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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

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令和6(ラ)10001  保全異議申立却下決定に対する保全抗告事件  特許権 令和6年10月22日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

薬用の化学物質(ペプチド)に関する特許の差止仮処分命令の取消を求めましたが、抗告棄却されました。

当裁判所も、基本事件における相手方の申立ては、原々決定が認容した限度\nで認容するのが相当であると判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、 後記2のとおり当審における抗告人の補充主張に対する判断を、後記3のとお り当審における抗告人の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原 決定「理由」第4の1から7まで(6頁18行目から33頁7行目まで)に記 載のとおりであるから、これを引用する。当裁判所は、後記1の補正及び後記 2(1)の判断のとおり、乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2 −3、2−5)について、原決定とは異なり、当業者が、相違点1−1に係る 本件発明1の構成を容易に想到するとは認められないことから、本件発明の進\n歩性が欠如するとは認められないと判断するものである。
・・・
乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味 は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは 非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体 状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処 理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中 味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文 は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよ いが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよい という意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解さ れる。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性 の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学 物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、 第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排 除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は 認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての 非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド 含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の 含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題 も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、 「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する いずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチ ド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5. 0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用 することを想起するとは認められない。
抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先 日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする 凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」 (乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造するこ とができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明を PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然 検討すると主張する。
しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更 に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製 造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しよう とするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題 を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量 と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1. 0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に 対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPT Hペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起すると も認められない。 その他、抗告人が主張する事情を考慮しても、乙1発明に本件特許の優先日前の技術常識を組み合わせることによって、当業者が、相違点1−1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

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令和6(ネ)185等 商標権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件  商標権  民事訴訟 令和6年10月18日  大阪高等裁判所

被告は、ロゴ化された商標「Robot Shop」を用いてオンライン販売をしていました。商標「Robot Shop」(標準文字)の商標権者が、侵害訴訟を提起しました。1審は、差止と約1500万円の損害賠償を認めました。大阪高裁もほぼ同様です。

これに対し、一審被告は、一審原告の損害賠償額の推定の覆滅割合につ いて、一審被告の出資者の創始したカナダ法人が長年にわたり被告標章を使 い続けてきたこと、一審原告は本件商標以外にも自己の社名を用いた別の商 標を用いていること等からすると、上記の覆滅割合は90%を優に超えると いうべきである旨主張するが、一審被告の指摘する上記の事情は、上記認定 の覆滅割合の判断を左右するものであるとはいえない。 他方、一審原告は、1)ウェブサイトに「RobotShop」などと表示\nしてロボット関連商品をインターネット上で販売している会社は、一審原告 と一審被告の他には2社しかない、また、2)一審原告の販売商品である「S ota」というロボットは、日本経済新聞で取り上げられるなど著名であ り、本件商標は「Sota」の販売元のものとして知名度があるから、本件 商標の自他商品識別力は相当程度強いとして、一審原告の損害賠償額の推定 の覆滅割合は45%にとどまるなどと主張する。
しかし、上記1)の主張を踏まえても、ウェブサイトに「RobotSho p」などと表示してロボット関連商品をインターネット上で販売している会\n社は、一審原告と一審被告の他にも複数あるというのであり、また、上記2) の主張のとおり本件商標に一定の知名度があるとしても、本件商標そのもの は、「ロボットの店」などの意味で理解され得る一般的な語であることに照 らすと、それ自体の自他商品識別力が強いとはいえない。 したがって、一審原告の主張を踏まえても、一審原告の損害賠償額の推定 の覆滅割合を90%と認めるのが相当であるとの上記判断は左右されな い。
・・・
上記イ認定の限界利益額1億1306万8476円に10%(100%−90%)を乗じた額として計算された・・・

◆判決本文

1審はこちら

◆令和2年(ワ)7918

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令和6(ネ)10035 著作権  民事訴訟 令和6年12月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 検定用ガイドブックは、法人著作と認定されました。

上記引用の認定事実によれば、本件検定は、被控訴人の理事長兼本件財 団法人の理事であった Dの指示により、発足に向けた検討が始まったもの であり、関係団体としては被控訴人と本件財団法人の関与が想定されていた ところ、両者の関係は、最終的に、1)本件検定の実施主体は本件財団法人と するが、2)本件検定の標準テキストというべきガイドブック(本件書籍)は、 被控訴人を「発行」主体とし、被控訴人(文化服装学院)が内容を検討し、 その職員において執筆するという役割分担が整理されたこと、実際にも、本 件書籍の執筆を担当したのは、控訴人を含む被控訴人の従業員3名であり、 この3名に対しては、被控訴人から「原稿料」が支払われていることが認め られる。
以上の事実によれば、本件書籍は、被控訴人の従業員としての控訴人が、 その職務上作成したものと認めることができる。なお、控訴人も、本件書籍 の執筆に当たり、文化服装学院内において執筆することがあり、被控訴人の 職員と打ち合わせ、被控訴人が所蔵する資料を借り出し、調査等の目的で文 化服装学院の図書館を利用したことを認めている(甲19、弁論の全趣旨)。
(2) 以上の認定・判断に反する控訴人の主張は、以下のとおり、いずれも採 用できない。
ア まず、控訴人は、本件書籍の作成指示は、本件財団法人の当時の事務局 長兼理事であった Aから受けたと主張し、本件当時の文化服装学院の 教務部長の Bの陳述書(甲20)中には、控訴人が Aとやり取りを しており、自分としては本件書籍の執筆を被控訴人の業務として行って はならないと厳命していたとの記載もある。
しかし、本件財団法人作成の本件計画案(甲18)中に、本件書籍は 被控訴人(文化服装学院)の職員に「執筆願っている」旨の記載がある ほか、被控訴人と本件財団法人間の覚書においても、本件書籍は、被控 訴人(文化服装学院)側で執筆を含む編集・出版を担当することが明記 されている。 Bの陳述書は、これら関係証拠と矛盾するものであって、 採用できない。
イ また、控訴人は、本件書籍執筆当時の嘱託業務量からして、膨大な分量 のある本件書籍を執筆することはできなかったとも主張する。しかし、 嘱託業務としての所定の勤務時間内に本件書籍の執筆をすることが困難 であったとしても、講師としての本来の報酬とは別に相応の報酬を受け 取ることを前提に、付随業務として本件書籍の執筆を新たに引き受ける ということはあり得る話であり、控訴人の上記主張は、本件書籍の執筆 が被控訴人従業員としての職務(付随業務)に含まれないと解すべき理 由にはならない。
ウ さらに、控訴人は、本件書籍執筆に関して本俸を上回る原稿料が支払わ れていることから、本件執筆が嘱託専任講師業務とは別の性質のもので あると主張する。しかし、ここで重要なのは、「原稿料」が、本件財団 法人からではなく、控訴人の使用者である被控訴人から支払われている という事実である。本件財団法人( A)に指示されて執筆した旨をい う控訴人の主張は、この事実と整合せず、原稿料の支払に関する客観的 な事実関係は、むしろ、被控訴人従業員としての職務(付随業務)に基 づいて本件書籍の執筆がされたことを推認させるものである。なお、本 来の講師としての報酬と別枠での支払になっているという点に関してい えば、当該原稿料の支払は、付随業務の負担が重いことに配慮した補償 的な現金支給であったと理解できるから、いずれにせよ上記認定判断を 左右しない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和5年(ワ)70315

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令和5(ワ)70607  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  東京地方裁判所

 構成要件Jを充足しない、さらに均等侵害も第5要件を満たさないと判断されました。

ア 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、「第 1 制御装置」(構成要\n件 J)は、自動回帰発動条件1)(「前記第 1 送受信アンテナにより一定時間以 上前記遠隔操縦装置からの信号を受信しなかったと判断された場合」)、又は、 同2)(「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」)のうち、「少 なくともいずれか一方の判断が行われた場合」に、本件発明の遠隔操縦無人 ボートを、「前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記 初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する」 ものである(いずれも構成要件 J)。
もっとも、この記載によっても、本件発明の「第 1 制御装置」は、自動回 帰発動条件1)及び2)の各場合に自動回帰のための動作制御を行い得る構成\nをいずれも備えたものである必要があるか、いずれか一方の構成を備えた装\n置であれば足りるかについては、必ずしも明らかでない。
イ そこで、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明は、「ボートが波に乗っ て、リモコン(遠隔操縦装置)の電波が届かないような遠くまで流されてし まった場合」、「波により船体が激しく揺れて、遠隔操縦装置からの電波を受 信するアンテナが岩等に当たり破壊されてしまった場合」及び「ボートに搭 載されている電源の残量が少なくなって、駆動電力が供給され難くなった場 合」、すなわち、遠隔操縦装置との通信途絶(前 2 者)及び電源残量の不足 (後者)という事態を具体例として示しつつ、そのような事態においてもな お紛失することなく、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供することを 解決すべき課題とし(【0004】〜【0007】)、本件発明の構成を備えることに\nよって、「一定時間以上遠隔操縦装置地の間の通信が途絶えた場合、または、 電源の残量が半分以下になった場合」に、「自動的にボートを初期位置に回 帰させることができ」、「ボートを紛失してしまうことがない」として、この 課題を解決する作用効果が得られるとするものである(【0008】、【0009】)。
ここで、自動回帰発動条件1)の場合に初期位置に自動回帰させること及び 同2)の場合に初期位置に自動回帰させることは、前者が遠隔操縦装置との通 信途絶、後者が電源残量の不足という相互に原因の異なる危機的状況への対 処を想定したものである。このため、本件発明は、その作用効果を奏するた めに、いずれの危機的状況にも対処できるようにすることを要するものと理 解される。そうすると、本件発明における「第 1 制御装置」(構成要件 J) は、自動回帰発動条件1)に係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得 る機構を備えることを前提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に\n自動回帰のための動作制御を行う装置を意味するものと解される。本件発明 の実施例としてはこのような装置のみが開示され、いずれか一方の機構のみ\nを備えるものが本件発明の技術的範囲に含まれることの明示的な記載も示 唆もない。これに加え、このように解することは、本件発明に係るボートが 電源の残量を検出する残量検出装置(構成要件 I)を備えることを発明特定 事項としていることによっても裏付けられる。仮に、自動回帰発動条件2)に 係る判断を行い得る機構がなく、同1)が満たされた場合に自動回帰のための 動作制御を行う機構のみを備えた装置も本件発明の技術的範囲に含まれる\nものと解した場合、本件発明の発明特定事項として電源の残量を検出する残 量検出装置を備える構成を採用したことの技術的意義が理解し難いものと\nなるからである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載によ れば、本件発明の「第 1 制御装置」(構成要件 J)は、自動回帰発動条件1)に 係る判断と同2)に係る判断のいずれもが行われ得る機構を備えることを前\n提として、そのいずれかの条件が満たされた場合に自動回帰のための動作制 御を行う装置を意味するものと解される。これに反する原告の主張は採用で きない。
3 争点 1-5(均等侵害の成否)について
原告は、仮に被告製品が本件発明の構成要件 J を充足しないとしても、電源の 残量に着目した自動回帰のための動作制御の条件として、電源の残量が半分以下 となった場合とするか他の所定量以下となった場合とするかの相違は、本件発明 の本質的部分の相違ではなく、本件特許の出願経過において意識的に除外された ものでもないことなどから、被告製品につき本件発明の均等侵害が成立する旨を 主張する。
しかし、前記認定事実(前記 2(1))によれば、本件特許の出願経過において、 特許庁審査官から、拒絶理由として、補正前請求項 1 発明の「所定の条件」につ き明確性要件違反及びサポート要件違反を指摘され、また、補正前請求項 6 発明 の「所定値」につき明確性要件違反を指摘されたことを受け、原告は、本件補正 により、自動回帰のための動作制御の条件につき、本件発明の構成要件 J のとお り補正したものである。原告によれば、本件補正は出願当初の明細書の記載内容 の範囲内で行ったものであるところ(乙 4)、本件明細書には、自動回帰発動条件 につき、本件発明の実施形態の 1 つとして、「上記実施形態では、自動回帰の際 に、障害物に衝突しないように、通ってきた経路を戻っている。しかし、通って きた経路を戻らなくてもよい。この場合、ボート に障害物を検知するセンサ を設け、自動的に障害物を回避できるようにすることが好ましい。電源 12 の残 量が少ない場合にボート を自動回帰させる場合、通ってきた経路を戻るので は、少なくとも電源 12 の残量が半分以上あることを条件に戻す必要がある。障 害物センサを設けることにより、電源 12 の残量が半分以下になって、自動回帰 させても操作者の下までボート が戻って来ることができる。」との記載があり (【0061】)、他に自動回帰発動条件としての電源の残量の数値に言及する記載は 見当たらない。この点を踏まえると、本件補正は本件明細書【0061】の記載に基 づいて行われたものと理解される。
そうすると、原告は、本件補正により、電源の残量に着目した自動回帰のため の動作制御の条件につき、ボート が通ってきた経路を戻るケースにも対応し 得るものとする趣旨で、「前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合」 (自動回帰発動条件2))とする数値限定を行ったものとみるのが相当であり、「半 分以下」とするもの以外は特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべ きである。
したがって、本件発明の構成要件 J の文言非充足との関係における均等侵害の 主張については、少なくとも均等の第 要件を欠き、自動回帰発動条件2)に係る 「半分以下」の構成を備えない被告製品について、均等侵害が成立するとは認め\nられない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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令和4(ワ)8300 差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

不競法2条1項20号により、販売代理店として取得した同サービスに係る営業上の機密事項や営業手法を利用し、これと類似する事業を行うことが禁止されました。

ア 被告会社は、原告に対し、本件契約 3 条 2 項 4 号に基づき、「本サービスを …誤認されるサービスを行ってはならない」という競業避止義務を負う。また、本 件事業に関し、被告会社が原告との関係で代理商(会社法 16 条)の地位にあること は当事者間に争いがないところ、代理商は、許可なく「自己又は第三者のために会 社の事業の部類に属する取引をすること」を禁止されている(同法 17 条 1 項)。したがって、被告会社は、この観点からも、原告に対して競業避止義務を負う。
イ 前提事実及び前記各認定事実によれば、本件事業及びレキシル事業は、いず れも、広く採用活動を行う顧客から提供を受けた求職者等の履歴書や職務経歴書等 の情報を用いて、当該求職者等に係る WEB 調査及びその評価を行うサービスとい える。このため、レキシル事業は、本件事業と同種又は類似するサービスであり、 原告が事業として行う本件事業の部類に属する取引と認められる。なお、被告会社 は、レキシル事業として「レキシル」及び「レキシル+」を提供しており、それぞれ 別の商品として位置付けているとみられるものの、これらを併せた商品群を「レキ シル」と称して、一体的に宣伝広告活動等を行っていることがうかがわれることに 鑑みると、被告会社の原告に対する競業避止義務違反を考えるに当たっては、これ らの商品を区別して取り扱う必要はないというべきである。 また、本件提案書及び本件申込書とレキシル提案書及びレキシル申\込書の記載内 容の同一性又は類似性並びに本件契約締結及びその前後の経緯に鑑みると、被告会 社は、本件事業に関して原告から提供された資料に示された情報をもとにレキシル 提案書その他レキシル事業に関する資料等を作成し、レキシル事業に使用したもの と理解される。そうすると、被告会社は、原告に対する本件契約上の競業避止義務 にも違反したものといえる。
ウ これに対し、被告会社は、本件契約上の競業避止義務は代理商としての競業 避止義務よりも範囲を限定し、後者の適用を排除したものであり、また、仮に後者 が適用されるとしても、レキシル事業と本件事業とは内容や市場を異にすることな どを主張する。
しかし、上記のとおり、本件契約上の競業避止義務と代理商としての競業避止義 務とは内容を異にするところ、前者をもって後者の適用が排除されるとすべき理由 はない。また、本件事業とレキシル事業の内容や市場については、レキシル事業の うち「レキシル」は、本件事業とその内容及び市場を同じくすることは明らかとい ってよい。他方、「レキシル+」については、「第三者チェック」が実施されること もあって、「おすすめ対象」が中途採用者及び幹部社員採用候補者とされており、 その点では本件事業と異なる部分がある。もっとも、少なくとも中途採用者は「レ キシル」においても「おすすめ対象」とされており、また、幹部社員採用候補者に ついても WEB 調査が必要となる例のあることは容易に推察される。そうすると、 「レキシル+」を考慮に入れても、レキシル事業と本件事業とは、その内容及び市場 を共通にすると見るのが相当である。 その他被告会社が縷々主張する点を考慮しても、この点に関する被告会社の主張 は採用できない。
(3) 小括
以上より、被告会社は、レキシル事業の実施につき、原告に対する代理商として の競業避止義務(会社法 17 条 1 項 1 号)及び本件契約に基づく競業避止義務に違 反したものと認められる。

