H18. 3. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10651 商標権 行政訴訟事件

平成17年(行ケ)第10651号 審決取消請求事件(平成18年1月24日口頭弁論終結)
判 決
   
原 告 株式会社島津製作所
代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 喜 多 俊 文
同 江 口 裕 之
   
被 告 特許庁長官  中 嶋  誠
指定代理人 寺 光 幸 子
同 中 束 としえ
同 宮 下 正 之
主 文
        特許庁が不服2003−18040号事件について平成17年7月19日にした審決を取り消す。
        訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
    主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
    原告は,平成15年1月8日,「UVmini」の欧文字を普通に用いられる態様をもって横書きしてなる商標につき,指定商品を第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子計算機用プログラム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD−ROM,メトロノーム,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知器,ガス漏れ警報器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,スプリンクラー消火装置,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィル

ム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置」(同年7月30日付け手続補正書により補正されたもの。以下「本件指定商品」という。)として,商標登録出願をしたが(以下,この出願を「本件出願」といい,その商標を「本願商標」という。),同年7月31日(注,発送日は同年8月19日)に拒絶査定を受けたので,同年9月18日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2003−18040号事件として審理した結果,平成17年7月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をし,同年8月2日,その謄本を原告に送達した。
 2 審決の理由
    審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願商標は,欧文字の「UV」の文字と「mini」の文字を結合したことにより,特定の熟語的な観念が生ずるとはいえず,これを本件指定商品について使用しても格別顕著なところはなく,本願商標に接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識し得ないから,商標法3条1項6号に該当し,本件出願は拒絶されるべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
    審決は,本願商標が外観,称呼,観念において一体不可分であることを看過し,本願商標には自他商品識別力がないと誤認し,その結果,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとの誤った結論を導いたものであるから,違法として取り消されるべきである。

 1 本願商標の一体不可分性の看過
    審決は,「本願商標にあっては,欧文字の大文字2文字と『mini』の文字を結合したことにより,特定の熟語的な観念が生ずるともいえない」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)と認定したが,誤りである。
 本願商標は,全体として欧文字6文字からなるもので,それ自体分離しなければならないほど長い文字数のものでないばかりか,構成文字も同じ等間隔に配列されており,スペース等による分離箇所もなく,外観上まとまりよく一体的に表されているから,取引者,需要者が,これを「UV」と「mini」に分離して認識することはなく,常に一体として認識される。
 また,本願商標は,全体として「ユーブイミニ」と称呼しても格別冗長とはいえず,よどみなく一連に称呼することができる。「UV」は,審決の説示するとおり,「自己の製造,販売に係る各種商品について,その製品管理上又は取引上の便宜性から,欧文字の1文字ないし2文字,あるいはこれと数字を組み合わせたものが,商品の等級,品番等を表すための記号又は符号として商取引上類型的に使用されていることから,商品の等級,品番等を表すための記号又は符号の一類型と言うべきもの」(審決謄本2頁下から第3段落)であるので,取引者,需要者が,商品を購入する際に,何らの識別力のない「UV」だけを称呼することはあり得ないから,「ユーブイミニ」と一連に称呼されるものである。したがって,本願商標は,その構成文字全体,取引の実情からして「ユーブイミニ」の称呼しか生じない。

