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ソフトウエア・インターネットと商標
(C)1997.7.2 弁理士 古谷栄男
1997年7月に開催された「商標セミナー」の資料の一部分です


1.はじめに

 ソフトウエア関連商品(サービス)は、その流通形態、商品特性等において、従来の商品と異なる側面を有している。したがって、これらソフトウエア関連商品(サービス)に関する商標管理(商標権の取得、権利行使、侵害予防)においても、特殊性を考慮した運営を行う必要がある。

 さらに、インターネットという新たな仕組みの発展によって、ホームページ等における商標の使用や、ドメイン名と商標の関係が問題となってきている。ここでは、これらの問題について、簡単に触れてみたい。

2.出願時の指定商品、指定サービス

 商標権は、指定商品(または指定サービス)について当該商標を使用する権利である。つまり、指定商品(または指定サービス)につき、他人が当該商標を使用すれば、これを禁止することができる(その類似範囲まで)。一方、商標権取得の際には、商品の区分を指定し、さらに商品名を指定して出願をしなければならない。したがって、自社が販売しているソフトウエア商品が、商標法上どのような商品に分類され、どのような商品として認識されるのかを明確に知る必要がある。

 特許庁は、この目的で、商品区分と商品名を施行規則に掲げている。しかしながら、ソフトウエア関連商品等の新しい商品については、はっきりと明示されていないケースが多く、出願する際に、何らかの判断が必要である。

  @汎用コンピュータ用のソフトウエアパッケージ

 汎用コンピュータ用のアプリケーションソフトウエアは、9類の”電子計算機用プログラムを記録させた磁気ディスク””電子計算機用プログラムを記録させた光ディスク”に該当する。なお、日本では、”プログラム”、”ソフトウエア”という指定商品は認められていない。取引社会において流通する有体物でなければ「商品」でない、と考えるからである*1

 なお、ソフトウエアに添付されているマニュアルは付属品であるから、これについてはプログラムの商標によって保護されていると考えて良いであろう。ただし、マニュアルを単独で販売する場合には、16類の”書籍”を商品として出願をしておいた方が好ましい。同様に、他社から販売されるマニュアル本について、何らかのコントロールを行いたい場合にも、16類の”書籍”を商品として出願をしておいた方が好ましい。

A専用機器のソフトウエア

 たとえば、自動車エンジンの燃料供給をマイクロコンピュータによって制御している場合に、その制御プログラムを格納したROMは、12類の自動車の部品及び付属品という位置づけで、”自動車エンジンの燃料制御のためのプログラムを記録した電子回路”として、出願する。

 また、自動演奏ピアノの演奏プログラムを記録したFDは、15類の自動演奏ピアノの付属品という位置づけで、”自動演奏用プログラムを記録した磁気ディスク”として、出願する。

 家庭用テレビゲーム(プレイステ−ション等)のソフトウエアは、家庭用テレビゲームおもちゃの付属品として、9類の”家庭用テレビゲームおもちゃ用のプログラムを記録した光ディスク”として出願する。

B通信回線を介して配布(ダウンロード)するソフトウエア

 記録媒体に記録せずに取り引きされる形態も増加している。つまり、オンラインによるダウンロードである。この場合には、プログラムを記録した磁気ディスク等が取引の対象とならない。この場合”プログラム”という商品が取り引きされていることになるのであるが、前述のように、現在のところ”プログラム”を商品として指定することはできない。

 たとえば、42類の”通信回線を通じてユーザーの所有する磁気ディスクに電子計算機のプログラムを記録して行う電子計算機のプログラムの提供”や”通信回線を用いて行う電子計算機プログラムの提供”等のサービスとして記載する事ができるであろう。

C通信回線を介してホストコンピュータのプログラムを使用させるサービス

 ユーザの記録媒体にプログラムをダウンロードするのではなく、ホストコンピュータとの接続中のみ当該プログラムを使用可能とするサービスの形態も存在する。たとえば、データベース検索サービス(PATOLIS、BRANDY等)がこれに該当する。この場合には、42類の”通信回線を利用して行う時間貸しによる電子計算機のプログラムの提供”や”通信回線を用いて行う電子計算機プログラムの提供”等のサービスとして記載することができるであろう。

