◆H17. 7.20 知財高裁 平成17(行ケ)10246 商標権 行政訴訟事件
平成17年(行ケ)第10246号 審決取消請求事件
平成17年5月25日口頭弁論終結
判決
原告 フェアフィールド アンド サンズ リミテッド
訴訟代理人弁理士 網野友康
同 初瀬俊哉
同 網野誠
同 高野明子
被告 キヤノン株式会社
訴訟代理人弁理士 岸田正行
同 水野勝文
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
(1) 特許庁が取消2003−30136号事件について平成16年9月10日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1,2と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,「ロゼッタストーン」の片仮名文字を横書きしてなり,指定商品を平成13年政令第265号による改正前の商標法施行令1条の別表第一第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,救命用具,電気通信機械器具,レコード,メトロノーム,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気式ワックス磨き機,電気掃除機,電気ブザー,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,鉄道用信号機,火災報知器,盗難警報機,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防艇,消防車,自動車用シガーライター,保安用ヘルメット,磁心,抵抗線,電極,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,計算尺,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,潜水用機械器具,アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,犬笛,検卵器,電動式扉自動開閉装置」とする,登録第4295920号の商標(平成6年10月26日登録出願(以下「本件出願」という。),平成11年7月16日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成15年2月5日,本件商標の指定商品中「電気通信機械器具,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」についてその商標登録の取消を求める商標法50条に基づく審判を請求し,同請求は同年3月5日に登録された(以下「本件予告登録」という。)。特許庁は,この請求を取消2003−30136号事件として審理した結果,平成16年9月10日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,同月24日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件商標を構成する「ロゼッタストーン」及びその欧文字表示である「RosettaStone」は,本件予告登録前3年以内である2000年(平成12年)9月に,商標権者及び通常使用権者と推認し得るキヤノン販売株式会社(以下「キヤノン販売」という。)により審判の請求に係る商品に含まれる「日本語OCRソフトウエア」(以下「本件ソフトウエア」という。)を標準添付した「文書管理ソフトウエア」の広告宣伝を目的とした商品パンフレットに,また,2000年(平成12年)10月及び2001年(平成13年)3月に通常使用権者により「文書管理ソフトウエア」に同梱された本件ソフトウエアについて,それぞれ使用されており,商標権者及び通常使用権者が,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を自他商品識別機能を果たす態様で使用していることが認められるので,登録を取り消すことはできない,とするものである。
第3 原告主張の取消事由の要点
本件商標が被告及び通常使用権者によって審判請求に係る指定商品について使用されているとした審決の認定判断は誤りであり,取り消されるべきである。
1 本件ソフトウエアの指定商品該当性について
審決は,本件ソフトウエアが「本件審判の請求に係る商品に含まれる」としている。
しかし,本件出願当時,「電子計算機用プログラム」は「電子応用機械器具及びその部品」に属する商品ではなく,「商品」ですらなかった。すなわち,商標法上の商品は有体物に限定されていたが,時代の変遷に対応するために「電子計算機用プログラム」が「電子出版物」等の他の無体物とともに商品と認められた結果,平成13年経済産業省令第202号による商標法施行規則別表の一部改正(平成14年1月1日施行)によって,初めて「電子計算機用プログラム」(ダウンロードによるものと記録媒体に格納したもののいずれもが含まれる。)が「電子応用機械器具及びその部品」に含まれることになったものである(甲7号証の1,2)。
本件出願は平成6年10月26日であるから,改正後の上記規則は適用されないのであり,したがって,本件出願当時,本件ソフトウエアは「電子応用機械器具及びその部品」に含まれないから,被告が,本件商標を指定商品に含まれていない商品である本件ソフトウエアに使用したとしても,審判請求に係る指定商品である「電子応用機械器具及びその部品」について使用したことにはならない。
2 本件ソフトウエアの商品性について
