H17. 6. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10342 商標権 行政訴訟事件

平成17年(行ケ)第10342号 審決取消請求事件
平成17年6月9日判決言渡,平成17年4月26日口頭弁論終結


     判    決

 原 告 株式会社東洋新薬
 訴訟代理人弁理士 岡田全啓

 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 津金純子,井出英一郎  


     主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は,原告の負担とする。


     事実及び理由
(本判決においては,審決や書証等の記載を引用する場合も含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。)


第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が不服2003−6365号事件について平成16年9月7日にした審決を取り消す。」との判決。


第2 事案の概要
 本件は,原告が,後記商標登録の出願をしたところ,商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,「本件審判請求は成り立たない」との審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本願商標
 出願人:原告
 商標:「FLAVAN」の欧文字と「フラバン」の片仮名文字とを二段に横書してなるもの。
 出願日:平成14年4月11日(商願2002−29492号)
 指定商品:第29類「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品,食肉,食用魚介類(生きているものを除く),肉製品,加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」,第32類「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料,ビール,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス」(その後,平成14年12月25日付け手続補正書により,第29類「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品,食肉,食用魚介類(生きているものを除く),肉製品,加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」,第32類「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」と補正された。

)。
 (2) 本件手続
 拒絶査定日:平成15年3月10日(起案日)
 審判請求日:平成15年4月16日(不服2003−6365号)
 審決日:平成16年9月7日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成16年9月29日(原告に対し)
 2 審決の理由の要旨
 「本願商標は,「FLAVAN」及び「フラバン」の文字を書してなるところ,・・・該文字は,原審説示のとおり「植物界に分布する物質であるポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群」の意を表す語であると認めることができる。」
 「・・・「FLAVAN」及び「フラバン」の語は,近年,一般によく知られているカテキンやイソフラボンにならんで,抗酸化性,抗ガン性,血圧上昇抑制作用,抗菌・抗ウィルス作用,抗アレルギー作用の効能のあるポリフェノール中の1つであるフラボノイド系に分類される1化合物名を意味する語にすぎないものと認めることができる。

 そうであるならば,「FLAVAN」及び「フラバン」の文字を書してなる本願商標を,その指定商品中,「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品」及び「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料」に使用するときには,これに接する取引者,需要者は,その商品がポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンの成分を含有しているものであるという,単に商品の品質(成分),原材料を表示するにすぎないものと理解するに止まり,自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものとみるのが相当である。
 してみれば,本願商標は,その指定商品中,ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品に使用するときには,単に,商品の品質,原材料を表示するにすぎないものであり,前記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。

 したがって,本願商標が商標法3条1項第3号及び同法4条1項16号に該当するとして,本願を拒絶した原査定は妥当であって,取り消すことはできない。
 …請求人は,自他商品識別力は当該業界の商品との関係において判断されるべきであるところ,本願商標は,製造業者よりもエンドユーザーに比重がおかれた分野の商品であり,当該商品のパッケージにおいては薬品のように専門的な学術語を用いて効能,効果を説明することはないから,本願は自他商品識別力を有する造語からなるものと認められ登録されるべき旨主張しているが,本願商標は,前記のとおりと認められるから,これをその指定商品中,ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品に使用するときは,これに接する取引者・需要者がかかる商品の原材料名を表示したものと認識する可能性は極めて高いものといえ,さらに,このような原材料名のみからなると認められる商標は,誰しもその使用を必要とし,誰しもその使用を欲するといえるものであることから,一私人に独占を認めることは適当でないと認められることからも,本願商標を登録することはできないものと判断するのが相当であり,請求人の主張を採用することはできない。」 


第3 原告の主張の要点
 審決は,本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当すると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
 1 商標法3条1項3号該当性について
 (1) 審決は,インターネット上に開設された複数のホームページの記載等に基づき,フラバン(FLAVAN)は,「植物界に分布する物質であるポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群」であると認定した上で,本願商標の指定商品の需要者,取引者(以下「本件需要者・取引者」という。)は,その商品がポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンの成分を含有していると理解するにすぎず,自他商品の識別標章としての機能を有するものとは認識し得ないと判断した。
 (2) しかしながら,審決の上記判断は,以下の理由から誤りである。