 なお、オンラインによるゲーム(ローグ等)については、特許庁は、現在のところ41類として運用しているようである。

Dソフトウエアの受託開発業務

 ソフトウエアの受託開発は、42類の”電子計算機のプログラムの設計、作成又は保守”として出願することができる。

Eインターネットのホームページによる商品の販売

 通常の商品販売と同じように、販売する”商品”を指定して商標出願を行う。

Fインターネットのホームページによる情報の提供

 自社の販売する商品についての商品説明であれば、当該商品についての商標を取得するだけで十分である。ただし、自社では販売しない他社の商品についての商品情報を掲載する場合には、35類の”情報の提供(商品販売)”として出願を行う。なお、情報の提供は、提供する情報の内容によって分類が異なるので、注意を要する。

Gまとめ

 なお、ソフトウエアに関する商品やサ−ビスのように、新たな商品や流通形態が登場する分野については、いずれの商品(役務)区分に該当するのかの運用が、特許庁においても固まっていないケースもあります。したがって、実際の出願においては、最新の情報を入手することが好ましいでしょう。また、商品(役務)区分が明確でない場合には、権利を取得したい商品やサービスを具体的に記載しておくことも必要でしょう。

3.ドメイン名と商標との関係



 ドメイン名は、各国のNIC(Network Information Center)が管理、登録を行っている。日本では、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)が、ドメイン名の申請管理をしている。

 日本では、ドメイン名の譲渡が禁止されている。しかし、米国では、".com"につき、譲渡が認められている。このため、各国の有名企業名、有名ブランド等をドメイン名として登録し、それを売りつけるブローカーも出現しているようである。

 国際臨時特別委員会(Internet International Ad Hoc Committee)は、WIPOを加えた専門家会議を開催し、次のような新しいトップレベルドメインを提案している。

.firm 企業、会社
.store 商品販売企業
.web ウエブショップ
.arts 文化・娯楽
.rec レクリエーション
.info 情報サービス
.nom 個人(ペンネーム等)

Aドメイン名と商標とのコンフリクト

 大手デパートの名前がアダルトホームページのドメイン名として用いられたり、個人がファーストフードショップの名前をドメイン名として登録したりする問題が生じている。今年の5月末に行われたWIPO会議では、ドメイン名の登録後に、商標所有者から所定の期間以内に異議申し立てを行う世界的な制度が提案された(これに関連して、IAHCが2月に提案した内容を資料8に示す)。これは、既に、米国で運用されているものをベースにしている。世界的に著名であるような商標(たとえば、最低4大陸において、35カ国以上の登録商標を同一区分にて有すること)については、ドメイン名の取消ができるようにするというものである。

 また、このような異議申し立ての前段階として、抵触する商標がないかどうかを調査する(プレスクリーニング)が提案されている。

 また、米国では、ドメイン名としての使用が著名商標の希釈化にあたるとして、著名商標を保護する判決が出されている(holaroid事件)。

Bドメイン名の商標登録

 なお、米国では、ドメイン名として商標の登録が認められている。日本およびヨーロッパ諸国では、商標としての登録は認められていない。

 日本では、ドメイン名としての使用が直ちに商標としての使用に当たるか否かは明確でない。これに対し米国では、ドメイン名の使用が登録商標の使用に当たり、商標権侵害に当たるとして、差し止めを行った例が報告されている(カリフォルニア北地区控訴裁判所、juris事件)。

C国境をまたがる侵害

 インターネットにおいては、国境を越えて商標権侵害となるケースが考えられる。これに関して、米国では、Playmen事件の判決が出されている。
以上



*1酸素、水素等については、ボンベ等の容器に納めて取引されるとして、商品であると考えているようである。これらについては、”酸素””水素”という商品の指定が認められており、”酸素の収納されたボンベ””水素の収納されたボンベ”とするような取り扱いはなされていない。

 これと同じように考えれば、”プログラムを記録した光ディスク”よりも、”プログラム”とするほうが、適切であるように思われる。本文へ戻る

 

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