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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

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平成28(ワ)11697  著作権侵害賠償等請求事件  民事訴訟 平成28年12月15日  東京地方裁判所(46部)

 有償講演を無断でネット配信したのが、公衆送信権の侵害として、1万円程度の損害賠償が認められました。原告が求めていたのは「ラスボス登場」という表記が名誉毀損というものですが、それは否定されています。
 被告は言語の著作物である本件講演をインターネット上の配信サイトで配信 したものであるから,被告の行為は本件講演に係る各原告の公衆送信権を侵害 する行為に該当する。 これに対し,被告は,本件配信は「時事の事件の報道」(著作権法41条) に該当するため原告らの著作権が制限され,公衆送信権侵害は成立しない旨主 張する。そこで検討すると,まず,この点に関する被告の前記主張を前提とし ても,本件講演それ自体が同条にいう「時事の事件」に当たるとみることは困 難である。これに加え,同条は,時事の事件を報道する場合には,当該事件を 構成する著作物等を「報道の目的上正当な範囲内」において「当該事件の報道\nに伴って利用する」限りにおいて,当該著作物についての著作権を制限する旨 の規定である。本件配信は,約3時間にわたり本件講演の全部を,本件コメン トを付して配信するものであるから,同条により許される著作物の利用に当た らないことは明らかである。 したがって,本件配信は上記公衆送信権を侵害するものと認められる。
・・・
原告は上記各コメントが原告Aの名誉又は声望を害するものであると主張す る。そこで判断するに,前記前提となるび弁論の全趣旨によれば,被告による本件講演の利用方法は本件講演の映像及び音声をそのまま公衆送信するというものであり,被告による本件コメントは 本件配信が行われるインターネットの画面上で上記映像の脇に表示されるにと\nどまると認められる。また,「ラスボス」との表現については,「最後のボス」\nを表現すると一応解し得るものであるが,原告らはこれが悪意を込めた用語で\nあると主張するものの,一般的にそのような意味合いで用いられていると裏付 けるに足りる証拠を提出していない。一方,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨に よれば,この表現は人の社会的評価を低下させる趣旨で使用されない場合もあ\nると認められるのであり,本件においても,前後の文脈及び別紙2記載のコメ ント内容に照らせば,原告Aの講演が本件講演会の見せ場であるという趣旨で 「ラスボス」との表現が使用されたと解する余地もある。さらに,被告による\n上記各コメント以外のコメントも原告Aの社会的評価を低下させるものである とは解し難い。そうすると,被告による本件講演の利用の方法が原告Aの名誉 又は声望を害するものであったと認めることはできないから,謝罪広告に関す る原告Aの請求は理由がない。
・・・
そこで,これにより原告らが被った財産的損害の額についてみるに,前記前 提となる事実に加え,証拠(甲1の1及び2,甲3〜5)及び弁論の全趣旨 によれば,本件配信は本件講演会の音声を主としており,本件配信に係る映 像は本件講演会の模様を認識できるものではないこと,原告Dの挨拶は約3 分,原告Cの挨拶は約10分であり,原告B及び原告Aの講演はそれぞれ約 1時間のものであり,その音声が全て配信されたこと,本件講演会の参加費 用は1人当たり1000円であり,被告はこれを支払って本件講演会に参加 したこと,本件配信は誰でも無料で視聴可能であるが,その総視聴者数は4\n37人であったこと,被告は本件配信の際,視聴者から配信時間を延長する ためのアイテムである「コイン」の提供を受けたのみであり,本件配信によ り経済的利益を得ていないこと,以上の事実が認められる。これらの事実を 総合すれば,本件講演の公衆送信権侵害による損害額は,原告A及び原告B につき各6万円,原告Cにつき1万円,原告Dにつき3000円と認めるの が相当である。なお,原告らは公衆送信権侵害による精神的損害の賠償も求めるが,本件の証拠上,上記損害額に加えて,原告らに賠償を認めるべき精神的損害が生 じたと認めることはできない。

◆判決本文

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平成28(ネ)10010  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年12月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(第4部)は、サポート要件違反として無効とした原審を維持しました。
 以上のとおり,Crの濃度変動があるか否か不明であるだけではなく,さらに, その濃度変動の程度も何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲット は,当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということは できないから,Crの濃度変動の有無及びその程度を何ら特定しない球形の合金相 (B)を含む特許請求の範囲請求項2に記載された本件発明2は,発明の詳細な 説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また,このような球形 の合金相(B)を含むターゲットが,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって,本件発明2に係る請求項2の記載は,サポート要件を満たしている とはいえないから,本件発明2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべき ものと認められる。

◆判決本文

関連事件です。こちらでは、請求項4はサポート要件を満たしていると判断されています。

◆平成27(行ケ)10261

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平成28(ネ)10060  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年12月14日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 経緯は以下の通りです。韓国における独占実施契約がなされました。ところが、国際出願について韓国における国内移行がなされていませんでした。裁判所は、契約の前提となる特許出願がなされていないことが、不法行為に該当するとして、損害賠償が認められました。なお、原審(H26(ワ)10203大阪地判)はアップされていません。
   以下によれば,敬晴会は,甲1契約の締結に当たり,信義則上,被控訴人に対し, 甲2発明が韓国において特許登録され得るものであるか否かに関する情報を調査・ 提供する義務(以下「本件情報提供義務」という。)を負うものと解される。
(ア) 前記1のとおり,甲1契約は,敬晴会が,被控訴人に対し,韓国において本 件皮膚再生医療技術を独占的に展開するために必要なノウハウ及び情報等を提供す るとともに,必要な知的財産権の実施を許諾(再実施許諾)するというものである から(第1条),実施許諾されるべき必要な知的財産権は,韓国において本件皮膚再 生医療技術を独占的に実施するために必要なものを指すと解される。 そして,甲1契約において,第1条を受けた第2条に甲2発明が挙げられている のであるから,甲2発明が上記の実施許諾されるべき必要な知的財産に含まれるこ とは,明らかである。さらに,甲2発明は,甲1契約において具体的に挙げられた 唯一の発明である上,本件皮膚再生医療技術に用いられる皮膚組織改善材等に係る ものであって,その内容(甲7の8参照)に照らしても,本件皮膚再生医療技術の 実施に当たり,当然に必要となるものと認められる。 そうすると,甲1契約の趣旨及び甲2発明の内容に照らし,韓国において,本件 ノウハウのみならず,甲2発明に係る技術を独占的に実施することができることは, 甲1契約の当然の前提であると解される。
(イ) そして,韓国における甲2発明に係る技術の独占的な実施は,同国において 甲2発明に係る特許権を取得することによって,可能となるものである。また,甲\n1契約の第2条には,「本基本契約において,『本件特許権等』とは,下記の特許権 及び甲(判決注・敬晴会)が今後所有権ないし実施権を取得する皮膚再生医療に関 する特許権のすべてを指す。」と記載された上で,甲2発明の出願番号が挙げられて おり,同記載内容から,甲2発明は,韓国において特許登録がされ得るものと理解 することができる。さらに,そもそも韓国において甲2発明に係る特許権を取得し 得ないことが明らかなのであれば,甲1契約によって同国における甲2発明の実施 の許諾を得る必要はない。 以上によれば,甲1契約は,甲2発明につき,韓国において特許取得のための手 続が採られ,特許登録がされる可能性のあるものであり,特許登録がされた場合に\nは,被控訴人においてその独占的実施許諾を受けられることを前提としていたもの と認められる。 そうすると,甲2発明が,韓国において特許登録され得るものかどうかに係る情 報(例えば,韓国における審査の進捗状況など)は,甲1契約の独占的実施の対象 となる権利に関するものであり,契約の重要な部分に当たるものであって,被控訴 人が甲1契約を締結するか否かを判断するに当たって必要とする情報であったもの ということができる。 (ウ) 一方,敬晴会は,甲1契約上,本件皮膚再生医療技術に関し,甲2発明を含 む名古屋大学が有する特許権に係る発明について,被控訴人に対し,再実施許諾を する立場にある。そうすると,甲2発明が韓国において特許登録され得るものであ るか否かは,甲1契約の対象となる独占的実施権に関する重要な情報であるから, 再実施許諾をする者としては,契約の相手方である被控訴人に対し,信義則上,上 記重要な情報を調査・提供する義務を負うものというべきである。
イ 敬晴会の本件情報提供義務違反について
前記1の認定事実によれば,名古屋大学が,本件国際特許出願につき,指定国と していた韓国において特許協力条約22条及び39条所定の期間内に国内移行手続 を行わなかったことから,同24条により,本件国際特許出願の効果は,韓国にお ける国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅し,甲2発明は,甲1契約 締結当時,既に韓国において特許登録を受けることができなくなっていた。 しかし,敬晴会は,これを代表する理事長である控訴人において,甲1契約の締\n結に当たり,上記のとおり甲2発明が韓国において特許登録を受けることができな くなっていたという事実を被控訴人に伝えなかったのであり,過失により,本件情 報提供義務を怠ったものと認められる。 そして,前記1の認定事実及び被控訴人代表者の供述(乙5)によれば,被控訴\n人は,1)名古屋大学が,同大学において開発した甲2発明を含む本件皮膚再生医療 技術につき,韓国内において独占的な権利を有し,あるいは,そのような権利を取 得するための手続を採り得る立場にあること及び2)敬晴会が,本件皮膚再生医療技 術に係る再実施許諾権を有しており,被控訴人に対して再実施許諾をすることを前 提として,甲1契約を締結したのであり,上記のとおり,甲2発明は,韓国におい て特許登録を受けることができなくなっていた事実を知っていれば,甲1契約を締 結しなかったものと認められる。 以上によれば,敬晴会が過失により本件情報提供義務を怠り,上記事実を被控訴 人に伝えなかった結果,被控訴人は,甲1契約を締結するに至ったものであるから, 敬晴会は,本件情報提供義務違反により,被控訴人に生じた損害を賠償する義務を 負う。

◆判決本文

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平成28(ネ)10067  楽曲演奏禁止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年12月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審も楽曲の翻案を否定しました。
 これに対し,控訴人は,原告楽曲と被告楽曲のBPM(テンポ)がほぼ同 じである点は,両楽曲のいかなる相違点をも打ち消すほどに,同一性を示す 根拠となる旨主張する。 しかし,楽曲についての複製,翻案の判断に当たっては,楽曲を構成する\n諸要素のうち,まずは旋律の同一性・類似性を中心に考慮し,必要に応じて リズム,テンポ等の他の要素の同一性・類似性をも総合的に考慮して判断す べきものといえるから,原告楽曲と被告楽曲のテンポがほぼ同じであるから といって,直ちに両楽曲の同一性が根拠づけられるものではない。そして, 上記で述べたとおり,両楽曲は,比較に当たっての中心的な要素となるべき 旋律において多くの相違が認められることから,被告楽曲から原告楽曲の表\n現上の特徴を直接感得することができるとは認め難いといえる。他方,両楽 曲のテンポが共通する点は,募集条件により曲の長さや歌詞等が指定されて いたことによるものと理解し得ることから,楽曲の表現上の本質的な特徴を\n基礎づける要素に関わる共通点とはいえないのであって,上記判断を左右す るものではない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。 また,控訴人は,両楽曲が実質的に同一の楽曲であることは,両楽曲の歌 と伴奏をそれぞれ入れ替えたもの(甲32及び33)が聴感上違和感なく再 生できることから明らかであるとも主張するが,そのようなことが,両楽曲 の同一性を直ちに根拠づけるものでないことは明らかであるから,甲32及 び33によっても,上記判断が左右されるものではない。 その他にも控訴人は,原告楽曲と被告楽曲が実質的に同一の楽曲である旨 をるる主張するが,以上説示したところに照らし,いずれも採用することが できない。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成27(ワ)21850

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平成28(行ケ)10093  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年11月7日  知的財産高等裁判所

商標「KIRIN」について、使用していたとの審判が維持されました。原告は、小笠原製粉株式会社で、ウェブサイトによると、「キリンラーメン」という商品を販売していますね。
 原告は,再使用許諾契約書は,1)提出された写しの契印の印影が各ペー ジで1つずつであり,しかも半分にすぎず,押印原本も提示されていない,2)再使 用許諾契約書が原使用許諾契約書に基づくものであれば,原使用許諾契約書が先に 作成されるはずだが,契約日は再使用許諾契約書が原使用許諾契約書に先行してお り,契約期間も,原使用許諾契約書が1年間であるのに対し,再使用許諾契約書は 半年間であることとは不自然である,3)原使用許諾契約書で被告がキリンホールデ ィングスに対して再使用許諾を認めた商標と,再使用許諾契約書でキリンホールデ ィングスがキリン協和フーズに使用許諾した商標とが一致せず不自然である,4)原 使用許諾契約書における使用許諾対象商標「KIRIN」に「麒麟」「キリン」が含 まれるとすることは,VIマニュアルの「KIRIN/キリン/麒麟」の使用区分 についての記載と整合しないし,再使用許諾契約書において「KIRIN」等を態 様の一部に含む商標及び「KIRIN」等と類似する商標について使用許諾するこ とは,VIマニュアルの「KIRIN」を変形したものの使用禁止に反する,と主 張する。 しかし,1)契約書の契印を,契約当事者全員が必ず行うという商習慣を認定する に足る証拠はなく,審判手続において提出する証拠の写しを作成する際,契印のみ が存在する契約書用紙の裏のコピーを省略することも,不合理ではない。 また,2)原使用許諾契約書の契約締結日について,被告は,平成25年12月1 日時点における使用許諾対象商標,再使用許諾先及び対価の確認,確定手続を当事 者間で完了した段階で契約締結したため,締結日が同年12月20日となったと主 張しており,そのような主張内容は不合理ではないことに加え,キリン協和フーズ による本件商標を含む被告所有商標の使用が,三菱商事への株式譲渡前から継続さ れていたのであって,新たに被告らの有する商標の使用を開始させるものではない ことからすれば,契約締結日が原使用許諾契約書と再使用許諾契約書とで異なるこ とは不自然ではない。原使用許諾契約書は,再使用許諾契約書の根拠となるもので あり,前者が後者より契約期間が長いことは,不合理ではない。 さらに,3)原使用許諾契約書と再使用許諾契約書との間で,許諾対象商標に文言 上の齟齬はあるが,許諾対象商標に「麒麟」「キリン」及び「きりん」が含まれる再 使用許諾契約書が作成された後に原使用許諾契約書が作成された上で,その許諾対 象商標が文言上「KIRIN」等となっていること,被告,キリンホールディング ス及びキリン協和フーズとの間で,許諾対象商標についての争いがあったとは認め られないことからすれば,原使用許諾契約書の「KIRIN」には,「麒麟」「キリ ン」及び「きりん」が含まれるものと被告及びキリンホールディングスとが合意し ていたものと解することができる(甲54参照)。

◆判決本文

◆関連事件です。

平成28(行ケ)10094

◆平成28(行ケ)10095

◆平成28(行ケ)10096

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平成28(行ケ)10054  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成28年11月7日  知的財産高等裁判所

手すりの部分意匠について、創作容易であるとした審決が維持されました。判決文中に本件意匠および引用意匠が提示されています。平面部の透明度がグラデーションで変化するというものです。
 (ウ) 透明の面板を手摺の構成部分に使用する場合において,下を白く着色\nして透明度を低く,上の透明度を高く,下から上にグラデーションにより透明度を 高く変化させることは,公然知られた模様又は色彩であり,これを合わせガラス面 板の模様又は色彩として手摺の構成部分である合わせガラス面板に付することは,\n当業者にとってありふれた手法であることは,前記(1)ウ(イ)のとおりである。 また,着色された部分の色調や透明度をどの程度とするか,透明度がグラデーシ ョンにより変化している部分をどの位置にするか,透明度がグラデーションにより 変化する幅をどの程度にするかについては,構成比率を変更するものにすぎず,こ\nれらの比率を,前記第2の2の甲1の透過率を説明する参考図や使用状態を示す参 考図のようにすることは,当業者にとってありふれた設定であることも,前記(1)ウ (イ)のとおりである。
そして,前記(イ)によれば,平板の合わせガラスを着色するに当たり,合わせガラ スを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層のみに着色し,2枚のガラ\nス板をその全面において透明にすることは,当業者にとってありふれた手法である。 したがって,仮に,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板であ る合わせガラスを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層に特定されて\nいることを前提としても,本件部分意匠は,意匠登録出願前に当業者が日本国内に おいて公然知られた形状と模様又は色彩の結合に基づいて容易に創作をすることが できたものといえ,意匠法3条2項に該当する。

◆判決本文

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平成28(行ケ)10047  審決取消請求事件  実用新案権  行政訴訟 平成28年10月31日  知的財産高等裁判所

 登録実用新案について、審決は進歩性なしと判断していましたが、裁判所は、引用発明の認定を誤ったとして、これを取り消しました。
 ウ 以上によれば,甲1考案は,以下のとおり,認定すべきである(なお,下線部は,審決の認定した甲1考案と相違する箇所である。)。「 高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に,内部に3重電極33が配設され,コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け,イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して,O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O−,O2(a1Δg),O−を生成し,イオン回転室24において,生成したO−に対し,3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」
エ したがって,審決の甲 1 考案の認定には,誤りがある。
・・・
(3) 以上によれば,本件考案と甲1考案の一致点及び相違点は,以下のとおり であると認められる。
【一致点】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し,活性酸素種を生成さ せることができる装置。
【相違点】
本件考案は,空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性 酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって,励起の手段が電磁コ イルであるのに対して, 甲1考案は,イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO−に 対し,イオン回転室24において,3重電極33及びコイル18によって発生した 回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成す る酸素ガスのオゾン発生装置である点。
・・・
イ 前記アのとおり,甲2及び甲3(甲45)のいずれにも,空気又は酸素 ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されているこ とが認められるものの,磁界のみを単独で印加することは記載されていない。
(2)ア 前記(1)イによれば,甲2又は甲3(甲45)に基づき,磁界のみを単 独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められない。 そうすると,甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても, 「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が,磁界のみをかけて回\n転運動を与えるという構成になるとは認められない。\n
・・・・
エ 以上のとおりであって,甲1考案において,励起の対象が「酸素ガス」 であり,その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて,\n励起の対象が「空気中の酸素分子」であり,その励起手段が「電磁コイル」である という構成を適用することは,動機付けを欠き,本件考案1は,甲1考案並びに甲\n2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすること ができたとはいえない。

◆判決本文

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平成28(行ケ)10143  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年12月8日  知的財産高等裁判所(3部)

 4条1項19号違反の異議理由ありとの審決が維持されました。
 上記1の認定に係る各事実によれば,原告は,平成8年7月頃から共同 事業者として本件事業に関与し,平成18年11月以降は本件委託契約に基 づき受託者として引き続き関与していたところ,平成25年2月時点で,遅 くとも平成26年12月31日までに本件委託契約が終了し,本件事業に係 る業務を東長寺に引き継ぐべき義務を負ったにもかかわらず,本件委託契約 期間中である平成26年2月12日に本件商標の商標登録出願をし,同年1 2月19日に設定登録を受けたものである。 また,本件事業は,「縁の会」会員に対する個人墓の販売終了により事業 が終了するものではなく,会員に対しその生前から死後に至るまで,様々な 宗教的行為等を継続的に提供するものであることに鑑みると,たとえ個人墓 の販売が完了したとしても,東長寺が本件事業の標識として引用商標を引き 続き使用し続ける必要があることは明らかであるし,仮に原告が本件商標の 設定登録をすることにより東長寺が引用商標を使用し得なくなると本件事業 の継続に重大な支障を来すおそれがあることも,容易に予想されるところで\nある。そして,上記のとおり本件事業に関わり,その内容等を熟知している 原告にとっても,これら点は当然予見し得る事情といってよい。\nしかも,原告が本件商標の設定登録を受けることにつき原告と東長寺と の間に合意があったことを裏付けるに足りる証拠はなく,むしろ遅くとも平 成26年5月頃には原告による本件商標の登録出願や他の宗教法人(常在寺) と組んでの「縁の会」の語を用いた類似事業の展開等を巡って東長寺との間 に紛争が生じていたことがうかがわれる(甲106,107)。また,原告 が本件商標権を設定登録し,その使用権を専有することになった場合,同一 商標である引用商標の使用には当然問題が生じ得ることになるのであるから, 本件事業の受託者であり,かつ,本件事業を東長寺に円滑に移行させる旨を 約束していた原告としては,設定登録に当たり,東長寺に対し,引用商標の 使用を許諾するなど,東長寺の地位に不安が生じないような配慮をするのが 当然であったといえるはずであるにもかかわらず,そのような配慮がされた 形跡は認められないのであって(甲107は,日付も入れられていない不完 全な文書であり,これによって引用商標の使用の許諾がされたとは認め難 い。),この点も,原告の背信性を裏付けるものであるといわざるを得ない。 これらの事情に加え,前記のとおり,本件商標と引用商標が同一の商標 といえること,本件商標の登録出願時に既に引用商標が東長寺の展開する本 件事業に係る標章として日本国内における周知性を獲得していたことを併せ 考慮すると,原告は,引用商標がいまだ商標登録されていないことに乗じ, これに化体された信用及び顧客吸引力にただ乗りし,他の宗教法人と展開す る本件事業類似の事業に本件商標を使用することで利益を得,又は本件事業 の継続に支障を生じさせて東長寺に損害を生じさせることを目的として本件 商標を使用するものと合理的に推認される。このことは,原告が真光寺とと もに本件事業類似の「真光寺縁の会」の事業を展開し,これについて東長寺 が了承していたことがうかがわれること(甲12の1〜4,12の8及び9, 12の12〜14,12の16,12の19,12の21〜24,12の2 6,12の28,12の30及び31,乙22,23,25,34,74, 75)を考慮しても異ならない。上記のとおり,原告が常在寺とともに展開 する「常在寺縁の会」の事業を巡っては東長寺と原告との間で紛争を生じて いると見られることに鑑みると,原告が引用商標を用いて本件事業に類似す る事業を展開することを東長寺が広く許容していたとは考え難いからである。 したがって,原告は,不正の目的をもって本件商標を使用するものと認 められる。
(2) これに対し,原告は,不正の目的はないとしてるる主張する。 しかし,原告が,東長寺との合意すなわち本件共同事業契約ないし本件 委託契約に基づき広報・広告活動を行い,その費用を支出し,また,本件事 業における会員組織の事務局の管理運営等を担っていたとしても,それ自体 は本件共同事業契約及び本件委託契約に基づく原告の債務の履行にすぎず, 本件商標の登録出願時及び設定登録時における原告の不正の目的の存在に関 する上記認定を覆すべき事情とは必ずしもいえない。

◆判決本文

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平成27(ワ)12415  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年12月2日  東京地方裁判所(40部)

 医薬品特許における「解離シュウ酸」は「緩衝剤」には当たらないとして、イ号は、技術的範囲外と判断されました。
 (1) 本件発明2における「緩衝剤」は,添加されたシュウ酸またはそのアルカ リ金属塩をいい,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝 剤」には当たらないと解することが相当である。理由は以下のとおりである。 (2)ア 化学大事典2(乙13)によれば,「緩衝剤」とは,「緩衝液をつくる ために用いられる試薬の総称」をいうものとされている。そして,広辞苑 第六版によれば,「試薬」とは「実験室などで使用する純度の高い化学物 質」であるところ,解離シュウ酸が「純度の高い化学物質」である「試薬」 に当たるとは考えがたいから,解離シュウ酸は一般的な意味で「緩衝剤」 とはいえないというべきである。
イ 次に,本件明細書2の段落【0022】には,「緩衝剤という用語は, 本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより 望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオD ACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸 性または塩基性剤を意味する。」と記載されている。 上記記載において,「緩衝剤」は,「酸性または塩基性剤」であると定 義されているが,広辞苑第六版によれば,「剤」とは「各種の薬を調合す ること。また,その薬。」を意味するから,「酸性または塩基性剤」は, 酸性または塩基性の各種の薬を調合した薬を意味すると考えることが自然 であるところ,解離シュウ酸は,「各種の薬を調合した薬」に当たるとは いえない。 ウ そして,本件明細書2の段落【0013】後段ないし【0016】には, オキサリプラチンが水性溶液中で分解してジアクオDACHプラチンを不 純物として生成することが記載されているが,オキサリプラチンが分解す ると,次の式のとおり,シュウ酸イオンとジアクオDACHプラチンが生 じる。また,証拠(乙39)によれば,分解により生じたシュウ酸イオン は,一部がプロトン化されてシュウ酸又はシュウ酸水素イオンになること が認められる。 したがって,オキサリプラチンの分解によりシュウ酸イオン等が生じた ということは,すなわちオキサリプラチン水溶液において不純物が生じた ことを意味するから,仮にオキサリプラチンの分解により生じた解離シュ ウ酸が「緩衝剤」に当たるとすると,緩衝剤が防止すべき分解により生じ たものが緩衝剤に当たるということになってしまい,上記イの「望ましく ない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプ ラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得る」という緩衝剤の定 義と整合しない。 エ 前記3(2)のとおり,本件発明2は,乙14発明よりも不純物が有意に少 ない,より安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とす るものである。 ところが,本件明細書2をみると,実施例18において生成される不純 物の量と比較して,シュウ酸を添加した実施例(ただし,実施例1及び8 を除く。なお,実施例1及び8は,後記(3)エのとおり,本件発明2の技術 的範囲に含まれる実施例ではない。)において生成される不純物の量は有 意に少ないことが示されている。ここで,実施例18は,豪州国特許出願 第29896/95号(1996年3月7日公開)に記載されている水性 オキサリプラチン組成物であるが,上記出願は,乙14発明に対応するも のであるから,実施例18は乙14発明と実質的に同一であると推認され る。 したがって,本件発明2は,乙14発明とは異なり,オキサリプラチン 溶液組成物に緩衝剤を添加したことによって,不純物が少なく,より安定 な溶液組成物を提供することができたことを特徴とする発明と考えるのが 自然である。
オ 本件明細書2には,実施例1ないし17については,シュウ酸が付加さ れていることが明記されている。また,本件明細書2(段落【0039】, 【0041】〜【0045】,【0047】,【0064】)では,実施 例1ないし17について,添加されたシュウ酸のモル濃度が記載されてい るが,解離シュウ酸を含むシュウ酸のモル濃度は記載されていない。 さらに,本件明細書2は,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリ プラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載は ない。 この点に関して原告は,構成要件2Gの数値範囲の下限(5×10−5M)\nが,本件明細書2記載の実施例1及び8で示された下限(1×10−5M) よりも大きいことをもって,請求項1は解離シュウ酸を考慮したものであ ると主張するが,本件明細書2には,1×10−5Mのシュウ酸を添加した オキサリプラチン溶液中のシュウ酸イオン等のモル濃度がどの程度になる かに係る記載は何ら存在しておらず,原告の上記主張は裏付けを欠く独自 の見解というほかない。 以上からすると,本件明細書2の記載においては,解離シュウ酸につい ては全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるも のであることを前提としているというべきである。 カ また,本件明細書2における実施例18(b)に関する記載をみると,「比 較のために,例えば豪州国特許出願第29896/95号(1996年3 月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以 下のように調製した」(段落【0050】前段),「比較例18の安定性」 「実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で 1ヶ月間保存した。」(段落【0073】)といった記載がある。そして, 前記エのとおり,豪州国特許出願第29896/95号(1996年3月 7日公開)は乙14発明と実質的に同一であるから,上記各記載を総合す ると,実施例18(b)は,「実施例」という用語が用いられている部分 が多いものの,その実質は本件発明2の実施例ではなく,本件発明2と比 較するために,「非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物」,すなわち,緩 衝剤が用いられていない従来既知の水性オキサリプラチン組成物を調製し たものであると認めるのが相当である。 そうすると,本件明細書2において,緩衝剤を添加しない水性オキサリ プラチン組成物に関する実施例18は,本件発明2の実施例ではなく,比 較例として記載されているというべきである。 キ さらに,証拠(乙64,65)によれば,本件特許2の出願人が,本件 特許2に対応する米国特許出願(乙64)について,米国特許庁に提出し た意見書(乙65)において,「甲等の水溶液組成物(本願21頁に記載 されている甲等の組成物(比較例18)についての安定性データを参照) において見出されるよりも有意に少ない量でこのような不純物を生成する オキサリプラチンのより安定な溶液組成物が,オキサリプラチンの溶液組 成物に有効安定化量の緩衝剤を加えることにより得られることを,出願人 は予想外にも見出したのである。」などと記載し,緩衝剤が添加されるも\nのであること及び実施例18が比較例であることを前提とした主張をして いたことが認められる。 また,証拠(甲36)によれば,本件特許に対応するブラジル特許出願 に関し,出願人が,ブラジル特許庁に提出した拒絶処分に対する不服申立\nてにおいて,「本願発明にあるシュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物 が発生しないということである。」と,緩衝剤を添加する旨の主張をして いたことが認められる。 これらのことは,本件発明2においても,緩衝剤とは添加されたものに 限られると解されることの裏付けとなる事実であるというべきである。

◆判決本文

関連事件(同一特許、異被告)です。

◆平成27(ワ)28699等

◆平成27(ワ)29001

◆平成27(ワ)29158

同一特許の別訴事件で、1審(平成27(ワ)12416号)では技術的範囲内と判断されましたが、知財高裁はこれを取り消しました。

◆平成28(ネ)10031

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平成28(ワ)16340  商標権侵害差止等反訴請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年11月24日  東京地方裁判所

 極真空手に関する商標権侵害事件について、権利濫用と判断されました。
  E は,Bの死亡後も反訴被告各標章の使用を継続し,平成6年な いし平成7年までの間,複数の極真関連標章について商標登録出願を し,自己名義の商標登録を受けた。 (イ) C及びBの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成1 4年,E を被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用す ることにつき,E の商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確 認等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第10 18号)。 同裁判所は,E の上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不 存在確認請求を認容し,その控訴審である大阪高等裁判所も,平成1 6年9月29日,同旨の理由により E の控訴を棄却した。 (ウ) D及びBの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成1 4年,E を被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用す ることにつき,E の商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確 認等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第16 786号)。 同裁判所は,平成15年9月29日,E の上記商標権の行使が権利 濫用であるとして上記不存在確認請求を認容した。 (エ) 反訴原告Aは,平成16年1月15日,E が商標登録を受けた極 真関連商標の一部について無効審判を請求したところ,特許庁は,E の受けた商標登録が商標法4条1項7号に反するものであるとして, 同年9月22日付けで登録を無効とするとの審決をした。これに対し, E は,上記審決の取消を求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した が(同庁平成17年(行ケ)第10028号),同裁判所は,平成18 年12月26日,E の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
(2) 前記前提事実及び上記認定事実を踏まえ,反訴原告らの請求が権利濫用 に当たるか否かを検討する。
ア 本件各商標に類似する反訴被告各標章は,前記第2の1(2)ウのとお り,遅くともBの死亡した平成6年4月26日から現在に至るまで,空 手及び格闘技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表\nすものとして広く知られているところ,このような反訴被告各標章の周 知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対しては,上記(1)認定事実ア, イ及びエのとおり,Bの生前・死後を通じ,長年にわたって極真空手の 教授や空手大会の開催等を行ってきたB及びBから認可を受けたCらを 含む極真会館の支部長らの多大な寄与があったと認められる。 他方,反訴原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を 取得して極真空手の教授等を行っている。しかしながら,Bは後継者を 公式に指名することなく死亡し ているところ(上記(1)認定事実ウ (ア)),極真会館において世襲制が採用されていたこともうかがわれず (なお,上記(1)認定事実ア(イ)のとおり,規約には館長や総裁の地位 の決定や承継に関する定めはない。),他にBの相続人である反訴原告 Aを極真会館におけるBの後継者であると認めるに足る証拠はない。そ うすると,反訴原告Aにより設立された反訴原告会社は,極真会館の分 裂後にCらにより設立された反訴被告と同様,極真会館を称して極真空 手の教授等を行う複数の団体の一つにすぎないというべきである。 さらに,反訴原告らは,平成6年4月26日のBの死後,Cらやその 他の極真会館関係者らが極真関連標章を付して極真空手の普及活動を行 ってきたことを長年にわたり認識していたにもかかわらず,早期に本件 各商標に係る商標登録出願を行っていないのであって(反訴原告らが同 商標登録出願を行ったのは,前記第2,1(3)のとおり,平成15年以 降である。),同出願を行わなかったことに合理的な理由があったとも 認められない(これに対し,反訴原告らは,本件各商標の登録に先立ち, E の登録商標の抹消及びBの遺言が無効であることを明らかにする手続 が必要であった旨主張するが,反訴原告らの商標登録出願のためにそう した手続が必要であったとは認めることができない。かえって,E の商 標が抹消された時期は,前記第2の1(3)及び上記(1)のカ(エ)のとおり, 少なくとも反訴原告らの本件商標1〜5の各出願日より後の日であるし, また,前記第2の1(3)及び上記(1)ウ(ウ)のとおり,反訴原告らの本件 各商標の各出願日は,いずれもBの遺言が無効であることが確定した後, 少なくとも6年以上が経過した後の日であって,反訴原告らの上記主張 は,このような客観的経過とも整合しない。)。 こうした事情を総合考慮すると,反訴原告らが反訴被告に対し,本件 各商標権に基づき,極真関連商標である反訴被告各標章の使用を禁止す ることは権利の濫用に当たると解すべきである。
イ これに対し,反訴原告らは,1)反訴原告Aが極真関連標章の主体たる 地位を承継した,2)Cらは,Bの生前,Bの許諾を得て既に周知性・著 名性を獲得していた極真関連商標を使用していたにすぎず,Bの死後に は,所属していた一般社団法人国際空手道連盟極真会館とトラブルを起 こして,同会館を除名又は退会となっている,3)極真関連標章の周知性 及び著名性の維持等に対するCらの寄与があったとしても,Cらとは別 の権利義務主体である反訴被告が反訴被告標章を使用して良いことには ならないと主張する。 しかしながら,上記1)については,Bは生前,極真関連標章に係る商 標登録出願をしていないから,極真関連標章の主体たる地位が相続の対 象となる財産権であるとはいえない。また,周知に至った極真関連標章 があったとしても,それは反訴被告各標章と同様に極真会館又はその活 動を示すものとして周知になったものというべきであるから,少なくと もB個人ではなく極真会館の総裁兼館長としてのBに帰属する法的利益 であると解すべきであるところ,上記アのとおり,反訴原告Aを極真会 館におけるBの後継者であるとはいえないのであって,反訴原告Aが, 極真関連標章の主体たる地位を承継したと認めることはできない。 次に,上記2)については,Cらが極真会館の支部長に就任した時点で 反訴被告各標章が既に周知性・著名性を獲得していたと認めるに足る証 拠はなく,かえって,上記(1)認定事実ア,イ及びエのとおり,反訴被 告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大について,Bのみな らずCらを含む支部長らの多大な寄与があったことが明らかである。な お,Cらは,Bの死後,反訴原告Aと対立し,所属していた団体を除名 又は退会となったことが認められるが(甲75,乙2),このことが直 ちにCらの上記寄与を否定する事情であるとは認め難い。 さらに,上記3)については,上記(1)エ(イ)のとおり,反訴被告がC らによって設立された団体であること,Cらが反訴被告の理事長及び理 事を務めるとともに,Cらが従前運営していた道場も反訴被告に加盟し ていることなどに照らせば,反訴被告は,Cらの運営に係る道場及び同 道場における空手教授等の活動についてもこれを承継したものと認めら れる。そうすると,Cらと反訴被告が別の権利義務主体であることが, 直ちに上記判断を左右するものではない。

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平成27(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年12月6日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、実施可能性違反なしとした審決が維持されました(知財高裁3部)。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\nその趣旨は,特許制度が,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当 該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであることに鑑み,その制 度趣旨が損なわれることがないよう,発明の詳細な説明に当該請求項に係る 発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載を求めるとした\n点にある。 そして,特許法上の実施とは,1)物の発明にあっては,その物の生産,使 用等をする行為であり,2)物を生産する方法の発明にあっては,その方法に より生産した物の使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号,3号), 実施可能要件を満たすためには,それぞれ,明細書及び図面の記載並びに出\n願当時の技術常識に基づき,当業者が,1)当該物を生産できかつ使用できる ように具体的に記載すること,2)当該方法により物を生産できかつ使用でき るように具体的に記載することが必要である。 本件訂正発明は,同1,3,5,7,8が炭酸飲料という物の発明であり, 同9が炭酸飲料の製造方法という物の生産方法に関する発明であるから,こ れらの発明が実施可能要件を満たすためには,それぞれ,上記1)又は2)を満 たす必要がある。
(2) かかる実施可能要件に関し,原告は,「可溶性固形分」,「高甘味度甘味\n料によって付与される甘味の全量」及び「甘味量」の技術的意義が本件訂正 明細書の記載から把握できず,また,甘味の相対比が不明確であるため,甘 味の相対比に基づいた本件訂正発明における「全甘味量」,「高甘味度甘味 料によって付与される甘味の全量」及び「スクラロースによって付与される 甘味量」の数値範囲も不明確であって,そのような不明確な数値範囲の技術 的意義も理解できないため,実施例で用いられている甘味料以外の甘味料を 使用して,植物成分を10〜80重量%,及び炭酸ガスを2ガスボリューム より多く含む炭酸飲料を調製する場合に,甘味料をどの程度の量添加すれば, 「植物成分由来の重い口当たりと炭酸ガスに起因する苦味や刺激を軽減」し た炭酸飲料が得られるのか不明であるから,本件訂正発明を実施する際に, 本件訂正明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,当業者に期 待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり, 実施可能要件が満たされていないと主張する。\n(3) そこで検討するに,まず,本件訂正発明の「砂糖甘味換算」及び「砂糖甘 味換算量」という文言の意味が不明確であるとはいえず,本件訂正発明にお ける砂糖甘味換算量は,必要に応じて,換算又は測定可能なものといえるこ\nとは,前記1(取消事由5)で検討したとおりである。 また,植物成分,炭酸ガス及び可溶性固形分の含量,甘味量,並びに高甘 味度甘味料によって付与される甘味の全量については,それぞれの数値範囲 を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できない旨が本件訂正明細書 に十分記載されており,換言すれば,それらの数値範囲内であれば,当業者\nは,本件訂正発明の課題が解決できると理解するものといえ,また,そのよ うな理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったとは認められない こと,他方で,スクラロースによって付与される甘味量については,その数 値範囲を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できないことまでが本 件訂正明細書に記載されているわけではなく,単に,その数値範囲が好まし い旨が本件訂正明細書に記載されているのみであるが,この記載に接した当 業者は,その数値範囲を少々逸脱した場合でも本件訂正発明の課題が解決で きるであろうと理解するといえること,換言すれば,その数値範囲内であれ ば,当業者は,本件訂正発明の課題が当然解決できると理解するといえ,ま た,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったともい えないことは,前記4(取消事由3)で検討したとおりである。 そして,本件出願時の技術常識からみて,本件訂正発明の炭酸飲料を調製 するに当たり,果物又は野菜の搾汁を10〜80重量%の割合とすること(請 求項1の構成要件(1)),炭酸ガスを2ガスボリュームより多くすること(同 (2)),全甘味量を砂糖甘味換算で8〜14重量%とすること(同(4)),高 甘味度甘味料によって付与される甘味の全量を,砂糖甘味換算で全甘味量の 25重量%以上とすること(同(6)),全ての高甘味度甘味料によって付与さ れる甘味の全量100重量%のうち,スクラロースによって付与される甘味 量を,砂糖甘味換算量で50重量%以上とすること(同(7))自体が,当業者 にとって困難なことであるとは認められず,可溶性固形分含量を屈折糖度計 で測定して4〜8度のものとすること(同(3))も,当業者にとって困難な操 作であるとは認められない。 さらに,前記のとおり,本件訂正明細書には,実施例1として,ぶどう果 汁含有量50重量%,炭酸ガス3.0ガスボリューム,スクラロース0.0 065重量%,可溶性固形分含量5.1度の「グレープ炭酸飲料」を,実施 例2として,りんご果汁,レモン果汁及び人参の搾汁を合わせて31重量%, 炭酸ガス2.5ガスボリューム,スクラロース0.0075重量%及びアセ スルファムカリウム0.0035重量%,可溶性固形分含量4.5度の「果 汁入り炭酸飲料」を,実施例4として,リンゴ果汁33重量%,炭酸ガス2. 6ガスボリューム,スクラロース0.0067重量%,可溶性固形分含量6. 0度の「アップル炭酸アルコール飲料」を,それぞれ調製したことが,具体 的に記載されている(前記1(1)ス〜ソ)。また,本件訂正明細書には,甘味\n料について多数の例示があるとはいえ(同ケ),スクラロースと組み合わせ る高甘味度甘味料について具体的に例示されており(同)コ),搾汁とすべき 果物や野菜についても具体的に例示されている(同カ)。 以上を考慮すれば,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を調製するに当た り,当業者が特段の困難な操作を要するとは認められず,また,その調製に 当業者の過度の試行錯誤を要するとも認められない。 よって,当業者は,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を作ることができ るというべきであり,「(当該方法により)物を生産でき…る」の要件を満 たすといえる。
(4) また,そのようにして作られた本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料 は,本件訂正発明の課題を解決する,すなわち,果汁等の植物成分と炭酸ガ スの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽 やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料である といえる一方,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があ ったとも認められない。 よって,本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料は,技術上の意義のあ る態様で使用することができるというべきであり,「物を…使用できる」の 要件も満たすといえる。

◆判決本文

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平成28(ネ)10018  不正競争差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 加湿器に関して、1審は不競法の商品形態模倣(3号)における商品でないと判断しましたが、知財高裁2部は、流通過程に置かれていなくても商品であるとと判断しました。 なお、量産品について著作物ではないとの判断は維持されています。
 不正競争防止法1条は,「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確 な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置 等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定め,同 法2条1項3号は,「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な\n形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展 示し,輸出し,又は輸入する行為」を不正競争と定めている。 不正競争防止法が形態模倣を不正競争であるとした趣旨は,商品開発者が商品化 に当たって資金又は労力を投下した成果が模倣されたならば,商品開発者の市場先 行の利益は著しく減少し,一方,模倣者は,開発,商品化に伴う危険負担を大幅に 軽減して市場に参入でき,これを放置すれば,商品開発,市場開拓の意欲が阻害さ れることから,先行開発者の商品の創作性や権利登録の有無を問うことなく,簡易 迅速な保護手段を先行開発者に付与することにより,事業者間の公正な商品開発競 争を促進し,もって,同法1条の目的である,国民経済の健全な発展を図ろうとし たところにあると認められる。 ところで,不正競争防止法は,形態模倣について,「日本国内において最初に販売 された日から起算して3年を経過した商品」については,当該商品を譲渡等する行 為に形態模倣の規定は適用しないと定めるが(同法19条1項5号イ),この規定に おける「最初に販売された日」が,「他人の商品」の保護期間の終期を定めるための 起算日にすぎないことは,条文の文言や,形態模倣を新設した平成5年法律第47 号による不正競争防止法の全部改正当時の立法者意思から明らかである(なお,上 記規定は,同改正時は同法2条1項3号括弧書中に規定されていたが,同括弧書が 平成17年法律第75号により同法19条1項5号イに移設された際も,この点に 変わりはない。)。また,不正競争防止法2条1項3号において,「他人の商品」とは, 取引の対象となり得る物品でなければならないが,現に当該物品が販売されている ことを要するとする規定はなく,そのほか,同法には,「他人の商品」の保護期間の 始期を定める明示的な規定は見当たらない。したがって,同法は,取引の対象とな り得る物品が現に販売されていることを「他人の商品」であることの要件として求 めているとはいえない。 そこで,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護する との上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて,「他人の商品」を解釈すると,それ は,資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること,すなわち,「商品化」を完 了した物品であると解するのが相当であり,当該物品が販売されているまでの必要 はないものと解される。このように解さないと,開発,商品化は完了したものの, 販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合,開発, 商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として,模倣 者は,開発,商品化のための資金又は労力を投下することなく,模倣品を自由に販 売することができることになってしまう。このような事態は,開発,商品化を行っ た者の競争上の地位を危うくさせるものであって,これに対して何らの保護も付与 しないことは,上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。 もっとも,不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保することによって事 業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条,4条参照),取引の対象 とし得る商品化は,客観的に確認できるものであって,かつ,販売に向けたもので あるべきであり,量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必 要はないとしても,商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能\とする段 階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている必要があると解される。 以上を前提に控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が,「他人の商品」であるか否か を検討する。 (2) 控訴人加湿器1について
前記第2,2(3)1)のとおり,控訴人らは,平成23年11月,商品展示会に控訴 人加湿器1を出展している。商品展示会は,商品を陳列して,商品の宣伝,紹介を 行い,商品の販売又は商品取引の相手を探す機会を提供する場なのであるから,商 品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販 売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当\nである。なお,上記商品展示会において撮影された写真(甲3の2,25)には, 水の入ったガラスコップに入れられた控訴人加湿器1の上部から蒸気が噴き出して いることが明瞭に写されているから,控訴人加湿器1が,上記商品展示会に展示中, 加湿器としての本来の機能を発揮していたことは明白である。\nところで,前記第2,2(2)3)のとおり,控訴人加湿器1は,被覆されていない銅 線によって超音波振動子に電力が供給されており,この形態そのままで販売される ものでないことは明らかである。 しかしながら,商品としてのモデルが完成したとしても,販売に当たっては,量 産化などのために,それに適した形態への多少の改変が必要となるのは通常のこと と考えられ,事後的にそのような改変の余地があるからといって,当該モデルが販 売可能な段階に至っているとの結果を左右するものではない。\n上記のような控訴人加湿器1の被覆されていない銅線を,被覆されたコード線な どに置き換えて超音波振動子に電源を供給するようにすること自体,事業者にとっ てみれば極めて容易なことと考えられるところ,控訴人加湿器1は,外部のUSB ケーブルの先に銅線を接続して,その銅線をキャップ部の中に引きこんでいたもの であるから(甲24),商品化のために置換えが必要となるのは,この銅線から超音 波振動子までの間だけである。そして,実際に市販に供された控訴人加湿器3の電 源供給態様をみると,USBケーブル自体が,キャップ部の小孔からキャップ部内 側に導かれ,中子に設けられた切り欠きと嵌合するケーブル保護部の中を通って, 超音波振動子と接続されているという簡易な構造で置換えがされていることが認め\nられるから(乙イ4,弁論の全趣旨),控訴人加湿器1についても,このように容易 に電源供給態様を置き換えられることは明らかである。そうすると,控訴人加湿器 1が,被覆されていない銅線によって電源を供給されていることは,控訴人加湿器 1が販売可能な段階に至っていると認めることを妨げるものではない。\n以上からすると,控訴人加湿器1は,「他人の商品」に該当するものと認められる。 (3) 控訴人加湿器2について 控訴人加湿器2は,控訴人加湿器1よりもやや全長が短く,円筒部が,控訴人加 湿器1よりもわずかに太いという差異があるほかは,控訴人加湿器1と同様の形態 を有するところ,実質的に同一の形態を有する控訴人加湿器1が「他人の商品」で ある以上,その後に開発され,国際見本市に出展された控訴人加湿器2が,販売可 能な状態に至ったことが外見的に明らかなものであることは,当然である。\nしたがって,控訴人加湿器2は,「他人の商品」に該当するものと認められる。
(4) 被控訴人の主張について
被控訴人は,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が未完成であり,また,商品化 する具体的な開発についても未着手の状態である,そもそも,電源の供給方法も定 まっておらず商品として販売できないものであるなど,るる主張する。 しかしながら,上記(2)にて説示のとおり,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は, そのままの形態で販売することが想定されておらず,電源供給部分の具体的な形状 についての改変は必要であるとしても,商品化は完了しているといえ,未完成であ るわけではない。その電源供給の具体的手段について将来的な変更の余地はあった としても,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2自体は,実際の形態どおりに外部電 源を引きこむものとして確定している。 そして,控訴人X1は,平成24年7月,雑貨店の店舗経営等を業とするスタイ リングライフにおいて商品仕入れを担当しているA(A)から,メールにて,控訴 人加湿器2の製品化の具体的な日程を問い合わせられた際,Aに対し,次のような メールを返信している(甲7)。 「 『Stick Humidifier』の製品化につきましては,具体的な日程は決まっており ません。製品化のお話はいくつかのメーカーさんから頂いてはおりますが,我々 の考えと合致するパートナーさんが見つかっておらず,開発がやや順延している のが現状です。購入や買い付けに関する問い合わせを多数頂いている故,1日も 早く開発を行いたいところです。」 上記記載の「製品化」は,量産のことを意味していることは明らかであり,「開発」 はそれに応じた設計変更をいうものと解され,上記記載が,控訴人加湿器2や控訴 人加湿器1が未完成で販売可能な状態ではないことをいう趣旨とは解されない。い\nったん商品化が完了した商品について,販売相手に応じて更なる改良の余地があっ たとか,その意図を有していたからといって,遡って,当該商品が商品化未了とな るものではない。上記メールの内容は,控訴人加湿器1が商品化されていないこと を裏付けるものではない。 そのほかに被控訴人がるる主張するところも,上記(1)(2)の認定判断に照らして, 採用することができない。

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◆1審はこちらです。平成27(ワ)7033

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平成28(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する特許について、新規性なし・公序良俗違反・記載要件違反なしとの審決が維持されました(知財高裁2部)。
 原告は,1)本件発明が本来的に治療行為,美容行為等を含んだ筋力トレーニング であること,2)本件発明が自然法則それ自体に特許を認めていること,から,本件 発明は,社会的妥当性を欠くので特許法32条に反すると主張する。 しかしながら,前記1(1)に認定のとおり,本件発明は,特定的に増強しようとす る目的の筋肉部位への血行を緊締具を用いて適度に阻害してやることにより,疲労 を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに,関節や筋肉 の損傷がより少なくて済み,更にトレーニング期間を短縮できるようにしたもので ある。 そうすると,本件発明は一義的に人体に重大な危険を及ぼすものではない上,本 件発明を治療方法等にも用いる場合においては,所要の行政取締法規等で対応すべ きであり,そのことを理由に,本件発明が特許を受けることが許されなくなるわけ ではない。また,特許を取得しても,当該特許を治療行為等の所要の公的資格を有 する行為において利用する場合には,当該資格を有しなければ当該行為を行うこと ができないことは,当然である。したがって,本件発明に特許を認めること自体が 社会的妥当性を欠くものとして,特許法32条に反するものとはいえない(なお, 産業上の利用可能性の有無については,前件審判・前件判決で既に取消事由とされ\nたものであり,本件は,専ら,特許法32条該当性のみを審理するものである。)。 また,本件発明は,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位 に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に与える負荷が, 筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する」ものであるから,自然法則を利用し たものであるが,人体の生理現象そのもののような自然法則それ自体を発明の対象 とするものではない。そもそも,特許権は,業として発明を実施する権利を専有す るものであり(特許法68条),業として行わなければ,本件発明の筋力トレーニン グ方法は誰でも自由になし得るのであり,本件特許はそれを制限するものではない。 そうすると,原告の上記主張は,いずれも採用することができず,本件発明は, 公の秩序,善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明とすることはでき ない。 したがって,取消事由4は,理由がない。
6 取消事由5(無効理由5−2に関する判断の誤り)について
(1) 検討
旧特許法36条5項2号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようと する発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」とい\nう。)に区分してあること」との要件に適合するものでなければならないと規定して いた。これは,発明の構成に欠くことができない事項(必須要件)を全て記載する\nことを求めるとともに,必須要件でないものを記載しないことを求めることにより, 請求項の構成要件的機能\を担保したものであり,特許請求の範囲には,必要かつ十\n分な構成要件を記載することを求めたものといえる。\n前記1(1)のとおり,本件発明1の技術的意義は,筋力トレーニング方法において, 筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものとすること, すなわち,目的の筋肉部位への血行を緊締具により継続的に適度に阻害することに より,疲労を効率的に発生させることにある。このような技術的意義にかんがみれ ば,特許請求の範囲に,「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部 位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ」ることにより,「筋肉に疲労を生じ させるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するも のである」ことが記載されていれば,本件発明の技術的課題を解決するために必要 かつ十分な解決手段が記載されているというべきである。
(2) 原告の主張について
1) 原告は,本件発明1の課題・効果を得るためには,所要の加圧条件を特許請 求の範囲に記載する必要があると主張する。 しかしながら,上記(1)のとおり,本件発明の課題解決手段は,本件発明1の記載 で明らかとされている一方,筋肉増大の程度は,トレーニングの態様,対象者,対 象部位等に応じて異なり,一義的に決まるものではないから,所要の加圧条件を特 許請求の範囲に記載しないことが,必須要件を記載していないことになるとまでは いえない。
2) 原告は,本件発明1が,筋肉への血流を止めることなく阻害し,これによっ て筋肉に疲労を生じさせること自体を筋力トレーニング方法と称しているのか,そ れ以外の何らかのトレーニングをすることを必須としているかも不明確であると主 張する。 本件発明の筋力トレーニング方法が,緊締具を用いて更にトレーニングを行うこ とを前提にしていることは,発明の詳細な説明から明らかであり(本件訂正明細書 の【0004】【0017】【図1】参照),そのような方法であるか否かが不明確で あるということはない。本件発明1は,そのうち,締結具によって筋肉への血流を 止めることなく阻害し,これによって筋肉に疲労を生じさせるとの部分を特許請求 の範囲に掲げたものと理解される。どのようなトレーニングがされるかは,トレー ニングの態様,対象者,対象部位等に応じて異なる上に,単なる技術常識の適用に すぎないことは自明であり,本件発明の筋力トレーニング方法を技術的に特徴付け るものではない。したがって,そのような事項は,本件発明の必須の要件ではない。 3) 以上のとおり,原告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上から,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項2号の要 件を満たすと認められる。

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平成28(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 特36条のサポート要件に係る審決の判断は,結論において誤りはないと判断しました(知財高裁第4部)。
 3 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと 解される。
(2) 特許請求の範囲の記載
本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりである。すなわ ち,本願発明は,潤滑油基油と粘度指数向上剤を含み,「100℃における動粘度 が4〜12mm2/sであり,粘度指数が140〜300である」潤滑油組成物であ って,当該潤滑油基油は,「尿素アダクト値が2.5質量%以下,40℃における 動粘度が18mm2/s以下,粘度指数が125以上,且つ,90%留出温度から5 %留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分」(本発明に係る潤滑油 基油成分)を,「基油全量基準で10質量%〜100質量%」含有することが特定 されたものである。
(3) 発明の詳細な説明の記載
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には,前記1(2)のとおり,本願発明は,従来 の潤滑油が,実用性能(150℃HTHS粘度)を維持しながら,さらに省燃費性\n(40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度の低減)と低温粘度特性 (CCS粘度やMRV粘度の低減)とを両立するという点で,いまだ改善の余地が あったという事情に鑑みて,省燃費性,低蒸発性と低温粘度に優れ,ポリ−α−オ レフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,1 50℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性,NOACKにおける 低蒸発性と−35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油 の40℃及び100℃における動粘度並びに100℃におけるHTHS粘度を低減 し,粘度指数を向上し,−35℃におけるCCS粘度,(−40℃におけるMRV 粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的とし,特許請求の範 囲の請求項1に記載の構成を採用することにより,省燃費性と低蒸発性及び低温粘\n度特性に優れており,ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や 低粘度鉱油系基油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度を維持しながら, 省燃費性とNOACK蒸発量及び−35℃以下における低温粘度とを両立させるこ とができ,特に潤滑油の40℃及び100℃の動粘度と100℃におけるHTHS 粘度を低減し,−35℃におけるCCS粘度,(−40℃におけるMRV粘度)を 著しく改善することができるという効果を奏するものであることが記載されている。 イ また,【0021】ないし【0026】には,「本発明に係る潤滑油基油成 分」の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から5%留出 温度を減じた値は,本願発明に係る潤滑油組成物の低温粘度特性,省燃費性,低蒸 発性,粘度−温度特性などと密接な関係があることが記載されていることから, 「本発明に係る潤滑油基油成分」と「その他の潤滑油基油成分」を混合した「潤滑 油基油」全体の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から 5%留出温度を減じた値などの物性値も,同様に,本願発明に係る潤滑油組成物の 低温粘度特性,省燃費性,低蒸発性,粘度−温度特性などの物性と密接な関係があ ることが理解できる。
ウ 前記アによれば,本願発明の課題に関連する潤滑油組成物の物性は,150 ℃HTHS粘度,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOA CK蒸発量,−35℃CCS粘度,−40℃におけるMRV粘度及び粘度指数であ るところ,本願明細書には,150℃HTHS粘度が2.55〜2.65の範囲内 となるように調製した実施例1ないし6及び比較例1ないし3の各潤滑油組成物に ついて,40℃動粘度(mm2/s),100℃動粘度(mm2/s),粘度指数, 100℃HTHS粘度(mPa・s),150℃HTHS粘度(mPa・s),N OACK蒸発量(1h,250℃),−35℃CCS粘度(mPa・s),−40 ℃MRV粘度(mPa・s)を測定した結果が示されている(【0117】,【表\n3】)。 そして,【0122】には,実施例1ないし6は,比較例1ないし3に比べて, 40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度及びCCS粘度が低く,低 温粘度及び粘度温度特性が良好であったこと,実施例1ないし6の上記評価結果に 基づき,本願発明の潤滑油組成物が,省燃費性と低温粘度に優れ,ポリ−α−オレ フィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,15 0℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性と−35℃以下における 低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃及び100℃における動 粘度を低減し,粘度指数を向上し,−35℃におけるCCS粘度を著しく改善でき る潤滑油組成物であることが分かることが記載されているから,上記記載から,実 施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるものであるのに対し,比較例1な いし3は,本願発明の課題を解決できないものであることが理解できる。 エ また,実施例と比較例は全て,潤滑油としての実用性能を表\す150℃HT HS粘度が「2.60〜2.61」となるように調製されたものである(【011 7】,【表3】)。そこで,実施例1〜6と比較例1〜3において,150℃HT\nHS粘度以外の物性値をみると,1)本願明細書には,潤滑油組成物のNOACK蒸 発量は,好ましくは8質量%以上,さらに好ましくは18質量%以上であり,好ま しくは30質量%以下,特に好ましくは22質量%以下であり,18〜20質量% とすることで,蒸発損失の防止と低温特性,さらには省燃費性能をバランスよく達\n成することができることが記載されているところ(【0114】),NOACK蒸 発量は,実施例1ないし6では「10.8〜19.4」の範囲に,比較例1ないし 3では「12.2〜14.0」の範囲にあり,2)本願明細書には,潤滑油組成物の 100℃動粘度は,4〜12mm2/sであることが必要であり,特に好ましくは, 6mm2/s以上,8mm2/s以下であることが記載されているところ(【010 6】),100℃動粘度は,実施例1ないし6では「7.2〜9.0」の範囲に, 比較例1ないし3では「8.6〜8.9」の範囲にあって,これらの物性値におい て,両者の数値範囲は重なることが分かる。 他方,3)本願明細書には,潤滑油組成物の40℃動粘度は,4〜50mm2/sで あることが好ましく,特に好ましくは25mm2/s以上,30mm2/s以下であ ることが記載されているところ(【0109】),40℃動粘度は,実施例1ない し6では「25.6〜37.3」の範囲に,比較例1ないし3では「38.9〜4 0.4」の範囲にあり,4)本願明細書には,潤滑油組成物の粘度指数は,140〜 300の範囲であることが必要であり,最も好ましくは250〜300であること が記載されているところ(【0107】),粘度指数は,実施例1ないし6では 「224〜269」の範囲に,比較例1ないし3では「209〜211」の範囲に あり,5)本願明細書には,潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は,6. 0mPa・s以下であることが好ましく,最も好ましくは4.5mPa・s以下で あり,3.0mPa・s以上であることが好ましく,最も好ましくは4.2mPa ・s以上であることが記載されているところ(【0110】),100℃HTHS 粘度は,実施例1ないし6では「4.29〜5.26」の範囲に,比較例1ないし 3では「5.35〜5.49」の範囲にあり,6)本願明細書には,−35℃CCS 粘度に関し,「例えば,本発明の潤滑油組成物によれば,−35℃におけるCCS 粘度を4500mPa・s以下とすることができる。」と記載されているところ (【0115】),−35℃CCS粘度は,実施例1ないし6では「1800〜4 000」の範囲に,比較例1ないし3では「4850〜7700」の範囲にあり, 7)本願明細書には,−40℃MRV粘度に関し,「本発明の潤滑油組成物によれば, −40℃におけるMRV粘度を10000mPa・s以下とすることができる。」 と記載されているところ(【0115】),実施例1ないし6では「3700〜9 300」の範囲に,比較例1ないし3では「12500〜28000」の範囲にあ り,これらの物性値において,実施例1ないし6の数値の方が,比較例1ないし3 の数値よりも優れていることが分かる。 そうすると,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決でき るものであるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないもの であるところ,本願発明の課題を解決することができるというためには,150℃ HTHS粘度が2.60〜2.61程度となるように潤滑油組成物を調製した場合 に,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOACK蒸発量, −35℃CCS粘度,(−40℃におけるMRV粘度)及び粘度指数の数値を総合 的に検討した結果,比較例1ないし3で代表される従来の技術水準を超えて,実施\n例1ないし6と同程度に優れたものとなることが必要であることを理解できる。 オ さらに,【表3】をみると,実施例1ないし6及び比較例1ないし3は,い\nずれも粘度指数向上剤を含有するものであり,「100℃動粘度が4〜12mm2/ s,粘度指数が140〜300」という本願発明の発明特定事項を満たすものであ るが,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるもので あるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないものであると されていることから,実施例1ないし6と比較例1ないし3の各潤滑油組成物の物 性の違いは,主として,含有する「潤滑油基油」の物性の違いによるものであるこ とが理解できる。 そして,【表1】ないし【表\3】によれば,本願発明の特許請求の範囲に含まれ る実施例1ないし5の「潤滑油基油」は,「本発明に係る潤滑油基油成分」である 基油1又は2を100質量%含有する潤滑油基油(実施例1,2,4),あるいは, 基油1又は2を70質量%と比較例2,3で用いた基油4を30質量%含有する潤 滑油基油(実施例3,5)であることから,「潤滑油基油」が「本発明に係る潤滑 油基油成分」を70〜100重量%含むものについて,「本発明に係る潤滑油基油 成分」と同じかそれに近い物性を有し,本願発明の課題を解決できることを理解す ることができる。
(4) 本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
前記(3)によれば,本願明細書の記載に接した当業者は,「本発明に係る潤滑油基 油成分」を70質量%〜100質量%程度多量に含む,「本発明に係る潤滑油基油 成分」と同じかそれに近い物性の「潤滑油基油」を使用し,粘度指数向上剤を添加 して,100℃における動粘度を4〜12mm2/sとし,粘度指数を140〜30 0とした潤滑油組成物は,本願発明の課題を解決できるものと認識できる。 他方,本願発明は,「本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分として は,特に制限されない」ものであるところ(【0051】),一般に,複数の潤滑 油基油成分を混合して潤滑油基油とする場合,少量の潤滑油基油成分の物性から, 潤滑油基油全体の物性を予測することは困難であるという技術常識に照らすと,本\n願明細書の【0050】や【0054】の記載から,直ちに当業者において,「本 発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲 に記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数値範囲の下限 値により近いような「潤滑油基油」であっても,その含有割合が70質量%〜10 0質量%程度と多い「潤滑油基油」と,本願発明の課題との関連において同等な物 性を有すると認識することができるということはできない。しかるに,本願明細書 には,この点について,合理的な説明は何ら記載されていない。 (5) 本願発明のサポート要件適合性
本願発明は,前記(2)のとおり,「本発明に係る潤滑油基油成分」を,「基油全量 基準で10質量%〜100質量%」含有することが特定されたものであるが,前記 (4)のとおり,当業者において,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,「本発 明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に 記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数値範囲の下限値 により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できると認識 するということはできない。 また,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特 許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数 値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解 決できることを示す,本願の出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠はな い。 したがって,本願発明の特許請求の範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明の記 載により,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものという ことはできず,サポート要件を充足しないといわざるを得ない。

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◆関連事件です。平成28(行ケ)10043

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平成28(ネ)10073  商標権侵害行為差止請求控訴事件  商標権  民事訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所  横浜地方裁判所

 商標「がばいよか石けん」が登録商標「よか」と非類似との地裁判断が、知財高裁(第4部)でも維持されました。
 これらの事実によれば,「がばい」は,主に佐賀県において,程度が著しいことを 意味する語として使用される方言であるが,前記のとおり平成18年に「佐賀のが ばいばあちゃん」という題名の映画が全国で放映されたのを1つの契機として,前 記アのとおり形容詞「よい」を意味する九州地方の方言である「よか」に接頭語とし て付され,非常によいという意味合いを有する「がばいよか」という語として佐賀 県に関する広告・宣伝に多用されるようになり,現在では,一般に,程度が著しいこ とを意味する佐賀県ないし九州地方の方言として知られるようになったものと推認 することができる。 以上によれば,被告標章1は,全体として,佐賀県ないし九州地方と関連性のあ る,非常に良質な石けんであるとの観念を生じるものというべきである。
(ウ) 「よか」の文字部分の抽出の可否について
前記(ア)のとおり,被告標章1は,全ての構成文字が黒色で同様の書体によって表\ されており,大きさもほぼ同じくらいで,特に目立つ文字はなく,また,文字の配置 により,全体としてまとまった印象を与えるものであるから,下段を構成する5文\n字のうちの2文字である「よか」を分離して観察することは,取引上不自然である といわざるを得ない。 さらに,前記アのとおり,「よか」については,全国的に広く用いられている国語 辞典である広辞苑及び大辞林のいずれにも,形容詞「よい」を意味する九州地方の 方言である旨が記載されていることから,取引者,需要者に対して商品又は役務の 出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできない。 以上によれば,被告標章1のうち「よか」の文字部分のみを抽出し,本件商標1と 比較して類否を判断することは相当ではない。 なお,前記(ア)の外観に加え,「よか」と共に下段を構成する「石けん」の文字は,\n本件商標権1の指定商品の1つを示す普通名詞であるから,下段の「よか石けん」 も,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,した がって,被告標章1のうち下段の文字部分のみを抽出することも,相当ではない。 以上によれば,被告標章1については,全体として一体的に観察して,本件商標 1との類否を判断するのが相当である。
ウ 本件商標1と被告標章1との類否について
前記ア及びイのとおり,本件商標1と被告標章1は,外観において異なることは 明らかであり,本件商標1は,「ヨカ」との称呼及び形容詞「よい」を意味する九州 地方の方言との観念を生じるのに対し,被告標章1は,「ガバイヨカセッケン」との 称呼及び佐賀県ないし九州地方と関連性のある,非常に良質な石けんであるとの観 念を生じるのであるから,称呼及び観念においても異なる。 よって,本件商標1と被告標章1は,類似するものではない。
エ 控訴人らの主張について
控訴人らは,1)一般に,上下二段に表記される商標については,各段から個別の\n称呼が生じるものであること,2)上段の「がばい」は,日本全国の取引者,需要者間 において,出所識別標識として十分に認識されているものとはいい難く,無意義な\n語であること,「よか」には,否定的な意味もあり,「よか石けん」には,「どうでも よい石けん」という否定的な意味もあることから,「がばい」と「よか」を併せて, ものすごく良いといった意味を生ずるとは限らないことに加え,被告標章1は,下 段の「よか石けん」の部分から独立して称呼を生ずるが,「石けん」は,普通名詞で あり,また,「よ」の文字がほかの文字よりも一段と大きく太く記載されており,見 る者の注意を引きつける態様であることから,「よか」が要部となる旨主張する。 しかし,上下二段に表記される商標からどのような称呼が生ずるかは,商標全体\nの構成,各段の構\成等によって様々であり,各段から個別の称呼が生じると一般的 にいうことはできない。また,前記イ(イ)のとおり,「がばい」は,主に佐賀県にお いて使用される方言であるが,平成18年に同語を題名に含む映画が全国で放映さ れたのを1つの契機として,「がばいよか」という語として佐賀県に関する広告・宣 伝に多用されるようになり,現在では,一般に,程度が著しいことを意味する佐賀 県ないし九州地方の方言として知られるようになったものと推認することができる。 「よか」については,広辞苑(乙7)及び大辞林(乙8)のいずれにも,否定的な意 味の記載は,見られない。さらに,前記イ(ア)のとおり,被告標章1の上段の「が」 の文字は,下段の「よ」及び「石」の各文字と共に,ほかの文字よりも若干大きいも のの,目立つほどではなく,見る者の注意を引きつけるものということはできない。 以上によれば,控訴人らの主張は,採用できない。

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平成28(行ケ)10122  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 透明部分について需要者に強い印象を与えるとして、類似するとした審決を取り消しました(知財高裁第4部)。判決文の最後に両意匠の図面がアップされています。
 以上のとおり,両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との 関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するもの\nの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえな い。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはい\nえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及 び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与 えるものである。 したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部につい て,本願意匠は,その中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端 壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大き く開口した点は,マウスピースカバー部が透明であることと相まって,需要者であ る患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるも のであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきで ある。 よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。
3 被告の主張について
被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入\n時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウ スピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウス ピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにそ の先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものであるとして, マウスピースの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると 主張する。 しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観 察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察す\nるものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても, マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということ はできない。被告の前記主張は採用できない。

