(段落【0037】,【0038】,(c)CPU13は,利用者端末装置2から受信したアクセス管理情報を情報記憶装置12の所定位置に記憶し,その後,利用者端末装置2のアクセス管理情報を初期化させる初期化指示信号を利用者端末装置2に対して送出する(段落【0040】),(d)利用者端末装置2に記憶されているアクセス管理情報がクリアされると,通信回線が切断される(段落【0041】),というものである。情報提供者は,情報提供者システム1の情報記憶装置12に記憶されているアクセス管理情報に基づいて,利用者ごとに各情報の課金を行う(段落【0042】)。

   ウ 第2実施例は,利用者が情報提供者システム1内の情報にアクセスすることによって,所望の情報を得るという態様のものであって,おおむね次のようなステップからなるものである(以下「 」内は原文の引用,他は要旨である。)。
     @利用者が利用者端末装置2の操作装置35を操作して情報提供者システム1を呼び出すと,情報提供者システム1のCPU53が,利用者から送られる認証に必要なパラメータに基づき,認証を行う(段落【0052】),ACPU61は,利用者の操作によって所望の情報を要求する要求信号を通信回線を介して情報提供者システム1に送信する(ステップ303)。信号を受信したCPU53(注,情報提供者側)は,該当する情報を情報記憶装置51から検索し(ステップ405),RAM54に複写する(段落【0053】),B「CPU53は現在同じ情報をアクセスしている利用者数を検索する(ステップ405)。さらにCPU53はステップ405にて検索した情報に含まれるアクセス頻度1及び2を読み出す(ステップ406)。読み出されたアクセス頻度1及び2は各々1が加算されて(ステップ407)情報記録装置51の所定の位置に記憶される(ステップ408)。そして,CPU53は利用者の所望の情報とアクセス頻度や目次情報,情報量等の情報としてのアクセス管理情報を前述のフォーマットにしたがって利用者端末装置2に通信回線を介して送信する(ステップ409)」(【0054】),C「初期画面として利用者端末装置2の表示装置65に表示されている情報はジャンル別(種別)に分類された目次情報である。この表示されている情報は,情報提供者システム1から送られた目次情報と頻度情報に基づいて表示パラメータの算出をCPU61が行うことによって得られる。表示パラメータの算出は例えば円柱でこれらを表現する場合,以下の式が適用される。・・・CPU61で計算された円柱パラメータは表示回路64に送られ,2次元又は3次元表示として表示装置65で表示される。図13はその表示例である。ここでは,・・・ジャンル別に例えば横方向に情報量,縦方向にアクセス頻度を表している。このようにして,利用者は比較的簡単にアクセス管理情報を得ることができる」(段落【0055】〜【0057】),D「このように表示はジャンル別に分類され行われるが,これらの分類はさらに階層構造をもち,階層ごとに表示パラメータがCPU61によって算出され表示可能に処理される。」(段落【0058】)。

   エ 以上によれば,引用例2の第1実施例は,CD−ROMの読み取り(又は衛星からの受信)によって利用者端末装置2の情報記憶装置34に記憶された情報が,アクセスの対象となり,利用者端末装置2において情報へのアクセス履歴を管理し,情報提供者システム1に送るというものである。そして,審決が指摘する,「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えること」は,第1実施例には示されていない。
     他方,引用例2の第2実施例は,情報提供者システム1の情報記憶装置51に記憶された情報がアクセスの対象となり,情報提供者システム1において情報へのアクセス頻度を管理し,利用者端末装置2に送るというものである。そして,第2実施例には,情報提供者システム1のCPU53が,「利用者の所望の情報とアクセス頻度や目次情報,情報量等の情報としてのアクセス管理情報を前述のフォーマットにしたがって利用者端末装置2に通信回線を介して送信する(ステップ409)」こと(上記ウB),利用者端末装置2において初期画面として表示されているジャンル別(種別)に分類された目次情報が,「情報提供者システム1から送られた目次情報と頻度情報に基づいて表示パラメータの算出をCPU61が行うことによって得られる」こと(同C)が記載されている。

     審決は,引用例2について,「カタログショッピングにおいて,情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変えることは引用例2に記載されており」(審決謄本9頁最終段落)と認定し,この認定を前提に,「引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD−ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられること」(同10頁第1段落)であるとしているところ,以上の検討によれば,引用例2について審決が指摘する「情報に対するアクセス頻度によって表示情報の内容を変える」という事項は,第2実施例にのみ,開示されている事項である。そして,第2実施例における「アクセス頻度」とは,「CPU53は現在同じ情報をアクセスしている利用者数を検索する(ステップ405)。さらにCPU53はステップ405にて検索した情報に含まれるアクセス頻度1及び2を読み出す(ステップ406)。読み出されたアクセス頻度1及び2は各々1が加算されて(ステップ407)情報記録装置51の所定の位置に記憶される(ステップ408)」(上記ウB)と記載されるように,情報提供者側システム1の情報記憶装置51に記憶されている特定の情報に対してどれだけの数のアクセスがされたかを示す情報であるから,各利用者が保有する可搬型メディアを他のメディアから区別する情報である「メディア識別情報」とは,全く異なるものである。
     結局,引用例2には,情報提供者システム1側に設けた「対象・方法情報生成手段」において,「メディア識別情報をもとに」,メディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する「対象・方法情報」を生成し,この対象・方法情報に規定された方法に従って,可搬型メディア内のデータを表示・出力するようにすることは,記載も示唆もされていないといわざるを得ない。
     そうである以上,引用例1発明に,引用例2に記載された事項を組み合わせても,相違点1に係る本願発明の構成を得ることはできない。

