◆H17.10.13 知財高裁 平成17(行ケ)10348 特許権 行政訴訟事件
平成17年(行ケ)第10348号 特許取消決定取消請求事件
平成17年10月13日判決言渡,平成17年9月22日口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社伊予エンジニアリング
訴訟代理人弁理士 安形雄三,五十嵐貞喜
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 杉山務,深沢正志,小池正彦,青木博文
主 文
特許庁が異議2003−70737号事件について平成16年10月1日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
本件は,特許を取り消した決定の取消しを求める事件である。
1 手続の経緯
(1) 原告は,平成11年11月9日,平成7年1月13日に出願した特願平7−19863号(原出願)の一部を「文字情報と画像の合成方法及びその装置」とする新たな特許出願(請求項の数6)とし,平成12年5月22日,発明の名称を「文字情報と地図画像の合成方法及びデータベース機能向上支援システム」に変更し,特許請求の範囲を変更するなどの補正(以下「本件補正」という。)をして,平成14年7月12日,その設定登録(特許第3327881号,以下「本件特許」という。)を受けた。
(2) 本件特許について,特許異議の申立てがされ(異議2003−70737号事件として係属),これに対し,原告は,平成16年6月14日,特許請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し,さらに,同年9月21日付け手続補正書により本件訂正に係る請求書の補正をした。
(3) 特許庁は,平成16年10月1日,「特許第3327881号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月20日,その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の要旨
(1) 特許出願時のもの(甲2の2)
【請求項1】 予め作成された地図情報に基づいて地図を表示する第1のステップと,当該地図上で所望の対象物の場所の指定を促す第2のステップと,前記地図上において指定された当該対象物の座標情報を,入力された利用者情報と関連付けて登録する第3のステップと,前記対象物を含む地図の部分を表示すると共に,前記当該利用者情報を前記対象物と関連付けて合成して表示する第4のステップとを有することを特徴とする文字情報と画像の合成方法。
【請求項2】 前記入力された利用者情報に含まれる文字情報を検索キーとして自動的に登録する第5のステップと,利用者により入力された文字情報を検査キーとして該文字情報が含まれる前記登録された利用者情報を検索する第6のステップと,前記検索された利用者情報に対応して登録されている対象物を含む地図の部分を表示すると共に,前記当該利用者情報を前記対象物と関連付けて表示する第7のステップとを有することを特徴とする請求項1に記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項3】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置が表示画面上の所定の位置に配置されるように表示領域を調整して表示することを特徴とする請求項1又は2に記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項4】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置を含む画像を表示する際,前記検索キーに対応する対象物の画像を当該位置に合成して表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項5】 前記第6のステップにより文字情報を検索キーとして画像上での当該位置を求めた後,前記第7のステップは,当該位置を含む画像を表示する際,前記検索キーに対応する対象物の領域部内を反転表示するようにした請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の文字情報と画像の合成方法。
【請求項6】 予め作成された地図情報に基づいて地図を表示する地図画像標示手段と,当該地図上で所望の対象物の領域を指定する対象物位置指定手段と,前記地図上において指定された当該対象物の座標情報を,入力された任意の文字情報を含む利用者情報と関連付けて登録する利用者情報登録手段と,前記入力された利用者情報に含まれる文字情報を検索キーとして自動的に登録する検索キー登録手段と,利用者により入力された文字情報を検査キーとして該文字情報が含まれる前記登録された利用者情報を検索する利用者情報検索手段と,前記検索された利用者情報に対応して登録されている対象物を含む地図の部分を出力すると共に,前記当該利用者情報を前記対象物と関連付けて合成して出力する利用者情報出力手段とを備えたことを特徴とする文字情報と画像の合成装置。
(2) 本件補正後のもの(甲2の1,下線部が上記(1)に対する訂正箇所である。)
【請求項1】 地図画像が格納された電子地図情報システムと利用者が所有する既存データベースとを利用して,該既存データベースの文字情報と前記地図画像とを合成して表示する文字情報と地図画像の合成方法であって,
下記のステップ(a)〜(d)により,文字情報,数字情報のデータをつかさどる簡易データベースを前記電子地図情報システム内に持たずに,前記文字情報と前記地図画像との合成表示処理をすることを特徴とする文字情報と地図画像の合成方法。
(a)前記既存データベースの文字情報を付加する対象物の領域を前記地図画像上にて指定するステップ。
(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。
(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき前記地図画像上での当該対象物の位置を求めるステップ。
(d)前記(c)のステップにより求めた位置情報に基づき,当該対象物を含む地図画像を読み出して表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示するステップ。
【請求項2】 前記(d)のステップは,文字情報を登録する際に,前記指定された一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できる共に,前記指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるようになっている請求項1に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項3】 前記文字情報と共に利用者のイメ−ジ情報を当該対象物の関連情報として付加できるようになっている請求項1又は2に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項4】 前記電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項5】 前記地図画像が,地図,設計図,各種構造物の構造図を含む図形の画像である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項6】 簡易データベースを持たない電子地図情報システムと利用者が所有する既存データベースとを連結してデータベース機能を強化するデータベース機能向上支援システムであって,請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法の発明を実現したことを特徴とするデータベース機能向上支援システム。
(3) 本件訂正請求による訂正後のもの(甲4の3,請求項1及び2に係るもので,下線部が上記(2)に対する訂正箇所である。)
【請求項1】 地図画像が格納された電子地図情報システムと利用者が所有する既存データベースとを利用して,該既存データベースの文字情報と前記地図画像とを合成して表示する文字情報と地図画像の合成方法であって,
下記のステップ(a)〜(d)により,文字情報,数字情報のデータをつかさどる簡易データベースを前記電子地図情報システム内に持たずに,前記文字情報と前記地図画像との合成表示処理をすることを特徴とする文字情報と地図画像の合成方法。
(a)前記既存データベースの文字情報を付加する対象物の領域を前記地図画像上にて指定するステップ。
(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ。
(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき前記地図画像上での当該対象物の位置を求めるステップ。
(d)前記(c)のステップにより求めた位置情報に基づき,当該対象物を含む地図画像を読み出して表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示するステップ。
【請求項2】 前記(b)のステップは,文字情報を登録する際に,前記指定された一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できる共に,前記指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるようになっている請求項1に記載の文字情報と地図画像の合成方法。
【請求項3】ないし【請求項6】 (2)と同一である。
3 審決の理由の要旨
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正は認められないとした上,請求項1ないし6に係る発明は,特許法17条2項,36条4項,5項に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,というものである。
(1) 訂正の適否についての判断
(1-1) 訂正請求に対する補正の適否について
平成16年9月21日付けの手続補正は,実質的に訂正事項7と訂正事項8の削除であるので,これを認める。
(1-2) 訂正の内容
平成16年6月14日付けの訂正請求書と平成16年9月21日付け手続補正書とから,特許権者が求めている訂正の内容は,以下のとおりである。
ア 訂正事項1
誤記の訂正を目的として,
2a; 特許請求範囲の請求項1中(特許公報1頁右欄1,2行)の「記憶する管理テーブルに登録する」を「文字情報記憶部に登録する」と訂正し,