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平成28(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月28日  知的財産高等裁判所(2部)

 無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
 前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ\nンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき, 【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に依存す\n る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな\nく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技\n量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化\nもするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して, 3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化 された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示\n的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功\nする作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明 の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ\nンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ\nトは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張\n可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な\nやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム\nを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。 これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独 自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸\n及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技\n量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功\n裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように 構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを\nブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア) 〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技 量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と\nしたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1 4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【001\n9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82 を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造\nとしたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及\nびベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望まし\nい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対 象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6 6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構\n造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが (ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のもので\nあると理解できる。 そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の 「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/ ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側 の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ, 前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持 するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列 に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」 の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認め\nられる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量 に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を 簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。 したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正 発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより, 無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技 量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発 明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範 囲を実質的に変更するものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自 に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人 の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\\なア イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容 易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと\nのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て\n技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料\nを含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に\n依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ リエーションについて記載されているものではない。 そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび 向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張\n的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることに\nより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事 項であるとは認められない。

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平成27(行ケ)10226  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所

 発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
 ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明 細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における 比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的 なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙 2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝 固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の 範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過 しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が 本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実 験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる ことまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男 性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋 基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消 失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治 療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光 が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消 失したものであることまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願 明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究 室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告 の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな 期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少 ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても, 例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠 く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4 人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴 り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報 告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を 行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって, 原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。 (5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に 明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。

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平成27(ワ)5869  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年11月8日  大阪地方裁判所

 特許発明について、出願前に公然実施されたとして104条の3で権利行使できないと判断されました。均等侵害についても争われてましたが、そちらは判断されませんでした。
 そこで,さらに上記使用が,特許法29条1項25)の「公然実施をされた」 といえるか検討するに,「公然実施をされた」というためには,発明の内容を秘密 にする義務を負わない人が発明内容を知り得る状態で使用等の実施行為が行われた ことが必要である。 しかるところ,公然実施の対象となるOBネットユニットは,小浜製鋼株式会社 によって製造され市販されていた商品にすぎないし,また証拠(乙1)からうかが われる両護岸工事の実施状況や工事内容,工事場所が公共の場であることなどから すれば,OBネットユニットの設置作業に従事した現場作業員が,OBネットユニ ットの構造について小浜製鋼株式会社から守秘義務を課せられていたことをうかが\nわせる事情はなく,かえって,工事使用前に,その構造を確認する機会も十\分あっ たものと認められるから,OBネットユニットの本件発明の構成要件D,E,Fを\n除く構成要件は,それら工事関係者に十\分認識されていたといえる。 そして,前記(3)で認定したとおり,そのOBネットユニットが,両護岸工事に おいて本件発明の構成要件D,E,Fを充足する態様で使用されたというのである\nが,その工事現場には,上記のとおりOBネットユニットの構成を確認した工事関\n係者が立ち会って,その使用態様を現認したものと推認できるから(なお,構成要\n件Eを充足する使用対象事態を撮影した写真は僅かであるが,その使用態様が特殊 なものとはいえない以上,両護岸工事現場で写真として記録が残っていないOBネ ットユニットであっても,多くは同様の態様で使用され,工事関係者らによって, その使用態様が現認されていたものと推認できる。),これらにより,本件発明は, 公然と実施されたものと認めて差し支えないというべきである。 なお,原告は,上記の認識の限度であれば,本件発明の構成要件Aの「式3≦N\n/M≦20」の数値限定,あるいは構成要件Eの「25%〜80%」の数値限定が\n認識されないと主張するが,公然実施されたOBネットユニットの使用態様が上記 限定された数値内,すなわち本件発明の下位概念に一致するのであれば,これをも って本件発明が公然実施されたといって差し支えないから,この点についての原告 の主張は失当である。
(5) したがって,本件発明は,特許法29条1項25)により特許を受けることが できないものに当たり,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきもので あるから,同法104条の3第1項により原告が本件特許権を行使することはでき ないというべきである。
(6) なお,原告は,上記認定に用いた各証拠(乙1,乙2,乙23)の信用性に ついて争っているのでこの点について付言するに,まず上掲の証拠によれば,両護 岸工事の行われた時期及び場所そのものは確実に認定できる事実であると認められ る上,原告の指摘にかかわらず,その後に同じ場所で同種の工事が行われた事実は 認められないから,被告が,本件訴訟提起後において両護岸工事が実施された現場 で確認したOBネットユニット(乙2,乙23)は,本件特許出願前にされた両護 岸工事において使用されたものであることは明らかである。 そして,これに中詰め材を充填して釣り上げた状況(上篠崎護岸工事につき乙1 別紙7−11,高谷護岸工事につき乙1別紙4−16A)についても,これら写真 の撮影時が両護岸工事の最中であることは,各写真の遠景に写り込んでいる建造物 等の位置関係から明らかであるから,これらにより上記(2),(3)のとおり十分認定\nできるものであり,これに反する原告の主張は失当である。

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平成28(ネ)10027  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審判決の後に訂正審判を請求し、独立特許要件ありとして認められましたが、知財高裁は引用文献の認定を誤っているとして、進歩性なしと判断しました。なお、本件においては、訂正の抗弁について、時機に後れた抗弁とは認定されませんでした。
 事案に鑑み,被控訴人が主張する本件各訂正発明に係る特許の無効理由の うち,乙16発明に基づく新規性及び進歩性欠如について,以下判断する(な お,控訴人ら 被控訴人主張の抗弁につき,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべき旨を述べるが,少なくとも,これらの主張 が「訴訟の完結を遅延させる」ものでないことは明らかであるから,時機に後れた攻撃防御方法としての却下はしないこととする。)。
・・・
 このように,乙16文献には,ユーザによって選択された商品を表示\nする際に,「はこだてビールオリジナルギフトセット」というジャンル の表題の下に,「はこだてビールギフトAセット」,「はこだてビールギ\nフトBセット」等の複数の商品の商品名,価格,写真が一覧表示された\nWebページ画像( のページ)が表示されることが記載されて\nいるのであるから,選択された商品情報の表示の際に,店舗カテゴリを\n示す情報と店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を表示することが\n記載されているものといえるのであって,控訴人らの上記主張は,その 前提において理由がない。 なお,本件訂正を認めた訂正2016−390052事件に係る審決 (甲70)は,本件訂正発明1について独立特許要件の有無を判断する に当たり,乙16文献の記載について,上記と異なる認定(控訴人ら主 張のとおりの認定)をしているが,乙16文献の記載からは、上記で述 べたとおりのことが読み取れるというべきであるから,上記審決の認定 は是認できない。

◆判決本文

◆1審はこちらです。平成26(ワ)25282

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平成28(ラ)10009  保全異議申立決定に対する保全抗告事件  著作権  民事仮処分 平成28年11月11日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 判例百選について、編集著作物の著作者かが争われました。知財高裁は、著作者であるとした判断を破棄しました。第3部の判断です。
著作者とは著作物を創作する者をいい(法2条1項2号),著作物とは, 思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は\n音楽の範囲に属するものをいう(同項1号)。編集著作物とは,編集物 (データベースに該当するものを除く。)でその素材の選択又は配列に よって創作性を有するものであるところ(法12条1項),著作物とし て保護されるものである以上,その創作性については他の著作物の場合 と同様に理解される。 そうである以上,素材につき上記の意味での創作性のある選択及び配 列を行った者が編集著作物の著作者に当たることは当然である。 また,本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合, 例えば,素材の選択,配列は一定の編集方針に従って行われるものであ るから,編集方針を決定することは,素材の選択,配列を行うことと密 接不可分の関係にあって素材の選択,配列の創作性に寄与するものとい うことができる。そうである以上,編集方針を決定した者も,当該編集 著作物の著作者となり得るというべきである。 他方,編集に関するそれ以外の行為として,編集方針や素材の選択, 配列について相談を受け,意見を述べることや,他人の行った編集方針 の決定,素材の選択,配列を消極的に容認することは,いずれも直接創 作に携わる行為とはいい難いことから,これらの行為をしたにとどまる 者は当該編集著作物の著作者とはなり得ないというべきである。
イ もっとも,共同編集著作物の作成過程において行われたある者の行為が, 上記のいずれの場合に該当するかは,当該行為を行った者の当該共同編 集著作物の作成過程における地位や権限等を捨象した当該行為の客観的 ないし具体的な側面のみによっては判断し難い例があることは明らかで ある。すなわち,行為そのものは同様のものであったとしても,これを 行った者の地位,権限や当該行為が行われた時期,状況等により当該行 為の意味ないし位置付けが異なることは,世上往々にして経験する事態 である。 そうである以上,創作性のあるもの,ないものを問わず複数の者によ る様々な関与の下で共同編集著作物が作成された場合に,ある者の行為 につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは, 当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として,さらに,当該 行為者の当該著作物作成過程における地位,権限,当該行為のされた時 期,状況等に鑑みて理解,把握される当該行為の当該著作物作成過程に おける意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべきである。 これに対し,抗告人は,著作者性の判断に当たっては,当該行為が行 われた状況や立場といった背景事情を捨象し,もっぱら創作的表現のみ\nに着目して判断されなければならない旨主張するけれども,複数人の関 与の下に著作物が作成される場合の実情にそぐわないというべきであり, この点に関する抗告人の主張は採用し得ない。
ウ 以上を踏まえ,前記認定事実に基づき,以下検討する。
・・・
エ このように,少なくとも本件著作物の編集に当たり中心的役割を果たし たB教授,その編集過程で内容面につき意見を述べるにとどまらず,作 業の進め方等についても編集開始当初からE及びB教授にしばしば助言 等を与えることを通じて重要な役割を果たしたというべきA教授及び抗 告人担当者であるEとの間では,相手方につき,本件著作物の編集方針 及び内容を決定する実質的権限を与えず,又は著しく制限することを相 互に了解していた上,相手方も,抗告人から「編者」への就任を求めら れ,これを受諾したものの,実質的には抗告人等のそのような意図を正 しく理解し,少なくとも表向きはこれに異議を唱えなかったことから,\nこの点については,相手方と,本件著作物の編集過程に関与した主要な 関係者との間に共通認識が形成されていたものといえる。しかも,相手 方が本件原案の作成作業には具体的に関与せず,本件原案の提示を受け た後もおおむね受動的な関与にとどまり,また,具体的な意見等を述べ て関与した場面でも,その内容は,仮に創作性を認め得るとしても必ず しも高いとはいえない程度のものであったことに鑑みると,相手方とし ても,上記共通認識を踏まえ,自らの関与を謙抑的な関与にとどめる考 えであったことがうかがわれる。 これらの事情を総合的に考慮すると,本件著作物の編集過程において, 相手方は,その「編者」の一人とされてはいたものの,実質的にはむし ろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの 地位に置かれ,相手方自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるもの と理解するのが,本件著作物の編集過程全体の実態に適すると思われる。
(4) そうである以上,法14条による推定にもかかわらず,相手方をもって 本件著作物の著作者ということはできない。

◆判決本文

◆前審はこちら 平成28年(モ)第40004号

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平成28(行ケ)10079  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月16日  知的財産高等裁判所

 技術思想として異なるとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけ るタイヤの制動性能及び駆動性能\を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から\n安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するト レッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十\分な接地面積を確保することがで きるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレー シングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の 皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面に\nおいて所定の性能を発揮することができるようにしたものである。\n以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮でき\nるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮む\nきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能\を発揮す ることができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発\n揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相\n反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表\面外皮 層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示 唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性\n能を得るよう,表\面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率 を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性 がゴムの硬度に比例すること(甲8〜13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレ ッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能\が向 上すること(甲14〜16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,\n内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性\n率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤ\nの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して\n優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されていないから,本願発明に係る\n構成を容易に想到することができるとはいえない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願発明の実施例と引用発明はともに従来例「100」に対して 「103」という程度でタイヤの使用初期の氷上での制動性能が向上するものであ\nり,また,引用例1の比較例と実施例を比較すると,比較例が実施例に対して表面\nゴム層(表面外皮層)を有していない点のみが異なることから,使用初期の性能\向 上は,表面ゴム層(表\面外皮層)に由来することが明らかである,そうすると,本 願発明の実施例と引用発明の性能向上はともに,タイヤ表\面に本体層のゴムよりも 柔らかいゴムを用いることにより使用初期の氷上での性能を向上させる点で同種の\nものであるから,結局,表面ゴム層(表\面外皮層)に関して,本願発明と引用発明 の所期する条件(機能)は変わるものではなく,引用例1に接した当業者は,引用\n発明の表面ゴム層(表\面外皮層)が,早期に摩滅させることのみを目的としたもの でなく,氷上性能の初期性能\が得られることを認識する旨主張する。 しかし,前記(2)のとおり,引用例1に記載された課題を踏まえると,引用発明は, あくまで早く摩耗する皮むき用の表面外皮層を設けて,ベントスピューと離型剤を\n表面外皮層とともに除去することにより,本来のトレッド表\面を速やかに出現させ るものであり,引用例1は,走行開始から表面外皮層が除去されるまでの間の氷上\n性能について何ら開示するものではない。よって,引用例1に接した当業者が,氷\n上性能の初期性能\が得られることを認識するものとは認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,引用発明において,表面外皮層Bの硬度は,本体層Aのそれより小\nさく(引用例1の表1),硬度の小さいゴムが,ゴム弾性率の小さいゴムである旨\nの技術常識(甲4,甲5)を考慮すれば,「引用発明の「表面ゴム層(表\面外皮 層)」のゴム弾性率が「内部ゴム層(本体層)」のゴム弾性率に比し低いものとい え,「表面ゴム層のゴム弾性率」/「内部ゴム層のゴム弾性率」の値を0.01以\n上1.0未満程度の値とすることは,具体的数値を実験的に最適化又は好適化した ものであって,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,当業者にとって格別\n困難なことではない旨主張する。 しかし,本願発明と引用発明とでは,具体的な課題及び技術的思想が相違するた め,引用例1には,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい\n所定比の範囲として,使用初期において,接地面積を確保するという本願発明の技 術的思想は開示されていないのであるから,引用発明から本願発明を想到すること が,格別困難なことではないとはいえない。 また,表面外皮層BのHs(−5℃)/本体層AのHs(−5℃)が,0.77 (=46/60),表面外皮層Bのピコ摩耗指数/本体層Aのピコ摩耗指数が,0. 54(=43/80)であるとしても,本願発明が特定するゴム弾性率とHs(−5 ℃)又はピコ摩耗指数との関係は明らかでないので,引用例1の表1に示すHs\n(−5℃)又はピコ摩耗指数の比率が,本願発明の特定する,「比Ms/Miは0. 01以上1.0未満」に含まれ,当該比率について本願発明と引用発明が同一であ るとも認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。

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平成25(ワ)34182  特許を受ける権利確認等請求事件  特許権 平成28年10月24日  東京地方裁判所

 着想から完成に至る過程への実質的関与していないとして、共同発明者の一人ではないと判断されました。
 特許を受ける権利は,原始的には,発明をした者(発明者)に帰属するところ, 特許出願された発明の発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,そ の具体的な技術手段を完成させた者をいう。ある技術手段を着想し,完成させるた めの全過程に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その 過程に複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に 技術的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの者 も発明者(共同発明者)となる。ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲 に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。なぜなら,特許権は,従来の技術\nでは解決することのできなかった課題を,新規かつ進歩性を備えた構成により解決することに成功した発明に対して付与されるものであり(特許法29条参照),特許\n法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課 題の解決を実現するための,従来技術には見られない特有の技術的思想に基づく解 決手段を,具体的構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された発明の構\成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分の完成に寄与した者でなければ,同保護に値する実質的な価値を創造した者とはいい難い からである(知財高裁平成18年(行ケ)第10048号同19年7月30日判決 参照)。
(2) 原告従業員Aiの情報(知見)について
原告は,原告従業員Aiが本件知見1)ないし4)を有しており,これらを被告従業 員等に提供したことから,同人が本件各発明の共同発明者の一人である旨主張する。 しかし,以下に詳述するとおり,これらの知見は,公知技術にすぎないか,具体 的な技術的裏付けを伴わない単なる願望ないし要望にすぎず,本件各発明の特徴的 部分の着想から完成に至る過程への実質的関与と評価し得るものでないから,同人 が本件各発明の共同発明者の一人であることを根拠付ける理由とはならない。 (3) 本件発明1について
ア 本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係について
本件明細書1の段落【0004】及び【0008】の記載によれば,本件発明1 は,α−GGよりも優れた保湿性を発揮する材料が求められていたこと,α−GG の従来の製造方法は,手間や時間がかかるなど大量生産に適さず,コストが高くな るという問題があったことに鑑みて,発明されたものであり,α−GG単独の場合 よりも保湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供するこ とを目的としたものであって,本件発明1によれば,α−GG単独の場合よりも保 湿性が向上し,大量生産も容易な糖組成物及びその製造方法を提供できるとされて いる。 他方,前記1の認定事実のほか,特表2005−532311号公報(乙4)に\nよれば,本件出願1がされた平成22年5月10日より前である平成17年10月 27日の時点において,GGを化学合成法によって製造することができること,化 学合成法によるGGの製造の際,グルコースとグリセリンとを酸性触媒を用いて反 応させること,GGを化学合成法により製造した場合,反応物中にグリセリンが残 留すること,GG組成物を保湿剤として用いることについては,いずれも公知であ ったと認められる。
イ 本件発明1−1について
(ア) 本件発明1−1の特徴的部分について
本件出願1の願書に添付した特許請求の範囲(平成25年12月24日付け手続 補正書〔乙1〕による補正後のもの)の請求項1の記載によれば,本件発明1−1 は,1)α−GGとβ−GGとを45〜75:15〜25の質量比で含むこと(以下 「構成1)」という。),2)当該糖組成物中に含まれる全糖の合計量に対するα−GG の割合が58.4〜65.3質量%で,β−GGの割合が21.6〜24.5質量% であること(以下「構成2)」という。)を発明特定事項とするものである。 そして,上記アで説示した本件発明1の目的及び効果並びに従来技術との関係に 照らすと,本件発明1−1は,糖組成物の一種であるGG組成物を保湿剤とするに 当たり,構成1)及び構成2)をともに充足するところの,α−GGとβ−GGの混合 物からなるGG組成物を用いることによって,α−GG単独の場合よりも保湿性の 向上を図ったことを特徴とするものというべきである(本件明細書1の段落【00 08】,【実施例】〔【0031】以下〕)。 そうすると,本件発明1−1は,構成1)及び2)が同発明特有の課題解決手段を基 礎付ける部分であって,これらの構成が同発明の特徴的部分に当たり,同発明のそ\nの余の発明特定事項は,同発明の特徴的部分とは認めらない。 もっとも,糖組成物中のα−GGとβ−GGの量的関係が構成2)を充足する場合, 当然に構成1)を充足することになるから,本件発明1−1の特徴的部分を画定する のは,結局,構成2)であるということになる。
(イ) 本件発明1−1の発明者について
上記(ア)の本件発明1−1の特徴的部分を前提とし,原告従業員Aiが,当該特徴 的部分における技術手段を着想し,かつ,特徴的部分の完成に至る過程に技術的関 与した者といえるかについて検討する。 そもそも,化学合成法によりGG組成物を製造することや化学合成法により得ら れるGG組成物について,原告従業員Aiが何らかの新規かつ具体的な知見を有し ていたことを裏付ける的確な証拠はない。 むしろ,前記1(1)で認定したとおり,原告が被告に化学合成法によるGG組成物 の製造を依頼したのは,原告は,酵素法によりGG組成物を試作していたものの, コスト面での難点があり,他方で,原告が自ら化学合成法によってGG組成物を製 造することは困難であったため,他社に化学合成法によりGG組成物を低価格で大 量生産することを委託することとし,候補とした2社から被告を選択したという経 緯があることからすると,原告従業員Aiは,化学合成法によりGG組成物を製造 することについて,新規かつ具体的な知見を有していたものではなく,したがって, 化学合成法により得られるGG組成物についても,新規かつ具体的な知見を有して いたものではなかったと推認するのが合理的である。 そして,本件明細書1の記載によれば,本件発明1−1における構成2)の数値範 囲は,実施例1ないし3により導き出されたものであることが認められるところ, 前記1の認定事実によれば,これらの実施例は,いずれも被告従業員Aiiを中心と する被告従業員等が実験的に導出し,その効果を確認したものであって,この過程 に原告従業員Aiが実質的に関与したとみることはできない。 そうすると,本件発明1−1の発明者ないし共同発明者と評価され得る者は,被 告従業員Aiiを中心とする被告従業員等のみであって,原告従業員Aiが同発明の 共同発明者の一人であると認めることはできない。
(ウ) この点,原告は,原告従業員Aiがα−GGとβ−GGを一定比率で含有す る組成物からなる保湿剤を着想したとか,被告従業員等に示したHPLCチャート から導き出されたα−GGとβ−GGとの比率が本件発明1−1の構成1)の数値範 囲に含まれていることなどを理由として,原告従業員Aiが本件発明1−1の共同 発明者の一人である旨主張する。 しかし,そもそも,本件発明1−1は,α−GGとβ−GGを含んでなる組成物 のHPLCによる分析方法や,α−GGとβ−GGとをHPLCにより分離する方 法に関する発明ではない。 上記の点をひとまず措くとしても,HPLCチャートのうち,平成20年5月8 日に被告従業員等に示されたもの(甲29の2)は,α−GGとβ−GGのピーク が分離されているとはいえず,この時点で,原告従業員Aiの技術的関与があった とは認められない。
他方,平成21年5月1日に被告従業員等に示された甲30のHPLC分析結果 では,各ピークの裾野はつながっているものの,α−GGとβ−GGのピーク自体 は区別できるが,HPLCの条件及び結果は,本件明細書1記載の実施例について のHPLCとは異なるものである。また,そのα−GGとβ−GGの比率が示され た分析結果(甲31のHPLC分析結果)は,本件訴訟において初めて被告に示さ れたもので,甲30のHPLC分析結果とともに示していないこと,その後,同年 11月13日の時点においても,原告従業員Aiは,被告従業員Aivに対し,α− GGとβ−GGのHPLCによる分離確認方法を問い合わせていること(乙18) からみても,上記の原告従業員Aiの知見や原告による分析結果(甲30,31) により,原告従業員Aiが本件発明1−1の特徴的部分について技術的な関与をし たものとは認めがたい。 もともと,被告従業員Aiiは,原告からGG製造の委託を受けた平成20年5月 8日の時点においても,GG自体は製造したことはなかったものの,類似の物質の 化学合成法によると,α−GGとβ−GGの比率については,概ね7:3になるで あろうということを,それまでの被告における知見や経験から予想していたもので\nあるし,実際に,その後の平成21年12月7日の打合せにおいて,「GCI見解と して,液クロでは判断し難い。NMRで確認した結果,α:β=65:35となる。」 とし,α−GGとβ−GGの比率については,概ね当初の予想どおりの結果をNM\nRで確認しているのである。 原告は,この時点でも,被告従業員等がHPLCによる分析は難しい旨を発言し ていることから,被告にHPLC分析を行う技術力はなく,原告のHPLCによる 分析結果が本件発明1−1に寄与した旨も主張するが,そもそも,HPLCによっ て分析するという分析方法を単に示唆したというだけでは,本件発明1−1につい て,共同発明者の一人とみることができるような技術的関与があったとはいえない ことは明らかであるし,上記のとおり,原告におけるHPLCによる分析も十分な\n結果とはいえない。 そうすると,被告従業員等において,上記経緯を踏まえ,その後も実験,分析を 繰り返した結果,本件出願1に至る平成22年5月10日までの間に,本件明細書 1に記載の実施例に掲げられたHPLC分析の条件及びその結果を見出し,出願に 至ったものと認めるのが相当である。そして,仮に,その際,原告のHPLCによ る分析を参考にしたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の 策定や具体的な条件や結果を獲得する過程に原告従業員Aiが具体的かつ実効的な 貢献をしたものとは評価し難い。したがって,本件発明1−1の構成1)及び構成2) について,原告従業員Aiが技術的に寄与したものとは認められない。

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平成28(行ケ)10025  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月8日  知的財産高等裁判所

 審決は、請求項1,2は、製造方法が記載されているので、PBPクレームには該当し、明確性違反と判断しました。裁判所は、製法が記載されていても、この場合は、PBPクレームには該当しないと判断されました。ただ、他の請求項についての明確性違反が残っているので、結論に影響しないとして、拒絶審決が維持されました。
 そこで検討するに,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその 物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・ クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項 2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは, 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\ であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると 解するのが相当であるところ(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判 決・民集69巻4号700頁参照),本願補正発明1及び2に係る前記の各 記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ, 「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・ クレームに該当するということができそうである。 しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反に なるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は, 当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定\nされるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法 が当該物のどのような構造又は特性を表\しているのかが不明であり,権利範 囲についての予測可能\性を奪う結果となることから,これを無制約に許すの ではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。 そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっ ても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構\n造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技\n術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とす べきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。
この点,本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は,1)透光性 あるシート・フィルムを,80〜100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁 以外の3方の縁からはみ出させる,2)これを稲育苗箱底面に根切りシートと して敷く,3)その上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む, 4)この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固定し,根上が\nりを防止して,覆土も極少なくする,5)1)ないし4)のとおり育苗した軽量稲 苗マットを,根切りシートと一緒に巻いて,細い円筒とする,という手順を 示すことにより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにしたものと\n理解することが十分に可能\である。 また,本願補正発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)も,1)80〜1 00cm長さの稲育苗箱にはめ込んだ,成型した籾殻マット等の軽い稲育苗 培土代替資材の表面に,2)綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固 定し,根上がりを防止し,覆土も極少なくして育苗した,軽量稲苗マットに, 3)透光性あるシート・フィルムを,稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁 からはみ出させて被せ一緒に巻いて,細い円筒とする,というように,やは り手順を示すことより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにした\nものということができる。 そうすると,本願補正発明1及び2に係る前記特定事項は,いずれも,物 の構造,特性を明確に表\しており,発明の内容を明確に理解することができ るものである。 したがって,本願補正発明1及び2は,いずれも,特許法36条6項2号 との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる 必要はなく,この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的\n事情がなく,同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである。
(3) 以上によれば,取消事由1に関する原告の主張は正当であり,これに反す る被告の主張は採用できない(ただし,この点に関する本件審決の判断の誤 りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことについては,後記4の とおりである。)。

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平成28(ワ)15355  特許権侵害に基づく損害賠償請求事件  民事訴訟 平成28年10月31日  東京地方裁判所

 「緩衝剤」の文言について、技術的見地、明細書の記載、先行技術などから判断し、技術的範囲に属しないと判断されました。
a 以上のとおり,本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」 を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物, 例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ない ことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶 液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるも のであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤の\nモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書 は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ 酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外 部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュ ウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」と いう用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1 における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得 ない。
すなわち,本件発明1は,専ら,オキサリプラチン水溶液に,緩衝剤として,シ ュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)することにより,オキサリ プラチン溶液中のシュウ酸濃度を人為的に増加させ,平衡に関係している物質の濃 度が増加すると,当該物質の濃度が減少する方向に平衡が移動するという原理(ル シャトリエの原理)に従い,結果として,オキサリプラチン溶液中におけるジアク オDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純 物の量を,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)しない場合よ りも,減少させることを目した発明と把握するべきであり,そのように把握するこ とにより,初めて,本件明細書の段落【0031】が「本発明の組成物は,オキサ リプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明して おり,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明 の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオ DACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していることや,本件 明細書には,シュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを,構成要件1Gが規定する数値の\nモル濃度だけ,オキサリプラチン溶液に「添加」する実施例のみが開示されている こと,さらには,本件明細書に開示された実施例において,解離シュウ酸の量を明 記していないことや,他の不純物の量から解離シュウ酸の量を推計することを示唆 する記載すらないことなどを整合的に説明できるのである。 また,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属 塩を添加(外部から付加)して得られたオキサリプラチン溶液組成物は,これを添 加しないオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも,ジアクオDACHプラ チン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量が減少す るから,客観的構成において異なる(すなわち,「物」として異なる。)ことにな\nるということもできる。
b 他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張す るように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDAC Hプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば, 本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有 している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イ オンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象) を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を 含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべ きである。すなわち,本件優先日時点において,例えば,濃度が5mg/mLのオ キサリプラチン水溶液が公知であった(乙1の1)。そして,当該水溶液中のオキ サリプラチンが分解して解離シュウ酸が生成されることは,その生来的な性質であ り(本件明細書の段落【0013】ないし同【0016】参照),シュウ酸が平衡 に関係している物質であることも同様であるところ,種々の条件下である程度の期 間保存された濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液中には,解離シュウ酸が 存在し,その量が,5x10−5M以上となることが多いことが,乙13の3試験,甲2 0試験(「5x10−5M」として,有効数字を1桁とする以上,「4.86x10−5M」又は 「4.94x10−5M」も,「5x10−5M」とみて差し支えない〔乙12参照〕。),乙3 2試験及び乙37試験の各結果から,さらには,本件特許権に係る原告デビオファ ームの延長登録出願の願書(乙33)の記載から認められる(なお,上記認定は, 上記各試験が乙1の1実施例の追試として妥当であるか否かはともかく,少なくと も,公知の組成物である濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液において,解 離シュウ酸のモル濃度が5x10−5M以上となることは,ごく通常のことであると認め るのが相当であることを指摘したものである。)。そうすると,公知の組成物であ るオキサリプラチン水溶液中に存在し,同水溶液の平衡に関係している物質である シュウ酸イオン(解離シュウ酸)に,「平衡に関係している」という理由で「緩衝 剤」という名を付け,上記のとおり通常存在しうる程度のモル濃度を数値範囲とし て規定したにとどまる発明は,公知の組成物と実質的に同一の物にすぎない新規性 を欠く発明か,少なくとも当業者にとって自明の事項を発明特定事項として加えた にすぎない進歩性を欠く発明というほかはない。
c したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で 分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当で ある。

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平成28(ネ)10058  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成28年10月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 食品パッケージのデザインについて、周知の商品等表示(不競法2条1項1号)ではないと判断されました。判決文の最後に双方の形状が記載されています。
また,背景の基調色が濃紺色であること自体が商品の出所を表示するものであると認めるに足りる証拠はない。証拠(甲34の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,各食品メーカーは,同種の自社製品につき,同じ形状とレイアウトデザインの包装用袋を採用し,製造者又は販売者を示す標章を記載しつつ,商品ごとに部分的に記載内容や基調色を変えることを,一般的に行っており,そのような一連の商品が多数市場に流通していると認められるところ,一般消費者も,これを認識して購買しており,包装用袋の形状及びレイアウトデザインの特徴,製造者又は販売者を示す標章によって,その商品の出所を識別するのが通常であり,背景の基調色が,前記の各点以上に重要な考慮要素とされているとは考え難い。画像や文字を目立たせるために,黄色に対して青紫色などの反対色を背景に着色することは,一般的には,よく行われる色彩の選択であり,食品ないしサラダの包装用袋の商品表\示において,かかる配色が従前なかったとしても,そのことのみをもって,前記認定を左右するとは認められない。
・・・・
しかしながら,食品において,種々の新製品が開発され,流通に置かれていることは,公知の事実であり,以前に控訴人表示のような表\示がなかったことのみをもって,控訴人表示が自他商品識別力を有するに至るとは考えられない。商品名を表\示の上部などの読みやすい位置に大きく表示し,背景色が濃色の場合は白抜きにすることは,ありふれた表\示であるといわざるを得ないし,食品において,その包装用袋の一部を透明にして内容物を当該袋の外から見られるようにすることも,ありふれた表示である(甲34の1,2)。前記認定のとおり,控訴人表\示の左上の標章の部分を除けば,その余の表示部分が,自他商品識別力を有するに至っているとは認められない。したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。\n

◆判決本文

◆原審はこちら。平成27(ワ)28027

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平成28(ネ)10051  不正競争行為差止等請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成28年10月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 包装箱及び銀包の形状について、商品形態模倣(不競法2条1項3号)ではないと判断されました。判決文の最後に双方の形状が記載されています。
 そうすると,被控訴人商品の商品名及び「80種類の酵素と青汁」という表示を\n含む包装箱表面の模様は,緑色の背景に白抜きで商品名が記載されており,「80種\n類の酵素と青汁」という文字列が記載されているという点において,控訴人商品の 包装箱表面の模様と類似するということができるものの,商品名が配置されている\n位置や背景の形状,同一の背景の中に描かれた他の模様が著しく相違しているし, 「80種類の酵素と青汁」という文字列が配置されている位置,背景及び文字色も 大きく異なっており,その余の部分も含めた包装箱表面の模様全体としてみると,\nその類似性は低いものと認められる。 また,甲3の2,甲4の2及び弁論の全趣旨によれば,控訴人主張の控訴人商 品及び被控訴人商品の各裏面の栄養成分表示と商品説明文は,配置や記載内容は類\n似するものの,いずれも青汁という製品に共通する格別の特徴がないありふれた形 態であると認められる。 以上によれば,控訴人主張の控訴人商品の形態のうち,包装箱及び銀包の形状並 びに包装箱裏面の栄養成分表示と商品説明文については,同種の製品に共通する特\n徴のないごくありふれた形態であって,「商品の形態」を構成するものとはいえない\nし,包装箱表面の商品名及び「81種類の酵素と青汁」という文字を商品の形状に\n結合した模様として参酌しても,それらを含む包装箱表面の模様全体の類似性は低\nく,実質的に同一の形態ということはできないから,被控訴人商品が控訴人商品の 「商品の形態を模倣した商品」であると認めることはできない。

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◆原審はこちら。平成27(ワ)29222

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平成28(行ケ)10090  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年10月27日  知的財産高等裁判所

 審決は「Dr.Coo」の下段の「AQUA COLLAGEN GEL」について識別力があるとして、4条1項11号違反として、取り消し決定をしました。知財高裁も、この判断を維持しました。
  認定事実によれば,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日) において,申立人は,我が国のスキンケア市場における有力メーカーの一つ\nであり,とりわけドクターズコスメの分野では,パイオニア的な存在である とともに,圧倒的なシェアを誇るトップメーカーであって,スキンケア化粧 品やドクターズコスメの取引者,需要者らに広く知られる存在であったこと, 申立人が製造,販売する商品の中でも,アクアコラーゲンゲル化粧品は,申\ 立人の設立当初から15年以上にわたって継続的に販売される主力商品であ り,全国でのテレビCMをはじめとする大規模かつ長年に及ぶ宣伝・広告等 により,近年においては,年間100億円を超える売上高を維持し,各種の 人気投票等でも常に上位にランクされるなど,人気商品としての地位を確立 し,スキンケア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らに広く知られ ていたこと,アクアコラーゲンゲル化粧品に係る上記宣伝・広告等の多くに おいては,「アクアコラーゲンゲル」という商品名の片仮名表記とともに,\n当該化粧品容器の画像が表記され,その中には,ドクターシーラボ標章の下\nに「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字が組み合わされた標章(引用商標1と実 質的に同一の標章)が表示され,更に,その下に,各種の商品ごとに付加さ\nれた名称(「Super Moisture」など)が表示されていることが認められる。\n そして,これらの事実を総合すると,アクアコラーゲンゲル化粧品の商品 名を片仮名で表記した「アクアコラーゲンゲル」の標章及び引用商標1は,\n本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)において,申立人が製造,販\n売するアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として,全国のスキンケ\nア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らの間において広く認識され ていたものと認めることができる。 また,商品の製造,販売を行う企業においては,その企業自体の営業標識 となるロゴやマーク(いわゆるハウスマーク)を用いるほかに,商品のブラ ンド名を表す商標を用いる場合があり,その中でも,シリーズ商品や一定の\nカテゴリーに属する複数の商品群に統一的な商標(いわゆるファミリーマー ク)を使用した上で,その中の個々の商品について,ファミリーマークに付 加して個別の商品を識別するための標章(いわゆるペットマーク)を使用す ることが一般的に行われており,また,これらのマークを組み合わせて使用 することも一般的に行われている(当裁判所に顕著な事実)。そこで,この ような取引の実情を踏まえて考察すれば,前記宣伝・広告等におけるアクア コラーゲンゲル化粧品の容器の画像中の標章に接した取引者,需要者らにお いては,その構成中のドクターシーラボ標章については,企業名である「ド\nクターシーラボ」の欧文字表記に相当する「Dr.Ci:Labo」の文字を含む図形 であり,申立人の広告等の中で単独でも用いられていることから,申\立人の ハウスマークに相当するものとして認識し,また,その下の「AquaCollagen-Gel」の欧文字については,アクアコラーゲンゲル化粧品に共通し て用いられる「アクアコラーゲンゲル」の商品名を欧文字表記したファミリ\nーマークに相当するものとして認識し,更に,その下の「Super Moisture」 などの表示については,アクアコラーゲンゲル化粧品のシリーズにおける個\n別の商品を識別するためのペットマークに相当するものとして認識し,全体 として,これらのマークが組み合わされた商標であると自然に理解するもの と考えられる。してみると,引用商標1は,その全体が,申立人の製造,販\n売するアクアコラーゲンゲル化粧品を表示するというのみならず,その構\成 中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分のみをとらえても,アクアコラーゲ ンゲル化粧品を示すファミリーマークに相当するものとして独立の商品識別 機能を果たしているというべきであり,引用商標1及びその構\成中の 「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,全国のスキンケア化粧品やドクター ズコスメの取引者,需要者らの間において,そのようなものとして認識され, 広く知られていたということができる。
2 本件商標と引用商標1及び2の類否について
そこで,以上を踏まえた上で,本件商標と引用商標1及び2との類否につい て判断する。
本件商標について
原告は,本件商標の構成中,「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分が独立し て自他商品の識別標識としての機能を果たし,これから「アクアコラーゲン\nゲル」の称呼が生じるとした本件決定の判断は誤りである旨主張するので, 以下検討する。
ア 本件商標は,別紙1記載のとおり,上段に欧文字の「Dr.Coo」を,下段 に欧文字の「AQUA COLLAGEN GEL」を,それぞれ横書きしてなる結合商標 である。 しかるところ,上記「Dr.Coo」の文字と上記「AQUA COLLAGEN GEL」の 文字とは,上下二段に分けて表記されている上,前者の文字が後者よりや\nや大きいこと,前者が大文字と小文字の組合せであるのに対し,後者は大 文字のみからなること,両者の文字数の違いにより,両者の文字列全体の 幅が大きく異なることといった相違があることからすると,両者は,外観 上明瞭に区別して認識されるものといえる。 また,本件商標から生じる観念についてみても,「Dr.Coo」の文字から は,直ちに特定の観念が生じるとは認められず,他方,「AQUA COLLAGEN GEL」の文字については,「AQUA」は「水」を,「COLLAGEN」は「コラー ゲン(硬たんぱく質の一種)」を,「GEL」は「コロイド溶液がゼリー状 に固化したもの」をそれぞれ意味する外国語として一般的に知られている ことから,これらを組み合わせた観念が生じることが考えられるが, 「Dr.Coo」の文字と結びついた観念が生じるものではないから,両者は, 観念の点においても特段の結びつきがあるものではなく,明瞭に区別して 認識されるものといえる。 加えて,前記1 で述べたとおり,「アクアコラーゲンゲル」の標章及 び引用商標1の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分が,申立人の\n製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を示すものとして,スキンケ ア化粧品やドクターズコスメに係る全国の取引者,需要者らに広く認識さ れている事実からすれば,本件商標がその指定商品である「コラーゲンを 配合したゲル状の化粧品,コラーゲンを配合したゲル状のせっけん類」に 使用された場合,これに接した取引者,需要者が,スキンケア化粧品等の 分野において周知な「アクアコラーゲンゲル」の標章や「Aqua-CollagenGel」の文字と称呼や欧文字の綴りを共通にする下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の部分に特に注目することは,自然にあり得ることであるといえる。 以上を総合すれば,本件商標においては,その構成のうち下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品の識別標識とし て強く支配的な印象を与える部分として認識されることがあるというべき であるから,当該部分を本件商標の要部として把握することが可能であり,\nそこから,「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとともに,申立人の\n製造,販売する人気のシリーズ商品であるアクアコラーゲンゲル化粧品の 観念が生じるものと認めることができる。

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平成28(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告は、原告の主張する引用発明の認定の誤りは認めたうえ、結論に影響がないと争っていました。審決書をみると、原告はどうやら弁理士です。異議申し立て制度が復活して、条文上は、無効審判では利害関係要件が復活したけど、その点は実務上は問題とならないのかもしれません。\n
 本件発明1は,その請求項1の文言からして,少なくとも,ドライブスプロケッ トと回転軸が相互に軸方向に移動自在であるドライブスプロケット支持構造である\nと認められる。これに対し,審決は,上記1(3)のとおり,甲2発明において,ドラ イブスプロケット21がポンプハブ11に対して軸方向に移動自在でないとし,こ の点を両発明の実質的な相違点とする。この審決の判断は,甲2発明の認定を誤っ た結果,相違点の認定を誤ったものである。 そうすると,かかる相違点の認定を前提とする相違点の判断も誤りであり,これ らの誤りは,審決の結論に影響を及ぼすといえる。

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平成28(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 宅配ボックスと中食配送システムについて、組み合わせの動機付けありと認定し、拒絶審決が維持されました。裁判所は、利用者宛ての荷物について,システムから利用者に対しメール通知を行う点で共通の技術分野に属すると言及しました。
 (2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。 好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が 可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨\n機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために (【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが 荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供 者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食 を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管 理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された 内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上 記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し, 中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が 中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知 する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】〜【006 6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の 玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配 送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合 には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る 中食配送システムというものである。 したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利 用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上 させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便 性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み\n合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者 自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく 荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001 9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増 加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配 送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当 である。 そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引 用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対 し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入 力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引 用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係 るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一 切存しないと主張する。 しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としてい\nるわけではないし(甲2の【0016】〜【0019】),配送対象の荷物が高価 であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通 性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共 通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要 因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構\成して相違 点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。\n

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平成28(行ケ)10009  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなし・阻害要因ありとして、取り消されました。
 引用例2には,そこに記載された加湿器が,給水部の水位を検知する検知装置を 備えた加湿器において,表示部が,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,\nあらかじめ定めた第1表示内容を表\示し,モーターが所定時間以上回転した後,モ ーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表\示するものであることが記載 され(【0005】),かかる構成にしたことにより,給水部の水位が一定の水位\nよりも低くなった後,給水を促す表示をするが,モーターが所定時間の5分間以上\n回転しているため,モーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が付\nき,給水を行えば,加湿運転を停止させて部屋を乾燥させてしまうことがない,ま た,モーターの回転を低速回転とするため,加湿量が減って給水部の水位が一定の 水位よりも低くなった後はゆっくりと水位が下がり,長時間加湿できることから, その間に給水を促す表示に気が付きやすいなどと記載されている(【0009】,\n【0010】)。また,【0036】ないし【0038】には,給水部2の水位が 基準の水位よりも低くなると,ファン3を低速回転とし,ヒーター8をOFFとし, タイマーに所定時間の5分間以上の時間を設定し,表示部6には第1の表\示内容で ある「給水」及びタイマー残時間の表示をして,タイマーの減算を開始すること,\nタイマーの残時間が0となったらファン3を停止し,表示部6には第2の表\示内容 である「給水」点滅の表示をすることが記載されている。\nこれらの記載によれば,引用例2に記載の加湿器は,部屋の乾燥を防止するため に,水位が「一定の水位」より低くなった後も,モーターが所定時間以上回転し, さらに,低速回転とすることで長時間加湿をすることが可能なものである。そして,\n「第1表示内容」が「給水」という文字及びタイマー残時間を表\示するものである から,「一定の水位」は,給水が一応求められる水位であるといえるものの,タイ マー残時間分のファンの継続運転によって,上記「一定の水位」よりさらに低くな った水位における「第2の表示内容」が「給水」という文字を含む点滅表\示である ことに照らせば,上記「一定の水位」は,タイマー残時間分の加湿運転の余地があ る水位を意味するものと理解される。 したがって,引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機 能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出され\nた後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。\n(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を 検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッ チ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下 回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能\の動作を行わせるこ とを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。 加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,\n「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における 接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さ の「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第 1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2 の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転 が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面 高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が\n検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2におけ\nる「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するも のであるということができる。 このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基 準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動\n作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという\n点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する 「第2の基準位置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわら\nず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」 を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるというこ\nとはできない。 (エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1 における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出され た後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とす\nるもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準 位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出 しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロート\nスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとさ\nれる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファ ンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれ ることになる。 そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1に おける接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知す る構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。\n

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平成28(ネ)10042  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 島野工業vsAppleの控訴審で、1審判断(非侵害)が維持されました。均等侵害も否定されました。珍しく、無効主張については判断されていません。1審では、下記のように判断されています。
本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。)。
判決文の最後に、イ号と本件発明の対比図面が掲載されています。
 証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告 製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。 プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えている ものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接 触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球 状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触するこ とによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されてい\nる。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう, コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている。 このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低 減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しな いという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。\n加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボ ールを使用する必要はない。 他方,本件発明においては,前記(2)のとおり,1)傾斜凹部を略円錐面形状とする ことによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安 定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに 伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,2)さらに,傾斜凹部の中 心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプ ランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢する ことを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケ ースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするも\nのである。 以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触 に関し,技術的意義を異にするものということができる。
(ウ) 控訴人の主張について
a 控訴人は,コマ状部材とプランジャーピンの材料である金属は,弾性変化す るものであるから,両部材は,必ず面で接触し,点で接触することはあり得ない旨 主張する。 しかし,甲第52号証によれば,球と平面が接触する場合,理論的には,接触部 分は点であり,接触面積を持たないものの,実際には,接触部分が変形することに よって接触面積を持ち,接触部の形状が円になり,このような接触は,「点接触」と 呼ばれる。前記(イ)において,被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピン の大径部の傾斜凹部と1点のみで接触するというのも,上記点接触の趣旨であり, 控訴人主張に係る弾性変化した状態の接触を排除する趣旨ではない。
b 控訴人は,甲第4号証を根拠として,被告製品のコマ状部材は,コイルバネ から押圧されてその弾性力を受け止めており,同弾性力がコマ状部材と本体ケース との間の摩擦力よりも大きいときは,空滑りして傾かず,本体ケースに接触しない 旨主張する。 しかし,甲第4号証に掲載された被告製品の写真からは,コマ状部材が本体ケー スにわずかでも接触しているか,全く接触していないかは,必ずしも明らかではな い。また,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置がオフセットさ れていることに鑑みると,通常,コマ状部材が本体ケースに接触しないという事態 が頻繁に生じることは考えにくく,そのような事態は,被告製品の通常の用法にお いて想定されていないものと考えられる(乙54参照)。
c 控訴人は,プランジャーピンに流れる電流の総和は決まっているので,プラ ンジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができれば,コイルバネに流 れる電流量を相対的に減じることができ,コイルバネの焼切れの防止にもつながる 旨を主張する。 しかし,上記主張のとおりであったとしても,本件明細書には,被告製品のよう にプランジャーピンと本体ケースとの接触に加え,押付部材であるコマ状部材と本 体ケースとの接触により合計4つの電流経路を確保することによって被告製品の電 気抵抗を低減させるという技術的思想は,開示されていない。
d なお,控訴人は,乙第38号証に掲載された被告製品のプランジャーピンの 図においては,底部の形状が傾斜凹部をなしていないが,これは,正確なものでは なく,甲第32号証の1・2が,被告製品の正確な設計図である旨主張する。しか し,控訴人が指摘する乙第38号証の図面は,「マッシュルーム要素及びプランジャ ーの形状を大まかに描写した断面図」(乙38)であり,甲第4号証及び乙第38号 証に掲載された被告製品の写真並びに控訴人が被告製品の正確な設計図である旨主 張する甲第32号証の1・2により,前記(イ)のとおり認定することができる。
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構\成の有無
前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左 右2箇所で接触して電流経路を確保している。 他方,前記(1)のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請 にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量 を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明 の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内\nに収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が 本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべ きである。 したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。\nほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本 体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置 をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径 部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの 内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部\nの中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位 置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部 材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プラン ジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大 径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部 材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。 よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ 状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないか ら,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構\成中,「押圧」に該当 するものはない。
・・・
しかし,特許請求の範囲に記載された構成中,相手方が製造等をする製品又は用\nいる方法と異なる部分が存する場合において,均等侵害の成立が認められるために は,上記異なる部分の全てについて均等の5要件が満たされることを要する。 前記2のとおり,本件特許請求の範囲に記載された構成と被告製品とは,1)構成\n要件Dの「押付部材」につき,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触 端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしなが ら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決す るための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されてい\nることが開示されており,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保 することは,開示されていないのに対し,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本 体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している点において異な るほか,2)構成要件Dの「押圧」は,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾\n斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものであるのに対し,被告製品のコマ状部 材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中 心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではない点においても異なる。 控訴人は,これらの相違点のうち,構成要件Dの「押付部材」が球形であるのに\n対し,被告製品のコマ状部材が球形ではないという点についてのみ均等の5要件を 主張するにとどまるから,主張自体,失当である。 なお,前記2(4)のとおり,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピ ンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。そして,前記 1のとおり,本件明細書には,従来技術として,金属製の本体ケースに設けられた 長穴にコイルバネを挿入した上でプランジャーピンを挿入し,本体ケースからプラ ンジャーピンの先端部分のみが突出する位置を保持されるという接触端子において, プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させ,プランジャーピンの本 体ケース内の端部が斜面となっていて,絶縁球がプランジャーピンを本体ケースの 長穴の内面に押し付けることができるようになっており,これによって,プランジ ャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができるとの構成が開示されてい\nる(【0002】,【0004】,【0006】)。したがって,本件発明においては,前記2のとおり,1)プランジャーピンの大径部に,単なる斜面ではなく,略円錐面形 状の傾斜凹部を設け,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸 上に安定して位置させるよう「押圧」すること及び2)傾斜凹部の中心軸をプランジ ャーピンの中心軸とオフセットさせることによって,コイルバネが,押付部材を介 して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に 付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンから本体ケース へ確実に電流が流れるようにすることが,従来技術に見られない,特有の技術的思 想を構成する特徴的部分に当たるというべきである。\n前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違すること が明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。

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平成27(ワ)2504  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年10月13日  大阪地方裁判所

 図形商標については非類似と認定しましたが、不競法に基づく損害賠償として売り上げの1%が認定されました。
 原告は,原告標章1の上下に2本の直線を追加すると,「Z」との文字が浮かび 上がり,被告標章1も,原告標章1を構成する2つの三角形状の図形にそれぞれ3本の白線を追加したものにすぎず,同様に「Z」の文字が浮かび上がるもので,両 者は類似する旨主張する。 しかし,標章の上下に2本の直線を追加すると「Z」の文字が浮かび上がるとい ったことは,需要者が容易に認識し得るものではないことからすれば,この点が類 否に影響を及ぼすものではない。 原告標章1は,一辺を曲面の凹面で切り取られた赤色の鈍角三角形2つが上下に 凹面が来るように点対称に配置された旗のようなマークであり,被告標章1は,原 告標章1に,対置する底面に平行な3本の白い線を各鈍角三角形部分に入れたもの であるので,確かに,外周の形態及び色は類似しているといえるが,本体である鈍 角三角形に縞模様が入っているか否かは需要者が容易に区別し得るものであり,相 当異なる印象を与えるものであるから,原告標章1と被告標章1を全体として見比 べると,相当異なるものであることは一見して明らかである。 したがって,被告標章1は,原告標章1とは類似しないというべきである。
3 争点3(被告は被告各標章及び本件ドメインを使用しているか)について
 被告が運営する被告2店舗は,原告標章2,7を外壁に掲げた原告店舗の近隣に あって競業関係にあり,しかも周知商品等表示である原告各標章5ないし7に類似する被告標章11,12を店舗の出入口に掲げていたというのであり,またその店\n舗名に「ゼンシン」という原告及び「全秦グループ」を他から識別する部分を含ん でいたというのであるから,その開業当初は,需要者である遊戯客に原告店舗ない し原告との関係につき一定の誤認混同を生じさせたことは優に認められるといえる (上記ア(オ)dのとおり,取引業者であるが,現に誤認混同していた実例も認められ ている。)。 しかし,上記ア(エ)によれば,そもそもパチンコ店等の需要者である遊戯客による 店舗選択は,当該パチンコ店等の経営主体がどこであるとか,どのパチンコ店グル ープの店舗であるかということを重視するのではなく,パチンコやパチスロの台の 機能や機種,出玉感,交換率等の個別店舗の具体的営業内容そのものを主要な選択要素として決せられることが認められ,これからすると当該店舗の営業主体の誤認\n混同が当該店舗の選択,ひいてはその売上げあるいは損害に結び付く関係は薄弱で あるということができる。 なお上記ア(エ)からは,需要者である遊戯客には,店員の接客態度や店舗が清潔に 清掃されているか等のサービスについても選択時に考慮する要素としている者がい ることも認められるから,それらの需要者であれば,店舗の営業主体を指し示す営 業表示を手掛かりに当該店舗で受けられるサービスを期待して店舗選択をする可能\ 性があることは否定できない。しかし,需要者であるパチンコ店等の遊戯客は,パ チンコ店を極めて頻回に利用するのが一般的であるというのであるから(週1日の 利用でも年間72日の利用になる。),仮に被告2店舗の需要者の利用が,被告標 章の使用によりもたらされた被告店舗が原告と関係する店舗であるとの誤認混同か ら始まったとしても,当該店舗のサービスを実際に経験している以上,その後の継 続的利用が原告と被告2店舗との関係についての誤認混同の影響によりもたらされ ているとは考え難いところである。 そして,そもそも原告店舗及び被告2店舗とも隠岐の島という需要者が限られた 市場の中で他の4店舗とも競合している店舗であるが,被告2店舗のうち,ゼンシ ン隠岐がもともとあったパーラー隠岐という別店舗の営業実態を実質上承継してい る関係にあることからすると,被告2店舗の営業が原告店舗の顧客の誤認混同によ り生じた需要によって継続的に成り立っているとはおよそ考えられず,むしろその 影響は極めて小さいと見る方が合理的である。 なお,本件において被告が被告標章を使用して営業を営んでいるのは隠岐の島の 被告2店舗だけであり,不正競争防止法5条2項で推定されるべき原告の損害は, 被告2店舗の営業の影響を受ける範囲,すなわち,その競合店となる原告店舗にお いて生じた損害だけが問題となるというべきであるから,被告による被告各標章の 使用態様のうち,隠岐の島の住民において認識されないような岡山県津山市所在の 本件建物の外壁に掲げられた被告標章2,6による標章の使用は原告店舗の営業に 損害を全くもたらさないことは明らかである。 したがって,このような事情を総合考慮すると,本件における被告の得た利益と 原告の受けた損害の関係に不正競争防止法5条2項の推定規定の適用があるとして も,その推定は99%の限度で覆滅されるというべきである。 なお,原告は,原告店舗と被告2店舗の営業方法の類似性,さらには原告代表者としてのP1の競業避止義務違反さえ問題としているが,そこで問題とされる損害\nは,結局のところ,営業表示の誤認混同に由来する損害ではなく,単に原告店舗の近隣に競合店である被告2店舗が出店されたことから生じる原告店舗の売上減少の\n問題にすぎないから,不正競争防止法2条1項1号の不正競争により生じる損害の 議論としては失当であり,上記認定を左右するものではない。
(4) 上記(1)アのとおり,被告が,被告2店舗で得た利益は合計6億6654万1 348円であるから,原告において損害と推定される額は,666万5413円で あると認められる。
(5) 不正競争防止法5条3項の適用による損害について
本件で問題とする原告各標章は周知商品等表示であり,これに類似する被告標章7ないし9及び11ないし13の使用の結果,現実的な誤認混同が生じた事実も認\nめられるから,顧客吸引力が全くない商標権の場合と同様の意味での損害不発生を いう被告の主張は直ちには採用できない。 しかし,上記(2)で検討したとおり,パチンコ店等では,需要者は,主に営業表示以外の営業内容そのものの要素を選択肢として店舗を選択するというのであるか\nら,営業表示により誤認混同が生じたとしても,そのことが店舗選択に与える影響は極めて小さく,しかも,その需要者は店舗を頻回に利用するというのであり,そ\nのような需要者を顧客としてつなぎとめるためには,出玉であるとか交換率である などのパチンコそのものの営業内容によって他店と競争しなければならないといえ るから,原告各標章の営業表示に顧客吸引力があるとしても,営業の場面で,これを発揮する余地は限りなく少ないというべきである。\nしたがって,本件において認定できる被告の不正競争に対して原告が受けるべき 金銭の額は極めて少額にとどまるのが相当であり,これを認めるとしても,被告が 不正競争により受けた利益に基づき認定される不正競争防止法5条2項にいう原告 の損害の額を上回ることはないというべきである。

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平成28(ネ)10059  著作権侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年10月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 練習用箸について、著作物性が否定されました。判断としては1審と同じですが理由が詳細になっています。
 第三に,原告各製品は,幼児が食事をしながら正しい箸の持ち方を簡 単に覚えられるようにするための練習用箸であって,その目的を実現す るために,2本の箸を連結する,あるいは,箸を持つ指の全部又は一部 を固定するというのは,いずれもありふれた着想にすぎず,このことは 甲16〜26の各製品や,乙5〜12の各公報に描かれたデザインを見 ても明らかである。また,かかる着想を具体的な商品形態として実現し ようとすれば,箸という物品自体の持つ機能や性質に加え,練習用箸と\nしての実用性が求められることからしても,選択し得る表現の幅は自ら\n相当程度制約されるのであって,美術の著作物としての創作性を発揮す る余地は極めて限られているものといえる。 (エ) 以上に基づいて検討するに,まず,箸を連結すること自体はアイデア であって表現ではない(なお,連結部分にキャラクターを表\現すること も,それ自体はアイデアであって,著作権法上保護すべき表現には当た\nらない。)し,その具体的な連結の態様を見ても,原告各製品が他社製 品(甲16〜26)と比較して特徴的であるとまではいえず,まして美 的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされているとは 認め難い。よって,前記1)の点に美術の著作物としての創作性を認める ことはできない。 次に,箸を持つ指やその位置が決まっている以上,これを固定しよう と考えれば,固定部材を置く位置は自ずと決まるものであるし,人差し 指,中指,親指の3指を固定することや固定部材として指挿入用のリン グを設けることも,例えば,原告各製品が製造販売されるより前に刊行 された乙5,7,8の各公報においても類似の構成が図示されている(す\nなわち,乙5及び乙7には,一対の箸のうち1本が人差し指と中指を入 れる2つのリングを有し,他方の1本が親指と薬指を入れる2つのリン グを有するものが図示されている。乙8には,一対の箸のうち1本が人 差し指と中指を入れる2つのリングを有し,他方の1本が薬指を入れる 1つのリングを有するものが図示されている。)ように,特段目新しい ことではない。原告各製品も通常指を置く位置によくあるリングを設け たにすぎず,その配置や角度等に実用的観点からの工夫があったとして も,美的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされてい るとは認め難い。よって,前記2)の点についても,美術の著作物として の創作性を認めることはできない。

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◆1審はこちらです。平成27(ワ)27220

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平成26(行ケ)10155  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所(第2部)

 サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。裁判所は原告のした実験については言及しませんでした。
 上記の実施例と比較例によれば,食塩濃度9.0w/w%の場合には,窒素濃度 が本件発明1の範囲に含まれる1.94〜2.15w/v%の範囲であれば,本件 発明1の範囲から外れるものに比べて,塩味が向上すること,また,苦みはカリウ ム濃度が上限の3.7w/w%であっても苦み3に抑えられることが理解できる。 しかしながら,本件発明1の窒素濃度の範囲内で,窒素濃度がより高くなると, 塩味が強くなる,苦みが抑えられるという傾向があるとは認められない。 また,窒素/カリウムの重量比のみが本件発明1の範囲から外れる例は記載され ていないから,窒素/カリウムの重量比が官能評価に与える影響を,直ちに理解す\nることはできない。
・・・
e 以上によれば,本件発明1に関し,本件明細書の実施例・比較例か ら,課題を解決できることが認識できることが直接示されているのは,食塩濃度が 9.0w/w%の場合のみである。
・・・
以上によれば,本件発明1のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油 について,本件出願日当時の技術常識及び本件明細書の記載から,本件発明1の課 題が解決できることを当業者は認識することはできず,サポート要件を満たしてい るとはいえない。
・・・
ア 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に「本発明の減塩醤油類の食塩 濃度は・・・7〜9w/w%であることが好ましく」(【0009】)と記載され,具 体的には,実施例において,数値範囲を満たす減塩醤油が,塩味が強く感じられ, 味が良好であって苦みも低減されることが記載されているから,サポート要件違反 はない旨主張する。 しかしながら,本件発明のうち,当該発明の課題を解決できることを具体的に示 しているのは,上記(1)エのとおり,食塩濃度が9w/w%の場合のみである。食塩 濃度が7w/w%まで低下した場合の塩味や苦みを推認するための技術的な根拠が, 本件明細書に記載されておらず,また,どの程度になるかということについての技 術常識もない以上,【0009】の「7〜9w/w%であることが好ましく」という 一般的な記載のみをもって,食塩濃度の全範囲において発明の課題を解決できるこ とについての技術的な裏付けある記載があると認めることはできない。

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平成28(ネ)10041  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、ライブハウスでの演奏について、オリジナル曲の演奏についても、JASRACにて管理対象としている以上、支払い義務があると判断しました。ライブハウスが実行主体であるとの判断も維持しました。
3 争点2(オリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否)について
(1) 1審被告らは,自ら制作したオリジナル曲を演奏することは,1審原告に著 作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから,不法行為に当た らないと主張する。 しかし,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(7) イ)のとおり,1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は,その契約期間中, 全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を,信託財産として1審原告に移転し ているから,1審原告管理著作物の著作権者は,1審原告である。そうすると,利 用者が誰であっても,1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合 には,当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。 このことは,著作権信託契約約款11条が,自作曲の自己利用に関し,著作物の 関係権利者の全員の同意を得た自己利用(委託者がその提示につき対価を得る場合 を除く。)については,あらかじめ受託者の承諾を得て,管理委託の範囲について の留保又は制限をすることができると定めていることからも,裏付けられるところ である。 以上のとおり,演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を演奏する場合で あっても,1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が,1審原告の著作権侵害に当たる ことは明らかであり,1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるから, 著作権侵害の不法行為が成立する。
(2) 1審被告らは,1審原告が著作者自身の演奏申込みも認めない違法な運用を\n行いながら,無許諾を理由に著作者自身の演奏の不法行為責任を追及することは, 管理委託契約の趣旨に反するものであり,許されないと主張する。 しかし,著作者が自ら演奏することを許諾している場合であっても,著作物につ いてのその余の関係権利者の得るべき使用料を分配する必要があることからすれば, 著作者自身の演奏行為について演奏の不法行為責任を追及して使用料相当額を徴収 することが,管理委託契約の趣旨に反するとはいえず,1審被告らの主張は理由が ない
。 (3) したがって,1審被告らの上記主張は採用することができない。
4 争点3(1審被告らの故意又は過失の有無)について
(1) 1審被告らは,前記2(2)の各事実を認識していた上に,前記1の認定事実 (引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり,1審被告らは, 本件店舗を開いた後は,1審原告に著作権料を支払わなければならないことを認識 していたのであるから,著作権侵害主体であることの認識があったことは明らかで あり,1審被告らには著作権侵害の故意又は過失があったというほかない。 (2) 1審被告らは,本件店舗における演奏曲目や出演者が権利者から許諾を得た かどうかを知らないから故意がない旨主張する。 しかし,著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては,他人が権利を有する楽曲 を利用していることの認識があれば足り,具体的な楽曲名や権利者の認識までは要 しない。また,1審被告らが1審原告管理著作物の利用許諾契約を締結していない こと及び本件店舗における多くのライブにおいて,具体的な数はともかく,1審原 告管理著作物が演奏されていることについては当事者間に争いがないところ,ライ ブハウスの出演者自らが1審原告から許諾を得ることは一般的ではなく,前記1の 認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(4)ア)のとおり,1審 被告Y2も,本件店舗以外のライブハウスに出演したことがありながら,1審原告 から許諾を得たことはなかったことに照らすと,本件店舗における演奏曲目や出演 者が権利者から許諾を得たかどうかの認識は,本件における1審被告らの主観的要 件の判断を左右するものではない。
(3) また,1審被告らは,著作権侵害の故意は,直接主体たる出演者の各演奏行 為時に存在していなければならず,その内容は,当該出演者が他人の著作物を無許 諾で演奏していること及び場の提供によって1審被告らも共同で当該楽曲を演奏し ていることの各認識ないし認容でなければならないと主張する。 しかし,1審被告らは,各出演者による演奏行為当時,著作権侵害主体であるこ とを基礎付ける事実を認識し,1審被告ら又は本件店舗は1審原告との間で1審原 告管理著作物の利用許諾契約を締結することなく,当該出演者が他人の著作物を演 奏していたのであるから,規範的な侵害主体としての故意に欠けるところはないと いうべきである。

◆判決本文

◆原審はこちら 平成25(ワ)28704/a>

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平成28(ワ)8027  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年10月12日  東京地方裁判所

 「フェルゴッド」と「フェルガード」が非類似と判断されました。双方とも登録されてましたが、商標権侵害として訴訟が提起されました。東京地裁は非類似と判断しました。指定商品が「フェルラ酸,ガーデンアンゼリカ抽出物及びカジメ等を原材料とする健康補助食品」というサプリメントです。
 まず,本件商標と被告各標章「フェルゴッド」との部分からは,いずれも特定の 観念を生じないものである。 次に,本件商標からは「フェルガード」の称呼を生じ,被告各標章の「フェルゴ ッド」の部分からは「フェルゴッド」の称呼を生じるところ,両称呼は,「フェル」 で始まり「ド」で終わるとの点において共通するが,両称呼を一連に称呼した場合 には,称呼全体の語調,語感において異なる印象を与えるものというべきである。 さらに,本件商標と被告各標章の「フェルゴッド」の部分の外観についてみても, 同様に「フェル」で始まり「ド」で終わるとの点において共通するが,本件商標は 「フェルガード」(標準文字)から成り,「フェル」や「ド」の部分が特に強調さ れているということもなく,この点は被告各標章の「フェルゴッド」の部分につい ても同様であるから,本件商標と被告各標章の「フェルゴッド」の部分とを一体的 に観察すれば,両者の外観は異なる印象を与えるものというべきである。 以上によれば,本件商標が付された原告商品と被告各標章が付された被告各商品 とがいずれもフェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする健康補助食品であり, いずれも白色系統色を基調とする外箱を包装とする点,通信販売により販売されて いる点,認知症の患者及びその家族を需要者とする点などにおいて共通すること, 本件商標が付された原告商品について紹介する書籍,論文,記事等が複数存在する ことを考慮しても,なお,本件商標と被告各標章とを対比したときに,需要者にお いて,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない から,被告各標章は,本件商標に類似しないというべきである。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,本件商標を付した原告商品が,フェルラ酸を使用した認知症サプリ メントの先駆け的な商品であって,「フェルラ酸含有食品」といえばまず本件商標 を想起するというほど,本件商標は,医師,認知症患者及びその家族のみならず, 全国的に周知された著名な商標であると主張する。 そこで検討するに,前記4(ア)のとおり,確かに,原告商品を紹介する書籍,論文, 記事等が複数存在することが認められる。しかしながら,上記各書籍の発行部数等 は明らかではないし,論文や会議での発表についてはその対象が相当程度限定され\nたものであることが推認できるほか,上記雑誌等の紹介記事をもっても,本件商標 が具体的にどの程度認知されているのかは判然としないというほかはない。現に, 原告自身が提出する証拠によっても,原告商品の利用者数は5000人ないし60 00人というのであって,我が国の人口や,そのうち認知症に罹患していると推定 される患者数やその家族の人数との比較からしても,本件商標が全国的に周知され た著名な商標であるとは認め難いというほかはない。よって,本件商標の周知性, 著名性を前提として本件商標と被告各標章との対比を行うべきかのような原告の主 張は採用することができない。