本件ソフトウエアは,ドキュメント管理ツール「CanoBureau Workgroup」に同梱されている付属品ないし付加されている機能の1つに過ぎず,それ自体が独立して取引の対象となっている商品ではないから,商標法上の商品に該当しない。
すなわち,本件ソフトウエアは,流通過程においてはドキュメント管理ツール「CanoBureau Workgroup」の包装箱に同梱されたままで,他のソフトウエアとともに1枚のディスクに記録されているに過ぎないから,商品としての形態や外観を保持しているとはいえないし,「RosettaStone」の文字が目に付くとしても,部品ないし付属品である本件ソフトウエアそのものが流通過程において取引者・需要者に視認されることもあり得ない。また,価額の点から見ても,普通の汎用性「OCRソフトウエア」は単独で購入すればせいぜい6,000〜20,000円程度であるが,本件ソフトウエアが同梱されている「CanoBureau Workgroup」は30万円もするのであり,本件ソフトウエアだけが欲しくて,30万円も支払う需要者が存在することはあり得ないのであって,本件ソフトウエアが独立した商品であるとはいえない。
したがって,本件ソフトウエアは,実質的には「CanoBureau Workgroup」の付随的なコンポーネント又はモジュールであって,独立して取引の対象となる商標法上の商品とは認めることができないから,本件商標が商品について使用されていないことは明らかである。
3 自他商品識別標識としての使用について
本件商標が本件ソフトウエアについて使用されているとしても,それは商標的使用には当たらず,自他商品識別標識として機能し得ないものであるから,商標法50条にいう「使用」とはいえない。
(1) キヤノン販売のワークグループ用文書管理ソフトウエア「CanoBureau Workgroup」の包装箱(甲5号証の1,審判乙2号証)には,@表面の左上隅に製造・販売者を示す「Canon」のロゴが赤い字で記載され,A「Canon」の右斜め下方には,大きく「CanoBureau」「Workgroup」の文字が2段で併記され,B「CanoBureau」「Workgroup」の下方には「for Web Lt」「簡単」「ネットワーク対応ドキュメント管理ツール」とあり,「CanoBureau」「Workgroup」の左方に「1サーバ&無制限」「クライアントアクセスライセンス」のように,それぞれ商品の用途・特長・種別等が記載され,Cその下方には,オフィス内で書類の整理に追われて右往左往する男女の会社員と,それを尻目に「CanoBureau Workgroup」を使用してデスクに向かい,らくらく仕事をこなしている様の男性社員のイラストが描かれ,D表面の右下隅には「同梱 高性能OCRソフト」の文字の下に「RosettaStone Ver.3.0」と書され,E裏面には,上述したように商品の特長として付属しているOCR機能に「キヤノンロゼッタストーンVer.3.0」の技術を採用している旨が表示されている。
このような包装箱を見た需要者は,その著名性故に,「Canon」が製造・販売者を示し,また表示の位置,大きさ,態様より「CanoBureau Workgroup」が個々の商品名であることを直ちに認識する。1つの商品に2つ以上の商標が付されることは珍しくはないが,上記包装箱においては,営業標である「Canon」,商品標である「CanoBureau Workgroup」がそれぞれ明確な態様で付されているので,需要者は,「RosettaStone」ないし「キヤノンロゼッタストーンVer.3.0」の表示を自他商品を識別するための標識として把握することはなく,単なる商品の付属品あるいは商品に付加された機能の名称を記述したものと理解するにとどまる。
したがって,上記包装箱における「RosettaStone」ないし「キヤノンロゼッタストーンVer.3.0」の表示は,需要者が包装箱を詳細に見ることにより,包装箱内にOCRソフトウエアが同梱されていること,あるいは商品の特長として付加されていること自体が「CanoBureau Workgroup」の商品価値を高めて購買意欲が喚起されるという実質的な作用を奏するとしても,自他商品を識別する機能を果たすことはない。
(2) キヤノン販売の文書管理ソフトウエア「CanoBureau Workgroup Gold Ver2.1」の包装箱(甲5号証の2,審判乙3号証)及びその商品カタログ(甲5号証の3,審判乙4号証)においても,「RosettaStone」「ロゼッタストーンVer.3.0」の文字は,「CanoBureau Workgroup」の付属品あるいは機能の名称としてのみ理解され,自他商品識別機能を果たすものではない。甲5号証の4(審判乙5号証)及び5(審判乙6号証)は「Rosetta−Stone−Components」がコンポーネントであることを明確にするに過ぎない。これらにおいても,上記(1)と同様に,本件商標は,自他商品識別標識として機能するような態様での使用,すなわち「商標的使用」がなされていないものである。
第4 被告の反論の要点
原告の主張はいずれも失当であり,審決の認定判断に誤りはない。
1 本件ソフトウエアの指定商品該当性について
商標法施行規則別表や「類似商品・役務審査基準」に挙げられた商品・役務は例示に過ぎない。すべての商品をこれらに明示することは不可能であり,明示されていない商品が多数存在することは自明である。したがって,上記別表や「類似商品・役務審査基準」に明示されていないからといって,その商品が商標法上の商品に該当しないことにはならないことは明らかである。
