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ハブアンドスポーク特許
ビジネスモデル特許の事例
(C)1999.12 弁理士 古谷栄男
'99夏〜'99年末にかけて行った講演の配付資料に、最新情報を加えて、加筆訂正したものです。


(9)投資信託の管理システムの特許 −ハブ・アンド・スポーク特許− (特許出願1991年、事件1998年)

権利者など
米国特許    5193056
権利者     Signature Financial Group Inc.,
相手方     State Street Bank

特許の概要
 投資信託の運用方法に関する特許である。複数の投資信託をまとめて運用するとともに、各投資家が資産状況を確認できるようにしたものである。明細書中において、節税できるという経済的効果が主張されている。

 複数の投資信託を車輪のスポークとし、これを集めたポートフォリオを車輪のハブとみたてて、権利者は、この仕組みを Hub & Spoke と呼んでいる。




事件の概要
本件特許の侵害であるとの主張を受けたState Street Bankは、ビジネスの方法に関するものであるから特許は無効である旨のを主張した。地裁では、State Street Bankの主張が認められた。権利者であるSignature Financial Groupはこれに不服として、CAFCに控訴した。CAFCでは、逆転し、このようなビジネス方法も特許の対象となることが明示された。ビジネスモデル特許の保護に大きなインパクトを与えた事件である。
本件は、特許取得だけでなく、併せて権利者自らがハブ・アンド・スポークというネーミングを行って積極的に広め、これを戦略的に用いている点において興味深い。ハブ・アンド・スポークという言葉は、プレス発表に用いられただけでなく、明細書中にも記述され、サービスマークとして登録(米国登録商標1648331)がなされている。現在、多くの企業が、特許対象であるビジネスモデルを一言で表すために独特のネーミングを用いている。
本件は、日本にも出願されている(特表平6−505581)。平成11年9月24日に、発明に該当しないとする拒絶理由が出されている。その中では、次のように述べられている。
請求項1において出願人が発明として提案する内容は、データ処理のためのコンピュータが本来有する機能の一利用形態であって、しかも、その利用形態は、特定の金融サービスに必要な会計および税務処理についての考察に基づいて定められたものであり、何ら技術的考察を伴うものでないから、これをもって「技術的思想の創作」ということはできない。
その後、本件は、進歩性がないとして拒絶査定がなされ、拒絶査定不服審判において争われている。


クレーム1
1. A data processing system for managing a financial services configuration of a portfolio established as a partnership, each partner being one of a plurality of funds, comprising:
(a) computer processor means for processing data;
(b) storage means for storing data on a storage medium;
(c) first means for initializing the storage medium;
(d) second means for processing data regarding assets in the portfolio and each of the funds from a previous day and data regarding increases or decreases in each of the funds, assets and for allocating the percentage share that each fund holds in the portfolio;
(e) third means for processing data regarding daily incremental income, expenses, and net realized gain or loss for the portfolio and for allocating such data among each fund;
(f) fourth means for processing data regarding daily net unrealized gain or loss for the portfolio and for allocating such data among each fund; and
(g) fifth means for processing data regarding aggregate year-end income, expenses, and capital gain or loss for the portfolio and each of the funds.

対応日本出願のクレーム1
1.各パートナーは複数のファンドの一つである一つのパートナーシップとして構築されたポートフォリオの金融サービス構成を管理するデータ処理システムであって、
(a)データ処理のためのコンピュータ手段:
(b)保存媒体上にデータを保存するための保存手段:
(c)保存媒体を起動するための第1の手段:
(d)前日からポートフォリオ及び各ファンド中にある資産に関するデータ及び各ファンド資産の増加及び減少に関するデータを処理し、そのポートフォリオ中の各ファンドの有するシェア比率を配分するための第2の手段:
(e)そのポートフォリオについての毎日の利益収入、支出及び正味の非換金ゲインあるいは損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てする第3の手段:
(f)そのポートフォリオについての毎日の正味の非換金ゲインあるいは損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てる第4の手段:及び
(g)ポートフォリオ及び各ファンドについて年度末の合計収入、支出及びキャピタルゲインあるいは損失を処理する第5の手段:
 とを含むデータ処理システム。


関連文献・サイト
弁理士会研修所「弁理士が教えるビジネスモデル特許の本当の知識」東京書籍
 本件の日本特許出願の審査経過書類を示している。

・CAFC判決全文

金融ビジネス用システムの特許性
松本直樹先生による本件事件(CAFC)の解説。簡潔に本判決の意義を明確にした解説が素晴らしい。

その他、多くのニュース・解説記事あり

 


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