◆判決本文

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平成27(行ケ)10176  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月12日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、請求項1,2及び4の数値範囲について、実施可能要件を満たしていないと判断しました。また、請求項3について、審判では主張していなかったサポート要件は、本来審理の対象とはならないが、念のため判断するとして、最終的にはサポート要件を満たしていると判断しました。\n
 (カ) 以上によれば,本件出願日当時,パルスレーザー蒸着法により,アモ ルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1〜4)を形成することが可能であるこ\nとは確認できるものの(甲3,4,6,7),mが5以上の場合は開示されておらず, mが5以上のZnOに近い組成ではアモルファス相は得られないとの指摘もされて いた(甲3)から,当業者は,mが5以上の薄膜の作成は極めて困難と認識してい たものと認められる。
エ そして,本件明細書には,かかる当業者の認識にもかかわらず,mが5 以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜を作成する方法についての記載 はない。
(3) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,mが5以上50未 満の整数である場合を含む本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファ スの本件化合物薄膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載されたもの\nであるということはできないから,実施可能要件を欠くものと認められる。\nそうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由3には,理由が ある。
(4) これに対して,被告は,本件発明は,InGaO3(ZnO)m膜につい て電界効果トランジスタの活性層に適するという未知の属性を発見し,その属性は アモルファスでも奏されることを見出したものであり,mの値の数値限定にのみ意 義のある発明ではないから,透明薄膜電界効果型トランジスタという物品の活性層 を構成する材料についてmの値の全範囲にわたって物品を作製する実施例の記載が\n必要であるということにはならない,と主張する。 しかし,被告の主張するとおり,本件発明がmの値の数値限定にのみ意義がある のではないとしても,本件発明の請求項の記載には,mが5以上のアモルファス薄 膜も含まれているから,かかるアモルファス薄膜を形成することができる程度の記 載が,本件明細書に求められるというべきである。しかも,上記(2)のとおり,本 件出願日当時には,mが5以上の組成ではアモルファス相は得ることが極めて困難 であるという当業者の認識があったにもかかわらず,本件明細書にはmが5以上5 0未満であるアモルファスの本件化合物薄膜の作成方法についての記載がない以上, 本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成 することができる程度に,その作成方法が明確かつ十分に記載されたものであると\nいうことはできない。
・・・・
(2) 原告は,本件発明3に関しては,本件明細書の発明の詳細な説明に記載さ れている実施例は,単結晶のInGaO3(ZnO)5に関するものたった 1 つであ り,本件明細書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合 物も,m=5以外の場合の本件化合物も開示されていないから,サポート要件を欠 く,と主張する。これに対し,被告は,原告は上記主張を無効審判請求時にしていなかったから,本件訴訟において主張するのは不適法である,と反論する。
(3)ア 特許法は,特許無効の審判について,そこで争われる特許無効の原因が 特定されて当事者らに明確にされることを要求し,審判手続においては,上記特定 された無効原因をめぐって攻防が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点 に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかである。したがって,\n特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいて,その判断の違法が争われる場 合には,専ら審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原 因に関するもののみが審理の対象とされるべきである(最大判昭和51年3月10 日,民集30巻2号79頁参照)。
イ 本件において,審判段階では,原告が主張していた本件発明3に関する 無効理由6の概要は,以下のとおりである(甲40)。 本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,高温で反応性 固相エピタキシャル成長させて形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いる と,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識 する。一方,本件発明3には,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキ シャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキ シャル成長して形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いたことが規定され ていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は, 本件発明3がノーマリーオフになると認識できないというべきである。
ウ そうすると,原告が本件訴訟において取消事由4と主張する,本件明細 書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合物も,m=5 以外の場合の本件化合物も開示されていないことが,サポート要件を欠くというべ きか否かについては,審判においては現実に争われたものではなく,審理判断され たものではないといわざるを得ない。
(4) これに対して,原告は,サポート要件があることの立証責任は特許権者で ある被告にあるから,審判請求人である原告はサポート要件違反があるという争点 を指摘すれば足り,取消事由4に係る主張は不適法ではない,と主張する。 しかし,上記(3)アのとおり,審決取消訴訟における審理範囲は,立証責任の所在 ではなく,実際に審理判断された特定の無効原因といえるか否かによって画される のである。原告の主張には,理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は,主張自体失当であるが,念の ため,原告主張の理由により,本件発明3はサポート要件を欠くかについて判断す る。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,単結晶の本件化合物薄膜を形成す る方法について,「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO 単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス化合物薄膜を堆積し,得られた多層 膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス 単結晶薄膜を育成する」(【0007】),「上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と 同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手 段を用いる」(【0008】)と記載され,ZnO薄膜上に形成する本件化合物薄膜に ついては,「MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により成長させる。」 (【0019】),「得られた薄膜は,単結晶膜である必要はなく,多結晶膜でも,ア モルファス膜でも良い。」(【0020】)との記載がある。 そして,実施例1として,単結晶InGaO3(ZnO)5薄膜(m=5の場合) を活性層としたトップゲート型MISFET素子の作製方法が記載されている(【0 028】〜【0031】,図1〜4)。 エ したがって,本件発明3は,サポート要件を満たしているものと認めら れ,いずれにしても,取消事由4には,理由がない。

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平成27(ワ)5619  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年9月29日  東京地方裁判所

 HTMLで記載された部分について創作性が否定されました。
 証拠(乙18ないし24)によれば,HTML(言語)に関しては,教 科書や辞典(乙19ないし20,22ないし24)が多数存在し,多くの 約束ごとが定められていること,HTML(言語)は,プログラミング言 語ではあるが,集計・演算等の処理をするためのものではなく,ブラウザ の表示,装飾をするための言語であり,ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっているときは,HTMLの表\現もほぼ同様となり,誰が作成しても似たようなものになることが認められる。
イ それにもかかわらず,本件において,原告は,甲19の表の右側(本件HTML)のうち青色で囲った部分はAが創作性を発揮して制作した部分\nであると主張した後,主張を若干変遷させて,甲25の2ないし4頁にお いて青枠部分を除いた部分が,Aが創作性を発揮した部分である旨主張し たものの,いずれにしても,以上のような抽象的な主張をするにとどまり, 本件HTMLにおいて,誰が作成しても同様の表現になるとはいえない程度に創作性のある表\現(表現者の個性が何らかの形で表\れている部分)があるかについて個別具体的な主張立証をしていない。

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平成28(行ケ)10109  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年10月12日  知的財産高等裁判所

 欧文字「HOKOTABAUM」をゴジック体の太字で表した商標について、識別力なしと判断した審決が維持されました。
 そして,証拠(乙1〜14)によれば,菓子業界においては,取扱商品としてバ ウムクーヘンを表示するに際し,「URUOIBAUM」,「HITOTSUGI\nBAUM」,「PREMIUM BAUM」,「This IZU BAUM」,「KO YAMA´S BAUM」,「WHISKY BAUM」,「WHITE BAUM」, 「EUCALY BAUM」,「ねこバウム」,「TERABAUM」などと,「BA UM」との文字部分,又はその片仮名表記である「バウム」との文字部分と,その\n他の文字部分を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。 そうすると,本願商標のうち「BAUM」の部分は,需要者又は取引者にバウム クーヘンを認識させるということができる。
ウ また,本願商標には,「HOKOTA」の欧文字が含まれている。 そして,「HOKOTA」の文字部分は,「ほこた」との称呼が自然に生じるとこ ろ,証拠(乙15〜17)によれば,「ほこた」との称呼を有する地方自治体であ る鉾田市が茨城県に所在することが認められる。また,証拠(乙18〜25)によ れば,鉾田市を表示するに際し,「HOKOTA」又は「Hokota」との欧文\n字を用いることが少なからずあると認められる。 そうすると,本願商標のうち「HOKOTA」の部分は,需要者又は取引者に茨 城県所在の鉾田市を認識させるということができる。 エ 以上のとおり,本願商標は,需要者又は取引者に,「BAUM」の部分は, バウムクーヘンを認識させ,「HOKOTA」の部分は,鉾田市を認識させるもの である。 そして,証拠(乙26〜33)によれば,菓子業界においては,取扱商品を表示\nするに際し,「遠野バウム」,「広島バウム」,「箕面バウム」,「琉球バウム」,「原宿バウム」,「御影バウム」と,その商品の生産又は販売がされる地域名と商品名であ る「バウム」を組み合わせた標章を用いることが少なからずあると認められる。 したがって,本願商標が指定商品に使用された場合,本願商標は,その全体から, 鉾田市を産地又は販売地とするバウムクーヘンという意味を有するものとして,需 要者又は取引者に認識されるものということができる。
(2) 普通に用いられる方法について
本願商標は,「HOKOTABAUM」という欧文字を,ゴジック体の太字で表\nし,さらに,全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させている。 そして,商取引において標章のデザイン化は一般に広く行われるものであるほか, 証拠(乙5〜9,11)によれば,菓子業界においては,欧文字で表した標章を,\n全体的に若干丸みを帯びるようにデザイン化させることもあると認められる。 そうすると,本願商標は,特殊なものとはいえず,「HOKOTABAUM」の 欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものということができ\nる。
・・・・
原告は,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は取引 者に認識されているとはいえない旨主張する。 しかし,前記のとおり,商標法3条1項3号にいう商標に該当するというために は,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は\n販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商 標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識され\nることをもって足りるというべきである。 したがって,鉾田市が本願商標の指定商品の産地又は販売地として,需要者又は 取引者に認識されているか否かは,本願商標の商標法3条1項3号号該当性の判断 を左右するものではない。

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平成28(行ケ)10083  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年10月11日  知的財産高等裁判所

 審判における職権証拠調べに対して、当事者に意見陳述の機会が与えられていないという理由で、無効理由なしとした審決が取り消されました。原告は米国のマスターズナショナルインコーポレーテッド、被告はゲームソフトメーカのコナミです。
 前記認定(第2,3,(2))のとおり,特許庁は,本件審判手続において 本件職権証拠調べを行ったものであるところ,証拠(甲78,79)によれ ば,特許庁は,原告に対し,平成27年11月16日に書面審理通知書(起 案日は同月12日)を発送した上で,同月17日,審理終結通知書(起案日 は同月12日)を発送したことが認められるものの,本件職権証拠調べの結 果を原告に対して通知し,相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与\nえたことをうかがわせる証拠は全くなく,これらの手続は行われなかったこ とが推認される。
(2)ア 法56条が準用する特許法150条は,「審判に関しては,…職権で, 証拠調べをすることができる。」(1項)とする一方で,「審判長は,… 職権で証拠調べ…をしたときは,その結果を当事者…に通知し,相当の期 間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならない。」(5項)\nと定める。ところが,本件審判手続において,特許庁は,上記(1)のとお り,原告に対し,本件職権証拠調べの結果につき通知し,相当の期間を指 定して意見を申し立てる機会を与えなかったのであり,この点で本件審判\n手続には上記規定に違反するという瑕疵があったものというべきである。 イ また,本件職権証拠調べは,具体的にはインターネットにより「スポー ツクラブ」及び「マスターズ」の語を複合キーワード検索することで 「スポーツクラブ」における「マスターズ」の語の使用例を調査したも のであるが,本件審決は,本件商標の法4条1項15号該当性を論ずる 中で,本件商標の称呼及び観念につき判断するに当たり,本件商標のよ うに「スポーツクラブ」の文字と「マスターズ」の文字が結合した場合 の「マスターズ」の文字部分が持つ出所識別機能の程度を評価する根拠\nの一つとして,このような本件職権証拠調べの結果である5件のスポー ツクラブのホームページに存在する記載を利用している。 さらに,法4条1項19号及び同7号該当性の判断に当たっても,本 件審決は,本件職権証拠調べの結果を利用して,本件商標中の「マスタ ーズ」の文字部分が持つ出所識別機能の程度につき検討している。
ウ そうすると,本件審判手続には瑕疵があり,その瑕疵は,審判の結果で ある審決の結論に一般的に見て影響を及ぼすものであったものというべ きである。このような場合,その瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼさな いことが明らかであると認められる特別の事情,すなわち,たとえ職権 証拠調べの結果の通知がなくとも,これに対する反論,反証の機会が実 質的に与えられていたものと評価し得るか,又は当事者に対する不意打 ちとならないと認められる事情がない限り,審決取消事由となるものと 解される(最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決・判例時報8 19号35頁,最高裁判所第三小法廷平成14年9月17日判決・判例 時報1801号108頁参照)。 そこで,本件における上記特段の事情の有無を検討すると,本件職権 証拠調べは,上記のとおり具体的にはインターネットによる「スポーツ クラブ」及び「マスターズ」の語の複合キーワード検索であり,その手 法それ自体は必ずしも目新しいものではなく,一般的かつ容易に行われ 得るものではある。しかし,原告において,そのような証拠調べが行わ れることを当然に予期していたとか,予\期すべきであったと認めるに足 りる証拠はない上,そもそも,本件審判事件においては,被告は原告の 主張に対し何ら答弁せず(前記第2の2),また,その審理は職権によ り書面審理とされていた(前記(1))のであるから,本件職権証拠調べの 事実を知らない原告にとっては,何らかの追加主張ないし立証が必要で あること自体,全く予期し得なかったと考えられるのである。また,本\n件職権証拠調べの結果それ自体も,本件審決の引用するホームページ上 の記載の存在そのものはともかく,これを受けた反証活動や本件証拠調 べの結果の評価に関する反論の余地がないとはいい難い。 そうである以上,本件においては本件職権証拠調べの結果に対する反 論,反証の機会が原告に対し実質的に与えられていたものとは評価し得 ず,また,原告に対する不意打ちとならないと認めるべき事情も見当た らない。すなわち,上記特段の事情の存在は認められない。 したがって,本件職権証拠調べの結果の原告に対する通知等を欠くと いう手続上の瑕疵は,本件審決の取消事由となるものというべきである。

◆判決本文

◆平成24(行ケ)10363号 以前に、「Augusta Club」で15号違反が争われた事件です。こちらは15号違反と認定されています。

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平成27(行ケ)10262  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月29日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとの審決が維持されました。争点として訂正要件を満たしているのかが争われています。「下端部」を「先端部」とする訂正も新規事項ではないと判断されました。
 原告は,訂正事項1について,審決は,「下端部」が「先端部」と同じ意味 であることは明らかであると断定しているが,本件明細書には「先端部」という記 載はなく,「下端部(自由端部)6a」,「下端部6a」という記載しか存在しないの であるから,本件明細書に全く記載のない全く別概念である「先端部」という表現\nを用いた訂正を行うことは,本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるとは いえず,新規事項を追加するものであり,違法である旨主張する。 しかし,本件明細書の「棚板2は,水平状に広がる平面視四角形の基板4と,基 板4の各辺から上向きに立ち上がっている外壁5と,外壁5の上端に連接した内壁 6とから成っており,」(段落【0016】),「図3(B)に示すように,・・・内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。 他方,内壁6の下端部(自由端部)6aは,外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっ ている。」(段落【0021】)との記載によれば,図3(B)の実施形態において, 内壁6の上端部は,外壁5との連接部11であり,外壁5に繋がる固定端部である のに対し,内壁6の下端部6aは,自由端部であり,下端部6aよりも先には内壁 6の部分が存在しないことから,内壁6の先端部であると認められる。そして,こ のような内壁6の構造は,本件明細書の図5(A),(B)などにも記載されている\nものである。 したがって,訂正事項1の「先端部」との表現を用いた訂正は,本件明細書に記\n載した事項の範囲内のものであるから,原告の上記主張は採用することができない。 また,原告は,「先端部」という用語は,上下方向に限られない先に位置する部分 を指す語であるから,「先端部」は「下端部」よりも広い部分を指すことになるので, 本件発明において,「下端部」の代わりに「先端部」という語を用いると発明の範囲 を広げることになる旨主張する。 しかし,本件明細書には,「なお,本願発明の棚板は基板の周囲に外壁を備えてい るが,棚板は基板から上向きに立ち上がっていても良いし,下向きに垂下していて も良い。」(段落【0010】)と記載されているところ,後者の外壁が下向きに垂下 する構成を採用する場合,内壁の先端部は下端部ではなく,上端部となることは自\n明である。そうすると,本件明細書に明示的に記載があるのは「下端部」との語の みであるとしても,内壁の先端部について,「下端部」のみならず「上端部」も本件 明細書に記載されているに等しいものと認められるから,本件明細書に記載されて いると認められる事項が「下端部」に限定されるものでないことは明らかである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 原告は,訂正事項1のうち,「内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記 外壁に向かっており」との部分について,本件明細書には,「内壁の先端部が外壁に 到達していない」構成は記載も示唆もされていないのであるから,特許請求の範囲\nにおいてもそのように解釈されるべきであり,内壁の先端部が外壁に到達していな い場合を含む表現である「前記内壁の先端部は・・・前記外壁に向かっており」と\n訂正することは,実質上特許請求の範囲を拡張することに該当し,拡張変更に当ら ないとする審決の判断は誤っていると主張する。 審決が認定するとおり,「向かう」とは「ある場所や方向を目指して進む。また, ある状態に近づく。」(広辞苑:甲11)との意味であり,「内壁の先端部は・・・外 壁に向かっており」とは,内壁の先端部が外壁の方向を目指して延びているとの意 味であると解されるから,「内壁の先端部は・・・外壁に向かっており」との構成は,\n内壁の先端部が外壁の方向を目指して延びていれば足り,内壁の先端部が外壁に到 達しているか否かは問わないものであって,内壁の先端部が外壁に到達している場 合と内壁の先端部が外壁に到達していない場合とを含むものであるといえる。 もっとも,本件明細書(図3,図5(A),(B))には,「内壁の先端部が外壁に 到達していない」構成も記載されていることが認められるから,実質上特許請求の\n範囲を拡張することに該当するとは認められない。なお,本件明細書には,「内壁の 先端部が外壁に到達していない」構成も記載されていることが認められる(図5(J)\n(K))。 そして,訂正事項1は,内壁の先端部についての限定がされていなかった本件訂 正前の請求項1について,本件明細書の図5(D)のような,外壁と重なる「重合 部6b」を有する内壁6の構造などの「内壁の先端部は・・・外壁に向かって」い\nるものではない構成を除外することにより,本件訂正前の請求項1に記載された「内\n壁」を限定するものであると認められる。 したがって,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する ものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから,原告 の上記主張は採用することができない。

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平成27(ワ)7147  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月15日  大阪地方裁判所

 文言は被侵害、均等侵害も第1要件を充足していないとして否定されました。メーカではなく販売店が被告というのも興味深いです。
 すなわち均等侵害が認められるためには,本件発明と被告方法の構成に異な\nる部分が存在する場合であっても,その部分が本件発明の本質的部分ではないこと が要件となるところ,ここでいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明 の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成す\nる特徴的部分であると解すべきであり,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明 細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法36条4項,特許法 施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第\n116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴\n的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(知財高裁平成 28年3月25日特別部判決)。
・・・
 本件発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,本件発明は,本件 特許の特許請求の範囲請求項1の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方 法として,「粉砕段階」,「加熱段階」を含む複数の動作段階を設定し,それら動 作段階の一部についてはその順序,時間,回数等を具体的に指定し,穀物の粉砕手 段及び加熱手段を一体化した組合せとすることにより,通常のおかゆの調理方法に おいて時間を要していたふやかしの時間及び全体の調理時間の短縮を図り,また, 通常の調理方法においてはかきまぜの継続によって解消していたおかゆの焦げ付き も防止するなど,より簡便,迅速に本来の風味を有するおかゆの調理ができるよう にしたものであると認められる。 ところでおかゆの調理方法として,加熱や粉砕の動作を適宜組合せることは,周 知であるから(本件明細書の【0005】),本件特許の特許請求の範囲請求項1 の発明に係るおかゆ調理器を用いたおかゆの調理方法である本件発明における本質 的部分とは,調理方法を決定するところの「粉砕段階」,「加熱段階」,「待機段 階」という一連の動作段階の設定,及び各動作段階において具体的に規定された粉 砕及び加熱の動作並びに待機の順序,各動作及び待機の時間,各動作及び待機の回 数等を一体化した組合せそのものにあると認められる。 (6) これに対し,被告方法は,既述のとおり,少なくとも,その第1及び第2の 粉砕段階において,本件発明の構成要件として規定された粉砕と待機とは異なる時\n間,回数の粉砕と待機がなされるものであるから,動作等の組合せにおいて,本件 発明の一体化した組合せとは異なっており,この相違部分は本件発明の本質的部分 に存するものといわなければならない, したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足するとは認められない。

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平成27(ワ)17928  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年9月15日  東京地方裁判所

 発信者情報開示請求です。争点は、リツイートする行為が著作権侵害かです。裁判所はリツィートの仕組みから判断して、公衆送信には該当しないと判断しました。
 前記前提事実(3)ウ及び(4)記載のとおり,本件写真の画像が本件アカウント 3〜5のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイ\nムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリ ンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接\n画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,流通情報3〜5 の各URLに流通情報2(2)のデータは一切送信されず,同URLからユーザ ーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,そ れ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,\n公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1 項)に当たることはないと解すべきである。 また,このようなリツイートの仕組み上,本件リツイート行為により本件 写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず,画像フ ァイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし,本件リツ イート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏 名表示権侵害も成立しない。さらに,流通情報2(2)のURLからユーザーの 端末に送信された本件写真の画像ファイルについて,本件リツイート者らが これを更に公に伝達したことはうかがわれないから,公衆伝達権の侵害は認 められないし,その他の公衆送信に該当することをいう原告の主張も根拠を 欠くというほかない。そして,以上に説示したところによれば,本件リツイ ート者らが本件写真の画像ファイルを著作物として利用したとは認められな いから,著作権法113条6項所定のみなし侵害についても成立の前提を欠 くことになる。 したがって,原告の主張する各権利ともその侵害が明らかであるというこ とはできない。 これに対し,原告は,本件リツイート行為による流通情報2(2)のURLか らクライアントコンピューターへの本件写真の画像ファイルの送信が自動公 衆送信に当たり,本件リツイート者らをその主体とみるべきであるから,本 件リツイート行為が公衆送信権侵害となる旨主張する。 そこで判断するに,本件写真の画像ファイルをツイッターのサーバーに入 力し,これを公衆送信し得る状態を作出したのは本件アカウント2の使用者 であるから,上記送信の主体は同人であるとみるべきものである(最三小判 平成23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照)。一方,本件リ ツイート者らが送信主体であると解すべき根拠として原告が挙げるものにつ いてみるに,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターユー ザーにとってリツイートは一般的な利用方法であること,本件リツイート行 為により本件ツイート2は形式も内容もそのまま本件アカウント3〜5の各 タイムラインに表示されており,リツイートであると明示されていることが\n認められる。そうすると,本件リツイート行為が本件アカウント2の使用者 にとって想定外の利用方法であるとは評価できないし,本件リツイート者ら が本件写真を表示させることによって利益を得たとも考え難いから,これら\nの点から本件リツイート者らが自動公衆送信の主体であるとみることはでき ない。

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平成27(ワ)482  販売差止等請求事件 平成28年9月28日  東京地方裁判所

 契約による著作権の独占的利用権は認めたものの、差止の代位行使までは意図していないと判断されました。
 しかるところ,原告会社は,原告会社が本件各著作物の著作権者に送付した本件 契約書案(甲41)には,「第三者が著作物の権利を侵害した場合には,これに対 処します。」との条項があって,同条項は,原告会社が,著作権者に対して,第三 者が著作物の利用をした場合にはその排除を求めることができる旨の債権を有して いることを前提とするものといえるから,原告会社は,著作権者に代位して,著作 権の侵害行為の差止め及び廃棄を求めることができると主張する。 確かに,本件契約書案には,原告会社が主張するとおり,「第三者が著作物の権 利を侵害した場合には,これに対処します。」との記載があるが,著作権者が原告 会社に対して差止請求権及び廃棄請求権を行使すべき義務を負担する旨の条項はな く,本件著作物5ないし同28の2(同11,同12の1,同12の2,同15, 同16,同17,同21の1,同21の2を除く。)の各著作権者が,原告に対し て,第三者が侵害行為を行った場合に,当該著作権者において差止請求権や廃棄請 求権を行使すべき義務を負担しているものとは認められない。他に,原告会社が, 上記各著作権者に対して何らかの債権を有していることを認めるに足りる証拠はな い。そうすると,債権者代位権(民法423条)の法意を用いて,各著作権者が有 する差止請求権及び廃棄請求権を原告会社が代位行使することができるものと認め ることは困難である。 なお,前記のとおり,本件契約書案には,「第三者が著作物の権利を侵害した場 合には,これに対処します。」との記載があり,著作権者が,著作権に基づく差止 請求権及び廃棄請求権を原告会社に行使させることを容認する趣旨を読み取る余地 もあるが,仮にそのような合意の成立が認められるとしても,非弁護士の法律事務 の取扱い等を禁止する弁護士法72条や,訴訟信託を禁止する信託法10条,著作 権等管理事業者に種々の義務を負わせた著作権等管理事業法等の趣旨からして,か かる合意に基づく請求を認めることはできないというべきである。

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平成27(ネ)10017  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 イベントにおける使用が、公然実施に該当すると判断されました。
イ また,控訴人は,特許出願のためには出願前に発明内容を他社に知られ てはならないことを認識していたから,本件小型器については,本件イベントにお いて,実演,操作説明その他詳細な製品説明,内部構造の開示を行っていないと主\n張し,甲16〜18はこれに沿う。 しかし,本件発明1の構成要件のうち,B2,B4,C1〜3,Fが本件小型器\nの展示によって公知となったことは争いがなく,かつ,本件小型器は炭酸ガスと化 粧水を混合した上で顔面等に吹き付けるためのものであって,その展示態様と業務 用大型器の実演や説明から,ガスボンベが本体内部に入っており,スプレーガンに 付属したカップ内に化粧水が入れられるべきものであること,本体上部とつながっ た管を通って炭酸ガスがスプレーガンに到達すること,炭酸ガスと化粧水が混合さ れたものが,スプレーガンのレバーを操作することによってその先端から噴射され ることは容易に看取されるといえる。本件イベント当時,特許出願のためには出願 前に当該特許発明の内容を他者に知られてはならないことを認識していたのであれ ば,このような,公然知られた又は公然実施をされたと判断される可能性がある展\n示方法を,採用することは不自然である。 控訴人は,本件小型器展示の目的を,美容院での施術の雰囲気を出すためなどと 主張するが,上記のような可能性のある展示方法を,雰囲気を出すといった曖昧な\n目的のために行うのは不合理である。しかも,本件イベントにおいて,控訴人が, 本件小型器を組み立て,液体をカップに入れた,少なくとも外観上すぐに実演でき るような状態で展示しながら,他方で,来場者の質問を受け付けなかったり,本件 小型器の実演を拒んだりしたとは想定し難い。 上記(2)ケで認定したとおり,控訴人において知的財産権関連業務を行っていたB が,本件イベントにおける展示を事前に認識していなかったこと,本件特許出願を 決めたのが本件イベントの後であったことからすれば,本件イベントへの本件小型 器の出品は,本件特許出願前には当該特許発明の内容を知られてはならないという 意識を欠いたまま行われたものであり,本件小型器の実演や説明も,業務用大型器 と同様に行われたと認めるのが相当である。 控訴人の主張には,理由がない。
ウ さらに,控訴人は,本件イベントにおいては,本件小型器の実演,操作 説明その他詳細な製品説明や,内部構造の開示等が行われておらず,公然性の要件\nを欠き,本件小型器の展示は,「特許製品以外の製品の宣伝活動や営業活動のための 展示又は客寄せのための展示」にすぎず,譲渡等を目的としたものではないから, 公然と「実施」したとはいえない,と主張する。 しかし,上記(2)キ及び(3)イで認定したとおり,本件イベントにおいては,本件 小型器の実演及び説明が行われ,展示とあいまって内部構造をも知り得る状態にあ\nったと認められる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成27(ネ)10067

◆関連事件(審取)です。平成27(行ケ)10144

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平成27(ネ)10016  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で均等主張をしましたが、知財高裁は、第2要件を満たさないとして、均等でないと判断しました。
 ア 前記2のとおり,1)本件発明1−1は,一次原反ロールから薬液が塗布され た二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液塗布手段,スリット手段及び巻取り 手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込まれ,同製造ライン上をシートが上 記各手段を経ながら間断なく流れるように構成された二次原反ロールの製造設備で\nあるプライマシンを備えているのに対し,2)被告設備は,一次原反ロールから薬液 が塗布された二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRから積層連続シー トSを形成する積層手段であるシート合わせロール10,積層連続シートSをスリ ットするスリット手段であるスリッター101及びスリットされた積層連続シート Sを巻き取ってロール102とする巻取り手段である巻取り装置131から成る製 造ラインと,上記製造ラインとは別に設けられた薬液塗布手段であり,同製造ライ ンから移送されたロール102から繰り出される積層連続シートSに薬液を塗布す る薬液塗布装置11及び薬液が塗布された積層連続シートSを再度巻き取って二次 原反ロールRとする巻取り手段である巻取り装置132から成る製造ラインに分か れている。 そこで,本件発明1−1において一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反 ロールを製造するプライマシンを,被告設備における上記2つの製造ラインと置き 換えても,本件発明1−1の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する かについて検討する。
イ 前記1のとおり,本件発明1−1の課題は,薬液塗布工程をプライマシンや マルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる,\n薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設備コストが掛かるという問題の発 生を回避し,同構成よりも低コストで薬液塗布を行うことができ,かつ,薬液塗布\nの有無を容易に切替え可能である製造設備を提供することであり,その解決手段は,\n一次原反ロールから薬液が塗布された二次原反ロールに至るまでの積層手段,薬液 塗布手段,スリット手段及び巻取り手段が順に連続した1つの製造ラインに組み込 まれ,同製造ライン上をシートが上記各手段を経ながら間断なく流れるように構成\nされたプライマシンを備える構成とすることである。同構\成の採用によって,薬液 塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に設ける場合 と比較して,その場合に起きる,薬液塗布のために原反を移送する手間や多大な設 備コストが掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることが でき,また,薬液を塗布しない製品を製造する場合は,プライマシンから薬液塗布 手段を省略すれば足りるので,薬液塗布の有無を容易に切り替えることができると いう効果を奏する。
ウ そして,被告設備は,前記アのとおり,一次原反ロールから薬液が塗布され た二次原反ロールに至るまでの間,一次原反ロールRからロール102を形成する 製造ラインとは別に,薬液塗布装置11が設けられており,上記製造ラインから原 反(ロール102)を薬液塗布のために薬液塗布装置11に移送するというもので ある。したがって,本件発明1−1において一次原反ロールから薬液が塗布された 二次原反ロールを製造するプライマシンを,被告設備における2つの製造ラインと 置き換えれば,少なくとも,本件発明1−1の目的のうち,薬液塗布工程をプライ マシンやインターフォルダとは別に設ける構成を採用した場合に起きる薬液塗布の\nために原反を移送する手間が掛かるという問題の発生を回避し,同構成よりも低コ\nストで薬液塗布を行うことができる製造設備を提供するという目的を達成すること ができず,薬液塗布手段をプライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは 別に設ける場合と比較して,その場合に起きる薬液塗布のために原反を移送する手 間が掛かるという問題の発生を回避し,設備コストをより低く抑えることができる という効果を奏しなくなることは,明らかである。

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◆一審はこちら。平成24(ワ)6547

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平成27(行ケ)10229  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月28日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項であると判断されました。
 ア 本件技術的事項が,当業者によって,本願当初明細書等の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入し ないものと認められるかについて検討する。
イ まず,本願当初明細書等には,「空気噴射装置11の正面には圧縮空気噴射 口20が設けられており」,「圧縮空気噴射口20の背面には…電磁弁22が設けら れている」,「空気噴射装置11は支持部材23によって固定されており,支持部材 23には振動センサ24が設置されている」と説明され(【0059】),さらに, 本願当初明細書等の【図面1】ないし【図面3】(別紙1本件補正明細書図面目録 の【図面1】ないし【図面3】に同じ。)には,筐体の正面上部に空気噴射口があ り,筐体の背面上部よりも下方に電磁弁があり,空気噴射口の背面側の位置に,振 動センサの設置された支持部材がある空気噴射装置が描かれている。そうすると, 本願当初明細書等には,本件技術的事項のうち,空気噴射口が正面上部となるよう にみたときの縦方向に着目した上で,2)筐体の正面上部に空気噴射口を設け,筐体 の背面上部よりも下方に電磁弁を設けることを可能にし,空気噴射口の背面側の位\n置に,振動センサの設置された支持部材を設けるという技術的事項については説明 されているということができる。 しかし,本件技術的事項には,空気噴射口が正面上部となるようにみたときの縦 方向に着目した上で,1)筐体の形状を横方向よりも縦方向に長いものとするという 技術的事項も含まれるところ,本願当初明細書等の【図面2】には,横方向よりも 縦方向に短い筐体の形状を備える空気噴射装置が描かれており,本願当初明細書等 には,その他に,空気噴射装置の形状について言及されていない。そうすると,本 願当初明細書等には,本件技術的事項のうち,空気噴射口が正面上部になるように みたときに縦方向に着目した上で,1)筐体の形状を横方向よりも縦方向に長いもの とするという技術的事項については説明されていないというべきである。 ウ よって,本件技術的事項は,当業者によって,本願当初明細書等の全ての記 載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内にあるということはできず, 「空気噴射装置」についてなされた本件補正は,新たな技術的事項を導入しないも のということはできない。
(4) 原告の主張
ア 原告は,本件補正は,空気噴射装置のうち,支持部材によって支持されてい る上方部分と支持されていない下方部分とに着目した場合,支持部材によって支持 されていない下方部分が,支持部材によって支持されている上方部分よりも縦方向 に長いことから,「空気噴射装置」について,「正面上部に前記空気噴射口を設けた 縦長の筐体」としたものである旨主張する。 しかし,前記(2)のとおり,「空気噴射装置」について「縦長の筐体」を備えると いう構成を付加することは,空気噴射口が正面上部となるようにみたときの縦方向\nに着目した上で,筐体の形状,並びに,空気噴射口,電磁弁及び振動センサの設置 された支持部材の位置関係を特定するという技術的事項を追加するものであって, 単に,空気噴射装置のうち,支持部材によって支持されている上方部分と支持され ていない下方部分の縦方向の長さを比較するというものにとどまるものではない。 したがって,原告の前記主張は採用できない。
イ 原告は,本件補正において,「横長」の筐体とすべきところを,「縦長」の筐 体と誤記載をしてしまっただけであると主張するが,本件補正により追加された技 術的事項の認定は,客観的になされるべきものであるから,原告の上記主張は失当 である。

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平成27(行ケ)10260  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月28日  知的財産高等裁判所

 一事不再理が適用できると判断されました。
 ア 特許法167条は,特許無効審判の審決が確定したときは,当事者及び参加 人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないと 規定している。同条の趣旨は,排他的独占的権利である特許権(同法68条)の有 効性について複数の異なる判断が下されるという事態及び紛争の蒸し返しが生じな いように特許無効審判の一回的紛争解決を図るために,当事者及び参加人に対して 一事不再理効を及ぼすものと解される。 先の特許無効審判の当事者及び参加人は,同審判手続において無効理由の存否に つき攻撃防御をし,また,特許無効審判の審決の取消訴訟が提起された場合には, 同訴訟手続において当該審決の取消事由の存否につき攻撃防御をする機会を与えら れていたのであるから,「同一の事実及び同一の証拠」について狭義に解するのは, 紛争の蒸し返し防止の観点から相当ではない。
イ この点に関し,平成23年法律第63号による改正前の特許法167条にお いては,一事不再理効の及ぶ範囲が「何人も」とされており,先の審判に全く関与 していない第三者による審判請求の権利まで制限するものであったことから,「同一 の事実及び同一の証拠」の意義を拡張的に解釈することについては,第三者との関 係で問題があったということができる。しかし,上記改正によって第三者効が廃止 され,一事不再理効の及ぶ範囲が先の審判の手続に関与して主張立証を尽くすこと ができた当事者及び参加人に限定されたのであるから,「同一の事実及び同一の証拠」 の意義については,前記アのとおり,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという 趣旨をより重視して解するのが相当である。
ウ 原告は,本件審判において,本件発明につき,引用例(甲2)を主引用例と し,これに記載された発明及び甲第1,4から11,13から18号証に記載され た発明又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 旨を主張した。 しかし,前記?のとおり,確定した前件審決においても,引用例(甲2)が主引 用例とされており,また,甲第6から18号証が副引用例とされていた。 したがって,本件審判における原告の前記主張は,確定した前件審決と同一の主 引用例に基づいて本件発明の容易想到性を主張するものであり,主引用例以外の証 拠についても,上記のとおり前件審決において副引用例とされていた甲第6から1 8号証に加え,甲第1,4及び5号証を追加したにすぎない。 このように,確定した前件審決と主引用例が同一であり,まして,多数の副引用 例も共通し,証拠を一部追加したにすぎない本件審判の請求は,「同一の事実及び同 一の証拠」に基づくものと解するのが,前記アの特許法167条の趣旨にかなうも のというべきである。 以上によれば,本件審判における原告の前記主張は,確定した前件審決と「同一 の事実及び同一の証拠」に基づくものであるから,特許法167条に該当し,許さ れない(この点に関し,本件審決が,本件審判において前件審判時に証拠として提 出されなかった甲第4,5号証が提出され,前件審判時に主張されなかった回動す るタンブラー錠用の鍵において摺り鉢形の窪みを有した鍵が周知であることが主張 されたことをもって,前件審判と同一の証拠に基づく審判請求とはいえない旨判断 したことは,誤りである。)。したがって,上記主張を排斥した本件審決の判断が誤 りであるという取消事由は,それ自体,失当というべきである。

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平成28(行ケ)10020  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性を認定する阻害要因にはならないとして、進歩性ありとした審決が取り消されました。
 (ア)a 本件発明1と甲1発明の相違点として,前記第2,4(1)イ(イ)b記載 のとおりの相違点2がある(当事者間に争いはない。)ところ,前記認定事実(1(2)) によれば,甲1発明は,それぞれ要冷蔵品を収納する保存室を有する上下2つの断 熱箱体により構成された業務用横型冷蔵庫に関する発明であるから,断熱箱体の内\n箱及び外箱並びにその間に充填された断熱材により区画された上下2つの保存室を 有する業務用横型冷蔵庫,すなわち,庫内が断熱材により複数に区画された業務用 横型冷蔵庫に関する発明であるといえる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,断熱性の仕切壁によって区画 された,冷蔵室,冷凍室及び野菜室がある家庭用冷蔵庫における冷却の実施例が記 載されているが,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画してそれぞれ異なる温 度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されている。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,少なくとも,複数の保存室 を有する冷蔵庫に関するものという点で,技術分野が共通である。 b 前記1(2)のとおり,甲1には,特に使用用途の拡大のため,庫内に 収容できる商品の幅を広げることを目的とする断熱箱体の改良に関する発明である 旨が記載されている。そうすると,甲1発明の課題は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることということができる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7に記載された事項の課題は,温度が 低い冷気の循環による冷蔵室内や野菜室内の乾燥の防止,高湿状態である冷蔵室や 野菜室内の水分が霜となって冷却器に付着することによる冷却能力の低下の防止,\n冷却器の大型化及び背面ダクト等の設置による冷凍室,冷蔵室及び野菜室の有効容 積の圧迫の防止であるといえる。これらは,庫内の複数の区画の存在を前提として いるが,冷凍が必要な食品等については冷凍室,冷蔵が必要な食品等については冷 蔵室,特に高湿状態が望ましい野菜については野菜室の各区画を設け,冷蔵室及び 野菜室については,高湿状態に保つことを課題としていると解することができるの であって,各食品等に応じた適切な冷蔵状態を提供することで,庫内に収容できる 要冷蔵品の幅を広げることを課題としていると評価することができる。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることという点で,課題が共通であるということができる。 c 前記認定事実(1(2))によれば,甲1発明は,断熱箱体からなる横 型冷蔵庫の天面に,別の断熱箱体を据え付け,下の断熱箱体の内箱の内部に,圧縮 機及び凝縮器と連結されて冷媒を循環させている蒸発器を設け,前記蒸発器により 冷却された冷気を,下の断熱箱体だけではなく,上の断熱箱体にも循環させること によって,上下2つの断熱箱体を冷却するものである。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,圧縮機及び凝縮器と連結され た 室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプを設けて冷媒を循環させ,冷凍室は,冷凍 室用冷却器により冷却された冷気を循環させることによって冷却し,冷蔵室及び野 菜室は,冷蔵室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプの内部を循環する冷媒の蒸発 により,各室の内壁面を冷却し,冷気の自然対流により各室内を冷却することが記 載されている。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,蒸発器を 1 つ設けるか複数 設けるかという違いはあるものの,1つの圧縮機及び1つの凝縮器を,冷却器ない し冷却パイプと連結し,その中に冷媒を循環させ,冷媒の蒸発により,冷蔵庫内の 複数の保存室を冷却するという作用・機能において,共通する。\nd 前記1(2)のとおり,甲1には,上の断熱箱体の保存室の外側に冷却 空間を形成するように伝熱パネルを設け,前記冷却空間に冷気を循環させることに より前記伝熱パネルを冷却し,前記伝熱パネルの自然対流熱伝達及び輻射冷却作用 により,保存室の内部を冷却する方法(実施例3及び4)が記載されており,また, 前記方法を採用することにより,下の断熱箱体を通常の横型冷蔵庫,上の断熱箱体 を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存することができる恒温高 湿ショーケースとして使用することが可能であることが記載されている。そうする\nと,甲1は,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる,冷気の強制対流以外 の冷却方法を採用することを記載したものといえるから,甲 1 発明の上の断熱箱体 の保存室の内部の冷却方法を,食品の乾燥を防止し得る別の冷却方法に変更するこ とにつき,示唆があるといえる。 一方,前記1(3)のとおり,甲7には,冷蔵室内や野菜室内に低温となる冷凍室用 冷却器からの冷気を供給しないので,冷蔵室内や野菜室内に収納した食品が乾燥す ることもないとの記載があり,冷蔵室用及び野菜室用冷却パイプを循環する冷媒の 蒸発による冷却が,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる冷却方法である ことが記載されているといえる。そうすると,甲7には,甲1発明の前記の上の断 熱箱体の保存室を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存するため に利用する場合には,その内部の冷却方法を,甲7に記載された冷却パイプの設置 による冷媒の蒸発による冷却方法に変更することにつき,示唆があるといえる。 また,前記aのとおり,甲7には,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画し てそれぞれ異なる温度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されて おり,甲1発明は,複数の保存室を有する冷蔵庫であるから,甲7には,甲7に記 載された事項を甲1発明に適用する示唆があるといえる。
e 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項とは,一般的な技 術分野及び課題等を共通にするだけでなく,甲1に記載された実施例3及び4と甲 7に記載された事項とにおいて,上の断熱箱体における冷却中の保存品の乾燥を防 止するという具体的課題も共通するものであるから,甲1発明につき,上の断熱箱 体の保存室の内部の冷却方法として,甲7に記載された冷却パイプの設置による冷 媒の蒸発による冷却方法を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 前記1(2)のとおり,甲1発明には,「断熱箱体本体の天面開口部と合 致する間口を底面に備え」る「断熱箱体」という構成が含まれるが,この「天面開\n口部」及び「間口」は,庫内ファンによって冷却室の上部に設けられた冷気吹出口 から送られる冷気を,上の断熱箱体に送ってこれを冷却し,その後,下の断熱箱体 に送ってこれを冷却するための,冷気用の開口部である。 そして,冷気を上下の断熱箱体に循環させてこれを冷却する方法においては,上 下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部を要するが,冷媒を上下の断熱箱体に 循環させてこれを冷却する方法においては,上下の断熱箱体の間に冷気を通すため の開口部を必要としない代わりに,冷却パイプを通すための開口部を要するのであ って,他に冷気用の開口部を設けるべき理由はないから,上下の断熱箱体の間に冷 気用の開口部を要するか否かは,上の断熱箱体を下の断熱箱体からの冷気の循環に より冷却するか否かという冷却方法の選択の問題にほかならない。 また,甲1には,前記1(2)のとおり,上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」 で冷却することが可能であることが記載されており,弁論の全趣旨によれば,「冷却\nユニット」は,少なくとも,圧縮機,凝縮機及び蒸発器により構成されることが認\nめられるところ,冷却器及び冷却パイプは,冷媒の蒸発により,冷却を行う機能を\n有するものであり,前記の蒸発器に該当するものと認められるから,甲1発明に, 甲7に記載された前記の冷却方法を適用すれば,上の断熱箱体用の冷却パイプと下 の断熱箱体用の冷却器を,別途に設けることになるから,上下の断熱箱体を1つの 「冷却ユニット」で冷却することはできなくなる。 しかしながら,前記1(2)のとおり,甲1発明の目的は,業務用横型冷蔵庫の構造\nを改良し,特に使用用途の拡大のため,庫内に収容できる要冷蔵品の幅を広げるこ とにある。上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却するため,蒸発器を1 つしか設けないことは,この目的と関係がない。また,前記認定事実(1(3))によ れば,甲7には,冷却パイプ内の冷媒の蒸発により冷却される保存室の内部の乾燥 を防止できることのほか,1)冷却器に湿気の多い冷蔵室や野菜室内の水分が霜とな って付着し,冷却器の冷却能力が低下することを防げること,2)冷却器を大型化し なくてよくなり,これを収納する区画を小容量化して,冷凍室の有効容積を広くす ることができること,3)冷気循環のためのダクト等を設ける必要がなくなり,冷凍 室,冷蔵室及び野菜室の区画の有効容積を広くすることができることが記載されて いる。そうすると,蒸発器を複数にして各保存室を冷却する方式を採用するか,蒸 発器を1つにして全保存室に当該蒸発器で冷却した冷気を循環させて冷却する方式 を採用するかは,当業者が設計に際して効果を考慮して適宜採用し得る設計的事項 に該当する。 以上によれば,上下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部がない構成になる\nことや,蒸発器を複数有する構成になることが,甲1発明に甲7に記載された事項\nを適用することの阻害事由たり得るとは認められない。

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平成28(行ケ)10034  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 平成28年9月21日  知的財産高等裁判所

 容器付冷菓について、一意匠であるのか争われました。審決は一意匠でないと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
 イ 本願意匠における意匠に係る物品は,「容器付冷菓」(甲4)であって, 上記別表第一に列挙されている物品の区分には該当しない。そこで,願書の「意匠\nに係る物品」欄及び「意匠に係る物品の説明」欄の記載を参照すべきところ,「容 器付冷菓」は,その名称からすれば,「冷菓」が主体であって,「容器」が付随し ているものと解される。 また,本願意匠登録出願に係る「意匠に係る物品の説明」(甲4)には,「本物 品は,参考断面図に示したように,容器部内に冷菓部材を充填し,次いで前記冷菓 部材の上面全部をあん部材で覆い,次いで前記あん部材上にもち部材を点状に配設 し,これらの全体を冷凍して容器部と一体に流通に付されるものである。」と記載 されている。上記記載を参照すれば,本願意匠に係る「冷菓」は,容器部内に冷菓 部材を充填し,その上部にあん部材,もち部材を順次配設した後,これらを冷やし 固めることによって製造するものと認識される。そして,冷菓部材,あん部材及び もち部材からなる「冷菓」は,「容器」と共に流通に付されるものである。使用の 場面においても,通常,「容器」に入ったままの「冷菓」をスプーン等ですくって 食することが想定される。よって,製造,流通,及び使用の各段階において,「冷 菓」は,「容器」に充填され冷やし固められたままの一体的状態であると認められ る。 さらに,上記製造方法からすれば,本願意匠に係る「冷菓」を,その形態を保っ たまま「容器」から分離することは,容易ではないものと推認される。しかも,「冷 菓」は,製造の段階から,流通,使用に至るまで「容器」から分離されることはな いから,「冷菓」が「容器」から独立して通常の状態で取引の対象となるとはいえ ない。 これらを総合考慮すれば,本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,社会通 念上,一つの特定の用途及び機能を有する一物品であると認められ,「冷菓」の部\n分のみが「容器」の部分とは独立した用途及び機能を有する一物品とはいえない。
ウ これに対して,被告は,1)「容器」と「冷菓」は全く用途の異なる物品 であって,「容器」は,単体の形状として独立して創作される,2)内容物としての 「冷菓」も,同じ容器でも異なる形態の冷菓が存在し得るから,冷菓の形状として, 独立して創作される,3)冷菓は食用に供されるが,食用に供されることのない「容 器」は,冷菓を構成する部材や部品に該当しない,4)実施の実情からしても,容器 製造業者が容器を製造販売し,冷菓製造業者がそれを購入することもある,5)冷菓 を納めた容器には蓋がされているから,容器はむしろ蓋と一体となって商品として の外観形態を構成する,6)消費者が冷菓を食するときには,冷菓は容器に収容され た別の物品として認識する,ことを理由に,容器と冷菓とは一物品ではなく,二物 品である,と主張する。
しかし,1)「容器」と「冷菓」とを分離した場合のそれぞれの用途が異なること は,後記(4)の登録意匠例のように,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が\n一物品と認められることがあることを考慮すると,本願意匠に係る物品が一物品と いえないことの理由にはならず,「容器」と「冷菓」とが,社会通念上一体として 一つの特定の用途及び機能を有するといえるか否かを検討すべきである。また,「容\n器」が単体の形状として独立して創作されることがあるとしても,本願意匠に係る 「冷菓」は,「容器」と独立しては製造,流通及び使用することが困難であり,し かも,「容器付冷菓」としての物品の主体は,「冷菓」であるから,付随する「容 器」の独立性を理由として,二つの物品と認めることはできない。 2)「冷菓」が,同じ容器でも異なる形態として独立して創作されることがあると しても,物品の一部が異なる形態として創作され得るのは通常のことであり,その ことを理由として,本願意匠に係る物品が一物品であることを否定することはでき ない。3)前記1)のとおり,用途又は機能が異なる物を組み合わせた物品が一物品と認め\nられる場合,全体が同一の用途又は機能とならないことは当然であり,本願意匠に\nおいて「容器」が食用に供されないことは,「容器」が「冷菓」と共に一物品を構\n成することを否定する理由とはならない。 4)意匠に係る物品が複数の部分から構成されている場合,それぞれの部分を異な\nる業者が作成し,それらを特定の業者が組み立てることは通常あり得るし,このよ うな物品につき,各部分を異なる者が製造販売したことにより,一物品であること が常に否定されるものではない。 5)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上, 一つの特定の用途及び機能を有する一物品であり,しかも,「容器付冷菓」の物品\nとしての主体は,「冷菓」であるから,「冷菓」に付随するにすぎない「容器」に 蓋を設ける場合があるとしても,そのことを理由として,二つの物品と認めること はできない。 6)本願意匠に係る物品である「容器付冷菓」は,前記イのとおり,社会通念上, 一つの特定の用途及び機能を有する一物品と認められ,消費者が冷菓を食する場合\nであっても,冷菓を容器とは独立した物品と認識するとはいえない。 被告の主張には,いずれも理由がない。

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平成25(ワ)3167等  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年8月31日  東京地方裁判所

公知技術と同一であるので新規性なし、さらにサポート要件違反もあるとして、被侵害と判断されました。訂正の再抗弁も否定されました。
 これを本件についてみると,原告の主張によれば,本件発明の構成要件C\n及びDの「上部,下部,左(右)側部」とは「上部,下部又は左(右)側 部」を意味するのであり,左右側面部の裏面において一過性の粘着剤が塗布 される位置を,当該分離して使用するものの上部,下部又は左(右)側部の 内側のいずれか及び上部,下部又は左(右)側部の外側に該当する部分のい ずれかであればよいというのである。 これに対し,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄には,一過性の粘着剤 を塗布する部分の具体例として,分離して使用するもの4と中央面部1の上 部境界,下部境界,左側部(右側部)境界の各境界の内側近傍と外側近傍に 接着剤を塗布したものしか記載されていない。そのため,特許請求の範囲に 記載された発明は,発明の詳細な説明及び図面に記載されたものより広い。 しかるに,このように,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄を超えて, 一過性の粘着剤が塗布される位置を原告の上記主張のとおりでよいとすると, このうちどの部分に粘着剤を塗布すれば「葉書,チケット,クーポン券等の 分離して使用するものを広告等の印刷物より切り取る必要がなく,かつその 周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いていて 紛失させることなく,しかも手間がかからず葉書,チケット,クーポン券等 の分離して使用するものを利用することが出来る印刷物を提供すること」 (本件明細書等の段落【0006】)という本件発明の課題を解決すること ができ,また「印刷物に付いている葉書,チケット,クーポン券等を切り取 ろうとする意思を持たずに,印刷物を開くと自動的に手にすることにな る。」(同段落【0012】)の作用効果を奏することになるのか,必ずし も明らかとはいえない(乙B11及び乙B12も参照)。 したがって,当業者において,本件発明の課題解決手段や,発明を理解す るための技術的事項が,発明の詳細な説明に記載されているものとはいい難 い。
(3) 以上によれば,本件発明は特許法36条6項1号に規定するサポート要件 を充たしていないから,本件特許は同法123条1項4号により特許無効審 判により無効にされるべきものである。
・・・・
以上によれば,乙B1文献には引用発明1'が記載されており,このうち 「情報記録体」の具体例として「レスポンス用葉書」が記載されているに等 しく,引用発明1'は本件訂正発明の構成要件A\ないしI\の全てを備えて\nいるから,引用発明1’は本件訂正発明と同一である。なお,この点に関し て原告は,引用発明1'と本件訂正発明はさらに相違点があると主張するが (相違点1−1及び1−2),前記2(4)の争点(3)ア(無効理由1)におい て説示したところに照らし,いずれも採用することができない。 そうすると,本件訂正発明は引用発明1'と同一であって,なお新規性を 欠くものであるから,本件訂正に係る原告の再抗弁は,前記(1)で説示した 3)の要件を充たしていないというほかない。

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平成27(ワ)23129  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年8月30日  東京地方裁判所

特許の技術的範囲に属するとしたものの、進歩性なしとして権利公使不能と判断しました。特許庁審決では特許有効と判断されていますので、ニュースでも取り上げられていました。
 そこで判断するに,まず,上記1)及び2)については,前記イで説示した とおり,安定性は化粧品の製造工程において常に問題とされる化粧品の品 質特性であり,pHの調整が安定化のための一般的な手法であることから すれば,乙6ウェブページに掲載されている成分リストが販売開始から間 もない原告旧製品のものであるとしても,当業者が化粧品の安定性の確 保,向上という課題を全く認識しないということはできないし,pHの調 整という手法を採用することが困難であったということもできない。 次に,上記3)については,原告は乙6発明のpHが7.9〜8.3であ ることを前提にこれを酸性側に変更することの阻害要因を主張するが,そ のような前提を採ることができないことは前記(1)イのとおりである。こ の点をおくとしても,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の出 願当時,a)リン酸アスコルビルマグネシウム単体の水溶液については, pHが8〜9の弱アルカリ性の領域においては安定とされていたが,pH が中性〜酸性の範囲においては安定性に問題があるとされていたこと(甲 30〜32,50〜55),b)リン酸アスコルビルマグネシウムを含む化 粧料について,弱酸性における安定性を改善する手法が検討されており (甲31,50〜52,61,乙10の2,25),実際にリン酸アスコ ルビルマグネシウムを含有する弱酸性の化粧品が販売されていたこと(乙 28,29)が認められる。これら事実関係によれば,リン酸アスコルビ ルマグネシウムに加え他の成分を含む化粧品については,弱酸性下におけ る安定性の改善が試みられており,現に製品としても販売されていたので あるから,原告が主張するリン酸アスコルビルマグネシウム単体の水溶液 が酸性下においてその安定性に問題があるという事情は,乙6発明の美容 液のpHを弱酸性の範囲に調整することの阻害要因とならないと解する のが相当である。 上記4)については,前記イで説示したとおり,pHの調整が化粧品の安 定性を高めるための手法として周知であったことからすると,本件発明の 実施例について吸光度の残存率の高さや性状変化の少なさといった経時 安定性の測定結果が良好であったとしても(本件明細書の【表4】〜【表\ 6】),●(省略)●予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するとは認\nめられない。したがって,原告の上記主張1)〜4)はいずれも採用することができない。
(3) まとめ
以上によれば,本件発明は乙6発明に基づいて容易に発明することができ たものであるから,原告は本件特許権を行使することができない。

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平成28(ラ)10013  移送決定に対する抗告事件 平成28年8月10日  知的財産高等裁判所

 特許権が絡む詐欺事件が、「特許権に関する訴え」に該当するかが争われました。知財高裁は、該当しないと判断し、1審判断を取り消しました。
 同法6条1項が,知的財産権関係訴訟の中でも特に専門技術的要素が強い事件類型 については専門的処理体制の整った東京地方裁判所又は大阪地方裁判所で審理判断 することが相当として,その専属管轄に属するとした趣旨からすれば,「特許権に 関する訴え」は,特許権侵害を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟,職務 発明の対価の支払を求める訴訟等に限られず,特許権の専用実施権や通常実施権の 設定契約に関する訴訟,特許を受ける権利や特許権の帰属の確認訴訟,特許権の移 転登録請求訴訟,特許権を侵害する旨の虚偽の事実を告知したことを理由とする不 正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟等を含むと解するのが相当である。 他方,基本事件は,抗告人らの共同不法行為(詐欺)又は会社法429条に基づ\nく損害賠償請求訴訟であるから,抽象的な事件類型が特許権に関するものであると いうことはできない。そして,相手方の欺罔行為に関する主張は変遷しているもの\nの,相手方は,抗告人X1による消火器販売事業への勧誘に際し,抗告人X1の開 発した消火剤が,同人は技術やノウハウを有していないのに,同人が特許を持って おり,これまでの消火剤より性能がよいと述べたことや,他社メーカーの特許を侵\n害しないと述べたことが,詐欺に当たるなどと主張するものと解される。しかし,\n事業の対象製品が第三者の特許権を侵害するというだけで,当該事業への勧誘が詐 欺に当たるとか,取締役の任務を懈怠したということはできないから,欺\罔行為の 内容として「特許」という用語が使用されているだけで,このことをもって,基本 事件が専属管轄たる「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たるとい うことはできない。また,知的財産高等裁判所設置法2条3号は,「前2号に掲げ るもののほか,主要な争点の審理に知的財産に関する専門的な知見を要する事件」 を知的財産高等裁判所の取り扱う事件の1つとしており,第三者の特許権の侵害の 有無が争点の1つとなる場合には,専門的処理体制の整った東京地方裁判所又は大 阪地方裁判所で審理判断することが望ましいとしても,それが全て専属管轄たる「特 許権に関する訴え」に当たるということもできない。基本事件のように,審理の途 中で間接事実の1つとして「特許」が登場したものが専属管轄に当たるとすると, これを看過した場合に絶対的上告理由となること(民事訴訟法312条2項3号) からしても,訴訟手続が著しく不安定になって相当でないというべきである。
3 したがって,基本事件は,「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項) に当たらないというべきであり,東京地方裁判所の専属管轄とは認められない。

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平成26(ワ)25928  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年8月30日  東京地方裁判所

 構成要件Gを満たさないと判断されました。均等侵害についても、第1要件を満たしていないとして、否定されました。
 ウ さらに,本件特許の出願経過からも上記解釈は裏付けられる。すなわち, 原告は,本件特許の審査段階において,特許庁から平成15年1月21日 発送の拒絶理由通知(乙8)を受けたところ,そこには「…請求項1の記 載では本願発明の目的である通過すべき経由地点の設定中にすでにそれら の経由地点のいずれかを通過してしまった場合でも,正しい経路誘導を行 うための構成である『設定指令が入力された時点での車両現在位置を探索\n開始地点として記憶し,この記憶された探索開始地点と,経路データが設 定され移動体の経路誘導が開始される時点での移動体の現在位置を比較す る』点が明確に記載されていない。…よって,請求項1は,特許を受けよ うとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではな\nい。」とされていた。原告は,上記拒絶理由通知に対応して,同年2月5 日受付の意見書(乙9)を提出し,そこにおいて「審査官殿のご指摘の通 り,本願発明における探索開始地点と経路誘導地点に関する上述の点が不 明瞭であると考えますので,『設定指令が入力され,経路の探索を開始す る時点の前記移動体の現在位置を探索開始地点として記憶する記憶手段』 と構成要件を加えることにより,探索開始地点が記憶されることを明確に\nするとともに,経路データ設定手段が『記憶した探索開始地点を基に経路 の探索を行い,当該経路を経路データとして設定する』と補正して探索開 始地点と経路データの関係を明確にし,制御手段おける記憶された探索開 始地点と誘導開始地点を比較する点を明確に致しました。」(1頁下9行 〜2行)と記載し,併せて,同日受付の手続補正書(乙10)を提出して 上記記載に沿った補正を行い,探索開始地点と誘導開始地点とを比較する ことを明確にしたものである。以上の出願経過も,構成要件Gに係る上記\n解釈を裏付けるものである。
(2) しかるところ,被告装置において,「探索開始地点」と「誘導開始地点」 を比較して両地点が異なるかどうかを判断しているものと認めるに足りる証 拠はない。 かえって,証拠(乙16の1)によれば,被告装置においては,1)経路誘 導の計算が行われ,これが終了すると,出発地点P0から目的地Pnまでの 経路を示す経路リンクのリストがメモリに保存され,2)他方で,上記1)の経 路誘導とは独立して,継続的に,車両の現在位置Cと地図データの地図リン クとのマッチングが行われ,その際,車両の現在位置Cと,地図データのノ ード間を結ぶ地図リンクとを比較することで,車両の現在位置Cと一致する 地図リンクを特定し,3)上記2)のマップマッチングで特定されたリンクが上 記1)の経路リンクの一つと直接対応すると,道路境界領域の処理は行われず, その代わりに地図リンクと一致する経路リンクに基づいて誘導が行われ,他 方で,現在位置Cが,マップマッチングによって特定された経路リンクに載 っていない場合,所定の方法で絞り込んだ道路境界領域内のリンクと現在位 置とを比較してリンク上に載っているか否かの判定をするとの作業が行われ ていることが認められる。 なお,乙16の1は,補助参加人の関連会社所属のエンジニアが作成した 宣誓書であるが,同記載内容は,被告装置の制御に関する他の証拠とも矛盾 がなく,これを特段疑う理由もないから,信用できるものといえる。 以上からすれば,被告装置では,探索開始地点と誘導開始地点とを比較し て両地点が異なるか否かを判断するという作業は行われず,あくまで,車両 の現在位置が所定の経路リンク上に載っているか否かが判定されているにす ぎないから,被告装置は本件発明の構成要件Gを充足しないものというべき\nである。
・・・・
このように,本件発明が,車両が動くことにより探索開始地点と誘導開始 地点の「ずれ」が生じ,車両等が経由予定地点を通過してしまうことを従来\n技術における問題とし,これを解決することを目的として,上記「ずれ」の 有無を判断するために,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の 異同を判断することを定めており,この点は,従来技術にはみられない特有 の技術的思想を有する本件特許の特徴的部分であるといえる。 そして,本件明細書(甲2)において,上記「ずれ」を判断する方法とし て,上記両地点を直接比較する方法以外の方法は何ら記載されておらず,そ れ以外の方法が想定されていたとは認められない。 また,前記2(1)ウ認定の本件特許に係る出願経過からも,探索開始地点 と誘導開始地点とを比較して両地点の異同を判断することが本件発明の本質 的部分であることは明らかである。 なお,原告自身も,本件発明においては「探索開始地点に関する情報」と 「誘導開始地点」とを比較する旨主張している(原告第9準備書面9頁参照) ところ,上記「探索開始地点に関する情報」の中核は「探索開始地点」自体 であるから,原告の上記主張を前提としても,本件特許において,探索開始 地点と誘導開始地点との比較が本質的部分であるといえる。 以上からすれば,探索開始地点と誘導開始地点とを比較して両地点の異同 を判断することが本件発明の本質的部分というべきであり,かつその比較方 法としては,両地点を直接比較することが当然に予定されているものであっ\nて,これに反する原告の主張は採用できない。 なお,原告は,従来技術において,経由予定地点を超えた地点となったこ\nとを判断する必要性すら認識されていなかった以上,この点に関する下位概 念的な具体的な手段まで本質的部分であるとはいえないとも主張する。しか し,前述のとおり,本件発明において探索開始地点と誘導開始地点の「ずれ」 を問題とし,その有無を判断するために,上記両地点を比較することが必須 であり,この点が本件発明を特徴付けているといえるものであって,その比 較の具体的手段が単なる下位概念であるとはいえないから,原告の上記主張 も採用できない。

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平成27(行ケ)10216  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月29日  知的財産高等裁判所

 クレームの用語について、原文に基づく誤訳訂正を求めました。裁判所は、実質上変更となるとした審決を維持しました。
 (3) 本件公報に接した当業者の認識について
ア 前記(2)イのとおり,本件訂正前の明細書には,燐酸を示す化学式として, ホスホン酸の化学式が6か所にわたり記載されているというのであるから,「スルホ ン酸,燐酸及びカルボン酸からなる群」に含まれない「オクタデシルホスホン酸」 が作用成分として記載されていることとも相まって,本件公報に接した当業者は, 「燐酸」又は「リン酸」という記載か,ホスホン酸の化学式及び「オクタデシルホ スホン酸」という記載のいずれかが誤っており,請求項1の「燐酸」という記載に は「ホスホン酸」の誤訳である可能性があることを認識するものということができ\nる。
イ しかし,更に進んで,本件公報に接した当業者であれば,請求項1の「燐 酸」という記載が「ホスホン酸」の誤訳であることに気付いて,請求項1の「燐酸」 という記載を「ホスホン酸」の趣旨に理解することが当然であるといえるかを検討 すると,前記(1)イのとおり,請求項1の「燐酸」という記載は,それ自体明瞭であ り,技術的見地を踏まえても,「ホスホン酸」の誤訳であることを窺わせるような不 自然な点は見当たらないし,前記(2)アのとおり,本件訂正前の明細書において,「燐 酸」又は「リン酸」という記載は11か所にものぼる上,請求項1の第2の処理溶 液の作用成分を形成するアニオン界面活性剤としてスルホン酸,カルボン酸と並ん で「燐酸」を選択し,その最適な実施形態を確認するための4つの比較実験におい て,燐酸や燐酸基が使用されたことが一貫して記載されている。 そうすると,化学式の記載が万国共通であり,その転記の誤りはあり得ても誤訳 が生じる可能性はないことを考慮しても,本件公報に接した当業者であれば,請求\n項1の「燐酸」という記載が「ホスホン酸」の誤訳であることに気付いて,請求項 1の「燐酸」という記載を「ホスホン酸」の趣旨に理解することが当然であるとい うことはできない。 以上によれば,本件訂正事項(燐酸→ホスホン酸)を訂正することは,本件公報 に記載された特許請求の範囲の表示を信頼する当業者その他不特定多数の一般第三\n者の利益を害することになるものであって,実質上特許請求の範囲を変更するもの であり,126条6項により許されない。

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平成28(行ケ)10048  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年8月25日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、「知識の教授」に含まれる「リスクマネジメント研修」について,本件商標を不使用と認定し、使用していたとした審決を取り消しました。
問題となった商標は、「ファイナンシャル・リスクマネジャー」と「FRM」の2段併記商標です。
当裁判所は,本件配布行為をもって,本件審判請求の登録前3年以内に日本 国内において,商標権者が,本件取消請求役務のうち,「知識の教授」に含ま れる「リスクマネジメント研修」について,本件商標と社会通念上同一と認め られる商標を使用していたことを証明したものと認められるとした本件審決の 判断は誤りであり,原告主張の取消事由2には理由があるから,その余の点に つき判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものと判断する。
・・・
以上のとおり,被告は,遅くとも平成19年8月には,自社が開講する 講座について,受講希望者向けに講座の概要等を説明するための資料とし て,FRM養成講座についての記載がある案内書を作成し,その後,平成 20年6月及び平成23年10月に同案内書を改訂したが,これらの改訂 後の案内書においても,FRM養成講座についての記載はそのまま残され ていることが認められる。そして,このような事実からすれば,被告は, 要証期間である平成23年11月13日以降においても,FRM養成講座 についての記載がある本件案内書を,受講希望者らへの案内資料として保 有し,これを受講希望者らに配布するなどして使用していたことが推認さ れるものといえる。
2 「知識の教授」の役務についての使用の有無について
 原告は,仮に本件配布行為が認められるとしても,要証期間内に,被告が FRM養成講座を実際に開講し,又は,開講の準備を整えていたとの事実が 認められないことからすれば,本件商標と社会通念上同一の商標を,「知識の 教授」という役務について使用したものとは認められない旨主張するので, 以下検討する。 要証期間内に,被告がFRM養成講座の名称を使用した講座を開講して いた事実が認められるか否かについて
ア 証拠上認められる客観的事実について 前記第2の2のとおり,平成22年12月にプロフェッショナル協 会が設立され,同協会が,コンサルタント協会に代わって,被告が開 講する講座に対応する資格の認定・管理等を行うこととなった際,被 告は,関係者らに対し,甲2書面をもって,従前コンサルタント協会 が認定・管理していたFRMの資格について,その名称をFRCに変 更した上で,プロフェッショナル協会において認定・管理していく旨 を通知している事実が認められる。他方,その後,被告が,関係者ら に対し,上記通知に係る事項を訂正したり,変更したりする旨の通知 をした事実をうかがわせる証拠はない。 しかるところ,甲2書面の上記内容は,被告がそれまで開講してき たFRM養成講座についても,上記資格名の変更に対応した名称に変 更することを意味するものといえるから,被告が甲2書面による通知 を行い,その後これを訂正・変更する通知も行っていないということ は,特段の事情がない限り,被告が,平成23年以降は,FRM養成 講座の名称を使用した講座を開講していないことを示す事情というこ とができる。 また,次のような事情も,被告が平成23年以降FRM養成講座の 名称を使用した講座を開講していないことをうかがわせる事情という ことができる。 すなわち,被告が開設するホームページの記載をみると,平成18 年の時点では,被告が開講する講座名として,1)リスクコンサルタン ト(マネジャー)養成講座・基礎課程,2)リスクコンサルタント(マ ネジャー)養成講座・上級課程,3)CRO養成講座に加え,4)FRM ファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座の記載がある(甲6) のに対し,平成23年及び平成24年の時点では,上記1)ないし3)の 記載はあるものの,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成 講座」の記載はない(甲8,9)。また,平成25年,平成26年及び 平成28年の時点においても,「リスクマネジメント・プロ養成講座・ 基礎課程」,「リスクマネジメント・プロ養成講座・上級課程」等の記 載はあるものの,FRM養成講座の記載はない(甲10ないし13, 72)。 このように,被告が開設するホームページをみる限り,平成23年 以降,被告がFRM養成講座の名称を使用した講座を開講している形 跡は何らみられず,かえって,被告のホームページでは,被告が開講 する他の講座については継続して紹介されているのに対し,FRM養 成講座については,被告が当該講座を開講していたことが明らかな平 成18年当時には紹介されていたのに,平成23年以降には全く紹介 されていないことからすれば,平成23年以降は,被告において,F RM養成講座の名称を使用した講座を開講していないことがうかがわ れるものといえる。 以上のとおり,証拠上認められる客観的・外形的な事実をみる限り, 本件案内書中にFRM養成講座の記載があること以外には,被告が平 成23年以降にFRM養成講座の名称を使用した講座を開講している 形跡は見当たらず,むしろ,そのような講座を開講していないことが 積極的にうかがわれるものといえる。

