H17. 9. 1 知財高裁 平成17(行ケ)10306 特許権 行政訴訟事件

平成17年(行ケ)第10306号 特許取消決定取消請求事件 
平成17年7月12日口頭弁論終結


     判    決
 原 告 X
 訴訟代理人弁理士 高良尚志     
 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 二宮千久,塩崎進,小曳満昭,大橋信彦,井出英一郎    


     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は,原告の負担とする。


     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成11年異議第74639号事件について平成16年4月15日にした決定を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件特許
 特許権者:X(原告)
 発明の名称:「遊技装置」
 特許出願日:平成10年4月13日
 設定登録日:平成11年4月9日
 特許番号:第2911872号
 (2) 本件手続
 特許異議事件番号:平成11年異議第74639号
 訂正請求日:平成15年3月25日(以下「本件訂正」といい,訂正後の明細書(甲5)を「訂正明細書」という。)
 決定日:平成16年4月15日
 決定の結論:「特許第2911872号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」

 決定謄本送達日:平成16年5月12日(原告に対し)
 2 本件発明の要旨
 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲(甲4)
【請求項1】種々の表示内容を連続的に変化させつつ表示し得る1又は2以上の表示手段と,その表示手段に前記表示内容を固定的に表示させるための表示固定手段とを有し,前記表示手段が固定的に表示した表示内容が所定の入賞条件を達成することと入賞とが対応するゲームを実行する遊技機であって,全ての賞又は一部の賞である内部当たり対象賞に関し,所定の内部当たり条件の達成によって,その内部当たり条件に対応する賞について内部当たり状態を設定する内部当たり設定手段と,内部当たり対象賞の一部又は全てである特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合に遊技者に内部当たり状態が設定されていることを報知する報知手段と,前記特定の賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,疑似内部当たり状態が設定されている場合に前記報知手段により報知される内容と同一又は類似の内容を遊技者に報知する疑似報知手段を備えることを特徴とする遊技装置。

【請求項2】上記遊技機が,外周面に複数のシンボルが表示され,回転停止状態において前記シンボルの1又は2以上を遊技者が視認し得る,回転自在に支持された回転体,及びその回転体を回転駆動するための回転駆動装置からなる1又は2以上の表示装置と,回転駆動されている前記回転体を停止させてシンボルを固定表示させるための表示固定装置とを有し,その表示固定装置によって停止した回転体における前記シンボルの種類とその停止位置が所定の入賞条件を達成することと入賞とが対応するスロットマシンである請求項1記載の遊技装置。
【請求項3】特定の賞が複数種あり,特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合に報知手段によって報知される内容又は時期が,内部当たり状態が設定されている特定の賞の種類に応じ変る請求項1又は2記載の遊技装置。

【請求項4】各特定の賞に対応した複数種の疑似報知内容又は疑似報知の時期を有する請求項3記載の遊技装置。
【請求項5】上記特定の賞の一部又は全てが,内部当たり状態が設定されていても入賞が確実ではなく,内部当たり状態が,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでの間又は入賞するまでの何回のゲームにおいても継続されるものである請求項1,2,3又は4記載の遊技装置。
 (2) 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項2ないし4については記載の変更はないので,請求項1及び5のみ摘示する。下線部分が訂正箇所。以下,本件訂正後の各請求項記載の発明を,請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などという。)
【請求項1】種々の表示内容を連続的に変化させつつ表示し得る1又は2以上の表示手段と,
遊技者の操作によりその表示手段に前記表示内容を固定的に表示させるための表示固定手段とを有し,前記表示手段が固定的に表示した表示内容が所定の入賞条件を達成することと入賞とが対応するゲームを実行する遊技機であって,
全ての賞又は一部の賞である内部当たり対象賞に関し,所定の内部当たり条件の達成によって,その内部当たり条件に対応する賞について内部当たり状態を設定する内部当たり設定手段と,
内部当たり対象賞の一部である特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合に,内部当たりの抽選が行われていると遊技者が思うような態様であって抽選に当選したような結果になる報知を行うことにより遊技者に内部当たり状態が設定されていることを報知する報知手段と,
前記特定の賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,
疑似内部当たり状態が設定されている場合に
,内部当たりの抽選が行われていると遊技者が思うような態様であって抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段を備え, 
前記特定の賞が,内部当たり状態が設定されていても入賞が確実ではなく,内部当たり状態が,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでの間又は入賞するまでのゲームにおいて継続されるものであることを特徴とする遊技装置。
【請求項5】上
記特定の賞に内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/100乃至1/300であり,上記疑似内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/10乃至1/50である請求項1,2,3又は4記載の遊技装置。
 3 決定の要旨
 (1) 本件訂正の許否について
 決定は,以下のとおり,本件訂正発明1ないし5は,刊行物2及び3に記載された発明及び刊行物1に記載された発明に示される周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものであるから,独立特許要件を満たさず,本件訂正は認められないとした。