 さらに,本願商標は,上記外観,称呼上の一連性により,「ユーブイミニ」のみの称呼により自他商品識別力が生ずるものであり,審決のいうような,特定の熟語的な観念をもとに取引者,需要者が取引に当たることはない。特に,本願商標の指定商品を扱う分野においては,一般消費財を扱う分野とは異なり,取引者,需要者は,特定の称呼をもとに取引に当たるのが通常であり,商取引において,観念が重要視されることはない。
 2 自他商品識別力の誤認
   (1) 審決は,「これ(注,本願商標)をその指定商品について使用しても,格別顕著なところはなく,本願商標に接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」(審決謄本3頁第1段落)と判断したが,誤りである。
 原告は,平成10年10月26日,紫外可視分光光度計(UVmini)を同月27日から販売する旨記載した書面をマスコミに配布し,日本工業新聞は,同月27日付けの新聞においてその記事を掲載した。その後,原告は,平成11年3月開催の社団法人化学工学会第64年会附設展に,本願商標を付した商品を展示したのを始めとして,平成17年までの間,科学機器展,分析機器展,機械要素技術展,全科展,WEEE/RoHS総合対策セミナーに,本願商標を付した商品を出品し,また,分析機器総覧,科学機器ガイドその他の刊行物に,本願商標を付した商品等を掲載し,さらに,平成14年9月から平成17年3月までの間,本願商標を使用した商品のカタログを総数3万1000部発行した。

 本願商標は,その指定商品のすべてに使用されていたわけではないが,上記公報宣伝と,原告の著名性にかんがみれば,原告が商標を商品に付して製造・販売等をした場合には,その商標の機能はその使用している特定の商品を識別する機能にとどまらず,商標そのものから原告の業務に係る商品であることが認識され,あらゆる商品においても顕著な出所表示機能が発揮されるものである。
 したがって,本願商標は,原告によりその指定商品に使用されて周知となり,自他商品識別力を取得している。
   (2) 被告は,本願商標が紫外可視分光光度計に使用され,当該商品が本願指定商品に含まれる商品であるとしても,そこに使用されている商標は,常に「UVmini−1240」(一部「UVmini−1240V」の表示が使用されている。)であって,本願商標「UVmini」と異なる構成文字となっているので,同一商標とみることはできないと主張する。

 しかし,「UVmini−1240」の「1240」の部分がハイフンで区別されていることからも明らかなとおり,「UVmini」と「1240」は,構成上明確に区別され,しかも,「1240」は数字のみからなっているところ,このような数字は,取引者,需要者にあっては,商品における品番,型番等を表していると常に認識するものであり,このような商品の取引の実情等を考慮すれば,構成文字の「UVmini」が商標としての機能を果たす部分であり,すなわち,本願商標と同一である。したがって,被告の上記主張は,失当である。
 また,被告は,上記「UVmini−1240」と表示された紫外可視分光光度計は,原告を表す「株式会社島津製作所」等の名称,あるいは原告のハウスマーク(社標)によって,その商品の出所を表示しているものあって,「UVmini」の表示をもって自他商品を識別しているものとはいえない旨主張する。

 しかし,原告の名称や社章とともに「UVmini」を用いることにより,「UVmini」が原告の所有する商標であることの認識を取引者,需要者が持つことになり,「UVmini」という商標に接すれば,それが原告のものであることが直ちに想起されるのである。本件において,商標そのものが原告の所有の商標であることが認識されると,原告の著名性にかんがみ,少なくとも原告の属する業界及びそれに類似する業界,すなわち第9類に属する業界にあっては,いかなる商品において「UVmini」の商標が使用されようとも,「UVmini」より原告の業務に係る商品であることが認識できるというべきものである。
   (3) 被告は,本願商標を付している商品が紫外可視分光光度計に限られていることを考慮すると,本願商標がその構成において「紫外可視分光光度計」及びその他の指定商品について著名なものになっているとはいい得ない旨主張する。

 確かに,本願商標を付している商品が「紫外可視分光光度計」に限られていることは,被告の指摘するとおりである。しかし,原告が主張しているのは,「UVmini」そのものに原告の出所表示機能が化体しているという点である。すなわち,「UVmini」という商標に接すれば,それが原告のものであることが直ちに想起され,「UVmini」の表示をもって原告の業務に係る商品であることが認識されるから,自他商品識別力を有しているということである。
   (4) 被告は,商品の品番や型番等に記号又は符号として使用され,「紫外線」の略称としても使用される「UV」と,「小型の」の意味を有し,「小型の商品」を指称するものとして,普通に使用されている「mini」とを組み合わせた本願商標を,紫外線関連の商品を始めとする本願商標の指定商品について使用した場合,取引者,需要者は,品番若しくは型番が「UV」とされる小型の商品であること,又は,紫外線関連の小型の商品であることを認識するにとどまるので,自他商品を識別する標識としての機能を果たし得ないと主張する。