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平成27(行ケ)10245  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月24日  知的財産高等裁判所

 新規事項違反なし、サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
 当初明細書等の記載には,前記1(1)のとおり,便器と便座との間隙を形成する手 段としては便座昇降装置が記載されているが,他の手段は,何の記載も示唆もない。 すなわち,補正前発明は,便器と便座との間隙を形成する手段として,便座昇降 装置のみをその技術的要素として特定するものである。 そうすると,便座と便器との間に間隙を設けるための手段として便座昇降装置以 外の手段を導入することは,新たな技術的事項を追加することにほかならず,しか も,上記のとおり,その手段は当初明細書等には記載されていないのであるから, 本件補正は,新規事項を追加するものと認められる。
(3) 被告の主張について
1) 被告は,当初明細書等に接した当業者にとって,便器と便座との間に拭き取 りアームを移動させるための間隙さえ形成されていればよく,その手段が当初明細 書等に例示されたもの限られないということは,自明の事項であると主張する。 しかしながら,便器と便座との間の間隙を形成する手段が自明な事項というには, その手段が明細書に記載されているに等しいと認められるものでなければならず, 単に,他にも手段があり得るという程度では足りない。上記のとおり,当初明細書 等には,便座昇降装置以外の手段については何らの記載も示唆もないのであり,他 の手段が,当業者であれば一義的に導けるほど明らかであるとする根拠も見当たら ない。
2) また,被告は,公開特許公報には,便座昇降装置以外の手段で便器と便座と の間に間隙を設ける技術が開示されているから,当初明細書等に便座昇降装置以外 の手段で便器と便座との間に間隙を設けることは,当初明細書等に実質的に記載さ れていると主張する。 しかしながら,上記の自明な事項の解釈からいって,他に公知技術があるからと いって当該公知技術が明細書に実質的に記載されていることになるものでないこと は,明らかである。のみならず,上記公報に記載された技術は,容器6と座部3と の間に介護者が手を入れられる隙間を設けることを開示しているだけであり,便器 と便座との間に機械的な拭き取りアームが通過する間隙を設けることとは,全く技 術的意義を異にしている。
3) 被告の上記各主張は,いずれも採用することはできない。
・・・
3 取消事由2(サポート要件充足の有無に対する判断の誤り)について
上記2に説示のとおり,当初明細書等には,便座昇降装置により便座が上昇され た際に生じる便器と便座との間の間隙以外の間隙を設ける手段の記載はないところ, 本件発明に係る本件補正後の明細書及び図面(以下「本件明細書」という。甲4。) は,当初明細書等の発明の詳細な説明及び図面と同旨であり,本件明細書にも,便 座昇降装置により便座が上昇された際に生じる便器と便座との間の間隙以外の間隙 を設ける手段の記載はない。そして,本件発明15のような機械式拭き取り装置の 設置を前提として,便器と便座との間の間隙をどのように形成するかに関して何ら かの技術常識があるとは認められない。 そうすると,便器と便座との間の間隙を形成するに際して,便座昇降装置を用い るものに限定されない本件発明15は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載した ものではなく,サポート要件を充足しないものである。したがって,本件発明15 の発明特定事項を全て含む本件発明23,本件発明25ないし本件発明29,及び 本件発明30(15)もまた,サポート要件を充足しないものである。 以上から,審決のサポート要件充足の有無に対する判断には,誤りがある。

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平成27(ワ)5281  商号使用差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年8月23日  大阪地方裁判所

 不競法2条1項1号(周知商品等表示)違反とは認められませんでした。商号「山高工務店」に対して、新会社の商号が「ヤマタカ」で、かつ、社長が元従業員という状況でしたが、裁判所は、そもそも周知ではないとの認定するとともに、不正目的もなしと判断しました。
 確かに本件は,原告の元従業員が中心となって活動する被告の事業が,原告 の顧客を奪うことで成立しているように見受けられる事案であり,また事業開始が そのことを見込んでされたようにも見受けられるが,原告の既存顧客が被告に奪わ れたとするなら,それはそもそも原告が当該工事を施工できない状態であった上, 他方で被告代表者や被告従業員には原告在職時の施工実績による信用,少なくとも\n人的関係があったからと考えるのが自然であり,そこに原告商号と被告商号の類似 性が貢献している様子は認められず,また被告代表者がそのことを期待して被告商\n号を選択したとも認められない。被告による被告商号の選択使用は,被告代表者が\n供述するように,原告創業者への尊敬の念に由来すると認めるのが相当であって, 会社法8条1項にいう「不正の目的」があったとはおよそ認められない。 エ なお,さらに原告は,被告が原告と同じ行政区に本店を移転した経緯や,そ の登記手続の手順の不自然さを問題にするが,上記認定したアスベスト除去工事, ダイオキシン類対策工事等の契約締結過程等の問題からすると,そのことで原告が 主張するような利点があるとは認められないから,上記の点で被告の「不正の目的」 が推認されるわけではない。 また,原告は,被告が掲載した求人誌の求人広告の記載内容も問題にしているが, 同記載中には,旧会社を引き継ぎ4月から新体制で開始した会社であることを説明 して原告とは別会社と理解できる部分もあるし,そもそも,この求人誌は事業者で はない者を対象として掲載されているのであるから,会社法8条1項の「不正の目 的」を推認する事情とはいえない。
オ 原告は,被告が原告従業員を大量に引き抜いたことにより,原告が従前の業 務であるダイオキシン類対策工事の受注を停止せざるを得なくなったなどと主張し, この事情をも「不正の目的」を推認させる事情として主張するようであるが,「不正 の目的」は,商号を使用することに関して認められる必要があり,原告のいう事情 は,それ自体で不法行為を主張するのならともかく,商号使用についての「不正の 目的」を推認する事情とは認められない。

◆判決本文

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平成27(ワ)13258  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年7月27日  東京地方裁判所

 商品の説明文については著作物性(創作性)なしと判断されました。ただ、一部の挿絵についての侵害を認めました。判決文の最後に問題となった説明文と挿絵が表記されています。
 ア 被告説明文による原告説明文に係る著作権侵害の成否の判断について
原告は,原告説明文は創作性を有する表現たる著作物であり,被告説明文は原告\n説明文を複製したものであって,原告の著作権に対する侵害が成立する旨主張する。 そこで検討するに,上記著作権侵害が認められるためには,まず,1)原告説明 文と被告説明文とで共通する表現部分について,創作性が認められなければならな\nい。そして,原告説明文と被告説明文は,いずれも本件商品の取扱説明書における 説明文であるところ,製品の取扱説明書としての性質上,当該製品の使用方法や使 用上の注意事項等について消費者に告知すべき記載内容はある程度決まっており, その記載の仕方も含めて表現の選択の幅は限られている。これに対し,原告は,我\nが国においては,原告が初めて本件商品を販売した際,高い品質と安全性が求めら れる日本市場向けに幼児用首浮き輪の安全適切な使用方法等を分かりやすく理解さ せるための取扱説明書は存在していなかった旨指摘するけれども,そのような状況 にあっても,本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については,それ自体はア イデアであって表現ではなく,これを具体的に表\現したものが一般の製品取扱説明 書に普通に見られる表現方法・表\現形式を採っている場合には創作性を認め難いと いわざるを得ない。本件商品の取扱説明書において,幼児のどのような行動に着目 した注意事項を記載しておくか,どのような文章で注意喚起を行うかといった点に ついても,選択肢の幅は限られているとみられる。 次に,前記前提事実に証拠(甲4,13)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告 説明文は,モントリー説明書の英語の説明文を日本語に翻訳した上でこれを修正し て作成されたものであり,同説明文に依拠して作成されたものと認められる。二次 的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみにつ いて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないこと(最高裁 平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2 714頁〔ポパイ事件〕)に照らすと,上記1)で創作性が認められる表現部分につ\nいても,2)モントリー説明書の説明文と共通しその実質を同じくする部分には原 告の著作権は生じ得ず,原告の著作権は原告説明文において新たに付与された創作 的部分のみについて生じ得るものというべきである。そして,本件においては,上 記1)で原告説明文(日本語)と被告説明文(日本語)とで共通する表現部分につい\nて創作性が認められるとすれば,その理由は,もとより翻訳の仕方に関わるもので はなく,英文か日本文かに関わらない表現内容等によるものと考えられるから,上\n記2)では,モントリー説明書の英文を日本語に翻訳したその訳し方に創作性があっ たとしても,被告による原告の著作権侵害を基礎付ける理由にはなり得ず,表現内\n容等について原告説明文において新たに追加・変更された部分でなければ,上記「原 告説明文において新たに付与された創作的部分」には当たらないというべきである。 また,原告説明文において本件ガイドラインと共通しその実質を同じくする部分 についても,原告説明文がこれに依拠したと認められる場合には,上記2)と同様, 原告の著作権は生じないというべきである。

◆判決本文

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平成28(行ケ)10075  商標登録維持決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年8月9日  知的財産高等裁判所

 維持決定については不服申し立てできないとした規定が憲法違反と争いましたが、請求は却下されました。原告(異議申\立人)は、例のベストライセンス社です。
商標は、トヨタ自動車(株)の「MIRAI」です(登録5753538号)。
 ただ、本件は、分割出願時に親出願と同じ指定商品・役務を記載していたので分割要件を満たしていないと判断された案件です。
   同第5項に係る訴えは,商標法43条の3第5項の規定が違憲無効であることの確認を抽象的に求めるものにすぎないものであるから,上記訴えは,上記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,不適法なものである。

◆判決本文

審決についてダイレクトリンクが張れないので、審決公報の該当部分をあげておきます。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1 本件商標
 本件登録第5753538号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成26年11月18日に登録出願、第12類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成27年2月19日に登録査定、同年3月27日に設定登録されたものである。\n
2 登録異議の申立ての理由の要旨\n 登録異議申立人(以下「申\立人」という。)は、本件商標及びその指定商品は、先願に係る以下の(1)ないし(3)のとおりの商標(以下、3件を一括して「引用出願」という場合がある。)と同一又は類似し、その指定商品においても同一又は類似するものであるから、商標法第8条第1項に違反し、当該引用出願が登録されることにより、商標法第4条第1項第11号違反となり、商標法第43条の2第1号に該当するから、本件商標の登録は、取り消されるべきである旨主張している。 (1)商願2015ー25192(以下「引用出願1」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、第9類、第12類、第35類、第39類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成26年9月8日に登録出願された商願2014−75417(以下「親出願」という。)を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、親出願と同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同27年3月20日に登録出願されたものである。\n なお、親出願は、平成27年3月23日に、引用出願1は、同年10月5日に、それぞれ、出願却下の処分がされている。
(2)商願2015ー56246(以下「引用出願2」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、上記(1)に記載の引用出願1を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、別掲2に示す指定商品及び指定役務中の第12類と同一の商品を指定商品として、平成27年6月13日に登録出願されたものである。
(3)商願2015ー68401(以下「引用出願3」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、引用出願1を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、別掲2に示す指定商品及び指定役務中の第9類、第12類及び第35類の商品及び役務と同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年7月18日に登録出願されたものである。\n
3 当審の判断
(1)引用出願1について
 引用出願1は、前記2(1)のとおり、親出願に係る新たな商標登録出願として商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して商標登録出願がなされたものである。  しかしながら、商標法第10条第1項は、商標登録出願の分割の要件を定めたものであり、その第1項で「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定されており、同条第2項において、「前項の場合は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」とされているところ、引用出願1は、親出願の出願に係る指定商品及び指定役務のすべてを指定商品及び指定役務としており、「商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる(下線は、合議体による。)」としている商標法第10条第1項の要件を満たしていない。  したがって、引用出願1は、もとの商標登録出願と主張する親出願の登録出願の時に出願したものとみなすことはできないものである。  そうとすれば、引用出願1は、商標法第10条第1項の要件を満たさず、同項の出願ではないから、同条第2項の適用はされないものであり、その出願日は、遡及することなく、いわゆる通常の商標登録出願として取り扱われるものであるから、平成27年3月20日である。 
(2)引用出願2及び引用出願3について
 引用出願2及び3は、前記2(2)及び(3)のとおり、引用出願1に係る新たな商標登録出願として、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して商標登録出願がされたものである。  そして、引用出願1は、上記(1)に記載のとおり、商標法第10条第1項の要件を満たさず、同項の出願ではないから、同条第2項の適用はされないものであり、その出願日は、遡及することなく、いわゆる通常の商標登録出願として取り扱われるものであるから、平成27年3月20日である。  そうとすれば、仮に、引用出願2及び3が引用出願1を原出願とする、商標法第10条第1項の要件を満たし、同条第2項の適用を受けることができるものとして認められ、その出願日が遡及される場合があったとしても、その出願日は、引用出願1の出願日である平成27年3月20日である。
(3)商標法第8条第1項及び同法第4条第1項第11号該当性について
 上記(1)のとおり、引用出願1は、商標法第10条第1項の要件を満たさず、同条第2項の適用はされないものであり、その出願日は、平成27年3月20日である。  また、引用出願2及び3は、上記(2)のとおり、仮に、商標法第10条第1項の要件を満たし、同条第2項の適用がされる場合があったとしても、その出願日は、引用出願1の出願日である平成27年3月20日である。  そうすれば、引用出願は、本件商標の出願の日(平成26年11月18日)前の商標登録出願に係る他人の登録商標ということはできない。  また、親出願及び引用出願1は、前記2(1)のとおり、既に出願却下の処分がされているものである。  したがって、本件商標は、商標法第8条第1項の規定に違反して登録されたものではない。  さらに、引用出願は、本件商標の登録査定時に設定登録されていたものではないから、本件商標は、同法第4条第1項第11号に違反して登録がされたものでもない

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平成27(行ケ)10149  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は「容易の容易」に当たるので動機付けなしというものです。
イ 相違点2の容易想到性について
(ア) 本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1におい て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適 用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し\n得たことであると判断した。 (イ) 相違点2は,シェルの構成に関するものである。しかし,引用例1(甲1)\nには,専ら,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロー プ寿命も長くなる浚渫用グラブバケットの提供を課題として(【0005】),上部 シーブ,下部シーブ,バケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置\nによって上記課題を解決する発明が開示されており(【請求項1】〜【請求項3】, 【0006】,【0016】),シェルに関しては,特許請求の範囲及び発明の詳細な 説明のいずれにも,「各シェル部1A,1Bは軸3で開閉自在に軸支され,下部フ レーム2に取付けられている。」(【0008】)など,他の部材と共にグラブバケッ トを構成していることが記載されているにとどまり,シェル自体の具体的構\成につ いての記載はない。引用例1においては,前記⑴ア(ア)のとおり,上記発明の一実 施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図【図1】及び正面図【図2】に加え, 従来のグラブバケットの側面図【図6】及び正面図【図7】において,シェルが図 示されているにすぎない。 したがって,引用例1には,シェルの構成に関する課題は明記されていない。\n(ウ) もっとも,引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようと する問題点(前記(2)ア(イ)b),周知例1(甲16)の【0002】,【0003】 (前記(3)ア(イ)),周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中,従来技術の欠点に ついて述べたもの(前記(3)イ(イ)a)及び引用例5(甲5)の【0006】から 【0008】(前記(4)ア(イ)c)によれば,本件特許出願の当時,浚渫用グラブバ ケットにおいて,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは,自明の課 題であったということができる。したがって,当業者は,引用発明1について,上 記課題を認識したものと考えられる。 前記(3)ウのとおり,本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが,当業 者は,引用発明1において,上記課題を解決する手段として,周知例2に開示され た「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル1 1,11の上部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11 の内幅いっぱいに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部\n開口部12,12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉 する」構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構\成のうち,「シェルの上部にシ ェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。\nしかしながら,前記(4)のとおり,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周 知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態に おいてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決す るための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示さ れておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは 考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用\nして「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構\成 について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが, これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2 に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」す\nる構成の容易想到性を認めることはできない。\n(エ) また,前記(2)のとおり,引用例3には,海底から掻き取った海底土砂等を バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷\nこぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,同課題解決 手段として,シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから, 当業者は,引用発明1において,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止すると いう自明の課題を解決する手段として,シェルを密閉するために,「浚渫用グラブ バケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下 する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以 上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移 動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるとい う技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。 しかし,引用発明1に引用発明3を適用しても,シェルの上部に上記のように開 閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,\n相違点2に係る本件発明の構成には至らない。
ウ 被告の主張について
被告は,空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは,引用例5及び周知例 1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが,前記イのとおり,同 技術は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態におい てはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するた めの手段であり,引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されて いないのであるから,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識す ることは考え難く,上記技術を適用する動機付けを欠く。

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平成28(行ケ)10065  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年8月10日  知的財産高等裁判所

 商標「山岸一雄大勝軒」について、創始者以外の同姓同名の他人が存在することを根拠として8号違反とした審決が維持されました。
 上記事実及び弁論の全趣旨によれば,本願商標の登録出願時(平成25年11月 19日)及び本件審決時(平成28年1月29日)において,亡山岸(生前の住所 地は東京都豊島区。甲19)とは別に,「山岸一雄」を氏名とする者が,複数生存 していたものと推認される。
ウ 以上によれば,本願商標は,他人の氏名を含む商標であると認められる。
(2) 「山岸一雄」を氏名とする者の承諾の有無
証拠(甲19,38)及び弁論の全趣旨によれば,原告の取締役であった亡山岸 は,本願商標の登録出願時において,原告が本願商標の登録出願をし,その商標登 録を受けることを承諾していたこと,その後,亡山岸は,平成27年4月1日死亡 したことが認められる。 しかし,前記(1)イのとおり,本願商標の登録出願時及び本件審決時において,亡 山岸とは別に,「山岸一雄」を氏名とする者が,複数生存していたものと推認され るところ,亡山岸以外の「山岸一雄」を氏名とする者が本願商標の登録について承 諾していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 小括
以上によれば,本願商標は,商標法4条1項8号に該当し,商標登録を受けるこ とができないものというべきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,商標法4条1項8号において,氏名を含む商標の登録が許されない のは,1)他人のパブリシティの権利を侵害する場合(当該他人の氏名等に少なくと も周知性が認められる場合),2)パブリシティの権利以外の氏名専用権の侵害にな る場合(商標出願の願書の記載から客観的類型的に判断し,氏名保持者が不快感を 感じると判断すべき場合)に限られると解すべきところ,本願商標は,上記1)及び 2)のいずれにも該当しない旨主張する。 しかし,商標法4条1項8号の趣旨は,前記1のとおり,人の氏名に対する人格 的利益の保護,すなわち,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われるこ とがないという利益を保護することにある。そして,同号は,その規定上,「著名 な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」とし,これらについては 著名なものを含む商標のみを不登録事由とする一方で,「他人の肖像又は他人の氏 名若しくは名称」については,著名又は周知なものであることを要するとはしてい ない。また,同号は,人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として 規定するものでもない。したがって,商標法4条1項8号の趣旨やその規定ぶりか らすると,同号にいう「他人の氏名」が,著名又は周知なものに限られるとは解し 難く,また,同号の適用が,他人の氏名を含む商標の登録により,当該他人の人格 的利益が侵害され,又はそのおそれがあるとすべき具体的事情の証明があったこと を要件とするものであるとも解し難い。すなわち,同号は,他人の氏名を含む商標 については,そのこと自体によって,上記人格的利益の侵害のおそれを認め,その 他人の承諾を得た場合でなければ,商標登録を受けることができないとしているも のと解される。 原告の上記主張は,商標法4条1項8号が,その規定上,他人の氏名については 「著名な」ものであることを要するとはしていないこと,他人の人格的利益を侵害 し,又はそのおそれがあるとすべき具体的事情の証明があったことを要件としてい るとも解し難いことに照らし,文理解釈の範囲を超えるものといわざるを得ない。 また,同号の趣旨は,上記のとおり,人の氏名に対する人格的利益の保護にあると ころ,この人格的利益の保護の要否を,顧客吸引力の有無(周知性や著名性の有 無)により分けるというのも,同号が商品又は役務の出所の混同のおそれを要件と していないことに照らし,相当でない。さらに,自己の氏名を含む商標が登録され ることにより氏名保持者が精神的苦痛や不快感を感じるか否かを商標出願の願書の 記載のみから判断すれば足りるというのも,氏名保持者ごとに人格的利益に係る事 情は異なるにもかかわらず,その個別的事情を一切捨象するものであって,相当で ない。なお,他人の氏名を含む商標について,当該氏名を有する他人から登録異議 の申立てや無効審判請求がされたときに初めて,当該商標の商標法4条1項8号該\n当性を判断すれば足りるとするのは,同号が商標の不登録事由として規定されてい ることにそぐわないのみならず,登録異議の申立期間が商標掲載公報の発行の日か\nら2月以内に限られ(同法43条の2),同項8号に違反してされたことを理由と する無効審判は商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は請求することがで きないとされていることから(同法47条1項),人は,自らの承諾なしにその氏 名を商標に使われることがないという利益を確保するために,自己の氏名が含まれ る商標の登録の有無を常に確認しなければならないことになる。かかる解釈は,商 標に含まれる氏名を有する他人に負担を強いるものであって,相当でないといわざ るを得ない。 以上の諸点に照らし,原告の上記主張は,採用することができない。なお,本件 において,亡山岸以外の「山岸一雄」が不快感を感じることがないとまでは認める に足りない。
(2) 原告は,学説の状況及び氏名を含む商標が登録されている例が存在すること を挙げ,商標法4条1項8号について,他人の氏名を含む商標については,そのこ と自体によって,上記人格的利益の侵害のおそれを認め,その他人の承諾を得た場 合でなければ,商標登録を受けることができないものと解釈することは不当である 旨主張する。 しかし,原告の挙げる学説の内容は,当裁判所の判断を拘束するものではないし, 過去に氏名を含む商標が登録されている例があるからといって,本件審決における 本願商標の商標法4条1項8号該当性の判断が,これに左右されるものではない。
(3) 原告は,被告が,NTT「ハローページ」電話帳を検索して同姓同名者を発 見し,これを出願人に通知して,拒絶や審決の根拠とするのは,現実に同姓同名者 が存在する蓋然性が高いにもかかわらず,氏名を含む商標が登録されている例が多 く存在していること,NTT電話帳は,プライバシー保護等の観点から,近時掲載 者数が激減しており,また,戸籍名で登録されている可能性もますます少なくなっ\nていること等に照らし,不当である旨主張する。 しかし,前記2(1)イのとおり,本件においては,NTT「ハローページ」電話帳 の掲載内容によれば,本願商標の登録出願時及び本件審決時において,亡山岸とは 別に,「山岸一雄」を氏名とする者が,複数生存していたものと推認されるのであ るから,本件審決が,本願商標の商標法4条1項8号該当性について,NTT「ハ ローページ」電話帳を検索し,その結果に基づき判断したことが,不当であるとい うことはできない。そして,これら同姓同名者の承諾を得ていないにもかかわらず, 「山岸一雄」の氏名を含む商標が登録されることにより,それらの者の人格的利益 を侵害するおそれがおよそ存在しないとまでいうことはできない。
・・・
(6) 原告は,他人の氏名を含む商標であっても,長年にわたる当該商標の使用や 指定商品又は指定役務と関連付けられた報道等での当該氏名の露出等の結果,需要 者が何人かの業務に係る商品又は役務であると認識することができ,他人の業務に 係るものと認識しない状態となった場合には,商標法4条1項8号の規定にかかわ らず,商標登録を受けることができると解すべきである旨主張する。 しかし,商標法4条1項8号について,同法3条2項に相当する規定は存しない。 原告の上記主張は,独自の見解であって,採用の限りでない。

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平成27(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月3日  知的財産高等裁判所

 コンピュータにおける処理について、実施可能性違反とした審決が維持されました。最後に審判手続きについて付言がなされています。
 本願明細書には,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた 「プレディケート予測器」において行われる「プレディケート命令の出力」の「予\ 測」処理の内容に関し,【0026】ないし【0029】の記載があり,ここには, 「概略プレディケート経路情報」を用いて,2つの履歴レジスタ,すなわち,コア ローカル履歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタを生成し,それを用いて「プ レディケート命令の出力」の予測を行うこと(【0026】,【0027】),並\nびに,上記グローバル分岐履歴レジスタに対応するグローバル履歴レジスタとして, 「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」を用いる実施例(【0028】,図 6A)及び「グローバルブロック履歴レジスタ」を用いる実施例(【0029】, 図6B)が記載されている。 しかし,上記記載からは,「概略プレディケート経路情報」からコアローカル履 歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタという二つの履歴レジスタをどのような 処理により分けて生成するのか,また,当該二つの履歴レジスタをどのような処理 により「プレディケート命令の出力」の「予測」において使い分けるのか,さらに,\n上記二つの履歴レジスタを用いた「プレディケート命令の出力」の「予測」を信頼\n性の高く正確なものとするために「概略プレディケート経路情報」として具体的に どのような内容が必要とされるのか,把握することはできない。 したがって,本願明細書の上記記載から,「複数のプロセッサコア」という分散 された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信頼性の高いプレデ\nィケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を\n最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処 理が具体的にどのように行われているのか明らかであるということはできない。 そして,当業者にとって,本願の優先日当時の技術常識に基づき,「複数のプロ セッサコア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」におい\nて,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を\n生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情\n報」に基づいて行われる「予測」の処理内容が自明であることを認めるに足りる証\n拠はない。 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,「複数のプロセッサ コア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信\n頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,\nコア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づ\nいて行われる「予測」の処理内容を理解することができるように記載されていると\nいうことはできない。 エ 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,「複数のプロセッサコ ア」という分散された環境において,「プレディケート予測器」が「概略プレディ\nケート経路を表す情報」に基づいて「プレディケート命令の出力を予\測する」とい う処理を行うことにより,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得る\nプレディケート履歴を生成することができ,同時にコア間の通信を最小にするとい う作用効果を奏するコンピューティングシステムを製造し,使用することができる 程度に記載されていない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施をす ることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。\n
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書には,1)対象のアーキテクチャは,EDGEアーキテク チャのようなハイブリッドなデータフローのアーキテクチャであること,2)コンパ イラが,各ブロックの分岐命令に,プログラム内での分岐命令の順序にしたがって, 3ビットの「終了コード」(「出口コード」ともいう。)を割り当てること,3) 「概略プレディケート経路情報」は,コンパイラによって,分岐命令に符号化され, 特定のブロックの具体的な分岐を識別可能であること,4)予測器が,分岐命令に符\n号化された「概略プレディケート経路情報」を用いてプレディケート予測を行うこ\nとが記載されているところ,EDGEアーキテクチャにおいて,分岐命令に出口を 識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化することは, 本願の優先日前に技術常識であったから,当業者であれば,本願の「概略プレディ ケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分岐 命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラに よって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分岐\n命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられる 情報であると理解する旨主張する。 イ しかし,原告が挙げる甲9(「Analysis of the TRIP S Prototype Block Predictor」平成21年4月)及 び甲10(「Distributed Microarchitectural Protocols in the TRIPS Prototype Proc essor」平成18年12月)は,EDGEアーキテクチャの一例である「TR IPS」という特定のアーキテクチャについて,「分岐命令に出口を識別する例え ば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化すること」を記載したも のにすぎず,EDGEアーキテクチャ一般について記載したものではない。したが って,上記証拠(甲9,10)から,本願の優先日前に「EDGEアーキテクチャ において,分岐命令に出口を識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを 分岐命令に符号化すること」が技術常識であったと認めるに足りず,他にこれを認 めるに足りる証拠はない。 ウ また,前記イの点を措き,仮に当業者において,本願明細書の「概略プレデ ィケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分 岐命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラ によって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分\n岐命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられ る情報であると理解したとしても,本願発明1の「概略プレディケート経路を表す\n情報」に相当する「概略プレディケート経路情報」について,1)そのデータ形式, 2)その形式に「終了コード(出口コード)」という,本願明細書全体の記載から見 ても内容が不明なコードが関連していること,3)分岐命令への符号化という処理が コンパイラによってされること,4)予測器によるプレディケート予\測に用いられる ことが把握できるにすぎず,「出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」と して分岐命令に符号化された情報」が,「プレディケート命令の出力」の「予測」\nを信頼性が高く,正確なものとする上で,具体的にどのような内容のものであるの かを把握することはできない。 したがって,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた「プ レディケート予測器」において,信頼性の高いプレディケートの正確な予\測に役立 ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プ レディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処理が具体的にどのように行わ れているのかが,明らかであるということはできない。
(4) 小括
以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施を することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから,\n本願発明1を特許請求の範囲に含む本願は,拒絶すべきものである。
・・・・
以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理 由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 本件審決は,最終的な結論において誤りはなかったことから,取り消すべきもの とはされなかったが,以下の問題があるから,事案に鑑み,本件審決書について付 言する。まず,本件審決は,その判断において,平成25年9月6日付けで通知し た拒絶理由及び同年12月27日付けでした拒絶査定の内容を引用した上で,本願 発明が,拒絶査定で示された理由を解消しているか否かを判断するという体裁で, しかも,前記第2の3のとおり,本件補正前の請求項と本件補正後の請求項が混在 したまま,審決の理由を示している。しかし,本件審決における判断対象は,本件 補正後の請求項であり,本件補正後の本願発明に拒絶理由が存在するか否かを判断 すべきである。また,本件審決におけるサポート要件に係る判断は,その結論部分 において,本件補正後の請求項の全てについてサポート要件を満たさない旨判断し ていながら,本件補正後の請求項1についてしかその具体的理由が言及されておら ず,実施態様の異なる他の請求項についても,サポート要件を満たさないことにな る理由は,何ら具体的に述べられていない。以上のとおり,本件審決書は,適切と はいい難いものであって,判断対象を明確にして,結論を導くに足りる理由を示す ことが望まれる。

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平成28(行ケ)10004  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年7月27日  知的財産高等裁判所

 登録商標について不使用かどうかが争われました。知財高裁は使用していたとした審決を維持しました。認められたのは、パンフレット配布、ウェブサイトの使用、でんぴょううしていたなどの使用事実の理由も示されています。ただ、下記理由は、個人的には納得しがたいです。これだけコンピュータ化された時代に、印刷済み伝票に商品名を、ましてや(R)まで手書き追記するものなのでしょうか?
 前記認定事実(7)のとおり,被告は,平成26年4月1日,東芝ホームアプ ライアンスに対し,品名を「ASY−PWB−BRUSH」とする商品を100個 納品しているところ,東芝ホームアプライアンスにおいては,品名を「ASY−P WB−BRUSH」とする商品は,制御基盤に関する商品を指すのであるから(甲 15),被告は,東芝ホームアプライアンスに,制御基盤を100個納品したもの と認められる。
イ 次に,前記認定事実(7)のとおり,被告と東芝ホームアプライアンスとの間 で授受された伝票には,品名略号欄に「ASY−PWB−BRUSH」との印字だ けではなく,「クリーンマスター(R)」との手書文字も記載されている。 また,被告と東芝ホームアプライアンスとの間で授受された伝票のうち,「検査 表D(検査控)」と題する伝票,「受入/検収票C(受入控)」と題する伝票は,\n被告が,東芝ホームアプライアンスに,制御基盤の納品時に交付したものと認めら れる(甲16,乙10,16)。そして,これらの伝票は,東芝ホームアプライア ンスが管理していたものであるから,被告が,原告との紛争に備えるために,わざ わざ東芝ホームアプライアンスから,これらの伝票の返還を受け,「クリーンマス ター(R)」と手書文字を記載したとは考えにくい。 したがって,被告は,東芝アプライアンスに制御基盤を納品する際,その伝票に, 当該制御基盤に関して「クリーンマスター(R)」との標章を付したものと認められる。 ウ よって,被告は,平成26年4月1日,少なくとも1社に対し,制御基盤に 関する取引書類に,「クリーンマスター(R)」なる標章を付して配布したものである。

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平成28(ネ)10014  商標権侵害損害賠償請求控訴事件  商標権  民事訴訟 平成28年7月20日  知的財産高等裁判所  横浜地方裁判所  横須賀支部

 類似する商標であると判断されたものの、商標的使用でないと判断され、非侵害とした1審判決が維持されました。
 しかしながら,登録商標に類似する標章の商標権者以外の者による使用が 当該商標権の侵害に当たるとするためには,その標章が,商品・役務出所表示機能\, 自他商品・役務識別機能を発揮する態様で,すなわち,需要者が何人かの業務に係\nる商品又は役務であることを認識できる態様で,使用されていることが必要である と解すべきである。なぜなら,法律上,商標の果たすべき最大の機能は,商品・役\n務出所表示機能\,自他商品・役務識別機能であり,商標権によってまず守られるの\nは,登録商標のそのような機能であり,商標権侵害とされるのは,登録商標のこの\n機能を阻害する態様の行為に限られると考えるのが合理的であるからである。
(4) そこで,検討するに,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人 は,「FRANGIPANI」を屋号として,宝石様のガラス等に貼付された医療用\nシートを耳のつぼに貼付する「耳つぼジュエリー」の施術方法を教授する「耳つぼ\nジュエリープロ通信講座」を開催しており,インターネット上にホームページを開 設して,前記講座の広告に伴う自己紹介として,1)「現在はサロンワークの傍ら, 自身のセミナー,通信講座の運営など「耳つぼジュエリスト」として後進の指導と 女性(特に育児中のママ)の起業サポートに力を注ぎ,日々「大人を教える技術」 に磨きをかける。」という被控訴人標章を含む文言を記載したこと,被控訴人標章が 記載された前記ホームページには,その上部に「FRANGIPANI」という被 控訴人の屋号の記載があり,その下に「耳つぼジュエリープロ通信講座」との記載 があったこと,被控訴人の開設したホームページには,いずれもその上部に「FR ANGIPANI」という被控訴人の屋号の記載があり,被控訴人は,当該ホーム ページ又はこれらにリンクされているページ中に,2)「耳つぼジュエリースクール では,お仕事として耳つぼジュエリーをしていきたい耳つぼジュエリストの育成も してまいりました。」,3)「そんな耳つぼジュエリストとしてのやりがいや幸せを感 じていただきたいと思っています。」,4)「また,受講いただいた方への十分なコミ\nュニケーションとサポート,サービス提供もとことんさせていただき,自信を持っ て耳つぼジュエリストデビューをしていただくまでのお手伝いをするために,今回 プレミアム特典も別に用意させていただきました。」,5)「学ぶことで,ご心配なく 取り組んでいただけます,学んだらいいかわからない,耳つぼジュエリストのYが 開発いたしました。」,6)「痛くない施術,説明するときにも役立ちます,通信教育 って途中で勉強,そんな耳つぼジュエリストとしてのやりがいや幸せ,ピンクリボ ンフェスタ2013出展。」という被控訴人標章を含む記載をし,また,投稿動画に 添える表題的な文言として,7)「ネイリストより簡単!自宅で学べる耳つぼジュエ リストのプロを目指す」という被控訴人標章を含む記載をしたことが認められる。 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,前記ホームページ又はこれらにリンク されているページにおいて,「耳つぼジュエリスト」は,ラインストーンに貼付され\nた医療用シートを耳のつぼに貼付する「耳つぼジュエリー」の施術を業として行う\n者という意味で使用されており,「耳つぼジュエリープロ通信講座」の開催及び「D ipLoma」と題する文書の発行の主体は,「FRANGIPANI」であること が明示されているといえる。 そして,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人のほかにも,相当数 の者が,インターネット上において,「耳つぼジュエリー」の施術方法を教授する講 座を開催していたことが認められる。 以上の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件商標権の指定役務である知識の教授 に係る事業の需要者において,インターネット上の被控訴人の前記1)ないし7)の被 控訴人標章を含む記載のあるホームページ等を見た場合,「FRANGIPANI」 が,その行う事業の一環として,その受講者に「DipLoma」と題する修了証 を発行する通信講座を開催し,その広告を掲載しており,前記講座は,前記施術を 行う技術を教授する講座であり,前記1)及び5)の記載は被控訴人が自らが前記施術 を業として行っていることを示したもの,前記2)ないし4),6)及び7)の各記載は, 一般的な資格として前記施術を業として行う者を示したものであると理解するので あって,「FRANGIPANI」という表示によって役務の出所を識別するのが通\n常であると考えられ,被控訴人標章から役務の出所を想起することはないものと認 められる。 したがって,前記の被控訴人標章の各記載は,需要者が何人かの業務に係る役務 であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることは できず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しないと いうべきである。

◆判決本文

◆関連事件はこちらです。平成28(ネ)10013

◆関連事件はこちらです。平成28(ネ)10012

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平成27(行ウ)627  手続却下処分取消等請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年7月19日  東京地方裁判所

 国内書面提出期限から3月以上経過してから提出した翻訳文を却下したことについて、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出できなかったことについて「正当な理由」なしと判断されました。
 原告は,本件期間徒過の直接の原因につき,本件特許事務所において受 信班の受信第1担当者が,本件メールを,日付フォルダ直下の「新件午後」 フォルダへ移動すべきところ,誤って日付フォルダ直下の「印刷済み」フォ ルダに移動したためであるとしつつ,同ミスを回避することはできなかった 旨主張し,本件特許事務所の従業員が作成した陳述書にも同様の記載がある。 そこで検討するに,上記1(2)で認定した受信処理の手順の定めによれば, ALPの共有端末から本件特許事務所内のネットワーク上への受信メールの 移動は,受信班のスタッフが手作業で行うのであるから,移動先のフォルダ を誤るミスが生じ得ることは容易に予想される。それにもかかわらず,本件\n特許事務所においては,受信第1担当者が,ALPの共有端末から本件特許 事務所内のネットワーク上の日付フォルダ直下の「新件午後」フォルダ直下 に全ての受信メールを移動したことについて,何らこれを確認する態勢を採 っていなかったのであって(上記1(2)イ),その結果,本件期間徒過に至っ たものである。 また,上記1(2)の手順の定めによれば,まず,受信第1担当者が受信メー ルの件数をカウントし,受信第2担当者においてそれが正しいことを確認し た上で(上記1(2)ア),その後,印刷担当者が「新件午後」フォルダ直下に ある受信メールを印刷し,これを「新件午後」フォルダ直下の「印刷済み」 フォルダに移動した後,受信第1担当者が受信メールの印刷物の件数及び内 容と受信メールの件数及び内容とを確認する作業を行うのであるから(上記 1(2)ウ,エ),受信第1担当者が定められた手順どおりに受信メールの印刷 物の件数と受信メールの件数とを対照していれば,本件メールが印刷されて おらず,その受信処理においてミスがあったことは容易に判明したはずであ る。このように,本件期間徒過の原因についての原告の主張を前提とすると, 本件特許事務所は,受信第1担当者による受信メールの移動ミスに気付くこ とができたはずの機会があったにもかかわらず,これを看過したこととなる のであって,本件特許事務所において上記1(2)の手順の定めが遵守されてい たのかについても疑問がある。 以上によれば,本件期間徒過について「正当な理由」があったとはいえな い。

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平成28(行ケ)10062  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年7月20日  知的財産高等裁判所

FITの3文字が大きく表示され、その周辺に Foxconn Interconnect Technologyと小さく表示した商標について、FITだけを分離抽出できるかが争われました。知財高裁は、分離抽出できるとした審決を維持しました。
 本願商標と引用商標とを対比すると,前記2のとおり,本願商標からは, 「フォックスコン インターコネクト テクノロジー エフ アイ ティー」の称 呼及び鴻海グループに属する企業との観念が生じるとともに,「FIT」の文字部 分から,「エフアイティー」との称呼が生じるほか,その構成文字と同一の英文字\nから成る英単語の「fit」に相応した「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴ ったりの」との観念が生じ(乙1,2),これは,原告も自認するところである。 本願商標から生じるこれらの称呼及び観念のうち,「フィット」との称呼及び「適 した」,「ぴったりの」との観念は,前記3の引用商標の称呼及び観念と同一である。 このように,対比に係る商標から2つ以上の称呼,観念が生じる場合,そのうちの 1つの称呼,観念が類似するときは,両商標は類似するというべきである(最高裁 昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12 号1621頁参照)。 本願商標の「FIT」の文字部分と引用商標とは,外観上,文字の彩色や書体等 の相違はあるものの,その相違は,上記の称呼及び観念の同一性をりょうがして上 記類似を覆すほどのものではない。 以上によれば,本願商標と引用商標とは,出所について誤認混同のおそれがあり, 両商標は,類似するものということができる。
(2) 原告は,本願商標の構成文字に,原告のグループ企業のブランドとして広く\n知られた「Foxconn」の文字が含まれ,かつ,原告の商号原語表記である\n「Foxconn Interconnect Technology」が併記さ れているという事実を軽視せず,本願商標の指定商品に係る取引においては商品の 製造主体が重視されるという取引実情にも鑑みれば,本願商標と引用商標は,事実 上,出所の混同が生じることはない旨主張する。 しかし,前記2のとおり,本願商標中,「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分は,外観上,「FIT」の文字部分に 比べて明らかに目立たない態様であり,それほど見る者の注意をひくものではなく, 取引者・需要者に対し,本願商標の指定商品の出所識別標識として強く支配的な印 象を与えるのは,「FIT」の文字部分である。したがって,原告主張に係る取引 の実情を考慮しても,本願商標と,本願商標の「FIT」の文字部分と同一の構成\n文字から成り,同一の称呼及び観念を生じる引用商標とは,出所について誤認混同 のおそれがあるものというべきである。

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平成28(ネ)10006  債務不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年7月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 iPhoneなどのタッチパネルの制御発明について、1審と同じく104条の3で権利公使不能と判断されました。無効審判において訂正を行いましたが、その補正も要旨変更と判断されました。登録時の構\成D、訂正請求時の構成D’および訂正請求を補正した後の構\成要件D”については下記の通りです。
登録時の構成D
「前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段と,」

訂正請求時の構成D’(削除された部分を< >で,付加された部分を[ ]で示す。)
「<前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて,>前前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化[,及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化]に応じて[,特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化,及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化に対応した所定の動作から選ばれる所定の動作を,]前記情報処理装置が行うようにする制御手段と,」

訂正請求を補正した後の構成要件D”(削除された部分を< >で示す。)
「前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化,及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数<又は該数の過渡的な変化>に応じて,特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化,及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数<又は該数の過渡的な変化>に対応した所定の動作から選ばれる所定の動作を,前記情報処理装置が行うようにする制御手段と」


 マルチタッチパネルシステムにおいて,位置検出手段により検出される2個所の 指示部位の指示位置の間の距離を算出し,算出される指示位置の間の距離又は該距 離の過渡的な変化に応じて所定の動作を行うことは,本件特許の出願前周知の技術 と認められる(甲12の58頁4〜10行目,73頁2〜12行目,甲22の【0 015】〜【0017】【0046】,甲23の【0036】【0037】【図10】 【図11】参照)である。 上記ア(ア)のとおり,甲13発明も2箇所の指示位置の間の距離の相対比又はその 過渡的変化に着目しているものであり,指示位置間の距離又はその過渡的変化を基 礎としているから,甲13発明において,上記周知技術を適用し,その距離算定方 法を構成要件B及Cの距離算定方法に置換することは,当業者が適宜なす程度のことであり,容易に想到できる。
(イ) 控訴人の主張について
控訴人は,相違点1は容易に想到できないと主張するが,相違点B及び相違点C の存在を前提とする主張であり,本件発明1と甲13発明とが,相違点B及び相違 点 C の点で相違するものでないことは,上記アに認定のとおりであるから,その主 張を採用することはできない。
ウ 小括 以上からすれば,本件発明1は,甲13発明及び周知技術に基いて,当業者が容 易に発明することができる。そうすると,本件発明1に係る特許は,特許無効審判 により無効にされるべきものと認められる。

◆判決本文

◆原審はこちら。平成26年(ワ)第371号

◆関連の無効審判事件です。平成27(行ケ)10185

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平成27(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年7月13日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は本件発明の認定誤りです。
ア 本件発明のロック突部は,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,平 坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間して いる形状のものである。そして,本件発明は,前記1(2)のとおり,ロック機構につ\nいて,1)ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する 突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を 側壁面に有し,2)他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後 縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,3)ロック溝部には溝部前縁または溝部 後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ,4)ロック突部が嵌合方向でロック溝 部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合 終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対 するロック突部の位置が変化する,という構成を採用することにより,コネクタ嵌\n合状態にある間は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動さ れようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブル コネクタの抜出を阻止するようにしたものである。 他方で,本件発明は,特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載 において,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分について,その 大きさ,両面の離間の程度やその成す角度,ロック溝部やその突出部など他の構成\nとの関係などについては,特に規定していない。 そうすると,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部 分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタの ケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝 部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれ ば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれ るものと解される。
イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,軸方向の挿抜によってではなく,一方のハ ウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得る ことのできるコネクタであって,コネクタ31に形成された溝部49に挿入される 相手コネクタ33の回転中心突起53を支点として相手コネクタ33を回転させて, コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるものである。 上記のとおり,引用発明の回転中心突起は,相手コネクタ33を回転させる際の 支点(回転中心)となるものであること,回転を円滑に行うためには,その支点の 断面は円形状であることが好ましいこと及び引用例の第3図には回転中心突起53 の断面がほぼ円形状に描かれていることに照らせば,基本的には,その断面の形状 として円形が想定されているものといえる。 しかし,引用発明において,回転中心突起の回転は,相手コネクタ33は,その 前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態(第3図)から,コネクタ31と嵌 合した状態(第5図)までの,せいぜい90度以内のものにすぎず,引用例には, 回転中心突起53やその断面の形状が円形に限られるものであることについては何 らの記載も示唆もないから,その断面の形状は,円形に限られず,相手コネクタ3 3の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,円形以外の形状に することも許容されるものと解される。
ウ 引用発明においては,前記イのとおり,回転中心突起53の形状は,相手コ ネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,その断面 の形状を円形以外の形状にすることも許容されるものと解されるところ,相手コネ クタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心 突起53の形状を適宜変更し,その断面が,円形に近似するような,角数の多い多 角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことであるという ことができる。 そして,本件発明のロック突部の形状には,その断面形状が,円形に近似するよ うな,角数の多い多角形状となるものも含まれるものと解されることは,前記アの とおりである。 したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,\n当業者が容易に想到することができたことである。

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平成27(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成28年7月13日  知的財産高等裁判所

 取り消し理由の一つが「審判時に提出されていなかった証拠の提出が許されるか」です。知財高裁は、許容されると判断しました。また、周知技術の根拠を審判で初めて示した点についても違法性はないと判断しました。
 原告は,乙第9及び10号証は,いずれも審判時に提出されていなかったもので あり,本件審決の違法性を争う本件訴訟において,このような証拠は許容すべきで はない旨主張する。 審決取消訴訟においては,審判手続において審理判断されていなかった資料に基 づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断することは 許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・ 民集30巻2号79頁参照),審判手続において審理判断されていた資料に基づく発 明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断するに当たり,審 判手続には現れていなかった資料に基づいて上記発明が属する技術分野の当業者の 出願当時における技術常識を認定し,これによって上記発明の有する意義を明らか にした上で無効理由の存否を認定したとしても,審判手続において審理判断されて いなかった資料に基づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違 法を判断したものということはできない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55 年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。 本件審決は,審判手続において審理判断されていた引用発明1と対比して,「挿入 部(13)」の成形に関する相違点2の容易想到性の判断をするに当たり,審判手続 には現れていなかった周知例1及び2に基づいて,当業者の技術常識を認定し,こ れによって,引用発明1において,上記周知技術を採用して相違点2に係る本願発 明の構成とすることは,当業者にとって容易であった旨の判断をした。\nそして,乙第9及び10号証は,本件審決による上記判断の誤りの有無を判断す るに当たり,本願出願日当時の上記周知技術に関する技術常識としてテーパ形状の 拡底部を有するアンカーボルトにおける一体成形に関する技術を立証するものであ るから,本件訴訟の判断資料とすることは,許容されるものということができる。
・・・・
3 取消事由2(手続違背)について
(1)原告は,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカーピン自 体を一体成形することは周知技術であることが示されたのに対し,同年4月27日 付けの意見書において,上記周知技術の根拠の明示を求めたが,これに対する回答 はなく,本件審決において,初めて周知例1及び2が示され,これらを根拠とした 周知技術が認定されて請求不成立の判断が出されたとして,このような手続は,原 告に対して周知例1及び2に関する反論の機会を与えることなく,不意打ちをする ものということができ,違法である旨主張する。
(2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願に係る出願の経緯につき,以下の とおり認められる。
・・・
エ 原告は,平成27年2月23日付けで拒絶理由通知(甲9)を受けた。同拒 絶理由通知には,「アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周 知の技術である。」と記載され,また,前記アの特許請求の範囲請求項1の補正につ き,「本願の出願当初の明細書等には,中間部と係止部とが一体成形されるという記 載はないが,アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周知の 技術であるので,中間部と係止部を一体成形とすることは,出願当初の明細書等か ら自明な事項であると判断した。」と記載されている。 オ 原告は,平成27年4月27日付け手続補正書(甲10)により本件補正を 行い,同日付け意見書(甲11)において,前記エの拒絶理由通知記載の周知技術 につき,その根拠が示されていないことを指摘するとともに,「本願の手続補正は, 図4及び図5(判決注:別紙1の【図4】及び【図5】と同じ。)に記載のアンカー ピンは接続部分がなく,当業者が見れば中間部14と係止部16とが一体成形され ていることが自明であるのであって,これをもって出願前にアンカーピンが一体成 形されることが周知の技術であるわけではないことは明らかである。」と主張した。
(3) 前記(1)のとおり,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカ ーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前において既に周知の技術であ った旨が明記されている。 そして,原告は,同年4月27日付け意見書において,上記拒絶理由通知記載の 周知の技術に関し,平成25年11月25日付け手続補正書による補正事項につい て,当業者が別紙1の【図4】及び【図5】を見れば中間部14と係止部16とが 一体成形されていることが自明であり,これをもって,アンカーピン自体を一体成 形とすることが周知の技術であるわけではない旨主張しているが,同主張のとおり, 当業者が上記図面を見て上記一体成形を自明のこととして理解するのは,まさに, アンカーピン自体を一体成形することが,当業者に周知の技術であったからにほか ならない。 以上によれば,本件審決が周知技術として認定した「テーパ形状の拡底部を有す る杭において,テーパ形状の拡底部と拡底部以外の部分とを滑らかに連接し,一体 の外周面を形成するように一体成形すること」の主要な内容である一体成形の技術 については,周知技術であることが平成27年2月23日付けの拒絶理由通知に示 されており,しかも,これに関する原告の意見書の内容自体から,一体成形の技術 が当業者に周知されていたということができる。このような経過に鑑みると,本件 審決が,それまで審判手続において示されていなかった周知例1及び2を根拠とす る周知技術を認定したことは,原告に対する不意打ちということはできず,手続違 背には当たらないというべきである。

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平成27(ワ)20338  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年6月30日  東京地方裁判所

 商標「極真会館」による使用制限は、権利濫用と判断されました。
 前記前提事実及び上記認定事実を踏まえて,原告らの本件請求が権利濫用 に当たるか否かについて検討する。
ア 前記第2の1前提事実によれば,本件各商標に類似する被告各標章は, 遅くともCの死亡した平成6年4月26日時点から現在まで空手及び格闘 技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表すものとして\n広く知られているところ,上記(1)認定事実ア,イ及びエによれば,この ような被告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対し,Cの 生前においては,長年にわたり極真空手の教授や空手大会の開催等を行っ てきたC及び同人から認可を受けたBを含む支部長らの寄与があり,Cの 死後においては,国内外において大規模に極真空手の教授や空手大会の開 催等を行い,その普及に努めてきたB及び同人が代表取締役を務める被告\nの大きな寄与があったと認められる。 また,原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を取得し て極真空手の教授等を行っているが,Cは後継者を公式に指名することな く死亡しており(上記(1)認定事実ウ),極真会館において館長や総裁の 地位の決定や承継に関する定めはなく(上記(1)認定事実ア(イ)及びウ (ア)),世襲制が採用されていたこともうかがわれず,他に相続人である 原告AをCの後継者であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,原 告らは,極真会館を称して極真空手の教授等を行う複数の団体の一つにす ぎないというべきである。そして,極真会館の分裂後にBにより設立され た被告も,上記のような団体の一つというべきである。 以上の点に加えて,原告らは,Cの死亡後,B及び被告が国内外で被告 各標章を使用して大規模に極真空手の教授等を行っていたことを認識して いたにもかかわらず,合理的な理由もなく早期に本件各商標に係る商標登 録出願を行っていないことも考慮すれば,原告らが被告に対し,本件各商 標権に基づき,極真関連商標である本件各商標やこれと類似する商標の使 用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきである。
イ これに対し,原告らは,1)原告Aが極真関連標章の主体たる地位を承継 したこと,2)極真関連標章の周知性及び著名性の維持等に対する寄与につ いて,Cの生前におけるBの寄与はCに帰属するものであり,Cの死後に おけるB及び被告の寄与はBの不当な行為による結果であるから保護に値 しないこと,3)被告は極真空手の最大の特徴であるフルコンタクトルール を放棄する旨表明したことなどから,原告らの権利行使が正当であると主\n張する。 しかしながら,1)については,Cは生前,極真関連標章に係る商標登録 出願をしておらず,極真関連標章の主体たる地位が相続の対象となる財産 権であるとはいえない。また,周知に至った極真関連標章があったとして も,それは被告各標章と同様に極真会館又はその活動を示すものとして周 知になったものというべきであるから,それは少なくともC個人ではなく 極真会館の総裁に帰属する法的利益であると解すべきであるところ,上記 アのとおり,原告Aを極真会館の総裁であったCの後継者であると認める ことはできない以上,原告Aが,極真関連標章の主体たる地位を承継した と認めることはできない。
次に,2)については,Cの生前における極真関連標章に対するBの寄与 がCに帰属するとの原告らの主張は,極真会館がCの社団性すら有しない 個人事業の性質を有し,直轄道場の支部長が他の支部長と異なって総本部 たるCの被用者であることを前提としているが,上記(1)ア認定のとおり の極真会館の組織及び運営に照らせば,少なくとも極真会館は社団性を有 するというべきである上,本件全証拠によっても,直轄道場の支部長と他 の支部長とで極真関連標章の使用に関する取扱いが異なっていたことを認 めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張の前提に誤りがあるとい わざるを得ない。また,Cの死後,Bは,後に無効とされた本件遺言に基 づいて自らをCの後継者と称し,後に無効とされた極真関連標章に係る商 標登録を受けた上で極真空手の教授等を行っているが,現時点までにおけ る被告の活動規模や実績等に照らせば,Cの死後における被告の各標章に 対するB及び被告の寄与の全てがBの上記行為の結果であるとはいえず, 当該寄与の正当性の全てが否定されることにはならないと解すべきである。 さらに,3)の点については,本件全証拠によっても被告がフルコンタク トルールを放棄したと認めるに足りる証拠はない。なお,上記(1)エ(ウ) 認定のとおり,被告は,平成27年4月16日,平成32年開催予定の東\n京オリンピック・パラリンピックにおける空手道種目の採用に向けて,公 益財団法人全日本空手道連盟との間で友好関係を構築し,互いに協力する\nことを記者会見により発表したところ,同連盟は,フルコンタクトルール\nを採用していないものであるが,このような事実があったとしても,それ 故に被告がフルコンタクトルールを放棄したことにはならない。

◆判決本文

◆下記に被告標章、原告商標があります。

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平成27(行コ)10004  異議申立却下決定取消請求控訴事件  特許権  行政訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 国内移行の翻訳文を期限経過後に提出し、必要な代表者資格証明を提出しなかったために補正命令に応ぜず却下処分となりました。この異議申\し立ての行政訴訟です。知財高裁は却下処分妥当と判断しました。
 控訴人らが本件異議申立てに際して代表\者の資格証明に関する書面及び代理人であることを証明する書面(以下,両者を併せて,「資格証明所等」という。)を添付しなかったことから,特許庁長官は,補正期間を30日と定める本件補正命令を発したが,控訴人らが上記期間内に資格証明書等を提出しなかったため,本件決定をした。本件補正命令の内容は,資格証明書等の提出を求めるという明確なものであり,また,控訴人らのような種類の法人についても,補正を命じられた不備を補正することは困難なことではないから(現に,控訴人らは,本訴提起に当たっては,控訴人らの資格証明書等を提出している。),控訴人らは,相当の期間を定めて命じた補正に従って資格証明書等を提出することをしなかったのであって,本件異議申立ては,行政不服審査法13条1項に違反し,不適法である。したがって,これらをいずれも却下した本件決定に違法は認められない。\n

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平成28(ワ)12480  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月30日  東京地方裁判所

 生海苔異物除去機の一部の部品を交換する行為が生産が該当する(特許権侵害)と判断されました。
 原告は,被告ワンマン及び被告西部機販に対し,本件メンテナンス行為1 の差止めを求めるところ,製品について加工や部材の交換をする行為であっ ても,当該製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか, 取引の実情等も総合考慮して,その行為によって特許製品を新たに作り出す ものと認められるときは,特許製品の「生産」(法2条3項1号)として, 侵害行為に当たると解するのが相当である。 本件各発明は,前記1(2)のとおり,生海苔混合液槽の選別ケーシングの 円周面と回転板の円周面との間に設けられた僅かなクリアランスを利用して, 生海苔・海水混合液から異物を分離除去する回転板方式の生海苔異物分離除 去装置において,クリアランスの目詰まりが発生する状況が生じ,回転板の 停止又は作業の停止を招いて,結果的に異物分離作業の能率低下等を招いて\nしまうとの課題を解決するために,突起・板体の突起物を選別ケーシングの 円周端面に設け(本件発明1),回転板及び/又は選別ケーシングの円周面 に設け(本件発明3),あるいは,クリアランスに設けること(本件発明4) によって,共回りの発生をなくし,クリアランスの目詰まりの発生を防ぐと いうものである。そして,本件板状部材は,本件固定リングに形成された凹 部に嵌め込むように取り付けられて固定されることにより,本件各発明の 「共回りを防止する防止手段」(構成要件A3)に該当する「表\面側の突出 部」,「側面側の突出部」を形成するものであること(当事者間に争いがな い)からすると,本件固定リング及び本件板状部材は,被告装置の使用(回 転円板の回転)に伴って摩耗するものと認められるのであって,このような 摩耗によって上記突出部を失い,共回り,目詰まり防止の効果を喪失した被 告装置は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を欠き,もはや「共 回り防止装置」には該当しないと解される。 そうすると,「表面側の突出部」,「側面側の突出部」を失った被告装置\nについて,新しい本件固定リング及び本件板状部材の両方,あるいは,いず れか一方を交換することにより,新たに「表面側の突出部」,「側面側の突\n出部」を設ける行為は,本件各発明の「共回りを防止する防止手段」を備え た「共回り防止装置」を新たに作り出す行為というべきであり,法2条3項 1号の「生産」に該当すると評価することができるから,原告は,被告らに 対し,法100条1項に基づき,上記(1)の差止めに加えて,本件メンテナ ンス行為1の差止めを求めることができる。
・・・・
これに対し,被告ワンマン及び被告西部機販は,要旨,1本件装置1及 び2の仕入代金以外に必要経費が生じているから,これらについても被告ワ ンマン及び被告西部機販の利益から控除すべきである,2)本件特許は本件装 置1及び2の販売にほとんど寄与しておらず,本件装置1及び2の売上への 寄与率が10%を超えることはない,3)被告ワンマン及び被告西部機販が本 件装置1及び2の販売によって得た利益を原告の損害と推定することについ ての推定覆滅事由があるなどと主張する。 しかしながら,上記1)について,必要経費として控除できるのは,本件装 置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になった経費に限られるもの と解すべきところ,被告ワンマン及び被告西部機販の主張する経費が本件装 置1及び2の販売に直接関連して追加的に必要になったものと認められない のはもちろん,そもそも同経費が現実に生じたこと自体を認めるに足る証拠 が一切なく,その算定根拠も判然としない。また,上記2)について,本件各 発明は,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものである一方,\n本件各発明が本件装置1及び2に寄与する割合を減ずべきであるとする被告 ワンマン及び被告西部機販の主張の根拠は判然としないことに照らせば,本 件各発明が本件装置1及び本件各部品の販売に寄与する割合を減ずることは 相当でない。さらに,上記3)について,被告が主張するのは,単に,原告が 販売店ではなく製造業者であるという事実にとどまるところ,同事実のみか ら,本件各発明の実施品が有する顧客吸引力にもかかわらず,原告がその取 引先への販売の機会を持ち得なかったということはできないし,ほかに原告 が取引の機会を奪われたとはいえない特段の事情もないから,法102条2 項による推定を覆滅するには足りないというほかない。

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平成27(ワ)6812  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月23日  東京地方裁判所

 搾汁ジューサについて、均等侵害が認められました。興味深いのが損害額200万円がすべて代理人費用という点です。
 上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が 解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の 効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が 網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁 が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において 防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余 地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円 筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかに\nより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明 の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について
前記イのとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水 円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また, これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁 を効率的に排出することができる。 他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,\n被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案 内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を 汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のス\nクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置 されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路 の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒 を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作 用効果を奏するということができる。 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果 を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。\nこれに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能と\nはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について
本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された 圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一 体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く 空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及 びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落 【0045】,【0052】,【0056】,【図3A】,【図3B】)。この とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔 (底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出 路に流入する(段落【0072】),すなわち,底部リング(網ドラ ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路 に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の 外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技 術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流 路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告 製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると, 本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって, 圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの は容易であるというべきである。 これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件 発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採 用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で あるということができる。
・・・
3 争点 (原告の損害額)について
前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得 たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論 せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告 が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから, 独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記 請求は理由がないことになる。 本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対 する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。

◆判決本文

◆こちらに図面があります

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平成28(ネ)10017  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  知的財産高等裁判所

 第2,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
 ところで,商品の基礎情報である価格等は変わる場合があるところ,顧客 の注文前に商品の基礎情報が更新された場合,Web−POSサーバ・システムが 有する情報は,更新された後の商品情報のみであるから,Web−POSサーバ・ システムは,顧客が注文した商品の価格等を把握することができない(乙20)。 また,Cookieを用いたWeb技術は,サーバ側で識別情報としてテキスト・ データをWebブラウザごとに割り当て,更に,そのテキスト・データをWebブ ラウザの情報と対応付けて管理することにより,Webサーバ側において,HTT Pリクエストの送信元を識別等するというものにとどまる(甲25)。よって,W eb−POSサーバ・システムは,Cookie情報を受信しても,顧客が注文し た商品の価格等を把握することはできない。 そして,前記(ア)のとおり,本件ECサイトの管理運営システム内のサーバは, 顧客が注文した商品の価格等を把握するために,顧客のコンピュータからリクエス ト情報とともに受信したCookie情報をもとに,顧客のコンピュータに表示さ\nれた「レジ」画面情報の原本に当たる情報を同サーバから呼び出すという制御方法 を追加で採用することにより,顧客が注文した商品の価格等を把握するに至ってい るものである。
(ウ) したがって,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する\n構成において,Web−POSサーバ・システムがCookie情報等は取得する\nものの,注文された商品に係る商品基礎情報を取得しないという本件ECサイトに おける構成を採用した場合には,本件発明のように,Web−POSサーバ・シス\nテムは,注文時点における商品ごとの価格などが含まれた基礎情報をリアルタイム に管理することができないというべきである。
エ 小括
よって,本件ECサイトの制御方法,すなわち,オーダ操作が行われた際に,W eb−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される 情報に,注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに,Cookie情報等を含 めるという方法では,本件発明と同一の作用効果を奏することができず,本件発明 の目的を達成することはできない。 したがって,均等の第2要件の充足は,これを認めることができない。
・・・・
前記1(2)ウのとおり,控訴人は,本件発明は,引用文献1に記載された発明に 基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定 により特許を受けることができないとの拒絶理由通知に対して,本件意見書を提 出したものである。 そして,前記1(2)ウ及びエのとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文 献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないとい う点との相違を明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報 等を含んだ商品ごとの情報である旨繰り返し説明したものである。 そうすると,控訴人は,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関\nする具体的な構成において,Web−POSサーバ・システムが取得する情報に,\n商品基礎情報を含めない構成については,本件発明の技術的範囲に属しないことを\n承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価す ることができる。 そして,本件ECサイトの制御方法において,管理運営システムにあるサーバが 取得する情報には商品基礎情報は含まれていないから,同制御方法は,本件発明の 特許出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものということが できる。 したがって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
ウ 控訴人の主張について
これに対し,控訴人は,本件意見書において,POS管理を実現できる複数の構\n成の中から意識的にある構成を選択したり,ある構\成を排除したりしたものではな いと主張する。しかし,上記のとおり,控訴人は,本件意見書において,引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を 明らかにするために,本件発明の「注文情報」は,商品識別情報等を含んだ商品ご との情報である旨繰り返し説明していたものである。そうすると,控訴人は,本件 意見書において,本件発明のうち,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御\n過程に関する具体的な構成については,Web−POSサーバ・システムが取得す\nる情報には必ず商品基礎情報を含めるという構成を,意識的に選択したことは明ら\nかであるといえ,控訴人の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第34145号

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平成28(ネ)10007  特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 第1,第5要件を充足しないとして均等侵害が否定されました。
 前記イのとおり,控訴人は,本件特許の出願時,座席を連続して揺動させること が可能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するもの について,旧請求項1においては,座席支持機構を特段限定せず,旧請求項2にお\nいては,座席支持機構をロッド2点支持方式に限定し,旧請求項3においては,座\n席支持機構を,座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能\な スライド手段を設けたことを特徴とする」ものに限定していたものである。そして, 控訴人は,本件補正により,旧請求項1を,本件特許の特許請求の範囲から削除し, その範囲を旧請求項2及び旧請求項3に限定したものである。 このように,控訴人は,本件補正において,座席を連続して揺動させることが可 能な乳幼児用の椅子等であって,揺動制御手段としてソ\レノイドを有するものにつ いて,拒絶理由通知に対応して,座席支持機構を特段限定していない旧請求項1を\n削除し,座席支持機構にロッド2点支持方式を採用する旧請求項2(本件発明)及\nび座席とベースとの間に,ベースに対して座席が「水平往復動可能なスライド手段\nを設けたことを特徴とする」方式を採用する旧請求項3に限定したものである。そ して,本件発明の出願時には既に,座席を連続して揺動させることが可能な乳幼児\n用の椅子等の座席支持機構として,コロと湾曲レールを利用した方式が存在するこ\nとは周知であり(乙3〜5),コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機 構は,上記のとおり削除された旧請求項1に係る座席支持機構\の範囲内に客観的に 含まれるものである。 したがって,控訴人は,コロと湾曲レールを利用する方式に係る座席支持機構に\nついても,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそ のように解されるような行動をとったものと評価することができる。 よって,均等の第5要件の充足は,これを認めることができない。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,本件特許の出願当時,動力機構としてソ\レノイドを用い,座席支持機 構としてコロと湾曲レールを利用するという各構\成を組み合わせた乳幼児用の椅子 等は存在せず,また,動力機構としてソ\レノイドを用いることから生じる課題も公 知ではなかったから,本件特許の特許請求の範囲に,座席支持機構としてコロと湾\n曲レールを利用する方式も含めることは容易ではなく,さらに,拒絶理由を回避す るために,座席支持機構についてロッドを利用した方式に限定したものでもないと\n主張する。 しかし,控訴人が,本件補正において,ロッド2点支持方式等を除く方式に係る 座席支持機構を包括的に削除したとの事実の評価は,客観的に判断されるべきもの\nである。 そうすると,このような控訴人の本件補正時における具体的な認識や本件補正の 目的は,均等の第5要件の充足に関する結論を左右するものではない。
(4) まとめ
よって,均等のその余の要件の成否について検討するまでもなく,各被告製品は, 均等の第1要件及び第5要件を充足しないから,各被告製品が本件発明と均等なも のとしてその技術的範囲に属するということはできない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第25196号

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平成28(ネ)10026  売掛金請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年6月23日  知的財産高等裁判所  水戸地方裁判所  龍ケ崎支部