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令和5(行ケ)10132 特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年10月30日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立について、訂正を認めた上、進歩性無しとして取消決定がなされました。知財高裁は、かかる審決を取り消しました。

前記(2)ウ、(3)アのとおり、甲1文献には、本件訂正発明1の地盤固結材 と同じ組成による固結体を得るための地盤注入用薬液が記載されている ものの、地盤改良工法における1次ゲル化時間の定義やその機能効果等の説明、注入の手順・条件等は一切記載されていない。そこで、当該地盤固\n結材を使用した地盤改良工法における本件訂正発明1の構成に係る当該地盤固結材の注入の条件について、各文献の記載事項等から、本件特許の\n出願当時、当業者が容易に想到し得たか否かが問題となる。
前記第4の2のとおり、本件訂正発明1及び引用発明の地盤改良工法で 使用される地盤固結材は、水ガラスと微粒子スラグを有効成分とする懸濁 液(懸濁型グラウト)であり、固結の原理は、「低モル比シリカ溶液中のア ルカリ分が微粒子スラグの潜在水硬性を刺激して固化するとともに、低モ ル比シリカ溶液のシリカ分が微粒子スラグのカルシウム分と反応してゲ ル化するため、土砂中においてスラグによる固結部分の間をシリカのゲル が連結することにより一体化した固結体が形成される」というスラグの水 硬性によるものである。他方、甲5文献、甲6文献及び甲9文献に記載さ れている地盤固結材は、「活性複合シリカコロイド」(甲5)、「溶液型活性 シリカグラウト」(甲6)又は「耐久シリカグラウト」(甲9)(溶液型グラ ウト)であり、その固結の原理は、注入液が「土粒子間浸透するにつれ、 土との接触部の pH が中性方向に移行するとともにゲル化が進行」(甲5) する、「注入された酸性の薬液は土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性に なると固結が始まる」(甲6)という地盤の pH によるものであり、本件訂 正発明1及び引用発明の地盤固結材とは固結の原理を異にする。
また、地盤改良工法の注入の条件について、甲5文献、甲6文献及び甲 9文献は、注入材(溶液型グラウト)について、注入された酸性の薬液は 土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性になると固結が始まるため、薬液 のゲル化時間は地盤中に注入された状態のものを測定し、この土中ゲル化 時間(GTso)よりも薬液の注入時間を長く設定することで、後続の注入液 が、先行する注入液のゲル化しかかった先端表面部を乗り越えて、又はゲル化しかかった注入液を外周方向に押しやりながら浸透し固結していく\nというマグマアクション法を説明している。しかし、当該マグマアクショ ン法は、あくまでも酸性の薬液が土中のアルカリ分と反応して固結する場 合の注入の条件について述べたものであって、薬液中のスラグの水硬性に より固結する本件訂正発明1及び引用発明の地盤固結材の注入の条件と して当然に妥当するものということはできない。固結の原理が異なる以上、 同じ地盤改良の技術分野であるからといって、同じ注入条件で大径の高強 度固結体を形成するという課題を実現することができるとは直ちにいう ことはできないからである。甲5文献、甲6文献及び甲9文献中にも、マ グマアクション法を、固結の原理を異にする懸濁型グラウトに適用し得る ことを示唆するような記載等は見られないから、当業者において、引用発 明及びこれらの文献から、本件訂正発明1及び引用発明の懸濁型グラウト の特性(1次ゲル化、疑塑性、2次ゲル化)に応じた注入条件を容易に想 到することはできないというべきである。

◆判決本文

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令和5(ワ)70346 特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月10日  東京地方裁判所

特許権侵害事件です。構成要件Fを具備しないとして、非侵害と認定されました。念のため、無効理由についても判断がされています。

前記前提事実に加え、証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば、被告各製 品は、ユーザーが自動車のドアを開けることで磁気センサーモジュールがド アに設置された磁石の磁気を感知しなくなると、バックライトモジュールが オン状態(点灯状態)になる一方で、ユーザーが自動車のドアを閉じること で磁気センサーモジュールが磁気を感知すると、バックライトモジュールが オン状態からオフ状態(消灯状態)になること、そして、バックライトモジ ュールがオン状態(点灯状態)のまま放置されると、徐々に減光しながら消 灯するが、これは、バックライトモジュールが、接続されているコンデンサ の充電又は放電による影響を受けるからであり、発光持続時間を正確に調整 するための制御回路や制御プログラムを用いることによって消灯までの時間 が制御されているものではないこと、点灯状態と消灯状態の時間間隔は、コ ンデンサの性能(静電容量)やその劣化(静電容量の低下)の程度によって\n左右されるため、製品の使用期間が長くなりコンデンサのエイジングが進む と点灯開始から消灯までの時間間隔が短くなり、所望の時間間隔で消灯させ ることはできないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告各製品の発光持続時間は、コンデンサの性能\nやその劣化の程度によって左右されることになるのであるから、被告各製品 は、発光持続時間を正確に調整することができるものとはいえない。 これに対し、原告の主張は、構成要件Fにいう「調整可能\」の文言解釈に つき、前記判断とは異なる文言解釈に立つものであり、上記文言解釈に係る 前記説示に照らし、いずれも採用の限りではない。
・・・
前記3のとおり、被告各製品は、本件発明の構成要件Fを充足しないから、\n本件発明の技術的範囲に属するとはいえず、その余の争点を判断するまでもな く、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案に鑑み、本件 の中核的争点の一つである争点2−1に限り、念のため、以下判断を示してお くこととする。
・・・
前記(1)の乙8公報の記載によれば、乙8発明は、外部電源が完全に不要な 自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題 とするものであり(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュ ールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線 を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設され る構成を有し(【0005】、【0015】ないし【0017】)、この構\ 成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することが できる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【001 9】)ことによって、上記の課題を解決するものと認められる。その他に、 乙8公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されて\nいない。
そして、前記(1)及び前記(2)イのとおり、乙8発明の構成は、外部電源が完\n全に不要な発光モジュールである導光板10に、これに埋設されたランプ板 50、電池40等を密封するための収容溝カバー70を設け、スカッフプレ ート80の上面には凹部を設け、この凹部に発光モジュールである上記導光 板10を収容するものである。 そうすると、乙8発明においては、導光板10に係る上記構成(電池40\nを導光板10の内部に埋設して、導光板10の底面に電池40を密封する収 容溝カバー70を設け、この導光板10をスカッフプレート80の内部に収 容しているものをいう。)は、乙8発明の課題解決に直結した構成であるか\nら、乙8発明に接した当業者がこれを変更する動機付けを認めることはでき ない。
のみならず、乙8公報には、電池の交換についての記載はなく、乙8発明 に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点8 −1に係る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)\n導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設 け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)当該収容孔を覆 うカバーを設け、当該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)\nスカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設 されているランプ板50等との電気接続を行うという、複数回の変更が必要 になり、しかも、上記の変更内容には、乙8発明の課題解決に直結した構成\nの変更も含まれていることが認められる。 これらの事情の下においては、乙8発明に接した当業者において上記のよ うに変更する動機付けはないといわざるを得ず、当業者が本件発明を容易に 想到し得たものと認めることはできない。
これに対し、被告は、乙10文献には、無線車両発光ペダルの下表面から\n電池を交換可能にするために背面に取り外し可能\な電池カバーを設けること が開示されており、乙10文献及び乙11文献によれば、電池を内蔵する機 器一般において、電池を交換可能にするために、取り外し可能\な方式で電池 の収容孔を覆うカバーを設けることは周知技術であるから、乙8発明に乙1 0文献の技術事項や周知技術を組み合わせることにより、乙8発明の収容溝 カバー70を取り外し可能とすることは、当業者にとって容易想到であると\n主張する。
しかしながら、乙8発明に接した当業者において、スカッフプレート80 には、底板が設けられるものと理解するのが相当であることは、前記(2)イに おいて説示したとおりある。そうすると、底板が設けられるため、収容溝カ バー70は、スカッフプレート80の下表面に対して露出していないのであ\nるから、被告の主張は、乙10発明や周知技術を組み合わせるための前提を 欠く。
のみならず、乙11公報によれば、表示部を有し電池を電源とする電子機\n器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバ ーを設けることは技術常識であるといえるものの、当該技術常識を超えて、 乙8発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート 80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、底板の裏側から底 板に収容されているモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識で あったものと認めるに足りない。 しかも、乙10文献については、乙8発明のスカッフプレート80に相当 する底板に相当する部材がないのであるから、下側から電池カバーを設ける という単純な技術常識によっては、乙8発明の電池の収容に係る構成と置換\nするなどして相違点8−1に係る構成に容易に想到することはできない。\nそうすると、被告の主張を考慮しても、乙8発明から出発して相違点8− 1の構成に至るための動機付けを認めることはできず、被告の主張は、前記\n判断を左右するものとはいえない。

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令和5(ワ)70272  特許権侵害排除等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月23日  東京地方裁判所

特許権侵害で、均等主張をしましたが、本質的要件(第1要件)を満たさないとして非侵害と認定されました。

ア 本質的部分の認定について
第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許 請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の 範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効 果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定す\nることによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値 は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定めら れることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細 書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、 そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される 場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化した ものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程 大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のも のとして認定されるものと解される。 ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されてい るところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、\n明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術 に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきで\nある。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及 び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記 載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると 解される。
・・・
ウ 本件発明の本質的部分
(ア) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本 件発明は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間が かからない、親綱支柱取付治具を提供するという課題を解決することを 目的として(【0006】及び【0007】)、矩形状の板の端部で上下 方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を含み(構成要\n件C)、かつ、矩形状の板の第1の方向端部より逆方向の端部までの長 さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)\nという構成を採用したものであり、このような構\成を採用することによ り、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱 支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形 鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具 を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】)もので あると認められる。そして、上記の「U字状に折り曲げられた折り曲げ 部」は、これを幅の狭いフランジ部に係合した状態で親綱支柱の取付具 を位置決めして固定できることから、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱 支柱を設置するのに手間がかからないようにするという課題解決に寄与 する構成であるということができる。\n
他方、本件明細書には、乙17発明の存在を明示ないし示唆する記載 は存在しないが、前記イのとおり、本件出願までに公知となっていた乙 17発明は、命綱取付装置を梁に簡単に取り付けるために、本体下部の U字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状 本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上 部と水平方向で係合させるという構成を採用しており、このうちコ字形\nフック部(乙17文献図面目録の【第3図】2b)は、命綱支持具を梁 の長手方向に沿った任意位置に配置して命綱を建物外周壁上部に沿った 任意位置へ簡単に取付けることができるという、構成要件Cの「U字状\nに折り曲げられた折り曲げ部」と同様の効果を奏するものと認められる。 そうすると、乙17発明は、本件発明との関係で従来技術に相当する ものであり、かつ、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題とし て記載されている部分は、本件出願時の従来技術に照らして客観的に見 て不十分であったと認められるから、本件発明の従来技術に見られない\n特有の技術的思想を構成する特徴的部分の認定に当たっては、乙17発\n明の内容も参酌して認定されるべきである。
そして、上記のとおり、設置するのに手間がかからないようにすると の課題解決に寄与する構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ\n部」と同様の構成については、乙17発明が既に備えていたものである\nから、本件発明と従来技術である乙17発明との主な差異は、本件発明 では、折り曲げ部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが治具を 取り付ける形鋼のフランジ幅より長いのに対し、乙17発明では、コ字 形フック部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが同フック部と 係合させる梁の上部の幅(フランジ幅)と同一であるという点にすぎな い。
したがって、本件発明は、従来技術と比較してその貢献の程度が大き いとはいえないから、その特許請求の範囲の記載の一部について、これ を上位概念化したものとして認定することはできず、本件発明の本質的 部分は、特許請求の範囲に近接したものとなるというべきである。 (イ) 以上によれば、本件発明における従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分については、原告が主張するように「1)U字 状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、2)その反対方向における長さを フランジ幅よりも長くしている」という構成であると認めることはでき\nず、矩形状の板の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられ た折り曲げ部を設けた上で、この折り曲げ部の存在する端部から矩形状 の板の逆方向の端部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジ幅 よりも長くするという構成、すなわち、構\成要件C及びEにより近接し た構成であると認定されるべきである。\n
エ 被告製品の第1要件の充足性
前記2で説示したとおり、被告製品は構成要件C及びEをいずれも充足\nするとは認められず、本件発明の「治具」は、「上下方向に間隔を開けて U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が「前記矩形状の板の前記第1の方 向の端部」と連続する(構成要件C)のに対し、被告製品は、本件発明の\n「折り曲げ部」に相当するフック部が、同「矩形状の板」に相当する底板 ではなく、側板の端部と連続しており、また、本件発明の「治具」は、 「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、 前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」(構成要件E)のに\n対し、被告製品は、「矩形状の板」の「第1の方向端部より逆方向の端部 までの長さ」に相当する、形鋼に取り付けられた際に形鋼のフランジの二 辺と平行になる二辺に係る底板の端部間の長さが、形鋼のフランジの幅よ り長いとはいえない。
したがって、本件発明と被告製品とは本件発明の本質的部分において異 なっているというべきであり、両者の異なる部分が本件発明の本質的部分 ではないといえないから、均等の第1要件を満たすとは認められない。

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令和3(ワ)20229  意匠権侵害差止等請求事件  意匠権  民事訴訟 令和6年10月30日  東京地方裁判所