 しかし,被告の主張するとおり,「UV」及び「mini」のそれぞれは,広く知られている記号又は文字であるから,仮に,取引者,需要者が「ユーブイ」又は「ミニ」のみを称呼して取引に当たれば,識別機能が生じないことは明らかであって,取引者,需要者は,必ず「ユーブイミニ」と称呼するはずである。言い換えると,「UV」及び「mini」のそれぞれが広く知られ,使用されているからこそ,自他商品の識別のためには,外観とともに一連の称呼が重要となってくるのである。したがって,被告の上記主張は,失当である。
 また,被告は,本願商標より「ユーブイミニ」の称呼が生ずるとして一体不可分のものと認識されるかどうかということは,自他商品の識別機能との間に直接の関係はないと主張する。しかし,被告の主張は,自家撞着に陥っているのみならず,取引の実情を考慮しない誤ったものである。

   (5) 被告は,ローマ文字の1字又は2字からなる,商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標と,同項3号の商品の品質等を表示する標章との組合せよりなる商標は,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標として同項6号に該当する旨主張する。
 しかし,特許庁の審査において,例えば,本願商標の構成文字である「UV」を含むものでも,「UVカット」,「UVフレッシャー」等のように登録されているものがある(甲44〜51)。また,「U−NET」なる商標についても,「NET」の文字の前に「U−」の文字を配し,全体としてまとまりよく構成され,看者に既成の観念を想起させるともいい難いものであるとの理由で自他商品識別力を認めている(甲53)。このように,たとえ,ローマ文字1字又は2字よりなる標章に品質等を表示する標章を組み合わせた商標,あるいは,品質等を表示する標章にローマ文字2字若しくは記号等よりなる標章を組み合わせた商標であっても,画一的に商標法3条1項6号に該当すると扱われるものではない。

   (6) 被告は,原告は,特許庁における審査及び審判段階において,全く上記主張をしておらず,審決においても,この点については判断していないから,このような事項をもって審決が違法であるとする原告の主張は,時期を失したものであり,許されないと主張する。
 しかし,審決は,「これをその指定商品に使用しても,格別顕著なところはなく」(審決謄本3頁第1段落)と説示して,使用による自他商品識別性の判断をしているから,その判断に関する証拠等の提出は,当然に許されるべきものである。
第4 被告の反論
    審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 本願商標の一体不可分性の看過について
   (1) 本願商標は,その指定商品を考慮すると,本願商標構成中の前半の「UV」が欧文字2字の組合せからなり,それ自体極めて簡単な構成となっているところ,このような表示は,商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用されている欧文字2字の一類型とみられるものであって,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有し得ないものである。

 より具体的にいうと,例えば,UVライトメータに「UV−340」(乙10),紫外線測定器に「UV−MONI」(乙11),「紫外線治療器」に「UV−201」(乙5)との記載があり,該「UV」の文字が数字等と組み合わされて商品の品番,型番等として使用されている事実がある。また,例えば,パソコンについて「PC」の文字を冠した「PC−5NH02−XA4LA」,「PC−DT3131」等の記載(乙1),DVDプレーヤーについて「DVD」の文字を冠した「DVD−L10」,「DVD−A350」等の記載(乙2),ミニディスクについて「MD−80SX10」,「MD−80PX10」等の記載(乙3)がされている。このように,「パソコン」に「PC」,「DVD」に「DVD」,また「ミニディスク」に「MD」の欧文字2又は3文字を語頭部に付して商品の記号又は符号として使用されているところであり,また紫外線治療器や紫外線測定器に「UV」の記号又は符号を使用している実情があることからすれば,本願商標のように「UV」の文字を語頭部に配し「UV○○」と表示した場合には,商品における品番,型番等を表しているものと理解され得るものというべきである。
 一方,本願商標の構成中,後半の「mini」の欧文字は,「小型のもの」の意味合いを有する語であり,我が国において平易な英語として親しまれていて,しかも,「mini」を原語とする外来語「ミニ」も「小型の」を意味し,「小型の商品」を指称するものとして一般に親しまれた語でもある。
 そうすると,商品の品番や型番等に記号又は符号として使用され,また,「紫外線」の略称としても使用されている「UV」と,「小型の」の意味を有し,「小型の商品」を指称するものとして,普通に使用されている「mini」の欧文字を一連に表示してなる本願商標は,これを,指定商品について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,本願商標につき商品の品番,型番等及び小型商品であるということを表示したものと理解するにとどまり,何人かの業務に係る商品であることを認識し得ないから,本願商標は,自他商品の識別標識として機能し得ないものである。

