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スタートアップの資金調達と特許(2023年)

 

弁理士 古谷栄男*1
Hideo Furutani, Patent Attorney



概要


 スタートアップ企業における資金調達(出資・融資・ファクタリング・助成金など)が、盛んに行われてます。for Startups社のStartups Journalによりますと、2023年は約1兆円の資金調達が行われています。本資料は、スタートアップの資金調達金額と特許の関係を調べたものです。特許を持っている企業の方が、多くの資金を調達できるのか、そうだとすればどの程度の差があるのかを調べたものです。
 特許を有するスタートアップ企業の方が資金調達において有利であることは推測がつくものの、それを数値化して示す資料はありませんでした。for Startups社が公開されているstartupDBの情報と、特許庁によるJPlatPatの情報を組み合わせて、数値化を試みました。 2020年にも同様の調査を行っておりますが、今回は、その最新版となります。2020年版はこちらです。。





調査方法


 資金調達額は、for Startups社のSTARTUP DBに掲載された2023年1月〜12月の資金調達ランキングに基づいて集計を行った。2023年中に複数回調達を行った企業については、それらの合計額を算出した。
 特許出願件数については、特許庁の運営するJPlatPatを用いて、社名にて検索し集計を行った。特許成立のものだけでなく、出願中のものなども含めた*2
 2023年において資金調達ランキングに登場した企業は、204社であり、総調達金額は5,576億円であった。1社あたり平均すると、27.3億の調達額である。特許出願をしていた企業は、204社のうち59.3%であった。概ね60%の企業が特許出願をしていたことになる。基礎データは、こちらにあります。



大型調達と特許出願との関係


 50億以上の大型調達をしたのは28社であり、そのうち特許出願をしていた企業は21社であった。大型調達を行った企業の75%は、特許出願を行っており、上記60%と比較すると、大型調達に特許が有効であることがうかがえる。





特許出願の有無と調達額との関係


 出願無しの企業は82社であり、総調達額は1693億円であるから、1社あたり20.6億円であった。出願有りの企業は122社であり、総調達額は3883億円であるから、1社あたり32.1億円であった。特許出願の有無により、1社あたりで11.5億もの違いが生じている。



 とはいえ、製造業のように、ビジネスのコアとなる要素が法律上特許対象となっている企業*3と、純粋なサービス業のようにそうではない企業とを単純に比較することは好ましくない。そこで、スタートアップ企業を、@製造業*4、AITサービス業、Bサービス業に分類して比較することにした。
 単純に、製造業とサービス業に分けなかったのは、サービス業のうちでも、ITを利用したサービス、たとえばSaaSによってサービスを提供する場合には、IT利用という面から当該サービスが特許対象になるからである。一方、コアとなるサービス自体にITを利用しないサービス、たとえばレストランのチェーン店などでは、コアとなるサービスが特許対象にならないからである*5。なお、特殊な機器を製造販売し、当該機器によってクラウドサービスを提供するような場合には、製造業とITサービス業の双方に分類した。
 製造業においては、出願無し企業は11社で調達総額143.6億円であった。1社あたり13.1億円の調達額である。出願有り企業は42社で調達総額1539.7億円であった。1社あたり36.7億円の調達額である。
 特許出願があるかないかで、調達額になんと約3倍の違いが生じている。予想されることであるが、製造業では、ビジネスモデルのコアとなる製造物についての特許保全をしていない状態は、資金調達においてかなり厳しいということになろう。



 ITサービスにおいては、出願無し企業は39社で調達総額684.9億円であった。1社あたり17.6億円の調達額である。出願有り企業は62社で調達総額1679.8億円であった。1社あたり27.1億円の調達額である。
 特許出願があるかないかで、調達額に約1.5倍の違いが生じている。製造業ほどではないが、ビジネスモデルのコアとなるサービスについての特許保全が、調達額に大きな影響を与えているといえる。



 IT以外のサービス業においては、出願無し企業は32社で調達総額864.5億円であった。1社あたり27.0億円の調達額である。出願有り企業は20社で調達総額732.6億円であった。1社あたり36.6億円の調達額である。
 特許出願があるかないかで、調達額に約1.3倍の違いが生じている。特許保全の有無によって調達額の差がでているのは、製造業・ITサービス業と同じである。IT以外のサービス業では、コアとなるサービスについて特許を取得することができず、当該サービスの周辺についての特許取得となるため、影響が間接的なためであるので、その差は製造業・ITサービスよりも小さい。とはいえ、特許出願の有無により、1.3倍の調達額の差が生じている。



 以上を総合すると、いずれの業種であったとしても、特許出願は資金調達額に影響を与える要素であるということができ、特に製造業、ITサービス業においてはその影響は大きい。
以上
(弁理士 古谷栄男)


NOTES


 *1 古谷国際特許事務所 furutani@furutani.jp 本文にもどる

 *2 企業名での検索を行った。分かる範囲で社名変更にも対応して検索した。検索文字の入力方法やJPlatPatの特性などにより、一部不正確な検索となっているかもしれない点、ご了解ください。ご指摘がありましたら、修正いたします。本文にもどる

 *3 製造業では、ビジネスモデルのコアとなる製造物が特許対象となっているが、純粋なサービス業ではビジネスモデルのコアとなるサービスは特許対象となっていない(特許法2条)。本文にもどる

 *4 物理的なものを製造・販売する企業だけでなく、パッケージソフトウエア(クラウドによるサービス提供ではない)を開発・販売する企業(数は少ない)も製造業に含めている。本文にもどる

 *5 例をあげれば、コアとなる飲食物の提供というサービス自体が特許対象にならないという意味である。それを管理するシステムなどは、特許対象になる。本文にもどる

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