意匠権侵害が認められ、差止と約1000万円の損害賠償が認定されました。被告は100均の大創産業です。無効主張、2項推定の覆滅、3項の適用など論点満載です。

前記(2)のとおり、原告意匠と被告意匠に係る物品は、いずれも生活 雑貨などの家庭用品を収納する容器であるから、その需要者は個人消費 者であると認められる。 そして、需要者である個人消費者は、収納容器として物を収納する際 には、その使用のしやすさや持ち運ぶ際の便利さの観点から、物を収納 し又は収納することなく床等に収納容器を置いた際には、その見た目の 美しさ等の観点から、それぞれ、両意匠に係る物品を観察し、選択する ということができる。 そうすると、両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様に照らし、 収納容器として物を収納する際の使用のしやすさ等観点からは、収納容 器全体の形状等である基本的構成態様1)が需要者の注意を惹く部分であ るとともに、物を収納し又は収納することなく床等に置いた際の見た目 の美しさ等の観点からは、収納容器としての外形を特徴付ける部分の形 態である具体的構成態様3)、4)及び6)が、最も強く需要者の注意を惹く 部分であるということができる反面、形状の細かな比率に係る具体的構\n成態様2)や収納容器本体底面の小さな突起に係る具体的構成態様5)は、 需要者の注意を惹く部分ということはできない。
・・・
前記aないしcのとおり、原告意匠の基本的構成態様1)の一部、具 体的構成態様3)、4)及び6)については、それぞれ類似する公知意匠が 存在するとは認められるものの、それらの構成態様を全て兼ね備えた\n公知意匠は見当たらない。
(ウ) まとめ
以上のような意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意 匠の内容からすれば、原告意匠の収納容器全体の形状及びその外形を特 徴付ける部分の形態である基本的構成態様1)並びに具体的構成態様3)、 4)及び6)を組み合わせた部分がその要部であると認められる。
エ 差異点についての評価
(ア) 差異点1(正面視及び背面視における収納容器本体の上辺の長さと下 辺の長さと高さの比率、両側面視における収納容器本体の上端部の幅と 下端部の幅の比率が異なっている点)は、要部ではない部分の差異にす ぎない上、その比率の差はわずかなものにすぎない。 また、差異点2(正面視、背面視及び側面視における収納容器本体の 上辺の形状が異なっている点)については、要部の一部に関する差異で はあるが、前記ウ(イ)cのとおり、正面視、背面視及び側面視において、 収納容器本体の上辺を湾曲させることは、公知意匠にも見られた部分で あって、原告意匠の効力範囲を適正に確定する上で、この部分のみをも って要部ととらえるのは相当ではない。そして、別紙原告意匠公報図面 目録記載1ないし3の斜視図、正面図、右側面図によれば、上記部分の 湾曲の程度はさほど大きいと評価できない上、前記ウ(ア)のとおり、需 要者である個人消費者が収納容器を見た目の美しさ等の観点から観察す るのは、主として、物を収納し又は収納することなく床等に置いた際で あると考えられ、その場合、収納容器の斜め上方から見下ろされること が想定されるため、上記部分の湾曲や弧状の凸状面として突設した形状 は、際立ちにくいといえる。 したがって、正面視、背面視及び側面視における収納容器本体の上辺 の形状の違いが需要者の視覚を通じて起こさせる美感に与える影響は、 限定的なものにとどまるというべきである。 なお、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、具体的構成態様3)に ついて、イ号意匠ないしハ号意匠では、収納容器本体の外側に存在する 紐縄によって構成されているU字の高さが異なることが認められるが、\n仮にこの点を原告意匠と被告意匠の差異点であると捉えたとしても、そ の差が大きいとはいえず、このような差異が美感に与える影響は小さい ものと認められる。
(イ) 以上のとおり、差異点1及び2は原告意匠が看者に起こさせる美感に 決定的な影響を与えるものではないのに対し、要部の大部分において前 記アの共通点がみられることからすれば、両意匠は、差異点が共通点を 凌駕するものではないというべきである。
(5) 小括
したがって、原告意匠と被告意匠は、全体として需要者に一致した印象を 与えるものであって美感を共通にするといえるから、被告意匠は原告意匠に 類似すると認められる。
・・・
証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、原告意匠と乙2意匠の意匠に係 る物品は類似するものと認められる上、両意匠は、略楕円形状で小判型の底 面とこれより大きい略楕円形状で小判型の上面とからなる中空の逆略楕円錐 台形状の上面が開口された形状をなす収納容器本体と、縄紐からなる一対の 把手から構成されている点(基本的構\成態様1))、同把手は、二本の短い縄 紐からなっており、収納容器本体の外周面に対向して穿設された左右一対の 小さな透孔に収納容器本体の外側からそれぞれ挿通しており、縄紐が収納容 器本体の外側にU字状に垂下して設けられている点(具体的構成態様3))に おいて、共通することが認められる。 しかしながら、両意匠の間には、原告意匠は、収納容器本体の長手方向に 把手が設けられているのに対し、乙2意匠は、収納容器本体の短手方向に把 手が設けられている点(基本的構成態様1))、原告意匠は、太さのある縄紐 が使用されており、収納容器内側に大きな止め結びが形成されているのに対 し、乙2意匠は細い縄紐が使用されており、収納容器内側に存在する止め結 びは大きなものとはいえない点(具体的構成態様3))、原告意匠においては、 収納容器本体の上辺が、正面視及び背面視においては、両端から中央部に向 かって緩やかに下方に湾曲した緩やかな円弧を形成しており、また、側面視 においては、中央部に向かって立ち上がり、全体が弧状の凸状面として突設 した形状であるのに対し、乙2意匠は、いずれも水平な直線形状になってい る点(具体的構成態様4)及び6))において、差異点が存在するものと認めら れる。
そして、上記の把手の取付位置、紐縄の太さ、止め結びの大きさ及び正面 視、背面視及び側面視における収納容器本体の上辺の形状は、物を収納し又 は収納することなく床等に置いた際の見た目の美しさ等の観点及び収納容器 として物を収納する際の使用のしやすさ等の観点から、いずれも需要者の注 意を惹く部分であるといえる。そうすると、これらの差異点が両意匠の美観 に与える影響は大きいものがあるというべきである。 したがって、原告意匠と乙2意匠は、全体として需要者に一致した印象 を与えるものとはいえず、両意匠が類似するとはいえないから、原告意匠に 係る意匠登録に新規性欠如(意匠法3条1項3号、2号)の無効理由がある とは認められない。
・・・
前提事実(5)、証拠(甲29ないし甲31、乙46ないし48)及び 弁論の全趣旨によれば、被告商品は、被告の各店舗において販売されて おり、その価格は、イ号(2リットル)が100円、ロ号(7リットル) が300円、ハ号(19リットル)が500円であったこと、原告商品 は、株式会社東京インテリア家具(家具やインテリアの小売店)、株式 会社ファミリア(子供用品等を扱う小売店。以下「ファミリア」とい う。)、アルファロメオ、アバルト等を扱う自動車ディーラー、株式会社 アダストリア(アパレル業者)等を通じて販売されており、その価格は、 最低で1210円、最大で4950円(サイズは不明なものが多いが、 ファミリアでは、7リットルの商品が1320円、19リットルの商品 が2200円で販売されている。)であったこと、原告商品は、楽天市 場等のインターネット上のショッピングサイトでも販売されており、そ の価格は、2リットルの商品について、最低で1680円、最高で23 06円であったことが認められる。
このように、原告商品と被告商品は、その販売経路が異なることに伴 って販売価格に差が生まれており、両者の価格を比較すると、最も小さ いものでも原告商品の価格が被告商品の価格の約4倍(ファミリアで販 売されている原告商品とロ号の比較)であり、大きなものでは原告商品 の価格が被告商品の価格の20倍を超えるもの(楽天市場等のインター ネット上のショッピングサイトで販売されている原告商品とイ号の比較) も存在しており、原告商品及び被告商品の上記の価格差は小さいとはい えない。そして、原告商品や被告商品は、生活雑貨などの家庭用品を収納する 容器であり、主に自宅で使用される実用品といえ、そうだとすれば、上 記の販売価格の差異は、需要者の購買動機に相当程度影響を与えている と認めるのが相当である。
他方で、原告商品と被告商品は、インテリア商品でもあることからす ると、その需要者の中には、価格を重視せず、デザイン性や色彩を重視 して、安価な商品がない場合は、高価な商品を購入するという者も少な からず存在するものと推認できる上、原告商品と被告商品の価格は、い ずれも数百円から数千円の範囲にとどまっており、比較的購入しやすい 価格帯であることに照らすと、上記の販売価格の差異による覆滅割合が 非常に大きなものになるとは考え難い。 これらの事情を踏まえると、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違 (市場の非同一性)は推定の覆滅事由に該当すると認められる。
(イ) 市場における競合品の存在
被告は、収納容器については数えきれないほど多数の競合品が存在し ていることが推定の覆滅事由になると主張する。しかしながら、競合品の存在について、証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によれば、インターネット上のショッピングサイトで「収納 バスケット」などのキーワードで検索すると多数の商品が表示されることが\n認められるものの、これらの商品や原告商品の市場におけるシェアは明 らかではなく、単に他の収納容器が多数販売されているという事実のみ をもって、推定の覆滅を認めることはできないというべきである。したがって、被告の上記主張は採用できない。
(ウ) 被告の営業努力
証拠(乙39、43)及び弁論の全趣旨によれば、被告はいわゆる1 00円均一ショップを展開する企業であるところ、被告の令和4年の年 間売上高は5493億円、従業員数は合計2万4605人(正社員58 5人、臨時従業員数2万4020人)、日本国内の店舗数は4092店 舗であること、株式会社日経BPコンサルティングが実施した「ブラン ド・ジャパン2023」の一般生活者編の「総合力」ランキングにおい て、被告はUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)、Google、 UNIQLO(ユニクロ)、Disney(ディズニー)に次ぐ5位と なっていることが認められ、このような被告の企業規模の大きさや知名 度の高さは被告商品の売上げに相当程度影響を与えているものというべ きである。 そうすると、上記の事情は被告の営業努力の観点から推定の覆滅事由 に該当するものと認められる。
(エ) 侵害品の性能(機能\、性能等意匠以外の特徴)及び被告商品は原告意\n匠の一部のみを用いていること
被告は、1)需要者は、収納容器を購入するに際し、外観よりもその機 能面やその色彩を考慮すること、2)被告商品は、需要者が着目する「船 のようなカタチ」に相当する構成態様である具体的構\成態様4)及び6)を 有していないことが推定の覆滅事由になると主張する。
しかしながら、上記1)について、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によ れば、被告商品は白色の商品しか存在しないことが認められ、本件全証 拠によっても、被告商品が収納容器として特別な色彩や機能を有してい\nということはできない。そうだとすれば、被告商品の色彩や機能が、そ\nの売上げに寄与したとは認められないから、侵害品の性能による推定の\n覆滅を認めることはできない。 他方、上記2)について、前記1(4)イのとおり、原告商品と被告商品 との間には、差異点1及び2が存在しており、特に差異点2(正面視、 背面視及び側面視における収納容器本体の上辺の形状が異なっている点) は、原告意匠の要部の一部に関する差異といえることを踏まえると、原 告意匠が被告商品の売上げに寄与した程度は限定的なものであったとい うべきである。 したがって、侵害品の性能(機能\、性能等意匠以外の特徴)は推定の\n覆滅事由であると認めることはできないが、被告商品は原告意匠の一部 のみを用いていることは推定の覆滅事由に該当するものと認められる。
(オ) まとめ
以上によれば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一 性)、被告の営業努力及び被告商品は原告意匠の一部のみを用いている ことは推定の覆滅事由に該当するものといえ、被告商品の購買動機の形 成に対する原告意匠の寄与割合は2割と認めるのが相当であるから、上 記の限度で推定が覆滅される。
(2) 意匠法39条3項による損害額の算定
ア 意匠法39条3項の適用の可否について
(ア) 意匠権者は、自ら意匠を実施して利益を得ることができると同時に、 第三者に対し、意匠の実施を許諾して利益を得ることができることに鑑 みると、侵害者の侵害行為により意匠権者が受けた損害は、意匠権者が 侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は 競合品の売上げの減少による逸失利益と実施許諾の機会の喪失による得 べかりし利益とを観念し得るものと解される。 そうすると、意匠法39条2項による推定が覆滅される場合であって も、当該推定覆滅部分について、意匠権者が実施許諾をすることができ たと認められるときは、同条3項の適用が認められると解すべきである。
(イ) これを本件において見ると、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違 (市場の非同一性)及び被告の営業努力による推定覆滅部分については、 実施許諾をすることができたものと認められるが、被告商品は原告意匠 の一部のみを用いていることについては、原告意匠が売上げに寄与して いないことを理由に推定が覆滅されるものであるから、この部分につい て、実施許諾をすることができたものとは認められない。
(ウ) そうだとすれば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同 一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分についてのみ、意匠法3 9条3項の適用があると解するのが相当である。
イ 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相 当する額について
(ア) 登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に 相当する額を算定する際の基礎となる金額は、侵害行為に関する売上高 であると解されるところ、前提事実(6)のとおり、被告商品は日本国内 の売上高は5981万3900円であり、これに海外への輸出に係る売 上高を追加した金額は6358万8100円である。
そして、前記アのとおり、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市 場の非同一性)及び被告の営業努力に係る推定覆滅部分についてのみ、 意匠法39条3項の適用があるところ、前記(1)イ(ア)、(イ)及び(エ)で 説示した内容に加えて、原告意匠と被告意匠との差異点が美感に与える 影響は限定的なものにとどまること(前記1(4)エ)などを総合考慮す ると、上記の推定覆滅部分に相当する被告商品の売上高は、日本国内の 売上高の7割に相当する部分と認められる。 そうすると、本件において、上記の金銭の額を算定する際の基礎とな る金額は、上記の日本国内の売上高に海外での売上高を加えた4564 万3930円(=(5981万3900円×0.7)+(6358万8 100円−5981万3900円))となる。
(イ) 次に、使用料率について、証拠(乙59)及び弁論の全趣旨によれば、 株式会社帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許 等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及び ロイヤルティ料率に関する実態把握〜」には、特許権に関する「個人用 品または家庭用品」の使用料率(ロイヤリティ)の平均値は3.5パー セントであると記載されていることが認められる。 この点について、上記の「個人用品または家庭用品」の使用料率(ロ イヤリティ)の記載は特許権に関するものにすぎない上、そこにいう 「個人用品または家庭用品」の具体的な内容も明らかではなく、しかも、 上記の使用料率(ロイヤリティ)平均値は、収納容器とは異なる用品を 含めた数値であるものと推認される。
他方で、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施に 対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になる ものと解される。 以上の事情を総合考慮すると、本件において、登録意匠又はこれに類 似する意匠の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定する際 の使用料率は、被告商品の売上高の3.5パーセントとするのが相当で ある。
(ウ) したがって、意匠法39条3項により算定される損害額は、159万 7537円(=4564万3930円×0.035)と認められる。

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令和5(ワ)8403  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年10月22日  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟にて、均等侵害を主張しましたが、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)が否定されました。\n

事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、\n傾斜部5)が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許\n請求の範囲に記載された構成とは異なる。\n原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材 の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決 めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部5)へと置き換えても、被告製品 が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限 られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明 の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機\n能の信頼性の高い笠木下換気構\造体を提供することにもあると認められる(前記 (1)ア(ア)b(a)〜(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被 告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口6)及び傾斜部5)と第1水平部2)との 隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構\成要件 Cにおける「換気部材」を傾斜部5)に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換\n気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵) 入を防止し、通気機能及び防水機能\の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると\nいう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏 するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅 速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入 するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾 斜部5)に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通 気性能と防水性能\を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮 蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る\nことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽 板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到\nし得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜 部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位 置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内 に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能\性がある。その ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創\n意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記 置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵 害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間 接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範\n囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。

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令和6(行ケ)10054  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

35類のいわゆる「総合小売等役務」を指定した商標権の取消審決に対する審決取消訴訟です。裁判所は、不使用とした審決を維持しました。

以上の点を踏まえ、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括し て取り扱う」という指定役務の名称の文言をも考慮すると、「衣料品・飲食料品及び 生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる 顧客に対する便益の提供」とは、衣料品・飲食料品・生活用品の各商品を一事業所 において扱っている場合であって、その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、かつ、 継続的に行われている場合をいうものと解するのが相当であり、典型的には、百貨 店や総合スーパーが提供する役務が挙げられるものと解される。他方で、「一括して 取り扱っている」とはいい難い場合、具体的には、「衣料品、飲食料品及び生活用品 に係る」各種商品のうちの一部の商品しか小売等の取扱いの対象にしていない場合 や、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象 とする業態を行っている場合であったとしても、一部の商品の取扱量が僅少であり、 全体としてみると特定の商品等を主として取り扱っているとみられる場合や一部の 商品が各種商品の小売等に付随して取り扱われているすぎない場合などは含まれな いものというべきである。
なお、国際分類を構成する類別表\\注釈において示された商品又は役務についての 説明には特段の記載はないが、特許庁の類似商品・役務審査基準においても、「衣料 品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務 において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K01」と定められる一方、 「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 は「35K02」、「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供」は「35K03」、「家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客 に対する便益の提供」は「35K06」とそれぞれ定められ、例えば「35K03」 などの同一コード内の小売等役務同士は互いに類似するものと推定される一方、「3 5K01」と「35K02」といった同じ35類であっても異なるコードの小売等 役務同士は類似しないものと推定されているところである。
・・・
エ 上記ウの各事実によると、原告店舗はパリの日用品店をアレンジしたライフ スタイルショップであり、ファッション、ファッショション小物やキッチン用品な ど衣料品や生活用品を中心とした商品を取り扱っており、これらの商品が店舗の売 上げに占める割合が相当程度多いものと認められるのに対し、前記ウ(イ)〜(エ)による と、飲食料品の販売数や売上金額は衣料品や生活用品に比して小規模である。これ に加え、証拠(乙13の1〜16)からうかがわれる本件要証期間及びその前後の 原告店舗における商品の展示方法をも考慮すると、本件要証期間における飲食料品 の販売については、コーヒーカップやマグカップのような食器類などと合わせて販 売されているものであって、生活用品の小売等に付随して取り扱われているものに すぎず、原告店舗において、衣料品、飲食料品及び生活用品の各商品を「一括して 取り扱っている」と評価することはできず、その他これを認めるに足りる証拠はな い。
また、前記ウ(エ)及び(オ)の各事実によると、原告店舗の売上金額が1か月間で10 0万円程度あったことが認められるものの、同(オ)については、取り扱っている食品 の内容に加え、前記ウ(カ)のバレンタイン前の期間の販売であったとの事実も考慮す ると、バレンタインの贈物のために一時的に売上げが増加しているものといえるこ と、前記ウ(エ)については、正月に向けて一時的に売上げが増加したものといえる ことからすると、原告店舗につき、一事業所において、衣料品・飲食料品及び生活 用品に係る各商品の取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、継続的に行われていると 認めることはできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によると、本件要証期間において、原告店舗は、「衣料品、飲食料品及び 生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる 顧客に対する便益の提供」を行っていたものとはいえない。 したがって、本件要証期間において、原告が、「衣料品・飲食料品及び生活用品に 係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対す る便益の提供」を行っているとは認めることができない旨を判断した本件審決に誤 りがあるとはいえない。
2 原告の主張について
(1) 原告は、本件商標を使用しそれによって業務上の使用が現に蓄積されている 以上、「飲食料品が総売上高に占める割合」によって商標法50条1項に係る商標の 使用・不使用を判断することは、同項の制度趣旨から逸脱しており、同項の不使用 取消審判において、商標登録要件の基準にすぎない「衣料品、飲食料品及び生活用 品の売上げがいずれも総売上高の10%〜70%程度の範囲内にあることが目安と される」との基準を採用し、それによって不使用取消しの審決をした本件審決は違 法であると主張する。
しかしながら、原告の上記主張のうち、原告が本件商標を使用しそれによって業 務上の信用が現に蓄積されているかは、指定役務である「衣料品・飲食料品及び生 活用品に係る各種商品を一括して取扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客 に対する便益の提供」について登録商標を使用しているかどうかの判断に直接の影 響を与えるものとはいえない上に、前記1(2)ウの原告店舗の商品販売状況等に照 らすと、本件商標の指定役務中の第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る 各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便 益の提供」について本件商標の使用による信用が蓄積されているとも認め難く、こ の点に関する原告の主張は採用できない。