 ア 引用刊行物
 刊行物1:パチスロ必勝ガイド98年5月号(株式会社白夜書房発行,本訴甲1)
 刊行物2:特開平8−117390号公報(本訴甲2)
 刊行物3:特開平8−336642号公報(本訴甲3)
 イ 刊行物に記載された発明
 (ア) 刊行物1記載の発明
 「種々の絵柄を連続的に変化させつつ表示し得る3個のリールを有するパチスロであって,
ボーナスフラグが成立したゲームの第3リールを止めた瞬間に,普段は消えているクレジットランプ上部のデジタルが回転を始め,そして,デジタルが「7」で停止すればビッグという告知を行うことにより遊技者にボーナスフラグが成立したことを告知するデジタルを備えるパチスロ」
 (イ) 刊行物2記載の発明
 「複数の図柄を可変表示する3個の可変表示部2〜4と,遊技者がストップボタンを押圧操作することでその可変表示部2〜4の可変表示動作を停止制御する制御部とを有し,前記可変表示部2〜4に停止した図柄が有効化されている入賞ライン上で入賞組合わせに該当していればその入賞の種類に応じた枚数のメダルが払い出されるゲームを実行する遊技機であって,

大ヒット,中ヒット及び小ヒットの内の大ヒット及び中ヒットである内部的当選役に関し,所定の内部的当選条件の達成によって,その内部的当選条件に対応する賞について内部的当選状態を設定する制御部と,
内部的当選役の一部であるビッグボーナスに内部的当選状態が設定されている場合においてその内部的当選状態が設定されているビッグボーナスに入賞しなかった場合に,リーチ目を出現させることにより遊技者に内部的当選状態が設定されていることを報知する報知手段を備え,
前記ビッグボーナスが,内部的当選状態が設定されていても入賞が確実ではなく,内部的当選状態が,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでのゲームにおいて継続されるものである遊技装置」
 (ウ) 刊行物3記載の発明
 「種々の識別情報を連続的に変化させつつ表示し得る3個の可変表示部と,その可変表示部に前記識別情報を可変開始させた後,表示結果を導出表示させる制御を行う可変表示制御手段とを有し,前記可変表示部が可変停止された状態の識別情報が予め定められた特定の識別情報の組合わせとなり表示結果が予め定められた表示態様となった場合には,特定遊技状態が発生して大当たり状態を実行する遊技機であって,

C RND1の値を抽出し,その抽出値が「3」のときには大当たりを事前決定するCPUと,
大当たりが事前決定されている場合に,移動中のキャラクタ55の動作がさらに継続される報知を行うことにより遊技者に大当たりが事前決定されていることを報知するキャラクタを用いた報知方法と,
大当たりが事前決定されていない場合に,C RND YOKの抽出値が「0」〜「3」,「500」〜「503」及び「800」である場合に,偽りの大当たりを設定する手段と,
偽りの大当たりが設定されている場合に,キャラクタ55が画面の左横へ戻って消える偽りの大当たり予告であることを認識することができる報知を遊技者に対し行う偽りの大当たり予告を備える遊技装置」
 ウ 本件訂正発明1と刊行物2記載の発明との対比,判断
 (ア) 一致点

 「種々の表示内容を連続的に変化させつつ表示し得る1又は2以上の表示手段と,遊技者の操作によりその表示手段に前記表示内容を固定的に表示させるための表示固定手段とを有し,前記表示手段が固定的に表示した表示内容が所定の入賞条件を達成することと入賞とが対応するゲームを実行する遊技機であって,
一部の賞である内部当たり対象賞に関し,所定の内部当たり条件の達成によって,その内部当たり条件に対応する賞について内部当たり状態を設定する内部当たり設定手段と,
内部当たり対象賞の一部である特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合に,報知を行うことにより遊技者に内部当たり状態が設定されていることを報知する報知手段を備え,
前記特定の賞が,内部当たり状態が設定されていても入賞が確実ではなく,内部当たり状態が,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでのゲームにおいて継続されるものである遊技装置である点」

 (イ) 相違点
〈相違点1〉
 「本件訂正発明1は,特定の賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,疑似内部当たり状態が設定されている場合に,抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段を備えているのに対し,刊行物2記載の発明には,このような疑似内部当たり設定手段,及び疑似報知手段を備えていない点」
〈相違点2〉
 「報知の態様について,本件訂正発明1は,内部当たり対象賞の一部である特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合の報知も,疑似報知の場合も,内部当たりの抽選が行われていると遊技者が思うような態様であって,それぞれ,抽選に当選したような結果,抽選が外れたような結果になる報知を行うのに対し,刊行物2記載の発明はこのような報知手段を備えていない点 」

 (ウ) 相違点についての判断
〈相違点1〉
 「刊行物3記載の発明には,…相違点1の本件訂正発明1の主要部分の構成である「内部当たり対象賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,疑似内部当たり状態が設定されている場合に,抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」という構成,が備わっているものと認められる。
 また,刊行物2記載の発明も,刊行物3記載の発明も,共に,「種々の表示内容を連続的に変化させつつ表示し得る1又は2以上の表示手段」を有する,極めて近似した遊技機乃至遊技装置に関するものである以上,刊行物2記載の発明の内部当たり対象賞の一部である特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合に,刊行物3記載の発明を適用し,刊行物2記載の発明に,「特定の賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する」という構成を持つ「疑似内部当たり設定手段」,及び「疑似内部当たり状態が設定されている場合に,抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う」という構成を持つ「疑似報知手段」を備えさせ,刊行物2記載の発明を相違点1の本件訂正発明1のように構成することは,当業者が格別創意工夫を要することではないというべきである。