 ア 審決が引用するホームページ等は,そのほとんどが専門的な文献である。その掲載内容はフラバン(FLAVAN)の化学的な構造式及び生物学的もしくは薬理的な効能の説明に止まり,本願商標の指定商品の原材料として利用し得る旨の記載はほとんどない。商標法3条1項3号に該当するかどうかを判断する主体は,一般世人及び本件需要者・取引者であるが,これらの者が上記ホームページ等を検索して閲覧したとしても,単なる専門的知識として認識するにすぎず,本願商標の指定商品の原材料を意味するとは認識し得ない。
 イ 本願商標を構成する欧文字「FLAVAN」は,英和辞典(甲2〜44)に掲載されておらず,本願商標を構成する片仮名文字「フラバン」は,国語辞典,カタカナ語辞典及び百科事典(甲45〜151)のいずれにも,掲載されていない。また,食品関係の辞典,名鑑及び便覧(甲152〜208)にも,「FLAVAN」又は「フラバン」という言葉は掲載されておらず,我が国の飲食関係のメーカーが開設したホームページ(甲209〜219)にも,各メーカーの商品の成分,原材料等として「FLAVAN」又は「フラバン」は掲載されていない。したがって,本件需要者・取引者は,「FLAVAN」又は「フラバン」が本願商標の指定商品の原材料であるとは認識し得ない。

 ウ 被告は,我が国における健康食品を取り巻く状況について縷々主張し,証拠として乙16〜52を提出する。しかし,これらの証拠には「FLAVAN」又は「フラバン」についての記載はないのであるから,被告の主張は単なる推認の域を出ないというほかない。また,被告は,乙68〜74に基づいて,「FLAVAN」又は「フラバン」という言葉が健康食品の原材料名として現実に使用されていると主張する。しかし,これらの証拠は,「FLAVAN」又は「フラバン」が他人の商標として使用されていることなどを示すのみであり,健康食品の原材料名として現実に使用されていることを示すものではない。
 エ 原告はサントリー株式会社との間で本願商標等の使用許諾契約を締結し,サントリー株式会社が販売を行っている「フラバン茶」は,商品として新聞等で取り上げられ,広く一般に認知されるようになっている(甲220〜297)。原告がサントリー株式会社にのみ本願商標の使用を許諾し,サントリー株式会社がフラバン茶を販売しても,お茶あるいはそれ以外の飲料等の市場において混乱が生じるおそれはない。したがって,本件では,原告が本願商標を使用する独占排他権を獲得して公益的損害が生じることはなく,商標法の目的を損なうことはないとの特殊な事情がある。

 オ 東京高裁平成12年10月25日判決(平成12年(行ケ)第164号,甲299)は,商標「紅豆杉」について単に商品の品質や原材料を表すものとはいえないと判断しており,商標「サラシノール」及び「ハーブカテキン」に関する審決(甲308〜310)も,当該商標が単に商品の品質や原材料を表すものではないと判断している。さらに,「フラバン」「フラバノン」等の語は,本願商品区分と異なる商品区分において,商標登録されている(甲311〜316)。これらの判決や審決に照らしても,本願商標は商標法3条1項3号にいう「原材料」に該当しないと解すべきである。
 (3) 以上のとおり,本件需要者・取引者は,本願商標が「ポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群」であるとは理解し得ず,自他商品の識別標識を有する商標として認識するというべきである。そして,本願商標が本件需要者・取引者により,将来一般的に使用される可能性があるということもできない。

 したがって,本願商標を指定商品中「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品」及び「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料」に使用する場合には,商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断は誤りである。
 2 商標法4条1項16号該当性について
 上記1のとおり,一般世人及び本件需要者・取引者は,本願商標が指定商品の品質,原材料であると認識し得ないのであるから,「フラバン」と「FLAVAN」の文字からなる本願商標を,指定商品中「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品」及び「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料」以外の本願指定商品に使用しても,これに接する需要者及び取引者は,これらの商品がポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンの成分を含有している商品であると誤認混同をすることはない。したがって,上記の場合に本願商標が商標法4条1項16号に該当するとの審決の判断は誤りである。


 第4 被告の主張の要点
 本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとの審決の判断には何ら誤りはなく,原告の主張は理由がない。
 1 商標法3条1項3号該当性について
 (1) 商標が商品の取引者,需要者に原材料名として認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることを不適当とする公益上の理由がある場合には,商標法3条1項3号にいう「原材料」の表示に当たると解すべきである。
 (2) 本願商標は,「FLAVAN」の文字と「フラバン」の文字を二段に横書きしてなるものであるところ,「フラバン」は「植物界に分布する物質であるポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群」を表すことは,審決記載のとおりである。
 (3) 近年における各種分野の科学の発達,我が国における国民の健康志向への高まり等があいまって,いわゆる健康食品といわれる商品分野においては,健康によいとされる様々な物質が研究開発され,これらを原材料とした健康食品が市場に多数出回り,複数のメディアを通じて宣伝広告され,あるいは書籍等で紹介され,一般の消費者の関心を集めている(乙16〜52)。