2b; 請求項1中(特許公報1頁右欄3,4行)の「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」を「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」と訂正する。
これらの訂正2a,2bに伴い,請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため,誤記の訂正を目的として,
2c; 明細書の段落【0008】中の9,10行(特許公報3頁左欄17ないし19行)の「記憶する管理テーブルに登録するステップ;(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」を,「文字情報記憶部に登録するステップ;(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」と訂正する。
イ 訂正事項2
誤記の訂正を目的として,特許請求範囲の請求項2中(特許公報2頁右欄12行)中の「前記(d)のステップは」を「前記(b)のステップは」と訂正する。
ウ 訂正事項3
誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0006】最終行(特許公報2頁右欄42,43行)における「できなかった」を「できなかった。」と訂正する。
エ 訂正事項4
誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0015】1,2行(特許公報4頁左欄15行)における「図1のフローチャート」を「図2のフローチャート」と訂正する。
オ 訂正事項5
誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0021】2行(特許公報4頁右欄24,25行)における「図形情報G2に対応する文字情報がKEYG12」を「図形情報G2に対応する文字情報がKEYG21」と訂正する。
カ 訂正事項6
誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0025】8行(特許公報5頁左欄23行)における「当該の場所と対応付けて表示」を「該当の場所と対応付けて表示」と訂正する。
キ 訂正事項7
誤記の訂正を目的として,明細書の段落【0034】8,9行(特許公報6頁左欄9行)における「登録した文字時情報」を「登録した文字情報」と訂正する。
(1-3) 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1について
ア ステップ(b)について
上記訂正事項1は,請求項1中の(b)について,
「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」を
「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ。」と訂正することである。
この訂正事項を検討すると,
この(b)に記載されているステップは,発明の詳細な説明に記載されていないステップであるから,これをどのように訂正しても,誤記の訂正,明瞭でない記載の釈明にはならない。
すなわち,
(ア) 図10について
段落【0027】には,『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”〜“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。』と記載されている。
ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記載されていない。
図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を行うとき,テキストファイルTX1からの文字情報が,各検索キーと見なして,文字情報記憶部42に展開されたものが示されており,図8の文字情報記憶部42に示されているような,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群が示されているものではない。すなわち,発明の詳細な説明には,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力して,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群(図8の文字情報記憶部42に示されているような,)に,どのようにして登録するのかは明示されていない。また,当業者が通常に考えられることとも認められない。
(イ) 段落【0013】について
段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
この記載からでは,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて,図8に示されるように当該対象物の登録済みキー情報として登録することが,どのようになされるのか不明であり,ただ,文字情報が入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力されることが記載されているにすぎない。
(ウ) 段落【0019】について
段落【0015】〜【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法をフローチャートを参照して説明しており,一例として,関連情報をキーボード等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。」と記載されている。しかし,これらの段落には,「利用者の所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記載されていない。
(エ) このように,発明の詳細な説明には,「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ」については記載されていなし,「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ」についても記載されていないと認められる。
(オ) したがって,請求項1の(b)は,発明の詳細な説明に記載されていないことであり,これを誤記の訂正として,「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」を「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ。」と訂正しても,依然として,発明の詳細な説明に記載されていないものである。
よって,訂正事項1を誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明であるとは認めることはできない。
イ 「管理テーブル」を請求項1からなくす点について
「管理テーブル」は,発明の詳細な説明の記載によれば,発明の構成に欠くことのできない事項であり,段落【0013】には,「登録された図形情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」と記載されている。
したがって,「各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録する」を,「各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録する」と訂正することは,もともと,図形情報と文字情報とを対応付けて,管理テーブルに登録していたことを,文字情報記憶部だけが,管理テーブルとは関係なく文字情報と各対象物の領域情報と対応付けて登録することになる。
したがって,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであると認められる。
(1-4) むすび
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる,特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書き及び2項の規定に適合しないので,本件訂正は認められない。
(2) 特許異議の申立てについて
(2-1) 取消理由
平成16年4月5日付けで理由1(特許法17条違反について),理由2(特許法36条違反について),理由3(特許法29条2項違反について)及び理由4(特許法29条1項違反について)の取消理由を通知した。
(2-2) 判断
(2-2-1) 特許法17条違反について
(2-2-1-1) 請求項1について
ア 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の4頁26行〜5頁5行にて,『本件特許発明では,上記ステップS14における「付加する文字情報(検索キー)の指定」の方法として,図7に示すように,「関連情報をキーボード等から直接入力する形態」と,上記段落【0013】に記載されているように「ユーザデータベースから関連情報を入力する形態」との2つがあることが記載されており,前者に対応する図面が【図7】で,後者に対応する図面が【図10】であることは,図面の簡単な説明「【図7】本発明における文字情報の登録方法の第1の例を説明するための図である。」,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」の記載から明らかである。』と述べている。
しかし,段落【0013】に記載されていることは,「入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は」と記載されているだけである。
明細書の【図面の簡単な説明】の段の【図10】には,「【図10】本発明におる文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているが,発明の詳細な説明の図10に関する記載には,段落【0027】,【0028】に記載されているように,「ファイル指定」による検索についてしか記載されていない。
図面の簡単な説明に「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているからと言って,発明の詳細な説明に記載されていないことまでが,記載されているとはいえない。
段落【0013】にも,図10の説明の箇所にも,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は記載されていない。