   (2) 原告は,本願商標は,その外観,称呼及び観念の一連性により,全体が一体不可分のものとしてされるべきであり,「UV」と「mini」の組み合わせとして認識されるものでない旨主張する。
 しかしながら,本願商標は,構成する「UV」と「mini」の欧文字が,大文字と小文字という異なる表現により表されていることから視覚的に明確に分離して看取され得るものであり,しかも,いずれの文字もが,上記のとおり,それぞれの意味を理解させるものであって,「UVmini」の全体として何ら熟語的意味合いも理解し得ないものであるから,本願商標に接した取引者,需要者には「UV」と「mini」の文字にそれぞれ着目した観察と認識が生ずるのが自然である。
 仮に,原告が主張するように,本願商標より「ユーブイミニ」の一連の称呼が生じ,構成上一連に表されているとしても,その商標の構成態様,表されている文字から理解される意味合いを考慮すると,「UV」と「mini」の文字を認識し得ず,それらの意味合いを理解し得ないということは到底考えられないところである。なお,本願商標より「ユーブイミニ」の称呼が生ずるとして一体不可分のものと認識されるかどうかということは,自他商品の識別機能との間に直接の関係はないものである。

 2 自他商品識別力の誤認について
   (1) 商品の記号,符号等として随時採択,使用されているローマ文字の1字又は2字からなる標章は,商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標であるところ,このような標章と,例えば,同項3号の商品の品質等を表示する標章との組合せよりなる商標は,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標として同項6号に該当するものと解される。なお,同項の異なる号に該当する標章を組み合わせた商標であっても,その商標が使用された結果,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものに至っている場合は,同条2項により,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとして同条1項6号に該当する商標とすることはできないものと解される。

 本願商標は,「UV」の文字のみよりなる標章であれば,商標法3条1項5号に該当するとして,「mini」の文字のみよりなる標章であれば,同項3号に該当するとして,いずれも商標登録の要件を具備しないため登録をすることができないものであるところ,両者を組み合わせた全体としても自他商品の識別機能を有し得ないものであり,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるから,同項6号に該当するものというべきである。
   (2) 原告は,本願商標が,原告によりその指定商品に使用されて周知となり,自他商品識別力を取得していると主張する。
 しかし,原告は,特許庁における審査及び審判段階において,全く上記主張をしておらず,審決においても,この点については判断していないのであって,このような事項をもって審決が違法であるとする原告の主張は,時期を失したものであり,許されないものというべきである。

   (3) なお,原告の上記主張が許されるとしても,次のとおり,本願商標には自他商品識別力がない。
     ア 本願商標の周知性,識別性を示すものとして原告が提出した書証によると,本願商標は,紫外可視分光光度計に使用され,そこに使用されている商標は,常に「UVmini−1240」(一部「UVmini−1240V」の表示が使用されている。)であって,本願商標「UVmini」と異なる構成文字となっているのであり,これを本願商標と同一の商標とみることはできない。
     イ また,上記書証に表されている商品は,「紫外可視分光光度計」であるが,本願商標の指定商品は,「紫外可視分光光度計」以外の多くの商品が含まれているものであるから,原告は,使用した結果,取引者,需要者間に商標としての識別力を獲得していた商標をその使用していた商品について出願しているものとはいえない。