 また,相違点1に関し,本件訂正発明1の効果が,刊行物2記載の発明及び刊行物3記載の発明の各効果の総和以上の格別なものとは認められない。」
〈相違点2〉
 「本件訂正発明1における疑似報知が擬似であることが遊技者にわかるためには,少なくとも最初は正しいものなのかそれとも疑似なのかの区別が付かないが,最終的な報知により本当のものか疑似のものかがわかる報知でなければならない。すなわち,最初はどちらかわからない状態をしばらく続け遊技者の興味を引きつけ,最後に結果を報知する。抽選が行われていると思わせる態様は,まさにこのような態様の一種であって,抽選により,どのような結果が出るか分からないための期待感,気(興趣)を持たせるための常套手段として,遊技機の分野に広く用いられているものである。たとえば,パチンコ機の分野における,抽選による内部当たりが既に行われたとしても,可変表示器を回転させることにより,その回転中はあたかも抽選が行われているように見せかけ,回転の停止に伴って抽選の結果を表示することは慣用されている事項であり,刊行物1記載の発明においても,このように見せかけ(あたかも抽選が行われているように見える形態,即ちデジタルが回転している状態),内部当たりの種類を報知することが行われている。しかも,報知にこのような手段を採用することに格別な技術的工夫を要するものとはいえない。
 そうすると,刊行物2記載の発明において,刊行物3記載の発明のような内部当たりの疑似報知を採用するにあたって,上記刊行物1記載の発明のような周知技術を採用して本件訂正発明1の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者の設計的事項程度のことというべきである。
 また,相違点1,2に関し,本件訂正発明1の効果が,刊行物2記載の発明,刊行物3記載の発明,及び周知技術の各効果の総和以上の格別なものとは認められない。」
 エ 本件訂正発明5と刊行物2記載の発明との対比,判断
 「本件訂正発明5と刊行物2記載の発明とを対比すると,
両者間には,上記に記した請求項1に係る発明の相違点1,2の他に,
本件訂正発明5が,上記特定の賞に内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/100乃至1/300であり,上記疑似内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/10乃至1/50である,

のに対し,
刊行物2記載の発明が,かかる構成を備えていない,
という新たな相違点があるものと認められる。
 しかし,この新たな相違点の本件訂正発明5の構成は,内部当たり,疑似内部当たりをどの程度の割合で設定するかという数値の限定であり,単にその良好な範囲を設定しているだけであるから,当業者の設計的事項というべきものであり,当業者が適宜採用し得る事項にすぎない。
 したがって,本件訂正発明5は,刊行物2及び3記載の発明,及び刊行物1記載の発明のような周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 また,本件訂正発明5の効果が,刊行物2及び3記載の発明,及び刊行物1記載の発明のような周知技術の各効果の総和以上の格別なものとは認められない。」
 オ 本件訂正発明2ないし4と刊行物2記載の発明との対比,判断

 「本件訂正発明2ないし4に係る各発明のうち,訂正されていない各構成,すなわち,引用構成を除く各構成,についてみると,本件訂正発明2は,…当業者が格別創意工夫を要するものではなく,本件訂正発明3は,…刊行物1に記載されたものであり,本件訂正発明4は,…当業者が格別創意工夫を要するものではない。一方,引用構成である本件訂正発明1は,…当業者が格別創意工夫を要するものではない。そうすると,本件訂正発明2ないし4は,それぞれ,訂正されていない各構成と引用構成とからなるものであるから,当業者が格別創意工夫を要するものではないというべきである。」
 カ 本件訂正の許否についての結論
 「本件訂正発明1ないし5は,当業者が刊行物2,3に記載される各発明,及び刊行物1に記載される発明のような周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

 したがって,当該訂正は,平成11年改正前の特許法120条の4第3項において準用する特許法126条4項の規定に適合しないので,当該訂正は認められない。」
 (2) 本件訂正前の請求項1ないし5に係る発明について
 続いて,決定は,本件訂正前の請求項1ないし5に係る発明について,刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,いずれも特許法29条2項に違反するものであるとした。


第3 原告の主張の要点
 1 本件訂正発明1について
 (1) 相違点1の判断の誤り
 ア 決定は,刊行物3記載の発明における「偽りであることを認識できる偽りの大当たり予告」が本件訂正発明1の「抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」に相当するとした上で,相違点1に係る本件訂正発明1の疑似内部当たり設定手段と疑似報知手段は刊行物3記載の発明に備わっていると判断した。
 しかしながら,刊行物3記載の発明においては,偽りの大当たり予告の報知は原則的に全て偽りであるとは認識できない態様で行うものとされ,その一部について,「偽りであることを認識できる偽りの大当たり予告」の報知を行ってもよいとされているにすぎない(10頁17欄34行〜37行,11頁19欄33行〜42行,13頁23欄1行〜19行)。他方,本件訂正発明1の疑似報知手段の場合,疑似内部当たり状態が設定されているときに行う報知は,抽選が外れたような結果になる報知のみであり,疑似報知と認識できない報知を行うことはない。刊行物3には,偽りの大当たり予告の大部分を偽りであると認識できない態様で報知し,その一部を偽りであることを認識できる態様で報知するという構成は開示されているが,偽りの大当たり予告の全てを偽りであることを認識できる態様で報知するという本件訂正発明1の疑似報知手段の構成についての開示はない。したがって,刊行物3記載の発明には,本件訂正発明1における疑似報知手段の構成が備わっているとはいえない。