イ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁5〜10行にて,『そして,段落【0018】における上記ステップS14の説明では,前者を例として説明しており,段落【0019】以降の図形情報と文字情報との対応付けの方法に関する説明を含め,【図2】の「本発明の文字情報と画像の合成手順を示すフローチャート」を用いた段落【0015】〜【0022】の説明が,上記2つの形態に共通する説明であることは,たとえ当業者でなくとも十分に理解できることである。』と述べている。
しかし,段落【0015】〜【0022】の説明は,関連情報をキーボート等から直接入力する場合の例が示されているだけであり,段落【0015】〜【0022】には,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」の記載は無い。
ウ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁11〜20行にて,『また,段落【0018】における上記ステップS14において,後者を例とした場合,【図10】(A)のデータベースD1内の文字情報群あるいは同図(B)のテキストファイルTXI内の文字情報群が,付加する文字情報群に該当することは,説明が省略されていたとしても,上述の各段落や図面の記載から自明な事項であり,また当業者であれば十分に理解できることである。
審判官殿は,明細書の一部の記載を捉えて,図10の記載が,前記(1)の手段(判決注:画像の任意の位置及び領域について関連する情報を付加する手段))に対応する記載ではなく,前記(2)の手段(判決注:付加した関連情報を検索キーとして画像の当該位置を検索する手段)に対応する記載である旨を主張しているが,上述した各段落及び図面の記載,【発明が解決しようとする課題】の記載など,特許明細書の全体を捉えて普通に解釈すれば,その主張が誤りであることは明らかである。』と述べている。
しかし,特許権者自身が認めているように,テキストファイルからの登録については,「説明が省略されていた」のであり,明細書の全体をとらえても,何処にも,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」に関することは記載されていない。
エ 特許権者は平成16年9月21日付けの意見書の5頁21行〜6頁16行にて,
『なお,段落【0027】以降の記載であるが,
(ア) 段落【0027】における【図10】の説明は,前記(2)の手段(判決注:付加した関連情報を検索キーとして画像の当該位置を検索する手段)の具体的な説明をするに先立って,「ユーザデータベースから関連情報を入力する形態」,すなわち,該当の場所に関連する文字情報を登録する際,ユーザデータベースから関連情報を入力する形態を説明しているものであり,
(イ) 段落【0028】中の「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,」の修飾先は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,」と,「作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」の両者で,後者は,「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成し,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」と説明しているものであり,
(ウ) 前記(2)の手段(判決注:付加した関連情報を検索キーとして画像の当該位置を検索する手段)の具体的な説明については,【図面の簡単な説明】に「【図3】本発明における画像位置の検索手順を示すフローチャートである。」と記載され,段落【0029】に「続いて,「ファイル指定」による検索開始指示がされた場合の検索処理について,図3のフローチャートを用いて説明する。」と記載されているように,段落【0029】以降から説明している,
とそれぞれ解釈するのが自然である。
このように,上記段落【0027】及び【0028】の記述が登録手順についてなされていると解しても不都合はなく,また,検索手順においても併用していると解するのが自然と考えられる。審判官殿のように,図10における文字情報の登録とは,検索手順のための検査キー情報の登録であると解釈すると,上述した段落【0015】〜【0022】の説明と,図7,図10の図面の簡単な説明の記載に不整合が生じることになる。』と述べている。
しかし,段落【0027】は,その記載『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。』からも明らかなように,「ファイル指定」による検索手順が示されているだけである。
段落【0028】も,『利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。』と記載されているように,検索のことが記載されていることは明らかである。
検索しているときに,登録することは通常ではあり得ないし,さらに,特許権者は,段落【0028】中の「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,」の修飾先で,意識的に「上記のように」を削除しているが,段落【0028】には,「上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した」と記載されており,この「上記」とは,通常はすぐ上に記載されている,検索時の説明のことと考えられる。したがって,特許権者が主張するように,『「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,」の修飾先は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,」と,「作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」の両者』であるとは考えられない。
このように,段落【0027】〜【0032】の記載にも,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は記載されていない。
オ 請求項1のステップ(b)は,新規事項の追加に該当するについて
特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の7頁25行〜9頁21行において,
『この指摘事項に対しては,「6−1の(3)訂正事項7,8に対する審判宮殿の判断について」の項で,ステップ(b)の構成要件に関する説明を詳述しているため,ここでは要点だけを述べる。
請求項1(訂正後)の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ」は,当初明細書の段落【0013】,段落【0019】並びに当初明細書に添付の【図10】に記載されていたものである。
・・・(中略)・・・
以上のように,訂正後のステップ(b)の構成要件は,当初明細書の段落【0013】,段落【0019】並びに当初明細書に添付の【図10】に記載されていたものである。そして,これらの段落の記載内容と図10の記載内容は,本件の原出願に添付された当初明細書(該当の段落の内容)及び図面の記載と同一である。
したがって,請求項1(訂正後)に係る本件特許発明は,本件の当初明細書等に記載されており,特許法17条2項に違反していないものである。』と述べている。
これについては,上記ア〜エで既に述べていることであり,本件の出願当初の明細書には,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は記載されていない。
(ア) 図10について
段落【0027】には,『次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”〜“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。』と記載されている。
ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記載されていない。
図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を行うとき,テキストファイルTX1からの文字情報が,各検索キーと見なして,文字情報記憶部42に展開されたものが示されており,図8の文字情報記憶部42に示されているような,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群が示されているものではない。すなわち,発明の詳細な説明には,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力して,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群(図8の文字情報記憶部42に示されているような,)に,どのようにして登録するのかは明示されていない。また,当業者が通常に考えられることとも認められない。
(イ) 段落【0013】について
段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
この記載には,文字情報が入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力されることは記載されているが,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて,図8に示されるように当該対象物の登録済みキー情報として登録することが,どのようにして行われるかは記載されていない。
(ウ) 段落【0019】について
段落【0015】〜【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法をフローチャートを参照として説明しており,一例として,関連情報をキーボード等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。」と記載されている。しかし,これらの段落には,「利用者の所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについては記載されていない。
このように,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。
(2-2-1-2) 請求項3について
特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の10頁2〜22行において,