 そして,新たに開発された健康によいとされる化学物質,あるいは既存のビタミン,ベータカロチン,カルシウムなどの基本栄養素,タウリン,レシチン,ドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)等の化学物質は,健康食品等の商品の原材料として使用されている。
 食品の品質に関する適正な表示については,「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」があり,原材料の表示は使用された原材料が原則的にすべて表示されることになっている。また,「健康増進法」では栄養成分表示が義務づけられている。さらに,「食品衛生法」による食品の添加物の表示については,原則として物質名(化学物質の名前)を表示することになっている。これは,原材料名や物質名の表示が,消費者が商品の内容を正しく理解して食品を購入し,あるいは安全性等を考慮して適正に使用する上で重要な情報だからである(乙53〜61)。

 このように,化学物質の一般名称は,取引の実際の場において,商品の原材料を表示するものとして普通に使用されるものであって,健康志向が高まっている我が国の社会的状況に照らすと,一般の消費者においても強い関心を抱くことは疑う余地はなく,ひいては需要者の購買意欲を高める一手段となることも明らかである(乙62〜67)。
 (4) そして,「FLAVAN」又は「フラバン」が,今はまだ少ないながらも,現実に健康食品の原材料名として表示されている事実が存在することは,インターネット上のホームページの記載などから明らかである(乙68〜74)。
 (5) 原告は,判決例,審決例及び登録例を引用し,審決が誤っていると主張するが,登録出願された商標が登録され得るものであるか否かの判断は,個別具体的に行われるべきものであり,原告の挙げた登録例等も指定商品との関係や取引の実情等に則して個別具体的に判断され,登録されたものである。本願商標についても,その指定商品との関係や取引の実情を考慮し,個別具体的に判断されるべきである。また,原告が本件における特殊な事情として主張する点は,本願商標が商標登録されるべきか否かとは何ら関係のない事情である。

 (6) 以上によれば,「FLAVAN」及び「フラバン」の語が,化学物質の名称を表すものであって,健康食品の原材料として使用され得ることは,商品の研究開発者,取引者などの間において知られており,その語自体,自他商品の識別機能を有しないものであることは明らかである。このような化学物質の一般名称は,将来商品の原材料を表示するものとして普通に使用され,広く認識され得るものであるから,本願商標は,特定人に独占使用させることを不適当とする公益上の理由があるというべきである。
 したがって,本願商標の指定商品中,ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品について本願商標を使用する場合には,本願商標は,商標法3条1項3号にいう「原材料」に該当し,商標登録の要件を具備しない。
 2 商標法4条1項16号該当性について

 本願商標は,ポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンなる化学物質の名称を表すものであり,取引の実際において,商品の原材料として使用されているものであるから,仮に審決の時点で一般の消費者に化学物質の一名称として広く認識されていなかったとしても,一般の需要者がその名称を認知し,原材料表示であると理解するにさほど時間を要しないことは,明らかである。
 そうすると,本願商標を,その指定商品のうちポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきであるから,本願商標は商標法4条1項16号に該当し,商標登録の要件を具備しない。


第5 当裁判所の判断
 1 商標法3条1項3号該当性について
 (1) 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁,判例時報927号233頁参照。)。この趣旨に照らせば,本件審決時において,当該商標が指定商品の原材料又は品質を表すものと取引者,需要者に広く認識されている場合はもとより,将来を含め,取引者,需要者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,その商標は,同号に該当するものと解するのが相当である。