 イ 決定は,刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明は極めて近似した遊技機ないし遊技装置であるとしている。
 しかしながら,刊行物2記載の発明では,遊技者のストップボタン押圧操作に応じ,可変表示部の停止図柄が入賞組合せに該当する場合と該当しない場合があり,ビッグボーナスについての内部的当選状態は,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでのゲームにおいて継続される。これに対し,刊行物3記載の発明では,ある回の可変表示が大当たりか外れかは打玉が始動口に入賞して検出した時点で事前決定されるので,大当たり予告報知があれば自動的に可変表示が大当たりとなり,外れの場合は自動的に外れる。刊行物3記載の発明は,大当たり予告の報知があった場合に,可変表示の入賞の成否は遊技者の操作に依存せず,入賞せずに次回に持ち越すこともないという点で,刊行物2記載の発明とは異なる。 

 したがって,決定がいうように刊行物3記載の発明を刊行物2記載の発明に容易に適用することはできず,刊行物2及び3記載の発明に基づき,相違点1の構成が容易に得られるものではない。
 ウ 刊行物3記載の発明においては,前記のとおり,偽りの大当たり予告報知があると,偽りと示さずとも報知終了後に大当たり入賞しなければ偽りであると遊技者に直ちにわかり,真の大当たり予告報知があると自動的に大当たりとなるのであるから,真の大当たり予告を偽りと誤認して別の遊技装置に替わることにより遊技者が入賞を逸することはあり得ない。
 しかしながら,刊行物2記載の発明に係る遊技装置における特定の賞は,内部当たり状態が設定されていても,遊技者の操作により表示内容が所定の入賞条件を達成しなければ入賞とならず,その入賞は確実ではない。しかも,入賞するまでのゲームにおいて内部当たり状態が継続される。

 そのため,前記のように刊行物2の発明に刊行物3の発明を適用した場合,特定の賞に内部当たり状態が設定されているにもかかわらず,例えば数ゲームにわたり入賞しないことにより,遊技者が内部当たり状態が設定されていないと判断して別の遊技装置に替わってしまい,別の遊技者に入賞を与えてしまう可能性が生じるという問題がある。
 これに対し,本件訂正発明1においては,特定の賞について疑似内部当たり状態が設定された場合に行う報知は全て抽選が外れたような結果になる報知であるため,特定の賞について内部当たり状態の設定が行われているか行われていないかを遊技者は明確に知ることができる。そのため,特定の賞について内部当たり状態設定の報知があった場合,報知後の数ゲームにわたり入賞しないことなどにより疑似報知と誤認し,別の遊技装置に替わって特定の賞に入賞するチャンスを逃すことを確実に防ぐことができる。また,報知後は特定の賞の入賞条件を達成する表示内容を固定表示するように狙って操作することにより,特定の賞への入賞を早期に実現して利益増大を図ることができる。

 このように,本件訂正発明1の効果は,刊行物2及び3記載の発明の効果の総和を越え,両者から容易には予測し得ないものである。
 (2) 相違点2の判断の誤り
 刊行物1に記載されているとおり,抽選結果が決まっていてもあたかも抽選を行っているように見せて期待感を持たせる手法自体は,周知技術である。
 しかしながら,本件訂正発明1は,相違点2の構成を相違点1の構成に組み合わせることによって,特定の賞に内部当たり状態が設定されていてその賞に入賞しなかった場合も,疑似内部当たり状態が設定された場合も,内部当たりの抽選が行われているような態様の報知により遊技者に内部当たり状態設定の期待を抱かせて興味を引きつけることができる。そして,それぞれの場合に当選及び外れの結果を報知することにより,特定の賞について内部当たり状態の設定が行われているか行われていないかを遊技者に明確に知らせ,相違点1に関する効果を高めている。

 本件訂正発明に係る相違点2に相違点1を組み合わせた構成は,刊行物2及び3記載の発明に基づき容易に得られるものではなく,その効果は刊行物2及び3記載の発明の効果の総和を越え,両者から容易には予測し得ない。
 (3) 以上のとおり,本件訂正発明1は,刊行物2及び3記載の発明並びに刊行物1記載の発明に示される周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものではなく,本件訂正発明1が特許法29条2項の規定に違反するとした決定の判断は誤りである。
 2 本件訂正発明4について
 本件訂正発明4の「各特定の賞に対応した複数種の疑似報知内容又は疑似報知の時期を有する」という構成は,刊行物1ないし3のいずれにも開示はなく,この構成により遊技者に与える内部当たり状態設定の期待の種類を豊富化して遊技の興味をより高めることができるものである。刊行物1記載の発明においては,内部当たり設定自体の報知内容が2種類あるが,疑似内部当たりの種類が2種類あるわけではない。刊行物3にも,大当たりの種類が複数あり,疑似報知の種類も複数存在するという構成は記載されていない。