『段落【0033】には,「上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。」と記載されており,この記載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共に色情報を関連情報として付加できると解釈すると,請求項3の内容は,段落【0033】に記載されていたと言うことができる。
一方,「関連情報の文字情報に換えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈したとする。
その場合,複数の文字情報を指定できることは,段落【0021】「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,…図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録することができる」に記載されている。
両段落の内容から,「請求項3は,段落【0021】及び【0033】に記載されていたものである」と言える。
すなわち,段落【0021】の記載からは,関連情報として「文字情報十文字情報」など,複数の文字情報を指定できることが記載されており,段落【0033】には,「関連情報の文字情報に換えて,イメージ情報を指定できる」ことが記載されていることから,「文字情報+イメージ情報」など,1以上の文字情報と1以上のイメージ情報とを組合せたものを,対象物の関連情報として指定できることは,当初明細書に明確に記載されていた内容である。
したがって,いずれにしろ,請求項3に係る本件特許発明は,当初明細書に記載されていたものである。』と述べている。
ここで,段落【0021】,【0025】,【0033】の記載を検討すると,
段落【0021】には,「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,複数の図形情報に対して同一の文字情報というように,図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録する」ことが記載されているが,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報として付加できる」ことは記載されていない。
段落【0025】には,「表示制御手段34は,図形G1の領域内を反転表示して該当の場所を明示する。ここで,該当の場所は,図形G1を合成して表示,或いは領域内を背景画像と異なる色で表示することで明示するようにしても良い。また,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良い。」と記載されており,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」とは何処にも記載されていない。
また,段落【0033】には,「文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでない。」と記載されているだけであり,特許権者が述べるようなことは,すなわち,「この記載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共に色情報を関連情報として付加できると解釈する」ことはできない。
このように,段落【0021】には,一つの図形情報に対して複数の文字情報を指定しても良いことが,段落【0033】には,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することが可能であることが,それぞれ記載されているだけであり,それを組み合わせることなどは何処にも記載されていない。
さらに付け加えるならば,一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録することは請求項2には記載されているが,請求項1には記載されておらず,請求項3は請求項1と2を引用しているので,特許権者の主張はその点においても誤っているものであると認められる。
したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。
(2-2-1-3) 請求項4について
特許権者は,平成16年9月21日付けの意見書の10頁27行〜11頁21行において,
『本件請求項4の上記構成である「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書の段落【0006】中に「従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては」と記載され,段落【0007】中に「本発明は上述した事情から成されたものであり,本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と画像の合成方法及びその装置を提供することにある」と記載されている。
すなわち,従来技術の記載は発明の前提となるものであり,本件特許では地図情報システム(GIS),FM,ナビゲーション・システムを前提としており,また,GIS,FM,ナビゲーション・システムの問題を解決することを目的としている。そして,このようなシステムの課題を解決するための発明の構成が,【実施例】に記載されていたものである。
なお,「移動体」の用語は,出願時においてナビゲーション・システムに関する公開特許公報等で一般的に使用されている用語であり,ナビゲーション・システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムであることは,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然と理解する事項(自明な事項)であると考えられる。
以上のように,請求項4における「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,本件の当初明細書等に記載されていたもの(若しくはその記載から自明な事項)であり,新規事項の追加には該当しない。』と述べている。
これについて検討すると,請求項4には「前記電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。」と記載されている。
発明の詳細な説明では,従来例において,ナビゲーション・システムが記載されているが,実施例の,電子地図情報システムをナビゲーション・システムに用いることは想像することができることであるが,しかし,明細書の実施例においては,電子地図情報システムが,ナビゲーション・システムであることは何処にも明記されておらず,さらに,実施例には受信した移動体の位置情報をどのようにして,電子地図情報システムに入力するのか具体的な構成は記載されておらず,また,移動体の位置を地図の画像上に表示する構成も明記されていない。
ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,【実施例】に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすることはできない。
したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。
(2-2-1-4) むすび
したがって,請求項1,3,4に係る発明は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条2項の規定する要件を満たしていない補正をしたものである。また,請求項2,5,6に係る発明は,それぞれ請求項1,3,4を引用しているので,結局これらのものも,特許法17条2項の規定する要件を満たしていない補正をしたものである。
(2-2-2) 特許法36条について
(2-2-2-1) 本件請求項1の構成要件である(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」について
特許権者は,意見書で,『請求項1に係る発明のステップ(b)「登録ステップ」の構成要件は本件特許明細書に記載されており(例えば,発明の詳細な説明の段落【0008】並びに段落【0013】,段落【0019】及び【図10】の記載参照),また,当業者であれば十分理解できる程度に明瞭に記載されている。』と述べている。
ア 図10について記載されている段落【0027】,【0028】には,
「【0027】次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”〜“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。
【0028】利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手段33では,テキストファイルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データを各検索キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部42に展開する。ここで,上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」と記載されている。
ここでは,「ファイル指定」による検索について記載されているが,「利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ」については記載されていない。
イ 段落【0013】について
段落【0013】には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」と記載されている。
この記載には,利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録することは記載されていない。
ウ 段落【0019】について
段落【0015】〜【0022】には,本発明に係る文字情報と画像の合成方法をフローチャートを参照として説明しており,一例として,関連情報をキーボード等から直接入力する場合が示されている。段落【0019】には,「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。図8は,情報記憶部4の構成例を示しており,管理テーブル43は,図形情報記憶部41に登録されている各図形情報の管理情報と,文字情報記憶部42に登録されている文字情報群のリンク情報とから構成される。」と記載されている。
しかし,これらの段落には,「利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ」については記載されていない。
エ まとめ
このように,本件請求項1の構成要件である(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定に違反する。
