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国外行為をにらんだ米国特許出願の構築  

Structuring U.S. Patent Applicatons to Protect Against the Foreign Activities of Competitors
By Stephen B. Parker*1
Translated by Hideo Furutani



訳者コメント


この論文は、米国の弁護士Stephen B. Parker氏が、INTELLECTUAL PROPERTY STRATEGIST(R)誌に掲載したものである。米国の電子商取引関連企業に向けて書かれたものであるが、日本企業が米国出願をする際にも役立つ内容であるため、同氏ならびに出版社の許可を得て、日本語訳を作成した。なお、脚注は、全て、訳者が付したものである。




はじめに


eビジネス企業がその発明について特許を取得しようとする場合、その企業の競争相手が、ブリック・アンド・モルタル企業*2とは異なって、実質的に世界中のどこにでも移動できてしまうという事実に直面せざるを得ない。これに対応する一つの方法は、諸外国において特許出願を行うことであるが、これは、費用がかさむ上、効果的とは言えない選択である。しかし、外国企業の行為を制限できるように米国特許出願を工夫することにより、上記問題を回避できる場合がある。電子商取引特許出願の明細書作成者が、以下の2点について意識すれば、これを実現することは難しくない。(1)適切な様々なタイプのクレームを用いることにより、電子商取引企業の外国での活動を制限することができる。(2)意匠特許は、外国における電子商取引企業の活動に対する保護を得るために有用なツールとなりうる。



電子商取引の特質


一般に、電子商取引システムにおいては、少なくとも一つのサーバ・コンピュータが存在するが、これは、実質的にどこに置いてもよいものである。外国に設置してもく、さらには、宇宙空間に設置することもできる(たとえば、地上22000マイルの人工衛星)。適切な通信手段とプロトコルを用いれば、サーバをインターネットなどのグローバルなネットワークにリンクさせ、米国を含む全世界のクライエント・コンピュータに、サービスや情報を提供することができる。

典型的な電子商取引においては、以下のようなキープレイヤーが登場する。
・製造者(つまり、コンピュータ読み取り可能な媒体の製作者)
・サービス・プロバイダ(すなわち、サーバコンピュータからのサービス提供者)
・エンド・ユーザ(すなわち、クライエント・コンピュータにおけるサービスの利用者)

一般の製造品と比べると、電子商取引におけるプロダクトおよびサービスは、多数の要素やプロセスを含む場合が多い。また、このプロセスは、多くの主体によって、様々な場所(たとえば、世界中)において実行されるものである。さらに、電子商取引におけるプロダクトおよびサービスは、完全にエンドユーザの側に移転されるのではなく、エンドユーザとサービス・プロバイダとの間において実行されるプロセスを含んでいる。このため、電子商取引プロダクトおよびサービスに関する特許出願は、複雑にならざるを得ない。予想される様々な侵害行為に対抗するために、様々なクレームが必要となるからである。

このような問題に焦点を当てて、米国特許商標庁は、第2回ビジネス方法協調会議(Second Business Method Partnership Meeting)において、ビジネス方法特許のクレーム数は、2001年における他の分野より多く、1出願当たり25を超えており、これが、審査の複雑化および審査遅延の一因となっている、と発表した(たとえば、2001年において、最初の審査までに23月以上の期間を要している)。



外国出願に関する問題点


電子商取引特許の取得には、多くの費用を要する。いくつかある理由のうちの一つは、以下に述べるように、電子商取引の出願における書類の作成が、複雑で込み入っていることにある。ドットコム・バブルがはじけて以来、電子商取引企業の予算は緊縮しており、特許出願に対して毎回のように大きな費用を費やすことができない状況にある。したがって、米国特許出願を作成する弁理士にとって、外国での行為に対しても何らかの保護が可能なように出願書類を作成することが、益々重要になっている。

外国での行為をカバーするように米国特許出願を作成することの重要性は、他の理由からもいえるものである。米国は、ビジネス方法特許に対して、最も信頼のおける保護を与えている。2000年6月の三極ビジネス方法比較研究(Trilateral Business Method Comarative Study)を要約すると、以下のとおりである。
「3極特許庁の合意は下記のとおりである。コンピュータによって実行されるビジネス方法が、特許適格性を持つためには、技術的な側面が必要である。米国では、「技術的」特徴は、クレーム中に暗示的に述べられていてもよい。EPO(ヨーロッパ特許庁)およびJPO(日本特許庁)では、クレームにおいて、技術的側面を述べることが要求される。」

この合意文書は、電子商取引特許につき、他の国では十分な保護がなされていないことを浮かび上がらせた。これに加えて、EPOは、3月1日以降に、米国居住者または米国民によって出願されたビジネス方法特許に関し、特許協力条約に基づく国際調査機関としての調査を行わないことを発表した。さらに、ビジネス方法特許について、より厳しいガイドラインを適用することも発表した。

米国特許出願を綿密に作成することにより、外国での行為に対する保護を強化することができ、出願実務者は、外国における電子商取引発明の保護の不確実性を低減することができる。