 したがって,本件訂正発明4が特許法29条2項に違反するとの決定の判断は誤りである。
 3 本件訂正発明5について
 刊行物3記載の発明において偽りの大当たり予告の報知を行う確率は9/900であり,偽りとわかるように偽りの大当たり予告の報知を行うものとなし得るのはそのうちの一部である。このような構成を刊行物2記載の発明に適用した場合に問題が生じるのは前記のとおりである。特定の賞に内部当たり状態が設定されるゲームの比率と疑似内部当たり状態が設定されるゲームの比率が本件訂正発明5の数値(内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/100ないし1/300,疑似内部当たり状態が設定されるゲームの比率が1/10ないし1/50)である場合,前記問題点を解決し得る上,好適な頻度の疑似報知によって遊技者の興味を継続的に引きつけることができる。

 したがって,本件訂正発明5が特許法29条2項に反するとした決定の判断は誤りである。
 4 結論
 本件訂正発明1ないし5は,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,本件訂正は認められないとした決定の判断は誤りである。


第4 被告の主張の要点
 1 本件訂正発明1について
 (1) 相違点1の判断の誤りに対して
 ア 決定は,刊行物3には,本件訂正発明1と刊行物2記載の発明との相違点1である「内部当たり対象賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,疑似内部当たり状態が設定されている場合に,抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」という構成,つまり「偽りの大当たり予告」(疑似報知)を行うという技術思想,及び「遊技者に偽りの大当たり予告であることを認識させる」という具体的な態様が刊行物3に開示されていると認定したものであって,決定の認定に誤りはない。
 イ 刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明は,遊技機としては異なるタイプであるが,同じ遊技機分野であれば他のタイプの技術を付加又は置換しようとする動機付けは常に存在するといえるので,遊技機分野における他のタイプの技術を参考にし,それを採用しようとすることは,当業者の通常の創作能力の発揮程度のことである。

 ウ 原告は,本件訂正発明1の作用効果は,刊行物2及び3記載の発明から予測し得ない格段のものであると主張する。
 しかし,本件訂正発明1のように,疑似報知手段により疑似報知を行うことは,「遊技者に内部当たり状態設定の期待をいだかせて継続的に興味を引きつけ,遊技のメリハリを強めること」(訂正明細書の段落【0095】)であり,これは遊技者に期待を持たせるための一種の演出であるということができる。刊行物3(甲3)記載の発明も,偽りの大当たり予告という演出を採用することによって,「遊技者の遊技に対する意欲を向上させることができ,さらに,遊技者の興趣を向上させることができる」(段落【0132】,【0133】)ものである。そうすると,本件訂正発明1の作用効果は,刊行物3記載の発明から予測することができるものということができる。

 また,刊行物2記載の発明は,内部当たり状態の設定が行われた場合に遊技者にそれを知らせるために報知するものであるから,刊行物2記載の発明に刊行物3記載の発明を適用するに当たり,抽選が行われていると遊技者が思うような態様で報知を行う周知の手段(例えば,刊行物1記載の発明)を採用して,刊行物3記載の発明のように,偽りの大当たり予告報知が行われた場合にそれが演出であったことを遊技者が認識できるようにすることは,当業者が格別困難なく採用し得ることである。しかも,本件訂正発明1は,疑似報知の場合を含めたとしても,最終的に内部当たり状態(内部当選か否か)の報知をしている点で,刊行物2記載の発明のような内部当たり状態(内部当選か否か)の報知をしているものと変わるところはない。
 そうすると,本件訂正発明1の作用効果は,刊行物3記載の発明を刊行物2記載の発明に適用した場合にも,刊行物2及び3記載の発明並びに周知技術から予測できるものである。

 (2) 相違点2の判断の誤りに対して
 原告は,本件訂正発明に係る相違点2に相違点1を組み合わせることにより格別の効果が生じると主張するが,上記のとおり,本件訂正発明1の作用効果は,刊行物2及び3記載の発明並びに周知技術から予測し得るものであり,原告の主張は失当である。 
 (3) したがって,本件訂正発明1が,刊行物2及び3記載の発明及び周知技術に基づいて容易に発明し得るものであるとした決定の判断に誤りはない。 
 2 本件訂正発明4について
 本件訂正発明4は,複数種の特定の賞の報知内容を特定の賞の種類に応じ変えるという構成を備えているものであり,この構成により遊技者に与える内部当たり状態設定の期待の種類を豊富化して遊技の興味をより高めることができるものであることは明白であるので,原告の主張は失当である。

 3 本件訂正発明5について
 原告は,本件訂正発明5は,好適な頻度の疑似報知によって遊技者の興味を継続的に引きつけることができるなどの格別な作用効果を奏すると主張する。
 しかしながら,刊行物3記載の発明の技術思想である内部当たりの「大当たり予告」(報知)と共に「偽りの大当たり予告」(疑似報知)を行うという点を,刊行物2記載の発明に適用する際,内部当たり,疑似内部当たりをどの程度の割合で設定するかは,当業者の設計的事項にすぎない。原告の主張する本件訂正発明5の作用効果は,「大当たり予告」(報知),「偽りの大当たり予告」(疑似報知)を行うこと自体の作用効果であり,格別な作用効果ということはできない。
 したがって,本件訂正発明5の進歩性に関する決定の判断に誤りはない。
 4 結論