 1審(水戸地裁)では、著作権侵害なしと判断されましたが、知財高裁は、本件電子データの作成および掲載が、複製権および公衆送信権侵害と認定しました。 原審の判決(平成27年(ワ)第24号)はアップされていません。
 被控訴人は,仮に被控訴人の行為が著作権侵害に当たるとしても,被控訴 人は,本件ホームページ掲載行為は何ら制限されていなかったと認識してお り,したがって,被控訴人に故意過失は認められない,また,フリーペーパ ーという本件冊子の性格や,編集者としての被控訴人の立場,被控訴人は, 控訴人自身がプレスリリースした本件冊子と全く同一のものを電子データ化 して本件ホームページに掲載したにすぎないこと,被控訴人は,平成26年 11月に控訴人から著作権料を請求されるや,僅か1週間足らずの同月7日 に本件ホームページから本件電子データを削除していること等の事情からす れば,侵害の程度は著しく小さく,被控訴人の行為に違法性はないと主張す る。 しかし,被控訴人は,本件各写真が控訴人の著作物であることを知りつつ, これを掲載した本件冊子を,その許諾の範囲を超えて,電子データ化した上, インターネット上の本件ホームページに掲載したのであるから,控訴人が有 する本件各写真の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害することについて, 少なくとも過失が認められる。 また,本件における被侵害利益(控訴人が有する本件各写真の著作権)や 侵害行為の態様(電子データ化して3か月弱インターネット上の本件ホーム ページに掲載した)を考慮すれば,被控訴人が指摘する点を踏まえたとして も,違法性がないとはいえないことは明らかである。 以上によれば,本件ホームページ掲載行為による著作権侵害について被控 訴人の過失及び行為の違法性が認められるというべきであり,これに反する 被控訴人の主張は理由がない。

◆判決本文

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平成26(ワ)8905  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月15日  東京地方裁判所

 損害賠償が認められましたが、特許権侵害による損害額のうち、ほとんどは弁護士費用です。
 ア(ア) 原告は,特許法102条2項の適用を主張するところ,前記前提事実及び 弁論の全趣旨によれば,原告は,被告LEDと競合するLEDを販売等していると 認められるから,原告には,被告らによる本件特許権1の侵害行為がなかったなら ば利益が得られたであろう事情が認められるといえ,同条項の適用が認められるべ きである(知財高裁平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判 決・判時2179号36頁)。この点について,被告らは,被告LEDが譲渡等さ れなければ,原告の製品が販売されていたであろうとの条件関係が存在しないから, 原告には逸失利益の損害は生じていないと主張するが,上記のとおり原告が被告L EDの競合品を販売等していることからして,なお原告に逸失利益の損害が生じた と認定するに差し支えないというべきである。 (イ) 本件特許権1の侵害により被告らがそれぞれ得た利益の額について,被告E &Eが10万5000円の利益を得たことについては,原告と同被告との間で争い がない。また,被告立花が被告LEDの販売により得る利益が,売上高の10パー セントであることは,原告と同被告との間で争いがないところ,被告立花は,イガ ラシに対して被告LEDを2万円で販売し,それ以上に被告LEDの販売等により 売上をあげた事実は認められないから,被告立花が得た利益の額は,2000円と 認めるのが相当である(なお,被告立花は,上記売上代金を全てイガラシに返金し ているとの事情を主張するが,同事実によっても,一度発生した損害が発生しなか ったことになるわけではないし,これにより原告に生じた損害が填補されたと認め ることもできない。)。したがって,これらの額は,特許法102条2項により, 原告が受けた損害の額と推定される。
(ウ) 被告らは,1)原告が被告LEDについて原告が保有する9件の特許権を侵害 すると主張していること,2)被告LEDは,本件発明1の作用効果を奏しないか, 奏したとしても極めてわずかな効果しか奏しないこと,3)被告LEDは,被告製品 (窒化物半導体素子)にさらなる部材を付加していること,4)有色LED市場にお ける原告のシェアなどからすれば,本件発明1が被告らの得た利益に寄与した割合 は5パーセントを上回ることはなく,推定された損害額のうち95パーセント相当 額について,同推定が覆滅されるべきである旨主張する。 しかしながら,1)について,被告LEDが,原告の他の特許権に係る発明の技術 的範囲に含まれるか,含まれるとして,他の特許権に係る発明が被告LEDの売上 にいかに寄与したかについては,本件証拠によっても,判然としないというほかな い。2)について,被告LEDが本件発明1の作用効果を奏しないか,極めてわずか しか奏しないなどといった事実は認められない。3)については,被告LEDが被告 製品に部材を付加しているとしても,その価値の源泉の大半は被告製品にあるもの と合理的に推認できる。4)については,有色LED市場における原告のシェアを一 般的に示すのみでは,本件において,なお原告の受けた損害の額についての推認を 覆すには十分とはいえない。以上のとおり,損害の額の推定が一部覆滅されるべきであるとする被告らの主張は,採用することができない。
(エ) 以上の検討によれば,被告E&Eによる本件特許権1の侵害行為により原告 が受けた損害(逸失利益)の額は10万5000円と認められ,被告立花による本 件特許権1の侵害行為により原告が受けた損害(逸失利益)の額は2000円と認 められる。

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平成28(行ケ)10045  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟  平成28年6月29日  知的財産高等裁判所

 上方舞の流派である「吉村流」の六世家元が出願した商標「吉村流」が公序良俗に反しないと判断されました。
 被告は,Aが,その設立時社員となって,平成26年7月8日に設立された 一般社団法人であるが,前記1認定のとおり,1)その目的を「法人設立以前の上方 舞吉村流六世家元B(本名A)が,吉村流四世家元F及び吉村流五世家元Gから承 継してきた本邦固有の古典舞踊である,上方舞・地唄舞の技芸と振付を,京都御所 の舞指南・御狂言師たる吉村流の格式と伝統を保持しつつ,これを普及・発展させ, さらに後世に承継させ,以てわが国の文化芸術の振興に寄与すること」とし,上方 舞の実技・理論の教授及び後継者の育成,上方舞の舞踊公演会及び講習会の企画・ 開催等の事業を行うものであり,2)その会員は,師範名取,名取,弟子で構成され\nるが,従前の団体「吉村流」の会員であった者については,被告に会費を納入した 場合,当然に被告の会員とみなされ,従前の名取,師範名取の資格を有するものと され,3)その理事長を吉村流六世家元B(A)が務め,理事長(家元)は,被告を 代表し,吉村流家元としてその業務を執行し,名取試験,師範名取試験を実施し,\n理事会の承認を得て各免状を交付し,名取式,事始め等の吉村流の伝統儀礼を催行 し,各家元の年忌法要及び追善舞踊会等を主催するものとされている。また,実際 にも,前記1認定のとおり,被告の設立以前から「吉村流」の師範名取又は名取で あった者のうち多数の者は,被告に会費を納め,被告の会員として活動しており, 従前の団体「吉村流」において,家元が主体となって行っていた,個々の師範名取 や名取の活動を超えた団体としての主要な活動,すなわち,師範名取や名取の免状 の作成,交付,「上方舞吉村会」や歴代家元の追善公演等の主催などの活動は,被 告が行っている。
イ 前記1認定のとおり,本件商標の商標登録出願時において,「吉村流」は,上 方舞の流派である「吉村流」の舞踏の習得,教授等を行う者を構成員とする団体\n(団体「吉村流」)の名称(略称)又はその役務を表示するものとして,日本舞踊に\n係る需要者の間に広く認識されていたものであるが,前記アの事情に照らせば,被 告は,実質的には,従前の団体「吉村流」を法人化したものであるということがで きるから,被告が本来本件商標の商標登録を受けるべき者でないということはでき ない。 さらに,前記1認定の事実によれば,被告が設立された経緯も,団体「吉村流」 と家元個人との会計とを分別して会計の明朗化を図る必要性を契機とするものであ り,法人化に際し定められた定款(甲16)において,組織運営の明確化が図られ ているのであるから,本件商標の商標登録出願が不正の目的の下に行われたもので あるということもできない。
(4) 小括
以上によれば,本件商標の商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くもの があるとはいえず,また,本件商標について商標登録を認めることが商標法の予定\nする秩序に反するものであるともいえない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。

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平成28(ネ)10019  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年6月29日  知的財産高等裁判所  知的財産高等裁判所

「怪獣ウルトラ図鑑 [復刻版]」のイラストについて、使用許諾があったと判断しました。
 控訴人は,原書籍の存在すら知らず,被控訴人の担当者から本件書籍の内容の提 示も受けていないから,原書籍に掲載され,本件書籍での使用許諾を求められてい るのが本件イラストであるとは知らなかった,むしろ,本件書籍での使用について 許諾を求められているイラストは,本件イラストのような「特集ページ」に掲載さ れたものではなく,「記事ページ」に掲載されたものであると理解していたなどと して,控訴人と被控訴人との間では,前提とする許諾の目的物が異なっていたから, 意思の合致はなく,控訴人と被控訴人との間で本件イラストの使用につき許諾が成 立することはない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,被控訴人が,本件書籍が秋田書店が発行した「怪獣ウ ルトラ図鑑」の復刻版であることを明示した上で,控訴人に対し,原書籍に収録さ れたイラストの本件書籍における再使用についての許諾を求めたのに対し,控訴人 が,原書籍に収録されたイラストの内容,あるいは本件書籍に収録される予定のイ\nラストの内容について何らの質問も確認もすることなく,被控訴人に対し,本件書 籍におけるイラスト使用許諾料の振込口座を指定し,その支払を受けたことからす れば,控訴人は,原書籍に収録された控訴人作成に係るイラストについて使用を許 諾したものと認められるから,被控訴人と控訴人との間において,許諾の対象が一 致していなかったということはできない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第34145号

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平成28(行ケ)10003  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年6月23日  知的財産高等裁判所

 「ももいちご」が周知商標であるとして異議申し立てがなされました。知財高裁は、周知商標であるとした審決を維持しました。
 申立人ら商品1は,本件商標の登録出願日である平成21年11月24日の時点において,販売開始から約15年が経過し,毎年の出荷量も数十\トン程度とほぼ安定した状況にあり,また,この間,関西地域において,テレビCMが7年間にわたって放送されたほか,ラジオCM等の各種宣伝広告も多数行われ,更には,申立人ら商品1の粒の大きさや甘さ,特定の地域でしか生産されない希少性,一粒1000円にもなる高価さなど\nが話題となり,テレビ番組,雑誌,新聞,インターネット上の情報記事等で 繰り返し紹介され,これらの宣伝や紹介の際には,常に引用商標1が使用さ れてきたことが認められる。 これらの事実を総合すると,引用商標1は,本件商標の登録出願日当時に おいて,これがいちごに使用された場合,申立人らが生産,販売する申\立人 ら商品1を表示するものとして,少なくとも関西地域及び徳島県における取\n引者,需要者の間において広く認識されていたものと認めることができる。 ・・・ JA徳島市らによるテレビCMやラジオCM等の宣伝・広告は行われていな いものの,平成25年初めころまでは,新聞記事等で引用商標1とともに紹 介されている事実が認められるほか,申立人ら商品2を紹介するテレビ番組,\n新聞記事等において,申立人ら商品2の前身となるブランドのいちごとして,\n引用商標1とともにたびたび紹介されている事実が認められるのであり,こ れらを総合すれば,引用商標1の周知性は,本件商標の登録査定時である平 成25年10月9日当時においても,なお維持されていたものと認めること ができる。 ・・・ 原告らは,申立人ら商品1が「あまおう」などの他の高級いちご\nと比べて,出荷量が圧倒的に少ない事実を指摘する。 しかし,申立人ら商品1は,そもそも徳島県佐那河内村の特定の農家の\nみが生産するいちごであるから,「あまおう」などの一般的な品種のいち ごに比べて,その生産・出荷量が圧倒的に少ないことは当然である。そし て,申立人ら商品1は,上記のような希少性が一つの理由となって話題を\nインターネット上の 情報記事等で繰り返し紹介されてきたものであり,その結果,引用商標1 が周知性を獲得するに至ったのであるから,申立人ら商品1の出荷量が他\nの高級いちごに比べて少ない点は,引用商標1の周知性を否定する事情と なるものではない。 また,申立人ら商品1の平成15年から平成25年3月までの年度ごと\nの出荷量の推移は,・・年まで約69トンから約95トンの間で推移した後,平成21年には約55トン,平成22年には約47トンと徐々に減少傾向が見られるようにな っている。しかし,申立人ら商品1は,本件商標の登録査定時(平成25\n年10月9日)の直近である平成24年12月から平成25年3月までの 出荷シーズンにおいても,約38トンの出荷量を確保しているのであるか ら,本件商標の登録査定時までに申立人ら商品1の流通量が著しく減少し\nたとまではいえず,この程度の減少傾向の存在が,引用商標1の周知性の 喪失に直ちに結びつくものとはいえない。

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平成27(行ケ)10202  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年6月21日  知的財産高等裁判所

 変わった事件です。不使用取消審判が当事者適格の欠如として取り消されました。出願人と原簿の登録名義人が異なるというものです。
 前記第2「前提事実」1記載のとおり,本件商標は,昭和38年5月 24日に登録出願,昭和39年8月18日に設定登録されたものであるが,商 標公報(甲40)によれば,その出願人は「株式会社伊勢半 東京都千代田区 <以下略> 代表者 A」であることが認められる。他方,商標登録原簿(甲 41)によれば,現在,本件商標につき「東京都千代田区<以下略> 株式会 社伊勢半」を商標権者として登録がされているところ,その登録年月日は「昭 和39年8月18日」とされていることが認められる。 これらの事情を総合的に考慮すると,本件商標の商標権者は訴外会社であっ て,原告ではないと見るほかない。そうである以上,本件審判請求は,正しく は商標権者である訴外会社を被請求人としなければならないところ,原告を被 請求人としてされた不適法なものであり,かつ,その補正をすることはできな いことから,これを却下すべきであったにもかかわらず,本件審決がこれをし なかったことは違法であり,取り消すのが相当である。 これに対し,被告はるる主張するが,本件商標の設定登録が行われた昭和3 9年8月18日時点においては,原告は未だ設立されていなかったのであるか ら,原告が,本件商標の商標権者として登録されたということはあり得ない事 柄であるといわざるを得ない。なお,冒頭で認定した各事実に証拠(乙1ない し4)を併せると,昭和49年に本件商標の存続期間の更新登録がされた際, 誤って訴外会社ではなく原告が更新登録申請手続を行い,その当時,原告の商\n号が「株式会社伊勢半」,所在地が「東京都千代田区<以下略>」であって, 当初登録当時の訴外会社の商号,所在地と同様であったところから,特許庁長 官も,申請者が訴外会社とは異なることを看過して更新登録をしてしまった可\n能性はあり得るものと認められる(そのように考えれば,被告が主張する識別\n番号の点も,理解できることになる。)。しかし,商標権は,いったん設定登 録がされた後は,その存続期間が更新されていくだけであって,更新の際に, 新たな権利が設定・登録されるものではないから(商標法19条,20条参 照),更新手続が上記のように誤って行われたとしても,本件商標に係る商標 権者は,依然として訴外会社であったと解すべきものである。したがって,被 告の上記主張を採用することはできない。

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平成27(行ケ)10126  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年6月9日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 次に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,実施例2 に関して,「本例は,図4に示すごとく,アルミナシート3の両表\n面に,アルミナシート3よりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ 材料からなる一対の表面アルミナ層35を積層して,固体電解質シ\nート2を形成した例である。…開口用貫通穴351は,ジルコニア 充填部4(充填用貫通穴31)よりも小さく,ジルコニア充填部4 における電極5よりも大きな形状に形成してある。」との記載があ り,図4のガスセンサ素子の断面図では,表面アルミナ層の開口用\n貫通穴351の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態 様が示されていることが認められる。 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1 について,表面アルミナ層の開口用貫通穴が電極の側面が露出する\n程度に電極よりも大きな形状であることを要する旨の記載はなく,また前記1(2)オで述べた本件発明1が奏する作用効果(ガスセン サ素子の早期活性化と共に,強度向上を図ることができること及び ジルコニア充填部が充填用貫通穴内から抜け出してしまうことを防 止すること)との関係からみても,電極の側面が露出する態様のも のに限定されるべき理由はない。 他方,図4に示されたガスセンサ素子は,実施例の一態様を示す ものにすぎないから,当該図面に表面アルミナ層の開口用貫通穴3\n51の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態様が示さ れているからといって,直ちに本件発明1の構成が当該態様のもの\nに限定されると解すべきものとはいえない。 (C) さらに,本件審決は,「ガスセンサ素子において,電極はできる 限り広い面積で測定ガスに接することが好ましいことが技術常識で あること」を前記解釈の根拠とする。 しかしながら,上記のような技術常識があるからといって,本件 発明1のガスセンサ素子における電極が,常にその上面のみならず 側面まで露出するものであることを要するとの解釈が直ちに導き出 されることにはならない。
(d)以上によれば,本件発明1の表面アルミナ層に設けられた開口用\n貫通穴は「上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成に\nついて,電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大 きな形状に形成してあることを意味するとした本件審決の解釈は, 根拠を欠くものであって誤りであり,これを前提とする本件審決の 前記判断も誤りというべきである。
b 上記aで検討したところによれば,本件発明1における「該開口用 貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成には,\n電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大きな形状に 形成してあるもののみならず、前記a(a)で述べたとおり、表面アルミ\nナ層の開口用貫通穴の側面とその内側に配置される電極の側面が隙間 なく接しているものも含まれると解すべきである。 してみると,本件アルミナ接着剤層が第1電極404及び第2電極 406の側面に接して形成される態様は,相違点に係る本件発明1の 構成のうち,「該開口用貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成\nしてあ」るとの構成を満たすものといえる。\nウ 以上のア及びイによれば,甲2発明(1)に甲3技術を適用することは当業者が容易に想到し得たことであり,かつ,その結果得られるガスセンサ 素子は,相違点に係る本件発明1の構成をすべて備えるものといえるから,\n成とすることは,本件出願当時の当業者において容易に想到し得たものと 認められる。

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平成26(ワ)10534  契約金返還等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年5月27日  東京地方裁判所

 差止および損害賠償請求を有しないことの確認訴訟について、訴えの利益なしと判断されました。その他の不当利得返還請求の棄却されました。
1 争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競 争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7 号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することにつ いて,確認の利益が認められるか)について 原告サーナアルファは,同原告によるVRC法の実施は,被告が同原告に提供し た不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たらな いとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告が同原告に対して同法3条 1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確 認を求めている。 一般に,確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の 有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対 し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ適切な場合に限り,許される と解すべきである。 証拠(甲12,33)によれば,被告は,原告サーナアルファに対し,弁護士を 通じ,内容証明郵便により,平成25年7月19日付け本件警告状及び同年8月2 9日付け通告書(以下「本件通告書」という。)を送付し,被告の「知的財産権 等に対する一切の侵害行為及び妨害行為を停止」するよう求めたことが認められる。 しかし,上記証拠によれば,本件警告状及び本件通告書には,被告が原告サーナ アルファに提供したとされる営業秘密に関する記載は何ら存在せず,同原告による VRC法の実施が不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正 開示に当たる旨の記載も存在しないのであって,被告が,本件警告状又は本件通告 書により,同原告に同法2条1項7号及び3条1項に基づく差止請求権や同法2条 1項7号及び4条に基づく損害賠償請求権を主張したとみることは,困難であり, ほかに,被告が,同原告に対して,同法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差 止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を主張する おそれが,現に存在していると認めるべき事情は見当たらない。 そうすると,現に,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し, これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ 適切であるということはできないから,確認の利益は,これを肯定することができ ない。 したがって,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1 項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求 権を有しないことの確認請求に係る同原告の訴えは,不適法である。

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平成26(ワ)28449  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年5月26日  東京地方裁判所

 102条3項に基づく損害額の算定で、売り上げの5%が認められました。
 原告は平成25年4月5日〜平成27年10月末日の被告製品の売上高4 億4967万3858円に実施料率5%を乗じた2248万3692円が 本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張する ところ,売上高は被告の自認する2億8279万4711円の限度で認め られ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。 次に,実施料率についてみるに,前記前提事実に加え,証拠(甲2,23, 24,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,1)本件発明は被告製品の構成\nの中核部分に用いられており,本件発明の技術的範囲に属する部分を取り 除くと被告製品はアンテナとして体をなさないこと,2) 本件発明は高さ約 70mm以下という限られた空間しか有しないアンテナケースに組み込ん でも良好な電気的特性を得ることのできるアンテナ装置の提供を目的とす るところ,被告製品はこれと同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優\nれたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調してい ること,3) 本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のラ イセンス契約における実施料率については平均3.3〜3.5%ないし2. 9%とする調査結果が公表されていること,以上の事実が認められる。こ\nれらの事実を総合すると,本件において特許法102条3項に基づく損害 額算定に当たっては被告製品の売上額の5%をもって原告の損害とするの が相当である。 したがって,原告の損害額は1413万9735円となる。

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平成25(ワ)33070  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年5月26日  東京地方裁判所

 102条2項に基づく損害額について、滅失する割合が75%、95%と認定されました。
 本件の各発明が被告の上記利益に寄与した割合について,本件発明1に つき被告は2.5%,原告は50%であると,同2−1及び2−2につき 被告はロ号物件につき0.3%,ニ号物件につき0.9%,へ号物件につ き0.2%,原告は30%であるとし,その余の部分につき特許法102 条2項の推定が覆滅する旨主張する。 そこで判断するに,本件明細書1(甲2)によれば本件発明1は農産物 の選別装置に関するものであって主としてリターンコンベアを設けること 及びその終端を工夫したことに,同2(甲4)によれば本件発明2−1及 び2−2は内部品質検査装置に係るものであって主として複数の光源を設 け,遮光手段を工夫したことに,それぞれ技術的意義があるものと認めら れる。その一方で,前記1(1)のとおりロ号〜ホ号物件はプールコンベアに 設定される仕分区分が集積状態によって適宜変動する構成を採用しており,\nその結果,そうでない構成と比べてオーバーフローする青果物入り受皿の\n数が減少するものと認められ,その限度において本件発明1が被告の上記 利益に寄与した割合が減少すると考えられる。 また,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)ロ号〜へ号物件は,選 別設備及び内部品質検査装置のほかに荷受設備(ニ号物件を除く。),箱詰 設備,封函・製品搬送設備,製函・空箱搬送設備その他の設備から構成さ\nれるものであり,上記イの利益にこれらの製造及び施工に係る利益が含ま れていること(乙38〜41),2)ロ号〜へ号物件の各設置場所に関する 入札条件(甲14〜18)上,少なくともリターンコンベアの戻し位置を 本件発明1所定の位置にすること及び内部品質検査装置において本件発明 2−1及び2−2所定の複数の発光光源を設けることは必須の要件とされ ていなかったこと,以上の事実が認められる。 上記の技術的意義及び事実関係によれば,上記利益額の一部については 特許権侵害による原告の損害額であるとの推定を覆滅する事情があると認 められ,その割合は本件発明1につき75%,同2−1及び2−2につき 95%と認めるのが相当である。

◆判決本文

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平成27(ワ)21850  楽曲演奏禁止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年5月19日  東京地方裁判所

 音楽著作物について、翻案ではないと判断されました。
 上記事実関係によれば,原告楽曲と被告楽曲の旋律(上記(2)ウ)は,旋律 の上昇及び下降など多くの部分が相違しており,一部に共通する箇所がある ものの相違部分に比べればわずかなものであって,被告楽曲において原告楽 曲の表現上の特徴を直接感得することができるとは認め難い。また,両楽曲\nは,全体の構成(同ア),歌詞の各音に対応する音符の長さ(同イ)及びテ\nンポ(同エ)がほぼ同一であり,沖縄民謡風のフレーズを含む点で共通する が,これらは募集条件により歌詞,曲調,長さ,使用目的等が指定されてお り(同オ),作曲に当たってこれに従ったことによるものと認められるから, こうした部分の同一性ないし類似性から被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案 に当たると評価することはできない。 これに対し,原告は前記のとおり原告楽曲と被告楽曲は実質的に同一の楽 曲である旨るる主張するが,以上説示したところに照らし,いずれも採用す ることができない。 (4)さらに,念のため,依拠性について検討すると,原告は,1)実質的に同一 の楽曲を依拠することなく作曲することは不可能であること,2)被告Yに短 期間で被告楽曲を独自に作曲する経験及び能力があるとは考えられないこと,\n3)電子メールの送信日時には改ざんの可能性があることから,被告Zを担当\n者とする被告SMEが被告Yと意思を通じ,原告楽曲に依拠して被告楽曲を 作曲したと主張する。 そこで判断するに,上記(3)のとおり両楽曲が実質的に同一であるとはいえ ないから,原告の上記1)の主張は前提を欠く。また,上記2)の主張を基礎付 けるに足りる証拠はない。さらに,上記3)の主張については,証拠(乙1及 び2の各1,乙20)及び弁論の全趣旨によれば,原告及び被告Yがそれぞ れ被告Zに対し楽曲の完成及びこれが収められたファイルの保存先を電子メ ールにより伝えたのが,被告Yにおいては平成25年1月18日午前11時 10分,原告においては同日午前11時32分であると認められる一方,電 子メールの送信日時については,一般的ないし抽象的な改ざんの可能性があ\nるとしても,本件の関係各証拠上,被告らによる改ざんがあったことは何ら うかがわれない。 (5) 以上によれば,被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案に当たるとはいえない から,原告の著作権が侵害されたとは認められず,これを前提とする著作者 人格権の侵害も認められない。したがって,その余の点について判断するま でもなく,原告の請求は全て理由がない。

◆判決本文

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平成27(ワ)8704    特許権  民事訴訟 平成28年5月12日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。
「電子ショッピングシステム」の意義についても,本件明細書中に明確な定 義はないが,「ショッピング」が一般的な意味において売買を指すことは明らかで あるし,加えて構成要件Fからすると,この電子ショッピングには,少なくとも「注\n文」と「受注」が起きることが必要であるし,また本件明細書の【0001】には, 【発明の属する技術分野】として「本発明は,例えばレコードショップ等が加盟す るフランチャイズ制の電子ショッピングシステムに関し,インターネットを利用し た電子商取引の技術分野に関する。」とあり,さらに【発明の効果】を記載した【0 042】に「受注データにしたがって当該会員に商品を引き渡すと共に代金を受領 することにより,自らホームページを所持しなくても,インターネットを利用した 商取引が可能となる。」とあることから,ここにいう「電子ショッピングシステム」\nとは,インターネットを利用してされる有償の商品の取引を指すものと解するのが 相当であり,その取引においては,「注文」と「受注」,すなわち売買契約締結に 向けて顧客からの具体的法律行為がなされ得ることが必要であると解される。 これに対し,原告は,電子ショッピングシステムの定義について,商品の広告, 受発注,設計,開発,決済などのあらゆる経済活動と捉えるもので,商品の宣伝で あってもこれに含まれる旨主張するところ,確かに,本件明細書には,「電子ショ ッピングシステム」でなす経済活動について,「電子商取引」(【0001】,【0 005】,【0038】,【0043】),「商取引」(【0013】,【004 2】)などとする記載があり,さらに証拠(甲19ないし21)によれば,「電子 商取引」の定義については上記原告主張に一部沿うものが認められる。 しかし,「宣伝」に触れる記載(甲19)は,取引ではなく,インターネット上 の商行為について触れるものであるし,「広告」を含む通商産業省の定義(甲20) は,その当時の郵政省の定義とは異なることからすると,これは省庁の規制目的で 対象範囲の定義をしていると理解でき,直ちに一般的に通用する定義に結びつくも のとはいえない。 そして,そもそも,ここでは本件発明の構成要件にいう「電子ショッピングシス\nテム」の定義を問題にしているのであるから,上記説示のとおり本件明細書の記載 を考慮して解すべきであって,したがって,「電子ショッピンング」に,少なくと も原告の主張するような宣伝,広告までを含んで解することはできないというべき である。 (イ) これを前提に被告システムにつき検討するに,被告システムは,前記認定の とおり,顧客は各提携企業のホームページにおいて,講演会の講師を選択し,当該 講師の「講演を依頼する」タグを選択することにより現れる問合せ画面に名称,住 所,電話番号等の自らを特定する情報を記載し,さらに講演の希望内容を入力する などして送信すると本部のサーバーがこれを受信し,それに伴って各提携企業サー バーにeメールが送信されることで各提携企業が得る上記情報を基に,顧客を訪問 する,電話ないしメール等で連絡を取り合うなど営業活動をして,顧客の希望に沿 った講演会の内容・レベル・対象・講師・構成などを聴取し,顧客と契約できるよ\nう交渉を行うという方式である。 すなわち,被告システムの役割は,講演開催運営を取り扱う各提携企業に対し, 講演開催希望者がインターネットを使ってアクセスするホームページを設けて,そ の潜在的需要を顕在化させ,もって各提携企業が営業活動をすべき講演開催希望者 の情報を得ることができるというところまでであり,その後の講演開催実現に至る までの営業活動は,インターネット外,すなわち被告システム外の接触交渉が予定\nされているというものである。また,その機会における顧客が被告システムを利用 して「お問い合わせ(講演依頼)」をする行為は,漠然とした講演開催希望に基づ くものであってもよく,したがって,これにより提携企業との間で講演開催に向け ての交渉が開始されたとしても,それだけでは当事者間に法的な関係が直ちに生じ たとはいえないから,被告システムは,それは最終的に締結されるだろう講演開催 委託契約に向けての各提携企業の営業活動の契機を与えるものにすぎないものとい える。そして,このように見ると,被告システムでされている内容は,潜在的需要 者をインターネットでアクセスさせ,その潜在的な需要を顕在化させ,その情報を もとに実際の営業活動に結びつけるという,一般的な広告宣伝の手法と何ら変わら ないものといい得る。 なお,被告システム利用者の中には,希望講師のみならず講演会開催の日時,場 所とも確定して利用する者が含まれることはあり得るところ,その場合,そのよう な「お問い合わせ(講演依頼)」によるアクセス行為は,商品購入の注文に極めて 似ているといえるが,その場合であっても,被告システムを介して,そのアクセス を受けた各提携企業は,自らが講演する主体ではなく,また掲載講師のスケジュー ルを管理している主体とも認められないから,直ちに承諾,すなわち「受注」する ことができるわけではなく,その後,講師との関係を調整して,具体的講演開催に 向けて交渉を重ねる必要があるはずであって,したがって,利用者の 「お問い合わ せ(講演依頼)」をいかに具体化しても,これを売買契約における「注文」に準じ るものということができるわけではない。 したがって,被告システムは,構成要件Aにいう「電子ショッピングシステム」\nには相当しないというべきである。

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平成27(ネ)10091  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年6月1日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 1審よりも高額の損害賠償が認められました。
(ア) 一審被告は,1)被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず, 正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこ と,2)被告製品は,納品時は正転60秒,逆転60秒にセットされており,この状 態では,ブリッジ現象が生じることが明らかであり,本件特許発明1及び2の作用 効果を奏しないこと,3)被告製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1 種類のパターンでの制御)では,本件特許発明1及び2は,進歩性を欠くこと,4) 被告製品の制御は,本件特許発明の作用効果を考慮したとき,本件特許発明とは全 く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実\n施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば,被告製品における 侵害部分が,購買者の需要を喚起するということはあり得ないから,本件特許発明 1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。
(イ) 1の点について
本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,前記2(3)のとおり, 単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして, 1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と 左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。被告製品 が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても,結局,被 告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方,\n被告製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり,その特徴に購買者の需要喚起力 があるという事情が立証されていない以上,寄与率なる概念によって損害を減額す ることはできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるというこ ともできない。
(ウ) 2)の点について
仮に,被告製品の納品時におけるタイマセットの状態のままでは,本件特許発明 1及び2のブリッジ現象の発生の防止という作用効果を奏しないとしても,被告製 品は,前記2(3)のとおり,定期正転時間,定期逆転時間を,それぞれ,0から30 00秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものである から,結局,被告製品は,本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能\nである。そして,前記(イ)と同様に,寄与率なる概念によって損害を減額すること はできないし,特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもで きない。
(エ) 3)の点について
1種類の正・逆転パターンでの制御であると,本件特許発明1及び2が進歩性を 欠くとの点については,これを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 4)の点について
被告製品の制御が,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相 当するものであることは,前記2(3)のとおりであり,被告製品の制御と本件特許発 明1及び2の制御とが別異のものであるとする一審被告の主張は,その前提を欠く。 ク 小括
以上によれば,特許法102条1項に基づく損害額は,2810万1920円で あると認められる
。 (2) 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
一審原告は,一審被告は被告製品を保守することで,被告製品の譲受人による被 告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから, 譲受人による被告製品の使用につき,その行為の幇助者として共同不法行為責任に 基づき,損害賠償責任を負う旨主張する。 しかし,一審原告の上記主張は,幇助の対象となる使用行為を具体的に特定して 主張するものではないから,失当である上,一審被告が,被告製品について具体的 に保守行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また,被告製品の使用によ り一審原告が被った損害(逸失利益)は,前記(1)の譲渡による損害において評価さ れ尽くしているものといえ,これとは別に,その後被告製品が使用されたことによ り,一審原告に新たな損害が生じたとの事実については,これを具体的に認めるに 足りる証拠はない。さらに,保守行為によって特許製品を新たに作り出すものと認 められる場合や間接侵害の規定(特許法101条)に該当する場合は格別として, そのような場合でない限り,保守行為自体は特許権侵害行為に該当しないのである から,特許権者である一審原告のみが,保守行為を行うことができるという性質の ものではない。 以上によれば,一審原告の上記主張は理由がない。

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◆1審はこちらです。平成24(ワ)6435

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平成27(ワ)10913  債務不履行損害賠償請求  特許権  民事訴訟 平成28年5月23日  大阪地方裁判所

 米国での手続きを適切に行わなかったとして、債務不履行に基づく損害賠償請求がなされました。一度神戸地裁で判決がなされていますが、控訴された、控訴審では、管轄違いとして大阪地裁に差し戻されました。判断としては請求棄却です。
2 被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負うか否か
(1) 前記認定事実等(1)ア(ア)のとおり,米国特許出願手続における補正は,書類 を提出することによって行われるが,審査官補正の場合には,米国特許商標庁(審 査官)が審査官補正書を発行して行われると認められる。そして,前記認定事実等 (1)ア(イ)c及びdのとおり,審査官補正は,出願人が電話又は個人面接にて権限を授 与した場合に許されることから,審査官補正の場合には,出願人が補正の書面を提 出する必要はないと認められ,前記認定事実等(4)のとおり,578出願での審査官 補正でも電話面接による権限授与が行われているにとどまる。そこで,本件で,被 告らが審査官からの連絡に対して補正の書面を提出すべき義務を負うといえるため には,審査官からの連絡が審査官補正の提案でなく,出願人による補正の促しであ ったことが必要となるので,まずこの点を検討する。
ア 前記認定事実等(2)アのとおり,被告P2は,P4に対する電子メールに おいて,審査官からの補正提案を許容する旨を審査官に伝えれば,審査官は審査官 による補正を用意すると連絡しており,これによれば,被告P2は,審査官からの 連絡を審査官補正の提案であると理解したと認められる。そして,同電子メールに 記載された審査官の提案は,クレームを提案のように補正すれば,特許可能である\nという内容を電話で伝えてきたものであるところ,これは,審査官補正が,「出願を 特許として通す場合」(又は「特許申請登録の段階に於いて」),「電話又は個人面接\nにてかかる変更について権限を授与した場合に」許されるものである(前記認定事 実等(1)ア(イ)c)との定めにも適合している。そうすると,本件での審査官の提案は, 審査官補正の提案であったと認めるのが相当である。

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平成27(ワ)37086  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 平成28年5月18日  東京地方裁判所

 膣圧回復治療用具について非類似の意匠と判断されました。
 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通 じて起こさせる美観に基づいて行うものであるところ(意匠法24条2項),この ためには,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規 な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を 通じて注意を惹きやすい部分を把握した上で,登録意匠とそれ以外の意匠とが要部 において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体としての美観を共通に\nするか否かを判断すべきである。 本件意匠に係る物品は,膣圧回復治療用具であって,これを使用する一般消費者 を需要者と観念すべきところ,本件において,同用具の公知意匠に係る証拠は提出 されていないが,膣圧回復治療用具を実際に使用する需要者にとっては,膣内に挿 入する部分は,注意を惹きやすい部分といえる。もっとも,需要者は,現実に同用 具を使用する際にどのように使用することとなるかについても着目すると考えられ るから,本件意匠のうち持ち手部分も,注意を惹く部分であることは否定できない。 したがって,本件意匠について,需要者が視覚を通じて最も注意を惹きやすい部 分は,本体部及び持ち手部分の各具体的構成態様にあるものと認められる。\n
・・・
以上のとおり,本件意匠と被告意匠1とは,需要者が視覚を通じて最も注意を惹 きやすい部分の各具体的構成態様において差異点が認められるところ,本件意匠の\n本体部には突起がないことから,滑らかな印象を与えるのに対し,被告意匠1のA 部は,多数の突起が形成されていることから,ざらざらとした印象を与える。また, 本件意匠の持ち手部にはリングを備えているのに対し,被告意匠1のB部は,底部 にブラシ状に多数の突起が形成されていることから,明らかに異なった印象を与え る。 以上の点を総合すると,前記共通点にかかわらず,本件意匠と被告意匠1とは, 全体として美観を共通にするものとはいえないから,被告意匠1が本件意匠に類似 するものとは認められない。
・・・
以上のとおり,本件意匠と被告意匠2とは,需要者が視覚を通じて最も注意を惹 きやすい部分の各具体的構成態様において差異点が認められるところ,本件意匠の\n本体部は,正面視において略「ハート」状であるのに対し,被告意匠2のC部は, 正面視において略「卵」状であり,その印象を異にする。また,本件意匠の持ち手 部には略楕円状のリングを備えているのに対し,被告意匠2のD部は,底部にブラ シ状に多数の突起が形成されていることから,明らかに異なった印象を与える。 以上の点を総合すると,前記共通点にかかわらず,本件意匠と被告意匠2とは, 全体として美観を共通にするものとはいえないから,被告意匠2が本件意匠に類似 するものとは認められない。

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平成27(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成28年5月18日  知的財産高等裁判所

 ゲーム機について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。また、手続き違背についても、無効審判における審理事項通知書とは異なる認定をする場合に意見申立の機会を与える必要はないと判断されました。
     本件発明1は,前記2(2)のとおり,従来のスロットマシンにおいては,メ モリのデータに異常が生じると,遊技店の従業員等の操作により選択・設定された 設定値ではなく,あらかじめ定められた設定値を自動的に設定し,ゲームの進行が 可能な状態に復帰させているので,本来であれば,遊技店側の操作により選択・設\n定された設定値に基づく当選確率を適用して内部抽選が行われ,入賞の発生が許容 されるべきであるのに,スロットマシンにより自動的に設定された設定値に基づい てゲームが行われることとなるため,ゲームの公平性が損なわれてしまうという問 題があったことから,ゲームの公平性を図ることができるスロットマシンを提供す ることを課題とし,その解決手段として,特許請求の範囲請求項1の構成を採用し,\n特に,不能化解除手段については,第1の不能\化手段によりゲームの進行が不能化\nされた状態においても第2の不能化手段によりゲームの進行が不能\化された状態に おいても,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段により設定値が新たに 設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進\n行を可能とする構\成を採用したものである。
(イ) これに対し,引用発明1は,前記3(2)のとおり,従来のパチンコ機におい て採用されているチェックサムを用いたエラーのチェック方式では,メモリーにバ ックアップ電源を持たないので,チェックサムの内容が電源遮断後,消去されてし まい,スロットマシン固有の設定値に関するエラーのチェックが困難であるという 問題があったことから,設定値を含む遊技データのチェックサムを,バックアップ 電源により保持することにより,電源投入時に,設定値に関するエラーの発生を検 査することができるようにし,エラーを発見した場合には,スロットマシンの遊技 を停止して,段階設定値の設定の待機待ちの状態にすることができるようにすると ともに,段階設定値を手動で変更することができるようにすることを課題とするも のであって,不能化解除手段については,第1の不能\化手段によりゲームの進行が 不能化された状態において,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段によ\nり設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解\n除し,ゲームの進行を可能とするが,そもそも第2の不能\化手段を備えず,第2の 不能化手段を備えないため,第2の不能\化手段によりゲームの進行が不能化された\n状態を解除し,ゲームの進行を可能とする構\成も備えないものである。 そして,引用例1には,ゲームの公平性を図るために,第2の不能化手段及びそ\nのための不能化解除手段を備えること,第2の不能\化手段のための不能化解除手段\nを第1の不能化手段のための不能\化解除手段と共通にすることについては,記載も 示唆もない。 したがって,引用発明1において,第2の不能化手段及びそのための不能\化解除 手段を備え,その上で,更に,第2の不能化手段のための不能\化解除手段を第1の 不能化手段のための不能\化解除手段と共通のものとすることについて動機付けがあ るということはできない。
・・・
イ 審理事項通知書(甲21)によれば,「合議体の暫定的な見解」として, 「引用例1に記載されている,ステップ3のRAMチェックサム検査とステップ4 のチェックサムの一致判定とを実行するチェックサム検査手段と,ステップ5の段 階設定値が正常か否かを判定する段階設定値判定手段とは別の構成であるから,引\n用発明1における,段階設定値が適正か否かの判断を個別に行うものではない「チ ェックサム検査手段」は,引用発明1の「記憶データ判定手段」に相当するもので ある。」旨示していたことが認められる。これに対し,本件審決においては,「電 源投入時における「制御を行うためのデータ」に異常があるか否かの判定とに関す る技術が,技術的に関連の深いまとまりのある技術単位であることを考慮して,本 件発明1と引用発明1とを対比し直した。」として,本件発明1と引用発明1との 相違点として,相違点1を認定した。 しかし,審判における最終的な判断の論理が,審判手続の経過において示された 暫定的な見解と異なるとしても,審判手続において,改めて上記論理を当事者に通 知した上で,これに対する意見を申し立てる機会を当事者に与えなければならない\nものではない。そうすると,かかる機会を与えなかったことを理由として,本件審 判手続に審理不尽の違法があるとまでいうことはできない。

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平成27(行ケ)10246  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟  平成28年5月18日  知的財産高等裁判所

 「Photomaker Pro」と「Photomaker」が類似すると判断された審決が維持されました。
 本願商標の外観は,横一行で,「Photomaker」と「Pro」の各部分 の間に半角分の間隔を空け,「Photomaker」の各文字は灰色の輪郭のみ で,「Pro」の各文字は黒色で書された文字を灰色で縁取りすることで表されて\nいる。また,「P」の文字は,いずれも右部の弧状の部分が直線で示され,「t」の 文字は,通常の書体では左側に突き出る部分が削除され,「m」の文字は,通常の 書体では左上に突き出る部分が削除され,「a」の文字は,通常の書体では右下に 突き出る部分が削除され,上部の弧状の部分も直線で示され,「e」の文字は,そ の書き出し部分を左斜め上方向へ傾斜させ,「r」の文字は,いずれも通常の書体 では左上に突き出る部分が削除されるなどのデフォルメがされている。 そして,本願商標の全体からは「フォトメーカープロ」との呼称が生じる。また, 「Photo」は「写真」を,「maker」は「作る人」を意味し(乙3,4), 上記のとおり「Pro」の部分は,「より熟練者を対象とした」,又は「より高い機 能を備えた」という意味で理解されるのであるから,本願商標の全体からは,「写\n真を作る専門家」という観念を生じる。 また,上記(1)のとおり,本願商標の構成から「Photomaker」の部分\nを抽出して対比することも許されるところ,同部分からは「フォトメーカー」との 称呼を生じる。そして,同部分からは「写真を作る人」という観念を生じる。 したがって,本願商標は,その全体から「フォトメーカープロ」,「写真を作る専 門家」との称呼,観念を生じるほか,「Photomaker」の部分から「フォ トメーカー」,「写真を作る人」との称呼,観念を生じる。

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平成27(ワ)13760  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年4月21日  東京地方裁判所

 配信サイトに違法アップロードした場合のストリーミングは複製には該当しないとして114条1項の損害額は否定されました。
 原告は,1)ストリーミングの再生回数が受信複製物の数量に当たること,2)本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数はダウンロードの回数と同視できることなどからすれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数が著作権法114条1項にいう受信複製物の数量となる旨主張する。 (2) そこで判断するに,受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送 信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複 製物をいうところ(同項),本件においてはダウンロードを伴わないストリ ーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物1又は2のデータを受信し た者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないと\nいうのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが 相当である。 また,前記前提事実(2)のとおり,本件動画サイトは動画をストリーミン グ配信するウェブサイトであるところ,証拠(甲19,20)及び弁論の全 趣旨によれば,本件動画サイトにアップロードされた動画をダウンロードす ることは不可能ではないが,そのためには特殊なソ\フトウェアを利用するな どの特別の手段を用いる必要があることが認められる。 以上によれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミ ングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるということはでき ないし,これをダウンロードの回数と同視することもできない。
・・・・・
本件著作物1は,平成25年10月5日に本件動画サイトに有料動画と してアップロードされ,同月6日時点における「再生数」は1万3292 回と表示されていた。本件著作物2は,同月4日に本件動画サイトに有料\n動画としてアップロードされ,同年11月29日時点における「再生数」 は2万4539回と表示されていた。\n本件動画サイトの会員でない者が有料動画を視聴しようとするとサンプ ル動画が数秒間再生されるところ,上記の「再生数」にはこのサンプル動 画の再生数も含まれる。本件著作物1及び2に係る「再生数」の内訳は不 明である。 被告がアップロードした本件著作物1及び2のデータは,平成26年3 月頃までに本件動画サイトから削除された。(甲4,5,乙3,8,12) イ 本件著作物1は,動画配信サイト「DMM.com」にて有料でインタ ーネット配信されており,その価格は,平成25年10月5日時点におい て,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2480円, ダウンロードとストリーミングのセットが1980円,HD版ストリーミ ング(7日間)が390円であった。また,本件著作物2も同様に配信さ れており,その価格は,同年11月29日時点において,HD版ダウンロ ードとHD版ストリーミングのセットが2980円,ダウンロードとスト リーミングのセットが2480円,DVDトースターが2800円であっ た。 インターネット配信の上記各価格は,配信時期やキャンペーンの実施等 によって変動し,本件著作物1に係る平成28年1月15日時点のHD版 ストリーミング(7日間)が273円,本件著作物2に係る平成27年9 月28日時点のHD版ストリーミング(同)が300円となっていた。 (甲2,3,13,乙2,15) ウ 原告(変更前の商号は株式会社北都)は,取引先との間で,コンテンツ 提供基本契約を締結し,取引先に対して原告の映像等のコンテンツの配信 を許諾しているところ,ある取引先との契約では,原告がその対価として ●(省略)●を受け取ることが定められている。 (甲17,25)
(2) 原告は,1)本件著作物1及び2が本件動画サイトにおいて上記「再生数」 に記載の回数配信され,2)これらが正規に配信された場合の価格はそれぞれ 372円,2362円であり,3)この場合原告は●(省略)●を受領できた として,著作権法114条3項に基づく損害賠償を請求する。しかし,上記 の事実関係によれば,1)上記「再生数」の正確性を裏付ける証拠が何ら提出 されていない上,全体の再生回数のうち有料のストリーミング配信の回数は, 事柄の性質上,無料のサンプル動画の再生回数より大幅に少ないと考えられ る。また,2)本件著作物1及び2のストリーミング配信の正規の価格は時期 等によって変動するがおおむね1本当たり270〜390円程度であり,さ らに,3)原告は自らが使用許諾をした場合の対価につき契約条項の大半を抹 消した契約書の写し(甲17)を提出するのみであり,現実にいかなる収入 を得ていたかは明らかでない。本件におけるこれらの事情を総合すれば,被 告による本件著作物1及び2の公衆送信権の侵害に対して原告が著作権の行 使につき受けるべき金銭の額は,それぞれ50万円とするのが相当である。

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平成27(行ケ)10224  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月27日  知的財産高等裁判所

 「MAGGIE MILANO」が「MAGGIE」と類似するとした審決が維持されました。指定商品は被服です。「MILANO」がファッション業界では著名といえる地名というのが理由のようです。
 本願商標においては,「MAGGIE」と「MILANO」との間に1文字分に満 たないスペースが設けられていることから,「MAGGIE」と「MILANO」と の2つの単語からなるものであると認識し得る。 前半の「MAGGIE」の欧文字部分は,「『マギー』という女性の名又は愛称」 ほどの意味を有するといえる。そして,後半の「MILANO」の欧文字部分は, 「イタリア北部の都市」を指称する語(甲24,乙8)として広く一般に知られて いるものであり,かつ,ミラノにおいては,毎年,世界中から注目されるデザイナ ーズ・コレクションが開かれており(乙9),ファッション性の高いイメージを有す る都市として周知されているから,本願商標を本願指定商品である衣服や靴,洋品 小物などに使用する場合は,それに接する取引者,需要者は,当該「MILANO」 の欧文字を,イタリア国ミラノでデザイン等された商品であることを表す部分,す\nなわち,当該各商品の品質を表示した部分と認識するものとみるのが相当である。\nしたがって,本願商標は,その構成中,後半の「MILANO」の欧文字が,商\n品の品質を表示した部分として,格別の自他商品識別力を有しないのに対し,前半\nの「MAGGIE」の欧文字は,固有の名称であって,出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものであるから,当該欧文字のみを抽出し,他人の商標と比較 して商標としての類否を判断することが許されるというべきである。
イ 称呼について
(ア) 以上のことからすれば,本願商標は,その全体から「マギーミラノ」 の称呼が生じるほか,「マギー」との称呼をも生じるものと認められる。
(イ) これに対して,原告は,本願商標は,「マギー」と「ミラノ」に区切 って発音すると不自然であるから,「マギーミラノ」のみの称呼が生じると主張する。 しかし,本願商標の外観は,「MAGGIE」と「MILANO」との間にスペー スがあることから,2語から構成されるものと看取され,「マギー」と「ミラノ」と\nに区切って発音することに特段の困難も見い出せない。 原告の主張には,理由がない。 ウ 観念について
(ア) 本願商標は,その全体から「イタリアのミラノという都市の『マギー』 という女性の名又は愛称」の観念が生じるほか,上記アのとおり,その構成中「M\nAGGIE」の欧文字が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,「『マ ギー』という女性の名又は愛称」の観念を生じる。
(イ) これに対して,原告は,「ミラノ」は人の姓としても採択されている から,とある外国人の姓名又は愛称としての「マギーミラノ」という観念が生じる こともあり,また,本願商標では,ファッションブランドの一般的な表記とは異な\nり,「MILANO」を発祥地として小さく付記したものではないから,「MILA NO」は商標中の不可分な構成要素であると主張する。しかし,「ミラノ」が人の姓として使用されることがある(甲27,48)としても,これが我が国において,イタリアの都市名としての「ミラノ」を観念する(このことは,原告も認める。)よりも,優先して観念されるとは認められない。また,ファッションブランドがその発祥地を示す場合に,発祥地を小さく付記することがあるとは認められるが(甲41,乙10〜16),当該発祥地を商標中の他の部分と同程度の大きさで表\示することがないとまではいえない(なお,原告主張によれば,本願商標に係るブランドは,もともと,イタリアの「Maggie Jeans」というジーンズブランドであったとされるから,本願商標については,「MILANO」が発祥地を示すことを意図したものであるとも考えられる。)。

◆判決本文

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平成26(ワ)26079  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年4月27日  東京地方裁判所

 特許権侵害ではないと判断されました。原告は日本および中国の大手通信会社を被告として、数件訴訟しています。特許も複数あるようです。
  この点,原告は,情報処理技術分野における用語法などからすれば,「選択」 には全てを選択することが含まれると主張し,ユーザ端末が全部のサブバンドを選 択することもこれに該当する旨主張する。 しかし,仮に,本件各発明に関連する技術分野において「選択」との文言が上記 のように用いられることがあるとしても,加入者が全部のサブバンドの差分CQI を報告する以外の選択肢がなく,常に全部のサブバンドの差分CQIを報告しなけ ればならない状態についてまで,「選択」の語義に含まれると解するのは妥当でな い。前記前提事実に記載のとおり,被告通信システム方法及び被告製品においては, 基地局により本件モードを選択している以上,加入者は,基地局からのパイロット 信号に対し,全てのサブバンドの差分CQIを報告する以外に選択の余地はないの であるから,原告の上記解釈は採用することができない。 また,原告は,本件明細書の段落【0028】,【0040】,【0069】に は,全部のクラスタが選択されることを包含する内容の記載があること,実質的に も,全部のサブバンドを選択してフィードバックした方がかえってフィードバック 情報量を削減できるといえることなども主張するが,原告が掲げた本件明細書の上 記各段落の記載によっても,常に全部のクラスタについての情報を「選択」すると いう実施形態は明示されていない。なお,本件明細書の段落【0028】には, 「フィードバック内の情報の順序を基地局が知っている限り,フィードバック内の どのSINR値がどのクラスタに対応しているかを示すためにクラスタインデクス が必要になることはない。」としか記載されていないから,仮に,この実施形態が 全部のクラスタについての情報をフィードバックする実施形態を含むとしても,こ のようなフィードバックの形態と加入者による「選択」との関係が不明であり,少 なくとも,常に全部のクラスタについての情報を報告する態様を「加入者による選 択」の一形態として含むことについて,本件明細書に明確な記載はないものという べきである。かえって,原告の主張する解釈1を採用すると,本件発明4の課題解 決のための一つの構成として規定された構\成要件4F,あるいは本件発明9の課題 解決のための一つの構成として規定された構\成要件9Eにおける「前記加入者が選 択した・・・クラスタのグループの中の・・・クラスタを・・・割り当てる」との 意義が失われるというべきで,上記の解釈1は妥当でないと言わざるを得ない。

◆判決本文

◆同じ特許での被告が異なる事件でも同様に判断されています。平成26(ワ)24183

◆同じ特許での被告が異なる事件でも同様に判断されています。平成26(ワ)34227

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平成27(ワ)27220  著作権侵害行為差止等請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年4月27日  東京地方裁判所

 幼児用のお箸について、別訴で特許権侵害、意匠権侵害、不競法の商品形態模倣も請求棄却されたあとの、著作権侵害の訴訟です。著作物ではないと判断されました。
 (3) 前記前提事実に証拠(甲6,乙1,4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原 告各製品については,1)幼児が食事をしながら箸の正しい持ち方を簡単に覚えられ ることを目的とした幼児の練習用箸であり,このような用途・機能を有する実用品\nとして量産される工業製品であること,2)一方の箸には,人差し指挿入用のリング 及び中指挿入用のリングが設けられ,他方の箸には,これら2つのリングよりは大 きな,やや縦長楕円形の,親指挿入用のリングが設けられているところ,これら各 リングが配置されている位置及び向きは,リングが上記3指の位置を固定して,正 しい箸の持ち方の手の形になるようにするという目的に適った位置及び向きであり, 人体工学に基づいて設計されたものであること,3)箸本体を上部の円形部材等で連 結させているところ,これは1本1本の箸を固定して箸先の交差を防止するという 機能を果たす目的によるものであることが認められる。これら各点に照らせば,上\n記2)のリングの個数,配置,形状等及び上記3)の連結箸である点は,いずれも上記 1)の幼児の練習用箸としての実用的機能を実現するための形状ないし構\造であるに すぎず,他に,原告各製品の外観のうち,原告が被告各商品と共通し同一性がある と主張する部分を見ても,際立った形態的特徴があるものとはうかがわれない。そ うすると,原告各製品が,上記実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るよう\nな美的特性を備えているということはできない(もとより純粋美術と同視し得る程 度の美的特性を備えているということもできない。)。 なお,原告各製品について原告が保護を求めているところのものは,結局のとこ ろ,前示のとおり意匠法が意匠として保護を予定している量産され工業上利用可能\ な物品の形状等そのものであり,原告製品9と同一の形状とみられる意匠について 現に意匠登録もされている(ただ,被告各商品の販売開始時期に比してその出願・ 登録が遅かったにすぎない。)ものである。 (4) 以上によると,原告各製品は,著作権法2条1項1号所定の著作物には当た らないというべきである。

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平成27(ワ)29222  不正競争行為差止等請求事件  不正競争 民事訴訟 平成28年4月28日  東京地方裁判所

 包装箱の表面及び裏面の記載は、不競法の商品形態模倣(2条1項3号)には該当しないと判断されました。
   「商品の形態」とは需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいうところ(不正競争防止法2条4項),原告商品の包装箱の表面及び裏面の記載のうち被告商品と共通する部分はいずれも原告商品を説明した文章にすぎないから,商品の形状に結合した模様には当たらないというべきである。これらのことからすれば,原告商品の包装箱及び銀包の形状及び寸法,包装箱の表\面及び裏面の記載はいずれも同条1項3号により保護されるべき「商品の形態」に当たらないと解されるから,被告商品が原告商品の「商品の形態を模倣した商品」であると認めることはできない。したがって,不正競争防止法に基づく原告の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

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平成27(ワ)18469  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年4月28日  東京地方裁判所

 ブログの表現が、記事に複製されたと著作権侵害を主張しましたが、著作物性なしと判断されました。元の表\現は、「私はEMの本質的な効果は,B先生が確認した重力波と想定される縦波の波動によるものと考えています。」です。これに対して、「本件記事1 EM菌の効果について,開発者のA・琉球大名誉教授は”重力波と想定される波動によるもの”と主張する。」でした。
 著作権法において保護の対象となるのは思想又は感情を創作的に表現したものであり(同法2条1項1号参照),思想や感情そのものではない。本件において本件原告記載と本件被告記載1及び2が表\現上共通するのは「重力波と想定される」「波動による(もの)」との部分のみであるが,この部分はEMの効果に関する原告の学術的見解を簡潔に示したものであり,原告の思想そのものということができるから,著作権法において保護の対象となる著作物に当たらないと解するのが相当である。

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平成27(行ケ)10179  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月26日  知的財産高等裁判所

 不使用ではないとした審決が維持されました。争点は、使用されていた商標は、登録商標と実質同一の商標か、さらに、使用していた商品が「電子計算機用プログラム」か否かでした。
 そこで,本件使用商標が,本件商標と社会通念上同一の商標ということがで きるかどうか,以下検討する。
(1) 「MFX」の文字部分が本件使用商標の要部に当たるか
ア 本件使用商標は,前記1(3)アのとおりの外観を有し,「MFX」の欧 文字,「−」の記号,「EV」の欧文字,「シリーズ」の片仮名文字が, 順次,横書き一段に記載されてなるものである。 そして,「MFX」の文字部分と「EVシリーズ」の文字部分は,「−」 (ハイフン)によって接続されているのに対し,本件使用商標を構成する\n文字の大きさには特段の差異はなく,また,上記ハイフン部分を除く各文 字の間隔にも特段の差異はないから,上記ハイフンの前にある「MFX」 の文字部分は,上記ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまっ たものとして看取されるというべきである。 これに対し,上記ハイフンの後の「EVシリーズ」の文字部分は,「E V」の文字部分それ自体には,出所識別標識としての特段の称呼や観念を 生ずるものではなく,むしろ,「連続性を持つ一連のもの」との意味を有 する日本語であることを容易に理解することができる「シリーズ」の文字 部分がその後ろに付されていることや,電子応用機械器具の取引分野にお いては,それ自体としては必ずしも固有の意味を生じるものとはいえない 欧文字等の組合せを,商品の種別や型番を表す記号として用いることがあ\nることからすると,取引者,需要者において,「MFX」の語によって表\n象される一連の製品における個々の製品の種別や型番を表す語と理解する\nことができるというべきである。 イ 以上を総合すると,本件使用商標の「MFX」の文字部分は,本件使用 商標のその余の文字部分から分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど不可分的に結合しているものではなく,むしろ,電子応用 機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する製品を表すひと\nまとまりの表示として認識するものと認められ,また,本件使用商標のそ\nの余の文字部分からは,出所識別標識としての称呼や観念は生じないから, 「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るも\nのであると認められる。 したがって,「MFX」の文字部分は,本件使用商標の要部であると認 められ,本件商標は,これと同一の文字からなるものであるから,本件使 用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
・・・・
前記1(3)によれば,被告は,要証期間内に,ワタキューセイモアに対し, 本件使用商標が表示された本件ソ\フトウェアのバージョンアップ版が格納され たCD−ROMを引き渡したことが認められる。 かかる行為をもって,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求の 対象となった指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について使用し たということができるかどうかについて,以下検討する。 (1) 本件集中管理装置と本件ソフトウェアの関係について\nア 前記1(1)アのとおり,本件集中管理装置の取扱説明書には,「装置全 体」の説明として,パソコン本体及びその周辺機器から構\成されるとの記 載があり,被告のウェブサイト(甲3,甲26の1及び2)や本件集中管 理装置のパンフレット(甲9),取扱説明書(甲8,25)には,パソコ\nン本体及びその周辺機器が納められたテーブルの写真や,その見取図が, 本件集中管理装置として掲載されている。 一方,本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近で,「本管理 装置は,Microsoft®社のWindows®上で稼働するシステ ムです。」として,本件集中管理装置の本質が,むしろソフトウェア(本\n件ソフトウェア)にあると受け取れるような説明がされている(1⑴イ) ほか,その記述内容も,ソフトウェアの操作方法を説明したものと受け取\nることが十分に可能\なものになっている(甲8,25)。そして,被告が, パソコン本体及びその周辺機器自体を製造しているとは認められず,これ\nらの機器は,専ら,被告が,他のメーカーから既製品を調達して組み合わ せたものと認められる。さらに,これらの機器自体は,パソコン本体,キ\nーボード,ディスプレイ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源 装置といった,パソコンでソ\フトウェアを操作するために使われるありふ れたものばかりである上,汎用のものであれば足りるのであって,本件集 中管理装置を構成する機器としての特有のハード面での仕様や性能\が,被 告によって付加されているとは認められない。そして,これらの機器が集 中管理装置としての前記1(1)イのとおりの機能を果たすためには,アプ\nリケーションソフトウェアである本件ソ\フトウェアが,パソコン本体にイ\nンストールされることが必要となる。 また,前記1(1)オによれば,本件集中管理装置は,最新機器に対応す るための機能追加を,本件ソ\フトウェアのバージョンアップ版を格納した CD−ROMを用いた本件ソフトウェアのバージョンアップという形態で\n行っているものと認められるが,上記のような形態による本件集中管理装 置の機能追加に当たって,パソ\コン本体及びその周辺機器自体の更新が必 須のものであると認めるに足りる証拠はない。
イ そうすると,本件集中管理装置の機能,性能\は,専ら本件ソフトウェア\nの機能,性能\に依存しているものであって,むしろ,その本質はソフトウ\nェアである本件ソフトウェアにあるということも可能\である。そして,本 件集中管理装置を最新機器に対応させるためには,少なくとも本件ソフト\nウェアのバージョンアップが必要であり,この場合には,本件集中管理装 置が所要の機能を果たすための必須の構\成要素である本件ソフトウェアの\nバージョンアップ版が格納されたCD−ROMが顧客に販売されるから, かかるバージョンアップ版を対象とする独立の取引を観念することができ る。 以上によれば,本件ソフトウェアのバージョンアップ版は,本件集中管\n理装置の単なる付属品ではなく,それ自体を独立した商品として観念する ことができるというべきである。

◆判決本文

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平成27(ネ)10127  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年4月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 均等の第5要件で侵害なしとした一審判断が維持されました。
 前記(2)の認定事実によれば,第1手続補正前の時点では,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」については,「Web−POSサーバ・システム」で行われるのか,あるいは,「Web−POSクライアント装置」で行われるのかを含め,発明特定事項としては何ら規定されていなかったが,控訴人は,第1手続補正によって,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」について,「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後にした第2手続補正において,特許請求の範囲を本件請求項1の構\成要件F4のとおり補正し,この第2手続補正に基づく特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)について,特許査定を受けたものであるということができる。そして,第2手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web−POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web−POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web−POSサーバ・システム」で行われる構\成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web−POSクライアント装置」で行われる構\成に限定して特許査定を受けたものということができる。上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「Web−POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。\n

◆判決本文

◆一審はこちら。平成26(ワ)27277

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平成27(行ケ)10232  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月14日  知的財産高等裁判所

 商標「メロンマルゴトクリームソーダ」が識別力なしとして拒絶されました。指定商品は32類「メロンを用いたクリームソーダ」です。
 前記(3)に認定した事実によれば,本件審決日当時,果実を利用した飲料 や菓子等の取引分野において,「まるごと」の語の前又は後に果実を表す語\nを結合した場合,あるいは「まるごと」の語を果実を形容する語として用い た場合には,「まるごと」の語は,当該果実の果肉や果汁が残さず用いられ ていることや,当該果実がその形状のまま用いられていること(当該果実が 切り分けられたりすることなく用いられる場合のほか,その外皮部分が容器 等として用いられる場合を含む。)を表す語として,一般に理解されていた\nことが認められる。 そして,本願指定商品である「メロンを用いたクリームソーダ」の取引者,\n需要者には,かかる飲食物の提供者である飲食店や,その提供を受ける一般 消費者等が含まれると考えられるところ,前記⑵のような本願商標を構成す\nる「メロン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語の意義に加え,\n「まるごと」の語が果実を表す語と結合した場合や当該果実を形容する語と\nして用いられた場合の,上記のとおりの一般的な理解の内容に照らすと,本 願商標を構成する「メロンまるごとクリームソ\ーダ」の語は,本件審決日当 時,かかる取引者,需要者によって,「メロンの果肉や果汁が残さず用いら れたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いた\nアイスクリームソーダ」を意味するものとして,一般に認識されるものであ\nったと認められる。 そうすると,本願商標は,本件審決日当時,本願指定商品である「メロン を用いたクリームソーダ」に使用されたときは,当該「メロンを用いたクリ\nームソーダ」が「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソ\ ーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソー\nダ」であるという,本願指定商品の品質を表示するものとして,取引者,需\n要者によって一般に認識されるものであり,かつ,取引に際し必要適切な表\n示として何人もその使用を欲するものであったと認められるものであるから, 特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他商 品識別力を欠くものというべきである。 加えて,本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太で\nやや縦長のポップ調の書体で表してなるものであるが,この書体自体は既存\nのものであるし,文字の太さや縦長の形状であることについても,それ自体 はありふれたものの域を出るものではないから,「メロンまるごとクリーム ソーダ」の文字を普通に用いられる方法で表\示する標章のみからなるもので あって,特別に自他商品識別力を有するような特殊な構成を有しているとも\n認められない。 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められ る。

◆判決本文

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平成28年(モ)第40004号保全異議申立事件(基本事件・平成27年(ヨ)第22071号仮処分命令申\\立事件)

 編集著作物の翻案が争われました。翻案であるとして仮処分を認めた決定を認可しました。対象は判例百選です。この事件も将来、判例百選に載るんでしょうね。
 そこで,上記イの判断を前提に,本件において,債権者が本件著作物の編集 著作者であるとの推定を覆す事情が疎明されているか否かについて検討する。 前記1(4)で認定した事実によると,1)債権者は,執筆者について,特定の実務家 1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案 してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されてい ること,2)本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『著作権判 例百選[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協 力者として関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするよ うに行われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその 意見が聴取,確認されたこと,3)このような経緯の下で,債権者は,編者としての 立場に基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件 編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名 の割当てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても, メールで具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定, 再確定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者 の執筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定につ いては,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した 当該3名の人選について,誰が選択しても同じ人選になるようなものとはいえない ことに照らせば,債権者による上記1)の素材の選択には創作性があるというべきで ある。その上,上記3)の確定行為の対象となった判例,執筆者及び両者の組合せの 選択並びにこれらの配列には,もとより創作性のあるものが多く含まれているとこ ろ,債権者が編者としての確定行為によりこれに関与したとみられるのである。そ うすると,上記1)ないし3)を総合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無に ついて認定・判断するまでもなく),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債 権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価を導き得るところ,本件にお いて,前記イの推定を覆す事情が疎明されているということはできない。 したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるという べきである。