 (2) 審決の摘示するホームページ等の記載(審決書2頁28行〜5頁9行。同記載の存在については当事者間に争いがない。)及び証拠(乙9〜15)によれば,フラバン(FLAVAN)とは,植物界に分布する物質であるポリフェノールに属する水溶性の植物性色素であるフラボノイド系に分類される一つの物質群であり,同じフラボノイド系に分類される物質群であるカテキンやイソフラボンなどと並んで,抗酸化性,抗ガン性,血圧上昇抑制作用等の効能を有するとの事実が認められる。このように,フラバン(FLAVAN)はポリフェノールの一種ということができるのであるから,本願商標の指定商品中,「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品」及び「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料」に使用する場合においては,本願商標はその原材料又は品質を表示するものということができる。
 (3) そして,証拠(乙16〜52)によれば,我が国では,近年,高齢化社会の進展や生活習慣病の増加等を背景に,一般消費者の間にいわゆる健康食品への関心が高まるとともに,これらの健康食品に含まれ,抗酸化作用,抗ガン作用,血圧上昇抑制作用等の効能を有するとされる成分や物質が注目を集め,これらの成分等を用いた新商品が次々と開発され,メディア等を通じて一般消費者に対して紹介や広告宣伝が行われているとの事実を認めることができる。中でも,ポリフェノールは,抗酸化作用が強く,抗菌作用,血圧上昇抑制作用,抗ガン作用等があるとされ,赤ワインに含まれるアントシアニン,大豆に含まれるイソフラボン,お茶に含まれるカテキンなどは,メディアでも度々紹介され,これらは食品の原材料として一般消費者の間でも知られるようになってきていると認められる(乙8,16,22〜24,30,41,47,52)。
 (4) カテキンやイソフラボンと同様に抗酸化作用を有するポリフェノールの一種であるフラバン(FLAVAN)については,食品等の原材料として表示されることはまだ少ないながらも,インターネット上のホームページなどにおいて,「抗酸化ポリフェノールの一種」などとして現実に健康食品の原材料名として紹介されており(乙68〜74),加えて,前記のとおりの一般消費者の健康食品への関心の高さ,ポリフェノールの知名度,審決の指摘する「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」等による原材料の表示の義務付け等の事情を考慮すると,本願商標が,近い将来,本願商標の指定商品の原材料又は品質を表すものとしてその取引者や需要者に認識される可能性はあるというべきである(実際のところ,原告及び原告から本願商標等の使用許諾を受けたサントリー株式会社は,平成15年11月以降,メディア等を通じて,一般消費者に対し,フラバン(FLAVAN)がフランス南西部海岸の松の樹皮から抽出したポリフェノールの一種であり,健康によい様々な作用を有する成分であることを積極的に宣伝広告しており,現在では,一般消費者の間ではフラバン(FLAVAN)が本願商標の指定商品の原材料で
あるとの認識が一層広まっていると考えられる(甲223〜297)。)。
 そうすると,「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする粉末状・顆粒状・カプセル状・液状の加工食品」及び「ポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする清涼飲料」の原材料又は品質を表示したものである本願商標は,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであり,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないというべきである。
 (5) これに対し,原告は,審決の指摘したホームページ上の記載はそのほとんどが専門的な文献に止まり,その他の各種事典,便覧,ホームページ等を参照しても,本願商標に係る「FLAVAN」又は「フラバン」がその指定商品の原材料として使用し得る旨の表示がないことから,本件需要者・取引者は「FLAVAN」又は「フラバン」が本願商標の指定商品の品質又は原材料であるとは認識し得ないと主張する。しかしながら,前記判示のとおり,登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,必ずしも当該商標がその指定商品の品質又は原材料を表すものとして,取引者,需要者に広く認識されていることを要せず,将来において,需要者,取引者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があれば足りると解すべきである。原告の提出する証拠は,「FLAVAN」又は「フラバン」が,本件審決時点で本件取引者・需要者の間で,本願指定商品の原材料であると広く認識されていないことを示すにすぎず,本願商標が将来においてその指定商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があることを否定するに足るものということはできない。本願商標が,将来,本願商標の指定商品の原材料

又は品質を表すものとしてその取引者や需要者に認識される可能性があると認められることは,前記判示のとおりである。
 また,原告は,前記乙68〜74について,「FLAVAN」又は「フラバン」が健康食品の原材料名として表示されていることを示すものではなく,他人の商標を表示しているにすぎないなどと主張する。しかしながら,例えば乙68〜70に記載された「アライブ」という商品については,「成分」として「フラバン及び同類のフェノール化合物」と記載されており,乙71の「フランス・ボルドーのぶどう種子エキス末(OPC)加工食品」については「OPCの分子構造:FLAVAN(フラバン)-3-OL 2〜3量体」と記載されていることが認められるのであって,これらの記載は健康食品の原材料又は成分を示すものにほかならないというべきである。
 さらに,原告は,他の判決例,審決例及び登録例を引用し,審決の誤りを主張するが,登録出願された商標が登録され得るものであるか否かの判断は,個別具体的に行われるべきものであり,原告の挙げた判決例等の事実関係は本件とは異なるものであるから,本願商標が登録要件を満たすかどうかの判断を左右するものではない。また,原告が挙げる特殊な事情は,本願商標が商標登録されるべきか否かとは関係のない事情である。

 (6) 以上によれば,本願商標をその指定商品のうちポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品に使用するときは,商標法3条1項3号にいう「品質」又は「原材料」に該当し,商標登録の要件を具備しないとの審決の判断は是認することができる。
 2 商標法4条1項16号該当性について
 前記判示のとおり,本願商標は,ポリフェノールに属するフラボノイド系化合物フラバンなる物質の名称を表すものであり,本件取引者・需要者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性がある以上,本願商標を,その指定商品のうちポリフェノールを含有する植物エキスを主原料とする商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである。したがって,本願商標は商標法4条1項16号の「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けられないとした審決の判断も是認することができる。

 3 結論
 以上のとおり,原告の主張には理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。


  知的財産高等裁判所第4部


        裁判長裁判官 塚  原  朋  一

         
           裁判官 田  中  昌  利

      

           裁判官 佐  藤  達  文