 以上のとおりであるから,本件訂正発明1ないし5は,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,本件訂正は認められないとした決定の判断に誤りはない。 

第5 当裁判所の判断
 1 本件訂正発明1について
 (1) 相違点1の判断の誤りについて
 ア 原告は,刊行物3記載の発明における「偽りであることを認識できる偽りの大当たり予告」が本件訂正発明1の「抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」に相当するとした決定の判断は誤りであると主張する。
 (ア) そこで,検討するに,本件訂正発明に係る特許請求の範囲請求項1には,以下の記載がある。
  「全ての賞又は一部の賞である内部当たり対象賞に関し,所定の内部当たり条件の達成によって,その内部当たり条件に対応する賞について内部当たり状態を設定する内部当たり設定手段と,
内部当たり対象賞の一部である特定の賞に内部当たり状態が設定されている場合においてその内部当たり状態が設定されている特定の賞に入賞しなかった場合に,内部当たりの抽選が行われていると遊技者が思うような態様であって抽選に当選したような結果になる報知を行うことにより遊技者に内部当たり状態が設定されていることを報知する報知手段と,

前記特定の賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,
疑似内部当たり状態が設定されている場合に,内部当たりの抽選が行われていると遊技者が思うような態様であって抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段を備え,」
 上記記載によれば,本件訂正発明1では,特定の賞について「内部当たり」状態が設定されるとともに,当該特定の賞に内部当たり状態が設定されていない場合にも遊技者の興味を引きつけるため,「疑似内部当たり」状態を設定し,いずれの状態についても,内部当たりの抽選が行われていると競技者に思わせるような態様で報知を行い,「疑似内部当たり」の場合には,抽選が外れたような結果になる態様で競技者に対する報知が行われるものと認められる。

 (イ) 次に,刊行物3には以下の記載がある。
 (a)  「請求項1に記載の本発明によれば,特定の表示態様が表示結果として導出表示される予定となっている回の可変表示以前の段階から,特定の表示態様が表示されることが遊技者に報知可能にされる。その報知は,特定の表示態様が表示結果として導出表示されない予定となっている場合であってもある確率で行われるため,報知が行われる頻度が高くなる。このため,遊技者の遊技意欲を低下させることなく,遊技者の期待感を高めることができ,可変表示の面白さを十分に演出し遊技者の期待感及び興趣をより一層向上させることができる遊技機を提供し得るに至った。」(段落【0147】)
 (b)  「図13は,第2実施例による可変表示装置4の可変表示制御を示すフローチャートである。この可変表示制御においては,大当たり予告の報知が,音,キャラクタ,音及びキャラクタの3種類のいずれかにより行われる。音による予告報知は,音出力装置52によって行われ,キャラクタによる予告報知は,可変表示装置4によって行われる。」(段落【0091】)

 (c)  「「大当たり以外」の場合は,C RND YOKの抽出値と,「報知方法」との関係が以下のように定められている。抽出値が「0」〜「3」である場合には,音による大当たり予告の報知を行う。抽出値が「500」〜「503」である場合には,キャラクタによる偽りの大当たり予告の報知を行う。抽出値が「800」である場合には,音及びキャラクタの両方による偽りの大当たり予告の報知を行う。抽出値が「4」〜「499」,「504」〜「799」,「801」〜「899」の場合には,偽りの大当たり予告の報知をしない。」(段落【0097】)
 (d)  「SA7において,大当たり予告を終了させる条件としては,第1実施例と同様に,真の大当たり予告の場合には大当たりが発生する回の可変表示が行われたこと,偽りの大当たり予告の場合にはリーチ表示が所定回数行われたこと,あるいは大当たり予告フラグがセットされてから所定時間経過したこと,あるいは,可変表示が所定回数行われたこと等が考えられる。」(段落【0109】)