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令和6(行ケ)10038  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

商標「新生甘酒」(標準文字)、指定商品は、30類「甘酒、甘酒のもと、甘酒を使用した菓子及びパン、甘酒を加味した茶・・・」について、識別力無しとしては審決が維持されました。理由は、「新生」「甘酒」、「新」「生甘酒」のいずれで分けても、いずれも識別力なしとのことです。

原告は、本願商標は「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせたも のであり、需要者等もそのように理解する旨主張する。 そこで検討するに、辞書によれば、「新生」の語は「新しく生まれ出るこ と」などを意味する語であり、「新生」の語の後に別の語を組み合わせた「新 生児」、「新生代」などの語が掲載されている(広辞苑第七版。乙82)。ま た、「甘酒」の語は「米の飯を米麹で糖化した甘い飲料」を意味する語であ る(広辞苑第七版。乙3)。
他方、辞書によれば、「新」は、「あたらしいこと」、「あたらしくするこ と」、「今年の新たな収穫・製造」などを意味する語であり、「新」の語の後 に別の語を組み合わせた語の例として「新発売」が挙げられている(広辞 苑第七版。乙1)。また、「生甘酒」の語は、加熱処理せずに製造した甘酒 を示す語として用いられている取引の実情があると認められる(乙4〜2 9、後記4(1)ア)。
以上によれば、本願商標に接した需要者等は、本願商標について、「新生」 の文字と「甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、「新」 の文字と「生甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、 いずれもあり得るといえ、需要者等がどちらか一方の理解のみしかしない とは認められない。
イ 原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、本願の指定商品の需要者 等は、本願商標を「新」の文字と「生甘酒」の文字を結合させた商標であ ると認識することはない旨主張する。 しかし、「生甘酒」の語が「加熱処理せずに製造した甘酒」を示す語とし て用いられている取引の実情があり、かつ、「新」の後に別の語を付した語 を用いることがあって、辞書にもその例が掲載されていることからすれば、 「新生」が辞書に掲載される語として存在するとしても、本願商標が「新」 の文字と「生甘酒」の文字を組み合わせた商標であると認識されることは 否定されない。
また、「生甘酒」の語が指し示す内容が「加熱処理せずに製造した甘酒」 であることからすると、これに「あたらしいこと」、「あたらしくすること」、 「今年の新たな収穫・製造」を意味する「新」の文字を組み合わせること が考え難いとはいえない。
原告が「新生」シリーズと称する商品を販売しているとしても、本願の 指定商品の需要者等の間で、「新生」の語が、原告の販売する商品の表示として広く認識されていると認めるに足りる証拠はなく、本願の指定商品の\n需要者等が、本願商標は原告の販売する「新生」シリーズの商品の名称と して用いられているものであると当然に認識しているとは認められない から、本願商標が上記「新生」シリーズに属する商品の名称として用いら れている事実をもって、需要者等が本願商標を「新」の文字と「生甘酒」 の文字を結合させた商標であると認識しないとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かを検討 するに当たっては、本願商標が「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合 わせた商標であると解した場合と、本願商標が「新」の文字と「生甘酒」 の文字を組み合わせた商標であると解した場合との両方について、同号該 当性を検討すべきといえる。
3 本願商標を「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせた商標であると解 した場合
(1) 本願商標及び本願の指定商品に関する取引の実情 各項末に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件審決がされた令和 6年3月14日の時点での、本願の指定商品と関連する食品業界における「新生」の語に関する取引の実情として、次の事実が認められる。
・・・
前記(1)に挙げた各事実によれば、本件審決がされた当時、飲料の名称の前 に「新生」の文字を付して、当該飲料が「生まれ変わった」ものであること、 すなわちその原材料、製法等を従前と変えて内容を新しくしたものであるこ とを示す表現として用いる取引の実情があったと認められる。そうすると、本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新生」の\n文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、これが本 願商標の指定商品に使用されたときには、原材料、製法等を従前と変えて内 容を新しくした甘酒を一般的に指す名称であると認識すると認められる。そ して、「新生」も「甘酒」も、辞書に掲載された一般的な語であり、これらを 組み合わせた「新生甘酒」という語は、原材料、製法等を従前と変えて内容 を新しくした甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識す\nることができるものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3 条2項)のほかは、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないもの と認められる。(なお、前記2(2)イで述べたとおり、本願の指定商品の需要者 等の間で、「新生」の語が、原告の販売する商品の表示として広く認識されていると認めるに足りる証拠はなく、また、「新生甘酒」という本願商標が、使\n用をされた結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識すること ができるものに当たることを認めるに足りる証拠もなく、本願商標が商標法 3条2項の要件を充足するとは認められない。もっとも、仮に、「新生甘酒」 という本願商標が、使用をされた結果、需要者が原告の業務に係る商品であ ることを認識することができるものとなった場合に、本願商標が商標法3条 2項に基づいて必ず商標登録を受けることができるか否かについては、本判 決の判断するところではない。)
したがって、本願の指定商品の需要者等が、「新生甘酒」の語を「新生」の 文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、本願商標 は、その指定商品の需要者等によって当該商品に使用された場合に、商品の 品質を表示したものと一般に認識されるものであり、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる\nものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3条2項)のほか は、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないとされるものに該当 し、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であると認められる。\n
・・・・
前記(1)アに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、「生甘酒」の 語を「加熱処理をせずに製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情が 存在していたと認められる。 また、前記(1)イに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、飲料 又は食料品を示す語の前に「新」を付して、当該飲料又は食料品がその年に 収穫されたもの又は作られたものであることを示し、あるいは従前販売され 前記(1)アに挙げた各事実によれば、本件審決がされた時点で、「生甘酒」の 語を「加熱処理をせずに製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情が 存在していたと認められる。
そうすると、本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新」の文 字と「生甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、これが本 願商標の指定商品に使用された場合には、需要者等は、その年に製造された 生甘酒、又は製造方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を一般的に指 す名称であると認識すると認められる。そして、「新」は、辞書に掲載された 一般的な用語であり、飲料又は食料品を示す語の前に「新」を付すことにつ いて上記のような取引の実情が認められ、「生甘酒」も、「加熱処理をせずに 製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情があったから、これらを組 み合わせた「新生甘酒」という語は、その年に製造された生甘酒、又は製造 方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又\nは役務であることを認識することができるものについて商標登録を受けるこ とができる場合(商標法3条2項)のほかは、特定人によるその独占使用を 認めるのは適当でないものと認められる。
したがって、本願の指定商品の需要者等が、「新生甘酒」の語を「新」の文 字と「生甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合も、本願商 標は、その指定商品の需要者等によって当該商品に使用された場合に、商品 の品質を表示したものと一般に認識されるものであり、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができ\nるものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3条2項)のほ かは、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないとされるものに該 当し、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であると認められる\n
5 結論
上記3及び4の説示によれば、本願商標を「新生」の文字と「甘酒」の文字 を組み合わせた商標であると解した場合、及び「新」の文字と「生甘酒」の文 字を組み合わせた商標であると解した場合のいずれについても、本願商標は、 その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に当たると認められる。\n

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令和6(行ケ)10034  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和6年12月19日  知的財産高等裁判所

知財高裁(3部)は、一定の形態が変化するものではないとして、発泡状態の形状は、意匠ではないと判断した審決を維持しました。

こうした特別委員会等における議論を踏まえて、上記ウにおける意匠法 改正の過程では、上記ウ2)、3)のとおり、再度上記イにおける「びっくり 箱」を想定して動的意匠についての意匠法による保護が検討されたところ、 上記ウ2)のとおり、当初、「意匠に係る物品の形状・・・が・・・変化する 場合において、その変化の前後の形状」の意匠(下線は判決で付記)を出 願する場合を想定したのに対し、上記ウ3)のとおり「びっくり箱は複数の ものが同時にとれる。複数意匠ではないか。」との法制局審査における問題 提起や上記ウ6)のとおり複数意匠であるとの指摘を受けて、上記「変化の 前後の形状」との記載では複数意匠と捉えられかねないことから、これを 修整することとした。
そして、上記ウ3)のとおり物品自身が動くことは物品そのものであると 考え、上記ウ6)のとおり、動的意匠が一意匠であることを前提とした上で、 特別の例外規定を置くことなく、上記ウ7)のとおり、意匠法6条5項(現 同条4項)を、「その変化の前後にわたるその物品の形状」について意匠登 録を受けようとする(下線は判決で付記)との文言に修正して、意匠法改 正をすることとされたものである。
このように、昭和34年意匠法改正の過程においては、動的意匠につき、 物品の形状について「その変化の前後の形状」とするのでは、一意匠であ ることに疑義が生じることから、物品自身が動くことは物品そのものであ るとの認識のもとに、「その変化の前後にわたるその物品の形状」と規定さ れたものであり、特別の例外規定が置かれなかったことからしても、物品 の形状は、その変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の 物品に必要とされる形状についての要件を満たすことが前提とされてい たことは明らかである。
(5) 上記(3)、(4)を踏まえると、意匠法6条4項に定める動的意匠のうち物品の 形状が変化するものについて、その物品の形状は、変化の前後にわたるいず れの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属性と して一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を捉え ることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか変化 する形状が定常的なものであることが必要であると解される。
(6) 意匠法6条4項の解釈についての原告の主張に対する判断
原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、動的意匠は、物品の機能に\n基づいて、一定の規則性をもって変化する形態であれば、「定形性」を有する こととなるから、本件審決は意匠法6条4項の解釈を誤っている旨を主張す る。 しかし、意匠法6条4項の「意匠に係る物品の形状・・・がその物品・・・ の有する機能に基づいて変化する場合において、その変化の前後にわたるそ\nの物品等の形状等」を願書に記載しなければならない旨の出願の規定により、 意匠に必要とされる物品の形状の要件が直ちに変更されるとは解し難いとこ ろであり、上記(1)ないし(5)で検討したとおり、動的意匠について定める意匠 法6条4項の改正の経緯や、意匠一般に係る意匠法の定めにも鑑みると、上 記のとおり変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品と しての要件、すなわち物品の属性として一定の期間、一定の形状があり、そ の形状認識の資料である境界を捉えることのできる定形性があり、その変化 の態様に一定の規則性があるか変化する形状が定常的なものであることが必 要であると解されるところである。
・・・
エ 本願において登録を受けようとする意匠は、容器の蓋の開栓により変化 する形状等であって、変化前である閉蓋時は、容器上面の蓋部の周囲に位 置する大径リング状縁部の形状等であり、変化後である開蓋時は、大径リ ング状縁部の形状等に加え、その内方に現れる、容器内部の一部、濃褐色 の液体及び液体の上方を順次覆うように出現する乳白色の気泡の形状等で ある。 このうち、「変化の前後にわたるその物品の形状」である発泡状態の変化 を示す開蓋後の平面図1ないし10に基づく上記10秒間の発泡状態の 経時的変化は以下のとおりであり、これらは写真1枚につき概ね1秒ごと に生じる変化である。
(ア) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図1によれば、上記イの開蓋後の 平面図が大径リング状縁部内の飲料上部が全面濃褐色であるのに比べて、 缶周縁部液面上に沿って乳白色の泡が生じているところ、気泡の量が少 なく細い帯状となっていたり、泡がない箇所(図内右斜め上部分、下部 分等)と、気泡の量が多く太い帯状となっている箇所(上部分、右下部 分等)とがあり、中央部にはほのかに白い部分がある。
(イ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図2について、泡が略円環状の輪 郭を形成しているものの、缶周縁に帯状となった気泡の幅は一定ではな く、その輪郭形状はいびつな円形である。 前記(ア)と比べて、気泡による帯の幅が増した箇所(右上部分)がある 一方、消滅ないし減少した箇所(右下部分)がある。また、中央部には 前記平面図1の白い部分が消えて、白い気泡の小さな集合が不規則に散 在する。
(ウ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図3及び同平面図4に至り、円環 形状の径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の径が狭まる進行の 度合いは場所により一定ではなく、全体として缶の中心より上方向へそ れて行き、形状も円ではなくいびつな形状である。円環形状の中央付近 には白い気泡がある。
(エ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図5において、円環形状の径はす ぼまって縦長になり、同平面図5及び同平面図6において、円環形状の 径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の径が狭まる進行の度合い はところにより一定ではなく、全体として缶の中心より上方向へそれて 行き、形状も円からはかけ離れたいびつな形状である。同平面図7及び 同平面図8において、形成された泡は次第に開口部全面を覆うが、中央 部付近にくぼみがあり、同平面図7から同平面図8にかけて小さくなっ ている。
(オ) 発泡状態の変化を示す開蓋後の平面図9、同平面図10及び発泡後の 状態を示す開蓋後の開口部拡大斜視図においては、泡沫面が缶口部へ向 けて盛り上がっていき、缶口面上部に概ね円錐台状の立体形状を形成す るが、発泡の状態は一様ではなく、大きな単独の気泡が見え隠れする部 分(左部分)がある上、気泡が盛り上がった立体形状は、2段の円錐台 状である。
(2) 本願意匠の要旨認定に係る原告の主張についての判断
ア 原告は、前記第3〔原告の主張〕2及び3のとおり、本願意匠の要旨は 開蓋後の濃褐色の液体及び液体の上方を順次覆うように出現する乳白色の 「泡沫」の総体が、濃褐色の液体の上方を覆うように盛り上がって変化す る形状等にあり、本件審決の本願意匠の要旨認定は誤りである旨主張する。 しかし、前記2で検討したとおり、動的意匠におけるその物品の形状は、 変化の前後にわたるいずれの状態においても、意匠法上の物品に必要とさ れる形状についての要件を満たすものであり、動的意匠として登録を受け ようとする意匠出願の要旨についても、それに沿い認定されるべきである ところ、原告の上記主張は、願書の記載及び添附された写真に基づき必要 にして十分なものとはいえない。\n
その上で、意匠の要旨は、願書に添附された説明及び写真に基づき認定 されるものであるところ、原告の上記主張は、上記(1)エ(ア)及び(イ)のとおり、 中央部付近に当初生じた泡の一部がいったん消えること(乳白色の気泡が 一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる箇所)などについても記載され ているものではなく、原告の主張は、願書に基づくものとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、前記第3〔原告の主張〕4で主張するとおり、本件審決が認定 した乳白色の気泡が一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる箇所などは 実際の物品を見た者において全く言及しないなど(甲28、29)、需要者 の注意を全く引かない部分であるとともに、上記「乳白色の気泡」は泡沫 と区別される気泡で液体中の気体の粒子であり、これが液面に浮上して缶 周縁部で泡沫に成長しているのであって消滅しているものではないから、 本件審決は要旨認定の手法としても技術的にみても誤りである旨を主張す る。
しかし、中央部付近に当初生じた泡の一部がいったん消えること(乳白 色の気泡が一旦生じた後に再度濃褐色の液体が現れる状況)を含め、本願 意匠の内容については、願書に添附された写真等に基づけば、前記(1)のと おり認定されるべきものである。そして、開蓋後の液面の状態は、通常、 需要者が見ているものであり、需要者の注意を全く引かないとはいえない。 一方、気泡と泡沫の区別について原告の主張する内容は、願書の記載及び 添付された写真に示された「発泡状態」からは把握できないものであって、 それらを意匠を受けようとするものの内容とすることはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない
4 本願意匠の意匠該当性について
(1) 既に検討したとおり、動的意匠は、出願に係る意匠が、意匠法2条1項の 「意匠」である状態を保ちながらその要素である形状等を変化させる場合に、 その変化の過程であるその前後の状況を含めて全体として一つの動的な形状 等として把握し、これを一つの意匠として保護しようとするものであり、変 化の前後にわたる物品の形状である中間状態も含め、全体として一つの物品 の形状等として把握できる定形性等が必要である。 具体的には、上記2(5)のとおり、物品の形状は、その変化の前後にわたる いずれの状態においても、意匠法上の物品としての要件、すなわち物品の属 性として一定の期間、一定の形状があり、その形状認識の資料である境界を 捉えることのできる定形性があり、その変化の態様に一定の規則性があるか 変化する形状が定常的なものであることが必要である。
これを本願についてみると、前記3(1)エのとおり、発泡状態の変化を示す 開蓋後の平面図1ないし3において、缶周縁に帯状となった気泡の幅は一定 ではなく、その輪郭形状もいびつな円形であり、その過程において、気泡に よる帯の幅が増した箇所がある一方で、消滅ないし減少した箇所がある。ま た、中央部の白い部分が消えて、白い気泡の小さな集合が不規則に散在する 状態になった後、円環形状の径が漸次的に狭まっていくものの、輪郭形状の 径が狭まる進行の度合いも場所により一定ではなく、形状も円ではなくいび つな形状を示した後に、2段の円錐台形状に至る。このような気泡の発生及 び消滅の状況は、上記意匠ないし動的意匠の要件である一定の期間、一定の 形状を有し、境界を捉えることのできる定形性があるものとみられないほか、 変化の態様に一定の規則性があるか、あるいは変化の形状が定常的であると も認め難いものである。
なお、本願意匠を実施した商品とされる「生ジョッキ缶」についての公開 情報によっても、気泡の総体の形状及びその変化は、開栓ごとに異なり、缶 の周縁部に大きな泡が複数視認できる状態(甲31、15頁)、まだらに湧い た気泡が増加する状態(乙8)、泡の総体が球の一部を切り取ったようなドー ム形状に盛り上がった状態(乙9)、缶内部の液面の周縁部にかろうじて泡の 集合がみられる状態(乙10、4頁)などが認められるにとどまり、開栓の 都度、本願の願書の添付写真と同じ形状等が再現されるものとは認められず (甲1、17、31、乙7ないし10)、この点に照らしても、本願意匠に示 された気泡の発生及び消滅の状況が定形性を欠き、変化の態様に一定の規則 性はなく、変化の形状が定常的であるとも認め難いとの上記の認定は、相当 ということができる。 そうすると、本願意匠は、意匠登録を受けることのできる意匠には該当し ないものというべきである。

