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ビジネスモデル特許の事例
Examples of Business Method Patents in Japan and the United States
 

弁理士 古谷栄男
Hideo Furutani, Patent Attorney



はじめに


ビジネスモデル特許について、事件や話題になったものを、事例として紹介する。なお、米国やヨーロッパにおいては、ビジネス方法特許(Business Method Patents)と呼ばれており、日本においても、弁理士などの専門家の間ではそのように呼ばれてきた。しかし、日本においては、一般の報道によって、ビジネスモデル特許という呼び方が定着してきた。そこで、本稿においても、ビジネスモデル特許という表現を用いることにした。

なお、本稿の改訂情報はこちらに掲載している。



取り上げた事例


本稿は、少しさかのぼって、日米欧のビジネスモデル特許と呼べそうなものを、リストアップし、特許の概要、事件(ニュース)の概要、主たるクレーム、関連文献・サイトをまとめてみた。多くの出願がなされ、多くの特許が成立しているため、これら全ての情報を収集し解析することは行わなかった。ここでは、以下の2条件を同時に満たすものをリストアップした。

@発明の内容がビジネスモデル(ビジネス方法)に関連していること
A各種ニュース(法律系だけでなく、経済系ニュースを含む)にて取り上げられたこと

また、ニュースにて報じられた概要も併せて記したが、ニュースの内容は、権利者のプレスリリースを基礎とする場合が多く、クレームの記述に比べて、権利内容が大きく報道されるケースも見受けられる点に注意が必要である(それこそが、企業戦略だという観点もあろう)。

なお、ビジネスモデル特許の保護という観点から見れば、発明内容が直接的にビジネスモデルに関係していなくとも、ビジネスモデル特許の権利解釈や審査運用において大きな影響を与えた審決、判決も重要である。たとえば、米国の最高裁Benson判決、CCPAのFreeman判決、Walter判決、最高裁のDiehr判決などは、ビジネスモデル特許を含むソフトウエア特許の保護の流れを知る上で外すことはできないであろう。同様に、日本特許庁やヨーロッパ特許庁の審決(特に技術的貢献の解釈についての審決)も取り上げるべきであるが、今回はリストアップしていない。時間が許せば、これらを含めて、整理をしたい。

また、ビジネスモデル特許の基礎的事項については、「ビジネスモデル特許の基礎」を参照のこと。

ここでは、ビジネスモデル特許を、時間的に次の4つに分けて、時間順に取り上げた。

@黎明期(1980年代)

いくつかの権利が成立しているが、ビジネス関係の特許という観点から、特許関係者の間でもそれほど大きく取り上げられることが無い。

A認知期(1998年頃まで)
いくつか話題になる特許も表れているが、多くの企業がビネスモデル特許を企業戦略ツールとして用いてはいなかった。

B浸透期(1998年以降)
定着してきたプロパテント政策に、インターネットの爆発的広がりによる市場参入機会の到来によって、ビジネスモデル特許が企業の戦略ツールとして認識されブームとなった。プライスラインドットコムの成功や、state street bank事件判決も大きく影響している。

C定着期(2010年以降)
2000年のブームが去った後も、着実にビジネスモデル特許を活用する企業が増加した。さらに、起業の際にビジネスモデル特許にて資金を調達したり参入障壁を形成することが一般化してきた。この定着期においては、IoT・AIの発達や、もののサービス化などの動きに対応し、ビジネスモデル特許の重要性がさらに高まったということができる。



話題となったビジネスモデル特許


@黎明期

(1)証券取引の現金管理システムの特許(特許出願1980年、事件1983年)

(2)株式のオンライン取引の特許(特許出願1985年、事件1986年)

A認知期

(3)スイング預金の特許(特許出願1983年、事件1992年)

(4)カーマーカ特許(特許出願1986年、事件1993年)

(5)ソフトウエアのオンライン配信特許-FREENY特許-(特許出願1983年、事件1995年)

(6)シティバンクの電子マネー特許(特許出願1992年、事件1995年)

(7)モンデックス・マネーの特許(特許出願1991年、話題1996年)

(7-2)ソフトウエアの超流通システム特許(特許出願1984年、話題1996年)

B浸透期

(8)オープンマーケット社の電子商取引関連3特許(特許出願1993年、話題1998年)

(9)投資信託の管理システムの特許 −ハブ・アンド・スポーク特許− (特許出願1991年、事件1998年)

(10)ネットデリバリー社の情報配信特許(特許出願1995年、話題1998年)

(11)ネット上の買物客にインセンティブを与える景品企画の特許(特許出願1995年、話題1998年)

(12)消費者の”注目”を売買するビジネス方法の特許 -Attention Brokerage特許-(特許出願1995年、話題1998年)

(13)逆オークションの仲介システムに関する特許(プライスライン特許)(特許出願1996年、話題1998年)

(13-2)インターネット上での割引クーポンの特許(特許出願1995年、話題1998年)

(14)長距離電話の課金方法の特許(ATT対エクセル事件)(特許出願1992年、事件1999年)

(15)地図上の広告方法の特許(マピオン特許)(特許出願1995年、話題1999年)

(16)ユーザや表示回数によりダイナミックに内容を変える広告方法(特許出願1996年、話題1999年)

(17)AMAZON.COMの1クリック特許(特許出願1997年、事件1999年)

(18)eCal社のウエブによるスケジュール管理サービスの特許(特許出願1998年、話題1999年)

(19)ユニバーサル・ショッピングカート特許(出願1997年、事件1999年)


(19-2)顧客情報収集システムの特許(出願1998年、事件1999年)

(20)インタラクティブにオプションなどを選択してシステムを形成する方法の特許(出願1996年、事件1999年)

(21)Amazon.comの商品紹介システムの特許(出願1997年、話題2000年)

(22)planet U のクーポン配布システムの特許(出願1996年、事件2000年)

(23)住友銀行の仮想口座特許(出願1998年、事件2000年)

(24)インターネット時限利用課金の特許(出願1996年、事件2000年)

(25)音楽サンプル試聴の特許(出願1996年、事件2000年)

(26)条件付購入申込管理システムの特許(CPO特許)(特許出願1997年、事件2000年)

(27)JAL対ANA事件(事件2004年)

(28)東京都民銀行 対 東京三菱UFJ銀行事件(事件2007年)

C定着期
 2000年のブームが去った後も、着実にビジネスモデル特許を活用する企業が増加した。さらに、起業の際にビジネスモデル特許にて資金を調達したり参入障壁を形成することが一般化してきた。この定着期においては、IoT・AIの発達や、もののサービス化などの動きに対応し、ビジネスモデル特許の重要性がさらに高まったということができる。
 事例が多いため、私のセンスで選択していますので、重要な案件が抜けていたらお許しください。少しずつ、まとめていきます。
(29)アマゾンの予測出荷システム(出願2012年、話題2014年)

(30)GEのリアルタイム飛行機エンジン解析サービス(出願1998年、話題2015年)

(31)仮想部門と実在部門で解析するアメーバ経営システム(出願2010年、話題2012年)

(32)USJの奇数日・偶数日指定の年間パスポート(出願2013年、特許2016年)

(33)いきなりステーキのステーキ提供システム(出願2014年、判決2018年)


Cその他の資料

(a)〜(d)その他

D日本国特許庁公表資料

・ビジネス関連発明の最近の動向について
ビジネス関連発明について出願・特許の動向などが掲載されています

E米国特許庁公表資料

・Patent Business Method
米国特許庁によるビジネスモデル特許に関する情報が集約されている。特許査定率や審査ガイドライン等が掲載されている




NOTES


(C)2000-2020 Hideo FURUTANI /


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