     ウ 原告は,本件において,商標そのものから原告の業務に係る商品であることが認識されると,原告の著名性にかんがみ,少なくとも第9類に属する業界にあっては,いかなる商品において本願商標が使用されようとも,原告の業務に係る商品であることが認識される旨主張する。
 しかし,「UVmini−1240」と表示された紫外可視分光光度計は,原告を表す「株式会社島津製作所」,「島津製作所」,「島津(紫外可視分光光度計)」又は「SHIMADZU」の文字もしくは原告のハウスマーク(社標)によって,その商品の出所が表示されているものあって,「UVmini」の表示をもって自他商品を識別しているとは考え難い。
第5 当裁判所の判断
 1 本願商標の一体不可分性の看過について
   (1) 証拠(甲1)によれば,本願商標は,欧文字「U」「V」「m」「i」「n」「i」が横一列に等間隔に配列されてなるものである。

 外観をみると,わずか6文字が横一列に等間隔に配列されてなるものであるから,「UVmini」と一体のものとして看取することができるのみならず,大文字で表された「UV」と小文字で表された「mini」の英文字とを組み合わせてなるものとして看取することもできるものである。
 称呼についてみると,本願商標は,全体として「ユーブイミニ」とのみ称呼するものであるが,格別冗長とはいえず,よどみなく一連に称呼することができるのであって,一体となった印象を与えるということができる。
 観念についてみると,「UV」の英文字が「ultraviolet」の略称であって,「紫外線」の意味を有するものであることは,当裁判所に顕著であり,また,「『mini』の文字は,『小型の』を意味する語として親しまれており,小型の商品を表す語として,広く使用されている語である」(審決謄本2頁下から第2段落)ことも,当裁判所に顕著な事実であり,当事者間にも争いがない。

 上記事実によれば,本願商標は,「紫外線」の観念を生じる「UV」の語と,「小型の」の観念を生じる「mini」の語が結合したものと看取することができ,本願商標が指定商品に付される場合,「紫外線」に関連する小型の商品であるという観念が生ずるものというべきである。
   (2)     審決は,「本願商標にあっては,欧文字の大文字2文字と『mini』の文字を結合したことにより,特定の熟語的な観念が生ずるともいえない」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)とする。
 しかし,一般的に,複数の語を組み合わせてなる商標においては,複数の語がそれを一体として観察することが取引上不自然であるといった特別の場合を除けば,一つの商標から複数の称呼,観念が生ずることがあり得る一方,全体が一体として称呼,観念されることもあり得るものというべきである(最高裁昭和36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁,最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・判例時報366号26頁参照)。

 本件についてみると,上記のとおり,「UV」と「mini」とがそれぞれの観念を有する語であるから,「UV」と「mini」とに分離されて称呼,観念されることが否定されるものではないが,一方,本願商標は,「UV」と「mini」とが,その間を区分する「−」,「・」などといった記号もなく,横一列に結合しており,全体として「ユーブイミニ」とよどみなく一連に称呼することができるのであって,外観,称呼において一体的に把握することが可能であり,その結果,一体として,「紫外線」に関連する小型の商品であるという観念が生じ得るものである。
 したがって,本願商標が,外観,称呼,観念において一体として把握し得ることを看過して,欧文字の「UV」の文字と「mini」の文字を結合したことにより,特定の熟語的な観念が生ずるとはいえないと断定した審決の認定は,誤りである。

   (3) 被告は,「UV」は,欧文字2字の組合せからなり,それ自体極めて簡単な構成となっているところ,指定商品を考慮すれば,このような表示は,商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用されており,例えば「PC」,「DVD」,「MD」,「VS」,「YK」などといった欧文字2字の一類型とみられるものであり,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有し得ない旨主張する。
 しかしながら,被告の例示する記号又は符号のうち,「VS」,「YK」は,それ自体何らの意味をも有するものではないのに対し,「PC」,「DVD」,「MD」は,それぞれ,英文字である「Personal Computer」,「Digital Versatile Disc」,「Mini Disc」の略称であって,「パソコン」,「デジタルバーサタイルディスク」,「ミニディスク」を意味するものとして周知の語である。