 (e)  「図16〜図19は,大当たり予告の報知方法の具体例を示す説明図である。まず,キャラクタを用いた報知方法の例を説明する。図16には,音及びキャラクタの両方を用いた具体的な報知方法が示される。この図16においては,始動記憶表示器6の始動記憶状態と,各始動記憶に対応する可変表示部5の表示内容及び音の内容とが図中の丸数字によって関連づけられて示されている。図中に示される可変表示部5には,左可変表示部5a,中可変表示部5b,右可変表示部5cのそれぞれに図柄が可変表示される。この場合には,3つ目の始動記憶Bが大当たりとなることが事前に決定されている。まず,1つ目の始動記憶@に対応して「ヤッター」という音のみが報知される(上段@参照)。そして,2つ目の始動記憶Aに対応して,「ヤッター」という音の報知がなされるとともに,所定の人形状のキャラクタ55が可変表示部5の画面の左横から出現し,そのキャラクタ55が時間経過に伴って左から右へ向かって移動する(中段A参照)。このキャラクタ55の移動の動作は左,中,右の可変表示部5a,5b,5cの変動が停止した後も継続して行われる。そして,3つ目の始動記憶Bに対応して,音の報知がなされるとともに,移動中のキャラクタ55の動作がさらに継続される。この例では,キャラクタ55が手を上げる動作をさらに行う。」(段落【0116】〜【0117】)
  (f)  「また,偽りの大当たり予告の報知の場合に限り,その大当たり予告報知の最後の回のリーチ表示において,キャラクタ55が画面の左横へ戻って消えるようにしてもよい。このようにすれば,遊技者は,偽りの大当たり予告であることを認識することができる。」(段落【0118】)
 上記記載によれば,刊行物3記載の発明では,遊技者の遊技意欲を低下させないようにするために,「大当たり予告」とともに「偽りの大当たり予告」を設定し,一定回数のリーチ表示,大当たり予告フラグのセット後の一定時間の経過,一定回数の可変表示の後に「偽りの大当たり予告」を終了するとともに,音及びキャラクタの両方を用いて「偽りの大当たり予告」の報知を行う場合には,当該キャラクタが当初は左から右に向かって移動し,その後「キャラクタ55が画面の左横へ戻って消える」ことにより,偽りの大当たり予告の報知であることが競技者に認識できるようになっているものと認められる。

 (ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,刊行物3記載の発明における「偽りの大当たりを設定する手段」「キャラクタ55が画面の左横に戻って消える偽りの大当たり予告であることを認識することができる」「偽りの大当たり予告」は,その機能に照らすと,それぞれ本件訂正発明1の「疑似内部当たり設定手段」「抽選が外れたような結果になる」「疑似報知手段」に相当するものと認められ,刊行物3記載の発明の「偽りであることを認識できる偽りの大当たり予告」が本件訂正発明1の「抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」に相当するとした決定の判断には誤りはないというべきである。そうすると,刊行物3記載の発明は,本件訂正発明1の相違点1に係る「内部当たりの対象賞について内部当たり状態の設定がない場合に,所定の疑似内部当たり条件の達成によって,疑似内部当たり状態を設定する疑似内部当たり設定手段と,疑似内部当たり状態が設定されている場合に,抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」を備えているということができる。
 (エ) これに対し,原告は,刊行物3記載の発明においては,偽りの大当たり予告の一部について偽りであることを認識できるにすぎないのであるから,疑似報知と認識できない報知を行うことはない本件訂正発明1とは異なると主張する。
 しかしながら,刊行物3の段落【0097】【0109】【0118】によれば,刊行物3記載の発明においては,音及びキャラクタを用いて大当たり予告が「偽り」であったことが直接的に報知されるばかりではなく,一定回数のリーチ表示,大当たり予告フラグのセット後の一定時間の経過,一定回数の可変表示を行った後に偽りの大当たり予告を終了させることにより,遊技者が大当たり予告が偽りであったと認識し得る構成となっているものと認められ,同発明においても,大当たり予告が偽りであることは遊技者に認識し得る態様で報知が行われるというべきである。

 また,仮に,原告の主張するとおり,偽りの大当たり予告の一部について偽りであることを認識し得ないとしても,「偽りの大当たり予告」であると認識し得る報知が行われた場合に,これが本件訂正発明1の「抽選が外れたような結果になる報知を遊技者に対し行う疑似報知手段」に相当することには変わりはないというべきである。
 さらに,偽りの大当たり予告の一部について偽りであることを遊技者が認識できないようにするか,その全部について偽りであることを認識できるようにするかは設計事項にすぎないというべきであり,本件訂正発明1のように,疑似報知と認識できる報知をすべて行う構成にすることは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
 イ 次に,原告は,刊行物2記載の発明では,遊技者のストップボタン押圧操作に応じ,内部的当選状態は,所定の複数回のゲームにおいて入賞するまでのゲームにおいて継続されるのに対し,刊行物3記載の発明では,大当たり予告の報知があった場合に,可変表示の入賞の成否は遊技者の操作に依存せず,入賞せずに次回に持ち越すこともないのであるから,刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明とは,極めて近似した遊技機ないし遊技装置であるとはいえないと主張する。

 (ア) しかしながら,刊行物2記載の発明は,「電子回路により遊技態様を制御する遊技機,特に複数の図柄(シンボル)を可変表示する可変表示部を備えたスロットマシン,いわゆるパチスロ,及びパチンコ機等の弾球遊技機を含む遊技機」(段落【0001】)に関するものであり,スロットマシンのみならず,パチンコ機等の弾球遊技機にも広く適用できることが示されている。
 他方,刊行物3には,「パチンコ遊技機やコイン遊技機あるいはスロットマシン等で代表される遊技機に関し」(段落【0001】),「以下の実施例においては,遊技機の一例としてパチンコ遊技機を示すが,本発明はこれに限らず,たとえばコイン遊技機やスロットマシン等であってもよく,表示状態が変化可能な可変表示部を有する可変表示装置を含み,前記可変表示部により表示される複数の表示結果が予め複数種類定められた特定の表示態様のうちのいずれかになった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であれば,すべてに適用することが可能である。」(段落【0011】)と記載されている。

