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特許の基礎知識−知的財産権の基礎講座
(C)1991.12-2021.4 弁理士 古谷栄男

1.特許の基礎知識

1.1特許制度を活用する

(1)はじめに

 この資料は、企業において、特許をどのように活用することができるのかを示したものです。スタートアップ、ベンチャー、中小企業、大企業、研究開発型企業、サービス提供型企業、ファブレス企業(思いつくまま列挙しました)など、企業にも個性があります。このため、企業の個性に応じた活用の仕方があって、これだけが正解というもように決めることはできないものです。
 以下では、いろいろな側面からの特許の活用を示しました。論理的に分けたものではありませんので、同じことを違った側面から示したものもあります。御社にマッチすると思われる活用方法を参考にしていただいて、実践してみてください。


(2)特許取得のメリット
i)参入障壁を形成する
 特許取得により他社の参入を防止するものです。新しい機能を持った商品について、同種製品を製造販売する競合他社の参入を防ぐ効果を得ることができます。ユーザにとって価値が高い新機能について特許を取得すれば、メリットは大きいでしょう。

 このような特許取得は、全くの新製品ではなく、既存製品のバージョンアップの際に有効がことが多いでしょう(たとえば、羽のない扇風機などの改良商品)。特許によって、市場におけるシェアの拡大や、販売価格の維持(類似品の影響による販売価格低下の防止)などの効果があります。たとえば、年間1000万円(1万円×1000台)の利益がでる商品であれば、類似品が出回ることで販売価格を下げざるを得ず利益率が低下し、たとえば500万円(5千円×1000台)の年間利益となってしまいます。これが、10年続けば、5000万円の損失です。特許によって他社の参入を防ぐことができるなら、理論的には年間1000万円の利益を確保して、5000万円の損失を回避することができます。

 この場合、特許取得と維持に要する費用として仮に300万円要したとしても、十分以上の見返りがあることになります。



ii)資金調達をする
 昔から比べると、起業をしやすい状況が整っています。昭和の時代(かなり古いですが)であれば、人材、設備、販売ルート、資金などを全て自前でそろえなければ、起業は難しかったのです。今なら、人材にしろ、設備にしろ外部の力を借りることができる体制が整っています。販売や配送でさえ、他社の力を借りることができます。

 このため、ビジネスモデルがしっかりしていて、独自性のある商品やサービスのプランを持っていれば、資金を提供してもらえる環境にあります。しかも、世界的に資金が余っていて、起業家にとっては、ありがたい時代といえるでしょう。とはいえ、成功確率が低すぎると資金提供を受けにくくなります。

 特許を取得することで、この成功確率を高くすることができるのです。上記のように、設備、販売力などの経営資源を他社に頼ることが可能になると、これら経営資源を持っているかどうかよって他社との差別化を図ることは難しくなります。経営資源をどのように使うかというアイディアが重要になってきます。そのアイディアを保護するのが特許です(現在では、純粋な技術だけでなく、生産、販売、サービス、保守などの場面におけるビジネスモデルも特許対象となります)。



iii)社員のモチベーションを高める
 新しい商品、サービスを開発したとき、特許出願をすれば、開発者の励みになります。発明者として、特許公報に自らの名前が掲載されることは、大きな誇りです。開発者のモチベーションを高めることができます。



(3)補足
特許性の低い発明を出願する?
 特許性の低い(すなわち特許取得の可能性の小さい)発明について、特許出願をした方がよいかどうかという問題があります。特許がとれなくとも、出願によって他社の参入を防止できる場合があります。

 出願してから、審査結果が判明するまで3年〜5年程度かかります。したがって、発明が出願中である場合、その発明と同じ内容の製品を作ろうとする企業は、簡単には製品の製造販売にGOをかけることはできません。出願中の発明が特許になった場合、その時点で製造販売を中止するか、ライセンス交渉に臨まなくてはならなくなるからです。したがって、50%程度の特許性が見込めるのであれば、特許出願をして他社を牽制することが可能です。審査を受けるための出願審査請求を可能な限り遅くすることで(出願から3年までは審査請求を保留できます)、その牽制効果を最大化することができます。仮に特許が取得できなくとも、審査結果が出るまでの間、他社の実施を牽制することができます。


 この資料では、i)特許調査をする、ii)特許出願をする、iii)侵害警告に対応するの3つに分けて、特許制度を説明していきます。

2.特許調査をする

 なお、動画にて、特許の権利範囲と特許取得のポイントを説明していますので、こちらもご覧になってみてください。
特許公報の読み方
進歩性


 


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この資料は、下記の著作権表示さえしていただければ、
複製して配布していただいて結構です(商業的用途を除く)。
(c)1991-2010 Hideo FURUTANI / http://www.furutani.co.jp

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1.特許制度を利用する | 2.特許調査をする

3.特許出願をする | 4.警告状がきたら | 5.ソフトウエアと特許

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