(2-2-2-2) 請求項2について
請求項2に記載されている「前記(d)」が,「前記(b)」に訂正されたとしても,請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定に違反する。
(2-2-2-3) 請求項1,2の特許法36条4項について
特許権者は,「本件請求項1,2に係る発明は,発明の詳細な説明に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されており,特許法36条4項の規定に違反しないものである。」と述べている。
しかし,例えば,請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」については,本件の明細書に記載されていないから,発明の詳細な説明に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているとは認められない。
(2-2-2-4) 請求項3について
上記ですでに述べたことであるが,段落【0021】には,「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,複数の図形情報に対して同一の文字情報というように,図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録する」ことが記載されているが,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報として付加できる」ことは記載されていない。
段落【0025】には,「表示制御手段34は,図形G1の領域内を反転表示して該当の場所を明示する。ここで,該当の場所は,図形G1を合成して表示,或いは領域内を背景画像と異なる色で表示することで明示するようにしても良い。また,文字情報を別ウィンドウでなく,同一ウィンドウ内に当該の場所と対応付けて表示(引出し線,矢印,符号等での対応付けにより表示)するようにしても良い。」と記載されており,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」とは何処にも記載されていない。
また,段落【0033】には,「文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでない。」と記載されているだけであり,特許権者が述べるようなことは,すなわち,「この記載を,文字情報と共にイメージ情報,或いは文字情報と共に色情報を関連情報として付加できると解釈する」ことはできない。
段落【0021】には,一つの図形情報に対して複数の文字情報を指定しても良いことが,段落【0033】には,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することが可能であることが,それぞれ記載されているだけであり,それを組み合わせることなどは何処にも記載されていない。
本件請求項3に記載されている発明について,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。したがって,請求項3は特許法36条5項の規定に違反している。
(2-2-2-5) 請求項4について
上記に既に記載したことであるが,請求項4には「前記電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の文字情報と地図画像の合成方法。」と記載されている。
発明の詳細な説明では,従来例において,ナビゲーション・システムが記載されているが,実施例の,電子地図情報システムが,ナビゲーション・システムであることは記載されておらず,実施例には受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムについては記載されていない。
ナビゲーション・システムが従来例に記載されていたからといって,【実施例】に記載されているのと同然と理解して,請求項4に係る発明とすることはできない。
このように,本件請求項4に記載された発明について,「電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである」についての記載は,発明の詳細な説明の従来例に記載されているのみであり,実施例には記載されていない。
したがって,請求項4に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,特許法36条5項の規定に違反している。
(2-2-2-6) まとめ
したがって,請求項1,2,3,4に係る発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく,また,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認められない。さらに,発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に構成を記載したものとも認められない,さらに,請求項5,6も請求項1乃至4を引用しているので,結局,請求項1ないし6に係る発明に対する特許は,特許法36条4項,5項に規定する要件を満たしていないものである。
(2-3) むすび
以上のとおり,本件請求項1乃至6に係る発明は,上記したように,特許法17条2項及び特許法36条4項,5項に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができない。
したがって,本件請求項1乃至6に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
第3 当事者の主張の要点
1 原告主張の決定取消事由
決定は,本件訂正の適否の判断を誤り(取消事由1),特許法17条違反及び36条違反についての判断を誤った(取消事由2及び3)ものであるから,取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(訂正の適否の判断の誤り)
決定は,「発明の詳細な説明には,「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ」については記載されていないし,「(b)前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するステップ」についても記載されていないと認められる。」とした上,「訂正事項1を誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明であるとは認めることはできない。」と判断した。
ア 訂正事項1の目的について
訂正事項1は,請求項1のステップ(b)に明白な誤記があり,また,不明瞭な記載があることから,これを訂正するためのものである。
請求項1のステップ(b)は,各文字情報を登録するステップを規定したものであって,登録する先を「管理テーブル」としている。しかし,本件補正後の明細書(甲2の1,以下「補正明細書」という。)の段落【0019】には,「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行い,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。」と記載されていること,補正明細書及び図面には,文字情報を管理テーブルに登録する構成等が記載されていないことに照らすと,登録する先を「管理テーブル」としているのは明らかに誤りであり,「文字情報記憶部」とするのが正しい。また,ステップ(b)は,各文字情報に対して,「記憶する」と「登録する」という2つの動詞が記載されていて,その主語が不明瞭なものとなっている。
イ 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」について
補正明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているから,図10は,本来,文字情報の登録方法の説明に使用されるべきものである。ところが,図10を引用する段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載があるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載が省略されており,その説明が不明瞭なものになっている。
しかし,補正明細書の段落【0027】は,「ファイル指定」による検索についての記載がされており,図10(A)には,文字情報群が格納されたユーザデータベースD1の例が示され,図10(B)には,改行データを区分情報としたテキストファイルTX1が示され,図10(C)には,テキストファイルTX1のファイル名を入力して検索指示を行うときに,テキストファイルTX1から読み込んだ文字情報を,各検索キーと見なして文字情報記憶部42に展開したものが示されている。また,段落【0028】には,「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」と記載されているところ,「テキストファイルから文字情報記憶部42に作成した」は,「検索する画像上の位置を表わす文字情報群」と「作画した図形に対して付加した文字情報群」とにかかる。そうすると,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテ
キスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていると解することができる。
ウ したがって,訂正を認めなかった決定は誤りである。
(2) 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)
ア 請求項1について
決定は,「請求項1の構成要件であるステップ(b)「前記利用者が所有する既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて記憶する管理テーブルに登録するステップ。」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
(ア) 本件の出願当初の明細書(甲2の2,以下「当初明細書」という。)の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明における【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,(1)イで主張したのと同じ理由で,当初明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていると解することができる。