 前者の「VS」,「YK」は,それ自体何らの意味をも有するものではないから,これを取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として採択,使用する場合,商品の品番,型番等を表す記号又は符号としてのみ把握されるということは,あり得るところである。しかし,後者の「PC」,「DVD」,「MD」は,それぞれ,「パソコン」,「デジタルバーサタイルディスク」,「ミニディスク」を意味するものとして周知であれば,これを取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として採択,使用したとしても,単なる商品の品番,型番等を表す記号又は符号として把握されるものではなく,取引者,需要者であれば,その商品が「パソコン」,「デジタルバーサタイルディスク」,「ミニディスク」あるいはこれらに関連した商品であろうと考えるのが自然である。
      このように,欧文字2字からなる極めて簡単な構成であっても,それ自体で,周知の一定の観念を有している場合には,直ちに,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有し得ないとすることはできないものというべきである。
 本件についてみると,「UV」の語は,「紫外線」の意味を有するものとして周知であるから,仮に,これを商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用される場合があるとしても,取引者,需要者が「紫外線」に関連する商品であろうと考える可能性が高く,「UV」の語をもって,単なる商品の品番,型番等を表す記号又は符号であるとするのは,誤りである。
 したがって,「UV」の表示が,商取引上商品の品番,型番等を表す記号又は符号として一般的に採択,使用されているものであるから,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するものとして働くことはないとする被告の上記主張は,失当である。

 なお,上記のとおり,「UV」についての被告の主張の当否について検討したが,そもそも,被告の上記主張は,本願商標が外観,称呼,観念において一体として把握し得ることを看過し,本願商標の構成から「UV」を抽出して商標法3条1項5号に該当するか否かを論じているものであるから,前提において誤っていることは,上記(2)のとおりである。
 2 自他商品識別力の誤認について
   (1) 商標法3条は,商標登録の要件を定めたものであって,同条1項は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」とした上で,同項1号から5号まで自己の業務に係る商品又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙し,同項6号では,「各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と総括的な規定を置き,同条2項では,「前項第3号から第5号までに該当する商標であつても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる。」として,同条1項3号から5号までに該当する商標について,使用により識別力を取得したものにつき登録を受けることができるものと規定している。

 このような商標法3条の規定の仕方及び内容にかんがみると,同条1項は,登録出願された商標が,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」,すなわち,自他商品識別力を有していない商標である場合には,商標登録を受けることができないものとしているのであり,同項1号から5号までの規定は,当該商標の構成自体から「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない」と認められる典型的な商標を例示的に列挙するとともに,同項6号において,同項1号から5号まで例示的に列挙された商標以外の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」,すなわち,自他商品識別力を有していない商標を総括的,概括的に規定し,なお,取引の実情により自他商品識別力を取得していることが証明されれば,同項に当たらないとして登録を受けることができ,また,同項3号から5号までに該当する商標について,使用により識別力を取得した場合には,同条2項により,登録を受けることができることにしているものと解するのが相当である。
 したがって,同項6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」としては,構成自体が商標としての体をなしていないなど,そもそも自他商品識別力を持ち得ないもののほか,同項1号から5号までには該当しないが,一応,その構成自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないと推定されるもの,及び,その構成自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが,取引の実情を考慮すると,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものがあるということができる。
   (2) 本件についてみると,ローマ文字の1字又は2字からなる,商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標と,同項3号の商品の品質等を表示する標章との組合せよりなる商標は,それを一体として観察することが取引上不自然であるといった特別の場合がなければ,同項5号に該当するものでも,同項3号に該当するものでもないことが明らかであり,かつ,構成自体が商標としての体をなしていないなど,そもそも自他商品識別力を持ち得ないものともいえないことも明白であるので,本願商標が,その構成自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないと推定されるものであるか,あるいは,その構成自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが,取引の実情を考慮すると,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるか,について検討されるべきである。