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令和6(ワ)70189  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和6年12月23日  東京地方裁判所

VBAで記載されたプログラムについて、著作物性なしと判断されました。

(1) 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであるから、思想、感\n情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でないもの又は表\ 現上の創作性がないものは、著作物に該当せず、著作権法上保護されるもの とはいえない。
これを本件についてみると、原告は、本件プログラムのソースコードのう\nち、1)製品名のドロップダウンリストを表示する機能\に関する部分(以下「1) 部分」という。)、2)顧客の名前を検索、確定する機能に関する部分(以下\n「2)部分」という。)、以上の2点を赤色でマーキングし、当該2点を創作 的表現部分として主張するものと解されるところ、原告は、裁判所からの繰\nり返しの釈明にかかわらず(第1回口頭弁論調書参照)、これらが創作的表\n現に該当する理由を具体的に主張するものではない。
この点を措き、原告の主張について精査しても、1)部分については、原告 の主張は、ActiveXコントロールのコンボボックスを使用し、フォン トやフォントサイズをカスタマイズ可能にするという、単なるアイデアをい\nうものにすぎない。念のため、1)部分の内容についてみても、証拠(甲14、 15)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として用意さ れているActiveXコントロール及びActiveXコントロールのコ ンボボックスを用いて項目をドロップダウンリストとして選択可能とさせる\nものであって、これらを使用してフォント名及びフォントサイズをカスタマ イズする手法自体は、極めてありふれたものにすぎない。更に念のため、こ れらの機能に対応するソ\ースコードについてみても、使用されている指令及 びその組合せにおいて、原告の個性が表れているものといえないことは明ら\nかである。
また、2)部分についても、原告の主張は、ユーザフォーム画面のコンボボ ックスで、カタカナ行のドロップダウンリストから目的のカタカナ行をマウ スで選択して、表示されたリストボックスから目的の名前と電話番号をマウ\nスでクリックすることで顧客の名前を選択可能にするという、単なるアイデ\nアをいうものにすぎない。念のため、2)部分の内容についてみても、証拠(甲 14、16)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として 用意されているユーザフォームのコンボボックスとリストボックスを用いる ものであり、コンボボックスとリストボックスを用いてマウスで値を選択さ せ、リストボックスの項目が選択されたときに実行されるChangeイベ ントを用いることにより、マウスで選択された値を取得することを可能とす\nるものであって、これらの手法自体は、いずれも極めてありふれたものにす ぎない。更に念のため、これらの機能に対応するソ\ースコードについてみて も、使用されている指令及びその組合せにおいて、原告の個性が表れている\nものといえないことは明らかである。 これらの事情の下においては、原告の主張は、アイデアをいうものに帰し、 本件プログラムに表現上の創作性を認めることはできない。\nしたがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

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令和6(行ケ)10075  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月13日  知的財産高等裁判所

3条2項によって登録された商標「貴醸酒」について、3条違反、4条1項6号違反の無効理由を主張しましたが除斥期間経過済み、および理由無しと判断されました。代理人無しの本人訴訟です。

1 取消事由1(手続違背)について
原告は、特許庁の審判手続において、原告が答弁書副本を受領してから審理 終結通知の送付まで1週間もなかったとして、原告に反論の機会を与えなかっ た手続違背がある旨主張する。しかし、審判合議体には事件の審理が熟したと 判断するについて裁量権があるところ、本件の証拠を精査しても、上記の取扱 いが原告の防禦権を不当に制限することになるなどの事情は認められず、当該 裁量権の逸脱があったとは認められない。原告の主張は採用できない。
2 取消事由2(商標法4条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 証拠(甲3、4、11〜13)及び弁論の全趣旨によれば、現在の独立行政 法人酒類総合研究所の前身である国税庁醸造試験所が仕込水の全部あるいは 一部に清酒を使用して発酵させることを特徴とした清酒の製法を開発し、開 発チームの故 A 博士がこれを「貴醸酒」と名付けたものであること、その 製法は、昭和49年に特許出願がされ、昭和53年に公告されたが、現在は存 続期間が満了していること、昭和51年に、貴醸酒の製造研究と普及を目的 に、被告を含む酒造会社等5社が貴醸酒協会を設立し、国税庁醸造試験所を 管轄する大蔵省(当時)と実施許諾契約を締結していたこと、特許権の存続期 間満了後は技術指導を国税局鑑定官室が行い、貴醸酒協会は商標の管理と加 盟各社に対して販売のアドバイスを行っていることが認められる。 そうすると、「貴醸酒」が、国税庁醸造試験所において開発された、水の代 わりに清酒で仕込んだ製法により醸造された清酒の名称であり、同試験所の 故A博士によって命名されたものと認めることはできるものの、当該清酒の名称が当然に事業の名称となるものではない。実際に「貴醸酒」として清 酒を製造販売してきたのは被告を含む貴醸酒協会加盟の酒造会社等であり、 「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行政法人酒類総合 研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとし\nて使用されたとはいえず、まして、そのような表示として本件商標の指定商\n品の取引者、需要者の間で著名であったことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告は、「貴醸酒」は、新たな醸造方法の開発による醸造技術者の指導育成 を行う公益目的の事業であって、製法に関する特許権者も国税庁長官である 旨主張するが、貴醸酒を開発したのが国税庁醸造試験所であり、国税庁長官 が製法に関する特許権を有していたとしても、直ちに「貴醸酒」がその「事業」 を「表示」する標章であったということにはならない。\n原告は、本件商標についての商標登録出願は、商標法3条1項3号を理由 に拒絶されているとか、昭和51年の甲11、13の各論文には、「いわゆる 貴醸酒」と記載されており世間に知られていることを示しているなどと主張 するが、いずれも「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行 政法人酒類総合研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表\n示するものとして使用されたことを示すものとはいえず、また、そのような 表示として「清酒」の取引者、需要者の間で著名であったことを示すものとも\nいえない(「いわゆる」との表現は、その名称を取引者、需要者の中でどの程\n度の者が認識しているかを示すものではなく、また、その事業主体について は何ら示唆するものではない。)。かえって、貴醸酒の命名者を含む共同開発 者の論文には、「貴醸酒という名称は登録商標であり、一般名ではない。」(甲 11)、「貴醸酒という名称は登録商標(貴醸酒協会の会員だけが使用できる) であって、一般名でない」(甲13)との記載があり、国税庁醸造試験所において、「貴醸酒」を同試験所自身やその事業で営利を目的としないものを表示\nするものとして認識していないことが明らかであり、本件商標の登録の経緯 に鑑みても、本件商標を実際に業務に使用し識別力を取得させたのは被告を 含む酒造会社等であったものというべきである。なお、原告の指摘するとお り、これらの論文は、本件商標が設定登録を受けた昭和62年8月19日よ り前に発行されたものであるが、そのことは上記認定を左右するものではな い。
3 それ以外の原告の主張について
原告は、1)本件商標は商標法4条1項16号に該当するにもかかわらず、同 法3条2項の適用によって商標登録を認めた登録審決は誤りである、2)本件商 標は同法29条に該当するとの主張もしているが、これらは、いずれも本件の 無効審判手続において審理・判断されていないから、最高裁昭和51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨に鑑み、審決取消訴訟の対象と することはできないものというべきである。
なお、上記2)に関していえば、商標法29条は登録が有効であることを前提 に使用の制限を定めるものであって、そもそも同法46条1項の無効審判請求 の理由とはならない。

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令和6(行ケ)10028 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月11日  知的財産高等裁判所

 商品・役務は類似するとして、無効理由無し(4条1項11号)とした審決が取り消されました。

(1) 事業者について
ア 証拠(甲12〜21、44、52、54〜57)によれば、株式会社ア ジアス、株式会社日本メディックス、フクダ電子株式会社、アイ・エ ム・アイ株式会社、株式会社三笑堂、さくらメディカル株式会社、株式 会社セントラルメディカル、ジーエムメディカル株式会社、株式会社ナ ンブ、中嶋メディカルサプライ株式会社、コニカミノルタ株式会社、株 式会社アールエフ、オムロンヘルスケアサービス株式会社、三井温熱株 式会社、伊藤超短波株式会社といった多数の医療機器メーカー等につい て、製造・販売と貸与(レンタル・リース)の両方の事業を行っている ことが認められる。 また、キヤノンメディカルシステムズ株式会社(製造・販売)とキヤ ノンメディカルファイナンス株式会社(リース)(甲50)、パラマウ ントベッド株式会社(製造・販売)とパラマウントケアサービス株式会 社(レンタル)(甲53)についても、同一のハウスマークを用いて営 業を行う系列会社であること、これらの需要者は、そうした系列会社間 の法人格の異同にさほど関心を持たないと考えられる一般の需要者が含 まれていること(後記(4)参照)等の事情を考慮すると、「商品の製造・ 販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場合」に準ずるも のということができる。
この点、被告は、「同一事業者」とは、狭義の混同を生じさせる同一 の事業者のことであって、親子会社や系列会社等は含まれない旨主張す る。しかし、企業の経営戦略として、同じブランド(特にハウスマーク) を使用しつつ多様な事業展開を円滑に行う等の目的で、特定の事業部門 を分社化したり、持株会社(ホールディングス)が傘下の複数の事業会 社を統括するような法人格の運用は、ごく一般的なものであり、そのよ うな場合、形式的に見れば別法人が展開する事業であっても、外部の第 三者(特に一般需要者)からみて、同一の営業主体による事業と認識さ れることも珍しくないと解される。上記1で述べた商品・役務に係る営 業主体の誤認のおそれは、取引者・需要者の認識を基準に判断すべきも のであるから、上記のような理由により「別法人が展開する事業であっ ても同一の営業主体による事業と認識されても不思議でない場合」には、 「商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場 合」に準ずるものとして扱うのが相当である。 この点に関する被告の上記主張は、商品・役務に係る営業主体の誤認 のおそれは取引者・需要者の認識を基準に判断すべきことを看過したも のであり、採用できない。
イ 次に、証拠(甲7〜9)によれば、医療用機械器具の製造、販売、貸与 等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機器協会におい ては、医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企 業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等 を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分 の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うこ とができる状況にあるといえる。
この点、甲43によれば、令和2年度末における医療機器の製造販売業 許可数が2799件となっていることが認められるが、上記協会に加入 している企業のうちの対象企業数77社が、サンプルサイズとして小さ すぎるとまではいえない。そして、商工組合日本医療機器協会の会員か 非会員かの違いが、販売・貸与業の許可等取得割合に実質的な違いを生 じさせているといった事情もうかがわれない。そうすると、比較対象た る企業集団の母数の違いのみから、上記の傾向、すなわち、医療機器の 製造・販売業を行う事業者の多数が貸与業についても許可等を受けてい るとの事実を否定することはできない。
加えて、証拠(甲10、42)によれば、東京都が用いている「高度 管理医療機器等販売業/貸与業許可申請」(様式第87)、「管理医療\n機器販売業/貸与業届出」(様式第88)の書式では、「販売業」と 「貸与業」の許可申請・届出を1通の書類で行う様式がデフォルトと\nなっており、販売業と貸与業の「どちらか一方の時は、不要の文字を消 してください」という記載例の注意書きが示されていることが認められ る。これは、医療機器の販売業と貸与業の双方の許可申請・届出を行う\n例が現実に多い実情を示すものと理解できる。
ウ また、被告は、国内の主要な医療用機械器具メーカー(甲33)と、主 要な医療用機械器具のリースサービスを提供する事業者(甲35、36) 又はレンタルサービスを提供する事業者(甲37)が一致していない点 を指摘し、同一事業者が機械器具の製造・販売と機械器具の貸与を行う ことは一般的でないと主張する。 しかし、業界における主要な事業者とは、企業の経済活動の規模(売 上等)や商品・サービスの内容から様々な基準によって選出されるにす ぎず、仮にある事業者が製造販売業と貸与業の両者の業務を行っている としても、企業の経営戦略等によってどちらに重きを置くのかは当然異 なり得るのであるから、製造販売業における主要企業と貸与業における 主要企業が一致していないからといって、このことから直ちに両者を同 時に行う事業者が少ないとまで断言できない。
(2) 用途について
医療用機械器具の貸与は、他人の求めに応じて当該機械器具を貸与する ことであるところ(甲34)、貸与という行為は、単に貸渡し行為をするこ とのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するも\nのである(民法601条参照)。よって、その貸与の用途は、医療用機械器 具の医療目的での使用ということができ、本件指定商品・医療用機械器具の 用途と共通するといえる。
(3) 提供場所・販売場所について
上記のとおり、多数の医療用機械器具の製造・販売を行う事業者が同時 に貸与も行っている取引の実情があることや、各事業者は、ホームページを 設けて申込みや問合せを受け付けており、その際には販売と貸与を共に説明\nしていること(甲68〜71)に鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸 与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上の ホームページ(同一のサイト)等であると認められる。そうすると、本件指 定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具について は、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。 これに対し、被告は、現代社会ではあらゆる物品がインターネット上の ウェブページで貸与、販売されているから、本件においても商品の販売や役 務の提供がインターネット上のウェブページで行われていることを理由とし て提供場所が一致するというのは暴論であると主張する。しかし、商品・役\n務の類似性判断の考慮要素として、商品の製造・販売と役務の提供が同一事 業者によって行われている実情の有無・程度等とは別に、その提供場所・販 売場所の同一性を独立の考慮要素としているのは、同一事業者が扱う商品・ 役務であっても、商品と役務とで全く異なる営業形態を取るような場合も考 えられるからである。そのような場合と異なり、同一事業者が、そのホーム ページ等の同一のサイトで商品の販売と役務の提供の両方の営業を行ってい るとすれば、その商品・役務の類似性を肯定する方向で考慮すべきことは当 然である。被告の上記主張は失当である。
(4) 需要者の範囲について
本件指定商品・医療用機械器具は、医療機関で用いられるものに限らず、 一般家庭内で健康状況に応じて使用されるものも含まれること、その需要者 には、医療機関のみならず、一般の需要者等が含まれることについては、い ずれも当事者間に争いがない。そして、証拠(甲48、53、56、57) によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与においても、広く一般の需 要者(消費者)が想定されている場合があることが認められるから、両者の 需要者は実質的に重なるといえる。 これに対し、被告は、医療用機械器具の貸与の対象となるものは、専ら 高額な機械器具であり、その需要者は事業者、すなわち医療機関に限られる と主張する。確かに、貸与の対象となる医療用機械器具は、販売の対象とな る医療用機械器具よりも相対的に高額なものが多いであろうことは想像に難 くなく、それに伴う需要者の範囲の相対的な違いはあり得るとしても、医療 用ベッドや家庭用治療器、リハビリテーション機器等のレンタルサービスを 一般需要者向けの広告で扱っている事例が実際にあることは紛れもない事実 である(甲53、56、57)。本件指定役務・医療用機械器具の貸与の需 要者が「医療機関に限られる」という被告の主張は、証拠に基づかない極論 といわざるを得ない。 結局、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機 械器具の需要者の範囲は、相対的な違いはあれ、医療機関と一般の需要者等 を含む点で実質的には重なっているというべきである。
(5) 小括
以上によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商 品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例 が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場 合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。この ような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本 件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用\nする場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引 者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。 なお、本件指定商品・医療用機械器具は、「歩行補助器・松葉づえ」を 除くものとされており、このような除外のない本件指定役務・医療用機械器 具の貸与と異なっているが、この違いが商品・役務の類否に影響を及ぼすと はいえない。
3 商標権の効力の観点からの弊害について
原告は、先願に係る引用商標の商標権者であり、「AWG治療」の商標を医 療用機械器具に付した上でこれを引き渡す行為を第三者が行った場合、当該商 標権の侵害を理由に禁止権を行使することができるはずである(商標法36条、 37条1号、2条3項2号)。しかし、本件商標の登録が有効なものだとする と、「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを貸与する行為 (当然に「引渡し」を包含する。)は、通常、本件商標に係る商標の使用と認 めるのが自然であり(同法2条3項3号)、商標権の及ぶ範囲の重複・抵触が 生じかねない。このような状況を招来させるのは、権利範囲の問題と登録要件 の問題が理論上は別個の問題であるにせよ、商標法全体の整合的解釈という観 点からは好ましいことでない。以上の理由からも、本件指定役務・医療用機械 器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具とは、類似するものと判断する のが適切である。