エ これに対し,債務者は,前記ウ1)に関し,(ア) 執筆者を推挙しただけでその 執筆者に判例を割り当てていない段階では,編集著作物の素材である解説の特定を していないから,素材の原料の提案にすぎず,素材の選択には当たらない,(イ) 債 権者の推挙した上記3名は,東京地裁知財部の部総括判事,元知財高裁判事の弁護 士及び著作権分野で高い実績を有し第3版においても執筆者になっていた弁護士で あるから,極めて「ありふれた」人選であって,創作性は全くない,(ウ) 仮に3名 の候補者を選択したのみで創作的な表現として著作権が生じるとすると,以後,同\n一の3名を選択することが複製に当たり著作権侵害となってしまう旨,前記ウ2)に 関し,(エ) 共同創作の「意思」があっても,何ら著作者性を基礎付ける事情とはな らない旨,前記ウ3)に関し,(オ) 著作権法においては,自ら物理的に創作的表現を\n表出していない者は,著作者たり得ないところ,著作者の認定においては,あくま\nでそのような客観的な創作的表現行為の有無のみが問題となるのであり,「立場」\nや「肩書」は何の意味も持たないし,「最終的な確定権限を有する者」というよう な行為者の権限を考慮することも許されない(当該権限を要件とするような解釈に 基づいて著作者の認定をすることは,同法2条1項2号,1号に反する。),(カ) 本 件編者会合における決定に参加したことは,他人が世に現出した表現について最終\n的に公表すべき表\\現であることを事後的に承認したにすぎず,本件著作物の作成に 創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(キ) 本件編者会合後の修正について は,債権者は他者のした提案を一部事後承認したにすぎず,上記(カ)と同様に,本件 著作物の作成に創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(ク) 債権者の前記ウ 3)の行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠とすることは, 「それまで表現されたものとして存在しなかったものを初めてつくり出す行為」を\nしていない者を著作者とすることであるから,同法2条1項2号,1号の文理に反 するし,著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者(学術論文の査\n読者から果てはマスコット・キャラクターを採択する会議に至るまでありとあらゆ る「確定者」)にいたずらに著作者の外延が拡大されてしまいかねない,(ケ) 債権 者の本件編者会合における承認及びその後の一部承認を創作的関与に含めて考える ことは,智恵子抄事件最高裁判決に反する旨をそれぞれ主張した上,(コ) 本件著作 物の編集に関し,債権者は,極めて限定的な関与しかしていないから,債権者が本 件著作物の編集著作者の一人であるとの評価は導き得ない,(サ) 債権者の関与して いない部分は,債権者の関与した箇所と分離して利用することができるから,同項 12号の共同著作物の要件(分離利用不可能性の要件)を満たさないなどと主張す\nる。
しかしながら,上記(ア)の点については,本件著作物において,執筆者の執筆する 解説が本件著作物の素材をなしていることは前記ウで説示したとおりであるところ, 本件著作物においてそのような解説を執筆する者を,いずれの判例を割り当てるか とは独立に選定することは可能であり,その場合,執筆者を推挙した段階で,「当\n該執筆者がいずれかの判例について執筆する解説」が観念されるから,これが素材 の選択におよそ当たらないということはできない。また,いずれにせよ,判例と執 筆者の組合せが特定されていなかったからといって,本件著作物における「執筆者 の執筆する解説」という素材の選択に関して債権者が寄与したことが否定されるも のではない。
上記(イ)の点については,本件著作物における解説の執筆者として,学者を選ぶか 実務家を選ぶか,実務家にしても裁判官にするか弁護士にするかについて,選択の 幅は大きく,裁判官や裁判官OBについても知財高裁・地裁知財部経験者の人数は 決して少なくないこと,現に第4版に関するそれまでの執筆者の案(本件原案のほ か,A教授が列挙した候補者の案なども含む。)では当該3名が含まれていなかっ たこと(前記1(4)ウないしカ),第3版や本件雑誌にもa判事とb弁護士は入って いないこと(別紙「著作権判例百選判例変遷表」,甲2の3),B教授は,当初,\nb弁護士を執筆者として追加することに消極の意見を表明していたこと(前記1(4) ク)などに照らすと,当該3名について,誰が選択しても同じ人選になるようなも のとはいえず,「ありふれた」人選などということもできない。
上記(ウ)の点については,ここでの執筆者3名というのは,本件著作物の執筆者と なった113名の中の一部であるところ,前記ウの判断は,当該3名を選択したの みで直ちに創作的な表現として独立の編集著作権が生じるとするものではなく,あ\nくまでも本件著作物全体の表現(素材の選択及び配列)について創作性が認められ\nる場合に,これを構成する一部の創作への関与(換言すれば,債権者が関与した部\n分が上記創作性を有する表現を形成する一部をなしているか)を問題とするもので\nあるし,また,債権者の当該行為時点について見ても,執筆者110名から1名を 削除し3名を加えて112名とする場合の当該3名の選択が問題となっているので ある。さらに,前記ウの判断は,必ずしも同1)の行為のみで編集著作者となり得る と判断しているわけではなく,同1)ないし3)を総合して編集著作者となり得ると判 断しているのであって,債権者が,同3)の行為をしているほかに,自ら同1)の行為 もしていることを,全体として評価すべきところである。
上記(エ)の点については,前記ウ2)の事情は,同3)の債権者の行為の前提となるも のであるから,同1)ないし3)があいまって全体として債権者の編集著作者性を基礎 付ける事情になるということができる。
上記(オ)の点については,本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる事案においては,編集著作物の完成に向けられた表現(素材の選択・配列)の創\n作に係る複数の者の一連の行為(一瞬の物理的な行為のみではない。)を全体とし て観察し,そのような一連の編集過程への実質的な関与の有無やその位置付け等を 総合的に検討して,一定の規範的な評価をすることは,避けられないものと解され る。そして,それ自体としては同じように見える行為についても,どのような状況 (コンテクスト)において,どのような立場(一貫して編集の主体とされ,内容に ついて決定権や責任を有する者としての行為なのか,アドバイスを求められた外部 の第三者としての行為なのか,事務的な補助者としての行為なのか等々)でそれを 行ったのかということにより,その行為の社会的な意味合いや位置付けは異なり得 るのであって,そのことが事実認定及び法的評価にも影響するのは当然というべき である。上記のような意味での行為者の立場を全く捨象して単純に裸の作為(「物 理的な」創作的表現表\\出行為)のみを取り出すことは,実態にそぐわない編集著作 者の認定をすることにつながりかねず,相当ではない。既に認定,説示したところ からすれば,本件著作物の編集過程において,債権者が,素材の選択及び配列に関 する実質的な権限を有しそれに基づき実質的な関与をしたことは明らかであって, 単に名義を貸しただけとか,単に名目的な「肩書」のみを有して形だけ関わったと いったケースとは明らかに異なる。なお,編集著作物の素材の選択・配列の確定に 関し行為者がどのような権限を有していたかという点も,編集著作者の認定に当たっ て一つの事情となり得るものであって,これを考慮すること(もとよりこれを「要 件」とするものではない。)が許されないということはない。 上記(カ)ないし(ク)の点については,当該編集著作物の編集過程において,当該者自 身が当該創作的表現を「物理的にこの世に現出させる」独自の提案作成行為をしな\nかった場合においても,当初から当該者を含めた複数の者を編者として当該編集著 作物を創作するとの共同の意思の下に共同作業をしている他の者が先行して「物理 的にこの世に現出させる」提案をした部分について,当該者が,それを修正するこ ともできたのに検討の上修正せずに,当該部分をそのとおり採用する決定に加わっ たという行為は,創作への関与として一概に無視することはできない。前記1(4) で認定した事実経過に照らすと,債権者は,本件著作物の編集過程に客観的・外形 的に関与しているのみならず,素材の選択及び配列について実質的な中身を思考し これに基づき上記行為をしているとみられるものであって,前記ウ3)の債権者の行 為は,著作物の形成ないし創作性の形成への「客観的な事実行為としての実質的な 関与」に当たるということができる。本件著作物の「創作」については,本件著作 物の完成に向けた一連の編集過程が開始される前には「それまで表現されたものと\nして存在しなかったもの」を,同編集過程が完了し本件著作物が完成した時点で「初 めてつくり出す行為」であり,その「創作」の主体が債権者を含めた複数の者とな るとみられるのであって,これが著作権法2条1項2号,1号の文理に反するとい うことにはならない。また,既に認定,説示したところに従って,債権者の同3)の 行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠としたとしても, 著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者にいたずらに著作者の外\n延が拡大することにはならない(単に名前を貸して形式的に権威付けをしただけの 者や,債務者が例に挙げる「学術論文の査読者」等,もともと創作する側の主体と は異なる立場から関与したり,表現内容の形成・変更の直接の決定権を有していな\nい者などは,共同著作者の一人とは認められない。)。「認定」ということの性質上, 個々の事案に合致した認定をして「共同編集著作者」の範囲を適切に画するほかは ないし,かえって,常に「最も早く物理的に表出した者が誰か」のみに着目すると\nいうことでは,本件のような事案で実態にそぐわない結論を導いてしまいかねない。 上記(ケ)の点については,智恵子抄事件最高裁判決は,当該個別事案における認定 を示した事例判例であって,本件における債権者のような者を編集著作者と認めて はならないとの判断を何ら含意しているものではないから,前記ウ3)に係る判断が 同最高裁判決に「反する」ということはない。 上記(コ)の点については,前記ウ1)の行為と,同2)を前提とした同3)の行為を総合 した場合に,債権者の関与が「極めて限定的」で編集著作者の一人との評価を導き 得ないものであるということはできない。 上記(サ)の点については,前記ウ3)の債権者の行為は,本件著作物全体に係ってい るし,同1)の債権者による素材の選択も,前示のとおり,他の素材の選択及び組合 せとあいまって全体の編集著作物を構成しているものであるから,債権者の関与部\n分のみを分離して個別に利用することはできない。本件著作物は,著作権法2条1 項12号の「二人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を 分離して個別的に利用することができないもの」に当たるというべきである。 以上によると,債務者の上記各主張によって,債権者が本件著作物の編集著作者 であるとの推定を覆すことはできない。
(2) 翻案該当性ないし直接感得性(争点2)について
ア 前記1(5),(6)で認定した事実によると,1)判例の選択については,本件著作 物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致しており(そのうち94件は 審級も含めて全く同一であり,3件は審級のみ異なり対象事件が同一である。), 割合的には,本件著作物の収録判例113件のうち約86%が本件雑誌にも維持さ れ,かつ,当該一致部分が本件雑誌の収録判例116件のうち約84%を占めてい ること,2)執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物におけ る執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致しており,割合的には,本件 著作物の執筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致 部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,3)判例と執筆 者(執筆者の執筆する解説)の組合せの選択については,本件著作物における組合 せと本件雑誌における組合せとで83件が一致しており,割合的には,本件著作物 における判例と執筆者の組合せ113件のうち約73%が本件雑誌にも維持され, かつ,当該一致部分が本件雑誌における判例と執筆者の組合せ117件のうち約7 1%を占めていること,4)判例及びその解説(以下,併せて「判例等」という。) の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで合計83件の配列 (順序)が一致しており,割合的には,本件著作物の判例等113件のうち約73% の判例等の配列(順序)が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌 の判例等117件のうち約71%を占めていること,5)判例等の配列を位置付ける 項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方と本件雑誌の大項目 及び小項目の立て方とでその大半が一致していることを指摘することができる。そ うすると,本件著作物と本件雑誌とで判例等の選択及び配列が全体として類似して いることは明らかであって,本件著作物の判例等の選択・配列の大部分が本件雑誌 にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判例等の選択・配列を 見たときに本件著作物のそれに由来する上記各一致部分の全部又は一部を優に感得 することができる。 そして,本件著作物及び本件雑誌に掲載される判例と執筆者の執筆する解説が編 集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択\n又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上, 判例の選択や判例等の配列に係る選択の幅はある程度限られるものの,執筆者の選 択すなわち誰が執筆する解説を載せるかという選択の幅は決して小さくない上,ど の判例の解説の執筆者として誰を選ぶかに係る選択の幅は極めて広いというべきで ある。そうすると,上記1)ないし5)で指摘した,本件著作物と本件雑誌とで表現(素\n材の選択又は配列)上共通する部分には,創作性を有する表現部分が相当程度ある\nものということができる(なお,編集著作物における素材の選択及び配列に係る上 記各一致部分の組合せ全体に創作性を認めることもできると考えられる。)。 以上の事情を総合すれば,本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性\nがある部分が相当程度認められる一方,本件雑誌が,新たに付加された創作的な表\n現部分により,本件著作物とは別個独立の著作物になっているとはいい難い。 このように検討したところによると,本件雑誌の表現からは,本件著作物の表\\現 上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。
イ そして,前記1で認定したとおり,本件雑誌が本件著作物の改訂版として作 成されているものであることなどに照らすと,編集著作物たる本件雑誌が本件著作 物に依拠して編集されたことは明らかである。
ウ 以上によれば,編集著作物たる本件雑誌を創作する行為は,本件著作物に依 拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\\現に修正, 増減,変更等を加えて,新たに思想を創作的に表現することにより,これに接する\n者が本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を\n創作する行為,すなわち本件著作物の翻案に該当し,本件雑誌は本件著作物を原著 作物とする二次的著作物に該当する。 また,他人の著作物を素材として利用しても,その表現上の本質的な特徴を感得\nさせないような態様においてこれを利用する行為は,原著作物の同一性保持権を侵 害しないと解すべきであるが(最高裁平成6年(オ)第1028号同10年7月1 7日第二小法廷判決・判時1651号56頁等参照),本件雑誌における本件著作 物の利用は,このような同一性保持権侵害の要件をも満たすということができる。 (3) 本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否(争点3)について 債務者は,本件著作物は本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとし た上で,二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創作的 部分に限られるところ,本件著作物において本件原案に新たに付加された創作的表\n現が本件雑誌において再製されているとは認められない旨主張する。 しかしながら,前記1で認定した事実に前記(1)で説示したところを総合すると, 本件原案は,最終的な編集著作物たる雑誌『著作権判例百選[第4版]』の完成に 向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり,\nまさしく原案にすぎないものであって,その後編者により修正,確定等がされるこ とを当然に予定していたもの(編者が検討するための叩き台,提案)であったこと\nは明らかであり,実際,本件原案作成後,その予定どおり,債権者を含む編者によ\nりその修正等がされ,最終的に編集著作物の素材の選択・配列が確定されて本件著 作物として完成されるに至ったものである。そうすると,本件においては,その完 成の段階で,債権者を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相 当である一方,途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上 で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとするこ とは相当ではない(なお,債務者は,最終作品の作成過程において準備的に作成さ れたものが,第三者によりコピーされ,最終作品の完成後に無断でネット上で公開 されてしまった場合に,当該準備的に作成されたものも最終作品とは別個の著作物 としての保護を受けることを指摘する。しかし,そのような事例において,第三者 によるコピーの時点で,当該準備的に作成されたものがそれ自体著作物性を肯定し 得るものであったならば,それを著作物とする著作権又は著作者人格権の行使を第 三者との関係で肯認することができるとしても,本件のように,既に完成された最 終作品の翻案が問題となっているケースにおいて,当該最終作品を,同作品の完成 に向けて準備的に作成されていた原案の一つを原著作物とする二次的著作物にすぎ ないとして,最終作品に基づく権利行使を制約することは,相当でないことに変わ りはない。)。 したがって,債務者の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。

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平成27(ワ)12414  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月30日  東京地方裁判所

 延長登録の対象となった対象について、イ号と均等か争われました。地裁は「本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる」として、均等を否定しました。
 上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」 に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原 告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ 以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各 処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各 認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサ リプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として, 「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリ プラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注 射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)に グリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラ チンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその 二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成 するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的とし たものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各 製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オ キサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えること が,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく, むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチ ンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができ る(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については, 保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあ ることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加された シュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シ ュウ酸は人体に有害な物質である。)。 そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」 に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関 係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であ り,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験 が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技 術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。 したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,\n被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等 物ないし実質同一物に該当するということはできない。 この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加 物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット 50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有す ることを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を 得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静 注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有す るとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記 のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が, 医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を 特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した 有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たら ず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分であ る「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていること をもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって, 原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用 される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものというこ ともできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告 による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。

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平成26(ワ)1690  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月28日  東京地方裁判所

 特許無効理由なし、また、損害額について文書提出命令に応じて書類を提出しない被告に対して、原告の主張どおりの損害(102条2項)が認められました。
 被告は,本件発明2についての特許について,本件明細書2の特許の特許請 求の範囲は,単に「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」と記載するのみで, 「係入片が受片と協働してスタータにて壁パネルの下端部を強固に支持する」との 効果を奏しない「係入片」をもその範囲に含んでおり,権利の外縁を明確に記載し ていないから,明確性要件に違反すると主張する。 しかしながら,本件発明2が「壁パネルの下端部の支持構造」に関するものであ\nることから明らかなとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,上記「係入 片」の意義について,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部 の形状と照らして,同凹部に嵌合されるに適した形状を有する必要があることは容 易に認識できるというべきであるから,「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」 という記載が,明確性を欠くものとは認められない。
イ また,被告は,本件明細書2の特許請求の範囲の記載が明確であるというな らば,同明細書の発明の詳細な説明には記載されていない発明を特許請求の範囲に 含むものであってサポート要件に違反するとか,発明の詳細な説明が当業者に実施 可能な程度に明確かつ十\分に記載されておらず実施可能要件にも違反すると主張す\nるが,本件明細書2には,本件発明2(請求項1記載の発明)の実施例として, 「スタータ15を取付け片11においてチャンネル材の壁下地10にボルト18に て取付け,スタータ15の係入片8を壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入 するとともに受片9にて嵌合凸部2の下面を受けることで,スタータ15にて壁パ ネルAを強固に支持するのである。」と記載され(段落【0012】),【図1】 には,係入片4が壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入されている態様が具 体的に開示されているのであるから,サポート要件に違反するということはできな いし,前記のとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,「係入片」の意義に ついて,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部の形状と照ら して,同凹部に嵌合されるに適した形状を有するべきことを容易に認識できるので あるから,実施可能要件に違反するということもできない。\n
・・・
原告は,平成27年11月20日,被告における平成23年1月1日から平 成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張する額で あることを証明するため,特許法105条1項に基づき,被告に対し,被告各製品 の販売量,販売単価,販売原価及び販売のために直接要した販売経費の額が記載さ れている書面である売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製造 経費及び販売経費)(以下,併せて「対象文書」という。)の提出を求める文書 提出命令申立てを行った(当庁平成27年(モ)第3723号事件)。\n当裁判所は,平成27年12月2日,被告に対し,決定の確定の日から14日以 内に,対象文書を当裁判所に提出すべきことを命ずる決定(以下「本件文書提出 命令」という。)をして,同日,決定書の正本が被告に送達された。本件文書提 出命令は,平成27年12月9日の経過により確定したところ,被告は,上記提出 期限内に,対象文書を当裁判所に提出しなかった。
エ 以上のとおり,被告は,当裁判所がした本件文書提出命令にもかかわらず, 正当な理由なく,対象文書を提出しなかったものである。 そこで,民訴法224条1項又は3項の規定により,対象文書の記載に関する原 告の主張を真実と認め,又は対象文書により証明すべき事実に関する原告の主張を 真実を認めることができるかについて検討する。 対象文書は,被告の売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製 造経費及び販売経費)であって,被告の業務に際して作成される会計帳簿書類であ るから,その記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難である。 また,原告が,対象文書により立証すべき事実(被告における平成23年1月1日 から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張す る額であること)を他の証拠により立証することも著しく困難である。 そうすると,民訴法224条3項の規定により,被告における平成23年1月1 日から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額は,原告の主 張,すなわち,被告は,平成23年1月1日から平成27年4月20日までの間に, 被告各製品を販売して合計8億1715万2306円を売り上げ(うち平成26年 1月23日までの売上高は7億8021万6380円,同年12月21日までの売 上高は8億1685万6414円),かつ,被告各製品の利益率はいずれも15パ ーセントを下回ることはないとの事実を真実であると認めるのが相当である。なお, 被告の平成22年4月1日から平成26年3月31日までの総売上の合計が53億 6258万6000円であり,うち,完成工事高が36億2028万2000円, 兼業事業売上高が17億4230万4000円であること,同期間中の兼業事業売 上高に占める原価率は66.27パーセントであること(以上につき,甲70ない し77),被告は,被告製品1−1及び同1−2につき平成21年12月17日に, 被告製品4−1及び同4−2につき平成23年11月7日に耐火認定(建築基準法 及び同法施行令に規定する基準に適合することの認定)を受けたこと(当事者間に 争いがない。)などの事実関係からすれば,上記真実擬制に係る事実は,客観的真 実とも十分に符合しうるというべきである。
オ そうすると,被告は,本件特許権1の侵害により,8億1685万6414 円に15パーセントを乗じて算出される1億2252万8462円(うち平成26 年1月23日までの売上に係る利益は1億1703万2457円)の利益を受けた ものと認められる。

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平成25(ワ)29520  不当利得返還請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月30日  東京地方裁判所

 クレームの用語「ICSネットワークアドレス」を技術的に分析して、該当しないと判断されました。
 ウ 以上の本件明細書1の記載によれば,「ICSネットワークアドレス」とは, コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つI CS(統合情報通信システム)において,これを構成するアクセス制御装置,アク\nセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置, VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で 唯一の識別符号を指すものであり,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるア ドレスは,ICSネットワークフレームを構成するネットワーク制御部に格納され,\n同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網 内を転送されるものを意味すると認められる。
エ しかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル (outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置 されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接 続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場 合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報 であって,被告システムにおいて「ICS論理端子」に該当しうる「PE−CEイ ンターフェイス」に網内で唯一付された識別子であるとは認められない。 加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのである\nから,仮に,被告システムの「PE−CEインターフェイス」に網内で唯一付され た識別子が存在しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の 値と一致するものとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,M PLSフレームが各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信 側PEルータによって参照され,これによりパケットを出力すべきPE−CEイン ターフェイスが特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部によっ てPE−CEインターフェイスを特定するものであるから,VPN識別ラベル (innerラベル)の値が,特定のPE−CEインターフェイスに網内で唯一付され た識別子と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足り る的確な証拠もない。
オ なお,原告は,網内転送ラベル(outerラベル)及びVPN識別ラベル (innerラベル)の「2つのラベルに含まれる情報」や「ラベルの組合せ」をもっ て,「ICSネットワークアドレス」に該当すると主張しているようにも思われる ところ,確かに,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)及びV PN識別ラベル(innerラベル)が付されたパケットは,最終的に所望のPE−C Eインターフェイスを経由して特定のユーザに送信されることとなるが,上記のと おり,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレスと して独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)にお いて,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線\nとの接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網 サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであり, かつ,このうち,ICS論理端子に付されたアドレスは,ICSネットワークフレ ームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されること\nにより,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味するの であって,単に「所望のICS論理端子にICSユーザフレームを到達させるため に同ICSユーザフレームに付される情報」一般を包括的に含む広範な概念を指す ものとは認められないから,原告の主張は採用できない。 カ したがって,被告システムは,「ICSネットワークアドレス」を有しない から,構成要件1−1A,同1−1B及び同1−2Aをいずれも充足しない。\n

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平成27(行ケ)10153  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月13日  知的財産高等裁判所

 歴史と伝統を備えた超高級ブランドであるとして特異性を主張しましたが、日本における著名性が認められず、類似と判断されました。
 原告は,歴史と伝統を備えた超高級ブランドについて,十分な知識と経験を備え\nた超富裕層である需要者の間では,「CIFONELLI」ブランドは,「チフォネ リ」の称呼のもと,最高級の紳士スーツについて広く認識された存在となっている から,本願商標と引用商標との類否判断に当たっては,かかる取引実情を考慮すべ きと主張する。 しかし,原告が日本に進出したのは,2000年秋であり(甲7),原告商品が取 り扱われている百貨店は,東京の新宿伊勢丹(甲11),大阪の阪急メンズ大阪(甲 12),東京の銀座三越(甲13)及び東京の日本橋三越(甲14)等の数か所にす ぎない。また,原告の紹介記事等は,2000年8月ころ(甲7)及び2009年 春ころ(甲8)にファッション雑誌に掲載され,2010年2月16日公開のファ ッション情報ウェブサイトに掲載された(甲10)ほかは,原告商品を取り扱う百 貨店のパンフレット(甲9,11〜15)に記載されているだけであり,ウェブサ イト上の質問コーナーの回答中に原告商品への言及(甲16)が認められるにすぎ ない。一般に広く需要者が閲覧する雑誌及びウェブサイトへの記事掲載が,証拠上, 2000年以降現在までわずか4回にすぎないこと,百貨店のパンフレットのうち, 甲9は2011年春物の紹介であるから配布期間が短く手に取る者は限定されてい たであろうし,甲14は紳士服オーダーサロンにおける春のオーダー会の紹介とし て,原告ブランドが他のブランドと並んで紹介されているにすぎず,掲載期間及び 需要者がアクセスした期間は限定されており,甲15は伊勢丹新宿店のウェブペー ジであって,他の取り扱いブランドと同様に原告商品の仕立て料金等を表示してい\nるにすぎず,甲11〜甲13は,百貨店のフロアガイドであって,他のブランドと 同等に原告ブランドが記載されているにすぎず,ウェブサイト上の質問コーナー(甲 16)を閲覧した者が相当多数であったと認めるに足りる証拠もない。原告の日本 における売上げは,2013年及び2014年の3月〜9月(7か月分)で700 0万円近くと認められる(甲32)ものの,かかる金額が,紳士服の1ブランドの 売上げとしてその周知著名性を基礎付けるほど多額であると認めるに足りる証拠も ない。 上記の事実を総合考慮すれば,本願商標が,原告の扱う最高級の紳士服を示すも のとして,本願指定商品の需要者である男性の間で周知又は著名となっていたとは 認められない。したがって,本願商標に係る需要者層が富裕層の男性に限られ,本 願商標に係る商品が高級な男性用スーツ等に限られるとする原告の主張には,理由 がない。

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平成27(ネ)10126  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年4月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁も、物の発明ではないと判断し、控訴棄却しました。
 これに対し,控訴人は,「手順・プロセス」が含まれていても,「構造\n・構成」に発明性を備えるものは「物の発明」であるところ,本件特許発明\nは,「テーブル」と「緩衝材」によって構成される「構\造」によって,本件 明細書に記載された発明の作用効果を得ることを目的とする「物の発明」で あって,テーブルを「設置し」と建築物等を「配置する」の前後関係は,技 術的には何ら価値がなく,本件特許発明の構成要件ではないなどと主張する。\n しかしながら,これらの控訴人の主張は,あくまでも,本件特許発明にお ける「地盤強化工法」が構造ないし構\成を意味することを前提とするもので あり,前記アのとおり,かかる「地盤強化工法」が工事の方法を指すと解さ れる以上,控訴人の上記主張は,その前提において採用することができな い。

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◆1審はこちらです。平成27(ワ)14339

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平成27(行ケ)10217  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年3月31日  知的財産高等裁判所

 地域団体商標「小鯛ささ漬」は識別力なしとした審決が維持されました。
 「小鯛ささ漬」の語は,一般的な辞典には固有名詞等として登載されている ものとは認められない(乙3,弁論の全趣旨)。インターネット上では,「小鯛ささ 漬」の語は,原告の構成員が販売する商品の商品名として使用されているほか(甲\n12,乙41),「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」の語については,少なくとも,以下のような使用例がある。 (ア) 兵庫県所在の「C商店」のウェブサイトにおいて,「選りすぐりの逸品」の 項に,商品名「小鯛の笹漬」が,「あじの笹漬」「さよりの笹漬」と並んで,笹の葉 の上に魚の切り身を載せた写真とともに表示され,「C商店の名でご支持いただいて\nいる小鯛の笹漬」,「水揚げされたばかりの小鯛などの魚を新鮮さそのままに素早く 加工。昔ながらの製法で作る笹漬は全て手作業です」との説明文が掲載されている (乙11)。
・・・
オ 上記アないしウによれば,小さな鯛を意味する「小鯛」と,魚の一般的調理 法を示す語である「ささ漬」を組み合わせた「小鯛ささ漬」は,一般的に,「小さな 鯛を三枚におろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの」の意味合いを有す る複合語として,容易に理解されるものであるといえる。上記エのとおり,「小鯛さ さ漬」と同一又は実質的に同一の語が,各地方で生産,販売される上記調理法によ って調理された小鯛を示す名称として一般的に使用されていることも,同語がその ような意味合いに理解されることを裏付けるものである。
(2) そうすると,本願商標を,その指定商品である「レンコダイのささ漬」に使 用する場合には,これに接する取引者・需要者は,一般的に,「小さな鯛を三枚にお ろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの。」という原材料,生産方法を記述 したものとして理解,認識するといえる。 したがって,本願商標は,その指定商品の原材料,生産方法を普通に用いられる 方法で表示する標章のみからなるものであるから,法3条1項3号に該当する。\n
・・・
また,確かに,「小鯛のささ漬け」というものは,福井県若狭地方の伝統料理, 名産品の一つであることが認められる(甲3,7,8,乙53。なお,これらの文 献では,名産品としては,「小鯛ささ漬」ではなく,「小鯛のささ漬」〔甲3〕,「小鯛のささ漬け」〔甲7,乙53〕という表示が用いられているものが多い。)。しかし,\n「小鯛のささ漬け」というものが若狭地方の名産品,伝統料理であり,そのような 認識を取引者,需要者が有するとしても,前記1(1)のとおり,「小鯛ささ漬」の語 が,魚の種類と,魚についての一般的な調理法を示す「ささ漬」という一般的な語 を組み合わせたものにすぎず,また,若狭地方以外で生産,販売されている同調理 法によって調理された小鯛についても「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」という名称が一般的に使用されていることからすれば,「小鯛ささ漬」 の語が直ちに「福井県若狭地方の名産品」のみを意味するものと取引者,需要者が 理解するとは認められず,本願商標が,指定商品の原材料,生産方法を普通に用い られる方法で表示する標章のみからなるものであることを否定する理由とならない。\nしたがって,原告の主張は理由がない。
(2)ア 原告は,ある商標がある特定地域の名産であって,他に同じものを名産と する地域がなく,かつ,当該名産の名称が当該地域で特定の事業者又は団体構成員\nによって実質的に独占されているのであれば,その名称は「名産品であることによ って,その名称が自他商品の識別標識」となり得る,審決のような理由で「小鯛さ さ漬」のような地域名産品が商標法による保護を受けることができないとすれば, 商標法の趣旨に反するなどと主張する。 しかし,原告の主張するとおりの事実があれば,当該商標が自他商品の識別標識 となり得るとしても,それは,法3条2項の該当性の問題と解すべきことは,前記 (1)アのとおりである。そして,一般に,地域名産品の名称については,同項による 商標登録のほか,同法7条の2による地域団体商標の商標登録が考えられるのであ って,本願商標が法3条1項3号に該当するからといって,商標法の趣旨に反する などということはできない(なお,本件においては,原告は,法3条2項に基づく 主張をしないことを明らかにしていることは前記第2の4のとおりであり,原告の 構成員による本願商標の使用実績等についての主張立証もしようとしていない。)。\n

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平成27(行ケ)10052  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月31日  知的財産高等裁判所

 医薬品の効果について、客観的な裏付けとなる記載を伴わない場合には、36条違反の拒絶理由が存在すると判断されました。
 一般に本願発明のような医薬用途発明においては,一定の予防又は治療すべき状\n態に対して,特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで,その作用効果に ついて何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず,そのような技術常識もない場合に は,当業者において,実際に有用性を有するか,すなわち,課題を解決できるかど うかを予測することは困難である。\nそうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R−A−Xの化合物が, 「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」と\nいう医薬用途において使用できること,すなわちヒト又は動物の生体内におけるB 型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを当業者が理解できるように記載され ているとはいえない。 したがって,本願発明は,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により 当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,特許法 36条6項1号の規定を満たさない。
(4) 特許法36条4項1号(実施可能要件)について
発明の詳細な説明の記載は,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の 属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載したものであること」を要する(特許法36条4項1号)。\n前記(3)で判示したところによれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R− A−Xの化合物を「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療す\nるための医薬」として使用できることが,当業者が理解できるように記載されてい るとはいえない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をする ことができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(5) 原告の主張について
ア 審決の判断手法の誤りについて
原告は,審決が,審判請求書添付の試験結果及び基礎出願の試験結果について, これらの各試験結果の記載が,本願の出願当初の明細書等の開示範囲を超えたもの であるか,又は本願発明の効果の範囲内での補充にすぎないものであるかの判断を 行うべきであり,当該判断を怠って,実施可能要件及びサポート要件に規定する要\n件を満たさないと判断した審決には,判断手法に誤りがあると主張する。 しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のため に,出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとして も,前記(3)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R−A−Xの化合 物を,B型肝炎ウィルスの感染を予防又は治療するために用いるという用途が記載\nされているのみで,当該用途における化合物の有用性について客観的な裏付けとな る記載が全くないのであり,このような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結 果や基礎出願の試験結果を考慮することは,前記(3)アで述べた特許制度の趣旨か ら許されないというべきである。 そうすると,原告が,審判手続において,審判請求書添付の試験結果及び基礎出 願の試験結果を参酌すべき旨を主張していたことからすれば(甲11,13),審 決において,同主張を明示的に排斥することが相当であったとはいえるとしても, 出願後に提出された薬理試験結果である審判請求書添付の試験結果や,基礎出願の 試験結果は,本願明細書に記載された本願発明の効果の範囲内で試験結果を補充す るものということはできないから(その上,後記イのとおり,これらの試験結果を 考慮したとしても,式R−A−Xの化合物のB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治\n療に対する有用性を裏付けるものとは認められない。),これらの資料を考慮しな いで,サポート要件及び実施可能要件を満たさないとの判断をした審決の判断手法\nが違法であるということはできない。また,その点が審決の判断を左右するものと は認められないから,審決の取消事由には当たらない。 なお,原告は,本願明細書の記載は,本願の出願人による実証に基づいて導き出 されたものである旨をも主張している。しかし,仮にそうであったとしても,その ことは上記判断を左右するものではないし,そもそも,後記イのとおり,本訴にお いても,本願発明の「式R−A−X」に当たる化合物のB型肝炎ウィルスの感染の 予防又は治療に対する有用性を裏付ける客観的資料は何ら提出されていないことか\nらすれば,同主張を認めることはできない。

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平成27(ネ)10063  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 平成28年3月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バイクのインディアンに関する商標について、権利濫用とした1審判決が維持されました。
 上記(ア)ないし(ウ)のとおりの控訴人の本件各商標の登録出願の経緯,出願 当時の認識及び本件各商標の使用状況ないし控訴人の宣伝広告等の内容を総合考慮 すると,控訴人による本件各商標の商標登録出願は,控訴人が,平成3年頃から旧 インディアン社によるインディアンブランドの潜在的周知性に着目し,旧インディ アン社と控訴人とは関わりがないにもかかわらず,同社との関連性を強調して我が 国でインディアン関連商品の販売をすることを意図し,被控訴人がその頃我が国で 先行してインディアンブランド事業を開始しているのをみて,自らもそのような被 控訴人の事業展開や宣伝広告に便乗するとともに,被控訴人による事業展開を妨げ る目的で行われたものであると認めるのが相当である。
イ 本件各商標に化体された信用性について
前記のとおり,控訴人は,本件各商標についてこれと同一の商標を商品や宣伝広 告に使用したことは全くないのであるから,そもそも本件各商標自体には,控訴人 の独自の信用が化体されているとはいえない。また,前記のとおり,控訴人は, 「Indian」ロゴや本件商標2と類似するカナダインディアン社の商標を使用した商 品を販売していたが,これらについても,自らとは関わりがない旧インディアン社 との関係を強調した宣伝広告を行っていたものである。控訴人のこのような商標の 使用は,自己の商品に係る業務について,旧インディアン社の承継人ないしはライ センシーの業務であるかのような混同を生じさせるものであり,商標法が商標の出 所表示機能\を保護するものであることからすれば,同法上,このような商標の出所 表示機能\は本来保護されるべき性質のものとはいい難く,このような商標の使用に よって形成された控訴人の信用は,控訴人独自のものとはいえず,本件各商標と類 似した商標が使用されることによって,本件各商標の出所表示機能\が実質的に害さ れるものとはいえない。
ウ 控訴人片仮名商標に基づく侵害訴訟との関係について
さらに,本件各商標は,前記1のとおり,被控訴人標章1と類似するものである ところ,そもそも被控訴人の代表者であるCは,被控訴人標章1(Indian/Motocyc le商標)と同一の商標について,本件各商標の登録出願(平成6年9月21日)よ りも先立つ平成4年2月6日の時点で,商標登録出願をしていたものであり,被控 訴人は,平成7年9月29日に被控訴人標章1に係る商標登録がされた後,その商 標権を譲り受けていたものである。 そして,同商標登録は,控訴人が請求した無効審判において,控訴人片仮名商標 と類似し,商標法4条1項11号に違反することを理由として無効審決がされ,平 成14年12月27日,同審決を維持する内容の東京高等裁判所の判決がされ,平 成15年6月12日に同審決は確定したため,遡及的に無効となったものであるけ れども,一方で,同時期に係属していた,控訴人の被控訴人に対する控訴人片仮名 商標に係る商標権に基づく商標権侵害差止等請求訴訟においては,同年12月26 日,控訴人が被控訴人らに対して同商標権に基づいて禁止権を行使することは,商 標権の濫用に当たるものとして許されないとの一審判決が言い渡され,さらに,平 成16年12月21日,前記イと同様の理由により,控訴人片仮名商標に係る商標 権の行使が権利の濫用であるとして,その控訴を棄却する控訴審判決がされ,同判 決が確定したものである。 そうすると,本件片仮名商標は,これに係る商標登録自体は有効であるものの (なお,控訴人片仮名商標に係る商標登録が商標法4条1項7号に違反するとして 被控訴人が請求した無効審判については,上記侵害訴訟の控訴審判決とほぼ同時期 である平成16月12月8日に,同号違反を否定する審決を維持する内容の判決が, 同控訴審判決とは別の裁判体によってされた。),その商標権は,被控訴人に対し ては行使できないものであるところ,仮に控訴人片仮名商標に係る商標登録がされ なければ,商標法4条1項11号違反を理由として被控訴人標章1に係る商標登録 が無効とされることはなく(なお,被控訴人標章1についての商標法4条1項7号 違反を理由とする無効理由は,別の審決取消訴訟において理由がないものと判断さ れている。),むしろ,被控訴人標章1よりも後願である本件各商標(被控訴人標 章1と類似する。)についての商標登録の方が認められなかったはずであり,また, 被控訴人標章2(「Indian」ロゴ商標)も,本件各商標と類似しているとして,商 標法8条1項違反を理由として無効審決が維持されたものであるから,同様に,控 訴人片仮名商標に係る商標登録がなければ,無効とされることはなかったはずのも のである。 そうすると,被控訴人と控訴人との間では,控訴人片仮名商標に係る商標権に基 づく権利行使が許されないとの判決が確定しているにもかかわらず,控訴人片仮名 商標が登録されていることを唯一の理由として商標登録が無効とされた商標と同一 の標章である被控訴人標章1及び2について,被控訴人標章1よりも後に出願され た本件各商標との類似性を理由として本件各商標権に基づく権利行使を認めること は不合理である。

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◆1審はこちらです。平成25(ワ)13862

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平成26(ネ)10080等  特許権侵害行為差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 訂正要件を満たしているのかが争われました。裁判所は、新規事項であると判断しました。
 被控訴人は,本件特許について本件訂正を行ったことに伴い,従前の特許発明に 基づく請求を維持したまま,限定的減縮を行った訂正後の発明に基づいて予備的請\n求を行うところ,特許権者が自らの意思に基づいて訂正請求等を行う以上,特許権 に基づく侵害訴訟においても,これを訂正の再抗弁として位置付けて,訂正後の発 明に基づく請求のみを審理判断すべきものと解されるが,本件では,後記のとおり 訂正発明1に係る訂正自体が不適法であることから,予備的請求1だけでなく主位\n的請求についても審理判断することとする。なお,予備的請求2については,被控\n訴人の主張のとおり,訂正後の請求項4に基づく請求を,訂正の再抗弁として位置 付けて審理判断する。 そして,当裁判所は,主位的請求については,控訴人は本件発明1の技術的範囲 に属する控訴人方法1を使用していると認められる(争点(1)及び(6))が,本件発 明1に係る特許には新規性欠如の無効理由はない(争点(2))ものの,進歩性欠如 の無効理由がある(争点(3))と判断する。また,予備的請求1については,訂正\n発明1に係る本件訂正は不適法であり許容されない(争点(8))上,控訴人が控訴 人方法2を使用しているとは認め難い(争点(9))と判断する。さらに,予備的請\n求2については,控訴人方法3は訂正発明4の技術的範囲に属すると認められる (争点(13))ものの,訂正発明4に係る特許にも進歩性欠如の無効理由がある(争 点(14))と判断する。
・・・
しかしながら,本件明細書には,スピネル型マンガン酸リチウムの製造過程にお いて用いられる電解二酸化マンガンにおけるナトリウム又はカリウムの存在形態, あるいは,「本発明」における製造方法により得られるスピネル型マンガン酸リチ ウムにおけるナトリウム又はカリウムの存在形態を具体的に特定する記載や,これ を示唆する記載は一切見当たらない。 したがって,本件明細書には,「結晶構造中にナトリウムもしくはカリウムを実\n質的に含む」形態を除くスピネル型マンガン酸リチウムについて,少なくとも明示 的な記載はないと認められる。
ウ 「(結晶構造中にナトリウムもしくはカリウムを実質的に含むものを除\nく。)」との事項が,本件明細書の記載から自明な事項であるか否か 次に,「(結晶構造中にナトリウムもしくはカリウムを実質的に含むものを除\nく。)」との事項が,本件明細書の記載から自明な事項であるか,すなわち,本件 出願時の技術常識に照らして,本件明細書に記載されているも同然であると理解す ることができるか否かについて検討する。 (ア) 本件発明1は,電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物又はカ リウム化合物で中和し,所定のpH及びナトリウム又はカリウムの含有量とした電 解二酸化マンガンに,リチウム原料と,アルミニウムその他特定の元素のうち少な くとも1種以上の元素で置換されるように当該元素を含む化合物とを加えて混合し, 所定の温度で焼成して作製することを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの 製造方法であるところ,このような製造方法で製造したスピネル型マンガン酸リチ ウムにおいて,原料として用いられた電解二酸化マンガンの中和に用いられたナト リウム又はカリウムがどのような形態で存在するかについては,本件出願当時,少 なくともこれがLiMn2O4の結晶構造中ではなく,その外側に存在するとの技\n術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 一方,前記5(2)イ(ウ)及び同ウのとおり,乙18文献の記載に照ら して,リチウム二次電池の正極活物質として用いられるLiMn2O4を作製する 際に,ナトリウム,ナトリウム化合物,アンモニウム化合物などの添加剤を混合し て焼成することにより,LiMn2O4の結晶構造中にナトリウムが取り込まれ,\nそれによりマンガンの溶出が抑制されることが知られていたと認められ,また,乙 15文献の記載に照らして,電解二酸化マンガンを水酸化ナトリウムで中和するこ とにより得られた二酸化マンガンは,ナトリウムを含有すること,このような二酸 化マンガンを原料にしてリチウムマンガン複合酸化物を作製すると,二酸化マンガ ン中のナトリウムは,リチウムマンガン複合酸化物中のリチウムイオンの吸蔵放出 サイトに取り込まれることが,広く知られていたと認められる。 そして,本件出願当時,中和剤あるいは添加剤として用いられたナトリウムが, 焼成後のリチウムマンガン複合酸化物やスピネル型マンガン酸リチウムの結晶構造\n中に取り込まれることなく存在する場合があることや,その場合のナトリウムの具 体的な存在形態を示す知見を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) これらの事情に加え,ナトリウムを添加剤として添加する場合と, 電解二酸化マンガンの中和に用いる場合とで,焼成時のナトリウムの挙動に差異が あることを示す技術常識が存在すると認めるに足りる証拠はないことに照らせば, スピネル型マンガン酸リチウムの製造工程において用いられる電解二酸化マンガン をナトリウム又はカリウムで中和処理するとの本件明細書の記載に接した当業者は, 中和処理に用いられたナトリウムやカリウムが,焼成後に得られるスピネル型マン ガン酸リチウムの結晶構造中に取り込まれることをごく自然に理解するというべき\nである。これに対し,本件明細書の記載から,本件発明1の製造方法により製造さ れたスピネル型マンガン酸リチウムにおいて,ナトリウムやカリウムがLiMn2 O4の結晶構造中ではなくその外側に存在することを,本件明細書に記載されてい\nるのも同然の事項として理解することは,到底できないというべきである。 さらに,「本発明」におけるスピネル型マンガン酸リチウムの製造の際に用いら れる原料や製造工程の具体的な内容を含む本件明細書の記載を見ても,上記の理解 を否定すべき事情は見当たらない。

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平成27(行ケ)10054  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判

 薬品について、顕著な効果が認定できないとして、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 上記のとおり,本件明細書には,本件発明に関し,水性懸濁液の投与とこれ以外 の他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,1日1回の鼻腔内投与と この投与回数及び形態を変えた場合との対比はなされておらず,単にプラセボとの 対比による効果の有無しか記載がない。そして,本件優先日当時の技術常識を踏ま えると,水に難溶性の薬物の水性懸濁液は,他の溶媒を用いた溶液よりも,粘膜か ら吸収されにくいということはできるが,それだけでは,治療効果の具体的な違い は把握できないし,また,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の治療 効果がどの程度であったかを読み取ることも,困難である。 他方,甲1発明及び甲2発明においても,アレルギー性鼻炎に対する一定の治療 効果が期待されることは上記のとおりである。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1 が,治療効果の点で優れているかどうかを理解することは困難といわざるを得ない。
イ 全身的な吸収及び代謝
本件明細書には,本件発明に関し,経口溶液と比して,鼻腔スプレー懸濁液の方 が,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が血 漿中で定量限界以下しか存在しないという効果があることが記載されているが,経 口懸濁液と同程度の効果があることの記載しかない。そして,技術常識を踏まえて も,他の形態で投与した場合(例えば,溶液の形態での鼻腔内投与)や異なる投与 回数の場合の全身的な吸収及び代謝がどの程度であったかを推認することは困難で ある。 他方,甲1発明において,腹腔内投与及び経口投与後のモメタゾンフロエートの 血漿中の量は高くなく,比較的短期間で消失することは理解できるが,鼻腔内投与 の場合における全身的な吸収及び代謝の程度は全く不明といわざるを得ない。甲2 発明は,水性懸濁液を鼻腔内に使用した発明であるが,本件優先日において,少な くとも,鼻腔内投与の場合にモメタゾンフロエートの全身的な吸収や代謝後の残存 が常に高いという技術常識はない。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1 が,全身的な吸収及び代謝の点で優れているかどうかを理解することはできないと いわざるを得ない。
ウ 全身性副作用
本件明細書には,本件発明に関し,プラセボとの対比において,HPA機能抑制\nに起因する全身性副作用がないことが記載されているだけで,他の形態(例えば, 溶液)で投与した場合との対比や,投与回数を変えた場合との対比はなされていな い。そして,当事者の技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合や異なる投 与回数の場合の副作用がどの程度であったかを読み取ることは困難である。 他方,前記(2)及び(3)のとおり,甲1発明及び甲2発明において,モメタゾンフ ロエートは,経口吸入及び鼻腔内吸入をしても,実用可能な程度の副作用しかない\nといえるし,本件優先日において,少なくとも,モメタゾンフロエートの全身的な 吸収が必ず高いという技術常識はない。 そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明が, 全身性副作用の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得 ない。
エ 以上によれば,本件発明には,薬としての一定の治療効果を有し,実用 可能な程度の副作用しかないことは認められるとしても,本件発明の当該効果が,\n甲1発明及び甲2発明の効果とは相違する効果であるということはできないし,ま た,本件明細書上,それらの効果とどの程度異なるのかを読み取ることができない 以上,これをもって,当業者が引用発明から予測する範囲を超えた顕著な効果とい\nうこともできない。よって,この点に関する審決の判断には誤りがある。
オ 審決は,甲1及び甲2には,1日1回の投与の記載がなく,治療効果の 程度についての記載もなく,本件発明の治療効果を予測できないと判断した。しか\nしながら,甲1発明及び甲2発明において,一定の治療効果が認められながらその 程度についての記載がない以上,当該効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るも のと認められない限り,本件発明の効果が顕著なものであるとはいえないはずであ る。審決は,甲1及び甲2の治療効果の程度についての認定をせずに,本件発明の 効果がこれを格別上回ると判断したものであって,論理的に誤りがあるといわざる を得ない。 また,審決は,皮膚に適用した場合の全身性副作用について開示する甲1から, 鼻腔粘膜に投与された際の全身性副作用の大きさを予測できないと判断したが,本\n件発明の効果と甲1発明の効果を同質であると認めた以上,甲1発明において,鼻 腔粘膜に投与した際の全身性副作用の方が,皮膚に投与した際と比して常に優れた ものといえない限り,本件発明の効果が顕著なものとはいえないはずであり,この 点についても,審決に論理的な誤りがあるといわざるを得ない。 さらに,審決は,本件発明について,甲1発明で示された最小限の全身性副作用 よりも低いレベルの全身性副作用しかないから,顕著な効果があると判断したが, この審決の判断には,前記(1)イのとおり,モメタゾンフロエートの全身性吸収及び 代謝後の残存量の問題と全身性副作用の有無の問題を同一視した点において誤りが ある。その上,皮膚へ投与する甲1発明と鼻腔に投与する本件発明において,投与 される組織の相違による吸収性の違いがあるからといって,甲1発明の全身性副作 用が実用化できない程度に強いとは当然にはいえないはずであり,この点について 効果の顕著性を認めた審決の判断にも,論理的な誤りがある。しかも,水性懸濁液 のモメタゾンフロエートの全身性吸収の低さ及び代謝後の残存量の少なさは,本件 発明と同様,水性懸濁液の鼻腔内投与を行う甲2発明が有するはずであり,甲2発 明の副作用の程度が開示されていないとはいえ,審決が,甲1発明と甲2発明を組 み合わせて薬として実用化可能な本件発明の構\成を想到できたとする以上,この組 合せと比して本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討する必要があ る。しかしながら,審決では,甲1発明との対比しかなされておらず,検討が不十\n分であったといわざるを得ない。

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平成27(行ケ)10219  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月12日  知的財産高等裁判所

パロディーの「フランク三浦」が「フランクミュラー」から無効理由あるかが争われました。知財高裁は、類似するとした審決を取り消しました。侵害事件ではありません。
(ア) 本件商標と引用商標1を対比すると,本件商標より生じる「フラン クミウラ」の称呼と引用商標1から生じる「フランクミュラー」の称呼 は,第4音までの「フ」「ラ」「ン」「ク」においては共通するが,第 5音目以降につき,本件商標が「ミウラ」であり,引用商標1が「ミュ ラー」であって,本件商標の称呼が第5音目と第6音目において 「ミ」「ウ」であり,語尾の長音がないのに対して,引用商標1におい ては,第5音目において「ミュ」であり,語尾に長音がある点で異なっ ている。しかし,第5音目以降において,「ミ」及び「ラ」の音は共通 すること,両者で異なる「ウ」の音と拗音「ュ」の音は母音を共通にす る近似音である上に,いずれも構成全体の中間の位置にあるから,本件\n商標と引用商標1をそれぞれ一連に称呼する場合,聴者は差異音 「ウ」,「ュ」からは特に強い印象を受けないままに聞き流してしまう 可能性が高いこと,引用商標1の称呼中の語尾の長音は,語尾に位置す\nるものである上に,その前音である「ラ」の音に吸収されやすいもので あるから,長音を有するか否かの相違は,明瞭に聴取することが困難で あることに照らすと,両商標を一連に称呼するときは,全体の語感,語 調が近似した紛らわしいものというべきであり,本件商標と引用商標1 は,称呼において類似する。
他方,本件商標は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた構成から\n成るのに対し,引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるか\nら,本件商標と引用商標1は,その外観において明確に区別し得る。 さらに,本件商標からは,「フランク三浦」との名ないしは名称を用 いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対 し,引用商標1からは,外国の高級ブランドである被告商品の観念が生 じるから,両者は観念において大きく相違する。 そして,本件商標及び引用商標1の指定商品において,専ら商標の称 呼のみによって商標を識別し,商品の出所が判別される実情があること を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,本件商標と引用商標1は,称呼においては類似するも のの,外観において明確に区別し得るものであり,観念においても大き く異なるものである上に,本件商標及び引用商標1の指定商品におい て,商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められず,称呼 による識別性が,外観及び観念による識別性を上回るともいえないか ら,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとして も,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。 そうすると,本件商標は引用商標1に類似するものということはでき ない。
(イ)a これに対し,被告は,本件商標は,著名ブランドとしての「フラ ンク ミュラー」の観念を想起させる場合があることから,著名ブラ ンドとしての「フランク ミュラー」の観念を生じる引用商標1と は,観念において類似し,称呼においても類似するから,両者は類似 の商標である旨主張する。 確かに,前記(2)アのとおり,被告使用商標ないしは引用商標1が,被 告商品を表示するものとして,本件商標の登録査定時に,我が国にお\nいて,需要者の間に広く認識され,周知となっていたのであるから,前 記(ア)のとおり,本件商標と引用商標1の称呼が類似することと相ま って,本件商標に接した需要者が,本件商標の称呼から,称呼の類似 する周知な被告使用商標ないしは引用商標1を連想することはあり得 るものと考えられる。 しかしながら,本件商標は,その中に「三浦」という明らかに日本 との関連を示す語が用いられており,かつ,その外観は,漢字を含ん だ手書き風の文字から成るなど,外国の高級ブランドである被告商品 を示す引用商標1とは出所として観念される主体が大きく異なるもの である上に,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名に関 連する語を含む商標を用いていることや,そのような語を含む商標な いしは標章を広告宣伝等に使用していたことを裏付ける証拠もないこ とに照らすと,本件商標に接した需要者は,飽くまで本件商標と称呼 が類似するものの,本件商標とは別個の周知な商標として被告使用商 標ないしは引用商標1を連想するにすぎないのであって,本件商標が 被告商品を表示すると認識するものとは認められないし,本件商標か\nら引用商標1と類似の観念が生じるものともいえない。

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平成27(ワ)7540  発信者情報開示請求  著作権  民事訴訟 平成28年3月15日  大阪地方裁判所

「アクシスフォーマー.com」のPunycode(ピュニコード)のドメイン名を使用する行為が不競法2条1項12号の不正競争に該当するかが争われました。裁判所は、原告の特定商品等表示と類似のドメイン名であるとして、プロバイダーに発信者情報の開示を命じました。
 本件日本語ドメイン名の「アクシスフォーマー.com」のうち,「.com」の 部分はいわゆるトップレベルドメインであって識別力が弱いから,本件日本 語ドメイン名の要部は,「アクシスフォーマー」の部分であるところ,これ は,不正競争防止法2条1項12号の特定商品等表示に該当する原告製品の\n名称と同一であるから,本件日本語ドメイン名は,認められる。
・・・
ところで原告製品の購入を検討しようとする需要者がインターネットを利 用する場合,原告製品名である「アクシスフォーマー」を検索ワードとして, グーグル等の検索エンジンを利用して検索するのが一般的と考えられるが, 本件サイトは,本件日本語ドメイン名に「アクシスフォーマー」を含むもの であるから,本件サイトは検索結果として上位になり,またそのドメイン名 から目的とする検索サイトであると理解されるので,上述のアクシスフォー マーという原告製品名を手掛かりにしてインターネット検索をした一般的な 需要者は,必然的に本件サイトに誘導されたものと認められる。 そして,一旦,本件サイトにアクセスした場合,本件サイトは,確かに原 告製品を販売商品として取り扱うサイトであるので,その内容に注目して閲 覧することになるが,本件サイトのウェブページの記載内容は,一般的な商 品取扱いサイトのように取扱商品の優秀性を謳うものではなく,上記(2)にみ られるように,原告製品が問題のある商品というだけでなく,それを製造販 売する原告さえも問題があるようにいうものである。すなわち,被告は,本 件発信者が大量の原告製品を抱えてこれを販売するために本件サイトを開設 したように主張するが,その本件サイトでは,原告製品に興味を持ち,その 購入を検討しようとしてインターネットを利用してアクセスしてきた需要者 に対し,ウェブページの随所において,需要者の購入意欲を損なうことを意 図しているとしか考えられない内容の記載をしているのであり,また,その 記載は,併せて製造者としての原告の信用を損なうことをも意図していると 解さざるを得ないものである。結局,これらのことからすると,本件サイト は,被告が主張するような原告製品の販売促進を意図したものではなく,む しろ原告が主張するように,原告に「損害を加える目的」で開設されたサイ トであると断ぜざるを得ないというべきである。
(4) したがって,本件サイトの契約者である本件発信者は,他人に損害を加え る目的で,原告の特定商品等表示である原告製品の名称と類似の本件日本語\nドメイン名を使用したものであり,これは不正競争防止法2条1項12号の 不正競争に当たる。

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平成27(行ケ)10174  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年3月23日  知的財産高等裁判所

「チャッカマン」は周知ではあるが、「チャッカボー」と非類似、また、混同もなしとした審決が維持されました。
本件商標と原告使用商標とが非類似の商標であって,両商標において共通する「チ ャッカ」の文字部分も,本件指定商品及び原告商品との関係において,その需要者 に「着火」の語を直ちに想起させるものであって,格別に独創性が高いものではな いから,本件商標は,これに接する需要者をして,原告使用商標を連想させて商品 の出所について誤認,混同を生じさせるおそれある商標とはいえず,かつ,フリー ライド又はダイリューションを招くとまでもいえない。

◆判決本文

◆関連判決はこちち。平成27(行ケ)10173

◆関連判決はこちち。平成27(行ケ)10172

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平成27(ネ)10102  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年3月23日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 プログラムが利用するテンプレートデータについて、著作物に該当しないとした1審判断が維持されました。
 プログラムの著作物の複製権又は翻案権を侵害したといえるためには,既存のプ ログラムの具体的表現中の創作性を有する部分について,これに依拠し,この内容\n及び形式を覚知させるに足りるものを再製するか,又は,その表現上の本質的な特\n徴の同一性を維持しつつ,これに修正,増減,変更等を加えて,新たな思想を創作 的に表現し,新たな表\現に接する者が従来の表現の本質的な特徴を直接感得するこ\nとのできるものを創作したといえることが必要であり,単にプログラムが実現する 機能や処理内容が共通するだけでは,複製又は翻案とはならない。\n本件においては,控訴人プログラム及び被控訴人プログラムのいずれについても, 極めてわずかな部分を除いては,適式にソースコードが開示されておらず,それぞ\nれのプログラムの具体的表現は不明というほかなく,控訴人プログラムの創作性の\nある具体的表現内容やこれに対応する被控訴人プログラムの具体的表\現内容も不明 である。もっとも,控訴人プログラムのソースコードは,約19万行と認められるから(弁論の全趣旨),その全部に創作性がないことは考えにくく,仮に,被控訴人\nプログラムが,控訴人プログラムにおいて創作性を有する蓋然性の高い部分のコー ドの全部又は大多数をコピーして作成されたものといえる事情があるならば,被控 訴人プログラムは,控訴人プログラムを複製又は翻案したものと推認することがで きる。
以下,この観点から,控訴人の指摘する点に沿って検討を加える。
(2) 控訴人の主張について
1) 被控訴人が控訴人プログラムのTemplate.mdbを複製したことは,当事者間に争いがない。 しかしながら,被控訴人がTemplate.mdbを複製したのは,専ら旧SSTとの互換性を確保するためであると認められるところ,上記のとおり,Template.mdbに格納するデータはTemplate.mdb以外のプログラムが処理をするものであり,当該データを定義するコードを除いて,Template.mdbを複製したからその余のプログラムも複製されたと推認される関係にはない。また,Template.mdbに格納するデータは,前記1(1)のとおり,作成された文字情報や各種設定情報であるから,これを定義するコードの表現に選択の幅はないか,ほぼないと認められるから,このコード自体に創作性を認めることも困難である。たがって,Template.mdbが複製されているとしても,そのことは,被控訴人プログラムが控訴人プログラムにおいて創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数をコピーしたことを推認させる事情とはいえない。
2) 控訴人プログラムには,xlsx形式(Excel2007)で出力された字幕ファイルであっても,その拡張子に「xls」(Excel2003)が付されてしまう事象が生じていたところ,平成25年にリリースされた本件プログラムでも同様の事象が生じていたたことが認められる(甲36,37,157,159)。上記事象の原因が,控訴人が主張するように,この事象に関係するコードがExcel2007が頒布開始された平成19年(2007年)より前に作成されたことによるのか,被控訴人が主張するように開発環境にExcel2007がなかったことによるのか, あるいは,単なるバグであるのか(平成25年にリリースされた製品でもそれ以前 に販売されたソフトウェアに対応する必要性はある。),いずれとも確定し難い。し\nたがって,上記事象が,控訴人プログラムのソースコードと被控訴人プログラムの\nソースコードとの特異な一致ということもできない。\nしたがって,上記事象があるとしても,そのことは,被控訴人プログラムが控訴 人プログラムにおいて創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数 をコピーしたことを推認させる事情とはいえない。
3) 控訴人は,本件プログラムには,字幕ウィンドウのハコ全体に対する表示属\n性の設定がハコ内に入力される字幕すべてに適用されないという,控訴人プログラ ムと同様のバグがあると主張する。しかしながら,テキストを全選択して属性設定をしても,その選択範囲よりも前の部分に新たに挿入した文字にその属性が反映されないのは,プログラムとして普通のことである。しかるに,そもそも本件プログラムにはハコ全体に対する表示属性設定機能\がないとの被控訴人の主張や,被控訴人プログラムのマニュアルにおける「全て個別設定になります。」との記載(甲23添付の別紙マニュアルの37頁)にかんがみると,控訴人提出の証拠(甲43〜46)によって示されているのは単なるテキストの全選択にすぎないものと認めるほかなく,本件プログラムに控訴人プログラムと同様のバグがあることを認めるには足りない。

◆判決本文

◆1審判決はこちち。平成25(ワ)18110

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平成27(ネ)10107  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 第1要件により均等侵害否定されました。1審では、文言解釈により技術的範囲に属しない、また進歩性なしとして特許104条の3により権利行使不能と判断されていました。\n
 これらの記載によれば,本件特許発明1の特徴となる技術的意義の一 つは,弾性腕の接触部についての有効嵌合長が短くなるという課題を解決するため に(【0005】【0008】),複数の弾性腕が,いずれも,端子の基部から接触線 に沿って平行に延びるという解決手段を採用することによって(【0013】,【00 25】,【0042】),端子の基部から延びる弾性腕が接触線を跨ぐことで相手端子 と当接することを防ぎ,その結果,各弾性腕を長く形成することができ(【0013】), そのため,有効嵌合長を大きく確保することができるという効果を奏する(【001 9】)ものであるから,弾性腕が,端子の基部から接触線に沿って平行に延びること は,本件特許発明1の効果を奏するために必要となる,特徴的な構成であると認め\nられる。 これに対し,本件特許発明1において,弾性腕の間に設けられた中央壁15は, 実施例で言及されているだけであるから,本件特許発明1において発明特定事項と なる必須の構成ではなく,また,本件特許1の明細書に従来技術に関する文献とし\nて掲げられた特開平8−236187号公報(甲19)に加え,特開2003−1 68505号公報(乙12),特開平6−76896号公報(乙15),バーグエレ クトロニクスジャパン株式会社カタログ(乙19。平成10年1月ころ発行)から も明らかなとおり,本件特許1の出願日及び本件特許2の原出願日である平成20 年8月5日当時において,コネクタでは,2つの端子の接触部側の間に,相手端子 を当接して停止させる効果をもたらす中央壁が必ず設けられるという技術常識は存 在しないから,当業者にとって,上記中央壁の設置が当然の構成ということもでき\nない。そして,中央壁が存在しない場合には,弾性腕の根元部分が接触線を跨ぐと, 有効嵌合長が短くなるし,仮に,中央壁を設ける場合であっても,弾性腕の根元部 分が中央壁よりも常に高い位置に設けられるとは限らないから,例えば,弾性腕の 最も根元の部分が,中央壁よりも低い位置から開始し,かつ,接触線に対して端子 溝側にある場合であっても,弾性腕が屈曲形状を有していて,中央壁よりも高い位 置で接触線を跨ぐときには,有効嵌合長が短くなることも想定され,したがって, 有効嵌合長の長さは,常に中央壁よりも高い弾性腕部分の長さになるわけではなく, 弾性腕の根元部分の位置や弾性腕の形状等にも左右される。本件特許1の明細書に 記載された従来技術としては,特開平8−236187号公報(甲19)では,相 手端子が当接する中央壁が存在しないコネクタが実施例として,特開2002−1 75847号公報(甲20)では,相手端子が当接する中央壁が設けられたコネク タが実施例として開示されているから,これらの従来技術を踏まえた本件特許発明 1は,相手端子が当接する中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を長くすること を確実にする効果を目指していた発明ということができる。 そうすると,本件特許発明1は,中央壁の有無にかかわらず,有効嵌合長を大き く確保することを課題とする発明である以上,当該効果を確実に実現するためには, 弾性腕の一部だけが接触線に対して一方の側に位置すれば足りるわけではなく,そ の全体が接触線に対して一方の側に位置することが不可欠であり,複数の弾性腕全 体が接触線の一方の側にあるという発明特定事項は,本件特許発明1の本質的部分 といえる。
(エ) これに対し,被控訴人製品1,2のいずれにおいても,内側接触子2 3(「上位に位置する弾性腕」)の内側湾曲部23Aの根元部分は,直線(接触線) Xを跨っているから,弾性腕が,接触線に対して一方の側に位置しているとはいえ ない。 したがって,被控訴人製品は,本件特許発明1の本質的部分である構成要件1B\nと相違するから,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

◆原審はこちらです。平成26(ワ)18842

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平成27(行ケ)10014  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月25日  知的財産高等裁判所

 化合物の製造方法について、一部の置換基を置換することについて動機付けなしとした審決が維持されました。
(ア) 原告らは,主張1)のとおり,マキサカルシトールの効率的な製造方法を検 討する当業者は,甲第4号証の図9から,エポキシド化合物(18)及び(19) のヒドロキシメチル基をメチル基に置き換えることを着想し,動機付けられると主 張する。 しかし,前記のとおり,甲第4号証の図9記載の工程は,25位の立体配置が異 なる二種類のマキサカルシトールの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に合\n成するための製造方法であり,まず,出発物質に試薬を適用して二重結合を有する 側鎖を導入し,次いで,これに香月−シャープレス反応を用いるという二段階の反 応を行うことにより,二重結合をエポキシ基に変換した中間体である二種類のエポ キシド化合物(18)又は(19)を選択的に生成し,さらに,各エポキシド化合 物のエポキシ基を開環することにより図9の右下に図示される2種類のステロイド 化合物を製造し,最後に,各ステロイド化合物を光照射及び熱異性化して,それぞ れから最終目的物である上記予想代謝物(12)又は(13)を生成するという一\n連の工程である。原告らの主張1)は,この一連の工程のうち終盤の,中間体(前駆 体)としてエポキシド化合物を経由するという点のみを取り出して,そのエポキシ ド化合物を得るまでの工程は,甲4発明1とは全く違うものに変更するというもの であるから,甲4発明1の一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由すると いう点に着目するという技術的着想が必要である(仮に,この甲4発明1をマキサ カルシトールの合成にも応用しようとするのであれば,甲4発明1の試薬を,4− ブロモ−2−メチル−テトラヒドロピラニルオキシ−2−ブテンに代えて,マキサ カルシトールの側鎖にとって余分なテトラヒドロピラニルオキシ基〔OTHP基〕 のない下図の4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン(臭化プレニル)を用い,それ 以外は,甲4発明1と同様の一連の側鎖導入工程,エポキシ化工程,エポキシ基の 開環工程を経る製造方法に想到することが自然である。)。 甲第4号証記載の試薬 4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン この点,甲第4号証には,図9の一連の工程が,特にエポキシド化合物を経由す る点に着目したものであることを示唆する記載はなく,むしろエポキシド化合物は, 26位が水酸化された側鎖末端の立体配置構造が異なる2種類のマキサカルシトー\nルの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に製造するという目的のために,香\n月−シャープレス反応を採用した結果,工程中において生成されることとなったも のにすぎないものと理解される。また,甲第4号証には,図9の合成方法によって マキサカルシトールの予想代謝物が高収率で得られたことが記載されているのみで,\n問題点の記載もなく,甲4発明1の一連の工程の改良(変更)をする際に,どの点 は変更する必要がなく,どの点を改良すべきかを示唆する記載もない(なお,仮に 改良すべき点として工程数を取り上げたとしても,側鎖導入工程,エポキシ化工程, エポキシ基の開環工程のいずれを短縮すべきなのかについての示唆もなく,二重結 合からエポキシ化を経由せず直接水酸化するという選択肢なども想定は可能であ\nる。)。 そうすると,当業者が,仮に甲第4号証の図9のマキサカルシトールの予想代謝\n物(又はその前駆体となるステロイド化合物)とマキサカルシトールの側鎖の類似 性から,甲4発明1をマキサカルシトールの合成に応用することを想到し得たとし ても,その際に,一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由するという点に 着目して,最終工程であるエポキシド化合物のエポキシ基を開環する工程の方を変 更せずに,その前段階である側鎖導入工程とエポキシ化工程は変更することを前提 として,マキサカルシトールの前駆体となるエポキシド化合物を製造しようとする ことを,当業者が容易に着想することができたとは認められない。

