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知的財産権(特許・商標・著作権)の基礎講座
(C)1991.12-2010.1 弁理士 古谷栄男

1.3特許出願をする


(1)特許とは独占権である
 まず、特許とは何であるかということを復習しておきましょう。特許とは、新たな技術を開発したものに独占的な権利を与えるものです。せっかく開発した技術について特許を取っておかなければ、模倣品を排除することはできないのです。特許を取っておけば、一定の期間その技術を独占することができます。

 ただし、特許権を取得するためには、発明の内容を記述した特許出願をしなければなりません。その発明の内容を公開する代償として、一定期間だけ特許権が与えられるのです。

(2)模倣品排除の手段
 では、特許権を取得した場合、どのような方法によって模倣品を排除することができるのでしょうか。これは、既に説明してきましたように、侵害品の製造販売を中止させる差止請求権、侵害によって受けた損害を賠償させる損害賠償請求権などによって、模倣品の排除を行うことができます。

 ところで、米国においては、レーガン大統領以来、特許権による独占を強化する方向に情勢が流れています。これを受けて、米国では、特許権者が勝訴する確率が高くなっており、さらに損害賠償請求額が大きくなってきています。この傾向は、20年〜30年程続くであろうといわれております。一方、日本では、レーガン以前の米国と同じように、特許権の効力が余り強くない時代が続いてきました。しかし、近年、日本においても、プロパテントの方向に動いているようです。

(3)特許権はアイディアを保護する(保護対象)
 一般に、特許はアイディアを保護するものであるといわれています。では、ここでいう「アイディア」とは何でしょうか? 例えば、「学習機能のついたかな漢字変換ソフトがあれば便利だ」と思いついただけでは特許はとれません。それを、どのように実現するのかという点まで考えて、はじめて特許がとれるのです。例えば、「同音異義語について使用頻度をメモリに記憶しておき、使用頻度順に表示をする」というところまで技術的なアイディアを明確にすれば特許の対象となります。

(4)アイディアが完成していれば全て特許となるのか(特許要件)
@成立性
 では、アイディアとして完成していれば、どのようなものでも特許になるのでしょうか。アイディアといっても、自然法則を利用した技術的なアイディアだけが特許の対象になります。したがって、販売店で「よく売れる商品を店の入口近くに置いて、客を引き寄せる」というアイディアは、自然法則を利用しておらず技術的アイディアではありませんので特許の対象となりません。「新しいゲームのルール」や「数式」も、技術的アイディアではありませんので特許の対象となりません。

 コンピュータソフトウエアについては、以前より議論の有るところですが、純粋な計算方法と考えられるソフトウエア以外のソフトウエアであれば、何等かの形で特許の対象となると考えてよいでしょう。この点については、後に説明します。

A新規性
 特許を取るためには、その技術的アイディアが新しくなければなりません(新規性)。ここでいう新しさとは、特許出願より前に誰もそのアイディアを知らなかったということです(ただし、弁理士など秘密を守る義務のある人は知っていてもよい)。したがって、他人の模倣ではなく、自己が独自に考えた技術的アイディアであっても、すでに誰かが発表していた技術的アイディアであれば、特許を取ることができません。

 ここで注意を要するのは、発明した本人(企業)が自ら特許出願前に発明内容を公表した場合であっても、新規性がなくなり特許を取得できなくなるということです。したがって、展示会での発表や販売までに特許出願を済ませておかなければなりません。


B進歩性
 新規性のある技術的アイディアであっても、その技術分野の専門家が容易に考えつくようなアイディアは、特許を取ることができません(進歩性)。これは、権利の乱立を防止するとともに、技術の飛躍的な進歩を刺激するためです。例えば、かな漢字変換において「5万語の辞書を10万語に増やし、変換効率をよくする」というアイディアは、進歩性がないと思われます。

C見本市などで発表したら
 出願前に販売したり、新聞雑誌などに掲載したり、展示会で発表した場合には、新規性がなくなることは前述したとおりです。しかしながら、刊行物に記載した場合や、特許庁指定の展示会(ビジネスショーなど)で発表した場合には、例外として新規性を喪失していないものとする扱いがあります。ただし、新規性喪失の例外の適用は、制約が多く、希望する内容の権利が取得できない場合が多いので、発表前に出願を済ませておくべきです。