   (3) 審決は,本願商標が商標法3条1項6号に該当することを理由付ける根拠の一つとして,「前記のとおりの構成(注,「UVmini」の構成)よりなる本願商標にあっては,欧文字の大文字2文字と「mini」の文字を結合したことにより,特定の熟語的な観念が生ずるともいえない」(審決謄本2頁最終段落〜3頁第1段落)としている。
 しかし,上記1(2)のとおり,本願商標は,外観,称呼において一体的に把握することが可能であり,その結果,一体として,「紫外線」に関連する小型の商品であるという観念が生じ得るから,審決の上記判断が誤りであることは,明らかである。
 そして,本願商標は,上記のとおり,構成自体が商標としての体をなしていないなど,そもそも自他商品識別力を持ち得ないものともいえないことが明らかであり,商標法3条1項1号から5号までのいずれにも該当しないことも明らかであって,その他,本件全証拠によっても,本願商標が,その構成自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとの推定が働くようなものと認めることは困難である。

   (4) 審決は,本願商標が商標法3条1項6号に該当することを理由付ける別な根拠として,「これ(注,本願商標)をその指定商品について使用しても,格別顕著なところはなく,本願商標に接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」(審決謄本3頁第1段落)としている。
 しかし,上記のとおり,本願商標は,その外観自体から自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとの推定が働くものではないから,取引の実情を考慮した場合に自他商品識別力を有するかを検討するまでもないところであるが,事案にかんがみ,検討しておく,
 証拠(甲1〜18)によれば,原告は,平成10年10月27日,「UVmini−1240」という標章を付した紫外可視分光光度計の販売を開始し,同日付けの日本工業新聞には,原告から紫外可視分光光度計の販売が発売される旨の記事が掲載されたこと,原告は,平成11年3月開催の社団法人化学工学会第64年会附設展に,上記標章の付された紫外可視自記分光光度計を出展したのを始めとして,平成17年までの間,日本化学会の展示会,日本薬学会の薬科機器展示会,分析機器展,機械要素技術展,全科展in東京2004等に上記標章の付された商品を出展したこと,平成14年から平成17年までの社団法人日本分籍機器工業会発行の分析機器総覧,2003/2004年版科学機器ガイド(大阪化学機器協会)には,原告が上記標章の付された商品を販売していることが掲載されたこと,原告自身,関西支社においてWEEE/RoHS総合対策セミナーを開催したほか,平成14年9月から平成17年3月までの間,上記標章の付された商品のカタログを多数発行したことが認められる。

 上記認定の事実によれば,原告は,平成10年10月以降,継続的に,「UVmini−1240」の標章の付された原告の業務に係る紫外可視自記分光光度計を宣伝,広告,販売し,展示会等にも出品していたことが認められ,したがって,本件指定商品に係る分野の取引者,需要者の多くが「UVmini−1240」の標章の付された原告の業務に係る紫外可視分光光度計に接していたものであり,このような取引の実情の下では,本願商標は,審決の時点で,原告の業務に係る商品である紫外可視分光光度計を示すものとして,取引者,需要者の間に広く知られるに至っていたものというべきである。そうすると,「本願商標に接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」ものとはいえず,審決の上記判断は,誤りである。
   (5) 被告の主張について
     ア 被告は,ローマ文字の1字又は2字からなる,商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標と,同項3号の商品の品質等を表示する標章との組合せよりなる商標は,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標として同項6号に該当する旨主張する。
 しかしながら,仮に,「UV」が商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標であり,「mini」が同項3号の商品の品質等を表示する標章であるとしても,これらの組合せよりなる商標は,その構成部分とは異なる別な商標であり,この組合せよりなる商標について同項6号に該当するかどうかの検討をしなければならない。したがって,同項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標と,同項3号の商品の品質等を表示する標章との組合せよりなる商標であることから,直ちに,同項6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」であるとの結論を導くことはできないのであって,被告の上記主張は,著しく論理が飛躍したものであり,失当というほかない。