また,審判請求に係る指定商品は「電子通信機械器具,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」であるところ,本件ソフトウエアが「電子計算機用プログラム」であることは論を俟たないところであり,上記指定商品中の「電子計算機用プログラムを記憶させた磁気ディスク」とは「CD−ROM等に収録された電子計算機用のプログラム(ソフトウエア)」のことである。そして,後に続く「その他の電子応用機械器具及びその部品」との表示により,「CD−ROM等に収録された電子計算機用のプログラム(ソフトウエア)」等が「電子応用機械器具及びその部品」にもともと含まれる商品として認められていることが客観的に明らかである。このことは,とりもなおさず本件出願時においては,「電子計算機用プログラム」が,形式的には「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ」といった表現で,「電子応用機械器具及びその部品」にもともと含まれる商品として認められていたことを示している。
2 本件ソフトウエアの商品性について
本件ソフトウエアは,汎用性を有し,独立してコンピュータにインストールすることができ,「CanoBureau Workgroup」とは異なる動作環境を要し,異なる仕様を有するソフトウエアであって,独立した日本語OCRソフトウエアであることが明らかであり,商標法上の商品たり得るものである。
3 自他商品識別標識としての使用について
「CanoBureau Workgroup」の包装箱の表示などを見れば,「RosettaStone」が独立した日本語OCRソフトウエアについて付された商標であることが容易に理解することができるのであり,本件商標が自他商品識別機能を有するものとして使用されていることが明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 証拠(甲5の1〜3・5〜8,乙2の1・2,3,4の1〜5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1) 被告は,セザックス株式会社に下請けさせて,「CanoBureau Workgroup(for Web Lt V2.1J)」という製品名のワークグループ用文書管理ソフトウエア(以下「本件商品」という。)を製造し,本件商品は,被告の関連会社であり本件商標の通常使用権者であるキヤノン販売を販売元として,少なくとも平成13年2月から平成14年10月の間に実際に販売されている。
(2) 本件商品は,「ネットワーク対応 ドキュメント管理ツール」と銘打たれたパーソナルコンピュータ用(他にサーバ用の「CanoBureau Gold Workgroup」もある。)の「ネットワークに対応し,複数ユーザでの文書の共有を可能にしたソフトウエア」であり,そのソフトウエアは1枚のCD−ROMに収録され,包装箱にパッケージされて販売されている。その包装箱の表面には,「Canon」のロゴ,「CanoBureau Workgroup for Web Lt」との記載のほか,右下部分に「同梱 高性能OCRソフト RosettaStone Ver.3.0」の文字が表示され,その裏面には,「特長5 OCR機能 ・・・なお,本機能には認識率の高さで定評のある「キヤノンロゼッタストーンVer.3.0」の技術を採用しています。」と記載されている(この包装箱の裏面には「Web Lt QYKA0100004」と印字されており,甲5号証の6によれば,2000年10月に製造された製品であると認められる。)。また,上記の表面右下部分の「同梱・・・Ver.3.0」の記載及び裏面の「特長5・・・採用しています。」の記載は,サーバ用製品である「CanoBureau Gold Workgroup」の包装箱にも記載されている(この包装箱の裏面にはバーコードの下に「・・・RFSA1030054」と記載されており,甲5号証の6によれば,2001年3月に製造された製品であると認められる。)。
(3) 本件商品の製品カタログには,「インターフェイス」の項で「・・・また,標準添付の日本語OCRソフト“RosettaStone”により,紙文書からのテキストデータ抽出も可能です。」と記載され,「文書管理を簡単・効率的に」の表題の下で「標準添付の日本語OCRソフト“RosettaStone”によりテキストデータの抽出も実施でき,情報の有効活用と再利用,さらに効率的な共有を実現します。」と記載されているほか,その裏表紙には,「CanoBureau Workgroup Ver2.1」の動作環境,主な仕様の説明と並んで,「RosettaStone Ver.3.0」の動作環境,主な仕様について別に説明されている(なお,このカタログ裏表紙には「記載の内容は2000年9月現在のものです」との記載があるほか,「0900SZ35」との記載があり,甲5号証の6によれば,2000年9月に発行されたものと認められる。)。
(4) 上記(2),(3)のとおり,本件商品は日本語OCR機能を内蔵していることを特長の1つとしているところ,本件商品に含まれるソフトウエアは,「CanoBureau Workgroup」の本体部分と本件ソフトウエアである「RosettaStone」の部分とからなり,両者はコンピュータプログラムとしてはそれぞれ別個のものである。そして,記憶媒体たる本件商品のCD−ROMを用いたインストール画面においては,インストール対象のソフトウエアが「CanoBureau Workgroup」と「RosettaStone」とに分けられ,それぞれを選択して別個にインストールすることができるようになっており,インストール後の起動も別個のものとなっていて,各プログラムが互いに他に従属するというような関係にはなっていない。
