機能表現クレームにおける均等
Doctrine of equivalence in functional claims
弁理士 松下正/弁理士 江藤聰明
はじめに
ボールスプライン軸受事件の最高裁において、均等論の適用要件が明確に示されたことにより、均等論にまつわる議論が活発化している。均等論は、特許権侵害の成否自体を左右する重要な概念であり、特許法務に携わる者にとって実に重大な関心事である。
ところで、特許請求の範囲の記載形式には種々のものがあるが、その中の1つに、構成要素の一部または全部が「〜(機能)〜手段」のように機能表現を用いて記載されている「機能表現クレーム」がある。
今回、機能表現クレームについての均等論に関する2つの論文を紹介する。松下正弁理士と江藤聰明弁理士の論文である(松下正は当事務所所属の弁理士)。両弁理士は、同じ研究会で「機能表現クレームについての均等論」の研究を行ってきた経緯があるが、均等論適用の是非について結果的に相反する結論に到達した。
松下正弁理士は、機能表現クレームについても均等論の適用はあり得るとする結論であり、逆に江藤聰明弁理士はその適用を否定する結論である(これらの論文は「パテント」(弁理士会発行)1999年6月号に掲載されたものである)。
私個人の見解としては、機能表現クレームについても均等論の適用はあり得るのではないかと考える。そもそも均等論は、発明の本質(権利者が権利請求しようとした実質的な技術的思想の範囲)よりも、文章によって表現されている特許請求の範囲が狭い場合、この範囲のずれを発明保護の観点から是正しようとするものである。機能表現クレームであっても、その発明の本質が、機能によって表現された文章より広い場合もあり得るはずであり、機能表現クレームについても均等論を適用すべき場面はあると思う。
ただし、「機能表現クレーム」は、我が国の特許法において規定されている概念ではなく、あくまでも実務上の概念であり、ある特許請求の範囲が実際問題として「機能表現クレーム」に当るか否か微妙なケースもある(「機能表現クレーム」の定義付けの問題とも関連している)。
このため、「機能表現クレーム」という枠組みに問題を固定して均等論の適用の是非を論ずるのは危険な側面もあろう。「機能表現クレーム」という実務上の視点を通して均等論の本質が追求されるべきであると思う。
この意味で、松下正弁理士と江藤聰明弁理士の両論文は均等論の問題の追求に有益なものであり、特に相反する見解が対比されていることによって、浮き彫りにされた均等論の問題を読み取ることができる。今回の議論を深化させるためにも、下記両論文についてのご意見等があれば是非ともお聞かせいただきたい。
弁理士 眞島 宏明
■機能表現と均等論(弁理士 松下 正)
■機能表現クレームの権利範囲(弁理士 江藤聰明)
NOTES
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