     イ 本願商標が,原告によりその指定商品に使用されて周知となり,識別力を取得しているとの原告の主張に関し,被告は,審査及び審判段階において審理,判断されていない事項であるから,時期を失したものであり,許されない旨主張する。
 しかし,審決は,「これ(注,本願商標)をその指定商品について使用しても,格別顕著なところはなく,本願商標に接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」(審決謄本3頁第1段落)として,現に審決において自他商品識別力についての判断をしているのであるから,審判の審理範囲に包含されていることは明らかであり,仮に,審理において原告から主張されていなかったとしても,審決において上記判断をしている以上,その取消訴訟において,原告がその当否を争えないとすることはできない。

 被告の上記主張は,主張自体失当である。
     ウ 被告は,本願商標の指定商品は,「紫外可視分光光度計」以外の多くの商品が含まれているものであるから,原告は,使用した結果,取引者,需要者間に商標としての識別力を獲得していた商標をその使用していた商品について出願しているものとはいえないと主張する。
 しかし,ここで問題となっているのは,本願商標が,取引の実情を考慮した場合に,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないといえるかどうかであり,上記の「UVmini−1240」の商品記号が本件指定商品の一つである紫外可視分光光度計に付されていたことは,取引の実情を示す資料である。本願商標の指定商品は,「紫外可視分光光度計」以外の多くの商品が含まれていることは,商標法3条2項の問題とはなり得ても,上記立証とは関係がない。

 したがって,被告の上記主張は,採用の限りでない。
     エ 被告は,本願商標は,紫外可視分光光度計に使用され,そこに使用されている商標は,常に「UVmini−1240」(一部「UVmini−1240V」の表示が使用されている。)であって,本願商標「UVmini」とは異なる構成文字からなり,これを本願商標と同一の商標とみることはできないと主張する。
 しかし,上記のとおり,「UVmini−1240」の標章は,「UVmini」と「1240」との間にハイフンが存在し,このハイフンがその前後を区切るために使用されるものであることは,ハイフンの通常の意味からも,上記表示自体からも明らかである。しかも,「UVmini」と「1240」とでは,前者が圧倒的に重要な構成部分であり,もっぱら「UVmini」に識別機能があることが,構成自体から明らかであることからすると,「UVmini」のみによって簡略に称呼,観念されることが多いというべきである。したがって,被告の上記主張も採用の限りでない。

     オ 被告は,「UVmini−1240」と表示された紫外可視分光光度計は,原告の商号あるいはハウスマーク(社標)によって,その商品の出所が表示されているものであって,「UVmini」の表示をもって自他商品を識別しているとは考え難い旨主張する。
 上記(4)掲記の証拠によれば,「UVmini−1240」と原告の商号あるいはハウスマークとは,いずれの表示においても一見して明らかに区別され,一体として把握できるようなものでなかったことが認められる。そうであるならば,原告の商号あるいはハウスマークと本願商標が存在するからといって,これと別途に存在する本願商標の自他商品識別力が失われることになるものでないことは明らかであって,被告の上記主張は,失当である。
     カ 被告は,本願商標より「ユーブイミニ」の称呼が生ずるとして一体不可分のものと認識されるかどうかということは,自他商品の識別機能との間に直接の関係はないと主張するが,本願商標より「ユーブイミニ」の称呼が生ずるとして一体不可分のものと認識され得るとすれば,次に自他商品識別機能の有無が問題になるのであるから,商標法3条1項の規定を誤解しているというほかなく,失当である。

 3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,審決は取消しを免れない。
 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。


     知的財産高等裁判所第1部


                   裁判長裁判官     篠原勝美


                    裁判官      宍戸 充


                裁判官     柴田義明