2 上記の事実によれば,被告は,「RosettaStone」との標章を付した本件ソフトウエアを,「CanoBureau Workgroup」本体のソフトウエアと共に1枚のCD−ROMに収録して構成した本件商品を製造し,少なくとも平成13年2月から平成14年10月の間に,本件商標の通常使用権者であるキヤノン販売がこれを現に販売していることが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。そして,本件商品の包装箱,カタログに用いられている「RosettaStone」は,本件商標「ロゼッタストーン」と同一の称呼,観念を生ずるものであり,本件商標と社会通念上同一の商標ということができる。したがって,商標権者である被告及び通常使用権者であるキヤノン販売は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を,本件予告登録前3年以内に,指定商品中の「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」に含まれる本件ソフトウエアの商標として使用しているということができ,審決の認定判断に誤りはない。
3 原告の主張について
(1) 本件ソフトウエアの指定商品該当性
原告は,本件ソフトウエアは本件出願当時における指定商品には含まれていない旨主張する。
平成13年経済産業省令第202号による商標法施行規則別表の一部改正により,それまでの「電子応用機械器具」の例示商品中にあった「電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路,磁気ディスク,磁気テープその他の周辺機器を含む。)」の括弧書きが削除され,別に「電子計算機用プログラム」が明記されたことは,原告が主張するとおりである。しかしながら,本件の審判請求に係る指定商品中には,「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」が含まれており,本件出願当時においても,電子計算機用プログラムが磁気ディスクなどの記憶媒体(光ディスクなどの記憶媒体も含まれると解すべきである。)に記憶されることにより,有体性をもった取引対象物として把握されていたことは明らかである。前記認定のとおり,本件ソフトウエアは,他のソフトウエアと共にCD−ROMに収録されて販売されているものであるから,これが,上記指定商品である「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」に含まれるものであることは明らかである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 本件ソフトウエアの商品性
原告は,本件ソフトウエアは,ドキュメント管理ツール「CanoBureau Workgroup」に同梱されている付属品ないし付加されている機能の1つに過ぎず,独立して取引の対象となる商標法上の商品ではない旨主張する。
しかしながら,前記1で認定したとおり,本件ソフトウエアは,文書管理ソフトウエアである「CanoBureau Workgroup(for Web Lt V2.1J)」とは別個の独立したOCRソフトウエアであり,「CanoBureau Workgroup」本体のソフトウエアと共に1枚のCD−ROMに収録されて本件商品を構成するものである。
ソフトウエアが必ずしも常に単独で販売されるとは限らず,独立した複数のソフトウエアを収録して1つの商品として販売されることがあることは,よく知られているところであるが,OCRソフトウエアは,画像データとして読み取った文字情報を文字データに変換するという機能を有するソフトウエアであり,そのようなソフトウエアが各種機器や文字データを扱う別のソフトウエアに添付,同梱される例が多いこと,その種類も決して少なくなく,多くのメーカーからさまざまな名称が付されて提供されていることは,当裁判所に顕著である。そして,そのような添付,同梱されたOCRソフトウエアがいかなる者(会社)によって開発,作成,販売されているものであるかは,機器等を購入する者にとっても大きな関心事であり,需要者としては,これを商品パッケージ等に付された当該ソフトウエアに係る商標によって識別することになるのであるから,本件ソフトウエアが商標法上の商品に当たらないということはできない。なお,原告は,一般のOCRソフトウエアの価格からすると,本件ソフトウエアだけが欲しくて,本件商品に30万円も支払う需要者が存在することはあり得ないとして,本件ソフトウエアが独立した商品といえない旨主張するが,本件ソフトウエアはOCRソフトウエアであり,原告が主張するような価格の点は必ずしも本件ソフトウエアが独立した商品であることを否定するものではないし,また,甲5号証の3によれば,本件商品の価格はライセンス数(インストール可能なクライアントパーソナルコンピュータの数)のタイプに応じて設定されており,5ライセンスの場合は6万9000円であることが認められるから,この点でも原告の主張は失当である。
(3) 自他商品識別標識としての使用
原告は,本件商標は,本件ソフトウエアについて自他商品識別標識として機能するような態様での使用がされていない旨縷々主張する。
しかしながら,前記1認定の本件ソフトウエアに関する「RosettaStone」の標章の使用状態に徴すると,その標章は,本件ソフトウエアについての商標として自他識別機能を発揮する態様で使用されていることが明確に看取できるのであって,原告の主張は,理由がない。
4 以上のとおりであって,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 佐 藤 久 夫
裁判官 若 林 辰 繁
裁判官 沖 中 康 人