(イ) したがって,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,当初明細書に記載されているのであって,請求項1に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
イ 請求項3について
決定は,「請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
(ア) 請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」とは,その技術内容からして,「文字情報と一緒に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」,又は,「文字情報及び利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との意味であり,文字情報と利用者のイメージ情報の両方を当該対象物に関連情報として付加できるということである。
(イ) 当初明細書の段落【0033】には,「上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。」と記載されている。
この記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈するならば,請求項3の内容は,当初明細書の段落【0033】に記載されていることになる。また,この記載を,「文字情報に代えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈するとしても,段落【0021】には「一つの図形情報に対して複数の文字情報(検索キー)を指定しても良く,・・・図形情報と文字情報との対応は任意に指定して登録することができる」と記載されているから,当初明細書の発明の詳細な説明には,関連情報として指定した「文字情報+文字情報」など複数の文字情報に代えて,イメージ情報を指定すること,すなわち,「文字情報+イメージ情報」など,1以上の文字情報と1以上のイメージ情報とを組み合せたものを対象物の関連情報として指定することができることが明確に記載されているということができる。
(ウ) したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,当初明細書に記載されているのであって,請求項3に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
ウ 請求項4について
決定は,「請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,本件の出願当初の明細書に記載されておらず,特許法17条2項に規定する要件を満たしていない。」と判断した。
(ア) 当初明細書の発明の詳細な説明には,【従来の技術】の項に,地図情報システムであるGIS,FM,ナビゲーション・システムの問題点がそれぞれ挙げられ,【発明が解決しようとする課題】の項に,その解決を図るのが本件発明であることが記載されている。そして,従来技術の課題を解決するための発明の具体的な構成が【実施例】に記載されている。
(イ) したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されているのであって,請求項4に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)
ア 請求項1について(特許法36条5項違反)
決定は,「請求項1の構成要件である(b)・・・の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定に違反する。」と判断した。
(ア) 上記(1)イのとおり,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについて記載されていると解することができる。
(イ) したがって,補正明細書の発明の詳細な説明には,請求項1の構成要件である(b)に関する事項が記載されているから,決定の判断は誤りである。
イ 請求項2について(特許法36条5項違反)
決定は,「請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることができないので,特許法36条5項の規定に違反する。」と判断した。
請求項2は,請求項1を引用しているところ,上記アのとおり,請求項1についての決定の判断は誤りであるから,請求項2についての決定の判断も誤りである。
ウ 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
決定は,「例えば,請求項1の構成要件であるステップ(b)・・・については,本件の明細書に記載されていないから,発明の詳細な説明に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているとは認められない。」と判断した。
補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件である(b)に関する事項が記載されているから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているのであって,決定の判断は誤りである。
エ 請求項3について(特許法36条5項違反)
決定は,「請求項3に記載されている発明について,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。したがって,請求項3は特許法36条5項の規定に違反している。」と判断した。
補正明細書の段落【0021】,【0033】の記載は,当初明細書のそれと同一であり,(2)イで主張したのと同じ理由で,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,補正明細書に記載されているということができるから,決定の判断は誤りである。
オ 請求項4について(特許法36条5項違反)
決定は,「請求項4に記載された発明について,「電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである」についての記載は,発明の詳細な説明の従来例に記載されているのみであり,実施例には記載されていない。したがって,請求項4に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,特許法36条5項の規定に違反している。」と判断した。
(ア) 補正明細書の発明の詳細な説明には,【従来の技術】の項に,地図情報システムであるGIS,FM,ナビゲーション・システムの問題点がそれぞれ挙げられ,【発明が解決しようとする課題】の項に,その解決を図るのが本件発明であることが記載されている。そして,従来技術の課題を解決するための発明の具体的な構成が【実施例】に記載されている。
(イ) したがって,請求項4に記載の発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されているから,審決の判断は誤りである。
2 被告の反論
決定に,本件訂正の適否に関する判断の誤りはなく,また,特許法17条違反及び36条違反に関する判断の誤りもないから,原告主張の取消事由は,理由がない。
(1) 取消事由1(訂正の適否の判断の誤り)に対して
ア 原告は,「請求項1中の「領域情報」が明細書の段落【0013】中の「図形情報」に該当する」と主張する(平成17年1月14日付準備書面(一)23頁12ないし19行)ところ,補正明細書の段落【0013】の「登録された図形情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」との記載において,図形情報を領域情報に置き換えると,「登録された領域情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」となるが,これは,訂正前のステップ(b)の記載とほぼ同じ内容である。そうすると,補正明細書の発明の詳細な説明には,訂正前のステップ(b)に対応する記載があるから,登録する先を「管理テーブル」としていることが誤りであるとはいえない。
イ 補正明細書の段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載があるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載はない。補正明細書の図面の簡単な説明に,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているが,上記段落【0027】の前後の文脈を考慮すれば,図面の簡単な説明が誤っていると解されるべきである。また,図10(c)の文字情報記憶部42に作成した文字情報群は,図8の文字情報記憶部42に作成した文字情報群とは明らかにデータ構造が違うから,当業者において,図10が文字情報の登録方法をも表していると解釈するとはいえない。そうであるから,補正明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されているということはできない。
ウ したがって,訂正を認めなかった決定に誤りはない。
(2) 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)に対して
ア 請求項1について
当初明細書の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明における【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,(1)イで主張したのと同じ理由で,当初明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されているということはできない。
したがって,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,当初明細書に記載されていないのであって,決定の判断に誤りはない。
イ 請求項3について
当初明細書の段落【0033】の記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈することは,どこにも記載されていない「共に」を挿入するものであって,関連情報の意味合いが全く異なるものとなる。また,この記載を,「文字情報に代えて,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈するとしても,段落【0021】の記載からすると,一つの図形情報に対して指定される関連情報は,複数の文字情報,任意のマーク等のイメージ情報,色情報などであるから,「一つの図形情報に対して文字情報と共にイメージ情報を関連情報として付加する」ことが記載されているとはいえない。
したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」ことは,当初明細書に記載されていないのであって,決定の判断に誤りはない。
ウ 請求項4について
当初明細書の発明の詳細な説明の【従来の技術】の項に,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」として,ナビゲーション・システムが記載されているが,請求項4に係る発明の電子地図情報システムを構成する図形情報登録手段,文字情報登録手段,画像位置検索手段,図形情報記憶部,文字情報記憶部等が,従来のナビゲーション・システムを構成する装置のどれにどのように対応するのかについては開示されていない。
したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されていないのであって,決定の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)に対して
ア 請求項1について(特許法36条5項違反)
補正明細書の段落【0027】には,ファイル指定による検索についての記載があるのみで,ファイル指定による文字情報登録についての記載はなく,また,段落【0013】,【0019】及び【図10】にもステップ(b)についての記載はないから,補正明細書の発明の詳細な説明に,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについて記載されているということはできず,決定の判断に誤りはない。
イ 請求項2について(特許法36条5項違反)
請求項2は,請求項1を引用しているから,請求項2に記載の発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとも,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認めることができないのであって,決定の判断に誤りはない。
ウ 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は記載されていないから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているとはいえないのであって,決定の判断に誤りはない。
エ 請求項3について(特許法36条5項違反)
補正明細書の段落【0033】の記載を,「文字情報と共に任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である」と解釈することは,どこにも記載されていない「共に」を挿入するものであって,関連情報の意味合いが全く異なるものとなるから,補正明細書の発明の詳細な説明に,「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」ことが記載されているということはできない。
したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから,決定の判断に誤りはない。
オ 請求項4について(特許法36条5項違反)
補正明細書の発明の詳細な説明には,電子地図情報システムにおいて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」を具体的にどのように実現するのかについての記載がなく,実施例に記載された装置をどのようにしたら,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムを構成することができるのかについて,当業者が容易に考えられるものではない。
したがって,請求項4に記載の発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから,決定の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について
(1) 訂正事項1の目的について
ア 訂正事項1の内容は,上記第2の3(1-2)アのとおりであり,平成16年6月14日付け訂正請求書(甲4の3)には,請求の原因として,「訂正事項1は,各文字情報を何処に記憶(登録)するのかの「何処に」の誤記を訂正し,且つ,「各文字情報を」に対して2つの動詞(「記憶する」,「登録する」)が記載されていたのを,1つの動詞(「登録する」)に正しく訂正するものである。そして,訂正後は,記憶(登録)先の名称が変わり,また,動詞が1つの正しい日本語となるだけであるため,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。」と記載されている。
イ 補正明細書の発明の詳細な説明には,「入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。登録された図形情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。」(段落【0013】),「関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。図8は,情報記憶部4の構成例を示しており,管理テーブル43は,図形情報記憶部41に登録されている各図形情報の管理情報と,文字情報記憶部42に登録されている文字情報群のリンク情報とから構成される。」(段落【0019】),「ここで,図8を参照して図形情報と文字情報との対応付けの方法の具体例を説明すると,まず,図形情報登録手段31が各図形情報G1,G2,G3を図形情報記憶部41に登録するときに,管理コードK1,K2,K3を付与し,管理コードと図形情報の格納アドレスG1a,G2a,G3aを管理テーブル43に登録する。そして,文字情報登録手段32が文字情報KEYG11〜KEYG32を登録するときに,該当の図形情報に対応する管理コードと共に文字情報を文字情報記憶部42に登録する。」(段落【0020】)と記載されており,また,図面の簡単な説明には,「【図8】本発明における情報記憶部の構成例を示す概念図である。」と記載され,図面の【図8】には,図形情報記憶部41に図形情報G1,G2,G3が登録され,文字情報記憶部42に管理コードK1,K2,K3と文字情報KEYG11〜KEYG32が登録され,管理テーブル43に管理コードK1,K2,K3と図形情報の格納アドレスG1a,G2a,G3aが登録されていることが示されている。
以上の記載によれば,文字情報は,図形情報(領域情報)に対応する管理コードと共に文字情報記憶部に登録され,管理テーブルには,文字情報それ自体ではなく,図形情報(領域情報)と文字情報との対応付けが登録されるものであるということができる。
ウ また,補正明細書の発明の詳細な説明には,「利用者は,表示部2a内のテキストボックスWaに検索キーを入力し,検索ボタンを指示する。検索ボタンが指示されると,画像位置検索手段33では,文字情報記憶部42に登録されている検索キーを検索し,登録されていれば,管理テーブル43を参照して対応する図形情報を図形情報記憶部41から読み込む。」(段落【0024】),「利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手段33では,テキストファイルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データを各検索キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部42に展開する。ここで,上記のようにテキストファイルから文字情報記憶部42に作成した,検索する画像上の位置を表わす文字情報群を「検索キー情報」と呼び,作画した図形に対して付加した文字情報群,すなわち,図8に示したように,管理コードが付与されて登録処理が成されている文字情報群を「登録済みキー情報」と呼ぶ。」(段落【0028】),「「ファイル指定」による検索開始指示がされると,画像位置検索手段33では,文字情報記憶部42内の「検索キー情報」の先頭(図10(C)の例では,KEYA)に位置付ける(ステップS21)。続いて,未チェックの検索キーがあれば,登録済みキー情報の先頭(図8の例では,KEYG11)に位置付ける(ステップS22,ステップS23)。」(段落【0030】),「検索キーと登録済みキーとが一致する場合は,管理テーブル43を参照して登録済みキーを持つ図形情報を図形情報記憶部41から取得し,図形情報に基づいて画像上での当該位置を求め,画像ファイル5から該当の画像情報を読み込む(ステップS27)。」(段落【0031】)と記載されている。
以上の記載によれば,入力された文字情報を検索キーとして検索をするのは,文字情報記憶部42に登録されている文字情報群であり,管理テーブルは,検索キーが登録されている(登録済みキーと一致する)ときに,これに対応する図形情報を図形情報記憶部41から読み込む際に参照されるものであるということができる。
エ そうであれば,請求項1の「(b)・・・記憶する管理テーブルに登録する」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」との記載は,それぞれ「(b)・・・文字情報記憶部に登録する」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」の誤記であると認められる(また,発明の詳細な説明の段落【0008】の「(b)・・・記憶する管理テーブルに登録するステップ;(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」記載も,「(b)・・・文字情報記憶部に登録するステップ;(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」の誤記である。)。したがって,訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであるということができる。
(2) 「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」について