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令和6(行ケ)10006  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年10月29日  知的財産高等裁判所

商標「Air liquid」について、4条1項10号、15号違反の無効理由無しとした審決が維持されました。

ア 原告は、フランスに本社がある会社であり、我が国における原告の子会 社は日本エア・リキード社である。(甲3、4、24、42)
イ 原告及び日本エア・リキード社は、産業ガス・医療ガスに関する事業を 行う会社である。産業ガスは、鉄鋼、化学、機械・金属加工、自動車・輸 送機器、食品等の各産業における製品の製造の過程で用いられるガスの総 称であり、酸素、窒素、水素、アルゴンなどがこれに含まれる。また、医 療ガスは、病院で使用される酸素等のガスであり、「産業ガス」の語が医療 ガスを含む意味で用いられることもある。日本エア・リキード社は我が国 において、事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給する事業を行ってい る。原告は、その子会社を含む売上げで、産業ガスの分野において、20 21年(令和3年)の世界の市場シェアで全体の2位を占めている。また、 日本エア・リキード社は、我が国における2018年(平成30年)3月 期の産業ガス事業において国内第3位のシェアを占めており、同社を含む 上位3社で産業ガスのシェアの約8割を占めている。(甲3、4、24、4 1、42、52)
ウ 日本エア・リキード社は、昭和5年(1930年)に「帝國酸素株式会 社」として設立された会社であり、その後同社の商号は、「帝国圧縮瓦斯株 式会社」(昭和18年)、「帝国酸素株式会社」(昭和21年)、「テイサン株 式会社」(昭和56年)と変更され、平成10年に「日本エア・リキード株 式会社」に変更された。また、平成5年8月頃から、別紙1「原告商標目 録」記載1ないし4の各「商標の構成」の箇所に掲げた図柄(「AIR LIQUIDE」の文字が入った図柄、以下「先代ロゴマーク」という。)が、 会社のロゴとして用いられるようになった。ただし、商号が「テイサン株 式会社」である間は、先代ロゴマークの右下に小ぶりの字で「TEISAN」 という文字を入れて使用していた(甲61、62)。その後、日本エア・リ キード社は、平成29年1月頃から、別紙1「原告商標目録」記載6及び 7の各「商標の構成」の箇所に掲げた図柄(「Air Liquide」の 文字が入った図柄、以下「現ロゴマーク」という。)を会社のロゴマークと して用いるようになり、現在も現ロゴマークを使用している。日本エア・ リキード社は、これらのロゴマーク(先代ロゴマーク、及び現ロゴマーク 採用後は現ロゴマーク)を、会社案内のパンフレット、ホームページ、設 置したタンク及び水素ステーション、使用するタンクローリー等に表示し\nている。(甲4、5、6、24、36、42、60〜68) 現ロゴマークを用いた日本エア・リキード社の広告が、日本経済新聞(甲 34、35)、日経産業新聞(甲31〜33)、雑誌「週刊エコノミスト」 (甲69、70)に掲載されたが、これらの広告には、日本エア・リキー ド社の親会社がフランス法人の原告であることは示されておらず、現ロゴ マーク又は引用商標がフランス法人である原告の業務に係る商品又は役 務を表示するものであることも示されていなかった。\n
(2) 周知性について
前記(1)の事実によれば、原告は、その子会社を含む売上げで、産業ガスの 分野において、2021年(令和3年)の世界の市場シェアで全体の2位を 占めている。そして、日本エア・リキード社が、我が国における産業ガスの 事業において大きなシェアを占めており、2018年(平成30年)3月期 においては、上位3社でシェアの約8割を占める産業ガス事業において第3 位のシェアを得ていたことが認められる。また、日本エア・リキード社は、 平成5年8月頃から「AIR LIQUIDE」の文字が入った先代ロゴマークを使 用し、平成29年1月頃からは、現在に至るまで「Air Liquide」 の文字が入った図柄の現ロゴマークを使用しており、先代ロゴマーク、及び 現ロゴマーク採用後は現ロゴマークを会社のパンフレットや設備等にも表示\nしていることが認められる。
しかし、我が国において、事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給して いるのは、原告の子会社である日本エア・リキード社であって、原告自体が、 我が国において事業者に対して産業ガス・医療ガスを供給しているとは認め られない。また、日本エア・リキード社は、平成10年に商号が「日本エア・ リキード株式会社」となったが、それ以前は、昭和5年(1930年)の設 立以来、「帝國酸素株式会社」、「帝国圧縮瓦斯株式会社」、「帝国酸素株式会社」、 「テイサン株式会社」という商号を用いており、これらの従前の商号は、当 該商号の会社が原告の子会社であることや、外国の会社の子会社であること すら推知させないものであった。日本エア・リキード社は、平成5年8月頃 から「AIR LIQUIDE」の文字が入った先代ロゴマークの使用を開始した後 も、商号が「テイサン株式会社」である間は、先代ロゴマークの右下に小ぶ りの字で「TEISAN」という文字を入れて使用していた(甲61、62)。現 ロゴマークを用いた日本エア・リキード社の広告が、日本経済新聞(甲34、 35)、日経産業新聞(甲31〜33)、雑誌「週刊エコノミスト」(甲69、 70)に掲載されたことが認められるが、これらの広告には、日本エア・リ キード社の親会社がフランス法人の原告であることは示されておらず、現ロ ゴマーク又は引用商標がフランス法人である原告の業務に係る商品又は役務 を表示するものであることも示されていなかった。そして、日本エア・リキ\nード社がフランス法人である原告の子会社であることについて、これが広告 に記載されるなどして広く知らしめられた事実は認められない。これらのこ とを考慮すると、日本エア・リキード社がフランス法人である原告の子会社 であることは、広く認識されているとは認められない。
そうすると、我が国において産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者を 引用商標の需要者と解するとした場合、その中では、一定の範囲で、引用商 標が日本エア・リキード社の商標として認識されていることは認められるが、 フランス法人である原告の商標として広く認識されているとは認められない い。 また、本件商標の需要者は、一般消費者のうち喫煙者及びたばこに関心の ある者と解されるところ、産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者は、そ れに応じた設備等を有する者に限られることに鑑みれば、本件商標の需要者 の大半は、産業ガス・医療ガスの分野の知識をそれほど有しないと推認され、 本件商標の需要者の間では、引用商標が日本エア・リキード社の商標として 認識されているとは認められず、まして、引用商標がフランス法人である原 告の商標として広く認識されているとは認められない。
原告は、引用商標「Air Liquide」が原告の業務に係る商品又 は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると主張するが、\nこれまで述べたところによれば、この点に関する原告の主張は、採用するこ とができない。
(3) 商品の類似性について
商品が類似のものであるかどうかは、それらの商品が通常同一営業主によ り製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の 商標を使用する場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認され るおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当で ある(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷 判決・民集15巻6号1730頁)。
前記(1)の認定事実によれば、引用商標が使用されている商品は、産業ガス 及び医療ガスである。原告が商標登録又は国際登録を受けている商標であっ て「Air Liquide」又は「AIR LIQUIDE」の文字が構\n成に含まれるもの(別紙1「原告商標目録」記載1ないし7の各商標)は、 その指定商品及び指定役務として、産業ガス及び医療ガス以外の多様な種類 の商品及び役務が指定されているが(甲10、12、14、16〜22)、こ れは、日本エア・リキード社の製造、販売する産業ガスの製造過程等におい て用いられている商品及びこの産業ガスが使用されている役務を指定商品及 び指定役務として登録したものであって(弁論の全趣旨(令和6年2月22 日付け原告準備書面(第1回)17頁))、日本エア・リキード社が、上記各 商標の指定商品とされた多様な種類の商品の販売や多様な役務の提供を行っ ているとは認められず、産業ガス及び医療ガス以外について引用商標が使用 されていると認めることもできない。
他方、本件商標の指定商品は、前記第2の1(1)のとおり、第34類の「喫 煙用薬草、喫煙用ライター、喫煙用具、喫煙パイプ用吸収紙、電子たばこ、 水パイプ、電子たばこ用リキッド、喫煙者用の経口吸入器、たばこ、喫煙パ イプ、代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。)、シガーライ ター用ガス容器、シガリロ」である。これらの本件商標の指定商品と、引用 商標が使用されている商品である産業ガス及び医療ガスとは、それらの性質、 目的、用途、使用方法、使用者、製造者、販売者、取引態様等が大きく異な るものと認められ、これらが通常同一営業主により製造販売されているとの 事情は存在せず、その他、これらの商品に同一又は類似の商標を使用する場 合に、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると解 すべき根拠となる事情は認められない。
別紙1「原告商標目録」記載5及び6の商標の指定商品には、第5類の「医 療用又は治療用の喫煙用剤(単独で又はたばこと混ぜて販売されるもの)、 医療用又は治療用のたばこの代用品」が含まれているが(甲17〜20)、 原告又は日本エア・リキード社がこれらの商品を我が国で製造販売している とは認められず、その他、原告又は日本エア・リキード社が、本件商標の指 定商品である「喫煙用薬草、喫煙用ライター、喫煙用具、喫煙パイプ用吸収 紙、電子たばこ、水パイプ、電子たばこ用リキッド、喫煙者用の経口吸入器、 たばこ、喫煙パイプ、代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。)、 シガーライター用ガス容器、シガリロ」を製造販売しているとも認められな い。 したがって、引用商標が使用されている商品と、本件商標の指定商品との 間には、これらの商品に同一又は類似の商標を使用する場合に、同一営業主 の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められないから、 引用商標が使用されている商品と本件商標の指定商品は、類似しているとは 認められない。

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令和5(ワ)10237 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月14日  大阪地方裁判所

 均等主張についても、第1、第5要件を満たさないとして非侵害と認定されました。

前記2(2)ア認定のとおり、本件発明は、非力な者であっても、危険な野生動物が 生息している場所において、簡単かつ確実に屠殺できるようにすることを解決すべ き課題とし「(【0008】ないし「【0012】)、このような課題を解決するため、竿体を伸縮自在に構成することで、対象動物との距離を調整できるようにし、例え\nば、猛禽類に対しては距離を長く取ったり、安全性を確保できる場合には距離を短 く取って確実に電極を動物の体に接触させたりすることができるという効果が得ら れるというものである。
一方、証拠(甲2、乙18)によれば、本件特許の出願時点で、野生動物を殺処 分する手段として、麻酔ガス等を用いることや電気スタナーを用いることなどが知 られていたことが認められる。これらの手段は、動物を殺害することはできるが、 即効性に欠けたり、即効性があっても動物に近づく必要があることから危険を伴っ たりするものであった。 そうすると、本件発明は、従来技術である電流を用いた屠殺手段を踏まえ、簡単 かつ安全確実な屠殺手段を提供するものであり、本件発明の構成中の本質的部分は、\nこのような屠殺手段を提供する竿体の伸縮構造(構\成要件Aの「伸縮自在の所定長 さの竿体」)、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い構造(構\成要 件F)、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる通電コードの並列構\n造(構成要件G)に認められるものというべきである。\n
イ 前記2で検討したとおり、被告製品は、少なくとも、構成要件Aの「伸縮自\n在の所定長さの竿体」の部分、構成要件F及びGを充足しないのであるから、本件\n発明の構成中、被告製品と異なる部分が本件発明の本質的部分ではないとの均等侵\n害の第1要件は認められない。
(2) 第5要件について
ア 証拠(乙8ないし17)によれば、本件特許の出願経緯について、以下の事 実が認められる。
・・・
イ 以上の審査経緯に鑑みれば、原告は、当初、竿体の伸縮構造については固定\n長の竿体も含むものとし、バッテリ部、電源昇圧部及びインバーター部の背負い状 態の構成については携行可能\であるとするのみで背負い構造に限られないものと\nし、双方の手でそれぞれ電源スイッチと竿体を把持できる並列構造については双方\nの手でそれぞれ把持することが明示的に記載されていないものとし、土中の接地電 極と同電位とする回路構造については土中を閉回路に含まない回路構\造も含むもの として、特許請求の範囲を記載していたが、進歩性欠如及び明確性要件違反を指摘 されたことから、拒絶査定を回避するため、現在の特許請求の範囲の請求項1の記 載のとおりに限定したのであり、限定により除外された部分は、いずれも本件特許 の特許請求の範囲から意識的に除外したものであることが認められる。 そうすると、被告製品と本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点 は、いずれも原告が意識的に除外した部分に該当するから、均等侵害に関するその 余の原告の主張を前提としても、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特 許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときと の第5要件を満たさないというべきである。

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令和6(行ケ)10023  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年11月13日  知的財産高等裁判所