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平成27(行ケ)10113  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 医薬品の用量・用法を変えることについて、動機付けありと認定しました。 審決は無効理由なしと判断していましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
(ア) 甲10には,タダラフィルは,PDE5阻害剤であって,ヒトの勃 起機能不全の処置に有用であること(前記(2)ア(ア)ないし(カ),(ケ), (コ)),その用量について,平均的な成人患者(70kg)に対して1 日当たり,概ね0.5〜800mgの範囲であり,個々の錠剤又はカプ セル剤は,1日当たり単回又は数回,単回投与又は反復投与のため,好 適な医薬上容認できる賦形剤又は担体中に0.2〜400mgの有効成 分を含有するものであることが記載され(前記(2)ア(オ)),さらに,具 体的に,タダラフィルを50mg含む錠剤及びカプセルの組成例(前記 (2)ア(キ),(ク))が記載されている。 また,「実際には,医師は,個々の患者に最も適している実際の投与 計画を決定するが,それは特定の患者の年齢,体重および応答によって 変化する。上記の投与量は,平均的な場合の例であり,より高い又は低 い用量範囲が有益であるような個々の事例が存在するかもしれないが, いずれも本発明の範囲内である。」(前記(2)ア(オ))と,実際の患者に 投与する場合には,医者が最も好適と考えられる投与計画を決定するこ とも記載されている。 さらに,タダラフィルを用いたインビトロ試験において,PDE5阻 害作用につき,IC50が2nMであったことが記載されている(前記(2) ア(コ))。
(イ) 前記(ア)の記載に接した当業者であれば,甲10発明に係るタダラ フィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概 ね0.5〜800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有\n用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプ セルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場 合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解す ると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有す るシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害するこ とによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったこと から(前記イ(ウ)),甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに 当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識でき たものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは 医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の 用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するも のと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記アの技 術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgか ら段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最 大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当 業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認めら れる。 加えて,前記(ア)のとおり,甲10のタダラフィルに関するインビト ロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフ ィル(前記イ(ア))に比べ強いことが示されているのであるから,タダ ラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験にお いても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダ\nラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg〜50mg (前記イ(イ))及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者 において容易に行い得ることである。 以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評 価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効 果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは, 当業者が容易に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,経口投与された医薬化合物が,作用部位でどの程度の濃度 になるかを左右する薬物動態は,様々なファクターに影響され,これら のファクターは個々の医薬化合物によって様々に異なるとともに,各フ ァクターによる影響は総合的に生体に作用するものであるから,作用部 位において当該化合物が適切な濃度になるために必要な投与量は,ヒト における臨床試験を経て初めて設定され得るものであることは,医薬分 野における技術常識であり,経口投与する際の適切な用量は,インビト ロ試験での活性でのみ決定できるものではないし,ある医薬化合物の適 切な用量を,薬物動態が異なる全く別の化合物の用量を参考にして決定 することなどできないことも,医薬分野における技術常識である旨主張 する。 確かに,実際にヒトに対して薬物を経口投与する際における適切な用 量を決定するに当たっては,インビトロ試験での活性でのみ決定できる ものではなく,最終的にはヒトにおける臨床試験を経て決定されるもの であることは被告の主張するとおりである。 しかしながら,ヒトに対する適切な用法・用量を決定することに関し, 臨床試験においては,前記ア(ウ)のとおり,非臨床試験での全成績を詳 細に検討し,同薬効,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味し\nて決定されるものとされている以上,タダラフィルと同様にPDE5阻 害作用を有するシルデナフィルの用量や,タダラフィルのインビトロ試 験データを参考にすることも,当業者が当然行うことと認められる。こ の点につき,タダラフィルの用量の検討に当たり,シルデナフィルは参 考にできないほど薬物動態が異なるという知見が存在することをうかが わせる証拠もない。そして,医薬品の開発は,インビトロ試験で有用な 薬理効果が確認された化合物について,動物試験,さらにはヒトに対す る臨床試験を行い(甲24参照),最適な用量が決定されるものである が,この過程を経ること自体は,ヒトに医薬品を投与する際の適切な用 量を決定するに当たって通常想定されることであって,当業者が容易に なし得ることであるから,これらを行う必要があったことを根拠として, 医薬品の用量・用法に関する発明につき容易想到性を否定することはで きない。

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平成27(行ケ)10203  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟  平成28年3月24日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が維持されました。争点の一つが、3段併記の商標のうち、一部の文字列の使用が50条の使用に該当するかです。裁判所は審決と同様に、社会通念上同一とはいえないと判断しました。
ア 本件使用商標1は,別掲1のとおり,最上段に「Rubotan」の欧 文字,その下段に「LINE」の欧文字,さらに,その下段に「LIQU ID」の欧文字,「ルボタン」の片仮名文字及び「ライン」の片仮名文字 を三段に配してなる五段の標章である。
上段二段の「Rubotan」及び「LINE」の欧文字は,下段三段 の「LIQUID」,「ルボタン」及び「ライン」よりも文字が大きいこ と,「LIQUID」の下部の「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字 は,同じ大きさ,同じ書体でまとまりよく併記されていることからすると, 「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字は,「Rubotan」及び 「LINE」の欧文字の表音を示したものとして,本件使用商標1から\n「ルボタンライン」の称呼が自然に生じるものと認められる。「LIQU ID」の欧文字は,「液状」の意味を有し,本件使用商品が液状であるこ とを表示したものと理解することができ,しかも,上段二段の「Rubo\ntan」及び「LINE」の欧文字よりも文字が小さいことからすると, 出所識別標識としての機能は弱いものといえる。\n一方で,「Rubotan」の欧文字と「LINE」の欧文字は,上下 2段にまとまりよく併記されており,「Rubotan」の欧文字は筆書 き風の書体であり,「LINE」の欧文字は「Rubotan」の欧文字 よりもやや文字が大きいが,「Rubotan」の欧文字はゴシック体の 「LINE」の欧文字とは異なる筆書き風の書体であることからすると, 外観上,いずれかが顕著に際立っているということはできない。 加えて,本件使用商品は,販売名を「ルボタン ライン」とする「アイ ライナー」であり(前記(1)),本件使用商品の宣伝広告においては,本 件商品の画像とともに「ルボタンライン」,「ルボタンライン リキッド アイライナー」,「ルボタンアイライナー」などと表記され(甲22ない\nし27),本件証拠上,本件使用商品について,「LINE」の部分のみ をその出所の識別標識として使用していた事情は認められない。
イ 以上を総合すると,本件使用商標1の構成中の「Rubotan」及び\n「LINE」の欧文字は,分離して観察することが取引上不自然であると 思われるほど不可分的に結合しているものではないが,需要者,取引者に おいては,ひとまとまりの表示として認識するものと認められるから,\n「LINE」の欧文字部分が独立して自他商品識別標識として機能し得る\nものということはできない。 したがって,「LINE」の欧文字及びその表音を示した「ライン」の\n片仮名文字が,本件使用商標1の要部に当たるとの原告の主張は採用する ことができない。
ウ この点に関し,原告は,化粧品業界においては,書体,大きさ,段等を 異にする2以上の構成要素からなる商標については,それぞれの構\成要素 について商標登録を受けて使用するのが一般的であるという取引の実情が あり,このような取引の実情を考慮すると,「LINE」の欧文字が本件 使用商標1の要部に当たる旨主張する。 しかしながら,個々の商標の要部をどのように認定するかは,需要者, 取引者の認識等を前提に個別的に検討すべき問題であり,原告が主張する ような取引の実情があるからといって直ちに「LINE」の欧文字が本件 使用商標1の要部に当たることの根拠となるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 エ 以上のとおり,本件使用商標1の構成中の「LINE」の欧文字及び\n「ライン」の片仮名文字は本件使用商標1の要部に当たるものと認められ ないから,本件使用商標1は本件商標と社会通念上同一と認められる商標 であるとの原告の主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
(3) 本件使用商標2と本件商標の社会通念上同一性について
原告は,要証期間内に,別掲2のとおり,本件使用商品を6個梱包するた めの包装用容器(本件包装用箱)に,「 」の片仮名文字,その 下段にゴシック体で大きく表された「ライン」の片仮名文字を表\示して使用 していたものであり,「ライン」の片仮名文字の標章(本件使用商標2)は, 本件商標と社会通念上同一性のある商標であるから,原告又は通常使用権者 であるエリザベスは,要証期間内に,本件商標と社会通念上同一と認められ る商標(本件使用商標2)を本件使用商品に使用した旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,本件使用商品は,販売名を「ル ボタン ライン」とする「アイライナー」であり,本件使用商品の宣伝広告 においては,本件商品の画像とともに「ルボタンライン」,「ルボタンライ ン リキッドアイライナー」,「ルボタンアイライナー」などと表記され,\n本件証拠上,本件使用商品について,本件使用商標1の構成中の「LIN\nE」の部分のみをその出所の識別標識として使用していた事情は認められな いこと,本件包装用箱は,本件使用商品を6個梱包するための包装用容器で あること(甲95)に照らすと,本件包装用箱に接した需要者,取引者は, 本件包装用箱に付された別掲2の「ルボタン」及び「ライン」の片仮名文字 を,ひとまとまりの標章として認識し,上記標章から「ルボタンライン」の 称呼が自然に生じるものと認められるから,「ライン」の片仮名文字のみが 独立して自他商品識別標識として機能し得るものということはできない。\n

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平成27(ワ)27570  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月17日  東京地方裁判所

 均等侵害が置換可能性なしとして、否定されました。
 ア 本件明細書には要旨以下の記載がある。(甲2) 従来の車両用ルーフアンテナは,カバー部材内部に配設される電子 部品に対する防水対策のため,カバー部材の底面開口をボトムプレー トでふさぐとともに該ボトムプレートの周囲を覆うガスケットを配置 するなどして密閉性を確保していた。しかし,防水対策を施すために は多くの部品及びその部品加工の精度を高める必要があり高価となる。 また,内部気圧が低くなると隙間から雨水や洗浄水が浸入するおそれ があり,いったん内部に水分が侵入すると施された防水対策のために 逆に排水されにくく,カバー部材内部の湿度が高まって電子部品の破 壊,アンテナケーブルの腐食などの問題が生じていた。(背景技術。 段落【0002】〜【0004】) 本件発明は,上記問題点を解決するため,防水対策の必要がなく構\n成が簡易で部品点数が少ない安価な車両用ルーフアンテナを提供する ことを目的とする。(発明が解決しようとする課題。段落【000 5】) 本件発明では,コイルアンテナを保持する保持筒をカバーの天井部 の底面開口より上部に位置する下端部が,カバーとルーフパネルとの 隙間から浸入しルーフパネルに沿ってカバー内を流れる雨水等と接触 することがないから,カバー内部を密閉する防水対策の必要がない。 (発明の効果。段落【0009】) カバーの上面には突出部が一体成形され,該突出部の内部には保持 筒部が下向きに一体成形され,突出部の内面壁の両側にはブースター アンプ等を係止する係止爪が一体成形される。保持筒部にはスパイラ ル式のコイルアンテナの上端部が挿入されて保持され,該アンテナの 下端はカバーの底面開口よりも上部に位置する。(実施例。段落【0 013】,【0014】,図2,4)
イ 原告は,本件の特許出願手続において,当初,スパイラル式のコイル アンテナを用いる場合にその上端部を保持する保持筒はカバーの天井部か ら下向きに一体成形されるものであることを特許請求の範囲の請求項の一 つとしており,当初の明細書及び図面にも保持筒がカバーと一体成形され る構成以外の構\成は開示されていない。(乙1の1〜4) ウ 被告製品の短軸アンテナ素子はサイズが小さくコイルの巻数が少ない ため,それのみでは車両にあらかじめ設置されているポールアンテナに比 し受信感度が低く電気特性の良好な帯域幅も少ない。これを補うため,ア ンテナカバー上部の形状に合わせて形成した広面積の金属板からなる平板 アンテナ素子を短軸アンテナ素子に通電可能に接続することで,上記ポー\nルアンテナと同程度の受信感度を確保している。(甲10) 以上認定の事実に基づいて検討すると,本件発明は,カバーと一体成形 するという構成により,簡易な構\成で部品点数を少なくするという作用効 果を奏するものということができる。これに対し,被告製品のアンテナ部 は,いずれも平板アンテナ素子と短軸アンテナ素子をネジ止めにより通電 可能に接続した複合体であり,これを別部品であるアンテナカバーに接着\n剤で固定するため,アンテナカバー及びコイル以外に少なくとも金属棒及 び絶縁体(短軸アンテナ素子の構成部品),アンテナカバー上部の形状に\n合わせて形成した金属板(平板アンテナ素子)並びに短軸アンテナ素子と 平板アンテナ素子を接続するためのネジを要する。このように被告製品は, 本件発明のカバー,保持筒及びアンテナコイルに代えて相当多数の部品を 要しその構成も複雑であるから,本件発明と同一の作用効果を奏するとい\nうことはできない。 したがって,その余の要件について判断するまでもなく,構成要件C及\nびDについての均等侵害は成立しない。

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平成26(ワ)20422  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月17日  東京地方裁判所

 Appleと島野製作所の特許侵害訴訟です。島野の請求は棄却されました。理由は、イ号の「コマ」は本件発明にいう「押付部材」には該当しないというものです。裁判所は、明細書の記載および本件が分割出願であることも考慮しました。
 本件発明の「押付部材」に対応する被告製品中の「コマ」は,別紙被告ポゴ ピン断面図のとおり,球形ではなく,一部に球状の面を有するにとどまる。被 告が押付部材は球に限られるので被告製品は構成要件D2を充足しない旨主張\nするのに対し,原告は押付部材の一部(プランジャーピンの傾斜凹部に押圧さ れる部分)が球状の面であれば足りる旨主張するので,以下,検討する。 (1) まず,特許請求の範囲の記載をみるに,本件発明は,コイルバネで付勢し てプランジャーピンを突出させる接触端子に関するものであり(構成要件A\n〜C),コイルバネがプランジャーピンを直接押圧するのではなく,コイル バネとプランジャーピンの間に「押付部材」が介在し,これがコイルバネか ら付勢を受けて,その「球状面からなる球状部」がプランジャーピンの傾斜 凹部を押圧することに特徴がある(構成要件D1〜3)。\nこの「押付部材」という語は当該部材が果たす機能をそのまま記述したも\nのであるところ,その形状に関しては,プランジャーピンの傾斜凹部に押圧 される部分が「球状面からなる球状部」であるとされるのみであり,それ以 外の部分(コイルバネから付勢される部分,コイルバネ側とプランジャーピ ン側の中間部分)の形状については特許請求の範囲に何ら記載がない。そう すると,上記押圧される部分が球状に丸くなっていればそれ以外の部分はい かなる形状でもよいと解する余地がある。他方,押付部材の形状は,上記機 能を果たし得るものに限定されると考えられる上,同機能\\を果たすものであ ればいかなる形状の部材でも本件発明の技術的範囲に含まれるとすることは, 現に発明をして明細書に開示した範囲で保護を与えるという特許制度の趣旨 に反しかねない。そこで,特許請求の範囲に記載された「押付部材」の語の 意義を解釈するため,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載及び図 面を考慮することとする。
(2) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「押付部材」との語は一 切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイ ルバネの間に介在する部材として開示されているのは「絶縁球」のみであり, 図面に示されたのも球のみである。 すなわち,本件発明は,背景技術として,コイルバネが直接プランジャー ピンに触れるとコイルバネに電流が流れて焼き切れてしまうので,プランジ ャーピンとコイルバネの間に絶縁球を介在させた接触端子が存在したことを 前提に(段落【0002】〜【0004】),比較的大きな電流を流し得る接 触端子を提供することを目的として(同【0008】),プランジャーピンの 大径部(コイルバネ側)の端部を切削して袋孔を形成し,その底部を円錐面 とするとともに,円錐の中心軸とプランジャーピンの中心軸をオフセットさ せることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周 面に強く押し付け,確実に電流を流すことができるようにしたものである (同【0009】,【0013】〜【0015】)。そして,実施例及び参考例 をみても,押付部材に相当する部材としては「絶縁球」のみが記載されてい る(同【0024】〜【0030】,【0032】,【0036】,【0039】 〜【0042】,【図2】,【図4】,【図6】)。 以上のとおり,押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみで あり,これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当た らない。そうすると,本件明細書の記載を考慮すると,本件発明における押 付部材の形状は球に限られると解するのが相当である。
(3)さらに,本件特許の出願経過についてみるに,後掲の証拠及び弁論の全趣 旨によれば,1)本件特許は,特願2011−192407号を優先権の基礎 とする特願2011−271985号(原出願)から分割出願されたもので あること(甲2),2)上記優先権の基礎とされた出願及び原出願は,いずれ も名称を「接触端子」とする発明に関するものであり,特許請求の範囲,発 明の詳細な説明及び図面を通じ,プランジャーピンとコイルバネの間に介在 する部材として記載されているのは「絶縁球」のみであること(乙13,1 4),3)本件特許は平成25年4月19日に分割出願されたものであり,そ の特許請求の範囲に,プランジャーピンとコイルバネの間に「押付部材」を 介在させる旨記載されたこと(乙15),4)原告は,同年10月11日,押 付部材に係る特許請求の範囲の記載を「少なくとも一部に球状面を有する押 付部材の球状部」と補正したこと(乙17),5)これに対し,同月25日, 特許法36条6項1号違反を理由1(発明の詳細な説明には押圧部材に絶縁 球を用いることが記載される一方,請求項1には絶縁性を有しない押圧部材 が記載されていること),同法29条1項3号及び2項の違反を理由2及び 3(原出願に「押付部材」として記載されていたのは「絶縁球」のみであり, これを「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」とすることは適法な分 割出願でないので,請求項1記載の発明は原出願の公開特許公報により新規 性又は進歩性を欠くこと)とする拒絶理由通知が発せられたこと(乙4), 6)原告は,同年11月8日,上記4)の補正後の特許請求の範囲の記載を「押 付部材の球状面からなる球状部」と補正する旨の手続補正書と,絶縁性を有 しない押付部材でも本件発明の効果を奏するので,発明の詳細な説明に記載 されたものといえる旨の意見書を提出したこと(乙5,6),7)同月27日 に特許査定がされたこと(乙19),以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば,本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球 状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるというこ とができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本 件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有するこ とが明らかである。)。

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平成26(ワ)9945  特許権者確認等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月17日  大阪地方裁判所

 現行法の取戻請求が認められない案件について、不当利得返還請求権に基づく移転登録の請求が認められました。
 以上に認定した原告とP3社との合意内容(請求原因(4)の事実)及び原告と被告 との合意内容(請求原因(5)の事実)によれば,出願人名義を被告に変更した当時, 原告が本件発明に係る特許を受ける権利を有していたと認められ,その後,請求原 因(6)のとおり,本件特許権は,本件出願について特許法所定の手続を経て,設定の 登録がされたのであるから,本件特許権は,原告が有していた特許を受ける権利と 連続性を有し,それが変形したものであると評価することができる。 そうすると,被告は,法律上の原因なくして,本件特許権を取得したという利益 を得ているといえるから,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づいて, 本件特許権について移転登録手続を請求することができる(最高裁判所平成13年 6月12日判決・民集55巻4号793頁参照。なお,本件では,平成23年法律 第63号による改正後の特許法74条は適用されない。)。

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平成27(ネ)10014  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁の大合議判決です。争点は製法特許についての均等主張です。知財高裁は、均等を認めた1審判決を維持しました。第5要件の特段の事情について、出願時に容易にきさいできたにもかかわらず記載しなかった場合に、原則として、第5要件には当たらないと判断しました。
 この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,\n出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,\nしたがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとして\nも,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載し\nなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできな い。
なぜなら,1)上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載さ れた構成以外の構\成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質\n的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は, 出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出 願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許 さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとす ることとなる。また,2)出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示 した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきもので あることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条 6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細 書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先 願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを 作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限ら れた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲\nとこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される 場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者 は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特 許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載か ら容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理 は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行 使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護, 奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会 正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記 に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到す\nることができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外と することは相当ではない。
(イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の 範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構\成中の異なる部分に代替する ものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出 願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができる\nときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構\成による 発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しな\nかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。 なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記 載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,\n当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的\nにそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような 理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反し て当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理\nに照らして許されないからである。
イ 控訴人らの主張について
(ア) 控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表\n現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの 信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記の とおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であって も,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者\nが容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁\n反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限 られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確で あることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはな り得ないから,控訴人らの主張は理由がない。

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平成27(行ケ)10143  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月16日  知的財産高等裁判所

 本件発明認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
 原告は,本願発明は,較正液の加熱前の溶液温度のばらつきによって生じる目標 温度までの加熱時間のばらつきをなくすものであるとし,これに応じて,被告は, 本願発明にはそのような作用効果はないと反論する。 そこで,検討するに,本願発明は,較正液導入前にセンサ部の温度に応じてセン サ部を予熱するものであり,少なくとも,センサ部の温度差により生じる加熱時間\nの差は解消される。ただし,本願発明は,実際に導入された較正液の溶液温度の温 度差により,更に分析時までの加熱時間に差が生じることの解消を目的とするもの ではない。原告の上記主張は,前者の趣旨をいうものと解され,本願発明は,較正 液導入時におけるセンサ部の温度差により生じる加熱時間の差の解消という効果を 奏するものであるから,被告の上記主張は,採用することができない。 また,被告は,引用発明2は溶液の有無に関係なく温度制御を開始するものであ り,引用発明に引用発明2の加熱動作を適用すれば,予熱後に較正をする態様を採\n用すると主張する。 しかしながら,被告が上記に主張するように,引用発明2は,使い捨てカートリ ッジが挿入されると自動的に温度制御システムが起動するものであるとしても,引 用例2は,試料を電気化学セル中に入れずに温度制御を開始し,一定の加熱がなされ た後に当該セル中に試料溶液を導入するような態様を開示するものではなく,また, そのような例外的態様が示唆されているわけでもない。したがって,引用発明に引 用発明2の加熱動作を適用しても,相違点2に係る本願発明の構成には至らない。\n被告の上記主張は,採用することができない。 なお,被告は,当審において,引用発明2に加えて周知例(乙2〜7)を提出し, 較正に先立って予熱を行う態様が周知である旨の主張立証をするが,実質的に審決\nが全く取り上げていない周知技術を新たに追加するものであって,許されない。し かも,上記各文献からは,センサ部の温度にかかわらず較正前に自動的に一定時間 の予熱を行う態様のものしか認められず,センサ部の温度によって較正前に予\熱を 行うかどうかを選択する態様のものが周知の技術であったとは認めるに足りない。

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平成27(行ケ)10015  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月10日  知的財産高等裁判所

 H5年出願における補正が要件を具備しているのかについて審判では、新規事項でないと判断しました。裁判所は、法令の適用を誤ったが、旧41条と現行の17条の2第3項は判断基準は同じなので、取り消すまでもないと判断しました。
 上記(2)によれば,本件当初明細書には,第一の割り溝をエッチングにより 形成する際に,所定の形状のマスクを形成すること(段落【0008】,【0018】 【0019】),図4は図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であ り,図1及び図4では,第一の割り溝は,p型層3をエッチングして,n型層2を 露出するように形成されていること(段落【0012】,【0018】,【0019】),さらに,図4では,p型層3の隅部は半弧状に切り欠いた形状となっており,この 切り欠いた部分にn層の電極を形成できること(段落【0016】)が記載されてい る。上記の切り欠いた部分はn層の電極を形成するためのものであるから,n型層 2が露出していることも技術的に明らかであるといえるものの,本件当初明細書に は,第一の割り溝と切り欠いた部分を同時に形成するのか否かについては,明示的 には記載されていないことが認められる。 しかし,当業者であれば,半導体素子の形成に際して,工程数を削減することは当然に考慮すべき事項であるところ,第一の割り溝と切り欠いた部分はともにエッ チングによりp型層3を除去してn型層2を露出させることにより形成されるもの であるから,同時に形成することが可能であり,本件当初明細書の記載に照らして\nも,p型層3表面を基準とした両者の深さを異なるものにする必要性,すなわち,\n両者を別工程で形成する必要性があるとは認められない。 そして,本件当初明細書の「図1に示すように第一の割り溝を形成すれば,第一 の割り溝の表面に電極を形成することもできる」(【0027】)との記載も併せ考慮\nすれば,本件当初明細書には,p型層3のエッチングにより第一の割り溝を形成す る際に,p型層3上に形成するマスクの形状を矩形の隅部が半弧状に切り欠いた形 状として,第一の割り溝と切り欠いた部分を同時に形成することも当業者にとって 自明な事項であり記載されているに等しいものと認められる。 なお,本件当初明細書には「図4・・・では,p型層3を予めn層の電極が形成\nできる線幅でエッチングして,第一の割り溝11を形成し,さらにp型層3の隅部 を半弧状に切り欠いた形状としており,」(【0016】)との記載があり,「さらに という文言から,第一の割り溝を形成した後に切り欠いた部分を形成するという解 釈の余地もないわけではない。しかし,本件当初明細書の前記記載に照らせば,上 記の「さらに」は,経時的な順序を意味するのではないと解されるから,上記「さ らに」との記載があることは,第一の割り溝と切り欠いた部分を同時に形成するこ とが自明な事項であるとの認定判断を左右するものではないといえる。 したがって,本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし4に「前 記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形 状で線状にエッチングにより形成すると共に,第一の割り溝の一部に電極が形成で きる平面を形成する工程と,」という記載を追加する本件補正は,願書に最初に添付 した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものと認められる。 なお,審決は,本件補正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内のものである としたものの,これが旧法53条1項及び同法41条ではなく,現行特許法17条 の2第3項の規定する要件を満たすとの判断をしていると解され,法令の適用を誤 ったものといわざるを得ない。 しかし,同項は,「第一項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について 補正するときは,・・・願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・ に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定するところ,出願当 初の明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより,補正 が当業者によって,導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導 入しないものであるときは,当該補正は,明細書等に記載した事項の範囲内におい てするものということができ,補正事項が明細書等に明示的に記載されている場合 や,その記載から自明である事項である場合には,そのような補正は,特段の事情 のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,明細書等に記 載された範囲内においてするものであるということができると解される。 これに対し,旧法41条における明細書等に記載した事項の範囲内についても, 同記載の範囲及び出願時において当業者が当初明細書の記載からみて自明な事項を 含むものと解されるから,現行特許法17条の2第3項の解釈ともこの点において 実質的に異なるものではないということができる。 そして,本件補正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものと 認められることは前記認定のとおりである。 以上によれば,審決は,法令の適用を誤ったものの,旧法を適用したとしても判 断内容自体には誤りはないから,本件補正が補正の規定の要件を満たすとの結論に おいても誤りはないといえる。 したがって,審決は,その結論に影響を及ぼす違法があるとまではいえないから, これを取り消すべきものということはできない。

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平成27(行ケ)10105  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月9日  知的財産高等裁判所

 「からなる」という用語が不明瞭か争われました。知財高裁は不明瞭でないとした審決を維持しました。
 (2) まず,「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」中の「からなる」との 文言について,「から」という格助詞と「なる(成る)」という動詞とから成り立つ もので,「から」は,直前に記載されたものが素材,材料,構成要素となることを示\nす語であり,「なる(成る)」は,成立する,構成するを意味する語であることは明\nらかである。そうすると,「Aからなる」ものは,Aを「素材・材料・構成要素」と\nして「成立する・構成されている」ものを意味すると解される。\nしたがって,「(A)からなる」という場合には,Aを必須の構成要素とすること\nは明確であるものの,それ以上に,Aのみで構成され,他の成分を含まないものか,\nAのほかに他の成分を許容するか否かについて規定するものではなく,「Aのみから なる」場合をも包含する概念であると認められ,このこと自体に当事者間に実質的 な争いはない。 そして,例えば,含有する金属が一部異なると,特質が全く異なるものとなる一 部の合金における分野等と異なり,医薬液体製剤については,pHの調整や,安定 性,保存性を高めるために何らかの添加剤が含有される場合が多いことは,原告も 認めるとおり,周知のことである。 そうすると,明細書において,「からなる」の前に摘示された素材,構成要素以外\nの成分を排除することが明らかでない限り,「Aからなる」とは,Aを必須の構成要\n素とするものである以上に,他の成分については規定しておらず,単に「Aを含む」 ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され,また,他の成 分を排除するか否か規定していないからといって,「Aからなる」の語が,特段不明 確な用語と理解されるものでもない。 次に,本件明細書を見るに,その記載は,前記(1)のとおりであって,オキサリプ ラティヌムを水に溶解したオキサリプラティヌム水溶液を構成要素とする製剤であ\nることは明らかであるが,本件発明1の「オキサリプラティヌム水溶液」に他の成 分を含んではならないことを示す記載はなく,他の構成要素を含有することが排除\nされているとまではいえない。 したがって,当業者は,本件発明1は,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4. 5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」を必須の構成要素とすることだけが\n特定された製剤であって,該製剤に他の構成要素が含まれることが排除されてはお\nらず,かつ,「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含 量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のま まである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に係 る発明と一義的に理解することが可能であるといえる。\nよって,本件発明1は明確であり,同様の理由により,本件発明2〜9も明確で ある。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,審決が,不純物や溶存酸素・窒素が許容された例の記載がある ことを本件発明が他の成分を許容する根拠の一つとしたことについて,本件明細書 の中に,これらが許容された例の記載があったとしても,それによって「からなる」 の意味が明確となるわけではなく,むしろ,発明の詳細な説明の記載を踏まえれば, 当業者は,「からなる」を,少なくとも,「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もし くはその他の添加剤」を排除する意味と解することは極めて明確であるから,この 点を踏まえずに明確性を認めた審決は,誤りであると主張する。 確かに,医薬製剤において,通常,不純物がその製剤の構成要素とみなされると\nはいえないから,不純物に関する記載をもって,当該製剤が他の成分を排除するも のであるかどうかは判明するものでないとする点については,原告の主張するとお りである。 しかし,後記2において詳述するとおり,本件明細書を見ても,原告の主張する ように,本件発明が「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤」 を排除することが明らかであるとはいえない。また,仮に,原告主張のように本件 明細書から,本件発明が,これら添加剤を排除することが明確であり,「オキサリプ ラティヌムの水溶液からなる」とは,オキサリプラティヌムと水のみから構成され\nる,すなわち,「オキサリプラティヌムの水溶液のみからなる」ことが明らかである とするならば,いずれにせよ,明確性要件を欠くことにはならない。
イ 次に,原告は,本件明細書には,「からなる」の意義を解釈するに当たり, 「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤」を含んでいても安 定な製剤が得られることを示唆する記載はない旨主張する。 しかし,上記記載がないことが,上記添加物を排除することを意味するとはいえ ない上,前記のとおり,本件発明1には,「オキサリプラティヌムの水溶液」を構成\n要素とすることのみが規定されており,他の成分については規定されていないので あるから,原告主張の添加剤が含まれる例が記載されていないことは,明確性要件 を何ら左右するものではない。
ウ また,原告は,審決が,本件の国際出願におけるフランス語の原文を斟 酌しておらず,その結果,本件明細書の記載事項の判断を誤った旨主張する。 しかし,特許法184条の6第2項は,外国語特許出願に係る国際出願日におけ る明細書及び請求の範囲の翻訳文が,同法36条2項の規定により願書に添付して 提出した明細書及び特許請求の範囲とみなされる旨を規定しており,以降の審査に おいてすべて翻訳文を基準とすることが明らかにされている。したがって,本件発 明の明確性要件を判断する際に,外国語特許出願に係る国際出願日における特許請 求の範囲及び明細書の各翻訳文を考慮すれば足り,それらの翻訳文の記載から離れ て,本件の国際出願におけるフランス語の原文の記載を考慮することはできない。
エ さらに,原告は,拒絶理由通知に対する意見書(甲2)及び審判事件答 弁書(甲6)における被告の主張からみて,「からなる」が,酸性又はアルカリ性薬 剤,緩衝剤を排除する閉鎖的な意味で用いられていたとの解釈が可能であることが\n裏付けられると主張する。 しかし,特許法36条6項2号は,前記のとおり,特許請求の範囲が不明確とな る場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となって第三者に不測の 不利益を及ぼすことがあり得ることから,これを防止するために要求されるもので あり,あくまで明細書の記載要件である以上,その適否は,当該記載から客観的に 判断されるべきであって,出願経過や審判における対応を斟酌することは,かえっ て,特許が付与された権利範囲を不明確にするものといわざるを得ない。特許権の 行使場面において,その技術的範囲を判断する際に,出願経過等の事情を斟酌する ことはともかくとして,本件発明の明確性要件の判断をする際に,これらを考慮す ることは相当ではなく,原告の上記主張は採用できない。 オ 加えて,原告は,「からなる」が多義的であることを前提として,その解 釈に当たっては明細書を参酌することが必要であるが,本件明細書の記載を参酌し てもなお,「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤」を含み得 るかどうかが確定できないがゆえに,特許請求の範囲が不明確である旨の主張もす る。 しかし,原告は,一方で,前記アのとおり,本件明細書の記載によれば,本件発 明に上記添加剤が含まれないことは明確であるとも述べており,その主張は一貫し ないものである。また,前記のとおり,「オキサリプラティヌムの水溶液からなる」 とは,「オキサリプラティヌム」と「水」を必須の構成要素として含むことを規定す\nるものであるが,その他の成分については何ら定めがない製剤と理解することがで きるのであるから,その他の成分について含有するかしないかを確定することは必 要ではなく,原告の主張は失当である。

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平成27(ネ)10104  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で均等侵害を主張しましたが、第1要件、第5要件を満たしていないとして、否定されました。
ア 均等侵害の第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成と相手方が製造等をする製品又は用いる方法との異なる部分が特許発明の本質的部分でないことであ\nる。そして,特許発明における本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部\n分であると解すべきである。
イ 本件各発明は,前記1(4)イのとおり,HMG−CoA還元酵素阻害剤として 高脂血症の治療に有用な,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む 医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの 結晶性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題 とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコ ントロールすることでその安定性が格段に向上すること及び結晶形態AないしCの 中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというもので ある。 そうすると,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶 性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とす る本件各発明において,特定の結晶形態をとることが,上記課題の特徴的な解決手 段であるといえる。 そして,本件各明細書には,結晶形態AないしCの3種類の結晶形態は,水分が 同等で結晶形態が異なる形態であり,結晶形態B及びCは,「いずれも結晶形態A に特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在し ないことから,結晶多形であることが明らかにされる。」(本件明細書1【001 4】,本件明細書2【0015】)とあるように,CuKα放射線を使用して測定 した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存在する3本のピークの回折角が存在 しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されているの みで,結晶形態B及びCに係る回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図 を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切なく,他方で,結晶形態A については,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折パターンとして,別 紙本件明細書1図表目録2記載のとおりの数値が記載され,同目録3記載の【図1】の記載があるのみで,それ以上の特定はされておらず,結晶形態Aに係る回折角に\nついて,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一 部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載も一切 存しない。 以上によれば,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各明細書において,本件各発明の課題の特徴的な解決\n手段である特定の結晶形態を,他の結晶形態,すなわち本件各発明の課題の解決手 段とはなり得ない結晶形態と画する唯一の構成として開示されたものであるということができる。\nしたがって,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各発明の課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核\nをなす特徴的部分であるというべきである。
ウ そうすると,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩 における15本のピークの回折角であるとする数値は,前記1(5)のとおり,原判決 別紙物件目録(1)記載のとおりであり,控訴人の特定する数値によったとしても,1 5本の全てが構成要件C・C’の回折角の数値と相違するのであるから,被控訴人製品は,本件各発明と課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的\n部分において相違していることになる。 以上によれば,被控訴人製品は,均等侵害の第1要件を充足しない。
(3) 均等侵害の第5要件について
ア 均等侵害の第5要件は,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が特許発 明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな どの特段の事情がないことである。
イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通 知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相\n当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過においても,拒絶理由通知を受け,構\成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入する平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の 限定的減縮に相当するものであることを表明した。控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ\nーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された 結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対 して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本 件発明1の結晶を特定したというほかない。 そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む 医薬組成物に関し,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの 結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に 含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係 る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願 当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15 本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。 以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明 の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると 解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明\nの特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。 したがって,被控訴人製品は,均等侵害の第5要件を充足しない。

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◆一審はこちらです。平成26(ワ)3344等


◆関連事件です。平成27(ネ)10108

◆この事件の一審はこちらです。平成26(ワ)688

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平成27(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月2日  知的財産高等裁判所

 引用文献(ダブルスピンドル方式の製造装置)にシングルスピンドル方式の構成を採用することについて動機付けを欠くとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n
 (ア) 前記(2)アのとおり,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石 によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法に,眼鏡レンズ を回転させないという構成を採用したものである。\nそして,前記(2)イのとおり,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルス ピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あ ること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとする ことにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採 用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。
(イ) 加えて,前記(2)イのとおり,ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置 は,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比 して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することが できるのに対し,シングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置がダブルスピンド ル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して優位な点があることは,本件証拠上,認める に足りない。
(ウ) したがって,当業者において,本願出願当時,引用発明に係る一対の加工 具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置につき,あえて加 工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の構成を採用することについては,\n動機付けを欠き,容易に想到し得ないというべきである。
(4) 相違点2の容易想到性について
ア 相違点2について
相違点2は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,レンズチャック軸と加工具回転軸 との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズ チャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発 明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向け て移動させるというものである点をいい,本願補正発明と引用発明との間に,この ような相違点が存在することは,当事者間に争いがない。 引用発明の砥石軸は,本願補正発明の加工具回転軸に相当し,また,引用発明の 眼鏡レンズは,本願補正発明のレンズチャック軸に相当する軸部材に保持されてい るものであるから,引用発明における上記軸間距離変動手段は,実質において,一 対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである。 よって,相違点2は,実質的には,軸間距離変動手段が,本願補正発明において は,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対 し,引用発明においては,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動さ せるというものである点をいうものと認められる。
イ 本願補正発明における軸間距離変動手段は,加工具回転軸が単数であること を前提とするものであり,加工具回転軸が複数の場合に同手段を採用することは, 事実上不可能である。\nしたがって,相違点2は,相違点1に係る加工具回転軸の個数差を前提とするも のということができ,相違点1に係る本願補正発明の構成が容易に想到し得ない以\n上,相違点2に係る本願補正発明の構成も容易に想到し得るものではない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,当業者において,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当 接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して 加わっている」(【0006】)という軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピン ドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを 理解することができることを前提として,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石 と当接させるという上記物理現象に対する引用発明の解決手段は,ダブルスピンド ル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当 業者であれば,上記解決手段の適用対象が,いずれの方式の装置であるかにかかわ らず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 本件証拠上,加工具回転軸の個数と軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは 認めるに足りず,したがって,たとえ,当業者において,上記解決手段がダブルス ピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても引用発明の課題であ る軸ずれを防止し得る旨を認識したとしても,それは,引用発明の一対の加工具回 転軸を1個の加工具回転軸とすることには,つながらない。

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平成26(ワ)11616  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年2月26日  東京地方裁判所

 崩し文字の「楽天」と「皇朝」の間に小籠包の図形があるので、読み「コウチョウ」は抽出されないと判断しました。なお、「皇朝小籠包」とのメニュー表示は商標権侵害とは認めたものの、損害は生じていないと判断されました。なお、下記箇所では、崩し文字ではなく「楽」表\記しています。
 そうすると,被告標章1からは,「ラクテンコーチョー」及び「コーチョー」のほか,「パラダイス ダイナシティ」及び「レジェンド オブ シャオ ロン ボー」という称呼が生じ得るものと解される。 この点に関して原告は,被告標章1は,図形及び文字により構成される標章であり,被告標章2は文字から成る標章であるところ,これらにおいては「楽天」及び「皇朝」の文字が大きく記載され,標章としての強い印象を与え,「楽」は「楽」の簡体字であるがこれを需要者において称呼することはできないから,被告標章1及び2の要部は「皇朝」の文字部分であり,「PARADISE DYNASTY」及び「LEGEND OF XIAO LONG BAO」の部分からは称呼が生じないから,被告標章1及び2からは「コーチョー」の称呼のみが生じる旨主張する。 しかし,被告標章1及び2において,「楽天」及び「皇朝」の黒い文字の間には湯気を上げた小籠包様の図形が茶色で表記されているものの,「楽天」と「皇朝」との間はそれほど離れておらず,「楽」の文字と「天」の文字,「皇」の文字と「朝」の文字の間隔とそれほど異ならず,\n一つのまとまりとしてみれること,「楽」が「楽」の崩し字として辞典類にも記載されていること,右下の落款様の部分は「楽天」と読むことが可能なこと,一般に,「楽天地」といえば「楽しさに満ちた天国のような土地」(広辞苑第6版2924頁)あるいは「楽園」(大辞林第3版2643頁)を意味するところ,「楽天皇朝」の文字部分と欧文字部分「PARADISE DYNASTY」との位置関係から,「楽天」が「PARADISE」に,「皇朝」が「DYNASTY」にそれぞれ対応していることが容易にうかがえることからすると,被告標章1及び2の漢字部分からは「ラクテンコーチョー」との称呼も生じ得るものと認めるのが相当である。
・・・・
前記(2)アのとおり,前提として,「皇朝」が「我が国の朝廷」との意味を有する普通名詞であることからすると,これを商品名である「小籠包」に付したとしても,もとよりその「皇朝」の部分の自他識別力は極めて弱いものというべきである。 そして,前記(2)イのとおり,被告店舗における「皇朝小籠包」の表示の使用方法は,被告店内におけるメニューに「皇朝小龍包」と表\示するものであるところ,被告店舗は,シンガポール発の小籠包専門店と宣伝されているとおり,小籠包をメニューの中心に据えた料理店であること,その他被告店舗の外観や,店内のメニュー等の記載内容からすれば,被告店舗内の小籠包のメニュー表示に「皇朝」との表\記をしても,それは被告店舗のメニューである小籠包を意味することは明らかであるから,被告店舗において供される「皇朝小籠包」につき,原告との出所の誤認を招来するものとは認められない。また,被告店舗で入手可能なリーフレット(甲6の2)においても,被告標章2が付されていること,「皇朝小籠包」の前に被告標章における「湯気を上げた小籠包様の図形」様の小さな図形が記載されていることを併せて見れば,「皇朝小籠包」との記載は,本来「楽天皇朝小籠包」と表\記すべきところをその一部を省略した表記とみることができ,前記(2)イのとおりのリーフレットのその他の記載内容からすると,被告店舗内で使用される限り,需要者である顧客は,「皇朝小籠包」との表示はあくまで被告店舗である「楽天皇朝」の「小籠包」の意味で使用されていると認識するにすぎないというべきであるから,原告との出所の誤認を招来するものとは認められない。\nさらに,前記(2)ウのとおり,原告の提出する証拠によっても,被告のウェブサイトには「皇朝小籠包」と表示するものはなく,その他原告との関連を伺わせる記載ないし表\示や,原告との関連を誤認したレストランガイド等の ウェブサイトの記載ないし表示も証拠上認められない。\n一方,原告は,前記(2)エのとおり,「皇朝」本店の名称を「明朝」と変更しているほか,同オのとおり,原告は「横浜中華街」ないし「中国料理世界チャンピオン」との表示と共に「皇朝」の文字を使用する場合が多く,原告を紹介するウェブサイトの記載もこれら「横浜中華街」ないし「中国料理世界チャンピオン」を強調するものとなっている。\n以上からすると,被告店舗において用いられた「皇朝小籠包」とのメニュー表示のうち,「皇朝」の部分そのものには顧客吸引力が認められず,「皇朝小籠包」との記載が被告店舗内で使用されている限り,当該標章の使用が被告店舗における売上げに全く寄与していないことは明らかであり,その使用によって原告に損害が発生しているものとは認められない。\nそうすると,原告は,被告に対し,法38条3項に基づく実施料相当額の損害を請求することができないというべきである。

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平成27(ネ)10119  損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成28年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ネット上の誹謗中傷削除サービスにおける広告活動が品質誤認(不競法2条1項13号)に該当しないとした1審の判断が維持されました。
 原告らは,被告ウェブサイト(広告)では,まさしく削除請求を代行するとうた っており,非弁活動の広告がなされているものであるから,適法に任意削除請求が できないにもかかわらず,これが適法に可能であるように表\示しており,「役務の質, 内容」について消費者を誤認させる表示に当たる旨主張する。\n確かに,被告ウェブサイトには,原告らの主張する「削除代行サービス」「誹謗中 傷サイトを削除してきました」「専門スタッフが最速で誹謗中傷を完全消去いたしま す」「一括して削除代行を承ります」(甲1の1),「削除代行」「ネット削除の費用」 「掲示板の削除の料金」「スレッド(板)またはレス(書き込み)単位で削除いたし ます」「格安で掲示板を削除」との記載があり,その部分のみを取り出せば,被告が 顧客に代わって削除請求を代理するかのような表現がある。しかし,被告ウェブサ\nイトの表示を正確に理解するためには,原告らも認めるとおり,当該ウェブサイト\nの特定の文言のみならず,その他前後の文脈等も見る必要があるところ,トップペ ージにおける「ブログの削除」欄には,「当社では,ブログの削除代行も行っていま す。」との記載に引き続いて,「削除依頼をITの面からサポートし,解決いたしま す。」との記載(甲1の1),削除ページには,「ネット削除(削除依頼)のITサポ ート」との見出しや,「ネット削除申請サービス(技術サポート)」,との見出しがあ\nり,「ITやWEBの専門技術を生かし,削除依頼の手続きを最後までお手伝いしま す。」,「当社では,これまでの数千件以上の削除実績と経験をふまえ,最も効果的な 削除要請ができるよう,技術面からサポートいたします。」との記載(甲1の2), 相談ページには,「ITの知識も必要」「ネットの削除養成については法律知識だけ でなく,ITの知識や技術も必要になります。当社では,ITの面から削除要請を サポートしています。削除の方法が技術的に分からないようなときは,当社にご相 談下さい。」との記載(甲1の3)もある。これらによれば,原判決が述べるように, 被告が,顧客と顧客が削除を求める相手との関係でどのように関わるのかについて 明確でなく,技術的サポートの内容も具体的ではないものの,被告が顧客に代わっ て削除依頼を直接行ったり,法的助言を行ったりするものと理解することはできな い。そうすると,被告ウェブサイトが,本来,被告が適法に行うことができない法 律的な業務について,これを行うことが適法に可能であるように表\示したとまでは いうことができず,したがって,「役務の質,内容」について消費者を誤認させたと いうことはできない。

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◆原審はこちら。平成26(ワ)31864

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平成27(行ケ)10115  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月24日  知的財産高等裁判所

 補正が限定的減縮でないとした判断は取り消されるべきと判断されました。ただ、補正後のクレームについて独立特許要件なしの判断は誤りはないとして全体としては拒絶審決が維持されています。
 補正前発明は,請求項において「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを 有し」と特定され,「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けることが記載されると ともに,「前記発光素子から放射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射 した光を反射する反射面と,前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射す る出射面」を「有する」ことが記載されているところ,この「前記発光素子から放 射される光を入射する入射面と,前記入射面から入射した光を反射する反射面と, 前記反射面で反射した光を屈折して側面方向へ出射する出射面」は,本願明細書の 記載によれば,「光方向変換部」と呼ばれるものである。そうすると,「光方向変換 素子」中には,「光方向変換部」と「ホルダ片」を設ける部分が記載されているもの の,その「ホルダ片」を設ける部分の具体的形状が特定されていないものと解され る。一方,補正発明は,「光方向変換部」を明示するとともに,「光方向変換素子」 の具体的形状,ホルダ片を設ける態様などについて,請求項に記載のとおり「嵌合 部が形成されたケース部」に限定したものである。 そうすると,本件補正は,補正発明の「光方向変換素子」を前記のとおり規定す ることによって,補正発明を特定するために必要な事項を限定するものと認められ る。
イ 産業上の利用分野及び解決課題について
補正発明及び補正前発明は,いずれも,「光源モジュール」であり,両者の産業上 の利用分野は同一である。 また,前記1のとおり,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,光 方向の厳密な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することであ る。 したがって,補正発明及び補正前発明の解決しようとする課題は,同一であると 認められる。
ウ よって,本件補正は,補正前発明を特定するために必要な事項を限定す るものであって,補正前発明と補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする 課題は同一であるから,特許法17条の2第5項2号にいう「特許請求の範囲の減 縮」に該当し,これを目的要件違反とした審決の判断は,誤りである。
・・
被告は,本件補正によれば,補正発明は,「光方向変換部」(光学的機能を有する\nもの)により特定されることに加え,「ホルダ片」を嵌合するための手段である「嵌 合部が形成されたケース部」(機械的機能を有するもの)によっても新たに特定され\nることになり,「光方向変換部」により特定される補正前の「光方向変換素子」(光 学的機能を有するもの)を限定するものでないと主張する。\nしかし,前記のとおり,補正前発明の「光方向変換素子」は,請求項1にあると おり,「『入射面』と,・・・『反射面』と,・・・『出射面』とを有する『透明材料』 からなる」もの,すなわち,「光方向変換部」を「有する」,「透明材料」からなるも のであるとともに,「前記光方向変換素子に設けられるホルダ片とを有し」と特定さ れ,「光方向変換素子」に「ホルダ片」を設けるものである(被告は,これを機械的 機能と称する。)から,本件補正は,発明特定事項を新たに追加するものではなく,\n上記主張を採用することはできない。 また,被告は,発明が解決しようとする課題が,補正前発明では,光方向の厳密 な調整を不要とし,輝度ムラのない光源モジュールを提供することであったのに対 し,補正発明では,嵌合部を持つ光方向変換素子を有する光源モジュールを提供す ることを追加しており,本件補正は,発明が解決しようとする課題を追加して変更 するものである旨主張する。 しかし,前記のとおり,補正発明は,補正前発明と同様の課題を有しているが, それに加えて,光方向変換素子がケース部と円形の光方向変換部からなり,ホルダ 片が光変換素子の嵌合凹部11aに内嵌固定されるということが,補正前発明又は 補正発明の課題であることを示す記載は存在せず,ケース部の形状やホルダ片の固 着態様に格別の意義があるとは認められないから,光方変換素子の「光方向変換部」 以外の形状を限定したからといって,新たな課題を追加したものとはいえない。

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平成26(ワ)22603  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年2月16日  東京地方裁判所

 無償配布のカタログにおける著作権侵害について、損害額が争われました。裁判所は2項侵害は否定したものの、3項に基づく損害を認めました。
 原告は,著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に,少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。 そこで判断するに,同項は,著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから,同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが,原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから,原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても,そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると,上記の支出を免れたことによる被告の利益は,同項所定の「利益」となり得ないというべきである。 イ 同条3項に基づく損害 原告は,原告カタログも被告カタログも無償で頒布されていることを踏まえると,原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害が発生しており,その額は原告が原告カタログの複製を許諾する対価,すなわち,原告カタログの作成費用に基づいて算定されるべきであると主張する。 そこで判断するに,前記前提事実(1)のとおり,原告と被告は共に米国コーラー社の我が国における販売代理店であって,競合関係にあるから,原告が原告カタログの全部又は一部の複製を被告に対して許諾することは通常考えられないところである。そうすると,被告による前記複製権及び譲渡権の侵害行為により原告に損害が発生したとみることができるから,原告は被告に対し著作権の行使につき受けるべき金銭の額の損害賠償を請求し得ると解するのが相当である。 しかし,原告カタログ及び被告カタログはいずれも顧客に無償で配布されるものであり,そのような製品カタログの使用料等を算定する基準が明らかでないことに照らすと,上記損害額を立証するために必要な事実を立証することは,その性質上極めて困難であるというべきである。 そこで,著作権法114条の5に基づき相当な損害額を検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告カタログは2年ごとに改訂されること(甲3,4,19),2)原告は原告カタログの作成のために500万円程度の費用を要したこと(甲9,21〜114,117,乙19。なお,原告は原告カタログの作成費用につき他社への依頼分256万2000円,従業員の作業等分461万7677円の合計717万9677円を要したと主張するところ,後者については,従業員等が多大な労力を費やしたことは認められるものの,これにより人件費が増加するなど現実の出費が生じたことを示す証拠はないので,約半分の限度で相当と認める。),3)被告は,平成25年10月31日に被告カタログ3000部の納品を受け,翌11月1日開催の記念パーティーで約200部配布するなどした後,原告から警告を受けたため被告カタログの回収及び廃棄に努めたが,約650部は配布先から回収されていないこと(甲8,乙12〜15),4)被告は平成26年3月31日に被告カタログと内容の異なる新たなカタログの納品を受けたこと(乙18),5)被告カタログの作成費用(他社への依頼分)は278万2500円であったこと(乙12),以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば,原告は無償配布する原告カタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたと解されるところ,被告カタログの配布期間中これを妨げられたとみることができる。これに加え,被告カタログの作成部数及び原価(1冊当たり約927円),被告カタログには被告表現4など原告カタログと異なる部分が少\nなからず存在すること(甲3,5)を考慮すると,原告の損害額は120万円であると認めるのが相当である。
ウ 他の損害について
原告は,原告の顧客を奪われたことによって営業上の利益が得られなくなったことも損害に当たると主張する。しかし,被告が現に原告の顧客を奪って原告に営業上の損害を被らせたことをうかがわせる証拠がないことに照らすと,上記イの損害に加えて,そのような損害が生じたと認めることはできない。

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平成25(ワ)19912  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年2月19日  東京地方裁判所

 共同出願人の一方が期間内に出願審査請求をしなかったことを内容とする債務不履行に基づく損害賠償請求について理由有りとの判断がなされました。中間判決です。争点の一つが、特許がとれる発明だったのかどうかです。裁判所は一部については進歩性があったと判断しました。
 本件発明1−1は,加振用液圧シリンダ機構が,「ピストンロッドを共通にする複シリンダ構\成をなし,各シリンダのロッド側液室には前記定加圧部による加圧力並びにこれと平衡する圧力を導入しつつヘッド側液室に加振液圧を導入して前記加 圧部による負荷を無負荷状態にして加振できるようにした」ものである(構成要件1D)のに対し,乙22の3発明は,脈動発生装置がそのような構\成を有していない点において,両発明は相違している。 b 本件発明1−1と乙22の3発明との相違点2に関する検討 乙22の3発明に乙4の2文献に記載された技術(装置)を適用しても,加振用液圧シリンダ機構の「各シリンダのロッド側液室に定加圧部による加圧力及びこれと平衡する圧力を導入しつつ」「ヘッド側液室に加振液圧を導入して」「加圧部による負荷を無負荷状態にして加振できるようにした」構\成とすること(構成要件1D2,1D3a及び1D3b)には至らない。\n前記イ(イ)bで説示したところからすれば,乙22の3発明において,脈動発生装置を上記構成とすることが,本件出願1前に,当業者が容易に想到し得たものということはできない。
c 小括
したがって,前記相違点1に関して検討するまでもなく,本件発明1−1は,本件出願1前に,乙22の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなかったというべきである。
・・・・
 以上のとおり,本件出願1及び本件出願2については,審査請求期間内に出願審査請求がされていれば特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということができるが,本件出願3及び本件出願4については,審査請求期間内に出願審査請求がされていたとしても特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということはできない。 したがって,本件出願1及び本件出願2については,前記2で説示した被告の債務不履行と損害の発生との間の因果関係を肯認することができるが,本件出願3及び本件出願4については,被告の債務不履行又は不法行為と損害の発生との間の因果関係を肯認することはできない。

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平成27(ワ)12748  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年2月23日  東京地方裁判所

 特許権侵害ではないと判断されました。争点は「滑らかに当接して徐々に停止する」という文言でした。
 構成要件1Iにつき,本件発明の特許請求の範囲には,「レッグレストフレーム……の当接部材」が「座席フレームの湾曲部」に「滑らかに当接」して「徐々に停止する」ものであると記載されている。この「滑らか」は,本件明細書(甲1)において定義づけられていないので,「すらすらと通るさま。つかえないさま。よどみないさま」(広辞苑〔第六版〕2103頁),「物事がよどみなく運ぶさま。すらすらと進むさま」(大辞林〔新装第二版〕1924頁)といった意味を有すると解される。また,「徐々に停止する」とは,「徐々に」が「停止」を修飾していることに照らすと,引き出されてきたレッグレストフレームの当接部材が座席フレームの湾曲部に当接すると直ちに停止するのではなく,当接した後も移動を続けつつも次第に減速して停止に至ることを意味すると解される。さらに,「座席フレームの湾曲部」が座席フレームの「開放する側の両端部」にあって「下方に鈍角状に折り曲げられた」構\造を有していること(構成要件1E。なお,構\成要件1B,1E及び1Fにいう「座部フレーム」は構成要件1Iにいう「座席フレーム」と同一の部材を指すと認める。)からすれば,レッグレストフレームの当接部材に対しては,引き出す方向に対する抵抗力が次第に大きくなる一方,下方に向かう力がかかっていくと考えられる。\n以上を総合考慮すると,「滑らかに当接して徐々に停止する」とは,引き出されてきたレッグレストフレームの当接部材が座席フレームの湾曲部に当接しても直ちに停止することなく更に引き出され続けるが,湾曲部との当接後は湾曲部から受ける力により次第に減速して,当接から多少なりとも間を置いて停止することを意味すると解される。
(2)この点につき,念のため本件明細書の記載及び本件特許の出願経過を見るに,本件明細書(甲1)においては,「発明を実施するための形態」欄において,円形当接部材が座部フレームの湾曲部の基端部に滑らかに当接すること,及び,鈍角状の上記湾曲部により徐々に停止していくので強く引き出しても衝撃がないことが記載されている(段落【0032】)。また,本件の特許出願について,引用文献(登録実用新案第3046819号公報。乙3)に基づき容易想到であるとする拒絶理由通知(乙2)に対し,原告は,特許請求の範囲(構成要件1I)に「滑らかに」を加える補正をした上,平成25年3月28日付け意見書(乙4)において,本件発明が本件明細書の上記記載のとおりの作用効果を奏するものであり,上記引用文献記載の考案は当接部が屈曲部の下側の曲線部にいきなり当接するもので,滑らかに当接し徐々に停止していくものでは全くないと述べている。\nそうすると,構成要件1Iは,レッグレストフレームを引き出した際に衝撃を感じることがないという効果を奏するために,当接部材が座席フレームの湾曲部に当接しても突然停止するのでなく,その後に次第に速度を落として停止することをいうものと解するのが相当であるから,前記(1)の解釈と合致するということができる。
(3) 以上を前提に被告製品が構成要件1Iを充足するかどうかについて検討するに,証拠(甲9,乙7の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,レッグレストフレームを前方に引き出していくと,同フレームに取り付けられた側面視略L字型のストッパー部材の上端ないし引き出し方向先端の角の部分が座席フレームの湾曲部に当接し,その直後にレッグレストフレームが,次第に減速するのではなく,ほぼ一瞬にして停止するものと認められる。\nしたがって,被告製品は,「滑らかに当接して徐々に停止する」ものでないから,構成要件1Iを充足しない。\n

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平成26(ワ)6310  商標権侵害差止等請求  民事訴訟 平成28年2月8日  大阪地方裁判所

 著作権侵害について、売り上げの70%が限界利益として認められました。
 ウ 著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害による売上高から,そ の販売に追加的に要した費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当 であり,侵害品の売上げによって追加的に要しなかった経費は控除すべき ではない。 本件においては,少なくとも,複写権使用料として5%,文具費(主と して紙代)として10%,発送・通信費として15%を経費として控除す べきことについて,原告らは明らかに争っておらず,このとおり認められ る。 被告は,さらに,複写機リース料等も経費として控除すべきであり,利 益率は15%であると主張するが,その裏付けは何ら提出されておらず, 被告主張に係る経費が追加的に必要となった直接経費に該当すること及び それら経費が被告主張の率であることを認めるに足りる証拠はない。 よって,本件における利益率は,前記争いのない経費を控除した70% と認めるのが相当である。
以上より,平成16年8月1日以降本件訴訟提起日である平成26年7 月8日に至るまでの間に,P2及び被告が著作権侵害により得た利益の額 は1001万6482円と認められ,原告会社については著作権法114 条2項に基づき同額の損害が生じたものと推定される。
(計算式)(1円未満四捨五入)
144 万円×(9 年+342 日/365 日)×0.7=1001 万6482 円
また,被告による侵害行為と相当因果関係が認められる弁護士費用は, 原告らの主張どおり,75万円と認めるのが相当である。 したがって,原告会社に生じた損害は,合計1076万6482円と認 められる。

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平成27(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月24日  知的財産高等裁判所

 特許法上の発明に該当するか争われました。知財高裁は発明でないとした審決を維持しました。
 本願発明は,前記1(2)のとおり,1)省エネ行動をリストアップして箇条書にし た表などを利用する者が,各省エネ行動によってどれくらいの電力量等を節約でき\nるのかを一見して把握することが難しいことや,どの省エネ行動を優先的に行うべ きかを把握することが難しいことを「前提とする技術的課題」とし,2)「建物内の 場所名と,軸方向の長さでその場所での単位時間当たりの電力消費量とを表した第\n三場所軸」,「時刻を目盛に入れた時間を表す第三時間軸」及び「省エネ行動により\n節約可能な単位時間当たりの電力量を第三場所軸方向の軸方向の長さ,省エネ行動\nの継続時間を第三時間軸の軸方向の長さとする第三省エネ行動識別領域」を設けた 「省エネ行動シート」において,「該当する第三省エネ行動識別領域に示される省 エネ行動を取ることで節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時\n間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能\nな電力量)を示すこと」を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用\nすることにより,3)利用者が,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握す ることが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量\n等を把握することが可能になるという「技術的手段の構\成から導かれる効果」を奏 するものである。 そうすると,本願発明の技術的意義は,「省エネ行動シート」という媒体に表示\nされた,文字として認識される「第三省エネ行動識別領域に示される省エネ行動」 と,面積として認識される「省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量」を利 用者である人に提示することによって,当該人が,取るべき省エネ行動と節約でき る概略電力量等を把握するという,専ら人の精神活動そのものに向けられたもので あるということができる。 なお,本願発明においては,上記のとおり,媒体として「省エネ行動シート」を 構成として含むものであるが,本願明細書の【0065】には,「以上の省エネ行\n動シート作成装置により出力された省エネ行動シートのデータは,プリンタ装置に 対してデータ出力して印刷された状態で取り出すことも可能であるし,ディスプレ\nイ装置に対してデータ出力して画面上に表示させることも可能\である。また,記録 媒体に記録したり,通信装置を利用してネットワーク上の他の装置にデータ送信し たりすることも可能である。」と記載されているように,「省エネ行動シート」とい\nう媒体自体の種類や構成を特定又は限定していないから,本願発明の技術的意義は,\n「省エネ行動シート」という「媒体」自体に向けられたものとはいえない。
・・・
ア 原告は,自然法則の利用があるかどうかは,発明の作用,効果ではなく,特 許請求の範囲の請求項に記載された構成要件自体(発明特定事項)が自然法則に従\nう要素であるか否かによって判断すべきであり,本願発明においては,シートは典 型的には紙であり,領域や領域名は典型的にはインクによって構成されており,請\n求項には,紙とインクという自然物によって線画を所定位置に配置するという工夫 のみが記載され,本願発明の構成要件のいずれにも精神活動等である構\成要件は含 まれていないから,本願発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しない ということはできない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,特許を受けようとする発明が,自然法則を利用した 技術的思想の創作に該当するか否かの判断は,前提とする技術的課題,課題を解決 するための技術的手段の構成及び技術的手段の構\成から導かれる効果等の技術的意 義に照らし,全体として考察した結果,「自然法則を利用した技術的思想の創作」 に該当するといえるか否かによって判断すべきものである。そして,明細書の「発 明の詳細な説明」の記載に関して,特許法36条4項1号が,「発明が解決しよう とする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知 識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」(特許法施行規 則第24条の2)により「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す る者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるこ\nと」と定めていることからすれば,特許を受けようとする発明の技術上の意義の把 握は,同法36条5項が定める特許請求の範囲の請求項に記載された発明の発明特 定事項(構成要件)だけではなく,明細書の発明の詳細な説明をも参酌すべきであ\nる。

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平成27(ネ)10080  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 均等侵害も第5要件満たしていないとして、否定されました。
 イ 前記1(3)のとおり,控訴人は,本件特許1の出願経過において,拒絶理由通 知を受け,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する平成23年11\n月29日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相 当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過におい\nても,拒絶理由通知を受け,構成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入\nする平成25年3月8日付けの補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の 限定的減縮に相当するものであることを表明した。\n控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピ ーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された 結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対 して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本 件発明1の結晶を特定したというほかない。 そして,本件特許2は,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む 医薬組成物に関し, 特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの 結晶性原薬を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に 含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上す ること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好まし いことを見いだした本件特許1を原出願とする分割出願であって,本件特許1に係 る原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とする発明であり,その出願 当初の特許請求の範囲の請求項1には,上記補正後の本件発明1の結晶と同じ15 本のピークの回折角の数値をもって結晶が特定されていたものである。 以上によれば,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明 の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると 解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一\n部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明 の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。

◆判決本文


◆平成27(行ケ)10081 こちらは、本件特許発明についての無効審判の取消訴訟です。この事件では、特許無効とした判断が取り消されていますが、上記事件ではイ号は非侵害と判断されています。

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平成26(ワ)29417  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年2月5日  東京地方裁判所

 練習用箸の実質的機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態であるとして、不競法2条1項1号の保護を受けられないと判断されました。
 不競法2条1項1号の「商品等表示」は,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表\示するもの」をいう。商品の形態は,商標等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものでないが,1)商品の形態が客観的にほかの同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,2)その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合(周知性)には,商品の形態自体が商品等表\示に該当する場合もあると解される。 もっとも,実質的機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態についてまで,商品等表示として保護を与えると,同等の機能\を有する複数の商品間の自由な競争を阻害する結果となり相当でないから,実質的機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態については商品等表示に該当しないというべきである。\n(2) そこで検討するに,原告商品は,親指,人差し指及び中指をリングに挿入して箸の使用に適した位置で固定するという機能並びに2本の箸を連結するという機能\を有しており,これにより,箸の使用に習熟していない者が,箸を安定させて,かつ,正しいとされる指の位置で箸を使用する練習ができるという作用効果を有するものであるといえる。そして,正しいとされる箸の持ち方を前提にすれば,2本の箸に対してあるべき親指,人差し指及び中指の位置関係は自ずと決まっているから,それらの指の位置関係を正しい位置に固定するために指を通すリングを使用しようとすると,その位置関係及び箸に対する傾きなども自ずと定まっているものと認められる。 そうすると,原告商品形態のうち,「一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分において連結されている連結箸」であることは,2本の箸を連結するという機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態であり,また,連結部位が一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分であることは,箸として使用することからすれば当然の選択といえる。次に,「1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し,他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する」ことは,親指,人差し指及び中指をリングに挿入することで正しいとされる箸の持ち方に適した位置で固定するという機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態であると認められる。 以上のとおり,原告商品形態は,全体として,指にリングを通すことによって正しいとされる箸の持ち方を練習するための練習用箸の実質的機能を達成するための構\成に由来する不可避的な形態というほかない。

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平成26(ワ)5210  損害賠償請求事件  民事訴訟 平成28年1月21日  大阪地方裁判所

 均等侵害が認定されました。また、損害額について譲渡対象とならなかった分について、有償譲渡とは異なる料率が認定されました。
 本件特許発明が,シートによって鼻全体を覆うことを想定していることは先に述 べたとおりである。しかし,本件明細書の記載によれば,従来のシートでも鼻の上 部に切り込みは設けられておらず(【0005】,図2),鼻の上部に当たる目頭付近 部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特 許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない 大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点 があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うこと にあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配すると したことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シ ートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じる ことなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。 これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配 することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に 固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さ からやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本 件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではないとい うべきである。
イ 置換可能性について
証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,目頭の高さからやや下の 部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含 めた鼻全体に密着するものであると認められる。 そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用 効果を奏するものであると認められる。 ウ 置換容易性について 前記のとおり,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで 覆うことが実現されていたことからすると,切り込み線が配される台形状の領域の 上底の高さを,眼の付け根である目頭の高さよりも,目頭の1段分か2段分,下に 設けても本件特許発明と同一の作用効果を奏することは,当業者が,対象製品等の 製造等の時点において容易に想到することができたというべきである。
・・・・
(2) 被告製品の製造に関する実施料相当額
被告に納入されたパック用シート●●●●●●●●のうち,被告製品として譲渡 されたのは●●●●●●●●であり,その差である●●●●●●●●については, 納入されたが譲渡されなかったものである。しかし,被告製品のパック用シートが 特殊な形状をしていることからすると,被告は,シートの製造業者に発注して被告 製品用のパック用シートを製造させたと推認され,そうすると,被告は,パック用 シートの製造行為を行ったと評価すべきである。そして,パック用シートの製造も 本件特許発明の実施であり,侵害行為に当たるから,納入されたが譲渡されなかっ た分も損害賠償の対象とするのが相当である。 もっとも,被告は,これらについては,その価値を市場に提供して利用したわけ ではないことからすると,これを有償譲渡と同視し,前記の想定市場販売価格を基 礎として実施料相当額を算定するのは相当でない。そこで,これらシートについて は,その製造自体の価値を示すものとして,その納入価格を基礎として実施料相当 額を算定するのが相当であり,証拠(乙12)によれば,シート1枚当たりの納入 価格は●●円であると認められる。この点について,原告は,これらについても想 定市場販売価格を基礎にして実施料相当額を算定すべきであると主張するが,前記 に照らして採用できない。 また,前記(1)エにおいて考慮した事情に照らせば,これらシートの納入価格には, 美容液の価値が考慮されていないから,被告製品用のシートを製造したが譲渡しな かった場合の実施料率は,●●と認めるのが相当である。

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平成27(行ケ)10134  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年2月17日  知的財産高等裁判所