米国への輸入・販売の申出


米国特許法271条(a)の侵害行為には、特許発明(たとえば、装置または組成物)の「販売の申し出」「輸入」が含まれる。外国企業によるこの類型の侵害行為に対処するため、特許明細書実務者は、外国から米国に対して引き渡される(あるいは引き渡されるであろう)製品をカバーするように、クレームにおいて発明を定義すべきである。その際、以下の装置クレーム形式は、電子商取引ソフトウエア・システムの出願において、特に有用である。

プロセス限定によるプロダクト・クレーム(Product-by-process claims)。プロセス限定によるプロダクト・クレームは、典型的には、化学の分野において用いられているが、このようなクレームは、コンピュータ・ソフトウエア出願などの他の分野にも適用可能である。In re Warmerdam, 33 F3d 1360(Fed. Cir. 1994)および米国特許審査ガイドライン(MPEP)2173.05(p)を参照のこと。プロセス限定によるプロダクト・クレームはプロダクト(たとえば装置)クレームであり、そのプロセスの観点からプロダクトを定義するものである。プロセス・ステップによってクレームが定義されているが、プロダクト自体が新規でなければならない。このようなクレームは、外国におけるプロセス・ステップの実施行為に対抗するために、有効である。

コンピュータ読取可能な媒体のクレーム(Computer-readable-medium claims)。「コンピュータプログラムを書き込んだコンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータの一要素である。つまり、コンピュータプログラムの機能を実現する、コンピュータプログラムとコンピュータの他の部分との構造的・機能的な相互関連を定義するものである。よって、特許法の保護対象となる。」MPEP2106参照。電子商取引においては、様々なコンピュータ読み取り可能な媒体を米国内において引き渡すことが多いため、このクレーム形式は、有効なツールである。

搬送波クレーム(Carrier wave claims)。搬送波クレームは、搬送波上に具現化されたコンピュータ・データ信号を請求するものである。米国特許商標庁は、以下のような搬送波クレームの例を示している。「搬送波中に具現化されたコンピュータ・データ信号であって、(a)[コード部分省略]を備えた圧縮ソースコード部分と、(b)[コード部分省略]を備えた暗号化ソースコード部分を備えたもの。」Examination Guidelines for Computer-Related Inventions(March 1996)の38頁を参照のこと。

搬送波クレームは、外国のサーバがコードやデータを、米国に向けて送信するような状況において有用である。米国内への送信は、米国における「使用」や「輸入」にあたり、271条(a)*3の直接侵害を構成する。さらに、ウエブサイト上で、米国内の企業や個人などに対して、このような送信の申し出をすることは、271条(a)にいう「販売の申し出」に該当する。

コンピュータ・メモリ、データ構造、その他の生産物クレーム。上記の例に加えて、特許出願作成者は、外国から米国内に配布される生産物に焦点を当てて、問題となる個々の状況に対応したクレームを作ることができる。



米国における侵害に対する誘引および寄与


271条(b)*4、271条(c)*5において、侵害行為には、外国企業などが国内企業などの直接侵害を誘引したり、これに寄与した場合における、侵害の誘引(inducement of infringement)および寄与侵害(contributory infringement)が含まれる。このカテゴリーの侵害は、国内での行為が前提となっている。したがって、その全体が米国内に現れる要素を言及するようにクレームを作成しなければならない。

システム・クレーム。侵害誘引および寄与侵害は、米国内での直接侵害を前提として成立する。したがって、システム・クレームを出願する際には、特許出願作成者は、米国内に置かれる「各要素」によって、システムに言及すべきである。特許出願作成者は、サーバは外国に置いてもよいことを考慮し、米国内に置かれる要素を請求するクレームを作成しなければならない。とはいえ、サーバのプログラムに新規性のある場合がほとんどであるから、多くの場合、このようなクレーム作成は困難であろう。

製法クレーム(process claims)。前述のように、侵害誘引および寄与侵害は、米国内での直接侵害を前提として成立する。したがって、明細書作成者は、製法クレームを作成する際、米国内で行われる製法「ステップ」を述べるようにすべきである。また、前述のように、サーバは海外に置くことが可能であるから、クレームは、米国内において行われる製法ステップに焦点を当てるべきである(たとえば、エンドユーザの視点から)。サーバに新規性がある場合がほとんどであるから、このようなクレーム作成も困難であろう。



特許プロセスによって生産されたプロダクトの輸入


271条(g)において、侵害行為には、米国特許にかかるプロセスにて製造されたプロダクトの単なる輸入が含まれる。多くの場合、これは、外国企業の行為を停止するための最も強力な手段である。

特許出願の作成者は、クレームの前提部分(preamble)において、米国内に引き渡しが行われるプロダクトをカバーするように、「プロダクト」の定義をすべきであろう。このようなクレームを作成する際、クレームしたプロセスにより、どのような形態の「プロダクト」が生成されるかを、明解に述べることが好ましい。後に発生した侵害を排除するためには、かかるプロダクトの輸入を確認する必要がある。