 拒絶審決が取り消されました。補正要件(減縮に該当しない)および独立特許要件を満たすと判断されました。

当裁判所は、本件補正は本願発明の特許請求の範囲を減縮するものであって、 かつ、本件補正発明が明確でないということはできないと考える。したがって、 本件補正が特許請求の範囲を減縮するものではなく、仮に減縮するものだとし ても独立特許要件を満たしていないという理由で本件補正を却下した本件審決 は誤りであり、取消事由1が認められるので、その余の取消事由について判断 するまでもなく、本件審決は取り消すべきものと判断する。
・・・・
ア 本件補正に係る補正事項のうち、「決済以外の用途において適用可能な\n情報処理端末であって、」(補正事項1)の追加は、本件補正発明の情 報処理端末を、決済用媒体と非決済用媒体の双方を処理の対象とするも の(以下「決済・非決済共用端末」という。)及び非決済用媒体のみを 処理の対象とするもの(以下「非決済専用端末」という。)に限定する もの、すなわち決済専用の端末を本件補正発明の技術的範囲から除外す るものであり、これは特許請求の範囲の減縮に当たると認められる。 また、「前記接触型の読み取り部及び前記非接触型の読み取り部は、決 済に関する情報の入力がなされていない前記情報記憶媒体から読み取り 対象の情報を読み取り可能であり、」(補正事項3)の追加は、読み取\nり部の機能として、「決済に関する情報の入力がなされていない前記情\n報記憶媒体」を読み取り可能であることを限定するものであり、特許請\n求の範囲の減縮に当たると認められる。
原告は、上記の補正により決済用媒体を処理の対象としていないことを 特定していると主張するが、これらの補正事項は、それぞれ「決済以外 の用途において適用可能」、非決済用媒体から「読み取り対象の情報を\n読み取り可能」であることを特定するにとどまり、決済用媒体を対象に\n含む決済・非決済共用端末を除外しているとは解されないから、同主張 を採用することはできない。
イ その上で、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」 を削除する補正事項4についてみると、文言上は、「前記接触型の読み取 り部及び前記非接触型の読み取り部のそれぞれを」「情報記憶媒体から情 報を読み取り可能な待ち受け状態に維持」する態様(以下「本件態様」と\nいう。)を限定していた事項を削除するものであるから、「『決済に関す る情報の入力』の有無が本件態様に関係する情報処理端末」は、本願発明 の範囲には含まれていなかったが、本件補正発明の範囲には含まれること になったと解釈する余地がある。
しかし、本願発明は、決済に関する情報(金額情報、支払方法、決済に 使用されるカードブランドの情報など)をユーザが入力してから決済に使 用されるカードの読み取り操作を促す処理及び表示を行うという従来技術\nの構成では、決済以外の用途への適用が難しいという課題を解決するため、\n決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、接触型・非接\n触型の別を問わず、情報記憶媒体から短時間で必要な情報を読み取り可能\nな情報処理端末を提供するものであり(【0004】〜【0007】)、 この点は、本件補正発明においても同様である。
そして、「決済に関する情報の入力の有無が本件態様に関係する情報 処理端末」としては、「決済に関する情報の入力」によって初めて本件 態様になるような情報処理端末が考えられるが、このような情報処理端 末を利用するためには、常に「決済に関する情報」の入力が要求される ことになるから、本願発明及び本件補正発明の趣旨目的に反するもので あるのみならず、例えば、マイナンバーカードのような非決済用媒体を 処理対象とする場合には、「決済に関する情報」そのものがないのであ るから、「決済に関する情報の入力」がない限り待ち受け状態とならな いとすると、いつまでも本件態様となることができず、非決済用媒体を 読み取ることができない。そのような端末は「決済以外の用途において 適用可能な情報処理端末」とはいえない。\n逆に「決済に関する情報の入力」により本件態様が終了するような情報 処理端末も一応考えられるが、このような端末は、当該入力後は読み取り 可能ではなくなり、決済・非決済共用端末の場合において、決済に関する\n情報を入力すると決済目的で情報処理端末を利用することができなくなる、 いい換えると、決済処理を行わないのに決済に関する情報を入力する手段 を設けるという、およそ不合理なものとなる。
補正事項4を含む本件補正後の発明が、これらの「決済に関する情報 の入力の有無が本件態様に関係する情報処理端末」をその技術的範囲に 含むと解することは、合理的な解釈とはいい難い。 むしろ、本願発明及び本件補正発明の技術的範囲の内容について、本 願明細書の内容を考慮して解釈するならば、本件補正の前後を通じ、本 件態様となるために「決済に関する情報の入力」が不要であることに変 わりはなく、本願発明の「決済に関する情報の入力の有無に関係なく、」 との文言は、決済以外の用途において適用可能であることを特定してい\nたにすぎないものと解するのが相当であるから、補正事項4により、本 件補正発明に本願発明に含まれていなかった事項が含まれることにはな らない。
ウ 補正事項1及び3が特許請求の範囲の減縮に当たることは前記のとおり であり、補正事項4が新たな事項を追加するものではない以上、結局、本 件補正は、全体として特許請求の範囲を減縮するものに当たる。これに反 する被告の主張は、以上述べた理由により、採用することができない。 したがって、補正事項4を含む本件補正は特許法17条の2第5項2 号に規定する「特許請求の範囲を減縮」する場合に該当するから、同号 の補正要件を満たしていないとする本件審決の判断には、誤りがある。
(2) 独立特許要件(本件補正発明の明確性)について
進んで、本件補正が独立特許要件(特許法17条の2第6項、同法126 条7項)としての同法36条6項2号(明確性)の要件を充足するかどうか について検討する。 前記のとおり、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報\n処理端末であって、」との記載は、非決済専用端末のみならず決済・非決済 共用端末を含むものと解される。このことは、本願明細書において、発明の課題及び効果は「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末」の提供であるとされた上で(【0005】、【0007】)、最初の実施例として決済・非決済共用端末の例が記\n載されていること(【0011】以下)及びほかの実施例として非決済専用 端末の例が記載されていること(【0072】)を参酌すれば、さらに明ら かであり、少なくとも、本件補正後の特許請求の範囲の記載が第三者の利益 を不当に害すほどに不明確ということはできない。
これに反する被告の主張は、以上述べた理由により、いずれも採用するこ とができない。したがって、本件補正発明の「決済以外の用途において適用可能な情報処理端末であって、」との記載は明確であり、本件補正発明は明確でないから\n特許法123条1項4号、同法36条6項2号の要件を欠き、独立特許要件 (同法17条の2第6項、126条7項)を満たしていないとする本件審決 の判断には、誤りがある。

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令和6(ネ)10023 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年11月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

控訴審も、1審と同様に技術的範囲に属しないと判断しました。

(2) 当審における控訴人の補充主張について

ア 控訴人は、被告方法において、一つの辺でも最大粒径より小さなバリがあれ ば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっ ていることは原理・論理的に明らかであると主張する。 しかしながら、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体的な粒子径の形状・分布、樹 脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる圧力等により、隙間を通過する磁性体の\n量は変化するものと推測されるところ、被告方法においては、様々な粒子径、形状 の磁性体が使用されている(乙3,4)から、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体 的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造等がどのようなものであ\nる場合に隙間を通過する磁性体がどの程度あるのかについて、必ずしも一義的に明 らかではないといわざるを得ない。したがって、控訴人が主張する、磁性体粉末の 最大粒子径よりも小さなバリがあることをもって、当然に磁性体粉末容積比(バリ) の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているものとはいえない。
また、仮に被告方法における磁性体粉末の粒子径分布とバリの大きさとの関係性 から一定の事実を推認することができる余地があり、例えば、磁性体モールド樹脂 内の全磁性体粒子のうちの最小粒子径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間 を通過することができないため、樹脂のみが隙間から流出することが推測される一 方、逆に、全磁性体の粒子径が隙間よりも十分に小さい場合には、樹脂と共に磁性\n体も隙間を通過することから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バ リ)に変化がないものと推測される余地があるといえるとしても、被告方法におい て磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用されている●●及びパンチで形 成される隙間よりも大きいことを示すなど、被告方法における粒子径分布とバリの 大きさとの関係性を示す証拠はないから、控訴人の上記主張は裏付けを欠き、採用 することができない。
イ 控訴人は、原判決は、控訴人の主張を誤解し、かつ、控訴人提出の証拠評価 を誤ったものと考えられると主張し、樹脂の流出が止まる原因については、パンチ による加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡す ることと主張しており、原判決のように「被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続け ても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、 被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたこ とが示されている」という主張はしていない旨を主張する。 しかしながら、樹脂の流出が控訴人の主張する機序によるものであるとしても、 前記アのとおり、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容 積比(コア)よりも小さくなっていることを認めることはできず、上記(1)の判断を 左右するものとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 控訴人は、甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリに おける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなること が明らかとなっているから、原判決の判断は妥当ではない旨主張する。 この点、甲27の第4(10頁〜)に記載されている実験方法で利用・設定され ている磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形し\nたコアの製造方法、加圧温度及び溶融粘度という条件が、実際の被告方法で用いら れているものと同一であると認めるに足りる証拠はなく、それらが実際の被告方法 と同じ条件であると客観的に裏付ける証拠もない。

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令和5(ネ)10042    特許権  民事訴訟 令和6年12月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自動車の自動ブレーキの特許についてのホンダvsマツダの特許権侵害事件です。無効主張がなされ、1審と同じく権利行使不能と判断されました。\n

ア 乙9発明と乙10発明は、ともに制動保持装置(乙10においては坂道 発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機 能を有するものであることに照らすと、乙9発明及び乙10発明は、そ\nのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するといえ\nる。また、乙10発明と同様に、乙9発明においても、制動保持装置の 故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者には 明らかである。
そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障 発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、乙10発明 を乙9発明に適用する動機があるということができる。
イ これに対し、控訴人は、乙9発明は、制動保持装置26が故障している か否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する乙10発明 を適用する動機付けに欠ける旨主張する。 しかし、上記2(1)エのとおり、乙9発明は、エンジンおよび車両各部 の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を 出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装 置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装 置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、乙9発明 において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の乙9発明に おいて求められている状態、すなわち、制動保持装置の作動によりブ レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな ることは明らかである。そうすると、乙9発明に触れた当業者は、上記 の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた め、乙10発明における制動保持装置の異常を検出する信号を付加する 動機付けがあるといえる。
ウ 以上によれば、乙9発明に乙10発明の制動保持装置の故障を検知して 運転手へ警報を発する技術を適用することは当業者が容易に想到し得る といえる。 そして、上記2(1)イ〜エのとおり、乙9発明が、エンジン自動停止に より発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置 を作動させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制 動保持装置の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない 故障が生じた場合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つと して用い、相違点1に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液 圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」 構成とすることは、当業者が容易になし得た事項といえる。\nよって、乙9発明に乙10発明を適用した際に、本件発明の相違点1 に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。\n

◆判決本文

1審はこちらです。

◆令和3年(ワ)28206

対応する審決取消訴訟はこちらです。

◆令和6(行ケ)10018

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令和6(行ケ)10066 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年12月10日  知的財産高等裁判所

商標「UNITED GOLD」が、「UNITED」と類似するかが争われました。知財高裁は非類似とした審決を維持しました。

原告は、本件商標のうち、「UNITED」の部分が要部として抽出される から、本件商標からは「ユナイテッド」の称呼も生じる旨を主張する。 この点、「UNITED」は、英語で、「結ばれた、団結した、連合した」 (甲7、30−1)などの意味を持つ形容詞、「GOLD」は、英語で、「(鉱 物)金、黄金」(甲8、30−2)などの意味を持つ名詞であり、我が国にお いても、それぞれの意味する英語の単語として、一般に知られているところ である。
本件商標は、「UNITED GOLD」の欧文字を同書体、同大で、「U NITED」と「GOLD」との間に一文字分の空白を空けるほかは等間隔 で横書きにしてなるものであり、特段「UNITED」の部分が強調されて いるものでもない。本件商標を構成する「UNITED」と「GOLD」は、\n前者はアルファベット6文字、後者はアルファベット4文字にとどまるから、 本件商標は全体として冗長なものとはいえず、それらの間に一文字分の空白 があるとしても、両者が別個独立の構成であるとの印象を受けるものではな\nく、前記のとおり、「UNITED」は「結ばれた」などの意味を有する形容 詞であるから、通常は他の語と一体となってその語を修飾するために用いら れるもので、単独では意味を取りにくい語である。そうすると、本件商標で ある「UNITED GOLD」の構成のうちの「UNITED」の部分のみが強く支配的な印象を与えるものではない。\n
加えて、本件請求商品役務の一部であり、本件商標と引用商標1の指定商 品等が重複する「被服」(類似群コード「17A01」)において、登録商標 に「UNITED」を含む商標であって原告が権利者でないものは155件 あり(乙1)、これらは、「UNITED ARROWS」、「UNITED C OLORS OF BENETTON」、「UNITED ATHLE」、「U NITEDWORKS」、「UNITED DOORS」、「UNITED A SH」、「UNITED CARR」、「UNITED RIVERS」、「UN ITED TOKYO」、「United Prime」などであるところ、 これら「UNITED」(文字列に小文字があるものを含む)を含む商標のう ちには、被服の業界でそれなりの知名度を有するものも多くある。このうち、 本件請求商品役務と関連のある指定商品又は役務に係るものとして、「UN ITED ASH」は、洋服、コートを指定商品として、「United P rime」は、運動用特殊靴、被服及び履物を指定商品として、「UNITE D TOKYO」は、靴クリーム、身飾品、貴金属製靴飾り、時計、文房具 類、被服、履物、被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供、おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便 益の提供、履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の 提供、身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益 の提供、時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 便益の提供等を指定商品及び指定役務として、それぞれ商標登録がされてい る(甲31の1ないし3)。
また、Amazonのサイトにおいて、「United スラックス メン ズ」の条件で検索をすると、原告に係る「UNITED」、被告に係る「UN ITED GOLD」のほか、「UNITED ARROWS」、「UNITE D DOORS」、「UNITED ARROWS green label」 等、上記「UNITED(United)」を含む商標に係る商品が数多く検 索結果に現れる(乙1、4)との取引の実情も認められる。そうすると、被 服やそれに伴う身の回り品等を取り扱うファッション業界及びそれらの小売 業界においては、「UNITED」という部分の識別力は弱いものと認められ る。 したがって、本件商標のうち、「UNITED」の部分に格別の識別力があ るものとは認められないから、本件商標は、「UNITED GOLD」との 一体不可分の構成の商標としてみるのが相当であり、「UNITED」と「G\nOLD」とに分離して観察されるものではないと認められるから、本件商標 からは「ユナイテッド」の称呼は生じないと解するのが相当である。
・・・
本件請求商品役務と、各引用商標の指定商品は、いずれもその指定商品・ 役務の内容から、需要者は一般の消費者であると認められるところ、一般の 消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるものと\nはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、 本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとな る。 本件商標と各引用商標は、外観、称呼においていずれも異なる上に、観念 においても比較できないから、時と所を異にして離隔的に観察した場合、本 件商標と各引用商標とは互いに紛れるおそれのある類似の商標であるとは認 められない。

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令和5(ワ)70425 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年12月12日  東京地方裁判所

 CS関連特許について、被告システムは決済機構は外部のものを採用しており、構\成要件を充足していない&進歩性無しと判断されました。

前記前提事実に加え、証拠(甲5ないし10、14)及び弁論の全趣旨に よれば、被告プログラムは、GoPayというタクシー料金の決済機能を備\nえており、GoPayは、d払いと連携することによって初めてd払いを利 用することができるようになること、他方、d払いは、訴外ドコモが提供す る決済機能であり、タクシーを利用した際にその利用したタクシー料金に限\nり利用することができるにとどまり、これ以外の場面では決済手段として使 用することができないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告プログラムにおけるd払いは、タクシー料金 の個別の支払ごとにその都度利用されるにとどまるものであるから、被告プ ログラム自体がd払いという決済機能そのものを提供するものとはいえない。\nしたがって、被告プログラムは、本件発明の構成要件Bにいう「前記アプ\nリケーションで提供されるサービス」を充足するものとはいえない。
(3) 原告の主張に対する判断
原告は、本件発明の特許請求の範囲の文言上「提供するサービス」という 記載にはなっていないから、「サービス」の提供主体と「アプリケーション」 の提供主体とが法的に同一主体でなければならないという限定はなく、本件 明細書等【0030】の記載によれば、各サービスが様々な主体によって提 供されるものであることは、当業者のみならず一般人にとっても技術常識に 属する事項であるから、アプリケーションと各サービスが異なる法的主体に よって提供される場合も当然に含まれるものである旨主張する。 しかしながら、本件発明の構成要件は、「アプリケーション」と「サービ\nス」の内容及び関係を一義的に規定するものではないから、本件明細書等を 参酌しない限り、その関係等が明らかにならないことは、上記において説示 したとおりである。そして、本件明細書等のうち、「アプリケーション」と 「サービス」の内容及び関係につき記載した部分(【0012】、【001 4】、【0030】)を参酌すれば、「アプリケーション」は、総合サービ スを提供するものであり、構成要件Bにいう「前記アプリケーションで提供\nされるサービス」は、アプリケーション自体がクレジット機能、クーポン機\n能その他の機能\そのものを提供するものに限られると解するのが相当である から、タクシー料金の個別の支払ごとにその都度利用されるd払いを含むも のではないと解するのが相当である。 したがって、サービスの提供主体の同一性についていう原告の上記主張は、 充足性の判断を左右するものとはいえず、採用することができない。
・・・
4 争点2−1−3(乙1−3発明に基づく新規性、進歩性の有無)について 前記2及び3のとおり、被告プログラムは、本件発明の構成要件を充足しな\nいから、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえず、その余の争点を判断 するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。もっとも、本件の事案 に鑑み、本件の中核的争点の一つである争点2−1−3に限り、念のため、以 下簡潔に判断を示しておくこととする。
・・・
前記(1)に加え、証拠(乙1、5)及び弁論の全趣旨によれば、乙1−3発 明におけるクーポンを選択・設定するという画面の表示について、「コマン\nドが処理されることで生成される」旨の開示はないものの、乙1−3発明に よれば、かざすクーポンで選択・設定された「クーポン」は、携帯電話の画 面に表示されるのであるから、当該表\示データは、アプリの利用者がクーポ ンを選択する操作に基づき生成されていると認めるのが相当である。 そうすると、乙1−3発明に接した当業者は、乙1−3発明に「コマンド が処理されることで生成される」という記載がないとしても、上記操作をコ マンドに置き換えて上記画面を表示させる構\成を容易に想到することができ るといえる。
したがって、乙1−3発明に接した当業者が乙1−3発明から出発して相 違点1−3−1の構成に至ることは、容易であるといえる。\n