ア 文字情報の登録について,補正明細書の発明の詳細な説明には,「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザーデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。」(段落【0013】),「続いて,利用者は,該当の場所P1に関連する文字情報の登録指示を行なう。図7は,関連情報をキーボード等から直接入力する場合の登録画面の一例を示しており,登録したい関連情報(=検索キー情報:本発明では,当該文字情報が該当の場所P1の検索キーとなる)を,表示部2a内のテキストボックスWaの中に入力する。」(段落【0018】)と記載されており,また,図面の簡単な説明には,「【図7】本発明における文字情報の登録方法の第1の例を説明するための図である。」,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載され,【図10】(A)にはデータベースD1が,【図10】(B)にはテキストファイルTX1が,【図10】(C)には文字情報記憶部42と管理テーブル43との関連が示されている。
イ 以上の記載によれば,文字情報の登録方法の第1の例として,図7に示される「キーボード等から直接入力する例」があり,第2の例として,図10に示されるテキストファイル化して入力する例があると認められる。ところで,第1の例については,段落【0018】,【0019】に詳細に説明されているが,第2の例については,図面の簡単な説明に,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されているものの,これを引用する段落【0027】には,「次に,「ファイル指定」による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ"KEYA"〜"KEYE"が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。
」と記載されており,これは,検索についての説明であるから,一見すると,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」との事項は,発明の詳細な説明に記載されていないといえなくもない。
ウ しかし,補正明細書の段落【0028】には,「利用者は,「ファイル指定」の検索コマンドを指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。」と記載されている。ファイル指定の検索は,検索コマンドの指示に続くファイル名の入力(あるいは選択)により開始されるから,段落【0027】の「例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ"KEYA"〜"KEYE"が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。」ことは,段落【0028】の検索コマンドの指示よりも前に行われるものであるが,必ずしも,検索コマンドの指示と一連の操作である必要はないと解される。
そして,補正明細書の図面の簡単な説明には,「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されていて,図10に示される方法が文字情報の登録に用いられることが明記されていることを併せ考えると,段落【0027】に記載される,ユーザデータベースD1から検索キーとなる文字情報を抽出してテキストファイルTX1に出力することを,検索のみに用いられるものではないと解したとしても,矛盾はない。なお,被告は,図10(c)の文字情報記憶部42に作成した文字情報群は,図8の文字情報記憶部42に作成した文字情報群とは明らかにデータ構造が違うから,当業者において,図10が文字情報の登録方法をも表していると解釈するとはいえないと主張するが,図10(c)の文字情報記憶部42も,図8の文字情報記憶部42も,共に文字情報を登録する文字情報記憶部であり,補正明細書において,それぞれの文字情報群のデータ構造が異なることをうかがわせるような記載はないから,当業者において,図10が文字情報の登録方法をも表していると解釈することはできると考えられる。
エ そうであれば,補正明細書に,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていないとはいえない。
(3) したがって,訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであり,かつ,補正明細書に記載した事項の範囲内であって,上記(1)に判示したところによれば,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるということもできないから,訂正事項1の訂正を認めなかった決定は誤りであり,取消事由1は,理由がある。
(4) そして,他に本件訂正が不適法なものであることについての主張立証はないから,以下には,本件訂正が適法なものであることを前提にして,審判において通知し,決定が支持した特許法17条違反及び36条違反についての判断の当否について判断する。
2 取消事由2(特許法17条違反についての判断の誤り)について
(1) 請求項1について
当初明細書の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明における【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,上記1(2)に判示したところに照らせば,当初明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていないとはいえないから,請求項1に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものである。
したがって,決定の判断は誤りである。
(2) 請求項3について
請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,当該対象物に対して,文字情報とイメージ情報とを共に登録できることを意味するものである。ところで,当初明細書の発明の詳細な説明の「なお,上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでない。」(段落【0033】)との記載は,上記のように,文字情報とイメージ情報を共に登録できることを前提にした記載であるというべきであり,少なくとも,文字情報に合わせてイメージ情報を付加できることを排除するものではないから,そこの記載からは,イメージ情報が付加されるときに文字情報が排除されるとまでは読むことができない。
したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,当初明細書に記載されているのであって,請求項3に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
(3) 請求項4について
当初明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と画像の合成方法及びその装置を提供することにある。」(段落【0007】)と記載されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地図情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,すなわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る発明は,当初明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。
したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されているのであって,請求項4に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。
3 取消事由3(特許法36条違反についての判断の誤り)について
(1) 請求項1について(特許法36条5項違反)
上記1(2)に判示したように,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについて記載されていないとはいえないから,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されているものである。
したがって,決定の判断は誤りである。
(2) 請求項2について(特許法36条5項違反)
請求項2は,請求項1を引用しているところ,上記アのとおり,請求項1についての決定の判断は誤りであるから,請求項2についての決定の判断も誤りであるといわなければならない。
(3) 請求項1,2について(特許法36条4項違反)
補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件である(b)に関する事項が記載されているということができるから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているものである。
したがって,決定の判断は誤りである。
(4) 請求項3について(特許法36条5項違反)
補正明細書の段落【0021】,【0033】の記載は,当初補正明細書のそれと同一であり,上記2(2)に判示したところに照らせば,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,補正明細書に記載されているということができる。
したがって,決定の判断は誤りである。
(5) 請求項4について(特許法36条5項違反)
補正明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的は,地図画像の任意の位置に対して,利用者が所有する既存の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と地図画像の合成方法及びデータベース機能向上支援システムを提供することにある。」(段落【0007】)と記載されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地図情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,すなわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。
したがって,決定の判断は誤りである。
第5 結論
以上のとおりであって,原告主張の決定取消事由はいずれも理由があるから,審決は取り消されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
野 輝 久
裁判官
佐 藤 達 文