このようなクレームは、ほぼどのようなプロダクトについても、その生産方法をカバーするように作成できる。電子商取引システムに適した「プロダクト」形態の内のいくつかは、一般に、新規であることが多い。したがって、特許出願の作成者は、状況に応じ、かかるプロダクトをどのようにして適切に定義すればよいかを、慎重に見極めなければならない。電子商取引システムに用い得る「プロダクト」には、以下のものが含まれる:
・コンピュータ表示
・コンピュータ・アイコン
・ウエブサイトのインターフェイス
・コンピュータ読取可能な媒体
・搬送波
・コンピュータ・メモリまたはデータ構造
・提供されるサービス

これらの「プロダクト」形態の内、最後にあげた「提供されるサービス」について、ある解説者は、次のように立論している。「特許されたビジネス方法の工程によって得られたサービスを、「プロダクト」の概念に入るように解釈することは、他の特許対象における解釈とも一致する。」G. A. Stobbs, Software Patents, Second Editionの659頁参照のこと。特許方法によって生産されたプロダクトについては、米国国際貿易委員会(ITC)を介して行う付加的な救済も受けうる。関税法1337条(19 U.S.C 1337)



コンピュータアイコン画像の輸入


意匠特許は、製品の装飾的外見を保護するものである。意匠特許が請求するものの本質は、製品の図面である。産業界の疑問を考慮して、1996年、米国特許商標庁は、コンピュータアイコン画像が、意匠特許にて保護されうることを告知した。61 Fed. Reg. 11,380 (1996)。コンピュータアイコンは、機能(たとえばハイパーリンク)を埋め込んだ画像を含んでいる。意匠特許図面を作成する場合、コンピュータ画面を破線で描くことにより、コンピュータアイコンだけを「クレーム」することができる。よって、意匠特許は、米国内のクライエント・コンピュータの表示として侵害となるウエブページを生成するために、国外運営者が外国にあるサーバを使用するのを防ぐために有効なツールである。

このような可能性および利点にも拘わらず、コンピュータソフトウエアの意匠特許は、産業界から注目されてこなかった。一般に、意匠特許は、通常の特許よりも必要な費用が少い。加えて、意匠特許に適用される特許法289条*6の特許損害規定においては、侵害者は、「全利益の範囲」について責任を負う。これに対して、通常の特許に適用される特許法284条*7の損害規定では、損害額は、適正なロイヤリティーの額になる可能性あがる。つまり、損害額が、侵害者の全利益に比べて著しく小さくなるおそれがある。さらに、新しい規則によると、意匠特許の審査は、簡単に早めることができる。特許規則1.155



むすび


電子商取引は実質的に場所を選ばないが、その行為を抑制するための具体的仕組みがある。海外での行為を、米国内部にて制限できるように、米国の通常特許出願および意匠特許出願を作成することが可能である。多くの場合、米国特許出願を上手に作成するだけで、グローバルビジネスに対する適切な保護を得ることができるであろう。
以上



注釈


*1 Rothwell, Figg, Ernst & Manbeck P.C事務所所属の弁護士 sparker@rothwellfigg.com 本文へ戻る

*2 brick-and-mortar companies 実際に店舗を持っている企業をいう。 本文へ戻る

*3 271条(a)は、次のように規定している。
この法律に別段の定めがある場合を除いて、特許期間中に、権限なく、米国内で特許発明を生産し、使用し、販売の申し込みをし、黙視は販売し、または米国内に特許発明を輸入する者は、当該特許を侵害するものとなる。
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*4 271条(b)は次のように規定している。
特許権侵害を積極的に誘引した者は、侵害者としての責を負う。
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*5 271条(c)は、次のように規定している。
機械、製造物、組合せもしくは組成物の構成要素、または特許方法を実施するために用いる材料もしくは装置であって、発明の本質部分を構成する物を、当該物が当該特許権侵害に用いるために製造され、もしくは改造されたことを知りながら、さらに、当該物が実質的な非侵害用途に適した主用品、流通品でないことを知りながら、米国において販売もしくはその申し出を行った者、あるいは米国への輸入をした者は、間接侵害者としての責を負う。
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*6 289条は、次のように規定している。
権利者のライセンスを得ることなく、意匠特許の権利期間中に、特許意匠またはその紛らわしい模倣を、販売の目的を持って、製品に用い、もしくは当該意匠またはその紛らわしい模倣が施された製品を販売し、または販売のために展示した者は、権利者に対し、少なくとも250ドルを越える、全利益の範囲において責任を負う・・・・(以下略)・・・
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*7 284条は、次のように規定している。
原告有利と判断した場合には、裁判所は、利息および諸費用とともに、侵害補償のための妥当な損害賠償額を原告のために裁定する。・・・(以下略)・・・
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NOTES


本文献は、LJN-INTELLECTUAL PROPERTY STRATEGIST NEWSLETTER((R)2002 NLP IP. All rights reserved.)の2002年2月号から、許可を得て翻訳・掲載したものである。許可なくこの翻訳を複製することを禁ずる。
This article is reprinted with permission from the February 2002 edition of the LJN-INTELLECTUAL PROPERTY STRATEGIST NEWSLETTER. ゥ 2002 NLP IP Company. All rights reserved. Further duplication without permission is prohibited.


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