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令和6(行ケ)10005 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年11月27日  知的財産高等裁判所

拒絶査定不服審決に対する取消訴訟です。審決では、クレームの用語「ウェブ・サービス」、「トランザクション・ベース」が不明瞭として、明確性違反、および実施可能要件違反と判断されました。知財高裁はこれを取り消しました。\n

上記アの各刊行物(甲5、6、11、13、16、17)の各記載によ れば、「ウェブ・サービス」という用語は、「インターネット上に分散し た複数のウェブアプリケーションシステムをシステム同士で連携させる技 術であり、XML、UDDI、WSDL及びSOAPの規格に適合したも の」という意味で用いられ、本願の国際出願日の当時、技術常識となって いたと認められる。 また、この「ウェブ・サービス」との関係において、「トランザクシ ョン」という用語は、「複数の処理をひとまとまりにしたものであって、 同時にアクセスされる基礎データの一貫性を確保することができるもの」 という意味で用いられると認められ、そうすると、「トランザクショ ン・ベースのウェブ・サービス」とは、この「トランザクション」を基 礎とした「ウェブ・サービス」という意味の用語であって、これも、本 願の国際出願日(平成25年12月20日)の当時、技術常識となって いたと認められる。 したがって、出願当時における技術常識を踏まえると、本願各発明の 「ウェブ・サービス」及び「トランザクション・ベースのウェブ・サー ビス」は、それぞれ、上記の意味で用いられているといえるから、本願 明細書において、これらの用語の具体的な説明がされていなかったとし ても、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不 明確であるとはいえない。

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令和6(行ケ)10055 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月25日  知的財産高等裁判所

商標「至福のギリシャ」が、識別力、品質誤認、公序良俗違反かが争われました。知財高裁は、無効理由無しとした審決を維持しました。原告はギリシャ共和国です。

原告は、本件商標が、日本国産であり、乳蛋白質が添加されていることか ら「ギリシャ国の伝統製法」ではないヨーグルトの商品、すなわち産地や製 法と関係がない製品に用いられており、需要者の信頼を裏切るものであるか ら、「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の福祉に反し、 社会の一般的道徳観念に反する場合」に当たる旨主張する。 しかし、前記1のとおり、本件商標は、ギリシャという国あるいは地域か ら連想される抽象的なイメージを「至福の」という肯定的なイメージととも に需要者に連想させ、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表\n示するに止まるものである。 また、本件指定商品における「ギリシャ国の伝統製法」とは、社会通念上、 およそ「ギリシャ国の伝統製法」という範疇に含ませることが相当なヨーグ ルトの製法を広く指すものであり、被告において、この意味における「ギリ シャ国の伝統製法によるヨーグルト」を製造販売する蓋然性はあり、本件商 標を本件指定商品に使用する意思もあったことは、前記3のとおりである。 そうすると、被告が本件商標を登録し、本件指定商品すなわち「ギリシャ 国の伝統製法によるヨーグルト」について使用することが、社会公共の福祉 に反し、社会一般の道徳に反するということはできない。
(2) 原告は、本件商標の登録を認めることは、日本の一事業者にすぎない被告 が一方的にギリシャ国に付した漠然としたイメージを、日本が国家として是 認することになり、「特定の国若しくはその国民を侮辱する場合」に当たる と主張する。
しかし、「特定の国若しくはその国民を侮辱する」かどうかは、イメージ の内容如何によるのであり、「至福の」という肯定的な修飾語を伴う本件商 標により想起される「この上もない幸せの国ギリシャ」というギリシャ国に 対する「漠然としたイメージ」がギリシャ国又はその国民を侮辱するものと いうことはできない。もとより、本件商標の登録を認めたからといって、商 標法上の保護が与えられるだけであり、ギリシャ国についての特定のイメー ジを日本が国家として承認するなどといった法的効果が発生することはない。 また、原告は、「ギリシャ国の伝統製法」なる指定商品を認めることは、 同様に、ギリシャ国における「伝統」を特許庁あるいは一事業者が一方的に これを定めることを認めることになると主張する。
しかし、本件指定商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」 の「伝統製法」がいかなるものであれ、本件指定商品を指定商品とする商標 登録を認めたからといって、「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」の 具体的内容が一義的に決まるわけではないから、ギリシャ国における「伝統」 を特許庁又は一事業者が一方的に定めたことにはならない。 なお、将来、本件商標に係る不使用取消審判等の審判やその審決取消訴訟 において、具体的な商品が本件指定商品に当たるか否かについて、特許庁や 裁判所による判断がされることがあるとしても、その判断は、客観的事実を 踏まえ、社会通念に照らしなされるものであり、そのことが、直ちにギリシ ャ国又はその国民を侮辱することに当たるとは認められない。もとより、ギ リシャ国は、これに拘束されることなく、必要に応じ、自らが妥当と考える 「伝統製法」の内容を決めることは何ら妨げられない。 したがって、本件指定商品を認めたからといって、特許庁や一事業者がギ リシャ国の「伝統」を一方的に定めたなどということはできない。
(3) 原告は、地理的表示に関する国際的趨勢や動向を踏まえると、「ギリシャ\nヨーグルト」という用語ですら産地と結び付けて理解されるのであるから、 本件商標のように国家名のみが示されている場合は端的に産地を示している との考慮がなされるべきであるから、本件商標の登録は、「一般に国際信義 に反する場合」に当たると主張する。 しかし、「ギリシャヨーグルト」がTRIPs協定22条にいう地理的表\n示に当たるか否かはともかく、本件商標は国家名のみを示したものではなく、 「至福のギリシャ」という表示は、産地を示す表\現であると認めることはで きないことは前記のとおりである。すなわち、本件商標は、商品の原産地を 特定する表示であることを内容とする同条の「地理的表\示」に当たるもので はない。したがって、本件商標の登録を認めることが、一般に国際信義に反 するとは認められない。原告が引用する英国控訴院の判決(甲8、9)は、 米国の会社が米国で生産し、英国に輸入して販売していた「ギリシャヨーグ ルト(Greek yoghurt)」という商品に関し、英国内の購入者の多く(5 0%以上)が当該商品はギリシャ産の製品だと誤認しているという事実関係 のもとで、ギリシャヨーグルトの表示の差止めを認めた原審を維持したもの\nであって、客観的にみて表示自体では産地を表\示したものとは認められず、 本件商標を付した被告商品をギリシャ産であると需要者が一般的に認識する とも認め難い本件において、当然に妥当するものではない。
(4) 原告は、被告がギリシャ産のヨーグルトや本件指定商品に用いる意思がな いにもかかわらず本件商標の登録出願をしたことは、虚偽的かつギリシャ国 のイメージに積極的にフリーライドすることを企図していたとも評価し得る から、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を 認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場\n合」に当たると主張する。 しかし、被告において、本件商標を本件指定商品に使用する意思があった ことが認められることは前記のとおりであるから、原告の主張はその前提を 欠くものである。その他、本件商標の出願の経緯等が社会相当性を欠くもの であったことを認めるに足りる主張立証はないから、原告の主張は採用する ことができない。

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令和6(行ケ)10051  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和6年11月27日  知的財産高等裁判所

 9類「音楽・映像データの取り込み・再生用ディスクドライブ」と、引用商標の指定商品「第9類「ウエイトトレーニング機械器具で測定された負荷重量・マシーンの変位量・回動数・回動スピードのうちいずれか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置、運動用トレッドミルで測定されたローラーベルトの傾斜角度・走行距離・運動経過時間・平均走行速度・消費カロリ・利用者の体重・歩数・歩幅・ピッチ・心拍数のうちいずれか一以上の値を受信して表\示するデータ処理装置」が類似するかが争われました。 知財高裁は、類似するとした審決を維持しました。

したがって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、いずれも電子計算機に関連する商品として、電子計算機によ る処理を行う際に通常用いられるという商品であるという意味において、 共通性がある。
(2) 生産及び販売の実情
ア 本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアのよ\nうなディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェアは、いずれも製造業\nの同一事業者が生産、販売している例が多く認められる。
・・・
また、家電量販店やパソコン及び周辺機器を扱う専門店(ビックカメラ.\ncom、ヨドバシ.com、ヤマダウェブコム、エディオン公式通販、パ ソコン工房、TSUKUMO、ドスパラ、パソ\コンSHOPアーク〔乙3 7〜44〕)においても、ディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェア\nは、同一販売店において扱われていることが認められる。 したがって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、同一営業主により製造及び販売され、又は、同一販売店によ り販売される実情にある。
イ この点について、原告は、本願指定商品と引用商標データ処理装置及び 引用商標ソフトウェアは、総務省日本標準産業分類において属する産業を\n異にするなどと主張する。しかしながら、引用商標データ処理装置は、電 子計算機であるから、本願指定商品と同じ「(中分類)情報通信機械器具製 造業」(甲25)に属するというべきであり、原告の主張する「(中分類) 業務用機械器具製造業」「(細分類)その他の事務用機械器具製造業」(甲2 6)に属するものと解することはできない。
また、原告は、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソ\nフトウェアは、いずれも専門的に製造する業者が多数存在する実情がある ので生産部門は共通しないとか、本願指定商品が一般需要者向けの直販サ イト又は家電量販店等で販売されるのに対し、引用商標データ処理装置及 び引用商標ソフトウェアは、企業間取引に対応する特定の専門業者により\n販売されるから、販売部門も共通しないなどと主張する。しかしながら、 前記のとおり、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、いずれもディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェアと\nいう電子計算機に関連する商品として同一営業主により開発され、製造及 び販売され、又は、同一販売店により販売される実情にあるから、営業主 の同一性を誤認させるような生産・販売形態における共通性があるものと 認めるのが相当である。よって、原告の主張を採用することはできない。
(3) 用途
ア 前記のとおり、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソ\nフトウェアは、それぞれディスクドライブ、電子計算機及びソフトウェア\nであり、いずれも電子計算機に関連する商品である。 そして、本願指定商品と引用商標データ処理装置は、いずれも電子計算 機に関連し、電子データを利用し、これを読み込み・再生し、又はこれを 処理することを目的とするものである。 また、本願指定商品と引用商標ソフトウェアは、いずれも電子計算機に\n関連し、本願指定商品は電子計算機を動作させて音楽・映像データの取り 込み・再生を行う周辺機器として、引用商標ソフトウェアは電子データを\n利用し、電子計算機の周辺機器又は電子計算機を動作させるためのプログ ラムとして、それぞれ電子計算機の機能を実現させることを目的とするも\nのである。
これらの点に照らすと、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引 用商標ソフトウェアは、それぞれ役割が異なるものの、いずれも電子計算\n機による処理又は電子データの利用を行うために用いられる商品という 意味において、その用途に共通点があるということができる。
イ この点につき、原告は、本願指定商品の用途は、光学ディスクに記録さ れた音楽・映像に関する電子データの読み取り・再生であり、引用商標デ ータ処理装置の用途は、運動に関するデータを取り込み表示するためのデ\nータ処理であって用途を異にし、また、引用商標ソフトウェアは、データ\nの読み取りという用途は、本願指定商品の用途と共通するが、ディスクド ライブとその動作のためのアプリケーションソフトは担う具体的な役割\nが異なるなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、本願指定商品、 引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアは、電子計算機による\n処理又は電子データの利用を行うために用いられる商品であるという共 通点があり、およそ営業主の同一性誤認の可能性を否定するほど用途を異\nにするものということはできないから、原告の主張を採用することはでき ない。
(4) 需要者の範囲
ア 本願指定商品は「音楽・映像データの取り込み・再生用ディスクドライ ブ」であるから、電子計算機の周辺機器として、その需要者は、電子計算 機の利用者全般である一般の消費者を含むものということができる。 他方、引用商標データ処理装置は「ウエイトトレーニング機械器具で測 定された負荷重量・マシーンの変位量・回動数・回動スピードのうちいず れか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置、運動用トレッドミル\nで測定されたローラーベルトの傾斜角度・走行距離・運動経過時間・平均 走行速度・消費カロリ・利用者の体重・歩数・歩幅・ピッチ・心拍数のう ちいずれか一以上の値を受信して表示するデータ処理装置」であるから、\n前記の情報を受信して表示するためのデータ処理装置(電子計算機)とし\nて、その需要者は、前記のウエイトトレーニング機械器具又は運動用トレ ッドミルの利用者である。そして、これらの運動用器具は、家庭用又は自 宅利用のためにも販売され(乙45〜47)、モバイル端末とともに利用さ れる場合もあることからすると(乙17、21)、その需要者は、前記の運 動用器具を利用する施設等の取引者のほか、一般の消費者を含むものとい うことができる。
また、引用商標ソフトウェアは「ダウンロード可能\なモバイル機器用の アプリケーションソフトウェア」であるから、モバイル端末を動作させる\nためのプログラムとして、その需要者は、モバイル機器を利用する取引者 のほか、一般の消費者を含むものである。よって、本願指定商品、引用商標データ処理装置及び引用商標ソフトウェアの各需要者は、いずれも広く一般の消費者を含むものとして需要者の範囲において共通している。\n
イ この点につき、原告は、本願指定商品の需要者の範囲は、一般家電需要 者であるのに対し、引用商標データ処理装置の需要者の範囲は、主に運動 用機械の使用施設を運営する専門的知見を持つ事業者等であるから共通 せず、引用商標ソフトウェアの需要者の範囲は、広く一般消費者のほか特\n定分野の専門家又は事業者等であるから、一部共通しても一致しないなど と主張する。 しかしながら、引用商標データ処理装置が、専門的知見を持つ事業者に より利用されている実情があるとしても、前記のとおり、一般消費者にお いても利用されている実情にあるから、需要者の範囲に係る原告の主張は、 利用態様の一部をいうにとどまる。また、引用商標ソフトウェアについて\nは、原告においても、需要者の範囲に一般消費者が含まれることを認める のであるから、本願指定商品の需要者の範囲と共通するものと認めるのが 相当である。そして、このように本願指定商品、引用商標データ処理装置 及び引用商標ソフトウェアの需要者にはいずれも一般消費者が含まれて\nいると認められる以上、これらの商品やソフトウェアには需要者の共通性\nが認められるというべきである。原告の主張を採用することはできない。
(5) 完成品と部品の関係等
本願指定商品と引用商標データ処理装置又は本願指定商品と引用商標ソフ\nトウェアは、いずれも完成品と部品の関係にはなく、需要者の範囲は共通し ている。その他、本願指定商品、引用商標データ処理装置又は引用商標ソフ\nトウェアについて、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそ れがないことを窺わせるような特段の事情も見当たらない。
(6) 小括
以上によれば、本願指定商品と引用商標データ処理装置及び引用商標ソフ\nトウェアは、その生産・販売形態、用途、需要者の範囲において共通性があ り、これらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製 造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあると いうべきであるから、本願指定商品と引用商標の指定商品は類似の商品に該 当すると認めるのが相当である。

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