 新聞をにぎわしたタニタとオムロンヘルスケアの争いです。商標「dualscan」について、知財高裁は、類似群コードは異なるけれども、類似する商品と判断し、無効理由なしとした審決を取り消しました。
   商標法施行令は,商標法6条2項に係る区分を定める政令別表において,\n第10類として「医療用機械器具及び医療用品」を挙げているところ,省令別表で\nは,第10類の項目において,「医療用機械器具」が,「手術用キャットガット」や 「人工鼓膜用材料」,「医療用手袋」等とともに列挙されているから,第10類の「医 療用機械器具」とは,本来,医療行為に供することが予定されている商品を指すも\nのと解される。 そうすると,引用商標の指定商品である「体脂肪測定器,体組成計」とは,医療 行為に供する程度の品質,性能を保有することが予\定されている体脂肪率,筋肉量, 基礎代謝量等の体組成の測定機器を指すものというべきである。 確かに,省令別表の第10類には,「おしゃぶり」,「哺乳用具」,「綿棒」,「指サッ\nク」,「業務用美容マッサージ器」,「家庭用電気マッサージ器」や「耳かき」なども 列挙されており,医師による診断,治療の場面以外での使用が想定されているもの や,小型で安価で個人でも入手可能であり,病院以外に家庭での使用が想定されて\nいるもの,機能的に高度とはいえないものが含まれている。しかしながら,これら\nの物品は,いずれも美容,健康に関連する商品という意味において,医療行為の範 ちゅうに属する行為ないし医療行為に関連する行為に供されるものと認められるし, 高度な機能が不要であるとしても,医療行為に供されること,そのために必要な品\n質,性能が求められていることは同様であるから,当該物品に関する省令別表\の分 類は,上記判断を左右しない。
ウ これに対し,政令別表では,第9類として「科学用,航海用,測量用,\n写真用,音響用,映像用,計量用,信号用,検査用,救命用,教育用,計算用又は 情報処理用の機械器具,光学式の機械器具及び電気の伝導用,電気回路の開閉用, 変圧用,蓄電用,電圧調整用又は電気制御用の機械器具」が列挙されているところ, 省令別表では,第9類の項目において,「測定機械器具」として,温度計,圧力計,\n金属材料圧縮試験機,気象観測用機械等の種々のものが列挙されているものの,い ずれも,医療行為に供することを予定したものではないから,省令別表\の「測定機 械器具」が属する第9類の「測量用・・・の機械器具」は,元々,医療行為に供す ることが予定されていない商品を指すものと解される。\nそうすると,本件商標の指定商品である「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重 計,体重計」とは,体脂肪率,筋肉量,基礎代謝量等の体組成や体重の測定機器を 指すというべきである。そして,測定の対象自体は引用商標の指定商品と重なる部 分があるが,医療行為に供することが予定されていないという意味において,医療\n行為に供する場合よりも,品質や性能が劣るものを予\定しているというべきである。 エ なお,原告は,第9類への帰属と第10類への帰属が択一関係にあるこ とを否定すべき旨主張する。しかしながら,商標法6条1項及び2項が,商標登録 出願の際に商品の指定をすること,同商品の指定は,政令で定めた区分に従って行 うことを要求し,これに基づいて政令別表が作成されていること,政令別表\はニー ス協定の規定した国際分類に即して作成されているが,国際分類でも類別表又はア\nルファベット順の一覧表において,多数の多種多様な商品及びサービスが概括的,\n網羅的に記載されていること,政令別表を再区分化した省令別表\では,別表に商品\n名の記載がない場合を例外的な場合と取り扱っていることからすると,政令別表は,\n指定商品を指定するに当たって,可能な限りその中から選択できるように,世上存\nする多数の商品を全て列挙することを目指すものであり,そのうち,同種企業が取 り扱う可能性のある商品の類型ごとに1つの区分を設けたと考えられる。\nしたがって,省令別表は,特定の商品が多数の類型に同時に属することを,本来,\n予定していないと解するのが相当というべきである。「商品及び役務の区分解説」(乙\n3,4)においても,医院又は病院で専ら使用される電子応用の機械器具は,例外 的に,第9類の電子応用機械器具及びその部品に含まれないこと,第9類の「測定 機械器具」に該当する器具でも,専ら医療用に使用する測定機械器具については, 第10類の「医療用機械器具」に含まれることが記載されており,第9類と第10 類の商品を区別し,いずれかに分類できることを前提としている。 確かに,特定の商品がどの分類に属するかが不明な場合があることや,特定の分 類に属していた商品が,品質向上に伴って他の分類の属すると評価するのが相当な ことはあり得るといえるが,上記の指定商品の区分を設けた趣旨からして,同時に 複数の類型に帰属することは予定されていないとの前記解釈が左右されるものでは\nない。よって,本件商標の指定商品は,第9類に属するとされている以上,第10 類にも属するとの前提に立つことはできない。
・・・
確かに,「医療用機械器具」に属する具体的な商品では,大型で高額であり,医師 等の専門家でなければ入手し,使用することができないようなものが多く,このよ うな商品については,一般的な消費者が自ら購入することは考えにくく,上記推定 が及ぶものと解される。もっとも,「医療用機械器具」に属する具体的な商品の中に は,上記のような多種多様なものが含まれ,必ずしも一般消費者には入手困難とは いえない類型のものも存在するし,今後,技術革新や取引形態の変化によって,高 性能の低価格帯の製品が普及し,一般消費者も,医療用として使用されている機械\n器具を購入し,使用するようになれば,事後的に,出所について誤認混同するおそ れが生じ得ることになるから,実際に商標が使用されている具体的な商品の使用状 況,取引の実情等によっては,上記推定を及ぼすことが相当でない場合もあるとい うべきである。「類似商品・役務審査基準」において,商取引,経済界等の実情の推 移から,類似と推定した場合でも非類似と認められること,基準上は類似とならな い場合であっても類似と認められることがあると注記しているのも(甲64),例外 を許容する趣旨と解され,上記見解と整合するものである。 (2) 体脂肪計,体組成計,体重計の取引状況
そこで,以下,本件商標の指定商品とこれに関連した引用商標の指定商品の取引 の実情を,具体的に検討することにする。
・・・
以上によれば,本件査定時において,本件商標と引用商標の指定商品に関連する 体脂肪計,体組成計,体重計等の取引の実情に関し,次のことがいえる。
ア まず,業務用として販売されている体組成計及び体重計は,医療用とし て使用することを想定した機能や性能\を有し,医療用製品に該当するといえるとこ ろ,家庭用の体組成計及び体重計のシェアが極めて高い原告と被告は,医療用製品 の製造者でもある。また,医療用の体組成計しか製造していないメーカーが存在す る一方,医療用の体組成計を製造していない家電メーカーも存在し,家庭用の製品 と医療用の製品に関し,シェアが一致しているとは認められない。
イ 次に,メーカーによって,販売用のカタログの種類,掲載対象は異なる が,家庭用の体組成計や体重計のシェアが高い被告は,家庭用と業務用の両方を掲 載したカタログを用意している。また,多数の医療機器販売メーカーのカタログに おいて,小型の体脂肪計,体組成計,体重計が掲載され,販売されているが,その 中には,原告や被告の製品で,業務用のものと家庭用のものの両方が含まれている ため,医療関係者は,医療用機器の購入時に家庭用機器も併せて購入対象として検 討することになる。 小売店における体脂肪計,体組成計,体重計の販売では,業務用の大型のものは 展示されていないが,健康意識の向上に伴い,血圧計や体温計といったヘルスケア に関する製品と一緒に展示されており,一般消費者は,家庭用体組成計,体脂肪計 及び体重計を,健康維持や病気予防の目的で使用できる製品と近い性質のものと認\n識し得る。 また,近時は,ネット販売の増加もうかがわれるところ,体脂肪計,体組成計, 体重計のネット販売は,家電メーカー,医療機器メーカーに限られず,オフィス用 品取扱会社などにおいても取り扱われており,医療関係者の購入を前提とし,医療 用製品を主に取り扱うウェブサイトもあれば,一般消費者の購入を前提とし,家庭 用製品を主に取り扱うウェブサイトもある。前者では,医療用機器として大型の体 重計,体組成計以外に小型の製品も掲載され,医療用に限定されず,家庭用の体組 成計,体重計が販売されていることが多いため,主たる需要者である医療関係者に とって,医療用機器と同様に,家庭用機器が購入検討対象となる。しかも,医療用 製品を主として取り扱うウェブサイトであっても,一般消費者がアクセスすること 自体に制限はなく,購入も禁止されていないため,一般消費者も需要者となること があり,その場合の購入対象は,家庭用機器に必ずしも限られず,医療用機器も候 補となる。他方,一般消費者向けのウェブサイトであっても,業務用体重計が販売 される場合もあり,医療用製品が購入候補になることもあるし,リンクが貼られた\n業務用製品販売通販サイトへアクセスすることで,他の医療用製品等が購入候補と なることもある。
ウ さらに,医療用と家庭用の体脂肪計,体組成計,体重計において,そ の品質及び価格は様々であるが,医療用と同程度の品質及び価格が用意されている 業務用のものは,医療現場以外の学校やフィットネスクラブ等でも使用され,学生 やフィットネスクラブの会員である一般消費者が,直接接する場合がある。 具体的には,医療現場に設置されることが多いと考えられる業務用の製品は,価 格が100万円を超えるものや,一般住宅内での設定が想定できないほど大型のも のがあるが,一方,業務用の体重計であっても,価格が3万円程度で,一般家庭で の購入が十分可能\な製品もある(被告のWB−260A)。 他方,家庭用の体脂肪計,体組成計,体重計であっても,多数の機能が付加され\nていることが通常であり,1万円を超えることも珍しくない。これらの家庭用の体 重計等は,家庭用計量器の基準しか満たさないものとはいえ,その測定対象や測定 単位が医療用のものと同様のことがあり,医療関係の研究論文で使用される程度の 精度を備えていて,医療現場で購入される場合もある。
エ このように,家庭用の体重計の需要者である一般消費者は,医療用の 体組成計,体重計も入手可能な状況となっていたといえる上に,医療用の体組成計,\n体重計は,医療現場での利用に限定されず,学校やフィットネスクラブ,企業等で も利用されるから,その需要者は,医療関係者に限定されず,学校関係者やフィッ トネス関係会社,企業の物品購入部門,健康管理部門の従業員も含まれる。そして, 医療用の体組成計及び体重計のシェアの正確な数値は不明であるが,被告の医療用 の体組成計の販売台数は相当数に及び,販売シェアも小さくないから,これらの需 要者は,家庭等で被告の家庭用の体組成計を目にするだけでなく,学校やフィット ネスクラブ等で被告の医療用の体組成計を目にする機会もあることが推認される。 また,一般消費者の一部を構成する医療従事者は,一般消費者よりも高い注意力\nをもって商品を観察するとはいえ,医療用と家庭用の両方の製品を製造し,家庭用 のシェアの大半を占める原告と被告の製品に日常的に接することになるから,医療 用製品の出所について,家庭用製品の出所と区別して認識することが困難な状況と いえる。 さらに,その他の学校関係者,フィットネス関係会社や企業の物品購入部門,健 康管理部門の従業員には,一般的な消費者も含まれており,しかも,医療用と家庭 用の体重計,体組成計の測定対象は同じであり,性能等が近づきつつあるといえる\n上に,精度の違いは一般消費者には識別し難い場合があることから,性能による明\n確な区別も困難である。
オ よって,本件査定時においては,医療用の「体脂肪測定器,体組成計」 と家庭用の「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」は,誤認混同のお それがある類似した商品に属するというべきである。したがって,審決の指定商品 の類否判断の誤りをいう原告の取消事由3は,理由がある。

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平成27(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年2月17日  知的財産高等裁判所

 相違点の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 他方,引用発明は,本願発明の従来技術であるスリットによる変形作用を 前提として,スリットに相当する溝孔6の長さ方向中央部に応力的に弱い部分とし て拡大溝部6aを形成することにより,狭幅部4aを形成して,狭幅部4aをスリ ット(溝孔6)間の軸部の変形の中心点(起点)としたものである。そして,変形 区域については,軸の長さ方向でいえば,本願発明が,穴(7)を挟んで頭部(3) から雌ねじ(4)の間である(変形区域(5))のに対して,引用発明は,従来技術 におけるスリットに相当する溝孔6のある領域であると認められるところ,引用発 明は,「軸部壁の弱体化部」に相当する溝孔6のある領域全体の中で,特に応力的に 弱い部分として拡大溝部6aにより狭幅部4aを形成して,軸部の変形の中心点(起 点)としたのであって,従来技術のスリットと同様,狭幅部4aの上下に位置する 溝孔6と溝孔6の間の軸部壁6が“く”の字状に折れ曲がることにより,拡開部9 が形成されるものである。 すなわち,引用発明は,従来技術のスリット(溝孔6)において,拡大溝部6a により特に応力的に弱い部分を形成して,スリット(溝孔6)間の管状部材4を折 り曲げやすくしたものに相当すると認められる。他方,本願発明は,変形区域の中 央の周範囲に穴を設けることによって,応力的に弱い部分を形成し,折り曲げる際 の起点とするものである。そして,本願発明にいう「穴」とは,閉じられた線図で 画された部分をいい,これが応力的に弱体化部を形成するところ,これに該当する のは,引用発明では,溝孔6と拡大溝部6a両方で構成される部分ということにな\nる。 この点,被告は,引用発明の「複数の溝孔6が形成された領域」は「変形区域(5)」 に,「複数の狭幅部4a」は本願発明の「軸部壁(6)の弱体化部」に相当すると主 張するところ,本願発明における「穴」及び「穴」と「弱体化部」の関係に関する 解釈を必ずしも明確に主張していないが,少なくとも,弱体化部に相当する「複数 の狭幅部4a」は,拡大溝孔6aのみによって形成される前提と解される。しかし ながら,このような被告の主張は,「穴」全部ではなく,その一部にのみ着目し,「弱 体化部」に相当するとするものであって,前提において採用できない。 したがって,引用発明は,変形区域全体が弱体化部であり,本願発明のように, 「変形区域(5)の中央の周範囲にのみ,・・・軸部壁(6)の弱体化部を持ってい る」ものではない。よって,この点において,審決の一致点の認定には誤りがあり, 変形区域と穴の位置関係に関する相違点の看過があると認められる。

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平成27(ワ)8132  損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年2月9日  東京地方裁判所

 商標「エアウィーヴ四季布団【和】(なごみ)」が登録商標「なごみ」と類似するかが争われました。裁判所は類似すると判断しました。ただ4億円の売り上げに対する損害としては300万円と1%以下の損害額となりました。
イ 被告ら各標章については,その全体から,「エアウィーヴシキフトンナゴミ」ないし「エアウィーヴシキブトンナゴミ」の称呼が生じ,「エアウィーヴ」の語の周知性及び「四季布団」の漢字の意義から「被告らの製造販売に係るマットレス類であって,年間を通じて使用し得る敷き布団であり,穏やかな気持ち,くつろいだ気分にさせるもの」といった観念が生じると認められる。 一方,被告ら各標章は,称呼上は13音,外観上は14文字及び記号4個又は2個(被告ら標章4は更に縦線)からなる比較的長いものであり,必ずしも一息で発音され,一目で視認され得るものでない。これに加え,被告ら標章1及び2については,「和」の文字が隅付き括弧で囲まれて目立つようになっており,その後ろに括弧付きで「なごみ」と表記されているため,被告ら標章3及び4については,「エアウィーヴ四季布団」の部分と振り仮名付きの「和」の文字部分ないし「【和】(なごみ)」の部分を分けて2段又は2列に表\記され,しかも「和」の文字等が大きいため,いずれもその外観上「和」の読み方を示すものと理解される「なごみ」の部分が,「エアウィーヴ四季布団」の部分から独立 して,被告ら各標章に接した需要者の関心を引くとみることができる。そうすると,被告ら各標章からは,上記の標章全体から生じる称呼及び観念だけでなく,「なごみ」の部分から「ナゴミ」の称呼及びこれに伴う観念が生じると認められる。
ウ 上記ア及びイによれば,本件商標と被告ら各標章は,称呼及び観念を共通にするということができる。
エ さらに取引の実情についてみるに、前記(2)イ認定の通り,本件商標は,被告ら商品の発売の少なくとも約10年前から原告によって本件商標の指定商品に含まれるタオルケット等の商品に使用されている。また,原告は大手の寝具類の製造卸売業者であり,マットレス,敷き布団等も販売している。その上,「なごみ」の語は他社の商品名を含め一般に広く使われる名詞であり,本件商標の指定商品である寝具類を使用した者が穏やかな気持ち,くつろいだ気分になることがあり得るが,これは使用者が主観的に感得するものであり,「なごみ」自体は上記指定商品の効能(保温,吸汗等)を直接表\示するものでない。そうすると,本件商標はその指定商品につき相応の出所表示機能\を有しており,「ナゴミ」と称呼される標章が原告以外のマットレスや敷き布団に使用された場合には,原告の「なごみ」という名称の商品の存在を知っている需要者において,これを原告の商品と誤認するおそれがあるということができる。 一方,被告ら各標章は,被告らの製造販売する商品の名称として広く知られた「エアウィーヴ」の文字及び被告ら商品の特徴を示す造語「四季布団」を含むものであり,これらの部分から「エアウィーヴシキフトン」ないし「エアウィーヴシキブトン」との称呼及び「被告らの製造販売に係るマットレス類であって,年間を通じて使用し得る敷き布団」と ら商品の名称のうち「【和】」の文字等は,被告ら各標章の外観上「エアウィーヴ四季布団」の部分と区別され需要者の関心を引く部分であり,シリーズ商品である「エアウィーヴ四季布団」と区別する指標ともなるから,被告ら商品を指称するに当たり「なごみ」の部分が常に省略されるとは解し難い。そうすると,「エアウィーヴ」が周知であることを考慮しても,被告ら各標章から「ナゴミ」の称呼及びこれに伴う観念が生じることがないとみることはできない。 オ 以上によれば,被告らの前記主張を採用することはできず,被告ら各標章はいずれも本件商標に類似すると判断するのが相当である。
・・・
一方,本件商標を構成する「なごみ」の語は普通名詞であって,複数の業者が各種の商品件商標を使用するタオルケット等と被告らが被告ら各標章を使用する被告ら商品は具体的な用途,機能\等が異なること(同イ及びエ),被告ら各標章中の「エアウィーヴ」の語が被告らのブランドとして周知であり(同エ),被告らは被告ら商品についても各種メディアを通じて宣伝広告活動を行ったこと(甲6〜9,乙4)に照らすと,発売から約2か月で4億円という売上額に達したことについては被告らの営業努力に起因する部分が 大きいと解される。 これらの事情を総合すると,本件における上記金銭の額は,300万円と認めるのが相当である。

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平成27(行ケ)10132  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年2月9日  知的財産高等裁判所

 商標法4条1項7号(公序良俗)違反なしとした審決が維持されました。
 前記認定のとおり,被告は,本件商標が登録されるまで,日本国内において 製造・販売するゴルフクラブに「KAMUI」単体商標を使用することはなかった ことが認められるものの,他方で,原告と被告は,共同企業体であるカムイクラフ トを設立し,製造したゴルフクラブに「KAMUIPRO」の名称を付して販売し ていたこと(「KAMUIPRO」の商標権は原告と被告の共有である。),カムイク ラフト解消後,被告は,ゴルフクラブの名称をカムイプロからカムイツアー(KA MUITOUR)に改めることとしてゴルフクラブの製造販売を継続したこと(「K AMUITOUR(標準文字)」についても商標登録されている。),一時期は,被告 のゴルフクラブが「カムイ」のゴルフクラブとして紹介されることもあったこと, 本件商標の登録出願時においても,「KAMUITOUR」,「カムイツアー」等の標 章を使用してゴルフクラブを販売しており,上記のゴルフクラブの売上本数や売上 高についても原告と同程度のものであったことなどが認められ,被告としても,当 初から,「KAMUI」と文字を共通にする上記各標章をゴルフクラブに付して販売 等しており,継続的に相応の売上げがあったものということができる。 また,前記認定のとおり,原告と被告は,共同企業体であるカムイクラフトを解 消するに当たり,カムイの新製品については,それぞれが権利を有することを合意 したことが認められるものの,この合意のみをもって,被告が原告に対し,原告が 「KAMUI」単体商標の権利を有することを約束したものとはいい難く,本件商 標の登録出願が,原告と被告との間の上記合意に反するとは認められない。その他, カムイクラフト解消後においても,被告が原告に対し「KAMUI」単体商標に関 して法的義務を負う関係にあったということもできず,本件商標の登録出願につき, 被告に何らかの義務違反があるとも認められない。 以上のような経緯等によれば,前記認定の韓国における原告と被告の「KAMU I」に係る商標に関する紛争も契機として,被告が本件商標権に基づく先行訴訟に 至ったことを考慮しても,本件商標について,直ちに本件商標の登録出願の経緯に 著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが到底容認し得ないよう な事情があるとは認められない。

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平成27(ワ)21233  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年1月29日  東京地方裁判所

 著作権侵害を根拠に発信者情報開示が認められました。
 このように,翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物とを対比した場合に同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるところ,「創作的」に表\現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の個性が何らかの形で表れていれば足りるというべきである。そして,個性の表\れが認められるか否かについては,表現の選択の幅がある中で選択された表\現であるか否かを前提として,当該著作物における用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しの有無等の当該著作物の表\現形式,当該著作物が表現しようとする内容・目的に照らし,それに伴う表\現上の制約の有無や程度,当該表現方法が,同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表\現であるか否か等の諸事情を総合して判断するのが相当である。
・・・
(3) また,本件記事2は,これまで台湾における「五術」に関わり,その際に不快な思いもしたものの,新たな試験ができたことで時代が変わり始めたなどと表現した文章であって,一つの文(文字数にして143文字)からなるものである。その表\現においては,用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しなどにおいて,一見して作者の個性が表\れていることは明らかである。これに対し,本件情報14ないし17は三つの文からなる文章であるが,このうち第1文は,やはり,台湾における「五術」に関わり,その際にあきれたこともあったものの,新たな制度ができたことで時代が変わったなどと表現した文章であって,文字数にして123文字からなるものであり,具体的表\現についてみても,本件情報14ないし17の第1文の表現は本件記事2の表\現と相当程度一致しており,その違いは,本件情報14及び15では31文字,本件情報16及び17では32文字でしかなく(別紙対比表2参照),「台湾における五術」,「江湖派理論」,「宗教による術数を利用した」「金儲けを目撃する度に」など,用語の選択,全体の構\成,文字の 配列,特徴的な言い回しにおいて酷似している。そして,その相違部分の内容をみても,本件記事2のうち「五術」の「学術発表にかかわって」という点を,本件情報14ないし17においては「五術」の「詐欺\発表にかかわって」に,「とても不愉快な文化の冒涜・歪曲」という点を「とても愉快な文化の笑い話・小話」に,「胸くそが悪かったのですが」という点を「呆れたのですが」に,「国家規模での認定試験」という点を「国家機関での検閲制度」に置き換えているにすぎない。\nしたがって,本件情報14ないし17は,本件記事2に依拠したうえで,同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって,仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表\れていて創作性が認められるとしても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,本件記事2と同一性を有する表\現が一定以上の分量にわたるものであって,本件記事2の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(4) 以上のとおり,本件情報1ないし17は原告の翻案権を侵害することが明らかである。 また,そうである以上,本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為は,原告の公衆送信権を侵害するものであることも明らかというべきである。

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◆こちらが対象の表現です。

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平成27(ネ)10109  損害賠償請求控訴事件  不正競争  民事訴訟 平成28年2月9日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 不競法の信用毀損行為について、過失なしと判断されました。
 特許法2条3項1号は,物の発明について,その物の生産,譲渡,輸入又は譲渡 等の申出をする行為を,実施行為と定義している。\n本件においては,一審原告がE&E社等を経由してエバーライト社から本件製品 を輸入,販売したことを認めるに足りる証拠はない。また,上記認定事実によれば, 一審被告も,本件プレスリリース当時,一審原告による本件製品の輸入,販売を立 証し得る直接的な証拠を有していたわけではない。 しかし,譲渡等の申出については,製品のカタログやパンフレット等を示して販\n売の申出をする行為がその典型的な例であると解されており,製品のカタログ等に\nついては,商社や代理店等がこれを作成する場合があるとしても,製造メーカーが これを作成し,販売会社がそのカタログを利用して譲渡の申出をする場合等が多い\nと推認される。 そして,現代の社会においては,カタログだけではなく,インターネットのウェ ブサイトに製品を掲載してこれを宣伝広告し,販売することも多いことからすれば, 仮に一審原告のような商社が,自社のウェブサイトに,取扱製品と同製品の販売に 必要な情報を直接掲載し,その販売をする趣旨の記載をしていれば,同製品につい て,譲渡等の申出をしていることになると解されるところである。また,そうでな\nくとも,一審原告のような商社が,自社のホームページにおいて,特定の複数の製 造メーカーを紹介した上で,その製品を販売する旨を記載し,その趣旨で当該製造 メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,同サイトにおいて各製品の種類と仕様等\nの販売に必要なデータが説明されている場合にも,製造メーカーのウェブサイトを 利用する形での同製品について譲渡の申出をしているものと解される。すなわち,\n商社がそのウェブサイトにおいて製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼るだけ\nで,同メーカーのウェブサイトに掲載されている製品のすべてについて常に譲渡の 申出をしていると解することはできないけれども,その商社と製造メーカーとが取\n引関係にあることが記載され,当該商社に問い合わせれば当該製造メーカーの製品 を購入することができる趣旨の記載があり,かつ,製造メーカーのウェブサイトに は,製品の種類や仕様等の販売に必要な情報が開示されているなどの状況があれば, 製造メーカーのウェブサイトにリンクを貼り,これを利用している場合でも,製造\nメーカー作成のカタログを利用する場合と同様に,製造メーカーのウェブサイト掲 載の製品について,譲渡の申出をしていると解される。\nこれを本件についてみるに,一審原告のウェブサイトは,商社である一審原告が, 「半導体 規格品からユーザー仕様まで,ニーズに合わせた半導体やデバイス製品 を豊富な製品ラインアップから提供いたします。」との記載とともに,エバーライト 社を含めた複数の取扱メーカーの名称を列記し,これによりこれらの製造メーカー と一審原告とが取引関係にあることを示した上で,各メーカー紹介のページの中で で,エバーライト社の事業内容がLEDパッケージ等であること等を個別に紹介し, その上でエバーライト社のウェブサイトにリンクを貼り,そのウェブサイトにおい\nて同社が製造販売する各製品とその製品の詳しい仕様をみることができるようにな っているというものである。LEDパッケージは,製品の部品として購入されるも のであるから,これを購入するのは,製造メーカーやその代理店等の取引業者であ ると推認されるところ,一審原告のウェブサイトを見た取引業者は,一審原告が商 社としてエバーライト社の製品(その主力は,前記認定のとおり白色LED製品で あり,本件製品はその一部である。)を取り扱っており,一審原告に問い合わせれば, エバーライト社から白色LED製品等を購入することができると理解するものであ り,また,製品の詳細については,リンクが貼られているエバーライト社のウェブ\nサイトから,その詳しい仕様も見ることができるものである。そして,一審原告の ウェブサイトにおいては,エバーライト社の製品について,一部取扱ができない製 品がある等の記載はない。 上記の状況によれば,一審被告は,一審原告のウェブサイト及びこれとリンクさ れているエバーライト社のウェブサイトを見て,一審原告がエバーライト社のウェ ブサイトに掲載されている白色LED製品等を取り扱っており,取引業者からその 商品を購入したいとの申込みがあり,価格等の条件が合致すれば,これを販売する\nと理解したものであり,一審原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されてい る本件製品を含む白色LED製品について譲渡の申出をしていると理解したとして\nも,無理からぬところである。 そして,一審被告は,その後本件製品と本件製品に使用されているLEDチップ の構造,構\成材料等を分析し,本件特許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属す ることなどを確認した上で,先行訴訟を提起し,本件プレスリリースを掲載したの であり,一審被告が本件プレスリリースを掲載したとしても,一審被告には過失が あったものとは認められない。 なお,本件特許発明の請求項1については,その後訂正がなされているものの, 一審原告は,本件訴訟において,仮に一審原告が本件製品の譲渡等をしていたとし ても,本件製品は本件特許権を侵害するものではないから,一審被告による本件プ レスリリースの掲載は,不正競争行為に当たる,等の主張はしていないのであるか ら,本件の不正競争行為の過失の判断において,本件製品が本件特許発明の訂正後 の請求項1の技術的範囲に属するか否かに関し,これ以上詳しく判断する必要はな い。
ウ 一審原告の主張について
一審原告は,単に商社がメーカーのカタログを店舗に備え置いているだけで,譲 渡の申出が認められるとは限らない(カタログの内容や備え置きの態様や利用態様\nにより個別に判断されるべき問題である。),第三者(エバーライト社)の行為や顧 客の行為(クリック行為)を,一審原告の行為と評価することができる法的・事実 的根拠など存在しない,と主張する。 確かに,商社がメーカーのカタログを店舗に備え置いただけで,常に譲渡の申出\nがあると認められるわけではなく,カタログの内容やその備え置きの態様及び利用 態様により,個別に決められるべきであるというのは,一審原告主張のとおりであ る。しかし,一審原告のウェブサイトの記載からは,一審原告がエバーライト社と 取引関係にあり,エバーライト社のウェブサイトに詳細に記載されているLED製 品を販売すると理解することができるのであるから,一審被告が,一審原告のウェ ブサイト及びこれとリンクされているエバーライト社のウェブサイトを見て,一審 原告がエバーライト社のウェブサイトに掲載されている白色LED製品等を取り扱 っており,取引業者からその商品を購入したいとの申込みがあれば,これを販売す\nると理解し,一審原告が,エバーライト社のウェブサイトに掲載されている本件製 品を含む白色LED製品について譲渡の申出をしていると判断したとしても,無理\nからぬところであるのは前記認定のとおりである。 また,一審原告は,一審被告が一審原告による本件製品の輸入,販売及び譲渡の 申出があったと主張することは,事実上先行訴訟の蒸し返しである,先行訴訟と本\n件訴訟とは訴訟物が異なるものの,訴訟経済の観点から,一審被告の上記主張は信 義則に反する,と主張する。 しかし,先行訴訟と本件訴訟とは訴訟物が異なるものであり,のみならず,先行 訴訟の被告であった一審原告が本件訴訟を提起しているものであって,先行訴訟の 原告であった一審被告は,本件訴訟において被告としてその防御活動をしているに すぎず,積極的に先行訴訟の蒸し返しを行っているわけではない。また,本件訴訟 では,一審被告の本件プレスリリースが不正競争行為に当たるか否かのみならず, その行為に過失があるのか,あるいは正当行為として違法性阻却事由があるのかな ども争点になるのであり,一審被告のこれらの主張が信義則に反するということも できない。
エ 結論
以上によれば,一審被告の本件プレスリリースの掲載については,一審被告が, 一審原告のウェブサイトから,一審原告が本件製品について譲渡等の申出をしてい\nると判断したことは無理からぬところである。そして,一審被告は,その後本件製 品と本件製品に使用されているLEDチップの構造,構\成材料等を分析し,本件特 許発明の当時の請求項1の技術的範囲に属することなどを確認した上で,先行訴訟 を提起し,本件プレスリリースを掲載したのであり,一審被告が本件プレスリリー スを掲載したとしても,一審被告には不正競争防止法4条の過失があったものとは 認められない。 よって,一審原告による同法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。

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◆1審はこちら。平成26(ワ)3119

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平成26(ネ)10038  著作権侵害差止請求控訴事件  著作権  民事訴訟 平成28年1月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 データベースの著作権侵害について、114条1項侵害(権利者の単価利益*侵害者の販売数)により2億円強の損害が認定されました。1審も1億円を超えていました。
甲77によれば,データメンテナンス契約に基づくデータメンテナ ンス料は,平成19年10月までは月額5000円,同年11月以降は 月額6000円であったことが認められる。 (イ) 甲69によれば,1審原告の平成18年度のデータメンテナンスに 関する売上高は10億4742万9000円であったこと,その変動経 費は,仕入高(8387万6000円),残債(−8000円),販売 手数料(165万5000円),販促費/リース料S(0円),販促費 /その他(344万3000円),外注費(6604万9000円), 物流費4385万4000円),インセンティブ(423万円),広告 宣伝費(225万1000円),その他管理費(1億4457万400 0円)であったことが認められる。 この点,データメンテナンス契約に係る利益相当額の損害については, 著作権法114条の適用はないものと解され,その損害額の算定に当た っては,売上高から変動経費だけでなく固定費も控除されるべきである。 そして,上記の売上高,変動経費額,メンテナンス料の値引き取引も 行われていたことその他諸般の事情を考慮すると,データメンテナンス 契約に基づくメンテナンス料に対する利益は,メンテナンス料が月額5 000円であるか,6000円であるかを問わず,月額3000円と認 めるのが相当である。
(ウ) 以上を前提に,1審原告のデータメンテナンス契約に係る利益相当 額の損害額を算定すると,次のとおりとなる。 a 平成18年6月から平成21年12月末までの間に販売された被告 CDDBに係る損害 別表2のとおり,上記期間において販売された被告システム(当初\n版)は22本,被告システム(2006年版)は61本である。 そして,別表2によれば,平成19年4月から平成23年4月まで\nの49か月間に販売された被告システム(現行版)は333本であり, 平均して1か月当たり6.79本の被告システム(現行版)が販売さ れたものと認められるから,平成19年4月から平成21年12月末 までの33か月間に販売された被告システム(現行版)は224本(6. 79×33=224)と認められる。そうすると,平成18年6月か ら平成21年12月末までの間に販売された被告システム(当初版, 2006年版及び現行版)は,307本(22本+61本+224本) と認められる。 したがって,上記販売本数に対するデータメンテナンス契約に係る 利益相当額の損害額は,1105万2000円である。 計算式 3000円×12か月×307本=1105万2000円 b 平成22年1月から平成22年12月末までの間に販売された被告 システムに係る損害 上記期間において販売された被告システム(現行版)は81本(6. 79×12=81)となる。そして,この期間においては,その販売 時期を問わず,平成22年12月末までに発生したデータメンテナン ス契約に係る利益相当額が著作権侵害と相当因果関係のある損害とな る一方で,販売時期によって損害の発生期間が12か月に満たないも のがあることを勘案すると,その損害額は,上記販売本数に対する1 年分のデータメンテナンス契約に係る利益相当額の半額と認めるのが 相当である。したがって,上記損害額は,145万8000円と算定 される。 計算式 3000円×12か月×81×0.5=145万8000円 c 合計 前記a及びbの合計額は,1251万円である。

◆判決本文

◆1審はこちらです。平成21(ワ)16019
 

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平成26(ワ)25013  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年1月28日  東京地方裁判所

 使用量を限定した治療薬について、用法用量がそのような投与量のものに限られると判断して、本件特許を侵害しないと認定しました。請求項1は以下の通りです。
成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられる(ただし,イソソ\ルビトールに対し1〜30質量%の多糖類を,併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする,イソソ\ルビトールを含有するメニエール病治療薬。
 まず,特許請求の範囲の記載を見ると,本件発明は,所定量のイソソ\ルビトールを経口投与されるように用いられること(構成要件A)を「特徴とする,イソ\ソルビトールを含有するメニエール病治療薬」の発明であり,メニエール病治療薬を用法用量により特定したものであるが,イソ\ソルビトールの投与量が構\成要件A所定の範囲に含まれるような用法があれば足りるのか(その範囲未満又は超過の投与量での用法があってもよいのか),用法用量がそのような投与量のものに限られるのか(それ以外の用法用量をも有する治療薬は本件発明の技術的範囲から除外されるのか)については,特許請求 の範囲に明示的に記載されていない。 上記アの本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来のイソソ\ルビトール製剤(これが被告製品1を指すことは明らかであり,その標準用量は1日当たりイソソ\ルビトール1.05〜1.4g/kg体重に相当する。甲3)の投与量が過大であり,そのために種々の問題が生じるところ,その投与量を構成要件Aに記載の0.15〜0.75g/kg体重という範囲にまで削減することによって上記の問題を解消したというものである。そうすると,本件発明の治療薬は,構\成要件A記載の範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与する用法を排除し,従来より少ない量を投与するように用いられる治療薬に限定されるということができる。換言すると,上記範囲を超える量のイソソ\ルビトールを投与するように用いられる治療薬は,「医師のさじ加減」個々の患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合には構成要件Aに記載された量で用いられ得るものであっても,本件発明の技術的範囲に属しないと解すべきである。このことは,上記?イのとおり,実施例又は参考例において,イソソ\ルビトールの投与量を時間的推移に着目して変動させたものが見当たらないことからも裏付けられると解される。 したがって,構成要件Aの「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソ\ソルビトールを経口投与されるように用いられる」とは,上記の用量を,患者の病態変化その他の個別の事情に着目した医師の判断による変動をしない段階,すなわち治療開始当初から,患者の個人差や病状の重篤度に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当である。\n

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平成27(行ケ)10171  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年1月28日  知的財産高等裁判所

 商標「i:na」と「e−na」について、審決では類似すると判断されましたが、知財高裁は「称呼は同じだが、外観において明らかに相違しその相違の程度が顕著である」として、類似しないと判断しました。
 そこで,本願商標の「i:na」と引用商標の「e−na」を対比す ると,いずれも欧文字3字と1つの記号(「:」又は「−」)からなり,後 半の2文字が「na」である点において共通するが(引用商標中の「a」は 「a」にアクサン記号が付されたもの),冒頭の1文字及び記号はいず れも異なる。特に,引用商標においては,冒頭の「e」の文字が他の文 字よりも大きく表記され,最も看者の注意を惹きやすい文字といえると\nころ,これと本願商標の冒頭の「i」の文字とは,その外観が明らかに 異なる。 また,本願商標の「i:na」の欧文字は,同じ大きさのデザイン化 された太い筆記体の文字が横一列に並べられたもので,全体として整然 とした印象を受けるのに対し,引用商標の「e−na」の欧文字は,手書 き風のややくだけた活字体の書体であることに加え,文字の大きさが統 一されておらず,「n」の文字が他の文字よりやや低い位置に表記され,各\n文字が横一列に整然と並べられていないことから,全体としてやや雑然 とした印象を受けるものといえる。 なお,本願商標の下段部分と引用商標は,欧文字に近接してその読み を表記する片仮名又は平仮名が表\記されている点において共通する が,いずれも欧文字部分に比して極めて小さな表記にすぎないから,こ\nの点は,外観の類否に特段の影響を与えないものというべきである。 (エ) 以上のとおり,本願商標の下段部分と引用商標は,それぞれを構成\nする欧文字3字中の2字を共通にするものの,看者の注意を惹きやすい 冒頭の文字が異なる上,文字の書体,配列等の構成も異なっており,全\n体として受ける印象においても相違することによれば,本願商標の下段 部分と引用商標は,外観において明らかに相違し,その相違の程度は顕 著であるものと認められる。
・・・
エ 取引の実情について
本願商標の指定商品である「ティッシュペーパー,トイレットペーパ ー,その他の紙類」に係る取引又は引用商標の指定役務中の「紙類の小売 等役務」及び「壁紙の小売等役務」に係る取引において,本件審決当時,商 標の称呼のみによって取引が行われる実情があることをうかがわせる証拠 はない。 かえって,ティッシュペーパー,トイレットペーパー等の商品について は,スーパーマーケット,ホームセンター,ドラッグストア等の小売店舗 において,展示販売され,商品に付された商標の外観を確認し得る態様で 販売されることが通常であると考えられるところであり,このことは,本 件審決当時,原告が本願商標を使用して製造・販売するティッシュペーパ ー及びトイレットペーパーについても,これらの小売店舗において広く販 売されている事実(甲2,5,19)からも裏付けられる。また,インタ ーネット販売においても,商品名,商品の画像等から,商品に付された商 標の外観を確認し得るのが通常であるといえる。
オ 小括
以上のとおり,本願商標の要部である下段部分と引用商標は,「イーナ」の 称呼が生じる点では共通するものの,観念において比較することができな い上,外観において明らかに相違し,その相違の程度は顕著であること,さ らに,前記エ認定の取引の実情を総合考慮すると,本願商標及び引用商標 が本願商標の指定商品と同一又は類似する商品に使用されたとしても,取 引者,需要者において,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれ があるものといえないから,本願商標と引用商標とは全体として類似して いるものと認めることはできない。 したがって,本願商標が引用商標に類似する商標であるとは認められな いから,本願商標の指定商品と引用商標の指定役務の類否について判断す るまでもなく,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審 決の判断には誤りがある。

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平成27(行ケ)10058  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年1月28日  知的財産高等裁判所

 「Enoteca Italiana」が「ENOTECA」と類似するかが争われました。特許庁審決では類似しないと判断されましたが、知財高裁は類似するとしてこれを取り消しました。
 以上のとおり,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「I taliana」の文字部分とから構成される結合商標であるが,その\n外観上,それぞれの文字部分を明瞭に区別して認識することができるこ と,それぞれの文字部分から別異の観念が生じることに鑑みると,本件 商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ ど不可分的に結合しているものと認められないというべきである。 イ 本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」は,原 告及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表\n示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者 の間に,広く認識され,周知となっていたこと,本件商標の「Enote ca」の文字部分から,取引者,需要者において,原告の周知の営業表示\nとしての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることは,前 記ア(イ)認定のとおりである。 他方で,前記ア(ウ)認定のとおり,本件商標の「italiana」の 文字部分から「イタリアの」という観念を生じるが,本件商標の指定役務 との関係においては,本件商標の「italiana」の文字部分は,そ の役務の提供の場所,提供の用に供される物等がイタリアに関連すること を示すものと認識されるにとどまるものといえる。 以上を総合すると,本件商標が「ワインの小売又は卸売の業務について 行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使 用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取\n引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象 を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得る\nものといえる。 そうすると,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として 抽出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断すること も,許されるというべきである。 ウ これに対し,被告らは,本件商標は,外観が不可分一体で,称呼も一連 一体であり,観念についても,その構成全体から,ワインを販売・提供す\nる店舗の名称あるいは被告会社の周知な店舗名を表すものであること,本\n件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は強く支配的な印象を与\nえるものはいえないことなどからすると,本件商標から「Enotec a」の文字部分のみを要部として抽出することはできない旨主張する。 しかしながら,被告らの主張は,以下のとおり理由がない。 (ア) 被告らは,本件商標は,縁取りして統一的に図案化されたワインレ ッド色の「Enoteca Italiana」の文字をまとまりよく一 体的に表してなるロゴタイプの商標であり,本件商標から「エノテカイ\nタリアーナ」の一連の称呼がよどみなく生じるから,本件商標は,色彩 や形態によって外観が不可分一体であり,称呼も一連一体である旨主張 する。 しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,本件商標は,その構成全体\nから「エノテカイタリア−ナ」の称呼が生じるが,一方で,本件商標は,そ の構成中の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文\n字部分との間に空白があること,それぞれの文字部分の冒頭の文字が大 文字で,冒頭以外の文字が小文字であることからすると,本件商標の外 観上,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部 分とを明瞭に区別して認識することができるから,本件商標の外観が不 可分一体であるということはできない。 また,本件商標の構成全体から「エノテカイタリア−ナ」の称呼が自\n然に生じることからといって直ちに本件商標から「Enoteca」の 文字部分を要部として抽出することができないとはいえない。 したがって,被告らの上記主張は,本件商標から「Enoteca」の 文字部分のみを要部として抽出することはできないことの根拠となるも のではない。

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平成26(ワ)12198  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月24日  東京地方裁判所

 こちらも、iPhone、iPadが侵害対象物の侵害訴訟です。Apple Japanが被告です。裁判所は、構成要件Cを充足しないと判断しました。興味深いのは、いずれも本社はアメリカ法人ですが、日本の子会社同士の訴訟です。米国にも対応特許があるようなですが、なぜ日本特許での侵害訴訟なのでしょうか?
 このように,本件特許発明1において,加入者装置は,構成要件1Cで「候補サブキャリアのセット」の「選択」を行い,構\\成要件1Dで,上記「選択」した「候補サブキャリアのセット」に関して情報提供を基地局に行うものである。 一方,LTE規格の非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,N個のサブバンドで構成されている全帯域の「N個のサブバンド全部」について,サブバンド差分CQI値を報告することとされている(当事者間に争いがない。また,前記(2)のとおり,LTE規格の仕様書には,高次階層設定サブバンドフィードバックの欄に,ユーザ端末が,各サブバンドセットについて1つのサブバンドCQI値を報告しなければならない旨の記載がある。)。 イ 原告は,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されている旨主張するが(見解1),このように,LTE規格の上記モードにおいて,全てのサブバンドについて情報提供が義務付けられているとすれば,これは本件特許発明1の特徴である「選択したものについて情報提供を行う」との処理とは異なるものであって,構成要件1Cでいう「選択」や,それに引き続く構\\成要件1Dの「情報提供」があるとはいえない。 広辞苑第6版(乙3)によれば,「選択」とは,「えらぶこと。適当なものをえらびだすこと。良いものをとり,悪いものをすてること。」を意味するとされており,「選択」とは,何らかの基準を充たすものを選び出すことを意味すると解すべきである。 なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には,「各加入者は(中略)性能の良い(中略)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。」と記載されており(甲4),これは実施例に関する記載ではあるが,各加入者が性能\\の良いものを選び出し,その選択したサブキャリアに関する情報を提供するという過程が記載されており,上記解釈を裏付けるものである。 また,選択を行う者が,何らかの基準に従って対象物につき選択を行った結果,全てが選ばれる場合も想定し得るが,上記のとおり,非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,常に全てのサブバンドについてのサブバンド差分CQI値を報告することとされており,このような場合には「選択」の余地はないというべきである。 なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には「このフィードバックには,全てのサブキャリアについて又は一部のサブキャリアだけについてのチャネルと干渉の情報(中略)が含まれる」(段落【0010】)との記載があるが(甲4),これはあくまで,結果的に「全てのサブキャリア」が選択されることもあり得ることを前提とした記載というべきであって,常に「全てのサブキャリア」が選択されることを前提とした記載ではない。 原告は,情報処理技術分野においては,「全部の選択」等の用語の用い方はごく一般的であり,本件特許発明の「選択」の技術的意義については,単なる日本語の語義に基づくことは誤りであるとも主張する。しかし,本件特許の関連技術分野全てにおいて「選択」との文言が上記のように用いられることが通常であることを認めるに足りる証拠はないし,本件明細書においても,「選択」との文言の意義につき特段の説明はないから(甲4),原告の上記主張は採用できない。このほか,原告は,全サブバンドについてサブバンド差分CQIのフィードバックを行うことによって,情報量の低減効果があるとも主張するが,情報量の低減効果の有無と,サブバンドの「選択」の有無とは,直接関係がないことである。
ウ 以上のとおり,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件通信システム方法では,加入者装置(ユーザ端末)において本件特許発明1の規定する「選択」をしていないから,構成要件1Cを充足せず,更に,選択したものについて「情報提供」をしているともいえないから,構\\成要件1Dも充足しない。

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平成26(ワ)371  債務不存在確認請求事件  特許権 平成27年12月25日  東京地方裁判所

 iPhone、iPadのタッチパネル方式が侵害か争われました。損害賠償請求の不存在確認訴訟なので、Apple Japanが原告です。裁判所は、構成要件Cを充足しないと判断しました。
 (1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びにこれを引用する同請求項2,同請求項4及び同請求項6においては,本件各発明が,「位置検出手段により検出される複数の指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段」(構成要件C)を具備することを特徴とするタッチパネルシステムであることが規定されている。上記「複数の指示部位」には,当然,指示部位が2個である場合と指示部位が3個以上である場合の双方が含まれるところ,上記特許請求の範囲の記載の文理や,本件明細書において,入力検出面に3つの位置指示具が存在する場合に,当該3個所の位置(光量が0の領域)の中から最外端にある2個所の位置(光量が0の領域)を特定する実施例について説明がされていること(甲3の【0035】,【図7】)からすれば,当該タッチパネルシステムが具備するところの「距離算出手段」は,「位置検出手段により検出される指示部位が2個であれ3個以上であれ,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段」であると解される(換言すれば,「位置検出手段により検出される指示部位が2個である場合には,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出するが,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合には,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出するわけではない距離算出手段」はこれに当たらないと解される。)。なお,上記「最外端」という文言それ自体の意義については一義的でないようにも思われるが,本件明細書の【0035】,【0040】,【図7】,【図10】の記載及び弁論の全趣旨に照らせば,「最外端にある2個所」とは,「互いに最も離れた位置にある2個所」を指すものと解するのが相当である。\nそうすると,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合に,それら指示部位のうち最外端にある2個所(互いに最も離れた位置にある2個所)の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段を具備していなければ,当該タッチパネルシステムは,構成要件Cを充足しないというほかはない。
(2) これに対し,被告は,通常の用法である「2本指のピンチジェスチャ」(指示部位が2個である場合)においては,2つのタッチ位置が「複数の指示部位のうち最外端の2個所」にそのまま該当し,侵害となる以上,実用上特殊な場合である「3本指以上のピンチジェスチャ」(指示部位が3個以上である場合)を殊更取り上げることに意味はないなどと主張する。 しかしながら,前記(1)で説示したとおり,本件各発明の構成要件の充足性を判断するに当たっては,当該タッチパネルシステムが具備する距離算出手段がどのような距離算出手段であるのかが問われるのであって,被告の上記主張のように特定の使用態様(2本指のピンチジェスチャ)のみに着目することによって,「複数の指示部位」という文言が指すもののうちから「2個の指示部位」の場合のみを切り出し,その場合のみを基に侵害判断をすることは相当でない。そして,2本指のピンチジェスチャが通常の用法であるとしても,1)「複数の指示部位」という文言が「3個以上の指示部位」の場合をも含むことは当然である上,2)実際,頻度は少ないにせよ「3個以上の指示部位」が検出される場合があり得ること,3)被告自身,本件明細書(【0035】【図7】)において,3つの位置指示具が存在する場合について説明をしていることに照らすと,指示部位が3個以上である場合を取り上げることに意味がないなどということはできない。さらに,「最外端」の特定は,発明における動作原理にも関係することを考慮すると,被告の上記主張は到底採用することができない。
(3) 以上を前提として原告製品について検討すると,位置検出手段により検出される指示部位が3個以上である場合に,それら指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段を原告製品が具備していることを示す証拠はない。 かえって,証拠(甲9,18,19)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品のタッチパネルに3本ないし5本の指で1本ずつタッチしてピンチ操作を行った場合,表示イメージの拡大縮小は,最外端にある2個所(互いに最も離れた位置にある2個所)の指の間の距離に基づいて実行されるものではなく,最初及び2番目にタッチされた2本の指に基づいて実行されることが認められる。
(4) そうすると,原告製品は,構成要件Cを充足しないというほかはない。\n

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平成27(ワ)7033  不正競争差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 平成28年1月14日  東京地方裁判所

 対象の加湿器の形状は不競法の商品でない、著作物でもないと判断されました。
 原告らの不正競争防止法2条1項3号に基づく請求に対し,被告らは,原告加湿器1及び2は同号により形態が保護される「商品」に当たらない旨主張する。 そこで判断するに,同号が他人の「商品」の形態の模倣に係る不正競争を規定した趣旨は,市場において商品化するために資金,労力等を投下した当該他人を保護することにあると解される。そして,事業者間の公正な競争を確保するという同法の目的(1条参照)に照らせば,上記「商品」に当たるというためには,市場における流通の対象となる物(現に流通し,又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいうと解するのが相当である。 論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 原告加湿器1及び2は加湿器として開発されたものであり,使用するためには電源が必要になるところ,原告が平成23年11月及び平成24年6月に展示会に出品した際には,いずれも加湿器の本体を外部電源に銅線で接続することにより電気の供給を受ける構成となっていた。(甲3,5,20)\n
イ 原告らは,平成24年7月,被告スタイリングライフの担当従業員から原告加湿器2の製品化について問合せを受けたのに対し,原告らと考えの合致する製造業者が見つかっておらず,製品化の具体的な日程は決まって いない旨回答した。(甲7)
ウ 原告らは,平成27年1月5日頃,原告らのウェブサイトで原告加湿器3の販売を開始した。原告加湿器3は,加湿器本体とUSB端子がケーブルで接続され,これにより電気の供給を受ける構成となっている。(甲16,17)\n上記事実関係によれば,原告加湿器1及び2は,上記各展示会の当時の構成では一般の家庭等において容易に使用し得ないものであって,開発途中の試作品というべきものであり,被告製品の輸入及び販売が開始された平成25年秋頃の時点でも,原告らにおいて原告加湿器1及び2のような形態の加湿器を製品化して販売する具体的な予\\定はなかったということができる。そうすると,原告加湿器1及び2は,市場における流通の対象となる物とは認められないから,不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらないと解すべきである。
・・・
そこで判断するに,同法2条1項1号は「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術\n工芸品を含むものとする」旨規定している。これらの規定に加え,同法が文化の発展に寄与することを目的とするものであること(1条),工業上利用することのできる意匠については所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができることに照らせば,純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの,すなわち,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き,著作権法上の著作物に含まれないものと解される。
(3)これを本件についてみるに,証拠(甲3,5,20)及び弁論の全趣旨によれば,原告加湿器1及び2は,試験管様のスティック形状の加湿器であって,本体の円筒状部の下端に内部に水を取り込むための吸水口が,本体の上部に取り付けられたキャップの上端に噴霧口がそれぞれ取り付けられており,この吸水口から内部に取り込んだ水を蒸気にして噴霧口から噴出される構造となっていることが認められる。そして,以上の点で原告加湿器1及び2が従来の加湿器にない外観上の特徴を有しているとしても,これらは加湿器としての機能\\を実現するための構造と解されるのであって,その実用的な機能\\を離れて見た場合には,原告加湿器1及び2は細長い試験管形状の構造物であるにとどまり,美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていると認めることはできない。\n

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平成26(ワ)34145  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年1月14日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、「注文情報」に該当しないので非侵害と判断されました。被告がアスクルです。
 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の欄には,本件発明の実施形態が記載されているところ(段落【0027】〜【0134】,【図1】〜【図21】),この実施形態においては,「Web−POSクライアント装置」の表示画面に「明細フォーム」(カテゴリ,メーカコード,商品番号,商品名,単価,数量,金額といった注文商品明細が表\示されているもの。【図10】〜【図12】,【図17】〜【図21】。)が表示され,「オーダ・ボタン」のクリックに応答して,「Web−POSサーバ・システム」へ明細フォーム中のカテゴリ,メーカコード等の全フィールドを送信し,「Web−POSサーバ・システム」においてこの明細フォームを受信することとなっているところ(段落【0056】,【0111】〜【0125】,【0127】,【図12】),「オーダ・ボタン」のクリックにより「Web−POSサーバ・システム」が受信するのが「注文情報」であることから(構\成要件F4),上記明細フォームは「注文情報」に相当するので,「注文情報」には商品名,価格等の商品基礎情報が含まれている。また,本件明細書には本件発明の他の実施形態の説明も記載されているが(段落【0134】〜【0139】),いずれも「明細フォーム」を利用するものであり,「注文情報」に商品基礎情報を含まない構成についての記載は見当たらない。\nこれら本件明細書の記載を考慮して「注文情報」の意義を解釈すると,本件発明は,「Web−POSクライアント装置」の表示画面に明細フォームその他商品基礎情報を含む情報を表\示した上で,「オーダ・ボタン」のクリックに応答して,これらの情報を「Web−POSサーバ・システム」に送信するという構成を採用したものと認められる。したがって,「Web−POSクライアント装置」が送信して「Web−POSサーバ・システム」が受信する商品の注文に関する情報にカテゴリ,メーカコード,商品名,価格等の商品基礎情報が含まれていない場合には,構\成要件F4,G及びHの「注文情報」に当たらないと解するのが相当である。 ウ 「注文情報」を上記のように解釈することは,本件特許の出願経過における原告の説明とも一致する。すなわち,原告は,平成23年10月9日付け意見書(乙20)において,引用文献1(乙11)との相違点につき,1)引用文献1における注文情報は購入者ごとに生成される情報であって,この購入者ごとの注文情報は,商品識別情報等を含んだ商品ごとの情報である本件発明の「注文情報」とは異なる(乙20の11〜12頁),2)用文献1には,商品注文明細情報の生成及び表示過程に関する詳細な記載がなく,ユーザが注文した情報に売上管理等に必須となる商品識別情報及びこれに対応する商品基礎情報が含まれていないのに対し,本件発明では「注文情報」に商品識別情報とこれに対応する商品基礎情報が含まれている(同12〜13頁)と説明しており,これら1)及び2)の説明は上記の解釈と整合するということができる。

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平成27(行ケ)10159  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年1月20日  知的財産高等裁判所

 「Reebok」の文字の下段に極小さく表示した「ROYAL FLAG」から構成された結合商標について、先行商標「ROYAL FLAG」と類似するのかが争われました。知財高裁は、分離できるとした審決を取り消し、非類似と判断しました。判決文の最後に、本件商標があげられています。
 しかしながら,本願商標は,その外観上,「Reebok」の文字部分,図 形部分及び「ROYAL FLAG」の文字部分を組み合わせて成る結合商標であ ると認められるが,前記(1)のとおり,右側に鋭角の頂点を有する黒地の三角形の左 端に縦に白線を表し,当該三角形全体を左から右に波打つように旗状に表\\した図形 を中央に大きく配し,その上段に,「Reebok」の文字を図案化された特徴の ある書体で表し,図形の下段に「ROYAL」及び「FLAG」の各文字を1文字\n程度の間隔を空けて,上段の文字部分よりも小さく,かつ細いゴシック体で表して\n成るものであり,全体としてまとまりよく表されている。これに加え,中央に配さ\nれた図形の大きさ及びその形状並びにその上段に配された「Reebok」の文字 の大きさ及びその図案化された特徴のある書体に比べ,図形部分の下段に配された 「ROYAL FLAG」の文字部分は,小さく,すなわち「ROYAL FLA G」の冒頭の「R」と「Reebok」の冒頭の「R」の文字の大きさを比べると, 前者は後者の10分の1程度の大きさしかなく,かつ細い文字で表され,しかも,\nゴシック体という一般的な書体であるから,その外観上,「ROYAL FLA G」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているというこ\nとはできない。
ウ また,「ROYAL FLAG」という一連の語は,既成語として辞書に掲 載されているものではないが,「ROYAL」及び「FLAG」は,我が国にお ける英語の普及率に照らせば,いずれも一般的な英単語であって,格別のものでは ないこと,「ロイヤル(royal)」が国語辞典に掲載されているだけでなく (甲50),これを付した複合語(例えば,「ロイヤル・ウェディング(roya l wedding)」,「ロイヤル・スマイル(royal smile)」, 「ロイヤル・ファミリー(Royal Family)」,「ロイヤルブルー(r oyal blue)」,「ロイヤル・ボックス(royal box)」,「ロ イヤル・ミルク・ティー(royal milk tea)」など)も,カタカナ ・外来語辞典等に数多く掲載されていること(甲51,52),「フラッグ(f lag)」が国語辞典に掲載されているだけでなく(甲35,41),これと他の 語との複合語(例えば,「チェッカー フラッグ(checker flag)」, 「チャンピオン フラッグ(champion flag)」,「ナショナル フ ラッグ(national flag)」,「ナショナル フラッグ キャリアー (national flag carrier)」,「フラッグ・ショップ(f lag shop)」など)も,外来語辞典等に複数掲載されていること(甲37 〜40,44),「ROYAL」又は「FLAG」の英単語を含む商標登録も数 多く存在すること(甲56〜59)等に照らせば,一般的な英単語をつないだもの にすぎないというべきである。そして,「ROYAL FLAG」の文字部分は, それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの,商品の\n出所識別標識として強く支配的な印象を与える「Reebok」の文字部分との対 比においては,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印 象を与えるものであるということはできず,本件全証拠によるも,このようにいえ るだけの事情を認めるに足りない。 エ したがって,本願商標の構成のうち「ROYAL FLAG」の文字部分だ けを抽出して,引用商標と比較して類否を判断することは相当ではない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成27(行ケ)10158
こちらは「REEBOK ROYAL FLAG」と標準文字にて横一行で表した結合商標です。\n

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平成26(ワ)25282  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年1月14日  東京地方裁判所

 「電子ショッピングモールシステム」について、新規性なしとして侵害否定されました。興味深いのは、当該動作を行うための構成を有することは、当該動作から明らかと認定した点です。被告は楽天です。原告は訂正審判を請求しましたが、訂正拒絶理由が通知されて最終的には、取り下げています。審査における審査メモには「参考文献には、ユーザが電子ショッピングモールを訪れた当初は共通カテゴリを用いて商品が提示され、ある商品が選択された後にはその商品を販売する店舗が独自に定めた店舗カテゴリを用いて商品が提示される構\成が記載されておらず、一方、本願発明はそれにより、電子ショッピングモール全体としての統一感を保ちつつも、店舗の個性を発揮して他店舗との差別化を図ることができるという顕著な効果を発揮。」とあります。
 ア 乙16文献には次の趣旨の記載がある。(乙16) 楽天市場のオンラインショッピングなら,ジャンルを掘り下げていくだけで目的の商品まで簡単にたどり着くことができる。ここでは北海道・函館の地ビールを検索する。トップページの「商品名で調べる」又は「商品別」をクリックして商品名で探すこともできる。表示されているジャンル名「ドリンク・アルコール類」から開始し,その先は「ビール・地ビール」→「地ビール」→「北海道」とジャンルが絞られていき,その度にそれぞれのジャンルでの検索結果に商品名が表\示される。金額も表示されるので,わざわざ店のホームページにアクセスしなくても商品を選べるのは利点だ。(66頁) 商品別で検索したときも,商品名をクリックすれば,店舗のホームページにアクセスして,その商品の紹介ページが見られる。「はこだてビール」の店舗のホームページには「オリジナルギフトセット」というジャンルがあり,このジャンルの画像や価格,セット名を一覧表示することができたので,その中から商品を選ぶことにした。(68頁)
イ 楽天市場のトップページから順次表示されるものであり,楽天市場の全体\nルギフトセット」のジャンルは,特定の商品を取り扱う店舗のホームページに表示されるものであり,当該店舗が設定した商品分類に基づく店舗カテゴリであると,それぞれ認めることができる。そして,乙16文献に記載されたインターネットショッピングモールに係る発明(乙16発明)においては,ある共通カテゴリが示された場合に・・・のであるから,商品と共通カテゴリ及び店舗カテゴリを示す情報が相互に結び付けられるように記憶されていると認められる。また,ある店舗が取り扱う商品に係る情報から当該店舗独自のカテゴリ及びこれに分類される商品が表\示される(同)のであるから,ある商品がどの店舗カテゴリに属するか,その店舗カテゴリにどの商品が属するかを識別するに足りる情報が記憶されているということができる。
ウ 以上によれば,乙16発明は,本件各発明の前記争いのある各構成をいずれも備えていると認められる。\n

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平成27(行ケ)10096  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年1月13日  知的財産高等裁判所

 特許庁の審査基準では、備考類似の商品役務については、第三者から申立があった場合に、判断されます。「プログラムの提供等」と「プログラム」が類似関係にあると判決も認めました。
 本件において,引用商標の指定商品「電子応用機械器具及びその部品」には,「電 子計算機用プログラム」が含まれるところ,遅くとも本件商標の出願時には,電子 計算機用プログラムは,記録媒体に記録された電子計算機用プログラムとして店頭 にて販売されていたのみならず,インターネットを通じたダウンロードにより流通 されており,さらには,インターネット等の通信回線を通じ,サーバ上に保管され た電子計算機用プログラムを使用させる役務として提供されていたものと認められ る(甲132)。 一方,本件商標の指定役務中「ウェブログの運用管理のための電子計算機用プロ グラムの提供等」の役務で提供される内容は,いずれも「電子計算機用プログラム」 であるから,商品「電子計算機用プログラム」の製造・販売者がかかる役務の提供 を行うことも少なくないものと考えられる。また,商品「電子計算機用プログラム」 の需要者と,役務「電子計算機用プログラムの提供」の需要者は,いずれも,コン ピュータ等を用いて電子計算機用プログラムを使用する者であるから,共通すると いえる。さらに,上記認定のとおり,電子計算機用プログラム自体の流通と,電子 計算機用プログラムの提供とは,共にインターネット等の通信回線を通じて行われ ることもあると解されるから,取引形態も共通する。そして,これらの事情は,電 子計算機用プログラムの用途の内容,例えば,ウェブログの運用管理,オンライン によるブログ作成,インターネット上の情報閲覧などに限られるか否かによって異 なるものとは認められない。 したがって,商品「電子計算機用プログラム」と役務「ウェブログの運用管理の ための電子計算機用プログラムの提供等」とに同一又は類似の商標を使用する場合 は,同一営業主の製造若しくは販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそ れがあると認められる関係があるといえる。
(2) これに対して,原告は,引用商標の指定商品「電子応用機械器具及びその 部品」に含まれる「電子計算機用プログラム」はあくまでも電子応用機械器具の部 品としてのプログラムに限られるから,ウェブサイト上でのコンピュータプログラ ムの提供などとは類似しない,と主張する。 しかし,仮に,特定分野の電子計算機用プログラムが商品としてのみ流通してお り,ウェブサイト上などでは提供されてはいないという状況があったとしても,一 般的には,前記認定のとおり,電子計算機用プログラムが,インターネット等を通 じてダウンロードにより流通されると同時に,サーバ上に保管された電子計算機用 プログラムをインターネット等の通信回線を通じて使用させる役務として提供され ていたものと認められる。商品としてのみ流通している電子計算機用プログラムと, ウェブサイト上などでも電子計算機用プログラムが提供されている場合とで,その 製造・販売・提供者や商品・役務の内容,それぞれの需要者が異なると認めるに足 りる証拠はない。したがって,商品「電子計算機用プログラム」と役務「ウェブロ グの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供等」とに同一又は類似の商標 を使用する場合は,同一営業主の製造若しくは販売又は提供に係る商品又は役務と 誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえる。

◆判決本文

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平成27(行ケ)10069  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年1月14日  知的財産高等裁判所

 争点は、公然実施です。審判、知財高裁とも、特許を含む商品を販売した以上公然実施と認定しました。
 特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が 知り得る状況でその発明が実施されることをいうものである。本件のような物の発 明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者がその商品を外部 から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん,外部からはわからなく ても,当業者がその商品を通常の方法で分解,分析することによって知ることがで きる場合も公然実施となる。 前記のとおり,本件製品は,小売店であるディスカウントショップで商品として 販売されていたため,不特定多数の者に販売されていたと認められる。また,前記 争いのない事実によれば,当業者であれば,本件製品の構成F以外の構\成は,その 外観を観察することにより知ることができ,本件製品の構成Fについても,本件製\n品の保持部分を分解することにより知ることができるものと認められる。 そして,本件製品が販売されるに当たり,その購入者に対し,本件製品の構成を\n秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が 発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。 また,本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じ られているなどの事情も認められない。本件製品の購入者は,本件製品の所有権を 取得し,本件製品を自由に使用し,また,処分することができるのであるから,本 件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然であるといえる。 以上によれば,本件製品の内容は,構成Fも含めて公然実施されたものであると\n認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件製品の構成Fは本件製品を破壊しなければ知ることができない\nし,本件製品のパッケージ裏面の「意図的に分解・改造したりしないでください。 破損,故障の原因となります。」との記載(甲4)により,本件製品の分解が禁じら れており,内部構造をノウハウとして秘匿するべく購入者による本件製品の分解を\n認めていないのであるから,本件製品の購入者は社会通念上この禁止事項を守るべ きであり,警告を無視する悪意の人物を想定し,本件製品の破壊により分解しなけ れば知ることができない構成Fについて「知られるおそれがある」と判断すること\nは特許権者である原告に酷である旨主張する。 しかし,本件製品のパッケージ裏面の前記記載は,その記載内容等に照らすと, 意図的な分解・改造が本件製品の破損,故障の原因となることについて購入者の注 意を喚起するためのものにすぎないといえる。本件製品のパッケージ裏面の意図的 な分解・改造が破損,故障の原因となる旨の記載により,この記載を看取した購入 者がそれでもなお意図して本件製品を分解し,本件製品を破損・故障させるなどし た場合については,販売者等に対し苦情を申し立てることができないということは\nあるとしても,この記載を看取した購入者に本件製品の構成を秘密として保護すべ\nき義務を負わせるものとは認められず,そのような法的拘束力を認めることはでき ない。また,上記記載があるからといって,社会通念上あるいは商慣習上,本件製 品を分解することが禁止されているとまでいうことはできず,秘密を保つべき関係 が発生するようなものともいえない。 仮に,原告が本件製品のパッケージ裏面に前記記載をした意図が購入者による本 件製品の分解禁止にあったとしても,前記認定を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・・前記認定のとおり,本件製品のパッケージ裏面の記載は,意図的な分解・ 改造が破損,故障の原因となることについて購入者の注意を喚起するためのものに すぎず,原告の意図がどのようなものであれ,これによってこの記載を看取した購 入者と販売者等との間に本件製品の分解等について何らかの法的関係を発生させる ものではない。

◆判決本文

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