 (3) ところで,審決における「引用例1に記載の発明(注,引用例1発明)においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD−ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられることと認められる」(審決謄本10頁第1段落)との説示は,引用例2の第2実施例において,情報提供者システム1の側から送信される情報によって利用者端末装置2の表示内容(具体的には初期画面として表示されている目次情報)を変えている点を「引用例2に記載の手段」としてとらえた上で,そのような表示内容の変更を,アクセス頻度情報ではなく,CD−ROMを特定する情報に基づいて得られる「アクセス情報」(利用の履歴情報)に従って行うことが容易想到であるとの趣旨を述べたものとも解される。そこで,この観点から本願発明の容易想到性を肯定し得るか否かを,以下,引用例に基づいて検討する。
   ア まず,引用例1発明は,CD−ROMを利用したカタログショッピングシステムであり,本願発明と同様に,ユーザ側端末においてCD−ROMから情報が読み出され,表示されるものである。そして,CD−ROMに付されたIDコードが,本願発明の「メディア識別情報」に相当する情報を含むものと認められることは上記1(1)のとおりである。しかしながら,引用例1には,ホストコンピュータ(情報提供者側の電子計算機)において,IDコードに含まれる情報に基づいてユーザ側端末でのメディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する「対象・方法情報」を生成すること,及びこの「対象・方法情報」の規定するところに従ってメディア内のデータがユーザ側端末で表示されるようにすることについては,記載も示唆もない。
     次に,引用例2に開示された二つの実施例のうち,第1実施例は,CD−ROMを利用するもので,利用者端末装置2において表示される情報は,本願発明と同様に,CD−ROMから読み出された情報であるが,情報提供者側で生成された情報(対象・方法情報)の規定するところに従ってメディア内のデータが利用者端末装置2で表示されるようにすることについて,記載も示唆もないことは,上記2(2)のとおりである。
     さらに,引用例2の第2実施例は,CD−ROMを利用しない態様であって,利用者のアクセス対象となるショッピング情報は,情報提供者システム1内に存在しており,利用者からの要求があるとショッピング情報が利用者端末装置2に送信されるというものであるから,第2実施例においては,CD−ROM等の利用を前提とする「メディア識別情報」という概念自体,意味あるものとしては成立し得ない。

     そうすると,引用例1及び2は,いずれも,個々のメディアに対応付けられたメディア識別情報に基づいて,メディアの表示・出力に利用するデータとその表示・出力の方法とを規定する「対象・方法情報」を情報提供者システムないしホストコンピュータ(本願発明の第2の電子計算機)で生成し,この「対象・方法情報」を送信することによって,利用者端末装置2ないしユーザ側端末(本願発明の第1の電子計算機)で表示される表示内容を変えるという発想も動機付けも与えるものではないというべきである。
   イ 被告は,引用例2の第2実施例には,アクセス頻度に応じて表示内容を変化させることが記載されており,アクセスの際には利用者から所望の情報に対する要求信号が必要であるが(段落【0053】),その要求信号には所望の情報を特定する情報が含まれるから,引用例2では,「アクセス頻度」と「所望の情報を特定する情報」とを用いて表示内容を変更しているのであり,この点は,本願発明が可搬型メディアの利用の履歴情報とメディア識別情報とを用いて対象・方法情報を生成することに相当するものであると主張する。しかしながら,引用例2の第2実施例におけるアクセス頻度情報は,情報提供者システム1の特定の情報に対してどれだけアクセス数(頻度)があったかを示す情報であるから,その情報を得る過程で当該情報を要求した利用者についての「利用の履歴情報」が得られることがあっても,「アクセス頻度」情報自体は,「利用の履歴情報」や「IDコード」などの個々の利用者ないしメディアに対応付けられた情報とは異なる情報であるというべきである。したがって,引用例2の第2実施例における態様が「利用の履歴情報」と「メディア識別情報」を用いて表示内容を変更することに相当するということは到底できない。
   ウ また,被告は,引用例2に記載の手段をCD−ROMを応用したカタログショッピングである引用例1に応用することは,格別な阻害要因がなく,それゆえ,当業者が容易に想到し得ると主張する。しかしながら,「引用例2に記載の手段」とは,具体的には,第2実施例として開示された手段であると解されるところ,第2実施例では,表示されるべき情報は情報提供者側システム1の情報記憶装置に存在しているのであり,本件における被告の主張立証を検討しても,「引用例2に記載の手段」を「CD−ROMを応用したカタログショッピングである引用例1に応用する」という発想や動機付けをもたらす事情を見いだすことができないから,被告の上記主張は採用できない。
   (4) 以上のとおりであるから,相違点1について「引用例1に記載の発明においても,引用例2に記載の手段を採用し,当該CD−ROMを特定する情報に基づいてアクセス情報を得て,それによって表示内容を変えるようにすることは,容易に考えられること」であるとして,相違点1に係る本願発明を容易想到とした審決の判断は,誤りというべきであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の取消事由2の主張は,理由がある。

 3 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由があり,審決は取消しを免れない。
   よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。


     東京高等裁判所知的財産第2部

           裁判長裁判官      篠  原  勝  美

                          裁判官     古  城  春  実

                     裁判官       岡  本     岳