(5)出願の手続
 特許出願から権利取得までの手続の流れおよび費用を以下にに示します。参考にしてください。


出願から権利取得までの手続及び費用

・以下に示す料金には、印紙代及び弁理士の手数料が含まれます・
・費用は出願内容によって変動します。下記はあくまでも目安です(1997.7現在)・


   @特許調査(約8万円〜20万円)
     ↓
     ↓
    A出願(約40万円〜約130万円)
     ↓
     ↓
 B出願審査を請求する(約15万円)
     ↓
     ↓
 C審査官による審査→(拒絶されなかった場合)
     ↓          Fの特許査定へ
     ↓
 (拒絶された場合(拒絶理由通知))
     ↓
  D意見書の提出(約8万円〜約30万円)
     ↓
     ↓
 E審査官による審査→(やはり拒絶された場合(拒絶査定))
     ↓            拒絶査定不服審判
     ↓
   F特許査定
    特許料納付(約15万円)
     ↓
     ↓
 G特許公報に掲載
     ↓
     ↓
H第三者の特許異議申立→(異議申立有り)
     ↓        異議答弁事件へ
     ↓
 (異議申立無し)
     ↓
I特許権は有効に存続
     ↓
各年ごとの特許料を支払うことによって権利を維持



(6)外国での権利取得
 日本で特許を取得した場合、その効力は日本国内のみにしか及びません。米国での模倣者を押さえたいのであれば、米国に出願して米国の特許を取得する必要があります。つまり、権利が必要な国ごとに出願をして、権利を取得する必要があります。

@優先権を利用した外国出願
 先に説明しましたように、いずれの国も、出願した日を基準に特許要件を判断します。つまり、早く出願した方が有利であるわけです。ここで問題となるのは、全ての国に同時に出願することが困難であるということです。なぜなら、米国であれば英語で、ブラジルであればポルトガル語というように、その国の定めた言語に翻訳して出願しなければならないからです。そこで、各国は条約(パリ条約)を締結して、最初の出願から1年以内に他の国に同じ発明について出願した場合には、最初の出願をした日に他の国に出願したものと扱うようにしています。したがって、外国へ出願する際には、日本への出願から1年以内にする必要があります。なお、パリ条約には、ほとんどの国が加盟しています。


 外国へ出願する際にもう一点考えなければならないことがあります。それは、どの国に出願するのかという点です。無制限に出願費用を使用できるのなら全ての国に出願するという戦略もとれますが、現実的ではありません。そこで、どの国から出願するのかという優先順位を決定しなければなりません。

 優先順位は、例えば、1)製品の輸出国、2)製品を製造している国、3)輸出も製造もしていないが競合企業のある国の順にします。重要な発明については、1)、2)、3)の全ての国について出願をします。重要でないものは、1)の国だけに出願をします。なお、3)の国へ出願するのは、競合企業と係争事件が生じたときに、クロスライセンス等で交渉を有利にするためです。

APCT国際出願を利用した外国出願
 なお、日本語による1つの出願を提出するだけで諸外国への出願日を確保できる国際出願(PCT)制度もあります。PCT国際出願を利用するメリットは、国際予備審査を受けて、各国に翻訳文を提出する前に、特許可能性があるかないかを判断できる点にあります。外国出願の費用に占める翻訳費用の大きさを考慮すると、このメリットは大きいといえます。さらに、翻訳文の提出を最大30ヵ月まで延長することができます(通常は12ヵ月)。したがって、発明品の市場動向、市場での反応等を考慮して、必要な国にのみ翻訳文を提出することにより費用の低減を図ることができます。


 その反面、i)で説明した通常の外国出願に比べて、国際段階での手続費用が余分にかかります。したがって、出願する国が確定しており、状況に応じて手続きを中止したりする可能性がない場合には、PCT国際出願よりも、通常の外国出願を行う方が好ましいでしょう。

 


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複製して配布していただいて結構です(商業的用途を除く)。
(c)1991-1997 Hideo FURUTANI / http://www.furutani.co.jp

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1.特許制度を利用する
| 2.特許調査をする

3.特許出願をする | 4.警告状がきたら | 5.ソフトウエアと特許

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