 上記各記載によれば,刊行物2及び3記載の発明は,いずれもパチンコ遊技機,スロットマシン等にも広く適用できることが開示されており,同一の技術分野に属するものであるということができる。
 (イ) また,刊行物3記載の発明は,真の大当たり予告とともに,偽の大当たり予告を設けることにより,大当たり報知が行われる頻度を高くして,「遊技者の遊技意欲を損なわせることなく,可変表示装置による可変表示の面白さを十分に演出し,遊技者の期待感及び興趣をより一層向上させる」(段落【0006】)ことができるようにしたものと認められる。他方,刊行物2記載の発明は,内部的当選状態を報知する手段を設けることにより,「ゲームの興趣を向上させた遊技機を提供すること」を目的とするものであるというのであるから,刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明とは,共通の目的を有することは明らかである。

 (ウ) 以上によれば,刊行物2及び3記載の発明はその技術分野や発明の目的を共通にするものであり,きわめて近似した遊技機に関するものであるということができ,原告が主張するような両発明の差異は刊行物3記載の発明を刊行物2記載の発明に適用することを何ら阻害するものではないというべきである。
 ウ 原告は,本件訂正発明1では,特定の賞について疑似内部当たり状態が設定された場合には,全て抽選が外れたような結果になる報知がなされるため,競技者は内部当たり状態の設定が行われていることを明確に知ることができ,別の遊技装置に替わって特定の賞に入賞するチャンスを逃すことを確実に防ぐことができるという効果があり,この効果は刊行物2及び3記載の発明から容易に予測し得ないと主張する。
 しかしながら,本件訂正発明1がそのような効果を有するとしても,その作用効果は,刊行物3記載の発明の「内部当たり設定手段」及び「疑似内部当たり設定手段」の設定,報知に係る構成を刊行物2記載の発明に適用し,本件訂正発明1のような構成とすることにより,当然に奏するものであるから,当業者であれば容易に予測し得るものというべきである。

 (2) 相違点2の判断の誤りについて
 相違点2は,「内部当たりの抽選が行われていると競技者が思うような態様で」内部当たり状態及び疑似内部当たり状態の報知を行うとの構成に係るものであるところ,原告は,本件訂正発明1に係る相違点2に相違点1を組み合わせた構成は刊行物2及び3記載の発明に基づき容易に得られるものではなく,その効果は刊行物2及び3記載の発明の効果の総和を越え,両者から容易には予測し得ないと主張する。
 しかしながら,遊技装置において既に内部当たりかどうかの抽選が行われたとしても,遊技者の興味を引くため,あたかも抽選が行われていると思われる表示を行うことは,原告も認めるとおり,周知の技術であり,本件訂正発明1においてそのような構成を採用したことについて進歩性は認められない。

 また,相違点2に係る構成が奏する作用効果について,原告は,遊技者の興味を引きつけるとともに,特定の賞について内部当たり状態にあるかどうかを明確に知ることができると主張するが,そのような作用効果は本件訂正発明1の相違点2に係る構成がまさに意図するものであって,予測可能な作用効果であるということができる。
 (3) 以上のとおり,本件訂正発明1は,刊行物2及び3記載の発明並びに刊行物1記載の発明に示される周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものであり,本件訂正発明1が特許法29条2項の規定に違反するとした決定の判断に誤りはない。
 2 本件訂正発明4について
 原告は,本件訂正発明4の「各特定の賞に対応した複数種の疑似報知内容又は疑似報知の時期を有する」という構成は,刊行物1ないし3のいずれにも開示はないのであるから,同発明は進歩性を有すると主張する。

 しかしながら,刊行物2に「スロットマシンにおける入賞役の例としては,上記の「大ヒット」,「中ヒット」及び「小ヒット」がある」(段落【0051】)と記載されているように,遊技装置において,複数種の特定の賞を有するようにすることは,広く採用されていることと認められる。また,甲3においては,偽の大当たり予告の報知は,音,キャラクタ,音及びキャラクタの3種類のいずれかにより行われており(段落【0097】),各特定の賞に対応して,複数種の疑似報知の態様がとられている。複数種の特定の賞を有するようにすること,複数種の疑似報知の態様を採用することは,いずれも,遊技機において興趣を向上させることを目的としていることは明らかであるところ,より興趣の向上を図るために,特定の賞と疑似報知の態様との対応関係をより複雑なものとすることは,当業者ならば容易に想到できることというべきであるから,これを組み合わせて,「各特定の賞に対応した複数種の疑似報知内容又は疑似報知の時期を有する請求項3記載の遊技装置」とすることに,当業者が格別の創意を要するとはいえない。
 3 本件訂正発明5について
 原告は,本件訂正発明5における内部当たり状態及び疑似内部当たり状態を設定するゲームの比率の数値には進歩性があると主張する。しかしながら,内部当たり及び疑似内部当たりの設定及び報知の頻度は,当業者が遊技者の意欲等を勘案してその好適範囲を適宜定め得るものであり,本件訂正発明5で設定された範囲についても進歩性を有するものではないというべきである。
 4 結論
 以上のとおり,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。


       知的財産高等裁判所第4部

          裁判長裁判官      塚  原  朋  一

             裁判官      田  中  昌  利

             裁判官      佐  藤  達  文